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相続税、改正をにらんで 押さえておきたい知識

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相続税、改正をにらんで 押さえておきたい知識
講演要旨
「相続税、改正をにらんで
押さえておきたい知識」
辻・本郷税理士法人
税理士 平川 亮 氏
平成25年12月16日
大阪第一ホテルにて
【要旨】
■相続税の基礎
・相続税の課税割合が、地価の下落によって近年 4%台にまで落ちてきた。国税庁は、適正と考える6%
台にまで戻したいと考えている。
・相続財産額が基礎控除以内であれば、相続税の申告は不要。
・プラス財産は現預金、不動産、株等。死亡保険金と死亡退職金はプラス財産には入らない。
・マイナス財産には債務と葬式費用がある。
・相続開始後に発生した費用は債務にはならない。
・葬式費用は、死後10日間位の間に発生した葬式関連で支出した全ての費用。
・墓代は葬式費用に入らない。ただし非課税財産なので生前に用意を。
・死亡保険金と死亡退職金の非課税枠は、それぞれ《500 万円×法定相続人の数分》あり。相続人 3 人
1
で合計1,500万円控除。会社も死亡退職金の支払いで株価を下げられる。
・生命保険に入れない場合は、年金保険で代用が可能。
・相続税の基礎控除は、現行は配偶者と子供 2 人で8,000万円。
・財産 3 億8,000万円あれば、相続税は7,400万円(実効税率 19.5%)。ただし、配偶者は税額
軽減でゼロ。子供2人で納付税額は3,700万円。
■平成 25 年度税制改正の内容
・相続税の基礎控除額が4割カット。配偶者と子供 2 人で4,800万円に減額された。
・税率も見直され、2~3 億円までを 5%アップの 45%に、6 億円以上も 5%アップの 55%になった。
・基礎控除額カットの影響で、遺産 3 億8,000万円で税額は 560 万円増加する。
■評価による相続税対策
・貸家建付地と建物の評価で大きな評価減を得られる。
・1 億円の土地に5,000万円の賃貸建物を建てると、総評価は4,650万円に圧縮できる。
・広大地(三大都市圏は 500 ㎡以上)要件を満たせば、45%前後の大きな評価減がある。
■小規模宅地等の特例による減額
・自宅を、要件を満たす人が相続すれば 330 ㎡まで 80%減額。要件は、同居あるいは生計を一にする親
族で、申告期限まで保有し居住していること等。
・法改正により事業用地との完全併用が可能になった。さらに二世帯住宅定義の緩和や老人ホ-ム入居時
の要件が緩和されたので、特例を適用しやすくなった。
・事業用地を、要件を満たす人が相続すれば 400 ㎡まで 80%減額。要件は、親族が事業を引き継ぎ、申
告期限まで保有すること。
・不動産貸付業の場合は、200 ㎡まで 50%減額。
■贈与税
・子、孫への贈与は税率が一部緩和された。基礎控除は年間 110 万円まで。
・2,500万円まで非課税の「相続時精算課税制度」は、対象者が 60 歳以上の祖父母、父母から 20
歳以上の子供、孫までへと拡充された。
・祖父母等から子や孫への教育資金は従来からも非課税だが、今回1,500万円まで一括しての贈与を
非課税とした。→ 教育資金一括贈与が一番簡単な相続税対策。
・毎年の金銭贈与がオ-ソドックスな相続税対策。ポイントは、個々の相続税の限界税率を参考にして贈
与額を決めること。
・1,000万円贈与すると贈与税は 231 万円。将来の相続税が1,000万円に対して 400 万円かか
るのであれば、今1,000万円贈与する方が 169 万円の得。
2
・相続人には「3年内贈与加算」があるので、相続人以外に贈与を。一番効果が高いのは一代飛ばしの孫
への贈与。
・結婚 20 年以上で、配偶者への2,000万円までの自宅贈与は非課税。奥様に自宅を贈与すれば、そ
の分相続財産は減るが、登録免許税や不動産取得税はかかる。
・扶養義務者からの生活費や学費の贈与は非課税。
・贈与の際は贈与契約書もしくは贈与税申告書を残しておくこと。
【本文】
1.はじめに~平成26年度の税制改正から
今日は相続税のお話をさせていただきますが、先頃、平成26年度の税制改正大綱が発表されましたの
で、その中でいち早く知っておいていただきたい項目があります。
まず「ゴルフ会員権」です。個人でゴルフの会員権をお持ちの方で、売れば損する場合、今であれば給
与所得とか不動産所得などと損益通算ができます。しかし、これが今回改正され4月以降から通算できな
くなります。損が出ても切り捨てになってしまいます。
ですから含み損のあるゴルフ会員権をお持ちの方は、3月末までに売っていただかないと通算ができま
せん。これが一点。
もう一つは「相続税の取得費加算の特例」です。相続した財産を、相続開始から3年10ケ月以内に譲
渡した場合、払った相続税を経費としてみるというのがこの特例です。
土地を売った場合の相続税の算式は、《実際に払った相続税額×(相続した土地全部/相続した財産全
部)》で、売っていない土地まで含めて相続した土地は全部売ったとみなして、これまで計算していました。
このように土地に関してはかなり優遇されていたのですが、今回これが改正され、土地も他の財産と同
じように売った分だけしか入らなくなりました。
この改正は相続税の改正とセットですので、平成27年1月1日以降に起こった相続で取得した分から
の適用となります。先の話ですが、意外と大きな改正かと思います。
2.相続税の基礎
◎税収と課税割合
グラフは「相続税の課税割合及び相続税・贈与税税収の推移(資料-1)」です。相続税を払った人の割
3
合ですが、ピ-クは昭和62年の7.9%。その後アップダウンはありますが6~7%といった値で、国税
庁が“適正”と考えている数字で推移しています。このくらいの割合で、相続税をかけたいと国税庁は思
っているようです。
バブル期、土地価格が急激に上がっていったのに比例して基礎控除額も増やしていったのですが、その
後、土地価格だけが大きく下落していったため、課税割合はどんどん下がっていきました。その結果、平
成23年では4.1%にまで下がりました。近年はだいたい4%台での推移になっていますが、これを本来
の6%あたりまで戻したいとして、相続税の基礎控除の引き下げが行われることになっています。
大阪府における税務署別の課税割合を示した資料(省略)を見てみますと、No.1は東税務署、南税
務署合わせた中央区です。No.1といっても課税件数はたったの61件です。会社は数多くありますが、
住んでいる人は少ないようです。ここでの課税割合は約10%です。2位が天王寺の42件、課税割合は
8.3%。一番件数が多いのは3位豊能の398件です。豊中、池田、箕面といった地域です。課税割合は
約8%です。このあたりにお住まいになるとあまり目立たないということでしょうか。
一番低いところは西成区、港区・大正区で、課税割合は1.6%です。西成区で40件。それでも西淀川
