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第5巻1号全編

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第5巻1号全編
岐阜県立看護大学紀要
Journal of Gifu College of Nursing
第 5 巻 1 号 2005 年 3 月
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
目 次
〔巻頭言〕
大学創設から 5 年目の集積
平山朝子 …………………………………………………………………………………………………… 1
〔研究報告〕
看護職者のキャリアマネジメントのあり方
グレッグ美鈴、林由美子、池西悦子、両羽美穂子、奥井幸子、上野美智子、栗田孝子、
宮本千津子、鎌田亜由美 ………………………………………………………………………………… 3
精神疾患をもつ長期在院患者の社会復帰に向けての看護実践と課題(第一報)
片岡三佳、高橋香織、グレッグ美鈴、池西悦子、池邉敏子、長瀬義勝、家田重博、
纐纈富久、村岡大志 …………………………………………………………………………………… 11
精神科病棟での家族援助の内容と気づきの検討
池邉敏子、片岡三佳、高橋香織、山内美代子 ……………………………………………………… 19
A県特別養護老人ホームの現状と看護職が認識している充実・強化したい看護行為
小野幸子、原 敦子、林 幸子、坂田直美、田中克子、兼松惠子、奥村美奈子、小田和美、
梅津美香、古川直美、北村直子、平山朝子 ………………………………………………………… 27
〔教育実践研究報告〕
訪問看護実習による学生の学びの内容
森 仁実、佐賀純子、藤澤まこと、普照早苗、松山洋子 ………………………………………… 33
精神看護場面のロールプレイング演習にビデオの振り返りを取り入れた学び
高橋香織、片岡三佳、池邉敏子 ……………………………………………………………………… 41
看護職者の体験談を取り入れた授業によるキャリアマネジメントについての学び
−学生のレポート分析から−
池西悦子、林由美子、上野美智子、グレッグ美鈴、奥井幸子、栗田孝子、宮本千津子、
両羽美穂子
……………………………………………………………………………………………… 47
3年次、授業終了時の学生の学びからみた機能看護学の統合への課題
栗田孝子、林由美子、奥井幸子、上野美智子、宮本千津子、池西悦子、両羽美穂子 ………… 53
子どもと子どもを取り巻く社会の観察における学生の学習成果
茂本咲子、泊 祐子、石井康子、長谷川桂子、山田小夜子 ……………………………………… 59
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
学校看護実習からの学生の学び
石井康子
………………………………………………………………………………………………… 65
成熟期看護技術演習におけるストーマ装具の装着体験を通じて学生が捉えた学び
兼松惠子、田中克子、原 敦子 ……………………………………………………………………… 71
〔資 料〕
本学における助産教育の展開と課題(第1報)
−助産教育の現状からの検討−
服部律子、谷口通英、堀内寛子、布原佳奈、兼子真理子、荒尾美波 …………………………… 79
本学における助産教育の展開と課題(第2報)
−分娩期実習の実際−
堀内寛子、服部律子、谷口通英、布原佳奈、兼子真理子、荒尾美波 …………………………… 85
共同研究実施者の意見に基づく事業の見直しと課題
グレッグ美鈴、岩村龍子、大川眞智子、平山朝子 ………………………………………………… 93
一般病院でのターミナルケアへの質の向上を目指す取り組み
田中克子、梅津美香、グレッグ美鈴、北村直子、小田和美、奥村美奈子、小野幸子
……… 101
県内医療施設における退院調整の実態
黒江ゆり子、藤澤まこと、普照早苗、佐賀純子、平山朝子、田辺満子、若原明美
………… 109
過疎地域看護職と看護大学教員との現地における事例検討とその意義
藤澤まこと、坪内美奈、池邉敏子
………………………………………………………………… 117
〔その他〕
クロニックイルネスにおける「二人して語ること」
−病みの軌跡が成されるために−
黒江ゆり子、藤澤まこと、普照早苗、佐賀純子
………………………………………………… 125
〔投稿規定〕 ………………………………………………………………………………………………………… 132
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔巻頭言〕
大学創設から 5 年目の集積
学長 平山 朝子
大学の紀要は、当該大学の教員による執筆が主となる
本誌の論文は、総説、原著、報告、資料に区分してい
のは当然であるが、本誌は開学初年度から刊行されてき
るのであるが、委員会の自己点検評価によると、原著が
たので、本巻は大学創設から 5 年目の教員の研究実績
少ないとの報告である 。 このことは、紀要編集の今後の
の集積となる。
課題の一つであることには違いないが、むしろ、本学の
筆者は第 1 巻の創刊にあたり、本誌が自大学の特色
研究活動自体のあり方に深く関連した課題である。
ある教育研究活動の内実を一層効果的に創出していくた
本学では、たとえば、共同研究については、その要件
めに年々充実させたいとの期待を記した。そして、本誌
に看護実践従事者側の問題意識に沿って現地側の課題に
の編集委員会には基本的方針として、教員の本務である
取り組むことを重視している。そのため、研究者側の問
大学の諸活動を研究した報告、すなわち教育活動や大学
題意識で現地側の提起した課題を摩り替えるということ
管理に貢献する委員会活動において研究した報告、さら
は慎まなくてはならない。大学の研究者用のフィールド
に共同研究活動実績などを大いに取り上げて欲しいと要
として協力を求める研究ではなく、対等の立場で問題解
請した。また、査読に際しては、あまり厳格で形式的な
決に科学的手法で取り組む。その目指すところは日常的
規制をすることなく、教員たちの看護学発展に寄与する
な看護実践の改善・改革に寄与することである。
ための独創的な試みが抑制されないよう留意してほしい
とも要請してきた。
今後は、これらの実績を積み上げ、集約し、看護サー
ビスの質を変革して行く実践研究方法の開発をしていこ
その意図は、看護学が発達途上にある学問領域である
うとしている。
と同時に、高等教育機関による教育活動実績が乏しい段
すべての共同研究が次段階の研究に発展できるわけで
階にある。そのため、本学が草創期において、どのよう
はないが、看護サービスの構成の特質に合わせた課題へ
な研究活動を展開して教育の基盤を造るのか、また、高
と発展させる研究も続けなくてはならないし、また、共
等教育機関としてどのような管理運営体制を築くのか、
同学習的取組みを加えて、次段階の共同研究計画が出来
これらは本学の今後のあり方に多大な影響を与えていく。
てくることが期待できる。こういった側面から、共同研
そこで、本学としては、何があっても揺るぎない大学
究におけるオリジナリティの追求も可能である 。 このこ
活動の基盤を共同で築いていくことを最優先することと
とは、本学としては、看護実践研究指導を行う修士課程
し、大学の構成員が文章表現を通して自分の考えを詰め、
を開設しているという面でも、極めて重要な関心事であ
共有した。論文として世に問うことを促すことは、教員
る。
を育てる原動力となるからである。
今日では、学士課程教育の展開を一通り終了し、教育
すでに 4 巻を刊行し、内容は所期の目的どおりの成
課程の改善・充実に取り組み始める一方で、大学院看護
果が確認できる状況となった。つまり、内容構成として
学研究科の教育を開始し、さらに、上記の看護実践研究
は、本学での教育実践事象を取り上げた教育方法の研
指導をし得る教育者の育成を目指した博士課程の設置を
究、共同研究の実績報告、各種委員会の活動に関わる報
具体化する時期に来ている 。 その意味で、本誌の役割の
告、海外研修報告などが中心であり、毎年の実績が豊か
重要性は益々増大して来ている。本学の諸活動の特色を
に掲載されている。また、投稿数も多く、1冊に収める
反映した内容の充実を期待している。
ことが難しい段階に至っている。
̶ 1 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔研究報告〕
看護職者のキャリアマネジメントのあり方
グ レ ッ グ 美 鈴 1)
両羽
栗 田
由 美 子 2)
林
悦 子 2)
池 西
美 穂 子 2)
奥 井
幸 子 2)
上野
美 智 子 2)
孝 子 2)
宮本
千 津 子 2)
鎌田
亜 由 美 2)
Career Management for Nurses
Misuzu F. Gregg 1) ,
Mihoko Ryoha 2) ,
Takako Kurita 2) ,
Yumiko Hayashi 2) ,
Yukiko Okui 2) ,
Etsuko Ikenishi 2)
Michiko Ueno 2)
Chizuko Miyamoto 2) , and Ayumi Kamata 2)
はじめに
職として成長するために、キャリアをマネジメントする
看護が専門職であるためには、個々の看護職者が自分
こととしている。
自身のキャリアをマネジメントし、さらに組織がそれを
支援することが必要である。本学機能看護学講座では、
Ⅰ.研究方法
自己のキャリアを自らの意志で築いていくことの重要性
1.研究対象者
を基礎教育の中で学修する 1) ことを目指して、キャリ
平成 16 年度第1回岐阜県内病院看護部長協議会研修
アマネジメントの授業を行っている。キャリアは長期に
会に参加し、質問紙に回答した看護職者 188 名である。
渡るマネジメントが必要であることを考えると、現場で
2.研究方法
働く看護職者がキャリアマネジメントを効果的に行うこ
自記式質問紙を用い、研修終了時に記入、提出を依頼
とが重要であり、このことが看護実践の質的向上に寄与
した。調査主体は大学である。
すると考えられる。
3.調査内容
そこで、「看護職のキャリア開発を考える−看護専門
対象者の背景として、年齢、性別、職種、看護職とし
職としてのキャリアマネジメント−」をテーマとした研
ての経験年数、所属施設の病床数である。キャリアマネ
修会を、岐阜県内病院看護部長協議会とともに開催した。
ジメントについては、現在のキャリアについての悩み、
看護部長協議会は、自律的・自主的に行動を起せる看護
今後のキャリアマネジメント、組織に希望すること、キャ
職者の育成を課題としており、今回の研修会の目的は、
リアマネジメントの意味である。
参加した看護職者が自分自身のキャリアとそのマネジメ
4.倫理的配慮
ントを考える機会を提供すること、さらに参加者のキャ
質問紙の冒頭に研究目的、匿名性・プライバシーの保
リアマネジメントに関する考えを知ることであった。
護について記述し、質問紙への回答を同意とみなした。
本研究では、この研修会参加者のキャリアマネジメン
5.分析方法
トの現状や希望する内容を明らかにし、キャリアマネジ
記述内容を意味内容を変えないように要約してコード
メントのあり方を検討することを目的とした。キャリア
化し、このコードを相違点、共通点について比較分析す
マネジメントについては、統一した定義を用いず、看護
ることにより、カテゴリー化(抽象化)を行った。分析
1)岐阜県立看護大学 看護研究センター Nursing Collaboration Center, Gifu College of Nursing
2)岐阜県立看護大学 機能看護学講座 Management in Nursing, Gifu College of Nursing
̶ 3 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
結果の厳密性の検討については、1名の研究者が分析し
平均 19.9 ± 8.6 年であった。経験年数の分類では、10
たものを、4名の研究者間でディスカッションを行い、
年未満が 22 名(11.7%)、10 ∼ 19 年が 64 名(34.0%)、
合意が得られるまで検討した。
20 ∼ 29 年が 69 名(36.7%)、30 ∼ 39 年が 20 名(10.6
%)、40 年以上が 4 名(2.1%)であった。所属施設の
Ⅱ.結果
病床数では、300 床以上が 89 名(47.3%)と最も多く、
1.対象者の特性
次 い で 100 ∼ 199 床 が 40 名(21.3 %)、200 ∼ 299
性別では、女性が 173 名(92.0%)と多く、男性は
床が 37 名(19.7%)、100 床未満が 18 名(9.6%)で
9名(4.8%)であった。年齢は、23 ∼ 64 歳で、平均
あった。
43.3 ± 8.7 歳であった。職種は、看護師が 170 名(90.4
2.抽出されたカテゴリー
%)、助産師が8名(4.3%)、准看護師が6名(3.2%)、
1)キャリアについての悩み 保健師が1名(0.5%)であった。経験年数は1∼ 46 年で、
現在、キャリアについて悩んでいることは何かに対す
表1 キャリアについて悩んでいること
カテゴリー
サブカテゴリー
やりたいことが不明
専門性の不確かさ
目標・専門性の不明確さ
(30 名:19.8 ± 9.3 年)
目標の不明確さ
方向性の不明確さ
専門性獲得手段の不明確さ
キャリア支援の方法
人材育成
(23 名:20.2 ± 6.6 年)
後輩の育成
キャリアに対する不確実性
キャリアに対する不安・自信の欠如・
不確実性(14 名:17.6 ± 8.7 年)
キャリアに対する不安
自信の欠如
知識・技術・経験の不足
不足していること
(12 名:21.3 ± 11.6 年)
能力不足
勉強不足
仕事と家庭の両立(11 名:22.5 ± 9.2 年)
仕事と家庭の両立
実行困難
キャリアマネジメントの実行困難
(8名:18.8 ± 8.0 年)
重要視の欠如
勇気の欠如
キャリアに関する組織の問題
(7名:18.7 ± 9.9 年)
キャリアに関する組織の問題
組織と個人の考え方の不一致
組織や管理者との考え方の不一致
(7名:18.1 ± 10.4 年)
管理者との考え方の不一致
キャリアに関する看護師の意識不足
(7名:24.5 ± 8.4 年)
キャリアを考えるゆとりの欠如
(7名:13.6 ± 10.2 年)
キャリアに関する看護師の意識不足
キャリアを考えるゆとりの欠如
ローテーションによる学習の中断
ローテーション
(6名:20.0 ± 4.5 年)
ローテーションの実施
希望する分野で働けないこと
(5名:11.8 ± 6.0 年)
希望する分野で働けないこと
学習困難(3名:23.7 年)
学習困難
精神的負荷(2名:21.0 年)
精神的負荷
その他(4名:17.5 年)
その他
なし(3名:15.3 年)
なし
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岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
る記述は、28 サブカテゴリー、15 カテゴリーに分類さ
2)今後のキャリアマネジメント
れた(表1)。以下『 』はカテゴリーを示す。
今後、どのようにキャリアをマネジメントしたいと考
キャリアに関する悩みで最も多かったのは、『目標・
専門性の不確かさ』であった。30 名が記述し、これら
えているかに対する記述は、21 サブカテゴリー、5カ
テゴリーに分類された(表2)。
の者の平均経験年数は 19.8 ± 9.3 年であった。内容は、
今後のキャリアマネジメントとして『自己のキャリア
やりたいことが何かわからない、自分の専門にしたいこ
マネジメント』を挙げた者は 70 名で、平均経験年数は
とが決まらない、自分の目標がつかめないなどであった。
20.3 ± 8.2 年であった。マネジメントの方法として知
次いで多い悩みは『人材育成』で、23 名が記述し、平
識を深める・学習する、研修会・勉強会に参加・実施す
均経験年数は 20.2 ± 6.6 年であった。スタッフに対す
る、現状で努力する、目標を明確化する、大学教育を受
るキャリア支援の方法がわからないことや後輩指導の方
けるなどを挙げていた。
法に悩むことが含まれていた。『キャリアに対する不安・
『他者のキャリアマネジメント』を挙げた者は 29 名で、
自信の欠如・不確実性』を挙げた者は 14 名で、平均経
平均経験年数は 21.8 ± 10.6 年であった。マネジメント
験年数は 17.6 ± 8.7 年であった。管理者としてのキャ
の方法として指導・支援を行う、体制をつくる、キャリ
リアの積み方や現状でどうキャリアアップすればよいの
アに対する考え・ニーズを把握するなどが記述されてい
かに悩む、自信がないと記述されていた。知識・技術・
た。『他者のキャリアマネジメント』を記述した 29 名
経験の不足、能力や勉強不足といった『不足している
のうち、27 名は他者のキャリアマネジメントのみを記
こと』に悩んでいる者が 12 名で、平均経験年数は 21.3
述していた。
± 11.6 年であった。
『社会・組織への貢献』を今後のキャリアマネジメン
トとして記述した者は4名で、平均経験年数は 21.0 ±
表2 今後のキャリアマネジメント
カテゴリー
サブカテゴリー
知識を深める・学習する
研修会・勉強会に参加・実施する
現状で努力する
自己のキャリアマネジメント
(70 名:20.3 ± 8.2 年)
目標を明確化する
目標を達成する・専門を深める
資格を取得する
大学教育を受ける
自分を見つめる
その他
指導・支援を行う
体制をつくる
キャリアに対する考え・ニーズを把握する
他者のキャリアマネジメント
(29 名:21.8 ± 10.6 年)
意思を尊重する
後輩を育成する
機会を提供する
ローテーションを考え直す
その他
社会・組織への貢献
(4名:21.0 ± 9.6 年)
その他(5名:19.6 ± 7.2 年)
わからない・考えていない
(3名:20.0 ± 13.7 年)
組織の看護の向上に貢献する
社会活動に参加する
学校教育に参加する
その他
わからない・考えていない
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岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
9.6 年であった。組織の看護の向上に
表3 組織に希望すること
カテゴリー
貢献する、社会活動に参加する、学校
教育に参加するが挙げられていた。
今後のキャリアマネジメントについ
サブカテゴリー
研修会参加への体制作り
勉強会・研修会の開催・参加の奨励
(33 名:20.3 ± 9.5 年)
研修会への参加
勉強会・研修会の開催・充実
て、『わからない・考えていない』と
いう記述も3名あった。これらの者の
平均経験年数は、20.0 ± 13.7 年であっ
た。
3)組織に希望すること
キャリアをマネジメントするため
適時・適材・適所
ローテーションの工夫
(11 名:16.1 ± 8.5 年)
目的の明確化・説明
希望・事情の配慮
時間の確保
時間の確保
(11 名:20.2 ± 6.3 年)
人員の確保
業務調整
意見の聴取
意見・希望の聴取
(10 名:17.1 ± 7.7 年)
に希望することは何かに対する記述
組織の目的・方針・考え方の明確化
(7名:17.0 ± 6.8 年)
は、18 サブカテゴリー、9カテゴリー
費用負担(6名:21.0 ± 14.8 年)
希望の聴取
組織の目的・方針・考え方の
明確化
費用負担
に分類された(表3)。
情報の提供・共有(6名:23.0 ± 3.4 年)
情報の提供・共有
相談窓口の設置(3名:26.0 年)
相談窓口の設置
に、組織(病院・看護部・所属部署)
研修会参加への体制作りや勉強会・
研修会の開催・充実といった『勉強会・
組織としての支援
その他(34 名)
個人への支援方法
研修会の開催・参加の奨励』が 33 名
と最も多く、これらを記述した者の平
システム・体制作り
考えたことがない(1名)
均経験年数は 20.3 ± 9.5 年であった。
このうち 12 名は、現在キャリアにつ
いて悩んでいることは何かの質問に対
して、『目標・専門性の不確かさ』お
よび『キャリアに対する不安・自信の
欠如・不確実性』を記述していた。組
織に希望することで、次いで多かった
のは『ローテーションの工夫』で 11 名、
表4 キャリアマネジメントの意味
自分自身
の成長
1位
95 ( 50.5)
看護専門職
としての成長
66 ( 35.1)
社会貢献
6 ( 3.2)
2位
52 ( 27.8)
95 ( 50.5)
19 ( 10.1)
3位
20 ( 10.6)
5 ( 2.7)
133 ( 70.8)
4位
1 ( 0.5)
無回答
合計
0 )
1 ( 0.5)
20 ( 10.6)
22 ( 11.7)
0(
29 ( 15.4)
188 (100 )
188 (100 )
188 (100 )
平均経験年数は 16.1 ± 8.5 年であり、
ローテーションの目的の明確化・説明や希望・事情の配
の成長、社会貢献、その他の選択肢で順位をつけるよう
慮などが挙げられていた。他には『時間の確保』『意見・
依頼した。その結果、それぞれ最も多かった順位は、自
希望の聴取』『組織の目的・方針・考え方の明確化』が
分自身の成長は1位で 95 名(50.5%)、看護専門職と
希望されていた。
しての成長は2位で 95 名(50.5%)、社会貢献が3位
分類が困難であった『その他』では、支援を強制しな
で 133 名(70.8%)であった(表4)。その他では、社
い、個人の成長するペースを大切にするなどの個人への
会的責任を果たすこと、組織力アップ、家族の協力への
支援方法、身分を保障する、待遇を良くするなどの組織
還元などが記述されていた。
としての支援、さらに看護部を設立するなどのシステム・
体制作りが記述されていた。『考えたことがない』と記
Ⅲ.考察
述した者も 1 名あった。
1.キャリア発達過程から見た現状について
キャリア発達は、職業と個人的な経験、さらに環境要
4)キャリアマネジメントの意味
キャリアをマネジメントすることは、どのような意味
因によって形作られる成長の過程 2) と捉えられる。臨
があるかについて、自分自身の成長、看護専門職として
床看護師のキャリア発達過程の研究で、水野ら 3) はⅠ
̶ 6 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
期の基本的知識・技術の獲得からⅥ期の専門・関心領域
キャリアマネジメントの意味においても、社会貢献を第
の組織化・運営までを明らかにしている。この中でⅣ期
1位に選んだ者は6名と少数であった。看護が専門職で
の専門領域の明確化は、模索の時期を経て、長期的・具
あるためには、社会貢献は欠かせない要素である。自分
体的な目標を特定する時期であり、平均年齢は 36.8 歳
自身や看護職としての成長とともに、またそれと結びつ
であったと述べている。本研究の結果では、『目標・専
けて社会貢献が考えられる必要がある。一方、キャリア
門性の不明確さ』に悩んでいる者が最も多く、平均経験
目標が設定できない状況での社会貢献はあり得ず、自分
年数は、19.8 ± 9.3 年であった。年齢に換算すると 40
のキャリアを真剣に考えることから始める必要がある。
歳を超えることになり、水野らの研究では、Ⅴ期の専門・
今回の研修会は、テーマである「看護職のキャリア開
関心領域の取り組み・熟達を越え、Ⅵ期の専門・関心領
発を考える−看護専門職としてのキャリアマネジメン
域の組織化・運営に至る年齢である。
ト−」に興味のある人、およびそれに困難を来たしてい
また草刈
4)
は、キャリア発達とライフコースの視点
る人が多く集まったという見方も可能である。さらに先
から看護職としての成長・発達を捉える調査の結果、
行研究で示されたキャリア発達過程に沿わなければなら
40 歳でキャリア達成に至るとしている。このキャリア
ないというものでもない。調査回答のなかに、キャリア
達成は、Sovie
5)
が提起した臨床看護師のキャリアパター
アップという言葉が使われていたが、Watts 8) は、キャ
ンモデルの中の専門職としての成熟にあたり、Sovie は、
リアを上昇するものと捉えるのは古い考え方であると指
この時期に達するのは約 30%の臨床看護師であるとし
摘し、キャリアは仕事と学習の中で一生涯進んでいくも
ている。本研究結果から、専門職としての成熟に達して
のであり、その進行は上昇だけでなく、横にも広がると
いる者の数を算出することはできないが、これらの先行
述べている。仕事のやりがいを見出し、質の向上を目指
研究と比べると、本研究結果は、キャリア発達が緩慢で
して、日々の実践の意味を問いながら働くことも重要で
あることを示している。先行研究とは、研究目的、方法
あり、専門性を持つことだけがキャリア発達ではない。
論も異なり、また先行研究の対象が看護部長や大学病院
2.キャリア開発の視点から
に勤務する看護師であるという違いは大きく、単純な比
日本看護協会は、継続教育の基準をまとめた中で、キャ
較はできないにしても、看護経験が 20 年近い看護職者
リア開発を次のように定義している。「看護職者のキャ
が自分の目標をつかめない、やりたいことが何かわから
リア開発とは、個々の看護職者が社会のニーズや各個人
ないと記述している現状を真摯に受け止める必要があ
の能力および生活(ライフスタイル)に応じてキャリア
る。
をデザインし、自己の責任でその目標達成に必要な能
10 年以上の経験を有する臨床看護師を対象とした研
力の向上に取り組むことである。また、一定の組織の中
6)
では、自己の課題の明確化や専門性の追求がキャ
でキャリアを発達させようとする場合は、その組織の
リア発達に大きな役割を果たしていることが明らかに
目標を踏まえたキャリアデザインとなり、組織はその取
なっている。目標や課題が明確にできない理由を、個人
り組みを支援するものであることが望ましい」 9) また
の責任とするだけでなく、職場環境・風土からも考察し、
Kleinknecht ら 10)は、キャリア開発の目的を、個々の看
キャリア目標を持たなくても働き続けられる現状の見直
護師の専門職としての成長と病院に対する貢献度の向上
しが必要である。
により、看護師と病院双方に利益をもたらすこととして
究
7)
は、文献検討からキャリア発達モデルを作
いる。つまりキャリア開発は、組織のニーズと個人のニー
成し、そのⅤ期を自己実現として、臨床経験 20 年以上
ズの一致を図る必要がある。しかし『目標・専門性の不
の看護師があてはまるとしている。Ⅴ期でのニーズは、
確かさ』および『キャリアに対する不安・自信の欠如・
組織全体のマネジメントの展開と社会貢献である。本
不確実性』を記述した者が多いという本研究結果は、個
研究の対象者の経験年数をみると、20 年以上の者が 93
人にとっての具体的なニーズが明らかにされていない問
名と約半数を占めるが、社会・組織への貢献を今後のマ
題を示している。
小島ら
ネジメントとして挙げた者は4名のみであった。また
̶ 7 ̶
『勉強会・研修会の開催・参加の奨励』が組織に希望
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
することとしては最も多いが、そのうち約4割は、明確
れらを看護基礎教育の中で早期に学ぶ意義は大きいとい
な目標を持っていない。キャリアプランに基づかない研
える。また看護職者を対象に、セルフマネジメントの理
修会の参加は、有用とは言えない。今後のキャリアマネ
解や実践を目的とした研修会が実施され、自己の成長・
ジメントでも「研修会・勉強会に参加・実施する」が挙
発達を目指すセルフマネジメントが学ばれている 14)が、
げられているが、まず必要なことは目標を明確化するこ
このような機会が必要であると考えられる。
管理者は、スタッフのキャリア発達を促そうとする
とであろう。
キャリア開発には、所属組織の目標を踏まえたキャリ
が、しばしば自分自身のことを忘れてしまうため、組織
アプランが必要となるが、『組織の目的・方針・考え方
が全てのレベルでキャリアマネジメントを促進すること
の明確化』が行われないままでは、個人のニーズと組織
が重要であると指摘されている 15)。本研究結果におい
のニーズは一致させようがない。中堅看護師たちが戸惑
ても、『人材育成』は2番目に多いキャリアについての
うことに、病院が中・長期的にどのような医療を目指
悩みであり、また『他者のキャリアマネジメント』のみ
し、どのような人材を欲し、活用しようとしているかの
を今後のキャリアマネジメントとした者が約 15%存在
11)
。本研究
した。他者のキャリアマネジメントを行うためにも、自
の結果においても、『組織の目的・方針・考え方の明確
己のキャリアマネジメントが必要であることを理解しな
化』が組織に希望することとして挙げられている。これ
ければならない。
ビジョンが見えないことが指摘されている
らを希望する者の平均経験年数は 17.0 ± 6.8 年であり、
組織もキャリアマネジメントのための方策を実施する
中堅以降の看護職者もこの問題に直面していることがわ
ことが必要であり、キャリア計画ワークショップ、個別
かる。
カウンセリング、ローテーションなどが挙げられてい
3.キャリアマネジメントの視点から
る 16)。さらに日常の仕事の経験から自己洞察を引き出
Greenhaus ら 12) は、キャリアマネジメントを、個人
すためには、行動を承認したり、フィードバックしたり
の資質と職業上での経験の両立をとおして、働く人の幸
すること、教育トレーニング活動、一時的アサインメン
福を促進するためにデザインされる意思決定過程である
ト、仕事の変更、現在の仕事の拡大などが挙げられてい
と定義し、キャリアマネジメントにおけるキャリア目標
る 17)。行動の承認やフィードバックは日常の看護実践
の意義を述べている。個人は自分自身と自分を取り巻く
の中で実施可能であるし、院内教育として、教育トレー
環境に対する気付きを高めるために、様々なキャリア探
ニング活動も実施されている。院内教育については、教
索を行い、それによって現実的なキャリア目標を立てる
育プログラムが組織の目標や看護管理者の信念によっ
ことができるとしている。つまりキャリア目標が、個人
てのみ立案されていること 18) や教育側は受け手の学習
の価値観、才能、興味、好みのライフスタイルと両立し、
ニーズに十分な関心を示していないことが指摘されてい
変化に対応できるように融通のきくものであれば、キャ
る 19)。キャリアマネジメントの観点から、院内教育の
リア目標は成長と満足をもたらすものになり、キャリア
再考も必要であろう。
個々の看護職者は、キャリア目標を明確にし、それを
マネジメントに役立つ。
キャリアマネジメントの枠組みを作成した Henderson
ら
13)
達成する方策を積極的に使っていく必要がある。また組
は、自己、看護の選択可能性、社会的動向の3領
織は、個人のキャリア目標が組織の理念、目標に一致す
域を挙げ、このうち自己に対する情報をキャリアマネ
るものとできるよう充分な情報を提供し、さらに個人の
ジメントの基礎とし、自分自身のニーズ、価値観、興
キャリアマネジメントを支援する必要がある。ただ単に
味、知識、技術、傾向などを明らかにすることが重要で
経験年数を積むのではなく、雇用される能力、雇用を継
あると述べている。つまり、自己認識に基づくセルフマ
続させる能力といわれるエンプロイアビリティー 20) が
ネジメントが必要となる。セルフマネジメントもキャリ
問われる職場になるべきであり、そのことにより看護実
アマネジメントも、働く中で自然にできるようになるも
践の質的向上が実現すると考えられる。
のではなく、学習される必要があることを考えると、こ
̶ 8 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
Ⅳ.結論
2003.
平成 16 年度第1回岐阜県内病院看護部長協議会研修
7) 小島マチ子,吉村恵美子,加治木葉子,他:本校における
会に参加し、質問紙に回答した看護職者 188 名を対象
看護継続教育のあり方に関する検討−看護職の職業人とし
に、キャリアマネジメントの現状や希望することを明ら
ての発達に焦点を当てて−,神奈川県立看護教育大学校紀
かにし、キャリアマネジメントのあり方を検討した。質
要,25;1-6,2002.
問紙の記述内容の分析を行った結果、以下のことが明ら
8) Watts, A. G.: Reshaping career development for the 21st
かになった。
century, 2004-10-29, http://www.derby.ac.uk/cegs/
1)キャリアに関する悩みは、15 カテゴリーに分類さ
publications/rescareer.PDF
れ、『目的・専門性の不確かさ』が最も多かった。
9) 日 本 看 護 協 会: 継 続 教 育 の 基 準, 看 護,52(11);72-77,
2)今後のキャリアマネジメントは、『自己のキャリア
マネジメント』『他者のキャリアマネジメント』『社
2000.
10) Kleinknecht, M. K. & Heffrein, E. A.: Assisting nurses toward
会・組織への貢献』に分類された。
professional growth; A career development model, The
3)キャリアマネジメントのために組織に希望すること
は、9カテゴリーに分類され、『勉強会・研修会の
Journal of Nursing Administration, Jul-Aug ; 30-36, 1982.
11) 平井さよ子:看護職のキャリア開発と求められる支援,看
開催・参加の奨励』が最も多かった。
護展望,28(8);17-21,2003.
4)キャリアマネジメントの意味では、自分自身の成長
12) Greenhaus, J.H., Callanan, G.A., & Kaplan, E.: The role of goal
を1位に挙げた者が最も多かった。
setting in career management, The international Journal of
以上の結果を、キャリア発達過程、キャリア開発、キャ
リアマネジメントの視点から考察した。個人がキャリア
Career Management, 7(5) ; 3-12, 1995.
13) Henderson, F. C. & McGettigan, B. O.: Managing your career
目標をもつこと、組織が目標や方針を明確にすること、
in nursing (2nd ed.), NLN, 1994.
個人と組織の両者がキャリアマネジメントの方策を実施
14) 池西悦子,林由美子,宮本千津子,他:セルフマネジメン
することなど、キャリアマネジメントのあり方を検討し
トを意識した実践を方向づける看護職員研修のあり方,岐
た。
阜県立看護大学紀要,4(1);79-84,2004.
15) 前掲書 12).
引用文献
16) Arnold, J.: Careers and career management. In N. Anderson
et al. (Eds.), Handbook of industrial, work and organizational
1) 奥井幸子,上野美智子,栗田孝子,他:機能看護学の構築
に向けて,岐阜県立看護大学機能看護学講座 教育と研究,
psychology, Vol.2 Organizational psychology (pp.115-132),
1(1);1-5, 2003.
Sage Publications, 2001.
2) Chartrand, J.M. & Comp, C.C.: Advances in the measurement
of career development constructs: A 20-year review, Journal
17) 前掲 12).
18) 三浦弘恵:看護管理者が知覚する院内教育の課題,看護研
of Vocational Behavior, 39(1);1-39 ,1991.
究,35(6);27-34,2002.
3) 水野暢子,三上れつ:臨床看護婦のキャリア発達過程に関
19) 本田多美枝:『看護の専門的能力』の視点から見た院内教
する研究,日本看護管理学会誌,4(1);13-22,2000.
育 ニ ー ズ の 分 析, 日 本 看 護 科 学 学 会 誌,20(2);29-38,
4) 草刈淳子:看護管理者のライフコースとキャリア発達に関
する実証的研究,看護研究,29(2);123-138,1996.
2000.
20) 吉田久夫:スタッフ育成と活用におけるリーダーシップ発
5) Sovie, M. D.: Fostering professional nursing careers in
揮の仕方,月刊ナースマネジャー,4(6);10-15,2002.
hospitals: The role of staff development, Part 1, The Journal
(受稿日 平成 17 年 2 月 8 日)
of Nursing Administration, 12(12) ; 5-10, 1982.
