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∼MOE2.0ISM 新萌え主義∼ <2006 年春期アニメ 103 本> 2006 年春期アニメ(4 月始まり)は 103 本が放映されるという過去最大のアニメ本数の時 期となりました。しかしその全てがビジネス的に成功するとは限りません。むしろ本数の 増加は競争の激化を招いています。そのため作れば売れるという時代では既に無くなって おり、それぞれに利益を上げる為のプランを考える必要が発生します。つまり 100 本放映 されていると言うことは 100 通りのビジネスモデルを構築しているのです。しかし、それ でもやはり勝ち組になるのはほんの一握りの作品だけです。 その中で 2006 年春期最大の勝ち組は「涼宮ハルヒの憂鬱」である事はそれほど異論はな いと思います。 1. Blog での言及数が他のアニメよりも多い 2. 多数の MAD が作成され YOUTUBE にアップされ話題になった 3. エンディングテーマがオリコン 5 位、その他の関連 CD も ORICON 上位にラン キング 4. オープニング曲「冒険でしょでしょ」は累計 7 万本以上のロングラン 5. DVD 限定版(図 000)が予約で 5 万本(参考:ガンダム SEED DESTENY の DVD 販売は単巻約 10 万本販売) 6. 原作本が書店から品切れ、累計 280 万部(8 巻合計) 7. Amazon の書籍や DVD ランキングを涼宮ハルヒ関連商品で独占 8. オンリー即売会が異常とも言えるハイペースで開催 9. R25 などアニメと無縁なメディアでも取り上げられる 図 朝比奈ミクルの冒険 8 番は狭い世界での話なのでブームの根拠として異論もあ るとは思いますが、同人世界での熱気が表われた例だと思 います。 <涼宮ハルヒブームの要因> ネット上では涼宮ハルヒについての言及数は、他のアニメ と比較すると、際だって多い状態にあります。毎週の感想 をまとめたキャプ日記やイラストサイトも多いのですが、 そのストーリーについて様々な視点で考察をしたサイトも 多く有ります。そして何より涼宮ハルヒのネットでの言及について特徴的なのは「マーケ ティング的」な分析を行っているサイトが多い事だと言えます。それは「涼宮ハルヒの憂 鬱」というアニメ作品の商業的な成功が非常に良い事だと捉えられているからだと考えら れます。 「涼宮ハルヒの憂鬱」のマーケティング的分析を行っているサイトや Blog には多くの成 功要因が分析されています。ここでは、その重 図 ライブアライブ 要と思われる 17 のポイントを簡単におさらい してみましょう。 ① ライブアライブ 「涼宮ハルヒの憂鬱」12 話の副題です。この回 の最大のポイントは劇中ハルヒたちがライブ で「God Knows・・・」「Lost my music」を演奏 するシーンです。その作画のすばらしさにネッ ト上で絶賛されました。また販売手法として巧 妙だったのは、この回が終わった直後に「涼宮ハルヒの詰合」という上記の 2 曲が収録さ れた CM が流れた事です。正確に表現すると、それ以前から CM は流れていましたが、恋 のミクル伝説がメインの CM で他曲は題名だけ紹介されていただけでした。そしてこのラ イブシーンライブ PV として秋葉原の店頭で盛んに放映されました。これも CD のプロモ ーション効果を高める事に繋がり、ORICON5 位を記録しました。 ② 事前の情報非開示 図 SOS 団公式サイトバナー 通常アニメ情報誌にはその月の アニメの内容説明が紹介されて います。しかし「涼宮ハルヒの憂 鬱」は先の内容を一切アニメ誌に公開しませんでした。ストーリーを原作通り展開しない 「話数シャッフル」を行っている事もあり、TV で初めて涼宮ハルヒを知った新規ユーザ ーだけでなく原作読了組も含めて先を一切予測できない展開となり、TV を毎週みる様促 す効果を発揮しました。またネット上では原作読了組が今後どのエピソードがアニメに使 用されるかを予測する「予測合戦」を繰り広げました。また通常アニメ開始前に立ち上が る公式サイトも 4 月中旬までなく、代わりに「SOS 団公式サイト」という作品内で作られ るサイトが実際に開設され、しかも情報的な要素が一切なかった為一部で話題となりまし た。この公式サイトにはもう一つ重要な役割があるのですが、今は触れません。 ③ コミカライズ 図 コミック版ハルヒ 涼宮ハルヒのコミック版は少年エースで 2005 年 11 月号より連 載をされています。タイミングとしては「涼宮ハルヒの陰謀」 と同時で、アニメ化発表の翌月に当たります。これはコミック 連載によってアニメ前のお祭りムードを高めると同時に、アニ メ放映期間にコミック新刊を発売する事を目的としています。 アニメ放映から逆算して商品展開の準備をする事によって「書 店占領」を可能としました。 ④ 話数シャッフル 原作読了組にも楽しんで貰う為にストーリーの展開が予測できない「話数シャッフル」と いう手法を涼宮ハルヒは採用しています。これはストーリーを順番通り展開しない方法で、 来週どんな話が放映されるか次週予告まで予測できない状況を生み出しました。上記の 「事前の情報非開示」と同様にネット上で「予測合戦」を生じさせる効果がありました。 ⑤ ツンデレ要素 2005 年最も流行した属性は「ツンデレ」です。涼宮ハルヒと長門有希は「ツンデレ」キ ャラとして視聴者に解釈されました。詳しくは後述しますが、これは「話数シャッフル」 によって生み出された効果です。 ⑥ 神作画 アニメーション制作を行った「京都アニメーション」は TV アニメ「AIR」で丁寧な演出、 原作理解の深さ、作画レベルの高さという 3 点で高い評価を得ていました。今回の涼宮ハ ルヒについてもこの 3 つのポイントで高いレベルの品質を維持しました。特に作画レベル においては「神作画」と呼ぶに相応しいクオリティで、エンディング「ハレ晴レユカイ」 でのダンスシーンや「ライブアライブ」のライブシーンではその実力を遺憾なく発揮しま した。 ⑦ ORICON1 位運動 4/3 頃に2ちゃんねるで、 「涼宮ハルヒの憂鬱の ED をオリコン 1 位にする」スレが発生し 図 オリコン対象店明示 ネット上で話題となりました。 「ハレ晴レユカイ」のダンスシ ーンが話題となった事からこの運動はネットを中心に広がり 秋葉原で 4/30 予約、5/10 回収という 2 つのハレ晴レ OFF が 開催されました。またこの ORICON1 位運動にはアキバの各 アニメショップも積極的に販促活動を行い、発売日には CD 売り場はハルヒ一色となりました。