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UAE(UNITED ARAB EMIRATES)における真珠産業ついて

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UAE(UNITED ARAB EMIRATES)における真珠産業ついて
− 海外調査報告 2006.12 ドバイ〔環境管理研:船水・中島・山田〕 −
UAE(UNITED ARAB EMIRATES)における真珠産業ついて
1.公式訪問スケジュール
・2006 年 12 月 2 日 10:00∼12:00
Dubai Museum(ドバイ博物館)において、博物館職
員によるによるレクチャーと質疑。
真珠貝の構造模式図
・2006 年 12 月 5 日 10:00∼14:00
Emirates & Japan Pearl Cultivation & Trading
Company L.L.C(UAE と日本の合弁会社)が実施している
真珠養殖場の見学、Chief Executive Officer である
Daiji Imura 氏によるレクチャーと質疑。
貝殻は内側から真珠層、稜柱層、殻皮で構成される。
真珠を作ることができる貝の条件は、この真珠層が存在
することが必須となる。海域に生息する真珠貝としては
アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ、マベガ
イ、イガイがある。一方、淡水域に生息する真珠貝とし
ては、ガラスガイ、イケチョウガイ、ヒレイケチョウガ
イ、カワシンジュガイがある。
真珠層
2.目的
ペルシャ湾は、かつて世界最大の天然真珠の産地であ
り、世界の 50%の産出量があった。
そこで、天然真珠を対象としていたペルシャ湾での真
珠産業と現在 UAE で行われている養殖真珠産業について
調査を行った。
3.真珠の歴史
人類が最初に出会った宝石(jewelry)―石の中でも希
少な鉱物。基本的には無機物の結晶であるが、珊瑚や真
珠のように生物に由来するものや琥珀のように有機物で
あるものもある―は、真珠である。それは、カットや研
磨などの加工が不要なため、装飾品として仕上げること
が容易だったことに起因する。
4.真珠貝の構造
真珠を作ることができる貝を真珠貝という。
真珠貝は、
中心部にある身が外套膜で覆われており、外套膜から出
されたカルシウム分を含む分泌液が結晶化して貝殻とな
っている。
アコヤガイの真珠層
5.真珠の種類
真珠は大別して「天然真珠」
、
「人造真珠」
、
「養殖真珠」
に分けられる。全て 真珠 という言葉が付いているが、
天然真珠と養殖真珠は本物の真珠で、製造方法が違う。
人造真珠は人工的に作った贋物である。
(1)天然真珠
ペルシャ湾において、真珠貝の採取は紀元前から行わ
れていた。天然真珠は、採取された 35,000 個の真珠貝か
ら 21 個採取され、そのうち商品化できるのは、3 個とい
う極めて希少性が高く、
非常に高価なものであったため、
所有できる民衆も限られていた。このような天然真珠の
採取も 20 世紀半ばになると、
油田開発に伴う産業構造の
変化により、不確定な要素が多い真珠産業は衰退の一路
を辿った。
ペルシャ湾における真珠産業の歴史を閉じた理由とし
て、しばしば日本の養殖真珠の影響が挙げられるが、こ
れは間違いである。
(2)人造真珠
人造真珠は、
フランスのビーズ職人が 19 世紀半ばに中
空のガラス玉の中に魚の鱗を混ぜたゼラチンを封入して
製作したのが最初である。
天然真珠の希少性から人造真珠は急速に普及し、天然
真珠を持つことのできない階級の民衆だけでなく、天然
真珠を所有する金持ちにも広く使われた。これは、本物
の真珠は宝石箱などに大切に保管し、外に行くときは贋
物を着けていたためであり、天然真珠の価値が高かった
ことのあらわれである。
(3)養殖真珠
世界で最初に真珠を養殖したのは中国人であり、13 世
紀頃から鉛で造った小さい仏像を貝の中に入れ、仏像真
珠と呼ばれる神具が造られていた。西洋では、1761 年に
スウェーデンの生物学者が、真珠の養殖に成功したとい
う記録があるが、その方法は公開されていない。
今日、行われている本格的な真珠の養殖方法は(株)ミ
キモトの創業者である御木本 幸吉が 1893 年に成功させ、
養殖真珠産業を確立した。
6.真珠の構造
真珠は、中心に核となる物があり、その周囲を真珠層
が覆っている。真珠層は、約 1.0mm の厚さに約 2,500 枚
もの層で形成されている。
養殖真珠の構造
真珠を養殖で作る場合、核は約 3.0mm の球状の物を真
珠貝の口を少し開けて、真珠袋という真珠を作る器官の
中に入れる。一般的に使われている核は、真珠層と比重
や膨張率が近い米国のミシシッピー川流域で採れる貝殻
を丸く削ったものである。
養殖真珠の核(左)と養殖真珠(右)
7.UAEにおける天然真珠の採取方法