6) グレッグ美鈴,池邉敏子, 池西悦子, 他:臨床看護師の
キャリア発達の構造,岐阜県立看護大学紀要,3(1);1-7,
̶ 9 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔研究報告〕
精神疾患をもつ長期在院患者の社会復帰に向けての看護実践と課題(第一報)
片 岡 三 佳 1)
高 橋 香 織 1)
グレッグ 美鈴 2 )
池 西 悦 子 3)
池 邉 敏 子 1)
長 瀬 義 勝 4)
家 田 重 博 5)
纐 纈 富 久 6)
村 岡 大 志 7)
Nurse Caring Behaviors and Tasks for Community Reintegration Training
of Long-Termed Hospitalized Mentally Ill Patients
1)
Mika Kataoka ,
3)
Etsuko Ikenishi ,
5)
Shigehiro Ieda ,
1)
Kaori Takahashi ,
1)
Toshiko Ikebe ,
2)
Misuzu F. Gregg ,
4)
Yoshikatsu Nagase ,
6)
Tomihisa Koukestu , and Hiroshi Muraoka
7)
長期在院患者の社会復帰に向けての看護援助に関する
Ⅰ.はじめに
日本の精神保健・医療・福祉施策は「入院医療中心か
研究では、日本版治療共同体という特殊な実践例から成
ら地域生活中心へ」と移行し、2004 年8月、厚生労働
功する要因を明らかにした研究2)、参加観察から日常的
省は「精神病床等に関する検討会」「精神障害者の地域
な病棟の看護に織り込まれている退院に向けた看護者
生活支援の在り方に関する検討会」の最終まとめを発表
の関わりを明らかにした研究3)、長期入院精神障害者の
し、今後 10 年間の基本的な方針として、約7万床の病
社会復帰への援助を阻害する看護者の態度に関する研
床数減少になるような精神保健医療福祉体系の再編をは
究4)、統合失調症患者の長期入院から社会復帰に向けて
かることを達成目標として掲げた。
の看護介入に関する研究 5) などはみられるが、事例研
現在、精神科病床入院患者のうち 6 万 8000 人が、条
件が整えば退院可能な「社会的入院」にあたる長期在院
究も多く6,7)、対象者が限定されており、十分とは言い
がたい。
患者1) で、5年以上の入院患者の割合は 43.0%、10 年
そこで、精神病院に勤務する看護者が認識している長
期在院患者の社会復帰に向けての看護実践や取り組んで
以上が 28.9%を占めている。
長期在院患者の「地域生活中心に向けた」社会復帰活
いる過程での看護者の思いなどから、社会復帰に向けた
動には、社会復帰施設の整備が不可欠ではあるが、長期
看護実践の実際と課題を明らかにし、長期在院患者に対
在院患者の社会復帰意欲を促す仕組みを施策の一つとし
する看護実践の検討の機会としたい。
てもとりあげている。このことからも、日々患者と向き
合っている精神病院に勤務する看護職の意識は、患者の
Ⅱ.研究方法
社会復帰への意欲に大きく影響するのではないかと考え
1.研究参加者
精神科病棟に勤務し、長期在院患者の社会復帰に向け
た。 1)岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
2)岐阜県立看護大学 看護研究センター Nursing Collaboration Center, Gifu College of Nursing
3)岐阜県立看護大学 機能看護学講座 Management in Nursing, Gifu College of Nursing
4)医療法人生仁会 須田病院 Suda Hospital
5)医療法人春陽会 慈恵中央病院 Jikeityuuou Hospital
6)医療法人仁誠会 大湫病院 Okute Hospital
7)社団法人 岐阜病院 Gifu Mental Hospital
̶ 11 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
た看護実践を実際に行っている、あるいは行った体験を
実践に影響を及ぼす要因、3)実践を通して得たこと、4)
もつ看護者 11 名。
今後の課題に分類された(表1)。
2.調査時期と方法
なお、《 》内はカテゴリーを、< >内はサブカテ
平成 16 年8月、A 県下の精神病院4施設において、
ゴリーを、
「 」内は参加者の語った言葉をプライバシー
半構成的インタビューを実施した。インタビューはプラ
の保護を配慮して要約した内容を示している。
イバシーが保持できる個室で行い、インタビュー内容は
1)実践してきた援助
研究参加者(以後、参加者とする)の同意を得てテープ
実践してきた援助は、《患者の気持ちを尊重する》《患
レコーダーに録音した。双方の集中力を考慮し、インタ
者の力をひきだす》《家族の安寧を導く》《連携》《地域
ビューは 60 分程度として、長期在院患者の社会復帰に
を変える》の5カテゴリーに大別された。
向けての看護実践に関して、1)今まで実践してきた援
(1)《患者の気持ちを尊重する》
助、2)大事にしていること、3)看護者として課題と
《患者の気持ちを尊重する》は、患者の気持ちを尊重
感じていること、4)これらの実践を通して感じた自分
するための<患者の話を聴く><患者の気持ちや自己
にとっての意味、などを中心に語ってもらった。
決定の尊重><不安への関わり><患者の可能性を信じ
3.分析方法
データを逐語録に転記し、逐語録を精読し、文脈に留
表1 社会復帰に向けた看護実践と課題
カテゴリー
患者の気持ちを尊重する
意しながら、長期在院患者の社会復帰に向けての看護実
践に関する最小単位を抽出してコーディングし、類型化
を図った。
分析結果の信頼性と妥当性は、了解可能かどうかの視
4.倫理的配慮
1)参加者が所属する機関の管理者に文書と口頭で研究
の了解を得る。
患者の力をひきだす
実践してきた援助
点で、研究者間で検討し、確認を行った。
家族の安寧を導く
2)参加者に研究の趣旨、方法、研究への参加は自由で
あり、拒否する権利や中途拒否の権利、それにより不
連携
利益が生じることがないこと、公表の方法、匿名性と
守秘の保証など文書と口頭で説明を行い、研究者およ
地域を変える
患者への専心
び参加者が同意書にサインして交換した。
実践に影響を及ぼす要因
3)文完成時に録音テープは処分した。
Ⅲ.結果
1.参加者の属性
参加者は 11 名、男性6名、女性5名で、平均年齢は
数の平均年数は 9.0 ± 4.9 年(最長 16 年、最短2年)、
得たこと
36.7 ± 7.3 歳(28 ∼ 49 歳)であった。精神科勤務年
2.抽出されたカテゴリー
データを分析した結果、1)実践してきた援助、2)
̶ 12 ̶
今後の課題
12.2 分(最長 75 分、最短 33 分)であった。
看護チームの支えあい
社会資源の限界
あきらめ
患者の力を実感
看護者の成長を実感
周囲への広がり
精神保健福祉の普及
精神科を含む臨床経験年数は 10.4 ± 3.8 年(最長 16 年、
最短2年)であった。インタビュー時間は平均 49.2 ±
看護者の内的動機づけ
病院全体の連携
家族の援助
看護者の自己研鑽
サブカテゴリー
患者の話を聴く
患者の気持ちや自己決定の尊重
不安への関わり
患者の可能性を信じる
信頼関係の構築
機会を逃さない
思いを受けとめる
自己表現を促す
自信につなげる
意欲の向上につなげる
生活技能を身につける
日常生活を豊かにする
患者の能力と生活のアセスメント
患者の代弁者となる
家族の安楽を導く
情報提供
病気の理解を促す
面会・外出・外泊の促し
医療スタッフとの報告・連絡・相談
医療スタッフと話し合う場の設定
看護スタッフの意見をひきだす
精神障害者理解に向けた地域への活動
患者に対する思い
患者の笑顔や目に見える変化
看護研究
自分の信念
上司などのサポート
急性期のケアの質
社会資源活用の限界
入院期間
受入れ側の現実
非協力的なスタッフの存在
看護者のあきらめ
患者本人の意欲の埋没
患者の力を実感
自分の看護の広がり
仕事への充実感
長期在院患者の退院を促す雰囲気の芽生え
精神障害者に関する地域住民の理解
社会復帰資源の情報提供の普及
社会復帰施設の増加
退院後フォローのシステム
社会情勢に合わせた病棟全体での取り組み
医師、看護者間などとの連携
家族との関わり
学習不足
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
る><信頼関係の構築><機会を逃さない>の6サブカ
ら開放病棟へ移動する際に、自信がない患者に対して、
テゴリーに分類された。
開放病棟の説明を何度も行い、一緒に開放病棟に見学に
<患者の話を聴く>には、「患者の思いや感情を表出
できる場を提供する」「話す機会をみつけて、ゆっくり
行ったこと」など、長期在院患者の自信がつくような援
助が語られていた。
話せる場の設定」など、患者の話を聴くことが語られて
いた。
<意欲の向上につなげる>では、「日中、臥床傾向に
ある患者に作業療法などへの参加に声をかける」「患者
<患者の気持ちや自己決定の尊重>には、
「本気で思っ
ている患者の気持ちを尊重する」「患者の自己決定を引
がもっている母親の自覚という健康的な部分に関わる」
「退院の意欲を引き出すために病院外の話題提供や退院
き出し、それを尊重する」など、患者の気持ちや自己決
するためには何をしたら良いのかを具体的に説明する」
定を尊重することが語られていた。
など、長期在院患者の意欲の向上につながるような援助
<不安への関わり>には、「患者の不安を見逃さない」
が語られていた。
「患者の退院に対する不安や自信のなさを理解する」「退
<生活技能を身につける>では、「作業療法や SST へ
院の不安に対して、具体的な方法を本人や家族とともに
の参加を促す」「服薬教育や患者の状態に合わせた服薬
考えていく」など、患者が退院するときに生じる不安へ
自己管理の促し」「生活面での自立に向けた金銭の自己
の関わりについて語られていた。
管理を段階的に行う」などの日常生活での援助や、「一
<患者の可能性を信じる>には、「長期入院患者の可
人暮らしを可能にするために、できることできないこと
能性を信じる」「患者の潜在能力を信じる」「埋もれてい
を紙面上に書いてもらい具体化してもらう」「社会情勢
るかもしれない患者の良い部分を察知し、評価していく
が実感できにくくなっている患者に、社会情勢を実感で
こと」など、患者の可能性が語られていた。
きるように伝える」など社会との接点での援助、「外泊
そのほかに、<信頼関係の構築><機会を逃さない>
などが語られていた。
時に家族の負担を少なくするため、患者のできることを
一緒に考える」「外泊時の注意事項を看護者が患者に耳
(2)《患者の力をひきだす》
打ちする」など、外泊の機会を活用した援助が語られ、
《患者の力をひきだす》は、患者のもっている力をひ
きだすための<思いを受けとめる><自己表現を促す>
いずれも長期在院患者の生活技能を身につけるような援
助が語られていた。
<自信につなげる><意欲の向上につなげる><生活技
<日常生活を豊かにする>では、「患者の調子が良い
能を身につける><日常生活を豊かにする><患者の能
ときに辛さを緩和できるような、例えば散歩や買い物な
力と生活のアセスメント><患者の代弁者となる>の8
どの時間をもつ」「必ず声をかけ、臥床傾向にある患者
サブカテゴリーに分類された。
には気分転換を促す声かけなどを行う」など、長期在院
<思いを受けとめる>では、「何度も言っていた退院
したいと思う患者の思いを真剣に聴く」「まず、本人の
患者の日々の生活が少しでも豊かになるような援助が語
られていた。
話を聴いたりするのが大切だろう」と話を聴き、患者の
思いを受けとめることの大切さが語られていた。
<患者の能力と生活のアセスメント>では、「患者の
潜在能力を含めた能力のアセスメント」「社会での生活
<自己表現を促す>では、「自己表現が苦手な患者に
可能性のアセスメント」「今後の生活スタイルのアセス
対して、自己評価表の作成や交換日記などを通して、自
メント」など、ほとんどの看護者が、長期在院患者の能
己表現を促すような試み」「自己表出が少ない患者には、
力と社会生活を送るうえでのアセスメントを語ってい
徐々に売店や散歩に連れ出し、患者自身が自分のことを
た。
話すようになった体験」など、自己表現を促す援助が語
られていた。
<患者の代弁者となる>では、「母親に患者の気持ち
を理解してもらえるように伝える」「母親に患者の気持
<自信につなげる>では、「患者の最近の変化で良い
ちをわかってもらう機会を逃さない」など、患者の代弁
個所を伝える」「居住生活が長くなっている閉鎖病棟か
者となって、患者の思いを家族に話すという患者と家族
̶ 13 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
の橋渡し的な役割について語られていた。
(5)《地域を変える》
(3)《家族の安寧を導く》
《地域を変える》には、<精神障害者理解に向けた地
《家族の安寧を導く》は、<家族の安楽を導く><情
域への活動>として、「地域に向けた講演会などを企画
報提供><病気の理解を促す>の3サブカテゴリーに分
する研究会への参加」などが語られていた。
類された。
2)実践に影響を及ぼす要因
看護者が捉えた、長期在院患者の社会復帰に向けての
<家族の安楽を導く>では、「家族の心身が楽になっ
てもらうように話を聴く」「外泊時の家族の思いを聴く」
看護実践を行う際に影響を及ぼす要因は、《患者への専
など、家族の負担を少しでも軽減するように話を聴く援
心》
《看護者の内的動機づけ》
《看護チームの支え合い》
《社
助が語られていた。
会資源の限界》
《あきらめ》の5カテゴリーに大別された。
<情報提供>では、患者に関する情報提供と社会資源
(1)《患者への専心》
の活用に関する情報提供が行われており、患者に関する
《患者への専心》は、<患者に対する思い><患者の
情報提供には、「患者を受入れることに不安が強い家族
笑顔や目に見える変化>の2サブカテゴリーに分類され
に対して患者の病状の変化を繰り返し説明する」「患者
た。
の良い面、異なる一面を説明する」「患者の生活での頑
<患者に対する思い>には、「患者の退院したいとい
張りを伝える」などが語られていた。社会資源の活用に
う思いを何とかしたいという自分の思い」「患者の退院
関する情報提供には、「訪問看護などの使用できる資源
を願う思い」が語られ、<患者の笑顔や目に見える変化>
の活用を促す」などが語られていた。
には、「関わったことで患者が喜ぶ姿、言動によって、
<病気の理解を促す>では、「家族への服薬教育」な
自分のしんどさの何倍もの嬉しさを実感」、などが語ら
どを行い、家族の病気の理解を促す援助が語られていた。
れ、《患者への専心》が長期在院患者の社会復帰に向け
ての看護実践を行う契機になっていた。
(4)《連携》
《連携》は、<面会・外出・外泊の促し><医療スタッ
フとの報告・連絡・相談><医療スタッフと話し合う場
(2)《看護者の内的動機づけ》
《看護者の内的動機づけ》には、病棟で取り組む<看
の設定><看護スタッフの意見をひきだす>の4サブカ
護研究>での機会や 自分が行う
テゴリーに分類され、家族、医療者、看護スタッフ間の
念>の2サブカテゴリーが、看護実践の動機づけとして
連携が語られていた。
語られていた。
<面会・外出・外泊の促し>では、「久しぶりに面会
に来た家族に また、来て下さいね と伝え、面会を促す」
という<自分の信
(3)《看護チームの支え合い》
《看護チームの支え合い》には、<上司などのサポー
「 外泊が無理なら面会だけでも・・・ と家族に訴え、徐々
ト>や、「新しく入院された患者を長期化させてはいけ
に外泊を促す」
「精神保健福祉士とともに、家族への外泊・
ないので、急性期ケアが重要」などの<急性期のケアの
外出を促す手紙をだす」など、家族の面会・外出・外泊
質>の2サブカテゴリーが語られていた。
(4)《社会資源の限界》
などを促す様子が語られていた。
<医療スタッフとの報告・連絡・相談>では、「患者
《社会資源の限界》は、<社会資源活用の限界><入
の退院計画」や「今後の方針」では医師との連携が行わ
院期間><受入れ側の現実>の3サブカテゴリーに分類
れ、「面会や外泊・外出が困難なとき」や「患者の生活
された。
が困難なとき」「退院後の住居確保」には精神保健福祉
<社会資源活用の限界>には、「社会復帰施設の少な
士との連携が行われ、「退院後の看護の継続」には訪問
さ」「住居確保の困難さ」「病棟環境の限界」「退院に向
看護との連携が語られていた。
けての準備としての試験外泊が少ない」「退院に向けて
<医療スタッフの話し合う場の設定>では、医師、精
神保健福祉士、スタッフが、カンファレンスに参加でき
の進行の早さ」など、入院環境も含めた社会資源の限界
が語られていた。
るように場の設定、調整が看護者によって行われていた。
̶ 14 ̶
<入院期間>には、「3年以内なら社会復帰できるの
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
ではないか」「長期入院とともに、両親の高齢化、世代
の変化にみる「看護への自信」や「仕事の楽しさ、充実
交代に伴う社会復帰の困難性」など、入院の期間に関す
感」など、仕事への充実感が語られていた。
ることが語られていた。
(3)《周囲への広がり》
<受入れ側の現実>には、「家族への外泊・外出を促
《周囲への広がり》には、「あきらめていた長期在院患
す手紙を書いても拒否をする家族」「家族は患者の悪い
者が退院したことで、職員の社会復帰に対する意識の芽
時のイメージが強く残っていて、良くなっている患者に
生え」など、<長期在院患者の退院を促す雰囲気の芽生
目が向けることができない状況にある家族」など、受入
え>が語られていた。
れ側の家族の厳しい現状が語られていた。
4)今後の課題
看護者が捉える今後の課題は、《精神保健福祉の普及》
(5)《あきらめ》
《あきらめ》は、<非協力的なスタッフの存在><看
護者のあきらめ><患者本人の意欲の埋没>の3サブカ
《病院全体の連携》《家族の援助》《看護者の自己研鑽》
の4カテゴリーに大別された。
(1)《精神保健福祉の普及》
テゴリーに分類された。
《あきらめ》には、看護者側のあきらめと患者本人の
《精神保健福祉の普及》は、<精神障害者に関する地
意欲の埋没がある。看護者側では「非協力的なスタッフ、
域住民の理解><社会復帰資源の情報提供の普及><社
医師の存在」が語られた<非協力的なスタッフの存在>
会復帰施設の増加>の3サブカテゴリーに分類された。
と、「(実践が)うまくいかなかった体験」「長期在院患
「精神障害者に関する地域住民の正しい理解に向けて
者は退院してもすぐに戻ってくるイメージ」「長期在院
の取り組み」や、
「社会復帰施設の増加を求めること」
「社
患者の退院は難しい」など、<看護者のあきらめ>のよ
会復帰資源の情報提供を家族や地域に普及すること」な
うな認識が語られていた。
どが語られていた。
<患者本人の意欲の埋没>には、「社会復帰には本人
(2)《病院全体の連携》
の頑張ろうという意識が必要」「病棟生活に慣れ、退院
《病院全体の連携》は、<退院後フォローのシステム>
や病棟移動を好まない患者の対応」など、社会復帰に向
<社会情勢に合わせた病棟全体での取り組み><医師、
けての患者の意欲が埋もれている様子が語られていた。
看護者間などとの連携>の3サブカテゴリーに分類され
3)実践を通して得たこと
た。
社会復帰に向けての看護実践を通して得たことは、
《患
<退院後フォローのシステム>には、「再入院をしな
者の力を実感》
《看護者の成長を実感》
《周囲への広がり》
いためにも退院後の患者や家族のフォローの必要性」が
の3カテゴリーに大別された。
語られ、<社会情勢に合わせた病棟全体での取り組み>
(1)《患者の力を実感》
には、「訪問看護など看護部全体としての取り組みの必
《患者の力を実感》には、「案外、生活をしていけるも
要性」「患者の話を聴くための時間の確保」が語られて
のだと患者の生活能力を実感」したという患者の力を改
いた。<医師、看護者間などとの連携>には、「医師と
めて実感した看護者の言葉が語られていた。
のコミュニケーション不足」「スタッフ間で共通理解の
(2)《看護者の成長を実感》
必要性」など、社会復帰に向けた連携・チームワークの
《看護者の成長を実感》は、<自分の看護の広がり>
<仕事への充実感>の2サブカテゴリーに分類された。
必要性が語られていた。
(3)《家族の援助》
<自分の看護の広がり>には、「見えなかった患者の
《家族の援助》には、病院全体としての取り組みと個
一面や内面が見え、看護の幅の広がりにつながった」「患
人での取り組みとしての<家族との関わり>が課題とし
者の変化をキャッチする力がついた」「あきらめてはい
て語られていた。
けない」など、看護者として成長を実感していることが
語られていた。
(4)《看護者の自己研鑽》
《看護者の自己研鑽》には、看護者個人の課題として、
<仕事への充実感>には、看護実践により患者の表情
「症例検討」や「社会資源に関すること、コミュニケー
̶ 15 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
ション技法、などの学習」
「家族との関わり方」など、<学
出・外泊の促し>が可能になっていく。そして長期在院
習不足>が語られていた。
患者は、病棟での生活から家族の協力を得て外出・外泊
へと生活環境が拡大し、社会との接触などを体験、積み
Ⅳ.考察
重ねることによって、精神症状から派生するストレス耐
1.長期在院患者の社会復帰に向けての看護実践の実際
性の低さを強化し、退院への援助につながっていったも
本研究で語られた長期在院患者の社会復帰に向けての
のと思われる。
看護実践は、《患者の気持ちを尊重する》《患者の力をひ
これらの看護実践は、「第一期:退院へのニードの発
きだす》《家族の安寧を導く》《連携》を中心に展開され
現の時期、第二期:退院に対する準備をする時期、第三
ていた。長期の入院、精神病院という閉鎖的な社会での
期:地域生活を支える時期」という時間軸をもった長期
生活が、人生の多くを占めている長期在院患者には、家
在院患者の社会復帰プロセス9)とも関連している。
族の高齢化により家族とも疎遠になり、社会との関係も
長期在院患者の社会復帰に向けた看護実践を促進する
希薄になり、生活体験、社会性、問題解決能力などが低
要因として、《患者への専心》《看護者の内的動機づけ》
下している者が多い。ゆえに、《患者の気持ちを尊重す
があった。それは、病棟で取り組む<看護研究>での機
る》《患者の力をひきだす》といった患者本人への働き
会や成功体験、<患者に対する思い><患者の笑顔や目
かけのみならず《家族の安寧を導く》家族への働きかけ
に見える変化>、 自分が行う という<自分の信念>
が援助の中心として位置付けられ、医師や精神保健福祉
などが実践の契機になっていた。加えて、<上司から
士、病棟以外の看護職との《連携》によって実践されて
のサポート>など《看護チームの支えあい》などが、長
いた。 期在院患者の社会復帰に向けた看護の実践を維持する
8)
は、精神科における長期在院患者の後遺症状
ことに影響していたと思われる。一方、阻害する要因
としての障害には残遺症状と態度としての問題があると
には、<非協力的なスタッフの存在><看護者のあきら
述べている。残遺症状には、社会性の低下、精神症状か
め><患者本人の意欲の埋没>などであった。前述の坂
ら派生するストレス耐性の低さがあり、態度としての問
田 10) や石橋 11) らも看護者の熱意やあきらめないこと
題には、自己認識に乏しい、失敗に対する恐れが強い、
の重要性を語っていた。
坂田
判断力が弱いことであり、残遺症状と態度としての問題
長期在院患者の社会復帰に向けた看護実践は長期に及
の両者に関連する障害として、意欲の低下、楽しむこと
ぶ取り組みになるが、その実践の過程で看護者は、《患
が苦手、活力の低下がある。これらの障害と看護実践と
者の力を実感》
《看護者の成長を実感》
《周囲への広がり》
の関連をみると、自己認識に乏しい状況には患者の<自
を実感していた。このことは、長期在院患者の社会復帰
己表現を促す><思いを受けとめる>援助が行われ、失
に向けた看護実践は、患者のみならず看護者自身に能力
敗に対する恐れが強い状況には<自信につなげる>援
の発揮、成長を実感する機会を与え、周囲の看護者にも、
助、意欲の低下、活力の低下には<意欲の向上につなげ
長期在院患者の退院を促す意欲を高める雰囲気を生み出
る>援助、社会性の低下や判断力が弱いことには<生活
すなど、周囲の力を発揮する機会を提供していた。
技能を身につける><患者の代弁者となる>援助、楽し
つまりは、長期在院患者の社会復帰に向けた看護実践
むことが苦手な状況では<日常生活を豊かにする>援助
は、患者の力をひきだし、患者を受入れる地域・家族へ
が行われ、その基盤に《患者の気持ちを尊重》し、<患
の援助が、連携を通して実践され、それを支えるものに
者の能力と生活のアセスメント>を実践している看護者
は、患者の姿に心を揺り動かされる看護者の内的動機づ
の姿が伺える。
け、何とかしたいと思う看護者の熱意、患者への専心、
加えて、《家族の安寧を導く》ことは、看護者が家族
それを支える看護チームのサポート、看護者自身が成功
側の立場になり、家族に必要な<情報提供><病気の理
体験をもつことが、重要であると思われた。
解を促す>とともに、<家族の安楽を導く>関わりに
2.長期在院患者の社会復帰に向けての看護実践の課題
よって、看護者と家族との関係性が深まり、<面会・外
看護者が捉えた、長期在院患者の社会復帰に向けての
̶ 16 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
看護実践の課題には、ハード面である<社会復帰施設
とが不可欠であると述べており、本研究はそれらの結果
の増加>と<社会復帰資源の情報提供の普及><退院後
を支持するものとなった。そして、そのための周囲のサ
フォローのシステム><社会情勢に合わせた病棟全体で
ポートが重要であり、本調査での参加者の語りから、1
の取り組み>が語られていた。
例1例を大切に、退院に至らずとも「患者が変わる」と
調査地域の特性として、精神病院の所在地の利便性が
良いとは言い難い状況におかれている病院がほとんど
いう変化を看護者が実感できることが、あきらめないこ
とにつながっているように思われた。
で、看護職員の確保が極めて困難であり、一般病院に比
今回は限定された地域に勤務している看護職を対象に
べて准看護者の比率も高い状況にあるという。これらの
している。今後は面接事例を増やし、長期在院患者の社
ことからも、長期在院患者が退院したとしても最寄の社
会復帰に向けての看護実践と課題を明らかにしていきた
会復帰施設が遠く、通院・通所が困難で、情報を得にく
い。
いという状況がある。加えて、<社会資源活用の限界>
と関連して、「試験外泊などを実行する退院に向けての
Ⅴ.まとめ
準備期間の短さ」が語られており、地域特性や長期在院
精神病院に勤務する看護者が認識している長期在院患
患者の社会との関係の希薄さや高齢化を考慮した、<社
者の社会復帰に向けての看護実践の実際と課題を明らか
会情勢に合わせた病棟全体での取り組み>を行いつつ、
にした。その結果、実践してきた援助には、《患者の気
<社会復帰資源の情報提供の普及><退院後フォローの
持ちを尊重する》《患者の力をひきだす》《家族の安寧を
システム>など、新たなシステム作りが必要である。<社
導く》《連携》《地域を変える》があった。その実践を支
会復帰施設の増加>に向けて、《精神保健福祉の普及》
えるものには、患者の姿に心を揺り動かされ、何とかし
を働きかけていく必要がある。
たいと思う看護者の熱意である《患者への専心》《看護
また、精神疾患の特徴から、入院のきっかけが患者本
者の内的動機づけ》、それを支える《看護チームの支え
人の意思ではなく、家族からの相談によって展開される
合い》、看護者自身が成功体験をもつことが、重要であ
場合も少なくない。ゆえに患者・家族の双方が、自分が
ることが示唆された。
被害者であり相手が加害者であるという意識をもつこと
また、今後の課題として、地域特性や長期在院患者の
もあるため、この複雑な関係の調整を看護者は、《家族
社会との関係の希薄さや高齢化を考慮した《精神保健
の安寧を導く》ことや<患者の代弁者となる>ことで、
福祉の普及》《病院全体の連携》《家族の援助》があった。
患者と家族との橋渡しを行ってはいるが、課題として掲
くわえて、患者の可能性を信じて、患者本人や家族、看
げていることからも、個人で行うことの限界もあり、今
護者があきらめないこと、患者の少しの変化を看護者が
後、退院前訪問や訪問看護を活用するなどの病院全体で
実感できることが重要で、そのための《看護者の自己研
取り組めるように体制作りが急務であると思われた。
鑽》と看護者をサポートする体制をどのように構築して
ハード面以外にも、長期在院患者の社会復帰に向けて
いくかが課題である。
の看護実践を阻害している要因には、<患者本人の意欲
の埋没><看護者のあきらめ>である《あきらめ》があ
謝辞
本研究にあたりご協力を下さいました看護職のみなさ
る。
「長期在院患者は退院してもすぐに戻ってくるイメー
ジ」「長期在院患者の退院は難しい」など<看護者のあ
まに深く感謝申し上げます。
きらめ>が語られていた。しかしながら、調査 12) では
10 年以上の長期入院患者でも 49.5%が退院の意向を示
している。前述の坂田
13)
、石橋
14)
の報告では「固定し
引用文献
1) 篠 崎 英 夫: 精 神 医 療 は 地 域 で, 看 護 展 望,29(7);
た患者の捉え方、あきらめ」は長期在院患者の社会復帰
15)
744-745,2004.
は「看護者が変わることが
2) 松枝美智子:精神科超長期入院患者の社会復帰への援助
患者の力を発揮する」と、看護者自身があきらめないこ
が成功する要因−日本版治療共同体における看護師の変化
への援助を阻害し、松枝
̶ 17 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
−,日本精神保健看護学会誌,12(1);45-57,2003.
3) 井田めぐみ,田上美千佳,萱間真美,他:精神分裂病者の
退院に向けた看護婦 ( 士 ) の関わり,日本精神保健看護学
会誌,10(1);127-33,2001.
4) 石橋照子,川田良子,曽田教子,他:長期入院精神障害者
の社会復帰への援助を阻害する看護者の捉えと態度,日本
看護学会誌,11(1);11-20,2002.
5) 石橋照子,成相文子,足立美恵子:精神分裂病長期入院患
者の社会復帰に向けて効果的な看護介入のコツ,日本精神
保健看護学会誌,10(1);38-49,2001.
6) 松本務:長期入院患者の退院意欲を尊重した看護−圏域
初 の グ ル ー プ ホ ー ム に 退 院 し て −, 看 護 技 術,49(8);
60-64,2003.
7) 酒井孝夫:長期入院患者の退院支援 家族を巻き込んだ
重い扉へのチャレンジ 2年半にわたる話しあいと両親
への関わりによって退院が実現した N さん,精神科看護,
124;52-56,2003.
8) 坂田三允:統合失調症・気分障害をもつ人の生活と看護ケ
ア;159-163,中央法規,2004.
9) 田中美恵子,萱間真美:精神分裂病患者の社会復帰を促
す看護実践の構造,臨床看護研究の進歩,7;145-154,
1995.
10) 前掲 8).
11) 前掲 5).
12) 菊池謙一郎:在院 10 年以上の精神分裂病患者の退院意向
調査,看護展望,23(10);1170-1178,1998.
13) 前掲 8).
14) 前掲 5).
15) 前掲 2).
(受稿日 平成 17 年3月4日)
̶ 18 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔研究報告〕
精神科病棟での家族援助の内容と気づきの検討
池 邉
敏 子 1)
片 岡
三 佳 1)
高 橋
香 織 1)
山内
美 代 子 2)
A Study of Family Care at a Psychiatric Ward
1)
Toshiko Ikebe ,
1)
Mika Kataoka ,
1)
Kaori Takahashi , and Miyoko Yamauchi
Ⅰ.はじめに
2)
Ⅱ.方法
A 病 院 で は、 4 年 前 よ り 看 護 部 の 目 標 と し て、「家
1.研究参加者
族への援助の充実」を掲げてきた。しかし、具体的実
対象としたのは、A病院B病棟勤務の看護師9名、准
践が必ずしも円滑に進まず、そこで、本学との共同研
看護師3名の合計 12 名である。調査時のB病棟勤務の
究 を 2002・2003 年 に 行 い、 そ の 成 果 を 共 に 報 告 し
看護師は 16 名、准看護師は 8 名であった。研究目的が、
た
1,2)
。共同研究の研究参加者は、B病棟勤務の看護職
過去2年間の共同研究の経過をふまえていることから、
である。2002 年の結果では、家族を援助の対象という
2年前より継続して当該病棟に勤務している看護師・准
よりは、患者を引き受ける立場と位置づけ、患者の退院
看護師 12 名を対象とした。
に向けて、受け皿としての家族に期待される視点から援
2.方法
助・課題が抽出された。そこには、家族が抱える問題・
各自が具体的に実践している「家族援助の実際」の体
介入の困難さに気づきながらも介入できない状況が明ら
験認知をもとにデータを抽出することから、体験認知の
かになった。そこで、2003 年には、当該病棟での経験
個別性を重視し、質的記述的研究とした。
豊かな8名の看護職に、意図的に家族への援助を実施し
データ収集は病院組織と関係のない本学教員が半構造
てもらい援助内容を分析した。その結果、入院患者を引
化面接で行い、面接内容を対象者の了解のもと、テープ
き受ける立場という患者に比重が置かれた家族の見方か
に録音し逐語録を作成した。平均面接時間は 50 分であっ
ら、患者と家族の間でギャップを埋め合わせたり、双方
た。
の代弁者になるといった中立的な立場での援助内容が抽
面接は、対象者のプライバシーが確保される静かな環
出された。さらに、家族援助を充実させたいという意図
境で個別に行った。面接内容は、家族に対する自己の看
が見出された。
護実践内容、家族への看護実践を行う環境要因、家族援
このように、共同研究の1年目と2年目に家族援助の
助で大事にしていること、課題などである。対象の背景
内容・看護職の意欲に変化が認められていることから、
を明らかにする目的で、年齢・経験年数などを質問した。
経時的に家族援助の内容と、援助を通しての気づきを把
分析方法は、逐語録を繰り返し読み、家族援助に関わ
握することが、家族援助の充実・看護職のキャリア発達
る内容が記されている場面を抽出し、援助内容・気づき
などからも重要と考えた。
の内容の各々1つに対して、場面・語彙の意味内容を変
そこで、本稿では、共同研究3年目の、家族援助の内
えないように要約し、1データとした。1データに要約
容と援助を通しての看護師の気づきを明らかにし、過去
された内容のうち、類似するものを集めてサブカテゴ
2 年間の共同研究の経過をふまえ検討していきたい。
リーとし、さらにカテゴリーへと抽象化した。カテゴリー
1) 岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-Based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
2) 養南病院 Younan Hospital
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岐阜県立看護大学紀要
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化は、研究者間での合意が得られるまで検討を加えた。
かけは、まあ、こっち(看護師)から『そういう(患者の)
3.面接期間
状況なんで』っていうような報告して、『主治医がこん
平成 16 年 9 月 14 日∼ 17 日である。
なふうな考えでいます』みたいな感じで言って・・・た
4.倫理的配慮
いがいそういうふうに説明していくと、次の時(面会時)
研究への同意と参加は、研究目的、研究参加に伴う利
は『どうですか』って、まあ家族が聞いてくれば、それ
益と不利益、秘密性などを口頭と文書で確認した。
はしめたものやね。まあ、問題のある家族は『そうです
5.分析結果の厳密性の検討
か』って終わり、聞いてこない」など家族の状況を伺い
分析結果は、対象者に返し、援助内容・看護実践を行
う環境要因・家族援助で大事にしていること・課題を表
現していると認められた。
ながら待っている様子が示されている。
②カテゴリー2【気遣う】
【気遣う】は、2つのサブカテゴリーで構成されている。
《ねぎらう》では、「急性期で入ってきて、まあ最初の
Ⅲ.結果
頃は、家族が疲れているときっていうのは、家族の話を
1.研究参加者の概要
聴く、思いを聞くっていうのをします。そのことについ
調査対象 12 名のうち、性別は、男性
4名、女性8名である。昨年からの継続
者は8名、今回新たに協力が得られた者
は4名であった。
2.抽出されたカテゴリー(表1)
で 87 枚であった。
データを分析した結果、33 のサブカ
テゴリーから 12 のカテゴリーが抽出さ
れた。この内、援助内容では、13 のサ
ブカテゴリーから、6つのカテゴリーが
抽出された。実践を通しての気づきでは、
20 のサブカテゴリーから6つのカテゴ
リーが抽出された。
結果では、各カテゴリーとサブカテゴ
カテゴリーの命名の真実性を記するた
めに、プライバシーの保護を念頭に面接
内容を紙幅の関係から1例づつ述べる。
【 】内はカテゴリーを示し、
《 》内は、
サブカテゴリーを示している。
「 」内は、
対象の語った面接内容を示している。
1)援助内容
①カテゴリー1【状況を待つ】
【状況を待つ】は、1つのサブカテゴ
リーで構成されている。
《状況を待つ》では、
「家族との話のきっ
実践を通しての気づきの内容
リーを述べると共に、カテゴリー、サブ
援助内容
逐語録の量は、A4版 52 行× 30 字
表1 家族援助の内容と気づき
カテゴリー
サブカテゴリー
状況を待つ
状況を待つ
気遣う
ねぎらう
気にかける
関係を繋ぎ止める
関係を繋ぎ止める
判断を促す
否定しない・押しつけない
説明する
共に考える
ありのままを示す
引き受ける
受け止める
引き受ける
方向を示す
依頼する
見通しを共有する
使える看護支援を紹介する
切羽詰まった家族の苦悩を 追いつめられた気持ち
知る
患者を受け入れられない
安堵と気がかり
相談しない
看護職仲間との支えあい
大学との共同研究が役立っている
上司・同僚の支え
看護実践の変化を実感
以前と比べ家族援助をしやすい病棟の雰
囲気
自分の看護実践が変わった
他の人の看護実践も変わった
家族援助を支える取り組み 訪問看護が役立っている
が機能している
看護支援室との連携
他職種・同僚との連携
カンファレンスの定着
看護師としての焦る気持ち 急性期看護の専門性が求められている
心配な退院事例
地域で暮らして欲しい気持ち
課題
情報の共有
地域に向けた支援システム
家族主体の援助
時間・教育の保障
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て、まあよくやられていますねとか、そういう声かけを
どが語られていた。《共に考える》では、
「患者さんが(家
忘れないようにしている」などねぎらいの言葉をかけ
族に)電話をかけるたびに、折り返しこちら(病棟)に
ていることが語られていた。《気にかける》では、「家族
電話がかかってくる。『とにかくおかしいんです、変な
も治療の必要性は解っていても拒否、否認される方もい
んです』っていうのが。私も(受け持って間もないので)
る・・・家族が本音でどの程度理解されているか、治療
どう関わっていいのかわからない、親子の関係のことを
された(と思っている)のか気にかけている」など気に
これから一緒に考えていきましょうっていう」など共に
かけている様子が語られていた。
考えていることが語られた。《ありのままを示す》では、
以上より、家族に懸念を抱き心配するという、気遣い
「病棟の中での生活はどうなのか、聞かれますね。あり
が示されている。
のままそれが悪い、夜も寝てなくて、薬も飲んでいなく
③カテゴリー3【関係を繋ぎ止める】
てっていうのも、全てお話しする。夜寝てないから、今
【関係を繋ぎ止める】は、1つのサブカテゴリーで構
成されている。
それを援助するためにドクターとどう話しているかっ
て、こういう部分まで家族には伝えると納得されるので、
《関係を繋ぎ止める》では、「16 年の間にご両親もな
くなり、保護者であるのは弟さんだけになってしまい、
隠さないように話すようにしている」など隠さずに、あ
りのまま示すことが語られていた。
その方(弟)を離さないように、その方が離れてしまう
以上より、看護師側から一方的に押しつけることなく、
とこの方(患者)ほんとの1人になってしまう。ただあ
ありのままを提示して、家族の判断を促していることが
まり頻回に連絡し、依頼すると、そこまで兄弟がやらな
示されている。
きゃいけないなら、生保に切り替えて縁を切るみたいな
⑤カテゴリー5【引き受ける】
きつくでられるので、こちらもその辺難しいんですけど、
【引き受ける】は、2つのサブカテゴリーで構成され
患者さんも自分から言い出しにくいのでこちらが介入し
ているところです」など疎遠になりがちな家族との関係
ている。
《受け止める》では、「家族は結構今までの大変さって
を繋ぎ止めていることが示されている。
いうのは聞いて貰いたいんだなと。自分の育て方とか、
④カテゴリー4【判断を促す】
そのうち、原因探しをね・・・医師の記録を読めば『あ
【判断を促す】は、4つのサブカテゴリーで構成され
ている。
あこうだったんだ』って、こちらは解るんですけど、お
母さんの話したいって言うその気持ちを吐き出させる場
《否定しない・押しつけない》では、「家族の方の接し
として聞く」など家族の思いを受け止めていることが語
方がまずいなあと思えば、『こちらでは(看護師は)こ
られていた。《引き受ける》では、「各担当(受け持ち看
のように接しているんですよ』っていう感じで、かなり
護師)が2・3名ずつ(患者を)受け持っているんです
妄想が激しい人でも『あまり怒ると、逆に怒ってくるか
けど、家族に何も問題なくスムーズにいくときもあるん
ら、現実に戻せるような感じの会話をしていくといいで
ですけど、やっぱり問題があって、やっぱりそこに家族
す』と話している」など否定したり、押しつけない援助
との関係を持っていかなきゃならないっていうのもでて
の提示を語っていた。《説明する》では、「患者さんが家
くる。スタッフもその辺のことは、絶対関わり持ってい
族にかなり迷惑かけて入院してくるんで、家族が(患者
かなきゃという自覚あると思うんです」など家族援助が
からの小遣いの請求に対して)『入院費払うのが精一杯
必要な場合に引き受ける姿勢があることが語られた。
なのに、何でそんなものが必要なんですか』と言ってく
以上より、家族の思いを受け止めるだけでなく看護職
るときに、最終的には家族と患者さんで決めてもらうの
が引き受けていかなければならない覚悟が示されてる。
ですが、たばこやお菓子なんか持ち込み自由になってい
⑥カテゴリー6【方向を示す】
る。一応こういう仕組みになっているんでと。『皆さん
が持っているので、この方だけがないというのもいかが
なものでしょうか』と、何かやんわりと持っていく」な
【方向を示す】は、3つのサブカテゴリーで構成され
ている。
《依頼する》では、「(弟さんと)率直に話せる関係な
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ので、お母さんが高齢で、娘さんも一緒に住む気がない
ていう感じ」など家族が何に困っているかを相談しない
と言っている。『じゃあ弟さんがみてくれるんですか』っ
ことが語られた。
ていって。『弟さんがみてくれるなら、服薬は弟さんに
以上より、家族が患者のことに気がかりでありながら、
手伝ってもらわないと無理』って協力をお願いする」な
相談もせず、追いつめられ切羽詰まった状況で苦悩して
ど必要時に家族に依頼していることが語られた。《見通
いることを看護師が知ったことが示されている。
しを共有する》では、「うつの患者さんを受け持ってい
②カテゴリー2【看護職仲間との支え合い】
ますが、家族が毎日来られるんです。その方について
は、自分が居るときは顔を出して、現在どういう経過を
【看護職仲間との支え合い】は、2つのサブカテゴリー
で構成されている。
たどっていますとか、何か気になったことは必ず伝えて
《大学との共同研究が役立っている》では、「ここに来
います」など患者の経過や今後行われる援助の見通しを
た頃は、家族援助に対してここまで大きな動きはなかっ
共有していることが語られた。《使える看護支援を紹介
た。ここ最近2年くらい前から、そういう雰囲気になっ
する》では、「退院される方とかに看護支援室の案内を
て、大学との(共同)研究がちょうどピークだったこと
必ず、毎週土曜日にやっている支援室の案内をお渡しし
もあって」など本学との共同研究が役立っていることが
ている。別に何もなくていいからご本人、家族の方何か
語られた。《上司・同僚の支え》では、「(自分は)失敗
気づいたことあったら、相談する窓口ありますよってこ
も多くし、過ちとか配慮のなさとかあったけど、その中
とは、お伝えしている」など使える看護支援を紹介して
で同僚や上司の方に、そういう人達に許して頂いて、自
いることが語られた。
分の足りないところは、といつも思っている」など上司・
以上より、見通しを共有し、家族でできることの依頼、
同僚の支えがあることが語られた。
使える支援を紹介するといった、家族と共に援助するた
以上より、職場はもとより、看護大学教員を含めた看
めの方向性が示されている。
護職仲間による支え合いが示されている。
2)実践を通しての気づきの内容
③カテゴリー3【看護実践の変化を実感】
①カテゴリー1【切羽詰まった家族の苦悩を知る】
【看護実践の変化を実感】は、3つのサブカテゴリー
【切羽詰まった家族の苦悩を知る】は、4つのサブカ
テゴリーで構成されている。
で構成されている。
《以前と比べ家族援助をしやすい病棟の雰囲気》では、
《追いつめられた気持ち》では、「精神科で治療しよう
「家族のケアっていうのは大事だっていうのはみんな感
と思って、その門をくぐられた時は、最終的にどこも行
じているけど、日常業務忙しくてなかなか手が回らな
き場がなくていらっしゃったりとか、いろいろ考えあぐ
い・・・みんなが忙しい中、家族と話したいって切り出
ねて治療の門を叩かれる」など家族の追いつめられた気
せなかったし・・・今は家族との話がしたいって切り出
持ちを語っていた。《患者を受け入れられない》では、
「病
しやすくなった」など以前と比べ家族援助をしやすい病
状が悪くて入院してくるケースが多いので、家族の要望
棟の雰囲気であることが語られた。《自分の看護実践が
で、(患者が)電話をかけると困るとかあります」など
変わった》では、「家族に戻せないとなると、そこに蓋
家族が患者を受け入れられないことが語られた。《安堵
せざるを得ない。言い方悪いけど目をつぶっていた。そ
と気がかり》では、「入院させてきた時は、逃げ道とし
こを避けて通れないって状況が最近ある、こっちとして
て入院させていると、・・・(入院期間が)1ヶ月って示
も(家族に)返していかなければという思いあるもんで、
されると、1ヶ月でまた戻ってこられるんだろうかって
家族って事は後回しになるもんで、今は入院したときか
不安が強くなって、気にする方が多い」など安堵と気が
ら考えるってなると、そこは目を避けて通れなくなって
かりという両価性の気持ちがあることを語っていた。
《相
いる。そういう傾向に(自分が)ある」など自分の看護
談しない》では、「(家族から)『電話させないようにし
実践が変化していることが語られた。《他の人の看護実
て下さい』っていってくる。後でよくきくと、家族が本
践も変わった》では、「今は病棟全体がそういう(家族
人に振り回されていて、何とかおとなしくして欲しいっ
援助をする)流れなもんで、全体でやっていこうとする
̶ 22 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
ことなので、情報共有も結構あって進めていると思いま
⑤カテゴリー5【看護師としての焦る気持ち】
す」など他の人の看護実践も変わったことが語られた。
【看護師としての焦る気持ち】は、3つのサブカテゴ
以上より、家族援助を行いやすい雰囲気や自他の看護
実践が変わってきていることの実感が示されている。
リーで構成されている。
《急性期看護の専門性が求められている》では、「病院
④カテゴリー4【家族援助を支える取り組みが機能して
として急性期(病棟)が始まるというのもあるもんです
いる】
から、早くそういう援助していかなければならないって
【家族援助を支える取り組みが機能している】は、4
つのサブカテゴリーで構成されている。
いうのは、結構話されている」など急性期看護の専門性
が求められている現状への気づきが語られた。《心配な
《訪問看護が役立っている》では、
「訪問看護とか始まっ
退院事例》では、「家族は涙を流されて入院させたんで
て、やはり入退院を繰り返す患者さんについて、退院
すが、次の日に患者が慣れない環境で入院続けられない
してからの服薬が中断して、すぐ戻ってくる。くい止め
ことを家族に連絡して、退院となったんです。もとの状
ようって事になって、家族に入院中に訪問看護あります
態に戻ったので、同じになるのは目に見えている」など
よって言ったら、家族の方も受け入れられた」など病棟
心配な退院事例のあることが語られた。《地域で暮らし
での家族援助には地域で支える訪問看護が役立つことが
て欲しい気持ち》では、「今受け持っている患者を地域
語られた。《看護支援室との連携》では、
「支援室に関わっ
で長く安定して暮らせるかっていうことで、訪問に繋げ
ている看護師から退院した人の情報をもらえるので、そ
て、・・・家でどう暮らすかっていうことなのかな」な
の人や家族の困っていることとか。退院した後もどこか
ど地域で長く暮らして欲しい気持ちが語られた。
変わっていったら、(病棟に)電話かかってきたりする
以上より、看護職として患者に抱く希望と、急性期病
ので、今の状態知っていた方が話しやすい。支援室から
棟開設に伴う看護の更なる専門性の希求や心配な事例の
の情報とても役立つといいますか、とてもいい影響と思
退院など現実から突きつけられた専門的立場への要求か
う」など看護支援室との連携が役立っていることが語ら
ら、専門職としての焦る気持ちが示されている。
れた。《他職種・同僚との連携》では、「係は(受け持ち
⑥カテゴリー6【課題】
看護師は)家族の受け入れとか地域の受け入れとか・・・
【課題】は、4つのサブカテゴリーで構成されている。
保健師さん、近所に挨拶したり、民生委員さんと一緒に
《情報の共有》では、「急性期で展開も早いと、なかな
近所の人に回ったりした」など他職種・同僚との連携が
か(患者・家族を)解るまでには、いなくなるので、(受
語られた。《カンファレンスの定着》では、「入院してき
け持ち看護師が)いないときでも対応できるように、わ
た当日に、その時担当した看護師が、もうドクターとか
かるようにしないとと思っている」など情報の共有の
ワーカーに連絡してもう早々に(カンファレンス)『い
重要性を語っていた。《地域に向けた支援システム》で
つやりますか』と日時を決めている。早急に行うように
は、「病棟勤務しながら訪問看護するのは非常に厳しい
している。先生も協力的・・・入院時カンファレンスは
んで、家族支援室というのを作ってという話もでている
始まって2年ぐらいだと思う。それまでは、問題が多い
んで、ナースが入ったり、ワーカーが入ったりと、そこ
とか症状が変わらないとか、そういう時にカンファレン
から訪問に行ったりと専属ですよね。そういうシステム
ス開いていたんです。今はもう入院してきた人ほとんど
になる話になると、患者さんに対しても違ってくる」な
全部対象にやっているんです。家族支援するにあたって、
ど院内に地域に向けた支援システムの設立が必要である
ケアの一貫性を出せると、こちらもケアしやすい」など
ことへの気づきが語られた。《家族主体の援助》では、
「今
カンファレンスが役立っていることが語られた。
は、この人にはこういう援助が必要じゃないかというこ
以上より、訪問看護や看護支援室、連携やカンファレ
と考えて、家族に提示している形なんですけど、本来は
ンスなどが機能することにより、家族援助が支えられて
家族がこういう援助して欲しいって言える場があって、
いることが示されている。
うちでは(本院では)こういうことあります、できます
と、意向を聞いて提示していく事が必要」など家族主体
̶ 23 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
の援助が必要であることが語られた。
《時間・教育の保障》
の大きさに戸惑ってしまう。精神障害者の家族に対する
では、
「急性期やるって、そんなに簡単に行かないと思っ
気遣いは、世間の偏見に曝される家族という立場からも
ている。それだけ入院期間短くなるから、そういう入院
重要な援助と考える。【関係を繋ぎ止める】は、精神病
でできる評価と、退院(後に)でやって行かなきゃいけ
院への長期入院化を防ぐ適切な援助と考える。 ないことに、それが本当にできるかって、勉強会とかやっ
【看護師としての焦る気持ち】や、【家族援助を支える
ていたわけでなく、今年からやり始めたので」など継続
取り組みが機能している】ことで意欲や実践のしやすさ
教育の必要性が語られた。
も加わり、援助内容がさらに豊かになっていったと考え
以上より、情報の共有、地域に向けた支援システム作
りや家族主体の援助、そのための時間・教育の保障といっ
たこれからの家族援助の課題に気づきながら実践が行わ
れていることが示されている。
る。
2.家族援助を支える仕組みの形成
【家族援助を支える取り組みが機能している】【看護職
仲間との支え合い】のサブカテゴリーをみると、【家族
援助を支える取り組みが機能している】は、訪問看護や
Ⅳ.考察
看護支援室があるなどから抽出されている。家族援助が
1.援助内容の充実
病棟看護師だけで完結するのでなく、多様性ができ、連
援助内容は、【状況を待つ】【気遣う】【関係を繋ぎ止
携することで幅広い援助ができることを実感できたと
める】
【判断を促す】
【引き受ける】
【方向を示す】といっ
考えられる。殊に看護支援室は昨年 11 月から数名の看
た 具 体 的 な 内 容 が 6 つ 抽 出 さ れ た。 筆 者 ら が 2002・
護師によって開設されており、その実績が報告されてい
2003 年に報告した内容と比較すると、カテゴリーの段
る7,8)。
階での援助内容の抽出は、2002 年では【家族の協力を
共同研究や上司・同僚の支えは、知的・情緒的支援と
引き出す工夫】【家族の不安を配慮した情報提供】【家族
なって、看護職の意欲・実践を支えていったと考えられ
3)
との意識的な関係作り】の3カテゴリー 、2003 年では、
る。本学との共同研究は3年目を迎え、研究を行ってい
【患者と家族の心理的距離の短縮】【家族の困難・限界を
る病棟も3年間固定している。その中で、家族援助の変
見極めた援助】の2つのカテゴリー 4) と少ない。内容
化に共同研究が関与しているという評価を実践者から語
表現も、今回のように具体的な行動が示されていない。
られたことの意義は大きい。しかし、共同研究は実践現
語られる内容の豊かさは、実践状況に影響されることか
場が変化していくときの一要因であって全てではない。
ら、援助内容が充実していったと考えられる。
病棟での家族援助が行いやすい周囲の環境が整ってきた
援助内容は、援助する側の対象理解と関連する。今回
実践を通しての気づきの中で、【切羽詰まった家族の苦
と言えよう。
3.変化と課題
悩を知る】が抽出された。精神障害者の家族は、「家族
家族援助の内容の充実は、家族援助を行いやすい環境
自身が偏見に縛られて、 他人に言えない 病気を家族
整備と関連する。その環境の変化を看護職は実感してい
5)
だけで抱え込み孤立している」 「患者の病状が悪いと
るだけでなく、「家族に戻せないってなると、そこに蓋
きに お荷物 と感じやすい」 6) と言われている。《相
せざるを得ない。言い方悪いけど目をつぶっていた。そ
談しない》《追いつめられた気持ち》《患者を受け入れら
こを避けて通れないって状況が、今のここ最近あるん
れない》から抽出された【切羽詰まった家族の苦悩を知
で、……」というように、自分の看護実践が変化してき
る】は、精神障害者の家族が抱えやすい苦悩を的確に気
たこと、自分をも含めて構成される病棟の雰囲気が変化
づいているといえる。このような、対象理解の的確さが
したことを感じている。さらに、「今は病棟全体がそう
援助内容の充実に影響したと考える。【気遣う】のよう
いう(家族援助をする)流れなんで、全体でやっていこ
に、入院に至るまでに家族が疲労していることや、家族
うとすることなので、情報共有も結構あって、進めてい
は、入院の必要性は解っていても、医療保護入院のよう
ると思います」のように看護実践が変わったのは自分だ
に家族が入院の判断に大きく関わるとなると、その責任
けでなく、他者の変化にも気づいている。また、2002
̶ 24 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
年9) では、《患者の好転している情報を提供する》サブ
室の利用実態と役割の検討その1,日本公衆衛生学会誌
カテゴリーが抽出されているが、今回は《ありのままを
51(10);771,2004.