区の17件よりは多い。
◎相続税の申告スケジュ-ル
相続税の申告書はいつまでに作成して、いつまでに税金を納めなければならないかというスケジュ-ル
ですが、相続が起きてまず考えなければならないのは「相続放棄」です。これは3ケ月以内ですから、借
金が多い方は、この期間内に裁判所で放棄の手続きをしないと、借金も相続することになります。
次は、亡くなられた方の「所得税の申告」をしなければなりません。これは4か月以内です。この時、
忘れがちなのが相続人の青色申告の届出です。不動産所得のある方が亡くなって、お子さんたちが収益物
件を引き継ぐ場合、このタイミングで青色申告の届出を出しておかないと、1年目は白色になってしまい
ます。青色申告の特典が受けられなくなりますので、所得税の申告時に合わせて青色申告の届け出もして
おくことが、注意点になってきます。
そして10ケ月以内での相続税の「申告・納付」ということになります。
◎相続税の申告の要否判定
次に、相続税の申告が必要かどうかの判定をしなければなりませんが、相続財産が基礎控除額以内であ
れば、当然申告は不要です。
そこで相続財産の洗い出しをします。まずプラスの財産を全部集計します。不動産、株、現金等を全部
足していきます。
その際、注意点は、
「死亡保険金」と会社からの「死亡退職金」は、相続人一人当たり500万円の非課
税枠がありますので、この分は先に引いて頂いて結構です。例えば相続人が3人いて、生命保険金が1,
500万円入ってくれば、先にこの1,500万円は引いて0として計算します。
ここで引いてはいけないのは「小規模宅地の減額」です。これは申告して初めて引くことができますの
4
で、この段階では引けないル-ルになっています。
次にマイナス財産がいくらあるかを計算します。具体的には「債務」と「葬式費用」です。債務は、相
続開始日までに亡くなった方が払わなくてはならないもので、それを死後に子供たちが払ったものです。
当然、相続開始後に発生した費用は債務にはなりません。例えば、賃貸マンションを相続して、どう分
けるかはまだ決まっていない段階でも誰かが管理します。その間に、修繕等が発生してお金がかかった。
この費用は最終的に相続した人が払うのですが、相続税の計算上は債務にはなりません。相続前に発生し
たものしか債務控除できません。
葬式費用は、一般的に亡くなってから10日間くらいの間に出費した葬式に関連する一切の費用です。
お寺さんに払うお金も含まれます。通常、お寺からは領収書は出ませんので、税理士は皆さんから「〇〇
寺にいくら払った」というメモ書きを頂き、それを申告書に添付します。
この場合、葬式の日に行う初七日分の費用はOKですが、本来の初七日に執り行えばそれは費用とは認
められません。四十九日もだめです。後でかかるそういった費用は一切入りません。
その他では、納骨を2回するような場合です。大阪で1回納骨して、後で地元の寺でもう1回というよ
うな場合ですが、この2回目は認められません。相続が発生してから1週間か10日間の間のものでなけ
れば、ここには入ってきません。
それからお墓代も葬式費用には入りません。ですからお墓は生前に買っておいてください。1千万円の
お墓を買えば、墓自体は非課税財産ですので、その分財産は減ります。これも1つの相続税対策です。亡
くなった後に、相続人が買っても債務にはなりません。
このようにプラス財産とマイナス財産をすべて計算して、差し引きして、基礎控除額を下回れば申告は
要りません。逆に超えたら申告が必要ということです。
税務署はいろいろな書類を持っています。毎年の確定申告書や不動産一覧といった書類を元に、相続税
がかかるかどうかを勝手に判断します。ですから相続税がかかると思われるお宅には、相続が起こって3
ケ月くらい経ちますと、申告書の封筒が送られてきますので、きちんと申告してください。
◎死亡保険金と死亡退職金、配偶者の税額軽減
先ほど申し上げたように「死亡保険金」と「死亡退職金」は、それぞれ500万円掛ける法定相続人の
人数分の非課税枠がありますので、両方をフル活用してください。
生命保険は相続人が3人いれば1,500万円まで非課税ですし、会社経営されている方は、亡くなっ
たら必ず死亡退職金を会社から1,500万円出しましょう。そうすれば、1,500万円無税で相続人
は貰うことができます。さらに、会社も退職金を1,500万円出せば、株の評価がその分下がります。
このように2つのメリットがあります。
「配偶者の税額軽減」とは、配偶者が取得した財産が法定相続分か1億6千万円のいずれか大きい金額
までは税金をかけない制度です。財産が10億円あっても、半分の5億円までは税金がかかりません。
ただし、法定相続分ですので、2分の1であるとは限りません。子供がいれば2分の1ですが、子供が
いなくて、相続人が奥様と兄弟であれば、奥様の法定相続分は4分の3になります。4億円の財産があっ
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ても3億円までは税金がかからないということです。
もし、相続人が奥様だけであれば、奥様の法定相続分は1になりますので、全額非課税になります。天
涯孤独の方と結婚すれば、その方が亡くなれば全額無税で相続できるということです。
◎相続税の計算方法(資料-2)
では、相続税はどのように計算するかですが、プラス財産からマイナス財産を差し引いて、さらに基礎
控除を引きます。その残りに対して相続税がかかります。
具体例で詳しくみていきます。課税財産を3億8千万円とします。財産は4億円ですが、マイナス財産
2千万円あったので、この分を差し引いた額です。法定相続人は配偶者と子供2人の合計3人。これを法
定相続分通りに分けますと、配偶者が半分の1億9千万円、子供2人は4分の1の9,500万円ずつの
相続となります。
ここから相続税の計算をしていきますが、プラス財産4億円からマイナス財産2千万円を引いて、さら
に基礎控除8千万円(5千万円+1千万円×法定相続人の数3名)を引いた残り3億円に対して相続税が
かかります。
税額の計算は、この3億円をどのように分けたかは一旦無視して、まず法定相続分で分けたと仮定して
計算します。奥様は半分の1億5千万円、子供はそれぞれ4分の1の7,500万円ずつ相続したとしま
す。ここで相続税の税率を当てはめますと、1億5千万円は40%かけるマイナス1,700万円で税額
は4,300万円。子供は7,500万円に30%かけるマイナス700万円で1,550万円になりま
す。これが各自に出てきた相続税額です。これを全部たしますと7,400万円です。この7,400万
円が、この一家が払うべき相続税になります。
ちなみに実効税率は、遺産3億8千万円に対して税額7,400万円ですから19.5%、約2割となり
ます。
次に、これを3人でどのように負担するかの計算に移ります。この7,400万円を貰った割合で負担
します。配偶者は半分を相続したわけですから、7,400万円の半分の3,700万円を負担します。
