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JICA 主催公開セミナー パキスタン・アフガニスタンの 女性に教育機会を

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JICA 主催公開セミナー パキスタン・アフガニスタンの 女性に教育機会を
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JICA 主催公開セミナー
パキスタン・アフガニスタンの
女性に教育機会を
~教育を通じた女性のエンパワーメント~
報告書
平成26 年11月
(2014 年)
独立行政法人国際協力機構
人間開発部 / 教育ナレッジマネジメントネットワーク
目
写
次
真
1.セミナーの概要 ·································································································· 1
2.開会挨拶 ··········································································································· 3
3.基調講演「途上国の女性の教育機会に関する現状と課題」 ·········································· 5
4.事例発表「ジェンダー配慮に関連したユネスコの教育への取り組み」 ·························· 17
5.事例発表「アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2 の協力事例」 ··········· 27
6.事例発表「パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトの協力事例」 ················· 33
7.パネルディスカッション・質疑応答 ······································································· 41
8.閉会挨拶 ·········································································································· 59
付属資料
講演者・パネリストの略歴 ····················································································· 63
<事例発表 1 > 林川 眞紀氏
<事例発表 2 > シャハラ・ハフィジ氏
セミナー全体の様子
<事例発表 2 > 小荒井 理恵氏
<事例発表 3 > 大橋 知穂氏
アビッド・ギル氏
パネルディスカッションの様子
1.セミナーの概要
(1) 目的・背景
ノーベル平和賞候補にノミネートされた 16 歳のパキスタンの少女、マララ・ユスフザイ
の国連スピーチで知られるとおり、パキスタン・アフガニスタンをはじめとする南アジア地
域では、社会・文化的理由などから多くの女性が教育を受けられないという現状があります。
同時に、彼女の存在は、教育を通じた女性のエンパワーメントに対する国際的な期待を高
める結果となり、ポスト 2015 に向け、女性の教育機会を拡大する必要があるという理解が、
国内外で広まっています。
この機会をとらえ、JICA 主催公開セミナー「パキスタン・アフガニスタンの女性に教育機
会を~教育を通じた女性のエンパワーメント~」を開催しました。
ジェンダー平等に対する国内・国際的な関心が高まる今、パキスタンとアフガニスタンに
おける女性の教育機会に関する現状と、JICA とユネスコの教育への取り組みを紹介し、ポス
ト 2015 に向けた今後の支援のあり方について多様なパネリストを招き、広く関係者間で意見
交換を行います。パキスタンとアフガニスタンからは識字局の職員を招き、自国の教育に携
わる当事者の声をお届けします。
(2) 主催・共催・後援
主催:独立行政法人国際協力機構 (JICA)
共催:公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター (ACCU)
後援:外務省、日本ユネスコ国内委員会
(3) 日時・場所
日時:2013 年 12 月 8 日(日)
場所:JICA 市ヶ谷ビル
(4) プログラム
13:30~
開会の挨拶
萱島
13:35~
信子(JICA 人間開発部長)
基調講演:途上国の女性の教育機会に関する現状と課題
内海
成治(京都女子大学発達教育学部教授 兼 京都教育大学連合教職大学院教
授、大阪大学名誉教授)
13:55~
事例発表
(1) ジェンダー配慮に関連したユネスコの教育への取り組み
林川
眞紀(ユネスコ本部
教育局基礎教育課長)
(2) アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2 の協力事例
Ms. Shahla Hafizi(シャハラ・ハフィジ、アフガニスタン国教育省 識字局プ
ロジェクト監理課長)
小荒井
理恵(JICA 専門家)
-1-
(3) パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトの協力事例
大橋
知穂(JICA 専門家)
Mr. Abid Gill(アビッド・ギル、JICA パキスタン国ノンフォーマル教育推進
プロジェクトコーディネーター)
14:55~
休憩
15:05~
パネルディスカッション
〇モデレーター:
石原
伸一
(JICA 人間開発部次長/基礎教育グループ長)
〇パネリスト:
城谷
尚子
(公益財団法人プラン・ジャパン コミュニケーション部ア
ドボカシー担当)
丸山
英樹
(国立教育政策研究所 国際研究・協力部総括研究官)
Mrs. Rahima Asmar (ラヒマ・アスマル、アフガニスタン国教育省 識字局モニ
タリング評価課長)
小荒井
理恵
Mr. Ghulam Abbas
(JICA 専門家)
(グーラム・アバース、パキスタン国パンジャブ州識字・ノ
ンフォーマル基礎教育局
大橋
知穂
(JICA 専門家)
林川
眞紀
(ユネスコ本部
質疑応答、オープンディスカッション
16:25~
閉会の挨拶
柴尾
16:30~
智子(ACCU 教育協力部長)
閉会
-2-
レンガ工場プロジェクト総括)
教育局基礎教育課長)
2.開会挨拶
独立行政法人国際協力機構(JICA)人間開発部長
萱島 信子
皆様、こんにちは。JICA 人間開発部の萱島と申します。
本日は、JICA 主催の公開セミナー「パキスタン・アフガニスタンの女性に教育機会を~教育を
通じた女性のエンパワーメント~」に、これだけ多くの方に足を運んでいただき、大変ありがとう
ございます。開催にあたり、主催者を代表して一言述べさせていただきます。
本日の公開セミナーのテーマは、女性と教育です。先日のノーベル平和賞の選考の際にも、16
歳のパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんが候補になったことはメディアでも随分取り上
げられ、皆様も耳にされたことと思います。
彼女に関するニュースのなかで触れられていましたが、まだ世界には教育に関する男女の格差
が大きく存在する地域や国があり、女性はさまざまな不平等な制度や慣習に直面しています。マ
ララ・ユスフザイさんの国連のスピーチでは、「本とペンを手に取りましょう。最も強力な武器
です。1 人の子ども、1 人の教師、1 本のペンが世界を変えるのです。教育だけがたった 1 つの解
決策です。教育が第一です」と言っていました。とても印象に残るスピーチだったと思います。
開発途上国の経済や社会の発展のために、女性のエンパワーメント、教育におけるジェンダー
平等が 2015 年の達成をめざしてミレニアム開発目標にも盛り込まれています。また、2013 年の 9
月の国連総会でも、安倍首相は女性の社会進出へのコミットメントを表明しました。このように、
ポスト 2015 に向けて、女性のエンパワーメントに関する関心が、国際的にも、また日本国内でも
高まっていると思っております。そういう機会をとらえて、今回、JICA ではこのようなセミナー
を開催することにいたしました。
JICA は、教育や保健などさまざまな分野でジェンダー平等の視点を取り込んだ事業を行ってお
ります。教育につきましても、公平性の観点から、女子や女性が学習しやすい環境の整備、地域
コミュニティ向けの啓発活動、女子や女性が教育を通して学んだ意欲や能力を社会で十分に発揮
できるような社会をつくることに取り組んでまいりました。
本日は、パキスタンとアフガニスタンにおける女性の教育機会に関する現状と、JICA とユネス
コの識字教育やノンフォーマル教育の取り組み事例をお話しいただきます。そして、ポスト 2015
に向けた今後の支援のあり方について、研究者、実践者、NGO、国連といった異なる立場の方々
によるパネルディスカッションの形で議論を進めさせていただきます。後半のオープンディスカ
ッションでは、限られた時間ですが、ぜひフロアの方々にも議論を盛り上げていただければと思
っておりますので、積極的なご参加をよろしくお願いいたします。
教育を通じた女性のエンパワーメントというテーマは、教育と社会の関係、社会における教育
の役割を考えることにつながります。女性のもつ意欲や能力を社会で一層発揮させるために、教
育は何ができるのか、といった考えを深めていく機会となることを切に願っております。
本日のセミナー開催にあたりましては、京都女子大学の内海先生、ユネスコの林川様、JICA 専
門家の小荒井様、大橋様、アフガニスタンから遠路おいでいただいたハフィジ様、アスマル様、
パキスタンからおいでいただいたギル様、アバース様、国立教育政策研究所の丸山先生、プラン・
ジャパンの城谷様、共催のユネスコ・アジア文化センターの柴尾様をはじめ大変多くの方々にご
-3-
協力を賜りました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
最後になりますが、このセミナーがご来場の皆様にとって有意義なものとなりますことを心よ
り祈念いたしまして、開会の挨拶とさせていただきます。ありがとうございます。
-4-
3.基調講演「途上国の女性の教育機会に関する現状と課題」
京都女子大学発達教育学部教授 兼 京都教育大学連合教職大学院教授
大阪大学名誉教授
内海 成治
ただいまご紹介いただきました内海でございます。基調講演ということですけれども、本日は
私自身の経験からどんなことを考えているのかということを中心にお話ししたいと思います。
(付
属資料-1)
まず初めに、パキスタン、アフガニスタンでの教育の問題というのは非常に大きいですが、ど
ちらかというと最近は風化しており、あまり関心が集まらなくなっているなかで、このように多
くの方が集ったということに大変感動しております。
私がアフガニスタンに行き始めたころは、連日、アフガニスタンのニュースが新聞に載り、ま
たテレビでも取り上げられていたのですが、最近は大きなテロ事件があるときだけしか取り上げ
られません。また、萱島部長からお話がありましたように、マララ・ユスフザイさんがノーベル
平和賞の候補になり、教育の問題が大きく取り上げられたということは、きっかけは大変不幸な
事件ではありましたが、関心を高めるという面では非常に意味があったと思います。
また、2012 年のノーベル平和賞の候補には、アフガニスタンの女性省の初代大臣を務められた
シマ・サマールさんがノミネートされ、彼女が受賞するのではないかといわれ、新聞社から「取
材しますので準備しておいてください」と言われていたのですけれども、残念なことに受賞は叶
いませんでした。しかし、このような国で教育の重要性が認められているということは大変あり
がたいことだと思っております。(付属資料-2)
私自身のパキスタン、アフガニスタンでの経験をお話ししますと、パキスタンには 20 年も前に
なるのですが、女性の教員養成学校と小学校 6 校を無償資金協力で支援した際に、調査団長とし
て北西辺境州を回りました。そのときにいくつか学校を見せてもらいました。アフガニスタンに
は、私は縁がないと思っていたのですが、2002 年 4 月に技術協力調査団の教育分野担当として訪
れました。なぜ私が行くことになったのか、あまりはっきりしませんが、当時、アフガニスタン
は非常に危険なところでしたので、ほかにだれも行く人がいなかったというのが実情ではないか
と思っています。
その後、短期専門家や長期専門家として教育省のアドバイザーを務めました。そのときも文部
省で専門家を探したけれども、子どもが小さいからなどとさまざまな理由でお断りになった方が
いたので、年をとっている私が行った方がいいだろうということで行くことになったと後から耳
にしました。
私自身は大変いい経験をさせていただきました。1 年間長期専門家として、その後もさまざま
な形で国内研修、国別研修、青年研修という形で、アフガニスタンの女性教員をお茶の水女子大
学を中心に受け入れました。それから、私自身は、バーミヤンを中心に教育調査をさせていただ
きました。(付属資料-3)
この写真は私が務めた当時の教育省で、建物は立派なのですが、窓ガラスも割れ、電気が通じ
ていませんでした。それから、トイレが壊れていて、5 階に国際スタッフが詰めていたのですが、
最初の仕事はトイレをつくるということでした。カブールは非常に寒くて、頭がしびれるぐらい
-5-
であったのを記憶しています。(付属資料-4)
この方は、新政権になった時の初代の大臣でアミンさんと言います。技術協力調査団の外務省
職員、それからアミンさんの左手で一番前にいるのが当時の駒野大使です。日本は、教育分野の
支援を表明しましたので、どういう支援をするかということを議論しました。(付属資料-5)
アミンさんは半年ほどで辞められまして、その後私が長期専門家でいたときに仕えたのはカヌ
ーニさんという教育大臣です。彼はタジクの代表者です。国会の議長などを経験され、今も活躍
されていると思います。(付属資料-6)
アドバイザーとしての一番の懸案事項は、憲法をどうするか、新憲法のなかでの教育関連規定
をどうするかということで、以前からあった 4 項目を踏襲するような形で一部変えました。さま
ざまな議論があったのですが、「学士課程まで無償」と書いてあるのは、以前のアフガニスタン
では、教育は国、または援助でやるものだという認識があったのです。そのようなやり方では、
今後の高等教育の発展が望めないということで、無償は中等教育までとする草案をつくったので
すが、その草案が発表になった途端にデモが起き、学士課程まで無償ということになりました。
その代わりといっては変ですが、私学の規定をつくりました。現在、アフガニスタンに 3 校ぐら
いの私学ができていると思います。
それから、多民族国家ですので、教育言語をどうするかについては、現実的にパシュトゥー語、
ダリ語の 2 言語しかできないだろうということで、それはそのままにしましたが、少数民族の文
化と言語を尊重するという項目を入れました。そのときは、ウズベクをどうするかが一番大きな
課題であったと記憶しています。それから、障がい児の教育の権利の明記です。これは教育条項
ではなくて、障がい者に対する支援の条項のなかに入っています。(付属資料-7)
これはアフガニスタンで最初にできた高等教育機関で、サイド・ジャマルディン教員養成校と
いうところです。ここはイタリアが修理いたしました。(付属資料-8)
次に、これはカブール市内にある大変有名な男子校、ガジ学校。今では修理されましたが、当
時は完全に壊れており、2 階部分に子どもたちが上がって勉強していました。(付属資料-9)
それから、これは女子学校です。女子の学校はさらに状況が悪く、タリバン時代、女の子は学
校に行けず、女子教員も就業を禁止されていました。新政権になってから女の子たちが一斉に学
校に戻ってきて、これは特にカブール市内なのですけれども、土のうで塀をつくって、壁に小屋
がけするような形で学校が始まっていました。(付属資料-10)
これは田舎の学校ですが、さらに状況が悪く、テントにござを敷いて授業をしています。(付
属資料-11)
これは、カブールの北の方の学校ですが、テントの質ももっと悪く、このようなところで詰め
込みで勉強していました。こういった状況において、JICA は学校建設などさまざまなことにいち
早く取り組みました。(付属資料-12)
これは、今まで見てきましたように、机と椅子がほとんどなかったものですから、教育省が空
港の近くに大きな工場をつくって、JICA が机と椅子を供与したものです。また、NGO などもさ
まざまな形で供与しました。(付属資料-13)
これは贈呈式の様子です。子どもたちが大変喜んでくれたので嬉しかったのですが、実は途中
で大変悲しくもなりました。なぜこの子たちは机をもらったことに感謝しなくてはいけないのだ
ろうかと思ったのです。日本の子どもは、学校に行って机があるのは当たり前ですし、汚い机だ
と文句を言うぐらいですが、アフガニスタンの子どもたちは、机をもらっただけで感謝しなくて
-6-
はいけないのです。私は大変不憫に思いました。こんなことがあっていいのだろうかと。机と椅
子のあるきちんとした校舎で学ぶというのは、子どもの当然の権利にもかかわらず、それが実現
していません。そういうことをうまく実現させていくのが、国際協力のあり方のひとつだろうと
考えました。要するに、私たちが普通に享受しているような生活を分かち合うべきだと思ったの
です。
では、どのような支援をしたらいいのかということは、子どもたちの実際の生活を見ないとい
けませんので、アフガニスタンの 2 カ所で調査をいたしました。その実例と、そこで何を感じたか
をお話ししたいと思います。
私は、主にバーミヤン、ハザラ族の地域を中心に調査いたしました。(付属資料-14)
これがバーミヤンの渓谷で、大仏はタリバンによって壊されましたが、立派な洞穴が残っていま
す。この下に川が流れていまして、山は非常に乾燥していますけれども、川の周辺は大変よい農
耕地になっています。(付属資料-15)
私たちが最初に調査をしたのは、今のバーミヤンの中心地から 3 時間ほど行ったところで、地
雷原もあって怖いのですが、バンデミール湖のほとりです。ここは、湖面が 2,400m ぐらいの非
常に高いところにあります。(付属資料-16)
今の第 1 の湖から向こうに第 2 の湖が見え、そのほとりに学校があります。(付属資料-17)
これが学校の様子ですが、私たちが調査した時点では、3 年生の教室となっていて、夏なので
窓はなくても大丈夫ですが、女子生徒が非常に少ないのです。(付属資料-18、19)
これが 1 年生で、登録者は 20 名以上いるのですが、実際に来ていた女の子は 5 名ぐらいしかい
ません。実はこのあたりのアフガニスタンの人たちは、主に農業に従事しているのですが、その
ほかにウシやロバ、ヤギなどを飼っています。そのような牧畜民はたいてい、夏の間は湖畔には
虫が多いため、涼しいところに移動するのです。(付属資料-20)
この写真の右側の山が大体 4,000m 弱なのですが、その裏側に涼しく、水と草が手に入るとこ
ろがあるのです。そこに夏の間、3 カ月ぐらい移住します。これはアイラックといって、アフガ
ニスタンだけではなくて、ネパールやヨーロッパでもそういう形で夏に移動します。
ところが、そこに行くのには、歩いて 2 時間以上かかります。私はロバで行きましたが、それ
でも結構かかります。ロバが私を振り落とそうとして、谷底に落ちかけたこともあります。
アイラックがあるために、みんな山の上に行ってしまいますので、学校に通えません。特に女
の子は、往復 4 時間もかけて通うことができないので、学校に来られる女の子は非常に少ないの
です。要するに、学校暦と人々の生活が合っていないのです。一番の被害を被るのが女の子だと
いうことがわかりました。(付属資料-21)
もう 1 つは、デュカニという谷なのですが、後ろはバーバー山という 4,000m ぐらいの雪山で
すが、その間の奥に通じている谷の学校の調査をしました。(付属資料-22)
これが谷の中心部で、コムギとジャガイモと休閑地という三圃制をとった非常に豊かなところ
です。(付属資料-23)
村は、このようにロバが主な輸送手段です。(付属資料-24)
ここは、ちょうどその年から電気が通じました。非常に珍しいところです。(付属資料-25)
小さい女の子が家中の食器を洗うために、下の運河といいますか、水を引いたところまでおり
ていって仕事をするわけです。(付属資料-26)
