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第6章 神経回路と脳

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第6章 神経回路と脳
6章 脳と神経回路 130604/160712
6.2 神経の結合様式
2 相反抑制回路:歩行リズムの発生
振動現象は神経回路においてよく見られる.ここでは一対のニューロンを考え、閾値、
疲労という非線形特性を取り入れて、歩行パタンに見られるよう興味ある神経活動を実現
したReissのモデルを紹介する.図S6.1の相互抑制をもつ回路(相反抑制回路)
で、結合が全く対称である.この場合、安定な平衡点が存在するが、適当な疲労効果など
を組み入れることにより振動を起こさせ、持続させる仕組みである.
ニューロンの興奮性をS,θ,Eの3つの変数で記述する(図A)。S はシナプス膜
の分極の程度を表わす。他のニューロンから興奮性入力パルスが与えられると、Sの値は
瞬時に増加し、その後、指数関数的にS=0に向う。抑制性入力パルスが与えられた場合
は、その逆で、Sの値は瞬時に減少し(負の方向に変化し)、その後指数関数的にS=0
に向う.
第2の変数θは閾値である。S>θのとき、ニューロンは興奮する。興奮直後θは大き
な値になり、その後時間と共に減少する(不応期の実現)。第3の状態変数 E はニュー
ロンに貯えられるエネルギー量で、疲労効果を表わす。興奮が続くと E が減少し、閾値
入力
インパルス
入力
インパルス
刺
激
の
加
算
興 奮 性
積 分 器
抑 制 性
積 分 器
S
パルス発生器
可変閾値 θ
出力
インパルス
E
疲労積分器
(A)
a1
a3
駆動ニューロン
a1
a2
a4
a3
a4
a1
a3
a4
(C)
(B)
図S6.1 リズム発生のニューロンモデル (Reiss 1962)
S6-1/8
の下降速度がゆるやかになる(不応期が長くなる)。これによって次の興奮が起きにくく
なる。
図Bに示すように、a3,a4のニューロンに上記のモデルを用いて相互抑制ニューロ
ン対を構成し、a1から共通の入力を与えたときの神経回路の動作を調べている.昆虫の
飛翔運動(翔の挙上と牽引)に対応する神経回路モデルである.図に示すように、交番運
動が発現している。図Cはネコの脊髄にある歩行リズム発現中枢の神経回路をモデル化し
たものである.独立した2入力の系であり屈筋、伸筋が同時に活動するという現象が現わ
れている。
この他に、リズム発生に関する神経モデルは非常に多くあり、イセエビの遊泳、ヒトデ
の起きあがりなど対象も様々である.
6.3 側抑制
2 側抑制回路の微分作用
重みが中心が1,その左右がー0.5である回路を図S6.2に示す.近似的に空間的
な2次微分に対応し、順方向型の側抑制で表現している.
3 側抑制回路の定式化
<たたみ込み積分(コンボリューション積分)の図的説明>
たたみ込み積分は
∞
y(t) = ∫−∞ x (t) g(t − ) d (S6.1)
入力
ー1
ー1
2
出力
図S6.2 微分作用を持つ順方向型側抑制
S6-2/8
x (t )
g (t )
0
t
0
t
x( )
g (− )
0
g (t− )
0
t
∞
∫
x ( )・g (t− )d
t
−∞
t
図S6.3 たたみ込み積分の図解
で表される.この演算の具体的な様子を図で説明する.画像処理法やシステムの過渡応答
算出の基本として重要で、また側抑制の定式化の理解に役立つ.便宜上tを時間として説
明するが、位置としても同様である. 図S6.3に示すように、x(τ)はx(t)の横軸をτと書き換えるだけである(図
の3段目).次に、g(τ)を、τ=0でのたて軸に対して折り返して(軸対象となる)
g(−τ)をつくる(4段目).それを右にtだけシフトすると、g(t−τ)が得られ
る(5段目).τ時刻でのx(τ)とg(t−τ)の積を計算すると、図の6段目の波形
となり、その斜線部の和を求めると、時刻tにおけるたたみ込み積分の値(最下段)とな
る.tをシフトして、同様の計算をすることによりx(t)とg(t)のたたみ込み積分
y(t)が得られ.式(S6.1)はxとgを入れ替えても同じである.
<側抑制回路の入出力関係>
図6.5(a)に示すように一列に並んだ1次元の側抑制のニューロン構造を考える.
ニューロンが密に一様に分布し、そして無限に並んでいるとする.離散的なニューロンの
S6-3/8
並びを、連続的に分布しているとして扱う.連続系も離散系も本質的には差はなく、数学
的な取り扱いが簡単で、理解が容易であるので、連続系で説明する.神経活動は細胞の入
出力線維のパルス頻度とする.また、細胞は線形系であるとし、線形荷重和の機能のみを
有すると仮定する.
位置xにある細胞は、位置x’に与えられた入力s(x’)から、距離の関数としての
結合荷重 w(x−x’)の影響を受ける.位置xにある細胞が受け取る入力の総和(細
胞出力) zf(x)は、
z f (x) =
∫
∞
−∞
w(x − x' ) s (x' ) dx' (6.4)
と表される.右辺がたたみこみ積分であることに注目のこと.
大脳皮質
旧皮質・古皮質
6.49 cm.
