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退職後から始めた食連星合宿ゼミ(Phoebeを使った光度曲線解析を

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退職後から始めた食連星合宿ゼミ(Phoebeを使った光度曲線解析を
退職後から始めた食連星合宿ゼミ
(Phoebeを使った光度曲線解析を目指して)
赤澤 秀彦
大島
修
片山 敏彦
佐々井 祐二
1
岡山理科大学/食連星合宿ゼミ
岡山理科大学/食連星合宿ゼミ
観音寺市教育センター/食連星合宿ゼミ
津山工業高等専門学校/食連星合宿ゼミ
はじめに
2014年3月末に定年退職をしたのを機に、食連星の光度曲線解析について集まって勉強しようという
話が持ち上がった。現職者1名を加えた4名で、それぞれ天文活動歴はいろいろであるが、全員が連星
系の勉強を進め、少しでも天文学のサイエンスにアプローチしたいという強い希望をもっている。そこ
で、倉敷、香川、津山を持ち回っての「食連星合宿ゼミ」がスタートした。
2
ゼミの経過
(1)ゼミの目的
自分で観測した食連星の光度曲線を、自分で解析し、連星系の物理パラ
メータを決定できるようになる。そのための光度曲線解析用ソフトとして、
Phoebeを使うことを目的とした。
Phoebeは、Andrej Prsa(米国Villanova大)が中心になって開発してい
るオープンソースソフト(GNUライセンス)である。使いやすいユーザー
インターフェースを彼らが開発し、解析の本体はWD(Wilson Devinny)
コードそのものである。(バージョン0.31がレガシー安定版)
なお、現在バージョン2.0が開発中でβ版が公開されているが、まだサイ
エンス用途には使用が禁止されている。
(2)使用したテキスト
Josef Kallrath and Eugene F.Milone著の"Eclipsing Binary Stars:
Modeling and Analysis" Second Edition Springer 2009 (写真1)
を用いて、輪読会の形式でゼミを進めた。
写真 1
テキストの表紙
(3)ゼミ会場と頻度
会場は4人が持ち回りで、それぞれの居住地の近くに手配し
て、年に数回1、2泊しての合宿ゼミを行った。第1回目は
2014 年5月に美星天文台で行い、その後、香川大学、津山高
専、加計学園国際交流センターなどを借りて、これまでに10
回のゼミを行っている(写真 2)
。
内容は、食連星全般について、モデリングのためのアプロー
チの手法、パラメータ決定の手法などで、英文を訳しながらゼ 写真 2 美星天文台でのゼミの一コマ
ミを進めた。
3
解析に使った測光データ
解析には 2 色以上で全位相の観
測があり、先行研究の多い系とし
て、船穂天文台で観測した HW
Vir の測光データ(図 1)を使っ
た。
HW Vir
HW Vir = GSC 5528-0629
V = 10.48-11.38mag.
P = 0.11671948d
図1
HW Vir の測光データのグラフ
観測(2015/02/13-03/01)
B 2015/2/24&26
V 2015/2/23、27、3/1
Rc 2015/2/13&14
Ic 2015/2/20
観測機材
4
150sec.
150sec.
120sec.
120sec.
Celestron C11
104obs.
207obs.
250obs.
157obs.
