Comments
Description
Transcript
野外観察を通した生態系の理解に基づく環境保全のための環境
野外観察を通した生態系の理解に 基づく環境保全のための環境学習 -湖沼における富栄養化現象の理解を通して- 茨城県霞ケ浦環境科学センター 環境活動推進課 ○岡﨑 和也 冨田 俊幸 はじめに • 国立教育政策研究所(2014)によれば,「-前略-子供が事象の面白さや素 晴らしさを感じ取り,自然や社会を大切にしようとする心を育てていく ようにすることが大切-後略-」としている。 • モデル実験による富栄養化現象の教材はあるが,動植物プランクトンや 魚の観察を通して実感を伴った理解に基づくものは見当たらない。 目的 • 観察活動による学びを基に,実感を伴った理解から環境保全の態度 を養う学習を展開するプログラムの開発と検証をする。 • 学習のねらいを「富栄養化現象を生態系から捉え,水質汚濁の原因 の知識から人間の自然環境への影響の認識を促すことで,環境保全 の態度を形成し,水質浄化のための行動化を図る。」とする。 2 方法 センターの庭を野外観察の場に活用 対 象:湖上体験スクール参加団体 最大40人/回 時 間:60分のうち,42分間の観察活動 1ヵ所につき7分 × 6ヵ所 場 所:センターの庭など • 庭をミニ霞ヶ浦に見立てる • 学習ポイントに職員またはパートナーを配置 計6名 3 方法 野外観察の実際 ①魚の観察 上池と水槽で,霞ヶ浦にいる魚の観察 ・魚が動物プランクトンを食べていること 群れでおよぐメダカ,タナゴが産卵する二枚貝, 佃煮のもとになるエビ など 4 方法 野外観察の実際 ②植物プランクトンの観察 霞ヶ浦にいる植物プランクトンの観察 ・湖水中の栄養をもとに育つこと ・動物プランクトンに被食されること アオコのもとになる植物プランクトンがあること, 植物プランクトンにもさまざまな種類があること など 5 方法 野外観察の実際 ③動物プランクトンの観察 動物プランクトンを採取して観察 ・植物プランクトンを捕食すること ・魚に被食されること ミジンコ類・カイミジンコ類・ワムシ類の観察, プランクトンネットの使い方 など 6 方法 野外観察の実際 ④霞ヶ浦の観察 霞ヶ浦とその周囲の観察 ・自動観測所を見つける 霞ヶ浦周辺のランドマーク(大仏像,浄水場ほか), サギなどハス田の生物,魚を捕食する鳥の紹介, 7 高い山が無いこと など 方法 野外観察の実際 ⑤野鳥の観察 霞ヶ浦周辺にすむ野鳥の観察 ・耳と目を使って野鳥を見つける 野鳥の観察(ヒヨドリ,ハクセキレイ ほか), トビやカワウの紹介,鳴き声クイズ など 8 方法 野外観察の実際 ⑥植物の観察 霞ヶ浦の水生植物の観察 ・ガマ・ヨシ・イグサを見つける 植物が,水中の栄養を取り入れて生きていること, 植物の観察(オニバス,ウキヤガラ,シロネ)など 9 方法 野外観察の実際 学習のまとめ 生き物のつながり と 富栄養化 食物連鎖の図(部分) 富栄養化の図(部分) • 生き物のつながり(食物連鎖)の理解 • 植物が水中の栄養(栄養塩)を吸収していることの理解 • 富栄養化した湖とそうでない湖の違いの理解 10 結果 アンケート調査の概要 調査日(事後) 2014年10月10日 調査対象 茨城県内小学校4年生・5年生 サンプル数 89 A小学校 4年生 59 B小学校 5年生 30 アンケートは小学校4・5年生の児童でも理解できるよう,平易な表現で作成。 事前アンケートは,各学校において担任の先生の指導のもと実施。 事後アンケートは,センターにおいて職員指導のもと実施。 11 結果 アンケートの設問と,観点・尺度 観点 設 問 ①汚濁原因 の知識 湖や川の水が汚れているわけを知っていますか。 ②人間の 影響認知 人間は,自然環境に大きな影響を与えていると思いますか。 (何が,誰が汚しているか) (自然に対して,大きな影響を与えていることに気が付いているか) ③ あなたは,環境にやさしい行動をしないといけないと思いますか。 環境倫理観 (水を汚さないようにしなければいけないか) ④環境保全 の態度 あなたは,環境にやさしい行動を行いたいですか。 (汚れた水を流さない工夫「節水をする,食べ残しをしないなど」がしたいか) 1 2 とてもよく あてはまる どちらかといえば あてはまる 3 4 5 ふつう どちらかといえば あてはまらない まったく あてはまらない 12 結果 アンケート調査の結果 1 ① 汚濁原因の知識 学習前 湖や川の水が汚れるわけを知っている か。 32.6% とてもよく分かった どちらかといえば 分かった 46.1% ふつう 学習後 88.8% 88.8% 0% 20% 40% 10.1% 60% 80% 100% どちらかといえば 分からなかった ほとんど 分からなかった t検定 有意水準1%で有意差有り ② 人間の影響認知 学習前 大きな影響を与えていると思うか。 39.3% とてもそう思った どちらかといえば そうおもった 57.3% ふつう 学習後 69.7% 0% 20% 40% 27.0% 60% 80% 100% t検定 有意水準1%で有意差有り どちらかといえば そう思わなかった ほとんど そう思わなかった 13 結果 アンケート調査の結果 2 ③ 環境倫理観 水を汚さないようにしなければいけないか。 しないといけない 学習前 65.2% 65.2% どちらかといえば しないといけない 27.0% なんともいえない 学習後 69.7% 69.7% 0% 20% 18.0% 10.1% 40% 60% 80% 100% どちらかといえば しなくてもよい しなくてもよい t検定での有意水準 認められない ④ 環境保全の態度 学習前 汚れた水を流さないようにしたいか。 32.6% 29.2% 23.6% とてもそう思った どちらかといえば そうおもった 10.1% ふつう 学習後 64.0% 64.0% 0% 20% 40% 22.5% 60% 80% 11.2% 100% t検定 有意水準1%で有意差有り どちらかといえば そう思わなかった ほとんど そう思わなかった 14 考察 各観点項目の間に関わりがあるか ピアソンの相関係数で検討 学習前 ① ② ③ ④ ①汚濁原因の知識 ②人間の影響認知 0.07 ③環境倫理観 0.05 0.04 ④環境保全の態度 ** 0.33 0.15 学習後 *** 0.42 ① ② ③ *** 0.40 *** 0.40 *** 0.36 *** 0.55 *** 0.60 *** 0.60 ④ ①汚濁原因の知識 ②人間の影響認知 ③環境倫理観 ④環境保全の態度 **は有意水準1% * * *は有意水準0.1% 15 考察 何が環境保全の態度に影響するか パス図の作成による検討 ①汚濁原因の知識 .40* * * n=89 * * *は有意水準0.1% .40* * * ②人間の影響認知 .55* * * ③環境倫理観 .39* * * ④環境保全の態度 .39* * * 適合度指標 GFI 0.997 AGFI 0.969 RMSEA 0.000 16 まとめ • 水質汚濁の原因の知識の分布,人間の影響認知の分布,環 境保全の態度の分布の変容から,学習効果が認められた。 • 環境配慮行動に影響を与える要因は,人間の影響認知と環 境倫理観であると認められた。従って,人間が生態系に大き な影響を与えていることを認知することや,環境倫理観が高 まることが,環境保全の態度の形成を促すことにつながると 考えられる。 ただし水環境についての知識・理解が重要であることは言うまでもない。 • 本実践は,職員とボランティアとの協働によって実現でき たものである。 17