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北京オリンピックと環境ビジネス ∼2008 年北京オリンピック環境保護

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北京オリンピックと環境ビジネス ∼2008 年北京オリンピック環境保護
平 成 19 年 6 月 10 日
上海産業情報センター
駐在員
吉田真樹
北京オリンピックと環境ビジネス
∼2008 年北京オリンピック環境保護報告より∼
北京市が 2000 年 7 月 31 日に 2008 年オリンピック開催地の誘致に成功してから、既に 5
年間の準備期間が経過した。
今回のオリンピックの主要テーマの一つが「グリーン・オリンピック」となっているこ
とを受けて、1998 年から北京市は巨大な金額を環境保護改善活動に投資している。従来の
計画では 1998 年から 2007 年までの 10 年をかけて計 122 億米ドル(約 1000 億人民元=約 1
兆 6 千億円)を投資し、エネルギー構造の転換、車の排出ガス削減対策、汚水処理場とゴ
ミ処理場の新規建設などのプロジェクトを実施する計画としているが、2006 年末までに投
資した金額は既に 1150 億人民元と当初の計画を大幅に超える見込みとなっている。
また、北京オリンピック組織委員会(以下、組織委員会)でも「環境にやさしいオリン
ピック」を目指し、さまざまな環境保護活動に取り組んでいる。
2008 年オリンピック開催を契機とした環境ビジネス市場の拡大は確実なものとなり、中
国々内外企業の間では既に環境ビジネスを巡って市場獲得競争が本格化している。
1、 北京市の環境保護改善活動
∼環境改善を急速に推し進める巨大都市∼
北京市は、急速な発展途上にある巨大都市であり、都市の環境保護のためのインフラ施
設はまだ十分に整っておらず、市民たちの環境意識もいまだ低い状況にある。都市環境の
問題は、オリンピック開催地としての北京市にとっては、巨大な挑戦でもあるが、従来の
環境問題を改善する絶好のチャンスともなっている。
(1) 大気汚染対策
北京市周辺の黄土高原や砂漠地域の影響と、自動車の急増による排出ガスの増加が原因
となって、大気汚染は今や大きな課題となっている。1998 年以来、北京市政府は都市の大
気環境の改善を環境保護対策の中心に置き、発電所、工場、石炭ボイラー、自動車の排出、
工事現場などに対し、12 段階に分けて計 200 項目以上に及ぶ環境保護措置を実施し、都市
地域の大気環境改善を進めている。
経済の急激な拡大と、市民の生活水準の向上に伴い、現在の北京市の自動車保有数は 5
年前と比べてほぼ倍増している。現在では、自動車の排出ガスを原因とする大気汚染が深
刻な問題となり、北京市は 2001 年から車環境保護標識管理制度(エコマーク管理制度)を
全面的に実施し、2006 年までに累計 5
万台のタクシーと 1 万台の路線バス車両
の更新・廃棄を行った。現在、運営され
ている路線バスには、4000 台を超える
天然ガス車両が投入された。また、北京
独自
市の計画によると 2008 年までに、
開発の燃料電池バスおよび低排出ガス
バス車両の更新にあわせてマナー向上運動も
の路線バスを 1000 台に投入し、オリ
(写真:中日新聞社提供)
ンピック開催中には 50 台の燃料電池
バスを利用して選手たちを送迎する計画だという。
(2) エネルギー消費構造への対策
北京市のエネルギー消費構造は、石炭の使用比率が高いため、1999 年から石炭燃料のボ
イラーをエネルギー効率の高い天然ガス燃料ボイラーに改造する取組みを始めている。
2006 年までに計 4.4 万台の石炭ボイラーの内、20 トン以下の 1.5 万台石炭ボイラーの 92%
を天然ガス燃料ボイラーに改造する工事を完了し、2006 年末時点の全市天然ガスの使用量
を 38 億㎥にまで高めた。現在、北京市の市民たちの天然ガス消費はエネルギー総消費量の
78%を占めるようになった。
また、2007 年4月 24 日の中国国務院国有資産監督管理委員会の発表資料によると、オ
リンピック開催向けの環境整備において、あと約 23 億円投資し、石炭ボイラーの改造事業
を進める計画としている。
(3) 汚水処理、ゴミ処理対策
オリンピック環境対策の一環として、北京市は 2001 年から 2006 年にかけて市内と郊外
に計 14 箇所の汚水処理場を新規に建設し、全市の汚水処理能力を 291 万トン/日、汚水処
理率を 90%にまで高めた。また、今年の 5 月に北京市政府が策定した「省エネと環境保護
の 2007 年行動計画」では、08 年から 12 年にかけて毎年一箇所の汚水処理場を完成させる
予定としている。
2、 オリンピック組織委員会の環境保護改善活動
∼環境に配慮するスポーツ大会∼
「環境にやさしいオリンピック」を開催するために、組織委員会は環境保護と持続可能
な発展の両立を実現させ、オリンピックの開催が環境に及ぼす悪影響を最低限に抑えるた
めに、準備段階からオリンピック工事建設、大会運営、事務、物資調達、宿泊、交通、飲
