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日本における太陽光発電システムの 発展普及と支援策の効果分析
日本における太陽光発電システムの 発展普及と支援策の効果分析 李 賀 はじめに 強さを誇ったが、近年特にヨーロッパでの支援 策導入によって日本のシェアを急速に低下させ、 太陽光発電システムは現在環境ビジネスとし 又住宅用太陽電池に偏った、市場構造をもたら て関心が強いが、それがビジネスとして成立す している。日本における太陽光発電市場の普及 る基盤は、他の産業とは大きく異なるところが プロセスを分析する事によって、その支援策の ある。すなわち、大きな社会的要請の中で、他 効果、影響を明らかにしたい。 の競合技術(火力発電など)と大きく価格面で 日本はつい数年前まで、世界最大の太陽光発 劣勢でありながら、厚い政府支援や環境意識に 電大国であった。それは、①政府による長期に 支えられ、産業として成立しようとしている。 わたる継続的で、厚い研究開発支援があり、研 そこにこの産業の特殊性を見る。それでは、い 究機関及びメーカー各社が高効率、耐久性のあ かなる背景で政府が支援をし、その支援にはど る太陽電池を開発したこと。そして、②政府、 のようなものがあり、それぞれの効果、特徴を 自治体による導入促進策があったこと、が大き どう捉えるか、更に太陽光発電システムを普及 いとされる 1。ただ、日本の支援制度は、これま する望ましい支援制度とはどうあるべきか、が で電力会社の自主的余剰電力買取り制度や個人 本論文のテーマである。 の環境意識によって補完されてきたところが大 現在太陽光発電システムの普及に当たって効 きい。政府による支援策が太陽光発電システム 果的な政府支援策には、設備投資に対する補助 の普及を促進する大きな原動力であることは疑 制度、また発電された電力を一定価格で買い取 問がない事実であるが、支援策が打ち出される る FIT(Feed in Tariff)制度が挙げられる。その 背景を理解し、それに協力して太陽電池を設置 他にも RPS と云われる発電量における再生エネ する事を決断してきた個人の高い環境意識を無 ルギーの比率を一定以上高める事を義務付ける 視することはできないように思われる。日本の 方式、グリーン証書という。再生エネルギーの 太陽光発電システム普及の面で、支援策と環境 買い取り保証を行い、再生エネルギーへの設備 意識の関係はどうなっているか、その望ましい 投資を支援する方式なども考えられている。そ 関係についても考えてみたい。 うした中で日本の太陽光発電への支援策は、特 なお、政府による厚い支援(場合によっては 殊な構図を示し、一時は世界における太陽光発 義務付け)は、一時的には太陽光発電システム 電市場において日本の太陽光発電産業は圧倒的 の普及を加速し、エネルギー政策上成功したと 1 世界のトップを走る太陽電池 大谷謙仁 精密工学会誌 Vol73 No.1 2007 − 177 − しても、永遠に続くものではない。高い固定価 宅用に偏っているが、それは日本独自の 格による買取制度を導入することは一時的には 余剰電力買取と言う制度によって作られ 普及促進に効果的にせよ、普及を急ぐあまり価 たところが大きい。本論文では支援制度 格設定を高くしすぎると、それだけ国民負担は が市場構造とどう関係するかにも注目し 大きくなり、国民の環境意識の許容限度を越え、 て分析を行なっている。結論としては、 逆に反発を招くこともありえる。その意味では もし日本として地球環境問題の解決を緊 どのようなレベルで価格設定をするかはとても 急の課題とするなら、現在の支援システ 2 重要である 。2009 年に入り日本も義務を伴った ムを変える必要があるとしている。 高額の固定価格買取制度を導入する事となり、 さらに 2011 年からはヨーロッパ方式の全量買取 1.日本の太陽光発電システムの歴史 制へ移行することになっている。日本の支援策 の効果、そのメリットとデメリットを日本の太 陽光発電システムの市場構造から分析したい。 1.1 日本の太陽光発電プロセスの概観 日本の太陽光発電産業の発展は太陽電池技術 なお、最終的には、太陽光発電市場が自立的に の開発から始まった。その後に技術普及のため 発展するためには、更なる技術革新により、発 の政策支援の時代に入り、特に住宅用の市場を 電コストを従来の化石燃料を使用した発電方式 中心に普及促進が図られてきた。 と対等のグリッドパリティを達成しなければな 今日の太陽光発電市場は以下のような発展段 らない。その意味では、支援策はグリッドパリ 階を経ている。①純粋な市場メカニズムのなか ティへの動きを促進するものでなければならな での開発と事業の成立の時代。この時代は無線 いであろう。そして、国民の負担と政府の負担 中継局・無人灯台等遠隔地の独立電源としての を低くとどめ、その中で普及率の向上を図ると 太陽電池生産の時期である。当初、太陽電池は いう制度設計が求められるという事になる。 政策的支援により普及を図るべきものとは考え 太陽電池普及に対する先行研究は、太陽光発 られていない。②石油危機によって、にわかに 電技術の発展によるコストダウン、支援策によ 石油代替エネルギーの開発と言う政策課題とし る導入コストの低減及び普及、各支援策の効果 て注目された時代。国家研究開発の時代である。 の比較及び太陽電池市場の構造などに関して多 すなわち、サンシャイン計画に基づく太陽電池 く行なわれている。しかし、これら支援策の分 開発期である。③エネルギー価格の下落による、 析にあたり、その制度そのものの経済効果に対 世界的石油代替エネルギー開発熱の低下の中で、 する評価は多いが、支援制度の経済効果と環境 世界的に新エネルギー開発熱は冷めた。しかし、 意識の関係及び支援制度と市場構造との関係に 日本においては技術開発プロジェクトが継続さ 対する研究は少ない。それに対して本論文は以 れ、世界最高の技術レベルを達成。地道な技術 下のような新しい視点を提示している。 開発とその後の実証試験の努力。普及支援策の ① 日本の太陽光発電システムの普及は支援 導入などにより、日本の太陽電池産業は、文字 策による経済効果と環境意識の向上との 通り世界 1 の生産を誇ることとなった。この時期 相乗効果によるところが大きいというこ は、サンシャイン計画に基づく実証試験、電卓 と。 