それから、同じ子に後でまた会ったら、今度は水汲みをやっていまして、女の子は非常に大変
-7-
な仕事をしているということがわかりました。(付属資料-27)
これが私たちが調査したところです。4,500 人ぐらいの集落なのですが、バーミヤンはハザラ
族のところでハザラジャードといわれているのですが、実はハザラだけが住んでいるのではあり
ません。宗教的なエリート、民族集団といっていいと思うのですが、サイードというグループが
上位階級として住んでいます。ハザラとサイードが一緒に住み、サイードが土地をもち、その下
でハザラが小作をするというのが大体のパターンなのですが、そのなかで民族による教育の違い
や、女子と男子の性による格差が生まれています。(付属資料-28)
時間があまりないので、細かなことは省いて、結論だけ言います。この資料に書いてあります
ので、後で見ていただきたいと思います。(付属資料-29)
これが学校です。(付属資料-30)
これは校長先生です。この人はサイードです。(付属資料-31)
右が校長先生、真ん中の 3 名が教員、左がハザラの用務員さん、このような感じです。(付属
資料-32)
これは学校の生徒数ですが、一番気をつけて見てもらいたいのが、女の子でハザラの子は 4 年
生で 4 名いるのですが、5 年生以上にはだれもいないという現象です。サイードの女の子は進級
しているのですが、ハザラの女の子はいなくなってしまいます。それから、男子の方でも上級生
になると、ハザラの男の子がいなくなってしまうという現象が起きます。(付属資料-33、34、35)
通学時間ですが、女の子は 30 分未満がほとんどで、1 時間以上はいません。男の子は、30 分で
も 1 時間でも学校に通えるのですが、女の子は通学時間に非常にセンシティブに反応していると
いうことがわかりました。(付属資料-36)
ある家庭をインタビューしたところ、ハザラの人たちは 4 年生以上の女の子を学校に行かせな
いことがわかりました。私がなぜ行かせないのかと聞くと、パルジュイという集落では、女の子
は 5 年生以上になると通わせないのだ、それが決まりなのだという言い方をしました。教育格差
があるのだということがわかりました。(付属資料-37、38)
なぜ女の子が来られないのかというと、いくつか要因が絡み合っているのですが、4 つほどあ
ります。1 つは地理的な要因です。学校の距離が遠いのです。もう 1 つは社会的要因で、女性教
員がいないということです。それから、経済的要因があり、貧困層の子どもが未就学になりがち
です。お父さんの仕事や家の仕事を手伝っているのです。ジェンダー的な要因というのもありま
した。(付属資料-39)
では、どうしたらいいのでしょうか。女子教育に向けての支援の可能性ということでいえば、
地理的な支援としては、適切な場所に学校をつくることです。スクールマッピングを丁寧に行う
ということです。それから、分校を設立したり、1 人先生学校(校長・教員を 1 人で兼任する小
規模学校)をつくるような制度を入れるのもいいのではないでしょうか。社会的支援としては、
女の子に優しい学校をつくることです。女性教員を養成したり、トイレをつくることも大切です。
子どもの生活に見合った学校制度が必要です。特に女の子の生活に見合った学校の制度とする必
要があります。経済的な支援としては、貧困家庭への奨学支援や給食の支援があります。また、
ジェンダー支援としては、法律の整備はできていても、現実的にはうまくいっていないので、ア
ドボカシーをしっかり行うということが大切なのではないかと思います。(付属資料-40)
駆け足になりましたが、皆様が開発途上国の女子教育に関心をもっていただくということは大
変ありがたいですし、女性の教育というのは国づくりにとって最も大切なことではないかと思っ
-8-
ております。
では、これで私の話は終わります。ご清聴ありがとうございました。
-9-
講演者プレゼンテーション資料
1.「途上国の女性の教育機会に関する現状と課題」
JICA公開セミナー「パキスタン・アフガニスタンの女性に教育の機会を」
途上国の女性の教育機会について
ー女の子はなぜ学校に行けないのかー
話の内容
・私のパキスタン・アフガニスタンでの
教育協力の経験
・アフガニスタンで考えたこと
・バーミヤンでの調査から
・女の子はなぜ学校に行けないのか
・女子教育支援の可能性
京都女子大学
内海 成治
1
2
パキスタン・アフガニスタンでの経験
・パキスタン:
・1993年:北西辺境州での女子師範学校と小学校の建設
(無償資金基礎調査)
・アフガニスタン:
・2002年4月以来、技術協力調査団および短期専門家
・2002年11月ー2003年11月:
教育省教育協力アドバイザー(長期専門家)
・2003年ー2012年
5女子大学コンソシアムによる女性教員研修
(JICA国別研修及び青年研修)
・2006年ー2008年
バーミヤンでの教育調査
アフガニスタン教育省
5階の中央が私のオフィス
3
2002年4月新政権初代のアミン教育大臣との会合
4
5
アドバイザーとして仕えたカヌーニ教育大臣
-10-
6
新憲法論議と教育関連規定
• 2002年12月:教育高等委員会(メンバー22名)
第1回会合(パリ・ユネスコ)
• 2003年 7月:第2回会合(カブール)
• 2004年 1月:制定
• 義務教育9年
• 学士課程まで無償(草案では中等教育まで)
• 教育言語は2言語、少数民族の文化と言語の尊重
• 私学の設立規定
• 障がい児の教育の権利の明記
アフガニスタン最初の高等教育機関 サイド・ジャマルディン
8
教員養成校(2002年4月・カブール)
7
2002年当時の女学校、
(カブール市内)
カブールの名門男子校ガジ学校(英語で教育)の2階部分
カブールの南に隣接するロガール州の女子小学校
9
10
カブールの北のパラワン州の女子小学校(2003年)
11
-11-
12
バーミヤン調査の概要
•
•
•
•
•
2005年8月(予備調査)
2006年5月、8月、11月
バンデミール村の学校
デュカニ村の学校
全校児童の個別インタビュー:IST法(Individual Student Tracing Method)による調査
• 村の家庭の訪問調査
• 女の子が学校に行けない阻害要因の解明
パラワン州・机と椅子の贈呈式(2003年)
13
バーミヤン渓谷の大仏遺跡とバーミヤンの町
15
バンデミール湖(第2の湖)と湖畔の学校
17
14
バンデミール湖(第1の湖):バーミヤンから西に車で3時間
バンデミール湖畔の小・中学校
-12-
16
18
3年生の教室、女子生徒が少ない、窓は素通し
1年生の女子出席者(2006年8月7日)登録は20名
19
右の山の向こうにアイラック(夏の居住地)がある、徒歩で2時間、
21
高度は3500m程度
デュカニ村の中心部
デュカニの谷、後ろはバーバー山
村の輸送手段はロバである(パルジュイ集落で)
23
-13-
20
22
24
村には電気が来た(2005年)。草の根は薪。
食器洗いは女の子の仕事(パルジュイ集落で)
25
26
4、デュカニ村の概要
• 谷の長さ:15km、30集落(クレスタ)
• 人口:640家族、およそ4500人
• 民族:ハザラ(530家族)
サイード(110家族)
• 学校:1校、2005年には分校が2つあったがすでに閉校
 教師は全員男性
 産業:農業 (小麦、ジャガイモ)、牧畜(山間部において)
 タリバン政権時に侵攻を受け、ほぼすべての住民が避難民
の経験をもつ
水汲みは大切な仕事(パルジュイ集落で)
27
28
パルジュ
イ
カライカラー
ム
●
学
●
校
●
サイードの集住す
る地域
ハザラの集住する
地域
デュカニの学校
29
-14-
30
デュカニ学校の校長(シューラの長でもある、サイード)
デュカニ学校の校長(左)教員(真ん中の3人)用務員(右、ハザラ)
32
31
IST法を用いた男子生徒の進級状況
(2006-2007:4年生以上)
デュカニ学校の生徒数(2006年)
男子
サイード
女子
ハザラ
合計
サイード
合計
ハザラ
合計
サイード
ハザラ
4年生
合計
9年生
0
0
0
0
0
0
0
0
0
8年生
0
0
0
0
0
0
0
0
0
7年生
7
2
9
0
0
0
7
2
9
6年生
9
3
12
4
0
4
13
3
16
5年生
5
7
12
8
0
8
13
7
20
4年生
11
12
23
5
4
9
16
16
32
3年生
18
2
20
5
4
9
23
6
29
2年生
3
4
7
7
1
8
10
5
33
15
23(12)
2006
5年生
4(3)
2006
9(4)
1(1)
2007
6年生
2007
4(0)
8(4)
6(0)
2(0)
2(0)
17(2)
2(1)
12(3)
9(5)
18(6)
8年生
4(1)
9(2)
10(2)
9(5)
0(0)
5(1)
11(4)
1(0)
7(1)
2(0)
34
注:( )内はハザラの生徒数
デュカニ学校の生徒の通学時間
0(0)
4(0)
5(0)
14(4)
7年生
男子
女子
計
30分未満
4
19
23
30分以上1時間未満
9
3
12
1時間以上
10
0
10
計
23
22
45
7年生
4(0)
3(0)
3(2)
4(2)
5(0)
8(0)
6年生
12(7)
1(1)
IST法を用いた女子生徒の進級状況
(2006-2007:4年生以上)
4年生
5年生
8(7)
4(0)
注:( )内はハザラの
35
生徒数
36
-15-
家庭のインタビューから

デュカニ地域における就学のパターンと格差
1.デュカニ学校には2つの民族が通う(サイード+ハザ
ラ)
ハザラの集落であるパルジュイ(学校まで徒歩20~30
分)でのインタビュー結果より
2.ドロップアウトする生徒が多い、特にハザラの女子
ある家族の場合(2006年時)
長女 9歳:カーペット作り (4年生まで修了@
デュカニ学校)
次女 8歳:2年生@デュカニ学校
三女 7歳:2年生@デュカニ学校
3.バーミヤンやカブールの学校に転校する生徒が多い
(主にサイードの男子)
4.学校に通わない(主にハザラ)
父親に一番上の娘を学校に通わせない理由を尋ね
ると……
→
「パルジュイでは女の子は5年生以上には通わせ
ない」
民族と性による大きな教育格差
37
38
女の子はなぜ学校にこられないのか
女子教育にむけての支援の可能性
• 地理的支援:
適切な場所に学校を作る(スクールマッピング)、
分校の設立、一人先生学校
• 社会的支援:
女子にやさしい学校
(女性教員の養成、トイレの建設)
子どもの生活に見合った学校制度
• 経済的支援:貧困家庭への奨学支援、給食支援
• ジェンダー支援:法律の整備、アドボカシー
それぞれに絡み合っているが4つほどの
要因が見いだせる
• 地理的要因:学校の距離が遠い
• 社会的要因:女性教員がいない
• 経済的要因:貧困層の子どもの未就学
• ジェンダー要因:女子は4年生以上は通
学させないという言説(社会規範)
39
40
参考文献
•
•
•
•
•
•
•
•
•
ご清聴ありがとうございました
41
内海成治, 2004. 「アフガニスタン戦後復興支援ー日本人の新しい国際協力」
昭和堂・京都
内海成治、2012「初めての国際協力ー変わる世界とどう向き合うか」昭和堂
Guimbert, M., Miwa, K., Nguyen, D. T., 2008. Back to school in Afghanistan: Determinants of school enrollment, International journal of Educational Development vol.28 419‐434. Hunte, P., 2006. Looking beyond the school walls: household decision making and school enrollment in Afghanistan, AREU. MoE, 2008. 1386(2007) Schools Survey Summary Report, Moe.
Mousavi, S. A., 1998. The Hazaras of Afghanistan, Routledge Curzon. Rashid, F., 2005. Education and Gender Disparity in Afghanistan, Center for Development Economics William College.
UNESCO, 2001. EFA 2000 Afghanistan Draft Final Report, UNESCO.
UNICEF, 2004. RALS 2003‐2004, UNICEF.
42
-16-
4.事例発表「ジェンダー配慮に関連したユネスコの教育への取り組み」
ユネスコ本部
教育局基礎教育課長
林川 眞紀
皆さん、こんにちは。ただいまご紹介いただきました林川眞紀と申します。よろしくお願いい
たします。
内海先生の基調講演で、アフガニスタンの現状を写真と楽しいお話も交えて伺ったばかりで、
私のプレゼンはそこまで明るい感じではないのですが、私はユネスコという組織から来ており、2
年前にパリの本部に戻ったため、現場からは離れた身となっています。パキスタンとアフガニス
タンの具体的な事例は、私の後にお話しされる方たちから伺えるということで、今日は、女性や
女子の教育機会を促進するための支援をとりまく状況、なぜ女性や女子の教育は重要なのか、ど
のような意味づけで活動が行われているのか、それらのことをユネスコの視点からまとめてご紹
介させていただければと思っております。(付属資料-1)
皆様ご存じだと思いますが、ユネスコは国連の一専門機関で、教育は一番大きなプログラムの
分野です。ユネスコは、この 10 年間、万人のための教育(EFA:Education for All)を掲げ、女子、
女性の教育は、組織としての優先事項として取り組んでいます。
3 本柱があります。まず、教育は基本的人権です。女性でも男性でも関係ありません。ユネス
コの活動はそこからスタートしています。
もう一つは、ジェンダー平等と女性、女子のエンパワーメントです。ジェンダー平等という大
きな理論があって、そのなかで特に女性と女子のエンパワーメントを掲げているのです。ジェン
ダーは、男性も女性も両方がかかわることなので、決して女性に限るテーマだけではないのです
が、教育の現場で、どちらに格差が大きく生まれているのかということを見たときに、世界のあ
ちこちで女性、女子がまだ大変損をする立場にあるということから、ジェンダー平等を掲げなが
らも、女性、女子の教育に焦点を当てることが多くなっています。
そして、それらを受けて、今、ユネスコは 2 年ぐらい前からグローバル・パートナーシップと
いう活動を立ち上げており、後ほどその話はさせていただきたいと思います。(付属資料-2)
繰り返しになりますが、教育は基本的人権です。すべての女性、男性、女の子、男の子に教育
の機会が保障されなくてはいけないということで、これはユネスコ憲章に記述されていて、すべ
ての活動はここから始まっています。世界人権宣言第 26 条をはじめ、あらゆる国連憲章や国連の
条約、国際条約などの人権関係のもので、必ず 1 条は教育に関連したものがあると思います。
また、皆様もご存知かもしれませんが、1990 年に始まった万人のための教育は、その後、2000
年にダカールで EFA 宣言が掲げられてから、6 つある EFA ゴール目標のうちの 3 つは特に女性、
女子の教育に焦点を当てています。そして、最近、話題になっておりますミレニアム開発目標の
第 2 目標が初等教育の普遍的促進で、第 3 目標が特に女性、ジェンダー平等を掲げたもので、女
子、女性の教育を目標にしています。(付属資料-3)
女子の教育は、基本的人権という見方からだけでも促進したいのですが、残念なことにお金が
かかりますので、人権の視点からだけではなかなかやっていけません。そのほかに何か理由づけ
がないかと思ったときに、女子、女性の教育は長年の研究、調査、また現場の経験から、あらゆ
る実利的効果があるということはかなり証明されていますので、女子、女性の教育のインパクト
-17-
についてユネスコのなかでまとめたことを発表します。女子、女性の教育に投資することによっ
て、女性中心のエンパワーメントにつながるということは、間接的にいえば、子どもの教育の促
進になります。教育を受けた女性は、自分の子どもに対する教育を推し進めるのです。
また、母親の健康や保健の衛生などの知識が豊富になれば、家族や子どもに対する保健衛生の
知識もつき、子どもの健康を守ることもできますし、家族の健康を守ることもでき、女性の教育
のレベルが高まれば高まるほど、就労機会にアクセスできるチャンスが増えます。そして、それ
は賃金の向上に至ることが期待されているのですけれども、現実は必ずしも賃金の向上につなが
っていないかもしれませんが、理屈からいえばそうなります。
晩婚化の奨励や、女性が教育を受けることによって、結婚する年齢が次第に遅くなります。や
みくもに晩婚化を勧めているわけではないですが、やはり 12 歳や 13 歳で女子が結婚してしまう
ような世界でよいのかどうか。文化的にそういうところがあるとしても、女の子が 12、13 歳で結
婚することによって、将来の家族構成や出産、子どもの教育、家族の健康管理や就労機会など、さ
まざまな障害が出てきます。そういった早過ぎた結婚にならないようにするために、女の子に学
校に長く行ってもらうということを勧めています。(付属資料-4)
このように、基本的な人権であるとともに、実利的な効果も認められているにもかかわらず、
なぜか女子、女性の教育の現状はとても厳しいものがあります。2014 年になろうとしているとき
に、いまだに教育の機会における男女の格差は縮まっていません。多少は縮まっていますが、実
は EFA が 2000 年に掲げられてから、一番大きな進展があったのは、女子教育の分野なのです。
女子教育の分野で一番進展があったにもかかわらず、いまだに 68 カ国において初等教育における
格差が解消されていません。
特にユネスコは、教育省などと協力して、毎年学校ベースの統計を集めていますが、その統計
によると、今でも学校に行っていない子どもたちは、世界に 5,700 万人近くいます。特に細かく
見てみると、初等教育において不就学児童が 5,700 万人ほどいるなかで、女子は 3,100 万人、中
等教育においては 6,900 万人のうち女子が 3,400 万人を占めています。いずれの教育レベルにお
いても、女子が半分以上を占めているということです。
それから、成人識字者については、全世界でいまだに 7 億 7,400 万人の成人が基本的な読み書
きができない状況にあり、その 64%、3 分の 2 がいまだに女性です。これは、実際の人口でいえ
ば少しずつ減少しているにもかかわらず、男女ともに減っているので、非識字者に占める女性の
割合は 64%、3 分の 2 のままなのです。実は 20 年間、この割合は変わっていません。(付属資料
-5)
さて、ではなぜこのように教育におけるジェンダーの格差が解消しないのでしょうか。さまざ
まな研究者や政府の人々と話し合っているなかで出てきたことがいくつかあります。まず 1 つは、
「教育にはジェンダーの問題などない」と政策者によく言われてしまうのです。教育の現場に行
って、教育省の大臣と話をすると、「うちの国にはジェンダーの問題はない」と言います。ジェ
ンダーの問題がないというときは、女子教育のことしか考えていない場合が多くあります。ジェ
ンダーというのは、最初に申し上げましたように、男女ともにかかわらなければいけないテーマ
なのに、ジェンダーを女性、女子だけのものと考えた場合、女の子が就学するようになると、も
うジェンダーの問題はないという結論に達してしまうのです。
例えば男の子が学校に行かなくなってしまったり、男の子の方が落ちこぼれてしまった場合も、
それはジェンダーの問題としては見られず、ただ男の子の問題とされてしまうのです。しかし、
-18-
女子が学校に行っていないケースはジェンダーの問題としてとらえられ、女子が学校に行き、就
学率が上がってくると、「もうジェンダーの問題はありません」と言って、そこで話が止まって
しまうのです。
また、ジェンダー平等は、目標でもあれば手段でもあります。しかし、これを目標としか見ない
人もいるわけです。女の子と男の子が両方、同じ割合で就学し出すと、「うちには問題がなく、
ゴールが達成されたからこれ以上やることはない」と言って、そこで仕事をやめてしまうのです。
また、ジェンダー格差というのは、他の社会経済的な理由で起きることを理解しなければいけ
ません。それらと非常に複雑に交差して、さらに変化、深化しているものなのです。例えばジェ
ンダー問題を教育の現場で対応していこうと思っていても、それが女の子、男の子であろうと、
