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油価下落下でも増産見通しが続くカナダオイルサンド

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油価下落下でも増産見通しが続くカナダオイルサンド
更新日:2016/4/28
調査部:舩木弥和子
油価下落下でも増産見通しが続くカナダオイルサンド
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas、Business Monitor International 他)
◎原油価格下落の影響を受け、カナダ西部での探鉱・開発は停滞しているが、オイルサンドプロジェ
クトについては、事業開始にあたって多額の投資を必要とするという性質から、新規のプロジェクトは
延期、保留されているものの、生産中、建設中のプロジェクトは生産、建設が続けられている。
◎このようなプロジェクトの状況を反映して、カナダのオイルサンド生産量は 2020 年までは増加、それ
以降も生産の伸び幅が縮小する可能性はあるものの増加を続けるという見通しとなっている。
◎カナダ西部から原油を輸送する主なパイプラインには Enbridge の Mainline、Kinder Morgan の Trans
Mountain、Spectra Express、TransCanada の Keystone 等があり、送油能力は合計で 380 万 b/d とされ
るが、オイルサンド生産量増加に伴い、送油能力不足が見込まれている。パイプラインの拡張や建設
計画はあるものの、環境問題や地元政府、先住民の反対でいずれも遅延している。
◎Alberta 州では 2015 年の政権交代に伴い、ロイヤルティや環境規制の見直し等が行なわれたが、こ
れまでのところ石油・ガス産業に大きな影響を与える変更は行なわれていない。
1. オイルサンドプロジェクトの状況
CAODC(Canadian Association of Oilwell Drilling Contractors) に よ る と 、 カ ナ ダ 西部(Alberta 、
Saskatchewan、Manitoba 、British Columbia 各州)で稼動するリグの数は、2014 年の 370 基から 2015 年
は 184 基に減少、2016 年も 1 月が 192 基、2 月が 184 基、3 月が 83 基と低調に推移している。リグ稼働
率も 2014 年は 46%であったが、その後、2015 年 24%、2016 年 1 月 25.7%、2 月 26%、3 月 12.3%と
低迷している。掘削された坑井の数を比較してみても、2013 年は 11,102 坑、2014 年は 11,226 坑と
11,000 坑を上回っていたが、2015 年は 5,531 坑に半減した。CAODC は、2016 年は 4,728 坑が掘削さ
れる見通しとしているが、2016 年 1 月は 203 坑、2 月は 312 坑、3 月は 286 坑と、2015 年同月比 50%以
下の坑井しか掘削されておらず、掘削井数はさらに落ち込む可能性がある。カナダ西部では通常、11
月から 3 月が冬の掘削シーズンであるが、リグ稼動数、稼働率ともに 3 月の落ち込みが例年より大きくな
っている。
-1Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 1.カナダ西部リグ稼動数
(CAODC ホームページより作成)
図 2.カナダ西部坑井完成数
(出所:CAODC ホームページ)
原油価格下落の影響を受け、このようにカナダ西部での探鉱・開発は停滞しているが、掘削予算を削
減しているのは主に在来型や重質油の生産者であり、オイルサンドの生産者による予算削減は比較的
少ないとされている。生産中、建設中のオイルサンドプロジェクトについては、既に多額の投資を行って
いることから、原油価格下落にもかかわらず、生産、建設が続けられていることがその理由と考えられる。
設備の建設等莫大な立ち上げ費用を必要とする新規のオイルサンドプロジェクトは、資金の確保や投資
決定が難しく、相次いで延期、保留されているが、Southern Pacific Resource の STP-McKay のように生産
中のプロジェクトの操業を停止する例や、Shell の Carmon Creek プロジェクト第 1 期のように建設中のプ
ロジェクトを中止する例は、これまでのところほとんど見当たらない。
主な企業やプロジェクトの状況を見てみよう。
-2Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
〈Suncor Energy〉
Suncor Energy は、2015 年第 4 四半期のオイルサンド生産量を 439,700b/d と前年同期の 384,200b/d
