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天然痘根絶:

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天然痘根絶:
天然痘根絶:
歴史と疫学
天然痘
エジプトで発見された
3体のミイラ
1570-1085 BC
ラムセス5世
1157 BC没
天然痘の歴史
初期の記録
• 569年(A.D.)
アバンシュの司祭であるMariumが「斑点のある」を意味す
るラテン語「Varius」からVariola(天然痘)と命名。
• 910年(A.D.)
ラーゼス[またはAl-Razi](イラン)が天然痘および麻疹に
関する論文を記述。
* Pediatr Inf Dis J 1999; 18:85 - 93
天然痘に関する古典的な記述
インド 400年 (A.D.)
「咳,振戦,倦怠感を伴い,大小関節の激痛がある.
口蓋,唇や舌は乾燥し,喉が渇く.食欲がない.」
「膿疱は赤,黄あるいは白色で,灼熱痛を伴う.
まもなく膿を持ち…本体は青く,米を詰めたように見える.
やがて膿疱は黒く平らになり,中心が陥凹する.非常に
痛い」
天然痘と人類の歴史
• 568年にメッカで起こったElephant戦争では,エチオピ
ア兵が天然痘により全滅した.
• 天然痘が持ち込まれたことによって,スペインによる
「新世界」の征服が促進された
(1507年カリブ諸島、1520年メキシコ、1524年ペルー
および1555年ブラジル).
• 1713年天然痘によりホッテントット族が激減した.
• 1738年天然痘によりチェロキー族の人口が半減した.
• 1776年に天然痘が植民地軍に多大な損失を与えた.
生物兵器としての天然痘?
• 18世紀:
• 天然痘の付着
した毛布
天然痘による死亡者
•
•
•
•
•
アウレリアヌス(Marcus Aurelius) 180年
オランジュのウイリアム2世 1650年
オーストリア皇帝ヨーゼフ 1654年
ロシア皇帝ピヨートル2世 1730年
フランス国王ルイ15世 1774年
•Pediatr Inf Dis J 1999; 18:85 - 93
天然痘膿によるVariolation
• 観察:
– 痘疹痕の認められる人は天然痘に罹患し
ない。
– 天然痘の種痘(Variolation)を受けた人の症
状は、一般に軽度である。
– 膿疱液あるいは瘡蓋の投与。
– 様々な投与経路:接種、経鼻、経皮。
江蘇省の女性
10世紀 – 中国*
• 膿疱が比較的少ない症例から瘡蓋を採取。
• 暑い季節(採取15∼20日後に使用);寒い季節
(採取40∼50日後に使用)。
• 乾燥した瘡蓋8粒および Uvularia grandiflora
(ユリ科の植物)2粒。
• 男児には右鼻、女児には左鼻に吹き込む。
• 6日後に発熱、その後、発疹および瘡蓋が認めら
れる。
• 死亡率は1%未満。
* Fenner et al. Smallpox and its Eradication. p252
エドワード・ジェンナー
1798年:英国西部の一部、とくにグロスター
シャーで発見され,「牛痘(Cowpox)」という
名で知られた牛痘性天然痘(Variolae
Vaccinae )の原因と影響の調査
Variolae Vaccinae – 牛の天然痘
* Pediatr Inf Dis J 1999; 18:85 - 93
最初の天然痘予防接種
ジェンナー 1796年
「天然痘の根絶はこの習慣の最終成果である。」
最初の天然痘予防接種
Sarah Nelmesの牛痘病変
Sarah Nelmesの手に思いがけず出現した牛痘病変(ジェン
ナーの調査における第16症例).1796年にジェームズ・
フィップスに接種された材料はこの病変から採取された.
