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環インド洋経済圏で注目集めるバングラデシュとスリランカ

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環インド洋経済圏で注目集めるバングラデシュとスリランカ
環インド洋経済圏で注目集めるバングラデシュとスリランカ
みずほ銀行 直投支援部 大西 勝視
インド洋を囲む20ヵ国で構成される経済
ハルタル
(ゼネスト)
がたびたび行われ暴動
や近代的なスーパーが次々にオープンして
連合体「環インド洋連合
(IORA)
」の中で
に発展することもあった。現在は落ち着きを
おり、今後も経済成長にともない内需が拡
昨今日本の注目を集めているのがバングラ
取り戻し、
日系企業は以前と変わりなくビジ
大すれば、外資企業にとって無視できない
デシュ、
スリランカの2ヵ国である。2014年
ネスを行える環境に戻っている。日本の首
市場となりえる。
9月6〜7日には安倍首相が両国を訪問し、
相として14年ぶりにバングラデシュを訪問し
しかし、
日系企業がバングラデシュに進
さまざまな経済協力が打ち出され、訪問団
た安倍首相は、
バングラデシュの電力・鉄道
出する際には注意が必要である。まず、
日
には日本の経済界も随行し、
今後の両国に
等のインフラ整備のために今後4〜5年間
本語での情報が他の国に比べて入手しづ
おける日本企業の投資可能性についてセ
で6,000億円規模の経済協力を行うことを
らい。外務省が2013年10月時点で集計
ミナーが開催されるなど近年にない注目を
打ち出すなど、
日本との関係も急速に深まっ
した統計によるとバングラデシュの在留邦
集めている。本稿では、
2ヵ国の面積を合わ
ている。
人は819人と、
タイ
(5万8,143人)
やインド
せても日本の半分ほどに満たないこの国々
(7,653人)の在 留 邦 人に比べて極めて
バングラデシュ経済
日系企業の進出と留意点
めには、
ジェトロなど公的機関や日系企業
2013年 の1人 あたりのGDPは960米
の進出支援を行うコンサルティング会社な
バングラデシュは面積が14万㎡と日本の
ドルとアジアでも最も低い国のひとつであ
どを活用した情報収集が必要である。地場
約4割の国だが、人口は約1億5,000万人
る。
しかしながら、競争力のある労働コスト
企業との取引や合弁での会社設立におい
と世界8位で2040年には1億9,000万人
(2013年JETRO調 査ではワーカー賃 金
ても、
バングラデシュ流の商習慣を正しく理
まで増加すると予測されている。歴史的に
月額は86米ドル)
と輸出企業に対する優遇
解しなければ痛い目にあうこともあるため、
ビ
はベンガル地方の一部としてヒンドゥー教や
制度があり、縫製業を中心に世界各地から
ジネスを始める際には信頼できるパートナー
仏教、
ムガール帝国統治時はイスラム教の
注目を集めている。バングラデシュからの輸
を探すことに時間とコストをかけることがポイ
影響を受けていたが、
18世紀末から東イン
出は8割が欧米向けの衣料品であり、世界
ントとなる。
また、
バングラデシュでは輸出優
ド会社による植民地となり、繊維や紅茶な
のトップブランドがバングラデシュでの委託
遇措置が受けられる輸出加工区
(EPZ)
が
どの輸出拠点として栄えた。1905年のベン
製造を行っており、縫製業に関する裾野産
全国に8ヵ所存在し、製造機能を持つ日系
ガル分割令により現在のインドである西ベ
業も幅広く存在する。日系企業は2014年
企業も半数以上が輸出加工区に入居して
ンガル地域にはヒンドゥー教徒が、現在の
4月時点で181社がバングラデシュに進出
いるが、首都ダッカや港湾を備えるチッタゴ
バングラデシュである東ベンガル地域にはイ
しており、ユニクロなどの大手小売りが現
ンなどの近くには入居可能な輸出加工区
スラム教徒が集められ、
その後1947年のイ
地で衣料品の委託生産を行っているが、近
に空きがない状態であった。2014年7月よ
ギリスからの独立時にイスラム教徒を中心
年では食品や日用品などバングラデシュの
りジェトロがダッカ近郊のEPZでレンタル区
とした東ベンガルはパキスタン領東パキスタ
内需を狙った企業の進出もみら 図表1. バングラデシュにおける
が、
なぜ注目を集めているのかを探りたい。
バングラデシュの政治
少ない。
そのため現地の情報を入手するた
ンとして独立することとなった。
その後1971
(推計)
れる。世界銀行によるとバングラ 資産別社会階層の割合
年に独立戦争を経て現在のバングラデシュ
デシュの人口は、
2040年代に2
人民共和国に至る。独立後はアワミ連盟が
億人を超えると予測されており、
ま
貧困
98.9
50万未満
長い間政権を担い、直近の2014年1月に
た2010年の推計値で資産500
低中間層
25.4
50万~90万
行われた総選挙においても国会の3分の2
万タカ
(日本円で約650万円)
以
中中間層
14.6
100万~290万
高中間層
7
300万~490万
以上の議席を獲得している。
しかし最大野
上を保有する富裕層が410万人
富裕層
4.1
500万以上
党であるBNP党が選挙をボイコットするなど
存在するといわれる。首都のダッ
総人口
150
混乱が見られ、首都ダッカ市内においても