ORICON での結果は 5 位に終わりましたが、7 月時点で 7 万枚以上販売するアニメ CD としては大ヒットを記録しました。 図 恋のミクル伝説 ⑧ 電波ソング 1 話「朝比奈ミクルの冒険」でのテーマソング「恋のミクル伝説」は、 その奇妙な歌詞、へたくそな歌から一回聞くと頭から離れない印象的 (笑)な電波ソングです。 「電波ソング」はコンテンツを記憶にとどめ る効果があるため、アダルトゲームで一時期積極的に使用されました。 今回の「恋のミクル伝説」では放送直後からアキバのアニメショップ などで店内 BGM として頻繁に流され、涼宮ハルヒの DVD 販促に大 きな効果を発揮しました。 ⑨ 原作欠品 アニメ放映直後から原作本が手に入りにくくなり、4 月末頃から 5 月末までの 1 ヶ月程度 は 1∼3 巻が全く手に入らない状態となりました。この欠品状態はネットでも頻繁に取り 上げられプレミア感を煽る結果となり、1 巻初版がネットオークションで 1 万円以上の値 を付ける事態となりました。また原作 1 巻が手に入らない為、新規ユーザーはアニメの先 の展開を事前に知ることができない状況を生み出しました。これは「話数シャッフル」 「事 前の情報非開示」と同様の効果と言えます。 ⑩ YOUTUBE インターネット上に個人ユーザーが作成した動画を公開するサービスを展開する 「YOUTUBE」に涼宮ハルヒのエンディング「ハレ晴レユカイ」を使用した MAD ムービ ーが多く登場しました。この「YOUTUBE」の特徴の一つは動画にリンクを貼ることがで きる事で、その事から Blog でも口コミ効果を生み出し、涼宮ハルヒの知名度を高める効 果を生み出しました。 ⑪ 書店占領 図 SOS キャンペーン 「原作欠品」状態が解消した 6 月に、コミック 2 巻発売を皮切 りとした SOS キャンペーンが各書店で展開されました。角川書 店が展開したこのキャンペーンは対象商品自体は原作本「涼宮 ハルヒの憤慨」 、コミック 1∼2 巻でしたが、この期間に涼宮ハ ルヒを表紙に配した雑誌が多数発売されました。これにより書 店で涼宮ハルヒ関連本だけのコーナーを作る事が可能となりま した。特にアキバのアニメショップは CD・DVD なども販売す る複合書店がほとんどである事から、CD・DVD などと併売す るコーナー展開が積極的に行われました。この一連の動きを SOS 団が「書店占領」を行ったという形になっています。 ⑫ 同人ジャンル化 「同人ジャンル化」とは同じ作品を題材にした「二次創作物」作品が多く生まれる事によ ってカテゴリーを形成する事です。認知度が増したり作品供給が安定する効果があります。 「同人ジャンル化」し易い作品とは「魅力的なキャラ」「豊富なエピソード」「先物買い」 の 3 要素が必要になります。 「豊富なカップリング」も重要と良く言われますが、これは 厳密には間違いです。これについては後述します。涼宮ハルヒの場合には「先物買い」感 が生じる中、涼宮ハルヒと長門有希のキャラをうまく提示する事に成功しました。また「ラ イトノベル」としてアニメ放映時点で 7∼8 巻発売している為、 「豊富なエピソード」が準 備されていた事も功を奏しました。 ⑬ オンリーイベント開催 「オンリーイベント」とは一つのジャンルや作品に絞って開催される同人誌即売会です。 元々はそのジャンルや作品が好きな人た 図 各オンリーイベントチラシ ちが集まりワイワイ楽しもうと企画した もので「お茶会」と呼ばれる交流を目的と した茶話会があるのが特徴でした。コミケ が巨大化してファン同士の交流機能が低 下したため、同人誌即売会が本来持ってい た交流会機能を復活させようとした事も 発生要因です。しかし現在は、男性形イベ ントで特に顕著ですが、そのジャンルや作 品の同人誌と欲しい一般参加者を効率的 に集める「ターゲットメディア」としての機能が中心となっています。またそのジャンル・ 作品の人気の指標をはかるマーケティング機能や、新刊発売やお祭りムードを盛り上げる プロモーション効果も発揮しています。涼宮ハルヒの場合 4 月 26 日前後からオンリーイ ベント開催が立て続けて告知されました。通常イベント開催には最低でも半年程度の準備 期間が必要ですが今回は 7 月上旬開催と 2.5 ヶ月程度でのスピード開催となりました。こ のスピード開催の結果 1 クールアニメにも関わらず放映期間中に同人誌のジャンル形成に 成功しました。 ⑭ DVD 限定版 アニメ DVD は初巻を買った人がそれ以降も買い続ける「継続率」が高いと言われていま す。その為商戦のポイントは以下に初巻を買って貰うかになります。限定版とは「数量・ 期間限定によるプレミア感形成」 「予約促進による事前データ取得」 「単価増による売上増」 が効果としてあります。しかし今回の涼宮ハルヒの場合の最大のポイントは通常版と限定 版の価格差です。僅か 1000 円の価格差は事実上限定版のみの販売を想定しています。価 格差が高すぎるとプレミア感より商売色が前面にでてしまいます。価格差がこれより安け れば、そもそも意味がありません。非常にバランスのとれた価格設定だと言えます。 ⑮ 平野綾本格デビュー 涼宮ハルヒ役の平野綾さんは 1987 年生まれの 19 歳で現在大 学在学中です。声優としては 2001 年「天使のしっぽ」でデビ ュー、2002 年には「Springs」というバンドを結成し、2003 年には CD デビューもしています。高校卒業を機に本格的な デビュー活動を開始し、今年 2006 年には多くのアニメに出演 しています。元々音楽的な素養が高かった事、声優としての 実力が高い事から今回の本格デビューはランティスにより破 格の扱いでプロデュースされています。涼宮ハルヒと音楽 CD の関係は非常に密接ですが、これは平野綾プロモーションと しても計算されているからこそ実現したのではないかと思い ます。 図 平野綾 ⑯ SOS 団 図 Animelo Summer Live 2006 SOS 団とは「世界を大いに盛り上げるため の涼宮ハルヒの団」の事で、作品内での部 活動名です。しかし同時に事実上の平野 綾・茅原実里・後藤邑子(ゴトゥーザ様) のユニット名になります。エンディング「ハ レ晴レユカイ」は SOS 団が歌っており、こ の歌自体に本当の振り付けがされていた事 から、SOS 団が実際に踊るのはいつかいつ かと待ち望まれていました。7 月 8 日の 「Animelo Summer Live 2006 -OUTRIDE-」にて初めて SOS 団の振り付けが披露された 際には会場は一時踊り狂うファンたちで騒然としました。私は「ダンスマーケティング」 (筆者造語)という手法が有ると考えています。