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外国語学習における新たな学習環境の構築

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外国語学習における新たな学習環境の構築
2013 年度
学部卒業論文
外国語学習における新たな学習環境の構築
-ドイツ語学習 Web 教材『D⇔J』の開発・運用・評価-
慶應義塾大学 総合政策学部 総合政策学科
ログイン名:s10655sh
学籍番号:71006554
花野沙也香
担当教員:藁谷郁美教授
目次
1 研究背景
6~
1.1 SFC のドイツ語授業カリキュラム
6
1.2 ドイツ語学習における問題点
9
1.3 本研究のねらい
10
2 先行研究
11~
3 先行作品
16~
3.1 Web 教材
16
3.1.1 ロゼッタストーン
3.1.2 東京外国語大学言語モジュール
3.1.3 ドイツ語を学ぼう
3.2 スマートフォン教材(App store)
20
3.2.1 翻訳機
3.2.2 nemo Deutsch
3.2.3 busuu
3.2.4 入門独単語
3.2.5 会話マスター
3.3 本
22
3.3.1 『ドイツ人が日本人によく聞く 100 の質問』
3.3.2 『日本語から引く 知っておきたいドイツ語』
3.3.3 『日本文化紹介小和独辞典』
4 仮説
25
2
5 教材『D⇔J』の制作
26~
5.1 教材の目的
26
5.2 技術的な手法
27
5.2.1 語彙の選定と収集
5.2.2 画像の収集
5.3 教材制作
28
5.3.1 デザイン
5.3.2 全体の構造
5.3.3 使用方法
6 実証実験
36~
6.1 被験者
36
6.2 実験の仕様
37
6.3 実験結果
39
6.3.1 事前アンケート結果
6.3.2 事後アンケート結果
6.3.3 考察
7 今後の展望
46~
7.1 音声データの追加
7.2 カテゴリーやテーマの追加
7.3 スマートフォンや携帯電話への対応
7.4 Web に頼らない、学習アプリケーションの開発
7.5 多言語対応
3
8 参考文献
48
9 図表一覧
50~
10 謝辞
52
付録
53
付録 1 事前アンケート
付録 2 事後アンケート
4
概要
本研究は、Web 学習教材『D⇔J』の開発・運用・評価を通して、学習
言語を用いて自分の言語文化を捉え直すプロセスを、学習要素として提示
した。日本でドイツ語を学習する場合、ほとんどの学習者にとって自分の
バックグラウンドである日本の伝統や文化、社会的習慣を、学習言語であ
るドイツ語で説明する場面に遭遇する必要性が生じる。本教材は、他者と
の接触場面において、翻訳が難しく、抽象度の高い事象をドイツ語で発信
することができる運用能力の向上を目的とする。「話す」ことが実践され
ることを念頭に置き、知識として有用なドイツ語語彙や表現を収集・デー
タ化することで教材としての充実度を高め、プログラムとして使用可能に
することで、学習者の学習環境として機能させることに重点を置く。同時
に自分の背負う日本の文化的要素をドイツ語で表現するプロセスを通し
て、自分の文化的背景をメタレベルで捉え直すことにもつながるのではな
いか、と考える。教材作品の開発に際しては、インターフェースを重要視
したことにより学習者の外国語学習に対する興味を高め、より動機付けを
継続させながら取り組める学習環境を提供することに目標を置いた。本研
究では、Web 学習教材『D⇔J』の開発、運用と、学習者に与える影響に
ついて被験者を対象とした評価を通して考察する。
キーワード
学習環境、外国語、自己発信、Web 教材、文化
5
1.研究背景
1.1 SFC のドイツ語授業カリキュラム
まず、本章では、研究背景となる慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以
下、SFC)のドイツ語教育カリキュラムについて説明する。
SFC のドイツ語教育は、コミュニカティブ・アプローチ、問題発見・
解決型のアプローチに基づいているため、学習者が自ら発信を行うことに
重点が置かれており、学習者主体の実用的なドイツ語の習得を第一目標と
している。特に初級では、「日本人が必要とするコミュニケーションの場
と話題を土台とし、そこにキーセンテンスと単語をもり込み、文法事項を
補足として扱っている」1。また、教室内授業とは別に、夏期休暇や春期
休暇中にドイツ語海外研修に参加することで単位取得も可能である。以上
の授業内外の SFC ドイツ語科目カリキュラムをまとめたドイツ語履修モ
デルは図 1 の通りである。
1
SFC ドイツ語研究室. ドイツ語履修概要.
http://deutsch.sfc.keio.ac.jp/umriss.html(2013/12/10 参照)
6
図 1 ドイツ語履修モデル
ドイツ語初習者向けのコースには 2 種類あり、一つ目はインテンシブで
週に 4 回の 100 分授業、二つ目はベーシックで週に 2 回の 90 分授業があ
る。これらのコースは授業数に差があるだけで、教材はどちらもドイツ語
研究室が作成した教科書『問題発見のドイツ語 Modelle』2を利用してい
る。
そのタイトルにもあるように、「問題発見・解決型の学習を軸に主体的
に学習能力を開発していけるように、さまざまな工夫をこらして…」
(Modelle1 p.3)いるため、日本でのドイツ語学習の従来の文法シラバスと
は異なる、機能シラバスをもり込んでいる。例えば、ビデオやスケッチの
登場人物は、SFC の学習者および教員という設定であり、その舞台も SFC
キャンパス内およびその周辺となっている。つまり、SFC の学習者が身
の回りに起こりうる事例を用いているので、それを表現するためのドイツ
語学習に特化した教科書なのである。
2
平高史也,Riessland Andreas,木村護郎クリストフ,藁谷郁美,Marco Raindl,太田達也. CD 付 ビデオ教材『問題発見のドイツ語Modelle』 7
SFC の教室内授業のサイクルは以下図 2 の通りである。
図 2 SFC 教室内授業サイクル
このようなサイクルを通して、より実践的なドイツ語を何度も繰り返し
学習することによって、インテンシブ2またはインテンシブ3終了後には、
多くの学生が現地での意思疎通や意見交換ができる能力を身につけてい
る。
そして、この教室内学習で得た知識を実践する場がドイツ語海外研修な
のである。外国語学習において、とりわけ学習者自身のコミュニケーショ
ンを主軸としている SFC のドイツ語科目において、当該言語および当該
言語圏文化接触場面の中で実践を重ねることの重要性は議論の余地はな
いであろう。
8
1.2 ドイツ語学習における問題点
以上のように SFC では自ら発信することに重点を置いた教室内学習を
行っている。しかし、実際の異文化接触場面においては、学習者自身のバ
ックグラウンドとなる文化や習慣を表現し合うことが重要になるのでは
ないだろうか。日本人の日常生活の根底となっている文化や習慣を改めて
理解し、それを発信できる能力を身につけることによってより深く異文化
間の交流を計ることができるのではないかと考える。
しかし、日本の文化や習慣などについて学習することができるような既
存教材はそれほど多くはない。ドイツ語圏文化接触場面を想定している
Modelle でも、多くの課でドイツでの生活場面などを取り上げているが、
本研究で扱う対象である、日本文化や習慣をテーマに取り上げている課は
以下 2 カ所である。
1.Modelle1 Lektion9 Eine Tour durch Kamakura
この課では、文法事項として①冠詞類の格変化、②3 格と 4 格の基本的
用法⑴、③3 格をとる主な前置詞、の3つを学ぶ。この文法事項と関連づ
けて、鎌倉を巡るツアーを提案しているダイアログが掲載されている。
2.Modelle3 Lektion5 Sind die Japaner Buddhisten?
