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マンション建替えにおける 高齢者支援
1回 第 まちづくりなでしこインタビュー マンション建替え、マンション管理、再開発事業、コーポラティブ住宅等まちづくり分野でご活躍されて おられる女性に、携わっておられるお仕事や女性ならではの視点等をインタビューによって紹介します。 インタビュアー マンション建替えにおける 高齢者支援 建替えサポート株式会社 代表取締役 牧ノ瀬 理恵 一般社団法人マンション再生なび 理事。2009 年国土交通省、団地再生 マニュアル作成諮問委員。同潤会江戸川アパートメント(2001年)や円滑 化法適用第1号の新宿諏訪町住宅(2002 年)等の建替え事業以来、老朽 化マンションの建替えにおける最大の課題である高齢者の支援を丁寧に 継続し、建替え事業を成功に導いている。建替え事業実績は竣工 15 件。 大野 由利子 住宅金融支援機構 まちづくり推進部調査役 1995 年住宅金融公庫 入 庫。近畿支店、審 査部、首都圏支店等 を経て、2014 年 4月よ り現職。再開発プラン ナー・マンション管理 士。再開発事 業、マ ンション建替 事業等 に対する融資を担当。 マンション建替事業における えに対して前向きになってもらうことは大変です。ま 牧ノ瀬さんのお仕事をお教えください。 ず、抱えている事情を聞くことから始め、建替えの マンション建替事業における高齢住民のサポート 話から入らないようにしています。高齢の方は、プラ の仕事をしています。いわばソフト面の支援です。 イドもあって「 分からないということを知られたくな マンションが老朽化する頃には、人も高齢化してい い」のです。それが、信頼関係が構築されると、 「建 ます。私は、高齢者を説得するのではなく、住民の立 替えのことはわからないけど、牧ノ瀬さんがそう言う 場に立ったフォローを心がけています。仮住まいや、資 ならお任せするよ。」となっていきます。 金の不安等、住民の本音をデベロッパーや管理組合 説明会、個別相談などには、必ず立ち会います。 に伝えるのが私の役割です。そして、デベロッパー等 建替委員会のメンバーを盛り上げるのも私の役目で は、その不安を建替えの計画に反映させていくのです。 す。彼らが建替えを自分たちで成し遂げたという達成 「 私は24 時間対応の”よろず相談員”です。」と住 感を味わってもらいたいのです。 民の方にお伝えすることにしています。相続、贈与、 マンションの建替事業で、高齢住民は 仮住まいのほか、建替えに関係のない介護認定など どのような点でお困りになっているのでしょうか? の相談も受けます。すると高齢者の心に変化が生ま 資金面で悩む高齢者の方は多いです。実際は資 れ、建替えに向けて何がネックなのか本音を話して 金がある方もいらっしゃいますが、高齢者は「 資金 くれるようになります。高齢者は、未知の世界を受け があっても将来が不安」なんです。就業が無くお金 入れられません。新しい生活、変化への不安を軽減 を生み出せないので、ここで使ってしまっていいの するため、仮住まいは、かかりつけの病院の近くで か悩むわけです。入院するかもしれない、子どもた あること、介護保険の関係から市区町村が変わらな ちに残してあげたいと考えます。自分がいつまで生 いことが重要になります。 きるかもわからないですからね。体力面で悩む方も 「自分はこのままでいい」という高齢者が、建替 多いです。果たして引越する体力があるのか不安に なるようです。そこで、私が引越の段取りをし、全 面的に引越を手伝います。 早朝や深夜に電話がかかってくることだってありま すが、そこまでしないと高齢者の方には信頼しても らえないですから、24 時間体制でフォローします。 42 p42_44.indd 42 2015/05/13 15:53:26 「同潤会江戸川アパートメント」 建替え前(左) 、建替え後(右) 国土交通省の団地型マンション再生マニュアルの はなく、 デベロッパーや管理組合の役員の協力があっ 編集委員のご経験もおありですが、 てこそ、このような活動ができているのだと思います。 団地再生の課題はどのような点ですか? ご経験を踏まえ、マンション建替事業や 団地再生のハード面の課題は、専門家の先生方 住宅金融支援機構へのご提言をお願いします。 が熟知されていました。例えば、管理規約の改正、 機構は、頼りになる存在です。住民説明会等で、 道路の付け替え、部分建替えか一括建替えか等の 中立的な立場で説明してもらえると、住民の思いが変 課題です。私からは、コミュニティがないと建替えに わってきます。高齢者向け返済特例制度も非常に助 は立ち向かえないということを強く主張しました。 かっており、制度があることで合意形成の突破口とな 団地型マンションでは、権利者数が非常に多いの り得ます。 で、 「まちづくり」の視点、つまり、 「団地 」だけの問 既存不適格のマンション等、デベロッパーの参画 題ではなく、 「まち」までひっくるめて考える視点が が難しい事業では、組合自らが補償費や建築費等の 必要です。例えば、建替資金を出せない高齢者のた 借入れを必要とする事例が、今後増えてくるでしょう。 めに、建替えたところにグループホームをつくる等の 機構は、事業資金融資が可能なことをもっと打ち出し 対策です。是非、合意形成をソフト面から支援する ていけば、困っている組合に勇気を与えると思います。 ことについてマニュアル化したいですね。 最後になりますが、仮住まいに引っ越すと、結果 権利者が多いとその分、サポートも大変になりま 的に元気になる高齢者は多いですね。マンション建 す。人材育成も今後の課題です。建替えのみならず、 替事業は、 「人生の建替え」でもあると実感していま 税金、相続、贈与、設計等、高齢者の抱える解決 す。苦労や決心を重ね、建替えを通じて変化を受け すべき問題は多岐にわたります。個々の高齢者の生 入れることで、新たな人生が始まります。高齢者の 活のすべてを理解したうえで、専門家との話し合い 方が、建替えによって幸せになるために、私は事業 をフォローすることが大事になってきます。 をサポートしているのだと日々感じています。 マンション建替事業で、女性というお立場で 本日はありがとうございました。 お気づきになったことはございましたか? 女性は、現場に入りやすいと思います。電話でも、 訪問でも、とりあえず話は聞いてもらえます。けんも 【概説】 マンション建替えについて 分譲マンションのストックは増加の一途をたどり、 ほろろな応対をされることはまずありません。 600万戸(推計) にも達しているが、マンション建替え 以前、公団・公社等の高経年マンションを飛び込 の実績(震災関連以外) は200 件程という現状にある。 みで調査のために訪問したときも、興味は持っても らえました。建替えが今ほど注目されていなかった 時代でしたので、先方も情報を入手したかったとい 建替えに関する法制度は、円滑な建替え手続き等の法 律が定められ(2002年) 、昨年建替えせず敷地を売却 する制度が加わった。しかし、建物の老朽化に比例して 住民に高齢者が多く、特に資金面に不安を抱えている。 市川 真一(住宅金融支援機構まちづくり推進部 地域連携担当部長) うのもあるのかもしれません。しかし、私一人の力で 43 p42_44.indd 43 2015/05/13 15:53:30