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エコ・デバイスとは?

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エコ・デバイスとは?
section
エコ・デバイス
とは?
1
エコ・デバイスとは?
(a)真空管
環境保全の京都議定書*1 が発布されてからエコ意識が高まり、
“エ
(b)ディスクリート素子
(トランジスタ、ダイオード)
(c)集積回路
(Integrated Circuit:IC)
写1―1 電子デバイスの変遷
section
いては、電子式卓上計算機(略して、電卓)の開発の流れと各種キー
子を集積化する超大規模集積回路(Very Large Scale Integrated Cir-
デバイスの開発の流れがリンクし、電卓の性能は激変的な省エネルギ
cuit:VLSI)時代へと突入し、ますます電子機器の小型化が進み、そ
ー化を達成してきております。この章では、電卓の開発の流れを大ま
れとともに大幅な消費電力の低減もなしてきたのです。このような電
かに見ながら省エネルギー化の流れ、つまり、エコ・デバイス開発の
子デバイスの変遷は、電卓、パソコンの開発の流れとともに変貌して
流れを見ていきます。
きました。そこで、電卓を例にとり、省エネルギー化の流れを見てい
section
きます。
3
照明用有機EL
1.1
1.2
エコ・デバイスの誕生
照明用LED
2
コ・デバイス(Eco―Device)*2”なる言葉が生まれました。日本にお
電卓開発の流れ
エコ・デバイスの“エコ”は“ecology”
、つまり、
“生態学”
、
“生
電卓と同じような計算をするという機能をもった代表的な電子機器
意味で用いられ始めています。近年、電子機器のキーデバイスとして
はコンピュータです。このコンピュータの電子化は1
9
46年、米国ペ
は、写1―1のように真空管から始まり、その機能を半導体化したデ
ンシルバニア大学によって真空管を約1
9,
00
0本使用して開発した
ィスクリート(discrete:個別)素子、そして、それらの素子からな
ENIAC(Electronic Numerical Integrator and Calculator)が始まりで
る回路を一つの基板上に組み込んだ集積回路(Integrated Circuit:
す*1。このコンピュータは、重さ3
0トン、床面積450m2 と大変、大
IC)へと進化しました。その中でも集積回路は、何百万個の個別素
きな計算機でした。
010
それから約1
0年後、電卓が日本で生まれました。これは、日本古
来からある“そろばん”を電子化するということから始まったと考え
られます。最初は、1
95
7年カシオ計算機
(株)
によるリレー式計算機
*2
(型名:14―A)
で機械式でしたが、1
96
3年英国 Bell Punch and
<脚注>
*1 インターネットより引用、www.wizforest.com/OldGood/eniac/
*2 インターネットより引用、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)
:電卓」
011
4
section
5
太陽電池
<脚注>
*1 京都議定書:1
9
9
7年1
2月1
1日、第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖
化防止京都会議、COP3)で議決した議定書で、正式名は気候変動に関する国際
連合枠組条約の京都議定書(Kyoto Protocol to the United Nations Framework
Convention on Climate Change)のことです。なお、COP3とは、The 3rd
Session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change(地球温暖化防止京都会議)の第3回締約国会議を指
します。
*2 エコ・デバイス:省エネルギー化を達成するために開発された素子やその素子を
用いた応用機器などを総称して“エコ・デバイス”と呼んでいます。
section
バックライト
用光源
態環境”からきており、環境を配慮したデバイス(device:素子)の
Sumlock―Comptometer が真空管を用いた電卓(型名:Anita Mark8)
section
1
*3
エコ・デバイス
とは?
を開発、これが電卓の電子化の始まりです 。その翌年(1
9
6
4年)
、
シャープがオールトランジスタ式(全て個別素子による構成)電卓
9
6
6年 IC を一部採用した
(型名:CS―10A)を開発して性能が向上、1
電 卓 が 現 れ、続 い て、1
967年 米 国 テ キ サ ス・イ ン ス ツ ル メ ン ツ
(Texas Instruments:TI)が IC を全面的に採用した電卓(型名:Cal
―Tech)を開発、重さが1.