この課では、文法事項として①接続語句の用法、②訪問の際の表現、③
-ismus / -istisch / -ist、の3つを学ぶ。そしてこの文法事項と関連づけて、
正月や節分、七夕祭りなどの日本の祭りや日本人の宗教観について述べて
いるダイアログが掲載されている。
以下、表 1 に上記 1、2 の課に登場する日本文化や習慣に関連した語彙
を示す。
9
ドイツ語語彙
日本語訳
ドイツ語語彙
日本語訳
Daibutsu
大仏
Tempel
寺
Schrein
神社
Neujahrsfest
正月
Neujahrskarte
年賀状
Los
おみくじ
beten
祈る
binden
結ぶ
In die hände klatschen
柏手を打つ
Schlagersendung
歌謡番組
Setsubun
節分
Sojabohne
大豆
Teufel
鬼
Bambus
笹、竹
Sternenfuest
七夕祭り
Prinzessin
王女
Milchstraße
天の川
Kuhhirt
牛飼い
Buddhismus
仏教
Buddhistisch
仏教の
Buddhist
仏教徒
Schintoisums
神道
Schintoistisch
神道の
Schintoist
神道信者
表 1 Modelle に掲載された日本文化や習慣に関する語彙
しかしながら、学習者の文化的背景は多様であり、発信したいと考える
コンテンツは幅が広く、授業教材だけでこれらすべての条件を網羅するこ
とは難しい。この問題意識から、本研究においては、学習者の日常性と密
接に連動するテーマをまずは調査し、そのコンテンツを学習教材として捉
え直す作業を進めた。同時に、これらを教材データとしてだけでなく、学
習プログラムとして機能させることにより、教室の外で各学習者がおこな
うインフォーマル・ラーニングのための学習環境構築への位置づけを可能
にするのではないか、と考える。
10
1.3 研究のねらい
研究背景で述べた通り、SFC では海外研修はドイツ語学習の成果を発
揮する場として位置付けられている。本研究の活動の場である Learning
Design Project(以下、LDP)では、今日に至るまで数々の学習教材が学
習者自身によって開発され、それら学習教材の多くは他の学習者が誰でも
利用できるように学習サイト d-mode3に集約、運用されてきた。その教材
の多くはドイツ語学習初習者向けのコンテンツから中上級レベルに向け
たものまで、SFC のドイツ語授業で採用されている教材『Modelle』シリ
ーズに準拠した教材が多い。SFC のドイツ語学習理念としても、自己発
信能力を重視している。しかしながら、日本独自の文化や伝統など、抽象
度の高い事象を他者に発信できるための運用能力を培うことは、教室内の
授業だけでは不十分である。
本研究において開発した教材システム『D⇔J(ディー・ジェー)』は、
ドイツ語海外研修において学習者が遭遇する様々な他者との接触場面を
想定し、日本の文化や習慣を自己発信するために有用な語彙や、すぐに実
用できることを目指した比較的短い表現方法を、教材コンテンツとして作
成した。想定する学習者は、おもに海外研修や留学、フィールドワーク活
動等の準備として、あるいはドイツ語圏滞在中の補助教材としての学習で
ある。
同時に、本教材を通して、学習者が他言語で自発的に発信したいという
動機付けを高めるとともに、自分が背景として持つ日本の文化、社会、習
慣を、別の言語で捉え直し、自分を取り巻く環境について、他者に向かっ
て発信する能力を身につける、メタレベルでの学習へと導くことができる
のではないかと考える。
3
d-mode ドイツ語を自分で学べる web サイト http://dmode.sfc.keio.ac.jp/(2013/12/10 参照)
11
2.先行研究
外国語学習者はどのような教室内授業を必要としているのだろうか。岡
田(2012)4は、言語運用以外の、言語の背後にある文化や社会的側面に、
どこまで踏み込み、どう教えるべきかという問題を、学生に対するアンケ
ート調査をもとに明らかにしている。ただし、このアンケート調査は北海
道大学の初習外国語履修者への調査であるので、一般化可能であるか否か
は議論の余地は残されている。
授業で扱う内容についての質問項目で、対象の言語についてのみの学習
でいいという学生は約 16%に過ぎず、残りの約 84%の学生は言語以外の
要素も同時に学びたいと考えていることがわかった。その理由として挙げ
られた、A)文化や社会の知識はスペイン語を理解する上で必要だから、B)
語学は文化と社会を勉強する手段であると位置づけられると思うから、
D)少なくとも自分は言語としてのスペイン語以上に社会や文化に興味が
あるから、という3つの選択肢は、それぞれ理論が少しずつ異なるものの、
文化情報が授業で提供されることに積極的な意味を見いだしているもの
である5。この結果から、学習者は言語の背景にある文化や社会について
の学びの必要性を理解しており、教室内授業で学びたいと考えていること
がわかる。
図 3 対象の言語以外の要素を学びたい理由
4
「初習外国語としてのスペイン語の授業や教材のあり方と、社会や文化に関する理解につい
て:学生の要望や教科書の使い方の分析」
5
同上 p.31
12
さらに、「文化や社会に関する情報」とはどのようなものか、という問
いに対して、A)難しいことよりも身近なこと、D)教員の個人的な見方、も
のごとの解釈、経験、F)最近議論されたり、注目されていることについて、
の選択肢を選んだ学生が多く、授業内で提供してほしいと思っていること
は、身近なことに関する情報であり、「難しいこと」よりもまずはふつう
の人々の日常生活をイメージできる情報である6ということが明らかにな
った。しかし、ここで言われている“文化や社会”とは学習言語文化圏の
文化や社会についての情報であり、日本の文化や社会を発信するという面
にはフォーカスがあてられていない。
図 4 文化や社会に関する情報とは何か
日本人学習者は履修外国語の文化や社会についての興味はあるものの、
その知識を得られる教材が不足していると示しているといえる。その点に
おいて、SFC 独自の学習教材 Modelle はドイツ語圏の文化や社会に関し
ての多くの情報を提供しており、また、ネイティブの教師も多く授業を担
当しているため、学習者がドイツの文化や社会に関する情報を手に入れら
れる環境は整っているといえるだろう。
しかし、それに対して日本独自の文化や習慣といった翻訳の困難な情報
を自己発信するために必要な語彙や情報を学習する教材等の環境はまだ
整っておらず、今日まであまり言及されることも少なかったのではないだ
ろうか。
6
同上 p.32
13
また、言語学習者が対象言語の文化や社会などを学ぶことの重要性は張
慧芬(2013)7によって示されている。従来の言語教育においては、言語形
式が重要視されているため、音声、語彙、文法などが主導的な位置になっ
ているが、学習者の総合的な言語運用能力の養成は疎かにされやすいよう
である。
アメリカの言語学者Edward Sapirは、「言語の背景には目に見えない
ものがあり、しかも言語は文化と切っても切れない存在である。いわ
ゆる文化とは、社会に伝わった習慣や信仰の総合体である」と述べて