子供たちは4分の1の1,850万円ずつを負担することになります。
しかし、配偶者には税額軽減があり、法定相続分の半分までは相続税はかかりません。ですから本来負
担すべき3,700万円はなくなり、奥様の相続税はゼロです。子供はそのままですので、2人合計で3,
700万円を負担することになります。
ですから、先ほど法定相続分で計算した際の子供2人の相続税3,100万円(1,550万円×2)
よりは、この例では2割ほど高くなります。それでも実際に納付する金額は、3億8千万円の遺産に対し
て1割弱の3,100万円です。
3.平成25年税制改正~相続税~
◎基礎控除は4割カット
税制改正で平成27年から相続税の基礎控除が4割カットされます。現行は相続人が3人の場合、基礎
6
控除は8,000万円ありますが、これが4割カットされ4,800万円になります。ということは3,
200万円も財産が増えたことと同じです。ですから平成27年以降において相続税の負担を変えないよ
うにするためには、この3,200万円を減らしておかなければなりません。その減らし方については、
後半でお話します。
《資料-3》は「地価公示価格の推移と基礎控除の推移」です。バブル期に土地価格が大きく上がって
いくにつれて、(2,000万円+400万円×法定相続人の数)だった基礎控除が、「これでは相続税が
大変だ」と、平成63年から倍に引き上げられました。
それでも当時はまだ地価は上がり続けていましたので、その後の平成4年、平成6年と計3回の改正で、
今の《5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)》にまで基礎控除額が引き上げられました。
しかしながら平成6年に引き上げた時には、もう地価は下り坂に入っていて、結果、相続税の納税額は減
っていくことになったのです。
現在は昭和60年以前の地価水準にまで戻ってしまいましたので、基礎控除も下げて良いのではないか
という判断が働き、今回の改正《3,000万円+(600万円×法定相続人の数)》に至っています。
併わせて相続税の税率も若干見直しをされ、2億円から3億円の間で5%増の刻みを入れ、さらに6億
円超も5%増やしました。相当な資産をお持ちの方は、この高い税率の影響を受けますが、ほとんどの方
は基礎控除が下がる面だけの影響になるかと思います。
なお、先ほど申し上げた死亡保険金の非課税枠はフルに使ってください。改正で制限が入りそうになっ
たのですが、今回改正は見送りになりました。今まで通り、
《500万円×法定相続人の数》の非課税枠が
残っています。
「生命保険に入りましょう」と言っても、年齢が高くて入れない、あるいは病気で入れないという場合
もあります。その時は、年金保険に入ってください。年金保険は健康状態は関係ありませんし、年齢も8
5歳くらいまでなら入れます。
ただし、年金保険の場合は、据置期間中に亡くならないと死亡保険金にはなりません。据置期間を延ば
しておけば、その間に相続が起これば死亡保険金になって500万円枠が使えます。
据置期間が終わって年金として返ってくると、もうこれは保険ではありません。残念ながら節税効果は
ありません。しかし損はしませんので使える可能性があるのであれば、年金保険で据置期間をなるべく長
めに取って、入って頂ければと思います。
◎改正による相続税額への影響
では改正によってどのような影響が出てくるのでしょうか。
基礎控除が下がった分だけ、課税遺産総額が増えます。先ほどの例でいえば、課税遺産総額3億円だっ
たのですが、それが3億3,200万円に増えます。では税額は一体いくらになるか。
先ほどと同じ計算を順番にしていただきますと、相続税は全部で8,520万円になりました。改正前
は7,400万円でしたので、1,120万円の増加です。最終的には子供2人で4,260万円になり
560万円の増税となります。高級車1台分ですので、贈与して減らさないといけませんという話です。
7
4.財産評価で節税
◎財産評価の基本
財産の評価ですが、不動産は土地と建物では評価方法は異なります。土地は「自用地」、「貸地」、「貸家
建付地(マンションを建てて貸しているような土地)」の3つに分かれますが、基本は路線価に基づいての
評価で、路線価に面積をかけて算出します。
ただし、田舎にいきますと、路線価が設定されていませんので、その場合は固定資産税評価額に一定の
倍率を掛けて算出することになっています。
「自用地」とは、自分が使っている土地で100%評価になります。他人に貸している土地が「貸地」
で、その人が建物を建てている土地は借地権が付いていますので、貸地は借地権を引いた価格での評価に
なります。借地権は一般的に6割ですので、6割を引いた残りの4割評価となります。
「貸家建付地」は、自分の土地の上に建物を建てて、誰かに貸している土地です。貸家建付地になれば
2割減額されます。
次は、建物です。建物は「自用家屋」と「貸家」の2つに分かれます。どちらも固定資産税評価額を基
にして、自用地は100%評価、他人に貸している貸家は3割の借家権を引いた7割評価となります。
なお、息子がその土地に住んでいても、子供から家賃を貰っていなければ自分で使っているのと同じで
100%評価されます。3割の借家権を引こうと思えば、家賃を取ってください。しかし、家賃を貰えば
不動産所得が発生します。すべてが上手くはいきません。
◎評価額の引き下げ=建物を建てる
一番簡単な相続対策は、財産の組み換えです。更地評価で1億円する土地に、手元現金あるいは借り入
れ5,000万円でアパ-トを建てます。どのように評価が変わるのでしょう。
まず建物の評価ですが、建物は建った瞬間に約半分になります。ですから5,000万円をかけて建て
た建物は、固定資産税評価額は2,500万円から3,000万円くらいに下がります。
さらに、その建物を賃貸にまわすと、3割の借家権がつきますから、2,500万円から借家権割合3
割を引いた残り1,750万円になります。
同時に敷地である土地評価も減額となります。もともとは自用地でしたから、100%評価で1億円だ
ったのですが、ここに建物を建てることによって貸家建付地の扱いになり、
〈借地権×借家権割合〉を引く
ことができます。借地権割合70%の地域であれば、21%(=70%×30%)の引くことができ、1
億円の土地は7,900万円に下がります。
この対策をとることによって1億円の土地は21%引きの7,900万円に、建物は5,000万円か
けて建てるのですが評価は半分になり、さらにそこから借家権3割引いた1,750万円になります。
建物を建てたお金は、手元資金であろうと借入金であろうと持ち出しになりますので、マイナス5,0
00万円です。
この3つを足しますと4,650万円(=7,900+1,750-5,000)になります。ですか
8
ら何もしないと1億円。5,000万円の建物を建てて、人に貸せば4,650万円ということで、財産
は半分以下に圧縮できました。これが賃貸用建物を建てた場合の効果です。
