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会報9号 (PDF:310KB)

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会報9号 (PDF:310KB)
信州護憲ネット
守ろう平和憲法
◆憲法9条の改悪に反対しよう
2005 年
3月
NO.9
信州ネットワーク
◆憲法を暮らしに活かし広げ
未来を拓こう
〒380-8545 長野県町532−3 県労働会館3階
電 話 026−234−2116 FAX 026−234−0641
E-mail:[email protected] URL:http://www.ne.jp/asahi/heiwa/kenpou/
平和憲法の価値を改めて考える
-イラク派兵と改憲動向に抗して-
信州護憲ネット公開講座
愛敬浩二さん講演録
信州護憲ネットは2004年11月3日、塩尻市内で「第8回市民の憲法講座」を開き
ました。講演は、名古屋大学助教授の愛敬浩二さん(信州護憲ネット代表委員)。イラク派
兵の問題と近頃の改憲動向について、わかりやすいお話しをいただきました。その講演録
を会員の皆さんにお届けします。
香田証生さんの事件から考える
きょうは改憲問題もありますので、イラク問題
だけよりも憲法の問題を中心にお話をしたいとい
うご依頼で。
そういうご依頼でもありましたが、冒頭やはり
香田証生さんの事件についてちょっと考えてみる
必要があると思うんです。香田さんの事件に関し
てはいろいろな言い方があると思うんです。今ど
きあれだけ危険なイラクに 100 ドルしか持たなく
て行こうと思った。その無謀さは何だという非難
はありえるだろうと僕は思うんです。それよりも
皆さん、ちょっと注目しませんでしたか?香田さ
んがまずホテルを借りようと思ったら、どこも泊
まれなかったということです。要するに、イラク
というのは、外国人がいられない状況になってい
るということです。アラブ系ではない人がバグダ
ッドをうろついているとホテルは泊めたがらない。
外国人が泊まっているということが明らかになる
と、何らかの攻撃を受ける可能性がある。
(僕はテ
ロという言い方は嫌いですが)テロを受けるかも
しれないという可能性があるからです。
それから、僕は新聞を一生懸命読んでいて、あ
る種衝撃的だったのが、香田さんがバスに乗って
いることが分かって、周りの客が騒然としたとい
う話をお読みになったでしょうか?それで、みん
1
愛
敬
浩
二
さん
なで隠したというんです。香田さんがバスに乗っ
ているということが分かってしまうと、例えばそ
こにミサイル攻撃受けてしまうかもしれないとい
うことがありますから、まず窓から顔は見せるな
という形で隠したということが載っていましたし、
さらに検問の所ではとにかくお客さんたちがみん
なで香田さんを囲んで何とか通ろうとした。一人
ひとりになりなさいと言われても何とかみんなで
囲んで通ろうとした。それから、バスが出るのも
普段は夜出るところを朝まで待って出たそうです。
ある危険な地域を通るみたいですけど、そこを通
るときに、ヨルダンからイラクに入って、普通は
夜通るそうです。夜通って朝着けば便利なんでし
ょう。そのへん僕はよく知りませんが、朝まで待
ったというわけです。だから、そこまでして外国
人である香田さんを助けようとしたイラクの方々
がいたということも僕は重要だと思うんです。半
面、誰がそういう国にしたかです。外国人が歩い
ていたら殺されても仕方がない。それからバスに
乗っていて外国人がたまたま乗ると巻き添えされ
るかもしれないという恐怖を、自国民が持ってし
まう。イラクの中でバスに乗っている方々が。そ
ういう状態にしてしまったのは誰なのかというこ
とを、やっぱり考えなければいけないと思います。
朝日新聞でも、結局今回テロリストに脅かされ
て、それで自衛隊を撤退させるのはできないだろ
うという言い方するんです。でも、あの状態にな
ってしまったのはなぜかという問題を抜きにして、
この議論をするのは僕はすごくおかしいと思って
いて、実際に多くの国々が期限が来たら撤退する
という方向に動き始めてきています。あれは本当
にババ抜きと同じで、いつ抜けるかという状態に
なってしまっている。これは、イラクに住んでい
る人の状況を考えれば、僕はひどいことだと思い
ます。確かにあの状況にしてしまって、それで抜
けるというのはそれはひどい。またアフガニスタ
ンをもう一個つくるのかという話になってしまう
かもしれない。
テロを呼び込んだイラク戦争
けれども、やっぱり僕、香田さんの事件に関し
てもっと語るべき事柄というのは、そもそもなぜ
あの状態が起きてしまったのか?これは皆さんも
ご承知のとおり、イラク戦争は何の大義もなかっ
たです。これは僕、すごいことだと思うんです。
まず、テロリストとの関係ということを言いまし
た。すなわち、アルカイーダとの関係、これは一
切出てきていません。恐るべきことに、もともと
フセインという人は、ご存じだと思いますが、シ
ーア派をいじめたりとか、もともと脱宗教的な極
めて世俗的な統治者なわけです。といいますのは、
これは歴史詳しい方は分かると思いますが、宗教
的権威というのは世俗的権威と対立する可能性が
あるわけです。イランでいうとホメイニさんと、
偉くなってしまえば当然パーレビ国王という人の
権威との関係で、国王の権威が落ちていってしま
うかもしれない。要するに、世俗的な権力者と宗
教的な権力者の関係は微妙な問題なわけです。フ
セインさんという人はとにかく宗教的権威をつぶ
し続けた人ですから。だって、イランとも戦争し
ています。というわけですから、もともと仲悪い
んです。アルカイーダとかいうイスラム原理主義
2
……嫌な言葉ですが、そういう方々とはすごく仲
が悪くて、専門家に言わせればフセインとビンラ
ディンが結託するのは有りえないという評価でし
た。戦前は。
ところがご存じでしょうか?結局フセイン政権
をボコボコにつぶして外国人憎悪をあおったまま、
治安を回復できなくしているために、今イラクに
どんどんイスラム原理主義者的な外国人が入って
いっているんです。で、そのどんどん入っていっ
ている外国人とアメリカ軍が戦闘したりすると、
結果一般市民が殺傷されるということが起きてい
るという状況になっているわけです。ということ
を考えますと、そもそもアルカイーダとの関係で
イラクと戦争するんだと理屈通っていましたが、
イラクと戦争したから、アルカイーダとかそうい
うイスラム原理主義者系のテロリスト組織がイラ
クの中に入っていって、その人たちをまたつぶす
ためにいつまでも戦闘を繰り返すから、イラク市
民がいつ戦争が終わったのか分からないまま攻撃
され続けているという状況があるわけです。これ
結局、戦争しなければ起きなかった。もちろんフ
セイン政権みたいのが存続していていいかという
問題はあると思います。秘密警察使ってさまざま
な情報を握って、それで支配していく国があって
いいとは思いません。要するに、これは僕、戦前
の日本を言っています。北朝鮮ではなくて。戦前
日本みたいな社会を僕は好ましいとは思いません
から、そういう個人の情報とかを握って抑圧的に
やっていく体制はいいとは思いません。いいとは
思わないけれども、戦前日本のような社会がある
からといって、それを外国がとにかくたたきつぶ
してその後結局騒乱状態のままにしておく、こん
なこと許されるはずないわけです。
まず一点、テロとの関係というのは全然論証さ
れていないし、戦争した結果テロとの関係が明解
になってきてしまった。要するに、テロを呼び込
んだのは誰かということだと思います。さらに大
きな問題と考えるのは、テロとの戦争とか言いま
すけど、ご承知のとおり、捕虜虐待ということも
してしまいました。確かに、僕たちは首を切られ
て殺される人の存在を見たらそれはショッキング
です。僕は見たくないから絶対見ません。けれど
も、同時にアメリカ軍の虐待というのは、イスラ
ム教徒からしたら絶対してはいけないことをした
わけです。裸にさせるとか。イスラム教徒という
のは、肌を隠す。特に女性とか肌を隠すわけじゃ
ないですか。それから、男女、つまり妻と夫以外
の人同士で肌を見せ合うなんてこともないわけじ
ゃないですか。なのに、アメリカの兵隊さんたち
がそういうことをやってしまったわけです。そう
いうことをやっておきながら、今のイスラム主義
者たちがやっていることは残酷だというのは、な
かなか難しいとこがあります。当然、僕の感覚と
しては残酷です。殺すシーンをホームページ上に
流すなんて、僕は許しがたいと思っています。思
っているんですが、イスラム教徒の側からすれば、
イスラム教を真剣に信じている方からすれば、絶
対に許しがたい行為を既に実はアメリカ側がやっ
ているわけです。捕虜虐待という形で。それも楽
しそうにやってしまったわけです。対等じゃない
ですか、これってもう。同等ですよね。どっちも
どっちという感じです。という状況もつくり上げ
てしまったということは、やっぱり考えておかな
ければいけないと思います。
それから、大量破壊兵器見つかりませんでした。
これは、スコット・リッターさんという人の本が
一般の本屋さんに出ていると思うんですが、あの
方がイラク戦争の前からないと言っていました。
査察にかかわった方からです。彼は共和党支持者
ですから、アメリカでいうとバリバリの保守派で
す。その保守派のスコット・リッターさんという
人だって、イラクにはありませんと言っていたん
です。ところが結局、48 時間以内に攻撃可能な物
があるという情報がどこかで流れて、結局その証
拠が明らかでないままに戦争が始まりました。で、
戦争してしまって一年がたって、ありませんでし
たと認めたんです。パウエルがはっきり認めまし
た。なかったんです。
アフガニスタンはあまり資源ありません。
外国の選挙(アメリカ大統領選)ですからあま
り言っちゃいけないのかもしれませんけど、僕つ
くづく最近、何でこんなに社会は下品になったん
だろうという感じがすごくしています。普通そう
いうことしないよなと、僕は一般市民ですから思
っちゃうんですけど、国家がそういうことをする
状態になってきています。普通しないだろう、そ
ういうことを隣人にしたら人間として恥ずべき事
柄だろうということが普通に行われていってしま
うという感じがすごくします。それなのにもかか
わらず、香田さんのような若者、僕も無謀だと思
いますが、ああいう人に対して自己責任だとか、
何かすごく偉そうな言い草というか、そういうこ
とが行われてきていて、アメリカもそうですが、
日本はこんなに品のない国だったのかという気が
最近すごくしています。おまえに品ないじゃない
かと言われたらそれまでなんですけども、そうい
う思いを強くしています。
というように、少なくともイラクとの戦争に関
して、いかなる大義もないわけです。いかなる大
義もない戦争に、なぜ自衛隊が出かけて行かなけ
ればいけないのか?これ、ほとんど理由ないです。
今の理由というのは、自衛隊が今戻ると、テロの
脅しに屈したことになるから困るというだけの理
「品のない国」になってしまった日米
屈です。としたら、この理屈を取り続ける限り、
すると、戦争の大義は何だったんでしょう?最
これは是非僕は注目すべきだと思うんですけど、
近の新聞の報道とか見ると、僕はここまで人間落
アメリカが駐留続ける限り駐留し続けます。この
ちるかというと変ですけど、ぶっ壊しましたから
理屈通ってしまえば。どこにも日本の政策的判断
その治安を維持するために私たちが残るしかあり
ないです。どこにも政策的判断なくて、この戦争
ませんと言うんです。今の論理というのはそうで
がいいか悪いか、日本にとってどういう利益にな
すよね。今もイラクの治安はボロボロです、イラ
るかならないかということを一切抜きにして、今
クは自分で治安を確保することができません、だ