いる。つまり、言語は文化の一部で、文化は言語を内包する大きな体
系である。他の言語を学習するということは、他の文化を学習するこ
とである。よって、第2外国語の学習者にとって、言語機能を習得す
るだけでなく、対象言語の文化を知ることも大事なことであるといえ
る。8
張(2013)は、学習者が母国語以外の言語を習得するためには、言語の背
景となっている文化を知ることの重要性を述べている。前述の通り、岡田
(2012)によって、学習者は対象言語圏の文化や習慣を知ることに対する必
要性を感じていることは示されているため、学習者が対象言語の文化や習
慣を学ぶことの重要性は示されたと言えるだろう。
以上のように、学習者が対象言語圏の文化や習慣を学ぶことの重要性は
述べられてきたが、母国の文化や習慣を自己発信することの重要性は述べ
られていない。コミュニケーションにおいては相手を知ることは確かに重
要だが、あくまで双方向なので、母国の文化や習慣を自己発信していかな
ければならないのではないだろうか。
田中(2012)はコミュニケーションに対する積極性によって期待される
学習効果について述べている。
7
「外国語教育における文化元素の導入について −初級レベルの中国語学習者を中心に−」
(2013) 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 No.16:117-123
8
同上 p.118
14
コミュニケーションに対する積極性 willingness to communication(以
下、WTC)は、第2言語習得への効果が期待されている9。第 2 言語で
のコミュニケーションには、異なる文化背景を持った他者とのコミュ
ニケーションを必然的に想定するため、文化を摂取するだけでなく、
自分の文化を他者に理解してもらうために努力することを意味する。
つまり、コミュニケーションに対する積極性は相互的な異文化理解の
根源と言える。10
学習者の WTC を促進させる学習方法を用いることによって、言語運用
能力の向上効果がさらに期待できるということである。私の開発した『D
⇔J』はこのような自己発信に対する意欲を促進させる効果が期待できる
のではないかと考えている。
9
Dörnyei, Z. (2001) New themes and approaches in second language motivation research
Annual Review of Applied Linguistics, 21, 43-59
10
神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 No.15:119-130 p.120
15
3.先行作品
3.1 Web 教材
3.1.1 ロゼッタストーン11
本教材は日常会話に焦点をあてて、会話を楽しむことを中心においた学
習教材である。多言語対応しているため、多くの利用者がいるようだ。ネ
イティブの音声や画像データとともに言語を学ぶことができ、また、個人
の履歴も残るため、学習者自身が苦手なところを重点的に学習したり、や
ってみたいところから取り組んだり、と自由度の高い学習環境といえる。
また、レベル別に少人数のグループでの会話をすることもでき、それぞれ
の学習スタイルに合った学習法を確立することもできる。
図 5 ロゼッタストーン学習画面
11
ロゼッタストーン http://www.rosettastone.co.jp/other_language/german/(2013/12/10 参照)
16
また、ドイツ人講師と直接ビデオ会話を通して学習することもでき(図
6)、細かい発音の違いや名詞の性や格変化についても指摘してもらいつつ、
会話を楽しむことができるため、発話能力やモチベーションの向上につな
がる教材といえるだろう。このビデオ会話の機能は、各学習者の学習進度
に合わせてセクションを選択してその内容に沿って会話を進めるスタイ
ルである。そのため制約のかかった発話練習になり、また学習者 3 人に対
して講師が 1 人なのでなかなか思い思いの会話はできない。
図 6 講師との会話練習画面
しかし、
『D⇔J』の目的とした日本文化や習慣を学ぶ、というカテゴリ
ーは内包されていない。ただし、ドイツの文化や習慣を学ぶことができる
セクションはいくつかある。
17
3.1.2 東京外国語大学言語モジュール12
本 web サイトは d-mode に近いところが多い。発音、会話、文法、語
彙の4つのモジュールに分類されており、学習者が自由に選択して学習で
きる。タブレット端末やスマートフォンにも対応しているため、自由度の
高い学習環境であるといえるだろう。
図 7 東京外国語大学言語モジュール(ドイツ語)
しかし、あくまでも授業のサポート教材として利用されているようで、
文化などのテーマに触れた部分は見られなかった。
12
東京外国語大学言語モジュール
http://www.coelang.tufs.ac.jp/modules/de/index.html(2013/12/10 参照)
18
3.1.3 ドイツ語を学ぼう13
この web サイトは d-mode の d-Check14と動作も内容も類似点が多い。
セクションごとに右側に“基本を覚えよう”というまとめがついているペ
ージが多く、学習者は内容を確認しながらチェック問題を進めることがで
きる。“チェック”ボタンをクリックすると
図 8 ドイツ語を学ぼう(助動詞学習画面)
この教材は、文法のみを扱っており、
私の作成している『D⇔J』が焦点をあてている部分の学習は補うことは
難しいと考える。
13
ドイツ語を学ぼう
http://www.asahi-net.or.jp/~vg5t-ngi/doitsugo/doitsugo-frame.html(2013/12/10 参照)
14
ドイツ語学習教材 d-mode の教材群の一つ
19
3.2 スマートフォン教材(App Store)
3.2.1 翻訳機
言語を選択し単語を入力すると、選択した
言語に翻訳される一般的な翻訳のアプリケ
ーションである。このアプリケーションは必
要な単語を翻訳する際にはとても有用である。しかし、こ
のアプリケーションは学習教材としてではなく、辞書機能
が強いといえるだろう。
3.2.2 Nemo Deutsch
Nemo シリーズは英語、韓国語、フランス
語、スペイン語など多くの言語に対応してい
るアプリケーションである。単語を1対1対
応で表示し、音声を聞くことができる。基本的な単語に限
られており、文化を取り扱う部分は見られない。
20
3.2.3 入門独単語
音声を聞き、再生された単語を選択し、ゲ
ーム感覚で暗記を行うアプリケーションであ
る。学習者のスコアを記録し間違えた問題の
みを出題する機能があるため、学習者それぞれの弱点とな
る部分を重点的に学習することができる。タイトルにもあ
る通り、
“入門”編なので初級レベルの学習者には良い教材
といえるが、文化などに触れる部分はなく、中級・上級者
にとっては既存知識の確認に活用できるだけではないだろ
うか。
3.2.4 busuu
この教材は、A1、A2、B1、B2 の4つのレ
ベルに分けられ、テーマごとの会話を聞くこ
とができるアプリケーションである。写真も
ついているため、視覚的イメージはとても持ちやすいが、