28kg と飛躍的に軽量化を実現。消費電力
section
2
照明用LED
面では、19
69年シャープが世界初の P チャネル MOS―LSI*4 を4個
用いた LSI 電卓(型名:QT―8D)を商品化、LSI は米国ロックウエ
ル・インターナショナルが製造したものでしたが、消費電力が約一桁
低減することから業界が注目した電卓で、省エネルギー化の始まりに
あたります。
その2年後(19
71年)
、米国 TI が4ビットプログラマブル制 御
1
0
5)として発売、
LSI を利用した1チップ LSI 電卓(型名:TMS―0
3
写1―2 世界初1チップ CMOS―LSI 搭載の試作電卓
(19
7
3年2月 ISSCC で発表した論文の試作電卓写真)
ログラマブル制御 LSI の考え方が、現在のマイコンへとつながるわ
ide Semiconductor:CMOS)が、197
3年に写1―2のように開発さ
けです。
これまでの LSI は、全て P チャネル MOS―LSI と言われる素子で電
れ*5、シャープより液晶表示装置搭載の電卓(型名:EL―8
05)とし
流の担い手が正孔(ホール)によるもので、消費電力が数 W∼数十
て商品化され、一気に消費電力が図1―1に示すように1mW 以下に
W と大きく、電池駆動にはかなりの工夫が必要でした。この P チャ
省エネルギー化され始めたのです*6、*7、*8。
section
このように電卓は、リレー式から始まり、数百ボルト(V)駆動の
*9
合せた相補型金属酸化膜半導体 MOS―LSI(Complementary Metal Ox-
真空管を用いた電卓へ、ディスクリート素子からバイポーラ IC
へ、
<脚注>
*3 インターネットより引用、ロボコム「世界初の真空管式電卓 Anita Mark81
96
3年
」
The Anita C/VIII(Mark8)
*4 P チャネル MOS―LSI:超大規模集積回路(Very Large Scale Integrated Circuit:
VLSI)には MOS(Metal Oxide Semiconductor:金属酸化膜半導体)と呼ばれる
素子が用いられています。この素子はゲートと呼ばれる電極に電界を掛けること
によってシリコン表面に電流の流れる導電層(チャネル層)が形成され、トラン
ジスタのオン・オフを行う素子です。この素子には、導電層(チャネル層)に正
孔が電流の流れる担い手になるタイプのもの(P チャネル MOS)と導電層(チャ
ネル層)に電子が電流の流れる担い手になるタイプのもの(N チャネル MOS)と
があります。このどちらか一方のタイプのみを用いた LSI を P チャネル MOS―
LSI、あるいは、N チャネル MOS―LSI と呼んでおります。ところで、この両者を
組み合わせますと消費電力が極端に低減できる素子になります。このタイプ素子
を“相補型金属酸化膜半導体 MOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:CMOS)
”と呼んでおり、現在の LSI の主流素子になっています。
そして、1
0ボルト∼20ボルト前後の駆動電圧で動作する P チャネル
<脚注>
*5 Yasoji SUZUKI et al.,“Clocked CMOS Calculator Circuitry”,1
973ISSCC, pp. 58―
5
9&2
00, Feb.,1973
*6 昭和4
7年7月20日付、日本経済新聞、
“東芝、新 LSI を量産化、消費電力百分の
一、当面、月産二万個めざす”
*7 鈴木八十二著、
“目で見るマイコン&IC 教室―マイコン入学1年生”
、廣済堂産報
出版、p.4
3、1984年(S59年)4月10日発行
*8 鈴木八十二著、
“目で見るマイコン&IC 入門”
、日刊工業新聞社、p.41、1
993年
(H5年)7月20日発行
012
013
4
バックライト
用光源
ネル MOS―LSI の代わりに P チャネル素子と N チャネル素子を組み
照明用有機EL
にわかに1チップ LSI 化時代に突入し始めました。この4ビットプ
section
MOS―LSI へ、そして、1ボルト∼5ボルト前後の駆動電圧で動作す
る CMOS―LSI へ進化し、① 駆動電圧の低減、② 消費電力の低減、
section
太陽電池
5
消費電力[W]
(注)
LCD:Liquid Crystal Display、液晶ディスプレイ
SRAM:Static Random Memory
100
トランジスタ、ダイオード
バイポーラIC使用
10
(a)電卓外観の変遷
PチャンネルMOS-LSI
1
section
1
エコ・デバイス
とは?