示す》が抽出された。2003 年 10) では《カンファレン
8) 有 馬 ま り, 高 橋 香 織, 池 邉 敏 子, 他: 精 神 科 看 護 支 援
スに工夫が必要》であったのが、今回は《カンファレン
室の利用実態と役割の検討その2,日本公衆衛生学会誌
スの定着》が抽出されている。このように、病棟全体の
51(10);771,2004.
看護師による家族援助に大きな変化がでてきたことが伺
9) 前掲 1) 10.
える。
10) 前掲 2) 9.
今後の課題として、《地域に向けた支援システム》《家
族主体の援助》といった生活の場に戻れる支援と、当事
(受稿日 平成 17 年2月 12 日)
者である家族が積極的に加わっていける支援を模索して
いると言えよう。
Ⅴ.まとめ
精神科病棟での家族援助の実際と実践からの気づきを
明らかにする目的で、12 名の看護職を対象に半構造化
面接を行った。その結果 33 のサブカテゴリーから【状
況を待つ】
【気遣う】
【関係を繋ぎ止める】
【判断を促す】
【引
き受ける】【方向を示す】【切羽詰まった家族の苦悩を知
る】【看護師としての焦る気持ち】【看護職仲間との支え
合い】【看護実践の変化を実感】【家族援助を支える取り
組みが機能している】【課題】の 12 のカテゴリーが抽
出された。
謝辞
本研究にご協力下さいました看護職の方に感謝いたし
ます。
引用文献
1) 池邉敏子,グレッグ美鈴,高橋香織,他:精神病院の一
急性期病棟での家族援助の実際,岐阜県立看護大学紀要,
3(1);9-14,2003.
2) 池邉敏子,グレッグ美鈴,高橋香織,他:精神科病棟で
の家族援助の実際と課題,岐阜県立看護大学紀要,4(1);
8-12,2004.
3) 前掲 1) 9-14.
4) 前掲 2) 8-12.
5) 岩崎弥生:精神病患者の家族の情動的負担と対処方法,千
葉大学看護学部紀要,20;36,1998.
6) 前掲 5) 35.
7) 水谷裕美子,高橋香織,池邉敏子,他:精神科看護支援
̶ 25 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔研究報告〕
A県特別養護老人ホームの現状と看護職が認識している充実・強化したい看護行為
小 野
幸 子 1)
原
田 中
克 子 1)
兼 松
惠 子 1)
奥村
梅 津
美 香 1)
古 川
直 美 1)
北 村
敦
子 2)
子 1)
坂 田
直 美 1)
美 奈 子 1)
小 田
和 美 1)
直 子 1)
平 山
朝 子 3)
林
幸
The Problems in Nursing Care Thinking of the Nurses
Who Are Working at the Nursig-Homes on A Prefecture
1)
Sachiko Ono ,
1)
Katsuko Tanaka ,
1)
Mika Umezu ,
2)
Atsuko Hara ,
1)
Sachiko Hayashi ,
1)
Keiko Kanematsu ,
1)
Naomi Hurukawa ,
1)
Naomi Sakata ,
1)
Minako Okumura ,
1)
1)
Kazumi Oda ,
Naoko Kitamura , and Asako Hirayama
3)
Ⅰ.方法
はじめに
特別養護老人ホーム(以下特養と省略)は生活の場と
1.対象:A県全特養(66 施設)の看護職である。
して位置づけられ、看護職は入所者の健康生活を守る重
2.方法及び倫理的配慮:まず、施設長に電話、もしく
要な役割を担っているが、法的には 100 名の入所者に
は直接会って、本事業の趣旨・方法を説明するとともに、
対して3名の配置である。これは、高齢化・重度化した
得られた内容は施設名、個人が特定されないよう配慮す
高齢の利用者が増大している現状からすると、厳しい状
ることを約束して了解を得た。次いで、看護職を紹介し
況といえよう。しかし、特養看護職が認識している充実・
てもらい、同様に説明して了解を得、日程調整し、成熟
強化したい看護行為に焦点を当てた報告はみられない。
期看護学領域の教員1∼2名で個別に訪問して面接をし
これらの現状把握は、特養における看護活動上の課題を
た。訪問当日、面接可能だった看護職には質問紙を配布
捉えることに繋がり、質的向上のための改善・改革に向
して、設問毎に説明しつつ聞いた。これは、面接自体が
けた研究的な取り組みをする上で基礎資料になると考え
刺激になって看護活動を見直す機会になり、研修の意味
る。
を持つと考えたことによる。そこで可能な限り多くの看
本学では、看護実践研究指導事業として、A県特養看
護職と面接し、認識を把握したいと考えた。しかし、各
護職の活動の質的向上を目指し、平成 13 年から 15 年
施設とも看護職全員を対象に面接することは困難であっ
にわたって看護職が認識している看護活動について面
たため、当日面接できなかった看護職には、面接した看
接し、その結果を基に地区別のワークショップを行って
護職から質問紙の配布、回答要領の説明および別途返送
きた。これら地区別の面接結果については、本紀要に報
してもらうよう依頼した。なお、質問紙は記名式とし、
告
1∼3)
してきた。
返送された回答内容について、不明な部分や無回答の場
本稿では県内全特養(66 施設)の現状とともに看護
合、電話で確認させてもらうことの了解を得た。
職が認識している充実・強化したい看護行為に焦点を当
3.面接内容:①対象の属性、②施設の背景、③入所者
てて検討したので報告する。
の背景、④看護活動についてである。なお、看護活動を
なす看護行為は、特養が生活の場としての機能をもつこ
1) 岐阜県立看護大学 成熟期看護学講座 Nursing of Adults, Gifu College of Nursing
2) 新潟大学医歯学総合病院 Niigata University Medical & Dental Hospital
3) 岐阜県立看護大学 学長 President, Gifu College of Nursing
̶ 27 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
とから訪問看護実態調査 4) で用いられている項目を参
表1 個別訪問面接の時期と回答者・回収の数
地区
考に、【病状観察・心理的支援などの行為】10 項目、【療
面接の年月
A
養上の世話】12 項目、
【医療的な処置】15 項目、
【記録・
C
E
いて○を記し、さらに、その行為について、現状と今後
17
10
31
13
27
13
47
平成 14 年8月
D
目を列挙した表を示して充実・強化したい看護行為を聞
回答者・回収の数
7
平成 13 年8月∼9月
B
報告・連携】7項目の総計 44 項目である。これらの項
施設数
平成 15 年6月∼8月
計
23
82
66
204
の取り組みについて聞いた。
4.個別訪問面接の時期:平成 13 年度は8月∼9月にA・
表2 回答者(看護職)の属性
B地区、平成 14 年度は8月にC・D地区、平成 15 年
年齢(n=190)
人数
%
20 歳代
21
11.1
度は6月∼8月にE地区であった。
30 歳代
53
27.9
40 歳代
49
25.8
5.分析方法:66 施設の看護職の面接及び別途返送され
50 歳代
60
31.6
た回答内容を分析対象とした。面接内容の①∼④は単純
60 歳代
5
2.6
70 歳代
2
1.1
202
99.9
集計し、充実・強化したい看護行為は、約3割の看護職
が占めた上位 10 位までの看護行為について、各々、現
性別(n=204)
女性
男性
所有資格(n=203)
看護師
2
1.0
88
43.1
看護師+ケアマネージャー
13
6.4
状と今後の取り組みの記述内容を意味内容に基づいて整
看護師+介護福祉士
3
1.4
理した。なお、全ての質問に回答が得られていなくても
看護師+保健師
1
0.5
看護師+助産師
2
1.0
看護師+社会福祉主事
1
0.5
115
56.7
准看護師+ケアマネージャー
8
3.9
准看護師+介護福祉士
5
2.5
37
20.7
副施設長
1
0.6
施設部長
1
0.6
看護・介護長
1
0.6
課長・看護課長
7
3.9
係長・看護主任
26
14.5
回答された部分は、すべて分析対象にした。
准看護師
Ⅱ.結果
職位(n=179)
管理職
1.個別訪問面接の時期と回答者・回収の数:面接でき
た看護職は各施設1∼4名であり、別途返送分をあわせ
ると、表1のように総計 204 名であった。
副主任
2.回答者(看護職)の属性:年齢は 22 ∼ 77 歳にわたり、
平均年齢が 42.3 ± 10.5 歳であった。年齢階層別、性
看護スタッフ
その他
3
1.7
24.7
(n =190)1年以上3年未満
55
28.9
3年以上5年未満
26
13.7
5年以上7年未満
12
6.3
7年以上 10 年未満
21
11.1
10 年以上 20 年未満
20 年以上 30 年未満
21
7
11.1
2.7
1
0.5
13
6.8
看護職としての経験年数の詳細は表2に示しているとお
りであった。なお、病院勤務経験者数は 170 名(83.3%)
であったが、その経験年数は1∼ 50 年、病院以外の勤
務経験者数は 65 名(38.2%)で、その経験年数は6ヶ
1年未満
30 年以上
現職場以前の看護職
0年
としての経験年数
1年未満
月∼ 30 年と、いずれもその経験年数に幅がみられた。
0.6
77.7
47
現職場での経験年数
別、所有資格、職位、現職場での経験年数、職場以前の
1
139
0
0
(n =190)1年以上3年未満
8
4.2
3年以上5年未満
18
9.5
3.施設の背景:設置主体、併設の施設・サービス、開
5年以上7年未満
23
12.1
設年及び看護職の雇用形態は、表3に示しているとおり
7年以上 10 年未満
19
10.0
10 年以上 20 年未満
67
35.3
20 年以上 30 年未満
23
12.1
30 年以上
19
10.0
であった。
4.入所者の背景:入所者の年齢は 51 ∼ 106 歳であり、
年齢階層別、性別、痴呆度及び要介護度は表4に示して
示しているとおりであった。 いるとおりであった。
5.充実・強化したい看護行為:充実・強化したい看護
Ⅲ.考察
行為は 190 名の看護職より回答が得られた。約3割の
1.回答者(看護職)の特徴
A県の回答者であった特養看護職の特徴は、病院の勤
看護職が充実・強化したい看護行為として挙げた上位
10 位、及びその現状と今後の取り組み内容は、表5に
務経験がある中高年の女性看護スタッフといえる。
̶ 28 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
高齢者は全身の機能低下に伴い容易に様々な健康障
表3 施設の背景
施設数
設置主体
定床
害に陥りやすく、障害が生じても典型的な所見が得ら
%
社会福祉法人
56
84.5
町村事務組合
4
6.1
広域連合
4
6.1
市立・町立
2
3
2
3
50 床台
30 床
21
31.8
60 床台
6
9.1
70 床台
7
10.6
16
24.2
100 床
9
13.6
110 床
1
1.5
80 床
120 床
2
3
130 床
1
1.5
160 床
1
1.5
在宅支援センター
41
62.1
ケアハウス
併設の施設・サービス
施設
サービス
16
24.2
グループホーム
7
10.6
養護老人ホーム
5
7.6
ホームヘルパーステーション
4
6.1
老人保健施設
3
4.5
病院
2
1.5
その他の施設(介護福祉士・理学療法士の学校など)
1
1.5
ショートステイ
60
90.9
デイサービス
45
68.2
訪問看護
11
16.7
訪問介護
5
7.6
訪問入浴
3
4.5
配食サービス
3
4.5
1970 年代
8
12.1
1980 年代
14
31.2
1990 年代
33
50
2000 年代
11
16.7
看護職の雇用形態 専任看護師
2
3.1
専任看護師+専任准看護師
16
25
専任看護師+専任とパート准看護師
開設年
13
20.3
専任とパート看護師+専任とパート准看護師
7
10.9
専任とパート看護師+専任准看護師
6
9.4
専任とパート准看護師
6
9.4
専任准看護師
4
6.3
パート准看護師
1
1.5
n=66
れにくいという特徴をもつ。このような高齢者の身体
的・精神心理的状態を理解した予防的看護、また健康
障害の徴候を早期発見する臨床判断能力は、臨床経験
が必須とまではいわないまでも、これを通じて育成・
発展されるといえる。したがって、特養看護職に病院
勤務経験者が多かったことは、むしろ適切といえるの
ではないだろうか。
2.施設の背景の特徴
A県特養の特徴は、1990 年代に設立された社会福
祉法人で、かつ、在宅支援サービスに関わる機能をも
つ 50 床台の施設が多い傾向を示したといえる。これ
は、2000 年に開始された介護保険制度、及び在宅支
援を重視・推進している国の施策の影響と捉えられな
いだろうか。
また、看護職の雇用形態は様々であり、「専任の看
護師と准看護師」「専任の看護師・准看護師とパート
の准看護師」の施設で約半数を占めたものの、准看護
師のみの施設が 17 施設(26.6%)みられた。法的に
は 100 名の入所者に3名の看護職の配置で、看護師
という限定はない。しかし、常勤医がいない特養では、
前述したように高度な能力が求められる。また、個々
の高齢者は、様々な人生経験をもつ人生終末にあり、
自己の人生の統合という発達課題をもつ。この発達課
題達成の支援ができるためには、的確な高齢者観や高
齢者ケア観を基盤に、それを深化・拡大していくこと
が求められる。さらに、我が国の超高齢社会は他に類
表4 入所者の背景
%
各施設の年齢階層別の割合 65歳以下
0 ∼5
65 ∼ 75 歳未満
3.3 ∼ 26.9
75 ∼ 85 歳未満
7.0 ∼ 55.0
85 ∼ 90 歳未満
8.0 ∼ 37.5
90 ∼ 95 歳未満
4.3 ∼ 30.0
95 ∼ 100 歳未満
0 ∼ 12.7
100 歳以上
0 ∼ 6.7
各施設の性別の割合
女性
22.0 ∼ 92.0
男性
8.0 ∼ 78.0
各施設の痴呆の重度別割合 痴呆なし
0 ∼ 100
軽度痴呆
0 ∼ 93.5
中等度痴呆
0 ∼ 56.0
重度痴呆
0 ∼ 82.0
各施設の要介護度別割合
要介護1
2.0 ∼ 16.4
要介護2
5.0 ∼ 22.2
要介護3
6.0 ∼ 32.1
要介護4
18.6 ∼ 55.3
要介護5
16.5 ∼ 62.8
平均%
1.4 ± 1.5
12.4 ± 5.3
37.8 ± 7.6
25.1 ± 6.3
17.0 ± 5.1
5.1 ± 3.3
1.1 ± 1.6
76.2 ± 12.5
23.8 ± 12.5
21.9 ± 21.5
23.9 ± 23.9
25.2 ± 15.9
28.9 ± 20.1
3.8 ± 8.6
12.1 ± 5.9
16.2 ± 20.8
38.2 ± 10.2
24.3 ± 18.4
n=66( 施設数 )
をみず、高齢者の医療・福祉・看護・介護の施策はめ
まぐるしく変化し、模索段階にあるといえる。このよ
うな中で、自施設における高齢者看護・介護の現状の
課題を明確にした取り組みは、准看護師のみでは限界
があるといえないだろうか。
3.入所者の背景の特徴
A県の特養入所者の特徴は、女性の後期高齢者で要
介護度が4∼5が多い傾向を示し、痴呆度は施設によ
り様々であった。これらは、女性の平均寿命の延長と
高齢になるほど何らかの生活障害を発生しやすく、要
介護度や痴呆度が増大する一方、独居生活や老老介護
の増大、子どもの介護意識の変化、家族の介護負担な
̶ 29 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表5 充実・強化したい看護行為 10 位の現状と今後の取り組み
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
看護行為の項目 n =190(100%)
現 状
今後の取り組み
・筋力低下や関節硬縮を予防し、ADL 維持・拡大のために必要性を感じているが人手 ・機能回復訓練に関する知識・技術を介護職と
【療養上の世話】
共に学習する
不足、多忙な業務、訓練方法の知識・技術不足で実施困難
理学・作業療法士以外 ・機能回復訓練の研修会への参加、老人保健施設の PT のアドバイスを受けている
・PT・OT 採用の必要性を訴えていく
によるリハビリテーション
・離床誘導、平行棒の活用、排泄誘導などを通じて歩行訓練、手足の温浴、ホットパッ
n =83(43.6%)ク貼用する程度
・1回/週 PT を依頼しているが、不十分
・感染症及びその予防に関する知識・技術不足
・感染症に関する施設内職員の意識向上のため
に学習会の開催する
・統一して予防・処置するためのマニュアルがない
・統一した予防・発生時の対応のためのマニュ
・説明しても理解できない痴呆性高齢者の感染予防策が困難
【病状の観察・心理的 ・ショートステイ利用者の感染症罹患の有無の把握が困難
アルの作成し、徹底化を図る
支援などの行為】
・冬季にインフルエンザワクチンの接種をして予防しているが、発生時の対策が講じ ・入所時、ショートステイ利用者の感染症の有
感染症の予防・処置
られていない
無のチェックの徹底化を検討する
n =70(36.8%)・手洗いの徹底化を図っている
・1回/年、業者清掃を導入
・2回/年、入所者の健診を導入
・感染症罹患者の入所拒否
・看護・介護職が一緒に記録している
・看護記録の必要性や方法に関して見直す
・看護・介護職が別々に記録している
・看護・介護職の記録の一本化を検討する
・看護職は人数が少なく、かつ時間的余裕がなく、看護記録はほとんどしていない、
【記録・報告・連携】
もしくは1回/月の記録、もしくは問題発生時のみ記録
入院時の看護記録
・利用者の状態・実施したケアなどが理解できる記録になっていない
n =69(37.7%)
・実施したケア内容と利用者の反応を記述できる記録に向けて取組中
・電子カルテの導入により、入院時の記録の徹底化をはかっているが、介護職がコン
ピューター入力できず訓練が必要
・看護職と介護職との間の情報の共有化の必要
・朝・夕の申し送り時、看護・介護職員が参加している
性・方法を検討する
・連絡ノートを作成して活用している
・変化(危険性)のある利用者について、介護上の留意点を徹底して申し送っている ・看護職が日々の介護に参加して情報交換する
【記録・報告・連携】
・看護職が日々の介護を実践して介護職とコミュニケーションを取っている
看護師間・介護者との
・介護職の相談窓口になる看護職員を決めて対応の一本化を図っている
申し送り・連携
・介護職のみで情報の共有化はできているが、看護職への情報伝達がない
n =65(36.3%)
・早出・遅出などの変則勤務の看護・介護職への申し送りがない
・看護職と介護職との話し合いの時間確保が困難
・看護職からの申し送りが介護職間で徹底されない(立ち切れ)
・利用者の入浴時に介護に参加し、全身状態を観察している
・入所者の変化を見逃さないために、日々の関
・介護職が加齢の病状への影響を理解できず、観察や予防策が遅れる
わりを強化する
・職員全員の情報の共有化を図る方法を検討す
【病状の観察心理的支 ・看護・介護職とも細かな観察不足で異常の早期発見・対処が困難である
援などの行為】
る
・入所前の利用者の生活背景の情報が不十分で個別的ケアに繋がらない
・家族、病院看護職、ケアマネージャーなどから意図
病状観察・情報収集 ・看護職の人数が少なく、高齢者個々の観察を毎日実施できない
n =64(33.7%)
的な情報収集するシステムを構築する
・看護・介護職員とも観察力を強化するための
学習会を企画する
・機関誌の発行などにより、苑の状況を連絡す
・家族との連携ができていないために情報不足で事故に繋がることがある
・利用者の体調の変化時に一方的に連絡するだけで、ほとんど来苑・面会に訪れない る
・看護職の家族との連携強化とその方法を検討
家族との連携が困難(苦情が多い、死ぬまでの世話を依頼される)
・面会や行事などの来苑時、声かけをしているが、信頼関係形成までは至っていない ・家族に報告すべき利用者の状態・変化につい
・急変時、家族となかなか連絡が取れず、困ることがある
て検討が必要
・施設職員全員で家族との連携を取る必要性が
・介護職が関わっている
【記録・報告・連携】 ・相談員、もしくは看護長が窓口になって対応している
あることを共有する
家族との連携
・家族の要望を意図的に聞いて対応している
n =63(33.2%)・家族への情報提供を強化して行い、苦情が少なくなっている
・介護経験のある家族は、介護の大変さを理解してくれるが、介護経験のない家族ほ
ど来苑少なく、かつ介護に対する苦情が多く対応困難ことが多い
・医療的なことは随時家族に連絡し必要に応じて嘱託医が対応している
・1回/月の家族会を開催して連携を図っている
・1回/週の家族面談(入所者1名につき、1回/年の割合になる)を実施している
・家族間の関係調整が困難
・介護職の緊急時の対応に関する教育の強化
・介護職員は専門的知識に欠け、対応が困難・遅れる
・介護職員の年齢・経験年数・考え方などが異なり、対応時の統一がとれない
・緊急時、必要に応じて点滴なども実施して行
【病状の観察・心理的 ・介護職員の入就時に、救急の対応、酸素の使い方、食事中の誤嚥時の対応などの教 きたい
・必要に応じて看護職が夜勤体制をとることを
支援などの行為】
育をしているが、慌てたり、怖がってできないことが多い
緊急時の対応や指示 ・夜間帯は電話による連絡を受けて対応している(対応の適否の判断に不安がある) 検討する
n =60(31.6%)・夜間、対応しない嘱託医で病院搬送している
・介護職との連携強化の必要性を共有する
・夜間対応できる嘱託医を要望する
・看護職員の医療的知識の獲得
・パートの看護職も含めた看護職間のカンファ
・ケアプラン立案時開催している
・ケースカンファレンスを1回/月実施しているが個別的な対応策を生み出すまでに レンスを実施する
・施設内職員全員参加のカンファレンスを開
至っていない(栄養士・介護職・ケアマネージャー参加)
【記録・報告・連携】 ・毎日 15 分のカンファレンス開催しているが、日によって不可能なこともあり、かつ 催・充実する
カンファレンス
時間が不足し、1回/月のケア会議で強化し始めたところ
n =59(31.1%)・必要に応じて実施したいが、人員不足、パート職員などで必ずしも集まることがで
きない
・看護職間だけでなく施設内職員全員のカンファレンスができていない
・介護職員だけでカンファレンスしているが、医療面のことは配慮されない
̶ 30 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
・説明しても理解力のない利用者の対応に苦慮している
・行動障害のある痴呆性高齢者の対応方法の知
識・技術を修得する
・弄便・放尿への対応困難
【療養上の世話】
・施設内職員で体験事例の検討を通して適切な
・介護拒否の高齢者の対応困難
特異行動(行動障害)
9
ケア方法を見出す
・異食高齢者の対応困難
のケア
・定期的に往診できる痴呆高齢者の診れる医師
・徘徊による転倒・転落事故や関節障害の防止が困難
n =56(29.5%)
の確保
・認知力が低下している高齢者の病状変化の把握
・痴呆高齢者を診ることができる医師がいないため、わざわざ精神科受診が必要
・家族が来苑しないため、療養指導ができない
・家族と連携した療養指導を強化する
・家族に受け入れられる療養指導が困難(糖尿病など食事制限は利用者が高齢だから ・介護職員との連携を強化する
【病状の観察・心理的
不要という)
支援などの行為】
・使用薬物の指導を行っても何回も確認されて対応が大変である
療養指導
・療養指導の時間の確保が困難である
n =54(28.4%)
・痴呆高齢者の療養指導が困難である
・必要に応じて医師に確認を取りながら実施している
・FAX等の活用して情報交換する
・歯科・精神科受診が必要な場合は総合病院を利用している
・関連施設の職員と定期的に懇親会などをとお
・入院が必要になった場合、医師間の連携が困難
10
して情報交換や親睦をする
・書面だけの連携で直接面談がなされない
・2回/週、来苑する嘱託医は入院設備がないため、他院を受診するが、高齢者は手 ・体調不良の入所者を受け入れる多数の医療施
【記録・報告・連携】 がかかると待たせられる
設を確保する必要がある
施設外の保健医療従事 ・痴呆性高齢者の受診・入院を拒否されて困っている
・皮膚科の専門医の確保が必要である
・状態悪化で受診すると、受診・入院を拒否され、困っている
・ショートステイ利用者の開業医との連携
者との連携
n =54(28.4%)・老人ホームの患者ということで、病院の職員から偏見を持って対応される
・家族の希望する病院への受診は、状況がわからず、対応が難しい
・後方病院とは、嘱託医の紹介状でスムーズに受け入れてもらえる
・疥癬を診れる皮膚科の専門医師がいない
・施設外の他職種と交流がない
どから施設利用者の増大が指摘されていること、また、
療処置や施設内感染の予防策に絶大な労力を要し、感染
介護保険制度の導入により、施設においては要介護度が
力の大きい疥癬の診断できる皮膚科医師など、看護職と
高度なほど収入が得られるということと無縁ではなかろ
して、施設外の保健医療従事者、殊に後方病院の医師・
う。
看護職との連携が重要な課題になるのは至極当然といえ
4.充実・強化したい看護行為
るであろう。
A県特養看護職の約3割を占め、上位 10 位までの充
さらに、家族との連携についても、いずれの施設の看
実・強化したい看護行為は、「医療的処置」に位置づく
護職も様々な工夫はしているものの十分でない現状が示
看護行為はみられず、「記録・報告・連携」として5行為、
され、充実・強化の必要性が挙げられている。現状とし
「病状観察・心理的支援などの行為」として4行為、「療
て緊急時でさえも連絡が取れない現状に苦慮している状
養上の世話」として2行為挙げられた。これは、特養が
況が浮き彫りにされている。特養の入所者は何らかの理
医療施設とは異なる老人介護福祉施設であり、生活の場
由で家族介護が受けられない高齢者であり、「終の住処」
であるという特性と無縁ではなかろう。
ともいわれる特養への入所によって、家族の支援が得ら
【記録・報告・連携】に関して:これに含まれた看護
れにくい現状から、連携強化の方策を模索しているとい
行為が5行為と最も多かったのは、特養という福祉施設
える。高齢者が施設に入所してもなお家族の一員として
の特性から生じているといえる。即ち、介護職の絶対数
繋がりがあると認識できることは、人生の終末にあり、
が多く、常勤医がいない(嘱託医)施設であり、絶対数
自己を統合する上で極めて重要である。すなわち、家族
の少ない看護職は介護職との連携なしには機能しない施
とともに生活し、歴史を作ってきた高齢者にとって、こ
設であることによると考える。これは、現状とその取り
れまでの生き方は共に生活してきた家族だから共感しあ
組みとして記述されていた「介護職との連携に苦慮して
えるのであり、これらを振り返って確認しあえることは、
いる」からもいえよう。
自我を統合を推進する上で重要な役割を果たすからであ
また、施設外の保健医療従事者との連携が挙げられて
る。このようなことから家族との連携のあり方が充実・
いるのは、心身の機能低下が避けられず、脆弱で、些細
強化したい看護行為として重視されたと考える。
なことで健康障害を生ずる高齢者の診療体制が週に2回
【病状観察・心理的支援などの行為】について:これ
の回診程度で、かつ夜間対応できない嘱託医にあっては、
に含まれた4行為は、その記述内容から心身の機能が低
後方病院などとの連携が必須になる。殊に、高齢者の診
下している高齢者の看護・介護上、求められる知識・技
療として重要な歯科や痴呆の診療可能な医師の確保、治
術の不足から、その確実な修得の必要性として挙げられ
̶ 31 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
たと考える。また、これら4行為に共通した今後の取り
4.充実・強化したい看護行為として看護職の約3割が
組みには、介護職との連携の必要性も挙げられている。
挙げた上位 10 位は、「医療的処置」の看護行為が
これは、前述したように特養看護職として効果的に機能
みられず、「記録・報告・連携」の行為が5行為、「病
する上での課題と捉えられた結果と考える。
状観察・心理的支援などの行為」が4行為、「療養
【療養上の世話】について:これに含まれた看護行為
上の世話」が2行為みられた。これらはA県特養に
は2行為挙げられた。「理学・作業療法士以外によるリ
おける看護・介護の課題として、質的向上のために
ハビリテーション」は、特養が中間施設である老人保健
早急に取り組む必要のある看護行為と捉えられた。
施設ほどリハビリテーションが重視されないとはいえ、
個々の高齢者がもつ身体運動機能を維持し、廃用性症候
謝辞
群や寝たきりの予防上の重要性から充実・強化したい行
ご多忙の中、面接及び質問紙にご回答頂き、貴重な資
為として挙げられたと考える。看護・介護職による生活
料を提供下さいました特別養護老人ホームの看護職の皆
リハビリは、意識すれば日常生活動作・行動の援助時に
様に深く感謝致します。
組み込むことは十分可能であり、その工夫が求められよ
(本文は、日本老年看護学会第9回学術集会における
発表内容に加筆したものである。)
う。
「特異行動のケア」は、痴呆高齢者の周辺症状の捉え
方や援助方法への理解が乏しい現状の実態から強化・充
引用文献
実したい行為として挙げられたと考える。痴呆の周辺症
1) 小野幸子,坂田直美,早崎幸子,他:A県下2地区の特別
状の多くは、中核症状とは異なり、的確な看護・介護で
養護老人ホームに働く看護職の看護活動に関する意識,岐
十分軽減できることが明らかにされていることから、こ
阜県立看護大学紀要,2(1);83-89,2002.
れらの学習の強化が必要であろう。
2) 小野幸子,坂田直美,早崎幸子,他:A県下2地区の特別
以上のように、充実・強化したいいずれの看護行為も、
養護老人ホームの現状と看護職が認識している看護活動の
特養看護職が抱えている現状の課題と捉えられる。これ
課題,岐阜県立看護大学紀要,3(1);36-41,2003.
らの課題は、他施設との情報交換や学習機会の確保、ま
3) 小野幸子,原敦子,林幸子,他:A県下B地区の特別養
た、各施設が高齢者ケアの専門家との共同もしくはアド
護老人ホームの現状と看護職が認識している看護活動の課
バイスを得て研究的に取り組むことによって十分充実・
題,岐阜県立看護大学紀要,4(1);52-58,2004.
強化できると捉えられよう。
4) 厚生省大臣官房統計情報部:訪問看護統計調査,厚生統計
協会,1998.
Ⅳ.まとめ
A県全特養 66 施設の看護職を対象に実践した個別面
( 受稿日 平成 17 年2月 28 日)
接および質問紙により、充実・強化したい看護行為につ
いてたずねた。その結果、204 名の看護職から回答が
得られ、以下のことが明らかになった。
1.回答者である看護職の特徴は、病院での勤務経験が
ある中高年女性の看護スタッフであった。
2.特養の特徴は、1990 年代に設立された社会福祉法
人で、かつ、在宅支援サービスの機能をもつ 50 床
台の施設が多い傾向を示した。
3.入所者の特徴は、女性の後期高齢者で要介護度が4
∼5が多い傾向を示したが、痴呆度は施設により異
なっていた。
̶ 32 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔教育実践研究報告〕
訪問看護実習による学生の学びの内容
森
普 照
仁
実
佐 賀
純 子
早 苗
松 山
洋 子
藤 澤
ま こ と
What Students Have Learned through Practice of Home-visit Nursing ?
