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イノベーション・システム -事例2 - 東京大学 イノベーション政策研究センター
社会システムと産業(第7回) 2011(平成23)年11月18日 イノベーション・システム -事例2 - 経済産業省大臣官房参事官 (技術・高度人材戦略担当) 谷 明人 2 Copyright © Policy Alternatives Research Institute 東京大学講義 社会システムと産業 科学技術・産業政策論基礎 平成23年 11月18日 経済産業省大臣官房参事官 (技術・高度人材戦略担当) 谷 明人 SUSTAINABILITY ↓ SURVIVABILITY 1 1.約27億年前 2.約 4億年前 3.約 2億年前 2 石炭紀:3億4500万~2億8千万年前 イギリスの炭田の多くが起因 温暖湿潤、高い二酸化炭素濃度 →植物が巨大化 ・約 27億年前 ・約 4億年前 ・約3.5億年前 ・約 2億年前 ・約1.4億年前 光合成始まる→生命が陸上へ デボン紀→樹木の出現(鱗木、盧木) 石炭紀→大型樹木と昆虫、両生類繁栄 ジュラ紀→恐竜の世紀 白亜紀(石油はジュラ紀、白亜紀起源) 3 ◇ 1月 1日 ◇ 1月12日 ◇ 2月25日 ◇12月 1日 ◇12月16日 ◇12月25日 ◇12月31日 ◇12月31日 ◇12月31日 ◇12月31日 地球誕生 天体が衝突、地球と月が分離 最初の原始生命が誕生 石炭紀 原始的な哺乳類登場 恐竜全盛期 午後11時37分 人類誕生 午後11時59分46秒 キリスト降誕 午後11時59分58秒 産業革命 午後11時59分59秒 20世紀始まり終わる 4 1.50年 2.66年 3.70年 5 1903年:ライト兄弟による動力飛行成功 1966年:アポロ11号、月面着陸 1896年:オットー・リリエンタール墜落死 最後の言葉「犠牲は払わねばならない」 6 ノースカロライナ州キティホークにて、12馬力の「ライトフライヤー号」が飛行成功。 飛行時間:12秒、飛行高度:10フィート、飛行距離:100フィート 7 アポロ11号にて、アームストロング船長が、静かの海に着陸 8 9 10 11 12 13 他の政策と同様、論理的、科学的な根拠のみで はなく、政治的・経済的・社会的影響を大いに受 ける 重要な政策は、往々にして感情で決まる 14 1903年:動力による人類初飛行 飛行後も、当時の米国科学界は、 「機械が 空を飛ぶことは科学的に不可能」 ライトフライヤー号 飛行時間: 12秒 飛行高度: 3m(10フィート) 飛行距離:30m(100フィート) 1912年:ソッピース社設立(英国) 第一次世界大戦中、5,000人を雇用し 16,000機以上の航空機を製造 ソッピース クックー 用途:雷撃機 運用者 イギリス空軍 、日本海軍 生産数:232機 運用開始:1918年 退役:1923年 最大速度: 171 km/h (92 kt) 航続距離: 539 km (291海里) 実用上昇限度: 3,690 m 15 1930年代:原子核の分裂により、莫大 なエネルギーが放出されるとの仮説 1939年:ウランによる核分裂の連鎖反 応が実験実証 1952年イギリス、1960年フランス、 1964年中国、1974年インドが原子爆 弾を開発・保有 アメリカ:1966年に約32,000発、 ソ連 :1986年に約45,000発、 イギリス:1981年に350発、 フランス:1992年に540発、 中国 :1993年に435発、 五か国合計で1986年に約7万発を保 有。 1945年8月:広島に原子爆弾投下。 広島市内には約34万2千人がいたが、 爆心地から1.2kmの範囲では当日中に 50%の人が死亡し、同年12月末までに 更に14万人が死亡したと推定 16 米ソ冷戦下、国家的プロジェクトとして弾道ミ サイルや人工衛星など、宇宙開発競争勃発。 1957年:ソ連は人工衛星スプートニク1号、犬 を乗せたスプートニク2号に成功し、アメリカに 対して優位を見せ付ける。アメリカは衛星打ち 上げに失敗し、スプートニク・ショックが走る。 1958年:アメリカはNASAを設立。 1961年:ケネディは、アポロ計画の支援表明。 1969年の終わりまでに人間を月面に着陸さ せるという挑戦のため、技術面での躍進的な 進歩及び巨額の予算(250億ドル)が必要。 アポロ計画はピーク時には40万人を雇用、 2万以上の企業や大学の支援を受けた。 