当然ですが、相続税がいくら安くなっても、マンション経営が採算に乗らなければ何の意味もありませ
ん。家賃が入って採算に合うとの計画のもとで建築するのが大前提です。
◎建物を建てて後継者に贈与を
もう一つ、意外と知られていませんが、建物を建てた後に後継者に贈与する方法があります。お父さん
がまだ若ければ、建物を建てたが家賃はどんどん溜まってきますので、余計に財産が増えてしまいます。
そんな時は、建物を建てた後にお子さんに贈与するのです。
建物を贈与すると本来5,000万円ですが、それが相続税評価で1,750万円に下がりますから、
相続時精算課税制度の2,500万円枠を使って、とりあえず非課税で贈与してしまいます。
それで建物は子供所有になるのですが、土地はお父さん所有のまま構いませんし、地代を払う必要もあ
りません(使用貸借)。ただし、土地の評価は自用地になるので、評価額は1億円のままになってしまいま
す。
ただし、建物を後継者に贈与しても、借主が変わらなければ貸家建付地評価のままです。つまり、贈与
した後、入居者がずっと同じ人だったらということですが、通常それはかなり難しいかもしれません。し
かしながら、マンションではなくて貸ビルとか貸事務所であれば、店子さんが同じということもよくあり
ます。そうであれば貸家建付地評価が使えます。従って、入居者が変わらないような物件であれば、効果
は高いということです。
◎広大地を見逃すな!(資料-4)
相続税での申告で一番漏れやすく、また漏らしてはいけないのが広大地です。相続税の減税を考えた場
合、外してはならないポイントです。
では、そもそも広大地とは何か。広くて大きい土地ということですが、一般的に広大地とは1,000
㎡以上の土地を指しますが、三大都市圏内であれば500㎡以上で広大地に該当します。少し大きなお屋
敷に住まれていれば500㎡位の広さは結構あるかと思います。
この広大地は面積に路線価をかけ、そこに「広大地補正率」をかけて算出します。
なぜ補正率をかけるかというと、それは大きな土地の場合、戸建て分譲開発しようとすれば、敷地内の
どこかに1本道を入れないと宅地開発できない場合が多いからです。すなわち道1本分の土地は売れない
土地です。
“潰れ地”になってしまいますので、財産評価を行う場合、その分を引きましょうというのが法
の主旨です。
従って、新たな道路付けをしなくても開発ができる土地であれば、広大地の特例は認められません。
広大地の認定を受けるには要件がいくつかあります。1つ目は、その地域における標準的な画地に比べ
て著しく地積が大きいことです。三大都市圏では500㎡以上です。2つ目は、この土地が戸建分譲住宅
用地に適していること。つまりマンションよりも戸建住宅が適当であると思われる地域です。周りがマン
9
ションばかりの土地であれば難しいということです。
問題は3つ目です。開発行為を行う場合、道路を入れたり公園を入れたりするなど公共公益施設用地の
負担が必要ということです。この“潰れ地”が出てこなければ、減額する必要はないということです。
では、実際どのくらい評価が下がるかというと、地積が1,000㎡で広大地補正率は基本0.6です。
それに1,000㎡分の何㎡あるかということで、そこから0.05減額されますので、この例では補正率
は0.55になります。結果的に45%の評価減になります。かなり大きな評価減になります。計算式は《広
大地補正率=0.6-0.05×広大地の地積/1,000㎡》です。これが1億円もする土地だと、納税
額では何百万円、何千万円違ってくることもあります。
5.小規模宅地等の特例(資料-5)
小規模宅地の評価額を減額する制度が「小規模宅地等の特例」です。まずは自宅をご家族が相続される
場合、この特例が適用されます。それから仕事・事業に使っている土地もその対象になります。個人でも
会社でもどちらでも結構です。そういう土地を相続し、あるいは事業を引き継いだ場合、その土地の評価
が減額されます。誰かが何かを継ぐという前提で評価が下がります。
自宅や事業地は生活の基盤ですので、こういう資産に対して全てに税金をかけると、その後の生活が困
るでしょうということで、この特例ができています。
対象地は主に4つです。まずは「特定事業用宅地」です。例えばお父さんが不動産屋をしていた。個人
事業主です。そのお父さんが亡くなった後、息子さんが不動産屋を引き継いだ場合、その事業用地を40
0㎡まで80%減額されます。親から事業を引き継ぐことが要件になります。
次は、その事業を個人ではなくて会社組織としてやっている場合です(特定同族会社事業用宅地)。中身
は「特定事業用宅地」と同じです。ただ後を継がれる方が、その会社の役員であること、株を一族で50%
超持っていることなどの要件があります。
3番目は「特定居住用宅地」。自宅です。お父さんが住んでいた家を、子供がそのまま引き継いで住む場
合、240㎡まで80%減額されます。
4番目が「貸付事業用宅地」です。これは上記に該当しない不動産貸付業です。例えば賃貸マンション
を経営している、あるいは駐車場を貸しているといった不動産賃貸業の場合です。この場合は200㎡の
50%しか引けません。引ける額は随分減ってきますが、引けないよりは引けた方がいいかと思います。
◎特定居住用宅地
では「小規模宅地等の特例」のうち、特定居住用宅地の要件について少し詳しく見ていきます。
特定居住用宅地は、被相続人等の居住のために利用されていた宅地等で、要件を満たす人が取得した場
合には、240㎡まで80%減額することができます。また、要件を満たす人は、まず「配偶者」です。
配偶者は無条件で8割引きです。無条件というのは、その家に引き続き住まなくてもいいのです。相続さ
えすれば、すぐに売っても構いません。売ったお金で高級老人ホ-ムに入っていただいても結構です。
次は「同居親族」です。この場合、亡くなった時点で同居していることが1つ目の条件です。2つ目が、
10
申告期限まで保有、居住していることです。亡くなった後10か月間だけはそこに住んでください。その
後は売って頂いて結構です。
次は、
「3年内家なき子」です。配偶者も同居の親族もいない場合です。まず配偶者がいないわけですか
ら二次相続しか該当しません。さらに子供が同居していないということは、子供だけの相続で、全員別居
している場合です。
さらに相続開始前3年以内に持ち家に住んでいないことです。ですから「3年内家なき子」と言います。
持ち家に住んでいないという意味は、家を所有していても、そこに住んでいなければいいのです。賃貸マ
ンションに住んでいればいいのです。自分の持家に住んでさえいなければいいのです。
もう1つの条件は、申告期限までは売ってはいけません。保有し続けてください。実家に住む必要はあ
りませんが、売らないでください。ですからこれを適用するには、早めに家を売るか、あるいは貸すかで
す。自分は賃貸マンションに住めばいいのです。
要件を満たす人のもう一つは、生計一親族が取得する場合です。8割引ける場合は、土地はすべてお父