Hitomi Mori,
Junko Saga,
Makoto Fujisawa,
Sanae Fusho, and Yohko Matsuyama
Ⅰ.はじめに
事象から得られた学びを抽出することができると考えた
「在宅看護論」は、平成8年にカリキュラムに位置づ
からである。
けられ、平成9年より実施され、現在に至っている。本
学生に対して、研究の目的・意義を説明し、記録用紙
学では、「在宅看護論」に相当する内容を、地域基礎看
1を分析対象にすること、データの匿名性、成績への影
護学の概論・方法の中に組み込んで教授しており、訪問
響がないことを保障し、書面による意思表示を求めた。
看護分野の実習(以下 、 訪問看護実習と記す)は、公衆
結果、2名を除く 76 名から同意が得られた。
衛生看護分野・精神看護分野の実習とともに、地域基礎
2.訪問看護実習の概要
看護学実習の一分野として実施している。地域基礎看護
訪問看護実習の目的・目標は、表1に示した。実習は
学実習の目的は、生活の営みの中で人々の健康を支える
訪問看護ステーションにて4日間(場合により3日間)
ための看護活動を体験し、看護実践に必要な基礎的能力
で実施しており、訪問看護師との同行訪問と所長からの
を培うことであるが、訪問看護実習は、地域で疾病や障
オリエンテーション(ステーション管理・運営の実際)
害を持って暮らす人とその家族への個別援助に焦点を当
を内容としている。学生は同行訪問で、対象の状況や訪
てた看護活動を体験する機会となる。
問看護師の実施する看護を観察しながら、可能な範囲で
本実習も今年度で3年目が終わり、学生記録やカン
ケアに参加する。同行訪問する事例は6から 15 例程度
ファレンスの内容から、実習目的・目標は概ね達成され
で、その内1例については、ほとんどの学生が2回訪問
たと評価しているが、学生の学びの詳細な内容は明確に
を体験する。
していない。そこで、訪問看護実習における学生の学び
3.データ収集方法
を整理して、その内容を明らかにしたいと考えた。
訪問看護師との同行訪問で体験したことから、看護に
ついて学生が感じたり考えたりしたことを「学び」とし
Ⅱ.研究方法
た。データは、学びの元になった体験が把握でき、その
1.分析対象
体験と学びの関連性について客観的に理解可能であるこ
訪問看護師と同行訪問した体験から、「行われた看護
とを条件とした。学びは、元になった体験とともに抽出
について考えたこと」を記述する、記録用紙1(毎日
し、学びの内容が複数あるものは分割して、内容が一つ
の記録・A4版 1 枚)を分析対象とした。その理由は、
になるようにした。
本記録では、学生が感じ・考えたことの元になった体験
4.分析方法
を明記するよう求めており、訪問看護師の具体的な活動
抽出したデータをもとに、できるだけ学生の記述を生
岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
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岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表1.訪問看護実習の目的・目標
目的
1.健康上の問題を持って家庭で生活する人とその家族の生活のありようを理解し、その人らしい生活を尊重した訪問看護の
機能と役割の実際を学ぶ。
2.看護職が自立して経営できる事業所としての訪問看護ステーションの特徴を理解する。
目標
1.本人とその家族を生活者としてとらえることができる。
2.対象の抱える健康問題をアセスメントし、解決するための援助方法を考えることができる。
3.在宅療養者の生活を支援するために社会資源を活用することの必要性が理解できる。
4.保健医療福祉のチームの一員として他職種と連携して機能することの重要性が理解できる。
5.医療保険法・介護保険法などによるサービス提供方法の違いが理解できる。
6.在宅療養者の健康的な生活を保障するために、看護専門職としてどのような責任を負うべきかを考えることができる。
7.私生活の場に第三者が介入することの意味を考え、利用者に配慮した行動がとれる。
かして意味を変えないように要約を行い、その意味内容
と捉える意味や、<家族の健康保持への支援>の必要性
の類似性に従って分類・整理した。分類に当たっては、
に気づいていた。
研究者間で合意が得られるまで検討を加えた。
<家族介護の継続支援>とは、家族による主体的な介
護の継続を意図した働きかけのことである。「介護のや
Ⅲ.結果
り方を認める」ことにより介護意欲を支える、「実施し
学生の学びは、12 分類、45 細目に整理できた(表2
たケアの意味」や「物品の必要性」を説明して、介護の
参照)。以下に、学びの内容を説明する。なお、「 」内
主体である家族の納得を得て援助を進める、「本人の状
はデータを、< >内は細目を、【 】内は分類を表す。
態理解」「介護に必要な情報」など、介護に必要な知識
1.【個別性を重視した援助の方法】
や技術を提供する働きかけについて学んでいた。
本分類の個別性の中味には、身体的な側面と生活的な
<介護負担を軽減する援助>では、
「介護者を労う」
「介
側面の両者が含まれていた。身体面の内容として、<身
護環境を整える」「介護から開放される時間をつくる」
体状況に応じた援助>があり、
「病状」「身体障害の程度」
など、多様な働きかけの方法を学んでいた。<家族とと
「訪問時の体調」「本人が楽な体位」に応じて、援助の方
法を工夫する必要性を学んでいた。
もにケアする意義>として、「本人の現状について共通
認識がもてる」「家族の介護方法が確認できる」「具体的
生活面では、<習慣の尊重>があり、
「家事の方法」「爪
に指導できる」がみられ、ケアに家族の参加を得ること
の長さ」「行きつけの店」など本人の日常的な習慣を把
で、きめ細かな援助ができると感じていた。<家族成員
握して、それが保持できるようかかわる意味に気づいて
間の関係性への働きかけ>は、「本人の気持ちを代弁し
いた。また、<こだわり・好みの尊重>として、本人が
て介護者に伝える」、お任せの本人と世話好きの介護者
「好む湯温」「決めている物品の位置」を理解し、それに
の事例から、「両者の関係性を踏まえた声かけ」につい
従って援助する大切さを学んでいた。他に、元保健師と
て学んでいた。
いう職歴のある対象者の自尊感情に配慮した指導の場面
3.【情報収集の方法】
から、<生活歴の考慮>が必要と感じていた。さらに、
<会話を通して行う情報収集><ケアを通して行う情
<個々の家庭に合わせる>では、「家族の介護に対する
報収集>の二つの方法を学んでいた。<会話を通して行
考え」「その家の介護の仕方」に合わせて援助する必要
う情報収集>では、
「話しを傾聴して思いを汲み取る」
「具
性を学んでいた。これらの学びは、本人および家族がそ
体的な問いかけをする」必要性を学んでいた。
の人らしく生活し続けることを支える援助であった。
<本人以外からの情報収集>では、「家族」「手帳など
2.【家族支援に関すること】
記録物」
「援助関係者」から情報を得る意義を学んでいた。
学生は、家族に面接し、実際の介護状況を見聞きした
<情報収集すべき項目>として、「自覚症状」「医師の説
ことで、<家族への支援の必要性>を実感していた。さ
明に対する受け止め」、<情報収集に必要な態度・心構
らに、利用者本人だけでなく<家族全体が援助の対象>
え>として、「自分の目で確認する」「本人の心身状態を
̶ 34 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
念頭に置く」「機会を有効活用する」がみられた。
が含まれていた。
4.【アセスメントに関すること】
<意欲を高める働きかけ>には、「小さな変化を捉え
本分類の学びは 、 看護過程に即して内容を整理するこ
とができた。<アセスメントに必要な観察>として、
「継
続的な観察」「病状に応じた観察」「生活環境の観察」が
みられた。
て認める」「本人が問題点に気づけるよう促す」など意
欲を引き出す働きかけと、「本人のやる気を大切にする」
「家族の協力が得られるようにする」など、本人の意欲
が保持できるよう支える働きかけが含まれていた。
<分析・解釈の段階で考慮すべきこと>として 、「経
<現状や目標の共有>では、「療養に対する思いを受
過を踏まえた判断」「生活状況を加味した判断」という、
け止める」、本人と「問題点を共有する」「共に計画する」
時間の経過や生活と関連させて現状を分析する必要性、
など、本人の主体性を重視した援助について学んでいた。
「本人・家族の意向を考慮する」という、本人と家族の
<実施可能な方法の提示>では、
「無理のない方法」
「生
意向が異なる場合に、各々の立場や状況を考慮して援助
活の仕方に対する具体的な説明」という、実施方法を提
の方向性を判断する重要性を感じていた。他に 、「薬物
示する際のポイントを、<根拠のある説明>では、「ケ
の影響の検討」や症状発現の背景にある「原因の追求」
アが必要な理由」や「特定の食品を避けるべき理由」を
の必要性についても学んでいた。
きちんと示す必要性について学んでいた。
<計画立案の段階で考慮すべきこと>として、「優先
7.【援助関係者との連携に関すること】
順位の判断」が求められること、「訴えに対応した計画」
を立案する必要性について学んでいた。
<援助関係者が連携する意義>として、
「安心してサー
ビスが利用できる」「手厚いケアが受けられる」がみら
<ケアをしながら行うアセスメント>として、ケアを
れ、援助関係者間で利用者の状況や思いを共有すること
実施しながら身体状況を観察して、ケアを評価したり再
で、質の良いケアが提供できると感じていた。反面、複
アセスメントすることを学んでいた。
数の援助関係者が関わることで対象が戸惑う可能性があ
5.【看護ケア実施上の工夫・配慮】
ると考え、<ケアの一貫性を確保する必要性>に気づい
<経済的負担への配慮>には、「物品の使用量を最小
ていた。
限にする」「安いものを使う」「再利用する」がみられ、
看護ケアに伴う支出が全て利用者の自己負担となる在宅
介護の特徴が反映された学びであった。
<援助関係者への対応>として、「信頼関係をつくる」
「対象の援助ニーズを理解してもらう」がみられ、看護
職から援助関係者に働きかける必要性を学んでいた。
<ケアに伴う負担への配慮><精神面のリフレッシュ
を図る工夫>では、「本人の身体的負担を最小限にする」
<連絡ノートの意義>では、訪問した援助関係者の記
録や、受診医療機関の記録を見ることで、「訪問してい
「羞恥心への配慮」「ケアを通して気分転換を図る」な
ない時」「他サービス利用時」の情報が把握できること、
ど、施設内看護に共通する内容が多かった。しかし、
「話
病状に応じたケアを行うための留意点を記すことで、
「ケ
し相手になる」「準備・後片付けの負担を最小限にする」
アの統一を図る」手段になると学んでいた。
のように、在宅でより重視される内容も含まれていた。
8.【信頼関係形成に関すること】
<生活の一部として実施する工夫>は、ペットボトル
<対象の意向・気持ちの理解と尊重>は、本人に確認
の膿盆、割り箸のスワブなど「家庭にある物の利用」や、
する、反応を見る、思いを察するなど、本人からの表明
足を上げてズボンをはく指導など「生活行為の中にリハ
がない場合も含めて、「本人の意向や気持ちを捉える」、
ビリを組み込む」方法を学んでいた。
援助者の既成観念にとらわれないで、「対象の気持ちを
6.【セルフケアを支援する方法】
ありのままに受け止める」、多少の危険はあるが独居生
<残存機能の重視・活用>には、「残存機能の見極め」
活を続けたいという「本人の希望を重視する」など、対
により 、「本人ができることは行うよう促す」「本人が
象の意向や気持ちを重視した援助についての学びであっ
できることは見守る」という姿勢で臨むべきこと、本人
た。
が自力で行えるよう「実施しやすい条件を整える」こと
̶ 35 ̶
<ニーズに対する的確な対応>では、「本人の身体状
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
況」「家族の困りごと」を捉えて、対象のニーズに的確
「安心感がもてる」がみられ、看護職が家庭に出向くこ
に対応することが、<責任ある援助の履行>では、「継
とで、医療ニーズの高い在宅療養者が安心して暮らせる
続して根気強くかかわる」
「自分の発言に責任を持つ」
「実
と実感していた。<家庭で暮らす良さ>として、
「リラッ
施した援助に責任を持つ」という、専門職としての責任
クスできる」「その人らしく暮らせる」「本人が大切なこ
性を全うすることが、信頼関係形成につながるとしてい
とを中心に援助できる」が確認され、家庭で看護する意
た。
義を感じていた。
<人間的な接触>とは、「対象に関心を寄せる」「意識
11.【対象特性の理解】
レベルの低い人にも声をかける」など、看護職の方から
これは、学生が実際に対象に出会い、看護の視点で観
積極的に対象者との関係をつくろうとする態度のこと
察することによって得た、対象特性についての学びであ
で、<教養を身につける意味>とは、「豊かな教養が関
る。学生は、シャワー浴直後の本人に疲れの色を感じ、
係形成の助けになる」という、専門以外の様々な知識が
やはり「寝たきり者の予備力は少ない」と実感していた。
対象との関係形成の助けになると感じたものであった。
また、前回とは全く動きの違うパーキンソン病患者を目
9.【起こり得ることを予測した対応】
の当たりにして、「パーキンソン病患者における服薬の
<事故やトラブルの予測>では、
「皮膚のトラブル」
「医
療物品の不足や破損」「緊急事態」の発生を予測して 、
重要性」への認識を深めていた。
12.【特定の看護ケアの意義】 あらかじめ予防的な対応をとること、「褥瘡発見時の迅
これは、訪問時に実施した看護ケアの効果から、行わ
速な対応」のように、悪化予防を意図して、早期から積
れた看護ケアの意義を実感したものである。学生は、入
極的に対応する内容がみられた。「医療物品の不足や破
浴介助を手伝い、実施後の浴槽に多量の垢が付着してい
損」「緊急事態」に備えての対策は、在宅ケアに特有の
たことから、「入浴の必要性」を強く感じていた。
療養条件を背景とした学びであった。
<ケアに伴う危険の予測>とは、「移動介助」に伴う
Ⅳ.考察
転倒や建具との接触による外傷の危険、「入浴介助」に
整理した学びの内容と訪問看護実習の目的・目標との
伴う循環機能への影響や転倒の危険、医療処置や体位変
関連を検討することにより、学生の得ている学びの内容
換によって「発生し得る自覚症状」を考慮して、実施方
を明らかにする。(表2参照)
法を工夫していることへの気づきであった。
1.訪問看護実習の目的・目標に関連するもの
まず、目標1・2に関連する学びは、【個別性を重視
<感染予防>には、「カテーテルの清潔操作」「ケア実
施前の手洗い」という看護職自身が注意すべきことと、
した援助の方法】【家族支援に関すること】【情報収集の
「家族や援助関係者への教育」という家族や援助関係者
方法】【アセスメントに関すること】【看護ケア実施上の
が清潔操作を実施できるよう教育的に関わることへの学
工夫・配慮】【セルフケアを支援する方法】に含まれて
びがみられた。
いると考える。
10.【訪問看護の特徴・意義】
【個別性を重視した援助の方法】の<習慣の尊重><こ
<訪問看護サービスの特徴>として、「単独でサービ
だわり・好みの尊重><生活歴の考慮><個々の家庭に
スを提供する」「断続的なサービスである」ことから、
合わせる>は、その人・その家庭らしさの基盤となる価
的確な判断が要求されること、ひとりで実施できるよう
値観や生活信条を尊重した援助についての学びであっ
作業の手順や方法を工夫する必要性を感じていた。また、
た。この学びは、対象を生活者として捉えた対応の基本
介護保険利用者の事例から、「限られた時間内で看護を
であり、目標1に含まれると考える。【家族支援に関す
提供する」特徴に気づき、制度の枠組みが看護や利用者
ること】の<家族への支援の必要性><家族全体が援助
に影響すると感じていた。
の対象><家族の健康保持への支援>は、本人と家族を
<看護職が家庭に出向く意義>として、「異常の早期
一つの単位として捉える必要性についての学びであっ
発見ができる」「医療依存度が高くても在宅生活できる」
た。これは、本人と家族を生活者としてとらえる(目標1)
̶ 36 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
ための基盤となる対象の見方であると考える。また、<家
象の健康問題を解決する援助を考える際の基本となる考
族介護の継続支援><介護負担を軽減する援助><家族
え方で、目標2に関連する学びであると考える。
成員間の関係性への働きかけ><家族とともにケアする
【情報収集の方法】の<会話を通して行う情報収集>
意義>は、家族の介護への主体的な取組みを促し、家族
<本人以外からの情報収集><ケアを通して行う情報
機能を高める援助についての学びであった。これは、対
収集>は、情報収集の手段についての学びであった。ま
表2.
「学び」の内容
分類
1.個別性を重視した援助の方法
2.家族支援に関すること
3.情報収集の方法
4.アセスメントに関すること
5.看護ケア実施上の工夫・配慮
6.セルフケアを支援する方法
7.援助関係者との連携に関すること
8.信頼関係形成に関すること
9.起こり得ることを予測した対応
10.訪問看護の特徴・意義
細目
身体状況に応じた援助
習慣の尊重
こだわり・好みの尊重
生活歴の考慮
個々の家庭に合わせる
家族への支援の必要性
家族全体が援助の対象
家族の健康保持への支援
家族介護の継続支援
介護負担を軽減する援助
家族とともにケアする意義
家族成員間の関係性への働きかけ
会話を通して行う情報収集
ケアを通して行う情報収集
本人以外からの情報収集
情報収集すべき項目
情報収集に必要な態度・心構え
アセスメントに必要な観察
分析・解釈の段階で考慮すべきこと
計画立案の段階で考慮すべきこと
ケアをしながら行うアセスメント
経済的負担への配慮
ケアに伴う負担への配慮
精神面のリフレッシュを図る工夫
生活の一部として実施する工夫
残存機能の重視・活用
意欲を高める働きかけ
現状や目標の共有
実施可能な方法の提示
根拠のある説明
援助関係者が連携する意義
ケアの一貫性を確保する必要性
援助関係者への対応
連絡ノートの意義
対象の意向・気持ちの理解と尊重
ニーズに対する的確な対応
責任ある援助の履行
人間的な接触
教養を身につける意味
事故やトラブルの予測
ケアに伴う危険の予測
感染予防
訪問看護サービスの特徴
看護職が家庭に出向く意義
家庭で暮らす良さ
11.対象特性の理解
関連する実習目標
目標2
目標1
目標1
目標 2
目標 2
目標 4
目標7
目標 6
目標 7
目標6
なし
12.特定の看護ケアの意義
̶ 37 ̶
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た、【アセスメントに関すること】【情報収集の方法】の
気持ちの理解と尊重><人間的な接触><教養を身につ
<情報収集すべき項目><情報収集に必要な態度・心構
ける意味>では、対象の意向や希望に沿う必要性や、看
え>は、的確なアセスメントを導くための情報収集、情
護職の方から積極的に対象と関係をつくっていく姿勢を
報の分析・解釈、ニーズに即した計画立案の方法につい
学んでいた。在宅で看護を展開するためには、第三者で
ての学びであった。これらは、目標2の対象の抱える健
ある看護職が、対象の私生活の場に受け入れてもらうこ
康問題をアセスメントする方法に関する学びであると考
とが前提であり、これらの学びは、第三者として援助介
える。【看護ケア実施上の工夫・配慮】では、在宅であ
入していく際の基本となる態度や姿勢であり、目標7に
るから特に重視されるべき工夫や配慮と、看護一般に共
つながる学びであると考える。
通して求められることを学んでいた。【セルフケアを支
2.訪問看護実習の目的・目標に関連しないもの
援する方法】では、療養者本人のセルフケアを高める援
【訪問看護の特徴・意義】【対象特性の理解】【特定の
助の方法を、【個別性を重視した援助の方法】の<身体
看護ケアの意義】は、目的・目標の内容には該当しない
状況に応じた援助>では、身体状況に応じた個別的な援
学びであると考える。【訪問看護の特徴・意義】の<看
助の工夫を学んでいた。これらは、目標2の対象の健康
護職が家庭に出向く意義><家庭で暮らす良さ>では、
問題を解決する具体的な援助方法に関する学びであると
看護職が家庭に出向くことで医療依存度の高い人が安心
考える。
して在宅療養できること、対象のホームグラウンドであ
次に、目標4・6に関連する学びであるが、この内容
る家庭で看護を受領する意義を学んでいた。これらは、
は、【援助関係者との連携に関すること】【信頼関係形成
家庭で看護する意義や価値についての学びであると考え
に関すること】【起こり得ることを予測した対応】に含
る。また、<訪問看護サービスの特徴>では、限られた
まれると考える。
時間内に単独でサービス提供する特徴があることから、
【援助関係者との連携に関すること】の<援助関係者
的確な判断や技術が要求されること、制度によって看護
が連携する意義><ケアの一貫性を確保する必要性>で
が影響を受けることを学んでいた。つまり、訪問という
は、他職種との連携によって質の良いケアが提供できる
活動形態や根拠となる制度が、サービス提供に影響する
こと、反面、複数の援助関係者が関わることで対象が戸
ことを学んでいたと考える。
惑う可能性があると感じ、ケアの一貫性を確保するため
【対象特性の理解】【特定の看護ケアの意義】には、訪
の工夫が必要であることに気づいていた。また、<援助
問看護実習に特徴的な内容は含まれていなかった。この
関係者への対応>では、チームとして有効に機能するに
学びは、学生が実際に病者や障害者に出会ってその療養
は、看護の立場から援助関係者に働きかけていく必要が
生活に触れたこと、看護ケアの効果を目の当たりにした
あること、連携の手段としての<連絡ノートの意義>を
ことから、対象の特性や特定の看護ケアの必要性を再確
学んでいた。これらは、他職種と連携して機能する意義
認したものであると考える。
や方法に関する学びで、目標4に関連すると考える。
3.訪問看護師との同行訪問から得ていた学びの内容
【信頼関係形成に関すること】の<ニーズに対する的
学生が得ていた学びは、訪問看護実習の目的1、目標
確な対応><責任ある援助の履行>では、本人の身体的
1・2・4・6・7に関連するもの、在宅看護の意義お
なニーズや家族の困りごとに的確に応えること、専門職
よび価値、訪問という活動形態や制度がサービス提供に
としての責任を全うする姿勢を学んでいた。また、【起
与える影響への理解を含むものであると考えられた。目
こり得ることを予測した対応】では、事故やケアに伴う
標と関連する学びの内容は、以下のように整理できた。
危険・感染に対して、予防的に対応することを学んでい
目標1では、家族を単位として捉え、生活の基盤とな
た。これらは、在宅療養者の健康的な生活を保障するた
る価値観や生活信条を尊重すること、目標2では、家族
めに、看護職が担うべき責任に関する学びであり、目標
のセルフケア機能を高めることを基本とし、健康問題を
6にあたるものと考える。
アセスメントする方法や問題解決のための具体的方法、
他に、【信頼関係形成に関すること】の<対象の意向・
目標4では、他職種との連携によりケアの質向上が期待
̶ 38 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
できるが、有効に機能するには、ケアの一貫性を確保
し、看護の立場から働きかける必要があること、目標6
では、ニーズへの的確な対応、予防的な対応に加え、専
門職としての責任性を全うする姿勢の必要性、目標7で
は、対象の意向や希望に沿い、積極的に対象と関係をつ
くる姿勢についての学びが確認された。本研究で抽出し
た学びは、実習記録をもとに学生の学びを分析した他の
報告 1,2) と類似していたが、より具体的な視点や方法
に関する内容が認められた。この違いは、本研究では学
びの元になった具体的事象が確認できるものを抽出した
ことによると思われるが、訪問看護師に同行することで、
幅広い学びが得られることが確認できた。
Ⅴ.おわりに
本研究では、訪問看護実習の中心的プログラムである
訪問看護師との同行訪問から得られた学びの内容を明ら
かにした。最終日の学内まとめでは、2回訪問事例の対
象理解を深めるグループワークや事業所経営の側面から
訪問看護ステーションのあり方を検討する機会を設けて
いるが、今回は、これらの方法による学びは明らかにし
ていない。今後は、本研究の成果を踏まえて実習目的・
目標の明確化を図るとともに、他のプログラムによる学
びの内容についても明らかにしてゆきたい。
参考文献
1) 樋口キエ子,臺有桂,若佐柳子:在宅看護実習における学
び−訪問看護実習まとめの記録分析から−,順天堂医療短
期大学紀要,14;85-93,2003.
2) 服部素子,能川ケイ,西浦郁絵,他:訪問看護ステーショ
ン実習における学習効果−新カリキュラムでの実習目標の
到達状況−,神戸市看護大学短期大学部紀要,23;47-54,
2004.
3) 柳原清子:在宅看護論実習での核となる学習内容−訪問
看護ステーションは何を学ぶ場なのか,訪問看護と介護,
6(8);635-645,2001.
(受稿日 平成 17 年3月4日)
̶ 39 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔教育実践研究報告〕
精神看護場面のロールプレイング演習にビデオの振り返りを取り入れた学び
高 橋
香 織
片 岡
三 佳
池 邉
敏 子
Learning from the Experience with the Roleplaying
in Psychiatric and Mental Health Nursing Practice
Kaori Takahashi, Mika Kataoka, and Toshiko Ikebe
Ⅰ.はじめに
研究が行われている。しかし、ビデオ撮影を用いたロー
精神看護学実習において学生は、患者からの拒否や攻
ルプレイング演習においては、看護学生の発話時間・
撃、依存など様々な体験を通して対人関係技術を学んで
発話内容と学生の不安度に関する研究 4) は見られたが、
いく。しかしながら、学生の中には、精神科病棟での実
学生自身が自分の演じた看護師役をビデオで見て振り
習を行うことや対人関係についての不安を抱いているこ
返り、そこからの学びを明らかにした研究は検索できな
とが少なくない。谷口
1)
は「実習にきた学生がはじめ
かった。そこで、本研究では、ロールプレイング演習で、
に遭遇する学生の戸惑いは、患者との関係づくりの初期
各自が看護師役を演じたビデオを見ての学びを明らかに
の段階ですでに生じている」と述べており、精神看護学
したので報告する。
実習においては、学生が実習初期の段階で、患者と関係
を築くことができることが重要になる。本学の 3 年次
Ⅱ.方法
精神看護学実習は、準備・臨地実習・学内のまとめの三
1.対象
段階で構成されている。そこで、実習前の準備として位
本学 3 年次精神看護学実習前に、ロールプレイング
置づけられている学内演習で、筆者が過去の実習体験の
演習に参加した学生で、研究の同意が得られた 78 名の
中で、学生が出会った時に戸惑いやすい場面を設定した
レポート内容を分析対象とした。
ロールプレイング演習を取り入れた。
2.調査方法
ロ ー ル プ レ イ ン グ 演 習 終 了 後 に、「1. 患 者・ 看 護
ロールプレイング演習では、各学生が、患者役・看護
師役・観察者役を体験するとともに、今回は、看護師役
師の役割を体験してみて、 感じたこと、 考えたこと、
を演じた一場面を看護師と患者の二人が写るようにビデ
2.自分の行動をビデオでみて、感じたこと、考えたこと、
オカメラで撮影し、各自が自分の看護師役を行ったビデ
3.今回の場面で、看護師としての患者との関わり方や
オを見て意見・感想を述べた。自分の言動を見る機会が
対処方法で感じたこと、考えたこと」の項目で、レポー
少ない学生が、ビデオなどで自分の行動を客観的に見る
ト提出を求めた。その中で、今回は、「2.自分の行動
ことは、自分の行動を振り返り、対象との関係作りを発
をビデオでみて、感じたこと、考えたこと」を分析した。
展させることに繋がると考えた。
3.分析方法
分析方法は、質的記述的分析方法を用いた。
これまでにも、ロールプレイング演習の学習効果は、
レポートの内容を繰り返し読み、記述されている内容・
コミュニケーション技術の学習に関する検討−ロールプ
レイング法を導入した学習成果の分析−
2)
や、対人関
係技術に関するロールプレイ演習とその評価 3) などの
語彙の意味を変えないように要約し、1 データとした。
1 データに要約された内容のうち類似するものをまとめ
岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
̶ 41 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
てサブカテゴリーとし、さらにカテゴリーへと抽象化し
たのも気になる」という、自分の歩行時の足音に気づい
ていった。
た内容が含まれる。
これらのカテゴリー化にあたっては、共同研究者 3
≪会話としての流れやまとまりに気づく≫には、「患
名で合意が得られるまで検討を加えた。
者さんが返事をする間もないぐらい一方的に話してい
4.倫理的配慮
て、話している間は、そのことにも気づいていなかった」
ロールプレイング演習レポート提出後、書面と口頭で
「改めて、会話が一方的で、会話に連続性や、関連性がまっ
目的ならびに、評価と無関係であることを説明し、研究
たくないと思った」という一方的な会話や、会話に関連
への参加と同意を求めた。
性がなかったという内容が含まれる。また、「話し方は
自分なりにゆっくりとしたつもりだったが、会話の間が
Ⅲ.ロールプレイング演習の実際 ほとんどなかったので、急いで話しているように感じた」
教員がロールプレイング演習の説明後、実習初日の患
という会話に間がなかったことを振り返っている。
者との出会いの場面を紙面にて提示した(表 1)。各グ
≪相手に影響を与える姿勢・距離・視線に気づく≫に
ループに分かれ(13 ∼ 14 名の学生が、2 ∼ 3 つのグルー
は、「返事が聞きたいという気持ちのせいか、すこし前
プを編成し、1 グループは、4 ∼ 7 名で構成されている)、
に乗り出していた」という姿勢について気づいた内容が
患者役・看護師役・観察者役・撮影者を順に行い、演者
含まれる。また、「自分でも気づかないうちに、聞きた
と観察者らとで意見交換を行った。
いという思いで相手にすごく接近していて、脅威感を与
撮影終了後、自分の看護師役のビデオを見る時間を設
えていたのではないかと思う」という患者との物理的な
定した。各自が自分のビデオを見た後、各グループで意
距離が近いことへの気づきが含まれる。さらに、「自分
見・感想を述べた。そして、対処方法について全員(13
では意識していなかったが、患者役を凝視していて、非
∼ 14 名)で検討した。
常に圧迫感があり怖かった」という自分の視線の向け方
に気づいた内容が含まれる。
Ⅳ.結果
≪緊張・困惑・焦りなどは伝わる≫には、
「表情は、笑っ
データを分析した結果、記述内容から 14 のサブカテ
ゴリーと 5 つのカテゴリーが抽出された(表 2)。
ているつもりでも目が笑っていなく、緊張していること
が前面に出ているように感じた」「話しかけても返事が
なお、「 」内はデータを、《 》内はサブカテゴリー
を、【 】内はカテゴリーを表す。
表 1 場面設定
ロールプレイング演習 場面設定
1.カテゴリー 1【自分の言動への気づき】
【自分の言動への気づき】は、5 つのサブカテゴリー
から構成されている。サブカテゴリーには、≪口調に気
づく≫≪足音が大きいことに気づく≫≪会話としての流
れやまとまりに気づく≫≪相手に影響を与える姿勢・距
離・視線に気づく≫≪緊張・困惑・焦りなどは伝わる≫
が含まれる。
≪口調に気づく≫には、「自分ではゆっくり話をして
いたつもりだったけれど、思っていたよりも早くて言葉
をはっきり喋っていなかったせいか、聞き取りにくい部
分があった」といった、話し方の速度に気づいた内容や、
「話し方がきついようにも感じた」といった口調の強弱
に気づいている。
≪足音が大きいことに気づく≫には、
「足音が大きかっ
日時:実習初日、11 時半ごろ 天気:( )
あなたは、患者 A さんを受け持つことに決まりました。指導者さん
から、A さんへは、「約2週間、看護大学の学生さんが、A さんを受け
持ちます。よろしくお願いします」とあなたのことを紹介しています。
あなたは、指導者さんから、以下のように受け持ち患者さんの紹介を
受けました。
<患者紹介>
A さん、21 才、統合失調症。初回入院。
おとなしい性格で、人との付き合いが苦手でした。短大卒業後、一
度銀行に就職しましたが、人間関係が上手くいかず、「B さんが私のこ
とをいつも監視している」「意地悪をされる」と訴え、次第に仕事にも
行かず、部屋に閉じこもるようになりました。それを、心配した家族
が A さんを連れて受診し、医療保護入院となり、2 ヶ月が経過してい
ます。
いつも部屋の椅子に座り、下を向いて過ごしています。自分から話
をすることはほとんどなく、看護師の声掛けにも、看護師と視線を合
わせることはなく、今にも消えそうな声で、「…はい…」「…いいえ…」
といった単語での返事が返ってきます。
さあ、あなたは、11 時半頃、部屋の椅子に、背中をまるめてうつむ
いて座っている A さんのところへ初めて訪問するという設定で場面を
展開してください。
この部屋にある、あらゆるものは、使用しても構いません。
̶ 42 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
何度か言ってしまったが、思っていたよりも
表 2 ビデオを見ての学び
カテゴリー
サブカテゴリー
自分の言動への気づき
口調に気づく
足音が大きいことに気づく
会話としての流れやまとまりに気づ
く
相手に影響を与える姿勢・距離・視
線に気づく
緊張・困惑・焦りなどは伝わる
自分が気づかない自分の 自分が思っている印象とは異なる
受け入れ
自分を肯定的に捉える
相手の反応への気づき
相手の反応に改めて気づく
相手を尊重する関わりの 安心感を伝える
模索
相手のペースに合わせる
相手を尊重する
気にならなかった」「緊張していると言葉に
つまってしまったことが気になっていたけれ
ど、自分の声は、意外にはっきりしているの
ではないかと思い、自分が気になっているほ
ど聞き取りにくいものではなかった」「看護
師役をやっているときには、はっきり話すこ
とができていないと感じていたが、ビデオで
は、はっきりと言葉を発することができてい
た」といった内容が含まれる。
3.カテゴリー 3【相手の反応への気づき】
【相手の反応への気づき】は、1 つのサブ
ないので困っているという感じが伝わってきた」という
カテゴリーから構成されている。サブカテゴリーには、
画面から緊張感が伝わってきたという内容や、「緊張し
≪相手の反応に改めて気づく≫が含まれる。
ていて、どうしょうと困っているのが、すごくわかって、
≪相手の反応に改めて気づく≫には、「自分が患者さ
そんな時、顔を横に向けて苦笑いをよくしていて、それ
んの顔をのぞきこみ、それに対して患者さんが顔をそむ
は、患者さんの取り方によっては、そっぽに顔を向けて
けている場面があった。話している間は、患者さんが顔
笑うことが不快だったりするかもしれない」「緊張して
をそむけていることにも気づいていなくて、知らないう
か言葉に詰まったり、視線が外に向いたりしていて、自
ちに患者さんにいやな思いをさせてしまっていたのだと
分の癖が見えた」という緊張したときに出る自分の行動
思った」「相手が視線を動かしていた時があったという
を知ったという内容が含まれる。
のを、ビデオを見て気がついた」といった、ビデオを改
2.カテゴリー 2【自分が気づかない自分の受け入れ】
めて見て、関わりの中で、相手にも注意が向き、相手に
【自分が気づかない自分の受け入れ】は、2 つのサブ
も反応があったことに気づいた内容が含まれる。
カテゴリーから構成されている。サブカテゴリーには、
4.カテゴリー 4【相手を尊重する関わりの模索】
≪自分が思っている印象とは異なる≫≪自分を肯定的に
捉える≫が含まれる。
【相手を尊重する関わりの模索】は、3 つのサブカテ
ゴリーから構成されている。サブカテゴリーには、≪安
≪自分が思っている印象とは異なる≫には、「自分を
自分でみるということは、普段ないので自分の悪いとこ
心感を伝える≫≪相手のペースに合わせる≫≪相手を尊
重する≫が含まれる。
ろばっかりだったけれど、これも自分ということで知れ
≪安心感を伝える≫には、「笑ってしまうのではなく、
てよかったと思う」「周囲の人はビデオに映っている自
相手にとって心地のいい微笑ができるといいと思った」
分を見ているのだと思うと、自分が思っている印象と他
という笑顔で接していくことや、「座る位置、座り方、
人が感じる印象は違うと感じた」といった、自分を客観
距離、目線の高さなど、もっと相手に合わせて、相手の
的に見ることで、自分の想像とは異なっていることを学
様子を感じ取れるような、位置を考えていけるといいと
んでいる。また、「今までに思い描いていた自分と、ビ
思った」といった相手が安心できる位置や距離を考えて
デオに写っている自分が違っていて驚いた」「ビデオで
いく必要があることを学んだ内容が含まれる。また、
「自
自分の表情や話し方を見て、自分の頭の中の自分のしぐ
分が何者かをしっかり話すことができなかったので、
さとギャップがあって違和感があった」といった、驚き
しっかりと自分が何者かを話すことが大切だと感じた」
と違和感を感じながらも自分の中に受け入れようとして
という、危害を加える存在ではないことを示すために、
いる内容も含まれる。
自己紹介をすることの大切さや、「初回訪問だったので、
≪自分を肯定的に捉える≫には、「緊張で、同じ言葉を
プライベートに踏み込んだ会話ではなく、今日の天気の
̶ 43 ̶
岐阜県立看護大学紀要
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ことなどのようにあたり触りのない内容の会話ができて
対応することができず、困っている様子が伝わってきた
いた点はよかったと感じた」という、相手を脅かさない
ので、常に自分の行った行動で相手がどう感じるかを考
ように、当り障りのない会話から始めるという内容が含
えながら行動していかなければならないと思った」とい
まれる。そして、「ゆっくりと、今日話をしてくれたこ
う相手がどう感じるかを考えて接していく必要があるこ
とに対するお礼も伝えていったほうがよかったのではな
とを学んでいる。
いかと思いました」といった感謝の気持ちを伝えていく
≪相手の反応を観察する≫には、「視線が患者さんの
関わりを模索している内容も含まれる。さらに、「話の
様子を見るだけでなく、いろいろなところにいってし
目的が何かわからなかったので、もう少し的をしぼって、
まっていて、もっと患者さんの様子や表情も見て、何か
目的を持って話すようにした方がいいと思った」「訪問
気づくところがあったらよかったのではないかと思う」
する前に自分が何を聞きたいのか、何をしたいのか目的
「(私は患者との距離が近くて、相手がそれに対して少
をはっきりさせて、自分の中で整理していくことが必要
しずつ背を向けていくというサインを出していたのに気
であると感じた」という、目的を持って接することの必
づかず、さらに近づいてしまっていた。)患者は言葉で
要性を実感したことや、「感情や癖をすぐに表現して相
はなく、そういった小さなサインで自分の気持ちを表現
手に不安などを与えないようにすることが大切だと思っ
するということは実際には多いと思うので、見逃さない
た」といった、自分の感情をコントロールして接してい
ようにもっと視野を広げて見ていかなければならないと
くという内容が含まれる。
思った」「もう少し、相手のわずかしかない反応を汲み
≪相手のペースに合わせる≫には、「患者さんの返事
取っていくことをしなければならないと思った」という、
を待たずに聞き返していたので、もっと患者さんのペー
患者の細かい反応も観察していく必要があるという内容
スに合わせて、患者さんが話しやすい雰囲気を作ってい
を含んでいる。
くことが必要だと思った」「患者さんへの負担も考えて
≪関心を態度で示す≫には、「看護師側は患者のこと
早めに切り上げることも必要ではないかと思った」とい
が知りたいという気持ちがどれだけあっても、表情が
う相手のペースに合わせた態度の必要性を考えている。
伴っていないと患者に興味を持っている姿勢は伝わらな
≪相手を尊重する≫には、「いすに腰掛ける前に患者
いと感じた」「少しでよいので、相手の様子を聞いたり、
さんの了解を得たことはよかった」という、患者の意思
体調を気遣うような声かけが出来ると良いと思った」と
を確認することや、「患者さんに話しかけるとき、話し
いう、表情や相手を気遣う声掛けをしていくことの必要
かけていることを示すために、名前を呼ぶことをしたら
性を述べた内容が含まれる。また、「自己紹介をするこ
よかったと思った」という名前を呼ぶこと、「しゃがみ
とを目的に接していたが、実際、後からビデオを見て、
こんで話すのではなくて、目の高さを同じにするために
本当に自己紹介だけ行って終わっていて、それだけで患
も椅子に座った方がよかったと思った」という相手の目
者さんに自分のことが十分に伝わったとも思わないし、
の高さに合わせていく方法がよいのではないかという内
せっかく患者さんと関わることができる機会であるの
容が含まれる。
に、これでいいのか疑問に感じた。患者さんの様子や反
5.カテゴリー 5【相手との関係を深める関わりを思考】
応を確認しながら、もう少し関わりを持ってもよいので
【相手との関係を深める関わりを思考】は、3 つのサ
はないかと感じた」という、自己紹介だけで終わるので
ブカテゴリーから構成されている。サブカテゴリーには、
はなく、関わりたいことを示していくことも必要ではな
≪相手の立場に立って考える≫≪相手の反応を観察す
いかという内容が含まれる。
る≫≪関心を態度で示す≫が含まれる。
≪相手の立場に立って考える≫には、「話しかけると
きも、相手にどう聞こえているかということを、相手の
Ⅴ.考察
1.患者−学生関係の形成を促すロールプレイング演習
でビデオを見ての学生の学び
立場に立って考えながら話すべきだと思った」「座る位
置を変えた時に、とっさの思いつきだったため、柔軟に
1)自分が気づかない自分の言動に気づき、他者から見
̶ 44 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
再確認できたのではないだろうか。川野6) が、『人が伝
た自分について知る
自分の看護師役を撮影したビデオを見ることによっ
えたいことには、「内容」と「感情・気持ち」の 2 種類
て、【自分の言動への気づき】では、相手に接する時の、
があると考えられる。このうち、特に「感情・気持ち」
自分の口調に気づき、歩く時の足音の大きさ、話し方や
は非言語的コミュニケーション手段を通して伝達される
会話の中での間の取り方、姿勢・距離・視線について、
ことが多い。したがって、患者の非言語的なメッセージ
緊張した時の自分の行動など、表面的に他者からはどの
に対して敏感でないと、患者の気持ちを十分に感知でき
ように見えるのかを知る機会になった。そして、【自分
ない。』と述べている。看護職は、相手に自分の気持ち
が気づかない自分の受け入れ】では、ビデオに映ってい
を言葉で表現することが難しい人を対象とすることが多
る自分の姿を見て、驚きと違和感を体験しながらもそれ
くある。よって、相手の非言語的な反応に気づくことは、
を受け入れようとしている姿がうかがわれる。これは、
相手の気持ちを理解することにつながり、より患者理解
学生自身が自分の気持ちに気づくこと、つまりは自己洞
を深める手段として重要であることを学んでいると考え
察につながる導入部分であったと思われる。さらに、≪
る。
自分を肯定的に捉える≫といった、肯定的な自分も発見
3)相手への影響を考え、対象への関わり方を模索
し、受け入れることもできていた。これは、対象を理解
【相手を尊重する関わりの模索】では、相手と接する
するときに、相手の良い所も捉えることができることに
時の自分の言動を実感したことで、対人関係において、
5)
は、「人
相手への影響を考え、どのくらいの距離や位置を保った
間的な資質として、道具として自分自身を活用すること
らよいのかや、自己紹介をし、自己を脅かさない話題か
である。援助関係を築くときに最も活用できる道具は、
ら始めるなどといった安心感を伝える態度や方法に加
看護者自身である。対象にとって役に立つ援助を提供す
え、相手のペースに合わせるといった相手を尊重する関
るには、自己を分析することは不可欠である」と述べて
わりを模索していた。さらに、【相手との関係を深める
いるように自己理解が重要である。今回の演習で、ビデ
関わりを思考】では、対象との関係を深めていくために
オを見ることによって、ビデオという媒体を通して、視
は、相手の立場に立って考えることや、相手の反応を観
覚からだけではなく、聴覚からも、第三者として改めて
察し、関心があることを相手に態度で示していく必要が
自分自身を観察することができた。このことにより、気
あることを学んでいるといえる。
つながり、対象理解が広がると考える。野嶋
がつかなかった口調・姿勢・距離・視線など自分自身の
上述のように、ロールプレイング演習は、「今、ここ
言動が、道具として活用できることを身をもって実感し
で」の関係が体験でき、学べることが大きいといえる。
たのではないだろうか。このことで、自分の言動が相手
「今、ここで」の場面で生じた自分の行動・思考・感情
にどのような影響を与えるのかについて、考えやすく
の動きは事実なのである。そこから得た学生の学びには、
なったのではないかと考える。
1)自分が気づかない自分の言動に気づき、他者から見
2)相手の反応への気づき
た自分について知るといった自己への理解の深まり、2)
【相手の反応への気づき】にあるように、学生は、患
相手の反応への気づきといった患者理解への深まり、3)
者の反応に注目していた。看護師役を演じている時には、
相互作用を形成していく時に必要な、相手への影響を考
緊張している中で、質問をしなければと考え、自分のこ
え、対象への関わり方を模索していた。つまりは、患者
とで精一杯だったが、ビデオで客観的に見ることで、相
−学生関係を形成していく時に重要な視点を学んでいる
手の反応にも気づくことができている。学生は、自分の
と思われる。
言葉かけに対し、言語での返答がないことで、相手の反
2.ビデオ撮影を用いた学内演習の課題
応がないと思っていたが、相手を冷静に注目して見ると、
今回のロールプレイング演習では、各学生が、患者役・
非言語的な反応である顔をそむけたり、背を向けるとい
看護師役・観察者役を体験するとともに、看護師役を演
う反応があったことに気づいている。このような場面か
じた場面をビデオカメラで撮影し、各自が自分の行っ
らも、学生は、非言語的コミュニケーションの重要性を
た看護師役をビデオで見て意見・感想を話し合った。川
̶ 45 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
野 6) は、VTR などに収録したロールプレイングを再生
分を客観的に見ることで、自分自身を道具として活用し
して、もう一度みることは、自らを客観視するミラーの
ていくことの導入となり、患者−学生関係を形成してい
技法の効果があると述べている。また、ロールプレイン
く時に重要な視点を学んでいることが明らかになった。
グを VTR などでみることによって、「ロールプレイング
時の自分の行動・思考・感情の動きを想起する。指摘さ
引用・参考文献
れたことを1つのキュー(懸念・課題)として、自らの
1) 谷口ひろ子:患者−学生関係からの学び;関係づくりの基
行為を客観視してみる。看護師役としての自分の行動・
本を考える,看護展望,23(7);95,1998.
思考・感情の関連性を明白にしていくことで自己理解が
2) 大下静香:コミュニケーション技術の学習に関する検討−
深まっていく」とも述べている。今回の演習でも、各自
ロールプレイング法を導入した学習成果の分析−,日本看
が自分の行った看護師役をビデオで見て意見・感想を述
護研究学会雑誌,26(3);428,2003.
べることで、それが一つのキューとなり、学生個々の行
3) 谷口ひろ子,吉野淳一,澤田いずみ:対人関係技術に関
為を客観視する機会になったと思われる。
するロールプレイング演習とその評価 精神看護学実習へ
自己理解を深めるためには、他者の意見を聴く機会と
の学生の準備性の向上をめざして,精神科看護,29(5);
それを自分の目でみるという両側面からの意見交換が重
要であると思われる。このことから、患者役、看護師役、
46-51,2002.
4) 久米弥寿子,小笠原知枝,高橋育代:ロールプレイング演
観察者役を体験しての学生同士の意見交換や、教員のか
習における看護学生の発話時間・発話内容と学生の不安度,
かわりによって、学生の看護師役としての自分の行動・
日本看護研究学会雑誌,26(3);394,2003.
思考・感情の関連性を明白にすることで、自己理解の深
5) 野嶋佐由美:実践看護技術学習支援テキスト精神看護学,
まりに影響を及ぼすため、振り返りの方法などを検討し
ていく必要がある。
日本看護協会出版会,2002.
6) 川野雅資編著:患者−看護婦関係とロールプレイング,医
学書院,1997.
Ⅵ.まとめ
7) 柴田恭亮,平澤久一,戸村道子,他:看護実践能力を高
学生が、精神看護学実習において患者−学生関係を築
めるための学内演習の実際:精神看護学−コミュニケー
きやすくする目的で、ロールプレイング演習を導入した。
ションの演習と精神看護学の事例検討−,Quality Nursing,
学生が、自分の行動をビデオなどで客観的に見ることで、
8(10);52-56,2002.
自分の行動を振り返り、対象との関係作りをより発展さ
8) 高橋香織,池邉敏子:精神看護学実習前ロールプレイン
せることに繋がると考え看護師役を行った場面を、ビデ
グ演習からの学び,日本看護学教育学会誌,14(6);184,
オで撮影した。そこで、今回は、各自の看護師役のビデ
2004.
