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テクノえっせい - 中国経済産業局
テクノえっせい 313 オンリーワンを目指す 広島工業大学名誉教授 中山勝矢 正直なもので、厳しい夏の暑さも彼岸まで。10月も中旬に なったら、薄ら寒さを感じ、冬支度が気になってきました。街 では、重ね着をする人を見かけます。 衣食住といいますが、食、住と同様に、衣の方も技術革新 が進んでいます。新機能繊維と呼ばれるものはその一つで、 いろいろと生活を豊かにしてくれています。 かつては天然繊維が王座にありました。いまでは合成繊 維が幅広く使われるだけでなく、混紡したり、断面の形状を 複雑化したり、表面に処理を加えて機能を高めています。 ●一念発起 たとえば夏物の衣類に、「UVカット」と書かれたものがあり ます。その多くは、繊維の中にUV(紫外線)を反射する酸化 チタンの微粒子を練り込んだ繊維を使っているのです。 また別に、UVを吸収する物質を繊維の表面に付着させた タイプもあります。それは単にUVの遮蔽機能だけでなく、発 色や色落ちまでも考慮して生まれた商品だといいます。 第20回の中国地域ニュービジネス賞優秀賞に輝いたのは 岡山県津山市加茂町にある加茂繊維㈱でした。授賞式で は、代表取締役の角野充俊さんがスピーチされました。(写 真1) (写真1)受賞のスピーチをする角野充俊代表 取締役 (H24年度のNBC総会で) 加茂町は、津山市の中心部から北に15㎞ほど入った県境 に近い山間の町です。会社はJR因美線の知和駅から歩い て10分、津山ICから車で20分ほどのところにあります。 津山市は中国山地を背に、中央部に1級河川の吉井川が 流れる人口11万人の城下町。市内には中国道ICが2か所 もあり、関西からの誘致企業と地場企業とからなっています。 加茂繊維もグンゼ㈱の下着専門の100%下請け企業で、 日産1万着の生産能力を達成していました。しかし生産拠点 の海外移行に伴う構造不況の波は、情け容赦ありません。 旬レポ中国地域 2012年11月号 1 2代目で、もともとは建築士である角野さんの考えは、柔 軟な上に前向きでした。一念発起、オンリーワンの製品を作 ろうと志を立てたのだと、熱をこめて話されました。 何をやるのか、やれるのか、市場から喜ばれる商品が作 れるのかなど、ハードルは高いのです。でも会社が縮小し、 消滅したら、社員も地域社会も甚大なダメージを受けます。 ●ナノ粒子を練り込む 狙ったのは、理想の温か肌着でした。まず大手紡績メー カー(株)クラレと親企業グンゼ(株)の技術支援の下、天然鉱 石ブラックシリカをポリエステル繊維に練り込み、新繊維 (BS FINE)を生み出したのです。 (写真2)ブラックシリコンを練り込んだ新機能繊維 (加茂繊維㈱のカタログから) ブラックシリカ(神天石)は数億年の間、海底に堆積した珪 藻類が隆起した鉱石で、北海道桧山郡上ノ国町に産出しま す。この石で作ったベッドに横たわる温浴が岩盤浴です。 この石を、なんと数μm程度の超微粉に砕いて原料のポリ エステルの中に練り込み、糸にしたわけです。石が常温で 出す4~14μmの波長帯の遠赤外線が有効なのです。(写 真2) 呼び名は「あったか繊維」なのですが、これで作った肌着 は温かいだけでなく、冷え性・低体温の改善、さらには疲労 軽減効果もあり、「着る岩盤浴」として口コミで広がっていま す。 いまや商品は肌着以外にもレッグウォーマー、レギンス、 サポーター、靴下、ウエストバンド、ロングショール、アーム カバーと広がり、リピート通信販売方式で捌いています。 (写真3) 既存の流通販売の場合、成功すればするほど運転資金 が必要になり、中小企業では資金不足に陥る危険性が高 いためとお客様にしっかり商品を説明して納得しお買い求 めいただくためだといいます。 (写真3)あったか繊維で織り上げた肌着の例 (加茂繊維㈱のカタログから) 大手の技術力をベースに、新しい発想で販売モデルを組 み立てたこと、顧客ニーズを的確に自分のものとしているこ となど、ここからは学ぶべきことが数多くあります。 平成15年に岡山県夢づくりオンリーワン認定企業となって います。そして今回は、中国地域ニュービジネス賞優秀賞を 受賞されたのです。 自由経済では、目的を達成する商品が一つあれば済むの ではなく、広範にニーズを探して別の道を創造して競争する わけです。それでこそ技術の進歩があります。 HP http://www.bsfine.com 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2012年11月号 Copyright 2012 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 2