①「目立つ事ができる」②「みんなでで きる」③「真似ができる」の 3 つの要素がダンスにはあり、①「アテンション獲得」②「ト ラフィック増大」③「バイラル発生」の効果が有ると言えます。詳しくは後述します。 ⑰ Starring 2005 年大ブレイクした「NANA」では中島美嘉が NANA 役を演じると同時に作品内バン ド「ブラックストーン」として歌い、その 図 平野綾演じる涼宮ハルヒ CD が 50 万枚以上の大ヒットとなりました。 その大ヒットした「GLAMOROUS SKY」に は NANA starring MIKA NAKASHIMA 名 義でした。sttarring とは演じるという意味 なので、中島美嘉が演じるナナが歌っている という意味になります。これは作品世界を作 り物と感じさせない配慮と、キャラクターと アーティストの両方の人気を融合する戦略 だと言えます。涼宮ハルヒではライブアライ ブでのハルヒのライブシーンがこの手法だ と言えます。また平野綾が番宣で涼宮ハルヒ を演じているのもキャラクターとアーティ ストの関係を意識していると言えます。 涼宮ハルヒの憂鬱のブームの要因はこんな所ではないかと思います。 <5 つのマーケティング手法に集約> これら 17 の要因を見てみると、良く似ているものや互いに影響を与えているものなどが あります。例えば「事前の情報を非開示」「話数シャッフル」はどちらもストーリーを予 測できなくする効果があります。また「神作画」だからこそ、その動きに惹かれて「オリ コン 1 位にするぞ」というムーブメントが発生したとも言えます。そこでこれら 17 の要 因を図(図 000)にしてみましょう。横軸は時系列、縦軸は上がコンテンツ面(どんなモ ノが投入されたか)、下が現象面(どんな現象が起きたか)を大まかに示しています。そ の上で相互に影響関係にあると考えるものを括ってみました。 この図では大きく 5 つに要因を括っています 図 要因の相関関係 この図では大きく 5 つに括っています。 ① アイドル声優マーケティング ② アキバマーケティング ③ 祭りマーケティング ④ CGM マーケティング ⑤ クロスメディアマーケティング この様に括ってみると、それぞれ単独だった要因にいくつかの流れのようなものが見てと れる様な気がします。どんな流れなのか検証してみましょう。 <① アイドル声優マーケティング> 大まかな流れは以下の通りです。 電波ソング∼SOS 団∼オリコン 1 位にするぞ∼Starring∼ライブアライブ∼平野綾本格デ ビュー 1 話での「恋のミクル伝説」でサツガイ的な電波ソングで注目を集め、SOS 団ソングであ る「ハレ晴レユカイ」でオリコンムーブメントを発生させる。その上でキャラである「涼 宮ハルヒ」と声優である「平野綾」を同一視する環境を作り出していく。ライブアライブ はハルヒのライブシーンで有ると同時に平野綾の PV としても機能して、アキバでの店頭 で相当な露出をしました。これにより 2006 年 3 月までは声優としてのキャリアの長さと 比べ、ほとんど無名に近かった平野綾を 3 ヶ月でトップアイドル声優にしてしまいました。 もちろん平野綾さん自身の実力が有ったからこそ(歌が下手だったらそもそもマーケティ ングなど意味を為さない)です。しかしこれほど見事にアイドル声優マーケティングが成 功した例も過去には無いと思います。 さてこれまでのアイドル声優マーケティングとして良く目にした手法には大きく 2 つのも のがあると思います。大月商法(1994 年∼)とハーレムアニメ方式(2000 年∼)です。 簡単に振り返ってみましょう。 ・ 大月商法 キングレコードの大月俊倫氏が良く行った手法の為この様な名前にされています。そ の特徴は次の 3 点です。 a) トップアイドル声優をメインヒロインに起用する b) 主題歌も同時に歌う c) 複数作品に連続して起用する 林原めぐみ・奥井雅美(声優ではありませんが)などが有名です。この手法の目的は アニメ作品を CD プロモーションツールにする事です。主役と主題歌、そして複数作 品に連続して起用する事で「メジャー感の創出」 「露 図 スレイヤーズ・爆れつハンター 出効果」「長期プロモーション」を可能としたので す。また第 3 次アニメブームの特徴である「製作 委員会方式」は作品毎で予算を完結させなければ成 りませんが、一旦自社声優の人気を獲得できればそ の声優は永続的な自社資産となります。アニメ作品 はいつか終わるが、声優は永遠に終わらないという 事です。 しかしこの手法には弊害があります。いつも同じ声 優を起用する為新人が育たないのです。そのためキ ングレコード(本当はスターチャイルドですが、こ の本ではキングレコードで表記を統一)ではアニメ 枠を増やす事で曲数を増やす目的から「動画大陸」 など 15 分スタイルや UHF 枠へと進出していきました。 ・ ハーレムアニメ方式 2000 年のアニメ「ラブひな」もキングレコードで音楽制作をおこなっており、前述 の「大月商法」を採用しています。しかしこの作品のポイントは 22 時台という当時 のキングレコードアニメとしては最も遅い時間だった 図 ラブひな 点です。これ以前キングレコードは深夜アニメに消極 的でした。それは「露出効果」 「メジャー感の創出」が できないと考えられていたからです。しかし「ラブひ な」は資料率が悪かったにも関わらず、DVD 販売やキ ャラ CD などは好調でした。つまりアイドル声優をプ ロモーションするにはアーティストとして「メジャー 感を創出」する事も、多くの人に露出する事も重要で はなく、キャラクターと声優のリンク関係が明確にな っていれば良い事が判明したのです。 つまりキャラクターと声優が存在すれば、ストーリー は必要ではないのです。 「製作委員会方式」では構成企業の利益は主に関連商 品の利益と商品化窓口としての手数料収入になります。 つまり「製作委員会方式」では作品の成功よりも関連商品の成功の方が重要となりま す。単純な話ですが、キャラクターが多いほど関連商品の数も増えます。「ストーリ ーは必要ではない」「キャラクターは多いほど良い」この二つの条件がそろった時、 ハーレムアニメ方式が生まれました。 a) アニメ向きの派手な「バトルもの」にする b) キャラクターはカップリング数を重視してなるべく増やす c) 各キャラがグループを構成する様な無理のないストーリーにする ハーレムアニメ方式の特徴は上記 3 点ですが、これは俗に「原作改変」ともよべるも のです。つまりハーレムアニメ方式とは「原作改変」を伴う事があるのです。 「表現方 法の違いから」とか「各キャラクター達の関係性に注目して」などいう場合には「原 作改変」手法を行っている可能性が多いのです。