オを見ての学びを、レポート内容から質的記述的分析を
9) 谷口ひろ子,深澤夕映子,佐瀬美恵子:ロールプレイング
もとに明らかにした。 による患者−学生関係トレーニング,看護展望,26(1);
その結果、【自分の言動への気づき】【自分が気づかな
94-97,2001.
い自分の受け入れ】【相手の反応への気づき】【相手を尊
重する関わりの模索】【相手との関係を深める関わりを
(受稿日 平成 17 年 2 月 12 日)
思考】の 5 つのカテゴリーが抽出された。
これらのことから、学生は、1)自分が気づかない自
分の言動に気づき、他者から見た自分について知ると
いった自己への理解の深まり、2)相手の反応への気づ
きといった患者理解への深まり、3)相互作用を形成し
ていく時に必要な、相手への影響を考え、対象への関わ
り方を模索していた。つまりは、ビデオ撮影によって自
̶ 46 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔教育実践研究報告〕
看護職者の体験談を取り入れた授業によるキャリアマネジメントについての学び
−学生のレポート分析から−
池 西
悦 子 1)
林
奥 井
幸 子 1)
栗 田
由 美 子 1)
上野
美 智 子 1)
グ レ ッ グ 美 鈴 2)
孝 子 1)
宮本
千 津 子 1)
両羽
美 穂 子 1)
Career Management Learning from Nartives by Nurses:
Analysis of Students Reports
1)
Etsuko Ikenishi ,
1)
Yukiko Okui ,
1)
Yumiko Hayashi ,
1)
Takako Kurita ,
1)
Michiko Ueno ,
Misuzu F. Gregg
1)
2)
Chizuko Miyamoto , and Mihoko Ryoha
はじめに
1)
8回目の看護実践者のキャリアマネジメントから学ぶ授
機能看護学講座で行っている機能看護方法2:キャリ
アマネジメント(以下キャリアマネジメント)の授業で
業に参加した学生 85 名である。
2. 分析対象
授業の最後にミニレポートとして課した「今回の授業
は、セルフマネジメントによる看護実践の方向づけが
キャリアマネジメントであると捉え1)、自らのキャリア
を通して学んだこと」の記述内容を分析対象とした。
を自らの意志で築いていくことや、学生時代から自分の
3. 分析方法
キャリアマネジメントをはじめることの重要性を理解
記述内容を何度も読み返し、記述内容・語彙の意味を
し、将来、自らが必要だと考えるサービスを展開するた
変えないように要約した。要約された内容のうち、類似
めに、既存の資源もしくは新たに資源を開拓しながら自
する内容のものをまとめてカテゴリー化し命名した。
分析は、一貫性を維持するために1名の研究者が行い、
らの能力を獲得し、実践につなげていける態度を養うこ
その分析結果の厳密性の検討は4名の研究者間でディス
とを目指している。
そして授業の8回目では、キャリアマネジメントの実
際を看護職者の体験談と質疑応答を通して学ぶことを目
カッションを行い、合意が得られるまで検討した。
4. 倫理的配慮
学生に対しては、授業終了後に、ミニレポートとして
的に、看護職者を授業協力者として招聘している。
そこで本稿では、看護職者の体験談と質疑応答を通し
記述された内容を授業評価と今後の課題を見いだす目的
て学生が学んだキャリアマネジメントの内容を明らかに
で研究に使用したいこと、成績には反映しないこと、お
し、当授業方法の有用性と今後の課題を検討する事を目
よび匿名性の保証について説明し、記述内容の使用に関
的として取り組んだ。
して個々から同意書を得て承諾を得た。
授業協力者に対しては、本研究の趣旨、経歴の概略を
Ⅰ.研究方法
本文に記載すること、匿名性の保障と不利益が生じない
1. 研究対象者
よう配慮することを説明し、承諾を得た。
平成 15 年度「キャリアマネジメント」を受講し、第
1) 岐阜県立看護大学 機能看護学講座 Management in Nursing, Gifu College of Nursing
2) 岐阜県立看護大学 看護研究センター Nursing Collaboration Center, Gifu College of Nursing
̶ 47 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表1 キャリアマネジメントの授業計画
回数 課題
1
導入
内容・方法
授業の目的・目標、セルフマネジメントとの関係性及び進め方
等のガイダンス
2 ∼ 4 プロフェッショナルとして
のアイデンティティの形成
実践を通して専門職として成長していく過程 、 その成長に必要
な経験と支援についての講義
5
キャリアマネジメントの理
解 グループワーク−①
課題に基づいた 「 キャリアマネジメント 」 についてのグループ
ディスカッション
6
グループワーク−②
7
グループワーク意見交換
質問内容の検討
次回授業協力者への質問内容の検討
8
キャリアマネジメントの実
際
キャリアマネジメントの実際についての看護実践者の体験談と
質疑応答
9
グループワーク−③ キャリアマネジメントの意義を実例を通して理解する
10
( 課題学習 )
11
グループワーク全体会 これまでの授業・グループワークについての発表・討論
12
キャリアマネジメントに活
用できる資源の理解
キャリアマネジメントに活用できる資源についての講義
13
グループワーク−④
これまでの授業・グループワークおよびセルフマネジメント
とキャリアマネジメントについて総括するグループディスカッ
ション
14
( 課題学習 )
15
試験・総括・授業評価
グループワークの発表とグループ間ディスカッション
「キャリアマネジメント」について、全体ディスカッション
Ⅱ.看護職者のキャリアマネジメントについての体験
談と質疑応答を通して学ぶ授業の概要
供に取り組んだ経験や、ライフスタイルへの適応など
様々な困難をマネジメントしながら看護職としてのキャ
1.授業全体の計画と本授業の位置づけ(表1)
リアを発展させてきた看護職者。
2.授業の目的:看護職者のキャリアマネジメントの体
5.授業協力者の概略:A 氏−経験年数7年、がん患者
験談と質疑応答から、キャリアマネジメントの実際につ
への看護をよりよいものにしたいという目的の基にホス
いて理解する。
ピスケア認定看護師資格を取得し、病棟・組織全体の看
3.授業方法:1)7回目の授業において、看護職者2
護の質向上に貢献している看護職者。
名の略歴を学生に紹介し、キャリアマネジメントについ
B氏−看護師として就職後、一旦結婚のため離職した
て質問したい内容をグループ毎に決定した。
が、再度看護職に復帰し、家庭との両立をしながら役割
2)8回目の授業において、2名の看護職者に各々のキ
を果たして来た。新たなサービス提供の責任者としての
ャリアマネジメントについての体験談を語ってもらい、
経験を持ち、現在看護部長の立場で看護職者の人事にも
その上でキャリアマネジメントについての質疑応答を行
関与している看護職者。
った。
なお、授業協力者に対しては、学生の質問に対して、
Ⅲ.結果
学生が学んだこととして記述した内容は、全部で 38
答えたくない内容については、答えなくてもよいことを
サブカテゴリー、9カテゴリーに分類された。(表2)
事前に説明した。
以下『 』はカテゴリーを示す。
4.授業協力者の選択基準:1名は学生が近い将来とし
てイメージ出来る経験年数で、自らの意志でキャリアを
『キャリアとは』には、人生そのもの、その人の可能性、
方向付け、専門性を深めるための努力をしている看護職
仕事とプライベートは切り離せない、在り方は様々であ
者。
る、継続していれば成立する、環境に影響を受けるとい
他の1名は、長いキャリアの中で新たなサービスの提
う内容が含まれていた。
̶ 48 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
表2 看護職のキャリアマネジメントについての体験談と質疑応答からの学び
カテゴリー
サブカテゴリー
人生そのもの
その人の可能性
仕事とプライベートは切り離せない
キャリアとは
在り方は様々である
継続していれば成立する
環境に影響を受ける
一生続くもの
キャリアマネジメントとは
自分で意識してキャリアを積み重ねていくもの
知らず知らずに行っているもの
目的・目標をもつこと
物事を前向きに広い視野で捉えること
成長できる環境を作り出すこと
経験を積むこと
キャリアマネジメントに必要なこと
役割を把握し努力する姿勢
困難を乗り越える技を身につけること
行動をおこすこと
看護・看護職への肯定的な思い
看護職として働くことがどういうことかわかった
看護・看護職の理解
看護は難しいがやりがいがあるとわかった
今後の看護師像をつくるのに重要
キャリアマネジメントの授業の意義
看護職になってからの価値観に影響する
授業そのものもキャリアマネジメントの資源である
キャリアマネジメントについて考えていきたい
今後のキャリアについて考えたい
目指す看護について考えたい
キャリアマネジメントの今後の課題
役割の意味について考えたい
看護に生かすため様々な経験をしたい
人との出会い・意見から学びたい
私は看護師だと感じるようになりたい
看護職を目指した動機を想起した
自分自身の振り返り
自分自身の現状に気づいた
自分の将来について考える機会になった
グループワークに前向きに取り組みたい
学習意欲の向上
前向きに学習を頑張りたい
グループワークの内容と照合した
キャリアのイメージができた
その他
将来への不安軽減
今の経験が将来に活かせるという喜び
『キャリアマネジメントとは』は、一生続くもの、自
分で意識して積み重ねていくこと、知らず知らずに行っ
ているものという内容であった。
るとわかったという内容であった。
『キャリアマネジメントの授業の意義』は、今後の看
護師像をつくるのに重要、看護職になってからの価値観
『キャリアマネジメントに必要なこと』は、目的・目
標をもつこと、物事を前向きに広い視野で捉えること、
に影響する、授業そのものもキャリアマネジメントの資
源であるという内容であった。
成長できる環境を作り出すこと、経験を積むこと、役割
『自らのキャリアマネジメントの課題』には、キャリ
を把握し努力する姿勢、困難を乗り越える技を身につけ
アマネジメントについて考えていきたい、今後のキャリ
ること、行動をおこすこと、看護・看護職への肯定的な
アについて考えたい、目指す看護について考えたい、役
思いという内容であった。
割の意味について考えたい、看護に生かす様々な経験を
『看護・看護職の理解』は、看護職として働くことが
したい、人との出会い・意見から学びたい、私は看護師
どういうことかわかった、看護は難しいがやりがいがあ
だと感じるようになりたいという内容が含まれていた。
̶ 49 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
『自分自身の振り返り』は、自分自身の看護職を目指
られ、目的・目標を明確にし、前向きに捉え、実際に環
した動機を想起した、自分自身の現状に気づいた、自分
境を作り出す等の行動をおこすというように、意識した
の将来について考える機会になったという内容となって
主体的行動であることが読み取れる内容となっていた。
いた。
授業において「キャリアとは」「キャリアマネジメン
そして、『学習意欲の向上』は、グループワークに前
トとは」という主要な概念について、あえて定義づけを
向きに取り組みたい、前向きに学習を頑張りたいという
行なわず、自分達で文献等を活用しながら検討を重ね、
内容であった。
自分なりのキャリアの考え方が持てるような方法をとっ
『その他』は、グループワークの内容と照合した、キャ
ている。そのため、学生は実際の体験談や質疑応答を通
リアのイメージができた、(何がしたいのか明確でない
して、具体的な要素を探求した結果、これらの内容が学
という)不安が軽減した、今の経験が活かせるという喜
ばれたものと考える。
びという内容であった。
また、今回の学びでは、
『看護・看護職の理解』や、
『キャ
リアマネジメントの授業の意義』で看護師像や看護師と
Ⅳ.考察
しての価値観を作るのに役立つという内容が見られてい
1.体験談と質疑応答を通しての学びの特質について
た。
取り出された学びには、『キャリアとは』『キャリアマ
ネジメントとは』『キャリアマネジメントに必要なこと』
これは、学習者が実習を体験していない2年次生で
あったことから、看護・看護職への肯定的な思いを聞く
『看護・看護職の理解』『キャリアマネジメントの授業の
中で、看護や看護職として働く事への理解が深まり、看
意義』という、キャリアマネジメントの学習目標につい
護師像や価値観の形成に役立つと考えたのではないかと
ての学びと、『自らのキャリアマネジメントの課題』『自
考える。
分自身の振り返り』『学習意欲の向上』というような自
分自身の態度についての学びがあった。
自らの態度についての学びでは、『自分自身の振り返
り』のように、自らの看護職を目指した動機を想起し、
学習目標についての学びとしては、大きく分けると、
今看護職になるどの段階にいるのか、今後どうしたいの
キャリアについての学びとキャリアマネジメントについ
かということを考える機会となっていたことがわかる。
ての学びであり、キャリアマネジメントについての学び
そして、『自らのキャリアマネジメントの課題』を明ら
は、『キャリアマネジメントとは』という概念について
かにし、『学習意欲の向上』をさせていた。
の学びと、『キャリアマネジメントに必要なこと』のよ
このように、自分自身を振り返り、自分自身の目的・
うに、キャリアマネジメントにおける思考や行動の内容
目標と共に自らの位置を確認し、課題を見出し、意欲を
と、その基盤にある思いなど、具体的な内容となってい
持ち方向付けるという学びは、どれもキャリアをマネジ
た。
メントする態度として重要な内容である。これらの内容
内容をみてみると、『キャリアとは』では、人生その
が学ばれていたこと、そして実際にこの授業を通して、
もの、その人の可能性、仕事とプライベートは切り離せ
自らの方向性を改めて考えようとしていた態度は、自ら
ないというように、看護専門職としてのキャリアという
のキャリアを自らの意志で築いていくことや、学生時代
よりは、人生全体という広義の意味で理解されていた。
から自分のキャリアマネジメントをはじめることの重要
『キャリアマネジメントとは』の内容では、一生続く
性を理解して欲しいという学習のねらいに合致した意義
ものというように、常にマネジメントしていく必要性の
ある学びであると考える。
理解と共に、自分で意識して積み重ねるという主体的に
2.看護職の体験談と質疑応答を通して学ぶ授業方法の
有用性と今後の課題
行うという捉え方の内容と、知らず知らずに行っている
ものという消極的な捉え方の相反する内容が見られた。
今回の学びでは、「キャリアとは」の理解では、人生
しかし、『キャリアマネジメントに必要なこと』の内
そのものというように、広義の理解がなされていた。こ
容では、看護や看護職が好きという肯定的な思いに支え
れは、看護専門職としての人生と、人としての人生を切
̶ 50 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
り離して考えることは出来ず、相互に影響しているとい
また、今回『キャリアマネジメントとは』の学びに相
う語りの内容に影響を受けたものと考えられる。そして、
反する内容が見られたように、同じ体験談をきいても、
「キャリアマネジメントとは」という概念の理解におい
て、主体的な内容と消極的な内容の両方が見られていた。
学習者の捉え方は様々である。これもこの方法の特徴で
あろう。
これも、授業協力者のキャリアマネジメントという言葉
今後もこの方法を採用する場合、有用性とともにこれ
を知らなかったため、その時々で自らのやるべきことや
らの特徴を考慮し、その人の考え方や意味づけを吟味し
目標を決め努力し、キャリアを築いてきたという語りの
た上で授業協力者を決定することや、終了後に学生の捉
内容に影響を受けたものと考えられる。
え方を確認していくことが必要であると考える。
次に、キャリアマネジメントの方法論で主体的な行動
今回の学びには、自分自身の態度についての学びがみ
ばかりが学ばれていたことについては、
「看護職者のキャ
られた。そして、実際にこの授業を通して、自らの方向
リア開発とは、個々の看護職者が社会のニーズや各個人
性を考えようとしていた。
の能力および生活(ライフスタイル)に応じてキャリア
これは体験談や質疑応答を通して、授業協力者の過去
をデザインし、自己の責任でその目標達成に必要な能力
と自分の現在を重ね合わせ、自分の現在の努力と将来の
2)
向上に取り組むことである」 とあるように、社会のニー
看護者像をつなげて考えられたことにより、今後のマネ
ズを基に主体的に日々発展する考え方や知識・技術を学
ジメントの意義を実感し、自らのキャリアマネジメント
修し、各人が考えるよりよい看護が行なえるように努力
の課題の明確化や、学習意欲の向上につながったのでは
することは、専門職としての義務であると考えている。
ないかと考えられる。
そのため、授業協力者も自らの意志でキャリアを方向付
『自らのキャリアマネジメントの課題』や『学習意欲
け、専門性を深めるため努力をしている看護職者を選択
の向上』は、誰かに動機づけられたものではなく、自ら
したことから、このような学生の学びにつながったもの
が「看護職者になっていく」という自分づくりの一過程
と考えられる。
として、その意義が認識された結果であると考える。こ
4 4 4 4 4 4 4
さらに、今回の学びでは、看護や看護職への肯定的な
のことから、看護職者の体験談と質疑応答から学ぶとい
思いが、決して容易ではないキャリアマネジメント支え
う方法は、看護職者である私ということを意識させ、キャ
ていたこと、看護職としてのキャリアをマネジメントす
リアをマネジメントする意義を実感させるのに有効な方
るには様々な困難があることなど、具体的な学びにつな
法であったと考える。
がっていた。 それは、体験談や質疑応答の中では、脱文脈的に抽象
Ⅴ.結論
化された知識とは違い、個別の具体的な事態に即した実
本研究は、看護実践者のキャリアマネジメントの体験
践経験の中で意味付けられた内容が語られていた。その
談と質疑応答を通して学ぶという授業方法による学生の
ため、自らの考えや行動の背景にある価値観や置かれた
学びを明らかにすると共に、その方法の有用性と今後の
状況をどのように捉えていたのかなどについても、あわ
課題を検討することを目的に取り組んだ。その結果、以
せて語られていた。そのことから、看護実践の場を体験
下のことが明らかになった。
していない学習者が、今回のような具体的な学びをする
1.学生が学んだこととして記述した内容には、全部で
38 サブカテゴリー、9カテゴリーに分類された。
ことができたのではないかと考える。
しかし、体験談と質疑応答を通した授業は、学ぶべき
2.学びの内容は、『キャリアとは』『キャリアマネジ
メントとは』『キャリアマネジメントに必要なこと』
内容があらかじめ設定されていて、それを教えるために
3)
のではない。そのため、体験を語る看
等の学習目標についての学びと『自分自身の振り返
護職者がどのように自らの体験を振り返り、意味づけて
り』『自らのキャリアマネジメントの課題』等の自
いるかによって学びが左右されるということを理解して
分自身の態度についての学びがあった。
事例を用いる
おく必要がある。
3.『キャリアとは』の学びでは、看護専門職としての
̶ 51 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
キャリアというよりは、人生全体というという広義
の意味で捉えられていた。
4.『キャリアマネジメントとは』の学びでは、主体的
に行うという捉え方の内容と、消極的な捉え方の相
反する内容が見られた。
5.『キャリアマネジメントに必要なこと』では、意識
した主体的行動であることが読み取れる内容となっ
ていた。
6.看護職者のキャリアマネジメントの体験談と質疑応
答を通して学ぶ授業は、①語りの内容が直接学びに
影響を与える、②実態に即した体験談であることか
ら、実習経験のない学習者であっても具体的な理解
につなげることができる、③体験談を通して、授業
協力者と自らを重ね合わせることで、キャリアマネ
ジメントの意義を実感させることができるという有
用性がある。 7.今後の課題としては、体験を語る看護職者がどのよ
うに自らの体験を意味づけているのかによって、学
生の学びが左右されることを意識して、授業協力者
の吟味を行なうこと、同じ体験談であっても学習者
の捉え方が異なることを意識し、その後の授業の中
で理解の確認を行なっていく必要がある。
謝辞
授業において自らの体験を語り、学生の質問に対し
て誠意を持って対応していただきました授業協力者の
方々、そして、研究のために記録を提供してくださった
学生の皆さんに心より感謝申し上げます。 引用文献
1) 奥井幸子,上野美智子,栗田孝子他:機能看護学の構築に
向けて,岐阜県立看護大学機能看護学講座 教育と研究,
1(1);1-10,2003.
2) 日 本 看 護 協 会: 継 続 教 育 の 基 準, 看 護,52(11);72-77,
2000.
3) 藤原顕:教育方法としてのナラティブ・アプローチ,日本
看護学教育学会誌,3(13);64,2003.
(受稿日 平成 17 年 2 月 14 日)
̶ 52 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔教育実践研究報告〕
3年次、授業終了時の学生の学びからみた機能看護学の統合への課題
栗 田
孝 子
宮本
千津子
林
由 美 子
池 西
悦 子
奥 井
両羽
幸 子
上 野
美穂子
美 智 子
The Integration of Students Learning and the Problem in Management in Nursing
When 6 Semester finished
Takako kurita,
Yumiko Hayashi,
Chizuko Miyamoto,
Yukiko Okui,
Michiko Ueno,
Etuko Ikenishi, and Mihoko Ryoha
はじめに
Ⅰ.目的
機能看護学講座では、看護を発展させる理論と方法
『組織とマネジメント』の授業終了時に、学生は学び
を機能看護学として探求しており、その構成要素をマ
をどのように活用しようと考えているのかを明らかにす
ネジメント・人材育成・情報として授業展開をしてい
るとともに、その活用が既修した機能看護学の学びを想
る。特に機能看護学は、他の大学に無い本学独自の授業
起し統合しているか検討し、機能看護学の授業課題を探
科目であり、学問領域としても新たな看護学の構築と考
ることを目的とする。
え、これを検証していくことは、今後の看護学の発展に
用語の定義:「統合」とは学生の記述の意味内容にお
必要不可欠と思われ、授業に関する様々な報告をしてい
いて、1年次からの既修した学修の意味内容が複合、或
る
1)∼6)
。
いは繋がって表記されたものをいう。
機能看護学の授業は図1に示すとおり、1年次から順
序性をもち、各学年での学修が看護職となる人材の育成
Ⅱ.方法
として、その都度の知識にとどまらず、既修学修を積み
1. 対象
重ね統合することによって、本講座のめざす卒業生像に
15 年度に機能看護方法3『組織とマネジメント』を
近づくと考えている。そのため学生の身に落ちる教育を
受講した学部学生 75 名のうち、授業終了時点で課した
常に心がけ、学生が自ら考え問うことを繰り返し、学修
レポート「組織とマネジメントの学びを今後、看護専門
を統合して、一人ひとりが良い看護を実行する人材に育
職としてどう活かしていくかについての考え」を本研究
つことを狙っている。
目的で使用することに同意を得た 74 名の記述内容を分
今回、報告する『組織とマネジメント』(以下授業科
目を『 』で表示する)は、機能看護方法3として3年
析対象とした。
2. 分析方法
記述内容を熟読し、意味内容を類似性に従い整理分析
次に位置づけ、この3年次までを機能看護学の必修科目
した。その後、授業の主な構成要素に分類した。データ
として、全学生が受講することとしている。
そこで、この3年次授業『組織とマネジメント』の終
の抽出及び分類にあたっては、研究代表者が行い、共同
了時点で、機能看護学として、学生の中で統合している
研究者間の合意が得られるまで検討をかさねた。
のか、検討し授業課題を探りたい。
3. 倫理的配慮
課題レポートの活用について、文書及び口頭で研究目
岐阜県立看護大学 機能看護学講座 Management in Nursing, Gifu College of Nursing
̶ 53 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
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図1 機能看護学の授業の目的・目標・エッセンスと融合・統合のプロセス
̶ 54 ̶
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岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
的を説明し、プライバシーの保護について及び協力の
(14) 課題学習:①学修した内容について、テーマを設
可否によって、評価等の不利益を被らない旨の説明を加
定し意見を述べる。②『組織とマネジメント』の学び
え、その上で各学生の意思表現として同意書の提出を求
を今後、看護専門職としてどう活かしていくかについ
めた。同意書の提出については、他の学生に意思が明ら
て、意見を述べることをレポートの課題とした。
かにならないよう配慮し、BOX へ投入してもらった。
(15) 講義:トップマネジメント機能
総括
Ⅲ.機能看護学の授業構成
1.機能看護学の目的・目標・エッセンスと融合・統合
Ⅳ.結果
組織とマネジメントの学びを、今後どう活かしていく
のプロセスは、図1に示すとおりである。なお、各学年
の授業展開と課題については報告
7)∼ 11)
しており、こ
こでは割愛する。
2.組織とマネジメントの授業構成
か、という問いに対し学生の記述内容は、表1に示す
とおり要約すると 375 記述あった。それを分類すると
12)
134 サブカテゴリーと 48 のカテゴリーに分類できた。
1)目的
以下カテゴリーは【 】で示す。
優れた組織・チームに共通する条件を理解し、個人が
これを授業の主な要素でみると「組織・チームとマネ
組織・チームの一員としての貢献について考える。また、
ジメント」に関する記述、「情報」に関する記述、「キャ
これを考えるにあたり既修学修を活かし理解を深める。
リアマネジメント」に関する記述、「キャリア・セルフ
2)授業方法
マネジメント」が複合された記述、
「セルフマネジメント」
課題:授業開始前の課題の掲示
に関する記述、「非常時のマネジメント」に関する記述
「領域実習の場で組織・チームを体験し、良い組織の
条件は何か」を考える
があった。
中でも「組織・チームとマネジメント」に関する記述
(1)導入:授業目的と進め方
は 187 あり、サブカテゴリー 58、カテゴリー 25 に分
テーマ:A 組織とマネジメント
類できた。
(2)講義:よい組織・チームの条件及び個人の貢献
「組織・チームとマネジメント」に関するカテゴリー
看護組織の具体例
では 11 カテゴリーがチームに関するカテゴリーであっ
(3)グループワーク A:文献・資料・授業開始前の課
た。
題学修も含め、実習体験から課題をもとに検討する。
「情報」に関する記述は 12 サブカテゴリー、5カテ
グループワーク課題は①組織と個人、②チームワー
ゴリーに分類でき、そのカテゴリーの意味は【情報を扱
クと個人プレイ③個人の組織・チームへの貢献とし
うときの配慮】と【一貫した看護実践に向けての情報の
た。 共有】でそれぞれ9記述あった。
(4)講義:病院看護部の実例(看護部長・看護実践ス
タッフ)
「キャリアマネジメント」に関する記述は 17 サブカ
テゴリー、7カテゴリーに分類でき、そのカテゴリーの
(5)(6)(7)グループワーク A
意味は【専門職としての良い看護の追究と実践】で 12
(8)講義:企業の実例(地元会社社長)
記述あった。
(9)交流グループワーク:グループ間での意見交換
「キャリア・セルフマネジメント」に関する記述は 11
(10) グループワーク A のまとめ
サブカテゴリー、3カテゴリーに分類でき、そのカテゴ
テーマ:B 常時・非常時におけるマネジメント(ア
ポロ 13 号から学ぶ危機管理)
で 19 記述あった。
(11)(12)(13)グループワーク B
「セルフマネジメント」に関する記述は 31 のサブカ
グループワーク課題は① 3 人を生還させた要因と改
善すべき点
リーの意味は【資源活用による自己成長と専門性の向上】
テゴリー、7カテゴリーに分類でき、そのカテゴリーの
意味は【セルフマネジメントの実行】【自己の目標管理】
̶ 55 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表1 『組織とマネジメント』学びの活用
カテゴリー
組織理念を理解し自己目標の保有
自己の価値観を認識し理念と照合
看護の基盤として組織理念の明確化と自己目標との一致
組織員としての自覚と自己目標の保持
理念の吟味は自己行動の基準
理念の共感・共有
理念・目標に向かい一貫した実践
看護専門職として組織理念に基づいた役割の実行
自ら資源になる組織貢献
人材育成による組織づくり
メンバー間の信頼関係をきずく
組織・チームへの貢献
チームワークは良い看護実践の条件
チーム員としての自覚と実践
チームで看護する意味を考えた行動
個人プレイとチームワークの相互作用
サブカテゴリー
2
1
●
●
★
★
★●
★●
★
3
9
2
3
3
2
6
3
4
2
3
3
2
1
2
11
9
16
21
6
15
9
18
8
2
3
2
4
チーム員としての自己管理・自己責任
★
1
目標・評価をチームで共有した看護実践
★●
1
個人がチームに活用されることでの看護の質向上
★
1
職種の役割と協働による看護実践
●
2
職種の専門性を活かした連携
1
役割認識と責任ある言動・行動によるチームへの貢献
★
1
チームの関わりによる他者への影響
★
3
チーム員を尊重する関係づくり
★
2
組織と個人の相互影響
4
情報を扱う時の配慮
4
相互理解のための組織・チームの情報共有
2
連携をはかるための情報共有
1
一貫した看護実践に向けての情報の共有
●
3
情報のマネジメント
2
専門性を強化する自己成長
1
看護観の形成
2
望む看護実践に向けた職場選定
1
達成感のある看護実践
2
専門職としての良い看護の追究と実践
●
6
看護実践のための自己成長
●
4
キャリアアップ
1
資源活用による自己成長と専門性の向上
7
目的達成に向けたセルフマネジメント・キャリアマネジメント
3
マネジメントを続け他者を尊重する環境づくり
1
自己の成長
4
主体性の認識と行動
3
自己理念の形成
1
自己の基本的姿勢
8
価値意識の重要性の認識
5
自己の目標管理
5
セルフマネジメントの実行
5
非常時のマネジメント
5
48カテゴリー
134
注)★はチームに関すること、●は看護実践や行動に関する記述を表示
̶ 56 ̶
記述数
8
3
1
3
2
3
8
3
5
4
14
9
8
2
9
5
1
2
2
2
12
7
4
19
9
1
13
11
2
15
12
16
18
9
375
授業の主な要素
組織・チームと
マネジメント
情報
キャリアマネジメント
キャリア・セルフ
マネジメント
セルフマネジメント
非常時のマネジメント
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
【自己の基本的姿勢】でそれぞれ 18、16、15 記述あった。
生の立場で領域実習においてチーム員としての体験も合
「セルフマネジメント」に関する記述はカテゴリー数に
わせ、想像し考えやすかったことも含め、【チームワー
比べ記述数が 87 記述と多かった。
クは良い組織の条件】として考え、【チーム員としての
「非常時のマネジメント」に関する記述は 5 サブカテ
ゴリー、1カテゴリーで9記述あった。
自覚と実践】として、役割を果たすことに活用を考えて
いる。
カテゴリーの意味から特徴をみると【看護専門職とし
「キャリア・セルフマネジメント」に関わる学びの活
て組織理念に基づいた役割の実行】や【理念・目標に向
用は【資源活用による自己成長と専門性の向上】に見る
かい一貫した実践】【職種の役割と協働による看護実践】
ように、専門職として、或いは人として、自己の望む看
等のように看護実践や行動としての意味の記述が多く見
護や自己目標に向け、自らの姿勢をつくり成長させてい
られた。また、【看護専門職として組織理念に基づいた
くことと考えている。
役割の実行】や【役割認識と責任ある言動・行動による
これらのことは、機能看護学講座の授業は1セメス
チームへの貢献】等1つのカテゴリーの中に複合的な概
ターの概論の当初から、自らの考えを自らの言葉で説明
念を含む記述があった。
することを、学生に求めてきたことや、グループワーク
の中で、文献と領域実習の体験を重ねて考えたこと等が、
Ⅴ.考察
自分自身の問題となり、消化を助け自己の身に落とした
1. 学びの活用
結果、既修した学修が、学生の中で重なり幅広いカテゴ
『組織とマネジメント』の学びを、48 のカテゴリーで
示すとおり、学生は多面的で幅広い活用を記述してい
リーに結びついたものと考える。
2. 機能看護学統合への課題
た。記述内容を機能看護学授業の主な要素から考えれば、
カテゴリーを授業の主な要素から見ると、「組織・チー
「組織・チームとマネジメント」に関わる事柄、「情報」
ムとマネジメント」に関するカテゴリーが他の授業要素
に関する事柄、「キャリアマネジメント」に関する事柄、
より多く 25 項目であった。これは直近の授業であった
「キャリア・セルフマネジメント」の複合的な事柄、「セ
ことに加え、10 月まで領域実習があり、この場で、身
ルフマネジメント」に関する事柄、「非常時のマネジメ
近に組織やチームを体験したこと、10 月の領域実習開
ント」に関わる事柄であり、これは機能看護学の1年次
始前に、「良い組織の条件とは」を実習をとおして考え
から3年次の各セメスターでの全ての学修内容を示して
てくるという課題をだし、動機づけをしたこと、学外か
いる。
ら授業協力者として、地元病院の看護部長と同じ組織に
また、学生の記述数を見ると、【看護専門職として組
所属する看護実践者、及び地元企業の社長の日常活動を
織理念に基づいた役割の実行】が最も多かったが、これ
聞く機会を設けたこと等、これらの全てを活用しグルー
は『組織とマネジメント』の授業で、組織の理念を考え
プワークを重ね、学生自身が考えた過程が学びの内容と
ることや、理念の実行に向けた活動を、重視したことが
して、抽出されたものと考える。
一因と考える。学生は組織理念を、概念的に捉えるだけ
「セルフマネジメント」に関わる記述は、7カテゴリー、
でなく、【理念の吟味は自己行動の基準】として考え、
31 のサブカテゴリー 87 記述で、「キャリアマネジメン
理念に向かう看護実践としての活用や【自ら資源となる
ト」に関わる記述は、7カテゴリー 17 サブカテゴリー
組織貢献】【組織・チームへの貢献】【専門職としての良
30 記述を抽出した。 セルフマネジメントは1セメス
い看護の追究と実践】、或いは【セルフマネジメントの
ター、キャリアマネジメントは4セメスターの開講科目
実行】等、自らの行動としての活用が多く記述されたよ
であるが、「セルフマネジメント」に関わるサブカテゴ
うに、実行の意味を重視し、かつ看護専門職としての役
リーは少ないが、記述が多いことをみると、学生の考え
割を認識し、既修の学修も合わせ、学びを活かそうと考
が凝集された結果と考えられる。つまり1セメスターの
えている。
授業として、コアとすべきものが教員の中で明確にされ、
また、チームに関するカテゴリーも多く認めたが、学
学生に伝わったことと、3年間の授業の中で機能看護学
̶ 57 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
の主柱、或いは土台として、各セメスターで学びが想起
Ⅵ.結論
3年次の授業終了時における学生の学びを記述内容か
され、凝集していったものと考える。
その反面、「キャリアマネジメント」に関わる記述に
ら見ると、1年次から3年次の既修した学修の意味内
ついては、17 サブカテゴリー 30 記述で、【専門職とし
容が含まれ幅広いもので、機能看護学として統合しつつ
ての良い看護の追究と実践】の記述数が多く集約され、
ある。さらに機能看護学として統合するために4セメス
学生は自らの進むべき道として認識しているが、【専門
ターの『キャリアマネジメント』のコアを明確に学生に
性を強化する自己成長】【看護観の形成】等それ以外の
伝えることが授業課題であった。
サブカテゴリーの記述数は少ない。
このことは、2年次での授業は、看護専門職としての
参考文献
あり方を醸成し、向かう方向を考える機会となっている
1) 宮本千津子,上野美智子,栗田孝子,他:セルフマネジメ
が、専門職としての自分の姿として投影しにくく、考え
ントを主題とした授業の展開と課題,岐阜県立看護大学紀
にくい面があると考えられる。本紀要に 看護職者の体
要,2(1);175-181,2002.
験談を取り入れた授業によるキャリアマネジメントにつ
2) 両羽美穂子,篠田征子,林由美子,他:セルフマネジメン
いての学び の中でも報告しているが、授業を振り返る
トについての学生の学びと看護専門職における意義,岐阜
と、キャリアマネジメントは、看護専門職としての成長
県立看護大学紀要,3(1);75-81,2003.
を考える者と、人生としての成長を考える者があり、両
3) 両羽美穂子,上野美智子,栗田孝子,他:機能看護概論 ( セ
者の関係が混在し、学生は捉えにくかったのかもしれな
ルフマネジメント ) における3年間の取り組みと課題,岐
い。今年度は、キャリアマネジメントを、看護専門職と
阜県立看護大学機能看護学講座 教育と研究,1(1);6-10,
して考えることを検討し授業を開講しているので今年の
2003.
結果も踏まえ、今後の検討課題としたい。
4) 岩村龍子,大川眞智子,篠田征子,他:キャリアマネジメ
学びの活用で記述したが、多くのカテゴリーが抽出さ
ントを主題とした授業の展開と課題,岐阜県立看護大学機
れ、また、その意味内容は1年次から3年次までの機能
看護学が含まれている。また、1つカテゴリーの中に、
能看護学講座 教育と研究,1(1);11-22,2003.
5) 栗田孝子,林由美子,奥井幸子,他:
『組織とマネジメント』
複合的に授業の要素が含まれるものもある。例えば【役
授業の展開と課題−マネジメント授業の構築に向けて−,
割認識と責任ある言動・行動によるチームへの貢献】は、
岐 阜 県 立 看 護 大 学 機 能 看 護 学 講 座 教 育 と 研 究,1(1);
活用として抽出したため、方法では分類しなかった。そ
23-31,2003.
のため「組織・チームとマネジメント」に関わると分類
6) 宮本千津子,上野美智子,栗田孝子,他: 機能看護方法4
しているが、記述の意味は、チームへの貢献のための役
看護情報学 の実際と課題,岐阜県立看護大学機能看護学
割認識は、専門職としての役割であり、責任ある言動行
講座 教育と研究,1(1);17-22 ,2003.
動は自らの姿勢としての姿と解釈でき、セルフマネジメ
7) 前掲 1).
ント、キャリアマネジメントの概念が含まれている。こ
8) 前掲 3).
れは、『組織とマネジメント』の授業は、1年次からの
9) 前掲 4).
授業を活用し、3年次の授業で各セメスターの学修内容
10) 前掲 6).
が、浸透し統合していく意味を持っているものと考える。
11) 前掲 5).
以上のように、『組織とマネジメント』の授業であっ
12) 前掲 5).