無料・有料に関わらず文化に関するテーマは取り扱ってい
ない。
3.2.5 会話マスター
テーマごとにすぐに使える短い表現を、日
本語、ドイツ語、音声で紹介しているアプリ
ケーションである。会話のスピードを選択で
きる点がこの教材の特徴だが、有料・無料に関わらず文化
に関するテーマは取り扱っていない。
21
3.3 本
3.3.1 『ドイツ人が日本人によく聞く 100 の質問』
この教材は「社会生活・日常生活」「衣食住」「日本の伝統と文化」「政
治経済・社会体制」
「趣味・娯楽」
「日本のさまざま」の7つにカテゴリー
分けされているが、テーマページを見てみると図のようになっている。1
つの質問に対して 6、7 行のドイツ語と日本語の文章で回答例が表示され
ている。絵や写真などは書かれていない。
図 9 ドイツ人が日本人によく聞く 100 の質問
22
3.3.2 『日本語から引く 知っておきたいドイツ語』
この教材はドイツ語と日本語が 1 対 1 対応の表形式になっている単語帳
の形式である。単語間の関連性や使用場面が想定しにくいものとなってい
る。
図 10 日本語から引く 知っておきたいドイツ語
23
3.3.3 『日本文化紹介小和独辞典』
この教材はドイツ語と日本語が 1 対 1 対応になっており、さらに追加情
報が少し書かれている。情報量もあり、関連性もあるが、情報が詰まり過
ぎて決して使いやすいとはいえないだろう。
図 11 日本文化紹介小和独辞典
24
4. 仮説
日本の文化や習慣は、ヨーロッパ諸国からするとかなり独特なものが多
く、そのような文化や習慣を正しく伝えることはとても難しい。さらに、
この範囲を学習できる教材や環境がまだ整っておらず、学習者は自ら情報
を収集して学習しなければ、得ることができない状態なのである。
学習者が教室内授業だけではなく、それ以外での学習において、学習者
それぞれのスタイルの中に本 Web 教材の利用を組み込むことで、今まで
教室内授業では補いきれなかった“文化や習慣を学び、自己発信する”と
いう範囲を取り入れ、言語習得全体の向上を図ることができるのではない
だろうか。
本研究は、学習システムの開発・運用および評価を通してこれらの問題
解決を支援するためのシステムを提示するものである。
25
5.学習教材『D⇔J』の開発
5.1 教材の目的
海外留学を考えているドイツ語学習者やドイツ滞在中の学習者に対し
て、翻訳の困難な文化的概念や伝統的行事などを自分の母語以外の言語で
表現する際に、その支援となる学習環境を構築し、今まで手薄だった文化
や習慣に関するカテゴリーの学習を支援するシステムの構築を目的とし
ている。
また、本教材システムは、利用者の日本文化や習慣に対する更なる興味
の喚起も目的としている。文化辞典や Wikipedia などとは異なり、多大
な情報を一度に提示するのではなく、大学生の視点から、日常性と近いと
思われる分野を対象として選定しているため、より実用的なものになるの
ではないかと考える。そして、既存の外国語会話のビジネス本とは異なり、
会話を1文で表示するのではなく、キーワードとなる単語や表現等の短い
単位で提示することによって、学習者自身の発話能力を活かして会話の幅
を広げていけるのではないかと考えている。
26
5.2 技術的な手法
5.2.1 語彙の選定と収集
より実践的なドイツ語を身につけられるように、日本での日常生活に即
した身近なカテゴリーやテーマを選定した。テーマの選定には大学生への
質問調査を元にした。詳細については後に述べる。テーマページの日本語
文は、多くの情報を載せるのではなく、より使えそうな内容を選択した。
ドイツ語訳の選択は、主に『アクセス和独辞典』、『プログレッシブ単
語帳 日本語から引く 知っておきたいドイツ語』から引用した。
5.2.2 画像の収集
本教材で使用している画像は、筆者が撮影したものを中心に、Web 上のフリ
ー素材を利用した。写真やイラストを用いることによって視覚的イメージと語
彙を連動して記憶に定着しやすくするのが狙いである。
特にトップページの画像はそれぞれのカテゴリーを指し示す特徴的な
画像を使用し、学習者の日常に近いものを選択した。
27
5.3 教材制作
5.3.1 デザイン
本教材システムの Web ページは HyperText Markup Language15(以下、
HTML)と Cascading Style Sheets16(以下、CSS)を用いて作成した。
作成には、アプリケーション MAMP17を利用した。HTML は、Web ペー
ジを作成するためのマークアップ言語で、文章の論理構造や表示方法など
を記述することができる。また、CSS は web ページのレイアウトを定義
する規格で、フォントや文字の大きさ、行間など見栄えに関する情報を記
述している。MAMP は HTML で書いた要素を Web 上にアップロードせず
に自分のパソコンで作動させることができるアプリケーションで、
Apache、MySQL、PHP をパッケージとして一括インストールすることが
できるソフトである。
基本的な Web サイト全体のデザインは『CSS+HTML Web レイアウト
3rd すぐに使えるアートワーク』を参考にし、所々にアレンジを加えた。
本教材において最も特徴的といえるのは、Hovercard18を採用したこと
である。Hovercard は軽量の jQuery のプラグインでリンクなどをはじめ、
様々な HTML 要素にカーソルを合わせると、関連した情報が表示される
仕組みだ。本教材では、太字で表示された日本語にカーソルを合わせるこ
とで該当するドイツ語訳がポップアップ形式で表示される。初めからドイ
ツ語を表記するのではなく、学習者がアクションを示してからインプット
語彙として表示する仕組みにすることで、漫然と内容を読むだけになる危
険性を回避し、記憶にも残りやすいと考えている。
15
16
17
18
IT 用語辞典 e-Words http://e-words.jp/(2013/12/10 参照)
同上
MAMP & MAMP PRO http://www.mamp.info/en/index.html(2013/12/10 参照)
Hovercard http://designwithpc.com/Plugins/Hovercard(2013/12/10 参照)
28
5.3.2 全体の構造
本教材システムのページ構造は、①トップページ(図 12)、②カテゴ
リー群ページ(図 15)、③テーマページ(図 16)の3つに分けられる。
以下、各ページに関して特徴を示す。
①トップページ
トップページは各カテゴリー群のイメージに合った画像を用意し、写真
をクリックするとそれぞれのカテゴリーに飛べるようにリンクを貼って
ある。また、マウスオーバーするとカラーバランスの異なる画像が表示さ
れるようになっている。カテゴリーは「食」「文化」「お祭り」「宗教」
「伝統」の5つに集約した。カテゴリーの選定については②カテゴリー群
ページについて、に記す。
図 12 『D⇔J』トップページ
29
トップページは写真をメインにした仕様で作成した。文字ではなく画像
で作成したことによるインパクトや学習者の興味を引くことを重視した
ためである。視線が最も集まると予想される画面中央に本 Web 教材のタ
