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表1.獣畜の概要

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表1.獣畜の概要
牛の肝臓でみられた腫瘍4症例の比較検討
大分県食肉衛生検査所
○甲斐岳彦 山口勝寛
1.はじめに
当所のと畜検査では、牛の肝臓の腫瘍に遭遇することがある。肝臓の腫瘍には、①原発性腫瘍として
肝細胞癌、胆管癌、血管肉腫、肝細胞腺腫、胆管腺腫、血管腫等があり、②転移性腫瘍としては牛白血
病、その他様々な悪性腫瘍がある。肝原発の腫瘍では、肝細胞癌の割合が多いとされるが、その転移は
比較的少ないとされている(1)。
と畜検査で腫瘍が疑われる病変を確認した場合、全身のリンパ節、臓器等を精査し、遠隔転移が認め
られる場合は全身性腫瘍として全部廃棄措置をとっている。転移を認めない、限局性の腫瘍では当該病
変部の一部廃棄となっており、遠隔転移の有無によりその対応は異なる。行政としての説明責任を果た
すため、また、症例の検討をすすめ、と畜検査員の技術の進歩向上を図るため、行政措置の判断は、肉
眼所見のみならず、細菌学的検索、病理組織学的検索も行うことが求められている。
今回、2008 年~2012 年に当所で発見した牛の肝臓原発と思われる腫瘍 4 症例を、新たに免疫組織化
学染色(免疫染色)を用いて病理組織学的に比較検討したので、報告する。
2.獣畜の概要および検査方法
今回比較検討した、4 症例のと畜検査時の概要は表 1 のとおり。
表1.獣畜の概要
症例1
症例2
症例3
症例4
品種・処理棟
ホルスタイン・一般
黒毛和種・病畜
黒毛和種・病畜
黒毛和種・病畜
性別・月齢
雌・93ヶ月齢
雌・195ヶ月齢
雌・179ヶ月齢
雌・147ヶ月齢
生体所見
著変なし
削痩、元気消失
削痩
削痩
解体所見
肝臓・肺・十二指腸
肝臓に腫瘍様結
肝臓に腫瘍様結
肝臓に多数の嚢
に腫瘍様病変
節、膀胱に乳頭腫
節、肝門リンパ
胞、胆管壁の肥厚
節・縦隔リンパ節
と拡張、肝門リン
腫大
パ節腫大
行政措置
全部廃棄
一部廃棄
全部廃棄
全部廃棄
(診定病名)
(高度の黄疸)
(腎盂炎)
(全身性腫瘍)
(高度の黄疸)
検体
肝臓・肺・十二指腸
肝臓
肝臓
肝臓
これらの検体を、10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、常法に従いパラフィン包埋後切片を作製した。
染色は、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE 染色)、アザン染色を実施し、さらに必要に応じて表2・
表3に示す抗体を用い、免疫染色を行い、比較検討した。
表2.免液染色に使用した一次抗体
抗体
サイトケラチン
サイトケラチン 5/6
サイトケラチン 7
概要
上皮性細胞の細胞骨格を
前述のサイトケラチンの一
前述のサイトケラチンの一つ
成す中間径フィラメント。 つのサブタイプ。
のサブタイプ。
単一のものではなく、
複数
のタンパクの総称。
発現細胞
様々な上皮系細胞と反応
重層上皮細胞、移行上皮細
胆管等、腺細胞を含む多様な
する。
胆管上皮細胞はもち
胞、中皮細胞等で発現。胆管
上皮細胞と反応する。重層扁
ろん、肝細胞(サイトケラ
等のほとんどの単層上皮細
平上皮とは一般に反応しな
チン 8 と 18 が存在)も反
胞とは反応しない。
い。
応する。
抗体
ビメンチン
クロモグラニン A
S100
概要
間葉系細胞に特有の中間