ても、抽出されたカテゴリーは機能看護学であり、学生
の中にはそれぞれの科目としての学修にとどまらず、機
(受稿日 平成 17 年2月 28 日)
能看護学として既修の学びを積み上げ、かつ組織とマネ
ジメントの中に、既修学修を包含しており、統合されて
きているものと考える。
̶ 58 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔教育実践研究報告〕
子どもと子どもを取り巻く社会の観察における学生の学習成果
茂 本
長谷川
咲 子
泊
桂子
祐
山田
子
石 井
小夜子
康 子
Students Learning Outcome from Observation of Children and Surroundings
Sakiko Shigemoto,
Yuko Tomari,
Yasuko Ishii,
Keiko Hasegawa, and Sayoko Yamada
はじめに
教育カリキュラムは、第1セメスターで育成期看護学概
本学育成期看護学概論 B の授業において、入学直後
論 B、第2セメスターで小児の成長発達を支える看護と
に実施している「子どもと子どもを取り巻く社会の観察」
日常生活援助の技術演習、第3および第4セメスターで
(以下、フィールド観察)について、長谷川ら
1)
はこの
課題によって、子どもへの関心は高まる傾向にあると述
べている。小児看護学教育の研究において、草野ら
2,3)
母子保健福祉活動の中で機能する看護、健康問題をもつ
小児の看護と治療を伴う援助の技術演習である。さらに、
第5および第6セメスターで領域別実習、第7および第
は小児看護実習における子どものイメージの変容を、山
8セメスターで卒業研究を実施している。
中ら 4) は子どもへの関心や疾患をもつ子どもの理解の
2.育成期看護学概論 B の概要
変化を分析している。しかし、健康な子どもを含めた子
育成期看護学概論 B の目的は、子どもの特徴を理解し、
どもと子どもを取り巻く社会に対する学生のとらえ方を
子どもを対象とした看護の特徴と役割について理解する
明らかにした報告はない。
ことであり、目標は下記の3点である。
そこで今回、フィールド観察記録の概念化を試みるこ
とにした。
1)子どもの成長発達、健康課題、生活からその特徴を
理解する。
2)子どもを対象とした看護の役割について理解する。
Ⅰ.研究目的
3)学校で展開する学校看護活動を理解する。
本研究の目的は、フィールド観察で学生がとらえた
育成期看護学概論 B の教授方法は、講義、フィール
子どもと子どもを取り巻く社会の内容を概念化して、
ド観察、育成期看護学領域における看護実践場面の見学
フィールド観察の学習成果を明確にすることと、育成期
実習(以下、学外演習)である。
看護学概論 B におけるフィールド観察の位置づけを再
考することである。
フィールド観察の目標は、子どもの日常生活場面を観
察し、子どもと子どもを取り巻く人々のかかわりを考察
することとした。これは、育成期看護学概論 B の目標1)
Ⅱ.育成期看護学領域におけるフィールド観察の位置
づけと概要
の到達を目指す学習課題の1つである。
3.フィールド観察の実施内容
1.授業科目の構成
平成 16 年度の入学生に対して、初回授業時にフィー
育成期看護学講座は母性看護学、小児看護学、学校看
護の学問領域を担当している。主に子どもを対象とした
ルド観察のオリエンテーションを行い、学生1名につき
2∼3場面の観察記録を書くことを課した。
岐阜県立看護大学 育成期看護学講座 Nursing in Children and Child Rearing Families, Gifu College of Nursing
̶ 59 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
記録内容は観察場所、観察内容、考察とした。観察す
表1 観察場所
る子どもの年齢の制限や特定については、成長発達に関
する授業が進んでいないことを考慮して不要とし、新生
児期から思春期を含めた子どもの理解を目指した。観察
場所は自由とし、実施にあたっては子どもや一緒にいる
家族に名乗り観察の許可を得ること、プライバシーを守
るように行動することを、学生に説明した。
観察期間は約3週間とした。観察記録を回収した後、
学習内容の共有を目的に、学生間でグループディスカッ
ションを実施した。
Ⅲ.方法
場 所
児童館
場面数
32
自宅・親戚の家(庭や畑を含む)
店・おもちゃ売り場
公 園
電車・バス・駅
レストラン・食堂
図書館
道 路
お祭り会場
幼稚園・保育園・託児所
病院
小学校グランド
その他
合 計
29
28
23
19
11
10
7
4
3
2
2
4
174
%
18.4
16.7
16.1
13.2
10.9
6.3
5.7
4.0
2.3
1.7
1.2
1.2
2.3
100.0
2.フィールド観察の学習成果
1.対象
分析の結果、【子どもの理解】、【親子の理解】と【子
研究対象は平成 16 年度に育成期看護学概論Bを受講
どもと周囲のかかわりの理解】の3のコアカテゴリが抽
した1年次学生 81 名と3年次編入学生8名、計 89 名
出された。それらは8のカテゴリ、51 のサブカテゴリ
の観察記録とした。分析対象は研究参加の同意が得られ
で構成された(表2)。以下、コアカテゴリを【 】で、
た 74 名の学生の観察記録で、これらは 174 場面から
カテゴリを《 》で、サブカテゴリを「 」で示し、内
成っていた。
容を説明する。
2.分析方法
1)【子どもの理解】
まず、共同研究者全員で観察記録 174 場面の考察内
【子どもの理解】は、
《子どもからのはたらきかけ》《子
容を読み、499 の有意味センテンスに分けた。次に、複
どものもののとらえ方》と《発達している子ども》の3
数の命名を可として 539 の要約内容を抽出した。さら
のカテゴリで構成された。
に、類似する要約内容をまとめてサブカテゴリ、カテゴ
《子どもからのはたらきかけ》は、「好奇心旺盛」「承
リ、コアカテゴリへと抽象化した。カテゴリ化にあたっ
認欲求」「模倣」「自己主張」「反復性・多動性」「観察」
ては、共同研究者間で合意が得られるまで繰り返し検討
の6のサブカテゴリで構成され、周囲の人や物などの目
した。
標に向かって、自らはたらきかけている子どもの行動が
3.倫理的配慮
含まれた。
フィールド観察のオリエンテーションで、学生に対し
《子どものもののとらえ方》は、「自己中心性」「子ど
て観察記録の使用目的、個人は特定されないこと、研究
もの世界」「発想力」「豊かな感情」「性差」「個別性」の
参加は自由であり拒否しても成績には影響しないこと
6のサブカテゴリで構成され、子どものもののとらえ方
を、口頭で説明した。観察記録用紙に同意の有無に関す
は大人と異なること、とらえ方には性差や個別性がある
る回答欄を作成し、観察記録の提出を求めた。
ことが含まれた。
《発達している子ども》は、「感覚」「関係認知」「運動
Ⅳ.結果
能力」
「言語能力」
「思考能力」
「感情抑制」
「自発性」
「自
1.観察場所
尊心」「羞恥心」「社会への適応」「日常生活行動」「年齢
学生がフィールド観察を実施した場所は、児童館が
差」「発達の速さ」「経験の重要性」の 14 のサブカテゴ
最も多く 32 場面(18.4%)で、自宅または親戚の家が
リで構成され、子どもの能力を評価して発達段階を考察
29 場面(16.7%)、店が 28 場面(16.1%)、公園が 23
したものや、成長発達過程の理解が含まれた。
場 面(13.2 %)、 乗 り 物 の 中 や 駅 が 19 場 面(10.9 %)
2)【親子の理解】
であった(表1)。
【親子の理解】は《親子関係》《親のかかわり》の2の
̶ 60 ̶
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表2 フィールド観察の学習成果カテゴリ
コア
カテゴリ
カテゴリ
子どもの 子ども
理解
からの
親子の
理解
要約内容の例
記述
数
好奇心旺盛
周囲のいろんな物に興味を持つ 興味あることに集中する
52
承認欲求
周囲の関心を引こうとする ほめられると喜ぶ
35
はたらき
模倣
父母の真似をする 年少児は年長児の真似をする 周囲の人と同じことをしたがる
31
かけ
自己主張
思い通りにならないと泣く 意思に反する親の注意に反発する
14
反復性・多動性
同じことを繰り返す 何度も質問をする じっとしていない
12
観察
じっと人を見る 周囲の人の行動を観察している
子どもの
自己中心性
独占欲が強い 人のものをほしがる
16
ものの
子どもの世界
自分の世界をもつ 3 歳児はぬいぐるみを命あるものと理解する
11
とらえ方
発想力
1つのものでさまざまな遊び方をする発想力がある 何でも遊びに変える
豊かな感情
感情が変わりやすい 全身で感情を表現する 率直に感情を表現する
14
性差
男の子は乗り物に興味がある 男女の性の違いを気にする
16
個別性
好き嫌いがある 同じ3歳児でも個性や性格で反応が異なる
12
発達
感覚
触ったり口の中に入れたりしてどんな物なのか確かめている
8
している
関係認知
1歳児は人見知りをする 人を見てから近づく
7
子ども
運動能力
3∼4歳児はしっかり走ることができる 力の加減がわからない
7
言語能力
1 歳児は言葉を理解できる 2∼3歳は言葉を覚えて話したい年齢である
思考能力
問題解決能力がつく 善悪の区別ができる
感情抑制
転んでも泣かない 5歳児は気持ちをコントロールできる
自発性
自分でやりたいと思い始める 自分で考えて行動することに喜びを感じる
自尊心
上手にできないことはやりたくない
羞恥心
小学生には羞恥心がある
社会への適応
社会のルールを理解する お手伝いを楽しむ
日常生活行動
スプーンを持つことができる 3∼4歳児は自分で靴下を履く
4
年齢差
年齢の違いで行動に差がある 年齢の違う子どもとの比較によって発達を確認できた
7
発達の速さ
1年で歩けるようになった 見聞きしたことをすぐ吸収する
2
経験の重要性
子どもは経験しながら成長していく
安心の源
母親がそばにいると安心する 親への信頼があると親から離れられる
52
コミュニケーション
親子が楽しそうに遊んでいる 父親と子どもが接することはどちらにとっても大切である
14
相互の理解
親は他人に分からない子どもの言葉が分かる 母親は子どものやりたいことにすぐに気づく
子どもは母親の表情を読み取る 親の注意を聞く
12
仲良し
家族揃っての食事では笑顔である 手をつないで歩く家族は幸せそうでよい
しつけ
甘やかしと子どもの主張のバランスをとることが大切である
親は子どもに役割を与え社会化を促す
20
安全管理(親)
親は子どもの目の届くところで様子を見守る 子どもから目を離せない
17
応答性(親)
母親はひとつひとつ子どもに説明する 子どもに分かるような説明を行う
愛情
親は子どものことを一番に思っている 親の厳しさも愛情表現である
同じ目線
母親は子どもに目線を合わせて叱っていた 子どもの目線に合わせて話し掛けることはよい
4
父母の育児の差
父親は子どもと接する時間が少ない 父親も子育てに関わっている
7
親子関係
親の
かかわり
子どもと
周囲の
かかわり
の理解
サブカテゴリ
きょうだい 年少児への配慮
のかかわり (きょうだい)
相互の学び
子ども同士 同年代への興味
のかかわり
年少児への配慮
(子ども同士)
並行遊び
社会の
かかわり
姉が弟の世話をする 姉としての自覚がある 姉や兄は我慢ができる
きょうだいがいると社会性が身につきやすい きょうだいがいると良い面がたくさんある
同世代の子どもを気にする 母親から離れ同年代の子どもと遊びたがるようになる
5
5
9
12
4
11
1
1
14
1
4
5
19
17
3
10
年少児に優しく接する 年少児の面倒を見る
7
子ども2人がそれぞれ自分の好きなように遊ぶ 同年代の子と一緒にいてもひとりで遊ぶ
5
連合遊び
時には他児と協力して楽しむ
1
協同遊び
友達と役割を決めて遊ぶ ごっこ遊びをする
6
力関係
3人の中に中心的な子とついていく子がいる 年少児には強気だが年長者には畏怖をもつ
4
競争心
競争心むき出しでじゃれあう 小学生は金魚すくいで数にこだわる
2
集団生活の意義
集団生活の場は子どもの成長に影響する 異年齢集団の中でルールを身につける
4
安全管理(社会)
自分の子どもではなくても注意したり声をかけたりする 周りの人も子どもに注意を払う
3
応答性(社会)
子どもの知らないことを何度も教える 子どもの質問にしっかりと答えていくことの大切さ
3
配慮
飲食店に子ども専用の椅子がある 子どもが迷惑なことをしても周囲の人は笑顔である
3
環境
自然に触れることが子どもによい影響を与える
子どもの前で喫煙する周囲の大人に対して憤りを感じる
4
子どもの存在意義
周囲の人にとっても子どもはかわいくて特別な存在である 子どもには癒しの効果がある
2
̶ 61 ̶
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カテゴリで構成された。
を考えることは難しく、本課題の目標に設定していない。
《親子関係》は「安心の源」
「コミュニケーション」
「相
しかし、入学以前の知識を活用して発達段階を推測し、
互の理解」「仲良し」の4のサブカテゴリで構成され、
異年齢集団の子どもを比較して「年齢差」をとらえるこ
親子の相互作用の理解等が含まれた。
とはできていた。学生が成長発達の知識を十分に習得し
《親のかかわり》は、「しつけ」「安全管理(親)」「応
答性(親)」「愛情」「同じ目線」「父母の育児の差」の6
ていなくても、子どもの能力に注目して、《発達してい
る子ども》を理解できたと考えられた。
のサブカテゴリで構成され、両親のしつけや安全管理、
日常生活行動に関する記述は、食行動と衣類の着脱行
母親と父親の育児に差がある内容が含まれた。
動に限定されていた。これは、フィールド観察を行った
3)【子どもと周囲のかかわりの理解】
場所が、家や児童館での場面が多かったことと関連して
【子どもと周囲のかかわりの理解】は、《きょうだいの
いると推測された。日常生活行動の学習を促進させる場
かかわり》《子ども同士のかかわり》および《社会のか
合は、観察場所を特定したり、子どもと長時間かかわれ
かわり》の3のカテゴリで構成された。
る場面を設定したりする必要があると思われた。
《きょうだいのかかわり》は、「年少児への配慮(きょ
子どもの健康課題について、記述された記録はなかっ
うだい)」
「相互の学び」の2のサブカテゴリで構成され、
た。子どもの健康状態と生活環境との関係について、西
年長児が年少児に配慮しながら、相互に学ぶきょうだい
田ら 5) は①健康な子どもの日常的な場面、②健康な子
の理解等が含まれた。
どもの非日常的な場面、③入所施設にいる障害をもつ子
《子ども同士のかかわり》は、「同年代への興味」「年
ども、④通院施設にいる障害をもつ子ども、⑤在宅の障
少児への配慮(子ども同士)」
「並行遊び」
「連合遊び」
「協
害をもつ子ども、⑥入所施設にいる病気の子ども、⑦通
同遊び」「力関係」「競争心」「集団生活の意義」の8の
院施設にいる病気の子ども、⑧在宅の病気の子どもの8
サブカテゴリで構成され、同年代や異年齢集団における
つの状況があると報告している。フィールド観察は、健
子ども同士の関係性、遊び方、集団生活の意義等が含ま
康な子どもの日常的な場面の学習と位置づけているの
れた。
で、健康課題との関連については、このレポートを用
《社会のかかわり》は、
「安全管理(社会)」
「応答性(社
いて行うフィールド観察後のグループディスカッション
会)」「配慮」「環境」「子どもの存在意義」の5のサブカ
で、意識的に引き出すことが必要であると思われた。
テゴリで構成され、家族以外の周囲の人も育児に参加し
2)親子及び子どもと周囲のかかわりの理解
子どもだけではなく、子どもを取り巻く社会を意識的
ていること、環境が子どもに与える影響、子どもの存在
に観察することで、子どもにとって親は「安心の源」で
が社会によい影響を与える内容等が含まれた。
あること、親子の「コミュニケーション」や「相互の理
Ⅴ.考察
解」、母親や父親の「愛情」「しつけ」「安全管理」「応答
1.フィールド観察による学習成果と限界
性」などを、学ぶ機会になっていた。
1)子どもの理解
また、【親子の理解】だけではなく、《きょうだいのか
入学初期の学生はフィールド観察を通して、子どもの
かわり》《子ども同士のかかわり》《社会のかかわり》と
行動を意識的に観察し、
《子どもからのはたらきかけ》
《子
いった【子どもと周囲のかかわりの理解】も促進されて
どものもののとらえ方》をとらえることができた。子ど
いた。これらには、かかわり方の形態の特徴と、かかわ
もには自ら外界へはたらきかける力があること、子ども
りの意義を示す内容が含まれた。さらに、《社会のかか
のもののとらえ方は大人と異なるという理解は、対象の
わり》には周囲の人だけではなく、子どもと環境の関係
特性を理解して小児看護を行う上で、必要不可欠である
の理解も含まれていた。《社会のかかわり》の記述数は
と思われた。
15 と少ないが、本研究では、フィールド観察により《社
成長発達については、授業が進んでいないため、一般
的な知識と結びつけて、観察した子どもの成長発達段階
会のかかわり》を学習できることに意味があるととらえ
た。
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岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
子どもは自らのもてる力と適切な環境の相互作用のな
であると思われた。そのなかで、フィールド観察の考察
かで、各時期の発達課題を達成していくものであり、小
内容を見直し、観察した子どもの成長発達段階を正しく
児看護の対象である子どもの特徴を理解するためには、
とらえられるようにすることも、重要だと思われた。日
子どもに影響を及ぼす家族の特性、さらにはその背景に
常生活行動については、観察できた学生が少ないため、
6)
ある社会の特性を理解する必要がある 。本研究で抽出
された概念を用いて、子どもの成長発達に影響を及ぼす
VTR の活用等の工夫が必要である。
【親子の理解】や【子どもと周囲のかかわりの理解】は、
要因について学習を深めることができるのではないかと
子どもの成長発達や健康問題に影響を及ぼす要因を理解
思われたので、今後の授業に活用したい。
するための、重要な学習内容であると考えられる。育成
3)コミュニケーション技術の習得のための概念の理解
期看護学概論の目的に、子どもと子どもを取り巻く社会
子どもに看護を行うためには、対象の特性に応じたコ
の関係の理解を加え、意図的に教育していきたいと考え
ミュニケーションの技術の習得が重要である。小児看
護学実習準備としての演習方法について、中林ら
7)
る。
は、
次に、フィールド観察のみでは、学生が観察内容を抽
子どもの発達に応じたコミュニケーションを通じて成長
象化することは難しいので、今後もフィールド観察後に
発達を遂げる子どもと家族の特性を理解する演習とし
グループディスカッションを続けると共に、本研究の成
て、①子ども・家族へのインタビュー、②サマーキャン
果を提示するなど、観察内容の概念化を促す授業方法の
プ・スキーキャンプの見学、③デパート見学、④児童館・
検討や工夫をしたいと考える。
子ども会・スポーツクラブの見学、⑤交流会の開催、⑥
さらに、フィールド観察と学外演習は同じ第1セメス
家庭訪問、⑦患者会の見学、⑧おもちゃの作成などが考
ターであるので、学習成果を統合させ、健康の連続性や
えられると報告している。
看護の役割の学習を促進させようと考えている。
フィールド観察は、子どもの特徴や成長発達段階に応
じたコミュニケーション技術の学習を目指す教育方法で
Ⅵ.まとめ
はないので、本研究において、コミュニケーション技術
入学初期に実施するフィールド観察により、【子ども
の学習成果を評価することはできない。しかし、子ども
の理解】として《子どもからのはたらきかけ》《子ども
やその家族とのコミュニケーションを学習する上で、重
のもののとらえ方》
《発達している子ども》、
【親子の理解】
要な概念であると思われる《子どものもののとらえ方》
として《親子関係》《親のかかわり》、【子どもと周囲の
《子どもからのはたらきかけ》《親のかかわり》《社会の
かかわりの理解】として《きょうだいのかかわり》《子
かかわり》を理解できたことは、意義深いと考えた。
ども同士のかかわり》《社会のかかわり》について、学
2.育成期看護学概論Bにおけるフィールド観察の位置
習できることが明らかになった。
づけと補強点
育成期看護学概論Bの補強点は、フィールド観察の学
本研究を通して、入学初期の学生であっても、実際
習成果を授業で活用すること、観察内容を概念化するた
の場面を意識的に観察することにより、健康な子どもの
めの教育方法を検討すること、学外演習の学習成果と統
特徴、周囲の人や環境とのかかわり方を理解できた。こ
合させること等であると考えられた。
れらの学習成果を活かして、育成期看護学概論 B の目
標1)子どもの成長発達、健康課題、生活からその特徴
謝辞
本研究の趣旨を理解し、貴重な資料を提供してくれた
を理解することを達成するための、授業の補強点を述べ
学生にお礼を申し上げます。また、本学の教育活動に快
る。
子どもの成長発達については、育成期看護学概論 B
および育成期看護方法5で展開される授業で、フィール
くご協力くださいました子どもと家族の皆様に感謝いた
します。
ド観察の学習成果を活用し、子どもの行動と成長発達に
関する概念を、関連づけて授業を進めていくことが大切
̶ 63 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
引用文献
1) 長谷川桂子,石井康子,出井美智子:子どもの理解を深め
ることをめざしたフィールド観察の効果,岐阜県立看護大
学紀要,1(1);80-86,2001.
2) 草野美根子,寺田敦子,今福ひとみ,他:小児看護実習に
おける看護学生の子どもに対するイメージの変容−病棟実
習と保育園実習の因子分析的検討−,第 28 回日本看護学
会集録・看護教育;143-145,1997.
3) 草野美根子,寺田敦子,今福ひとみ,他:子どものイメー
ジに関する研究 ( 第2報 ) −小児看護実習前後の比較−,
日本看護研究学会雑誌,21(3);356,1998.
4) 山中久美子,吉川彰二,永島すえみ:本学学生の子ども
への関心と子どもの理解の変化,大阪府立看護大学紀要,
9(1);15-23,2003.
5) 西田志穂,込山洋美,江本リナ,他:実習の実際,Quality
Nursing,8(11);69-77,2002.
6) 奈良間美保:系統看護学講座専門 22 小児看護学1,第 10
版;4-8,2003.
7) 中林雅子,平井るり,安田恵美子,他:実習準備としての
演習モデル,Quality Nursing,8(9);71-77,2002.
(受稿日 平成 17 年3月 17 日)
̶ 64 ̶
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〔教育実践研究報告〕
学校看護実習からの学生の学び
石 井
康 子
Student s Learning from a Child Health Nursing Practice
at Elementary and Junior High School
Yasuko Ishii
はじめに
Ⅰ.学校看護実習の概要
小児を対象とした看護は、医療や福祉施設を利用して
学校看護実習の目標は表1に示すとおりであり、小学
いる子どもだけでなく、地域で生活する子どもも対象と
校、または中学校で行う 1 日(8時∼ 17 時)の実習と、
している。しかし、看護系大学の小児看護学実習の概要
この前後の各4時間の学内演習で構成している。学校で
に関する調査報告
1)
によると、小児の病棟実習は全て
の大学で行われ、次いで保育所、障害児施設、外来等の
順で実習が行われているが、地域で生活する子どもの多
くが日中の大半の時間を過す小中学校で実習を行う大学
は少数であり、地域で生活する子どもを対象とした実践
行う実習は、1グループ 13 ∼ 14 名の学生がA市の公
立小中学校4ヶ所に分かれて実習を行っている。
表1 学校看護実習の目標 ( 平成 15 年度 )
1.児童生徒のヘルスニーズについて学ぶ。
2.児童生徒の健康観を高め 、 セルフケア能力を高める方法
2)
的な学習の機会は少ない 。
について学ぶ。
本学3年次に行う育成期看護学実習のうち、小児を対
3.健康問題への予防的な働きかけの方法について学ぶ。
象とした実習は、小児看護の特徴と役割を理解し、適切
4.家庭との連携の方法について学ぶ。
な看護が実践できる基礎的な能力と態度を養うことを目
5.児童生徒の生活集団を対象とした活動として、学校内の
組織的な対応方法、および学校外の関係者との協働活動
的としている。そしてこの目的を達成するため、小児病
棟、障害児施設、小中学校で実習を行っている。このう
ち前者2つの施設では、主に健康障害をもつ小児を対象
について学ぶ。
6.養護教諭の活動方法の特徴から、固有の役割や機能につ
いて考える。
とした看護を学び、小中学校で行う学校看護実習は、比
較的健康度の高い学齢期の小児を対象に、学校生活集団
1.実習開始前の学内演習
を単位に展開する看護を学ぶことを目標としている。今
実習前日に、4時間の実習オリエンテーションと演習
回、本学の学校看護実習において、学生がどのような学
を実施している。実習オリエンテーションでは、実習目
びを得ているのか明らかにすることは、今後の実習のあ
的、目標を具体的な実習内容と関連させて説明する。演
り方や先行する授業内容を検討する上で有意義であると
習は、実習校の児童生徒の生活をイメージすることを目
考える。そこで本報告では、学校看護実習での学生の学
的に、A市の地図と資料から学校の位置、校区の範囲、
習内容を明らかにし、効果的な教育を行う上での課題を
交通や産業の様子等を地図から読み取る学習を行う。
検討することを目的とする。
2.学校での実習
実習開始に先立ち 、 各学校に直接教員が出向き学校
長、実習担当教員 、 養護教諭同席のもと、表2の実習内
岐阜県立看護大学 育成期看護学講座 Nursing of Children and Child Rearing Families, Gifu College of Nursing
̶ 65 ̶
岐阜県立看護大学紀要
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容を依頼している。この内容に沿って、各学校の行事予
各文節の内容を要約し1データとする。1データに要約
定に応じた詳細な実習プログラムが作成される。学生は
された内容の類似するものをまとめサブカテゴリとし、
このプログラムに沿って1日の実習を行う。
さらにカテゴリへと抽象化する。質問項目②についても、
同様の方法により学びの内容を整理する。
表2 依頼した実習内容 ( 平成 15 年度 )
4.倫理的配慮
1.養護教諭の活動の見学を中心に、活動の実際を学ぶ。
・校内巡視、健康観察の方法の見学、保健室経営の説明を
受ける
研究に学校看護実習記録用紙を使用することについ
て、研究目的と共に使用の同意の有無が成績に影響しな
いことや、プライバシーの保護への配慮について、実習
2.学校の概要、および学校保健活動の実際を学ぶ。
・学校の概要、学校保健活動、地域とのかかわり等の講
開始前の学内演習時に全員に口頭で説明を行った。さら
話を学校長、保健主事、または養護教諭から受ける
に、実習後の学内演習で記録の提出を求める際に、記録
の使用を拒否する場合は、提出する学校看護実習記録用
3.学級活動に参加し、児童生徒と直接接する機会をもつ。
・学齢期の子どもの生活実態や健康課題を捉える
紙に拒否と記載し、教員に口頭で伝える必要はないこと
・給食、清掃、昼休みの時間に児童生徒と交流する
を加えて、再度説明を行った。
・朝の学級活動の参加、健康観察の見学を行う
・障害をもつ児童生徒と児童生徒との交流の様子を捉える
Ⅲ.結果
1.学校看護実習における学生の学びの内容
3.実習後の学内演習
1)養護教諭の活動から学んだ内容
実習のスケジュールが変則である2つのグループを除
データを分析した結果、学生の学びの内容から実習目
き、学校看護実習に引き続いて行う約2週間の小児病棟
標に沿った『児童生徒のヘルスニーズ』『健康意識を高
実習終了後に学内演習をグループ単位で4時間実施す
める働きかけとその方法』『セルフケア能力を高めるた
る。学生は、実習校毎に実習での学習事項を 、 ①実習校
めの働きかけ』『予防的な働きかけ』『家庭との連携方
の概要、②学習内容、③他の実習校の学生と討議したい
法』『組織的な対応方法』『養護教諭固有の役割』の 7
内容に整理し、報告する。これらの報告をとおして学生
カテゴリと、これ以外の『児童生徒のヘルスニーズの把
は学習内容を共有し、学びを深める。
握の方法』
『健康問題をもつ児童生徒への援助方法』
『保
健教育の方法』の3カテゴリの計 10 のカテゴリが抽出
Ⅱ.方法
された。
1.研究対象
①児童生徒のヘルスニーズ
本研究の対象は、学校看護実習終了後に学生が提出す
『児童生徒のヘルスニーズ』は、
「精神面への援助」
「人
る「学校看護実習記録」である。分析対象は全員の同意
間関係の悩みへの援助」のサブカテゴリが含まれていた。
が得られたため、平成 15 年度に履修した 77 名の学生
学生は、児童生徒が病気やけが以外にも保健室を訪
の記述内容である。
れ、養護教諭に精神的問題への対応や人間関係の悩み
2.学校看護実習記録用紙の内容
を聞いてもらいたいというニーズをもつことを学んでい
学校看護実習記録用紙の質問項目は①実習校の養護教
諭の活動から学んだこと、②児童生徒の健康生活を守る
ために、養護教諭が積極的に対応して解決を図らなけれ
た。
②健康意識を高める働きかけ
『健康意識を高める働きかけ』は、「健康診断実施前
ばならないと考えたこと、の2点である 。
に検査の目的・意味を教育する」「保健室来室記録を児
3.分析方法
童生徒に記入させる」「保健室来室時に来室理由を自分
学生の学習内容の分析のため、学校看護記録用紙の質
問項目①について記述内容の学びに着目し、意味のある
で説明し、考えさせる」「保健室に教材を整備する」の
サブカテゴリが含まれていた。
文節を取り出す。これを1つの意味をもつ文節毎にわけ、
̶ 66 ̶
学生は保健室に来室した児童生徒への養護教諭の対
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
応から、養護教諭は単に処置を行うだけでなく、同時
の伝達手段と考え、学校で児童生徒を対象に実施する
に児童生徒が自分自身の生活や行動を振り返るための
保健教育の内容を家庭に伝達し、指導が継続されるこ
働きかけを行うことを学んでいた。
とをねらった働きかけを行うことを学んでいた。また、
③セルフケア能力を高めるための働きかけ
家族が来校する機会を捉えて直接働きかけることや、
『セルフケア能力を高めるための働きかけ』は、「保
児童生徒の体調不良時や事故発生時の家庭への連絡は
健室での処置方法を教育する」「教科内容に応じた健康
学級担任が行うが、家族が来校した際は、直接養護教
観察方法を教育する」「保健室滞在時間を自己決定させ
諭が児童生徒の身体状況の説明を行うことで、専門職
る」のサブカテゴリが含まれていた。
としての役割を発揮していることを学んでいた。
学生は、養護教諭が体調不良を訴えた児童生徒に対し
⑥組織的な対応方法
て体温測定をする、あるいはけがをして保健室に来室し
『組織的な対応方法』は、
「関係者・関係機関との連携・
た児童生徒に対して、まず傷口を水で洗う等の処置方法
協働」「緊急時・健康管理の体制づくり」「児童生徒の保
を説明し児童生徒に実施させる等、児童生徒のセルフケ
健委員会活動の支援」「同職種間の連携、情報共有」の
ア能力を高めるための働きかけを行うことを学んでい
サブカテゴリが含まれていた。
た。また、養護教諭は予め保健の授業内容を把握し、例
学生は学校保健活動が学校医、学校歯科医、学校薬
えばマラソン実施時には既習事項である脈拍測定の方法
剤師、 学校栄養士、 心の教室相談員等と連携を図り、
と保健室来室の目安を伝える等、教科の学習内容をふま
協働し推進されていることを学んでいた。また、児童
えた働きかけを行うことで、児童生徒のセルフケア能力
生徒の保健委員会活動が主体的な活動となるように、
を高める働きかけを行うことを学んでいた。
養護教諭がこれを支えていることを学んでいた。
④予防的な働きかけ
⑦養護教諭固有の役割
『予防的な働きかけ』は、「学習環境の整備」「児童生
『養護教諭固有の役割』は、「児童生徒の観察による
徒に適した物品の整備」「友人関係の問題発生の回避」
異常の早期発見と適切な対応」「健康問題の改善に向け
「 給食の内容検討 」「予防教育の実施」「学校内の安全
た取り組み」「健康問題の予防に向けた活動」「児童生徒
確認」「事故発生時の原因分析と対策」「登下校時の安
のセルフケア能力を高めるための教育」「保健室の機能
全対策」のサブカテゴリが含まれていた。
整備」のサブカテゴリが含まれていた。
学生は養護教諭が校内巡視により直接校舎や教室内
学生は、児童生徒の健康を守る学校内の唯一の専門職
の環境を確認したり、水質検査を行なうことで学習環
種である養護教諭が果たす固有の役割として、あらゆる
境を整えていることを学んでいた。また健康診断結果
機会を通した観察、およびこれに基づく適切な判断によ
をふまえて、机や椅子を体格にあったものに変更する
り、健康問題の予防や改善に向けた働きかけを行うこと
ことや、トイレのスリッパを児童生徒に適した大きさ
で、児童生徒の学校生活を整えていくことを学んでいた。
に変更する等により、疾病やけがを予防する働きかけ
また、健康問題の改善に向けた取り組みとして、学級担
を行うことを学んでいた。また、友人関係の問題の発
任との連携を図ることや児童生徒との信頼関係を築き、
生を回避するため、いじめやからかいに対して毅然と
これを基盤にして相談援助を行っていくこと等を学んで
対応することや、交換ノート等、いじめの原因となる
いた。
可能性の高いことは避ける指導を高学年の学級担任に
⑧児童生徒のヘルスニーズの把握の方法
『児童生徒のヘルスニーズの把握の方法』は、「学級
提案する等の働きかけを行うことを学んでいた。
毎の健康観察」「トイレや靴箱の使用状況の観察」「児
⑤家庭との連携方法
『家庭との連携方法』は、「保健だよりの活用」「学校
童生徒の作品や字の観察」
「授業や休み時間の観察」
「体
行事の機会に直接働きかける」「体調不良、事故発生時
調不良者への声かけ」「保健室来室児への声かけ」「保
の対応方法」のサブカテゴリが含まれていた。
健室来室記録の分析」「健康診断・スポーツテストの結
学生は、養護教諭が保健だよりを家庭へ有効な情報
果分析」「保健調査表の活用」「家庭での生活実態調査
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岐阜県立看護大学紀要
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の実施」「ニーズを把握しやすい条件づくり」のサブカ
養護教諭が把握した児童生徒の健康生活実態をもとに教
テゴリが含まれていた。
材を作成し保健教育を行うこと等を学んでいた。
養護教諭が校内巡視として学校内を観察するときに
2)養護教諭として取り組むべき課題
は、単に児童生徒の出欠席状況を把握するだけではな
養護教諭として取り組むべき課題として学生が記述し
く、前日に保健室を利用した児童生徒や欠席していた
ていた内容は、養護教諭の活動から学んだ内容とほぼ同
児童生徒の健康状態を直接観察し把握することや、ト
様の内容であり、学生自身が実習体験から児童生徒の課
イレの使用状況や教室や廊下に掲示されている児童生
題を捉えたり、今後取り組むべき養護教諭の活動として
徒の作品、靴箱にある靴の状況等の観察から、児童生
考え記述したものはほとんどなかった。しかし、3名の
徒の心の健康状態を把握していることを学んでいた。
学生から表3に示した2つの課題が学びとして示され
また、児童生徒を常日頃から観察し、養護教諭から声を
た。 かけ信頼関係を作ることで、相談がかけやすくすること
や、保健室のドアを常に開けておくことで児童生徒が入
りやすい条件を作るなど、ニーズを把握しやすい条件を
表3 学生が捉えた養護教諭が今後取り組むべき課題
・性教育や体育科の授業は担任が行い、養護教諭は相談を
受けた時に資料提供等を行っていた。多くの児童が頻繁
整えていることを学んでいた。
に保健室に来るのでその余裕がないのかもしれないが、
⑨健康問題をもつ児童生徒への援助
専門的立場から授業にもっと積極的にかかわり、命の大
切さ、健康の大切さを教えることも必要ではないかと考
『健康問題をもつ児童生徒への援助』は、「管理票の
活用」「関係者・関係機関との連絡調整」「治療の開始、
継続支援」「 疾患の症状に応じた校内の支援体制づくり」
えた。(2名)
・児童と給食を一緒にとったが、自分の嫌いなものは自分
で量を減らしたりして、バランスよく栄養を取ることの
「心の健康問題への対応方法」「疾患に応じた健康観察」
大切さというのを全く認識していないように感じた。残
のサブカテゴリが含まれていた。
さず食べるという意識も薄いようなので、まずはこのこ
健康問題をもつ児童生徒への援助として、学生は養
とを意識づける働きかけが必要ではないかと考えた。
(1
護教諭が心臓疾患、腎臓疾患等の児童生徒には管理票
名)
を用いて健康管理を行っていくことや、主治医や学校
医と連携し健康管理を行っていることを学んでいた。
Ⅳ.考察
また、これらの児童生徒については、管理票を活用し
1.学校看護実習の学生の学び
て小学校と中学校、あるいは中学校と高等学校間で申
以上の結果より、学生は学校看護実習で実習目標に対
し送りを行うことで継続支援をしていることを学んで
応した学びを得ていることが明らかになった。また、実
いた。「治療の開始、継続支援」では、健康診断で治療
習目標に関連する内容であるが、新たに学びの内容とし
が必要となったにもかかわらず未受診である児童生徒に
て整理をすることが適切であると思われる内容が含まれ
対して、学期末毎に学校行事として全校生徒を対象に行
ていた。
われる、児童生徒、保護者、学級担任の三者面談の機会
実習目標に対応する『児童生徒のヘルスニーズ』とし
を捉えて、学級担任と連携をとりながら児童生徒と保護
て学生が学んだ内容は、実習後の学内演習では実習校の
者に働きかけること等を学んでいた。
概要として児童生徒の健康実態や課題について報告され
⑩保健教育の方法
ていたが、実習記録への記載は限られたものしかなかっ
『保健教育の方法』は、「児童生徒の健康生活実態の
た。これは、本学の学校看護実習は、小学校または中学
教材化」「季節、学校行事に合わせた教育の実施」「対象
校での1日の実習であり、実習内容が講話と見学が中心
に適した教材作成」「ピア教育の実施」「実験を取り入れ
となっている。そのため、学生が直接児童生徒と接する
た健康教育の実施」「保健だよりによる健康教育の実施」
機会は給食、清掃活動、昼休みの時間と、その場面は限
のサブカテゴリが含まれていた。
られていることが影響したのではないかと考える。また、
学生は、健康診断結果や学校内での事故の発生状況等、
研究対象とした実習記録用紙の質問項目が「実習校の養
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護教諭の活動から学んだこと」としているため、学びを
おいても学ばせたい内容であると考える。
記録しにくかったことも影響しているのではないかと考
2.学校看護実習の課題
える。そのため、本実習で学生が学齢期の子どもの対象
小児を対象に行う看護学実習のうち、小中学校で行う
理解をどのように行ったか、実態は明らかにならなかっ
実習は、健康児を中心に小児看護の対象である学齢期の
た。
子どもの健康課題を捉えることを目的としている大学3)
その一方で養護教諭から説明を受けながら活動を見学
や、地域で生活する子どもの理解を深め、健康な生活の
した体験から、学校生活集団を単位に展開する養護教諭
支援を考えることを目的としている大学 4) 等、養成機
の活動を学ぶことができていた。特に実習の目標の項目
関により様々である。
にあげられていなかった『児童生徒のヘルスニーズの把
本学の学校看護実習は、学校生活集団を単位に展開す
握の方法』の学びの内容は、学校生活集団の中で一人ひ
る看護を学ぶことを目標としているが、同時に唯一健康
とりのヘルスニーズを把握するための方法と、集団単位
度の高い小児を対象に行う実習でもあり、対象の理解を
でのヘルスニーズを把握するという両面からの学びが確
深めることも欠かせない。今回の結果より、学校看護実
認できた。『健康意識を高める働きかけとその方法』
『セ
習では「児童生徒のヘルスニーズ」に関する学習内容が
ルフケア能力を高めるための働きかけ』の学習内容は、
乏しいという課題が明らかになった。今後、実習期間の
養護教諭の活動の中心となるものであり、具体的な活動
延長を含め、直接児童生徒と接する場面を多く設定する
内容を学んでいた。これらの学習内容を、学齢期の子ど
ことや、実習記録の質問項目の内容を見直し、学齢期の
もの発達段階を踏まえた対象特性や、学校という教育活
子どもの対象理解に関する学びを整理できるよう、改善
動の中で行われることの意味と関連させて考えていくこ
を行うことが必要であると考える。
とができるよう、実習後の学内演習で教員が働きかける
また、学生の学びの内容から実習目標を整理していく
ことができれば、生活集団の中で機能する看護の基本的
ことも課題としてあげられる。今回明らかになった学生
な考え方に迫った学びにつなげることができるのではな
の学びの内容から実習目標を精選すると共に、今後は実
いかと考える。
習校毎に設定される実習プログラム内容と学生の学びと
また、『健康問題をもつ児童生徒への援助方法』の学
の関連を、量的な側面からも検討していくことにより、
びの内容は、実習目標の1、4、5に含まれる内容と考
実習プログラム内容を含めて検討を行うことも必要と考
えていたが、新たに学習内容として示していくことで、
える。
さらに、「養護教諭として取り組むべき課題」の記述
健康課題をもちながら学校生活を送る児童生徒への養護
が少なかったという課題については、実習開始前の学内
教諭の役割の理解を促すことになると考える。
さらに、実習記録の質問項目としてあげた「養護教諭
演習で、専門職としての役割を考えることの意味を十分
として取り組むべき課題」では、教員が求めた意図に沿っ
伝えていくことが必要であると考える。同時に、実習後
て記述された学習内容は非常に少なく、学生の記述内容
の学内演習においても、学生の学びから学校生活集団を
は、養護教諭の現在の活動を踏襲したものがほとんどで
対象に展開する看護の基本的考え方を確認 、 整理してい
あった。しかし3名と非常に少ない学生であったが、児
く教員の働きかけの方法を、検討することが必要である
童生徒の観察から課題を捉えたり、学生の考える養護教
と考える。
諭の専門性に照らして、今後取り組むべき課題を挙げた
学生もいた。実習の中から実践上の課題を明らかにする
おわりに
ことは、後続する4年次の卒業研究Ⅰの実習目標ではあ
本報告では平成 15 年度に実施した学校看護実習の学
るが、実習の場で行われている活動の現状をそのまま受
生の学びの内容から、今後の実習の課題を検討した。実
けいれるのではなく、授業で学んだ養護教諭の活動の本
習施設である小中学校も、看護学生の実習の受け入れは
質や、実際に実習の中で観察して捉えた児童生徒の実態
初めての経験であり、双方が試行錯誤の中、実習を行っ
に照らして課題の有無を考える姿勢は、3年次の実習に
てきた。今後、今回の結果をふまえ実習内容と教員の指
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導のあり方を見直し、充実した実習となるよう改善して
いきたい。
引用・参考文献
1) 飯村直子,伊藤久美,江本リナ,他:看護系大学におけ
る 小 児 看 護 学 実 習 の 概 要, 日 本 小 児 看 護 学 会 誌,9(1);
44-45,2000.
2) 澤田和美,奥野順子,石川眞里子,他:小中学校の実習
を通して地域で生活する子どもの理解−「小児看護学実習
Ⅱ」初年度の経験から−,東京女子医科大学看護学部紀要,
4(1);45,2001.
3) 上山和子,木下香織:対象の健康レベルの違いによる小
児看護学実習の学習内容の分析と構造化−病棟実習と学
校保健室実習の学習内容の検討−,日本小児看護学会誌,
8(2);73-78,1999.
4) 前掲 2) 45.