からアメリカ軍が残りますというわけです。でも、 撤退することはテロに屈することになると言って
いるだけですから、アメリカがイラクに駐留し続
これ嘘があります。アメリカ軍が残るといったっ
ける限り駐留し続けると言っていることになって
て、その費用の部分に関しては何を使おうとして
しまいます。これもやっぱり僕は驚くべき事柄だ
いるかというと、石油使おうとしているわけじゃ
と思っています。という意味で、イラク派兵のこ
ないですか。外国軍が戦争しかけてつぶしておい
て、その治安を確保できないから占領を延長して、 とに関してはいろいろ議論、お話をするべき事柄
だけどその際イラク復興にかかわる権益は握ると。 があると思うんですが、きょうはそのことも当然
背景にありますけれども、もう少し改憲問題とい
これご存じのとおり、ブッシュ政権というのはイ
うのを視野に収めて、ちょっとお話をしてみたい
ラク戦争に賛成したか反対したかで、イラク復興
と思います。
に関するお仕事の配分も変わるとはっきり言って
います。だから、フランス、ロシアというところ
改憲案は憲法尊重義務を国民に強制
は排除しそうです。他方、日本とかイギリスは、
さっそくお渡しした資料、文字ばかりで恐縮で
もし復興すれば、経済的にはおいしい目にあうの
すが、見ていただけたらと思います。いきなり、
かもしれません。イラクというのは原油埋蔵量は
『「憲法」とは何か?』と書いてあって、『愛は強
多いそうです。ところがあそこは戦争ばかりして
制できない?』とか何のことやらということが書
いたから、パイプラインが切断されていたり、と
かれています。これ、キリスト者の方もかかわっ
にかく掘ってもそれを外国に搬出するのが弱いら
ているというお話を聞いたので、愛という話をす
しいので、そういうものさえちゃんとつくり直せ
るのもいいかなと勝手に思ったのもあるんです。
ば、ちゃんと石油が出てお金もうけができる土地
僕、憲法学者の中では一番、愛について語ってい
です。だって、皆さん分かりますよね?アフガニ
る憲法学者でもありますので、電話かかってくれ
スタンに対するコミットメントとイラクに対する
ば「はい、愛敬です」とすぐ応えますから、一日
コミットメントは全然違うじゃないですか。アフ
に数回は愛と応えておりますので、愛について語
ガニスタン忘れちゃったみたいです。ちなみに、
3
ってみようかという気になったんです。というの
は冗談で。
最近、読売改憲試案とか自民党の改憲試案にち
ょっと見えてきているんですが、憲法を愛せと言
い出してきているんです。これ、もしかしたら、
皆さんは憲法を愛す運動とか、憲法を大切にしよ
うという運動にかかわってきたので、憲法を愛す
るということに関して違和感ないのかもしれませ
ん。最近自民党とか読売改憲試案というのは、ど
ういうことが行われてきているかというと、現行
憲法にも憲法尊重擁護義務というのがあります。
憲法尊重擁護義務という規定が現行憲法にもあり
まして、99 条です。こんな条文見たことないかも
しれませんが、僕この条文すごく好きな条文なん
です。憲法尊重擁護義務というのは、憲法を守る
義務について定めていて天皇からすべてあがって
いるんですけど、この憲法を守る義務者から除外
されている人たちがいます。国民です。憲法を尊
重擁護する義務を、政府とか天皇から始まって政
府の関係者、末端の公務員まで課しています。日
本国憲法というのは。ところが国民という言葉が
いくら探しても入っていないんです。国民は憲法
を尊重し、擁護する義務はないんです。ですから、
国民にあるのは、憲法を尊重し擁護する権利があ
るだけです。義務はありません。僕も国家公務員、
国立大学の教員ですから採用されるときに、ちゃ
んと憲法尊重擁護義務に基づいて署名しています。
憲法を守りますみたいなやつです。それにちゃん
と署名して、学部長か何かに渡して採用されてい
ます。ですから、多くのこの中にも公務員の方い
らっしゃると思いますが、形骸化されてされてい
ますが一応宣誓の儀式はするはずです。公務員の
方は。ところが、現行日本国憲法というのは、憲
法尊重擁護義務から国民を外しているんです。と
ころが最近の読売改憲試案であるとか、それから
自民党の改憲試案は国民が憲法を尊重し擁護する
義務というのを課そうとしています。
日本国憲法第99条【憲法尊重擁護の義務】
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官
その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義
務を負ふ。
僕は読売改憲試案が特に許しがたいと思ってい
るんですが、読売改憲試案は憲法尊重擁護義務に
関する 99 条を削除します。ということは、天皇か
ら始まって末端の国家公務員までは、憲法尊重擁
護する義務が条文上なくなるんです。読売改憲試
案というのは。ところが、新たに前文に、国民は
憲法を尊重し擁護する義務があるという形で入れ
ようとしています。すなわち国民は憲法を尊重し
擁護する義務がある。国家公務員とか、天皇、政
府はというのはない。ないとまでは言ってないん
でしょうけれども、外すんです、一応 99 条を。こ
れはすごい逆転です。今までは憲法を守る義務が
あったのは、天皇以下政府であって国民ではない
わけです。国民は守らせる権利があった。ところ
4
が、新しい自民党とか読売新聞が言い出している
憲法というのは、国民に守らせる憲法です。これ
は僕、すごく許しがたいことだと思っていますし、
そもそも憲法とは何かということをシビアに考え
たことがないからこそ、こういうことが言えるん
だと思います。これが、きょうのお話の中心にな
ります。だから、あえて『愛は強制できない?』
という変な話から始めてみたいと思うんです。
強制された愛は真実の愛ではない
皆さんもご承知のお話だと思いますけど、シュ
ークスピアの劇にすごく有名な「リア王」があり
ます。リアが歳を取って自分の土地を配分する際
に娘に配分したところ、一番愛していた娘に配分
しないでいたら不幸になってしまったというやつ
で、黒澤監督の「乱」の基になったお話です。ご
記憶でしょうか?冒頭のほうのシーンで娘たちを
前にして、娘はそれぞれ結婚して、姉二人は結婚
し、一番下のコーディリアというのは婚約者がい
たのか、そんな状態で、リア王が年を取って、愛
の競い合いをさせるんです。
「おまえたちはどれだ
け私を愛しているかということを示しなさい」と
いうわけです。長女と次女、確かゴネリルとリー
ガンというんですが、この二人は「本当にお父様
を愛しています。お父様の命が永遠であれかし」
みたいなことをパッパッパッパ言うわけです。要
するに愛を示すわけです。父が、
「おまえたちが私
に愛を最も強く示してくれた人間に、最もよい領
土をあげよう」と確かそんな話だったと思います。
したら、長女・次女ゴネリルとリーガンは、愛し
ているということを大袈裟に語ったわけです。と
ころが、一番リアが愛し信頼していた三女のコー
ディリアは答えないんです。これ英語で見ると、
「Nothing」と言っています。
「おまえ、何か言う
ことがあるか」
「Nothing」これは何もないと言っ
ているんです。
「いいえ」と日本語で訳されるみた
いです。「何も言うことはない」。コーディリアは
リアのこと愛していますから、そういう競い合い
の場で言う言葉はないんです。だから、彼女は
「Nothing」と答えました。そしたら、リアは怒
って彼女を追放して、それでゴネリルとリーガン
に土地を二つに配分して、それぞれあげて、
「私は
これから私を愛していると言ってくれたゴネリル、
リーガンそれぞれ半分ずつおまえたちの所へ行こ
う」という話になったら、両方から追い出された
という話です。いじわるされて。結局発狂すると
いう話です。
やっぱりシェークスピアは天才だとよくいわれ
ますが、これ重大なことを言っていて、強制され
て言う愛は別に愛でもない。強制されて言う敬意
も敬意ではない。僕の経験でも、ある女子大だか
短大でも、僕が授業に行くと、皆さんスクッと立
ち上がってあいさつするんです。頭下げるんです。
授業が終わっても、スクッと立ち上がって頭を下
げるんです。なので、僕、別にそういうことを義
務的にやってもらう必要ありませんからと言った
ら、次の日から誰も立たなくなりましたから、強
制されたのかもしれませんけど。これも強制され
た敬意というやつです。僕自身に敬意を持ってい
るかということとは別に、人は強制されれば愛を
示すこともできるだろうし、敬意を示すこともで
きるのかもしれませんけど、それは真実ではない
ということ。
ちなみに、西武球場という所は確か君が代を流
すんです。僕、かなり前の話ですけど、甥を連れ
て行ったんです。流したんです。やっぱり座り続
けるのはつらかったです。甥は嫌がりますから。
「おじちゃん、立とうよ」というわけです。
「いや、
いや、そうも言わずに」みたいに言ったんですけ
ど、やはり甥は立ちたがるわけです。
「なんで立た
ないの、おじちゃん」て。僕は結構つらかったで
す。立っちゃえば楽です。今立ったことを内緒に
しておくことだっていいわけですし、甥なんてそ
日の丸・君が代の強制で「愛国心」?
んな問題あるなんてことさえ知らなかった時期で
これ、日本と関係ない話と思っていると思いま
すから。だけど、やっぱり僕は立ちませんでした。
すが、日の丸・君が代という問題あります。要す
なぜかというと、やっぱり僕は日本というのは
るに、日本政府の在り方を批判する、例えばここ
もう少しいい国であっていいはずだ、自分がたま
に来ている方は、憲法を大切にしていこうという
方々で日本を愛していないわけじゃないわけです。 たま生まれた社会がもう少しまともであっていい
はずだと僕すごく思っているんです。ですから、
日本、たまたま自分が生まれた社会、自分が育て
てくれた社会それが少しでもまともであるために、 冒頭、何で日本がこんなに品格がなくなったんだ
ろうということを嘆きましたけど、これ僕、本気
わざわざ休みの日まで出かけてきて、こんな僕の
で嘆いています。この前の香田さんのケースのと
話なんか聞いているわけです。自分が住んでいる
きもそうですし、それから高遠さん等のときもそ
地域、自分が住んでいる県、自分が住んでいる国、
うですが、ああいう問題に関して、自己責任とか
もう少しまともであっていいはずだ、もう少し立
派な国であってしかるべきだ、そう思うからこそ、 言う社会は僕は本当につらい思いをしている感じ
がしていて。結局、強制されてしまえば、そんな
地元でいろいろな活動をなさっているわけです。
ことはすぐ立つこともできるし、歌うこともでき
これは、僕、ある種の愛国心だと思うんです。か
るけれども、本当に日の丸・君が代というものが、
っこ書きで言ってください。愛国心というのはあ
皆が愛する状態になったら立ち上がるわけです、
まりいい言葉じゃないので。なのに、そういう方
勝手に、そんなものは。日の丸に関していうと、
だからこそ、やっぱり、例えばここでいきなり日
サッカーの試合とかで、日の丸の前に立ち上がっ
の丸がガーンと出てきて、それから君が代の下に
てしまっているというのがあるかもしれませんけ
……
ど、それはサッカーの試合で日本の人たちが活躍
ちなみに、
(チラシにある)憲法学会のニューリ
している状況があるから立ち上がっているわけで、
ーダーはまずくて、憲法学会というのは実は改憲
強制して立ち上がっているわけじゃないわけです。
派の学会です。そういう学会があるんです。護憲
いったん強制してしまえば、結局もう少し日本は
派の学会は全国憲法研究会というものがありまし
て、全国憲法研究会というのは護憲派の団体です。 ましな国にできるじゃないかという話を、一切封
じ込めてしまう可能性をすごく感じているわけで
ところが、憲法学者が護憲派ばかりじゃ困るとい
す。
うので、駒澤大学の西修さん、ご存じでしょうか?