天然痘制圧のための対策
•
•
•
•
•
•
•
•
天然痘病院(982年 日本)
Variolation 10世紀
検疫 1650年代
1667年、バージニアでの天然痘患者の自宅隔離
Inoculationおよび隔離(Haygarth 1793年)
ジェンナー、欧州および全世界への予防接種の普及
集団予防接種
サーベイランスによる封じ込め
天然痘 と Variolation
患者数比較:ボストン 1721-1792年
Variolationの
占める割合(%)
年
天然痘件数 CFR
1721
5759
15
287
2.1
5
1730
3600
14
400
3.0
10
1752
5545
10
2124
1.4
28
1764
699
18
4977
0.9
87
1776
304
10
4988
0.6
90
1778
122
33
4121
0.9
95
1792
132
30
9152
2.0
97
Variolation
件数
CFR
天然痘の歴史
種痘(Vaccination)
1805年
イタリアで子牛の脇腹を使ったウイルス増殖
1864年
医学会議でワクチン生産が注目
第一次大戦後
欧州の多くで天然痘が根絶
第二次大戦後
欧州および北米での伝染がなくなる
1940年代
Collierが安定した凍結乾燥ワクチンの製造法を
確立
* Henderson DA, Moss M, Smallpox and Vaccinia in Vaccines, 3rd edition, 1999
天然痘の蔓延地域 1945年
研究開発の成果
凍結乾燥
天然痘ワクチン
二又針
取り込み率98%以上
根絶のための主要な指標
• ウイルスの増殖にヒトが不可欠なこと
• 実用的な診断ツールがあること
• 伝染の抑止を可能とする効果的な介入
* Dowdle WR, Hopkins DR, The Eradication of Infectious Diseases, John Wiley &
Sons, Chichester 1998. pp47-59
天然痘の歴史
根絶
1950年
1959年
1966年
全米公衆衛生機構(Pan American
Sanitary Organization)が根絶運動を半
地球レベルに拡大することを決定
世界保健総会が天然痘撲滅を目標として
採択
世界保健総会が天然痘根絶計画の強化
および更なる資金投入を決定
† Henderson DA, Moss B, Smallpox and Vaccinia in Vaccines, 3rd edition, 1999
天然痘の歴史
1967年の状況
・31カ国で蔓延
・推定症例数1,000∼1,500万人
†Henderson DA, Moss B, Smallpox and Vaccinia in Vaccines, 3rd edition, 1999
天然痘の蔓延地域
Endemic
輸入例あり
1967年
伝染抑止
天然痘根絶のための戦略
„ 各国における集団予防接種キャンペーン:
十分な有効性を持つワクチンを人口の80%
以上に接種する
2. 症例および集団発症を発見し,押さえ込む
システムの開発
† Henderson DA, Moss B, Smallpox and Vaccinia in Vaccines, 3rd edition, 1999
集団免疫
伝染の持続
感染性症例
感受性あり
感染性症例
免疫あり
感受性あり
(間接的に守ら
れている)
伝染の終焉
感染性症例
感受性あり
根絶計画以前のドグマ
•
•
•
伝染性が高い
ワクチンによる免疫は長期間持続しない
集団免疫の閾値に達するには人口の大多
数に予防接種を行う必要がある。
集団予防接種 (Mass Vaccination)
ワクチンにより予防可能な疾病の
集団免疫閾値
予防接種率
1999
1997-1998
19-35ヵ月
就学前
83%*
9%
Ro
集団免疫
6-7
85%*
12-18
83-94%
92%
96%
4-7
75-86%
92%
97%
百日咳
12-17
92-94%
83%*
97%
ポリオ
5-7
80-86%
90%
97%
風疹
6-7
83-85%
92%
97%
天然痘
5-7
80-85%
__
__
疾病
ジフテリア
麻疹
おたふくかぜ
*4回投与
† Modified from Epid Rev 1993;15: 265-302, Am J Prev Med 2001; 20 (4S): 88153,
MMWR 2000; 49 (SS-9); 27-38
天然痘の伝染
• 一般的:人から人への飛沫感染:
– 近距離接触(6∼7 ft)
– マスク(N-95)使用により感染を予防可能
• まれ:長距離の飛沫核感染(空気感染)
• キャリア状態なし
• まれ: 媒介物を解した感染:
– 寝具、リンネル、毛布
• 食物、水を媒介とはしない
予防接種未施行者の天然痘二次感染率
二次感染率(%)
36 - 47
73 - 88
試験数
5
3
平均
58%
† in Fenner F et al. Smallpox and its Eradication, pp200
同一敷地内における遅延伝染の例
曝露された
感受性あり症例
天然痘
症例
