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2002年

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2002年
戦略ケース
東京都心部ホテルウォーズ
-超高級外資系ホテルの進出ラッシュ(2002年)
現在、東京都心部では、外資系を中心とするラグジュアリー(高級)ホテルの進出計画
が発表され、これを迎え撃つ国内有力ホテルとの間で利用客の激しい争奪戦が必至となっ
ている。都市の大規模再開発に伴って、大きな変貌を遂げる東京の縮図とも言えるこの「東
京ホテル戦争」について考察する。
1.カナダの名門「フォーシーズンズホテル」が丸の内に進出
2002 年 10 月 15 日、東京駅の八重洲南口に隣接する高層複合ビル「パシフィックセンチ
ュリープレイス丸の内」の3階から7階の5フロアに「フォーシーズンズホテル丸の内東
京」がオープンした。パシフィックセンチュリープレイス丸の内は、1997 年3月に国鉄精
算事業団が実施した入札で、香港の金融・不動産会社が 869 億円で落札したものである。
当時、海外資本の日本進出ということで大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。
フォーシーズンズホテル丸の内東京は、9室のスイートルームを含む 57 室の客室とモダ
ンフレンチのレストラン、スタンディングバー、スパ&フィットネス施設からなるスモー
ル・ラグジュアリーホテルである。絵画や陶磁器などの調度品は世界各地から選りすぐっ
た逸品ばかり。またすべての客室にCD、DVDのプレーヤーと 42 インチのプラズマテレ
ビを設置するなど高度なエンターテイメントを提供するAV機器を充実させるだけでなく、
高速インターネットアクセス、ファックス、コピー、プリンター、2回線電話2台以上を
用意するなどレジャー、ビジネスの両面で利用客の満足を満たす設備とサービスが完備さ
れている。
カナダのトロントに本拠を置くフォーシーズンズホテルのイサドア・シャープ会長兼最
高経営責任者は、2002 年7月の会見で、日本で今後 10 年間に、新規に4~5軒のホテルを
開業する方針を明らかにしている。その大きな理由はふたつある。まずひとつは日本での
不動産取得コストが低下していること。次に、外国人客の増加があげられる。
日本のフォーシーズンズホテルとしては、目白の「フォーシーズンズホテル椿山荘」に
次いで2軒目となる。しかし日本の中心部である東京駅から徒歩2分、新幹線の車窓から
もよく目立つ高さ 150 メートルに及ぶ総ガラス張りの近代的な外観を誇るビルに進出した
この「フォーシーズンズホテル丸の内東京」は、今後の日本への本格進出のシンボルタワ
ーとなる。
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戦略ケース
2.東京都心部ホテル戦争の幕開け
この不況期にもかかわらず、不動産取得コストの低下と外国人ビジネスマン需要の拡大
を絶好のチャンスと捉え、都心部への進出を図るのはフォーシーズンズホテルだけに留ま
らない。フォーシーズンズホテル丸の内東京に先行すること半年、4月には品川の再開発
エリアに 672 という大規模な客室数を誇る品川プリンスホテル「エグゼクティブタワー」
が開業している。
今後約5年の間に国内外の有力ホテルが東京都心部に続々とオープンすることが発表さ
れている(図表1)。今後は日本市場を虎視眈々と狙う外資系とそれを迎え撃つ国内組との
熾烈な戦いが繰り広げられることになる。
図表1-ネット経済化東京都内で開業予定の主なホテル
開業時期
開業時期
ホテル名
ホテル名
地域
地域
客室数
客室数
2002年4月25日
2002年4月25日
品川プリンスホテル
品川プリンスホテル
エグゼクティブタワー
エグゼクティブタワー
品川
品川
672
672
2002年10月
2002年10月
フォーシーズンズホテル
フォーシーズンズホテル