もちろん様々な制約から原作改変は どんな作品にもあるのですが、ハーレムアニメ方式でのその後の歴史は「朝霧の巫女」 「ネギま!」などが示す通りです。 大月商法は如何にアニメ作品と声優プロモーションを連動させるかをテーマに考え出 されたものでした。しかしその進化の果てに生み出したハーレムアニメ方式はアニメ 作品と声優プロモーションの主客が逆転したと言えます。この時点でアニメは単なる 声優 CD のタイアップ先でしかなくなってしまったのです。 さて「涼宮ハルヒの憂鬱」におけるアイドル声優プロモーションは上記のキングレコード とは少々異なります。 a) プロモーションが計画的 b) キャラクターと声優の一体感を崩さない様配慮している 最初からプロモーションがストーリー展開と一体となっているので、ハーレムアニメ方式 同様マーケティング要素が強く出ているのは確かです。しかし作品におけるキャラクター と声優プロモーションのバランスをちゃんと取っています。音楽作成はランティスです。 確かにランティスは声優プロモーションを得意しています。また元々バンダイと関係が深 い上に 2006 年 4 月からバンダイグループに加わった事から、商品開発とアニメ番組とプ ロモーションの連動に一定のノウハウが有る事も考えられます(ガンダムの新型がでるタ イミングで新しいガンプラが店頭に並ぶなど)しかし、他のランティス作品も全てうまく 機能しているかというと、そうとも言えません。何故涼宮ハルヒにできて、他ではできな いのでしょうか? 一旦この疑問は置いておきます。 アイドル声優マーケティングは以下の 3 点を目的としています。 A) CD などのパッケージソフトの販売を目的としている B) アイドル声優とキャラクターの一体感を生み出す C) コアユーザーを声優ファンにする事で囲い込む <② アキバマーケティング> オリコン 1 位にするぞ∼YOUTUBE∼原作欠品∼DVD 限定版∼同人ジャンル化∼書店占 領∼オンリーイベント開催 アキバマーケティングと名付けたこの流れは、実は涼宮ハルヒより以前に同様の動きをし た事例があります。「ひぐらしのなく頃に」が話題となった 2004 年∼2005 年の動きが今 回のものとほぼ同様です。これについては当サークル同人誌「ひぐらしのなかせ方」にて 総括しています。当サークルホームページに PDF 版を設置していますので、良かったら ご参照下さい。宣伝宣伝(笑) 簡単に流れをまとめると以下の通りです。 2004年 07 月 「ひぐらしのなく頃に」体験版がネット上で話題になる 08 月 「ひぐらしのなく頃に」夏コミにて頒布、完売 09 月 店頭委託開始、瞬殺。以降品薄状態 11 月 21 日・28 日・翌 12 月 3 日にオンリーイベント秋葉原で開催 ∼12 月 「ひぐらしのなく頃に」品薄状態が続く この期間はアキバ Blog を中心に品薄情報が話題になる 21 日「私的捜査ファイル(仮)」発売 冬コミで「ひぐらしのなく頃に解 目明かし編」頒布、完売 2005 年 01 月 「目明かし編」店頭委託開始、完売。 03 月 24 日ガンガンパワード・コンプエースにて連載開始 大体の流れはこんな感じです。この流れは以下に要約できます。 1) ネットでの口コミから評判が広がった 2) 評判を聞いた人たちがアキバに買いに来た為品薄と なった 3) ネットや店頭の盛り上がりを受けアキバのアニメシ ョップが売り場展開 4) 売るモノが無い売り場に対して同人業界が関連商品 を供給 5) 翌年になり各社が関連商品の投入と商業展開を開始 図 ひぐらしのなく頃に (長い間お疲れ様でした) つまりネット∼アキバ∼同人∼アニメショップ∼商業メーカーという流れでブームが加 熱していったのです。 アキバマーケティングとは同人ショップやアニメショップが集中している秋葉原のショ ップでの売り場を獲得する事を目的とする、一種のエリアマーケティングです。 1) ターゲットが集中しているのでプロモーションコストが低い 2) ネット情報に対するレスポンスが早い 3) 逆にネット上での口コミ形成にも貢献し易い 4) 人混みを作り出すことができるので、PR 効果が期待できる ネット上で口コミ情報を発生させる手法にバズマーケティング(他人に噂話をしたくなる ような話題性を提供する事で口コミを誘発させる手法)・バイラルマーケティング(他人 に話す必要性が発生する仕掛けを用意する手法)などがありますが、これらはまず発生さ せる方法論が必要です。また発生しても大体一過性で消滅してしまう為、口コミが拡大す る為の仕掛けが必要です。最後にその口コミの長期化を促す仕掛けも必要になります。ア キバマーケティングとはこの口コミの拡大と長期化を促す効果があります。それはリアル 店舗の売り場という口コミよりも長期間維持されるディスプレイを獲得できるからです。 またアキバ Blog のような秋葉原情報を紹介している大手ニュースサイトが数多く有るた めアキバでの評判はネット情報になりやすいのもポイントです。 図 ゲーマーズ店頭(6/21) 「涼宮ハルヒの憂鬱」の場合には「ひぐらしのなく頃に」 と同様にネットの評判から商品が長期間品薄状態になり、 その後アニメ・同人ショップでの売り場を獲得する事で ブームの長期化に成功しました。 が、しかし涼宮ハルヒでは以前と決定的に違うポイント が有ります。売り場に展開される商業流通物の供給が「ひ ぐらし」に比べて圧倒的に早かったのです。 「ひぐらし」 の場合ネットでの評判が高まりだしたのは 7 月、商業誌 での関連商品は 12 月末まで待たなくてはなりません。一方で最初のオンリーイベントは 11 月 21 日なので 4 ヶ月強で開催した事になります。これでも相当早いのですが「涼宮ハ ルヒの憂鬱」は 1 クールアニメなので、このスピード感でも手遅れなのです。一方商業出 版物では 6 月のコミック 2 巻発売を皮切りにコンプティーク、季刊エスでハルヒを特集。 6 月下旬には少年エース、ザ・スニーカー、MEGAMI マガジン、コンプヒロインズ、オ トナアニメなどが表紙が涼宮ハルヒとしました。これ以外に DVD・CD などが 6 月下旬か ら 7 月にかけて立て続けに発売しました。同人誌が潤沢になったのはコミックコミュニケ ーションが開催された 6 月 10 日以降ですので同人誌のアドバンテージは 10 日程度だった と言えます。オンリーイベントは 7 月 2 日開催で 3 ヶ月間と「ひぐらし」よりも 1 ヶ月以 上早いのですが、商業誌に負ける結果となってしまいました。