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ナマコ資源管理パイロットプロジェクト

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ナマコ資源管理パイロットプロジェクト
Overseas Fishery Cooperation Foundation of Japan
評価報告書
ソロモン諸島
― ナマコ資源管理パイロットプロジェクト ―
(終了時評価-2014 年 4 月)
プロジェクトの概要
国
名
プロジェクト名
実施期間
覚書署名省庁名
及び
事業実施機関
ソロモン諸島
ナマコ資源管理パイロットプロジェクト
2011 年 5 月 31 日~2014 年 3 月 31 日
覚書署名省庁 : 漁業海洋資源省
実 施 機 関 : 漁業海洋資源省
プロジェクト実施の経緯と背景
ソロモン諸島(以下「ソロモン」という。
)に
おいては、近年の人口増加、経済活動の増大に
よる環境への影響及び過剰な漁獲圧力により有
用水産資源が減少傾向にあり、ソロモン政府は、
この課題を解決するため「水産養殖開発計画
2009-2014」を策定している。
同計画の中で、
① 国内における食料及び生計確保のための
養殖適種の選定・優先順位付け
② 活力ある養殖企業の設立支援及びその育
成に必要な技術研修の実施
③ 漁民、民間企業あるいは NGO 等に対する養
殖技術支援
を掲げるなど、水産養殖振興を重要な政策と位
置づけている。
i
かかる状況の中、2009 年 9 月に開催された 日・ソロモン漁業協議において、ソロモン側より「ソ
ロモンにおけるノコギリガザミ及びナマコ類養殖」の協力事業の実施に関する要請がなされた。
公益財団法人海外漁業協力財団(以下「財団」という。)は、この要請に応え、有用水産資
源の回復を図るとともにソロモンの沿岸漁業振興を支援するために、プロジェクト形成を目
的とする事前調査ミッションを 2010 年 3 月に現地に派遣した。
この事前調査の結果、財団は、資源の回復及び管理の緊急性並びに実施可能性の観点から
ナマコ類をプロジェクトの対象種とすることが適切であると判断し、ソロモン政府と協議の
上、本プロジェクトの実施を決定した。
目標・成果・活動内容等
上位目標
プロジェクト目標
成
活
ソロモンの沿岸漁業振興
ソロモン政府によるナマコ資源回復及び資源管理が可能になる。
果
ナマコ(学名:Stichopus horrens 標準和名: オニイボナマコ 英名:
Peanutfish)の種苗生産、中間育成及び放流等の資源管理技術の向上
動
(1)種苗生産施設の維持管理
(2)親ナマコ飼育管理
(3)放流試験予定海域における天然ナマコの生殖腺観察
(4)種苗生産試験
(5)放流試験予定海域におけるナマコ産卵行動等のモニタリング
(6)ナマコに関する知見収集及び分析
財団側
・専門家
長期派遣(資源管理・増養殖);1 名
(2013 年 5 月 16 日~2014 年 3 月 31 日)
・事業費:
約 29 百万円
・主な資機材: 船外機、水槽、孵化水槽等
投
入
相手国側
・カウンターパート:
漁業海洋資源省次官;1名
漁業海洋資源省職員;1名
・プロジェクト関連予算、土地、施設等:
プロジェクト事務所及び資機材等の保管倉庫
ナマコ種苗生産施設のための土地
ii
評
価
事
項
妥 当 性
1.プロジェクトの妥当性
本プロジェクトは、ソロモンの「水産養殖開発計画 2009-2014」に基づく水産資源回復
等の政策を支援するものである。
また、ナマコ資源の回復と管理の推進により、地域住民の現金収入源の確保が期待され、
対象地域のニーズにも合致している。
本プロジェクトの活動項目は、ナマコの種苗生産、中間育成及び種苗放流等の資源管理
に繋がる技術移転と施設整備であり、プロジェクト目標であるナマコ資源の回復及び管理
を可能とする技術的基盤となるものである。
2.環境に対する配慮はなされていたか
ナマコ種苗生産施設建設にあたっては、事前に予定地周辺の環境を調査し、建設時の土
砂流出等による海域汚染防止対策を講じるなど、環境に充分配慮した。
親ナマコについては、放流予定海域の個体を用い、遺伝子攪乱の防止に配慮した。
また、プロジェクトが対象としているナマコには、形態の異なる2つのタイプが存在し
たため、両者の交雑防止に努めた。
3.水産資源に対する配慮はなされていたか
本プロジェクトは、ナマコの種苗生産、中間育成及び種苗放流に係る技術の開発・移転
により、資源の管理及びその有効利用に資するものであることから、適切な水産資源管理
を促進するものである。
効 率 性
1.資機材、専門家の投入における効率性
これまでに投入された施設・資機材は十分機能しており、親ナマコの採捕・飼育、種苗
生産試験(採卵・幼生飼育)
、放流予定海域調査は問題なく実施された。
2.技術移転の効率性