など民生用太陽電池の市場形成期及び住宅用太 ② 一方、日本の太陽光発電の市場構造は住 陽光発電システムの普及期といえる。④地球環 2 新エネルギーの普及促進を図るための施策と展開 柏木孝夫 産業と環境 2010年6月 − 178 − 境問題と言う新たな政策課題への対応から、太 業の発展は、特殊な自立的市場を除いて、まだ 陽光発電が再度注目されることなった。欧州で コスト的に自立できず、手厚い政策支援を必要 は、太陽電池により発電された電気を高額で買 とする状況にとどまっている。逆に近年、自立 取ることを電力会社に義務づけるという、手厚 化を促すというより、大きな政策支援を覚悟で い支援制度が導入された。一方、日本では自家 の普及加速が行なわれる時代になっているとも 消費を中心にした発電設備費補助と余剰電力の 言える。 電力会社による自主的買取スキームを維持、ま た補助金制度は 2005 年に終結、太陽光発電市場 1.2 日本の太陽光発電市場の構成 の自立化が期待された。この時期、世界の太陽 日本の太陽光発電の市場は海外と国内に分か 電池市場はヨーロッパで急拡大、日本ではむし れる。図 1 を見ると、94 年までは国内、海外市場 ろ市場縮小を招くこととなった。⑤ 2009 年、地 とも微々たるものであったが、94 年以降国内市 球環境問題の重要性が高まる中、日本もこれま 場が立ち上がり始め、95 年に輸出市場を国内市 での電力会社の CSR や個人の環境意識と自主的 場が上回り、2000 年時点では輸出比率は 10 %程 選択を重んじたそれまでの制度を大きく変更、 度にまで落ち込んでいる。これは 94 年から国内 ヨーロッパ方式の導入への変更がおこなわれつ で設備資金への補助金制度が導入されたことが つある。 大きいと考えられる。しかし、2001 年ごろから いずれにしても、この 30 年間、太陽光発電産 海外市場が急拡大、特に 04 年ドイツ 3 の固定価格 図1:出荷量の推移 万kw 120 出荷量と比率の変化 国内 海外 輸出比率 国内比率 100 % 100 90 80 70 80 60 60 50 40 40 30 20 20 10 0 0 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 年 出所:太陽光発電協会データにより 3 ドイツの再生可能エネルギーへの推進事業は 1989 年から始まった再生エネルギーの奨励や助成制度である。そ の後 1991 年に「電力供給法」は再生エネルギーから生産された電力の買取義務を条件付きで電力供給事業者に 課した。画期的だったのは 2000 年 4 月 1 日発効の再生可能エネルギー法である。それは、2004 年に全面改訂され て、高いレベルの買取価格が設定された。 − 179 − 全量買取制度(FIT)制度の導入は世界の太陽光 ける一戸建住宅への普及率は 1.8 %でしかない。 発電市場を大きく変えることとなった。それま このことは、後の 98.2% の一戸建て住宅の持ち主 では日本市場は世界最大とされていたが、新た は太陽光発電を導入していないこと、言い換え な支援策の導入で、欧州市場は世界一の市場規 ると、一戸建て住宅用の普及はまだ微々たるも 模となり、その市場を目指した輸出が行なわれ ので、潜在需要はまだ大きい、とも言える。 ることとなった。一方、国内市場は 05 年の補助 日本政府はこれまで、住宅用太陽光発電シス 金の打ち切りで減少に転じ、国内の太陽電池 テムを中心に、太陽電池の普及を考えてきたと メーカーは海外市場志向を強めざるを得ず、 ころがある。それは、①一般家庭用の電気料金 2008 年には輸出比率は再び 80% に上昇した。欧州 は産業用など大口需要家の電力料金に比べ割高 の積極的環境保護政策はその後日本の政策にも で、発電コストの高い太陽光発電システムから 見直しを迫り、08 年 11 月には設備補助金の再開、 の電気でも、比較的軽微の支援策で導入が可能 さらに 09 年の、新たな、高額、義務付けによる なこと。②また住宅の持ち主は比較的裕福と考 買取制度の導入により、国内市場は急速に回復 えられ、彼等の環境意識を刺激する事によって、 しつつある。それに伴い、輸出比率は低下して 強制ではなく自主的に環境保護に役立つ太陽光 きているが、09 年時点で 60 %を海外市場に依存 発電システムの採用がすすむ可能性があること。 している。 ③更に余剰電力を生じやすく、余剰電力の買取 海外市場では、ほとんどが欧米向けで、太陽 を電力会社が自主的に行なうことで、個人負担 光発電協会が発表した平成 21 年度仕向先別輸出 を少なくする事が出来る、といった特徴をもっ 量によれば、欧米向けの比率は総輸出量の 95 % ている。また、太陽電池で大規模発電を行なお を占め、その中で米国向けは 21.8 %、欧州向けは うとすると広大な空地を必要とし、土地代が高 73.6 %である。欧州向けの比率が高いのは欧州諸 い日本では、メガソーラーなどの適地は限られ 国が一斉に FIT 制度を導入したことによる。日本 ている、と言う別の側面もある。その意味では、 の太陽電池産業は輸出産業として、海外市場で 産業用発電用に比べて、低い支援機能で普及が の競争に向き合っているが、国内市場も海外市 可能な分野であることを意味し、それなりに日 場も、それぞれの国の政策的支援策により成立 本の社会環境をふまえた支援制度であったとい していることが指摘できる。 えよう。 太陽光発電の国内市場の構成は他の国と違っ 一方、一戸建てを中心する従来型の太陽光発 て住宅用を中心として発展している。表1で 09 電市場は量的に限界もある。すなわち、①既築 年の国内市場構成を見ると、住宅用市場が 87 % の戸建住宅数は限りがあること。(今日、メー を占めている。一方、公共用、産業用の比率が カー各社は新築住宅や集合住宅市場についても、 非常に小さい。またヨーロッパ諸国では重要な 積極的に市場開拓を進めている。)②戸建て住宅 位置を占める商業発電用メガソーラーは皆無で の持ち主の経済力と環境意識に左右され、高い ある。 導入比率を実現するのは難しい。③ 1 件あたりの 日本の住宅用の太陽電池の設置は基本的に戸 太陽電池発電能力は小規模(一般には 3 ∼ 4KW) 建住宅用が主体である。2008 年の住宅・土地統 であり、太陽電池の生産における量産効果を得 計調査によると、2008 年の一戸建て・長屋の総 るためには、相当の件数を受注する必要がある、 数の中で、一戸建て持ち家は 2555 万件で、全国 などの問題がある。 