28cm F10→F6.3
Moravian G2-1600
B、V、Rc、Ic
光度曲線解析の実際
Phoebeの特徴を以下に挙げる。WDコードを実装しており、光度曲線解析に測光データ、視線速度解
析に分光データを使用する。光度曲線を解析するためのフィッティング手法として、Differential
Corrections(差分補正)と最適化問題アルゴリズムNelder & Mead’ Simplex(ネルダー-ミード法)
を使用する。また、Star Shapeで食連星の模式図を表示することができる。
"Eclipsing Binary Stars: Modeling and Analysis"の基礎的な部分を輪読はしたが、余り WD コード
を理解しない状態で Phoebe を試した。Phoebe のサンプルデータとして EW 型の UV Leo のデータが
付属しており、このフィッティングは容易い。しかし、HW Vir について、最初、パラメータを闇雲に
変えるだけでは上手くフィッティングできなかった。ここでは、食連星の理論を勉強中で WD コード
に不案内な者が、Phoebe を用いてなんとか HW Vir の解析を試みた作業記録を紹介する。
(1)フィッティングについて
同時に沢山の物理量をパラメータとすると膨大な計算リソース、CPU パワーを必要とし、計算が終
わらない。また、適当な初期値を使うと、評価関数の多数ある極小点の一つに捕まり、最小値にたどり
着かないで光度曲線を近似することがある。ただ、ネルダー-ミード法ではある程度極小値を乗り越え
て最小値を探索するらしい。
光度曲線をうまくフィッティングできたとしても、成分星半径などの値がまるで現実的でないことが
ある。つまり、サイズ情報が必要である。測光データだけでは連星系のサイズ情報は入らないのであろ
うか? 分光データによる視線速度等から半長径、質量比が分かるが、近接連星の分光データは1mク
ラスの望遠鏡でも取得が難しいと聞く。
(可能でしたら、食連星の分光データをご提供下さい。
)
(2)Phoebe解析パラメータ
今回はグローバルパラメータだけでフィッティングを試みた。予め与えた物理量に下線を引き、今回
のフィッティングに使用した物理量に囲み線をして表 1 に示す。
表1
連星系に関係するパラメータ
エポックタイム HJD0 [HJD]
変光周期 PERIOD [days]
位相シフト PSHFT
半長径
SMA [R Sun]
質量比
RM (M2/M1)
軌道傾斜角 INCL
視線速度 VGA
Phoebe 解析パラメータ(一部)
成分星に関係するパラメータ
有効表面温度 TAVH、TAVC (主星、伴星)
表面ロッシュポテンシャル PHSV、PCSV
(主星、伴星)
表面重力 LOGG1、LOGG2 (主星、伴星)
表面パラメータ
軌道パラメータ
軌道離心率 E
周辺減光パラメータ
本取組では Jae Woo Lee 他の論文[1]に記載されている先行研究を参考にした。
エポックタイム
変光周期
半長径
質量比
主星表面温度
HIJD0
PERIOD
SMA
RM
TAVH
=
=
=
=
=
2,445,730.55743[HJD]
0.1167195[day]
0.8594[R Sun]
0.2931
28,488[K]
もちろん変光周期は光度曲線から推定できる。半長径を 1.0 と規格化することもできるが、解析した物
理量の数値に意味を持たせたい。
そこでサイズ情報として、分光データからの視線速度解析による Wood
と Saffer(1999)の半長径の値を入れた。また、スペクトル解析による主星表面温度も利用する。HW
Vir は B 型準惑星(スペクトル型が sdB 型)で、大きさの割に非常に高温であり、副極小が浅いので、
伴星光度(サイズ、温度)は小さい。なお、今回は質量比も与えてフィッティングを行った。
(3)Phoebe解析作業
(3-1)Phoebe 操作画面
Phoebe を起動すると図 2 のような画面が表示される。①のタブを選択し、DATA タブ画面ではデー
タセットと結果表示、Parameters タブ画面ではパラメータのセットやフィッティング可否選択、
Fitting タブ画面では指定条件でのパラメータフィッティング、Plotting タブ画面ではフィッティング
結果の表示が行われる。
Data タブ画面では、②LC data にて測光ファイル(本取り組みでは、赤澤のデータ HWVir.B、
HWVir.V、HWVir.Rc、HWVir.Ic)を指定する。測光ファイルがあれば、③RV data においてファイル
指定できる。④Model では Detached binary、unconstrained binary、Overcontact binary などの幾何
学的タイプを指定する。HW Vir では Detached binary を指定した。⑤Results summary に結果の物
理量が表示される。⑥Fitting summary にはフィッティングパラメータの結果が表示される。なお、
測光データが等級で与えられる場合は、⑦Mag. norm を 0.0 とする。
①
⑤
④
②
③
⑥
⑦
図2
Phoebe 画面(Data タブ画面)
(3-2)伴星の表面ポテンシャルフィッティング