1969年:アポロ11号、月面着陸成功。 17 1989年11月10日: ベルリンの壁崩壊 東西冷戦、越えられない物、 決して崩れない物、地域と国 民を分断する物を象徴する 「ベルリンの壁」が、崩壊。 国民の関心は経済面へ 18 1980年代、自動車、鉄鋼、半導体等の分野における我が国等との競争により、大幅な貿易赤字を抱 えるに至った米国は、様々な対策を講じたが、その中の代表的なものとして、1985年に競争力評議 会が取りまとめた「ヤング・レポート」が挙げられる。 莫大な貿易赤字と財政赤字のいわゆる「双子の赤字」の状況にあった当時、危機感を抱いた産業界 が主体となり、産学官の有識者によって組織された競争力評議会が、競争力強化の施策を求めて レーガン大統領に提出した報告書である。 同報告書においては、研究開発税制の優遇措置の拡大、共同研究に関する独占禁止法の障壁撤 廃、知的財産の保護強化、赤字の解消、政府・産業界・労働組合との間の実効性ある対話等の提案 が行われ、その後の米国の科学技術・イノベーション政策に大きな影響を与えた。 「ヤング・レポート」発表後、マサチューセッツ工科大学が産業生産性調査委員会を発足し、自動車、 半導体・コンピュータ等の日米欧の産業競争力のベンチマーク及び今後の米国の政策の在り方をま とめた「Made in America」を1989年に取りまとめている。 同時に、米国は、新たな先端技術のフロンティアに対する取組も加速し、IT、バイオテクノロジーなど の新たな分野の研究開発の振興を強く打ち出した。今日、これらの分野において米国が世界を大き くリードするに至っている。 その後、米国は、「日米構造協議」や「プラザ合意」を引き出し,85年の1ドル245円が87年には同 125円台と猛烈な円高を誘導した。ヤング・レポートは,日本の輸出産業が壊滅的な打撃を被る引き 金となったとも言われている。 19 1988年:スーパー301条施行 アメリカの「包括通商・競争力強化法」(Omnibus Foreign Trade and Competitiveness Act) の対 外制裁に関する条項。通商法301条強化版。 不公正な貿易慣行や輸入障壁がある、もしくはあ ると疑われる国を特定して、アメリカ通商代表部 (USTR) に交渉させ、その改善を要求し、3年以内 に改良されない場合は報復として、関税引き上げ を実施するという、非常に強い力を持った条項。 20 1980年代は、わが国の対米貿易黒字の急激な増加に伴い、日米間の貿易・技術摩擦の時代であっ た。アメリカからは厳しい「基礎研究ただ乗り」論が出され、これに対して「世界の一割国家」としての 国際貢献が強調された。 基礎研究の強化は、 1)次世代産業基盤技術研究開発制度(1981年)、 2)民間企業の行う基礎的研究への出融資による支援(85年)、 3)特別認可法人基盤技術研究促進センターの設立(85年) などの諸施策として実現した。 さらに88年には産業技術研究開発体制整備法が制定され、新エネルギー総合開発機構(1980年 設立、NEDO)に産業技術部が新設され、同機構は新エネルギー・産業技術総合開発機構と改称 する。 1980年代に入ると筑波研究学園都市に移転した国立研究所の研究が基礎重視の方向に動き、い わゆる「基礎シフト」が進んだ。 一方産業界でも80年代後半の長期の大型好況の影響もあって「第2次中央研究所ブーム」を迎えて おり、産学官連携の促進といった政策の方向性とは裏腹に実態として国立研究所と産業界の乖離が 生じる場面も表れた。 国際技術摩擦への対応策でもあった国際研究協力の1つが、日本発の国際的な研究協力プログラ ムである、生体機能の解明と応用を目指すヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP) の提唱(87年)であった。 21 バブル崩壊後、1990年代に入ってわが国のナショナル・イノベーション・システムは困難な経済状況 に直面して新たな飛躍が求められた。 国立研究所では93年1月に既存の4研究所を再編して、物質工学工業技術研究所と生命工学工業 技術研究所が設立され、同時に電子、機械、バイオなどの分野を横断・融合する産業技術融合領域 研究所が創設された。 「基礎研究ただ乗り」論に対する対応として世界的にみても魅力のあるCOEを設立するだけでなく、 融合研設立の背景には任期制、外部研究者の積極的登用、外部有識者による評価といった新しい 国研マネジメントを試行する場として「出島」的研究所が必要といった判断もあった。 