その一学習者、子どもがどこから来ているのか、どういう家庭の背景があるのか、少数民族に所
属するのか、それともメインストリーム、大衆の方なのかなど、さまざまなことを考えていくと、
ジェンダー格差というのは実に複雑、入り組んだものであることに気づきます。女の子だから苦
労する、男の子だから得する、女の子ならどこでもみんな差別されているといったような、簡単
な結論には至らないのです。
同じ国でも、例えば今日はパキスタンとアフガニスタンを中心に考えていますが、パキスタン
のイスラマバードにいる女性は、必ずしも教育の機会がないわけではありません。同じパキスタ
ンでも、都会のイスラマバードにいる女性と、先ほど内海先生がお見せくださった北の辺境地区
の女性の教育環境は大きく違うのです。地方の女性は大変苦労しながら学校に行くのです。女性
間でも大きな差が出てきます。
また、ジェンダー平等をいかに測るのかということがあります。EFA ダカール 2000 年の目標
に掲げられてから、また MDGs に掲げられてから、これが一番大きなチャレンジとなっています。
ジェンダー平等というのは、どのようにして測るのか。これはジェンダーに限らず、平等をいか
にして測るのか、というのは指標を出しにくい分野ですが、指標に出せないと、政府はそこに投
資をしたり予算をつけたりしたがらないのです。やはり測れるものが価値があるという発想がい
まだに強く残っている政策の現場ですので、ジェンダーの話が進みません。(付属資料-6)
一例です。女子、女性に限って、どれだけ複雑な関係があるか見てください。少し読みにくい
表なのですが、これはバングラデシュで 2011 年の統計を使って、15~24 歳の女性で小学校を修
了できなかった人口を、住んでいる場所と収入、民族の出身で分けて書いたものです。一番上が
国の平均で、次が地方の平均ですが、収入ごとの違い、またクルナ族とシレット族の違いが出て
います。結局、地方の一番貧しいところの女性が最も損をするのです。小学校を修了していない
15~24 歳の女性の割合が一番高いのは 100%、一番左側です。割合が少なくなればなるほど、右
に点が寄るのです。右に寄るということは、より多くの女性が教育を受けているということで、
左の方が教育を受けていません。枝分かれしている部分を見るとよくわかるのですが、女性で貧
しい家庭の地域の人たちが一番教育を受けていないという状況になります。(付属資料-8)
さて、このような背景を基に、ユネスコでは 2011 年 5 月に、現ユネスコの事務局長のイリナ・
ボコバ氏と前国務長官ヒラリー・クリントン氏の後援の下、グローバル・パートナーシップを立
ち上げました。2015 年が近づくなかで、これ以上、女子、女性の教育機会の格差が縮まらない状
況を置いておくわけにいかないということで立ち上がったものです。女子教育、女性の教育に対
する支援をさらに強めていくことでジェンダー平等をめざしています。
このパートナーシップの 1 つの大きな特徴は、ハイレベルな政策のアドボカシーと官民連携(パ
-19-
ブリック・プライベート・パートナーシップ)ですが、民間の団体や企業と政府をユネスコが一
緒にもってきて、女子教育の促進をするということです。
プロジェクト活動が立ち上がっているのは、主にアフリカなのですが、これから南西アジアに
も入っていくと思います。そして、グローバル・パートナーシップで実施されたプロジェクトの
大きな注目点は、女子の中等教育の促進と成人女性の識字の拡大、そしてそれらの関連性を強化
していくことです。(付属資料-9)
一番大事なのは、女子教育、女性教育の促進にあたり、やはりジェンダー平等の理念が根底に
あり、特に 3 つの側面をグローバル・パートナーシップで進めているということです。英語で書
いた方がわかりやすいのですけれども、“TO IN THROUGH”といいます。要するに、教育を受
けるために、平等にアクセスがあるということです。それから、もちろんジェンダー平等が教育
の過程においてもきちんと保障されなければいけません。そして、教育を受けて、その成果がど
のように生かされるのか。そこにも男女の格差が起きないようにしなければいけません。同じ教
育や学習内容、同じ質の教育を受けて、同じように頑張って勉強してきた女の子、男の子は、同
じように就労機会を保障されなければいけないということです。(付属資料-10)
なぜ今、女子の中等教育、女性の識字に注目しているかといいますと、中等教育を受けるのは
思春期ですので、女性の身体的発達も大きく変化するときです。そのときに、伝統、文化に基づ
いて行動や態度が規制されることが多く、そのなかには教育や学校に行くということも含まれ、
教育機会の差別を受けるようになっているからです。
また、中等教育は制度的に非常に複雑なので、政策上、初等教育のように思うようにはいきま
せん。そして、女性の識字問題は特に軽視されてきました。この 2 つは非常に深くつながってい
ます。教育を受けた女性、中等教育まで学んだ女性は、成人になってから識字を学んだ女性より
も、ずっと高い確率で保健衛生の面でいいデータを示しています。(付属資料-11)
一番右の赤い棒が中等教育を受けた女性の場合で、これは 5 歳未満の乳幼児死亡率をみている
のですが、中等教育を受けた女性の子どもの方が生存率は高いということです。(付属資料-12)
これらは、女子、女性の教育の機会が最も制限されている 8 カ国で、やはり主にアフリカになっ
ています。(付属資料-14)
最後にユネスコが取り組んでいる活動を 2 つご紹介します。1 つが識字向上のプロジェクトで
す。これは男女両方をターゲットにしているのですが、女性が 60%以上の参加者を占めていて、
既に第 1、第 2 フェーズまで実施しています。(付属資料-18)
このプロジェクトの大きな特徴は、女性を含め、所得を創出するための技能促進や自助努力に
よる持続の可能性、そしてアフガニスタンが識字社会となるよう、強い識字基盤を築くことをテ
ーマにしていることです。(付属資料-19)
もう 1 つがパキスタンのモバイル識字プログラムです。これは、携帯電話を使った識字活動で
す。2009 年に始めたのですが、携帯電話を使って識字活動を広めており、女性を対象にしていま
す。なぜ携帯電話かというと、非常に簡単に利用でき、楽しく、いつでもどこでも学習できると
いうメリットがあり、女性同士で小さいテキストメッセージを使ってコミュニケーションがとれ、
さらに女性の行動範囲も広まったそうです。(付属資料-21)
携帯電話会社のノキアと一緒に始めたプロジェクトで、既に第 4 フェーズまで実施しています。
(付属資料-22)
最後に、皆さんご存知のマララ・ユスフザイさんが 2012 年に襲撃されてから、ユネスコでも彼
-20-
女の勇気をたたえて、何かしなければいけないと考えました。そして、パキスタン政府がユネス
コに支援をし、ユネスコが女子の教育を促進するための基金を設立することになりました。これ
は、パキスタン政府が自国民であるマララさんの勇気をたたえて、自国における女子教育の重要
性を認めたうえで、世界の他の国でも女子教育の促進に役立ててほしいということでユネスコを
通じて基金を立ち上げたものです。(付属資料-24)
2014 年度にこの基金が開始されるため、この基金によるプロジェクトについてはまだ何もご紹
介できず残念ですが、マララさんをたたえてできた基金ということで、パキスタン政府から拠出
された基金の70%は、パキスタンの特に遠隔地における女子教育の促進に役立てていく予定です。
中心となる活動としては、女性教員の養成、中等教育の拡大、アドボカシー、そして学校教育で
は行き届かない女子教育ですので、ノンフォーマル教育のアプローチを使って、教育を広めてい
こうということになっています。
ありがとうございました。
-21-
講演者プレゼンテーション資料
2.「ジェンダー配慮に関連したユネスコの教育への取り組み」
JICA主催 公開セミナー 「パキスタン・アフガニスタンの女性に教育機会を
~教育を通じた女性のエンパワーメント~」 (2013年12月8日)
ユネスコの女性・女子の教育支援への
取り組みを支える3本柱
ジェンダー平等な教育の実現に向けて
~UNESCOの女性の教育支援に対する取り組み~
教育は
基本的人権
ジェンダー平等と
女性・女子の
エンパワーメント
(Global Priority)
UNESCO
女性・女子教育推進のための
グローバル・パートナーシップ
(Global Partnership for
Girls’ and Women’s Education)
ユネスコ教育局基礎教育課
林川眞紀
1
2
教育は基本的人権
全ての女性、男性に保障されるべき
なぜ女性・女子の教育は重要か?
• 世界人権宣言(UDHR)第26条(1948)始め、国
子供の教育
の促進
連児童憲章(CRC、1989)、国連女性差別撤廃条約
(CEDAW、1981) など
貧困と非識字
の撲滅
• 「万人のための教育(EFA)」,ダカールEFA宣
言と目標:
• 第2目標: 2015年までに全ての子供達が,無償で質の高い義
務教育へのアクセス、修学を完了。
• 第4目標:2015年までに成人(特に女性の)識字率の50パーセ
ント改善を達成。
• 第5目標:2005年までに男女格差を解消、2015年までに教育
における男女の平等を達成すること。
民主的
政治参加の
実現
子供と家族
の健康促進
女性・女子の
教育の
インパクト
晩婚化を
奨励
就労機会と
賃金の向上
• ミレニアム開発目標 (MDG)の第2,第3目標
3
4
Photo credit: Maki Hayashikawa, @CLC Kabul
女子・女性の教育の現状
なぜか解消しない教育のジェンダー格差
~依然と縮まらない教育の男女格差~
• “We have no gender issues in education” 「教育
にはジェンダーの問題などない」)
• 現在も68か国で初等教育におけるジェンダー
格差が解消されていない。
• ジェンダー平等は目標でもあれば手段でもある
(Gender equality as a goal and a means)。
• 不就学児童の減少のペースは停滞:
– 初等教育:5,600万人のうち女子3,100万人
– 中等教育:6,900万人うち女子3,400万人
– ジェンダー平等はすべての人の課題(“everyone’s business”)
• ジェンダー格差は他の社会・経済格差と複雑に交差し
「変化・進化」」もしている。
– 辺境の農村地に住み、家庭が貧困で両親が非識字者の少数
民族で、女子であることの三重四重苦。
• 成人非識字者(15歳以上)7億7,400万人のう
ち、
64%が女性
– 20年間成人女性の非識字率は向上せず
– 男子の中退率の増加、特に中等教育において。
• ジェンダー平等を測る、成果を評価する難しさ
– 目に見えない、指標化しにくい成果を如何に評価・モニタリン
グするのか?
6
出典:ユネスコ統計局(UIS) 2011統計
5
-22-
バングラデシュで小学校を修了できなかった
15‐24歳の女性(2011年)
バングラデシュの不就学の子供たちは・・・
7
8
出典:GMR, 2012,WIDE Infogrphic
“Better Life, Better Future”: 女子・女性の教育
教育におけるジェンダー平等の3つ側面
のための グローバル・パートナーシップ
(Global Partnership for Girls and Women’s Education)

• 2011年5月、現ユネスコ事務局長が前国務長官ヒラリー
・クリントン氏の後援の下、立ち上げる
Gender equality TO education: ACCESS
(教育の機会を得る平等)
 Gender equality IN education: PROCESS
(教育の過程においての平等)
 学習過程
 教師や親の言動、視点
 学習成果と進級への期待
• 女子・女性の教育機会を拡大・促進し、ジェンダー平等
な社会を目指す
• ハイレベルな政策アドボカシーと官民連携(PPP)による
プロジェクト実施。
• 以下の課題に焦点:
– 女子の中等教育促進
– 成人女性の識字拡大
 Gender equality THROUGH education: OUTCOMES
(教育の成果・結果における平等)
 学習成果
 雇用機会、収入
– 成人識字と中等教育の相互関連重視
10
9
なぜ今、女子の中等教育、女性の識字なのか?
女子の中等教育と開発課題の重要な関係
• 中等教育は思春期。10代の女子は成人女性となる準
備の時期として、社会の伝統・文化に基づいて行動・態
度が規制されたり、教育を含むあらゆる機会差別をうけ
るようになることも。
女子の教育と新生児死亡率の関係
• 中等教育は初頭教育に比べ、制度的に複雑である。
– 教育過程の多様化
– 女子の教育を受ける権利を保障する法的枠組みが少ない
– 中等教育は有償の場合が多い
• 成人女性の識字問題は特に軽視されてきた。
• 2015年まで残すとこ2年弱、国際社会も女子の中等教
育と開発の関係の重要性を再確認。
– 成人女性の非識字人口の減少への鍵
12
Source: GMR 2011
11
-23-
女子の中等教育機会への障害要因及び
成人女性の非識字課題は関連している
1) 教育関連の要因
•
•
•
•
•
•
•
•
•
入学の遅れ
教育にかかる直接・間接費用
学校までの通学距離
女性教員の不足
カリキュラム、教科書などに見るジェ
ンダー・ステレオタイプ
学習言語と母国語の違いによる学
習の遅れ
学校内外におけるジェンダーに基づ
く暴力
学校に衛生環境・設備・管理
など
女子・女性の教育の機会が
最も制限されている8か国
2) 教育以外の要因
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
社会の価値観
貧困や経済的制約
家事・育児
栄養失調、健康不良
早期・未成年結婚
未成年妊娠
HIV感染
ジェンダーに基づく暴力(GBV)
文化的慣習によるジェンダー差別
弱い政治意志
ジェンダー平等に関する政策がない
など
出典:GMR 2012, Inequality in Education (WIDE)
13
14
南西アジアにおける女性の教育の課題
女子・女性の教育の普及・促進への努力
• 保守的な文化・伝統
–
–
–
–
–
• 法律設置・改正
女性の社会的地位が低い
女子教育の価値が低い・ない
親が教育を受けていない、非識字者である
女子は家事・育児に必要 (それによる時間的束縛)
早期・未成年結婚、未成年妊娠・出産
– パキスタン:「教育の権利」法第25条無償義務教育を法律化
• 直接費用の撤廃、補助(授業料撤廃、奨学金支給、学校給食、
など)
– バングラデシュ:食事補助で就学率41%向上
– インド:給食補助
• 貧困、機会費用
• 学校が遠い又は不足、特に女子校の不足、施設不備
• 間接費用の撤廃、補助(家庭補助金、食品補助、保育園併設、
など)
– アフガニスタン:女子就学に食用油補助
• セキュリティーの不安 、紛争後・(自然)災害後の非日
常的状況
• 授業料、教材費、制服代、などの教育の直接費用
• 女性教員の不足または低い質
• カリキュラムの質が悪い、ジェンダー・バイアス
• 女性教員の養成、女性教員配属クオーター導入
– ネパール:小学校に最低1人は女性教員採用勧告
• ノンフォーマル教育プログラム
• 所得創出活動や職業訓練の導入
• 遠隔、通信教育の普及 (ICT活用)
15
16
©Marina Soudat
アフガニスタンとパキスタンの
女性の教育の現状
アフガニスタン
アフガニスタン 識字向上プロジェクト
(Enhancement of Literacy in Afghanistan, ELA)
パキスタン
• 成人女性識字率20% (全体 • 成人非識字率54.5%うち2/3が
36%;男性50%)
女性
• 不就学児童420万人うち大半 • 農村地域の成人女性の識字
が女子
率は35%(女性全国平均は
47%)
• 女性の教育への文化的反感
• 不就学児童(5‐9歳)は670万人
• 教室や教材の不足
うち56%が女子(2011/12)
• 女性教員の不足
• 北西辺境地スワット地区では3
• 初頭教育のジェンダー格差
人1人の女子が初等教育就学
指標(GPI): 0.69 (2010)
• 紛争後地域、不安定な社会
基盤、移動の難しさ
UNESCO
Government of Japan
• 初頭教育のジェンダー指標格
差(GPI):0.86 (2011/12)
• 教員不足
• 高い落第率、乏しい教育の質
• 自然災害後へのアクセス難
17
Afghan Ministry of Education
 目標:識字能力の向上
 対象学習者:118万人うち
60%女性
 第1フェーズ:2008‐2013
 第2フェース:2013‐2016
Photos credit: Marina Saudat, @Faizabad, Badakhshan ELA Literacy Class
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Enhancement of Literacy in Afghanistan (ELA)
ELA の成果 (2013年11月現在)
• 所得創出のための技能促進
• 2013年11月現在、学習者600,000(うち60% が女性)、
基礎識字力を習得
 18省100地区にて識字教室開催
 学習内容と教材は女性の地位平等と福祉向上を促
進
 成人女性識字の推進のためのアドボカシーと社会導
引活動を展開
 12,000人の識字ファシリテーターを養成、60%が女性
 女性学習者に届くよう、識字教室を地方分権化
• 自助持続の確立
• アフガニスタン人の社会参加を促進
• アフガニスタンが識字社会となるよう強い識字基盤を築くこと
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20
Photo credit: Norrudin Badri, @Mazar-e-Sharif ELA Literacy Class
Photo credit: UNESCO Kabul
パキスタンモバイル識字プログラム
プロジェクトの構造
(Mobile Literacy Program in Pakistan)
なぜ識字普及に携帯電話か?
• 携帯電話利用者の急増
Provincial governments • 2010年には利用は1億2000万人)
(Punjab & Sindh)
• 携帯電話は楽しいし、日常利用できる道具
• いつでも、どこでも学習できる手軽さ
• 短く、簡単、おもしろいメッセージによる識字学習
• 短期間(6か月)で基礎的識字を習得可能
NOKIA & MOBILINK
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Photo: UNESCO Islamabad
2010年第2フェーズ
50 センター
1250 学習者
2009年パイロットフェーズ
10 センター開設
250 学習者
UNESCO
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出典:ユネスコ・イスラマバード事務所プレゼンテーション
女子の教育権利促進
のためのマララ基金
第3、第4フェーズ:ポスト・リテラシー
(Malala Fund for the Promotion of Girls’ Right to Education)
第3フェーズ (2012)
70 成人識字センター開設
1750人 農村地域成人女性の学習者
多角学習アプローチ
 伝統的指導
 携帯電話によるポスト・リテラシー・メッセージ
 コンピューター学習
 インターネット、ソーシャル・ネットワーク(SNS)
活用
• 2013年3月、パキスタン政府の提案でユネスコに女子
教育のための基金を設立
• 基金の目的:女子教育の普及・拡大をめざし、特に紛
争後・災害後地域における女子教育の機会拡大・普
及を通して、女子・女子のエンパワーメントを促進す
ること
• 2014年度は基金の70%がパキスタンの遠隔地にお
ける女子教育の普及・促進プロジェクトの為に使われ
る
第4フェーズ (2013)
50 成人識字センター開設
1250人 農村地域成人女
性学習者対象
– 女性教員の養成
– 女子中等教育の拡大;不就学女子のノンフォーマル教育
– 女子教育促進のための政策アドボカシー活動
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Photos: UNESCO Islamabad
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24
Photos : UNESCO Islamabad
Thank you!
