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【報告】スリランカ国における土砂災害のソフト対策に関する技術
報 告 スリランカ国における土砂災害の ソフト対策に関する技術協力 (短期専門家活動) ◆ 石 井 靖 雄*・國 友 優**◆ 1.はじめに 筆者らは,1月8~17日に,JICA 短期専門家 としてスリランカ国(以下,ス国という)に派遣 された。これは,ス国で進められている土砂災害 する。TCLMP 等については,長期専門家・判田 乾一氏の既報(判田,2015a;判田,2015b;判田, 2016)を参照いただきたい。 2.今回の派遣の目的と行程 対策強化プロジェクト(TCLMP)の一部である 調査日程は,表-1に示すとおりであった。 ソフト対策技術の技術移転を目的としたもので NBRO スタッフに対しては,土砂災害危険箇所 あった。今回の派遣では,技術移転の相手先であ の調査方法,土砂災害警戒避難基準雨量の設定手 る NBRO(国家建築研究所)スタッフへの研修 法についての研修を行った。現地調査は,スリラ の実施,関係省庁の参加による防災セミナーでの ンカ中央付近の標高700~1,800m の山地集落で発 日本の技術紹介,パイロットプロジェクトサイト 生した崩壊,地すべり,土石流の災害現場を調査した。 等の現地調査を行った。今回の派遣で,著者らの 受けた印象は次の通りであった。 ・防災セミナーには災害管理省次官が出席される など,TCLMP プロジェクトへの関心は高い。 ・NBRO の職員は技術力が高く,熱心。具体的 に不足している部分に対して集中的に技術移転 を図れば,日本の海外技術協力の模範となりう るポテンシャルを秘めている。 ・特に,地すべりの移動観測等の調査技術,土砂 災害警戒避難基準雨量,土砂災害警戒区域指定 等の具体的な技術の移転は効果的。 ・防災制度の改善メカニズムの導入が今後の課題。 本稿では,上記の印象を受けることになった防 災セミナーのほか,NBRO スタッフへの研修, 現地調査を通して感じたス国の技術的課題を紹介 表-1 調査日程 月日 1月8日 1月9日 1月10日 1月11日 1月12日 1月13日 1月14日 1月15日 1月16日 1月17日 行程 日本出国 スリランカ入国,現地調査(Koslanda) 現地調査(Badulla, Nuwara Eliya, Kotmale) NBRO 打ち合わせ NBRO スタッフへの研修・討議 NBRO スタッフへの研修・討議 午前:防災ワークショップ,午後:防災 セミナー 現地調査(Matale, Kandy),打ち合わせ スリランカ出国 日本入国 3.防災セミナー及びワークショップ 防災セミナーは1月14日に開催された。午前中 *Yasuo Ishii 国立研究開発法人土木研究所土砂管理研究グループ地すべりチーム上席研究員 **Masaru Kunitomo 国土交通省国土技術政策総合研究所土砂災害研究部土砂災害研究室長 51 砂防と治水〈第230号〉平成28.4.20 写真−1 グループ討論後の質疑,軍関係者からの質問の様子 は防災ワークショップが開催され,災害管理省, 意識を維持しようとしているのかという質問もあっ NBRO,軍関係者50名が参加し,いくつかの話題 た。日本との制度や意識の違いからきている質問 提供の後に,グループ討論と討議結果報告,質疑 もあった一方で,日本でも取り組みを始めたよう 応答が行われた。これは,関係組織を横断し今後 な課題についての質問もあり,ス国の防災意識の の課題を共有化しようというものであった(写真 高さを伺うことができた。 -1)。このセミナーでは,國友が「土砂災害対 セミナーの終わりに,NBRO 所長は,降雨に 策(特に非構造対策)の改善の歴史」を紹介した よる避難基準設定を今後進めていく予定であるこ ほか,石井が「土砂災害発生の徴候が認められた と,日本のように地すべりの変位速度を基準値と 時の危険箇所の調査方法」を紹介した。 した避難体制についても検討していく必要がある 午後は防災セミナーで,午前中の参加機関に加 ことを挨拶し,締めくくった。災害管理省次官は え,気象局,大学,民間企業等幅広い機関から68 名の参加者を得て開催された。