さんの土地でしたが、今回は引く土地が違います。お父さんは自分の土地も持っていますが、息子さんの
家の敷地もお父さん所有という場合です。
一番簡単な例は、お父さんの土地に隣り合わせで親子が別棟で住んでいるような場合です。この場合で、
お父さんと子供の生計が一であれば、要件を満たして、子供が住んでいる方の土地が8割引けます。少し
特殊な場合かと思います。
隣り合わせに住んでいれば生計一ということは当然あるでしょうが、では車で30分くらいのところの
父親所有の土地に住んでいるような場合、生計一と言えるかと言うと、子供が親の面倒を見ているかどう
かで判断されます。足しげくお子さんが実家に通って、お父さんの世話をしていれば、生計一と言えます。
何もししていなかったら生計一にはなりません。その時は8割引きはありません。
◎「特定事業用宅地」適用のポイント
「特定事業用宅地」を適用する上での間違いやすいポイントを指摘しておきます。
まず一つ目。子供が相続開始後に事業を変えた場合は適用されません。例えばお父さんが生前、内科医
をしていた。父の死後、診療所を相続した子供は内科を辞めて歯医者として開業した。
この場合、他の要件を満たしていても事業内容を内科から歯科に変えたので8割減額はできません。内
科だったら内科を続けて下さい。循環器科になるのならOKかと思いますが、歯医者は全く違います。も
し診療科目を変えたいのであれば、相続税の申告が終わってからにしてください。申告後であれば問題は
ありません。
問題は次です。生前に事業承継を完了していた場合です。
父は自動車整備業を営んでいた。事業主は父で、父の名前で申告をしています。子供もそこで一緒に働
いていて青色専従者給与を貰っていた。それがお父さんは高齢のため引退、事業主でもなくなった。子供
が事業を引き継ぎ、新たに事業主になった。子供は自分の住居を持っていて、父とは別に暮らしている。
ここで相続が起こった場合、8割引けますか?ということです。
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このケ-スでは認められません。なぜなら相続で事業を承継していないからです。生前に事業を承継し
てしまうと、親の事業を引き継いだことにはなりません。
ただし、生計が一緒だったら認められます。同居していれば生前に引退してもらってもいいのですが、
生計が別の場合、引退してもらっては困るのです。
ですから生前に完全に引退しないで、相続開始時までは事業を続けるようにするか、あるいはお父さん
と一緒に住んで、同一生計にするかです。そうしないと8割引きは取れません。
またお父さんには死ぬまで事業主でいて頂きたい。そしてずっとお父さんで申告していただきたいので
す。実際は、子供がたくさん給料を取ってもらってもいいのです。しかしあくまでも事業主はお父さんで、
死んでから子供に変えていただく。生前に変えてしまうと事業継続にならず、8割引きの特典は使えませ
ん。
6.小規模宅地等の特例の見直し~税制改正~
◎特定居住用宅地の面積の拡大
この小規模宅地等の特例部分が、今年の税制改正で唯一減税になりました。特定居住用宅地(自宅)で
は、8割引きの面積が従来の240㎡から330㎡まで拡充されました。自宅が広い方は減税になります。
なお、この小規模宅地の特例は、特定事業用とか特定居住用とかいろいろありますが、一つの宅地で面
積が満たさなければ、他のものとも併用できる制度にもともとなっています。
ということは、自宅が元々240㎡の人にとって、面積が330㎡に拡充されたところで何の減税にも
なりませんが、しかしこの人が別途駐車場を持っていたらどうなりますか?
今まで自宅部分で240㎡
フルに使っていますから、もう駐車場の方へは減額制度が回らなかったのですが、今回330㎡に拡大さ
れると、330分の240までしかまだ特例を使っていなせん。つまり72%しか特例を使っていないの
で、残りの28%がまだ未使用で余っているのです。
ですから駐車場とか賃貸アパ-トを持っている方は、そちらの方で残りの28%分は50%引きが取れ
ます。200㎡の28%ですので、56㎡部分は50%引きができるのです。
こういう減税が可能になってきますので、単純に「我が家はそんなに広くないので何も変わらない」と
思われずに、他に事業用地を持っている方は、余りが出てくれば、そちらから引けるようになりますので、
意外と減税になる方も多いのではと思います。
◎特定事業用宅地等との完全併用
なお、今現在は自宅もあって、事業をやっている土地もある場合、いずれか一方でしか8割引ができま
せん。ただし、面積が余ればもう片方にも使えます。ということで特定居住用と特定事業用宅地は限定併
用が可能です。どちらかの面積を満たせばそれで終わりです。
ところが、改正後は完全併用できるようになりました。特定居住用で330㎡を使った上に、特定事業
用宅地で400㎡まで使えるようになりました。さらに自宅で240㎡しか使えなければ、先ほどの例の
ように56㎡を駐車場でも引けるということで、3つも併用できることになりました。
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この特定事業用宅地の特例は是非使っていただきたい。個人で事業をしている方は、両方引けますので
問題無いのですが、問題は会社でやられている場合です。土地も建物も会社所有で相続財産が無い場合は
そもそも引けません。そんな場合は、会社で持っている土地を個人に売ってください。個人財産にしてお
けば、そこから8割引きが取れます。大きな相続対策になってきます。
◎二世帯住宅への適用緩和
二世帯住宅を後押しするための特例も改正になっています。
子供が8割引できるのは同居が条件です。しかしながら、同居といっても嫁姑問題もありますので、1
戸の家の中に同居する訳にもいかない。そこで完全に独立した二世帯住宅にした場合、8割引きが可能か
どうかです。
今現在の相続税法では、家の中で行き来ができない二世帯住宅は同居とはみなさないとしています。今
回そこに改正が入り、家の中で行き来ができない二世帯住宅でも同居とみなすことに変わりました。です
から、外階段でしか繋がっていない完全独立した二世帯住宅であっても、その敷地全体が小規模宅地の特
例の適用対象になり、8割引きが取れるようになります。平成26年からの前倒し改正です。
◎老人ホ-ム入居時の要件緩和
もう一つ改正がありました。同居していたお父さんが老人ホ-ムに入った場合、同居になるかという問
題です。
今までも基本的には同居と考えていましたが、ポイントは、いつ老人ホ-ムから帰ってきてもいいよう
にお父さんの部屋をそのままの状態で残しているかどうかでした。帰ってくるつもりだからこそ“同居と
みなします”ということでした。帰ってくるつもりがないのであれば、それは自分の家ではないというこ
とで、同居とは認められなかったのです。
つまり今の法律では、老人ホ-ムの所有権や終身利用権を持っていないことが要件に入っていて、ここ