丸の内 東京
丸の内 東京
八重洲
八重洲
57
57
2003年春
2003年春
グランド
グランド ハイアット
ハイアット 東京
東京
(六本木ヒルズ)
(六本木ヒルズ)
六本木
六本木
390
390
2003年7月
2003年7月
ロイヤルパーク汐留タワー
ロイヤルパーク汐留タワー
汐溜
汐溜
490
490
2003年9月
2003年9月
パークホテル東京
パークホテル東京
汐溜
汐溜
274
274
2004年夏
2004年夏
セントレジス東京
セントレジス東京
汐溜
汐溜
350
350
2006年
2006年
マンダリン・オリエンタル、東京
マンダリン・オリエンタル、東京
日本橋
日本橋
170
170
2007年
2007年
ザ・ペニンシュラ東京(仮称)
ザ・ペニンシュラ東京(仮称)
丸の内
丸の内
未定
未定
外資系
外資系
(1)進出ラッシュをかける外資
図表1にある通り、来年以降、4軒の有力外資系ホテルの進出が発表されている。以下
では現在公表されている各ホテルの特徴を整理する。
1)グランドハイアット東京(2003 年4月開業予定)
最も開業が近いこのホテルは、六本木ヒルズ内の 21 階建てホテルで、390 室を展開する。
世界的なデザイナー、ピーター・レメディオス氏が客室をデザインするこのホテルは、10
のレストランとバー、スパ&フィットネス、大規模な会議場や宴会場など、六本木という
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戦略ケース
多国籍で賑やかな土地柄を反映した数々の斬新な仕掛けを準備しているという。
特に最上階のプレジデンシャルスイートは、260 平方メートルを誇り、都内で唯一のプラ
イベートプールと日本庭園を持つ豪華さで、ハイアット最高級フラッグシップブランドを
背負うにふさわしいダイナミックなホテルである。
2)セントレジス東京(2004 年夏開業予定)
日本ではシェラトンやウェスティンホテルを運営するアメリカのスターウッド社の、最
高級フラッグシップホテルで、日本初進出となる。汐留再開発地区で、松下電工関連のオ
フィスや商業施設などが入る超高層・複合エリアのビルの1階から3階と 28 階から 37 階
がホテル部分となる変則パターンで 350 室を展開する。
超高層ビルが林立することになる汐留の中でも浜離宮庭園に隣接した立地のため、客室
からはレインボーブリッジやお台場などの臨海部や東京湾が一望できる。
3)マンダリン・オリエンタル、東京(2006 年開業予定)
先の2軒とは少し間をおいての開業が予定されるこのホテルは、東京証券取引所や重要
文化財である三井本館など、歴史的建造物が集まる日本橋宝町の再開発地区に誕生する。
世界的なラグジュアリーホテルグループの日本初進出は、この地上 38 階の超高層ビルの最
上部 10 フロアを占める。
歴史と伝統のあるこのエリアに他国でも評判の高い多彩なトリートメントができるスパ
やバラエティーあふれるレストランなどが揃うこのホテルの存在は異彩を放つこと間違い
ない。
4)ザ・ペニンシュラ東京(2007 年開業予定)
セントレジス、マンダリンに続いて日本に初上陸するペニンシュラは、香港やバンコク
での「オリエンタルゴージャスな」イメージが強く、日本にも馴染みが深いだけに前2者
と比較しても注目度が高いといえる。
まだ詳細な計画は公表されていないが、新「丸ビル」の誕生などをきっかけにこれから
大きな変貌を遂げるであろう丸の内界隈を象徴するようなインパクトを与えるのではと期
待が高い。
これまでの世界的な展開によって培われ、利用客からも評価されてきたレベルの高いサ
ービスを武器に満を持して日本市場に参入する外資系新ホテルは、この供給過多にもなり
かねない都心部のホテル進出ラッシュにも強気な姿勢を崩さない。
(2)迎え撃つ既存国内組
こうした外資系の脅威にさらされる国内組は、同時期・同エリアへの新規進出や既存ホ
テルのテコ入れによって対抗する。新規進出は以下の2軒。