住宅総数の 44 %を占めている。08 年までの太陽 仮に、太陽光発電システムを急速、かつ大規 光発電累計導入件数は 46 万件であり、08 年にお 模に発展させようとするには、投資単位の大き − 180 − い産業用やメガソーラー市場の開拓が必要とさ こうした支援策によって、ドイツやスペイン れる。それは、地球環境問題に対する緊急性へ では太陽光発電システムは収益を上げる投資案 の政府、あるいは国民の認識に依存していると 件として注目された。スペインは日照条件の良 も言える。そして少なくとも、日本においては い広大な空地にめぐまれ、手厚い支援策は、充 2005 年の段階では、強制的に太陽電池を普及さ 分安定的収益を見込める投資案件として注目さ せようと言う切迫感は無かったというべきであ れ、多くの投資をひきつけたとされる。このこ ろう。 とは、環境意識の高まりにある程度依存し、ま た環境意識の強い人の自主的負担によって成立 1.3 市場構造の違い する日本型制度とはちがい、国民全体の負担に 表1はドイツ、スペイン、イタリアと日本の 太陽電池市場構造の比較である。住宅用市場が よって支えられた市場での利益追求型モデルで あるといえる。 大きな国はドイツと日本であるが、ドイツの方 いずれにしても、日本の市場は個人住宅用に は集合住宅を中心して、日本の場合が一戸建て 傾斜した市場構成となり、ドイツは環境意識の 中心であるのとは状況が違うところがある。市 高い個人、企業、公共機関などに支えられた市 場の構成から見ると、日本とスペインは特定の 場が成立し、スペインの場合は環境意識に捕ら 市場分野に集中がみられる。こうした、国によ われず純粋に収益の大きい市場の発展が見られ る市場構造の違いは、それぞれの国の支援制度 た、と理解してよいであろう。 や自然環境の違いによって説明できる。 ところで、ドイツなどの欧州諸国は完全に経 同じ発電電力の全量買取制度でも、買い取り 済合理性から太陽光発電システムが選択される 価格のレベル、契約年数、支援の重点分野、発 手厚い普及支援制度を導入した。しかし、今日、 電コストと売電価格との差額の補填方式の違い 市場の急速な拡大とともに、その制度の欠点が がある。たとえばドイツは太陽光発電の高コス 表面化しつつある。すなわち、ドイツで太陽光 ト分は一般電力料金の上昇によって国民全体で 発電量が増加する事により、全発電コストが上 負担することとしている。一方スペインは財政 昇、一般電力価格の上昇、一般市民の負担が増 支出による補填がおこなわれている。日本の場 加し、市民の反対により、全量買取制度の修正 合は、既に見たように 2008 年までは、各電力会 が始まっている。また、スペインでは政府の財 社の自己負担でまかなわれていた。 政難から、支援策の縮小が行なわれ、市場が急 表 1: 太陽光発電市場の構成 住宅用 公共用 産業用 ドイツ 42.7 30.1 12.0 15.2 スペイン 8.7 19.5 6.8 65.1 イタリア 23.2 28.6 13.2 日 本 87 12 出所:爆発する太陽電池産業及び太陽光発電協会データにより 注:日本市場の残りの 1%は民生用市場である − 181 − PVファーム 35 0 速に縮小している。4 レジャーボートなど独立電源や計算機や携帯電 こう考えると、日本の余剰電力買取制度は経 話など個人向け小規模電源として、小規模なり 済合理性と環境意識の両面から考えた制度であ に確実な市場を形成している。公共・産業用及 り、発電コストが同じ条件下で、日本の太陽光 び住宅用市場の形成は大体 90 年代からの補助金 発電産業は欧州諸国より早めに自立的な市場に 制度により創出されてきた。しかし、この市場 入ろうとしていたところがある。しかし、日本 は日本ではまだ実証試験段階ともいえ、政府に の太陽電池の国内市場の発展は緩やかであり、 よる設備補助によって試験的に環境意識の高揚 海外の企業からは大きな関心を示されることは や企業イメージの PR といった目的で実施されて なかった。そのことは激しい新規参入やシェア いる。一方住宅用市場はすでに述べたように、 争いといった環境からはなれ、現在太陽光発電 現在日本における最大の太陽光発電システム市 システムにとって最も重要な課題である、コス 場となっている。なお、近い将来、第 4 分野とし トダウン、グリッドパリティの実現への努力を てメガソーラー市場が急速に立ち上がる可能性 弱めさせていたともいえよう。 がある。2008 年 9 月に関西電力や東京電力など電 ヨーロッパ式全量買取制度の利点は、それが 力 10 社は、太陽電池メーカーや地方自治体、商 大きなビジネスチャンスであることを人々に認 社と組むなどして、2020 年度までに全国 30 ヵ所 識させ、多くの企業が参入、投資ファンドをひ に合計で 140 MWの太陽光発電所を建設すると発 きつけて大規模の太陽光発電システムへの投資 表した。この動きは、あたらしい買取り制度を 案件を実現させ、それは需要を増加させ、太陽 にらんだ動きで、将来日本の太陽光発電市場は 電池の量産効果を上げるとともに、価格競争を 住宅用ばかりではなくメガソーラー市場も拡大 激化させ、コストダウンを促し、結果として普 することが期待されている。 及率を高めることとなっているといえる。当然 に、全量買取制度には先に述べた、一般国民へ 2.1 民生用市場 の過大な負担という制度的欠陥もあるが、現段 民生用市場には電卓、時計、教材、玩具、ラ 階において、コストダウンを求める太陽電池産 ンタン、携帯用充電器などが含まれる。この市 業にとって最も効果的制度のように見える。 場の誕生はかなり早い。その市場は他に競合相 我々は地球環境問題と言う大きな問題に対し 手がおらず、高いコストでも導入可能で、特別 どのように対処するか、その判断を迫られてい の支援なしに自立的に発展してきた市場といえ るといえる。どこまで一般国民に負担を迫るか る。しかし、この市場についてはかならずしも と言う問題は、最終的には政治的判断に委ねら データが整備されておらず、図 2 に見るように、 れると云う事であろう。 入手した統計数字は変動が激しく、正確な実態 把握が難しい。本来、こうした自立的市場が先 2.