さらに90年代に入って不況が深刻化する中で80年代後半とは打って変わって民間企業における基 礎研究が後退したため、これを補完する意味からも国立研究所における基礎研究の継続が民間か ら求められたのである。 しかし1990年代後半になっても景気低迷が続き、製造業の空洞化が深刻化する中で、欧米各国に おける産業技術力強化の動きに対する危機感が高まり、国際技術・研究協力よりも、国内における 雇用の増加をもたらす新規産業の創出、研究開発の効率化・評価、産学連携・国内技術移転強化 などのナショナル・イノベーション・システムの強化・見直しを目指す政策が積極的に展開されるよう になった。「基礎シフト」から「実用化シフト」への産業技術政策の重心移動がふたたび生じたのであ る。こうした中で95年11月には議員立法である科学技術基本法が成立し、96年6月から科学技術基 本計画がスタートすることになる。 22 23 24 25 IMD, a business school in Lausanne, Switzerland, is recognized as one of the world leaders in executive education. For over 60 years IMD has worked with leading global companies to develop and retain management talent. IMD is the “global meeting place”: the most international of business schools worldwide.(www.imd.ch) 26 産学連携に関する施策の経緯 【平成10年】 ・「大学等技術移転促進法」(TLO法)策定→【措置内容】TLO(技術移転機関)の整備促進 ・「研究交流促進法」改正→【措置内容】産学共同研究に係る国有地の廉価使用許可 【平成11年】 ・『中小企業技術革新制度』(日本版SBIR)の創設 ・「産業活力再生特別措置法」策定→【措置内容】日本版バイドール条項・承認TLOの特許料1/2軽減 ・日本技術者教育認定機構(JABEE)設立 【平成12年】 ・「産業技術力強化法」策定→【措置内容】承認・認定TLOの国立大学施設無償使用許可 国立大学教員の大学発ベンチャー・ TLOの役員等の兼業許可 【平成13年】 ・『平沼プラン』で「大学発ベンチャー3年1000社計画」発表 【平成14年】 ・「蔵管一号」改正→【措置内容】大学発ベンチャーの国立大学施設使用許可 ・TLO法告示改正→【措置内容】承認TLOの創業支援事業円滑化 ・「大学発事業創出実用化研究開発事業(マッチングファンド)」創設 【平成15年】 ・「学校教育法」改正→【措置内容】専門職大学院制度創設、学部・学科設置の柔軟化 アクレディテーション制度導入(平成16年度から) ・「特別共同試験研究費の総額に係わる税額控除制度」創設→【措置内容】 産学官連携の共同・委託研究について 高い税額控除率(15%)を設定 【平成16年】 ・「国立大学法人法」施行→【措置内容】教職員身分:「非公務員型」、承認TLOへの出資 ・「特許法等の一部改正法」施行→【措置内容】大学、TLOに係る特許関連料金の見直し ・ 平成16年度末時点で「大学発ベンチャー1000社計画」達成 (1,112社が創出) 【平成17年】 ・ 平成17年度末時点で大学発ベンチャー1,503社が創出 【平成19年】 ・ 産業技術力強化法改正→ 【措置内容】アカデミックディスカウントの拡充。TLOから大学へ知財を移す際の特許料減免 27 出所:経済産業省作成 28 29 30 消毒用軟膏 出所:大塚製薬HP 31 日本の三大発明 イの字が映る高柳テレビ 八木・宇田式極超短波無線電話 装置 化学調味料(味の素) 32 高柳健次郎博士は、1926 ( 大正15 ) 年 「イ」の文字をブラウン管に映し出すことに成功 33 八木・宇田アンテナ 34 うま味成分の発見 35 印刷 「東アジアでは、2世紀ごろ中国で紙が発明され、7世紀ごろには木版印刷が行なわれていたといわ れ、また11世紀には陶器による活字を使った印刷が行なわれていた。ヨーロッパでは、1450年頃の ドイツのヨハン・グーテンベルクによる金属活字を用いた活版印刷技術の発明で、印刷が急速に広 まった。」 火薬 「中国の唐代(618年 - 907年)頃には黒色火薬が発明されていた可能性がある。」 