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レアアース(希土類)資源:その実態と将来
レアアース(希土類)資源:その実態と将来 浦辺徹郎 はじめに: 2011 年上半期にレアアース(希土類;REE) 資源の価格が急騰した。これは 現在輸出の 97%程度を占めている中国が事実上の禁輸措置 1 を取ったことと、 投機的な動きが重なっていることに起因している。最近、Kato et al.(2011) は深海底の重金属泥堆積物中に弱酸で溶脱可能な REE が含まれていることを 発表し、新聞上で大きく取りあげられた。新聞報道によると、推定埋蔵量は これまで知られている陸地の埋蔵量約 1 億 1 千万トンの 800 倍の 900 億トン とされる。米国地質調査所の Mineral Commodity Summaries 2011 によると、 REE の陸上埋蔵量はすでに 1000 年分存在するので、単純にかけ合わせると 今後 100 万年間は REE 資源については枯渇の恐れはないことになる。多くの 金属資源の耐用年数(埋蔵量を年間消費量で割った数値)が数十年という危機 的状況にある中で、なぜ過剰とも思われる資源量の REE が問題なのだろう か? 禁輸後の状況: 中国の禁輸を受け、世界各地で REE の生産に向けた動きが加速されている。 米・Molycorp 社は住友金属鉱山からの 130 億円の投資を受け、2010 年 12 月、 北米最大の REE 鉱山であったマウンテンパス再開発にあたり、カリフォルニ ア州漁業狩猟局から河床改変承諾を獲得した。また 2011 年 3 月、双日株式会 社と JOGMEC は、西オーストラリア州マウント・ウェルド鉱山(西川・藤井、 1993)で REE 資源開発を行うライナス社へ総額約 200 億円を出融資し、日本 の消費量の約 3 割にあたる年間約 8,500 トンの REE 製品を日本に長期供給 すると発表した。さらに豊田通商は、ベトナムの国営企業と覚書を締結し、 ハノイ市の西北に位置するドンパオ・REE 鉱山(藤井ほか、2010)を開発し、 2011 年に年間 5,000 トン程度の REE 採掘量を見込んでいる。このほか、住 ‐16‐ 友商事が手がけるカザフスタンでの鉱床残渣からの回収、アメリカ、カナダ、 オーストラリア、南アフリカ、グリーンランドなどにおける REE 探鉱および 採鉱が 2010 年に活発化している。これらの動きは、5-30 倍もの REE 価格の 高騰が引き金となり、これまで中国の長年の安値攻勢に対抗できなかった他 の国のプロジェクトが動き出したものである。 国の役割と取り組み: 言うまでもなく資源の開発・利用はもっぱら経済活動としてなされる。つま り利益を生まないかリスクが大きすぎる事業は着手されることがないので、 そもそも経済規模が小さく、かつ価格変動が大きく、代替品の開発が予想さ れる REE のような鉱物資源は開発が敬遠されてきた。特に非鉄金属メジャー と呼ばれるような欧米の大資本にとって、このような経済的特質を有する REE やレアメタルはビジネスの対象とならない。中国が REE、タングステ ン、インジウムなど多くのレアメタルで資源量/輸出量が1位を占めている 理由もここにあって、1970 年代に資本主義経済の原則を無視して、国内の草 の根探鉱を実施してきた成果が現れているのである。 つまり、レアメタルはマーケットにすべてを任せるのではなく、価格の高 騰や供給障害が起こらないように国として目を配っておくべき資源という特 質を有している。我が国はハイテク技術の先進国として、そのような目配り が必要なレアメタルを多く抱えており、中国のような方式は無理にしても、 国が戦略を以て事に当たる必要があるのである。もちろん国はこのような事 態に指をくわえてみていたわけではない。特に資源エネルギー庁および独立 行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を中心に、いくつもの施 策を実施してきたことは指摘する必要があるだろう(浦辺、2007 など)。資源 エネルギー庁では、2001 年以来数度の総合資源エネルギー調査会鉱業分科会 への諮問を行い、レアメタル鉱物資源需給の動向について資源確保、備蓄、 リサイクル等の方向性を議論してきた(経済産業省、2009 など)。また、 JOGMEC はそれらの施策を実現させるべく具体的な活動を行っている。上記の ‐16‐ REE 鉱山開発もこれらの事前準備が実ったものである。鉱山開発は着手から 生産開始まで少なくとも 10 年以上の年月がかかるため、一時的な供給量の低 下が継続しているという現状がある。一方で、日・米・欧では、REE の供給 国から中国を閉め出す動きも見せている(The Rare Earth Monthly, Sept., 2011)。これらの努力が実を結び、REE に関する供給源の多様化が実現する日 を一刻も早く期待したい。また、ほかのレアメタルに関しても、同様の目配 りが必要であることも指摘しておきたい。 陸 上 の REE 鉱 床 : 話を元に戻そう。La から Lu までの 15 種類の REE の合計大陸地殻存在度は 約 87 ppm であるが、アルカリ花こう岩などでそれが平均 10 倍近く濃集してい る岩体は数多く知られている。過アルカリ火成岩ないしアルカリ火成岩マグ マでは結晶分化作用の過程で REE の濃集が見られるケースが多く、多くの有 力な鉱床は何らかの形でそれらをベースに、さらにもう一段の REE 濃集のメ カニズムにより生成したものが多い。それらは以下の6つに分類される(石 原・村上、2005, 2006)。 (1) アルカリ火成活動により生成したアルカリ岩そのものに、通常の変化 の幅を超えて REE 鉱物が濃集している火成鉱床、 (2) 過アルカリ火成活動に伴われることが多いカーボナタイト(火成起源の 炭酸塩岩)中、およびその周辺に産するカーボナタイト鉱床、 (3) アルカリ岩そのものに熱水変質作用が重なって、REE が更に濃集した 熱水性鉱床、 (4)アルカリ花こう岩やカーボナタイトが風化してできる風化殻中に、風化 に強い REE 鉱物が濃集した風化残留型鉱床、 (5) 必ずしもアルカリ花こう岩に限らないが、REE を含む花こう岩の風化 殻中に、カオリンなどの粘土鉱物の表面に REE が吸着されて濃周したイ オン吸着型鉱床、 (6)上記のいずれかが風化・浸食され、比重の大きな REE 鉱物が海浜砂中に ‐16‐ 砂鉱として濃集した漂砂鉱床。 石原・村上(2005, 2006)はこれら各種の REE 鉱床について、詳しく記載しま とめている。くわしくはそれを見て頂くとして、ここでは簡単に上記の鉱床 タイプを見ていこう(第 1 図)。 (1)のタイプの鉱床は、低品位であっても鉱量が大きくなることが多いの で、将来有望な資源となる可能性がある。しかし、現在最も重要なタイプの REE 資源は何といっても(2)のカーボナタイト鉱床である(渡辺、2010)。世界 最大(埋蔵鉱量 8,000 万トン、品位 6.0%)の REE 鉱床である中国内モンゴルの バイユンオボ(バヤンオボー)は、カーボナタイト鉱床の特徴を多く備えてい る(金沢ほか、2000、石原・村上、2006)が、カーボナタイトの貫入年代(12 億年)と鉱化年代(4-6 億年)の相違から、後の熱水活動により移動濃集した熱 水性鉄酸化物鉱床とする説がとなえられている(渡辺、2010)。REE は炭酸塩 であるバストネサイト(Ce, La)CO3F を主とする鉱物に含まれ、軽希土類元素 (LREE)に富むという特徴がある。また、これに次ぐ鉱量を持つアメリカのマ ウンテンパス鉱床や中国のマオニューピン鉱床もこのタイプである。さらに、 鉱山開発が進んでいるオーストラリアのマウント・ウェルドはこのカーボナ タイトが風化残留した(4)のタイプの鉱床であると考えられる。(3)のタイプに 属する主要な鉱床としてはカナダのトアレイクがある(石原・渡辺、2007)。 これらの鉱床と全く異なった成因を持ち、必ずしもアルカリ火成作用と関 係を持たないのが(5)のイオン吸着型鉱床で(石原・村上、2005)、不足がちな 重希土類(HREE)に富むという有力な特徴がある。(4)も(5)も REE に富む花こ う岩などの風化に伴って生成した鉱床で、当然のことながら風化殻中に存在 するが、前者が花こう岩中の鉱物の風化に伴う容量減により風化に強い REE 鉱物の存在比が増すのに対し、後者では REE はいったん溶解して、再度カオ リンなどの粘土鉱物に吸着すると考えられている(Wu et al., 1990 )。 鉱床と呼びうる岩体は REE が高度に濃集しているか、濃集の程度は低くて も回収が安価に行えるかのいずれかである。