また同人誌でも早いモノは 5 月下旬くらいから店頭委託を開始しており事実上「涼宮ハルヒ」の同人誌のジャンル化 は同人誌即売会ではなく同人ショップの店頭委託で始まっていたと言えます。 2004 年の「ひぐらしのなく頃に」ブームの時はネット上で溢れる 情報と、売る物がない状態のリアル店舗の売り場をつなぐ役割と して同人誌が非常に重要な位置を占めました。しかし 2006 年の 図 オンリーイベント 「禁則事項ですキョンくん (はーと)」 「涼宮ハルヒの憂鬱」ブームの際には「アキバマーケティング」 を展開する上で、爆発的に増えるネット情報と進化した商業流通 商品の狭間で同人誌の相対的地位の低下が明確になったと言えま す。 最後にアキバマーケティングの目的をまとめたいと思います。 A) アキバという都市での「面」でのプロモーション B) リアル店舗の売り場獲得を目的とする C) 同人ビジネスの利用 D) ニュース性を長期化生み出す事ができる <③ 祭りマーケティング> 事前の情報非開示∼電波ソング∼SOS 団∼オリコン 1 位にするぞ∼ツンデレ要素∼ YOUTUBE∼原作欠品∼DVD 限定版∼同人ジャンル化 一応最初に記載します。一つは「祭りマーケティング」なんて言葉は有りません。筆者の 造語です。もう一つはこの次に紹介する CGM マーケティングと本質的には同じものです。 しかしあえて「祭りマーケティング」と別にしたには理由があります。 1) ネット上で急速に話題になる事を「祭りなる」と表現するから 2) ダンスマーケティング(これも筆者造語)という手法が「祭り」を起こすの に効果が高いと思われる為 3) CGM マーケティングと異なり、ネット上での評判に終わらず実際の行動を 引き起こす事を目的としている為 4) いらないのに買う、くだらないけどやるなど「自分自身が踊らされている」 事を自覚した上で行う事から 図 カウントダウン TV5 位 電波ソング「恋のミクル伝説」はその頭の悪さで急速に評 判を高めました。またアニメ・同人ショップの BGM ではハ ルヒ関連の音楽が頻繁に流されました。一方で0話に当た る「朝比奈ミクルの冒険」はその丁寧な演出と「下手な自 主制作映画」をリアルに表現した神作画が評判となりまし た。つまり「頭の悪さ」とそれを支える「クオリティの高 さ」のギャップがあったのです。この構図には 2 つの効果 があります。 1) 見た目と本質のギャップは他人に話したいネタとして機能(バズ発生) 2) 普通なら必要ない所までクオリティを維持する事で「京都アニメーション」 のブランド力を高める(ブランドマーケティング) 前述した「バズマーケティング」ですが、もう一度おさらいしましょう。バズマーケティ ングとは「他人に噂話をしたくなるような話題性を提供する事で口コミを誘発させる手 法」の事です。つまり 1)は他人に話したくなる蘊蓄になるのです。そこでバズ(噂)が発 生します。そしてもう一つの効果は「京都アニメーション」のブランド力を高める効果で す。全く意味のないクオリティの高さは「京都アニメーション」の職人としてのプライド の現われと感じられたのではないでしょうか。つまり「漢気(おとこぎ)」を感じられる と思います。他人に話したくなる蘊蓄、そして制作者の漢気。この 2 つの前提が有ったか らこそ「オリコン 1 位にするぞ」という運動が速やかに広がったのだと考えられます。つ まり「もしかしたらヤラセかもしれないが、祭りとして申し分なし」と自分自身での理由 付けができたのだと言えます。 この様に何か行動する際に、その理由を自分自身に持っている事を「内発性動機」を持っ ていると表現します。例えば値段が安いから買うとか、数量限定だから予約するみたいな 行動は、外部状況で決めた行動なので「外発性動機」で決めたと言います。このようなも のは値段が上がれば買わないし、数量に余裕があると分かれば予約しません。一方ブラン ド品など所有欲を刺激する物や何かの応援団などは、自分自身で何らかの理由付けがされ ていると思います。このような「内発性動機」は一旦獲得するとリピーターに成長する可 能性があります。つまり「祭りマーケティング」はコアユーザーを獲得するのに有効なの です。 もう一つの「祭り」要素はダンスマーケティングという考え方です。 「SOS 団」の説明で も触れましたが、こちらもおさらいしましょう。 1) 目立つ事ができる 2) みんなでできる 3) 真似ができる 非常に言葉は悪いですが、ダンスマーケティングの本質は 「幼稚園のお遊戯会」だと考えています。うまくできたら 周りより目立つ事ができます。集団でやるので一体感を楽 しめます。そして初心者でもうまい人の真似をすれば、と りあえず仲間になる事ができます。みんなで一体感になる 事が目的なので、ダンスはあまり難しくない方が良いので す。YOUTUBE では実際に「ハレ晴レユカイ」を踊る動画 が多数アップされました。また「Animelo Summer Live 2006 -OUTRIDE-」では「ハレ晴レユカイ」を踊るために 多くの人が駆けつけました(筆者注:自分の事です) ダンスマーケティングの 3 つの要素は一体感を生み出すためのものです。しかしこれを CGM での効果を考えると別の見方ができます。 1) 目立つ事ができる(CGM 効果:アテンションの獲得) 2) みんなでできる(CGM 効果:トラフィックの増大) 3) 真似ができる(CGM 効果:バイラルの発生) 図 生ハレ晴レ まずは CGM とは「Consumer Generated Media」の略でインターネット上でユーザーが 作成するメディアの総称です。Blog、掲示板、SNS などがこれに当たります。アテンショ ンとは注目・注意という意味で CGM マーケティングではこれの獲得が重要とされていま す。トラフィックは交通量ですがネット上では流通する情報量を意味します。トラフィッ クの増大とはつまり、関連する情報量が増す事を意味します。最後にバイラルとは「感染 的な」という意味で口コミが広がる様をウイルスの感染に例えています。真似る事でいつ の間にかその祭りに感染してしまっているのです。 「祭りマーケティング」とはその名の通り、祭りを起こす事で短期的に騒動を起こす事が 目的です。しかし同時に祭りの首謀者達の内発性動機を強化する事で「コアユーザー化」 する事も目的としていると言えます。 最後に「祭りマーケティング」の目的を総括しておきます。 1) 短期的な「祭り」を起こす事でニュース性を獲得して PR 効果を狙う 2) 実際に消費者に行動を促す事で一体感を生み出す 3) 消費者の内発性動機を刺激してコアユーザー化を促す 4) ネット上でのネタを提供する事でトラフィックの増大を目指す <④ CGM マーケティング> 話数シャッフル∼神作画∼ツンデレ要素∼事前の情報非開示∼オリコン 1 位にするぞ∼ YOUTUBE∼SOS 団∼Starring 前述した様に CGM とは Blog や掲示板などの Web 上で消費者自身が情報発信をするメディ アの総称です。