方位磁針 「11世紀の中国の沈括の『夢渓筆談』正確には「真貝日誌送」にその記述が現れるのが最初だとされ る。西アジア及びヨーロッパには、双方と交易を行っていたペルシャ人によって伝えられたと考えられ ている。」 (出展: Wikipediaより) 36 200万年前 ホモ・ハビリス(化石人類)石器を発明 50万年前 ホモ・エレクタス(原人)が火を使用 紀元前8千年 西アジアで農業・牧畜が普及 紀元前3600年 青銅の道具が現れる 紀元前3500年 シュメールで車輪と文字が発明 105年 中国の蔡倫(さいりん)が紙を発明 1450年 スペインで火縄銃が発明 1454年 グーデンベルクが活版印刷を発明 1590年 ヤンセンが顕微鏡を発明 37 1608年 リッペルハイが望遠鏡を発明 1764年 ワットが近代的蒸気機関を発明 1769年 アークライトが紡績機を発明 1800年 ボルタが電池を発明 1825年 スチーブンソンが蒸気機関車を発明 1831年 ファラデーが発電機を発明 1839年 ダゲールが銀塩写真を発明 1857年 スコットが蓄音機を発明 38 1860年 ルノアールが内燃機関と自動車を発明 1869年 ハイアットが「セルロイド」を発明 1876年 ベルが電話を発明 1879年 エジソンが電灯を発明 1885年 ダイムラーとベンツがガソリン自動車を発明 1890年 北里柴三郎とベーリングが破傷風とジフテリアの血 清治療を確立 1895年 レントゲンがX線を発見 1897年 ディーゼルがディーゼルエンジンを発明 1903年 ライト兄弟が動力飛行機の初飛行に成功 39 1904年 J.フレミングが真空管を発明 1910年 鈴木梅太郎がビタミンを発見 1928年 A.フレミングがペニシリンを発見 1935年 カローザスがナイロンを発明 1935年 ワトソンワットがレーダーを発明 1938年 ズウォーリキンがテレビカメラを発明 1947年 ショックレー、ブラッタン、バーデンの3人が トランジスタを発明 40 1953年 ワトソンとクリックがDNAの二重らせんを解 明 1957年 江崎玲於奈がトンネルダイオードを発明 1973年 コーエンとボイヤーが遺伝子組み替え成功 1987年 ミュラーとベドノルツが高温超伝導を発見 1997年 ロスリン研究所によるクローン羊の誕生 (出展:北海道経済産業局HPより) 41 1 アメリカ合衆国 305 2 イギリス 106 3 ドイツ(+ 東ドイツ) 80 4 フランス 54 ケンブリッジ大学トリニティカレッジ31 5 スウェーデン 30 6 スイス 22 7 ロシア 19 8 日本 15 9 オランダ 15 10 イタリア 14 11 デンマーク 13 12 オーストリア 12 13 カナダ 10 14 ノルウェー 9 14 ベルギー 9 16 イスラエル 8 42 青色発光ダイオード 43 技術の概要 窒化ガリウム(GaN)系の青色発光ダイオードは、優れた物性を有しつつもGaN の結晶化が極めて困難だったため、当時ほとんど研究されていなかったが、赤崎 教授らは、基盤層とGaNの間にバッファ層を低温堆積することにより、欠陥や不 純物の格段に尐ないGaN結晶の成長に成功。高輝度青色発光ダイオードの開発 に決定的なブレイクスルーをもたらした。 出典: 2002年武田賞 選考理由書 赤崎教授による青色発光ダイオード研究の経緯 研究促進 共同研究形成 実用化促進 通産省中核プロジェクト 「GaNによる青色発光素子開 発に関する研究」 (1975~1978) ‘59 ‘60 助名 教古 授屋 等大 就学 任 JST独創的シーズ展 開事業委託開発 (5億5千万円、1987 ~1990) ‘70 研松 究下 所電 入器 所東 京 (’05~’07までに消滅) ‘90 ( 特 92 許 年出 に願 権 利 化 ) ‘00 の豊 生田 産合 ・販 成 売が を青 開色 始 LED 結晶成長の研究に着手 ’85~’87の出願6件を権利化 ‘80 教名 授古 就屋 任大 学 窒化ガリウム(GaN)系 発光デバイスの研究に着手 実用化 豊田合成との 共同研究 経済効果 1997 年から2005 年末まで9年間における、携帯電話や大型フルカラーディスプレイ等豊田合成のLED を 利用した応用製品の総売上は約3 兆6000 億円に達している。経済波及効果を見た場合、直接的には、我 が国の産業界において3500 億円弱の付加価値が新たに生み出され、約3.2 万人程度の雇用が新規に創 出された。