感受性あり症例
100例の曝露あた
りの発症例数
ナイジェリア( アバカリキ)
27
12
44.4
カメルーン(N’Game)
10
4
40.0
ナイジェリア(Gerere)
45
12
26.2
Bull WHO 1975; 52: 209-222
75感染世帯における週毎の発症数
クルナ自治区
第 3∼4週
症例数
60
%
62.5
第 5∼6週
28
29.2
第 7週以降
8
8.3
計
96
100.0
† Am J Epidemiology 1974; 99: 291-302
予防接種歴別で見た二次感染率
西パキスタン、シェクプーラ区
予防接種未施行
26/27
96%
過去10年以内に接種
5/115
4%
10年以上前に接種
8/65
12%
†From Mack et al, Summarized in Fenner et al. Smallpox and its eradication, pg 688
免疫の持続期間
年齢群
0–4
5-14
15-29
30-49
>50
幼児期に接種
症例-死亡率
有
0%
無
45%
有
0%
無
10.5%
有
0.7%
無
13.9%
有
3.7%
無
54.2%
有
5.5%
無
50.0%
†From Outbreak in Liverpool, England, 1902-1903 In Fenner F et al. Smallpox and its
Eradication, pp53
西洋諸国への天然痘導入後の死亡率
1950-1971年
ワクチン接種
死亡率
未施行
52%
曝露後
29%
曝露の0∼10年前
1.4%
曝露の11∼20年前
7%
曝露の>20年前
11%
†In Fenner F et al. Smallpox and its Eradication, pp53
サーチおよび封じ込め戦略
• 世界根絶計画の主要戦略
は、症例を検出(サーチ)し、
感染拡大を封じ込めるた
めに接触者を同定し予防
接種を行うことである。
• サーチおよび封じ込め戦
略は最も有効な戦略であ
る。
接触者と接触のあった者
症例との接触のあった
者
症例
曝露後接種の効果
初回接種は曝露後
二次感染率
29.5%
予防接種未施行
47.6%
初回接種は曝露10日以内
75.0
予防接種未施行
96.3
予防接種済み、あるいは、7日以内に再接種
1.9
予防接種未施行
21.8
信頼性のあるデータが得にくい
† in Fenner F et al. Smallpox and its Eradication, pp 591
封じ込めチームによる再訪問後3週間におけ
る感染率:予防接種施行の有無別†,††
事前の
予防接種施行状況
チームによる
チームが
予防接種施行 予防接種未施行
感染率/1,000件
感染率/1,000件
予防接種済み
2.4
13.2
未施行
24.2
92.6
不明
計
24.4
8.5
28.2
32.5
† 1st
and 2nd visit, 1-2 days apart
†† Am J Epidemiolgy 1974; 99: 303-313
天然痘の感染拡大に影響する因子
• 気温 :低温ほどエアゾール内のウイルスが長持ち
• 湿度 : 湿度が低いほど、エアゾール内のウイルスが
長持ち
• 接触の程度と長さ
• 伝染期に接触
• 人口密度
• 咳/くしゃみ
天然痘への暴露因子
西パキスタン、 1968-1970年
接触者
患者
AR
(N)
(N)
(%)
258
206
45
45
17.4
22.3
302
160
81
10
26.8
6.3
449
15
91
0
20.3
0
暴露因子
住居状況
同一世帯
同一建造物
曝露パターン
持続的
毎日
曝露の持続時間
7 日以上
7 日未満
Heiner et al Amer J Epidemiol 1971; 91:316-326
400,000 人
瘢痕が認められる人の同定:
• 年齢
• 天然痘に罹患した年
データ調整:
• 年齢特異死亡率
• 年齢特異瘢痕消失率
サーベイランスチーム
1972年 – 5区域毎に1チーム
1973年 – 64地区毎に1チーム
1974年 – 416地区毎に1人のサーベイランス隊員
大天然痘が最後に報告された村
(Kuralia, Bhola)
最後の天然痘患者**
Rahima Banu – 1975年10月16日
大天然痘-バングラデシュ
Ali Maow Maalin –1977年10月26日
小天然痘-ソマリア
** 1978年に英国の2つの研究施設において症例が確認さ
れた。
1980
なぜ、今、天然痘なのか
• ソ連の生物兵器プログラムの副長官であった
Ken Alibekが、1980年以降、ソビエト政府が
天然痘ウイルスの大量生産および爆弾および
大陸間弾道ミサイルへの応用に成功していた
ことを報告している。このプログラムにより年
間、数トンの天然痘ウイルスの生産が可能で
あった。
• 経済的支援の減少により、天然痘が第三者に
渡ることが懸念されている。
JAMA 1999; 281: 2127-2137
天然痘の「顔」
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