日本における太陽光発電市場の現状と 支援策の変化 行し、次第にコストが低下し、大規模な太陽光 発電システムの普及につながることが期待され るが、残念ながら、現実にはこの市場は特殊で、 日本における太陽光発電産業の国内市場は主 規模は小さく、地球環境問題に対応するような に民生用、公共・産業用及び住宅用の三つの市 大規模システムの発展につながることは無く、 場からなる。民生用の市場は 80 年代から始まり、 新たな普及支援策を必要とする事になった。 4 太陽光発電協会からの聞き取り − 182 − 図 2 民生用市場の規模 出荷量 万kw 0.9 0.8 ◆ ◆ 0.7 ◆ 0.6 0.5 ◆ ◆ ◆ 0.4 ◆ 0.3 ◆ 0.2 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 0.1 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 0 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 年 出所:太陽光発電協会ホームページから 2.2 公共・産業用市場 電システムのための支援策はこれまで補助金中 公共用市場と産業用市場は需要家が公共機関 心であった。余剰電力買取制度は一般家庭向け か民間機関かの違いがある。公共機関は太陽光 の電力料金での買取であり、そもそも企業用の 発電システムの公共施設への採用をその時の財 太陽光発電システムは、余剰電力があまり発生 政状況と政策の優先順位で決定する。ここでは せず、産業用太陽光システムの導入に対して効 政策的配慮が大きく影響し、かならずしも経済 果は少ない。また、電力会社は公共施設や産業 合理性だけで決まらないところがある。政府に 用設備からの買取を想定していなかったと思わ よる予算措置や地方自治体への補助金、また政 れる。ただ、新たな全量買取制度の打ち出しに 策誘導などにより導入が選択される。一方産業 よって、この分野の市場が発展する可能性はあ 用は民間企業の経営判断による導入であり、経 る。 済合理性による判断が強まる可能性が強い。民 補助制度については、これまで設備費の二分 間企業には企業イメージを高めたという観点か の一を補助することされていた。しかし、それ ら、相当の負担を覚悟で太陽光発電システムを でも、企業にとって設備投資資金の回収期間が 導入することもあるが、それは特殊事例で、や まだ長い。「BE 建築設備」という雑誌のアンケー はり政府のかなりの支援が期待される。 ト 5 調査によると、産業用太陽光発電システムの なお、日本の公共・産業市場の発展は欧州諸 普及阻害要因は ①発電コストが高い、②設備 国と比べてかなり遅れている。主因は日本では 費の回収期間が長い、③設置する場所がない 公共・産業用市場向けの FIT 制度が不整備である (少ない)が挙げられている。コストが高いのは ところが大きい。日本の公共・産業用太陽光発 一番大きなネックとされる。日本における公 5 民生用太陽光発電システムの普及について BE 建築設備 2009年2月号 − 183 − 共・産業向けの支援策はこれまで、主に NEDO 電への支援額は設置費の 1/2 から 1/3 になり、企 の太陽光発電フィールドテスト事業であった。 業の負担は前より大きくなっている。ただ、政 この制度は 1992 年から始まって 2008 年に終わっ 府は住宅用需要ばかりでなく、公共・産業用も ている。支援の内容は 10kw 以上の産業、公共用 対象に全量買取制度の導入を検討しており、そ 太陽光発電設備を対象にし、その設置費用の 1/2 の制度が導入されれば、産業用市場も新たな発 が補助される仕組みである。この制度の実績は 展を見せる可能性が大きい。この市場は、やは 図 3 のとおりで、公共・産業用太陽光発電市場は り政府支援に大きく依存したものであることを 92 年の 235kw から 07 年の 20400kw まで伸びてい 裏付けることとなっている。 る。特に 03 年から 06 年の間に市場規模は急速に 2.3 拡大した。しかし、07 年から市場の規模は縮小 住宅用市場 に転じている。一方、設置コストは 92 年から 97 日本の住宅用太陽光発電市場は国内市場の 8 割 年までに急速に低下しているが、その後の変化 ぐらいを占めている。住宅用市場の存在により は大きくない。このグラフから考えられること 日本は長い間太陽電池導入量で世界一の座を占 は、日本の公共・産業用市場は大きくないこと、 めていた。この市場の発展は 1994 年に新エネル 又、補助率自体は変化しないにしても予算額が ギー財団からの設備補助金制度の発足に始まる。 減少し、支援対象のプロジェクト数が限られて 日本の住宅用の支援制度は 2005 年まで、補助金 いると云うことも考えられる。恐らく、2005 年 が主役であった。92 年からの電力会社が自主的 の住宅用補助金制度の終了に伴い、産業用の支 に取り組んだ余剰電力購入メニューは一般電力 援制度も、制度そのものは存続したが、NEDO 価格と同じ値段で買い取る方式で、普及を促進 の支援予算額が大幅に縮小したことにより、06 する効果は当初補助金より遥かに低かったと考 年から 08 年までの市場規模減少になったものと えられる。しかし、その後、その制度の重要性 考えられる。さらに、09 年から産業用太陽光発 は増大していた。 図3 NEDO の太陽光発電フィールド事業の実績 導入量と設置価格 万円 450 420.3 2.5 400 350 万kw 平均設置価格(万円kw) 導入量 324.4 300 2 264.6 250 1.5 210.4 200 1 134.7 150 112.1118.8 100 103.9100.5 85.2 84.2 77.2 77.4 73.2 80.2 0.5 50 0 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 出所: NEDO の統計データ − 184 − 02 03 04 05 06 07 08 0 年 09 年からの新たな買取制度により、買取価格 期的支援策の導入により、欧州市場は急拡大、 が上昇し、電気会社の自主的な取り組みは終 日本は太陽電池導入量の世界一の座を失った。 わって、買取を電力に義務付けることになった。 そして、欧州諸国の全量買取制度の成功は、日 従来の倍の高い価格で買い取るという、新たな 本太陽光発電システムの支援制度の基本的思想 買取制度は従来の補助金より太陽光発電システ を転換させることとなった。 