から 14%増加させた。10 月にメインテナンスを行なわなかったことや MacKay River オイルサンドプロジ
ェクトの生産増(20%増加し 38,000b/d に)が原因とされている。
同社は、2016 年の WTI 価格を 36 ドル/bblとみて、資本支出を 7.5 億カナダドル引き下げ 60~65 億カ
ナダドルとした。
しかし、オイルサンド生産量についてはさらに増加させていく計画である。2016 年 1 月 1 日からは、
Firebag オイルサンドプロジェクトの生産量を 23,000b/d 増加させ 203,000b/d とした。同社は中期的にこ
のような生産増を行なっていくことを計画しており、2020 年代初めまでに生産能力3~4 万b/d のプラント
を 10 基建設し、生産量を 30 万 b/d 増加させるとしている1。また、Fort Hills オイルサンドプロジェクト(生
産能力 18 万 b/d、Suncor Enenrgy のシェア 50.8%)の建設は半分以上完成し、2017 年末に生産を開始
できる予定であるとしている。
Suncor Energy は 2015 年 9 月に、Fort Hills プロジェクトの権益 10%を Total から 3 億 1,000 万カナダ
ドルで買収し、権益保有比率を 50.8%に引き上げた。さらに、10 月には、Canadian Oil Sands(COS)株主
に対して、COS 株式 1 株と Suncor Energy 株式 0.25 株を交換するという内容の敵対的買収提案を行った。
両社は、2016 年 1 月に COS の株主が保有 1 株当たり Suncor 株 0.28 株を受け取ることで合意、3 月に
42 億 4,000 万カナダドルに上る買収が完了した。
Suncor Energy は原油価格低迷下で、コストを低減させながら、生産増と買収により、国内原油生産最
大手としての地位をさらに強固にすることを目指している。
なお、COS が Suncor Energy に買収される前の 2015 年 12 月に発表したところによると、Syncrude
Canada の 2016 年の合成原油生産量は前年比 8%増加し 30.1 万 b/d となる計画である。予算は 2015
年の 14.2 億カナダドルから 2016 年は 14.3 億カナダドルにわずかに増加。一方、操業コストは発表時点
の 40.56 カナダドル/bbl から 37.14 カナダドル/bbl に引き下げる計画であるという。2016 年の油価を 50
ドル/bbl として計画をたてているが、 油価が 45 ドル/bbl 以下に下落しても全ての支出や配当を支払うこ
とができるとしている2。
〈Canadian Natural Resources〉
Canadian Natural Resources も、30 億カナダドルを投じ 2017 年末までにオイルサンド生産能力を 12.5
万 b/d 引き上げる計画だ。20 億カナダドルを投じ 2016 年 9 月までに Horizon オイルサンド拡張 2B フェ
ーズで 4.5 万 b/d、10 億ドルを投じ 2017 年第 4 四半期に第 3 フェーズで 8 万 b/d 生産能力を増加させ
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Platts Oilgram News 2016/2/5
Platts Oilgram News 201512/4
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
る。Horizon オイルサンドプロジェクトの 2015 年第 4 四半期の生産量は 12.9 万 b/d で、2017 年末までに
これを 25 万 b/d に引き上げ、最終的には生産量を 50 万 b/d とする計画である。同社は WTI の価格が
2016 年 30 ドル/bbl、2017 年 43 ドル/bbl になると見ている。一方、操業コストは 2015 年が 29.61 カナダ
ドル/bbl で、これを 25 カナダドル/bbl 以下とすることを目指している。2016 年の資本支出は、2015 年の
39 億カナダドルに対し 35~39 億カナダドルで維持する計画である。
〈Cenovus Energy〉
Cenovus Energyはオイルサンド生産量を2013年の10万2,500b/dから2014年は12万8,195b/d、2015
年には 14 万 320b/d と増加させてきた。2016 年には、Christina Lake 及び Foster Creek プロジェクトで生
産能力を 10 万 b/d 追加する計画である。Brian Ferguson CEO によると、同社は 2016 年の資本支出を