CGM マーケティングとは Web 上での口コミを上手に発生させる事で商品販売 につなげようとする試み全般の事です。 消費活動において昔から口コミは重要な要素で したが、Web の発達によりその重要度は飛躍的 に高くなりました。かつて商品販売において重 要と考えられていた AIDMA の法則というもの があります。これは人間が商品を知ってから、 実際に買うまでのプロセスをまとめたものです。 しかしこの法則は現在進化して AISAS の法則(電通提唱)となっています。この AISAS の法則のポイントは 3 つです。第 1 に欲求∼記憶というタイムラグがないため、どんな物 か関心が発生したらネットで検索を行い、そのままネット上で購入してしまう可能性が高 くなっている事です。第 2 に Blog などの等身大の消費者の口コミ情報を比較的簡単に信 じる傾向がある事です。以前の口コミは面識のある知人友人でしたが、Blog の情報源と面 識が有ることは稀な事です。そして第 3 に購買者が購入後は情報提供者に変わる為、商品 の売買だけで顧客との関係性が終わらないという事です。 「涼宮ハルヒの憂鬱」を AISAS に当てはめて考えると以下のプロセスになります。 まずは「ハレ晴レユカイ」などの作画的な美しさ、物語に張られた伏線、そして「涼宮ハ ルヒ」「長門有希」といったキャラクターの魅力によって多数のアニメ群の中に埋没する 事を防ぎます。その上で「事前の情報非開示」によって今見ているアニメでしか情報が入 らない構造を作り出します。しかし視聴者はそれ以外の情報、例えば鶴屋さんっていきな り出てきたけど誰?みたいな事をネットを使って情報を得ようとします。そこで Blog な どを見ると、原作読了組による考察や感想、「長門有希」のキャラの魅力の補完説明、そ して「ハレ晴レユカイ」の「オリコン 1 位にするぞ」活動を知ることになります。 「アフ ィリエイト」によってほとんどの Blog にはカートへのリンクが設置されているため、多 数のファンが衝動買いしたと思われます。元々「オリコン 1 位にするぞ」運動として目的 を持って購入したため、自分自身でも他の人に購入を促す事になります。この様にして共 有サイクルが次々と回っていき SOS 団のファンが増殖していきます。これらの人たちの 何割かが「祭りマーケティング」や「アイドル声優マーケティング」の過程を経て「平野 綾」ファンとしてコアユーザーとなっていく事になります。つまり今回の「CGM マーケ ティング」は「涼宮ハルヒ」という作品の魅力を知った人に関連商品を「内発性動機」を 持って購入してもらう為の入り口として機能したのです。 さて「CGM マーケティング」において鍵となるのはアルファブロガーと呼ばれる人たち です。アルファブロガーとは多くの読者を持っているブロガーの事です。Blog 界でのオピ ニオンリーダー的な存在で、Web 上の世論形成に強い影響力を持っています。涼宮ハルヒ は情報量の多さと豊富な話題性によって、アルファブロガーの格好の題材として好感を持 って迎えられました。 アルファブロガーにとって「涼宮ハルヒの憂鬱」は多くのネタを次々と提供する格好の題 材でした。 1) アニメ本編の伏線への言及 2) 原作読了組による今後の放映予想 3) ビジネス規模などの数字情報 4) キャラクター萌えネタ 5) 元ネタ・裏情報 6) 次々発売される関連商品のアフィリエイト 7) 秋葉原のアニメ・同人ショップの 反応 これらの情報が次々と提供され、ネット上で変 化をして、新しい論調を形成していく過程で言 及数とトラフィックが増加していきます。そう して形成された世論が現実世界の環境に変化を 促していく事で、次の情報を生み出していきま す。この CGM を通じて消費者と環境の変化が相乗的に発生するモデルを消費者心理サイ クルと言います。 「涼宮ハルヒ」について CGM による消費者心理サイクルの推移を図にまとめてみました。 この涼宮ハルヒにおける消費者心理サイクルについてはいくつかポイントが有ります。 1) 1 話を見て意味不明だった新規ユーザーと、その人たちに情報を提供する事 ができる原作読了組が居た。つまり最初から「情報格差が有った」 2) 「原作読了組では長門有希が人気」という論調が普及した中盤に長門中心の 話が多く配置されていた。 「原作の魅力を理解している」 3) 公式サイトは原作の「世界観」を伝える機能を果たした。一方特設サイトが 関連情報を伝えているが放映開始後に開設した。「コマーシャル色を出し過 ぎず、コンテンツの世界観を伝える配慮をした」 4) 「原作欠品」の解消した 6 月以降、CGM でさまざまな研究がされる様にな った。「原作欠品」のおかげで情報露出に時間差を生み出したと言える。こ れは「情報が継続的に生み出される環境」を形成した。 5) 6 月下旬から関連商品が集中投入され始めた。店頭でのブームを演出し「計 画的な露出」を行っている。早すぎるとコマーシャル色が出てしまうし、遅 いと売上に繋がらない。また DVD や CD とのタイミングも連動している。 6) 読みやすいコミック版はアニメよりストーリーを先行させている。「メディ ア毎に役割が明確」になっている。 これらを総合すると 2 つに集約されます。 1) 原作を理解している制作 2) 事前に計画された情報の露出 つまり CGM マーケティングを成功させるには、この 2 つについて検討する事が重要では ないかと考えられます。 最後に CGM マーケティングを総括しましょう。 1) アテンションを獲得する事が目的 2) 消費者心理サイクルを回す為に工夫をする必要がある 3) アルファブロガー対応を考えて情報の管理を行う事が重要 4) この局面が成功しないと、そもそも口コミは発生しない <⑤ クロスメディアマーケティング> コミカライズ∼事前の情報非開示∼オリコン 1 位にするぞ∼DVD 限定版発売∼ライブア ライブ∼平野綾本格デビュー 最近よく「クロスメディア」という言葉を聞きます。本当に良くない傾向ですが最近の流 行語は消費スピードが速いので、定義される前に実践・消費されてしまいます。Web2.0 とか Web2.0 とか Web2.0 とか・・・。以下は勝手に筆者が定義するものです。違ってい たらごめんなさい。 「クロスメディア」とは「メディアミックス」の発展型です。