がネックになっていました。こういう権利を持っていると「もう帰ってくるつもりはないでしょう」とい
うことで、同居とはみなさなかったのです。
今回ここにも改正が入って、終身利用権を取得していたとしても同居とみなされることになりました。
要件緩和の改正です。
7.贈与税の改正内容
贈与税には2つの制度があります。一般的な贈与で、110万円までの贈与には税金がかからない「暦
年贈与制度」と、もう1つが「相続時精算課税制度」です。これは一生のうち2,500万円までは非課
税で渡してもいいが、将来相続が発生したら、その時に渡した財産は相続財産に戻して相続税として払っ
てくださいという制度です。早く財産を渡すことはできますが、節税にはなりません。後で相続税として
もらいますという仕組みです。
ですから、大きな額を贈与するときは、精算課税制度を選んでいただき、小さなものを少しづつ贈与す
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る時は暦年贈与を選んでいただく。こういう選択肢になっています。
今回この精算課税制度にも改正が入りました。贈与者の年齢が従来65歳以上の祖父母、父母からだっ
たものが、今回60歳以上の祖父母、父母となり、受贈者も従来の20歳以上の子供から、今回20歳以
上の子供だけではなく孫までOKとなりました。平成27年から適用されます。
その他の大きな改正としては、
「教育資金の一括贈与特例」ができました。ただし、毎年生活費を含めて、
学費をその都度必要分を贈与するのは、今でも非課税になっています。
しかしながら、孫が小さな時から大学を卒業するまで、おじいちゃんが長生きすれば、毎年学費を贈与
できますが、早く亡くなってしまいますと、学費を全部出してあげられません。結果として必要分を贈与
できないまま亡くなってしまいます。そうならないための制度が、この特例です。
この教育資金一括贈与は、一度に1,500万円まで無税で贈与できます。今日銀行に行って、この贈
与契約をして、1,500万円を孫に振り込んだ帰り道に、交通事故で亡くなったとしても、贈与額は非
課税で認められます。
長生きすれば結果は同じですかが、長生きしなかった場合の保証です。確実に渡せるという保証です。
ですから孫二人に1,500万円ずつ贈与すれば、それだけで3,000万円財産が減ります。これで
相続税の基礎控除が下がった分は補てんできます。一番簡単な節税対策です。
8.生前贈与による相続税対策
◎大きな金額を贈与する方が有利な場合
次は別の相続対策です。
まずは“コツコツ贈与”です。贈与というのはやはり長年かけてお子さんお孫さんに少しずつ贈与して
いくのが、昔から変わらないオ-ソドックスな方法です。その際のポイントは、ではいくらずつ贈与して
いけばいいのかということです。110万円までなら非課税なので、それが一番得のように思いますが、
必ずしもそうではありません。200万円、300万円、400万円、500万円と増やしていった方が、
得な場合もあります。
結論的にいえば、贈与税と相続税のどちらが高いかです。贈与税は一律ですから計算は簡単です。しか
し相続税の方は、財産の額、家族構成によって税率が違ってきますので、その税率が分からないと両者の
比較検討はできません。
ということでまず現状、相続税がどのくらいかかるかの試算を行わないと、この話はスタ-トできませ
ん。
そこで仮にお母さんと子供一人の家族で、お母さんが亡くなった場合で、相続税と贈与税の関係を見て
みます。お母さんは3.6億円の財産をもっています。基礎控除は6千万円ですので3億円に対して税金が
掛かりますが、子供は1人しかいないので3億円もろに税金が掛かってきます。
遺産3億円では相続税の最高税率は40%までいきます。相続税は積み上げ計算です。最初の1,00
0万円までは10%、次の2,000万円は15%、次の2,000万円は20%と少しずつ税率が上が
っていって、結果この場合は最高40%までいきます。1億円を超えた2億円分は全て40%の税金がか
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かります。
そういう条件のもと、この人が今日子供に1,000万円贈与したとします。贈与税は231万円にな
ります。税率は23.1%です。ところが同じこの人の相続税は、今申し上げたように最高で40%の税率
になります。
ということは、この人は今1,000万円贈与すると贈与税は231万円かかりますが、相続税で将来
払えば400万円もかかってしまうのです。つまり今贈与した方が、差し引き169万円安くなるのです。
税率の高い方は、この人のように1,000万円贈与して231万円払ったとしても、それでもなお贈
与する方が得なのです。贈与する度に169万円の節税になります。今231万円もの大金を払うことが
良いのかどうかは別として、こういう考え方で贈与を見ることも大事かと思います。
この人の例で試算しますと、300万円贈与で101万円の節税になります。500万円贈与で147
万円の節税です。同様に700万円で168万円、1,000万円で169万円の節税です。
こうやって見ていくと、この方が贈与する適正額は500万円から700万円位かなと思います。これ
くらいの額の贈与が、一番お得感があるかと思います。
110万円毎年コツコツ贈与していってもいいのですが、財産を一杯持っている方は、それでは焼石に
水です。思い切って毎年500万円ずつ渡していく。そうすると、贈与する度に毎年147万円ずつ税金
が減っていきます。そういうことです。
◎計算例でのご紹介
今ご紹介したように贈与税で払うか、相続税で払うか。そのどちらが損か得かは、その人の相続税の限
界税率(その方が適用される一番高い税率)を計算しなければ分かりません。そこで、簡単に分かる「限
界税率の早見表(資料-6)」を作ってみました。
この早見表で、父母に子供2人の一般的な家族構成で、財産3億円の場合を見てみますと、2億8,0
00万から3億4,000万円までに該当しますので、限界税率は27.5%になります。
この人の限界税率が27.5%とわかったところで、次に生前贈与によって相続税がどれほど軽減される
かですが、その一覧表(資料は不掲載)も作ってみました。具体的には310万円贈与した場合、510
万円贈与した場合、710万円贈与した場合、1110万円贈与した場合の4パタ-ンで計算を行ってい
ます。
事例は限界税率27.5%です。この人の場合、310万円の贈与で65.3万円得します。510万円
贈与では85.3万円の得です。710万円の贈与では80.3万円ですので、得する金額は少し落ちます。
ですから限界税率27.5%の人は、500万円くらい贈与するのが一番得するという結果になりました。
以上を簡単にまとめますと、相続財産が2~3億円以上の方では、だいたい300万円から500万円
あたりが一番お得なゾ-ンではないかということがわかります。これ位の額を思い切って贈与されるのも
相続対策の一つです。
◎誰に贈与するのか?