また、国家に約46 億円の実施料収入ももたらした。 出典:JST「委託開発の成果『青色発光ダイオード』の経済波及効果について」 成功要因 「光デバイス」という明確な応用分野の目標を持った、長期的な研究体制 1973年GaN系デバイスの研究開始→1985年基本特許出願→1995年青色LED実用化。 実用化開発は、赤崎教授の指導を受けて豊田合成が実施→赤崎教授は研究に専念。 (共同研究と言うよりは、実態は技術移転に近い。) 外部資金の獲得とそれに伴う共同研究 通産省中核プロジェクト「GaNによる青色発光素子開発に関する研究」(1975~1978) →NEC、電総研、東大の研究者による研究会を形成。 JST独創的シーズ展開事業委託開発(5.5億円、1987~1990)→豊田合成との共同研究。 アーリー段階からの実用化共同研究の開始 共同研究開始から7年かけて実用化。 赤崎教授は当初産学連携を断ったが、JSTと豊田合成側の熱意で実現。 強い特許の獲得 最初の基本特許(1985年出願)のみ大学単 独出願、それ以降の出願を豊田合成と共願。 当初から海外(US)へも出願。 基本特許出願の実施に向けた委託研究とし て、JSTの委託開発と豊田合成との共同研究 がスタート。 1997年から2005年までに国家にもたらした 実施料収入約46億円。2004年度まで、全国 の大学特許実施料の大部分を名大が占める。 大学特許実施料収入の推移(千円) 1200000 全体 1000000 このうち、名古屋大学 800000 600000 400000 200000 0 FY14 FY15 FY16 FY17 FY18 FY19 FY20 注)'02年度は国立大学のみ。'03年度以降は国公私立大学等を対象 特許権(受ける権利を含む)のみを対象とし、実施許諾及び譲渡による収入を計上 出所)文部科学省資料より作成 名古屋大学赤崎教授「青色発光ダイオード」 参考文献: 1. 応用物理 第76巻第8号(2007) 特集記事「青色発光ダイオードを求めて」 (http://www.jsap.or.jp/ap/2007/ob7608/cont7608.html) 2. 2002年武田賞フォーラム 講演1 「窒化ガリウム青色発光デバイス開発– 洞察、挑戦と成 功」(http://www.takeda-foundation.jp/award/takeda/2002/forum/01a.html) 3. 2002年武田賞 選考理由書 (http://www.takeda-foundation.jp/award/takeda/2002/fact.html) 4. JST「委託開発の成果『青色発光ダイオード』の経済波及効果について」 (http://www.jst.go.jp/itaku/result/effect.html) 5. 産学官連携ジャーナル Vol.3 No.6 2007 (http://sangakukan.jp/journal/main/200706/pdf/0706-10.pdf) 6. 豊田合成(株)ウェブサイト (http://www.toyoda-gosei.co.jp/kigyou/ayumi/1990.html) 7. CTLO Today(中部TLOニュース) No.1「21世紀の光…青色発光デバイス」 (http://www.ctlo.org/syoukai/pdf/news01.pdf) 垂直磁気記憶指揮HDD装置 48 技術の概要 単磁極垂直記録ヘッド、Co-Cr垂直磁気異方性記録媒体、軟磁性裏打ち層構造の3つの 実用化要素技術により、従来の水平磁気記録方式に代えて、記録面に対して垂直方向に 磁界をかけて磁化を行う垂直磁気記録方式を実現。 これにより、熱エネルギー擾乱(じょうらん)による記録ビットの磁化消失を回避し、水平磁 気記録方式HDDの記録密度限界を突破。 岩崎博士らによる垂直磁気記録方式の研究の経緯 NEDO超先端電子技術 開発促進事業 磁気記録プロジェクト 文科省科研費、放送文 化基金134百万円 日本学術振興会 「磁気記録144委員 会」創設 垂直磁化方式 への着目(CoCr垂直異方性 媒体の発見) 情報ストレージ 研究推進機構 (SRC)設立 米ベンチャーが 設立され商品化 を目指す →失敗 ‘75 ‘76 ‘77 ‘80 ‘82 ‘83 岩崎教授退官 東北大では中村慶 久教授らが研究を 引き継ぐ ‘89 ‘90 出典:IT Media エンタープライズ 技術研究組合 超先端電子技 術開発機構設 立 ‘95 ‘96 ‘00 ‘02 文科省ITプログラ ム「超小型大容量 HDの開発」 東北大学 IT-21セン ター 設置 ‘05 ‘06 第4回産学官 連携功労者 表彰 経済産 業大臣賞受 賞 ‘10 垂直磁気記録 「冬の時代」 垂直磁化記 録方式の発 表(国際応用 磁気学会国 際会議) 垂直磁気記録 基本形態の確 立(MRM会 議発表) 垂直磁気F DD試作 垂直磁気H DD試作 日立GSTが 垂直磁気HD Dプロトタイプ を発表 出典:産学官連携ジャーナル、H19科学技術白書、日経産業新聞online、東北大学電器・情報東京フォーラム2009ポスター 東芝が垂直 磁気記録HD Dの世界初の 製品化に成 功 シーゲート 社(米)、日 立GST、 富士通が 製品化 社会に及ぼしたインパクト 120Gb/in2と言われた水平磁化方式の記録密度限界を大きく更新。ムーアの法則を上回る速度で向上。 垂直磁化方式の実用化を皮切りに、HDD市場は拡大の一途をたどり、平成16年に2兆5,000億円であったHDD市場は、 現在6兆円市場と言われているが、それらは全て垂直磁気記録方式に置き換えられている。 我が国のハードディスクの世界シェアは、1996年当時で8%。2006年に33%(市場規模3兆3,400億円)へ増加。2.5イ ンチ以下のハードディスク装置は日本企業の独壇場に。 研究プロジェクトの活動等を通じて、学生等に対しても磁気記録への興味と理解が深まり、この分野の人材育成の面で 大いに寄与。東北大学電気通信研究所は長年にわたりHDD業界へ研究者を輩出し、HDDの要素部品メーカに多くの修 了生が就職・活躍している。 (世界初の垂直磁化方式HDD実用化を達成した東芝の研究チームを率いた田中陽一郎氏、及び、現在、東北大学にて 次世代超高密度HDD等を研究する村岡裕明教授は、共に岩崎研究室の門下生。) 出典:平成19年版 科学技術白書 、平成20年度技術評価調査( 超先端電子技術開発促進事業の追跡評価のための調査)報告書、ITプログラム最終成果報告会資料、平成18年度特許出願技術動向調査報告書 成功要因 学内・学外の「知の継承」を伴った長期的な研究 1975年垂直磁化方式の研究開始→2005年に実用化。岩崎教授退官後も研究が進展。 岩崎教授の教え子達による実用化の達成。 水平磁化方式の性能向上や実用化の困難性により各社が垂直磁化方式から撤退した「死の谷」を超え ての、大学による継続的研究。 継続的な外部資金の獲得 文科省科研費(’75~) →研究初期段階の立上げ NEDOプロジェクト(’95~’00)→各社が撤退した 「死の谷」からの復活、実用化の目処 文科省ITプログラム(’02~’06)→実用化の加速・達成 アーリー段階からの産学交流の場の形成 研究初期段階に日本学術振興会「磁気記録144 委員会」創設。その後も情報ストレージ研究推進 機構(SRC)(2008年で14企業(うち外資系5社)、 28大学) 、超先端電子技術開発機構(ASET) (日立、東芝、富士通)、東北大学IT-21センター (日立、東芝、富士通、富士電機、日立GST)等、産学が交流する場を形成。 知的財産権の公開 岩崎教授は基本特許を1件のみ取得し、且つ同特許を広く公開。これにより多数の民間企業が事業化 研究に参入。 出典:平成19年版 科学技術白書 (文部科学省) 参考文献: 1.産学官連携ジャーナル Vol.6 No.4 2010「特集 ハードディスク革命 岩崎俊一博士の30年」 ( http://sangakukan.jp/journal/main/201004/1004-all.pdf ) 2.平成19年版 科学技術白書第1部 第1章 第3節 1 社会を変えた科学技術の成果 ( http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200701/012.htm ) 3.平成20年度技術評価調査(超先端電子技術開発促進事業の追跡評価のための調査)報告書 ( http://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/e00/01/H20/104.pdf ) 4.文部科学省ITプログラム最終成果報告会資料(平成19年3月19日) ( http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/006/shiryo/07061516.htm) 5.