従来の「メディアミックス」 戦略は、古くはパトレイバーなどが有名ですが、各メディア(TV アニメ・OVA・コミッ ク・小説・ラジオなど)の「特性」と「ターゲット」の違いを理解した上でそれぞれに適 したコンテンツを展開する事です。その目的は「最大認知数の獲得」です。つまり一人で も多くの人にコンテンツの存在を知ってもらう為にあらゆるメディアを駆使するのが「メ ディアミックス」なのです。 一方「クロスメディア」とは「相乗効果の最大化」であり「最深認知数の獲得」だと言え ます。CGM マーケティングの項目で触れた様に消費者の情報に対する接し方は AISAS と 呼ばれる形に変わってきています。これは消費者が検索によって複数のメディアから情報 を取得する事を意味します。そして消費者が情報発信者としてメディア化する事も意味し ます。つまりどの様に消費者本位で情報を取得して貰うかを考える必要があるのです。 1) 消費者が接するもの全てが情報として重要(タッチポイント管理) 2) いつ接触するか、どの様に判断されるかを事前に計画する必要がある(露出 計画の必要性) 3) 「検索・共有」によって多くの消費者が判断するので「情報発信者」に如何 に理解してもらうかが重要(アーリーアダプター優先) 図 中吊り広告 タッチポイントという言葉を上記で使用しましたが、これは博 報堂が使用する言葉です。AISAS は電通だから、バランス上タ ッチポイントという言葉を使用します。タッチポイントとは、 要するに消費者が情報に接する全てです。そういってしまうと 実も蓋もないのですが・・・。情報に接するメディアで代表的 なのは TV・新聞などマスメディアと呼ばれるものです。しかし CGM など Web 上のメディアも重要な事は、ここまで述べてき ました。さてメディアはこれだけでしょうか?例えば電車の中 吊り広告やビルの看板広告はどうでしょう?さらには「とらの あな」などの店頭の売り場に何がどうやって並んでいるかも情 報として重要だと思います。つまりタッチポイントとは「マス メディアだけではなく Web 上の CGM、そして屋外広告や店舗 図 看板広告(写真はフレッ ツアキバ攻略フェア) 売り場などその商品について消費者がふれるすべての場所」な のです。そしてタッチポイントの概念で重要なのは「売り場」 も含まれているため認知して貰うと同時に購入する可能性もあ る事です。 CGM マーケティングでも触れた「アフィリエイト」などはこの 典型例です。つまり Blog の紹介という「認知ポイント」である と同時に、クリックするとすぐに購入できる「販売店舗」でも あるのです。この事から「タッチポイントを管理する」とは「情 報を管理する」と同時に「売り場を管理する」事も意味するの です。 そこで重要になってくるのは「露出計画の必要性」です。最も効果的にアテンションを集 めることができれば、それだけタッチポイントを増やす事ができます。また情報が終息し ないように断続的に発信される様に徐々に小出しにする必要もあります。情報は一気に出 してしまうと、瞬間的に消費されてしまうからです。そして何より重要なのは「コマーシ ャル色を出さない」配慮です。あまりに情報を出し過ぎてしまうとプロジェクトの存在を 消費者に感じさせてしまいます。つまりブームの盛り上がりに合わせて次の展開を示す配 慮が必要なのです。涼宮ハルヒの場合は「ライブアライブ」という最も効果的にアテンシ ョンを集める瞬間にプロモーションが集中しています。 「アニメロサマーライブ参戦」 「コ ミックス 2 巻発売」 「少年エース表紙」「ザ・スニーカー発売」 「コンプヒロインズ発売」 そして何よりこの日から「涼宮ハルヒの詰合」の CM がちゃんと変わりました。この事は 「露出計画」がちゃんと全ての人間に共有されている事を示していると言えます。 この様に各メディアの連動を行うことによって消費者心理サイクルがうまく回る様にす るのが「クロスメディアマーケティング」の目的ですが、この際には「アーリーアダプタ ー」と呼ばれる人たちを中心に展開を行うことが重要です。アーリーアダプターとはある 商品が発売された時、早い段階で購入する「好奇心旺盛」な人です。購入者全体の 13.5% 程度を占める人数と言われています。この人たちは新しい物を試す事が好きなので、その 商品の初期の評価を決定づける重要なポジションにいると言えます。そのためオピニオン リーダー層とも言われたりします。そして Blog の世界でこれに当たるのが「アルファブ ロガー」となります。つまりアーリーアダプター層を中心にマーケティング活動を行うと それ以降の消費者は「検索・共有」による消費者心理サイクルをうまく回すことができる と言えます。 「涼宮ハルヒの憂鬱」の場合はコミカライズによって原作の内容を分かりやすくしたもの を提示しました。その」一方でアニメ情報については全く出さず、「ストーリーは知って いるが、展開は読めない」状態を作り出しました。その上で次々とアニメの展開に合わせ たプロモーションを行うことで消費者が「検索・共有」の消費者心理サイクルを回す必要 を生じさせたのです。 しかしアーリーアダプター層は「基本的に」アニメ開始よりチョット前の公式サイトが立 ち上がった当たり(3 月)で情報収集と原作読了を行っているので、アニメ化以降入って きた人たちの論調に強い影響力を与える事ができる立場に立てたと言えます。なぜ 3 月に 可能だったかというと公式サイトの不思議な内容が、実は「世界観」を伝えている強いメ ッセージ性を持っている事に気が付いた人たちが居たからです。これは「イノベーター層」 (全体の 2.5%と言われている)と呼ばれる人たちで、この場合は「ライトノベルマニア」 です。アーリーアダプター層は情報収集力があるので、この様な涼宮ハルヒのヒットの予 感を敏感に感じ取っていたと言えます。 クロスメディアマーケティングを総括すると、以下の 4 点になります。 1) クロスメディアとはメディアの相乗効果と情報の深い浸透を目的とする 2) 相乗効果を高めるには情報露出の「事前の計画性」が重要になる 3) 情報の深い浸透を図るには「タッチポイント」と「アーリーアダプター」へ の対応が必要となる 4) クロスメディアマーケティングの事前の計画性は、その後の各種マーケティ ング展開の基礎となる つまりクロスメディアマーケティングを行わないと、そもそも他のマーケティングが単独 で展開する事になるので、大きな効果が望めないのです。 <マーケティング手法だけなのか?> ごめんなさい。時間切れです。 続きは次号になりますが、その前にここで終わると大きな誤解を持たれてしまうと思いま すので、付記しておきたいと思います。 