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後発医薬品のさらなる使用促進のために(PDF/2128KB)

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後発医薬品のさらなる使用促進のために(PDF/2128KB)
vol.11 2016
社会動向レポート
後発医薬品のさらなる使用促進のために
~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
社会政策コンサルティング部
マネジャー 田中 陽香
後発医薬品の使用促進にあたっては、都道府県単位、さらにはそれよりも狭い地域単位で関係
者を集めた協議等の具体的な取組みが実践されるようになっている。後発医薬品の使用促進には
使用する側の体制や意識を変えていくことが必要であり、薬価や診療報酬等、国の医療保険政策
による誘導だけではなく、地域の顔の見える関係性を築く等の地道な取組みも重要である。本稿
では、そうした後発医薬品の使用促進に向けた取組みを紹介する。
1. 後発医薬品使用対策の現状
(1)国全体での目標値を掲げての後発医薬品使
用対策
までに、後発医薬品の使用割合を60%までに
するという目標値も盛り込まれていた。
ロードマップの公表後、後発医薬品の使用
割合は順調に伸びており、公表時点の平成25
ジェネリック医薬品とも呼ばれる後発医薬品
年4月の時点で53.8%だったものが、平成27年
は、我々が疾病の治療の際に使用する医療用医
2月の時点では58.2%となり、ロードマップの
薬品の中でも、治療効果を発揮する有効成分や
目標値は、早々に達成されることが見込まれる
使い方についての特許がきれた医薬品と同じ
状態となっている。これは、ロードマップにも
有効成分で、効き目や品質、安全性が同等であ
明記された関係者たちの努力の結果であると言
る医薬品である。研究開発や特許取得にかかる
えるが、国は規制改革等の流れの中で、後発医
コストが抑えられるため、後発医薬品は新規に
薬品についてのさらなる使用促進を求め、ロー
開発される新薬と比べ、低価格に設定されて
ドマップの時点よりも前倒しかつ高い目標とし
いる。
て、2015年の経済財政運営と改革の基本方針
そのため後発医薬品は医療費適正化の切り札
(骨太の方針)において、平成29年度央の時点
としての役割が期待され、近年国が中心とな
で70%以上、平成30 ~ 32年度の間に80%以上
り、使用促進に向けた取組みが展開されてき
が設定された。
た。平成19年10月に公表された「後発医薬品
の安心使用促進アクションプログラム」に続き、
1
(2)地域で異なる後発医薬品の使用割合
平成25年4月には「後発医薬品のさらなる使用
より高い目標値の達成を実現するには、後発
促進のためのロードマップ」
(以下「ロードマッ
医薬品メーカーによる増産をはじめとして供給
プ」という)が示され、国をはじめとした行政
側の努力が必要なことは言うまでもないが、後
機関・メーカー・卸・医療機関・薬局等が一丸
発医薬品を使用する側の体制や意識を変えてい
となって、使用促進に取組み、平成30年3月末
くことも一つの大きな要素となる。その際着目
後発医薬品のさらなる使用促進のために ~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
すべきは、後発医薬品の使用割合は、地域に
よって大きな違いがあることである。平成27
年5月時点での国全体の後発医薬品の使用割合
2. 地域での後発医薬品使用対策
(1)都道府県レベルでの後発医薬品使用対策
は、58.8%であるものの、もっとも使用割合の
後発医薬品の使用に関して都道府県のレベル
高い県と低い県の間では20ポイント以上の差
で医師会、薬剤師会、保険者の代表者、有識者
が見られる。
等の関係者が集っての協議は、平成16年度に
このように、後発医薬品の使用状況について
富山県において「ジェネリック医薬品利用促進
は、地域ごとにそれぞれ事情も異なることか
研究会」が設置されたのが端緒となった。その
ら、厚生労働省は平成20年度より、後発医薬
後、いくつかの県で自発的に後発医薬品につい
品の使用に関し、都道府県単位で関係者を集め
ての協議会が設置、検討がなされていたが、平
た協議会を開催することを委託事業とし、地域
成20年度より厚生労働省が後発医薬品の使用
単位での取組みを促進してきた。こうした地域
促進に関する協議会の運営を都道府県への委託
単位での取組みは、全国一律での施策だけでは
事業としたことにより、協議会設置の動きは全
他人事となりがちなことを、地域の身近な関係
国各地に広がっていった。
者での議論により、自分事としてとらえる機会
関係者が集っての都道府県協議会は、必ずし
ともなり、具体的な取組みの実行にもつながる
も後発医薬品の使用に前向きではない関係者も