ムの導入を促進することに効果的である可能性 3.住宅用太陽光発電支援策の効果と課題 が強い。 補助金と余剰電力買取制度は日本の太陽光発 電システム普及に対する支援制度の主役である。 3.1 日本における住宅用市場の支援策 殆どの国は補助金を採用している。しかし、買 日本の住宅用市場の支援策は主に設備補助金 取制度は、全量買取が主流で、日本と同じ余剰 と余剰電力買取制度を中心する。他の制度も存 電力の買取制度を採用している国は 6 ヶ国と少な 在するが、太陽光発電システムの普及に関して、 い。これまでにも述べてきたように、日本の太 影響力は限定的と考えられ、ここでは設備補助 陽光発電市場は、その市場構造も、支援制度も、 金と余剰電力買取制度に絞って、その効果を分 ヨーロッパ諸国とは一線を画してきた。図 4 を見 析する。 ると、ヨーロッパ諸国が 2000 年代に入り大掛か 設備補助金は、1994 年から 2005 年まで新エネ りな支援制度を導入する前は、日本の太陽光発 ルギー財団(NEF)により実施された住宅用太 電産業は日本独自の支援策によって順調に発展 陽光発電導入事業である。当初定率補助であっ してきたように見えた。しかし、欧州諸国の画 たが、その後 kw あたり定額制となっている。市 図4 太陽電池トップ 5国の年間導入量の変化 mw 太陽電池導入国のランキング 3000 ドイツ アメリカ スペイン イタリア 日本 2500 2000 1500 1000 500 0 年 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 出所: Survey report of selected IEA countries between1992 and 2008により − 185 − 06 07 08 場の拡大とともに、kw あたりの補助金額は年々 ないが、その結果によって市民への負担額が明 縮小。当初 90 万円ほどであった補助金額は 2005 確にされ、額によっては一般市民による反発も 年までに kw あたりの補助金は 2 万円へと減額し 考えられる。それは一般市民の環境意識を占う て い る 。( 一 般 に 住 宅 用 の 発 電 規 模 は 平 均 で 目安になる可能性があり、注目される。 3.5kw ほどであり、当初は 1 件当たり 300 万と言 以下は補助金と余剰電力の買取制度を中心に う高額の補助がされていたが、05 年には 7 万円ほ 日本の太陽光発電システムの支援策の効果を分 どに縮小していた。)しかし、05 年、導入規模は 析する。 過去最大を記録している。そしてこの段階で、 政府は普及支援の段階は終了と判断、財政緊縮 3.2 の状況もあり、補助金制度を終了した。しかし、 国の住宅用設備費補助金の支援効果 住宅用太陽光発電装置の設置については、 補助金制度の廃止は、日本の国内市場の急速な 1994 年から 2005 年までに、新エネルギー財団に 縮小をもたらした。すなわち、太陽光発電市場 よる補助が行われてきた。ただ、94 年は 90 万円 はまだ自立していないことがわかった。又ヨー /kw の補助がされていたが、この補助額は年々下 ロッパでは逆に支援策を強化、市場の急拡大を がり、2005 年 2 万円/kw まで低下、2005 年の後半 実現。また、地球環境問題の世界的関心の高ま に打ち切られたことはすでに触れた。図 5 に見る りもあり、政府は急遽住宅用太陽光発電補助制 ように 94 年∼ 2005 年の補助金が支払われていた 度を復活する事を決定、2008 年 11 月に太陽光発 期間では、補助金額の減少にもかかわらず住宅 電協会により、kw あたり 7 万円の補助制度が再 用の太陽光発電の導入量は増えている。補助金 開している。 のなくなる次の 2006 年と 2007 年の二年間で太陽 一方、買取制度については、日本では全量買 光発電市場は大きく縮小している。このことは、 取制度ではなくて余剰電力の買取制度を採用し 補助金は小さい額であっても、補助制度がある ている。余剰電力の買取制度は 1992 年から始 ということは消費者に投資を決断させる動機を まった電力事業者の自主的取り組みで、一般家 与えていることがわかる。逆に補助金制度を廃 庭向け電気料金と同じ値段(24 円/kwh)で余剰 止すると、市民の間では国の政策に協力してい 電力を購入するという制度である。国の支援は ると云う満足感が失われ、それは市民の投資意 なく、電力会社にとっては自己の発電コストよ 欲を失わせているように見える。補助制度の存 りはるかに高い価格(一般に電力会社の平均発 在は国民の環境意識を高めるという効果を持っ 電コストは 5 ∼ 6 円/kwh とされる)、での買い取 ているように見える。 りは電力会社の自己負担でまかなわれ、一種の なお、太陽光発電の導入に関して 08 年 11 月か 電力会社の CSR 活動と考えて良い。しかし、次 らの補助金の再開で 09 年度の太陽光発電市場は 第に普及率が上がり、買電量も急上昇、2005 年 拡大に転じ、2009 年に日本の住宅用太陽光発電 時点では年間負担額は 140 億円に達していた。そ 市場規模はこれまでの最大の 2005 年の数字を大 うした背景から 09 年には制度の変更がされてい きく超えた。このことは 09 年の補助金額 7 万円 る。すなわち太陽光発電による家庭用の余剰電 /kw が 05 年の 2 万円/kw を大きく上回っているこ 力を電力会社が従来の 2 倍(48 円/kwh)の価格 と、高額買取制度の発足により従来に比べ太陽 で買い取ることを義務付ける一方、買取による 光発電システムの収益性が大きく改善されたこ 電力会社の負担増は、電力料金の改正で一般市 となど、経済合理性に基づく判断が大きいと考 民に転嫁出来る、ということになった。新制度 えられるが、最近の地球温暖化問題の世界的危 下での電力会社による価格改定は行なわれてい 機意識の高まりの中で環境意識も強く刺激され − 186 − 図 5 太陽光発電市場と補助金効果 個人実質負担と導入量 400 システムの価格(万円 /kw) 350 補助金(万円/kw) 300 住宅用導入量(千kw) 250 200 150 100 50 0 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 年 出所:資源エネルギー庁と NEF の統計資料により た相乗効果の結果と考えるべきであろう。 