それは、「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品は決してマーケティング手法だけを 駆使してヒットしたものではないと言うことです。本当はその事こそ触れた かったのですが・・・。 <もう一つの付け加え> ツンデレ要素と話数シャッフルについて 「ツンデレ要素」の説明で、これは「話数シャッフル」によって生み出された効果だと述 べました。それについての説明です。 次の表は放送時系列順と作品内時系列順にそれぞれ並べたものです。まずは放送順時系列 に並べた時一つのポイントがあります。それは基本的には前後の逆転はあっても話と話の 間に 2 話以上挟まない様にしている事です。孤島症候群の前後編の間に 1 話挟んでいるよ うなのがそのパターンです。そうすると、突然変な所に飛び込んできている話が 2 つある 事になります。放映順で 4 話と 10 話です。4 話「涼宮ハルヒの退屈」は実際スニーカー 大賞受賞発表の際に雑誌掲載された短編で本当の意味での第 1 話に当たります。そのため 「涼宮ハルヒ」を構成する要素が伏線として多く提示されているのです。閉鎖空間・長門 の能力、「あの方法」などです。そもそも野球によってキャラの立ち位置を明示する話な ので当然なのですが。しかしこれを物語順にやると 8 番目になります。最終回の次に当た るので要素も伏線も意味を為しません。つまりこの 4 話はシャッフルするしか方法はない のです。 さてもう一つの 10 話ですが、これは長門と朝倉さんが戦闘をする回です。これは別に伏 線も何もないのですが、シャッフルする事が前提なら 10 話当たりに持ってくるしかない と思います。しかしここで素晴らしいと思うのは、放送順 10 話の前後の流れを計算して 10 話にしていると思われる事です。原作ファンは長門びいきと言われています(あえてこ の表現にしておきます)それは長門の本心をすでに知っているからです。しかし 10 話「涼 宮ハルヒの憂鬱Ⅳ」の段階では長門がキョンを助けたのは「観測対象に関わる存在」を助 けたぐらいの意味ではないでしょうか?(こういう表現にしておきます)しかし 9 話(物 語上の最終回、この後「消失」になる)と 11 話(射手座の日)に挟み込む事で、特別な 感情を持ってキョンを助けたと視聴者に「ミスリード」させています。これがミスリード かどうか本当の所は分かりません。しかし長門の行動の「行間」を感じさせる効果を生み 出していると思います。 もしも物語順に放映すると長門の感情の芽生えがよりストレートに出てしまうと思われ ます。それはそれで問題はないのですが、一方でハルヒも段々キョンと接近してきている ので視聴者としては「三角関係」的なものを意識してしまうのではないでしょうか? 涼宮ハルヒという作品の前提は以下だと思っています。 1) 涼宮ハルヒのボーイミーツガール(正ヒロイン) 2) 長門有希のヒロイン性(裏ヒロイン) 3) しかし「長門のボーイミーツガール」は読者の感情に委ねられている 4) よって作品内で明示する事は NG 長門有希にヒロイン性を見いだすかどうかは、あくまでも視聴者側に委ねられているのだ と言えます。 し・か・し、同時に原作ファンにとってはこの部分をどうやって描いてくるかを「手ぐす ねを引いて」待っていると言えます。それに対する回答が「話数シャッフル」による「ミ スリード」の誘発だと言えるのではないかと、個人的に考えています。 さて正ヒロインのハルヒですが、実際「涼宮ハルヒの憂鬱」を初めて読んだ時、こんな奴 身近に居て欲しくないな∼と思いました。はっきり言って 1 巻の段階ではツンデレ(この 言葉を 2003 年当時は知りませんでしたが・・・)ではなく自己チューでしょう。全くキ ョンに感情移入できませんでした。しかしこの話数シャッフルは、将来の「デレ」状態の ハルヒを先に明示する事で、現在の自己チューを「ツン」状態に見える様にしているので す。 この話数シャッフルの特筆すべき点は 2 つあります。 1) 原作を理解した上で、一番魅力的に再構成した 2) 原作の弱点を「原作改変」ではない方法で補った 3) 原作読了組と新規ユーザー双方を満足させる方法論を模索した 言いたい事は単純です。 原作を理解して、ユーザー目線に立った上で、独自性を発揮したのです。もはや感嘆する 他ありません。 <もう一つ付け加え> 今回の題名は「MOE2.0ISM 新萌え主義」でした。しかし力及ばずそこまでたどり着けま せんでした。 ところで、MOE2.0 とは、今流行りの「Web2.0」と引っかけています。これは Web の新 しい方向性をまとめたものですが、大まかな定義は有っても、詳細は曖昧な有る意味便利 な言葉です。 今回はその便利な流行語を使って、最もブームな作品「涼宮ハルヒの憂鬱」を研究しよう という非常に浅ましい企画でした・・・。終わらなきゃ意味ないんですが・・・。 と言う訳で、MOE2.0 の定義を Web2.0 を参考に作成していました。説明の過程をすっ飛 ばして提示しても仕方がないのですが掲載しておきます。 1 2 3 4 5 6 7 Web2.0 プラットフォームとしてのWeb 集合知の利用(ユーザーを信頼) データは次世代の「インテルインサイド」 ソフトウェアリリースサイクルの終焉 軽量なプログラミングモデル 単一デバイスの枠を超えたソフトウェア リッチなユーザー体験 まあ、ギャグみたいなものです。 それでは、次回「データからみる業界動向 せたいと思います。 Moe2.0 プラットフォームとしてのSPC(作品に責任を取る集団) 集合遊の利用(ユーザーと楽しめ) コンテクストは次世代の「探しモエはここだよ!」 キャラCD+13週+DVD7本サイクルの終焉 同人的手法を含んだビジネスモデル 単一作品の枠を超えた声優プロモーション リッチな世界観(設定の安定感と隙間の豊富さ)を提示 Vol.7 ∼MOE2.0 実践例∼」で何とか完結さ 奥付 データからみる業界動向 Vol.6 MOE2.0ISM ∼新萌え主義∼ 平成 18 年 08 月 13 日 初版発行(40 部) 発行 亡国データバンク(http://www.geocities.jp/boukoku_db/) Blog http://d.hatena.ne.jp/boukoku_db/ メール [email protected] 代表 マイムマイム 頒布価格 200 円 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 冊数も満足に用意できませんでした。次回はもう少しスケジュールの余裕を持って望みま す。ごめんなさい。 2003 年∼2005 年の涼宮ハルヒ これの考察こそがメインイベントだったのですが・・・。 次回に持ち越しとなります。スイマセン。