日経産業新聞online 「岩崎博士に学ぶ研究者の気概」 ( http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec100120.html ) 6.東北大学電器・情報東京フォーラム2009ポスター ( http://www.riec.tohoku.ac.jp/forum2009/poster2009/nano/13.pdf ) 7.超先端電子技術開発促進事業追跡評価報告書参考資料 ( http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90423b11j.pdf ) 8.技術研究組合超先端電子技術開発機構(ASET)の研究成果 ( http://www.aset.or.jp/kenkyu/panf_2.pdf ) 9. 特許庁平成18年度特許出願技術動向調査報告書(高記録密度ハードディスク装置) (http://www.jpo.go.jp/shiryou/pdf/gidou-houkoku/18info_harddisk.pdf ) 10.中村慶久監修「垂直磁気記録の最新技術」シーエムシー出版 (2007/07/31) 液晶技術 53 技術の概要 液晶の分子配列について表面の微尐構造説、分子間相互作用説等を提唱し、マイクロカ ラーフィルタ(1つの画素を3つに分けて、液晶セルの内側に配置する、赤、緑、青のごく小 さい色フィルタ)によるカラー表示法等を確立した。これにより液晶ディスプレイの高画質化、 カラー化に成功し、カラーテレビ用ディスプレイやコンピュータ端末等に広く実用化され、画 像エレクトロニクスの発展に大きく貢献した。 出典:産学官連携ジャーナル、DB-JET 内田教授による液晶カラーディスプレイ研究の経緯 (点線内は、反射型カラー液晶ディスプレイに関する取組) 米国(RCA)で 液晶技術誕生 研究開始 ‘68 カラー化に関する 共同研究開始 内田教授と シャープの出会い 液晶の分子配列に関する論 文発表 ‘70 シャープの 商品化の動き マイクロカラーフィル ター方式を提案 ‘80 電卓表示に 応用(白黒) ワープロディスプレイに 応用(白黒) 反射型液晶 ディスプレイに関する 共同研究開始 科研費補助金 「高輝度・超低電力・反射型カラー液晶 ディスプレイの開発」 (14,600千円、1990~1991年) バックライト無しの「反射型液晶 ディスプレイ」開発着手 ‘90 ‘00 反射型カラー液晶ディスプ レイ販売 →任天堂ゲームボーイ等に 利用 ‘01 AQUAS販売 出典:産学官連携ジャーナル、SHARP、三菱総研、 (独)日本学術振興会 経済効果 テレビ用液晶ディスプレイの開発の結果、液晶テレビ市場が創出され、関連部材・部品・設備の市場も形成さ れた。2002年から2008年の7年間における液晶テレビの国内出荷額は4兆2,000億円に達している。またテ レビ産業以外への貢献も著しく、国民経済や国家税収に大きく寄与していることが推察される。 液晶ディスプレイは、その特徴である薄型・軽量、省電力・省スペー ス、表示の美しさなどを活かして、従来のブラウン管に変わるディスプ レイとして注目されている。液晶テレビ、ノートパソコン、モニター、モバ イル機器、携帯電話などの大規模市場を中心に幅広い分野での需要 増が見込まれ、我が国の基幹産業の一つになっている。 また液晶テレビ産業が創出されなかった場合、付加価値の取りにく いブラウン管テレビ産業は海外移転が進み、日本からテレビ産業が喪 失してしまった可能性もある。 (参考)テレビの国内出荷額 出 荷 額 ( 百 万 円 ) 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 378,102 310,222 261,843 228,351 567,693 621,180 493,933 133,597 222,756 425,487 657,749 812,539 914,896 1,052,093 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 その他のテレビ(PDP含む) 液晶テレビ 出典:三菱総研、三重県、経済産業省生産動態統計 成功要因 「液晶のカラー化」という明確な応用分野の目標をもった長期的な研究体制 液晶自体は民間企業も開発に取り組んでいたため、「大学がやるべき5年、10年先の研究」を 意識して「液晶のカラー化」を目指した。 (→マイクロカラーフィルター方式の提案からAQUOS販売まで20年を要した。) 