セミナーには災害 管理省次官,NBRO 所長などが参加し,國友が 「土砂災害対策(特に非構造対策)の改善の歴史 (平成26年広島災害を受けた改善に係る具体的取 り組み)」について,石井が「緊急対応における 変位量計測とそれに基づく避難勧告発令の事例」 について講演を行った。 質疑応答は非常に積極的で,深刻な災害の発生 をふまえ立地規制も強化することになったのか, 県が対策の実施を拒否することはないのか,避難 しなかった住民に罰則があるのか等といった質問 があった。また,どうやって,住民,会社の防災 52 写真−2 災害管理省ミヤナラワ次官,休憩時間中に 國友専門家と懇談,その後セミナー終了ま でこの席で聴講 スリランカ国における土砂災害のソフト対策に関する技術協力(短期専門家活動) オープニングの挨拶だけでなく,全ての講演を聴 質問があり,意欲的に専門知識を習得しようとす 講された。日本の技術・制度に対する関心の高さ る姿勢が見られた(写真-3)。 が伺われた(写真-2)。 今後の課題としては,習得した技術を実際の現 4.ス国の土砂災害と技術的課題 場で活用するという経験が少なく,実務で生じる 課題についての助言が重要と感じられた。また, 今回,TCLMP プロジェクトのサイト4箇所と, 県の要請をうけて現地調査を行い今後の対応策を 2014年10月に発生した Koslanda 地すべり,2015年 助言しても,県は対策を実施することはほとんど 9月に発生した Kotmale 災害(表層崩壊が土石 ないようであった。対策を実際に実行できる国家 流化)の6箇所を現地調査した。今回の調査箇所 レベルでの法制度などの枠組み,体制の整備,予 では,褐色にラテライト化したような地盤で崩壊 算措置が,専門的技術・知識の移転と併せ,重要 や地すべりが発生し,土石流化していた事例がみ な課題と考えられた。 られた。いずれもその後対策は講じられていない。 NBRO では,独自の降雨量観測と,過去の GIS しかしながら,熱心に調査は行われ,上部からの ベースで整理された災害データとつきあわせた分 沢水の流入が関与していることなど発生機構につ 析による警戒避難基準値の検討事例を紹介してい いても,一定の知見が得られているようであった。 ただいた。しかし,それは実際の対策には結びつ Kandy のパイロットプロジェクトサイトの担 いていないようであった。日本の基準値設定手法 当者は,JICA 課題別研修(土砂災害防止マネー のさらなる技術移転に加え,実務で活用していく ジメント)参加者で,15日がス国の祝日であるに 体制の整備が重要と考えられた。 も 関 わ ら ず 現 地 調 査 に 同 行 し て い た だ い た。 NBRO 部長が,訪日集団研修に参加して以降, 5.おわりに 仕事に積極性が出てきたと喜んでいたことも印象 帰国前日,NBRO 部長が当方の宿泊先にわざ 的であった。今後,日本で技術を習得した技術者 わざ挨拶にお越しになられた。昔の日本的ともい が核となり,技術発展につながることが期待され えるような丁寧な姿勢に恐縮した一方,日本の技 る。 術協力に対する期待の大きさが伺われた。 このように,スリランカ人は概ねまじめで熱心, スリランカ人と言えば,筆者らは毎朝のワンポ 基礎的技術も一定程度理解しており,さらなる技 イント英語で知られたウィッキーさんが思い浮か 術習得に向け,熱心に勉強している印象を受けた。 ぶ。しかし,戦後の日本の命運を左右するような NBRO スタッフへの研修・討議では終了後にも 重要なスピーチをサンフランシスコ講話会議で行っ たジャヤワルダナ蔵相を忘れてはいけないようで ある。以前,(一社)国際砂防協会の大井英臣氏 があるセミナーで話されていたことを,今回の派 遣をきっかけに思い出した。スリランカは,実に 日本に近い国であるのかもしれない。 写真−3 NBRO スタッフへの研修終了後の質疑の 様子 〈引用文献〉 判田乾一(2015a) :スリランカ民主社会主義共和国土 砂災害対策強化プロジェクト,砂防と治水,Vol.47, No.6,pp.104-107. 判田乾一(2015b):スリランカ生活,砂防と治水, Vol.48,No.5,pp.87-90. 判田乾一(2016):スリランカでの土砂災害対策, SABO,Vol.119,pp.28-32. 53