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5.事例発表「アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2
の協力事例」
アフガニスタン国教育省 識字局プロジェクト監理課長
シャハラ・ハフィジ
JICA 専門家
小荒井 理恵
ご紹介にあずかりました小荒井と申します。
本日は、アフガニスタンの女子、女性の教育状況とアフガニスタンの教育省識字局、そして JICA
の識字教育支援について、アフガニスタン教育省識字局のシャハラさんと私がお伝えします。
(付
属資料-1)
まず最初に、アフガニスタンの女子、女性の教育状況と識字局による識字支援の取り組みを私
が簡単にご紹介した後に、シャハラさんが JICA との協力で行っている識字教育支援と今後の課
題と提言をご報告します。(付属資料-2)
アフガニスタンの識字・教育状況ですが、15 歳以上の大人で読み書きができるのは、人口 3,000
万人ぐらいのうち 26.2%と世界で最も低い数字となっています。そのうち女性で読み書きができ
るのは 12.5%と非常に厳しい状況になっています。読み書きができない人口は 1,100 万人と推定
されています。2001 年ぐらいからこれまで、日本をはじめさまざまな国々、そして教育省自身の
取り組みで学校に行ける子どもの数は、100 万人以下から 750 万人以上に増えましたが、いまだ
に学校に行ける子どもの率は、男子 6 割、女子 4 割です。そして、小学校を終えることができる
女子は 2 割と非常に少ない状況になっています。(付属資料-3、4)
なぜ学校に行けないのかという問題については、先ほど内海先生のお話にもありましたように、
さまざまな課題が絡み合っています。学校の施設が揃っていないという問題もありますし、家庭
の貧困、そして人々の社会的に昔からある考え方なども理由としてあります。そして、より難し
くしている原因として、やはり 30 年以上アフガニスタンで続く紛争の問題があり、学校や先生、
生徒に対する直接の攻撃もあります。これは、女子校だけではなく、共学の学校も狙われていま
すし、あるいは米軍が支援した学校も狙われていて、具体的な背景が明らかになっていないとい
う課題もあります。(付属資料-5)
現地の方たちになぜ学校に行けないのかを教えてもらったところ、女性の先生が特に地方では
いない、小学校 4 年生まで学んでいたが女の子は次に進級できない、近くに女の子の学校がない
ので行けない、お父さんは先生だが教えてくれないといった現実があります。こういった女の子
の問題というのは、首都のカブール市内でも見られることです。現地の人々のなかには、小学校
4 年生や 10 歳以上の女の子は成熟した女性と考え、家の中で守らなければいけないと考える人た
ちもいます。そのため、家の外や公の学校という場に行けなかったり、男の先生に教えてもらう
のは受け入れられなかったり、男女一緒に学ぶのを嫌がることもあります。そして、13 歳ぐらい
で結婚するため、学校に行けないということもあります。(付属資料-6)
内海先生がお話しされたように、学校の施設の問題、人々の意識の問題、治安の問題、本当に
さまざまなことが混ざり合っていて、女の子が学校に行けない理由は 1 つではありません。ある
バーミヤン州の学校では、ヒツジの世話で忙しい男の子よりも、むしろ女の子の方が多く学校に
-27-
来るという例もありました。統計上は女の子の方が学校に行けないことが多いのですが、ある学
校では男子の方が来られないという状況もあるので、丁寧に調査をする必要があると思いました。
(付属資料-7)
今回来日されたラヒマさん、シャハラさんのように、教育を受けて外で活躍する女性もアフガ
ニスタンにいます。一方で、家の外に出ることを旦那さんが許してくれなかったり、奥さんが学
ぶのはいいことだが、学習施設は自分の家の中につくるべきだという人もいて、女性の行動の自
由は厳しい状況にあります。学校を中途退学してしまったり、学校に行けないまま大人になった
人たちのために、基礎的な読み書きや計算の教育をすること、これを識字教育といいますが、そ
うした教室を識字局が中心になって実施しています。しかし、識字教室に通うことを、両親は許
してくれるが、お兄さんが許してくれないといったような状況もあり、どのような教育であれば
家族が了承するのか、なぜ識字教室に通わせてくれないのかといった調査が必要となっています。
(付属資料-8)
これが識字教室の様子です。女性は主に先生や学習者の家の中で、安全な場所で学びます。先
ほど申し上げたような数々の理由で、学校に行けない子どもも近所にある識字教室で学んでいる
ケースも多いため、識字教室はアフガニスタンで非常に大事な教育の受け皿となっています。
(付
属資料-9)
これは、ユネスコと日本政府の支援で、識字局が開発した識字の教科書です。読み書きや計算
などを、イスラム教や保健などのトピックとあわせて学びます。これは、バーミヤン州の識字教
室で見せてくれたものです。ダリ語のアルファベット・チャートですが、女性の学習者が自ら作
ったものです。自分で作ることによって、読み書きの学習を確認する効果もありますし、このよ
うに教室の壁に貼ってあると、自分が作ったものを見て、自信を高めるといった効果もあります。
(付属資料-10)
なぜ文字の読み書きや計算を学びたいのかと尋ねますと、実にいろいろな理由がそれぞれにあ
ります。先ほど林川さんのお話にあった携帯電話もアフガニスタンで普及しており、番号をダイ
ヤルできるようになりたいという理由もあれば、娘の勉強を助けたい、子どもの世話で学校に行
けないからという理由もあります。コーランといわれるイスラム教の聖典を読みたいので、先生
に頼んで通常の識字教室の 1 時間半のレッスンの後、1 時間ぐらいコーランを勉強するというよ
うな人たちもいます。(付属資料-11)
文字の読み書きや計算を学んだ結果、どのような変化があるかについては、これは学習して 6
カ月目ぐらいの方に聞いたお話ですが、携帯電話の数字が読めるようになった、自分と息子の名
前が書けるようになった、家計の計算ができるようになったといったことがあります。やはり書
くことは難しいのかなという印象をもちました。家計は、計算してもそれを記録するという習慣
をもっていませんので、家計簿をつけるというところまではいっていません。しかし、学習を続
けるなかで、実利的な変化があるのを見て、休みの日でもぜひ勉強しなさいと夫も奨励するよう
になった例などもあります。(付属資料-12)
こうした識字教育を教育省識字局や、国連機関、NGO などが協力して実施しています。政府と
しては、教育の中身や質を担保しなければいけないのですが、そのような活動を、識字局と JICA
が支援しています。
これからシャハラさんにお話しいただきます。
-28-
(シャハラ)まず、教育省大臣、識字局局長に代わってお礼を申し上げます。女性教育の貴重な
セミナーにお招きいただき、ありがとうございます。限られた時間ではありますが、アフガニス
タンの女性の識字教育に関し、LEAF フェーズ 2 の活動を簡単にご紹介させていただきます。
アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2、LEAF2 と呼んでおりますが、実施期
間は 2010 年 4 月から 2014 年 3 月、対象地域は全 34 州と首都カブール市です。事業目的は、識字
教育の質向上のための識字局のモニタリング・技術支援に係る能力強化です。主な活動内容は 4
つありますが、1 つ目は識字教育のモニタリング枠組みの開発・研修、2 つ目は識字の学習達成度
評価ツールの開発、3 つ目は識字教室のデータの収集・報告の方策開発、4 つ目は識字教師への技
術支援の方策の開発です。(付属資料-13)
(小荒井)若干補足しますと、識字局が識字教室をモニタリングできるようになるために、例え
ばモニタリングではどのような点を見るのかを含めたモニタリングマニュアルを作成したり、識
字局職員への研修の実施、また学習者がどの程度読み書き能力を高めたかを測るツールの作成、
識字教室は何カ所あるのかといったようなデータを集めたりしています。
識字教室のモニタリングの枠組みの開発と研修のサイクルについて、簡単に説明させていただ
きます。最初に計画を策定し、策定した計画を基にアフガニスタンの各州で実施します。実施を
モニタリングすることで、どの部分に問題があるのか、どのような課題に直面しているのか、そ
れを改善するにはどういう方法をとればいいのかを識字局が支援していきます。それが技術支援
につながります。(付属資料-14)
識字教育促進の課題と提言ですが、女性の識字教師の能力向上が挙げられます。また、支援が
届きにくい女性や女の子がなぜ識字教室に行けないのかを調査し、男性、女性両方の意識の向上
につなげていくことも大切です。さまざまな場所に識字教室を開くことが一番大事だと思います。
アフガニスタンはイスラム教の国で、イスラムの宗教指導者をムッラー・イマームといい、最も
尊敬される存在ですが、その話は皆が聞きますので、その力を借りて識字教室を開くことで、多
くの女性が識字教室に来ることが可能になるのではないかと思います。(付属資料-15)
(シャハラ)LEAF2 の活動で、私自身、どのような変化があったのか、簡単に 3 つ説明させてい
ただきます。1 つ目は、モニタリングの報告書を期間内に作成することができるようになりまし
た。2 つ目は、識字教育にかかわる他の課と連携をもつようになりました。3 つ目は、活動成果を
共有し、共有するなかで課題があれば、解決方法を協力して探していけるようになりました。
ありがとうございました。
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講演者プレゼンテーション資料
3.「アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2 の協力事例」
本日のお話
JICA主催公開セミナー
パキスタン・アフガニスタンの女性に教育機会を
~教育を通じた女性のエンパワーメント~
• アフガニスタンの女子・女性の教育状況
• 識字局・JICAの識字教育支援の事例
• 課題と提言
アフガニスタンの女子・女性の教育状況と
識字局・JICAの識字教育支援
2013年12月8日
シャハラ・ハフィジ
小荒井 理恵
1
2
アフガニスタンの識字・教育状況
教育状況(初等・中等教育)の比較
• 世界で最も低い成人識字率(15歳以上):
26.2% (男性39.3%、女性12.5%)
• 非識字者数: およそ1,100万人と推定
• 初等教育就学率:男子62%、女子40.4%
• 初等教育修了率:男子40%、女子20.8%
2002年
2011年
100万人以下
750万人
(うち39%が女子)
教師数
2万人
17万2千人
(うち31%が女性)
学校数
3,400校(ほとんどの
建物が使えない)
1万3千校
就学者数
4
3
なぜ学校に行けないのか?
なぜ学校に行けないのか?
①学校の問題:学校が家の近くにない、男女別の
教室がない、女子トイレがない、学校の周りに塀
がない(女子が「見られない」ようにするため)
②家庭・社会的慣習の問題:貧困、人々の考え方
③紛争、治安悪化の問題:
30年以上続く紛争
学校・教師・生徒への攻撃
学校閉鎖
「小学校4年生のクラスで12歳の女子6名が勉強して
いましたが、女性の先生がいないので、辞めざるを
えませんでした」(パルワン州男性教師)
「学校に行きたいけれど、近くに女子のための学校
がありません。教師の父親は勉強を教えてくれま
せん」(パルワン州12歳女子)
→小学校4年生・10歳程度以上の女子: 「成熟した」
女性を「守る」ため、家の外・公の場に出る、男性
の先生、男女共学を嫌がる家族もいる、早期結婚
6
5
-30-
外で活躍する女性がいる一方…
なぜ学校に行けないのか?
「家の外に出ることを夫が許しません。
隣近所でさえも」 (カンダハール州女性)
「妻が何かを学ぶのは素晴らしい。
しかしコミュニティ・センターはこの家
の中に作るべきだ」 (カンダハール州男性)
「両親は識字教室
「女子は1、2年生しかいません。女性教師の数や女
子の学習場所、トイレの不足のほか、地域の人々
の女子教育の意識が低かったり、男女ともに年下
の子どもと学ぶのが恥ずかしい、武装勢力が女子
が学校に行かないよう脅す、などさまざまな理由が
あります」(パルワン州男性教師)
に通うことを許可してくれました
が、ていますが、兄 が、兄は許可してくれません。
ません。理由は何度聞いても分かり
ません」(カブール市女性)
「羊の世話で忙しい男子よりも、女子のほうが多く学
校に来ます」(バーミヤン州女性教師)
7
8
識字教室の様子
アフガニスタンの識字教本
女性学習者が作成した
アルファベットチャート
カブール市内の識字教室で学ぶ子どもたち
バルフ州女性識字教室
9
10
識字学習による変化
なぜ識字を学びたいのか?
• 「薬局や病院で必要なことを読めるようになりたい、アフ
ガニスタンの歴史を勉強するため、国の現在の状況を明
確に理解するため」(カブール市女性)
• 「携帯電話の番号をダイアルしたり、名前を登録できるよ
うになりたい」(ナンガハール州男性、女性、カブール市
女性)
• 「パシュトゥー語の読み書きができないため」(イランから
の帰還難民、カンダハール州女性)
• 「娘の勉強を助けたいから」(カブール市女性)
• 「学校に行けないから」 (カンダハール州女子)
• 読む: 携帯電話の数字が読める、子どもの予防
接種の記録カードの数字が読める
• 書く: 自分と息子の名前が書ける
• 計算: 家計の計算ができる
• その他の変化: 子どもが文字を読むのを助けら
れる、石鹸を使って手を洗うようになった、自分
に少し自信がついた、など。
• 夫の変化:「毎日勉強しなさい」と奨励
• 「家で本やコーランを読めるようになりたい」(ナンガハー
11
ル州女性)
12
-31-
アフガニスタン国識字教育強化
プロジェクトフェーズ2 (LEAF2)
• 実施期間: 2010年4月から2014年3月
• 対象地域: 全34州とカブール市
計画策定
• 事業目的: 識字教育の質向上のため、識字局
のモニタリング・技術支援に係る能力強化。
• 主な活動内容:
1.全識字教室のモニタリング枠組みの開発・研修
2.識字の学習達成度評価ツールの開発
3.識字教室のデータ収集・報告の方策開発
4.識字教師への技術支援の方策の開発
13
技術支援
実施
モニタリング
14
ありがとうございました
タシャクール(ダリ語)
マナナ(パシュトゥー語)
識字教育促進の課題と提言
• 識字教師の能力向上(特に女性)
• 支援が届きにくい女子・女性がなぜ識字教室
に行けないかを調査し、柔軟な識字教育の方
法を促進する
• 男性、女性両方の意識の向上
写真: アフガニスタン識字局職員の研修のため訪問したバングラデシュにて 16
15
アフガニスタン基礎情報
補足資料
• 人口: 31,108,077人(2013年推定)
• 面積:約65万平方Km(日本の1.7倍)
• 民族:パシュトゥーン: 42%, タジク: 27%, ハザラ: 9%, ウズベク: 9%, アイマク: 4%, トルク
メン: 3%, バロチ: 2%, その他: 4%
• 言語数はおよそ49
• 公用語:パシュトゥー語、ダリ語
(アラビア文字を使用)
出典: アフガニスタン復興支援(JICA)
18
17
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6.事例発表「パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトの協
力事例」
JICA 専門家
大橋 知穂
JICA パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトコーディネーター
アビッド・ギル
パキスタンでノンフォーマル教育推進プロジェクトを実施させていただいております大橋と申
します。一緒に仕事をしておりますアビット・ギルと申します。そして、識字局レンガ工場プロ
ジェクトのプロジェクト総括のグーラム・アバースです。グーラムさんの活動は後ほどパネルデ
ィスカッションのときにご紹介させていただきます。
本日は、パキスタンの事例についてご紹介する機会をいただきまして、大変ありがとうござい
ます。最初に、ノンフォーマル教育でどのように女性たちが勉強しているのか、ビデオを見てい
ただければと思います。(ビデオ上映)
少しご紹介させていただくと、このような形で大人の女性も学んでいるのですが、若い 10 代の
若者や、小学校の女の子たちも同じくノンフォーマルの学校で勉強しています。こういうクラス
運営がスムーズに行えるようにプロジェクトとしてはサポートしています。(付属資料-1)
パキスタンには 4 州あるのですが、私たちが活動をしているパンジャブ州が人口の半分を占め
ています。パンジャブ州では識字率は 60%です。これは 10 歳以上の識字率となっていて、ユネ
スコなど皆さんが紹介してくださっている 15 歳以上の識字率とは少し違うことにご注意くださ
い。見ていただきたいのは、男性と女性の差が大きいということです。女性の識字率は 51%なの
に対し、男性は 70%です。農村部でも同じように 20%以上の開きがあります。
2 つ目が就学率の問題です。パンジャブ州のなかで一番就学率が低いラジャンプール県では、
男の子で学校に行っている子は 45%、女の子は 22%です。パンジャブ州はかなり就学率が高く、
他のバルチスタン州やカイバル・パクトゥンクワ州になるともっと低いものになります。
それから、パキスタンのもう 1 つの大きな問題は中退率です。世界で 2 番目に高い中退率にな
っています。小学校卒業前に学校に入った子のうち 40%から 50%が中退してしまい、その 3 分の
2 が女の子といわれています。
1 つだけ少し希望がもてる数字といえば、大学まで進学できる人数は本当に少ないですが、大
学に進学した人のなかで、女性の占める割合は最近非常に高くなってきています。男性 49%に対
して、女性は 51%です。必ずしも悲しい話ばかりではないといえると思います。
ただ、ここで 1 つ問題なのは、それが就労や女性の社会参画に結びついているのかということ
です。いい学校に入って、いい結婚相手を見つけるために、大学に行かせたいと思っている家庭
も結構あります。先ほど、なぜ子どもたちは学校に行けないのかということについて、アフガニ
スタンの例でもお話しされていましたが、パキスタンでもほとんど同じような状況です。(付属
資料-2)
ハンドアウトのなかにあると思いますので、パキスタンの女性が学校に行けない理由は省かせ
ていただきますが、2 つ言わせていただくと、1 つは教科書や教授法が日常の生活と非常にかけ離
れている、あるいは、論理的でなかったり、暗記中心であるという問題点があります。
-33-
それから、もう 1 つは家庭の問題です。村でも親は学校に行かせたいという気持ちが次第に高
まっているのですが、小学校はあっても、女子中学校がないのです。アフガニスタンの例でもお
話しされていましたけれども、10 歳を過ぎると大人とみなされるので、女の子だけの中学校に行
かせたいのです。でも、女子中学校が近くにない、つまり中学校の絶対的な数が不足していると
いうことだけで、小学校に行かせても仕方がないと思う親が結構います。(付属資料-3)
次に、私たちのプロジェクトはノンフォーマル教育推進プロジェクトで、ノンフォーマル教育
というオルタナティブ学習のアプローチですが、これがなぜパキスタンで有効なのかということ
をご紹介させていただきたいと思います。
1 つ目は柔軟性です。私たちのターゲットグループは学ぶ機会がなかった人たちです。そのよ
うな人たちが、自分自身と周りの状況を変えたいと思ったときに、いつでも、どこでも、いくつ
になっても学ぶチャンス、つまりセカンドチャンス、あるいはサードチャンスを柔軟に提供でき
る場になっています。
パンジャブ州だけで 3,100 万人の非識字者がいます。3,100 万人といってもピンとこないのです
が、東京都の人口が 900 万人ぐらいですので、その 3 倍以上の人たちがパンジャブ州だけで読み
書きができない状態です。これはパキスタンの人々の半分に当たりますので、つまり、東京都の
人口の 6 倍ぐらいの文字の読み書きができない人たちがパキスタンに住んでいるのです。パキス
タンという国は、とにかく人口が多く、そのなかで非識字者がとても多いので、その人たちにど
うすれば学ぶ機会を提供できるのかといったときに、学校教育だけでは提供しきれません。先ほ
ど林川さんがおっしゃったように、2015 年までになんとかしたい、この人たちにどのような学習
の機会を提供すればいいのかといったときに、このようなアプローチが有効なのではないかと思
います。
アフガニスタンもそうだと思いますし、パキスタンの場合も、学校への女性のアクセスが課題
です。働いている人たちもいるので、そういう人たち向けにもいつでもどこでもできる学び方が
必要です。
それから、ノンフォーマル教育の利点は学ぶ内容がより学習者のニーズに合ったもので、学校
教育よりも安上がりで即応性があるということです。教育コストは安いです。例えば、学校を建
てるのにパキスタンでは 3 年も 4 年もかかります。でも、3 年も 4 年も待っている間に小学生た
ちは 3 年も 4 年も学年が上がってしまうわけです。この子たちを無視するわけにはいきませんか