その環境意識を刺激するものとして、政府の環 ところで、補助金金額は逓減原則により設定 境問題への広報や世論の高まり、太陽光発電シ されている。補助金額の逓減性は公平の原則を ステムを販売する企業の営業活動なども影響を 守るためとされる。実質負担は何時の時点で投 持つものと考えられる。ある意味で個人は感情 資をしても同じレベルになるようにしている。 によって大きな決断をするところがあり、それ 太陽光発電市場の拡大と技術の発展とともに、 は民間企業の経済合理性に基づく判断とはおの システムのコストは下がるはずである。コスト ずから異なるところがあると考えられる。 が下がる一方、補助金額を据え置くと、後で導 入する人は前に導入した人より投資金額が少な 3.3 く、不公平感を起こす。また、コストダウンを 電力買取制度 日本の電力買取制度は余剰電力を対象にし、 待つ人が増える恐れがあり、補助金による太陽 92 年から電力会社が自主的に購入してきた。こ 光発電システム導入効果を下げる可能性がある。 の制度は 09 年から新たな買取制度に転換したこ 即ち、補助金額の逓減は実質負担額を時間的に とはすでに述べた。 (1)従来の買取制度の効果 同じにする効果を狙っている。 図 5 を見ると、補助金が減少することにより、 従来の買取制度は 92 年から、電力事業者の自 個人の実質負担は大体同じ水準に維持されてい 主的取り組みである。16 年間ずっと家庭用電力 るが、市場は拡大している。このことから見る 料金と同じ値段(24円/kwh)で買い取っており、 と、補助金効果だけでは説明できない導入決断 余剰電力を多く発生する住宅では収入も多い。 の要因があることが想定される。それはまさに、 太陽電池の変換率が上昇すれば、余剰電力量は 市民の環境意識といったものであろう。そして、 多くなり、売上収入は多くなる。場合によって − 187 − は導入を遅らせたほうが、より大きな収入を得 ∼ 20 年とすると、累積の買取収入額は補助金よ られる可能性があるが、現実にはそのことが導 り大きなインセンティブになる。 (2)新たな買取制度 入時期を遅れた形跡はない。導入量が増えると ともに、電力事業者の余剰電力の購入量も増え 2009 年 11 月から買取制度が変更された。これ ている。その意味で、余剰電力購入制度は太陽 までは電力会社の自主的活動であったが、新制 光発電システム回収期間を縮小すると同時に、 度では、これまで以上に高い価格での余剰電力 電力会社にとって大きな負担になる。 の買い取りが電力会社に義務付けられた。ただ、 図 6 は一戸当たり補助金額と従来の買取制度に 電力会社はこれまでより大きな負担を払うこと よる売電収入額の比較である。図を見ると、一 となるので、その負担分は電力料金に付加する 戸あたり補助金額は年々に減っている。毎年の ことが認められることになった。なお、買取価 買取収入 6 は大体同じで考えると、補助金額と毎 格は買取を開始した時点から 10 年間は固定とさ 年の買取収入の差が縮小している。補助額が何 れている。ただし、今後システム価格の低下の 年分の買取収入あたるか、即ち、一戸あたり補 状況によっては買い取り価格を下げることもあ 助金額÷年平均売電収入を計算すると、94 年か りえるとされている。高い買取価格の設定によ ら 05 年まで、補助金額の買取収入額に対する倍 り、回収年数は従来の余剰電力購入制度より大 率が当初 94 年分であったのが、05 年時点では 2 きく縮小した。太陽光発電産業市場の拡大に大 年分にまで縮小している。言い換えると、補助 きな役割を果たすことが期待されている。 金額は買取収入の 2 年分に過ぎず、買取期間を 10 しかし、新たな買取制度でも、買取対象は余 図 6:補助金と買取制度の比較 万円 1000 一戸あたり補助金総額 平均売電収入 倍率(年数)(補助金総額÷平均売電収入) 100 93 89 49 36 34 34 20 12 10 11 11 6 2 1 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 年 出所:電気事業連合会のデータにより 6 1戸あたりの余剰電力は平均 1500kwh 程度であり、そこから計算すると年間 3万6千円の電力販売収入となる。 − 188 − 剰電力に限られ、余剰電力が発生しにくい公 サーチャージになるか不明であるが、環境問題 共・産業用発電施設への支援にはならない。ま 解決と言う政策目標達成のために一般市民がど た、日本の場合、買取価格が他の国に比べると れだけの負担を許容するかが問われることとな 7 ちょっと低く設定されている が、これは導入者 る。 及び投資ファンドが太陽光発電を利用して投機 的利益を得ることを防ぐためとされている。そ 4.環境意識の効果 のため、太陽光発電市場の拡大の面では欧州の 全量買取制度よりも導入促進効果は低いことに 4.1 住宅用太陽光発電システムの地域的普及状 況から見た環境意識 ならざるを得ないと考えられる。 また、新しい制度は、これまでの電力会社の 図 7 は都道府県太陽光発電導入件数、一戸建て 負担依存をやめ、一般市民の負担による運営制 の数と県民あたり所得の関係図である。この図 に変化しているが、その負担額が具体的に幾ら を見ると、導入件数は東京、大阪、愛知、神奈 になるかはまだ不明である。つまり、買取にい 川、埼玉といった県民所得水準が高い大都市周 くらかかったか実績を元に、次の年にどれだけ 辺に集中している。そして、導入件数と県あた 一般家庭向け電力価格に転嫁すればよいか決定 りの一戸建て数を比較すると、一戸建て数の多 する。そこで示された価格が太陽光サーチャー いところで太陽光発電システムの導入が多く ジという形で電気料金に上乗せされる。太陽光 なっている。また、図 8 を見ると、普及率が高い サーチャージは電気の使用量に応じて全需要家 ところの上位三位は佐賀、宮崎、熊本である。 に上乗せされる。従って使用量が多ければそれ 日本地図で普及地域をプロットすると、九州、 だけ一般市民の負担は大きくなる。欧州ではす 香川、山口、岡山など瀬戸内、長野、山梨、静 でに財政あるいは一般市民への負担増に対して 岡などの東海、甲信の比率が高く、他方、日本 不満の声が上がっており、制度変更を余儀なく 海側の東北、北陸、山陰などの導入比率は低く されていると云う。