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戦略ケース
1)ロイヤルパークホテル(2003 年7月開業予定)
セントレジスに約1年先駆けて汐留に新規進出するのがロイヤルパークホテルである。
資生堂オフィスとの複合施設で、24 階から 38 階までの 490 室を展開する。
IT最先端企業や広告・マスコミ企業が集中し、24 時間活動する街にふさわしいサービ
スとして、リラクゼーションスパや 24 時間のビジネスコンビニ、また宿泊についてもタイ
ムシェアリング方式を導入するなどサービスに工夫を図る。さらに全客室に超高速インタ
ーネット環境を完備し、サイバーコンシェルジュによるインフォメーション機能など「プ
ライベートオフィス」的な位置づけを目指す。
2)パークホテル東京(2003 年9月開業予定)
汐留メディアタワー(共同通信社本社ビル)に東京初のデザインホテルズ加盟のホテル
として開業する。デザインホテルズとは、北米やヨーロッパに 41 のコレクションを持ち、
世界的に著名なインテリアデザイナーや建築家によるデザインが特徴となっているホテル
を集めたチェーンである。
パークホテル東京は、トータルデザインをデ・スィーニュ社(フランス)、内装設計をフ
レンチ・コンテンポラリーの代表的建築デザイナー、フレデリック・トマ氏が手がける。
ビルの 25 階から 34 階まで、ホテル全館 10 フロアを吹き抜けるアトリウムが話題を呼んで
いる。
くしくも2軒とも 2003 年の夏から秋にかけて、東京都心部の再開発の象徴となるであろ
う汐留での開業となる。一方で、こうした新規進出を迎え撃つ既存ホテルでも勝ち残りを
かけたテコ入れが展開されている。
3)大規模設備投資でサービス向上を図る国内老舗
「帝国ホテル」(千代田区)は既に数年前から、年約 20 億円を投入して宴会場の改修や
カードキーへの転換を行っている。これに留まらず、レストラン施設の見直しなど、今後
5年間の改修計画を検討している。
「東京全日空ホテル」(港区)も 2001 年、25 億円をかけて宴会場フロアを大改修してい
る。また同じ港区の「ホテルオークラ」はホテルオークラ神戸をアメリカAIGグループ
に 165 億円で売却し、約 88 億円を設備投資にまわすなど、各社ハードとサービスのレベル
向上を急速に進めている。
新宿副都心に位置する「京王プラザホテル」は4月、3億円をかけ全客室から無料で超
高速インターネットを使えるようにした。パソコンの設定を変えずに接続できる点が好評
で、中心となるビジネス客層の維持に余念がない。
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3.ホテル戦争の行方
これまで外資系の新規進出組と既存国内組の展開についてまとめてきたが、これから本
格化するこのホテル戦争の行方を「ブランド力」「ブロードバンド」という観点からまとめ
る。
(1)外資系ホテルのブランド力
外資系新規進出組の4社はいずれも世界的に展開していて、海外ビジネスマンの利用だ
けでなく、海外旅行で利用したことがある日本人にも高い評価を得ている高級ブランドホ
テルである。特に、スパ&フィットネスや有名レストランなど、高い航空運賃と多くの時
間を費やさなければ味わえなかった五つ星級のサービスが国内でも受けられるということ
で消費意欲の高い 20~30 代女性を中心に支持を得ることは間違いない。
「平日はビジネスマンの拠点、週末に一度は行ってみたい高級感があふれる名所にした
い」。東京・汐留の再開発地区に「セントレジス東京」を誘致する森トラストの吉田武専務
は意欲満々だ。吉田専務は各種ランキングで常にトップクラスの「パークハイアット東京」
(新宿区)をにらみ、「パークハイアットの客は赤坂、虎ノ門の外資系企業の人が多い。汐
留はどちらも近く、潜在的需要はある」と語る。売りは、「バトラー(執事)」と呼ぶ、既
存の日本のホテルでは提供できないきめ細かいサービスだという。
外資系ホテルのシステム特徴として、土地や建物を日本企業が担当し、経営を外資に任