食などの各方面で様々な工夫を行っている。
北京オリンピック開催中に使用される予定の競技場は計 36 箇所である。そのうち、12
箇所は新規、11 箇所は改造と増築、8 箇所は仮設的に建設される計画となっている。組織
委員会は 03 年、04 年に「オリンピック工事の環境保護マニュアル」を始めとする工事関連
のガイドブックを作成し、競技場建設の過程において、省エネ、緑化、建材、水資源保護、
固体廃棄物の処理などの面で
の具体的な環境保護の方向性
を示している。特に、各競技場
と関連施設において、先進的な
エネルギー供給技術、再生可能
な資源の利用を目指し、先進的
な熱ポンプ技術、太陽エネルギ
ー技術を利用して電力と熱を
供給するよう薦めている。今ま
で、既に4つの競技場とオリン
建設が進むオリンピック競技場(写真:中日新聞社提供)
ピック関連施設(2つの競技場、オリンピック村、メディア村)に熱ポンプ技術を投入し
ており、太陽エネルギーシステムも4つの競技場と関連施設に投入して熱の供給を賄うこ
とにしている。また、競技場の建設と装飾の過程で、環境にやさしいグリーン建材の利用
を義務付け、すべての装飾材料については放射性レベルが低いものを使うようにしている。
2003 年 6 月 3 日、組織委員会は「第 29 回オリンピック運動会組織委員会グリーン事務
ガイド」を発布し、自らの業務において回収可能な事務用品を使用するなど省エネ、節水、
資源の節約を進めている。
06 年 1 月に組織委員会の事務局を北京
オリンピックビルに移転したが、ビル内
の装飾には環境にやさしい材料を使い、
事務用家具も環境保護基準を満たすもの
にした。特に、05 年末にはイタリアの国
土・資源部から一人当たり 50 リットルで
毎日計 200 人にシャワー用温水を供給で
きる太陽エネルギー給水システムの寄付
建設中の水泳競技場(写真:中日新聞社提供)
を受け、ビルの屋上に同システムを設置
することにした。同システムについて、
組織委員会は国際的にも先進的な技術であると高く評価している。
物品の調達はオリンピック開催準備の重要事項の一つであり、組織委員会は 06 年に北京
オリンピック物流部を正式に成立させると同時に、「北京 2008 年オリンピック物流環境保
護適用マニュアル」および「北京オリンピック組織委員会環境保護購入ガイドブック」を
作成し、物品の調達、購入において、国家の環境保護要求基準と製品基準を満たし、エコ
マークを獲得した再生利用な製品、省エネ製品を優先的に採用することにしている。これ
らの基準は既に入札の条件として組み込まれている。
飲食サービスについては、組織委員会は「北京オリンピック飲食サービス環境保護マニ
ュアル」を作成し、環境保護食品、環境保護食器の利用を薦めている。オゾン層保護観点
からは、組織委員会は、競技場、飲食サービス企業、宿泊施設などを対象とした関連環境
保護マニュアルを作成し、空調及び冷蔵設備、消防設備に使われる冷凍触媒にはオゾン層
を破壊するフロン系物質(CFCs)の使用を厳格に禁止するなどしている。
3、 海外からの技術導入
国際交流も積極的に展開し、国外の先進的な経験も学んでいる。国際連合環境計画(U
NEP)、世界自然保護基金(WWF)とも提携を進め、双方での環境情報収集、グリーン
オリンピックの業務展開を行っている。
4、 北京オリンピック特需による環境ビジネスチャンス
北京オリンピック開催に伴い、北京市にはオリンピック関連産業の巨大な市場が形成さ
れつつある。北京市発展改革委員会の試算によると、2010 年までにオリンピック開催の相
乗効果を含め、北京オリンピック関連の投資・消費市場の規模は 48 兆円を上回るという。
北京市では、2003 年 10 月から都市のインフラ整備に「北京市都市基礎設施経営特別措
置法」を正式に導入し、公開入札募集を通じて外資を含む民間資金による汚水処理場など
の建設を行うことを決めた。計画では 03 年から 08 年まで計 64 箇所の汚水処理場を建設す
る予定となっている(06 年時点で建設済みのものは 10 箇所)。
このような環境ビジネスチャンスを巡り、既に海外の企業も動き出している。カナダの
環境関連企業は 2005 年に既に 3000 台の燃料電池バスのエンジンを中国に供給することに
成功し、そのうち、北京市が発注した台数は 2800 台を占めている。
今回のオリンピックスポンサー企業であるフォールクスワーゲン中国、コカコーラ、マ
クドナルド、ハイアールなどの中国国内外企業も、積極的に環境保護対策に関連して中国
での市場進出と拡大を狙っているようである。
中国の好景気は 2008 年の北京オリンピック、2010 年の上海万博までは、続くものと予
想されているところであるが、北京オリンピックの環境改善活動に加えて、 Better City
Better Life (よりよい都市生活環境)をテーマとする上海万博との二大プロジェクト相乗
効果に起因して、中国の環境ビジネス市場が今後、大きく拡大するものと思われる。
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