ところが、ご承知のとおり、日の丸・君が代を
ああいう方々が 17 年前に、この憲法学会でつくっ
強制したがっている連中が今度は憲法を改正して
たんです。そのニューリーダーというのは実はま
いく中で、国民が憲法を尊重擁護する義務がある
ずいんです。改憲派のニューリーダーみたいにな
という形になっているわけです。要するに、国家
っちゃいますから。憲法学会というのは最近ある
を愛せ、憲法を愛せという形に上から押し付けよ
んですけど。そういう憲法学会のこだわる方であ
れば、そんな状況で出てくるのかもしれませんが。 うとし始めているわけです。これは僕、すごく合
点がいきません。今、9条の問題、もちろんすご
……話を戻します。それで、仮に卒業式だとし
く重要ですが、9条の問題も含めてこの問題、僕
ましょう。卒業式だとして、日の丸があって君が
やっぱりこだわっていきたいと思っています。
代が流れたと。別に日本のことなんかまじめに考
えてなければ、自分の地域のこともまじめに考え
改憲派の目的は第9条2項の削除
てなければ、立って歌えばいいじゃないですか。
なぜ、憲法は「国家の基本法」なのか?という
こんなのは。それで、20 分我慢して出てけばいい
ことですけど、これは最近、憲法は国家の基本法
じゃないですか。やっぱり今自分の子どもたち、
だといいますから、社会の変化に伴って新憲法が
自分の孫たち、あるいは自分、自分の地域、そう
必要じゃないかという理屈に持ち込むわけです。
いうものがあって、それが例えば過去、自分の国
民が行ってきた事柄を知らないまま、日の丸を見、 要するに、憲法を制定してからだいたい 60 年も経
ちました。2007 年で施行から 60 年です。としま
君が代を聞き、そんなことをしたらまずいんじゃ
ないかと思うからわざわざ反対するわけですよね。 すと、もう 60 年も経ち冷戦も終わった、それぐら
い時代状況が変わったんだから、もう憲法改正し
絶対立って歌ったほうが楽です。
5
ようよ。実はこの言い方が一番国民に説得力ある
ようなんです。
2000 年に憲法調査会ができてから、出てきた理
屈は大きくて3つです。1つは押し付け憲法論で
す。要するに、アメリカが押し付けた憲法だから
無効じゃないかという理屈が冒頭いっぱい出てき
ました。憲法調査会が活動して後は。次が、僕は
憲法化石論と言っているんですが、憲法は古いか
ら変えようという理屈です。これが出てきました。
3つ目が、憲法改正タブー論といって、憲法を改
正をタブーにするなという理屈だったんです。
2000 年に憲法調査会が活動し始めた時点で、いき
なり3つぐらい出てきたんです。と言いますのは、
後でちょっとお話しするつもりですが、改憲派の
目的は9条の改正にあるわけです。憲法9条2項
の削除にあります。要するに、9条2項を削除し
て、海外でも軍事行動をできるようにするのが今
回の改憲の目的です。
日本国憲法第9条
【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和
を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力に
よる威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する
手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦
力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない。
憲法改正を阻む国民の平和意識
資料にある『朝日新聞の世論調査に見る国民意
識の動向』を見ていただきたいんですが、憲法9
条と自衛隊を見ていただけますか?これ確かに憲
法9条の支持というのが下がってきてはいるんで
すが、2001 年は 74%、2004 年は 60%と下がって
6
きてはいるんですが、にもかかわらず過半数は超
えていません。
資料:朝日新聞の世論調査にみる国民意識の動向
(1)日本国憲法96条(衆参両院の3分の2以上の賛
成と国民投票)
■改憲容認は自民党9割、民主党7割(朝日新
聞/03年11月3日)
■参院選当選議員の76%が改憲派(朝日新聞/
04年7月13日)
(2)国民意識の「危うさ」
①憲法9条と自衛隊
■朝日新聞(01年5月2日)
憲法9条支持74%、自衛隊違憲13%
■朝日新聞(04年5月1日)
憲法9条支持60%、自衛隊違憲27%
②イラク派兵
■朝日新聞(03年6月30日)
イラク攻撃に正当性あり29%、自衛隊イラク
派兵賛成46%
■自衛隊イラク派兵に関する世論
03年6月30日 賛成46% 反対43%
03年7月22日 賛成33% 反対55%
04年1月20日 賛成40% 反対48%
04年3月16日 賛成42% 反対41%
■多国籍軍参加(04年6月22日)
賛成31% 反対58%
としますと、改憲派の側からすれば、憲法9条
を改正したいと思って改憲案をつくります。改憲
案を作って、それで憲法改正の国民投票にかけよ
うとします。憲法 96 条は、改憲案を作った後、国
民の過半数の承認が必要です。とすると国民投票
かけます。国民投票かけて一回蹴られちゃえば、
一回負けちゃえば、そう簡単には改憲できなくな
ります。だって、時代が変わったから憲法改正し
ようよと言っておきながら、それで蹴られておき
ながら、もう一回出すというのはそう簡単にはい
きません。だから、これ実は改憲派からしても、
結構勝負なんです。9条に関しては絶対に通した
い。だから、いろいろ考えるわけです。最近考え
ているのは、9条問題をある種目立たせない形で
パッケージ化して何とか改憲に持ち込もうとして
います。
「新しい人権」の話とかそういうことがあ
りますが。
ともあれ、国民は今、自衛隊のイラク派兵に関
して、あまりそれほどかつてと比べれば抑止力に
はなっていません、国民の平和運動は。確かにそ
のとおりです。ところが、憲法改正実現する上で
は、やっぱりまだ障害ではあるんです。日本国民
の平和意識というか、憲法意識というものは。と
しますと、改憲派としてみれば、そう簡単に憲法
9条を全面に打ち出して改憲するわけにもいかな
い。では何をするかというと、新しい憲法が必要
だという理屈に何とか持ち込もうとするわけです。
60 年も経ったんだから全面改正しよう。読売改憲
試案も全面改正です。それから、民主党も自民党
も全面的な憲法改正案を出そうとしています。部
分改正ではなくて。
ちなみに、公明党の加憲というのは微妙です。
問題を分かって言っているのか、分かってなくて
言っているのか、僕ちょっとよく分からないとこ
ろがあるんです。加憲という改憲案だと実はかえ
って通らない可能性があるんです。では新しい人
権とか足してもらいましょうとか、少しずつ足し
ていくと。でも、9条のことに関しては自衛隊を
合憲化するぐらいしか達成できないかもしれませ
ん。もちろん、自衛隊を合憲化することは僕は許
し難いことだと思っています。自衛隊の合憲ぐら
いじゃ全然今の支配する側の人からすれば足りな
いんです。自衛隊の合憲だけでは。海外で軍事行
動ができなければ、全然足りません。なので、た
ぶん公明党案というのは最終的には政権等に居続
けようとすれば、自民党と抱き合わせる結果にな
るでしょうから、加憲という形ではなくなるかも
しれません。
ともあれ、9条を改正して海外での軍事行動を
したいという方々にとっては、実は国民意識はま
だ十分じゃないんです。ですから、新憲法の制定
という方向に話を持って行こうとします。社会が
変化したんだから、憲法改正していいじゃないか
と言いたがるわけです。
だという非難を浴びることがあります。
これに対して、現実よりも理想が大切なんだと
いう答え方は、僕もすごく重要だと思います。そ
のとおりですが、ここでは、実は9条はすごく現
実的だったのだということを確認してみたいと思
うんです。
9条の原点はきわめてリアルだった
それで、まず一点目に「敗戦国の武装解除」と
いうことが挙げられています。これは当然です。
要するに、アジア太平洋戦争で、日本は諸外国に
対して侵略行為を行ったわけです。侵略行為を行
った国が、軍事力を持ったまま敗戦できると思い
ますか?当然その軍事力は解体して、他国の安全
を保障する必要が出てきます。憲法9条というの
はもともと日本の安全保障ではなくて、日本から
の安全保障であったということを、僕は改めて思
い出す必要があると思うんです。要するに、日本
が多国から攻められるから危険という話でなくて、
日本が多国を攻めるかもしれないから危険だと。
だから、武装解除した。それを憲法の中に入れた
のだということ、このことは忘れてはいけないと
思います。日本からの安全保障として憲法9条は
あった。もし、日本が9条を作らなければ、たぶ
ん中国やオーストラリアという諸地域は、日本が
国際社会に復帰することを納得しなかったです。
軍事力を持ったまま、もう一回日本が復帰します
国家権力を縛るのが立憲主義
なんてことはあり得ないわけです。
ところが、この議論が忘れていることは、
『立憲
さらにもう一つ、9条がすごくリアルだったと
主義』という価値です。すなわち、そもそも憲法
いうお話としては、これは何度か以前もお話しし
が何で必要なのか?国家というのは権力乱用する
たことがあるかもしれませんが、忘れ去られてい
だろうから、法によってこれを拘束するという考
ると思うのでやっぱりすごく重要なことだと思う
え方です。国家権力を縛るからこそ最高法規だと
のでお話ししておきます。GHQ(占領軍)は間
いう考え方です。だって、国家は法律によってさ
接統治という方法をとりました。これ、日本国民
まざまやるわけで……僕が万引したとします。万
です。要するに外国人であるGHQが直接日本国
引したら刑法に基づいて処罰されます。これ刑法
民を支配しようとすると、今のイラクみたいな状
という法律です。国家というのは基本的に法律に
態になってしまうかもしれません。そこで、昭和
基づいて活動していますから、その法律に基づい
天皇というのを担いで、昭和天皇の政府にGHQ
ている国家を縛るから、憲法はどんな法律よりも
が命令する。その天皇を中心とした日本政府が、
最高なわけです。だから、最高法規ということに
国民に対して支配をするという間接統治という方
なるわけです。憲法というのは、国家権力を縛る
法を採用しました。これでいくと安上がりなわけ
からこそ最高法規だという考え方がすごく重要で、 です。ですから、日本を占領したマッカーサーを
だからこそ日本国憲法 99 条は、国民以外の天皇以
中心にしたGHQというのは、この間接統治とい
下すべての公務員に憲法尊重擁護義務を課し、政
う手法をとりました。としますと、マッカーサー
府は憲法を守る義務を課している一方、国民だけ
からすれば、この昭和天皇というのを守ることが、
は外したわけです。この意味も分かりますよね?
すごく重大になってきます。すなわち、分かると
国民は政府に憲法を守らせる、そういう役割を担
思うんですけど、あの時今の明仁さんは14歳か
っているからだということになると思います。
なんかです。14歳かなんかの天皇を立てておい
このことを踏まえて、戦後平和憲法はどういう
て、この人が支配しているという形になったらあ
意味があったのかということを、ちょっと考えて
まりにも傀儡(かいらい)です。わざわざ天皇を
みたいと思います。よく、日本国憲法はリアルじ
代えて。
ゃないという批判を浴びることがあります。要す
さらに、マッカーサーからすれば、8月15日
るに、非武装平和主義というのを採用しています
の聖断とか言われる要するに終戦の詔勅で、戦争
ね?一切軍事力を持たないで、国家を運営してい
があり最後竹やりまで使って戦うと言っていた日
くというスタンスを示していますから、非現実的
本国民が取りあえず矛を収めた、そういう事実も
7
しれません。証人
として呼ばれてし
まえば、これ実際
あったケースなん
ですけど、東条英
機がこう言ったん
です、東京裁判で。
「臣、東条は陛下
の言葉に背くよう
なことは一切しま
せん」と言ったん
です。彼の言い分
だったらそうでし
ょう、彼、天皇好
きですから。だか
ら、臣英機が天皇
陛下の言葉に背く
ようなことは一切
しませんと言ったんです。これ、ヨーロッパ圏の
法律から聞けば、こいつは天皇の代理人として活
動したのだ、ということは、侵略とかすべて決め
たのは天皇だと思いますよね。それに慌てた日本
政府は、木戸孝允の孫である内務大臣の木戸孝一
を派遣して、説得して言葉を変えさせています。
東条英機に、私が一人で勝手にやりましたと言わ
せています。何を言いたかったかというと、昭和
天皇が被告にならなくたって、証人として呼ばれ
てしまえば、東条英機よ、おまえが勝手にやった
と言わざるを得ないわけです。諸外国の国王であ
れば、自分の臣下に責任全部なすりつけて逃げち
ゃうこともできるかもしれませんけど、天皇の隻
手として戦争に投げ込んできたという地位を持っ
ている昭和天皇が、誰か一人の人を指しておまえ
の責任だと言ったならば、彼の権威は失墜します。
絶対にこういうことはできないわけです。
というわけで 、昭和天皇を東京裁判に行かせな