日本においてはまだ幾らの なっている。ここでは日照時間との関係で発電 図7 都道府県太陽光発電の導入 導入件数(件) 県民あたり所得(2007年度)(千円) 一戸建て数(戸) 1,800,000 30,000 1,600,000 25,000 1,400,000 20,000 1,200,000 1,000,000 15,000 800,000 10,000 600,000 400,000 5,000 200,000 宮崎 熊本 大分 福岡 佐賀 長崎 愛媛 高知 徳島 香川 広島 山口 鳥取 島根 岡山 奈良 和歌山 大阪 兵庫 滋賀 京都 静岡 愛知 三重 長野 岐阜 福井 山梨 富山 石川 東京 神奈川 新潟 埼玉 千葉 栃木 群馬 福島 茨城 宮城 秋田 山形 青森 岩手 0 北海道 0 出所:平成 21 年度 住宅用太陽光発電システム導入状況に関する調査などの資料により 7 経済産業省再生エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチームにより、EU 平均の買取価格は 58円である。 普通には、50 円前後で全量買取する。 − 189 − 図8:都道府県太陽光発電導入の普及率 % 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 沖縄 宮崎 鹿児島 熊本 大分 長崎 福岡 佐賀 愛媛 高知 徳島 香川 広島 山口 岡山 鳥取 島根 奈良 和歌山 大阪 兵庫 滋賀 京都 三重 静岡 愛知 長野 岐阜 福井 山梨 富山 石川 新潟 東京 神奈川 埼玉 千葉 栃木 群馬 福島 茨城 山形 宮城 秋田 青森 岩手 北海道 0 出所:太陽光発電協会と統計局の統計資料により 注:普及率=(導入件数)÷(一戸建て数) 効率が高い地域での導入が多くなっていること に政策として強制的政策、あるいは経済的には を知ることが出来る。このことは仮に政府の支 大きな負担を強いる政策の導入を可能とする。 援策が同じであっても発電効率が良い地域での 個人の環境意識は、世論の動きや政府による 普及率が高くなるという経済合理性による選択 広報活動によっても変化する。また環境意識が が働いていることを示唆している。また、所得 実際に活動の場を見出すのは個人の消費活動に との関係で言えば所得の多い県に環境投資が多 関することが多い。個人の場合、意識はあって く、環境意識の高低は所得に影響を受けること も、ある程度財力がなければ環境意識を実際に が知られる。 行動で示すことが出来ない。言い換えれば、環 境意識は市民の経済力と政府の支援策の上に、 4.2 環境意識と支援策 生まれるものであるとも考えられる。そうする 環境意識の高低は、ある環境を守るために幾 と、我々は地球環境問題の解決をどこまで一般 らまで負担を許容するかで計ることが出来る。 市民の環境意識に依存してよいか、あるいは依 ただ環境と言ってもその内容は広範である。か 存すべきかの議論をしなければならない。 つて、工業生産により公害問題が起こった時代 日本の支援制度は欧州諸国より市民の環境意 には、環境汚染は直ちに我々の生存に関係して 識に頼るところが大きかった。そのような状況 いた。したがってその対策は強制的なものとな でも、日本の住宅用の市場はそれなりに拡大し り、対策費用に上限はなかった。仮にその費用 てきた。しかし、欧州はもっと急速な普及をめ を負担できなければ、生産活動を停止すること ざし、政府の支援、あるいは強制的に市民負担 を命令する事もありえた。しかし、今日環境問 を増やすことで対処してきた。ここにはヨー 題はより広い概念でとられる。太陽光発電シス ロッパ諸国と日本の、地球環境問題に対する基 テムが目指すのは地球環境問題、特に温暖化問 本的価値観の違いが含まれているといえなくも 題への対応である。地球温暖化問題をどのくら ない。しかし、今や、日本的価値観の転換が迫 い緊急の重大問題と捉えるかは、国によっても られており、むしろ今後、新制度の継続性が問 個人によっても異なる。現在世界的にその重要 われることとなろう。 性、緊急性が強調されている。そのことが政府 − 190 − (1)環境意識と補助金 わる。 図 9 は太陽光発電導入件数と一戸あたりの補助 図 10 は初期導入コストを投資回収年限の推移 金総額の変化図である。まず、94 年から 05 年の と比較している。これを見ると初期導入コスト 間を見ると、個人設置者あたりの補助金総額は は 96 年以降殆ど縮小しておらず、その変化の幅 ずっと減っているが、設置件数は逆に増えてい は小さい。一方、設備費の回収年数は年々減少 る。前に述べたように補助金は逓減し、一方買 している。この間、導入件数は 05 年まで着実に い取り価格は不変であるために、個人の実質の 増えていることを考えると、太陽光発電市場の 負担はここ 10 年あまり変わっていない。つまり、 拡大は投資資金の回収年限の低下によって促進 導入条件は基本的に大きく変わらない中での導 されていることがわかる。つまり、導入件数は 入件数の増加は、市民の環境意識の向上の結果 回収年数の低下に反応しており、確かにここで と言えるだろう。さらに、06 年から 08 年の間に は経済合理性が働いている。また、図 10 を見る 補助金がゼロになった時、導入件数は減少した と回収年数が急に減少する年は 99 年、02 年と 05 が、ゼロにはなっておらず、その市場の規模は 3 年である。そして、99 年、02 年と 05 年での前年 年前の 04 年と同じぐらいとなっている。このこ 比の導入件数も急激に増えている。即ち、投資 とも、この時点で太陽光発電システムは支援策 回収年数の減少は導入件数の増加に大きく影響 に頼らずとも、地球環境を守ることに自分が参 を与えると考えられる。 加していると云う意識で導入を判断する人が現 に多くいることを証明しているであろう。 しかし、図 10 でもわかる通りここで示されて いる回収年限を見ると 08 年段階で 25 年であり、 (2)回収年数からみた環境意識 それは殆ど設備の寿命中にその設備費を回収す なお、個人の初期負担額は変わらなくても、 る事は出来ないことを意味している。