イトルである『D⇔J』の赤色アイコンを置いた。赤色には心理的に、やる
気が出てくる、気持ちを前向きにさせる、といった効果があると言われて
いるため、タイトル色に採用した。
そして対角線上に d-mode19(図 13)と LDP20(図 14)のリンク画像を反
対色である青色を用いて配置することで、全て画像にすることで煩雑な視
覚イメージを持ってしまうことを回避した。
図 13 d-mode トップ画面 図 14 LDP ホームページ
また、文字で表記しなくてもカテゴリー選択がわかりやすくなるように、
それぞれのカテゴリーに合った画像を採用してリンクを貼った。そして、
この画像は、一目で見て何を指しているのかわかりやすくするために、よ
り学習者の日常に近い、想像しやすいものであるように心がけた。
②カテゴリー群ページ
2012 年 6 月頃〜2013 年 8 月頃にかけて、本教材のテーマを収集するた
めに男女約 20 名の SFC の学生に口頭質問を行った。この質問で得られた
テーマ候補一覧を表2に示す。
19
20
d-mode トップページ http://dmode.sfc.keio.ac.jp/(2013/12/10 参照)
LDP ホームページ http://ldp.sfc.keio.ac.jp/(2013/12/10 参照)
30
日本酒
そば
神道
浴衣
醤油
うどん 華道
仏教
味噌
ごはん
茶道
和食
寿司
餅
剣道
富士山
納豆
刺身
柔道
マンガ
豆腐
ひな祭り
歌舞伎
アニメ お盆 七夕
能・狂言
秋葉原 正月 こどもの日 着物 ファッション 温泉 寺 大仏 おもてなし 桜
神社 侍 京都 大阪 鎌倉 北海道 沖縄 表 2 テーマ候補一覧
この収集したテーマ一覧を、文献等21を参考にしつつ、以下表 3~表 8
のようにカテゴライズした。
カテゴリー:日本食
日本酒
そば
寿司
餅
醤油
うどん 納豆
刺身
味噌
ごはん
豆腐
和食
表 3 日本食カテゴリー カテゴリー:お祭り
ひ な 祭 り 七夕祭り お盆 端午の節句
着物
浴衣
正月 表 4 お祭りカテゴリー 中埜芳之、Oliver Aumann(2008)『日本文化紹介小和独辞典』東京:朝日出版社、
萩野蔵平(Ed)(2003)『プログレッシブ単語帳 日本語から引く知っておきたいドイツ語』東京:
株式会社小学館
21
31
カテゴリー:文化
華道
茶道
柔道
相撲
歌舞伎
能・狂言
剣道
表 5 文化カテゴリー カテゴリー:宗教
仏教
神道
大仏
表 6 宗教カテゴリー カテゴリー:伝統
侍
おもてなし
富士山
こどもの日
桜 温泉 表 7 伝統カテゴリー カテゴリーに含めなかった内容
マンガ
アニメ 秋葉原
ファッション
京都 大阪 北海道 沖縄 鎌倉 表 8 含めなかった内容
関連した語彙としてまとめられる項目は同じカテゴリーに置いた。また、
候補に挙がったもののカテゴリーに含めなかった内容については、私の目
標としている“文化や習慣を学び、自己発信する”という点と離れている
と考えたためである。マンガ、アニメ、秋葉原、ファッションというテー
マに関してはサブカルチャーとして世界的にとても有名になりつつある
語彙であり、近年の日本の文化といえるが、言語の背景となるような日本
文化とは多少のずれがある。また、鎌倉、京都、大阪、北海道、沖縄とい
うテーマについては、日本古来の文化の残る地域であり、観光地としても
多くの外国人が訪れる地域ではあるが、その内容は市販のガイドブックに
十分に表記されており、本教材の目的とは異なる。以上の理由から、テー
マからは除外した。
32
以下図 15 に「お祭り」のカテゴリー群ページを例示する。左側サイド
バーの内容「日本食」
「文化」
「お祭り」
「宗教」
「伝統」が全カテゴリーを
示している。カテゴリー群の下には、現在表示しているカテゴリーに内包
されているテーマ群を表示している。このカテゴリー群・テーマ群は常に
追加・拡大できる成長型データベースシステムとなっている。
図 15 『D⇔J』カテゴリーページ(お祭り)
③テーマページ
図 16 は「お盆」のテーマページを示している。「故郷に帰る」という太
字の単語にカーソルを合わせると、そのアウトプット語彙としてドイツ語の動
詞「zurückkehren」が Hovercard の効果によってポップアップ形式で表示され、
hovercard 内の再生ボタンを押すことで音声を聞くこともできる。このように、
画像データ、テキストデータそして音声データを連動させることにより、学習
者がより多様な学習要素を得ることができる学習環境となっている。
33
図 16 『D⇔J』テーマページ(お盆)
5.3.3 使用方法
以下に使用方法を示す。
①トップページで、学習したい内容のカテゴリーの写真をクリックする。
まず、トップページの写真にカーソルを合わせると図 17 から図 18 の
ようにカラーバランスが変化する。そして、この振り袖の写真をクリック
すると“お祭り”のテーマ群ページ(図 19)にとぶ。 図 17 トップページ 図 18 写真にカーソルを合わせた 34
②テーマ群の中から、さらに学習した
いテーマを選択する。 図 19 のようにテーマ群ページが表
示されたら、学習したいテーマをクリ
ックする。 図 19 お祭りテーマ群ページ ③テーマページの内容を読み、太字になっている単語にカーソルを合わせ
るとドイツ語訳が表示される。 各テーマページには太字の単語や表現が含まれており(図 20)、それら
にカーソルを合わせると、hovercard の効果でアウトプット語彙としてド
イツ語が表示される。(図 21)
図 21 太字にカーソルを合わせた 図 20 お盆テーマページ 35
6.実証実験
本教材システム『D⇔J』の運用を踏まえて実証実験を行った。
6.1 被験者
本実証実験において、SFC のドイツ語学習者を 14 名集めた。以下表 9
に被験者一覧を示す。
被験者名
性別 ドイツ語履修暦
海外滞在暦 A 女 B 男 C 男
G1,G2,G3,G4
D 男
G1,G2,G3,G4
E 男
G1,G2,G3,G4
F 女
G1,G2,G3,G4,G5
G 女
G1,G2
H 男
G1,G2,G3,G4,G5
I 男
J 女
B1,B2,G2,G3,G4
オーストラリア(13〜17 歳の 5 年間)
K 女
G5
ドイツ(大学 2 年時に 1 ヶ月)
L 女
大学 4 年間
M 女
G1,G2,G3,G4,G5
N 女
G2,G3,G4,G5
カナダ(高校2年時に 1 ヶ月)
G1,G2,G3
イギリス(大学2年時に 1 ヶ月)
G1,G2,G3,G5,
ドイツ(大学 3〜4 年時の 10 ヶ月)
ドイツ語講義科目
イギリス(大学 3 年時に 6 週間)
ドイツ(大学 3 年時に 1 ヶ月)
アメリカ(高校 1〜2年時に 1 年間)
ドイツ(大学 2〜3 年時に 1 年間)
ドイツ(大学 2〜3 年時に 1 年間)
G1,G2,G3,G5,
ドイツ(大学 3 年時に 1 ヶ月)
ドイツ語講義科目
ドイツ(大学 2 年時に 1 ヶ月)
ドイツ(大学1年時に 1 ヶ月、
大学 2 年時に 1 年間)
表 9 被験者一覧
36
表 8 のドイツ語履修歴において G とはインテンシブのクラス名を、B
はベーシックのクラス名を表している。
6.2 実験の仕様