ら、その点でも、ノンフォーマルの小学校は、やはり即応性があり、勉強できる機会を提供する
ものになっています。
また、コミュニティをできるだけ巻き込むようにしていているのも特徴ですし、先生たちは学
歴は低いですけれども、やる気がある人たちです。(付属資料-4)
私たちのノンフォーマル教育推進プロジェクトで、どのような活動をしているのかというと、1
つ目に、学習環境を整えています。学習環境スタンダード、教師スタンダードや学習スタンダー
ドをつくっています。それから、2 つ目はニーズに合ったカリキュラムと教材、教師ガイドをつ
くっています。3 つ目に、学習到達度を測るためのアセスメントツールをつくっています。
もちろん物をつくるだけではなく、人づくりということで、先生や政府の職員、フィールドス
タッフの能力強化もしています。それから、こういうアプローチですので、やはりコミュニティ
のサポートが得られるようなプロモーションも行っています。
これらインプットとともに、アウトプット、アウトカムといわれるようなものについても一緒
-34-
に考えていかなければいけないと思っています。こういうスタンダードやカリキュラムをつくっ
たり、アセスメントツールをつくった結果として、学習者の数が増えたり、中退者が減ったり、
あるいは学習到達度が上がったり、識字者や初等教育修了者の数が増えたり、中学校・職業訓練
への道が開けるのです。また収入の向上や保健衛生の向上、女性のエンパワーメントなどにもつ
ながるものでなくてはいけません。ですから、インプット、アウトプット、どちらか一方だけを
見るのではなく、両方を見ながら識字局と一緒に活動しています。(付属資料-5)
いくつか教材をご紹介させていただくと、これは“My Book”といって、「私だけの手帳で、
書くことを楽しもう」というものです。日本の高校生や中学生のファンシーブックのように、日
本には自分の目標を書いたり、日記を書くようなものがたくさんありますが、パキスタンにはこ
ういうものがほとんどありません。これを手にすると、本当にみんな喜びます。楽しみながら、
とにかく書くこと、記録することは楽しいということをわかってもらうような教材をつくってい
ます。(付属資料-6)
2 つ目の例として、栄養について学ぶというものがあります。ポスターが貼ってあるので、後
でご覧いただければと思います。栄養や健康を考えるといったときに、女性が美しくなりたいと
言うのは万国共通です。美しくなることに興味があれば、「そのためには、どういう栄養をとっ
たらいいのか、どう健康に注意したらいいのかということを考えてみましょう」というアプロー
チです。つまり学ぶ人たちの興味があることをとっかかりとして始めるような教材づくりや活動
を行っています。(付属資料-7)
これは、マンゴーのジュースを作って、収入向上や節約の大切さを学び、実際のスキルを学ん
でいるところです。(付属資料-8)
それから、これはイスラム教の教えを使おうという話で、イスラム教のなかにはとても現実的
なお話が多いのです。これを使わない手はないのではないかと思いました。1 つの例では、食べ
過ぎ注意、腹八分目というのがあります。イスラム教の教えでは、胃袋の 3 分の 1 が食べ物、残
りの 3 分の 1 は水、最後の残りの 3 分の 1 は空気という言い方をします。これはまさに腹八分目
のことだと思うのです。このような例を生活のなかの知恵として使いつつ、生活を改善していく
ようにしています。(付属資料-9)
さらに、親の側からすると、イスラム教のことを学校で娘たちが学んでくるということは、と
ても誇りであり、うれしくもありますので、そういった意味でも、できる限り既存の知恵や知識
というものを学習のなかで使っています。
その結果として、皆さんが既にさまざまなインパクトの話をされていましたので、一部割愛さ
せていただきますけれども、例えば、お父さんは最初、娘が勉強することに反対していましたが、
娘さんが識字教室に通い出してから、目上の人に対する言葉遣いがとてもよくなったり、コーラ
ンに出てくるようなお話もするようになったということがありました。お父さんは、うちの娘は
学校に行っていいことを学んできているし、言葉遣いもすごく丁寧になったと言うようになりま
した。こういうことは、日本でもよくありますよね。「うちの娘の言葉遣いがよくなったから、
学びに行っているのはいいことだ、下の弟や妹も学校に行かせるようにしよう」というように、
親の考え方も変わっていきます。(付属資料-10)
小さい子どもたちに聞くと、学校では、将来何になりたいかという話を全然しないようです。
「あなたは将来何になりたいのか」と訊くだけでも、子どもたちが考えることにつながります。
レンガ工場の話を後でアバースさんに説明していただきますが、パキスタンのなかでも最底辺層
-35-
の人たちで、識字率が非常に低いところなのですが、子どもたちが学ぶことで、親たちがもしか
したら貧困から抜け出せるかもしれないと思う、希望の光になっています。学ぶ人たちだけでは
なくて、社会的なインパクトもあります。例えば先生は女性であることがほとんどです。農村部
では女性の職業は限られているので、教師であることは誇りにもなります。女性の先生たちは、
自分が教師として教えることで、女性として村に貢献できることがあると思っていますし、村の
他の女性が、自分と同じように学ぶ機会を得て、変わっていくことに意義を感じたりします。(付
属資料-11)
村落教育委員会というのがあるのですが、そういう人たちと協力することで、コミュニティの
人たちを巻き込むことができます。男性が中心ですが、彼らが女性の教育の大切さに目覚めてい
くことによって、村の教育の問題は自分たちの問題であるという自主性も育っていきます。では、
将来的なサスティナビリティ、活動のさらなる継続や拡大をしていくためにはどうしたらいいか
ということについて、アビットからご説明させていただきます。(付属資料-12)
(アビット)ノンフォーマル教育の一番の問題点は、やはりサスティナビリティだと思います。
どのように継続していくのか。その経験をいくつか紹介させていただければと思います。
1 つ目に、私たちのカウンターパートは政策を考えていく人たちなので、一緒に州政府の識字・
ノンフォーマル教育の計画・戦略をつくっています。先方は 1 年や 2 年の割と短い期間の計画を
つくりたがるのですが、そうでなくて、10 年間というもう少し長い期間での計画を考えることを
提案しました。パキスタンは、「計画の墓場」だといわれているように、計画をつくるだけでは
なくて、それをどう実行していくかということが非常に鍵になりますので、そのための規約とい
うものをつくり、それを 5 年間の行動計画や州政府の分野別計画などに応用しています。
2 つ目に、システム化というのがあります。例えば、モニタリングのツールはつくっても、そ
れを実際に運用するための計画・運営管理をする人がいませんでした。そこで、モニタリングの
専門家、研修の専門家の必要性をカウンターパートに説き、役職をつくってもらいました。人を
配置することで、さらに継続的にモニタリングが進むシステム化を図っています。また、スライ
ドにあるような質の向上のためのシステムづくり、その承認もしています。もう 1 つは、人材育
成を行っています。(付属資料-13)
先ほどから申し上げているように、パンジャブ州だけで膨大な人数の非識字者、中退者がいま
す。パンジャブ州の識字局だけで学校を運営していくだけでは、とても対応しきれません。また、
ドナーのリソースに頼った対応だけでも追いつきません。既存のリソース、つまりお金だけでは
なくて、人的、経験、あるいは既存のシステムや教材といったものを活用して、また、他の省庁
や官民連携、大学生の活用などを通して、コーディネートしていくというのが 1 つの鍵と考えて
います。(付属資料-14)
どうしても省庁の縦割りということで、それぞれの対象に個別に活動することになってしまう
のですが、それぞれの対象者を考えてみると、どこも社会的な弱者を対象にしており、実は共通
のターゲットであることがわかります。それを学校教育局、ノンフォーマル教育局だけではなく
て、他のステークホルダーにも求めていくというのが 1 つです。ここで、女性開発局の例を挙げ
たいと思います。(付属資料-15)
女性開発局では、8 万人の女性エンパワーメントセンターをパンジャブ州につくろうとしてい
るのですが、女性開発局と識字局で話をして、一緒にカリキュラムや教科書をつくっていこうと
-36-
しています。カリキュラムに女性のエンパワーメント、ジェンダーの平等を盛り込んだ内容を入
れることによって、その教科書は女性開発局の 8 万人の学校でも使ってもらえますし、識字局の
方でも使い、同じターゲットの人たちとリソースをうまく利用しながら使うことを考えています。
(大橋)まとめとしては、パキスタンの女性の教育自立支援に対しては、男性も含めたコミュニ
ティ全体を巻き込むことが大切だということと、女性が自信をつけて決定権をもてるような支援
プログラムが必要ではないかと思っております。
2 つ目に、連携を通じた女性を含む社会的弱者への教育、機会の拡大と社会参画の支援が必要
だと思っています。パンジャブ州の中で始めていますが、他の州、あるいは例えばアフガニスタ
ンへの経験の支援、日本のさまざまな経験、例えば地方行政の縦割りからコーディネートしてい
くことや、母子手帳の経験など、企業や大学との連携といった試みができていけばと思っており
ます。(付属資料-16)
以上です。ありがとうございました。
-37-
講演者プレゼンテーション資料
4.「パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトの協力事例」
JICA・ACCUセミナー 「パキスタン・アフガニスタンの女性に教育機会をー教育を
通じた女性のエンパワーメント」
パキスタン、パンジャブの女性や女の子の状況は?
パキスタン
ノンフォーマル教育推進プロジェクト
大橋 知穂
アビッド・ギル
2013年12月8日
1
2
なぜパキスタンの女性は学校にいけないのでしょう?
ノンフォーマル教育推進プロジェクト−1
学校で
家庭で:親はこう考えます。
‐
‐
‐
‐
‐
‐
【施設】
•
•
学校の入学年齢を知らない.
女子を学校に行かせる価値やメリッ
トがないと思う、むしろ悪いことを教
えられそうだ。
親も非識字者のことが多く、小さい
うちから文字に親しんだり、教育を
受ける環境がない。(カレンダーや
本、雑誌が家にない)
教育が大切なのは分かっているが、
経済的に無理。(制服やノート)
お金がないなら男の子を学校に。女
の子は、お手伝いに。
村に女子中学校はないし、小学校
だけ行かせても意味がない。
•
•
ノンフォーマル教育がなぜパキスタンで有効?
近くに学校がない。
学校があっても、校舎を囲む壁や、女子
トイレがなかったりする。家から遠い。(2
−3kmでも遠いと考える。)
通学路が安全ではない。(特に10歳過
ぎの女子をあまり出したくない)
1クラスに100人、200人はざら。
1. 柔軟性:
「いつでも、どこでも、いくつになっても」 学ぶチャ
ンスを得て、自分と周りを変えていきたい人たち
のセカンドチャンスを提供。
• 学校に行ったことがない、あるいは中退した子
ども、若者、大人たち。(パンジャブだけで、
3100万人の非識字者)
• 学校へのアクセス(場所、時間帯、など)が悪い
2. ニーズにあった、対象者に適切なカリキュラム
3. 学校教育より安上がり、即応性がある。
4. コミュニティーの巻き込みが鍵。
5. 先生たちは、学歴は低いが、やる気がある。
【先生】
•
•
•
先生が来ない。来ても遅く来て早く帰る.
体罰
コミュニティに属していない外者、特に男
性には子どもを預けたくない。
【教科書、教授法】
‐
‐
学習者の日常生活とかけ離れた内容
だったり、論理的な流れがなかったり。
暗記がいまだ中心。
パキスタン社会、コミュニティーでは。。。
‐
‐
女児は家にとっての「ゲスト」で、いつか結婚して家を出て行く。稼ぎ手にならないのなら、教育に投資す
る必要はない。
多くの人にとって教育は、経済的に成功するツールであって、人格を育て、社会に貢献しうる市民を育て
るという教育の役割には気がついていない。経済的に、女性は貢献しないのだから(農村部では、農業に
女性が中心になって働いていたり、家事一般はすべて女性がやっているが、それが経済活動とはみなさ
3
れない)、教育を受けさせる必要はない、と考える。
4
教材事例−1「My Book」:私だけの手帳−書くことを楽しもう。
ノンフォーマル教育推進プロジェクト−2
学習環境を整える
• 学習環境スタンダード
• 教師スタンダード
成人識字
私のこと
私の家族のこと
学習到達度があがる
ニーズにあった
カリキュラムと
教材・教師ガイド
姉の
識字者の数が増える
初等教育修了者の数が
増える
インプット
ノンフォーマル
小学校
名前の由
来
お父さんの名
前と
誕生日
名まえ
誕生日
弟の
兄の名前と誕
生日
電話番号
ID No.
中学校、職業訓練への道が
開ける
先生や政府職員、フィー
ルドスタッフの能力強化
お母さんの名
前と誕生日
住所
妹の
アウトプット
学習到達度を計る
アセスメントツール
コミュニティのサポート
学習者の数が増える・中
退者が減る
表紙:「私だけの手帳」
収入の向上、保健衛生の向
上、女性のエンパワーメント
など
5
書いて記録することを楽しく思うようになるー
それが識字力の強化と、学ぶことを継続していく第一歩に。
6
-38-
せっかく学ぶんだったら…
美味しいものを作って、節約やお小遣い稼ぎになったら、最高!
教材事例−2:栄養 せっかく学ぶんだったら…
きれいになる方法が知りたい!
パキスタンはマンゴの生産地。でも加工品はほとんどありません。
学習センターで、マンゴジュースや、チャツネ(漬けもの)、ジャムなどを作って節約や収入
の向上に役立つようにしています。ちなみに、町で売っているマンゴジャムは一個140円く
らい。ボトルなどを買って作っても20個で単価70円くらいでできます。近所の市場にみん
なで売りに行けば、ちょっとした小遣い稼ぎに。。
どっちがきれい?
どうしてきれい?
栄養のバランスについてのポスター
7
8
教材事例−3:イスラム教は実はとっても現実的な話が多い。
これを使わない手はない
学習後の変化・インパクト:たのしい・わくわく体験1
 熱すぎ、冷たすぎる⾷べ物は
良くないから、少し冷まして、
少し暖めて。
電気の請求書や消費期限が
読めるようになった。近所にも
頼られ自分に自信がついた。
 15回から20回はよく噛ん
で、ゆっくり⾷べましょう。
識字と一緒に裁縫も学んだ。展
示会で、村のみんなに見てもら
うのは嬉しい。隣村でも、同じよ
うな教室をやっていると聞いて、
どんなことをしているのか、気に
なる。村を出たことがないが、一
度行ってみたくなった。
 ⾷べ過ぎ注意!腹⼋分⽬。
(胃袋の3分の1は⾷べもの、
3分の1は⽔分、残りの3分
の1は空気という)
識字教室に通い、他の女性たちと
いろいろな話をするのが楽しい。
お父さんは、私が勉強するのを
反対していたが、センターに通い
出してから、目上の人への言葉
遣いがよくなったし、コーランの
中のお話もするようになった、と
喜んでいる。娘が学校に通うの
は、良いことだと言うようになり、
下の弟や妹は学校にやりたいと
考え始めている。
9
10
たのしい・わくわく体験:先生・村落委員会
学習後の変化・インパクト:たのしい・わくわく体験2
将来はお医者さんになりたい。
先生みたいな優しくて、知
識のある大人になりたい。
小学校を卒業したい。
レンガ工場では、自分たち親も皆文字
が読めないし、子どもたちも学校に
行っていなかった。でも、レンガ工場の
中に学校ができて、子どもたちが通い
始めると、もしかしたら自分の子どもた
ちの世代からは、貧困の中から抜け
出すことができるかもしれないと希望
を持てるようになった。
11
都会から田舎に嫁に来て、やるこ
ともなく自分の人生は終わったよう
な気がしていた。識字教室で教え
ることで、自分の存在価値を実感
でき、周りの女性が変わっていくこ
とに喜びを得るようになった。これ
からも自主的に教えていきたい。
-39-
最初は、識字教室に女性たちを通わ
せるため、各家を訪ねたので、白い目
で見られることも多かった。しかし、通
い始めた女性たちが、電気やガスの請
求書を読むようになり、自信をつける
姿に、周りの見る目が変わった。賛同
者が増えて、中退した子供たちを学校
に通わせるキャンペーンなどもできる
ようになった。
12
サスティナビリティ:継続し、より拡大して行くために
サスティナビリティ:継続し、より拡大して行くために
ノンフォーマル教育推進プロジェクトの経験から
ノンフォーマル教育推進プロジェクトの経験から
1. 州識字局の計画・戦略づくりへの参画
•
パンジャブ州だけで、3100万人の非識字者、800万人の中退者
人口増加率1.8%
10年戦略プラン(2010年)→5年行動計画→最近の州政
府主導の分野別計画(2013年)に応用
識字局のみの運営、ドナーのリソースに頼った対応では追いつか
ない。
2. 識字局内のシステム化、州政府での承認化
•
•
•
•
モニタリングシステム:毎月NFEMISによる、データ主導のモ
ニタリングとデータ集積・分析
スタンダードに基づいた学習環境の向上と教師の質の向上
スタンダード、カリキュラムに基づいた学習内容の質の向上
と識字・初等教育修了者の量的拡大
学校教育および、職業訓練学校とのイクイバレンシー確保
のため、州政府の各承認機関の承認を得る。
3. 識字局内および、関係者の能力強化(人材育成)
既存のリソース活用の必要性
リソース=費用、人的、経験、既存のシステムなど
他省庁、官民連携、大学生などの活用
13
14
サスティナビリティ:継続し、より拡大して行くために
まとめ:
ノンフォーマル教育推進プロジェクトの経験から
1 パキスタンの女性教育・自立支援にむけて
学校教育局
識字・ノンフォーマ
ル基礎教育局
県の行政
保健衛生局
社会保障局
高等教育局
特別支援教育局
対象者は得てして共通
社会的な弱者
若者・中退者・低所得者・貧困層・被災
者・女性・女子・児童労働の子ども・受刑
者・社会的に阻害されたコミュニティなど
職業訓練学校
大学・特に教育大学
商工会議所
生活協同組合局
収入向上プログラ
ム・小規模貸し付け
女性開発局
環境局
労働局
企業・工場
15
• 女性の教育、エンパワーメントにはコミュニティの巻き込みが必須。
• 女性が自信をつけることの大切さと、決定権を持てるようにする支
援プログラムの必要性ーまずは家庭の中からなんらかの決定権
を持つようになることが自立の第一歩。
2 連携を通じた社会的弱者(女性を含む)への教育機会の拡大と社
会参画への支援
• パンジャブ州内での連携:他機関、大学、市民社会等との相互協
力(多くの部局がプロジェクト制作の教材に関心を示す。大学生に
よる識字ボランティアなど)による、質・良の拡大
• パキスタンの他州、あるいはアフガニスタン等への経験のシェア
• 日本の様々な経験を活かす工夫(母子手帳、地方行政、栄養教
育、家計簿など)と、企業や大学との連携の試み。
16
17
-40-
7.パネルディスカッション・質疑応答
モデレーター :JICA 人間開発部次長/基礎教育グループ長 石原 伸一
パネリスト :公益財団法人プラン・ジャパン コミュニケーション部アドボカシー担当
城谷 尚子
国立教育政策研究所 国際研究・協力部総括研究官 丸山 英樹
アフガニスタン国教育省 識字局モニタリング評価課長 ラヒマ・アスマル
JICA 専門家 小荒井 理恵
パキスタン国パンジャブ州識字・ノンフォーマル基礎教育局
レンガ工場プロジェクト総括 グーラム・アバース
JICA 専門家 大橋 知穂
ユネスコ本部 教育局基礎教育課長 林川 眞紀
○
石原:
皆様、こんにちは。ただいま紹介にあずかりました、パネルディスカッションでモデレータ
ーを務めます石原です。
本日のパネリストは、大きく分けますと、5 つの立場の方々に参加いただいております。1
つ目は NGO という立場でプラン・ジャパンの城谷さん、2 つ目は研究者という立場で国立教育
政策研究所の丸山さん、3 つ目は政府の立場でラヒマさん、グーラムさん、4 つ目は国際協力
の実践者という立場で小荒井さん、大橋さん、5 つ目は国連機関という立場で林川さんです。
本日はそれぞれ違った立場から、「女性と教育」というテーマで議論を深めていきたいと思っ
ています。
前半の発表セッションで、学校のなかと外の要因、それから教育と教育外のさまざまな要因
が複雑に絡んでいるというお話で、大きくまとめると 4 つの要因があったかと思います。1 つ
目は、内海先生がお話しくださった、地理的な距離の問題、学校に行くまでに距離があること
です。2 つ目はアフガニスタン、パキスタンの事例にもありましたけれども、女性の教員、教
材や教科書が実際の社会や生活に合っていないという学校のなかの問題です。3 つ目は、親や
社会が女性、女の子を学校に行かせないといった社会や規範の問題です。最後に、家庭の経済
状況、貧困や、子どもの労働の問題といった家庭環境の問題がありました。
ここからのセッションは、3 つの質問をパネリストの方たちに投げ、それにお答えいただく
という形で進めてまいりたいと思います。まず 1 つ目は、それぞれの立場でどのような取り組
みができるのか。2 つ目は、さまざまなステークホルダー・アクターとどのように協働してい
くのが望ましいと思うかという点です。3 つ目は、新しいステークホルダーの巻き込みについ
てです。例えば、官民連携や政治家に働きかけることなど、新しい巻き込みが必要かどうかで