中枢神経系
視床
大脳基底核
脳幹
脊椎
感覚器
筋運動系
末梢神経系
2.28
cm.
図S6.4 脳神経系の情報の流れ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注S6.1:神経細胞が集中して、集団として機能しているところを神経節ganglionと
呼ぶが、脳では、特に神経核nucleusあるいは核と呼ばれる.
注S6.2:脳の各部分には実に様々な名称が付けられている.同一部に何種類もの呼
称が用いられている.これは、古い用語を捨てることなく、新しい用語を付け加えてき
たこと、また対象とする役割によって呼び方を変えていること、による.
注S6.3:網様体:神経細胞が神経線維の間に相連なって散在し、網のように見える
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注S6.4:海馬は、短期的記憶を長期記憶に作り替えるのを助ける.扁桃核では、恐
怖感、不安感を生み出し、皮質に向かう記憶情報を処理する.
注S6.5: 神経細胞の接続は、微小電極を用いて個々の細胞の活動を計測する電気
生理学的な方法や細胞間のシナプスを通過して浸透する特殊な酵素であるhorseradish
S6-4/8
1
f(x)
0
0.5
0
-0.5
h
図S6.5 刺激と応答
w
(x)
x
0
図S6.6 側抑制の結合荷重
6.4 脳の構造と機能
1 中枢神経系
中枢神経系は脳と脊髄に分けられる.末梢神経系は中枢神経系と受容器、筋の間を結ぶ
神経系である.大脳は、新皮質、大脳辺縁系、大脳基底核からなり、脳幹は間脳、中脳・
橋・延髄からなる(注S6.2).外界のセンシング、脳での処理、筋運動系への指令と
いう流れを、図S6.4のブロックで表すことができる.つまり、脳幹・脊椎(情報の伝
達)-->視床(情報入力インターフェース)-->辺縁皮質(本能、情動)-->新皮質(適応、創
造、行動)-->小脳(円滑な運動)-->大脳基底核(出力インターフェース)-->脳幹.脊椎(指
令と反射)である.
6.5 課題
課題6.1の解答
ヒント:図S6.5にf(x)と - f ( x - h ) + 2 f ( x ) - f ( x + h ) を示す.
課題6.2の解答
S6-5/8
ヒント:図S6.3を参照せよ.
課題6.3の解答
ヒント:図S6.6の形状は、側抑制の結合荷重である.説明を加える.
この形状と類似したものが画像処理においてエッジを強調する場合によく使用される.
ガウシャンラプラシアンフィルタ(ガウス関数を2次微分した形式のフィルタ)やDOG
(DIfference of two Gaussians)フィルタ(ガウス関数の差)である.空間フィルタは2
次元であるが、簡単のため1次元で説明する.ガウシャンフィルタは、
g (x) = 2
−
1
e
2
2
x
2 2
(S6.6)
で定義される.そのフーリエ変換は
G( )= e
2
−
2
2
(S6.7)
である.DOGフィルタは、
g DOG( x) =
−
1
2
2
e
e
x2
2 e2
−A
−
1
2
2
e
x2
2 i2
(S6.8)
i
である.DOGフィルタのパラメータをA=1.0、
e
= 2.0,
ンガウシャンフィルタに近似した形状となる.
課題6.4の解答
z f (x) =
∫
∞
−∞
w(x − x' ) s (x' ) dx' (6.4)
S6-6/8
i
= 1.6
e
とすると、ラプラシア
両辺をフーリエ変換すると
Zf(ω)=W(ω)S(ω) (S6.9)
である.ここでωは空間周波数である.入力パタンs(x)、出力パタンzf(x)、荷
重(結合関数)w(x)のフーリエ変換をそれぞれS(ω)、Zf(ω)、W(ω)とす
る.つまり順方向型の神経回路は伝達関数(空間周波数特性)がW(ω)の空間フィルタ
として働く.
図6.5(b)逆方向型についても同様に取り扱う.荷重をwb(x)とすると、出力
zb(x)は、
z b (x) = s (x) −
∞
∫−∞ wb (x − q) z b (q) dq (S6.10)
となる.この両辺をフーリエ変換すると、
Zb ( ) = S ( ) − W b ( ) Z b ( ) (S6.11)
となる.なお、Wb(ω)はwb(x)のフーリエ変換である.これより、
Zf ( )=
1
S( ) (S6.12)
1 + Wb ( )
を得る.つまり、
W( ) =
1
1 + Wb ( )
(S6.13)
の関係が成立すれば、順方向型と逆方向型は等価となる.
参考文献
1)塚原仲晃(1984)脳の情報処理、朝倉書店
2)Eric R. Kandel, 他 (1991) Principles of Neural Science、 Appleton & Lange
3)藤井克彦(1967) 生体機能のシミュレーション、生物物理、7,4,っp.1
S6-7/8
78−192.(側抑制の数学的な表現について.)
4)中野馨 (編著)(1990)ニューロコンピュータの基礎、コロナ社(リズム、発
振システムについての数学的な基礎を説明している.)
5)R.F. Reiss (1962) A theory and simulation of rhythmic behavior due to
reciprocal inhibition in small nerve nets, Proc.IFIRS Spring Joint Computer Conh.,
21, 171-194.
S6-8/8
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