たとえば、 システム価格の低下及び余剰電力買取制度の存 シャープのホームページによれば、太陽電池の 在により、太陽光発電システムの回収年数は変 保証期間は 20 年であり、寿命は 30 年であるとい 図 9 太陽光発電導入件数と一戸あたりの補助金の経年変化 件 80000 70000 万円 400 導入件数 一戸あたりの補助金 350 60000 300 50000 250 40000 200 30000 150 20000 100 10000 50 0 0 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 年 出所:太陽発電協会などのデータによる作成 − 191 − う。まして、一般の民間企業であれば投資回収 れたビジネス環境で、経済合理性による普及を 期間は 4 ∼ 5 年が常識とされ、それから見ればこ 目指そうという方向転換でもある。 の回収年限はいかにも長すぎるといえる。巨大 な投資額と小さい利益を考えると、現在住宅用 結びにかえて: の太陽光発電システムの設置者の判断は経済合 以上、日本の太陽光発電システムの発展、普 理性だけでは説明ができず、自己負担を覚悟し 及プロセス、市場構造を、主に設備補助制度と た投資を行なうといった環境意識からの判断要 余剰電力買取制度との関係で分析して来た。特 素も大きいと思われる。 に、支援策の効果、その環境意識と経済合理性 現在、太陽光発電システムによる発電コスト との関係を考察した。その中で、日本の太陽光 は一般家庭電力料金の倍ぐらいであり、これま 発電システム普及の支援策が、ヨーロッパと異 での日本における太陽光発電システムの市場は、 なり、個々の設置者の環境意識の高まりや電力 政府の支援、あるいは電力会社の支援、更には 会社の自主的取り組、負担によって支えられて 投資者による自己負担によって支えられ、それ きたこと、また、欧州の手厚い支援策による急 なりの規模の市場を形成してきた。今後新たな 速な普及が、かえって本来国民の高い環境意識 支援制度の下では、個々の設置者の環境意識や をベースに進められたはずの制度への反対を呼 電力会社の負担に頼らず、広く一般市民に負担 び、手厚い支援策によって作られた市場には不 を委ねることによって、個別の発電プロジェク 安定さがあると言うこともみてきた。 太陽光発電システムの発展段階から見ると、 トの経済性を格段に高めようとしている。しか し、そのことはかえって折角育ち始めた個々の その発電コストはまだ高く、政府の支援、国民 市民環境意識を無為のものとし、人工的に作ら 負担、個別の設置者や企業による環境意識から 図10 回収年数と環境意識 導入件数 80000 回収年数と導入コスト 70 前年比の増加件数 導入件数(百件) 回収年数(年) 導入コスト(十万) 70000 60000 50000 60 50 40000 40 30000 30 20000 10000 20 0 -10000 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 10 0 -20000 出所:発表されたデータにより計算 注:導入コスト=システム価格−補助金額 − 192 − の負担などによってようやくビジネスの形態を の 実 証 事 業 支 援 は 打 ち 切 り 」『 N I K K E I 取っていると言う状況である。 MONOZUKURI 21』April 2009 こうした状況は、さまざまな支援制度を作り 5.木村宰・鈴木達治郎「エネルギー技術の社会 出し、その支援制度の違いにより、市場構造の 的意思決定」2007 年 8 月『太陽光発電技術 違いをもたらした。日本では住宅用を中心する (PV)の導入における政府支援策の形成とア 構造になり、一般的な公共・産業用や PV ファー ム市場は未発達のままである。確かに、FIT 制度 クターの対応』 6.朴勝俊・李秀 「東アジアの再生可能エネル を導入したドイツなどの国々ではいろいろの分 ギー政策− 日中韓台の普及促進措置の現状 野の太陽光発電プロジェクトが成立し、全体の と課題」京都産業大学大学院経済学研究科 導入量は日本をはるかに上回り、結果として多 くの企業参入をもたらし、競争の中でコスト低 2009年06月14日 7.(株)資源総合システム編著「2009 年秋太陽 減も図られている。 光発電ビジネス世界最前線」電子ジャーナ 我々が今後考えなければならない太陽光発電 ル 2009年10月14日 システムの支援制度は、何より、目的としての 8.大橋孝之「国内公共・産業用太陽光発電シス 地球温暖化対策として普及量を増やすこと、し テム市場の現状と今後の見通し」「2009 年秋 かしできるだけ財政負担や国民への負担を減ら 太陽光発電ビジネス世界最前線」2009 年 10 し、早急なグリッドパリティの達成を促すよう 月14日 な環境を作ることであろう。又できるならば、 9.「産業用太陽光発電システムの導入について」 そうした制度は強制ではなく、関係者による自 第 60 巻 第 11 号 社団法人 日本電気協会 主的努力によってすすめられることが望ましい 2008年11月 であろう。その意味では、支援制度と環境意識 10.「民生用太陽光発電システムの普及について」 を組み合わせた日本的モデルと、強制的普及を 進めるための高い負担を覚悟しなければならな 『BE建築設備』2009年2月号 11.「特集 1 革新が進む新エネルギービジネス・ い欧州モデル制度を組み合わせた新たなモデル 技術」産業と環境 2010年6月 の創造が必要であるように思われる。そこでは 12.Trends In Photovoltaic Applications Survey 国民の環境意識を向上させ、それにインセン report of selected IEA countries between1992 ティブを与える様な仕組みを作り、また、競争 and 2008 を促し技術発展によるグリッドパリティの達成 13.渡辺百樹「太陽光発電システム開発物語」 を加速する仕組みを作らなければならないであ ろう。 参考文献: 1.大谷謙仁「世界のトップを走る太陽電池」 『精密工学会誌』Vol73 No.1 2007 2.『電気事業の現状 2010』電気事業連合会 3.『平成 20 年度住宅用太陽光発電システム導入 状況に関する調査』一般社団法人 新エネル ギー導入促進協議会 平成 21 年 7 月 4.「熱狂の太陽電池の中で沈む事業所向けNEDO − 193 − シャープ技報 第98号2008年11月