カ市内には欧米の飲食チェーン
20 mizuho global news | 2014 NOV&DEC vol.76
2010年
対象
保有資産
(タカ)
人口
(100万人)
*1タカは約1.3円
(2014年5月)
作成:ダッカ大学経済学部Abul Barkat教授論文より みずほ銀行直投支援部作成
画を含む40区画を日系企業向けに割り当
た精密部品をインド・欧州・中東へ輸出する
が現状である。そのため信頼できる情報を
てを行うなど、徐々に環境も良くなっている。
拠点としてスリランカを位置付けている。
得るためには、安易に現地のパートナー企
今後、
バングラデシュの労働コストおよび輸
また、
日系企業にとっては現地企業との
業やエージェントの話をうのみにするのでは
出優遇措置を活用した製造企業や、
内需を
提携も魅力がある。コロンボ証券取引所
なく、
自ら足を運んで現地の情報を収集する
狙った日系企業の進出が加速していくとみ
には約280社のスリランカ企業が上場し
行動が大切である。海外投資の窓口となる
られる。
ており、時価総額はおよそ2兆円。上場企
スリランカ投資庁
(Board of Investment)
業の中には多国籍展開を行う企業もあり、
には今年4月よりJICAから日本人専門家が
スリランカの政治情勢
内戦が終わり経済復興へ
Hidaramani社のようにスリランカの17工
派遣されており、今後、
日系企業にとってス
場に加え、
バングラデシュに14工場、
ベトナ
リランカの情報が入手しやすくなることが期
スリランカは26年間続いた内戦が2009
ムに7工場を持ち欧米、
日系大手アパレル
待されている。
年に終了し、国土復興を目指す安定した
メーカーの仕事を受注するなど国際展開に
政権のもとで過去5年間のGDP年間成長
積 極 的である。2014年6月、日本のSGグ
率が平均6.7%と高い成長を遂げており、
ループはスリランカの物流大手エクスポラン
スリランカ最大手銀行
および投資庁との覚書締結
2014年のGDP成長率も7.0%と予測され
カホールディングスを買収した。
エクスポラン
みずほ銀行は、
2014年7月に邦銀として
ている。人口は約2,000万人と同じ南アジ
カ社はスリランカや周辺のインド・バングラデ
初となるスリランカの最大手国営銀行Bank
アのインド
(約12億人)
、
バングラデシュ
(約
シュのみならず米国、中東、
アフリカなど世
of Ceylonと商業銀行業務にかかわる広範
1.5億人)
、パキスタン
(約1.8億人)
と比べ
界中に拠点を持つ企業であり、買収による
な分野での業務協力協定を締結した。
また
ると小規模ながらも、
内戦終了後には中国・
中東・アフリカ戦略など日系企業との相乗
2014年9月には外国企業投資を誘致する
インドからのインフラを中心とした投資が伸
効果を狙える企業も存在する。今後日系企
機関であるスリランカ投資庁とも日系企業
びており、
日本からも徐々に注目を集め始め
業にとっても、国際展開するスリランカ企業
誘致の業務協力協定を締結している。今
ている。2013年には内戦終了後初めてス
との提携は南アジア・中東・アフリカ攻略の
後、
日系企業のスリランカ投資について、
幅
リランカのラージャパクサ大統領が来日し、
カギとなるかもしれない。
広いサポートを行っていくので、同国の情報
その後麻生副総理のスリランカ訪問、
日本
しかし、
バングラデシュ同様、駐在日本人
収集を希望されるお客さまは、
みずほ銀行の
商工会議所/ジェトロによるビジネス視察ミッ
や日本語対応の可能な会計・法務・コンサ
営業窓口または直投支援部までお問い合
ションが行われるなど両国の経済・外交面
ルティング企業が、周辺国に比べ少ないの
わせいただきたい。
での交流が活性化している。
また今年9月
図表2. スリランカ投資環境上の利点
(定量的評価N=80)
には安倍首相が日本の首相としては1990
年の海部首相以来24年ぶりに訪問し、首
40
脳会談ではスリランカへの情報・交通・電力
に関するインフラ投資を促進することなどが
26
話し合われた。
21
21
20
スリランカへ進出する日系企業は2013
19
16
14
年時点で140社
(商工会議所登録企業は
10
5
約60社)
とされ、
ジェトロが実施した進出日
3
その他
人材の確保が容易
投資優遇措置の豊富さ
インフラ
(物流・通信・電力)
の整備
観光資源
整っている点を生かし、
スリランカで製造し
スリランカとインドの
FTAを活用できる
較すると物流や電力インフラ、生活環境が
人件費の安さ
を締結している点に注目し、
またインドと比
競合の少なさ
る。
ある日系企業はスリランカがインドとFTA
地理的優位性
(ハブ機能)
さ」
「地理的優位性」
を挙げる企業が見られ
人材の質の高さ
(生産性・手先の器用さ等)
「経済成長ポテンシャル」
「人材の質の高
経済成長のポテンシャル
カの投資環境の利点として
「安定した政治」
安定した政治・社会情勢
系企業等へのアンケートによると、
スリラン
5
出所:ジェトロ 日スリランカ・ビジネスニーズ調査より抜粋
mizuho global news | 2014 NOV&DEC vol.76 2 1
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