被験者に対して事前・事後アンケートを収集した。アンケートの作成に
は Google Drive のフォーマット機能を利用した。事前・事後アンケート
の調査項目に関しては付録に添付する。
被験者には、時間や使用頻度は指定せず、利用できる時間に、気になっ
た内容を学習してもらうこととし、自由度の高い環境で実験を行った。被
験者の本教材の使用期間は約 7~13 日間となっている。
6.2.1 事前アンケート
事前アンケートの内容について以下表 10 に示す。詳しくは付録に添付
する。
番号
質問内容
回答形式
1 ログイン名
記述式
2
ドイツ語学習歴
チェックボックス
3
海外滞在経験
記述式
4
滞在中に日本について話す機会の有無
ラジオボタン
5
話した内容について
チェックボックス
6
具体的にどのような内容を話したか
記述式
7
d-mode を知っているか
ラジオボタン
8
いつ使用したか 記述式
9
本教材に期待する効果は何か
記述式
10
日本文化や習慣に対する興味・関心度合
スケール評価
37
11 日本文化や習慣に対する知識の度合 スケール評価 12 詳しく知りたいと思う日本文化や習慣は 記述式 表 10 事前アンケート質問内容
本 Web 教材によって期待される効果として、日本文化や習慣を正しく
学び、自己発信する能力をつけることができると考えているため、質問
10、質問 11、質問 12 の項目をつけ、事前・事後でどのような変化が見ら
れるかを計る。また、海外滞在経験のある被験者に対しては、質問 4、質
問 5、質問 6 を通して、実際に日本についてどのような内容が話題に上が
ったのかを調査した。
6.2.2 事後アンケート
事後アンケートの内容について以下表 11 に示す。詳しい内容について
は付録に添付する。
番号
質問内容
回答形式
1 ログイン名
記述式
2
使用頻度 ラジオボタン
3
テーマごとの文章量
スケール評価
4
印象的だった内容
記述式
5
継続して使用したいか
スケール評価
6
日本文化や習慣に対する興味・関心度合
スケール評価
7
日本文化や習慣に対する知識の度合 スケール評価 8
詳しく知りたいと思う日本文化や習慣は 記述式
9
サイト全体の見やすさ
スケール評価
10
追加してほしいコンテンツ
記述式
11 留学前に使用したいか ラジオボタン 12 その理由 記述式 13 本教材はどのような場面で役立つと思うか 記述式 14 期待していた効果は得られたか 記述式 38
15 ご意見・ご質問など 記述式 表 11 事後アンケート質問内容
本 web 教材を使用したことによって得られた学習効果を質問 6、質問 7、
質問 8、質問 11、質問 12 で調査し、本教材のインターフェースそのもの
の評価を質問 3、質問 4、質問 9、質問 10 を通して調査した。
6.3 実験結果
6.3.1 事前アンケート結果
事前アンケート回答者は計 14 名。14 名のうち海外滞在経験がない被験
者は C,D,L の 3 名、ドイツ以外の国の滞在経験がある被験者は A,E,J の 3
名、ドイツへの短期留学経験のある被験者は F,I,K,M の 4 名、ドイツへの
長期留学経験のある被験者は B,G,H,N の 4 名である。
また、質問 6 の海外滞在中に日本について話した内容の中に“文化や伝
統”があった被験者は A,B,E,F,G,H,I,J,K,M,N の 11 名で、海外滞在経験の
ある被験者全員が話す機会があったと回答している。既存教材ではあまり
扱われていない“文化や伝統”の範囲ではあるが、実際には海外滞在中に
この内容を自己発信する機会が多いことが明らかになった。つまり、本
Web 教材を留学前に使用しておくことは学習者が文化接触場面において
遭遇すると考えられる“日本について自己発信する”機会に対して事前準
備段階で学習できるため、有効に働くと考えられる。
質問 10、質問 11 についてそれぞれのスケール評価の結果を表 12 に示
す。
39
被験者名
ドイツ留学 その他滞在経験 質問 10
質問 11
C
9
4
D
10
7
9
2
カナダ、イギリス 7
5
E
イギリス 6
3
J
オーストラリア 9
5
L
A
F
短期 4
3
I
短期 9
6
K
短期 6
4
M
短期 9
4
B
長期 イギリス 10
6
G
長期 アメリカ 10
6
H
長期 6
3
N
長期 8
6
全体平均
8.0 4.57 表 12 事前アンケート結果(抜粋)
事前アンケートから見られることは、海外滞在経験が長いほど日本に対
する興味も知識も評価が高くなるのではないか、ということだ。特に大学
入学以前に海外滞在経験がある被験者 G,J は全体平均よりも質問 10、11
共に高い評価をつけていることがわかる。また、2 カ国以上の滞在経験を
持つ被験者 B,G も評価が高いことがわかる。また、留学経験のあるもの
の中で比較すると、期間が長い G,J,N が2つの質問に対して評価が高い。
より多くの文化接触経験によって文化の違いを肌で感じ、さらに興味が喚
起されるのではないだろうか。
また、多くの学習者は日本文化や習慣に対して興味や関心は高いものの、
知識の度合は低いと認識している。質問 9 の「本教材に期待することは」
という記述式質問に対して、
“自分が知っていると思っていた「日本」を、
本当の意味で理解できるようになる。(知ったかぶりなことがあるため)”
“実際、伝えられるほど知らなかった日本の伝統を知ることができるドイ
40
ツ語を楽しく学ぶことができる”という意見が得られた。つまり、本 Web
教材を通して、高い興味や関心を示しているこの分野への知識を得られる
ことを期待できると感じているようだ。 6.3.2 事後アンケート結果
事前アンケート回答者のうち、事後アンケートの回答者は計 11 名。未
回答の A,H の 2 名は、本 Web 教材にアクセスができないという不具合が
生じていたためである。後にその原因を記す。
被験者名
質問 6
質問 7
B
10
5
C
10
3
D
8
8
G
10
6
H
4
4
I
7
6
J
9
5
K
7
4
L
8
5
M
8
4
N
8
7
8.09
5.18
全体平均
表 13 事後アンケート結果(抜粋)
全体平均としては、興味関心度合も認知度合もどちらも評価が上がって
いる。しかし、個人個人の変化を見てみると、期待していたほどの効果は
見られなかった。
41
本 Web 教材で扱っている内容はそれほど多くはないが、その中にも各
学習者にとって知らなかった内容やあまり意識していなかった内容も含
まれていたようだ。
また、質問 11 の留学前に使用したいと思うか、という問に対しては 6
名がはい、と回答しており、まず日本語で理解してから発話に活かせる、
留学時に説明できなくて苦労した内容が載っていた、など留学前の準備段
階の支援教材として有用であると感じる学習者が多く、本教材への期待が
多く見られた。一方で 2 名はいいえ、と回答している。その理由としては
辞書や Google 検索の方が多くの情報が載っている、机上の勉強と話す内
容は違う、といった意見だった。
6.3.3 Web 教材の不具合について
実証実験を通して、本教材にアクセスできないという不具合があること
が判明した。Windows の InternetExplorer で本教材にアクセスすると図