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ではだれに贈与するのがいいか。もちろん誰にしていただいても結構です。ご家族全員にばらまくのも
いいのでしょう。しかし一番効果が高いのはやはりお孫さんへの贈与です。孫に贈与すれば、当然ながら
世代を一代飛び越します。親から子で1回、子から孫へと合計2回相続税がかかります。だったら最初か
ら孫へあげてしまえば、相続税は1回減ります。長生きすればひ孫にも贈与できます。贈与の相手は0歳
でもできますから、生まれた時から、毎年コツコツされていけば相当な節税になります。
なお、相続税には厄介な法律があります。贈与して財産から外したと思っても、贈与後3年以内に亡く
なると、全部相続財産に戻さなければなりません。“3年内贈与加算”といわれるものです。
法の文言は、相続人(受遺者を含む)が、相続開始前 3 年以内に贈与を受けた財産を相続財産に加算され
る、となっています。ということは、相続人ではない方が貰った分は該当しません。相続人ではない家族
とはお孫さんです。お嫁さんでも結構ですが、お孫さんの方が一代飛びますので有利だと言えます。
その他では、贈与はこの3年内加算であるので、大概の方は今頃になってそろそろ今年も贈与しておか
ないと思われるようですが、それでもいいのですが、できれば1月にしてください。1月にすると3年内
加算に引っかかる確率が1回減ります。亡くなった日からぴったり3年遡りますので、1月1日に毎年贈
与しておけば、1月1日に亡くなられない限り1回外れます。年末にしますと1年長引きます。1月から
12月の間、いつ贈与しても一緒ですから、だったらぎりぎりにしないで最初にしたおいた方が1回引っ
かかりません。贈与は1月にすることをお勧めします。
◎贈与税の非課税制度の活用
贈与税の非課税制度にはいろいろありますが、基本的には使えるのは扶養義務者からの生活費や学費の
贈与です。
扶養義務者は、親戚まで含めた家族の中で困っている人がいれば学費や生活費を援助してあげなさいと
いうことです。身内だけではなく親戚も含めます。ということで、子供の学費は、おじいちゃんおばあち
ゃんに全部出してもらってください。これも相続対策です。
◎住宅取得資金の贈与
「住宅取得資金の贈与」制度は、来年26年の1回しか残っていません。もしかしたら延長されるかも
しれませんが、一般住宅の場合は500万円までの贈与は非課税です。認定優良住宅の場合なら1,00
0万円まで非課税です。これは是非使っていただきたい制度です。
ポイントは、贈与を受けた翌年3月15日までに居住していることです。ただし注文住宅の場合は、建
築中でもOKです。
それに対して、建売住宅やマンションは3月15日までに鍵の引き渡しを受けないと適用されません。
◎贈与税の配偶者控除
「贈与税の配偶者控除」制度もあります。結婚20年目のプレゼントとして奥様に自宅をあげてはいか
かですかという話です。結婚して20年以上経っているご夫婦であれば1回だけ使えます。
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基礎控除の110万円を含めて2,110万円分は名義を奥様に替えることができます。建物は老朽化
しているでしょうから価値はほとんどない。そこで土地をプレゼントされたらと思います。路線価評価で
3,000万円だとして、3,000万円分の2,110万円の持ち分を奥様に贈与されれば、その分は
相続財産から減ります。
問題は、登録免許税と不動産取得税がかるということです。2,000万円分を贈与しますと、大体6
0~70万円くらいの費用は残念ながらかかってしまいます。
なおこの2,000万円の配偶者控除と住宅取得資金贈与は、ともに3年内贈与加算制度には該当しま
せん。そういうメリットもあります。
◎贈与契約書の雛形
贈与される場合は、できれば申告してください。申告しない場合は、贈与契約書を書いて残しておいて
ください。そうでないと、後で相続税の税務調査が来たとき、贈与ではないと否認される場合があります。
どちらかをきちんと残しておいて下さい。
申告していれば贈与契約書まではいりません。ですから申告が一番いいのですが、110万円以下の贈
与であれば、証拠としての契約書作成をお願いします。
会社の株を贈与する場合も必ず贈与契約書を作って、確定日付も取っておいてください。公証役場にい
って700円払って、確定日付を取っておく方が無難です。
株式の移動は、何時動かしたのかどこにもその日付は出てきません。確定日付のない契約書だと「最近
作ったのではないか」と疑われても、反論のしようがありません。お互い証拠はありませんが。そういう
無駄なトラブルを避けるために、株式の贈与など、日付が残らないものを贈与する場合は、必ず契約書を
作って、確定日付を取るようにしてください。
(終わり)
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(資料1)相続税の課税割合及び相続税・贈与税収の推移
出典:財務省「相続税、贈与税など(資産課税等)に関する資料(平成25年5月末現在)」より
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
より本資料の内容とは異なる取り扱いがなされる場合がありますのでご留意ください。対策の立案・実行は税理士・弁護士の方々と十分にご相談のうえ、ご自身の責任においてご判断くださいますようお願い申
し上げます。
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(資料2)相続税の計算方法(具体例)
【前提条件】
◆ 課税財産:380百万円(400百万円▲20百万円)
◆ 法定相続人 → 配偶者
⇒ 190百万円
子供二人 ⇒ 95百万円ずつ
① 相続財産の把握
基礎控除
(※基礎控除=5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)
プラスの財産
400百万円
基礎控除(※)
▲80百万円
マイナスの財産
▲20百万円
課税遺産総額
(相続税の対象となる金額)
300百万円
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
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② 法定相続分および税率の適用
課税遺産総額
(300百万円)
(法定相続分で機械的に按分)
×1/2
×1/2
×1/2
150百万円
75百万円
配
子
③ 相続税の総額
×1/2
×1/2
75百万円
相続税の速算表
法定相続人の法定相続分に応じる取得金額
税率
1,000 万円以下
10%
3,000 万円以下
15%
5,000 万円以下
20%
1 億円以下
30%
3 億円以下
40%
3 億円超
50%
子
15.5百万円 15.5百万円
実効税率
74百万円
⑤
−
50万円
200万円
700万円
1,700万円
4,700万円
(最終的に支払うべき相続税の額)
43百万円
④
控除額
各人の相続税額
配偶者
74百万円×1/2=37百万円
子供2人
74百万円×1/4=18.5百万円
19.5%
(380百万円に対し74百万円の税金)
⑥ 納付税額
配偶者
⇒37百万円-37百万円=0
子供2人
⇒18.5百万円ずつ
配偶者の税額軽減
74百万円×190百万円/380百万円=37百万円
37百万円
納付税額
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
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(資料3)地価公示指数の推移と相続税の改正
出典:財務省「相続税、贈与税など(資産課税等)に関する資料(平成25年5月末現在)」より
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
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(資料4)広大地を見落とすな!大幅な評価額引下げ
広大な土地を所有する地主の方は、「広大地」の評価減の適用可能を見落とさないように注意が必要です。
「広大地」として認定されれば土地の相続税評価額を大幅に減額させることが可能となります。
広大地の価額=広大地の面する路線の路線価×広大地補正率×地積
広大地補正率=0.6−0.05×広大地の地積/1,000 ㎡
【面積基準】
■市街化区域
三大都市圏
… 500㎡
■市街化区域
それ以外の地域
広大な土地
1,000㎡
【例】
自用地:50,000千円
戸建分譲
開発道路
…1,000㎡
広大地の地積が1,000㎡の場合
広大地補正率=0.6-0.05×1,000㎡/1,000㎡=0.55
1-0.55=45%減額
広大地の自用地評価額が50,000千円の場合
⇒50,000千円×45%=22,500千円
27,500千円
の評価減!!