WTI を 49 ドル/bbl として見積もったが、WTI が 37 ドル/bbl となっても予算を変更したり、生産に影響が
及んだりすることはないとしている3。
〈Husky Energy〉
Husky Energy は 2015 年 3 月に生産を開始した Sunrise プロジェクトの生産量を 42,000 b/d 増やす計
画である。Asim Ghosh CEO は 2015 年 12 月中旬に、同社は 2016 年の WTI 価格を 40 ドル/bbl とみて
おり、現在の油価で生産を中止することはないと語った4。
〈Imperial Oil〉
Imperial Oil は 2015 年にオイルサンド生産能力を 15 万 b/d 増加させた。2016 年は新たにオイルサン
ドプロジェクトに投資を行なう計画はないが、2015年に手続きを開始したCold Lake、Midzagheプロジェク
ト(生産能力 4.5 万 b/d)を推進していく。また、引き続き市場を調査、操業コストを検証していくという5。
〈Brion Energy〉
PetroChina の 100%子会社Brion Energy は、MacKay Rive オイルサンドプロジェクトの蒸気圧入を 2016
年第 3 四半期に開始し、その後 3~6 ヶ月で生産を開始する計画だ。初期の生産量は 3.5 万 b/d である
が、Alberta 州のエネルギー規制当局からは 15 万 b/d を生産することについて承認を取得している。同
プロジェクトは、Fort Murray の北西 25 マイルに位置し、ビチューメン可採埋蔵量は 17 億 bbl とされてい
る。現在の油価で生産を開始するのは正しいのかという点については議論がなされたが、コストが超過
することになっても MacKay River オイルサンドプロジェクトや Dover オイルサンドプロジェクトを含む資
産の開発を進める上で学ぶことがあるとして、生産が開始されたという。しかし、新たな生産能力を追加
するか否かは、油価が低迷しているため検討中である6。
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5
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Platts Oilgram News 2015/12/29
Platts Oilgram News 2015/12/9
Platts Oilgram News 2015/12/29
Platts Oilgram News 2016/4/14
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
〈MegEnergy〉
MegEnergy は資本支出を 2014 年の 12.4 億カナダドルから 2015 年は 2.71 億カナダドルに 79%引き
下げた。しかし、主にオイルサンドを生産しているため、生産量への影響は少なかった。MegEnergy は過
去 2 年間コスト削減や効率化に努めたため、今後さらに低油価が続いても比較的少ない投資で安定した
生産を続けることができるとしている7。同社は 2016 年に Christina Lake プロジェクトで 3,000b/d の生産
増を計画しているという。
2. 生産見通し
このようなプロジェクトや企業の状況を反映して、カナダ全体の石油生産量及びオイルサンド生産量
は 2020 年頃までは増加、それ以降も生産の伸び幅が縮小する可能性はあるものの増加を続けるという
見通しとなっている。
〈Alberta 州〉
2015 年 10 月に Alberta 州が発表したところによると、Alberta 州のオイルサンド生産量は 2015 年の
247.3 万b/d から 2016 年は 264.7 万b/dに 17.4 万b/d 増加する見通しである。生産増の多くは、Cenovus
Energy の Christina Lake-F 及び Foster Creek-G プロジェクト、Canadian Natural Resources の
Horizon-2B プロジェクトによるとされている8。
〈Platts Oilgram News〉
Platts Oilgram News も 2015 年 12 月 29 日号で、油価下落により Alberta 州のオイルサンドプロジェクト
に遅延は生じているものの、オイルサンド生産能力は 2016 年に 28 万 b/d 増加し 261 万 b/d となる見通
しとしている。ただし、生産増加量は 2015 年の 30 万 b/d よりは鈍化するとしている。
〈国家エネルギー委員会〉
国家エネルギー委員会(National Energy Board:NEB)は 2016 年 1 月に発表した Canada’s Energy
Future 2016 で、カナダの石油生産量は 2014 年の 388.7 万 b/d から 2020 年には 488.3 万 b/d に、オイ