す。この 3 つの質問にお答えいただく形で、お話しいただければと思います。
最初にプラン・ジャパンから、お願いします。まずプラン・ジャパンの取り組みを少し紹介
いただいてから、先ほどの 3 つの質問に答えていただきたいと思います。皆さんにそれぞれお
話しいただいた後に、フロアから質疑応答、オープンディスカッションという形で進めていき
たいと思います。
城谷さんは、高校の教員をされた後、現在はプラン・ジャパンでアドボカシーの活動を担当
されていらっしゃいます。それでは、城谷さん、よろしくお願いします。
-41-
○
城谷:
皆さん、こんにちは。本日はお話しさせていただく機会をありがとうございます。最初に、
プラン・ジャパンはどういう団体なのかご存知ない方もいらっしゃるかと思いますので、簡単
にご紹介させていただきます。
プランは、世界 69 カ国で活動を展開する、国連に公認・登録された国際 NGO です。子ども
の権利条約というものがあるのですけれども、どんな国、地域に生まれようとも、子どもたち
は安全に生きて、知識を学びながらすくすくと育って、そして危険から守られて育つ、あるい
はどういった社会を今後つくっていくのかにつき、自分たちで意見を述べるといった参加する
権利が子どもの権利条約には書かれております。こういった権利が守られるように活動してい
ます。
例えば、教育や保健、親の収入向上、地域全体の生活向上を改善する長期的な地域開発を行
っています。特徴としては、私たちは子どもたちのために活動しているのですけれども、その
子どもたちの声にしっかりと耳を傾けていこうということで、その地域にどんな問題があるの
か、あるいはどんな計画を立てていったらいいのか、成果はどうなのかといったプロセスに子
どもたちが大人たちと同じように意見を述べてプロジェクトを進めるやり方を大切にしてい
ます。プランでは、「子どもとともに進める地域開発」と呼んでいるのですが、子どもたちと
一緒に活動を進めている団体です。そして、子どもたちがプロジェクトに主体的にかかわるこ
とで、地域の担い手としての能力をもち、将来的には自立していくことをめざしております。
質問についてですが、女の子がなかなか教育を受けられないといった状況があるなかで、
NGO がどういう役割を果たせるかです。プランでは、社会的、あるいは文化的に支援が行き届
かない、社会から取り残されてしまっている子どもに焦点を当てて活動していこうという戦略
を立てております。
社会から取り残された人々といった場合、いろいろな例が思い浮かぶのではないでしょう
か。児童労働で働いている子どもであったり、障がいをもった子どもであったり、少数民族で
母国語と違う言葉を話していたり、紛争に巻き込まれたり、地方で暮らしていたり、都市部で
あってもスラムで暮らしていたり、困難な状況下に本当にたくさんの子どもたちがいます。特
に女の子に焦点を当ててプロジェクトを進めていかないと、すべての子どもが子どもの権利を
享受するという目標を果たすことができないということが現場からわかってきました。
プランでは今、「Because I am a Girl~世界の女の子に、生きていく力を。」というキャンペ
ーンを行っております。このキャンペーンを通じて、女の子が男の子と同じ機会を得られるよ
うにといったジェンダー平等、女の子が自分の意思で学校に行くのか行かないのか、学校を続
けたいのか、いつ結婚するのかといった意思決定を自分で選び取って人生を切り開いていける
ように、女の子のエンパワーメントを促進しているところです。
特に 2 つのポイントがありまして、1 つ目はすべての子ども、特に女の子が 9 年間の初中等
教育、つまり小学校、中学校、日本でいう義務教育ですけれども、それを修了できるようにす
る。そして、2 つ目は、大体の女の子は小学校を卒業すると、もうそろそろ結婚ということに
なっていくのです。13 歳で結婚、14 歳で出産といった状況がプランの活動地でまだまだ見ら
れます。地下鉄の広告で出させていただいているのですけれども、小学校から中学校に行く前
に結婚して学業を諦めるのではなくて、早過ぎる結婚を撲滅していきましょうということで、
この 2 つを特に PR しています。
-42-
また、国際レベルにおいては、世界の人々にもっと女の子の権利について知ってもらおうと
いうことで、プラン・ジャパンが国連に働きかけをして、毎年 10 月 11 日を国際ガールズ・デ
ーと制定いたしました。こちらは、国連が世界女性デーや、世界子どもの日など、さまざまな
日を定めているのですけれども、女の子の日というのは特になかったのです。女性で子どもで
ある女の子に思いをはせましょうと、この日を制定いたしました。こういったキャンペーンを
通じて、より多くの人に女の子の問題を知ってもらうといった役割がまず NGO として果たせ
るのかと思っております。
50 カ国で活動しているのですが、特にパキスタンでいいますと、プラン・ジャパンではギル
ギット・バルティスタン州という北部の州で活動しております。より辺境地ということで、こ
こでは男性の識字率が 30%、女性の識字率は 2%です。こういった地域に入って、現地の人と
協力しながら、あるいは政府も巻き込みながら活動を進めていくことで、辺境地域で活動して
いくというのも NGO として果たせる役割なのではないかと思っております。
それから、既存の他のステークホルダーとどのようにかかわれるかという点ですが、やはり
私はアドボカシー担当ということもありまして、アドボカシーの重要性を皆さんにお伝えでき
ればと思っております。
先ほどからアドボカシーと何回も出てきているのですけれども、アドボカシーという言葉は
どういう意味なのか実はなかなかわからないと思うのです。意味が完全にわかりますと言う人
はいますか。なかなか難しいですよね。
NGO は学校を建てたり、教科書を配布したり、先生のトレーニングを行ったりという、本当
に困った人たち、本当に支援が必要とされているところに支援をしていくのですけれども、永
遠にはできません。ですから、子どもが学校に行ったり、安全に生活できるということは、や
はりその国の政府がしっかりと義務を果たしていかないといけないと考えます。
それには、NGO が政府の人たちに「こんなにすばらしい成果がありましたよ」と、政府自体
の政策に提言していくことが必要です。政策提言というのがアドボカシーです。例えば、プラ
ンの活動している地域で体罰がなくて、安全に子どもたちが生活しているすばらしい学校があ
ったとしても、その隣のプランが活動していないところでは、体罰が行われているという状況
ではどうしようもないわけです。しかし、プランの体罰のない学校での、「こんなに生徒が生
き生きと学んで、就学率も上がりました」といった成果を、例えば「体罰を禁止する条例にし
ませんか」と提案することによって、プランがカバーできない県や州レベルまで、他の子ども
たちにも影響を及ぼすようになるわけです。プロジェクトを実施しながら、その政府が果たす
べき役割、義務を果たしてもらえるように、政策にも一緒に協働しながら進めていくのが NGO
の役割だと思っております。
それから、新しいステークホルダーなのですけれども、お手元のポスターサイズの大きな報
告書にあるように、途上国の教育支援にかかわっている NGO は、プランだけではなくて、日
本にもたくさんあります。そういった教育協力に携わっている日本の NGO がネットワークを
組んで、もっと途上国の教育について知ってもらおうということでキャンペーンを行っており
ます。
「世界一大きな授業」というのですが、日本だけではなくて、100 カ国以上の国と地域で行
われているとても大きなキャンペーンです。目的は、途上国政府向けと先進国向けの 2 つがあ
ります。途上国政府は、その国の教育予算を増やすことがまず 1 つの目標です。それから、先
-43-
進国は、途上国への教育支援の額を増やしていくことです。額だけではなくて、質の向上につ
ながる支援をしてもらいたいのですけれども、こういった目的をもって、政府に働きかけてい
るキャンペーンになります。
新たなステークホルダーについては、特に日本のキャンペーンで非常に頑張っているところ
が、高校生が先生になって国会議員が生徒になるというイベントを行っています。これで高校
生がなぜ途上国支援、特に教育支援が重要なのかということを、いつも先生と呼ばれている国
会議員の先生たちを生徒にして授業するというものです。日本の ODA に占める基礎教育の割
合が少ない、日本の ODA は教育に使われているのか、まだまだ少ないという授業をしてくれ
るのです。それによって、多くの人にこの問題に気づいてもらったり、あるいは国会議員に問
題を知ってもらうことで、日本の ODA の教育予算を増やしていく取り組みもあります。学校
がないなどさまざまな問題がありますが、予算の問題は非常に多いと思いますから、日本とし
て途上国を支援できるところをしっかりと政府に働きかけをしていかないといけないと考え
ています。以上です。
○
石原:
城谷さん、どうもありがとうございました。国会議員が生徒役をして、高校生が授業をシミ
ュレーションするのは非常に面白いアイデアであり、啓発活動として有効ではないかと思いま
した。
次に丸山さんは、青年海外協力隊の経験をおもちで、JICA のパキスタンのプロジェクトのア
ドバイザーとして支援いただいています。また、さまざまな国のノンフォーマル教育の研究か
ら、さまざまな示唆がいただけるのではないかと思います。
それから、来週、丸山さんが実務者、研究者と協力して執筆、編集された『ノンフォーマル
教育の可能性』という本が出版されます。本日、登壇されている大橋さんも執筆者のお一人で
あり、ノンフォーマル教育の実務者と研究者の協力の一つの実践例ではないかと思います。そ
れでは、丸山さん、研究者の立場からよろしくお願いします。
○
丸山:
ありがとうございます。国立教育政策研究所の丸山と申します。どうぞよろしくお願いいた
します。
先ほどご紹介いただいた『ノンフォーマル教育の可能性』という本を新評論から出版させて
いただくことになりました。基本的なメッセージとしては、私たちの考えている教育をとらえ
直そうという本です。ノンフォーマル教育の入門書のようなつもりでつくったものです。日本
では学校教育が強いものですから、学校もしくは教育が人を型にはめるものなのか、それとも
可能性を開いていくものなのかを問いかけるものになっています。ご興味があれば、ぜひご覧
ください。
正直なところ、研究者はプレゼンテーションが下手だと自覚しています。大抵の場合、実践
家の方からは、「研究者は役立たずだ」と言われたこともあります。
ただ、唯一私たちが誇れることは、実践をなさっている方、あるいは頑張っていらっしゃる
方を裏から少しだけ支える、もしくは決断したいと思っている方に何か情報を提供できるとい
う小さな裏方の役割ができるのではないかと点で自信をもっております。
-44-
研究者として、女子教育、女性に対する教育の機会の保障に向けてどのような取り組みがで
きるのか、協力ができるのかということで、次の 3 点をお話しします。
まず、学術研究としてのリテラシーの研究を深めることだと思っております。識字という日
本語になると、文字の読み書き・計算と思われがちなのですが、英語にしますとリテラシーと
いう言葉となり、概念としてはもう少し大きくなります。例えば、皆さんが携帯やスマートフ
ォンを操作したいと思ったとき、子どもたちの方が使いこなしているなら、携帯リテラシーは
子どもの方が高いことになります。
その 1 点目であるリテラシー研究について、ちょうど今週、OECD の PISA という日本の子
どもたちの学力の調査結果が出ました。リテラシーが回復してきているという報道もありまし
た。果たしてそれが本当なのかというのはいったん置いておくとしても、リテラシーが世界共
通のとらえ方として可能であることがいえると思います。つまり、先進国であろうと途上国で
あろうと、リテラシーはある種の普遍性をもっているということです。
研究者として貢献できる 2 点目は、物事を相対化して示すことができるという点です。良い、
悪いという価値判断ではなくて、例えば午前中のワークショップの言葉として、女性解放とい
う言葉がときどき出てきていたのですが、女性解放の落とし穴、つまり女性自身がその立場を
望んで選択した場合、果たして外部の人間がそれは悪いことだ、あるいは良いことだと言える
のかというところについての整理には、研究上での議論が必要です。
第 3 点目は、一般化して示すことです。ちょうど内海先生、林川さんからの発表でありまし
たように、ミクロなデータを蓄積していくことは地道で、非常に重要です。また、研究者でな
いとデータが集められないかと思います。ユネスコの統計局等の基礎的なデータというのは、
チームをつくって、研究者や実践家とともに連携しながら積み上げていくというものです。
以上のこと、つまり、リテラシーの基盤と研究、相対化、そして一般化というのが研究者の
仕事なのかなと思います。
他に、新しいステークホルダーに関しては、たくさん言われていることがあります。1 つだ
け申し上げるとしたら、今回の場合でいえば、日本という社会がジェンダー指標では、先進国
のなかでは圧倒的に低い位置にある点です。それは、果たして誇れることなのか。あるいはそ
れが日本の文化として維持していくべきものなのか。先ほど大橋専門家からもサスティナビリ
ティという言葉がありましたけれども、日本の文化のなかでこれから一体何を維持・継続すべ
きなのかという問いは重要だと思います。
もう 1 点は、先ほどのプラン・ジャパンからありましたように、政治家に訴えていくといっ
たアプローチも、おそらくこれからとても重要になると思います。生涯学習という点から、さ
まざまな学習機会を保証する学習を続けられる社会の構築を求められます。どの大人もそうで
すが、例えば政治家の方々は、既に十分な教育を受けているので、もう教育を受けなくてもよ
い人たちである、ということはなく、これから自ら教育機会を求め、さらに社会は学習機会を
保障していくことがあってもよいと思います。
以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。
○
石原:
丸山さん、示唆に富むお話をありがとうございました。さまざまなことを相対化したり、一
般化したり、少しクリティカルに見ていくことで、実践に多様な視点を提示することができる
-45-
といった、研究者ならではの役割を理解することができました。それから、ジェンダーの問題
を途上国だけの問題ではなく、日本の問題としてどうとらえるべきなのか、もう一度、われわ
れ自身や日本の社会へ問いかけていく必要性についての問題提起をいただきました。どうもあ
りがとうございました。
次に、アフガニスタンのラヒマ・アスマルさんです。大学を卒業後、高校の化学の先生とし
て働かれ、2004 年に教育省に入られて、現在は教育省識字局のモニタリング評価課長をされて
います。それでは、ラヒマさん、よろしくお願いします。
○
アスマル:
皆さん、こんにちは。識字局は、ニーズに合った法制を設計し、その実施にあたり、さまざ
まな対策に取り組んでいます。これは一般的な話になりますけれども、今、一番の問題は女性
の教育のことで、女性の識字教育に対して何ができるのかを考えてみると、知識の向上が一番
大事なことだと思います。
また、地域の学習センターの設立も大事なことだと思います。地域学習センターを設立する
ことで、女性もセンターに入ることが可能になりますけれども、それだけでは 100%ではあり
ません。アフガニスタンの宗教的、社会的な問題で、女性が家から外へ出ることができないな
どさまざまな問題があります。そのため、例えば家の中で教室を開いたりすることで、勉強す
る場を広げることもできますし、アフガニスタンは経済の面でもさまざまな問題があって、教
育を受けられないことも考えられますので、教育に加えて人材教育ができればと考えます。例
えば、教室で勉強しながら、女性に対して裁縫教室やじゅうたん織りの教室を開いて、勉強し
ながら働くこともできるようになればいいと思います。男の子の場合は、電気製品の修理など
もできれば、勉強しながらもっと幅広く職業を学ぶことができます。
シャハラの話にもあったと思いますけれども、アフガニスタンはイスラムの国で、宗教指導
者はムッラー・イマームといいます。ムッラー・イマームの存在は大きく、皆が信頼している
存在です。お祈りの後で、男性に教育の話をすると、男性も必ずその話を聞いて、教育に対す
る知識の向上につながります。男性が教育に対する知識を向上させれば、自分の娘や奥さんを
教室に行かせようということにつながりますので、アフガニスタンの特に地方ではムッラー・
イマームの存在が一番大きいです。
皆さんご存知だと思いますが、アフガニスタンは 30 年以上、戦争や内戦が続き、さまざま
な分野がダメージを受け、特に教育分野で一番大きいダメージを受けています。アフガニスタ
ンの 26.2%だけが読み書きができる状況なのです。なかでも女性の識字率は 12%なのですが、
これは世界中で一番低い数字だと思います。
識字局は対策を講じ、できれば 2020 年までに女性の識字率は 50%、男性は 70%まで上げら
れればと思っています。識字局だけでは力不足もありますが、各国のドナーや各機関の力、特
にそのなかでも JICA の支援と協力が一番大事だと思っています。
アフガニスタンでも、政府の教育に対するさまざまな活動が始まっていますが、その 1 つの
例は、バーミヤン州のことなのですけれども、バーミヤンの知事が、「1 人が 2 人を教育しな
ければならない」と義務づけました。知事自身が、自分で教室を開いて、実際に 2 人以上に教
育をしたことから始まっているので、多分、いい結果が出ると思います。
それ以外には、メディアの力が必要です。アフガニスタン識字局は、教育とメディアの役割
-46-
と題した会議を開き、さまざまなメディアから注目を浴びています。メディアを通して、1 日
5 分でも識字教育についてテレビで流したり、コマーシャルやドラマなどにおいて教育の重要
性をアピールすれば、女性も男性も教育に対して興味が湧いてくるかなと思います。
○
小荒井:
若干補足しますと、先ほどの「1 人が 2 人を教えるべきだ」というのは、イスラムの教えで
昔から言われていて、アフガニスタンではそのように教育を大事にしているということです。
○
石原:
ラヒマさん、どうもありがとうございました。ラヒマさんのお話は、個の学びだけではなく
て、地域学習センターという地域の学びと、生涯を通して学び続けていく大切さが指摘されま
した。そして、女の子のみではなく、男の子のライフスキル、職業につながっていく教育の重
要性にもふれられました。それから、女性の教育の重要性にアプローチするには、宗教指導者
や男性への働きかけが非常に大切だということです。連携のパートナーとしては、JICA であっ
たり、他の援助機関であったり、NGO も巻き込みながら、識字教育に取り組んでいくことが大
切であると言及されました。そして、新しいステークホルダーとしてテレビのようなメディア
を通して、啓発活動に取り組まれようとしていることについて紹介いただきました。
今回、小荒井さんには、ラヒマさんを補足していただく形で説明いただき、後の質疑応答で
もし皆さんから質問があればお答えしていただきます。次のグーラム・アバースさんも、大橋
さんに通訳と補足説明をしていただく形で入っていただいています。
グーラム・アバースさんは、レンガ工場を対象に初等教育や識字教育を実施しているパンジ
ャブ州の識字・ノンフォーマル基礎教育局のレンガ工場のプロジェクト総括として、パキスタ
ン社会のなかで最底辺の方のための識字教育の活動に取り組んでいらっしゃいます。それで
は、グーラムさん、よろしくお願いします。
○
アバース:
どうもありがとうございます。3 つの質問にお答えする前に、簡単なのですけれども、レン
ガ工場のプロジェクトについてご説明させていただきます。
レンガ工場は、先ほどご紹介をいただきましたけれども、パキスタンのなかでも最底辺層の
コミュニティです。大人も子どももレンガをつくるために働いているようなところで、そうい
う人たち向けに機能的な識字やライフスキルなど、もっと生活に役立つような識字を行ってい
ます。
レンガ工場はパキスタンに 1 万あるといわれているのですけれども、そのうち 5,000 がパン
ジャブ州にあります。この人たちの 1 日の給料は 8 ドル以下です。
レンガ工場は一番大変なコミュニティで、大体 95%の人が非識字者です。そのなかで 275 の
小学校を建てて、2 万人の子どもたちが勉強しています。そのうちの 60%が女の子です。同じ
ように、275 の成人の識字クラスをつくりました。それ以外に、73 のコミュニティ学習センタ
ーを建てていまして、ここでは識字だけではなくて、ライフスキルや、収入が向上するような
プログラムも実施しています。
3 つの質問についてお答えします。他の方もおっしゃったように、課題は全く同じで、アク
-47-
セスの問題、学校が足りない、特に女性の間で中退率が高い、それから社会的、文化的なタブ
ーで学校に行けないという問題があります。
今、レンガ工場のプロジェクトを 2 県で実施しているのですけれども、これが非常にいい成
功をおさめたので、パンジャブ州はこれから 11 県に広げていこうとしています。
○
大橋:
補足させていただきますが、新しいプロジェクトでは、レンガ工場だけではなくて、ワーク
プレイスリテラシー、つまり工場などで働きながら識字が学べるもので、1,000 校のノンフォ
ーマルな小学校を建てます。そこで、5 歳から 16 歳の子どもが学ぶということを考えています。