現在のカウンターパートは、2012 年 5 月から継続して配置されている。プロジェクト
を通じ向上した技術レベルに合わせて適切な技術移転が行われている。
iii
3.状況の変化、教訓・提言等に応じた 実施計画や活動項目の見直し
前年度の試験結果から、飼育環境の安定化を図るため、換水率を落として飼育したこと
で、稚ナマコを生産するにいたった。長期間の降雨による塩分濃度の低下には、取水を制
限する等の方法で、対応した。
有 効 性
1.プロジェクト目標の達成度
ソロモン政府は、これまでもナマコの資源管理に努力を続けてきていたが、生物特性や
国民の資源管理への理解が不足しているために、実効が上がらない状況であった。
親ナマコの採取及び放流を予定している地域コミュニティはプロジェクトの中で親ナ
マコの採取や産卵行動の観察を続けることで、資源管理の重要性を認識するようになって
いる。本年度稚ナマコの生産に成功したことで、資源回復への期待も膨らんでいる。
2.プロジェクト活動項目及び期待された成果の達成度
① 種苗生産施設の維持管理
カウンターパートが中心となって、1 日 7~8 時間の取水ポンプ運転による通水、
水槽掃除等を行った他、ポンプ取水口や運転用エンジン等の定期メンテナンスを行っ
た。
② 親ナマコ飼育管理
毎月、放流試験予定海域からホ
ニアラの種苗生産施設まで 20~
25 個体の親ナマコを搬入し、前月
の親ナマコと入れ替えをおこなっ
た。カウンターパートが発案した
強曝気により、移送後弱った親ナ
マコの効果的な回復が可能になっ
た。
親ナマコの状態を観察するカウンターパート
③ 天然ナマコ生殖腺観察
ソロモン政府が一時的にナマコ漁を解禁したことで、成熟サイズのナマコが大幅に
減少した。そのため、致死的となる生殖腺の観察は中止としたが、周年新月前後の産
卵が観察されていることから、毎月ある程度の成熟した個体が存在することが明らか
である。
iv
④ 種苗生産(採卵・幼生飼育)
新月前に搬入した親ナマコが継続
的に産卵を行い、安定的に浮遊幼生
が得られた。
飼育環境の安定化のため、大容量
の水槽で幼生の飼育を行った結果、8
月産卵群から稚ナマコが得られた。
更に、11 月産卵群からも稚ナマコ
まで生存する個体が得られた。
オニイボナマコの稚ナマコ(最大個体の体調約 10cm)
⑤ 天然ナマコの産卵行動等のモニタリング
政府が一時的にナマコ漁を解禁したことで、親ナマコ漁場のナマコはほぼ獲り尽
くされたため、保護区域から移送した親ナマコの観察を行った。産卵個体数は減少
したが、毎月産卵が観察された。
⑥ 知見収集及び分析
他国(マレーシア、中国)におけるオニイボナマコ種苗生産に関する報告を入手し、
プロジェクトの試験との比較を行った。また、フィジーの種苗生産施設を視察し、漁
民への種苗の配布制度等を調査した。
上記①~⑥の活動によりナマコの種苗生産並びに関連技術が向上するとともに知見が
集積された。
インパクト
1.プロジェクト上位目標に対するインパクト
本プロジェクトの目標であるナマコの資源回復や資源管理施策が実施されれば、地域漁
民の漁業経済活動の活性化が期待され、上位目標であるソロモンの沿岸漁業振興に繋がる。
今年度は、種苗放流試験を行うことはできなかったが、放流試験予定海域の住民と連携
した天然ナマコの産卵行動観察や年間を通した生殖腺観察を行った結果、資源管理の効果
的な実施を図るための基盤は着実に整い、上位目標達成への一定の効果があった。
v
2.プロジェクトの実施効果によるその他のインパクト
ナマコ資源が回復し、適正な管理下で持続的に漁獲されることにより、漁民や中間流通
業者の収入が増大し、地域社会経済へ貢献することが見込まれる。それがソロモン政府の
「水産養殖開発計画」に反映される。
持 続 性
1.カウンターパート及び供与資機材における有効活用の見込み
ソロモン政府は、プロジェクト終了後
もナマコ資源管理施策を継続実施するこ
ととし、技術移転を受けたカウンターパ
ートがその業務を担い、民間業者や非営
利組織(World Fish Center)等への技術や
情報伝達の重要な役目を担う。
このように技術移転の受け皿であるカ
ウンターパート及び供与された資機材は、
プロジェクト終了後も有効に活用される
ことが見込まれる。
専門家によるカウンターパートへの給水システム取扱指導
2.プロジェクト効果の持続の見込み
ソロモンの沿岸漁業にとって、ナマコは外貨獲得ができる重要な資源であることから、
政府はプロジェクト終了後も非営利組織等の協力を得ながら、将来に亘りナマコ資源の適
正な管理に努めることとしている。
一方、沿岸零細漁民や非営利組織等は、本プロジェクトにより政府へ移転された技術を
引き継いで、資源回復への取り組みが期待され、官民双方によるナマコ資源回復及び管理
の効果に係るプロジェクト実施効果の持続が見込まれる。
以上
vi
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