せるというケースが多い。ペニンシュラのパートナーである三菱地所では、供給過剰を危
惧する声がある中、
「都心は、客室数がまだ不足しており、需要は大いにある」と分析する。
つまり既存のホテルが需要を生み出すような努力をしてこなかったということを指摘して
いるのだ。外資経営者は「供給が需要を呼ぶ」という強気の姿勢を崩さない。この背景に
は、世界各地で高い支持を受けている自社ブランドに対する強い自信がある。
(2)必須となるブロードバンド対応
これからのホテルはブロードバンド対応が必須となる。フォーシーズンズホテルやロイ
ヤルパークが全客室に 100Mbps 以上の超高速インターネット環境を完備し、京王プラザホ
テルが3億円投資するなど、現在は差別化策として展開しているが、ターゲットを海外ビ
ジネスマンの利用客とする以上、今後超高速インターネット環境は最低限対応できなけれ
ば生き残れない。
ここに着目したインターネット接続キャリアの「アッカ・ネットワークス」は新宿ワシ
ントンホテルに「VDSL ブロードバンドホテルシステム」を提供している。同ホテルではま
だビジネス客専用フロアでしかこのサービスを提供していないが、新たな配線工事をする
必要のなく超高速インターネット環境を容易に実現するこのシステムは今後多くのホテル
で採用されることが予定されている。
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戦略ケース
いずれ超高速インターネット接続が差別化にならないということで、新たなサービスと
して注目されているのか「サイバーコンシェルジュサービス」である。ロイヤルパークが
導入するこのサービスは、言葉の通り、ホテルのコンシェルジュのようなきめの細かい対
応で、利用客のホテルライフを 24 時間サポートすることになる。
4.ホテル戦争にみる東京の可能性
今後、本格的に展開されていくであろう東京ホテル戦争は「東京」という多くの人間を
吸引する一大都市の魅力を改めて認識させ、新しいビジネスチャンスの可能性を感じさせ
る。事実、近年の都心回帰によって、路線価は再び押し上がっているが、再開発地域に進
出が予定されている複合施設には高額の賃貸料にもかかわらず、入居の応募が満杯だとい
う。
そしてラグジュアリーホテルの進出ラッシュは、都心回帰によって生まれつつある新し
い消費スタイルや暮らし方ともリンクしてくるように思われる。例えば、週末のレジャー
を想定した場合、都心部から観光地に行くまでの移動時間や交通費などのコスト、旅行誌
やインターネットなどで得た情報だけの不確定なサービスなど負担が大きい。海外旅行で
あればなおさらである。その点、今回進出するラグジュアリーホテルは、充実した設備と
サービスという点では既に世界的に高い評価を得ている。これによって欧米のように週末
や長期休暇における「ホテルライフ」というスタイルが定着するかも知れない。
「デザインホテルズ・ジャパン」のマネージング・ディレクターである奈良澤充氏は「ハ
ード面の差別化は難しくなる。そのあとには『リフレッシュ』『癒し』といった付加価値が
より重視される時代が来るだろう」と予測する。これまではどちらかというと、旅行や仕
事における「宿泊所」というホテルが「週末のちょっとした贅沢な生活空間」といったよ
うにその価値を変えていく。
これから約数年の間に、豪華なハードとハイレベルなサービスが出揃うことになる。外
国人客はもとより、海外旅行を通じて海外の優れたホテル施設を使用し、そのサービスを
体感している日本人が増えている。
「世界でも最も厳しい品質基準を持つ(弊社調査より)」
日本人が最も多く集まるのが東京である。冒頭にも述べたように、都市の大規模再開発に
伴って、大きな変貌を遂げる東京の縮図とも言えるこの「東京ホテル戦争」の行方は、東
京市場で勝ち残りを目指す業界や企業に対して様々な示唆を与えるものとして注目される。
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