昔の電卓
BC-1621型
(1965年)
1000
(b)電卓製品仕様の変遷
100m
10m
CMOS-LSI&LCD
1m
3V化、SRAM使用
100μ
1.2V化
(ソーラ電卓)
10μ
水晶発振子使用
構成素子
Diode:約2000個
Transistor:約600個
CMOS-LSI:1個
表示素子
表示桁数
ニクシー管
16桁
液晶ディスプレイ
8桁
計算機能
1μ
電 源
65
70
75
80
85
90
昔の電卓・BC-1621 カード電卓・LC-866 カード電卓
1965年
1993年
LC-866型
(1993年)
13kg
33g
約40万円
約1000円
約40W
数μW
AC100V
太陽電池
(ボタン型)
section
3
図1―2 電卓の製品仕様と外環の変遷
図1―2に示すようにディスクリート素子による電卓の消費電力が約
そして、③ 高速動作等、電気的特性の向上が図られてきたのです。
4
0W 前後 → CMOS―LSI による電卓の消費電力が数μW 前後になり、
これらのことは、まさに“エコ・デバイス”の変遷そのものと考えら
消費電力が約4,
0
00万分の一に省エネルギー化、また、重さは13kg
れます。
→3
3g に軽量化、さらに、価格が約40万円 → 約1,
0
0
0円と低価
格化*1、このように電卓においては、使用する素子の変遷によって大
幅な省エネルギー化、軽量化、低価格化を達成したのです。
エコ・デバイスのこれから
この他に、ディスプレイの世界では、ブラウン管 → 液晶ディスプ
レイへと変遷したことも省エネルギー化への貢献大と考えられます。
section
4
バックライト
用光源
1.3
照明用有機EL
図1―1 電卓の消費電力特性の推移
2
四則演算、√計算、 四則演算、√計算、
メモリー付、
メモリー付、
95
西暦[年]
section
照明用LED
発売開始時期
重 量
価 格
消費電力
また、白熱電球、蛍光灯 → 発光ダイオード(LED)による照明での
省エネルギー化、さらに、液晶テレビに用いられているバックライト
光源の冷陰極管 → 発光ダイオードへの切り替えによる省エネルギー
section
きたわけですが、これと共に性能も向上し、特に、消費電力面では
化等、使用するキーデバイスが変遷して電子機器の性能が向上化して
5
<脚注>
*9 バイポーラ IC:真空管のグリット(G)
、アノード(A)
、カソード(K)に対して、
ベース(B)
、コレクタ(C)
、エミッタ(E)の電極をもつ電流制御型半導体素子
を“バイポーラトランジスタ”と呼んでおり、この素子を用いた集積回路を“バ
イポーラ IC”と呼んでいます。電卓に用いられたバイポーラ IC としては、RTL
(Resistor Transistor Logic)
、DTL(Diode Transistor Logic)
、TTL(Transistor
Transistor Logic)などがありましたが、TTL 以外は現在、使用されておりません。
おり“エコ・デバイス”の誕生によって環境保全が保たれつつあるわ
014
けです。この章以降では、これらの“エコ・デバイス”のいくつかを
<脚注>
*1 鈴木八十二著、
“超 LSI 工学入門”
、日刊工業新聞社、pp.4―8、2000年(H12年)
1
2月1
4日発行
015
太陽電池
電卓の構成素子が、リレー → 真空管 → ディスクリート素子 →
バイポーラ IC → P チャネル MOS―LSI → CMOS―LSI へと変遷して
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