いために何ができるか?マッカーサーはとにかく
押し付けた。実は僕も押し付けたと思っているん
ですが、日本国憲法は。1946 年の2月1日に日本
政府側が作っていた憲法草案が、毎日新聞にスク
ープされます。これ見て、マッカーサーとかGH
Qは驚くわけです。これは明治憲法の手直しじゃ
ないか、こんなの諸外国が納得するはずがないと。
こういう国々が。諸外国が納得しないで、またダ
ラダラと日本政府が憲法制定にかかわっていると、
日本は共和制になったかもしれませんね。僕、そ
れは悪くはなかったと思うんですが。他方、GH
Q、特にマッカーサーにしてみれば、天皇を守ろ
うと思っていますから、こんなのでは駄目だ、だ
からGHQで作った草案を示すわけです。2月 14
日に。で、これを飲むか飲まないかというわけで
す。この提案を見ていて、憲法を押し付けた押し
付けたと言うんです、日本政府の保守側の方は。
僕、この話すごく好きなのが、当時民政局にい
たホィットニー、彼が提示する際にこう言ったん
ありますから、当然使い勝手がいいと思っていた
わけです。よく保守の方々は、何か昭和天皇とマ
ッカーサーの友情を熱く語る人がいるんですが、
僕はリアリティーないなと思っているんです。マ
ッカーサーの立場からすれば、別に友情があろう
がなかろうが関係ないわけです。利用勝手がいい
わけです、それは。今のアフガニスタンのカルザ
イ氏とかと一緒です。広く考えればそういうこと
です。この天皇の政府は取りあえず残そうと思っ
たんですが、よく考えてみるとイタリアでムッソ
リーニ、ドイツでヒトラー残すのと同じ状況です
から、周りの国々が賛成するはずないわけです。
特に反発しそうなのが、中国、ソ連、オーストラ
リア。これよくご存じない方いるんですが、日本
とオーストラリアと戦って、かなり捕虜虐待して
いるので、オーストラリアの人たちも結構怒って
いるんです。なので、この間接統治を実現するた
めには、昭和天皇を守らなければいけないわけで
す。守らなければいけないけれども、他方諸外国
の目があるわけです。ソ連とか中国とかオースト
ラリアとか。あと、オランダも結構怒っています。
こういう状況の中で、1946 年の3月あたりから
極東委員会というのが活動し始めます。GHQと
いうのは、言ってしまえばこれは内閣みたいなも
のでして、極東委員会が国会みたいなものです。
ところが、その国会が組織する前にGHQがガン
ガンいろいろ活動していたわけです。要するに自
分の上にそれを統制する議事機関ができる前に、
行政機関がバンバン好きなことをやっていると思
ってください。で、3月から活動し始めますし、
さらに3月からは東京裁判の被告の選定も始まる
という時期だったんです。確か3月ぐらいだった
と思います。とすると、極東委員会が活動し始め、
かつ東京裁判の被告選定が始まる時点で、昭和天
皇の地位が不安定だとまずいわけです。特に、彼
が東京裁判の被告になるかもしれないし、被告に
ならないにしても証人として呼ばれてしまうかも
8
です。
「この憲法草案を受け取って、これに基づい
て憲法を制定すれば、天皇の身体は安泰になると
思います」という形なんです。逆にいうと、これ
受け取らないと安泰にならないと脅したと保守派
の方々、改憲派の方々は脅すんですが、ホィット
ニーの次の言葉が紹介されていません。
「もし、あ
なた方政府がこの草案を公表しない場合には、私
たちのほうで公表する。GHQの名で国民に公表
する」。これやられたら、政府困ったでしょうね。
たぶん国民は賛成しましたもん。明治憲法と比べ
れば明らかにいい憲法ですから。それ聞いている
わけです。自分でそうしたら示さなければいけな
いと思って、日本政府は受諾の決定をして、あた
かも自分の案であるかのように提示したわけです。
このように考えてみますと、もし、この昭和天
皇を残そうということが当時の政府の中心であっ
たとするならば、ヒトラーも残す、ドイツ軍も残
す、ムッソリーニも残す、イタリア軍も残す。2
つ残すなんてありえないわけです。となると、昭
和天皇を残すためには、画期的な平和憲法を作ら
ざるをえなかったわけです。画期的に平和的な、
画期的に安全なその憲法の中に昭和天皇を押し込
みました。押し込んだから取りあえず認めてくだ
さいよというわけです。ソ連、中国、オーストラ
リアとかそういう国々に。
だから、憲法9条は、芦田修正を作った芦田均
の回顧ですけど、彼から言わせれば、避雷針だっ
たと言われています。憲法9条は天皇を守るため
の避雷針だった。お分かりになるでしょうか?憲
法9条は、当時実はすごくリアルだったというこ
とです。よく軍事力なんか持たなくて非現実的だ
という言い方しますが、全然そんなことはなくて、
この9条というのは原点においてはすごくリアル
なものだった。そもそも侵略国を武装解除するの
は当然ですし、かつ天皇を守るために9条を入れ
た。そういう意味では、僕は原点はけがれている
とも思っています、憲法9条というのは実は。だ
けど、けがれていたかもしれないけど、これをそ
の後日本国民がどう使ってきたかのが僕は重要だ
と思っているんです。
後で、最後のほうの資料のカート・ヴォネガッ
ト(別掲)という人の一文読んでください。これ、
アメリカ憲法もけがれていて、もともと奴隷制を
認めているんです。奴隷制認めているだけならい
いんですが、例えばこれ、僕はすごいと思うんで
すが、上院と下院の議席を配分する際に、結局黒
人奴隷が多い所にあまり議席が配分されると困る
というので、黒人1人を5分の3と数えています。
白人は1人ずつ数えていくんです。だから、白人
3人と黒人5人で同じ比率で議席を配分していく
んです。人を5分の3と数えているんです、アメ
リカ憲法は。これけがれた憲法だと思うんです。
そのけがれた憲法だったけれども、その憲法を実
現するために黒人の運動があったということを書
いてあるんです。憲法9条も、もともとはそうい
9
うある種のけがれたものだったと僕は実は思って
いるんです。もちろん、単にけがれただけでなく
て、他国に日本が侵略しないという意味を持った
という原点は重要だと思います。
資料:カート・ヴォネガット(浅倉久志訳)
『死よりも悪い運命』(早川書房、1993年)89~92頁
わたしはソ連の読者に、検閲はおもに田舎だけの
問題だ、と返事を書きました。わたしの幼いころ、
その種のコミュニティは人間を焼き殺していたもの
です。とすれば、ようやくわれわれにも進歩の跡が
見えてきたといえます。
あのころ焼き殺された人びとの大半は黒人でした。
わたしの幼いころに比べて、この国に起きた最もい
ちじるしい変化は、人種差別の衰退です。ただ、断
わっておきますが、それは扇動者の手であっさりぶ
りかえしかねません。とにかく、現在のわれわれは、
自分や自分の身内に似ているかどうかでなく、人問
をその中身で判断することにかなり上達しました。
事実、この点にかけては、ほかのどの国よりも上で
す。ほかのたいていの国では、てんからそんなこと
を考えない人が多いのです。
このりっぱな変化をわれわれの態度にもたらした
のはだれか?それは抑圧され、侮蔑されていた少数民
族の人びとです。彼らは勇気と非常な威厳を持ちあ
わせており、それを憲法の権利章典に記された約束
に結びつけたのです。
さて、検閲は上り坂の傾向にあるのか?あれだけニ
ュースを賑わせている以上、そう思われてもむりは
ありません。しかし、それはむかしからあつた病気
のようなものだ、とわたしは信じています。つまり、
最近はじめて病気と認められ、治療されるようにな
ったアルツハイマー病のようなものです。検閲制度
はべつに新しいものではありません。新しいのは、
検閲制度がいまやこの多元的デモクラシー社会の病
気と認められ、おおぜいの善人たちがそれをなんと
かしようとしていることです。
アメリカ合衆国は、それが杜会的疾患と認められ、
人びとがそれをなくそうと戦うようになるまで、百
年近くも奴隷制度をつづけてきました。想像できま
すか。これはアウシュヴィッツといい勝負ではない
でしょうか。ほかの人間を所有し、牛馬のように彼
らを扱っておきながら、世界の国々に向かって・ア
メリカは自由のたいまつだとよくもほざけたもので
す。だれがみなさんに、そもそものはじまりからア
メリカは自由のたいまつだったと教えたのか?だれ
がそんな嘘をつきたがるのか?
トマス・ジェファーソンは奴隷を所有していまし
た。それをおかしいと考えた人はあまりいませんで
した。まるでジ一ファーソンが鼻の頭にクルミほど
もある大きなできものをこさえているのに、みんな
がまったく問題なしと認めたかのようでした。この
話は、前にヴァージニア大学でもしたことがありま
す。ジェファーソンはヴァージニア大学の創立者で
あるだけでなく、建築家としてもすばらしい手腕を
発揮しました。講演のあとで、ある史学教授が説明
してくれたところによると、ジェファーソンが、彼
自身も奴隷たちもうんと年をとるまで彼らを解放で
きなかったのは、奴隷たちが抵当にはいっており、
彼は文なしだったからだそうです。
想像できますか。むかしはこの自由のたいまつの
国で、ほかの人びとを、ひょっとすると赤ん坊でさ
えも質に入れることが、合法的にできたのです。そ
れに比べていまの不便なこと。みなさんはたとえ金
に困っても、自分のサキソフォンといっしょに掃除
婦を質屋へ連れていったりはできません。
さて、ポストンとフィラテルフィアは、どちらも
自由の揺藍の地であったと主張しています。どちら
の町が正しいのか?どちらでもありません。自由は
いまアメリカ合衆国で生まれたばかりです。自由は
1776年に生まれていません。当時、奴隷の所有は合
法でした。白人の女性さえもが無力で、父親か、夫
か、近縁の男性か、それとも判事や弁護士の所有物
でした。自由はボストンやフィラデルフィアで受胎
しただけです。ポストンやフィラデルフィアは、い
わば自由のモーテルでした。
さて、オポッサムの妊娠期問は12日。インド象の
妊娠期間は22カ月です。わが友人と隣人のみなさん、
アメリカの自由の妊娠期問は、なんと2百年あまり
におよぶことがやっと判明したのです!
女性と少数民族に経済的、法律的、社会的平等を
与えようという真剣な議論がはじまったのは、わた
しの生きた時代になってからでした。いまこそ、そ
う、ジェファーソンの時代ではなく、きょうの午後
に集まった若い人びとの時代に、自由を誕生させ、
キングストンをはじめとして、この巨大な富み栄え
た国のあらゆる大都市や町や村に、そのたくましい
産声を聞かせようではありませんか。どこかで赤ん
坊の声が聞こえるようです。赤ん坊の喜びの声が。
1990年度の卒業生ばんざい、そして、みなさんを
教育ある市民に育てたことで、アメリカをいっそう
強力にした人たちばんざい。
ご清聴ありがとうございました。
になるわけです。ならば、日本が共産主義化を防
ぐためには、日本の治安を確保する警察よりも強
い部隊が必要になってきます。という形で発足し
たのが警察予備隊ですから、そもそも自衛隊は初
めからアメリカ軍の下請けとしての性格は持ち続
けています。
さらに驚くべきことに、初めの日米安全保障条
約は、ご承知の方もいらっしゃると思いますが、
内乱条項というのがありました。日本国内で内乱
が起きた場合には米軍が介入します。アフガニス
タンの戦争のときもそうでした。僕も驚いたんで
すが、アフガニスタンの隣にパキスタンという国
があります。パキスタンはムシャラフ大統領とい
う人がいますが、彼が核兵器を持っています。ム
シャラフ政権というのは、アメリカと仲良くし過
ぎると、イスラム原理主義者みたいなものから突
き上げがあるかもしれないんです。突き上げられ
てムシャラフ政権が転覆しちゃうと、イスラム原
理主義者が核兵器持つことになります。これはま
ずいと思ったのか、僕驚いたけど、どういう根拠
か知りませんが、アフガニスタンにアメリカが戦
争し掛けるときに、アフガニスタンに戦争を仕掛
けることによってパキスタンが不安定化した場合
には、パキスタンにも介入するという計画なんで
す。主権をなめきっているとしか思えないです。
パキスタンにも介入する予定だったんです。
これと似ています。要するに、何か軍事行動を
する際に、その地域が不安定化すると困るから介
入する。実際、日本がもし共産主義革命が本気で
あの時期起きていたら、当然米軍介入しています。
というのが、日米安全保障条約に基づいて定めら
れていたわけですし、その下請け的な性格を初め
から持っていて、これ、再軍備押し付けられてい
ますから。その後、片面講和してから、自衛隊を
増強していくことも要求され続けたのも、ご承知
のとおりだと思います。
要するに、憲法を押し付けられたと言いますが、
そもそも再軍備を押し付けられたということをほ
とんど問題にしてこなかったというのはすごくお
かしいだろうと思うんです。
米に押し付けられたのは「再軍備」
権益を守るための軍事力行使は野蛮だ
「再軍備が押し付けられた」というのはご存じ
ですか?これは 1950 年に朝鮮戦争が勃発して、
それに結局アメリカ軍が出ていきます。アメリカ
軍が朝鮮戦争に出かけて行ったと、基地をたくさ
ん抱えている日本が共産主義化したらどうでしょ
うということです。だって、当時北朝鮮が共産主