中東における天然真珠の生産地は、アラブ首長国連邦
(UAE)をはじめ、クウェート、バハレーン、カタール、オ
マーン、イエメン、サウジアラビア、エジプトなどが知
られている。
真珠貝の採取は、6∼10 月に行われ、漁師がダイバー
となって素潜りで取り、集めた真珠貝の中から小さなケ
シ粒の天然真珠を見つけて胴元に買い上げてもらってい
た。天然真珠はボンベイ(インド)で加工され、シリアや
コンスタンティノープル(東ローマ帝国)を経由して、イ
タリア商人によってヨーロッパ各国で売られた。
真珠貝採取用の帆船は、20∼100 人超まで様々な大き
さがあり、沖合操業(日本は沿岸操業)のため、一度港を
出港すると、しばらくは帰港しなかった。そのため、帆
船には船長、船員、ダイバーの他に炊事係が乗船してい
た(場合によっては見習いも乗船)。20 世紀初頭には、帆
船が 300 隻、船員が 7,000 人という記録が残っている。
真珠貝が偶然、砂などを取り込み、それが核となって
真珠層を形成して誕生したものが天然真珠である。その
ため、球体の形状の天然真珠ができることは非常に稀で
あり、あったとしてもセレブでなければ購入できないほ
ど高価であろう。彼女と一緒に貴金属店に入って、ショ
ーケース内にある球体の形状の真珠を眺めて店員に「天
然真珠はどれ?」などと聞くのは止めたほうが良い。球
体の核を人工的に真珠貝の中に入れているから球体の真
珠ができるのであり、それが養殖真珠なのである。
天然真珠
真珠貝採取用の帆船
通常、ダイバーは腰布かショーツを着用して真珠貝を
採取していたが、クラゲの出る時期は身を守るため、木
綿の衣服を着用していた。
また、
亀の甲羅でできた鼻栓、
革でできた指を保護するための指サック、潜水降下用の
カウンターウェイト、真珠貝を入れるバスケットなどを
装備していた。
ダイバーは、最大水深 23mにある真珠貝を採取するた
めに、1 回当り約 3 分間、日の出から日没まで 50 回超の
潜水作業を繰り返していた。このようなことから、真珠
貝の採取作業は「過酷な労働」
、
「海生生物の危険性」な
どの理由から男性の仕事とされていた。日本のように海
女によって真珠貝の採取作業を行うのは、世界的に見て
例外的な存在といえる。
真珠貝の採取は、すさまじいものがあり、真珠貝の保
護を目的に採集禁止令まで出されたほどである。この採
取禁止令の一部は現在でも続いており、真珠貝の採取は
許可を受けた者しかできない。
当時、採取された真珠貝が、現在でもイギリスの博物
館に貯蔵されていることから、イギリス政府とUAE政
府の間で真珠貝の返却について会談が持たれている。
8.UAEにおける真珠養殖の現状
UAEの 7 首長国のひとつである Ras Al Khaimah(ラ
ス・アル・ハイマ)首長国では、2005 年から日本の真珠
養殖技術を導入した、真珠の養殖が試験的に行われてい
る。
ドバイとラス・アル・ハイマの位置関係
木綿の衣服を着用したダイバー
養殖は、ラス・アル・ハイマ政府の自然環境保護地域
内で行われており、10 万個のアコヤ貝が育成されている。
真珠の養殖状況
真珠貝の採取状況(模型)
日々の作業状況(アコヤ貝の清掃)
日本とラス・アル・ハイマの真珠養殖の違い
ラス・アル・ハイマにおける生産サイクルは、理論上
は二期作も可能である。しかし、海域を休ませる、すな
わち自然の海水浄化を促すという意味合いもあり、1 年
に 1 回の真珠採集で取り組んでいく方針とのことである。
養殖カゴに設置されているアコヤ貝
日本における真珠の養殖方法は、種苗採取、母貝養成
(1∼2 年間)、母貝仕立て、核入れ(3∼5 月)、手術貝(核
入れを行った真珠貝)の養生(6∼9 ヶ月)、浜揚げ(12 月)
という工程で行われる。近年は、魚の養殖、下水排水、
工場排水などによって真珠貝の斃死という問題が大きく
なってきている。
ラス・アル・ハイマにおける真珠の養殖にはアコヤ貝
が用いられているが、
日本と異なり種苗採取、
母貝養成、
母貝仕立ての工程は経ない。これは、アコヤ貝が海底に
豊富に生息しているので、稚貝の段階からアコヤ貝を育
てる必要がないことによる。そのため、母貝仕立てに代
わって 母貝の選別 という工程が発生する。また、手
術貝の養生が 3∼4 ヶ月と日本の半分程度の期間で済む
ということも特徴である。また、UAEは中東に位置す
るため、その気候から核入れの時期も一年中いつでも可
能である。
アコヤ貝から出てきた真珠
おわりに
真珠養殖は、人工的に核を真珠貝に入れて真珠を作ら
せている。そのため、真珠貝は自然下に比べて過度に分
泌液を出しているので、海域環境に掛かる負荷が大きく
なっている。
UAEにおける真珠養殖産業の成功と発展は、海域環
境の保全は当然のことであるが、海に対して常に真珠生
産という負荷を掛けるだけでなく、海を休ませて英気を
養わせるという発想が鍵と考える。
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