神経内分泌細胞に広く発現
グリア細胞、シュワン細胞、
径フィラメント。
上皮性腫
しており、分泌顆粒内に存
メラニン細胞、軟骨細胞など
瘍と非上皮性腫瘍の鑑別
在。小腸、大腸、副腎髄質、 主に神経外胚葉由来の広範
に用いられる。
ランゲルハンス島など、体内
な細胞の細胞質及び核に含
のあらゆる場所に存在。
まれる。
表3.予想される反応
サイトケラチン
サイトケラチン 5/6
サイトケラチン 7
ビメンチン
肝細胞癌
+
-
-
-
胆管癌
+
-
+
-
扁平上皮癌
+
+
-
-
カルチノイド
クロモグラニン A
S100
+
±
※抗体はすべてヒト組織用であり、また腫瘍化した分化度の低い細胞が、起源とされる細胞と同様の形
質を発現しているか、断定はできない。
3.結果
(1)肉眼所見
症例1…肝臓:小豆大から拇指頭大の、比較的境界不明瞭な白色結節が実質内に散在していた。肝
門リンパ節もテニスボール大に腫大。病変は肝門部周辺から右葉にかけて顕著に認
められた。
肺:φ1cm~3cm の肝臓と同様の腫瘍様結節を全葉で認めた。
十二指腸:漿膜面に硬結感を有する、φ1mm~3mm の腫瘍様結節の散在を認めた。
症例2…肝臓:全葉に小豆大からゴルフボール大の比較的境界不明瞭な白色菊花状結節を認めた。
また、胆汁様の液体を容れる肥厚・拡張した胆管様の構造物を認めた。
症例3…肝臓:通常の約 2 倍に腫大し、表面は全葉で白色、赤褐色、暗赤色部の混在した斑模様を
呈していた。割面はφ2mm~4mm の微小結節が密発し、生理的肝構造もわずかに
認めた。肝門リンパ節は鶏卵大に腫大、縦隔リンパ節も 20cm×8cm×8cm 大に腫
大し、黄白色~淡桃色随様であった。
症例4…肝臓:肝臓は約 60cm×40cm×20cm に腫大し、正常よりやや硬化を認めた。左葉表面に
は多数の胆汁様の液体を容れる嚢胞を認め、割面は赤褐色~黄色の斑模様を呈し、
胆管壁の肥厚と拡張を顕著に認めた。
(2)病理組織所見
症例1…肝臓:腫瘍細胞は浸潤性で、胞巣状に増殖し、周囲は増生した結合織で囲われていた。核
は淡明で核小体明瞭、核分裂像を多数認めた。胞巣状の増殖巣には不明瞭ではある
が、腺管様構造も一部に認められた。
腫瘍細胞はサイトケラチン陽性であったが、サイトケラチン 7 は陰性で、その他
サイトケラチン 5/6、ビメンチン、クロモグラニン A、S100 いずれも陰性であった。
肺:肝臓と同様の組織所見を有する腫瘍病変を認めた。
十二指腸:肝臓と同様の組織所見を有する腫瘍病変を認めた。
症例2…肝臓:多数の腺腔を形成している腫瘍組織が肝実質中に浸潤性に増殖していた。腫瘍細胞
の核は淡明で、核小体明瞭、核分裂像も多数認め、腺腔内に小乳頭状に増殖してい
る像を認めた。腫瘍組織周辺は、結合組織の増生を認めた。
腫瘍細胞はサイトケラチン7陽性であった。
症例3…肝臓:腺管状~索状の腫瘍細胞が肝実質中に浸潤性に増殖していた。腫瘍細胞は大小不同、
類円形~不整形で、異型性の強い核を有する上皮様腫瘍細胞で、核分裂像を多数認
めた。腫瘍組織周辺の結合織の増生は顕著であった。腫瘍組織で形成される管腔内
には好中球や腫瘍組織の退廃物を認めた。
腫瘍細胞はサイトケラチン7陽性であった。
縦隔リンパ節:肝臓と同様の組織所見を有する腫瘍病変を認めた。
症例4…肝臓:病変部では角化を伴う島状~胞巣状の腫瘍細胞が浸潤増殖していた。腫瘍細胞は表
皮有棘細胞様で、癌真珠の形成が認められる部位も散見された。腫瘍細胞の核は大
型・類円形で、大型の核小体・核分裂像を認め、細胞の異型性も明瞭で細胞間橋も