義化し、中国は共産主義化し、ベトナムも共産主
義化という形で東アジアは共産主義化がかなり進
んでいたわけです。これは最近、誰でも言うこと
ですが、それは別に共産主義の影響どうのこうの
というよりも、それまでのある種極めて不平等な
社会に対して、民族主義的なものとして出てきて
いるわけです。
日本も共産主義化したらどうしようということ
よくドイツと日本を比較しますが、何度もお話
ししておきますが、僕結構リアリストなところが
あって、確かにすべての国が軍事力を無くすとい
うことは結構難しいだろうと思っているんです。
というのは、ドイツというのは分断国家でした。
分断国家ですから、それぞれの国が国境を認めて
ないわけじゃないですか、ある意味で。西と東。
分断国家ですから、西と東がそれぞれ相手の国に
対して統治権を要求しているという状況です。と
すれば、両方とも攻め込む正当な理由があるんで
す。両方とも相手の国を制圧する正当な根拠は一
応持っているわけです。東ドイツも西ドイツも分
断国家で承認し合っていませんから。という状況
10
ですから、国境線に何か一定の抑止力をおくとい
う発想は分からないではないです。軍事力は賛成
しませんけど。北朝鮮と韓国もそうです。これも
分断国家ですから、それぞれが北朝鮮は朝鮮半島
全体に対して主権を要求するでしょうし、韓国も
北にまで取りあえず法的には要求しているはずで
す。というのは承認してないわけですから。とい
うわけですから、分断国家というのは国境紛争が
起きる可能性は確かにあるわけです。不幸にも。
とすれば、こういう国々が一定の抑止力という名
の下に一定の実力装置を持つということは、あり
うるのかもしれません。賛成しませんが。
でも、日本はこの問題を抱えていないわけです。
日本は分断してないわけですから。ということは、
日本が侵略されるという可能性は極めて低い。だ
って、どの国が日本に対して侵略する権利を持つ
といえるでしょうかという問題。この問題も考え
るべきだと思います。さらに、日本は別に天然資
源があるわけでもありませんし、それから、日本
が単一民族国家でないのはご承知だと思いますが、
単一民族性は比較的高いわけです。そんなところ
に攻め込んで、どう処理していくつもりなのかと
いうことを考えたら、まさか上陸して日本を占領
してどうのこうのというのはありえません。唯一
あるとすれば、これは首都近くにまで基地提供し
ているアメリカしかありえないです。あれ上陸し
ているんだから首都占拠するのは簡単ですから、
唯一できるとすればアメリカぐらいしかなくて、
よその国が侵略できる場所ではないんです。とい
うことを考えますと、やっぱりドイツや朝鮮半島
の問題とはかなり違っている状況にあるというこ
とも確認しておく必要があると思っています。
要するに、ここでお話ししたかったことという
のは、無責任じゃないかと。軍隊も持たずに平和
守るなんていうのはありえないじゃないかという
わけですが、本当にそうなのでしょうか?という
ことです。
もちろん、最近僕、ちょっときな臭いなと思っ
11
ているのが、尖閣諸島
のほうで海底油田か
何かを中国がつくり
始めています。あれ国
際法上、どこが中国と
日本の専属的な経営
権に当たるかどうか
ということが争われ
ています。そういう状
況の中で、確定してな
いところで、中国が確
かに油田をつくり始
めているのは問題な
のかもしれませんが、
保守の側からすぐ出
てきましたよね、あん
なものに関しては武
力行使しろと。要するに武力を行使してでも日本
の権益を守るべきだと。だいたい軍隊がないとい
うのは、極めて不完全ではないかと。軍隊がなく
て、あなたの生活守れますかといいますよね。確
かにそういう社会は本当にあると思うんです。軍
隊がなければ、自分の生活が守れないような場所
はあると思うんです。でも日本は違う。
他方、日本が軍隊を持てば何するかというのも
分かりましたよね。尖閣諸島問題とかを見て、あ
あいうのに関して日本が何も言えないのは軍事力
を行使できないからだと言うんだけど、普通そん
な何か権益の問題が起きたからいきなり軍事力を
行使する野蛮な国はないです。それが、日本だと
平気で出てくるというのが驚きで、僕はそんなヤ
バい人たちに絶対軍隊持たせてはいけないと思い
ます。これは本当に、人を見ればすぐ喧嘩する、
昔から喧嘩ばかりして人を傷付けるばかりの人に
対して、トカレフ渡すようなものだと思っていて、
そんな危険な話は僕はないと思っています。
「戦争責任」と向き合わない日本
これまで、日本国憲法の制定のお話をして、軍
隊(自衛隊)を押し付けられてしまった意味みた
いなのをちょっとお話してきました。安全か安全
じゃないかという考え方だったのは、もっと文脈
に属して考えなきゃいけないというお話をしまし
た。要するに、こういう分断国家と日本のような
話は違うだろうという話もしましたが、僕はドイ
ツと比較するというのは結構すごく重要な点だと
思っています。よく過激派の方々は同じ敗戦国で
ありながら、ドイツは憲法を改正して再軍備して
いる。だから日本もしようというんですけど、こ
れはすごく甘い議論で、例えば今ドイツとフラン
スが戦争すると思っているヨーロッパ人は一人も
いないといわれています。ご承知のとおり、フラ
ンスとドイツは何回も戦争を繰り返しているんで
す。1870 年、普仏戦争のときから第一次世界大戦
でも戦争をしていますし、第二次世界大戦でも戦
争をしています。ちなみにフランスは、ずっと負
けているにもかかわらず、ずっと大国であるとい
う珍しい国で、ナポレオン以来勝ってないという
ぐらい戦争に負けている国です。ともあれ、ドイ
ツとフランスというのは何度も戦争をしてきた国
でして、ご存じでしょうか、EUというのも基本
的にはドイツとフランスの間にある石炭とか石油
とか天然資源とかの国際管理をしないといつまで
たっても紛争の種が消えないからという形で、そ
れが発達してきて現在のEUのようなもの、最近
憲法まで持つような国家連合ができ始めていると
いうわけです。とにかく、ドイツとフランスは何
度も戦争してきたわけです。ところが今、ヨーロ
ッパでドイツとフランスが戦争すると思っている
人が誰もいないだろうといわれています。
ところが、日本はいまだに中国を仮想敵国にし
ています。北朝鮮を仮想敵国にしています。結局、
日本が何でドイツと比べると不安定かというと、
中国や北朝鮮やそういう国々と平和的な関係をつ
くってこなかったからです。これもやっぱりすご
く考えなければいけない問題だと思います。
皆さんも、抽象的によく言われるんじゃないで
すか。軍隊持たないで日本は安全なのか、軍隊持
たないなんて無責任だと言いますが、実は無責任
なことをやってきたのは、軍隊持っている立場の
ほうがすごく無責任なんです。要するに、押し付
けられた軍隊をそのままどんどん増強してきてい
るわけですし、さらに今度軍隊がどんどん増強し
てくれば、北朝鮮や中国という国々も日本を不信
の目で見るでしょう。
かつ、僕、日本がよろしくないなと思うのは、
アメリカに追随して軍事大国化していくことによ
って、戦争責任の問題、責任を負わないで済まさ
せてもらいました。その結果、結局ドイツがフラ
ンスやポーランドやイスラエルに対して示してき
たそういうことを一切してきていないという状況
もあって、隣国と友好関係がつくれずにいます。
日本というのは、地域的なさまざまな集団的な安
全保障の体制をつくることさえできないわけです。
そのリーダーにさえなれない。で、最近あせって
いるわけです。中国が経済もよくなってきて、中
国がアジアの覇権国になってしまうのではないか
ということを今度恐れていて中国脅威論とかいっ
ているんです。幾らだってチャンスあったわけじ
ゃないですか、日本が。ちゃんと軍事の問題をど
んどん軽減していって、アメリカから軍事的に独
立していって、かつ経済的なさまざまな環境をつ
くっていくというチャンスは幾らでもあった。で
もその幾らでもあるチャンスを生かすためには、
当然ですが戦争責任の問題は処理しなければいけ
なかったと思います。そういうことをやって、幾
らでもアジアの中心的な、要するにユーロに対抗
するような円の経済圏をつくれたのかもしれない
ですが、今はもう無理です。今、人民元の権益が
つくられてしまうのではないかと恐れている人た
12
ちがいますが、結局さまざまありえた選択をして
こないで今の状況がある、それはある意味でアメ
リカ側の要求に従って、ひたすら軍事力を強大化
し、かつ海外にも自衛隊を派遣させるシステムを
つくってきた。海外に派遣させる自衛隊のシステ
ムをつくっていけば、当然ですけど周辺国は不信
感を持つわけです。
何回も言ったかもしれませんが、韓国と日本は
同じようにアメリカ軍の基地を持ち、かつアメリ
カと同じような安全保障条約を結んでいるんです。
にもかかわらず、日本が有事法制作ったら韓国政
府が不快感示したんです。これおかしいじゃない
ですか。だって、同じ側にずっと付き、要するに
冷戦の間もずっと西側に付き、かつアメリカ軍を
基地として置き、アメリカと同じようにリムパッ
クというやつでは共同演習もし、そういうことを
している国が、韓国からさえ、有事法制作ったら
不信感持たれる、不快感持たれる。おかしいです
よね。日本という国はこれだけ信頼されてないわ
けです。というわけで、そういうアジア諸国から
の信頼さえ得ないままさらに軍事大国化しようと
しているわけです。この愚かさというのも是非ご
理解いただけたらと思います。
中東地域への信頼が厚かった日本
あと、以前有事法制を作るときに、僕、割と神
奈川の方のところへも出かけていってお話をして、
横須賀とか抱えているところがありますから。
商船で働いている方がいます。その組合の方々
のお話聞いたら、日の丸を掲げるのがいいことか
どうか微妙ですが、1980 年代のイラン・イラク戦
争のあたりにペルシャ湾のほうに日本のタンカー
が行くときには日の丸を掲げたんです。
ご承知かどうか分かりませんけど、日本は今ま
ではイスラエルにすごく厳しかったんです。パレ
スチナにすごく好意的だったんです。ですから、
国連でイスラエルを非難するような決議をあげよ
うとすると、日本は賛成するんです。ヨーロッパ
とかと一緒に。それは僕、いいことだと思ったん
です。ですから、イスラエル・パレスチナ問題に
関しては、ある種日本は反アメリカ、非アメリカ
だったんです。ご承知のとおりアメリカは、安保
理がイスラエル批判する決議出そうとすると、当
然つぶします。というわけで、日本はイスラエル・
パレスチナ問題に関しては違う立場をとっていま
した。石油が欲しいだけかもしれませんが。それ
だって、立派な態度だと僕は思います。
そういう時期、日本の石油会社のタンカーは、
とにかく日の丸を掲げて突入していくそうです。
攻撃するなと、これは日本のタンカーであると。
そうすると、攻撃を受けないというわけです。だ
って、従来からだってアメリカ大使館とかそうい
う所でいろいろ攻撃受けてきましたよね。いろい
ろな所で。ところが日の丸を掲げて行けば、攻撃
されない地域があったんです。それが中近東です。
中近東では日本というのは比較的評判が良かった。
商社の方もよく言います、決して日本人というの
は攻撃の対象にされていなかった地域だったんで
すが、もうこれも駄目です。
すると、東アジア地域での信頼を得ることのな
いまま、日本という国は中近東の信頼を失ったこ
とになります。アメリカから信頼されていればそ
れでいいと思っているのかもしれません。今、大
統領選行われていますけど、あの大統領ですから、
信頼されてもあまり僕自身はうれしいと思わない
です。
ともあれ、平和の問題について考える場合には、
さまざまな物の見方ができて、軍隊がなければ平
和が守れないなんていうのは、すごく愚かな大ざ
っぱな議論です。日本というのは、戦後の流れの
中で、まず冒頭、原点はあまりきれいじゃないと
思いますが、憲法9条というのを獲得したという
事実は、実は決して軽いものではなかったという
お話を次にしてみたいと思います。
ら反核運動であるとか、そういう運動の高まりの
中で9条というのは定着していくわけです。
要するに、戦後平和運動は、9条の原点の意味
をちゃんと読みかえて、それで日本政府にとって
は嫌なような、すなわち武力によらずに国際関係
を構築していこうという方向にしようという考え
方になじんでいくわけです。
60年安保での自衛隊投入を止めた9条
これが、どういう意味を持っていたか?「憲法
9条の効用」というところをちょっと読ませてい
ただきたいんですが、まず一点目。「60 年安保闘
争時の自衛隊投入論」ということです。
これは最近、資料的にも明らかになって、今年
の5月3日の朝日新聞でも特集していました。か
つては中曽根康弘の日記というかそういう物が流
通していて、それで一部の研究者には知られてい
た事柄なんですが、60 年安保の時に 33 万人が国
会を囲んだと言われています。その状況に業を煮
やした岸首相は、自衛隊の投入を考えたんです。
1950年代の平和運動で定着した9条
彼はアイゼンハワーをアメリカから呼んで、華々
憲法9条は押し付けられたわけですが、1950 年
しく調印式をやろうとしたんです。華々しく調印