ルサンド生産量は 2014 年の 230 万 b/d から 2020 年には 330.7 万 b/d に増加するとしている。NEB は、
油価下落によるオイルサンド生産への影響は限定的としている。すなわち、オイルサンド生産者は生産
中のプロジェクトの生産量を減らしたり、建設中のプロジェクトを遅らせたりしないため、今後 5 年間のオ
イルサンド生産量は近年と同じペースで増加するとしている。2020 年以降についてもオイルサンドの生
産量は増加するが、増産ペースは落ちるとみている。
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CanOil 2016/3/17
Platts Oilgram News 2015/12/4
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 3.カナダの石油生産見通し
(出所:National Energy Board Canada’s Energy Future 2016)
NEB が Canada’s Energy Future 2016 で発表した見通しを、NEB が前回、2013 年に発表した見通しと
比較してみた(図4)。オイルサンドについては 2020 年頃までは 2016 年発表の数字と 2013 年発表の数字
に大差はない。これは、油価下落により生産中、建設中のプロジェクトが影響を受けていないことによる
と考えられる。一方、2020 年以降は 2013 年発表の数字が 2016 年発表の数字を上回っており、油価低迷
により新規プロジェクトが延期、棚上げされていることを反映したものと考えられる。
6
5.5
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025
カナダ石油生産量(2013)
うちオイルサンド生産量(2013)
カナダ石油生産量(2016)
うちオイルサンド生産量(2016)
図 4.カナダの石油生産見通し比較
(単位:100 万 b/d)
(National Energy Board Canada’s Energy Future 2013、2016 より作成)
-6Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
〈IEA〉
IEA は 2016 年 2 月に発表した Middle Term Oil Market Report2016 で、オイルサンドプロジェクトにつ
いては、すでに多額の投資を行なっているので、生産中のプロジェクトは生産を続け、建設中のプロジ
ェクトは建設を継続する。したがって、主なプロジェクトで生産を中止するものはなく、2021 年までにオイ
ルサンドの生産量は80万b/d増加するとしている。カナダの石油生産量はオイルサンドが生産増を牽引
し、2021 年に 520 万b/d に達するが、そのうちビチューメンと合成原油が 340 万b/d を占めるとしている。
図 5.カナダの石油生産見通し
(出所:IEA Middle Term Oil Market Report2016)
3. パイプラインの状況
カナダ西部から原油を輸送する主なパイプラインは Enbridgeの Mainline パイプライン、Kinder Morgan
の Trans Mountain パイプライン、Spectra Express パイプライン、TransCanada の Keystone パイプライン
で、これらの輸送能力は合計で 380 万 b/d となっている。
このうち、Alberta 州Edmonton と米国Illinois 州を結ぶ Mainline パイプラインは、送油能力が 260 万b/d
と最大であるが、Enbridge によると、2016 年は同パイプラインで約250 万b/d とフル稼働に近い状況で輸
送を行なうことになるという。
表 2.オイルサンド関連.パイプライン建設、拡張計画
太平洋岸
東部
米国メキシコ湾
パイプライン
Trans Mountain 拡張
Northern Gateway
Energy East
Keystone XL
企業
Kinder Morgan
Enbridge
TransCanada
TransCanada
拡張される送油能力
59 万 b/d
52.5 万 b/d
110 万 b/d
83 万 b/d
総延長
950km
1,172km
4,400km
1,897km
(各種資料より作成)
-7Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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このように現状でもパイプラインは送油能力いっぱいで稼動しており、オイルサンド生産量が増加して