認められた。また、腫瘍組織辺縁部では、膠原線維の増生が認められた。
腫瘍細胞はサイトケラチン 5/6 陽性であった。
4.考察
症例 1 では腫瘍細胞の異型性が高く、また組織形態も正常な肝細胞・胆管上皮細胞と異なるため、由
来細胞の特定が困難であった。腺管様構造もわずかに認めたことから、胆管癌を疑いサイトケラチン 7
で免疫染色を試みたが、陰性であった。また、十二指腸に腫瘍細胞を認めたこともあり、カルチノイド
の可能性も考慮し、クロモグラニン A、S100 で免液染色を試みたが、いずれも陰性であった。複数の
サブタイプと反応するサイトケラチンによる免液染色には陽性であったこと、サイトケラチン 5/6、サ
イトケラチン 7 に陰性であったことから、肝細胞癌が疑われた。
症例 2 では、腫瘍組織が腺管様構造を形成していたこと、また、サイトケラチン 7 に陽性であったこ
とから、胆管癌と診断した。
症例 3 では、症例 2 同様、腫瘍組織が腺管様構造を形成し、また、サイトケラチン 7 に陽性であった
ことから、胆管癌と診断した。なお、本症例は縦隔リンパ節にも転移を認めた。
症例 4 では、扁平上皮癌の典型的な所見である癌真珠を認め、また、サイトケラチン 5/6 による免液
染色で陽性であったこと、他の臓器に腫瘍を疑う病変がみつからなかったことから、肝原発の角化性扁
平上皮癌と診断した。
5.まとめ
今回検討した 4 症例では、胆管癌が 2 症例、肝細胞癌を疑う症例が 1 例、報告例の少ない肝原発の角
化性扁平上皮癌が 1 例であった。4例とも肉眼所見で白色結節を認め、胆管の肥厚、拡張を認めたが、
胆管癌と診断したものはそのうちの2例のみであった。このことは、胆管の肥厚・拡張は、胆汁うっ滞
を主因とする二次的な病変であることを示唆している。また、生理的に重層扁平上皮を持たない肝臓に
扁平上皮癌を認めたことは、①単層円柱上皮である胆管上皮細胞が、何らかの原因で扁平上皮化生を起
こし、それが腫瘍化した、②肝細胞、胆管上皮細胞から化生等の段階を経ず、扁平上皮癌が発生した(de
novo)、③生理的に重層扁平上皮である前胃粘膜上皮細胞が腫瘍化し、門脈を介して転移した、等の可
能性が考えられる。肝臓が原発の腫瘍の場合、転移は比較的少ないとされる(1)が、今回肝臓が原発と
考えられる腫瘍 4 例のうち、2 例で他臓器・組織への転移が認められた。人医学領域では胆管癌の腹膜、
肝臓周辺臓器への播種の報告もあり、また、血行性、胆汁分泌に伴うリンパ行性転移の可能性も考慮し、
腫瘍様病変を確認した際には、慎重に全身への転移の可能性を考慮し、精査する必要があることが示唆
された。
また、今回の検討で免疫染色を試みたが、ヒト組織用の一次抗体でも良好な染色結果が得られた。組
織形態学的な特徴が乏しく、診断が困難な症例では、特に大きな診断の一助となると思われる。全国食
肉衛生検査所協議会・病理部会でも、各自治体のと畜検査員が免疫染色を利用した症例発表を重ねてお
り、染色・診断基準の確立が待ち望まれている。一次抗体、動物種の組み合わせにより、染色がうまく
いかない例も多く報告されているが、当所としても、今後さらなる調査・研究を進め、免疫染色の活用
法を検討していきたい。
今後も病理組織学的検討を積み重ね、現場でのと畜検査にフィードバックすることで、検査の精度・
信頼の向上を図り、食肉の安全・安心を守っていきたい。
参考文献(1)板倉智敏、後藤直彰 編:獣医病理組織カラーアトラス
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