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第 41 話 エンドトキシンショック
和光純薬工業株式会社 土谷 正和 第 41 話 エンドトキシンショック 今回は、エンドトキシンの生体に対 トキシン自身や各種サイトカインは、 する影 響の 中 から、エンドトキシン 最も重要な因子でないということなの ショック、特にそのメディエーターにつ でしょうか。 いて考えてみましょう。 最近、エンドトキシンショックのメ ショックとは、種々の原因によって循 ディエーターの主役候補として注目さ 環系の均衡破綻によって急性循環不 れている物質に、内因性カンナビノイ 全が生じ、諸臓器・組織の機能不全を ドがあります 5)。カンナビノイドとは、大 きたす病態とされています 1)。ショック 麻の麻薬成分で、脳内で多量に発現 は、循環血液量減少性、心原性、敗血 している CB1 レセプターを介して、多 症性、神経原性、アナフラキシーなど 幸感、幻覚記憶の障害など、多彩な精 に分類されており、その特徴は血圧の 神神経反応を引き起こす物質です。 低下です。エンドトキシンに最も関連し CB1 の他、脾臓、マクロファージ等に 発現している CB2 も、カンナビノイド レセプターです。CB1、CB2 に対する ることが期待されます。 発熱性、致死活性と共に、ショックは 内在性のリガンドとして発見された物 メディエーターとして非常に多くの物 その代表といえるでしょう。大量のエ 質が 2- アラキドノイルグリセロール及 質が注目されてきました。しかし、エ ンドトキシンを動物の血管内に投与す びアナンダマイドで、これらを内因性 ンドトキシン抗体や各種サイトカイン ると、ショックが起こります。この場合、 カンナビノイドと呼んでいます。内因 の拮抗剤が治療薬として認知されな ショックはエンドトキシン刺激による生 性カンナビノイドは、アラキドン酸の誘 かったことを考えても、最も重要なメ 体反応の結果であり、その過程では 導体で、麻薬作用の他、血圧低下作用、 ディエーターが何かは明らかになって たショックは、敗血症性ショックです。 エンドトキシンの生物活性の中で、 これまで、エンドトキシンショックの 種々のメディエーターが関与している アポトーシス誘導などの作用が報告さ いないと思われます。内因性カンナビ と考えられています 2)。1960 年代のカ れており、LPS の作用で単球や血小板 ノイドは、今後どのように研究されてい テコールアミン、ヒスタミン、セロトニ から放出されると考えられています 6)。 くかは予想がつきませんが、現在最も ン、キニンに始まり、プロスタグランジ すなわち、LPS 刺激で内因性カンナ 注目されている物質の一つであること ン、トロンボキサン、ロイコトリエン、 ビノイドという血圧を低下させる物質 はまちがいありません。今後の研究の 血小板活性化因子、NO、サイトカイン が放出されるわけです。 進展が期待されます。 と様々な物質が主役として登場してき さらに、これらの内因性カンナビノイ ました。1990 年代の主役は、やはり ドがポリミキシン B に結合することが TNF、IL-6 等の炎症性サイトカインと 発見されました 。ポリミキシン B はエ 思われます。 ンドトキシンと強く結合することが知ら 〔参考文献〕 治療法は、モデル系では効果が認め ナビノイドを除去することにより治療効 られましたが、実際の臨床検討では有 果があるという可能性が示されたわけ 用性が十分証明されず、医薬品として です。このあたりの研究は、鹿児島大 1)小川道雄 :「知っておきたい侵襲キー ワード」 , p. 32-35,(メジ カル セン ス) (1999). 2)中野昌康 , 小玉正智(編)「 : エンドトキ シン」, p. 60-61,(講談社サイエンティ フィク) (1995). 3)中野昌康 , 小玉正智(編)「 : エンドトキ シン」 , p. 203-226,(講 談 社 サ イエン ティフィク) (1995). 4)真弓俊彦 他 : Lisa, 6, 860 (1999). 5)Varga, K. et al.: FASEB, 12, 1036 (1998). 6)Wagner, J. A. et al.: J. Mol. Med., 76, 824(1998). 7)Wang, Y. et al.: FEBS Let., 470, 151 (2000). 認可されるには至っていません 。エ 学の丸山征郎教授の研究室で行われ 次回は「第 42 話 エンドトキシンの ンドトキシンショックにおいて、エンド ており、今後興味深い論文が発表され 7) さて、臨床の方面では、ショックを れる抗生物質で、これを固定化したカ 治療する目的で、これらの主役を働か ラムは、血中エンドトキシンの除去を せないようにする方法が試みられてき 目的とした医療用具として使用されて ました。例えば、エンドトキシンに対す います。このカラムはエンドトキシン るモノクロナール抗体や TNF 抗体、 ショックの治療に用いられますが、エ IL-1 抗体などです。しかし、これらの ンドトキシンのみならず内因性のカン 3,4) 糖鎖」 の予定です。 和光純薬時報 Vol.68, No.4(2000) 21