いくという見通しと考え合わせると、パイプラインでの輸送能力はますますタイトな状況となると考えられ
る。そこで、表 2 に示した 4 件のパイプライン建設、拡張計画が検討されてきた。
しかし、このうち KeystoneXL パイプラインについては、米国との国境をまたぐパイプラインなので米国
の承認を得なくてはならないが、2015 年 11 月 6 日、Obama 大統領が同パイプラインを建設しても、長期
的な経済貢献は期待できず、石油価格引き下げ効果もなく、エネルギー安全保障にもつながらない等を
理由とし、同パイプライン建設計画を却下する方針を表明した。
さらに、11 月 13 日には、Trudeau 首相が運輸大臣に BC 州北部太平洋沖合での原油のタンカー輸送
を正式に禁止するよう示唆した。禁止されることになれば、Northern Gateway パイプラインにとって大きな
打撃となる。
そして、2016 年 1 月 27 日には、Catherine McKenna 環境・気候変動相及び Jim Carr 天然資源相が、
カナダの環境審査制度を見直している間に、環境影響評価を行う際の暫定方針を発表した。発表による
と、制度見直しの間は以下の 5 つの基本理念に基づき審査が行なわれる。
◎すでに審査を行なっている事業の審査は現行制度の下で継続、再申請は不要である。
◎科学、先住民の伝統的な知識、その他の重要な証拠に基づいて判断する。
◎国民及び影響を受けるコミュニティの意向を反映する。
◎先住民との十分な協議を行い、先住民の権利と関心への適合を図る。
◎事業自体及び上流からの温室効果ガス排出の審査を評価に含める。
また、NEB は審査中の Trans Mountain パイプライン拡張と Energy East パイプライン敷設については、
上記の基本理念との整合性を確保するための諸措置(先住民との協議の強化、上流部門の温室効果ガ
ス排出の評価、国民の意見の聴取円滑化)を即日適用するとした。これにより、Trans Mountain パイプラ
イン拡張の評価期間が 4 ヶ月、Energy East パイプラインの評価時期が 6 ヶ月延長されることとなった。
この結果、Trans Mountain パイプライン拡張に関する連邦内閣による最終的な決定は 12 月となるとみ
られている。ただし、同パイプライン拡張に対しては、州政府、地元住民、先住民等から反対の声があが
っている。British Columbia 州政府は同じく 1 月に、Kinder Morgan から油流出防止や流出時の対応につ
いて満足のいく計画が提出されないため同パイプライン拡張計画を支援することはできないとした。
Vancouver 市も、Gregor Robertson 市長が中心となりこの拡張計画に反対しており、連邦政府の上記方針
についても下流部門の温室効果ガス排出の評価が含まれていないと批判している。Energy East パイプ
ラインについても、Quebec 州政府が反対を示しており、Quebec 州の環境基準に合わせるよう命じてい
る。
このようにパイプラインの拡張、敷設計画が遅れる中、既存のパイプラインや鉄道でオイルサンドを輸
-8Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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送したり、輸送することを計画したりする企業が現れている。
Cenovus Energy は、2015 年第4 四半期に米国メキシコ湾経由で希釈したビチューメン 2 カーゴを輸出
した。ビチューメンは、Enbridgeの Flanagan Southパイプラインを含むパイプラインと鉄道で Alberta州か
らメキシコ湾岸まで輸送された。同社は、米国が原油輸出を解禁したことで、輸出ライセンスが不要となり、
マーケティングの機会が増えたとしている。同じルートで輸出を増やす計画で、ヒューストンに事務所を
開設するとしている9。
一方、G Seven Generations は、ビチューメン 100 万 b/d の鉄道輸送プロジェクトを提案している。
Alberta 州 Fort McMurray と Alaska 州 Delta Junction 間に全長 1,600 マイルの鉄道を建設し、Delta
Junction から Trans Alaska Pipeline System で Valdez 港まで原油を輸送し、輸出するという計画だ。5 月か
ら 200 万カナダドルを投じスタディを実施するとしている10。
4. Alberta 州政府の石油・ガス政策
2015 年5 月5 日に実施された Alberta 州議会総選挙で勝利した新民主党(NDP:New Democrat Party)
政権は、石油・ガス関連の主な政策として、①ロイヤルティの見直し、②法人税率の引き上げ、③より厳し