ものとなっている。そこで、本稿では、後発医
いたため、地域によってその名称は様々で、
「後
薬品の使用促進に大きな役割を果たすことが期
発医薬品適正使用」であったり、「後発医薬品
待される地域単位での取組みについて紹介する
安心利用」というようなものも用いられていた。
こととする。
そうした背景のもと、協議会では後発医薬品を
積極的に使用するための土壌を作るための議論
ばかりではなかったが、後発医薬品の使用促進
図表1 滋賀県後発医薬品採用マニュアル(滋賀県後発医薬品安心使用促進協議会)の抜粋
(資料)滋賀県ホームページ http://www.pref.shiga.lg.jp/e/imuyakumu/generic/files/100330manual.pdf
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vol.11 2016
に資する具体的な取組みに向けた議論を展開し
ざまであり、地域によって同じ有効成分ごとの
てきたところも多い。都道府県協議会による具
メーカー別の採用病院数や病院ごとの採用メー
体的取組みとして実行されてきたものとして
カー名が分かったりする。メーカー別の採用病
は、一般住民や医療機関関係者等を対象とした
院数が分かると、後発医薬品の採用を検討する
実態調査の実施、後発医薬品の使用促進のため
際に複数のメーカーの間で比較検討し採用する
の計画の策定や目標の設定、後発医薬品の採用
後発医薬品を選定する作業に十分な人員を割く
を判断するためのツール類(評価基準、採用マ
余裕のない規模の小さい医療機関や薬局にとっ
ニュアル、後発医薬品リスト等)の作成、啓発
ては、
「採用病院数が多い」=「ある程度使用実
資料(リーフレット・ポスター等)の作成・配布、
績が積み上げられている」≒「安心して使用でき
セミナー・シンポジウム・研修会の開催、地域
る後発医薬品である」という代替的な指標とし
協議会の開催が主なものとして挙げられる。
て参考にされる。さらに、地域の入院医療を担
上記の取組みのうち、後発医薬品の評価基準
う医療機関の院内採用薬と同じメーカーのもの
や採用マニュアルについては、それまで後発医
採用するということは、患者が退院して地域に
薬品の採用に積極的ではなった機関が、より安
戻った際に、同じ医薬品を使い続けることがで
心して使用できる後発医薬品を選ぶ際の手助け
きることになるため、地域の基幹病院等の採用
となるものとして、都道府県内の関係機関向け
後発医薬品に関する情報は、周辺の医療機関や
に発信されていた。
薬局にとっても参考になると思われる。その他、
また、多くの都道府県において、地域の実
一部地域では、卸業者の在庫情報をもとにリス
情を反映できる具体的なものとして作成されて
トを作成し、地域で流通している後発医薬品が
いるのが、後発医薬品の採用リストである。掲
分かるようになったり、リストに薬価(作成時
載されている情報の項目や単位、情報源はさま
点のもの)の情報も盛り込んでいる場合もある。
図表2 後発医薬品リストの情報源や掲載情報
都
道
リストの情報源
府
県
名
北海道 道内7モデル病院
岩手 県医療局
福島 県内中核16病院
県内19病院
栃木
県内薬局
埼玉 熊谷地域における卸業者
富山 県内25病院
長野 県内薬局
静岡 県内59医療機関
滋賀 県内45病院
兵庫 県内138病院、1572薬局
鳥取 県内45病院
岡山 県内23病院
広島 県内18病院
山口 県内18病院
香川 県内18病院
愛媛 県内55病院
高知 県内5病院
福岡 県内基幹12病院
佐賀 県内8病院
長崎 県内薬局
熊本 県内中核62病院
大分 県内基幹7病院
掲載内容
後発医薬品
名称
規格
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(資料)各県ホームページより筆者作成
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薬価
先発医薬品
メーカー
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名称
規格
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薬価
メーカー
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一般名
医薬品
コード
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その他
採用病院名
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薬効
分類
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採用病院名
取扱・在庫あり薬局数