前者の例がカーボナタイト鉱床 で、後者の例がイオン吸着型鉱床といえる。イオン吸着型鉱床は硫酸アンモ ‐16‐ ニウム(硫安)などの弱酸溶液で REE が効率よくかつ簡単に抽出できることか ら、地殻存在度の数倍しか濃集していない風化殻からも生産が行われている。 なお、産総研や大学の研究者が、このようなタイプの鉱床を求めて東南アジ アの各地を調査し、いくつかの有望な地域を確認した(たとえば Mentani, 2010)が、開発には到っていない。 インドは中国に次ぐ REE の産出国であるが、その資源のほとんどは(6)の海 浜砂中の漂砂鉱床である。これはリン酸塩であるモナザイト(Ce,La)PO4 やゼ ノタイム YPO4 などの風化に強く、比重の高い鉱物を回収するもので、前者は LREE に富み、後者は HREE に富むという特徴を有している。モナザイトに含ま れる放射性物質であるトリウムの処理が難しく、トリウムを回収しているイ ンド以外、現在ではほとんど開発が行われていない。このほか数多くのリン 酸塩、ケイ酸塩、酸化物などが知られているが、ほとんどの REE が上記バス トネサイト、モナザイト、ゼノタイム、およびイオン吸着型鉱から採取され ている。それらの鉱床の記載は、渡辺(2010)に詳しいので、参照願いたい。 REE 濃 集 の メ カ ニ ズ ム : 以上の簡単な記載から、REE 元素の一般的な化学的濃集メカニズムとして、 以下の 5 つが上げられるだろう。 (1)アルカリないし過アルカリ火成活動において、Cs, Rb も含めたアルカリ元 素およびその他の不適合元素などとともにマグマ中に濃集する(逆に言えば、 それ以外のマグマ活動では有効な濃集が起こらない)。これはマントルの低い 部分溶融によりアルカリ岩マグマが発生するというメカニズムによるのであ ろう。 (2)カーボナタイト・マグマの生成。カーボナタイトはアルカリないし過アル カリ岩と共生することが多く、それらのマグマから不混和を起こして分離す ると考えられてきた。しかし Chakhmouradian (2006)はロシアのコラ半島のカ ーボナタイト群の HFSE 元素の含有量を詳しく検討し、そのような可能性を否 定し、カーボナタイトは HFSE 元素の付加を受けたマントルの非常に低い部分 ‐16‐ 溶融によって発生するというメカニズムを提唱した。いずれにせよ、REE の マントル条件下での濃集は、低い部分溶融による濃集と考えて良いだろう。 (3)マグマ活動に伴う熱水活動により、さらに REE が濃集する。逆にこのよう な活動が起こっていないアルカリないし過アルカリ岩は、REE 濃度が低すぎ て採鉱の対象にならない例が多い。Salvi et al. (2000) はカーボナタイト中 の流体包有物の分析、およびその中の娘鉱物の分析から、REE, Zr, Ti, およ び Nb などの HFSE 不適合元素が 300℃前後の高塩濃度の流体によって運搬さ れた証拠を明らかにしている。彼らは熱力学的検討から、OH-F 錯体によって HFSE が運ばれ得ることを指摘している。 (4)花こう岩の風化とそれに伴うイオン吸着作用については、そのメカニズム がよく分かっていない。実際、風化殻中の粘土鉱物について、交換態陽イオ ンのサイトを持つモンモリロナイト帯では REE の濃集が起こっていないか、 あっても限られているのに対し、そのようなサイトを持たないカオリンが卓 越するゾーンや、岩石の組織が残っている風化殻のベースの部分に REE がト ラップされている例が多く、詳しい吸着のメカニズムは不明である。 (5)鉄水酸化物への吸着。これは以下に述べる深海底の重金属泥やマンガン・ クラスト中への REE の濃集メカニズムを説明するものである。これは高温海 底熱水活動に伴う熱水プルーム中で、Fe(II)が急激に酸化され、Fe(III)水酸 化物の懸濁微粒子となる際に、海水中に溶存していた P, As, REE などの高い 電荷数のイオンを吸着除去するメカニズムである(Feely et al., 1996, Urabe et al., 1995)。このプロセスは熱水噴出直後から起こり、少なくとも 1 日以 内にほとんどの高い電荷数のイオンが活性化された Fe-oxyhydroxide に吸着 されることが分かっている。 一方で、通常の熱水変質では REE の移動はあまり起こらないことが知られ ている。