( 受稿日 平成 17 年2月8日 )
̶ 70 ̶
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〔教育実践研究報告〕
成熟期看護技術演習におけるストーマ装具の装着体験を通じて学生が捉えた学び
兼 松
惠 子 1)
田 中
克 子 1)
原
敦
子 2)
What Student Have Learned through the Experience Applying Ostomy Bag
1)
Keiko Kanematsu ,
1)
Katsuko Tanaka , and Atsuko Hara
2)
生に対して担当教員が個別に相談に応じることを伝え
はじめに
成熟期看護技術演習では、「さまざまな健康状態で生
た。1 グループ(学生 12 ∼ 14 名)の演習時間は約 60
活を営んでいる成熟期の人々と家族が健康を維持し、ま
分であった。演習では、ストーマの種類、ストーマサイ
た、健康障害に適応・健康障害から回復して社会的復帰
トマーキング(以下マーキングとする)、装具の種類に
や自立・自律した生活をおくるために関連のある看護技
ついて講義を行い、ストーマモデルを用いて装具の装着・
術を中心に基本的な援助方法を演習を通して学習する」
除去のデモンストレーションを行なった。左下腹部に消
ことを目的に、全体を援助技術、コミュニケーション技
化器系ストーマ(S状結腸ストーマ)、右下腹部に尿路
術、紙上患者の看護過程の展開の演習に分け、2年生後
系ストーマ(回腸導管)を造設したオストメイトである
期の学生に教授している。援助技術の中のセルフケアに
という役割設定をし、消化器系ストーマには 2 品型装具、
関わる看護技術として、ストーマケア演習を行なってい
尿路系ストーマには 1 品型装具を用意した。
演習前に 2 名の学生から他の学生に見られたくない
る。 本研究は、ストーマケア演習の中で行なわれるストー
と個別に相談があったため、演習方法を学生2人 1 組
マ装具の装着体験を行なった学生の課題レポートを分析
から1人に変更した。この演習はセルフケアに関わる看
することによって、オストメイト(ストーマ保有者)の
護技術という位置づけであるため、学生は教員の指導
生活への理解に関する学生の学びを明らかにし、演習に
を受けながら、1人で装具交換を行うようにと、2人 1
おけるストーマ装具の装着体験のあり方について示唆を
組から1人に変更した理由を説明した。学生へのプライ
得ることを目的とした。
バシーの配慮として、スクリーン、カーテンを用いた。
学生は自分でマーキングを行い、直径2cm の円形皮膚
Ⅰ.成熟期看護技術演習におけるストーマケア演習
保護剤をストーマの代わりに左右の下腹部に貼ってか
1.学習目標
ら、装具を装着した。消化器系装具を除去した後は回腸
1)ストーマ装具交換の基本的な知識・技術が習得で
きる。2)装具の装着体験を通して、オストメイトの生
導管をもつオストメイトとして生活を体験してもらうこ
ととした。
演習終了時、希望した学生には尿路系装具内に尿の代
活が理解できる
わりに 50ml 程度のお湯を入れることにしており、ほと
2.ストーマケア演習方法
成熟期看護技術演習全体オリエンテーションの時に、
んどの学生が希望した。お湯を入れることを希望しな
ストーマケア演習(以下演習とする)では装具を装着し、
かった学生に対しては、水を入れなくても装具の装着体
演習後もその状態で生活を体験をすることを説明した。
験自体はできると判断し、学生の自由意志に任せた。課
肌が弱いなどの理由でこの演習が困難であると思った学
題レポートの記述から途中でお湯を一般のトイレに捨て
1)岐阜県立看護大学 成熟期看護学講座 Nursing of Adults, Gifu College of Nursing
2)新潟大学医歯学総合病院 Niigata University Medical & Dental Hospital
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るという体験をした学生がいた。
し、記録用紙使用の承諾可否を明記した承諾書の提出を
学生には装具を装着した状態で翌朝まで普段と変わら
ない生活をすること、但し、装具を装着した皮膚に痒み
求めた。
3.分析方法
や痛みなどの異常を感じた場合はその時点で装具を除去
1)対象:79 名の学生の課題レポートから装着体験
して構わない、困ったことがあれば教員に相談するよう
を通して学生が記述した学びに関する内容を分析対象と
に伝え、除去時の皮膚を保護する目的で油性清浄剤を貸
した。2)方法:①記述内容を繰り返し読み、ストーマ
与した。装着体験中の学生からの相談はなかった。また、
装具装着体験から学んだことに関する記述内容を抽出し
学生の課題レポートから途中で装具を除去した学生はい
た。②記述内容の異なるものを分割し、記述されている
なかったと思われる。
語彙を用いて要約し、1記述数とした。③意味内容の類
演習の課題として、1)ストーマ装具の装着・除去し
似のものを集め、段階的に分類して抽象度を高め命名し
た感想、2)装着体験を通して感じたこと、考えたこと、
た。分析は成熟期看護学講座の教員2名と共同研究者 1
3)もう少し学びたかったことやストーマケア演習に対
名で合意が得られるまで検討した。
する要望をA4の所定用紙に記入して提出させた。なお、
演習に先立って 2 年生前期で、成熟期看護方法4にお
Ⅳ.結果
いて消化器障害を持つ患者の看護の授業でストーマがあ
1.学生の学びの記述数
79 名の学生の装着体験を通して学んだことに関する
る人々とその家族の看護の講義を終了していた。
総記述数は 448 あり、学生一人あたりの記述数は1∼
Ⅱ.用語の説明
11 であった。
演習では、ストーマ造設患者をストーマを保有してい
2.学生の学びの内容
る人という意味のオストメイト1) という名称を用いた。
学生の学びの内容5分類を「大分類」とし、【装具装
本研究においても、オストメイトという表現を用いるこ
着の感覚】の9分類、【生活への影響】の6分類、【ボデ
ととする。
ィイメージの変化】の4分類、【オストメイトの気持ち
ストーマ装具とは、排泄物を一時貯めるためにストー
の推測】の9分類、【オストメイトの立場にたった援助】
マに装着する器具であり、皮膚に貼る面板と袋が一体と
の 10 分類を「中分類」とした。さらに「中分類」を1
なっている一品型装具(通称ワンピース系装具)と面板
∼5の「小分類」に分け、それぞれ要約例と記述数(要
と袋が分離している二品型装具に大きく分けることがで
約例を含む)を示したのが表1である。
きる。いずれも皮膚面に接する面板部分には粘着性のあ
る皮膚保護剤が用いられた使い捨て装具である。
【装具装着の感覚】は、70 名の学生の 153 記述数か
ら得られた。これには、「邪魔な装具の存在」「装具の違
マーキングとは、術前にストーマを造設する位置を決
和感・不快感」「装具の破損に対する不安」「装具の外れ
める作業であり、オストメイトの生活に影響し、大切な
に対する不安」「漏れ・臭いに対する不安」「皮膚障害の
ケアの一つとして位置づけられている。
不安」「装具が外れないという安心感」「漏れないという
安心感」「装具への慣れ」の9つに分類された。
Ⅲ.研究方法
【生活への影響】は、54 名の学生の 86 記述数から得
1.研究対象
られた。これには、「行動・動作・場所の制限」「服装の
研究対象は、平成 15 年度成熟期看護方法9を受講し
制限」「内容物の処理の大変さ」「生活の不便さ」「スト
た2年生 79 名のうち、研究目的に課題レポートを使用
ーマを意識した生活」「ストーマのある生活への適応」
することに同意が得られた 79 名全員の学生である。
の6つに分類された。
2.倫理的配慮
【ボディイメージの変化】は、25 名の学生の 29 記述
研究の目的、個人が特定されないように配慮すること、
承諾の諾否が成績に影響しないことについて口頭で説明
数から得られた。これには、「ボディイメージの低下」
「他の人にストーマを知られたくないという思い」「スト
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表1 学生の学びの分類とその記述数
大分類
中分類
装具装着
の感覚
邪魔な装具の存
在
袋に内容物がなくても気になった
装着後落ち着かなかった
お風呂で気になって落ち着かなかった
2
装具の違和感があった
装具の違和感があった
8
動作時、装具が不快だった
座位になるとき、腹部に違和感を感じて不快だった
装具の音が気になった
スカートでは音がして気になった
装着袋の水が不快だった
袋の尿が冷えて冷たくなるので嫌な感じがした
腹部に圧迫感があった
座っているときに腹部に圧迫感を感じた
1
装具の破損が不安だった
うつ伏せで寝ると袋が破れると思い心配になった
4
装具の外れが不安だった
はずれるのが不安だった
重みで装具が外れないか不安だった
重荷があり、はずれるのではないかという不安があった
漏れ・臭いに対
する不安
臭わないか不安だった
臭わないか不安になる
漏れないか不安だった
水が漏れるのではないかと不安だった
皮膚障害の不安
皮膚への負担が大きいと思った
痒くなったり、痛くなったりするのが欠点だ
4
肌荒れが不安だった
皮膚が弱いので荒れると思った
5
正確に装着すれば装具が外れないこ
とがわかった
きちんと貼れていれば、剥がれないと思った
6
動作時、漏れないことがわかった
剥がれにくいので、いろんな体位をしても大丈夫とわかった
3
装具になれてきた
装具をつけていること自体気にならないことがわかった
5
時間が経つにつれて装具に慣れてき
た
時間がたつにつれて慣れてつけていないような感じだった
8
寝る姿勢が制限された
うつ伏せができないと思った
動きが制限された
バイトの時、装具が気になってしゃがむ動作が難しかった
温泉・プールに行きたくなかった
装具をつけて温泉にいきたくないと思った
服の着脱が難しかった
パンツを臍まであげることが出来ず気持ち悪かった
服装に制限があった
着るものに制限があった
好きな服が着れないと思った
服装に気を使い、好きな服を着ることができず、嫌だと思った
4
トイレが低く水処理が大変だった
トイレが低く袋のお湯が捨てにくかった
8
生活が不便だった
普段の生活に比べると不便だった
2
寝るまでストーマを意識した生活を送ったような気がする
4
下着や服を着ることに慣れるには時間がかかるだろう
3
新しい環境に適応する必要性を実感
新しい環境を受けいれることが必要だと思った
1
生活の違いを実感
実際に体験することで生活の細かい部分も違うということを感じた
2
普通に生活できると思った
装具交換ができれば、普通に生活できると思った
8
ボディイメージが低下した
鏡で見るとボディイメージが崩れる気がした
4
装具をつけている自分に違和感が
あった
入浴時、装着袋があることは奇妙で変な気分だった
4
人目が気になった
水がたまった状態で歩くと人目が気になる
他の人に見られたくない
家族には見せられても、他の人には絶対見せられないと思った
3
他の人が気にすることへの不快感
装具をつけていることを気にされると嫌な気分になると思う
1
ストーマを身体の
一部として実感
ストーマ受容の
大切さ
装具による不快
感の推測
ストーマが身体の一部であることを
実感した
ストーマを身体の一部と受け止める
ことは大切だ
腹部に排泄物があることは不快だと
思う
夏場は装具が蒸れるので不快だと思
う
入浴後、装具を一緒に拭くことでストーマが自分の身体の一部であることを実感
した
1
ストーマを身体の一部として受容することは大切だと思った
5
患者は袋にたまった排泄物を肌に感じるので不快に思うと考える
7
排泄物による不
安の推測
排泄物の臭いが気になると思う
本当の便や尿なら臭いも気になると思った
装具が外れない
という安心感
漏れないという
安心感
装具への慣れ
行動・動作・場
所の制限
服装の制限
内容物の処理の
大変さ
生活の不便さ
ストーマを意識
した生活
ストーマのある
生活への適応
ボディイメージ
の低下
他の人にストー
マを知られたく
ないという思い
オストメ
イトの気
持ちの推
測
記述数
装具が気になった
装具の破損に対
する不安
装具の外れに対
する不安
ボディイ
メージの
変化
要約例
座るとお腹が段になるので、装具が邪魔だと思った
装具の違和感・
不快感
生活への
影響
小分類
動作時装具が邪魔であった
排泄物処理の大
変さの推測
常にストーマを意識して生活してい
た
ストーマに慣れるには時間がかかる
と思った
排泄物の漏れに対する不安があると
思う
装着袋の排泄物を見ることはショッ
クが大きいと思う
6
23
12
2
14
13
5
2
30
8
15
4
5
22
11
ビニールが肌にくっつき、夏は大変だろうと思った
4
11
排泄物が漏れるという不安がストーマの患者にあると思う
5
便や尿が袋にあるのを見るとショックはさらに大きいと思う
1
排泄物の処理が大変だと思う
排泄物の重みで剥がれる可能性があり、排泄物をこまめに処理することが必要だ
と思った
5
装具と排泄物を分けることが大変だ
と思う
捨てる時、排泄物と装具に分けるのは大変だと思った
1
註:記述数は要約例を含む
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表1つづき 学生の学びの分類とその記述数
大分類
中分類
小分類
オストメ
イトの気
持ちの推
測
スキンケアの大
変さの推測
装具を貼る皮膚の負担が大きいと思
う
ストーマ周囲のスキンケアが大変だ
と思う
生活の制限の推
測
行動範囲が狭くなると思う
ストーマのある
生活を続けるこ
との大変さの推
測
手入れをしないと皮膚をいためてしまうので大変だと思った。
3
ストーマを見られたくない人は行動範囲が狭くなると思った
7
水分を制限すると思う
尿を出したくないという思いから、水分をとらないようになると思った
1
服装の制限があると思う
ストーマの人は服を選ばなければいけないこともあると思った
3
オストメイトはストーマに気を使って生活してるのだと思った
3
ストーマへの戸惑いやストレスの中
で生活していると思う
ストーマのある生活を続けることは
大変だと思う
体験ではわからないこともあると思
う
器用でないオストメイトは大変だと
思う
装具購入の経済的負担が大きいと思
う
身体・精神・社会的問題があると思
う
精神的苦痛が大きいと思う
オストメ
イトの立
場に立っ
た援助
記述数
6
日常生活の不安が大きいと思う
装具購入の経済
的負担の推測
身体・精神・社会
的問題の推測
要約例
皮膚の負担が大きいと思った。
普通に日常生活ができたが、毎日続くと大変だと思う
10
便や尿は無臭ではないので、体験ではわからないこともあると思った
1
手先が器用でない人は一生続けていくのは大変だと思った
1
日常生活の制限や誰にも話せないこと、排泄物の漏れ、感染などの不安が大きい
と思う
2
装具購入の経済的負担が大きい
4
ストーマを造設することは一大事であり、身体的、精神的、社会的な問題に直面
すると思う
1
一生ストーマがある患者は生活よりも精神面の苦痛が大きいと感じた
3
ストーマや装具は人前に出る時や服を脱ぐ時に気を使うことになるだろう
3
装具を人に知られたくないという思いを抱いたまま生活することは苦しいのでは
ないかと思う
1
他の人にストー
マを知られたく
ないという思い
の推測
他の人にストーマを知られたくない
と思う
ストーマを知られたくないという気
持ちで生活することは苦しいと思う
漏れ・臭いを防
ぐ援助
臭いに配慮する必要がある
排泄物は臭いので消臭剤があれば心強いと思った
3
漏れへの援助が必要である
尿漏れという不安が常につきまとうので、水分凝固剤を袋にいれておくといいの
ではないかと思った
2
皮膚障害を予防
する援助
生活を考慮した
マーキング
プライバシーの
配慮
適切な指導
皮膚障害を起こさないケアが大切で
ある
皮膚に負担をかけないスキンケアが
大切である
ストーマと周囲の皮膚を清潔にする
ことが大切である
日常生活を考慮したマーキングが必
要である
セルフケアできる位置にマーキング
することが大切である
ストーマの位置を患者と話し合うこ
とが大切である
装具交換時のプライバシーの配慮が
必要と思った
誰かに見られるときの気持ちを考え
ないといけない
患者に合わせた指導が大切である
わかりやすい指導が必要性である
セルフケアに自信がもてる指導が必
要性である
装具を無駄にしない指導の必要性
酸の強い消化液も触れたりするので、スキンケアが大切だと思った
17
スキンケアをしないと肌に負担をかけることがよくわかった
11
ストーマの清潔、皮膚の清潔を保つ必要性を感じた
7
マーキングの時、年齢や普段のスタイルも把握する必要があると思った
5
セルフケアのためにストーマサイトマーキングが大切であると思った
6
ストーマ造設前に装着してどの位置がいいか患者と話し合うといいと思った
2
装具交換時にはプライバシーが守られることが大切だと思った
2
誰かに見られるときの本人と相手の気持ちを考えていかないといけない
1
患者がやりやすい方法を一緒に考え、指導していくことが大切であると感じた
3
自分で処理するためには、視覚、聴覚も入れた教育がわかりやすく必要であると
思った
患者が自信をもってセルフケアできるように指導していかなければならないと
思った
患者には失敗するとその装具が仕えなくなることを指導しないといけないと思っ
た
2
1
1
セルフケアへの
援助
ストーマケアは工夫が大切である
入浴時、工夫が必要と思った
3
セルフケアが大切である
正しいやり方を学び、セルフケアがとても大切だと思った
4
QOLを高める
援助
生活に合わせた援助が必要である
日常生活に適応して自分らしく過ごせるための援助が求められていると思った
4
QOLを高める援助が必要である
オストメイトがセルフケアができ、QOLを高めていく必要があると思った
1
生活環境が整備するとよい
ストーマの人が生活しやすい環境が整うといいと思った
2
ストーマケアの簡便さを世間に伝え
ること
ストーマのイメージがつく装着体験
が必要性である
ストーマは簡単で負担にならない装具の一つだと思うので、たくさんの人に知っ
てもらいたい
患者が手術前に装具装着体験をすることで、造設後の生活をイメージでき、受容
が容易になる
ストーマの位置を自分で考えて決定できるということは自分でストーマを受け入
れるきっかけになると思った。
ストーマ受容へ
の援助
マーキングがストーマ受容を促す
患者・家族への
精神的援助
看護師の関わり
の大切さ
1
2
5
精神的サポートが必要である
精神面のサポートが必要かなと思った
7
患者・家族への精神的サポートが必
要である
本人だけでなく、家族のショックも大きいので、精神的サポートが重要だと思っ
た
1
看護師の関わりが大切である
ストーマ患者への看護師のかかわりは大切だと感じた
2
看護師としての援助を考えたい
ストーマがある人の漏れや剥がれに対する心配をなくすために、看護職として何
ができるか考えたい
1
̶ 74 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
ーマを身体の一部として実感」「ストーマ受容の大切さ」
に尿の代わりに水を入れたことで水が漏れるという不安
の 4 つに分類された。
が生じたためと思われる。演習後、装具を装着し帰宅す
【オストメイトの気持ちの推測】は、50 名の学生の
るまでの間、アルバイトをしたり、電車に乗るなど帰宅
83 記述数から得られた。これには、「装具による不快感
するまで数時間あったことから、緊張して過ごしていた
の推測」「排泄物による不安の推測」「排泄物の処理の大
ことが不安を増強させたのではないだろうか。これらの
変さの推測」「スキンケアの大変さの推測」「生活の制限
不安は、オストメイトが日頃感じている不安3)でもあり、
の推測」「ストーマのある生活を続けることの大変さの
学生はこの体験によって、オストメイトの不快感や不安
推測」「装具購入の経済的負担の推測」「身体・精神・社
な気持ちを実際に感じることができたようである。
肯定的受け止めでは、装具の外れや漏れがなかった
会的問題の推測」「他の人にストーマを知られたくない
ことによる安心感とともに装具に慣れてきたことを実感
という思いの推測」の9つに分類された。
【オストメイトの立場にたった援助】は、59 名の学生
していたと思われる。学生によっては長時間装着するこ
の 97 記述数から得られた。これには、「漏れ・臭いを
とによって反対に、装具の外れや漏れがないとが実感で
防ぐ援助」「皮膚障害を予防する援助」「生活を考慮した
きていたようである。装着体験の時間については今後検
マーキング」「プライバシーの配慮」「適切な指導」「セ
討していきたい。
ルフケアへの援助」「QOLを高める援助」「ストーマ受
【生活への影響】では、86 記述数のうち「姿勢・行動・
容への援助」「患者・家族への精神的援助」「看護師の関
場所の制限」に関する記述が 32、「服装の制限」に関す
わりの大切さ」の 10 に分類された。
る記述が 26 と【生活への影響】全体の記述数の過半数
を占めていた。学生は衣服の着脱や起居動作に不自由を
Ⅴ.考察
感じただけでなく、普段ぴったりした服を着ていること
1.学生の学びの内容 が多く、演習後のそのような服装で過ごしていたことや
【装具装着の感覚】についての学びが最も多く、学生
おしゃれをしたい年代の若い女性であることが服装への
の 9 割近くになったのはストーマ装具を実際に自分の
制限を感じることに繋がったと思われる。「内容物の処
腹部に装着するという身体への直接的体験学習であった
理の大変さ」については、演習終了時に水をトイレで捨
ことが影響していたと思われる。装具の装着体験に対し
てるようにと意図的に教員が働きかけたことで、学生は
て、「邪魔な装具の存在」「違和感・不快感」といった否
オストメイトにとって一般のトイレは使いにくいことが
定的受け止めは 68 記述数あり、肯定的受け止めである
わかったようである。
「装具が外れないという安心感」「漏れないという安心
このような体験から、学生は生活の違いや不便さ、新
感」
「装具への慣れ」の 22 記述数を大きく上回っていた。
しい生活への適応について考えることができていた。実
網嶋ら 2) は学生に 2 時間の装着体験を課し、装着体験
際の生活の中で行なった装着体験が【オストメイトの気
に対する肯定的回答と否定的回答がほぼ同じ比率であっ
持ちの推測】に繋がったと思われる。8記述数ではある
たと報告していた。本研究では、演習後から翌朝まで十
が、「普通に生活できると思った」と装具を装着した生
数時間装着したという時間の長さも否定的受け止めに影
活への前向きな姿勢が窺えた。
響したのではないかと考える。学生の否定的受け止めに
【ボディイメージの変化】についての記述が 3 割の学
は、装具のもつ厚みや音、肌触りなど装具の問題もある
生にとどまったのは、今回は主に通学やアルバイト時の
が、装着時に皮膚を十分伸展しない場合、違和感が強く
動作、衣服の着脱、入浴、睡眠時の姿勢などの日常生活
なることから、装着姿勢が適切でなかったことも考えら
を通してオストメイトの生活を理解するという目的で、
れる。
体験を翌朝までと限定したことから、体験期間が短く装
学生は不快感や違和感だけでなく、装具の破損・外れ、
漏れ・臭い、皮膚障害に対する不安についても記述して
いた。これは、装具の破損や外れの不安に加えて演習後
具や生活に関心が集中し、ボディイメ ージの変化まで
考える精神的余裕がなかったからではないかと考える。
「ボディイメージの低下」や「他の人にストーマを知ら
̶ 75 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
れたくないという思い」から学生の大半はボディイメー
慮」
「ストーマ受容への援助」などが出ていると思われる。
ジが低下したと捉えていた。これは、他人の視線を気に
学生が記述した援助内容は多岐にわたっていた。
するだけでなく、入浴時に装具をつけている自分の姿を
全般的に装着体験に対して否定的な記述が多く見られ
見てボディイメージの崩れを感じていることから、自分
たが、単に装着体験を否定的に受け止めるだけでなく、
自身が感じる自分の姿からボディイメージを低下させて
装着体験から得られたさまざまな学びをオストメイトの
いたと思われる。
気持ちの共感に繋げ、さらに援助として何が必要かとい
「ストーマが身体の一部であることの実感」と「ストー
う看護に目を向けることができたと言えよう。しかし、
マを受容することの大切さ」については、学生は最初は
20 名の学生は看護者の視点で記述されておらず、演習
違和感や不快感を感じていても、時間の経過とともに装
の目標をオストメイトの生活の理解としたことが学生の
具への慣れや体験を積極的に捉えることできたことで、
学びを狭めることになったとも言える。
前向きな記述となったのではなかろうか。また、既習の
以上のことから、学習目標2)では、オストメイトの
学習でボディイメージとストーマ受容の大切さを教えた
生活の理解として、装具を装着した感覚やストーマがあ
ことにも影響されていることも考えられる。
ることが生活にどのように影響するか体験を通して学ん
【オストメイトの気持ちの推測】は 6 割の学生は自分
でほしいと考えていたが、学生の学びのうち、【装具装
自身の体験を通してオストメイトの気持ちを推し量るこ
着の感覚】【生活への影響】【ボディイメージの変化】の
とができていた。「装具による不快感」「スキンケアの大
3つはストーマ装具を装着した体験を通して自分の立場
変さの推測」「生活の制限の推測」「他の人にストーマを
で理解した学びであり、【オストメイトの気持ちの推測】
知られたくないという思いの推測」などは、【装具装着
【オストメイトの立場にたった援助】は看護者の立場に
の感覚】【生活への影響】【ボディイメージの変化】の学
立った学びと捉えることができた。学生は単に自分の立
びの内容と一致するものも多く、学生は自らの体験をオ
場からの学びだけでなく、装着体験を通してオストメイ
ストメイトの気持ちや置かれている状況に重ね合わせて
トの気持ちを推し量り、看護としてどうあるべきかとい
推測することが出来たからと思われる。「排泄物による
う看護者の立場に立って学ぶことができ、学生の学びに
不安の推測」「排泄物の処理の大変さ」は、学生は装具
は性質の異なる学びが含まれていた。今回の結果から、
の中に水を入れた体験から、便や尿が入っている状態が
学習目標2)の課題は達成できたと考えるが、すべての
容易に連想することができたからと思われる。
学生がオストメイトの生活の理解だけでなく、装着体験
また、オストメイトの大変さを推測するだけでなく、
を通して看護についても深めることができるように学習
オストメイトの経済的問題についても考えることが出来
目標2)に、看護の視点も明記する必要があると考える。
ていた。これは、既習の学習の中で、社会資源の活用や
2.研究の限界
装具購入費用に触れていたことや演習時に装具の価格を
本研究は、課題レポートの記述内容を分析したもので
学生に示した結果と思われる。性機能障害や患者会に関
ある。学生の課題レポートをA 4 の規定用紙 1 枚に限
する記述が見られなかったが、これらは体験学習の限界
定したこと、問いかけを感じ、考えたことに限定したこ
であり、既習の学習の中で強化する必要があると考える。
とによって、学生は学んでいるが記述しなかった学びも
【オストメイトの立場にたった援助】は 7 割の学生に
あったかもしれないということに本研究の限界があっ
看護者としての視点があることが窺えた。学生が装着体
た。
験を通して感じた不快感や不安感から「漏れ,臭いを防
3.演習における今後の課題
止する援助」「皮膚障害を予防する援助」、生活の不自由
ストーマケア演習における装具の装着体験は、今後も
さから「QOLを高める援助」「生活しやすい環境の整
継続する予定である。本研究の結果を踏まえて、以下の
備」、生活に影響するストーマの位置への気づきから「生
点について検討が必要である。
活を考慮したマーキング」、人に知られたくないという
1)装着方法や姿勢についての指導方法の検討及び皮膚
思いやボディイメージへの低下から「プライバシーの配
̶ 76 ̶
障害への不安を抱いている学生に対する対応
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
2)ストーマケア演習における装具の装着体験に関する
学習目標の設定および課題レポートの内容と様式
3)正当と思われる理由で、学生が装着体験を拒否する
場合、学生の不利益にならないように学習目標が到
達できる他の演習方法を学生に提示する
おわりに
ストーマケア演習において装具の装着体験をすること
は、学生が自分自身の体験を通してオストメイトの気持
ちや生活について考えを深めることができたと考える。
【装具装着の感覚】【生活への影響】【ボディイメージの
変化】だけでなく、【オストメイトの気持ちの推測】【オ
ストメイトの立場に立った援助】から、これらの学びが
看護者としての視点を育てるという効果も得られた。今
後も検討を重ねながら、学習目標が達成できる演習を構
築していきたいと考えている。
引用文献
1) 日本リハビリテーション学会編集:ストーマリハビリテー
ション学用語集;67,金原出版株式会社,1997.
2) 網嶋ひづる,岡山寧子,滝井智美,他:ストーマケアにお
ける体験学習の効果,京都医科大学医療技術短期大学部紀
要,4(2);43-52,1995.
3) 兼松惠子,吉田明子,林美紀,他:ストーマ造設患者の術
後 1 年間の生活及び気持ちの変化,日本がん看護学会誌,
17;71,2003.
(受稿日 平成 17 年 2 月 14 日)
̶ 77 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
本学における助産教育の展開と課題(第1報)
−助産教育の現状からの検討−
服 部
律 子
谷 口
布 原
佳 奈
兼子
通 英
堀 内
寛 子
真理子
荒 尾
美 波
Nurse-Midwifery Education in Gifu College of Nursing (Part 1)
Ritsuko Hattori,
Michie Taniguchi,
Kana Nunohara,
Hiroko Horiuchi,
Mariko Kaneko, and Miwa Arao
はじめに
要とされる。
本学では看護教育の学士課程において助産師養成の教
育を行っている。平成 16 年にはじめての助産師の国家
本稿では、本学における学士課程での助産教育の編成
の現状を整理し、今後の課題について検討する。
試験受験資格をもった学生が 6 名卒業し、全員が国家
Ⅰ.本学における助産教育の編成
試験に合格し、助産師として勤務している。
従来の助産師養成教育は、看護基礎教育を終えた後に
看護学士課程では、保健師・助産師・看護師の三職種
1 年の専門学校、または短期大学専攻科での教育がほと
の免許取得に必要な教育内容を精選し、看護学基礎教育
んどであり、基礎教育の中に組み込まれるカリキュラム
の体系化を目指しているが、助産師については、免許取
の形態となってきたのは、4 年制の看護系大学が急増し
得に必要な教育内容の一部を選択科目に位置づけ、希望
てきたここ 10 年のことである。大学 4 年制の教育課程
者が助産師国家試験受験資格を取得する方法をとってい
に助産教育を含めることについては、多くの課題が議論
る大学が多い。それらの選択科目の内容については、各
されてきた。過密な実習・講義による学生や教員への負
大学の助産教育課程の編成により、単位数など違いが認
担や、カリキュラム編成上の問題や講義・実習時間の絶
められる5)。
本学では、教育内容の精選をはかり、看護学教育のよ
対的不足、助産師としてのアイデンティティ形成困難等
の問題が指摘されてきた
1∼3)
。
り本質的な内容を効率的に教授する努力を重ね、教育課
しかし、日本看護系大学協議会の看護実践能力検討委
程のスリム化を図っている。これは、専門性の高い内容
員会では、看護学の学士教育課程編成の考え方において、
に走り、断片的で細分化した知識・情報の羅列になりが
「保健師・助産師・看護師に共通した看護学の基礎を教
ちなこれまでの看護学教育の見直しのうえに、中核とな
授する課程であること」としており、助産師養成の教育
る基礎的事項のみに精選するねらいをもっている6)。助
課程は、大学 4 年間の教育課程全体のなかで体系化さ
産教育についても自由科目を含め、同様の考え方で中核
4)
れているところに学士課程の特色がある 。
となる基礎的事項に絞り、かつ従来の分娩介助を中心と
本学においても学士課程での助産師養成は、日本看護
した助産や、妊産婦の保健指導にとどまらず、次世代を
系大学協議会の基本方針に基づいて、カリキュラムを編
育成する女性のリプロダクティブヘルスへの援助をはじ
成しているのであるが、さらに教育内容を精選し本学の
め、育児期にある家族への子育てと健康への支援に関す
理念に基づいた教育課程の見直しを図っていくことが必
る教育内容も含んでいる7)。本学の助産教育と指定規則
岐阜県立看護大学 育成期看護学講座 Nursing of Children and Child Rearing Families, Gifu College of Nursing
̶ 79 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表1 本学の助産師教育課程と指定規則に定める教育内容との比較
教育内容(単位数)
基礎助産学(6)
旧カリキュラム科目
本 学 の 現 行 の 教 育 内 容 ( 単 位 数 )
助産学概論
助産学概論 (1)*:助産学の概念、助産の意義と役割を学ぶ。
生殖の形態・機能
育成期看護学概論A (1):女性のライフサイクル各期における母性の特性・健康問題の理解。性と生殖の理解と
母性の心理・社会学
セクシュアリティの発達について学ぶ。
育成期看護学概論B (1):子どもと家族への看護について学び、子どもの生活の健康について考える。
人体の物質交換システム (1):人体のしくみを学び、人体を構成する細胞の構造と働きと代謝について理解する。
人間の環境応答システム (1):体外環境への適応と体内環境の恒常性維持に関わる一連のプロセスについて学ぶ。
自己保存・種族保存システム (1):生殖のメカニズムやヒトの個体維持の生存能力について学ぶ。
乳幼児の成長発達
助産診断・技術学(6)助産診断学・助産技術学
育成期看護方法5 (1):小児の成長発達を支える看護と援助方法について学ぶ。
助産方法 (2)*:助産過程の展開に必要な知識・診断技術および助産の実践に必要な基本的技術を習得する。
育成期看護方法3 (1):母性・父性の発達の健康を支える看護。女性のライフサイクルにおける発達課題と健康問題。
育成期看護方法4 (1):出生に関わる看護を学ぶ。妊娠・分娩・産褥・新生児期各期のケアの原理と方法。
地域基礎看護方法5 (1):人々の健康生活支援において基本となる対応技術を学ぶ。
地域基礎看護方法 11 (1):精神の発達と健康を促進する看護活動のあり方と方法を理解する。
地域母子保健(1)
地域母子保健
育成期看護方法1 (1):地域を基盤に子どもとその家族を対象に展開する看護活動の方法および、看護職の役割に
助産管理(1)
助産業務管理
ついて学ぶ。
育成期看護方法 2 (1):地域で展開する育成期を対象とした保健活動とそこで展開する看護の特徴について学ぶ。
臨地実習
助産診断学・助産技術学
助産学概論 (1)*:助産の概念を学び、助産の実践に必要な看護管理の基本的な考え方を理解する。
助産学実習(8)
育成期看護学卒業研究Ⅰ ( 助産実習 ) (5):助産過程の展開に必要な診断技術および助産の実際を体験し、基本的
技術を習得する。
育成期看護学卒業研究Ⅱ ( 助産実習を含む ) (7):看護の総合的能力、看護実践能力を高める。
* 自由科目:助産師国家試験受験資格のための必修科目(3単位)
に定める教育内容との比較を表1に示した。この表に示
期からの支援、育児支援と虐待予防など今日的な課題を、
すとおり、本学では助産師養成での統合カリキュラムを
授業協力者の話題提供を含めながら、ディスカッション
推進している結果、自由科目は「助産学概論」1 単位と「助
している。
産方法」2 単位である。指定規則に定める教育内容のほ
2.助産方法
とんどは、学士課程の教育内容に含まれている。
助産方法は、分娩介助や妊産婦の保健指導を中心とし
た助産技術の基本的内容を学ぶことを目的としている。
Ⅱ.本学における助産教育の現状
育成期看護方法の枠を越えた内容を、選択科目として助
本学における助産教育の内容と平成 16 年度の現状を
産方法で学ぶのであるが、そのねらいとしては、①分娩
3 年生後期からの自由科目の講義・演習、4 年生の履修
介助技術の理論と実際を学ぶ ②妊産婦の保健指導の実
単位である卒業研究Ⅰ・Ⅱにおける助産実習と卒業研究
際を学ぶ ③周産期の異常について学ぶ の 3 点に絞っ
について述べる。
て演習を伴う講義をしている(表3)。①については実
1.助産学概論
際の技術演習にはかなりの時間数が必要であり、実際に
本学の助産学概論では、助産学の概念と助産の意義や
は助産実習選択者のみが春期休業の補講や自己学習で学
役割を学ぶことを目的としている。講義内容は 2 時限
んでいるが、助産方法の講義においても、最低限の演習
続きの時間割を組み、少人数教育の利点を活かし(受講
を組み入れ、分娩介助の実際がイメージできるまでの内
者 20 名程度)受講者が積極的に参加するゼミ形式とし
容を含んでいる。②の保健指導については、グループ学
ている(表2)。各回の講義では、現代に求められる助
習を中心に、実際の指導に応用できるようなパンフレッ
産の役割や課題に中心をおき、助産師として将来的に幅
トつくりをはじめ、指導の具体的な内容を学ぶことを意
広い分野で活躍するため見識を深め、4 年次の助産実習
図している。③の周産期の異常についての学習は、正常
への動機を高めることを意図している。概論では、今後
範囲とされる周産期の看護過程を中心に学習した 5 セ
求められる助産師の活動範囲を拡大し、生殖補助医療の
メスターまでの育成期の講義・実習では扱えなかった内
高度化に伴う生命倫理や、医療事故と助産師の責任範囲
容であり、助産師としての判断能力育成のためには不可
や利用者の人権擁護、リプロダクティブヘルスへの思春
欠な知識である。
̶ 80 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
表2 助産学概論の講義テーマ
講義
1
テーマ
ねらい
助産学の概念と現代における助産の 助産とは。助産師の働く場や求められる役割を
役割・助産学研究
現代の少子化社会から考える。
2
育児をとりまく社会環境と母子保健 助産師が専門性を発揮できる育児支援のありか
対策・育児支援と助産師
たを学ぶ。
3
現代における性教育の課題と助産師 助産師の専門性を生かした、性教育のあり方を
による性教育の実際
学ぶ。
4
不妊治療の看護からみた課題
不妊治療と看護カウンセリング
不妊治療の今日的な課題と助産師の役割につい
て学ぶ。現代の生殖医療と生命倫理について考
える。
5
地域の助産院の意義と役割
助産業務管理の実際について学ぶ。
助産院での分娩
6
国際協力と助産師・開発途上国での 国際協力における助産師の援助の実際と今後求
母子保健の現状と課題
められる役割について学ぶ。
7
医療事故と助産師・リスクマネジメ 医療事故の分析をとおして、利用者の人権と安
ント
全を守ることを考える。
表3 助産方法の講義内容
講義回数
1
講義内容
助産診断概論・助産過程
項目
助産診断・助産過程の考え方・助産師のケアの質と安全で安楽
な分娩
2∼7
妊娠期の助産診断と援助技術の習得
妊娠期の経過診断・健康生活診断と診断技術
胎児の健康状態の診断・超音波アセスメント
妊婦とその家族への出産準備教育と日常生活指導
両親学級など集団指導の方法
(演習含む)
8 ∼ 15
分娩期の助産診断と援助技術の習得
分娩期の経過診断・健康生活診断と診断技術
入院時の看護
分娩期の診断技術・分娩介助技術
産痛緩和技術・会陰保護・出生直後のケア
(演習含む)
16 ∼ 20
産褥期の助産診断と援助技術
産褥期の経過診断・健康生活診断
乳房管理技術・母乳確立へのケア
21 ∼ 23
新生児期の助産診断と援助技術
新生児期の経過診断・健康生活診断
新生児のケアと管理
1 か月児の健康審査と乳児期の観察
児に異常があった場合の母親と家族へのケア
24 ∼ 26
妊娠期の異常と病態生理
産科医による講義
妊娠中毒症・前置胎盤・常位胎盤早期剥離
多胎妊娠・合併症妊娠
27 ∼ 29
新生児・未熟児の異常と管理
30
試験
小児科医による講義(ハイリスク新生児)
̶ 81 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
3.助産実習
い。そのため助産教育においては従来から継続事例に関
助産実習は指定規則では 8 単位とされている。本学
する実習を実施しているところが多い。本学でも助産実
では、助産過程の展開に必要な診断技術および助産の実
習が卒業研究として、通年にわたって取り組める利点を
際を体験し、基本的な助産技術を習得する助産実習の履
生かして、積極的に継続事例の展開を指導している。表
修内容を卒業研究Ⅰ・Ⅱに位置付け、技術習得の実習の
5は継続事例の実習期間と保健指導回数および次に述べ
みならず、看護過程の展開において研究課題を見出し、
る継続事例から取り組んだ卒業研究テーマである。平成
自己の実践を振り返り追究するという看護研究のあり方
15 年度は継続事例のみ大学に近い C 病院の協力も得た。
にもつながるような実習を行っている。本学の卒業研究
3)助産業務管理実習
は実習・演習科目であり、特に卒業研究Ⅰでは臨地実習
助産業務管理実習では県内の開業助産院2件を見学
が中心となる。
し、助産師の専門性と助産所開設に関わる助産業務内容
1)分娩介助実習
について学んでいる。
4.卒業研究Ⅱへの取り組み
助産実習初年度の分娩介助実習の結果は表4に示し
た。実習期間は、前期実習は A 病院で平成 15 年 5 月6
本学における助産教育の教育課程の特徴については、
日(火)∼ 6 月 26 日(木)の火・水・木に行った。実
前述したように、助産実習が卒業研究の単位に含まれ、
習 2 週目からは火・水は夜間も 2 人組みで実習する当
助産実習での看護過程(助産過程と同義)の展開より、
直体制に入った。夏期実習は A 病院と B 病院で平成 15
学生が看護の特質を明確化し実習を通して学び取り、さ
年 8 月 11 日(月)∼ 9 月 26 日(金)まで行った。B
らに研究活動として発展させることを意図している。本
病院は宿泊を要する遠方の実習施設である。2 週目より
来卒業研究Ⅰは 5 単位、Ⅱは 7 単位であるが、助産実
同様に学生は 2 人組みで当直とし 24 時間体制で分娩介
習が 8 単位であるため、研究活動をもとに報告書を作
助実習に臨んだ。結果は4名の学生が 10 例以上、2 名
成する卒業研究Ⅱは 4 単位となる。
本学の卒業研究のねらいは、学生の主体的な実践によ
の学生が 9 例の分娩介助実習を達成でき、指定規則に
定める 10 回程度の分娩介助の条件を満たしていた。
り看護過程の展開を自立して行うことにある。助産実習
2)継続事例実習
についても、助産過程の各時期の診断や技術に関して
助産師の業務では、妊娠期から産褥期、新生児の保健
は、臨床指導者の指導に負うところが大きいが、分娩各
指導と妊娠初期から継続した保健指導が最も必要性が高
期のケアを経験するにつれて、自立した関わりができる
表4 平成 15 年度分娩介助例数一覧
施設名
実習期間
前期実習
A 病院
5/6 ∼ 6/26 8 週間
(火・水・木)
8例
B 病院
夏期実習
17 例
8/11 ∼ 9/26 7 週間
(月∼日)
31 例
C 病院
合計
5/6 ∼ 11 初
8例
学生 1 名あたり 9 ∼11例 平均 10 例
<内訳> 9 例・・・ 2 名 10 例・・・ 2 名 11 例・・・ 2 名
< 10 例に達しなかった学生 2 名について>
・1 名は子宮口全開大までのケアを 5 例経験
・1 名は帝王切開事例となった。分娩第一期を数例経験
̶ 82 ̶
合計
2例
8/11 ∼ 9/26 7 週間
(月∼日)
学生全体の分娩介助経験
継続事例
(5 11 月初)
48 例
27 例
31 例
2例
2例
4例
60 例
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
表5 継続事例の実習期間と保健指導回数および卒業研究テーマ
学生
A
B
初回妊婦
指導
(外来)
22 週
27 週
妊 娠 期 の 分 娩 入 院 受 け 持 ち 1ヶ月健診
外 来 で の 期間
指導回数
6回
8 月末∼ 56 日間
○
帝王切開
13 回
10 月末∼ 9 日間
帝王切開
C
27 週
8回
10 月初∼ 7 日間
正常分娩
D
18 週
10 回
11 月初∼ 8 日間
正常分娩
E
26 週
6回
10 月末∼ 7 日間
正常分娩
F
19 週
10 回
11 月初∼ 7 日間
正常分娩
家庭訪問
卒業研究テーマ
○
IUGR により長期入院管理のもと緊急帝王
切開に至った母親の心理
○
○
肥満妊婦の体重コントロールに向けたア
プローチ
○
○
妊娠期から産褥期における父親役割の獲
得と看護の役割について
○
○
妊娠経過に伴う母親としての心理的な変
化の過程
○
○
○
○
不安の強い妊婦への援助の一考察
―適応の過程を支えるー
依存傾向にある初産婦の不安を中心とし
た感情についての検討
ように、教員や臨床指導者との話し合いのなかで指導し
長いが、施設の特性により、正常分娩件数が近年減少し
ている。特に継続事例の実習では、一人の妊婦と新生児、
ており、学生が受け持てる事例が非常に少ない。最近の
その家族を通して 3 ∼4か月間の長期間にわたり経過
傾向として、産婦人科単科の診療所での正常分娩が増加
を観察し、きめ細やかな指導やケアを実践することをね
している。実習施設が地域の中核病院なので、リスクの
らいとしているので、学生は対象との関わりから看護の
高い妊産婦が集中し、正常分娩件数は減少している。診
特質を学べる。その実習の展開を研究的な視点で振り返
療所は助産師を主体とした看護体制が不十分なところが
ることは、単なる技術教育にとどまらず、看護基礎教育
多く、実習指導の面で不都合となることが多い。
として重要であると考えている。卒業研究Ⅱでは、Ⅰで
平成 15 年度は、分娩第一期のケアを行い結果的に帝
の実習から発展させて、研究活動を行うのであるが、学
王切開になってしまった事例は、分娩介助事例に含めて
生の多くは継続的に関われた事例からテーマを選んでい
いないが、今後分娩件数が減少すると、そのような事例
る。平成15 年度の学生は継続事例から研究テーマを設
も含めざるを得ない可能性もある。効果的な分娩介助実
定し報告書にまとめた。研究テーマを表5に示した。
習とするために、実習施設の特性に応じた学習の方法や、
分娩介助事例の考え方なども検討する必要がある。たと
Ⅲ.本学における助産教育の課題
えば、ハイリスク事例の多い実習施設では、分娩介助実
本学の助産課程の教育編成と助産実習についての概要
習として異常経過をたどる妊産婦への助産過程や、ハイ
を述べたが、以下問題点を検討する。
リスク新生児のケアも含めて、助産実習にどう取り入れ
1)分娩件数の減少と分娩介助実習
るかなどである。
平成 15 年度では、60 例の分娩介助実習を行うこと
また実習施設を診療所や中小病院に移行できるかにつ
ができたが、実習期間は 5 月初旬より 11 月初旬までに
いては、臨地での実習指導の問題があり、診療所で助産
及び、結果的に長期の実習を学生に強いる結果となった。
師が主体的に分娩を行っている施設の開発とともに、診
大学での助産実習については、専門学校や短大と比べ、
療所での助産ケアの向上に向けて、大学と共同した取り
7)
実習期間が短いことが問題となっている 。本学では前
組みができるようにしていきたいと考えている。
半の 8 週間は週の半分しか実質的には実習時間として
2)継続事例実習と卒業研究
数えられないので、週数のみを比べることはできないが、
継続事例は本学では妊娠中期から分娩後 1 か月まで
後半の 7 週間を加えると、15 週間の実習である。大学
の期間を受け持っているが、分娩入院期間が 8 セメス
教育での実習週数の平均は 8.25 週であるので、かなり
ターにかかり、入院期間によっては、入院中のケアが十
̶ 83 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
分できなかったという反省がある。また継続事例の分娩
引用文献
が 8 セメスターになると1ヶ月健診は 11 月になり、研
1) 草間朋子,粟屋典子,宮崎文子:助産師教育の大学院化を
究報告の取りかかりがかなり遅れ、実習と研究の両立を
求められる学生にはかなり負担が大きい。継続事例は助
期待する,助産雑誌,57(1);15-20,2003.