広大地の認定を受けるには、下記のような要件を満たす必要があり、単に地積が大きいだけでは広大地の要件を満
たしませんのでご注意ください。
(1)地域における標準的画地に比べて著しく地積が大きいこと
(2)戸建分譲住宅用地であること
(3)開発行為を行う場合に道路・公園等の公共公益施設用地の負担が必要なこと
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
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(資料5)小規模宅地等の特例
名
1
称
特定事業用
相続開始直前の用途
被相続人又は生計一親
族が事業用として使用
被相続人等が株式の
2 特定同族会社事業用 50%超を保有する会社
が事業用として使用
事業/保有の継続要件
面積/減額割合
親族が事業を引継いで申告
期限まで宅地等を保有
400㎡/80%
事業から不動産貸付
業は除く
会社の役員である親族が申告
期限まで保有し、法人は事業
を継続すること
400㎡/80%
会社が不動産貸付業
を営んでいる場合は
適用できない
240㎡/80%
配偶者が相続すれば
居住継続・保有継続
の要件は不要
200㎡/50%
ー
400㎡/80%
郵便局舎の建物は被
相続人等が所有して
いなければならない
①同居親族が居住継続・保有継続
3
4
特定居住用
被相続人又は生計一親
族が居住用として使用
貸付事業用
被相続人又は生計一親
族が不動産貸付業用と
して使用
親族が事業を引継いで申告
期限まで宅地等を保有
郵政民営化法の施行日(H
19.10.1)以前から郵便局舎
の敷地として貸し付けている
引き続き5年以上賃貸するこ
とについて総務大臣の証明
を受けること
5 郵便局舎の敷地
留意点
②生計一親族が居住継続・保有継続
③一定の要件を満たす別生計親族
が保有継続(3年内家なき子)
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
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(資料6) 生前贈与による相続税軽減効果のイメージ
【配偶者ありの場合】
単位:千円
相続人
配偶者1人、子1人
相続人
相続税
限界税率
相続財産額
70,000 超
120,000以下
配偶者1人、子2人
相続税
限界税率
相続財産額
7.50%
80,000 超
100,000以下
120,000 超
130,000以下
【配偶者なしの場合】
相続人
配偶者1人、子3人
単位:千円
相続人
相続税
限界税率
子1人
子2人
子3人
相続財産額
相続財産額
相続財産額
相続財産額
5.00%
90,000 超
110,000以下
5.00%
12.50%
100,000 超
120,000以下
6.25%
110,000 超
150,000以下
6.25%
130,000 超
140,000以下
15.00%
120,000 超
140,000以下
7.50%
150,000 超
160,000以下
8.75%
140,000 超
170,000以下
17.50%
140,000 超
180,000以下
13.75%
160,000 超
190,000以下
13.75%
170,000 超
180,000以下
22.50%
180,000 超
200,000以下
18.75%
190,000 超
220,000以下
16.25%
180,000 超
220,000以下
25.00%
200,000 超
260,000以下
20.00%
220,000 超
270,000以下
18.75%
220,000 超
270,000以下
30.00%
260,000 超
280,000以下
22.50%
270,000 超
290,000以下
20.00%
270,000 超
320,000以下
35.00%
280,000 超
340,000以下
27.50%
290,000 超
340,000以下
22.50%
※相続財産額=
320,000 超
670,000以下
40.00%
340,000 超
480,000以下
32.50%
340,000 超
390,000以下
25.00%
「現預金、土地、建物、上場株式、投資信託等」
670,000 超
720,000以下
45.00%
480,000 超
540,000以下
35.00%
390,000 超
460,000以下
27.50%
720,000 超
50.00%
540,000 超
680,000以下
40.00%
460,000 超
690,000以下
32.50%
680,000 超
1,280,000以下
42.50%
690,000 超
760,000以下
37.50%
1,280,000 超
1,340,000以下
45.00%
760,000 超
1,890,000以下
42.50%
1,340,000 超
50.00%
1,890,000 超
1,960,000以下
45.00%
1,960,000超
50.00%
相続税
限界税率
60,000 超
70,000以下
70,000 超
90,000以下
80,000 超
110,000以下
10%
70,000 超
90,000以下
90,000 超
130,000以下
110,000 超
170,000以下
15%
90,000 超
110,000以下
130,000 超
170,000以下
170,000 超
230,000以下
20%
110,000 超
160,000以下
170,000 超
270,000以下
230,000 超
380,000以下
30%
160,000 超
360,000以下
270,000 超
670,000以下
380,000 超
980,000以下
40%
360,000 超
670,000 超
980,000 超
50%
▲「借入金等の債務」
▲「非課税財産・特例による控除額」
(基礎控除額を控除する前の金額となっております)
注1.相続財産を各相続人が法定相続分で取得したものと仮定し
ております。
注2.配偶者ありの場合の相続税限界税率は一時相続・二次相続
を考慮した場合の限界税率を表示しております。
なお、配偶者固有の財産はないものと仮定しております。
注3.税制改正により、平成27年1月1日以降は、相続税・贈与税
の大幅な改正が決定しておりますのでご留意下さい。
本資料は平成25年4月1日現在の税制及び公表資料に基づいて作成しております。また内容につきましては、情報の提供を目的として一般的な法律・税務上の取り扱いを記載しております。このため、諸条件に
より本資料の内容とは異なる取り扱いがなされる場合がありますのでご留意ください。対策の立案・実行は税理士・弁護士の方々と十分にご相談のうえ、ご自身の責任においてご判断くださいますようお願い申
し上げます。
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