成人向けのコミュニティ学習センターも 500 建てるつもりなのですけれども、先ほどからお
話ししているように、ライフスキルや収入向上というプログラムもこちらに入れようとしてい
ます。レンガ工場では女性も子どももみんな一緒に朝から晩まで働いていますので。
レンガ工場で働き、暮らしている家族は、借金のカタに一生働き続けるという状態です。親
の借金を子どもが背負うという形で、小さな時からレンガをつくるというコミュニティなの
で、とにかく負のサイクルからどう抜けられるかというのが大きな問題です。その意味では、
他の収入を得たり、他のスキルを得ることで、レンガ工場で働いている女性を含めた労働者の
人たちが自分たちの権利を自覚するととともに、収入を向上することで、今の状況から抜け出
せればと考えています。
○
アバース:
2 つ目の質問に移らせていただくと、他のステークホルダーとのコーディネーションという
ことについては、1 つ目は、レンガ工場のオーナーたちの協力を得なければいけません。大変
過酷な環境なので、JICA のプロジェクトでつくった学習環境のスタンダードを中心に、学習す
る場所の環境を整えようということで、レンガ工場のオーナーたちの組合と交渉しながら、環
境を整えようとしています。
一例として、2、3 年前パキスタンで洪水が起きたときに、政府はすべての予算を凍結して洪
水対策に充てると宣言したため、学校で支給するための新しい教科書や、教室用のマットレス
を購入できなくなったことがありました。このときレンガ工場のプロジェクトでは、私が中心
になって学校や地方教育行政から教科書やマットレスを借りてきて、学校をすぐに開くように
しました。そうしないと、子どもたちは 6 カ月ぐらい学校に行けない状態になってしまうので
す。教科書等の資源はをあるところから探してきました。
レンガ工場では、貧困ゆえに中退してしまう数が多いのが問題です。中退を止めるために、
ベナジール・インカム・サポート・プログラムという貧困層を対象にした援助を出してくれる
プログラムがあります。1 人の子どもを学校に行かせるために、月々300 ルピーのサポートを
してくれるので、そういうところとも連携しながらやっていこうと思っています。
○
大橋:
先ほど私とアビッド・ギルがプレゼンさせていただいたなかでも、州レベルの他の省庁との
連帯というのがありましたが、アバースさんが考えているのはもう 1 つ下のレベルの県での連
帯で、県の識字協議会をつくって、関係省庁、関係者、企業の方も含めて協働していこうとい
-48-
うことです。
○
アバース:
3 番目の質問である、新しいステークホルダーの協力が必要かということなのですけれども、
私の答えはイエス、そのとおりだと思います。議員や大学、企業の人たちも一緒に協働してい
くことは、特に途上国の女性の教育にとっては必須だと思っております。例えば企業に何をし
ていただけるかというと、もちろん資金援助、それから CSR(Corporate Social Responsibility:
企業の社会的責任)という観点からも協力いただけるでしょうし、女性の教育の推進、アドボ
カシーにも協力いただけるのではないかと思っています。
以上です。どうもありがとうございました。
○
石原:
グーラムさん、どうもありがとうございました。今の発表で、教育がレンガ工場のなかだけ
での識字教育にとどまらず、親の借金が子の借金までつながっているという負の連鎖・貧困に
どのように立ち向かっていくのかというお話がありました。既存のステークホルダーでは、レ
ンガ工場のオーナーとさまざまな形で連携・交渉し、県のレベル、地方教育行政を巻き込んで
の協働に取り組もうとしている様子がわかりました。また、新しいステークホルダーとして、
国会や大学、そして最近、企業が途上国においてもかなり大きな役割を果たしていく可能性が
あるというのをうかがい知ることができたかと思います。
最後に、林川さんにユネスコという国連機関の立場から、どのような取り組みが可能か、ど
のような連携ができるのか、そして、新しいステークホルダーの巻き込みはどうかについてお
伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。
○
林川:
ありがとうございます。先ほども申し上げましたように、ユネスコは国連の一専門機関で、
マルチの政府間機関です。私が勤めているパリの本部や事務局という立場は基本的には加盟国
198 国から成っていますけれども、加盟国の意向に沿って活動を展開することが一般的です。
しかし、そのなかでも専門機関ということで、政策提言や技術協力、そして他のパートナー、
ステークホルダーと一緒に活動することが大いにあって、ユネスコが唯一少し優位的な立場で
貢献できるというのは、政府高官、大臣級、もしくは国家主席にまで招集をかけられる点です。
これは、やはり国連機関だからこそできることであり、加盟国に直接アクセスがあることによ
って、何か重要な議題、課題があれば、それらを加盟国に呼びかけて招集をかけ、課題ごとに
検討会議をします。または 2 年に 1 回あるニューヨークの総会のときに行うこともありますが、
ユネスコが全加盟国を呼んだ総会が今年もあり、つい 2 週間前まで総会を大々的にやっていた
ました。その総会において、教育の場合は教育大臣ですけれども、他のセクターの大臣も呼ば
れて、政策レベルでの協議をします。他の現場で活躍されている方たちにその場を使っていた
だき、政府との協議のファシリテーションをよくしています。
女子教育に関しては、特に最近力を入れていますので、例えばマララさんの悲しい事件があ
った後に、2012 年の人権の日、12 月 10 日にハイレベルなアドボカシーのイベントを開催しま
した。もちろんテーマはマララさんに対してですけれども、女子の教育を受ける権利、一般的
-49-
に世界全般に向けたメッセージを送り届けるために、パキスタンの前大統領、スウェーデンの
教育大臣、前イギリス首相で経済大臣であったゴードン・ブラウン氏、国連の UN ウィメンの
トップの方たちがいらして、非常にハイレベルなディベートをさせていただきました。今はソ
ーシャルメディアが発達していますので、ウェブサイトやメディアを呼んで、広く普及しまし
た。
そして、まず非常に高いレベルでの意識改革、啓発を図っていきます。なぜそれが大事かと
いうと、もちろん現場の経験が大事で、ボトムアップ、現場の結果をしっかりと政策で受けと
めなければいけないのですけれども、一方で政策者の意識が変わっていなかったら、どんなに
下から上がってきても取り組んでくれません。そのため、必ず女子教育、ジェンダーの課題な
どにおいては、特にトップダウンとボトムアップ、両方が手を組んで初めて、物事が変わって
いくということです。
現場で幅広く活躍していても、それが本当の意味で根づいていかないときは、たいてい政策
で何か問題があったり、法律が施行されていなかったりします。そこをモニタリングできるの
が国連機関とユネスコなのです。ユネスコは、教育は人権という大きなテーマを掲げてずっと
活動してきていますけれども、各種の国際条約や国連関係の条約、憲章の教育に関する条項が
あれば、その教育に関する条項をモニタリングする責任があるのです。
一番代表的なものは、もちろん教育を受ける権利差別撤廃条約です。そのモニタリングは 2
年ごとにやっていまして、ついこの間、第 8 回目のモニタリングがありました。そのなかでも
いかに女子教育が政策、法律に合わせて施行されているかということをモニタリングし、でき
ていない場合は勧告を国に出すことができるのです。
もう 1 つは、トップダウン、ボトムアップというときに一番大事なのは、やはり政策者と研
究者です。先ほど丸山先生がおっしゃっていたように、研究者は裏方という場合もあるかもし
れませんが、私たちは決して裏方とは思っていません。やはり研究者には前に出ていただかな
ければいけません。
そしてもう 1 つ、プランなどの NGO、それから社会団体など、現場で活躍している方たちが
一緒になって 3 者協議、なるべく 3 つのアクターを常に一緒に連れてくることが重要です。3
本の矢ではないですけれども、3 つの団体が一緒になって、初めて強い実行に移す活動ができ
るのです。ユネスコはトップダウンとボトムアップ、そして 3 者をつなげる活動をして、女子
教育の推進を今後とも進めていきたいと思います。
最後に、新しいステークホルダーについては、先に述べられていたパネリストの方たちと同
じように、やはり民間企業の参入が大事になっていくと思います。これは、もちろん資金を提
供していただくという面もありますけれども、民間企業は実に多くのアイデアをもっていま
す。例えば、携帯電話を使った識字活動なども、テクノロジーをいかに教育現場で使えるかと
いう一例です。教育現場の人たちだけでは、必ずしもすぐ思いつかないかもしれないけれども、
携帯電話会社の人たちはさまざまな技術を開発するうえで、それをいかに応用していけるかと
いう知識と経験をもっています。それから、教育現場で必要なものが教育の専門家とくっつい
たときに、初めてイノベーションが生まれます。そこで、民間企業が培ってきた技術、開発、
R&D(Research and Development:新製品の基礎研究と応用研究)をいかに教育現場で使えるの
か。今後、そういう意味で民間企業の参入が非常におもしろいのではないかと思っています。
ありがとうございました。
-50-
○
石原:
林川さん、どうもありがとうございます。林川さんのお話から、ユネスコは大臣など政治家
と非常に太いパイプをもっており、トップダウンとボトムアップの相乗効果を生み出していく
重要な役割を担っていることがわかりました。特に、政策決定者、実践者、リサーチャーの 3
つのトライアングルをきちんとつなげていきながら、取り組んでいくという指摘はとても大切
なポイントだと思います。さらに、民間企業の携帯電話を識字教育に用いる可能性についてふ
れられていましたが、私自身も、この 3 年ぐらいで国際協力・開発における民間企業の役割が
大きくなっていることを感じます。やはり民間のアイデアと教育の現場をどのようにマッチン
グするかというのが新しいビジネスマーケットとして生まれてきているのではないでしょう
か。ありがとうございました。
ここから質疑応答・オープンディスカッションに移りたいと思います。時間が限られていま
すが、お三方からの質問をツーラウンド、取る形で進めていきます。質問されるときに、ご所
属、お名前、どなた向けの質問かお話しください。また、質問を 1 つぐらいにしていただけま
すと、より多くの人が参加できるかと思います。
それでは、質問がある方は、お願いします。
○
質問者 1:
2 点コメントと質問をさせてください。
まず、コメントですけれども、識字というのはグローバルモニタリングレポートの 2008 年
の中間評価のときに、グローバルディスグレイス、最も無視されている EFA 目標といわれてき
ています。最も進歩が見られない分野なわけです。識字教育は進んでいますけれども、女子の
成人識字というのは最も進展が見られない目標となっていて、今回 JICA がこのテーマでセミ
ナーを開かれるというのは大変すばらしいことだと思います。
もう一点が識字、あるいはノンフォーマル教育の意義として、もちろん女性のエンパワーメ
ントもあるのですけれども、格差をなくすことに貢献することです。要するに equity の観点か
らも大変意義があると思います。大橋さんのお話にありましたけれども、学校に行けなかった
子どもがそのまま一生過ごすことになると、どういう不利益が生まれるか。一方で、大学に行
った男の子、女の子がいて、教育というのは人的資本を蓄積するので、教育を受ければ受ける
ほど賃金が高まり、いい仕事につけ、幸せな暮らしができるわけです。ですから、小学校さえ
終えられずに一生終わるということは権利の面からも侵害ですけれども、そういった人たちに
セカンドチャンスを提供するという意義があります。つまり、ノンフォーマル教育、あるいは
成人識字というのは格差を減らすことにもつながるのです。この点が重要だと思います。
1 つ目の質問は、JICA は今回、パキスタンとアフガニスタンで識字の大変すばらしいプロジ
ェクトをやっていますが、他の地域に成人識字、あるいはノンフォーマル教育のプロジェクト
を拡大されるご計画があればお聞かせください。
2 つ目は、ユネスコですけれども、おっしゃるように、グローバルなレベルでのスタンダー
ドセッティングがユネスコの役割だと思います。ポスト 2015 年の開発課題をどうするかとい
うことが今年の 5 月のハイレベルパネルで出て、今実施しているのが MDGs のオープンワーキ
ンググループというものですけれども、ハイレベルパネルには識字が入っていないのです。若
者の教育は入っていますが、成人識字については一言も入っていません。
-51-
ユネスコにぜひ期待したいのは、成人識字の分野、教育のシングルのゴールに位置づけるこ
とも必要ですけれども、識字がどうなるのかということです。それから、EFA ダカールが終わ
って、韓国で次にどうするかというのが決まるわけですが、EFA3 というのをされる予定なの
でしょうか。この前の総会でどういう議論になったのかお聞かせいただきたいと思います。今
年の 9 月の国連総会で、タン教育セクター長は、ポスト 2015 で教育がシングルのゴールとし
て入るのであれば、EFA3 は要らないと言ったのです。それに対して私たちは大変懸念を抱い
ております。
○
質問者 2:
今日はどうもありがとうございました。先ほどパネルディスカッションのなかで、しきりに
アクターやステークホルダーというお話が出ていますが、私ども出版社は一民間企業でござい
ます。現在、グローバルということがしきりに言われていて、弊社の場合は出版業だけではな
く、特に ASEAN 地域に対しては既にアプローチをかけていて、現地で塾のようなものを経営
しています。しかし、アフガニスタン、パキスタンには、若干距離感がありまして、また出版
社でございますので、識字率という指標でいうと、どうしても優先順位が下がってしまうとい
うところがあったのですが、今日のお話を聞いていて、識字のためのファーストタッチという
部分において、もしかしたら出版社として接点をつくることが可能なのではということを若干
思いました。
単に ABC がわかるということだけではなくて、例えば育児についての教育が足りないと、
当然それが乳幼児死亡率の減少につながっていないということですが、一方、日本では相当し
っかりとした育児の本が出ていますし、常識化しています。果たして、そういったわれわれの
国内での蓄積が文化も地域も違うパキスタン、アフガニスタンのような国々に多少なりとも資
するアプローチとなるのかという点をお聞かせいただけるとありがたいと思いました。よろし
くお願いします。
○
質問者 3:
学生の身分で恐縮ですが、1 つ質問させていただきたいと思います。
パキスタンで活動されている大橋さんとグーラム・アバースさんにお聞きします。先ほどパ
キスタンでのノンフォーマル教育で、いかにフレキシビリティ、柔軟性というものが大事かと
いうお話だったのですが、開発途上国の多くの国において、ノンフォーマル小学校にでは柔軟
性というものが維持できていて、そこで子どもたちの就学率が飛躍的に伸びていると思うので
す。
その一方で、フォーマルの中学校へのシフトが、中学校では柔軟性を欠いているために行わ
れていないという実情があると思うのですが、ノンフォーマル教育の柔軟性を維持したうえで
の子どもたちのフォーマル教育への統合は可能かという点と、そのことを可能にするために、
開発ワーカー側はどのような工夫が行えるのかということをお聞きしたいと思います。よろし
くお願いします。
○
石原:
ありがとうございました。ここでいったん質問を切らせていただきます。最初はポスト 2015
-52-
の EFA、MDGs との関係で識字についてユネスコの考えについての質問であったかと思います。
そして、識字の分野での JICA の今後の展望についての質問がありました。一つ確認ですが、
民間との連携の可能性については、アフガニスタンやパキスタンの方にお伺いしたいという理
解でよろしいでしょうか。
○
質問者 2:
そうです。現実的に、われわれのコンテンツが通用するようなステージがあるのかというこ
とです。
○
石原:
もしかしたら日本人の専門家の方が日本の教材をよくご存知かもしれませんので、ここは大
橋さん、あるいは小荒井さんでしょうか。もし、パキスタン、あるいはアフガニスタンの方か
らあればお答えいただけますでしょうか。それから、学生さんからパキスタンのノンフォーマ
ルとフォーマルの可能性についてご質問がありましたので、まず大橋さんからお話しいただ
き、それからアフガニスタンの方々、林川さん、私という形でよろしいでしょうか。お願いし
ます。
○
大橋:
ありがとうございます。関心をもっていただくのはすごくありがたいです。おっしゃるとお
り、出版社の方として識字率が低いことについて、ハードルが高いというのはすごく分かりま
す。一方で、私は日本の出版物には、プロの伝え方があると思うのです。例えば、学研さんが
作っている「大人の科学」みたいなものもありますけれども、他の国だと、専門家がつくる教
材というのは本当におもしろくないです。大人がみてもわかりやすいという伝える工夫は、日
本にはプロのものがあって、さまざまな伝え方、絵の使い方、学習者に質問をしながら巻き込
みながらの使い方、物を伝えるということの出版技術は非常にすぐれているといつも思ってい
ます。おっしゃっていただいたように、例えば育児というのは大変ニーズがありまして、パキ
スタンは子だくさんで 7 人、8 人子どもがいるというのは当たり前です。でも、ちょっとした
ことで子どもの死亡率が高まってしまうというケースはあります。
先ほど説明させていただいた“My Book”という本も、日本のものを考えながら、パキスタ
ンでどうしてこういうものがつくれないのかと考えました。楽しみながら勉強したり、使う側
に立って物をつくるという感覚がまだ足りなくて、偉い人たちが教えるという観点からしか物
をつくっていないので、逆に消費者が何を求めていて、それに対してどういうものが提供でき
るのか、そのためにどう伝えるのかということは、日本の企業、特に出版社の方たちのご経験
は大変役に立ちますし、もしそういう協力が今後広がっていけば、とてもありがたいと思いま
す。
それから、3 つ目の質問で、小学校がノンフォーマル教育、中学校がフォーマル教育という
ことで統合は難しいのではというのはおっしゃるとおりだと思います。パキスタンはまだノン
フォーマル小学校だけで、中学校から上がありませんが、タイやインドネシアなどのケースを
見てみると、中学校、高校、と生涯学習の観点でノンフォーマル教育も実施されています。学
び続けるために、ユネスコでも最近オルタナティブ・ラーニング・システムという言い方をし
-53-
ていますけれども、1 つの道、今まで学校教育だけしかなかったけれども、そうではなくてノ
ンフォーマル、ちょっとフレキシブルなやり方の 3 つ、4 つの道があってもいいではないかと
思います。
ただ、そのなかで 1 つ問題なのは、それが社会的にどう評価されるかということです。ノン
フォーマルの学校を出たから、いい仕事につけるということではないので、equivalency という
言い方をしていますけれども、ノンフォーマルで学習したフレキシブルな学び、もっと生活の
実用的なものも学習の単位として認めてもらって、中学校、高校に進めるという取り組みは各
国で始まっていますし、ユネスコでもいろいろとやっていらっしゃると思います。パキスタン
でもその重要性は感じていて、パンジャブ州の識字局では、中学校のノンフォーマル教育を実
験的に始めています。
○
小荒井:
アフガニスタンでは、教科書と別に補助教材を少しずつつくっているのですけれども、同様
にノウハウがなかったり、どのようにニーズを評価するか、そういったところで知見を活用で
きることもあると思います。
別の国なのですけれども、日本の NGO でユネスコ・アジア文化センターという今回の共催
団体が、カンボジアで女性の識字と保健をあわせた活動をしていますので、またぜひお話しさ
せていただければと思います。もしラヒマさんから何かあれば。
○
アスマル:
アフガニスタンは識字率が大変低い国であると先ほどの説明にもありましたけれども、さま
ざまなものを出版することで、大きな効果があると思います。先ほどの話と重なりますけれど
も、外へ出られない女性が大勢アフガニスタンにいます。外へ出なくてもテレビで勉強したり、
テレビがなくてもラジオで情報を手に入れることができますので、メディアからさまざまな情
報が手に入れられます。メディアの力は大変大きいと思いますので、ぜひアフガニスタンでも
そういう機会がありましたらご協力ください。
○
石原:
ありがとうございます。林川さんから、ポスト EFA と MDGs の関係で識字についての質問
についてのお答え、よろしくお願いします。
○
林川:
このような質問が出てくるかなと思っていたのですけれども、成人識字の目標はなくしては
いけないというのがユネスコの立場ですので、しっかりとポスト 2015 の課題のなかでも識字
をかなり全面的に押し出しております。
他の EFA パートナ-、国際機関のパートナーたちの間では実は意見が分かれているのです
が、ユネスコは識字のディフェンダー、プロモーターということで、政治的にも人権の側面か
らも教育の基盤としての識字は消してしまうわけにはいきません。特に成人識字の問題につい