取扱卸業者名
販売会社名、採用病院名
後発医薬品への変更実績件数
採用医療機関数
採用病院数、採用薬局数
採用病院数
採用病院数、一部採用病院名
購入数量
採用病院数
採用病院数、一部採用病院名
採用病院数、名
地区別採用病院数
○
地区別採用病院数
採用病院数
後発医薬品のさらなる使用促進のために ~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
(2)より顔の見える地域レベルでの後発医薬品
使用対策の取組み
成する」というような具体的な作業が見えない
となかなか議論が進まない。そのため、福岡県
こうした県レベルでの取組みとあわせて、い
の各地区では、保険者(国保)が被保険者に対
くつかの県では、具体的な活動を進めるため
しての差額通知事業やジェネリック医薬品希望
に、より顔の見える関係性が築きやすい単位で
カードの配布を共同で行うことや、それぞれの
ある保健所管轄地域ほどの単位で協議会をつく
地区で多く使用される後発医薬品を選定し、地
る取組みが進められている。その中でも最も活
域において共同で備蓄しようという試みを進
発な取組みがなされているのが福岡県であり、
めてきた。
平成23年度より筑紫地区と飯塚地区で福岡県
その中の一例として挙げられるのが、後発医
ジェネリック医薬品使用促進協議会のモデル事
薬品の備蓄のための体制整備である。筑紫地
業として地域単位での協議をはじめ、各種取組
区、飯塚地区とも地域協議会のもとに備蓄体制
みを進めてきたことを皮切りに、北九州地区、
等検討委員会を設け、地域の基幹病院の薬剤部
福岡地区、八女筑後地区と県内の複数の地域に
と薬局の代表者がメンバーとなり、具体的な体
おいて地域協議会での検討を進めてきている。
制整備のための検討を行った。地域における後
ただし、単に医療機関、薬局、保険者等の代
発医薬品選定基準を作成・公表し、実際に地域
表者が集って単に後発医薬品の使用を促進す
において共同で備蓄する後発医薬品を選定、選
るべく議論する場を作っても、「汎用リストを作
定した後発医薬品を地域の基幹薬局に備蓄し、
図表3 筑紫・飯塚地区をモデル地区とした地域協議会
(資料)福岡県ホームページ http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/106555_17822914_misc.pdf
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後発医薬品の融通を行った。また、地域で選定
え、その分を新薬の開発等、これまで治療する
した後発医薬品についてはそのリストをポス
ことができなかった分野で使用できるようにす
ターにもして、一般の患者も薬局で目にするこ
るということは必要不可欠なことである。そう
とができるようにした。
した一端を担うという考えのもと、各地域にお
3. まとめと考察
国全体として後発医薬品の使用促進をさらに
いて、地域の実情に応じた創意工夫を行いなが
ら、後発医薬品の使用促進に向けた具体的な取
組みを期待したい。
進めていくには、同時に薬価や診療報酬等、国
の医療保険政策も大きな影響を与えるものであ
本稿は、平成27年5月29日の行政改革推進会
る。事実、過去には何回も後発医薬品の使用割
議歳出改革ワーキンググループ重要課題検証サ
合を高めるべく、診療報酬等での誘導がなさ
ブ・グループで筆者が行った発表内容をもとに
れてきた。特に平成24年度の診療報酬改定で、
したものである。
医師が薬を処方する際、商品名ではなく成分名
(一般名)で処方する一般名処方に対し加算が
導入された際には、後発医薬品の使用割合が大
きく伸びた。また、平成26年度改定において、
DPC 病院(入院診療費を病気の種類と診療の内
容によって分類された DPC という区分に基づ
いてあらかじめ国が定めた1日当たりの定額部
分と出来高による部分とを組み合わせて計算す
る方式を採用している病院)の機能評価係数の
一つとして後発医薬品が盛り込まれたことによ
り、入院医療における後発医薬品の使用も進ん
だのではないかと考えられる。
こうした誘導策は即効性があり、目に見えて
使用が進むものではあるが、後発医薬品を使う
側の医師、薬剤師をはじめとした医療者、さら
にはエンドユーザーたる患者の意識を変えるに
は、マスコミ等を通じた普及啓発と並んで、地
域の顔の見える関係での地道な取組みが重要に
なると思われる。それには、国や県レベルで広
域での検討だけではなく、地域協議会のよう
な、ある程度狭い範囲で具体的な作業項目を設
定しながら、議論を繰り返していくという取組
みは、一定の効果があるものと思われる。
止めることのできない高齢化により医療費が
増え続ける中、効率化できる部分で医療費を抑
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