Parameters タブ画面を表示させ、エポックタイム、変光周期、半長径、質量比、主星表面温度をセ
ットする。この状態で Plotting タブ画面にて光度曲線とフィッティング曲線(まだ直線)を表示させ
ると、そのレベルが乖離している。Parameters-Luminosities タブにて各フィルタのルミノシティを
計算すると、光度曲線の縦軸中心にフィッティング直線が配置するよう調整される。
Parameters-Component タブにて、主星ポテンシャル PHSV には適当な 5.0 で固定し、伴星ポテ
ンシャル PCSV にはやや小さい 3.0 を入れてチューニングさせる。フィッティング直線と光度曲線があ
まりに乖離しているせいか、計算時間の短い差分補正は機能しなかった。ネルダー-ミード法にて目的
精度(Aimed accuracy)を 0.10 に落とし、当たりを付けてみたところ、位相のずれたフィッティング
曲線が得られた。そこで Parameter-Ephemeris タブにてフェーズシフト PSHIHT を-0.075 に手動で
調整すると、極小位置が重なり、本格的にフィッティングができるようになった。
(3-3)主星表面ポテンシャルの調整
主星表面ポテンシャル TAVC を 5.0 に固定し、伴星の表面温度 TAVC と表面ポテンシャル PCSV を
チューニングさせる。ただ、初期値によっては評価関数の極小点に捕まって最小点にたどり着かないこ
とが多々ある。そこで、副極小が浅いので伴星表面温度 TAVC の初期値を小さく 3000K、表面ポテン
シャル PCSV の初期値を 3.0 としてチューニングした。すると、うまく光度曲線のフィッティングが
できるが、伴星表面温度が 500K などとまるで現実的でない値に収束してしまう。次に、主星表面ポテ
ンシャル TAVC を 5.1、5.2 のように少しずつ変化させ、伴星表面温度が現実的となるようにした。
さらに、軌道傾斜角 INCL もチューニングに加え、目的精度を 0.01 に上げて、Johnson B、V、Rc、
Ic フィルタについてのフィッティング(図 3)を得た。
Johnson B
Johnson V
Johnson Rc
Johnson Ic
図3
光度曲線とフィッティング曲線(Johonson B、V、Rc、Ic フィルタ)
(3-4)現在までの解析結果
HW Vir の解析結果を表 1 にまとめる。本報告と Lee et al. (2009) は Wood & Saffer (1999) の分光解
析による主星表面温度 T1 を用いてシミュレーションしている。我々の報告と先行研究とはかなり近い
結果となっている。今回は質量比も与えてフィッティングを行ったが、調整するロシュポテンシャルか
ら決まるので、質量比をフリーパラメータとして、より詳細に検討したい。また、研究会において、
HW Vir は反射効果の大きい近接連星であるので、反射効果から半長径などのスケール情報を入れるこ
とができるのではないかという有益なアドバイスを頂いた。今後、より詳細な解析を試みたい。
表1
HW Vir の解析結果(1:主星、2:伴星、T:表面温度、R:成分星半径、i:軌道傾斜角)
T1
T2
R1
R2
M1
M2
i
本報告 (2016)
28,488K
3,186K
0.174Rsun 0.189Rsun 0.484Msun 0.142Msun
79.8°
Wood&Saffer (1999)
28,488K
0.176Rsun 0.180Rsun 0.480Msun 0.140Msun
Lee et al. (2009)
28,488K
3,084K
0.183Rsun 0.175Rsun
80.98°
5
まとめ
4 人のグループで連星ゼミを進めたことで、次回のゼミまでの比較的短期間(約 3 か月間)の目標や
課題設定が明確になり、勉強に向かう刺激と動機づけとなった。現職者を含め、退職者3名も再任用や
非常勤講師などいろいろな立場で仕事に携わっているので、時間調整など多くの課題を乗り越えてのゼ
ミになった。その中で、自分たちの観測データから連星のモデルに迫ることができたことは、さらなる
観測とデータ解析に取り組む意欲への励みになっている。会場を倉敷、香川、津山で持ち回ったことで、
それぞれの観測環境や整約などについても情報交換ができた。
このゼミでは光度曲線解析をやり始めたばかりで、これからが本番になる。より正確なフィッティン
グを追求するとともに、各自の観測環境を整備しながら、今後もいろいろな天体の観測結果を Phoebe
により解析できるようにしたい。
謝辞
このゼミのために快く会場を提供して下さった関係の皆さまに、心より感謝申しあげます。
参考文献
[ 1 ] J . W. L e e e t a l . , " T H E s d B + M E C L I P S I N G S Y S T E M H W V I R G I N I S A N D I T S C I R C U M B I N A RY P L A N E T S " , A s t r o n o m i c a l J o u r n a l , v o l . 1 3 7 , 3 1 8 1 - 3 1 9 0 ( 2 0 0 9 ) .
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