22 のような画面が表示される。
図 22 不具合が表示されたページ
この原因を探ると、プログラミングに問題があることがわかった。一部
を図 23 に示す。このプログラムは、スマートフォンからアクセスすると
42
スマートフォン専用ページにとぶ、という指示であるが、Windows の
InternetExplorer でアクセスした場合のみ、この指示が邪魔をしていたよ
うだ。
図 23 トップページプログラミング(一部)
よって、図 23 のプログラムを削除することでこの不具合は解決した。
43
6.3.4 考察
インターフェースの評価について、事後アンケートの質問 3 における文
章量の 5 段階評価は平均 2.64 となり、やや少なめだという評価だった。
今後テーマごとの内容充実も検討する必要があると思われる。また、サイ
ト全体の見やすさについての 5 段階評価は平均 4.2 となった。しかし、画
像が小さいので拡大できる機能が欲しい、トップページがどこに飛ぶのか
わかりにくい、などという意見もあったため、再検討が必要だろう。
「留学には、教室で起こる言語学習と社会で起こる言語学習(Noels, K.A.
2003)をつなげる働きがある。」(田中、2012)と述べられているように、
留学の経験そのものによって語学習得度合に変化が見られることは示さ
れているが、本実証実験を通して、留学の経験の有無、そしてその期間の
長さによって、日本の文化や習慣に対する興味・関心にも変化が生まれる
と想定できる。
また、“日本の文化や習慣”という今まであまり注目されて来なかった
カテゴリーに焦点をあてることで、学習者に新たな気付きを与え、ドイツ
語で伝えることを想定して学びを促進することができたのではないかと
考える。
本 Web 教材の使用によって、日本文化や習慣に対する興味関心度合に
はあまり変化が見られなかったものの、事後アンケートの記述式質問にお
いて“日本の文化についてすこし詳しくなること、それをドイツ語で簡単
に説明できるようになることの二つが可能になったと思います。”や“改
めて、日本の文化を知るという意味では期待した効果が得られたと思う。
しかし、もう少し多くの単語のドイツ語訳をつけてもらえるとドイツ語の
勉強ができ、さらにドイツ人に「説明する」ということができるようにな
ると思う。”など教材の効果を期待できる意見が見られた。
44
しかし、一方で“日本文化を説明する時に必要なドイツ語の単語を学習
できることを期待していましたが、中々知りたい単語が載っていないこと
や単語を見ることはあっても『覚える』という段階にいくには難しいと感
じたので効果は実感できませんでした。”や“単語よりもフルセンテンス
で勉強したい”のような意見も見られ、本 Web 教材の改善すべき点も新
たに浮き彫りになった。また、学習したい内容について、サブカルチャー
を取り入れてほしいと言う意見が多く、今後追加を検討するべきかもしれ
ない。
また、「留学経験によって流暢さが身に付くと言われており(Collentine,
2009)、留学前の準備状況により留学中の第2言語技能への自己評価が異
なると考えられる。」(田中、2012)と述べられているように、留学前の準
備段階の重要性は示唆されている。事後アンケートの質問 11 において留
学前に本教材を利用してみたいと答えた学生はとても多く、本教材の有用
性が期待できるだろう。
45
7.今後の展望
7.1 音声データの追加
本 Web 教材において、現在音声データは収録していない。収録した後
のプログラム自体は完成しているため、早急にデータを収集し、学習者が
発音も同時に学べるシステムに仕上げる必要がある。本教材で取り上げて
いる単語の多くは教室内授業でも扱われていないものが多いため、自律学
習を支援するためには音声データを付けて、自己発信の際に使えるように
しなければならないと考えている。
7.2 カテゴリーやテーマの充実
本 Web 教材のカテゴリー群、テーマ群は、今現在必要だと思われる内
容を集めて作成した。そのため、今後日本文化や習慣が世界中で広く知ら
れるようになるにつれて発信するべき内容も刻一刻と変化していくと想
定される。従って、カテゴリーやテーマは追加・削除を繰り返し検討して
いかなければならないだろう。特に「日本食」は 2013 年 12 月にユネス
コ無形文化遺産として認定されたため、今後より一層の内容充実が必要と
なるのではないかと考えている。
7.3 スマートフォンや携帯電話への対応
現在、本 Web 教材はパソコンでの利用を推奨している。スマートフォ
ンでは利用可能だが、画面サイズが小さいため、とても見にくくなってし
まうからだ。より多様な学習環境へ対応させることによって、学習者それ
ぞれの学習スタイルにとけ込んだ教材へと進化させることが可能である
と考えているため、スマートフォン専用サイトの確立が望まれる。
46
7.4 Web に頼らない、学習アプリケーションの開発
本教材は海外研修中の学生にも有効に利用できると考えている。
その際、特にインターネット環境が整っていない場所にいる時に、
異文化交流を計る機会にも簡単に利用できるようにするためには
Web に頼らないスマートフォン等のアプリケーションが利用者にと
って最も使用しやすいのではないだろうか。ダウンロードしてしま
えばいつでもどこでも自由に学習でき、確認作業も簡単にできる、
そのようなアプリケーションが私の理想的な学習教材の形である。
7.5 多言語対応
日本人学習者が他言語を用いてコミュニケーションをする機会はドイ
ツ語に限らず、様々な言語での異文化交流において想定されうる。現在は
ドイツ語のみの対応であるが、英語や中国語など様々な言語での需要もあ
ると考えられるため、言語を追加するごとに利用者の増加が期待できると
考えている。
また、諸外国の日本語学習者にとっても有用な教材になると考えている
ため、多言語対応することでこの教材を通して直接日本文化を知ってもら
う機会を作ることができるかもしれない。
47
8.参考文献・参考 web サイト
【参考文献】
・ 浦晋亮(2012)『英語で発信する日本小辞典 Encyclopedia of Japan』東
京:IBC パブリッシング株式会社
・ 永井千鶴子、野原章雄、加沼毅一、青木美智子、Peter Bachhaus(2009)
『ドイツ人が日本人によく聞く 100 の質問』東京:株式会社三修社
・ 萩野蔵平(Ed.)(2003)『プログレッシブ単語帳 日本語から引く 知って
おきたいドイツ語』東京:株式会社小学館
・ 中埜芳之、Oliver Aumann(2008)『日本文化紹介小和独辞典』東京:朝
日出版社
・ 渥美聡子(2012)『CSS+HTML Web レイアウト 3rd すぐに使えるアー
トワーク』東京:株式会社技術評論社
・ 在間進(Ed.)(2012)『アクセス和独辞典』東京:株式会社三修社
・ 在間進(Ed.)(2012)『アクセス独和辞典』東京:株式会社三修社
・ Noels, K.A.(2003) Learning Spanish as a second language: learners’
orientations and perceptions of thier teachers’ communication style. In Z.