代に、改憲派が自衛隊を設置したこともあり、憲
式をやって、それで自分の政権を長期政権化しよ
法を改正しようとし始めようとするわけです。ご
うとしたわけです。60 年安保条約改定というのは。
存じかどうか分かりませんが、1954 年、日本が独
それで、アイゼンハワーを呼ぶ前提として呼んだ
立する前あたりですと、憲法を改正に賛成する世
ハガチーさんは、羽田で反対運動の人たちにつか
論のほうが強かったんです。独立をきっかけにし
まって、結局途中ヘリコプターで助けてもらった
て憲法を改正しようという気は結構あったんです。 というハガチー事件は聞いたことあるかもしれま
ところが、この時期ご存じだと思いますが、ま
せん。それぐらい国民が反対していた。
ず基地闘争が始まります。朝鮮戦争の後、アメリ
そういう状況の中で、岸は自衛隊投入を考える
カが再編し始めて基地をどんどん拡張していくこ
んです。自衛隊を投入して、国民に武器を掲げさ
とが起きます。砂川基地とかもそうです。そうい
せるということです。これやっていたら、普通の
う中で、基地反対闘争というのが国内的に始まり
軍事独裁政権です。最近またミャンマーで起きて
ます。かつご存じのとおり、第五福竜丸のビキニ
いますが、日本でもそういう政権ができていたか
島での被爆という問題が起きます。で、原水爆禁
もしれません。これに対して、当時の防衛庁長官
止運動というのが日本国内に高まっていきます。
であった赤木宗徳が拒否します。赤木宗徳が拒否
日本の戦後平和運動というのは、ノッペリと続い
した事実は誰でも知っていたんですが、そのとき
ているのではなくて、そういう 50 年代の基地闘争
説得したのが中曽根康弘のようです。というか、
とか、それから原水爆にかかわるような反核運動
中曽根の日記が出回っていて、そのとき彼が強く
というものを背景にしつつ、改憲運動に対抗する
言ったのは、結局自衛隊は国民の軍隊であるとい
中で、9条というものはある種シンボル化してい
う言い方をしたんです。でも、自衛隊は国民の軍
くわけです。
隊であるという言い方で彼は反対したけれども、
それで、このことが明解なのは、憲法9条に対
その背景は今自衛隊が国民に銃を向けたら、自衛
する支持が高まっていくのは 1950 年代以降なん
隊はもうつぶれるという思いがあったはずです。
です。ですから、よく戦争終われば誰だって苦し
要するに、憲法上そもそも存在可能性自体があ
かったと、昔戦争苦しかったことを思えば9条が
やしいわけです、自衛隊というのは。そんな軍隊
素晴らしいと思うのは当たり前だと保守派の人は
が出かけていって治安出動して国民に銃を向けち
言います。そうじゃありません。朝鮮戦争起きた
ゃったら、もう自衛隊なんか維持できませんよね。
時期の一時期、日本では憲法9条の価値は落ちる
国民の軍隊はいなくなります。だから、自衛隊出
んです。やっぱり近くに戦争が起きたから、9条
動させられないわけです。これ僕、すごくいいこ
を改正したほうがいいかなという意見が高まるん
とだと思います。だって、よそのアジアの地域で
です。高まった後、もう一回それが下がって、9
軍隊出てこない国があります?例えば韓国が、今
条を擁護する意見が強くなってくるわけです。と
は民主化しているし、すごく人気がある。韓国の
いうことは、やっぱり 50 年代実際の自分たちの生
ドラマを見ていいなと思っている女性の方々がど
活を守るための基地反対運動であるとか、それか
れだけ知っているか不安にもなるんですが、もと
13
もと軍事独裁政権です。
「拉致」という言葉も実は、
韓国政府との関係で、多くの方は拉致という言葉
を覚えていますよね?金大中氏のことですが。と
いうように、軍隊が介入しなかった国はアジアで
は少ないわけです。ということは、当時日本だけ
軍隊が介入しなかったのは、日本がとても民主的
だからだという意見に僕は賛成できません。そう
ではなくて日本では幸いにも軍隊の正当性がなか
ったんです。あの時点でもし自衛隊を投入しちゃ
ったら自衛隊なくなっていたでしょう。というこ
とを考えると、投入できなかったわけです。これ
素晴らしいことだと僕思うんです。日本が軍事独
裁政権を戦後味わっていないわけです。これはや
っぱり僕は絶対軽視してはいけないことだと思っ
ています。さらに、ベトナム戦争に韓国の方々は
30 万人以上派兵して、3,793 人戦死者出していま
す。当時の国務長官だったと思いましたが、マク
ナマラでさえも、ベトナム戦争にはいかなる倫理
的意義もなかったと認めています。そういう戦争
で軍人として出兵して死んでいるんです。日本は
幸いにも死んでいません。ところが今、当時日本
が普通に軍隊を持っていれば当然行っています。
だって、米韓条約と日韓条約は基本的に似ている
わけですから、とすれば当然日本も同じようにベ
トナム戦争出撃したはずです。あの戦争に出撃す
る意味何かありました?ないです。
このように、憲法9条の問題を考える場合には、
具体的に憲法がどういう役割を果たしてきたかと
いうことを考えないといけないと僕は思います。
抽象的に、軍隊なくて国が守れるのかなんて議論
はすごく無責任だと僕は思っています。
94年の朝鮮核危機は日本の有事法制が
未整備のため米は武力攻撃できず
さらに、94 年北朝鮮危機において、有事法制不
備だったときの意義というのは、何度も話してい
ますがしつこく話したいと思います。
日本は、日本海側に多くの原発抱えています。
今回、中越地震でも結構問題になりましたが。仮
に、日本の基地から出撃した米軍が朝鮮半島に攻
撃を仕掛ける、韓国からの陸路かもしれませんが。
それに対して、自衛隊が支援します。そうします
と、当然、日本は後方支援といっても国際法上は
戦争当事国になります。当然交戦権が発生して、
北朝鮮というのは日本に国際法上戦闘をすること
ができます。当たり前の話ですが。日本が支援し
た時点で。
こういう状況で、当時アメリカや日本の軍事的
な専門家の方々は、94 年の核危機のとき、米国が
攻撃した場合に北朝鮮がやれることは2つしかな
いだろうとみたんです。1つはミサイルを散発的
に撃ち込むこと。もう1つは、日本海側の原子力
発電所に対するテロ攻撃。この2つしかないだろ
うと考えたんです。
14
この2つしかないだろうと考えたときに、
「もし
アメリカ側がこういう攻撃をした場合に、日本側
は何をできますか?」と聞いたんです。そしたら、
「何もできません」と答えたんです。有事法制が
ありませんから、その時点では何もできないわけ
です。何もできないと言ったら、そうしたら、攻
撃されていきなり日本側がこの戦争に対して厭戦
(えんせん)
、戦争が嫌になっちゃって離脱します
なんて言われたらアメリカは困ります。それで、
最終的にはうだうだしている間に、カーター元大
統領の介入があって、かなり緊張が高まったけど、
とにかく妥協に至っているんです。94 年の核危機
の時には。
その後、今度また核危機は高まってきています
けど、今度はそういかないかもしれません。有事
法制を持っちゃいましたから、今度日本が支援し
た時点で、日本は有事法制の発動が可能になりま
す。これおかしいですよね。アメリカが攻め込む
んだから、日本が侵略されたわけでもないのに、
なぜ有事法制が発動するか説明します。
仮にアメリカが北朝鮮を攻め込みます。日本が
周辺事態法に基づいて後方地域支援というのを始
めます。とすれば、日本は当然交戦当事国になり
ますから、攻撃される蓋然(がいぜん)性が高ま
ります。有事法制は攻撃される蓋然性の段階で発
動可能ですから、当然この時点で有事法制を発動
します。
なぜ有事法制を発動したいかということも説明
します。周辺事態法という法律があるんですが、
皆さん勉強したこともある方もいらっしゃいます
が、周辺事態法は、民間とか地方自治体を強制的
には動員できないんです。これ分かると思います
が、アメリカが外国で何か仕事をしているところ
に自衛隊が援助した、何でそれに地方自治体や国
民を動員するんだと言われたら説明できません。
動員できなかったんです、1999 年の周辺事態法の
時点では。
ところが、有事法制をなぜ作ったかというと、
日本が侵略される可能性なんかほとんど考えてい
ません。これアメリカ側の実務者とかの話を新聞
で読んだところによると、有事法制というのは、
日本の中に塹壕(ざんごう)を作ったりとか家を
撤去したりとかそんなことをいっぱい書いてある
んです。日本が侵略されて、実際に地上戦するこ
とを考えた法律なんです。いまさらなんでそんな
法律作るんですかと米国の実務家に聞かれたら、
日本の防衛関係者は、
「昔はソ連が侵略してくるは
ずでした」と答えたんです。どこが侵略してきま
すかと聞いたら、
「昔はソ連でしたね」と答えたん
です。そもそもソ連という国ないじゃないかとい
う気もするんですが。そういう答え方しかなかっ
た。
まさか、どこかの国が日本に実際に上陸を行う
とは考えていません。考えていないのに、なぜ有
事法制作りたかったか?それは、米軍が東アジア
地域で軍
事行動し
ます。そ
れに対し
て自衛隊
が支援し
ます。支
援した時
点で日本
は交戦当
事国にな
ります。
交戦当事
国になっ
た時点で、
米軍支援
に関して
民間と地
方自治体
を動員したいわけです。アメリカ側が動員しても
らいたいわけです。日本側も動員してあげましょ
うという形になっているわけです。
日米の軍事協力すすめるための有事法制
実際、ブッシュ政権の直前にできたアーミテー
ジ報告書というのがあります。2000 年に。アーミ
テージさんが中心になったといわれている報告書
の中では衝撃的な一文があって、外国はここまで
言うのかなと思うんですが、
「日本における有事法
制の制定」というのがあります。なぜこれ、内政
干渉で怒らないのか僕よく分からないです。日本
における有事法制の制定というのが課題に挙げら
れています。これ驚くんですけど、その目的は日
本の安全保障じゃないんです。アメリカと日本の
軍事的協力のさらなる促進のためです。そのため
に、有事法制が必要なんです。それは理由は簡単
で、日本はアメリカの基地ですから、日本を守っ
てくれなければアメリカは活動できません。でも、
日本を守ることにアメリカが一生懸命になってい
たらアメリカは海外に行けないじゃないですか。
だから、日本は周りを守れということです。さら
に、日本近海でアメリカがいったん戦闘行動して
しまえば、攻撃されるのは日本なんだから。そう
したら、危険じゃないですかという状況になるわ
けです。
最近、アメリカ軍の再編成が問題になってきて
います。あれすごいことです。ほとんど中心的な
指令部が全部移ってくるんです。ということは、
これ面白いことだと思います。日本がアメリカの
インド洋からペルシャ湾のかけての軍事戦略の中
心になります。日本が、です。驚くべきことです。
これ本当に主権国家かとちょっと僕思うところが
あるんですが。アメリカ側は、そういう変容をさ
せようとしているわけです。とすれば当然、そう
いう地域を自分で守るんじゃなくて、日本に守っ
15
てもらいたいといっているわけです。かつ、基地
ほとんどただです。ただだけじゃなくて、家とか
をつくるときにお金までくれるわけです。要する
に、駐車場を頼んでみたらただで、駐車場にずっ
といると車を修理するお金くれるみたいな状況で
すから、当然フルに活用しようとしています。そ
れに乗っているわけです。
逆に、もし日本から米軍基地が一切なくなった
ら、何か危険が増えるんでしょうかという感じで
す。これ、まともに考えてみると本当に困った話
だと思うんです。94 年北朝鮮危機の際にも、日本
に有事法制が不備だったからこそ米国は攻め込む
ことをためらわざるをえなかった。今は、残念な
ことに有事法制ができてしまっています。とする
と、アメリカは軍事的オプションをとりやすくな
ってきているわけです。これが有事法制、有事を
巻き込む法律だと僕たちよく言っているわけです。
要するに、有事を防ぐんじゃなくて、有事を起こ
す法律だ、有事法制はとよく言ったんです。これ
はそういう意味です。こういうような状況になっ
てきているわけです。
日本の海外権益を守るための自衛隊に
何で今、日本でそんな状況になってしまってい
るのかということを、レジュメの「(2)軍事法制
整備の思惑と改憲の理由」というところを見てお
きましょう。これはシビアな問題だと思うので、
是非お話ししておきたいと思うのです。
まず、アメリカ側の要求としては、やっぱりグ
ローバル市場の拡大維持のために、米国の軍事行
動に対して支援してほしいんです。今までお話し
してきたとおり。ところが日本の思惑というのが、
最近僕はあると思っています。日本企業が、特種
権益を持つ地域の安定のための軍事的プレゼンス
の確保ということを目的とし始めています。どう
いうことかと言いますと、結局アメリカと日本の
経済的権益が同じとは限りません。とすると、ア
メリカだって介入というのは選択的に行うわけで
す。とすれば、日本だって独自に介入したい地域
出てくる可能性があるわけです。東南アジア地域
とかに。ところが不幸にも日本というのは、そこ
にかつて侵略した経験があります。侵略した地域
にいきなり軍隊派遣することできます?