「境界領域の融合」による新技術開発 液晶技術の開発には、電子工学、物理学、化学の3分野の知識を総合した「境界領域」の知識が必要。 もともと電子工学を専門としていた内田教授は、他2分野についても学習し、境界領域の融合に取組んだこと で、当時の理論を覆す新たな理論を構築した。 共同研究企業による知財戦略 1990年代から共同研究企業であるシャープは、競合他社の参入を防ぐ高い障壁を築くため、戦略的に特許網を構築。 一方で、液晶に対するグローバルな旺盛な需要に対し、シャープ1社だけで応じることができないため、他社の行動も市場 拡大という観点で一定の意義があると判断し、他社による製品提供も静観。 知財戦略 シャープVSサムスン 2007年8月、シャープがアメリカで、サムスンを提訴。(サムスンが米国で販売している液晶モジュール等が、 シャープ所 有の液晶関連特許を侵害していると主張。) 同年11月サムスンが反訴し、以降、日本、韓国、米国、ドイツ、オランダで、シャープが原告9件、サムスン原告9件、双方 原告3件の計21件の訴訟が起こされた。 2010年2月、和解契約。訴訟の対象になっていた特許は相互に利用できるようになった。 ただし、最新の技術は対象外。両社とも訴訟中から特許を侵害しないよう回避策をとってきたため、直接の影響は限定 的。 (和解契約の詳細内容は未公表。) 出典:河北新報社/東北大、産学官連携ジャーナル、SHARP、日経BP、IBTimes、朝日新聞社 参考文献: 1.産学官連携ジャーナル Vol.5 No.2 2009「特集 独創技術 事業化への苦闘と陶酔」 ( http://sangakukan.jp/journal/main/200902/pdf/0902-02-3.pdf ) 2.電気のデジタル博物館 日本の電気電子・情報関連卓越技術データベース ( http://dbjet.nii.ac.jp/pub/cgi-bin/detail_jr.php?id=1115 ) 3.SHARP Technical Journal No.28(2007年11月)「TFT研究開発ことはじめ」 ( http://www.sharp.co.jp/corporate/rd/31/pdf/96-p4.pdf ) 4.平成18年度独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター委託調査 三菱総合研究所「科学技術イノベーションのプロセスと社会経済的インパクトに関する調査」 ( http://crds.jst.go.jp/output/pdf/07rr01r.pdf ) 5.科学研究費補助金データベース ( http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/02555076 ) 6.三重県「FPD産業の現状並びに将来における人材ニーズ調査」 ( http://www.oshigoto.pref.mie.jp/connect/research/research03.html ) 7.経済産業省産業省生産動態統計( http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/03_kikai.html ) 8.河北新報社 東北大サイエンスカフェ ( http://www.kahoku.co.jp/spe/sciencecafe/ ) 9.SHARP 「革新的技術の事業化成功要因」 ( http://www.ryutu.inpit.go.jp/pldb/seminar_a/2009/pdf/20/A5/A5-02.pdf ) 10.日経BP知財Awareness 「シャープの液晶事業は周到な知財戦略で成功」 ( http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/manufacture/sharp20040510.html ) 11. IBTimes ( http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070807/10709.html) 12. Asahi.com(朝日新聞社) ( http://www.asahi.com/business/update/0208/OSK201002080076.html) 太陽電池 58 炭素繊維 59 エコキュート 60 皆様方の充実した学生生活を、心から お祈りいたしております! 61