てはかなり全面的に押し出していくつもりです。
もう一点の方がもう少し難しくて、確かにタン教育局長が今年春ぐらいに EFA3 を計画する
-54-
予定がないと受け取られる発言をして大分誤解を招き、その後、加盟国や市民社会団体、そし
て NGO から事務局である本部にも大分苦情がもちこまれました。なぜ誤解かというと、その
とき、実は局長は「EFA3 というのは、今みたいなパラレルな開発目標で開発フレームワーク
をつくってはいけない、それを避けよう」という意味で言ったらしいのです。
2000 年から MDGs には、8 つの目標があり、同時に EFA の 6 つのゴールがあったのです。
残念なことに、EFA は教育の人たちからみれば、もちろん包括的で非常にいいゴールセットな
のですけれども、政府、加盟国にとってみれば、MDGs が先走ってしまったわけです。そこに
たまたま教育目標が 1 つあるのですけれども、それは非常に限られた大変狭い教育目標で、結
局 8 つのゴールすべてにアテンションして、リソースもきちんと投資しなければいけないとな
ると、教育は 1 つだけになってしまうということで、それで済んでしまい、EFA が無視され出
したのです。
要するに、パラレルに大きな開発目標が 2 つあることによって、EFA の立場が弱くなってし
まって、教育というものが本当に 1 つのゴールで、1 つ入っていたとしても、2 つの EFA3 をつ
くって、またパラレルなプロセスをつくってしまったら、また教育が迫害されてしまうのでは
ないかという危険から、教育が重要ならば、EFA でカバーしていたすべてをポスト 2015 とい
う大きな目標のなかに全部取り組んでしまうという発想だったのです。それは、EFA パートナ
ーのなかでも国際機関のなかでも共通した認識になっています。
ただ、その形がどういうものになるかという具体的な話はまだうまくまとまっていなくて、
実はここに来る数日前、ユネスコの本部で地域ごとの加盟国の代表を呼んで、ポスト 2015 年
の教育に関する課題をどのように取り上げるかというコンサルテーションが始まっています。
そのときに、ユネスコのポジションペーパーとまでは言わないのですけれども、ユネスコの教
育目標はどうあるべきかというペーパーをこの間の総会で提出しまして、そこにしっかりと
EFA を削除するわけではないという明文が入っています。
これは、私も日本人としてとても嬉しかったのですけれども、総会に出席されていた日本代
表の方がかなり強く粘って、この一文を明確に入れることができましたので、これは日本のお
かげだと思っています。事務局内でも非常に複雑な状況になっております。というのは、今ま
で大変強かった EFA に対して、ドナー諸国、特に北欧諸国などが EFA という言葉から少し離
れかけたのです。細かいことを話すと長くなってしまうのですが、もともとの EFA のドナーた
ちが離れていってしまったことによって、他のドナーの受益国の方がドナーと足踏みを合わせ
ていかないと危険があるということで、なかなか強いことを言わなくなったという一面もあり
ます。
他の国連機関と少し違った特徴として、ユネスコには NGO と社会市民団体とのネットワー
クがあります。特に EFA に関しては全世界的に非常に強いネットワークをもっているのですけ
れども、そのネットワークからペティション(嘆願書)が先週届きまして、ぜひ EFA の課題を
見失わないでくれということでした。これを真摯に受けとめて、ユネスコの事務局はこれから
また EFA の今のゴール 6 つをそのままもっていくとは限りませんが、EFA で訴えた精神とゴ
ールの内容、一番無視されてきたゴール、識字や幼児教育などにおいては、きちんと反映させ
ようという努力をしていくつもりです。
-55-
○
石原:
ありがとうございます。このポスト 2015 のテーマについては、議論がつきないのではない
かと思います。私からは、JICA の識字協力の展望についてお答えします。1 つは、今、取り組
んでいるような類似の識字教育の協力を実施する可能性が考えられますが、もう 1 つは、民間
企業との連携の可能性ではないかと思っています。例えば、低学年のリテラシーにどのように
介入が可能なのか、民間企業との連携のなかで、今までの識字という文脈とは違った形で、識
字分野の協力の可能性があるのではないでしょうか。引き続きこのあたりは議論していきたい
と思います。
時間がかなり過ぎてしまいましたが、質問されたい方が、あと 3 人いますので、短く質問い
ただき、短く答える形でお願いします。
○
質問者 4:
パキスタンのレンガ工場の話が非常に参考になりました。日本の ODA では、2 階建て RC 造
りの立派な学校をつくっています。今日の話を聞いていて、アフガニスタンの場合はアドベ、
日干しレンガなのですけれども、アフガニスタンの農村部も含めてそういう安い小さな小学校
を数多くつくる必要があるのではないかと思います。そうしないと遅いという感じがしたので
す。日本の ODA で大規模に安価なハードの整備を進める必要があるのではないかと私は思う
のですが、それについてのご意見をお聞かせいただければありがたいです。
○
質問者 5:
質問につきましては、小荒井さん、もしくはアフガニスタンからいらっしゃったお二人と大
橋さん、パキスタンからいらっしゃったお二人に伺いたいと思います。内容は、まず小荒井さ
んのお話では、識字教師の能力の向上が課題だという話でした。大橋さんのお話では、ノンフ
ォーマル教育プロジェクトのなかで、先生は学歴は低いけれども、やる気があるというお話が
ありました。こういった先生の教育の状況がどのようになっているのか、また、その課題につ
いてお話しいただければと思います。
○
質問者 6:
今日は勉強になりました。現在、女子教育にはさまざまな問題があると思うのですが、タリ
バン時代に比べれば大きな進展があったと思います。アフガニスタン、パキスタンからおいで
のお二人にお聞きしたいと思います。政治的な質問が可能であればお答えいただきたいのです
が、来年、米軍がアフガニスタンから撤退する方向で動いております。これは、単に治安のみ
ならず、国際社会のキーノート、秩序に非常に大きな影響、治安と全体の秩序、雰囲気に影響
を与えると思います。これは教育現場からすればどんな懸念があるのでしょうか。同じ質問な
のですけれども、アフガニスタンの問題はパキスタンにもつながってくるので、それについて
お考えをお聞きしたいのです。お願いします。
○
石原:
そうしましたら、識字教師の能力の向上は小荒井さんと大橋さんにお答えいただいて、米軍
の撤退の教育における影響は、おそらく個人的な見解としてしか答えられないと思うのです
-56-
が、もしお答えいただけるようであれば、アフガニスタンとパキスタンの方にお答えいただけ
ればと思います。ハードの整備の質問は私からお答えさせていただきます。
○小荒井:
ありがとうございます。識字教師についてですが、識字局の規定で 12 学年、高校を卒業し
た人を先生とするということがあります。パキスタンの例でもありましたが、やはりそれだけ
のレベルを終えた人、特に女性を探すのが難しいという現実があります。しかし、識字局や政
府としてはどうしても質を高めたいので、その規定を確保したいというところがあると思うの
です。個人的にはグレードの低い方たちには簡易な研修をして、より識字を広めていったり、
あるいは識字を学んだ学習者、既に識字者の方が家にいれば、その方が先生になって、家族、
特に女性は外に出られないので、そういった方に教えるなど、なかなかフォーマライズしにく
いところではありますが、そういったフレキシブルな対応も識字局としてできたらいいなと思
っています。
○
大橋:
どうもありがとうございます。先生のやる気は本当にあります。それは一番大切なことだと
実感しています。地元の先生たちはコミュニティのことをよく知っていますし、自分たちのコ
ミュニティの子どもたちをなんとかしたい、この社会をよくしたいという意識があるのは、大
変大きいと思います。
一方で、例えば理科や算数を教える能力はまだまだ低いです。グーラム・アバースさんのプ
ロジェクトで、先生がどれくらいできるかということを一度テストしたことがありますが、先
生の算数や理科の能力は結構低かったです。その後、彼が何をしたかというと、学校教育局の
教師トレーニングを担当しているインスティテュートに協力してもらい、学校の先生に算数な
どを集中的に教えてもらいました。3 カ月後にどのぐらい能力がアップしたかというのをまた
測りますが、やる気や気持ちのコミットメントは大切にする、一方で能力を上げていかなけれ
ばいけないという面もあります。また、教え方というのは先生が一番のキーなので、どんなに
いい教材があろうとも、どんなにいい環境が整っていようとも、先生が気持ちをもって教える
べきことを教えないといけないので、そこについては一番力を入れていかなければいけない分
野だと思っています。
○
アスマル:
来年、米軍が撤退することで、アフガニスタン人は今からさまざまなことを心配しています
が、治安にも大きな影響があると思います。治安が悪化すれば、教育にも影響があると思いま
すけれども、私たちは神を信じています。米軍が撤退しても、今までのようにセミナーやワー
クショップを続け、教育をもっと向上させるため、先生たちの能力を向上させることをめざし
たいと願っています。
○
アバース:
脅威はなくはないですけれども、これは全く予想がつかないことなので、識字教育に対して
影響がないということを願っています。
-57-
○
石原:
どうもありがとうございました。
ハード整備の話ですけれども、学校建設については、JICA では、例えば地震や耐震設計など、
さまざまなことを考えたうえで行っています。例えば今、パキスタンでは、中学校施設建設に
ついて女子の就学向上を焦点に実施しています。廉価であっても、設計上、大丈夫かどうか、
さまざまなことを考える必要があると思いますので、今すぐお答えできませんが、NGO や各ア
クターと連携する形も、一つの可能性としてあるのではないかと考えています。
時間が大幅に超過してしまいましたけれども、本日のパネルディスカッションでは、実は教
育を切り口にしながらも、平和など、いろいろと大きな問題がかかわっていることがわかりま
した。今後も、アフガニスタン、パキスタンの教育にぜひ関心をもち続けていただきたいと思
います。本日のディスカッションでは、政策と実践と研究をどのように改善につなげていくの
かというのが非常に大きなメッセージではなかったでしょうか。
皆さん、貴重なインプットをいただきまして、どうもありがとうございました。
最後に、パネリストの皆さんに感謝の意を表して大きな拍手をしていただければと思いま
す。
-58-
8.閉会挨拶
公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)教育協力部長
柴尾 智子
皆さん、今日は時間が超過しましたけれども、最後まで熱気のある会場で議論を聞いていただ
きまして、本当にありがとうございました。
今日のセミナーは、大変多様な立場にある方々、国際機関、リサーチャー、NGO、現場、政府
の方々にお話を聞くことができましたし、会場にいる方のご関心の高さ、それから質問の幅など、
とてもすばらしいものであったと思います。
タイトルにある「教育の機会を」という「機会」についていろいろ思いをめぐらせると、大変
厳しい状況で学ぶ機会を求めていらっしゃる、特に女性の方々のことをもっと知って、自分たち
に何ができるかということを考えたりするうえで、私たちにとってもこのフォーラムそのものが
すばらしい機会であったと思います。
今日は、朝から中学校、高校、大学の若者たちとパキスタンの現状を共有しながらワークショ
ップを実施したのですけれども、パキスタンがどこにあるのか知らなかった子どもたちが、自分
が何ができるのかというところまで考えるように至りました。またそれもすばらしい機会だった
のです。
お話を聞いていて、パキスタンでもアフガニスタンでもさまざまな課題があるなかで、大変大
きなイノベーションが起こっていて、政治家を巻き込んだり、縦割り行政をなんとかしようとし
たり、企業と協働したりといった、すばらしい知見があることがわかりました。学校教育に焦点
が当たりがちな教育開発のなかで、ノンフォーマルにもすばらしい知見があるということが今日
共有できたのではないかと思います。
そのようなことがノンフォーマルかフォーマルかという、どっちがどっちということではなく
て、もっと幅広い意味ですべての人の機会がその人の人生、それから地域開発のポジティブなと
ころに向かっていくような議論をもっと活発にするためのきっかけであったらよいなと思いなが
ら、私のまとめの言葉とさせていただきます。
本日は本当にどうもありがとうございました。
-59-
付
属
資
料
講演者・パネリストの略歴
講演者・パネリストの略歴
講演者・パネリストの略歴 (敬称略・講演順)
内海 成治(うつみ せいじ)
京都女子大学発達教育学部教授
兼
京都教育大学連合教職大学院教授、大阪大学名誉教授
京都女子大学発達教育学部教授兼京都教育大学連合教職大学院教授、大阪大学名誉教授、博士(人間科学)。京
都大学農学部及び教育学部卒業後、東南アジア文部大臣機構地域理数教育センター(SEAMEO/RECSAM マレー
シア)講師、国際協力事業団国際協力専門員、大阪大学教授、文部省国際協力調査官(併任)、アフガニスタン
教育省派遣専門家(JICA)
、お茶の水女子大学教授を経て現職。主な著作に『国際教育協力論』
(世界思想社、2001)
、
『アフガニスタン戦後復興支援―日本人の新しい国際協力』(編著、昭和堂、2004)、『国際協力論を学ぶ人のた
めに』(編著、世界思想社、2005)、『国際緊急人道支援』(共編著、ナカニシヤ出版、2008)、『はじめての国際協
力―変わる世界とどう向きあうか』(編著、昭和堂、2012)等。
林川 眞紀(はやしかわ まき)
ユネスコ本部 教育局基礎教育課長
ロンドン大学教育研究院修士課程(教育計画)及び南オーストラリア大学幼児教育学修士課程修了。国際開発セ
ンターを経て、1993 年国連教育科学文化機関(UNESCO)パリ本部に赴任。その後、UNESCO 北京事務所、ア
ジア太平洋地域事務所、JICA、国連児童基金(UNICEF)東アジア太平洋地域事務所において、ノンフォーマル
・識字教育、ジェンダー・女子教育、幼児発達教育に従事。2011 年より現職。教育局のジェンダー・フォーカル
・ポイントとして、女性・女子の教育プログラム調整も担当している。
小荒井 理恵(こあらい りえ)
JICA アフガニスタン国識字教育強化プロジェクトフェーズ 2(LEAF2)専門家
公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)プログラム・スペシャリスト
マンチェスター大学大学院修士課程(成人教育・識字・コミュニティ開発)修了。(社)セーブ・ザ・チルドレ
ン・ジャパン、UNICEF、JICA の業務を通じて、アフガニスタンを含む紛争影響国の基礎教育、識字・ノンフォ
ーマル教育に係る事業形成、モニタリング・評価、政策提言等に従事。2010 年より現職。アフガニスタン、カン
ボジアの識字教育支援に取り組んでいる。著書に『アフガニスタン復興への教育支援―子どもたちに生きる希望
を』(明石書店、2011)がある。
シャハラ・ハフィジ(Ms. SHAHLA HAFIZI)
アフガニスタン国教育省 識字局プロジェクト監理課長
高等学校を卒業後、1990 年より教育省識字局に勤務。識字局では、2007 年まで識字教育のモニタリング・評価
に携わる。その間、カブール教育大学で化学・生物教育を学び、2008 年より識字・職業訓練課長を務めた後、2009
年よりプロジェクト監理課長として、識字教育に関するプロジェクトの形成・管理を行う。LEAF2 では RAHIMA
ASMAR 氏とともに、識字率が世界で最も低い同国の識字教育の質の向上のため、モニタリングマニュアルの開
発や全県の識字局職員の研修を担当し、同国の識字支援において唯一の全国展開のプロジェクト実施に携わる。
ラヒマ・アスマル(Mrs. RAHIMA ASMAR)
アフガニスタン国教育省 識字局モニタリング評価課長
カブール大学で数学教育を専攻。大学卒業後は、化学教師として高等学校に 13 年間勤務。2004 年より教育省識
字局にて、識字教育のカリキュラム開発に携わる。2009 年よりモニタリング評価課長として、アフガニスタンに
おける全識字教室のモニタリング・評価に従事している。
大橋 知穂(おおはし ちほ)
JICA パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクトプロジェクトアドバイザー・専門家
ロンドン大学東洋アフリカ学院修士課程(開発社会人類学)修了。ACCU、UNESCO アジア太平洋地域事務所に
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おいて、アジア・太平洋地域のノンフォーマル教育・識字教育・児童図書開発分野にて、教育計画・人材育成・
教材制作を実施するとともに、ファンドレイジング等も担当。2008 年より JICA パキスタン国パンジャブ州識字
推進プロジェクトに従事し、2011 年より現職。パンジャブ州のノンフォーマル教育 10 年計画、モニタリングシ
ステム、スタンダード・カリキュラム、アセスメントツール等を開発。
アビッド・ギル(Mr. ABID GILL)
JICA パキスタン国ノンフォーマル教育推進プロジェクト
プロジェクトコーディネーター
FC College にて修士課程(ウルドゥ語)修了後、パキスタンの NGO に勤務。その後、United States Department of
Labour(USDOL)の児童労働向け教育推進プログラム、セーブ・ザ・チルドレン(UK)の学校教育の質向上プ
ログラムに従事。2005 年パキスタン北部で発生した大規模地震の後、UNICEF の学校復興支援事業に従事し、
UNESCO 教師教育システム構築事業を経て、2009 年より JICA パンジャブ州識字推進プロジェクトに携わり、2011
年より現職。プロジェクトの実施とともに、コーディネーターとして、中央及び地方の政府機関、大学、NGO、
企業等の連携を促進している。
グーラム・アバース(Mr. GHULAM ABBAS)
パキスタン国パンジャブ州識字・ノンフォーマル基礎教育局
レンガ工場プロジェクト総括
Quaid-e-Adzam 大学にて修士課程(経済学)修了。パンジャブ州政府計画開発局等を経て、2010 年より現職。パ
キスタンのレンガ工場は、10~15 家族が 1 つのレンガ炉のコミュニティで暮らし、大人も子どもも終日働くとい
うもの。パキスタン社会の中では最底辺層の 1 つであり、人々は借金のため、一生家族で働かなければならない
状況にあり、識字率も極端に低い。レンガ工場を対象に、初等教育や識字教育を実施することは大変難しいが、
本プロジェクトは目標到達数を超える学習者に教育の機会を提供しており、成功モデルとして注目されている。
城谷 尚子(しろや なおこ)
公益財団法人プラン・ジャパン
コミュニケーション部アドボカシー担当
埼玉県立高校で英語教員を務めた後、2008 年に国際 NGO プラン・ジャパンに入局。アドボカシー担当として、
経済的、社会的により困難な状況にある女の子や女性に焦点を当てた『Because I am a Girl~世界の女の子に、生
きていく力を。~キャンペーン』を推進し、情報発信、イベント運営を通じた市民社会への啓発活動、政府への
政策提言を行う。途上国で教育協力を行う日本の NGO のネットワークである教育協力 NGO ネットワーク副代表
も務め、世界中の子どもが教育を受けられることを願って行われる世界規模のイベント、「世界一大きな授業」
の企画・運営を担当し、国内の国際理解教育の推進、教育政策に関する政策提言も行っている。
丸山 英樹(まるやま ひでき)
国立教育政策研究所 国際研究・協力部総括研究官
博士(教育学)。岡山大学教育学部を卒業後、JICA 青年海外協力隊としてザンビアで理数科教師を務め、広島大
学大学院国際協力研究科を修了した後、現職。UNESCO 国際教育事業の実施、JICA 識字教育事業の評価、ユネ
スコスクール・ネットワークの評価等に携わる。主な著書・論文に『ノンフォーマル教育の可能性』(共編著、
新評論、2013)
、
「トルコ移民のノンフォーマル教育による社会参加とエンパワメント」
(『比較教育学研究』第 44
号、2012)
、“Non-formal Education for Sustainable Development in Turkey”(Adult Education and Development, No.70.
IIZ/DVV, 2008)等。
石原 伸一(いしはら しんいち)
JICA 人間開発部次長・基礎教育グループ長
ロンドン大学教育研究院修士課程(教育と国際開発)及び UNESCO 教育計画国際研究所(IIEP)国際ディプロマ
(教育計画)修了。1990 年に国際協力機構(旧国際協力事業団)入構。アセアン工学系高等教育ネットワークプ
ロジェクト専門家(2003 年~2005 年)、人間開発部基礎教育第二課長(2006 年~2010 年)、広島大学国際協力研
究科特任准教授(2010 年~2013 年)を経て、2013 年より現職。現在、JICA の基礎教育分野の教育協力に従事。
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