これかつて尖閣諸島に日本の右翼団体か何かが、
鉄塔建てた。それを香港か何かの運動家が壊しに
きた。そういうことをやり合っているところに、
日本の海上保安庁が監視に行ったんです。監視に
行ったところ、そこで確か香港の運動家がたまた
ま死んだんです。確か墜落したかで。運動家だっ
たかジャーナリストだったか忘れましたが。そし
たら、各地域の方々は、日本以外のところは、日
本軍が来て殺したという形で報道したんです、ほ
ぼ。これ間違っていますが。それなのに、日本軍
が来たと報道してしまうぐらい、それぐらいある
意味で不信感を持って見られているわけです。海
上保安庁ですから軍隊ではないわけですが、それ
でも日本軍が来たから、それで慌ててしまって事
故が起きたみたいな報道の仕方だったと記憶して
います。
というような地域に、日本がいくら権益がある
からといって、自分で軍隊派遣できません。では
どうしましょうか?これは明らかにいきなり軍隊
を派遣するのは難しいですから、米軍の後に付い
て行きながら、あちこちに派遣をして、派遣の実
績を着々とつくっておくわけです。
例えば、イラクのためにこれだけ軍隊を派遣し
ました。そういう実績たくさんつくっておきなが
ら、最後こうですよね。例えばあるA国というと
ころでそれまでの軍事的な政権が転覆して、民主
的な政権ができた。そういう政権が例えば資源の
国有化と言い出したとしましょう。それまではガ
ンガン外国企業に安く売りたたいていた資源を、
国民のために抱き込もうとしたわけです。そうい
う国は出てくる可能性はあります。
そういう国が出てきた場合に、今までアメリカ
は何をしてきたかは皆さんご存じですよね?中南
米にアメリカは何をしてきたか?だいたい軍事的
に突入していって、その政権をひっくり返す。ハ
イチとかベネズエラとか、そういう地域だってア
メリカが介入しなければもっと簡単に済んだ話が、
今はどんどんグチャグチャしてくるわけです。要
するに、アメリカという国は、自分の裏庭で社会
主義政権ができれば介入してきたわけです。で、
転覆してきたわけです。キューバだって何度転覆
しようとしたかということはご存じですよね。
実はロシアだってやっているわけです。衛星国
とかで。例えばポーランドで民主化が進めばつぶ
す、チェコで起こればつぶす、ご存じだと思いま
すが。プラハの春とか。アメリカもロシアもやっ
てきているわけです、帝国というのは。
とすれば、日本だってその欲望を持ってきてい
16
るわけです。経団連が最近、武器輸出三原則の変
更とか言い出しているし、経済同友会も憲法改正
に極めて好意的になってきているという状況もあ
ります。としますと、ある人たちからすれば、海
外での軍事行動というのが本当にシビアな要求に
なりつつあるようです。
そういう状態では、現在の集団的自衛権を行使
しないという名の下に、海外での軍事行動を禁止
している日本国憲法ないしそれに基づく政府解釈、
これは本当に邪魔です。だから、是非この憲法9
条を改正し、海外での武力行使を可能にしたいん
です。だから、尖閣諸島問題みたいのが起きて、
あそこで中国が何か海底の天然ガスを使い始めて
いるというと、右寄りの側からは、そういうとき
に軍事力を行使できなくてどうするみたいな日本
の国益を守なければという話になってきます。そ
こまできな臭い方向に議論が行ってはいるんです
が、にもかかわらずできないんです。この、でき
ないというのはすごく大きいと思います。
9条が自衛隊を普通の軍隊にさせない
今、サマワに日本の自衛隊が出かけて行ってい
ますが、自衛隊の評判は比較的いいです。なぜか
といったら、あれ軍隊じゃないから。変な言い方
ですが。ファルージャで米軍と地域住民の対立と
いうのは、アメリカ軍がデモに対して発砲したん
ですよね。デモ隊に対して発砲したところ、今度
アメリカ軍の死んだ人を、ファルージャの市民が
引きずり回したんです。そうしたら今度、ファル
ージャをアメリカ軍が囲んで攻撃したわけです。
というように、デモ隊が来た場合に撃ってしまう
わけです。これ以上近付くなという形で銃を構え、
さらに近付いた場合には撃つ、これが軍隊です。
こういう軍隊だから、アメリカ軍というのは恨ま
れる。でもこれ、軍隊普通ですから、他の軍隊も
確かポーランド軍だと思いますけどオランダ軍も
さまざま殺されたりしています。
ところが、自衛隊は幸いなことに逃げます、こ
ういう場合には。これ僕、いいことだと思って、
行くこと自体は良くないんだけど、逃げる軍隊と
いうのは僕はこれは正しい役だと思っていて、デ
モ隊が近付いてきたら逃げます。だって撃つこと
できませんから。という状況で活動しているから、
何か弾が飛んでくれば、ちゃんと逃げる。そうい
うことを繰り返しているから、まだ地元地域から
も嫌われないで済むわけです。今ご存じのように、
憲法9条の下で無理やりイラクへ派兵しましたか
ら、結局戦争に行くわけではないと言わざるをえ
なかったわけです。戦争に行くわけではない、安
全であるという言い方を言い続けました。という
わけで、軍隊として活動することがなかなかしに
くい状況で行っているからこそ、何かミサイルが
飛んでくればすぐちゃんと逃げる、隠れていると
か、絶対にデモ隊に対しても武器を向けないとか
いろいろやっているわけでしょう。
仮に自衛隊が正真正銘の軍隊として派遣されて
いれば、当然アメリカ軍と同じように活動してい
るはずです。日本の自衛隊というものは、イラク
においてもっと恨まれていたはずです。すなわち、
9条の下で自衛隊が正真正銘の軍隊になっていな
いということ、これは僕はまだましだと思ってい
るんです。
一人も殺さず一人も死なずイラク撤退を
なぜこんな話をしたかというと、もうここまで
やられてしまった。要するに、自衛隊を派遣され
てイラクにまで行ってしまった。もうどうしよう
もないじゃないか、戻れないところまで来ている
じゃないか。ならば、新たに憲法を改正して、新
しく武力を持たないような平和的な憲法を作った
ほうがいいじゃないかと、もしかしたらこの中に
思っている人もいるのかもしれません。もう解釈
改憲を繰り返された。もう戻れないところまでき
た。ならば、新しい憲法を制定したほうがいいじ
ゃないかという思いを持っている人が、もしかし
たらこの中に思っているかもしれませんし、皆さ
んの知り合いの方にもいるかもしれませんが、僕
はまだましだと思っています。
要するに、その9条の下で派遣されているから
こそ、平和的な軍隊として活動しているというそ
の現実はまだましだと思っていますし、まだ1人
もイラク人を殺してないわけです。今の自衛隊。
1人も殺さないで帰って来る。これは僕、派遣し
たこと自体大反対ですが、それでもやっぱり1人
も殺さず1人も死なず帰ってくるということは、
僕は重要だと思っています。それはやはり正真正
銘の軍隊にならないまま帰ってくることになるわ
けですから。
これ、支配者からすれば痛しかゆしでしょう。
悪魔のささやきあるはずです。1人ぐらい殺して
ほしかった。1人ぐらい死んでほしかった。だっ
て1人殺せば、当然報復との関係で戦闘行動に入
りますから、
「ほら見なさい、もう海外で自衛隊は
軍事活動してるでしょう、正真正銘の軍隊でしょ
う、それなのに憲法9条なんか守っているのは愚
かしいでしょう」と言います。ところが今回も殺
せていない。10 年ぐらい、PKO協力法からずっ
と自衛隊は海外に派遣されていっていますが、殺
していない。これはやっぱり悪魔のささやきだと
思います、どんどん軍事大国化を進めたい側から
すれば。それぐらい海外での武力行使というのを
期待している人たちが出てきていますので、今日
本においては。
ならば、やっぱり僕としてみれば、憲法9条の
下で何とか出してしまった、出してしまったこと
自体は大反対ですが、にもかかわらず、9条があ
るからこそ軍隊として活動できないでいるという
ことは、軽視していいことだとは僕は思っていま
せん。
17
銃社会の米国から見えること
最後に、
「いま何を考えるべきか」ということに
関して。レジュメの「(1)「憲法」は何のために
あるのか?」ということはお話をしてきました。
特に「③日本国憲法の歴史から学ぶこと」という
のは、結局9条がどういう文脈でどう役立ってき
たのかということを学ぶことが、僕すごく重要だ
と思うんです。
仮に 1959 年に自衛隊が正真正銘の軍隊になっ
たらどうでしょう?60 年の安保闘争のときに、果
たして自衛隊が投入されなかったでしょうか?そ
ういうことを、僕はやっぱり考えてみるべきだと
思いますし、1960 年代に自衛隊が正真正銘の軍隊
になっていれば、その場合にベトナム戦争に参戦
しなかったでしょうか?そういうことはまじめに
考えてみたほうがいい。1990 年の時点で、日本が
正真正銘の軍隊を持っていれば、94 年の北朝鮮危
機のときに、米国が介入しなかっただろうか?そ
ういうことも考えてみたほうが僕はいいと思いま
す。
単に抽象的に、軍隊のない国家なんてありえる
のかなんて議論は、あまりにも無責任な議論だと
僕は思っています。僕は、歴史から学ぶことは大
きいと思います。さらに、日本国民が憲法9条に
コミットしてきたのは、やっぱり生活の中で重要
な意味があると思ってきたからだということも重
要だと思います。基地反対運動であるとか、その
他さまざまな運動との関係で9条というものを価
値を認めてきたのだということは、忘れてはいけ
ないことだと思います。
2点目として、
「平和のための想像力」というと
ころに関して、ドイツ再軍備の話はお話ししまし
た。要するに簡単にドイツと日本を並べて、ドイ
ツは憲法を改正して軍事力を持っている。なのに、
日本は持っていない。海外との関係も何も考えず
にダラダラと、一国平和主義で来たからだという
言い方は間違っていると思います。分断国家とい
う現実とか過去の克服という努力を無視して、比
較をするのはあまりにも無責任な比較だと僕は思
っています。
さらに以前からこのことをずっとこだわってい
るので、何度か僕の話を聞いたことのある方はま
たかと思うかもしれませんが、バトン・ルージュ
事件をご記憶でしょうか?1992 年に名古屋市の
服部君という方が、アメリカに留学生として出か
けていて、まさにハロウィンのこの時期です。ハ
ロウィンのときに御面か何かをかぶって隣の家に
出かけていって、お菓子をよこせと言うわけです。
お菓子をよこせと近付いていったところ、その家
の住人から止まれと言われたと。
「フリーズ!」と
言われた。フリーズと言われたが、英語が分から
なかったのかどうか分かりませんが服部君は近付
いていった。で、射殺されたということです。
それに対して、今回の香田さんと同じように、
物知り顔の評論家みたいのが、いかに日本人とい
うのは平和ボケかと。要するに、普通外国で他人
の家に入っていって、止まれと言われたら止まる
ものだと言って、いかに日本人が平和ボケかとか
いう人たちがいたんですけど、僕は以前からずっ
と思っていたんです。隣の人は誰か近付いてきた
から銃を撃つほうがよっぽど軍事ボケというか、
おかしいと僕はずっと思っていたわけです。この
ことはずっと語ってきたと思います。ちなみに、
日本だってそういうある種平和的なメンタルティ
ーを持ったのは、戦後何とかつくり上げたきたこ
とだと僕は思うんですが、ともあれアメリカのほ
うがおかしいという教訓を学ぶべきだと思ったん
です。
このことを明解に映画で示してくれたのが、マ
イケル・ムーアという方の「ボーリング・フォー・
コロンバイン」で、見た方もいるかもしれません。
これすごく面白い映画です。だってカナダは違う
んです。お隣の国でカナダはほとんど銃による事
件はありません。別にカナダ人が立派なわけでは
なくて、犯罪は同じように起きています。起きて
いるけれども、理由は単純なんです。銃が買えな
いからです。カナダでは銃を買うのがすごく難し
いから、撃つことができないわけです。アメリカ
では、普通のウォルマートとかスーパーマーケッ
トで銃を売っています。ほうきを買うように買え
ます。そういう状態で銃が出回っているから撃て
るわけです。
「ボーリング・フォー・コロンバイン」
を見ていただければ分かります。他方、川を越え
たカナダでは銃が撃てないんです。あの映画の中
で確かこういうシーンがあるんです。
「唯一過去数
年の間に銃で殺した事件があった」と。
「それはど
ういうことなんですか?」とマイケル・ムーアが
聞くと、
「ええ、川から渡ってきたアメリカ人が川
から渡ってきたアメリカ人を殺しました」という
話です。それくらい、カナダでも犯罪はあるけど、
銃による犯罪は少ないわけです。
国益のために軍事行使しない国に
ということを考えると、イラク戦争を見て、ア
メリカの考え方が果たして普通かということをま