Dörnyei(Ed.), Attitudes, Orientations, and motivations in language
learning(pp.97-136). Malden: Blackwell Publishing
・ 岡田敦美(2013) 「初習外国語としてのスペイン語の授業や教材のあり
方と、社会や文化に関する理解について:学生の要望や教科書の使い方
の分析」Media and Communication Studies, 64:21-37
・ 田中佑美(2012)「異文化理解を目指した動機付け研究の展開」神戸松陰
女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 No.15, 119-130
・ 張慧芬(2013) 「外国語教育における文化元素の導入について-初級レベ
ルの学習者を中心に-」 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所
篇 No.16:117-123
・ Dörnyei, Z. (2001) New themes and approaches in second language
motivation research Annual Review of Applied Linguistics, 21, 43-59
48
【参考 web サイト】
・ ドイツ語研究室 ドイツ語履修概要
http://deutsch.sfc.keio.ac.jp/umriss.html(2013/12/10 参照)
・ d-mode ドイツ語を自分で学べる web サイト
http://dmode.sfc.keio.ac.jp/(2013/12/10 参照)
・ ロゼッタストーン
http://www.rosettastone.co.jp/other_language/german/(2013/12/1 参照)
・ 東京外国語大学言語モジュール
http://www.coelang.tufs.ac.jp/modules/de/index.html(2013/12/10 参照)
・ ドイツ語を学ぼう
http://www.asahi-net.or.jp/~vg5t-ngi/doitsugo/doitsugo-frame.html
(2013/12/10 参照)
・IT 用語辞典 e-Words http://e-words.jp/(2013/12/10 参照)
・ MAMP & MAMP PRO http://www.mamp.info/en/index.html
(2013/12/10 参照)
・ Hovercard http://designwithpc.com/Plugins/Hovercard
(2013/12/10 参照)
・d-mode トップページ http://dmode.sfc.keio.ac.jp/(2013/12/10 参照)
・ Learning Desing Project ホームページ http://ldp.sfc.keio.ac.jp/
(2013/12/10 参照)
49
9.図表一覧
【図】
図 1 ドイツ語履修モデル
図 2 SFC 教室内授業サイクル
図 3 対象言語以外の要素を学びたい理由
図 4 文化や社会に関する情報とは何か
図 5 ロゼッタストーン学習画面
図 6 講師との会話練習画面
図 7 東京外国語大学言語モジュール(ドイツ語)
図 8 ドイツ語を学ぼう(助動詞学習画面)
図 9 ドイツ人が日本人によく聞く 100 の質問
図 10 日本語から引く 知っておきたいドイツ語
図 11 日本文化紹介小辞典
図 12 『D⇔J』トップページ
図 13 d-mode トップページ
図 14 LDP ホームページ
図 15 『D⇔J』カテゴリーページ(お祭り)
図 16 『D⇔J』テーマページ(お盆)
図 17 トップページ
図 18 写真にカーソルを合わせた
図 19 お祭りテーマ群ページ
図 20 お盆テーマページ
図 21 太字にカーソルを合わせた
図 22 不具合が表示されたページ
図 23 トップページプログラミング(一部)
50
【表】
表 1 Modelle に掲載された日本文化や習慣に関する語彙
表 2 テーマ候補一覧
表 3 日本食カテゴリー
表 4 お祭りカテゴリー
表 5 文化カテゴリー
表 6 宗教カテゴリー
表 7 伝統カテゴリー
表 8 含めなかった内容
表 9 被験者一覧
表 10 事前アンケート質問内容
表 11 事後アンケート質問内容
表 12 事前アンケート結果(抜粋)
表 13 事後アンケート結果(抜粋)
51
10. 謝辞
本研究を進めるにあたり、大学 1 年次よりドイツ語科目を通して熱心に
ご指導いただいた藁谷郁美総合政策学部教授に深く感謝申し上げます。ま
た、慶應義塾大学 Marco Raindl 講師にはドイツ語面で、慶應義塾大学湘
南藤沢キャンパス研究所訪問所員松原弘典氏には技術的な側面で多くの
助言をいただきました。ここに感謝の意を表します。
藁谷・ラインデル合同研究会 LDP のみなさまとは、個人個人の様々な
研究を通して、お互いに刺激し合い、協力をしつつ研究を進めることがで
きたことをとても誇りに思います。
また、本研究における実証実験に協力してくださったみなさまも、お忙
しい中お時間を取っていただき、とても貴重な意見をくださったこと心よ
り感謝致します。
最後に、私を一番近くで支え、導き、時には厳しい態度で示してくれた
両親、祖父母に感謝し、謝辞とさせていただきます。
2014 年 1 月 20 日
慶應義塾大学 総合政策学部 総合政策学科 4 年
花野沙也香
52
付録
付録 1 事前アンケート
53
54
付録2 事後アンケート
55
56
57
58
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