い環境規制の適用、④主要な輸出インフラストラクチャープロジェクトに対する支援計画実施を掲げてい
た。
このうち、石油・天然ガス産業にもっとも影響を及ぼすのではないかと懸念されたのが、①のロイヤル
ティの見直しである。NDP 政権はロイヤルティの再検討に関する諮問委員会 Royalty review advisory
panel(委員長 ATB Financial CEO Dave Mowat 氏)を 8 月28 日に設置、同委員会で検討が行なわれた結
果、2016 年 1 月 29 日にロイヤルティに関する新たな枠組みが発表された。
◎ロイヤルティに関する変更が実施されるのは 2017 年以降。新規の坑井にのみ適用される。
◎2017 年以前に掘削された坑井については現在のロイヤルティを今後 10 年間継続。
◎2017 年以降生産を開始する石油、ガス、NGL に関しては pre-payout rate を 5%に設定。post-payout
については既存のスライディングスケールスキームを利用。
◎オイルサンドプロジェクトに対するロイヤルティは変更を行なわない。
◎全ての石油ガスプロジェクトの年間の資本支出や、オイルサンドプロジェクトのコスト、ロイヤルティ支
払額、生産増の割合等広範囲に亘るデータを公開することで、透明性を高める。
委員会は投資額が減少し将来得られる可能性のある収入に影響を与えることを恐れ、変更はわずかと
なった。Alberta 州政府は 4 月 21 日に、以下の通りさらにロイヤルティに関するインセンティブを導入した
9
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Platts Oilgram News 2016/2/26
Platts Oilgram News 2016/3/21
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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が、オイルサンドプロジェクトに対するロイヤルティは変更されなかった。
◎掘削長が長い場合には、生産量等とともに掘削長を基準とし、ロイヤルティを、在来型石油生産者は
10%~40%、在来型ガス生産者は 5%~6%とする。
③の環境規制については、11 月 22 日に温室効果ガス排出を規制し気候変動に対処するための
Climate Leadership Plan が発表された。この計画の下、Carbon Competitiveness Regulation(CCR)が導入
され、同州内の全ての経済活動について、年間 10 万トン以上温室効果ガスを排出する者には、2017 年
1 月より 20 カナダドル/トンの炭素税が課税されることとなった。炭素税は 2018 年には 30 カナダドル/ト
ンに、その後は、毎年インフレ率+2%ずつ引き上げられる。この他に、オイルサンド事業からの温室効果
ガス排出を年間 1 億トンに制限することや、2030 年までに石炭火力発電所を段階的に廃止することが計
画されている。多くの石油生産者は負担増とはなるが、さらに重い負担を負わずに済むことになったとし、
この計画を支持している。また、石炭火力発電所が廃止されることで、ガスの需要が増え、石油・ガス産
業にとってはプラスとなるとの見方をする向きもある。オイルサンド生産に対する影響については、2020
年以降は生産増に影響が出る可能性があるとの見方から、カナダの石油産業が環境面でも、経済面で
も競争力を持てる内容で、これによりオイルサンド生産増を続けられるとする見方まであり、今後さらに状
況を注視していく必要があると考えられる。
なお、②の法人税率については、2015 年 7 月 1 日より 10%から 12%への引き上げが実施されている
が、同国の州の法人税率としては最も低い水準となっている。また、④主要な輸出インフラストラクチャー
プロジェクトに対する支援についてはすでに州政府の支援が鍵となる段階を過ぎており、重大な影響は
ないと考えられる。
おわりに
原油価格低迷の影響が懸念されるオイルサンドプロジェクトだが、コスト削減に努めながら生産、建設
が続けられており、2020 年以降は生産量の増加幅が縮まる可能性があるが、生産量は増加を続ける見
通しとなっている。原油価格下落により歳入が減少、2016/17 年度は 104 億カナダドルの赤字が予想さ
れる Alberta 州政府が、ロイヤルティや環境規制の見直しにあたりオイルサンド生産量が減少しないよう
配慮していることも一因と考えられる。今後の油価動向にあわせて、オイルサンド生産者や Alberta 州政
府がどのような対応をとっていくのか、パイプラインの拡張、建設計画の行方とともに、注目していきた
い。
以 上
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