じめに考えてみたほうがいいと思います。さらに
アメリカというのは相変わらず核兵器による抑止
論、核抑止論をとっているんです。最終的には核
兵器の投下によって平和を確保するというか安全
を確保するという考え方をとっています。
例えば、恐ろしいことにアフガニスタン戦争の
ときだって核兵器の投下というのはオプションに
入ったんです。そのときの核兵器を投下しない理
由は「壊すものがないから」。すごいですよね。要
するに、あそこはアフガニスタン壊し過ぎている
ので、いまさら核兵器投下しても破壊するものが
ないわけです。ベトナム戦争でも核兵器の投下と
いうのは、一応オプションになりましたから。ア
メリカという国は常に核兵器の投下というオプシ
ョンを持っています。
ところで、日本はご承知のとおり、唯一の被爆
国という名の下に、核兵器に対しては反対してい
くスタンスをとるべき国のはずです。そういう国
が、核兵器の投下ということを辞さないアメリカ
にひたすら追随していこうという意味は、これは
まじめに考えることがあると思っています。
核兵器はなぜけしからんかというと、これ皆さ
んご承知と思いますが、一般市民を殺すんです。
もちろん、武器は全部けしからんです。武器全部
けしからんけれども、もともと敵対してくる飛行
機とか船を破壊するために必要最小限度の武力行
使というのはありうるのかもしれませんが、核兵
器は初めから町や都市を壊すわけです。とすれば、
当然非戦闘員が含まれているわけです。
初めから非戦闘員を殺すのはこれ国際法違反で
す。国際法違反の武力に頼っている国なわけです。
国際法に違反して戦争しているわけだから、それ
は当たり前だという話かもしれませんが。
そういう国に、唯一実際に核兵器を投下された
国が盲従する、ひたすら協力するというのはどう
なんでしょう?その協力する理由が嫌です。協力
する理由というのは、たぶん外交上の想像力がな
くてひたすら対米追従なんでしょうが、もう一つ
はさっき言ったとおり、米国の驥尾(きび)に付
して海外での軍事行動を繰り返すことによって、
海外派兵体制をつくっていって、国民コンセンサ
スも得ていって、イラクにも戦争行ったじゃない
か、どこどこにも戦争行ったじゃないか、何でな
らば尖閣諸島における日本の権益のために戦争に
行かないのだと。この不利益をつくっていって、
国益を守るための軍事力の行使という。そんなこ
とやっているのはアメリカとロシアと幾つかの国
しかやっていません。普通の国はそんなことしま
せん。国益のために、軍事力行使なんてのはしま
せん。している国はわずかにあります。という国
の一員になりたいというわけです。それはやはり
何をしてでも僕は止めなければいけないと思って
います。
政府に嫌われる憲法を持つ誇りを
実は何だかんだいって、このような好ましくな
い国家に日本を変えていく上で一番のハードル、
トゲが実は憲法9条なんです、やっぱり。憲法9
条がある限り、どうしてもつまみ食いつまみ食い
で何とか達成してきますから、どんどん予定から
すると達成が遅れていくんです。としたらこれ、
チャンスにもなります。だって、取りあえず核兵
器を使わないまま冷戦が終わったのと同じように、
今だってアメリカが今のような愚かな政策がいつ
まで続くか分かりません。とすれば、今のような
状況を少しでも止めつつ、日本がそれに協力しな
いようにしていきながら、何とか少しでも国際社
会において、国際紛争を武力によらないで解決す
るという動きを強めていくということができれば、
状況は変わるかもしれない。
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ところが今、日本は憲法を改正することによっ
て、武力によって平和を実現するというか、戦争
に訴えるという力を強めようとしているわけです。
だって、イラク戦争に熱狂的に賛成したのは、ご
存じのとおり、イギリス、スペイン、日本、アメ
リカでした。スペインはもう落ちたんです、政権
を交代して。ということは、もう今は日本、イギ
リスです。
さらにご承知だと思いますが、これも僕、国際
政治でいやらしいなと思うんですが、東欧を味方
につけたのご存じですか?ハンガリーとか。その
いやらしさ知っています?アメリカへの移民の緩
和です。要するに、東欧は貧困ですから、アメリ
カに出稼ぎに行きたいです。だから、アメリカに
移民させるときの条件を緩和したんです。東欧と
か。で、東欧側は付きました。だけど、実際には
その政策は進んでいませんし、今のイラクの惨状
を見て、東欧も外れ始めています。結局分かりま
すよね。ブッシュ大統領がフランスとかドイツを
古いヨーロッパ、東欧を新しいヨーロッパ。新し
いヨーロッパはアメリカを支持してくれると言っ
たけど、それですよ、裏の事情って。
さらにはトルコに関して何やったかご存じです
か?これは僕賛成しないけど、EUはトルコの拡
大に対して否定的な人がいるわけです、ヨーロッ
パ中心主義がありますから。そうしたら、アメリ
カ側が、トルコに対してEU加盟を後押しすると
いう形でトルコも抱き込むわけです。そういう形
で抱き込んできた人たちが、ガンガン抜け落ちて
いっています。今も支えているのはたぶんイギリ
スと日本ですが、イギリスはヤバいです。労働党
の中でもブレアの地位は、イラク戦争との関係で
まずくなってきていますから、ブレアはブッシュ
政権と心中するかどうかはあやしいと思います。
日本だけですよ。あんな政権と心中しようと思っ
ているのは。
で、それは唯一の被爆国として、まず世界に対
してやらなければいけない事柄があり、かつこれ
絶対こだわっているんですが、憲法9条の下で武
力を持たないと誓いをした。それが、最初は昭和
天皇を残すためにそういう9条ができてしまった
というのは汚点だったかもしれない、汚点だった
かもしれないけど、戦後国民の側が努力をして平
和運動の中で取りあえず生かしていくことによっ
て、さまざまな軍事的選択を抑えてきたわけです。
60 年安保の際に自衛隊投入を抑えた、ベトナム戦
争にも軍隊を派遣してない。それから 94 年の核危
機のときにも取りあえずアメリカが軍事的オプシ
ョンとるのに妨げになった。
そういう形で武力によるさまざまな紛争解決に
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対して歯止めをかけてきたわけですが、これ自動
的にかかってくるわけじゃないわけです。国民の
運動とか意識が背景にあってのことです。すると、
もし国民の中でそういう平和を守ろうという意識
がなくなっていってしまえば、日本の近くでもさ
まざまな戦争があり、日本の軍隊が人を殺し、殺
されということがあったでしょう。けれども、僕
たちは、取りあえず自分の国がそういうことをさ
せないということをやってきたということは、誇
るべき事柄だと思います。
そもそも僕は、政府にとって嫌われる憲法を持
っている国民は、幸いなるかなという気がしてい
ます。そもそも憲法というのは国家権力を制約す
るものなわけですから、政府にとって嫌なものな
わけです。これだけ変えたいといわれている憲法
を僕たちは守ってきた、これ僕、すごく誇るべき
ことだと思いますし、幸いなことだと思っていま
す。政府から嫌われる憲法を持つということ、こ
れはやっぱり国民にとってこれほど素晴らしいこ
とはないと思っています。
他方、冒頭お話しした最近の読売改憲試案とか
自民党の改憲案というのは、国民を義務付けるわ
けですから、政府に対する義務付けというのは実
は弱いんです。ということは、政府にとってあり
がたい憲法なんです。政府にとってありがたい憲
法の最もすごい代表例は何かというと、これは明
治憲法です。だって、いざというときには、議会
によらずに予算を立てられるわけです。軍事的な
ものとかに関しては。
ということを考えますと、やはり今、だからこ
そ憲法を守っていく意味があると思います。僕、
今岐路にあると思っているんです。ブッシュのよ
うなああいうのが続いていくとは僕は思っていま
せん。理想主義といわれるかもしれませんが、冒
頭話しましたが、ああいう社会、あれだけ品格の
ない国家、そういうのが存在し続けることは信じ
たくないと思っていますので、そうはならないは
ずだと信じています。としますと、そのような品
格のない国家が続くのを少しでも短くするために
も、絶対に憲法を改正してはいけないと僕は思う
んです。さらに、現在もまだ憲法があるからこそ
政府にできないことはたくさんあるわけですから、
そのことをちゃんと見て、かつ日々やはり国民の
間で憲法を守ろうと意識が高まっていくことが、
実は日本政府が誤ったことをやらないという一番
の歯止めになると思いますので、皆さんと一緒に
頑張っていきたいと思います。
どうも、ありがとうございました。
資料:講演レジュメ
平和憲法の価値を改めて考える――イラク派兵と改憲動向に抗して
愛 敬 浩 二(名古屋大学)
1 「憲法」とは何か?
(1)愛は強制できない?
①シェークスピア『リア王』におけるリアとコーディリアの対立
*「国を愛すること」の意味と無意味
②2004 年読売改憲試案前文→国民は憲法を愛する義務がある?
Cf. 日本国憲法 99 条→国民が含まれていないことの意味
(2)なぜ憲法は「国家の基本法」なのか?
①国家の基本法→社会の変化に伴って「新憲法」が必要?
②立憲主義→法による国家権力の制約→国家権力を縛るからこそ、最高法規
*利害・価値観を異にする個人の共生を可能にする法的枠組を提供してくれるからこそ、それぞれの
人々(私たち)が憲法を愛することができる→資料3:ヴォネガットの講演
*日本国憲法と明治憲法(大日本帝国憲法)の決定的な差異
2 平和憲法の「原点」と「効用」
(1)日本国憲法の制定と憲法9条の成立→9条という「リアリズム」
*国連憲章と憲法9条――継承と断絶(=飛躍)
①敗戦国の武装解除と「日本からの安全保障」
②憲法9条は避雷針?→1条(天皇)と9条の関係
(2)押し付けられた再軍備
①朝鮮戦争と再軍備
②片面講和と日米安全保障条約
③50 年代改憲動向と国民の平和意識
(3)憲法9条の効用
①60 年代安保闘争時の自衛隊投入論
②ベトナム戦争に 30 万人以上派兵した韓国は 3793 人の戦死者を出した
③94 年北朝鮮危機における有事法制不備の効用
(4)イラク派兵と有事法制の整備で「9条の効用」は失われたのか?
3 現代改憲動向を読む
(1)政党の改憲構想の読み方
①両院3分の2の発議要件→自民・民主の合同作業→類似点・共通点に注目すべき
②読売改憲試案 2004 や財界等の改憲構想との共通点に注目
③憲法観の変化と改憲正当化論:「新憲法」という呼称や国民主権の援用
(2)軍事法制整備の思惑と改憲の理由
①グローバル市場の拡大・維持のための米国の軍事行動に対する軍事的支援の実施と円滑化
②日本企業が特殊権益を持つ地域の安定のための軍事的プレゼンスの確保
*1 集団的自衛権:A国とB国が同盟関係にあり、C国がA国を攻撃した場合、B国が自国への攻撃
がないにもかかわらず、C国を攻撃する権利
*2 現在の政府解釈の立場:日本も主権国家である以上、当然に集団的自衛権を有するが、憲法9条
との関係で行使できない
(3)米軍再編問題と国連安保理常任理事国入り問題
(4)微妙な国民意識と「9条改憲の後景化」
①「新しい人権」は必要?
②「国民主権の実践」としての改憲?
③「解釈改憲最悪論」の蔓延→有事法制論議の頃の「法治国家」論
4 いま何を考えるべきか
(1)「憲法」は何のためにあるのか?
①改憲論の憲法観――「この国のかたち」=国民の目指す国家像→国民の行為規範
②日本国憲法 99 条「憲法尊重擁護義務」の思想→国民が政府に憲法を押し付ける
③日本国憲法の歴史から学ぶべきこと
(2)平和のための想像力
①ドイツ再軍備と日本――「分断国家」という現実&「過去の克服」という努力
②バトン・ルージュ事件(1992 年)の「教訓」と『ボーリング・フォー・コロンバイン』
(3)新しい「護憲」の語り口を求めて
*「護るだけでいいのか?」という批判にどう答えるか? Cf.民主党「中間報告」の「護憲派」批判
*「非武装中立は無責任だ!」という批判にどう答えるか?
*「解釈改憲は最悪!」という批判にどう答えるか→改憲による新たな歯止めという議論
①軍事法制の展開や改憲動向の客観的な分析 cf. 愛知県のある公立高校の討論会での経験
②「武力による平和」と「武力によらない平和」の岐路→米軍基地を抱える日本の国際的役割
③立川テント村事件と邦人人質の「自己責任論」→「自由の下支えとしての9条」(樋口陽一)
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