海底熱水溶液中のコンドライト規格化 REE パターンは、LREE に富ん で大きな正の Eu 異常を示し、MORB 中の斜長石のそれに類似していることから、 熱水の REE パターンは長石と海水との反応により規制されていると考えられ てきた。しかし Allen and Seyfried (2005)は、斜長石を含まない超塩基性岩 ‐16‐ (米国地質調査所の PCC-1 地質標準試料)と水溶液との反応でも同じパターン が見られることを明らかにし、REE が熱水条件下では特定の鉱物と反応する というより、熱水そのものの物理化学的条件に規制されて挙動すると指摘し た。 深 海 底 の REE 鉱 床 最近注目を浴びているのが、深海底の REE 鉱床のポテンシャルである。こ れらはいずれも採鉱・開発に至っていないが、将来の資源枯渇に向けて、実 態解明と採鉱技術の開発を進めておく必要がある。 最も有望なのはコバルトリッチ・マンガン・クラスト(以下クラスト)およ びマンガン団塊である。これらは平均 1,500 ppm 程度の Total REE を含み、し かも HREE に比較的富んでいるので、将来の有望な資源といえる。採鉱・製錬 コストを無視して、クラスト1トンあたりの総金属価格を合計すると約 10 万 円程度となるが、そのうち REE が占める価格の割合は数%に過ぎない。上に 述べた、Kato et al.(2011)による深海底の重金属泥堆積物中の REE 資源は、 ほぼクラストと同濃度の REE のみしか含まれない上、製錬・抽出コストに大 きな差がないことから、採算性の点から資源とするには道が遠いようであ る。 マ ン ガ ン ク ラ ス ト 中 の REE クラストは、海山や海台などの露岩域を 1-20 cm の厚さで、数十km 以上に亘り 覆う現世の海洋にのみに特有な低品位巨大鉱床であり、新生代以降の海洋環境を 反映していると考えられる。これらクラストは、ROVなどを用いてシステマティックにサ ンプリングされた例がこれまで無かった。そこで、我々は 2010 年にハイパードルフィ ンを用いて、拓洋第 5 海山の水深 3,000m∼950 m (山頂)まで、8 回の潜航により 詳しい観察と系統的なサンプリングを行い、113 個、合計 700 kgに達するマンガンク ラストおよび基盤岩の試料を採取した。 ‐16‐ 拓洋第 5 海山は 5,900 mの深海底から 5,000 mの比高を持ち、1,100m付近に 広い山頂(2,000km2)を持つ平頂海山である。日本の排他的経済水域(EEZ)内に あり、小笠原海台に次ぐ大きさを持っている。直接年代測定はなされていな いが、周辺の海山群は 8,000-5,000 万年前に生成したホットスポット型火山 である。玄武岩およびそれの崩壊した礫岩、サンゴ礁が圧密を受けてできた 石灰岩よりなる。ここはマンガンクラストの発達が良いことが知られてい た。 得丸ほか(2011)はここのクラスト中のマンガン・鉄比が、数十万年および 数百万年の周期で変動していることを示し、それが海洋環境の変動を示すも のであることを示唆している。ここのクラストは 1,500-2,000 ppm 程度の REE を含み、しかも HREE に富んでいるが、そのパターンは深度方向により変化し ない(第 2 図)。 結論 この小論では、陸上・海底の REE 鉱床およびその濃集現象についてレビュー した。REE 元素はレアメタルの中では存在量が多く、資源的には枯渇の心配 はない。しかし、現在短期的には中国の禁輸措置等により価格が高騰してい る。インコンパチブル元素である REE は、アルカリ岩マグマの結晶分化作用 に伴って最末期に濃集することが多く、それと密接な成因的関係を有するカ ーボナタイトにも多く含まれる。一方で、熱水活動では移動・濃集が起こらず、 熱水性鉱床の分布はアルカリ岩周辺に限定されている。さらに水溶液の形で は溶脱されにくい性質故に、風化残留型やイオン吸着型として、花こう岩、 カーボナタイトなどの風化殻中に見られることがある。なお、海底熱水活動 の熱水プルーム中で鉄の水酸化物に吸着されるほか、マンガン酸化物の表面 にゆっくり吸着されることが知られている。これらの事実が明らかになるに つれ、マンガンクラストなどの海底鉱物資源に注目が集まっている。 引用文献 ‐16‐ Allen, D.E., and W. 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