2) 平澤美恵子:学士課程における助産学教育の実態について,
産実習では意義ある経験として分娩介助実習と同程度に
全国助産師教育協議会教育制度委員会・小委員会報告,看
位置づけているのであるが、展開の方法を検討する必要
護教育:33(5);336-341,1992.
がある。
3) 熊澤美奈好:看護大学における助産師教育の実際,平成
3)指導教員や臨床指導者の負担増大の問題
14 年度事業活動報告,全国助産師教育協議会,2003.
助産実習は、基本的に昼夜通して行われている。実習
4) 看護学教育のあり方に関する検討会:看護実践能力育成の
期間 15 週は、夜間の実習については、臨床指導者や現
充実に向けた大学卒業時の到達目標,日本看護系大学協議
場スタッフに任せているが、緊急時であれば教員の参加
会看護実践能力検討委員会,2004.
も考えられる。また日勤中は原則として教員は学生の指
5) 江幡芳江:実態調査からみた助産師技術教育の問題点,助
導にあたるようにしている。5 月∼ 6 月の卒研実習期間
は、カリキュラム上の実習期間であるが、夏休み実習で
産雑誌,58(3);204-210,2004.
6) 平山朝子:教育課程編成の考え方と特色,学士課程カリキュ
ある 7 週間は、指定規則にある助産実習にあたる実習
である。宿泊を伴う実習なので、教員も 7 週間、交代
ラムの開発,Quality Nursing,9(6);81-86,2003.
7) 前掲 5).
で宿泊している現状である。このような指導者側の問題
は、助産課程をもつ大学では、いつも問題になっている
(受稿日 平成 17 年 2 月 28 日)
ことであり、本学のみならず、4 年制大学全体の問題と
しても考えていくべきである。
また臨床指導者は、技術指導を中心にきめ細やかに対
応していただいている。臨床指導者と大学教員との綿密
な連携をはかり、指導の充実にむけて共同で取り組みた
いと考えている。実習を通してのスタッフとの交流は、
共同研究へもつながっていき、本学の教育研究の素地を
つくっていくものだと考えている。
まとめ
本学の助産実習の現状と課題について平成 15 年度の
実績をもとに考察した。本学は看護学の専門の基礎を体
系的に教授することを基本方針としており、助産師にお
いても看護実践に共通する専門性の教育を基礎に、助産
師養成の専門的な教育の内容も精選し、免許取得のため
の選択科目を設けている。また助産実習は卒業研究に位
置づけ、助産過程の展開を研究的に追究する方法をとっ
ている。今後は分娩件数の減少は必至であるので、少数
の分娩件数をいかに有効に実習させていくか、実習施設
と共に検討していかなければならない。
̶ 84 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
本学における助産教育の展開と課題(第2報)
−分娩期実習の実際−
堀 内
寛 子
服 部
布 原
佳 奈
兼子
律 子
谷 口
通 英
真理子
荒 尾
美 波
Nurse-Midwifery Education in Gifu College of Nursing (Part 2):
Delivery Term Practice
Hiroko Horiuchi,
Kana Nunohara,
Ritsuko Hattori,
Michie Taniguchi,
Mariko Kaneko, and Miwa Arao
はじめに
平成 15、16 年度の分娩期実習実績の一部を紹介しなが
助産教育が大学教育へと移行してきた現在、多くの助
ら、今後の課題について検討する。
産師養成学校が従来1年間で行ってきた教育を4年とい
う限られた時間内で教育することの難しさは助産教育
Ⅰ.倫理的配慮
に携わる誰もが指摘するところである1)。つまり、教育
評価表や実習記録の取り扱いに関しては、統計的に処
の時間数の激減により従来当然として行われていた継続
理するため個人名がでないことを学生に説明し、データ
事例実習など、日数を要する実習を断念せざるを得なく
として用いることの了解を得た。又、受け持ち産婦には、
なったり、分娩介助をはじめとする学生の経験の不足も
プライバシーの保持を厳守しながら情報の一部をデータ
問題となっている。又、卒業時点での学生の質の問題も
として使用することがあることを説明し、了解を得た。
2)
指摘されている 。
本学では、4年次の卒業研究Ⅰの5単位と卒業研究Ⅱ
Ⅱ.本学における助産教育
の7単位の合計 12 単位中8単位を「助産実習」の時間
1.分娩期実習の全体像
としている。このようなカリキュラムの関係上継続した
1)実習目標
実習期間を設けることができる上、カリキュラムにおい
本学の助産実習は、育成期看護学卒業研究グループⅠ
ても母性看護と助産師になるために必要な科目内容を精
の中で行っている。ここでは、妊産褥婦、胎児、新生児
選し、無駄を省くことで有効に時間を利用することがで
の健康状態を総合的に判断する能力を身につけ、必要な
きている。又、そのことは、助産師学生として、最低限
看護過程を展開し実践できる技術を習得することを大き
学ばせたいことや体験させたいと考えていることの大部
な目標としている。また正常分娩では、産婦の状態を判
分を学生に経験させることに役立っている。
断し、分娩介助技術を習得すること。具体的には、①分
第1報では、本学における学士課程での助産教育の編
娩開始、分娩経過を診断し、分娩期のケア計画を立案し、
成の現状を整理しその課題について報告した。そこで、
産婦及び家族に対するケアができる。②助産の原理と基
第2報では、助産教育の中の特に分娩期実習に焦点をあ
本的技術に基づいて、分娩介助ができる。③出生直後の
てて本学の特色あるカリキュラムを紹介するとともに、
新生児のケアができる。④異常の発生予防と早期発見及
岐阜県立看護大学 育成期看護学講座 Nursing in Children and Child Rearing Families, Gifu College of Nursing
̶ 85 ̶
岐阜県立看護大学紀要
1
4
5
6
5
7
8
当直実習開始→
分娩見学 分娩介助開始→
備考
X 病院 X 病院
*継続事例 X 病院:分娩見学後ファントーム
実習は可能
試験合格者から分娩介助
・ ∼ 23 週:1 回 /4 週
・24 週∼ 35 週:1 回 /2 週
・36 週∼ :1 回 / 週
1
ヶ月健診
妊婦健診の予定
家庭訪問
分娩予定
な限り行う Y 病院:月曜日より分娩介助
産褥実習
病院
→
妊婦健診
継続事例
Y
Y 病院 X 病院
学内まとめ
Y 病院
X 病院 Y 病院
学内まとめ
X 病院
調整実習
X
夏期休業
病院
→
学内まとめ
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38
6
7
8
9
10
11
12
火∼木
月∼日
水∼木
学内まとめ
Y
病院
テーション
分娩介助
学内演習
2 3
4
火∼木
オリエン
週数
月
曜日
第 5 巻 1 号 , 2005
← 継続事例決定→ * 継続事例の健診日に実習を行う 入院時点より実習を行う
備考
9/ 中旬∼ 10 月初旬予定日頃 *継続事例実習以外の空き時間は卒業研究報告書の作成に使う
*最長でも 12/17 には実習終了
助産
P 母乳相談室 1 回 Q 助産院 1 回
所
*継続事例実習の重ならない日に 1 回以上の実習
図 1 育成期看護学グループ 1 の年間スケジュール
び異常発生時の救急処置について説明できる。⑤助産過
3)教員の配置
程を評価し、主体的でかつ産婦や家族にとって満足なお
4月の学内演習 、 5月6月の前期の実習では主に1名
産であるための助産師の行動を説明できる。といった行
の教員が専属配置される。オリエンテーションやカン
動目標をあげて実習を展開している。
ファレンスの際には、母性領域の教員が原則的に全員配
2)年間スケジュール(図1)
置される。8月、9月の夏期実習は、助手が2施設 3.5
4月は、学内での演習を中心に行う。5月、6月の約
週間、教授、助教授、講師がそれぞれ2施設2週間∼ 2.5
2ヶ月間は火曜、水曜、木曜の臨地実習を行う。火曜 、
週間配置される。
水曜は当直実習も同時に開始する。1例の分娩見学を終
2.学内演習の実際
えた学生から随時、分娩介助を開始する。7月は、2ヶ
先に述べた一連の行動目標を達成するためには、学内
月間の実習のまとめを中心に学内演習を行う。この期間
での演習が重要となってくる。学内では、主に分娩介助
に、受け持った事例を紹介し合い、学生間で情報の共有
モデルを使用しての分娩介助技術の習得と、ペーパーペ
を行う時間としている。又、この時期には、1例程度の
イシェントを用いての助産過程の展開ができることを目
介助を終えているので、診断、予測の重要性や確かな技
的に行っている。ただ、限られた時間内での技術習得は
術の必要性を体験を通して学習しているので、学生が主
難しく、多くは時間外での演習とならざるを得ない。演
体となって演習を希望する。そこで、教員は学生の希望
習の流れは以下のとおりである。
に応じた演習を行っている。8月、9月は、2施設にお
①分娩介助症例を1ケース受け持つ事で、分娩室の準
いて臨地実習を行う。Y病院は、学生2名配置でオンコー
備、清潔操作、手指の消毒とガウンテクニックなど、表
ル実習、つまり、分娩期の入院があった時点で学生が連
1に示す内容の技術を展開しなければならない。つま
絡を受け実習施設に出向き実習開始となる。X病院は、
り、これら一連の技術の習得が要求されることになる。
4名配置で日勤実習を2名、当直実習を2名で配置して
そこで、卒業研究グループⅠを選択した6名には、2月
いる。10 月以降は、学内と実習施設で分娩期のまとめ
中に分娩介助手順をシナリオにしたものを配布する。シ
のカンファレンスを行っている。ここでは、分娩期のケ
ナリオの一部を表2に示す。これは、ある事例の分娩を
アや分娩介助を通して女性の人権を守ることの重要性を
再現したものである。その中には分娩介助手順だけでな
共通認識したいという学生の希望を取り入れたテーマを
く、その時の診断の方法や言葉かけの方法なども一例と
選択している。このカンファレンスを通して、様々な体
して記載している。学生は、春休み中にそのシナリオを
験の積み重ねが学生を成長させてくれていることに気づ
元に自己学習および教員の元で練習をする。4月には、
く。
全教員で学生の技術到達度をチェックをする。臨床上重
̶ 86 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
大なミスと思われる技術レベル
表 1 分娩介助に必要な知識と技術
の学生は、試験を中断し再度自
学習項目
a. 環境調整技術
学習を支える知識・技術
分娩室点検・準備、環境整備
b. 食事援助技術
c. 排泄援助技術
d. 活動・休息援助技術
e. 清潔・衣生活援助技術
f. 呼吸・循環を整える技術
g. 創傷管理技術
h. 与薬の技術
i. 救命救急処置技術
j. 症状・生体機能管理技術
器械の後片付け、次回の準備
水分補給
導尿、(浣腸)
移動の介助(歩行、車椅子、ストレッチャー)
清拭・寝衣交換
第一呼吸の助成、出生直後の吸引、酸素吸入
清潔野の作成+器械の準備、外陰部の診査と縫合介助
点滴管理、子宮収縮剤、局所麻酔剤の準備
救急薬品の準備・点検、異常時にはスタッフを呼ぶ
バイタルサイン、出血量測定、子宮収縮等の観察、
己学習とし、その後再チェック
を行っている。全教員が臨床実
習可能という技術レベルに達す
るまで、何度もチェックを繰り
返す。何もみないで一通りの分
娩介助の展開ができるまでには
1人 10 回程度練習を繰り返す。
分娩監視装置装着と判読
又、1 人の学生が1回の練習に
費やす時間は、最初は3時間程
度で、スムーズにできるように
k. 感染予防の技術
出生直後の児の観察、アブガールスコアの採点
全過程清潔操作、手指の消毒+ガウンテクニック
l. 安全管理の技術
外陰部消毒、パット交換
全過程においての基本、分娩台の操作確認、
m. 安楽確保の技術
n. その他
娩出時新生児をおとさない、臍帯の結紮と手で保護しながら切断
安楽な姿勢、産痛緩和、リラクゼーション、呼吸法など
努責の誘導、内診、人工破膜、児娩出介助、肛門保護、会陰保護
なっても1時間を要す。つまり、
練習に要する時間は、学生1人
あたり 20 ∼ 30 時間必要であ
巻絡の確認、母子対面の援助
る。よって、これらの演習は時
胎盤剥離微候の確認、胎盤の娩出、胎盤、卵膜の第一次診査
帰室までの産婦へのオリエンテーション
間外の補習とならざるを得ない
現状がある。
②看護過程の展開では、診断
と予測に関するトレーニングを
行う。臨床側は1例目であって
も、診断、予測、計画、実施、
評価を繰り返し行いながら実習
を展開することを大前提として
表 2 分娩介助手順のシナリオ例
1)
分娩室の準備
①産婦がいつでも、移室できるように分娩室が準備されていることを、口頭で説明できた
「室温 26℃、分娩セット、縫合セット、吸引器等が準備されているのでいつでも入室可である」
以下一部省略
10)
努責の誘導
①産婦に分娩の進行状況と効果的な努責の方法(古典的方法)について説明できた
「子宮の入口も全部開いて、赤ちゃんの下がり具合も順調なので、今から息んでいただきます。
お腹がはってきましたら、大きく 2 回深呼吸をして、3 回目に息を大きく吸って、止めて、
んーっ
てきばっていただけますか。はってきたら一緒にしますね・・・」以下省略
いる。しかし、十分なトレーニ
ングなしでは、分娩場面に立ち会うだけで精一杯となる。
3.臨地実習の実際
そこで、実習開始までの1ヶ月間はペーパーペイシェン
1)受け持ち対象
受け持ち対象は、3例目までは原則的に妊娠 37 週以
トを用いて、何度も分娩の診断と予測の立て方の練習を
行う。どのような情報を用いて、どのような方法で診断、
降の陣痛発来している正常産婦である。ただし、病棟指
予測するのかといったことを体得できるように繰り返し
導者および教員の判断でハイリスクの症例を受け持つこ
演習を行う。
ともある。4例目以降の受け持ちの基本的な考えは、妊
これらの一連の演習を終えた5月から臨地実習開始と
娠 36 週以降の産婦で児に重篤な異常がない場合は受け
なる。臨地実習開始直前には、実習病院が使用されてい
持ちの対象としている。例えば、頭位と頭位の双胎は受
る物品を用いて再度演習を行う。初めて分娩を取り扱う
け持ち対象となることもある。ただし、感染症事例は実
学生は、シーツ1枚の敷き方にしても練習してきた方法
習対象としない。その他の細かい取り決めを実習施設と
と異なると戸惑うことがある。そこで、本番に近い形で
文章でかわしている。ここ数年、分娩介助例数が減少し
最終の調整を行うのである。これは、夏休みから開始さ
た理由の一つに受け持ち拒否の増加があげられる。産婦
れる実習施設においても同様で、実習開始前にそちらの
の人権を守りつつ、学生の受け持ちを拒否されないよう
方法で練習を繰り返すこととなる。
な説明のあり方が重要となる。産婦の人権を守ることは
当然のことであるが、学生が受け持つことのメリットも
̶ 87 ̶
臨床指導者の役割
教員の役割
・学生(および教員)からのレディネスの報告(例数など)
、実習目標の ・学生の実習目標を確認、不十分な時には助言
報告を受け、指導方針等の確認
・学生の報告後、実習の方向性を確認しあう
̶ 88 ̶
・学生が判断を下す際相談にのり、臨床指導者への申し出を促す
・観察項目、手技、産婦への態度、記録、報告状況などケア全般
に関する助言
・適宜ケアや診察に関する根拠の確認
・助手係りとの役割調整の確認
・産婦のケア及び経過の観察
・学生のケアや診察等の申し出に関する承認と実施
分娩予測、計画にそって実施する
あるいは、学生に対してケアや診察等の促し
実施の前には臨床指導者の許可をとること ・学生から定期的な報告を受ける
*産婦のケアの指導、モデル
・休憩は交代で行う。分娩予測と照合しなが
ら臨床指導者に申し出ること
・学生の申し出を受諾あるいは、促し
・分娩第Ⅳ期のケアのたち合い(学生を指導しながらのケア提供)
・出血量等の確認
・産後のオリエンテーションは最初は見学し、2 回目以降は実施する
書類、薬の受け渡し等は学生は見学とする
・学生の申し出を受諾あるいは、促し、実施後の確認
*初めての経験はすべて最初は臨床指導者と実施あるいは見学とする
・不十分なところがあれば指摘する→なぜ不十分なのか説明する
・後片付け、物品補充など
2 回目以降から主体的に実施する
*全体を通して記録や振り返りの評価が分娩後具体的にできるよ
うに客観的に学生の動きを観察するのが望ましい
*適宜質問をし、学生の到達度を確認する
・臨床指導者との実習状況をみまもる
・出血量計測の立ちあい
・胎盤計測の立ちあい
・清潔となり、誤りの修正、手技の力加減等の実施指導(会陰保護、肩甲 ・臨床指導者との実習状況をみまもる
娩出等)
・特に手技等の評価が分娩後、具体的にできるように客観的に学
生の動きを観察する
・例数に応じた手助け(例数別到達目標や学生到達度表参照)
・学生 1 人ではできない時の手助け(巻絡介助等)
・異常時の直接介助(仮死の予測、肩甲難産等)
・分娩第Ⅳ期のケア
原則的に帰室まで行う
・産後のオリエンテーション
・分娩介助
・臨床指導者との実習状況をみまもる
・分娩準備
・学生の申し出を受諾あるいは、促し
分娩が切迫してきたら早めに準備を申し出
*準備や移室の判断が出来ていなければ分娩予測や、産婦の状態からい ・ケアや診察に関する根拠の確認
る
つの時点で準備、移室させるのかを判断させる
*切迫している時は準備、移室するよう促す
・分娩室移室
→分娩後の振り返りでなぜ判断ができなかったか学生に述べさせる
・滅菌セットの開封、準備
・外陰部消毒
・学生の実習目標の確認
・実習記録記入時の助言
・助産診断、計画のアドバイス
・臨床指導者への報告を促す、学生の報告状況などに立ち会う
→記録に集中し過ぎている時には注意を促す
・助産診断、助産計画の報告
・受け持ち産婦の助産診断、助産計画と実習目標の報告を受ける
分娩予測、計画等を臨床指導者に報告する
→細かな助産計画ではなく行動目標レベルで何がしたいかを簡潔に、診
*予測、計画に時間をかけすぎない
断は推定体重や内診所見、陣痛の状況などから分娩予測時間を中心に報
告を受ける。その後診断や計画の追加や修正の報告を促し報告を受ける
優先度の高いものから報告し、その後随
時報告する。不潔係りと協力すること
・書類の受領、医師への連絡・指示の受理などは学生は見学
・臨床指導者との実習状況をみまもる
・入院時の取り扱い
入院時診察、部屋への案内など
*産婦の誘導
・学生実習可能なものがあれば学生への指示(例えば内診、部屋の案内)
自分の経験に応じて実施、見学を申し出る
*初めての経験はすべて最初は見学とする
*産婦への診察状況など
・臨床指導者から入院がある旨報告を受ける ・受け持ち事例の対象となるのかどうか判断がし難い時は教員へ確認する ・産婦の受け持ちに関して、臨床指導者と相談しあうこともある
許可がでるまで待機(詰所など)
(受け持ち基準参照)
・産婦より学生受け持ちの了承を得る
・許可が出たら挨拶をする
・産婦の受け持ち了承後教員として挨拶にいく
・学生を産婦に紹介する
学生の動き
・臨床指導者への挨拶
・臨床指導者さんへの挨拶と計画・目標発表
表 3 臨床指導者と教員の役割
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
大きい。多くの産婦からは「学生さんと聞いてちょっと
しようとする。つまり、24 時間不眠不休の実習の中に
不安だったけど、ずっと側にいて産痛緩和のマッサージ
あっても、少しでも長く側にいたいと思うようである。
をしてもらえて心強かった」という評価を受けている。
自分が食事に行っている時に状態が変化することがあっ
産婦には、この点も説明の中に盛り込むなど協力が得ら
ては困ると、食事も休憩も不十分なまま実習を継続しが
れような工夫が必要である。
ちである。そのような時、教員が「予測ではもう少し時
2)臨床指導者と教員の役割
間がかかるでしょう。2時間寝てきなさい」など、具体
臨地実習における教員の役割は、主に学生の実習目標
的な助言を与えることが必要である。学生の評価の中に
を確認、不十分な時には助言を行ったり、臨床指導者の
も、「休みなさい。と言われて我に返った。いつまで、
指導のもと助産ケアを行っている学生の実習状況を見守
寝ないでやり続けるのだって自問自答していた。ほっと
ることである。つまり、診断や技術に関する評価が分娩
した」と記述されていた。このような学生の誠意を損な
後、具体的にできるように 客観的に学生の動きを観察
わせないようにしながらも、上手に休憩を取ることも技
することでもある。又、学生が臨床指導者とともに円滑
術の一つであることを伝えつつ、教員が学生の健康管理
に実習ができるように、細かな配慮をするなどの調整的
に目配せすることが重要であろう。
役割があるのは言うまでもない。両者の役割分担につい
3)本学学生の分娩技術到達度(図2)
ては表3に示す。これらの役割分担については、事前に
充分な打ち合わせを行っている。
図2は、平成 15 年度の学生6名の分娩準備、分娩介
助、経過の診断と計画、産婦のケアなどの技術について
教員の役割の中で、学生の上手な休暇や休息の取り方
の実習指導者評価を基に作成した技術達成状況である。
への助言や指導も重要になってきている。本学の学生は、
つまり、図の見方は、1 例目では分娩の準備・点検、後
自分の技術や診断の未熟さを産婦に対する誠意でカバー
始末・環境整備、外陰部消毒、情報収集、基本的ニード
1 例目
分娩の準備・点検
分娩準備
後始末・環境整備
外陰部消毒
分娩準備の清潔操作
腹圧と呼吸のコントロール
会陰保護
分娩介助
第一呼吸の助成
臍帯処置
胎盤娩出とその観察
縫合介助
経過の診断・計画
分娩第 4 期ケア
情報収集
助産計画の立案
分娩進行度の診断
産婦のケア
分娩室入室時期の診断
産痛緩和、呼吸法の指導
不安の緩和・慰安、等
基本的ニードの充足
2 例目
3 例目
4 例目
5 例目
6 例目
7 例目
8 例目
9 例目
10 例目
83.3
83.3
66.7
100
50
66.7
100
100
66.7
50
83.3
100
83.3
100
100
83.3
100
100
83.3
100
83.3
100
50
100
66.7
83.3
100
83.3
66.6
33.3
33.3
66.7
66.7
50
66.7
83.3
100
100
100
50
0
0
0
16.7
100
16.7
16.7
33.3
83.3
66.7
16.7
16.7
50
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0
50
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50
50
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16.7
16.7
16.7
0
16.7
0
0
33.3
16.7
0
50
66.7
66.7
66.7
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100
100
100
83.3
66.7
0
16.7
33.3
16.7
66.7
83.3
83.3
80
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50
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66.7
16.7
16.7
33.3
33.3
100
33.3
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0
16.7
66.7
50
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50
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83.3
66.7
66.7
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0
16.7
33.3
0
66.7
50
66.7
83.3
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16.7
50
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0
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50
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33.3
0
0
16.7
100
50
50
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50
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50
50
66.7
66.7
83.3
50
50
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33.3
83.3
83.3
50
100
83.3
83.3
66.7
83.3
83.3
50
:
「良 助言と少しの援助でできる」に到達した学生が 50%以上となった項目
:
「良 助言と少しの援助でできる」に到達して欲しい時期と項目(到達目標)
図 2.実習指導者評価による分娩介助例数ごとの学生の技術到達目標の達成状況
̶ 89 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
の充足に関しては6名中5名の 83.3%の学生が「評価
は分娩第1期を数例経験しそのうち1例は帝王切開事例
の良」つまり、助言と少しの援助でできたと指導者から
となった。平成 16 年度では、学生1名あたり 7 ∼ 10
評価を受けたということになる。逆に、腹圧と呼吸のコ
例で平均 8.3 例であった。その内訳は7例が1名、8例
ントロールや胎盤娩出とその観察、助産計画立案、産痛
が3名、9例が1名、10 例が1名であった。10 例に達
緩和・呼吸法の指導に関しては、6名中6名がかなりの
しなかった学生5名の実習実績は、7例の学生は分娩第
援助が必要であったとのことで「良」の評価に至らなかっ
1期のケアを数例経験しておりそのうち1例は緊急帝王
たということになる。「良」の評価を受けた学生が半数
切開、もう1例は夜間のため介助できずに交代となり見
になった時点を項目の上段にし、グレーで示した。一方、
学事例となった。その他の4名の学生も分娩第1期のケ
下段の黒で示したものは技術到達目標である。つまり、
アを数例経験しながら、緊急帝王切開や介助交代となっ
臍帯処置や胎盤の娩出とその観察などは、5例目程度か
た事例を1∼2例経験していた。以上のように、分娩介
ら「良」の評価に転じて欲しいという一つの目安とも言
助例数では 10 例に満たない学生もいたが、一人ひとり
3,4)
を基に、評
の実習内容をみると、分娩第1期を充分経験し、臨床指
価の「良」つまり、助言と少しの援助でできると評価さ
導者からも分娩介助はできなかったが1例とみなしても
れた学生が 50%に達した時点を到達目標とした。学生
よいとコメントがされていたり、口頭で伝えられている
には、同様の評価表を手渡しどの時期にどの技術ができ
事例を1∼3例もっていることから実質は 10 例以上の
るようになることを目標にしているのかがわかるように
経験をしたと考えられる。本学では、短時間で分娩介助
している。又、臨床指導者にもその評価表を提示するの
を終えた1例より、分娩第1期の看護を充分にしたにも
で、個々の技術到達状況が一目でわかるようになってい
かかわらず介助に至らなかった1例の方が大切であると
る。
考えている。又、分娩期の関わりだけでなく、学生たち
える。この目標の根拠は既存のデータ
この結果を見ると、会陰保護、第一呼吸の助成は 10
は自ら産褥のケアにも積極的関わっている。つまり、学
例目であっても、助言と少しの援助でできるに到達した
生たちは技術を提供した責任として今自分たちに出来る
学生は 3 割程度であったことから、この 2 つの技術が
ことは何かを一生懸命考えて実習に励んでいる。
卒業時に残された学生の課題と言える。つまり、卒業後
に学生が経験を通して身に付けていく必要のある技術で
Ⅲ.本学の分娩期実習における課題
ある。第一呼吸の助成に関しては施設によっては経験さ
以上のことから、本学の分娩期実習における今後の課
せてもらえないこともあり、この点に関しては施設側と
題の1つ目は、効率的な実習の展開によるゆとりの時間
の調整が必要な技術に一つである。その他の技術は、従
の確保である。分娩件数の減少、ハイリスク症例の増加、
5)∼7)
と比較すると比較的初期の段階で到達で
受け持ち拒否の増加によって分娩期実習という点では拘
きていると言える。これは、本学では6名という比較的
束時間の割には効率の悪い実習施設もある。そのような
少人数の学生を臨地実習に臨む前から前述のプログラム
中でも学生の緊張状態が過度にならず、緊張を喪失する
を用いて丁寧に指導にあたっていることや、臨床指導者
ことなく実習継続が図れるような工夫が必要である。ゆ
とともに作成した評価表に基づき教員や指導者が一人ひ
とりの時間を作ることは、分娩期だけに焦点があたりが
とりの学生の技術習得のプロセスを丁寧にチェックし指
ちな実習の中で、もう少し広い視野で自らの看護実践を
導にあたっているからだと考えられる。
振り返る機会にもなると考える。2つ目は、継続事例実
4)分娩介助例数
習と遠隔地実習との両立である。夏休みの長期遠隔地実
来の結果
ここでは、過去2年間の実績を示す。平成 15 年度では、
習の際にも継続事例実習が平行して行われている。つま
学生1名あたり 8 ∼ 11 例で平均 9.8 例であった。その
り、前述のように、学生は受け持ち産婦との関わりを少
内訳は、8例が1名、9例が1名、10 例が2名、11 例
しでも多く持ちたいという思いから、不眠不休の実習後
が2名であった。10 例に達しなかった学生2名は、1
に数時間かけて継続事例の受診病院へかけつけようとす
名は子宮口全開大までのケアを5例経験し、もう 1 名
る。次年度は実習中の移動が少なくなるように、10 月
̶ 90 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
に出産予定の事例を継続事例実習の対象とするなどの工
夫が必要である。
まとめ
分娩期実習では、妊産褥婦、胎児、新生児の健康状態
を総合的に判断する能力を身につけ、必要な看護過程を
展開し実践できる技術を習得すること目標とし実習を展
開している。それらを達成するために、学内では特別な
演習プログラムを準備しそれにそって臨地実習に備えて
の演習を行っている。臨地実習においては、臨床指導者
と入念な打ち合わせのもと一人ひとりの到達度がわかる
ような評価表を用いて指導を行っている。その結果、分
娩例数は概ね8例以上でその技術評価についても、比較
的早い段階で技術習得できていることがわかった。今後
の課題としては、効率的な実習の展開によるゆとりの時
間の確保と継続事例実習と遠隔地実習との両立である。
参考文献
1) 平澤美恵子:日本の助産教育の現状と指向すべき方向,助
産婦雑誌,57(1);9-14,2004.
2) 前掲 1).
3) 松岡知子 , 宮中文子 , 五十嵐稔子;助産師教育における分
娩介助実習の検討 短期大学専攻課程の 7 年間の検討から,
京都府立医科大学看護学科紀要,13(2);85-94,2004.
4) 堀内寛子,松岡知子,宮中文子,他,分娩介助実習におけ
る達成目標と卒業時の到達度について,京都母性衛生学会
会誌,6(1);45,1998.
5) 前掲 3).
6) 前掲 4).
7) 堀内寛子,柳吉桂子;分娩介助実習に関する一考察―実習
評価コメントから探る学生の弱点―,京都大学医療技術短
期大学部紀要,19;39-48,1999.
(受稿日 平成 17 年 2 月 28 日)
̶ 91 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
共同研究実施者の意見に基づく事業の見直しと課題
グ レ ッ グ 美 鈴 1)
岩 村
龍 子 1)
大川
眞 智 子 1)
平 山
朝 子 2)
Review of Collaborative Nursing Research Project:
Based on Opinions from Researchers
1)
Misuzu F. Gregg ,
1)
Ryuko Iwamura ,
はじめに
1)
Machiko Ohkawa , and Asako Hirayama
2)
検評価票の記載を依頼した。教員は研究代表者が記入し、
本学は、平成 12 年度の開学当初より、現地看護職と
現地看護職者は施設毎に代表者に依頼して、可能な範囲
の共同研究事業を実施してきた。この共同研究事業は、
で意見の集約をしてもらった。複数の施設が共同研究に
看護実践現場の業務改善・充実に直結した課題に取り組
参加している場合は、全ての施設を対象とした。評価項
むことにより、県内の看護サービスの質的向上を図ると
目は、教員分は共同研究応募要件としている①研究主題
ともに、大学の教育活動の基盤の確立を目指している。
が現地側の業務の改善に直結しているか、②講座を超え
共同研究事業が開始されて5年目になり、5年間継続
た複数教員体制となっているか、③現地側の組織的了解
された研究、新たに開始された研究など様々であるが、
と複数看護職者の参加が得られているか、および④研究
今後、共同研究事業をさらに発展させるために、共同研
成果に対する評価である。現地看護職者分は、①共同研
究実施者の意見・自己評価を把握することにより、本事
究活動への意見・希望、②研究成果に対する評価である。
業を見直し、今後の課題を明らかにしたいと考えた。そ
2)現地看護職者を対象とした共同研究者以外の教員に
こで、まず平成 15 年度に実施した共同研究における現
よる面接調査の実施
地側、大学側双方の自己点検評価を分析した。さらに共
2002 年から継続している、あるいは3年間継続した
同研究に参加している現地看護職者を対象とし、共同研
共同研究 24 件中、教員から推薦があった 15 件の研究
究事業の現段階の成果と改善すべき事柄を把握するため
について実施した。これらの現地看護職者に対して、当
に面接調査を行った。なお、この面接調査は「地域貢献
該共同研究に関わっていない教員2名が面接を行った。
に直結した大学の基盤及び体制づくりの方法に関する研
調査項目は、①共同研究を実施して良かった点、②良く
究」(平成 16 年度文部科学省研究助成)の一部であり、
なかった点、③実践への影響、④実践に、より効果的影
本論文著者のみではなく、当該研究に関わるメンバーに
響をもたらすためにはどうすればよいか、⑤実践以外へ
よって実施されたものである。
の影響、⑥共同研究事業への意見・改善点、⑦看護学実
習への影響である。調査期間は、平成 16 年7月 14 日
Ⅰ.方法
から 10 月6日であった。面接対象者に対しては、研究
1.調査項目と情報収集法
目的、調査方法、プライバシーの保護、協力の取り消し
1)現地側・大学側それぞれの自己点検評価の実施
などを説明し、同意書にサインを得て実施した。
研究交流促進委員会が企画し、平成 15 年度分の共同
2.分析方法
研究 26 件について、教員および現地看護職者に自己点
現地側・大学側それぞれの自己点検評価については、
1)岐阜県立看護大学 看護研究センター Nursing Collaboration Center, Gifu College of Nursing
2)岐阜県立看護大学 学長・看護研究センター長 President, Gifu College of Nursing & Director, Nursing Collaboration Center,
Gifu College of Nursing
̶ 93 ̶
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質問に対応した記述を、意味内容を変えないように要
表1 現地看護職者が共同研究をして良かったと
記述した内容
約して1コードとした。これらのコードを相違点、共
分類
通点について比較分析し、分類した。分析結果は、3
情報交換・共有ができ、学びになった
名の教員間で検討し、合意を得た。
(20 件)
看護を振り返ったり、考えたりすることができた(18 件)
研究的取り組みを学んだ
現地看護職者を対象とした面接調査については、面
接時に記録した内容のうち、共同研究事業の課題に関
わる発言を抽出し、課題として分類した。分析結果は、
3名の教員間で検討し、合意を得た。
Ⅱ.結果
1.自己点検評価
(8件)
実践に対する姿勢が変化した
(7件)
共同研究からの学びが実践に活用できた
(6件)
対象理解が深まった
(6件)
実践が充実した
(4件)
実践の評価ができた
(2件)
他職種との関係が深まった
(2件)
その他
特になし
分析対象は、平成 15 年度の 26 件であり、そのう
(11 件)
問題・課題が明確になった
(12 件)
(2件)
ち本年度開始分が9件、2年目が7件、3年目が7件、
4年目が3件であった。講座を超えた教員体制のものが
記述があったのは 33 件で、改善されたことは『なし』
16 件、1講座の教員で取り組んだものが 10 件であった。
が5件であった(表2)。実践が改善された内容では、
『援
参加した施設数は延べ 77 施設で、現地看護職者数は延
助方法・内容の充実』が 15 件と最も多かった。「入院
べ 159 名であった。教員の参加は、延べ 137 名であった。
時からの関わり、退院指導がより具体的になった」「早
以下の結果については、『 』は分類を、「 」は記述内
期退院計画としての院内デイケアが実施できた」「相談
容の要約を示す。
会を日常業務に組み込むことができた」など、日常の援
1)現地看護職者の自己点検評価
助方法や内容の充実が挙げられていた。次いで多かった
77 施設のうち、56 施設から自己点検評価が提出され
のは、『認識の変化』で7件であった。「連携で解決可能
であると共通認識できた」「情報提供の仕方を考える必
た。
共同研究をして良かったことでは、「他施設との交流
要性がわかった」
「看護に対する問題意識が明らかになっ
により、いろいろな意見・対応方法・ケア内容がわかり
た」など、日常の看護実践に関わる何らかの認識の変化
参考になった」などの『情報交換・共有ができ、学びに
が挙げられていた。『援助方法・内容の充実』が記述さ
なった』が 20 件と最も多かった。次いで「実践の振り
れた 15 件について研究継続期間をみると、1年目が3
返りをすることができた」「利用者との関わりを見直す
件、2年目が2件、3年目が9件、4年目が1件であっ
機会になった」など『看護を振り返ったり、考えたりす
た。
『認識の変化』が記述された7件の研究継続期間では、
ることができた』が 18 件、
「インタビューの方法、デー
1年目が3件、3年目が4件であった。一方、実践が改
タ収集、研究の考え方を学んだ」など『研究的取り組み
善されたことが『なし』の5件の研究継続期間では、1
を学んだ』が 11 件であった(表1)。
年目が3件、3年目が2件であった。
共同研究をして良くなかったことの項目では、『なし』
2)教員の自己点検評価
講座を超えた複数教員体制の成果としては、各専門知
が 18 件と最も多かった。良くなかったことの記述があっ
たのは 14 件であり、その内容は『時間が取れない』が
識の活用が6件、視野の拡大が3件であった。
現地看護職者は主体的な参画をしていたと評価できる
4件、『一方的な見解の助言であった』『施設の方針と異
なる意見を述べたので、施設名が出ることが心配である』
かについての教員の回答では、『主体的であった』が 15
『質問紙の回収だけで、学びたいことが学べなかった』
『書
件、『少しずつ積極性が拡大している』と『自主的に取
類提出までの期間が短く、業務に困難をきたした』『話
り組む姿勢は出てきている』が各 1 件、『主体的ではな
し合いが不充分であった』などがそれぞれ1件であった。
かった』が6件、『不明』が3件であった。
共同研究の取り組みによって実践が改善されたことの
̶ 94 ̶
本取り組みにより、実践が改善されたと記述のあった
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26 件の内訳は、「家族会を組織し、家族の意見を取り入
互理解の促進』『問題解決の糸口』『認識の変化』がそれ
れたケアが実施されている」など『援助方法・内容の充実』
ぞれ1件であった。また『未確認』が4件、『改善に直
が6件、「ケアのあり方について考えるきっかけになっ
結しない』が2件あった。
た」など『実践の振り返り・見直し』が6件であった。『施
教育活動への影響は、「学生の意図したことが実施で
設設備の充実』『資料・ガイドラインの作成』『実践の意
きるように配慮してもらえている」「学生の教育に対す
味の問い』がそれぞれ2件、
『カンファレンスの開催』
『記
る忌憚のない意見交換ができた」など『看護学実習の円
録の改善』『ケアの学び』『計画の充実』『人材育成』『相
滑化』が8件と最も多かった(表3)。次いで「ケア継
表2 現地看護職者が認識した実践が改善されたこと
分類
要約
研究継続期間
入院時からの関わり、退院指導がより具体的になった。
1年目
家族ケアが実施できるようになった。
1年目
褥瘡の定期的評価を継続している。
1年目
早期退院計画としての院内デイケアが実施できた。
退院後の患者・家族支援として栞作成、訪問、ケース会議を行う
ようになった。
2年目
相談会を日常業務に組み込むことができた。
3年目
昔を振り返る実践によって患者に笑顔がみられた。
3年目
相談会の参加の仕方が改善できた。
3年目
専任ケアマネジャーが配置でき、家族との距離が近くなった。
3年目
音楽療法が積極的に取り入れられるようになった。
3年目
病態の変化の説明が家族にできるようになった。
3年目
利用者と関わる時間ができた。
3年目
職員が一体となり利用者に対応するようになった。
3年目
看護師の対応について話し合い改善した。
3年目
ターミナルケアに対する協力体制ができた。
4年目
連携で解決可能であると共通認識できた。
1年目
情報提供の仕方を考える必要性がわかった。
1年目
局部耐圧測定によるアセスメントを意識することができた。
1年目
看護に対する問題意識が明らかになった。
3年目
入院時から退院の方向を考えられるようになった。
3年目
音楽療法の捉え方、見方が変化した。
3年目
自分たちの欠点を知ることができた。
3年目
指導の継続を考え、記録用紙を変更した。
1年目
記録用紙の見直しを行っている。
1年目
改善点が見つけられた。
2年目
外来看護に必要な援助方法を見出すことができた。
3年目
支援室の設置(1件)
支援室を設置した。
2年目
事業内容の改善(1件)
事業内容を検討し、改善した。
2年目
入浴マニュアルの整備(1件)
入浴マニュアルが整備された。
3年目
あり方・役割の見直し(1件)
看護・介護のあり方、役割を見直すことができた。
3年目
職員教育基盤の確立(1件)
感染経路解明の取り組みの
開始(1件)
職員教育の基盤を作れた。
3年目
感染経路を明らかにする取り組みを開始した。
3年目
情報収集(1 件)
情報収集が可能になった。
3年目
なし(5件)
なし
援助方法・内容の充実(15 件)
認識の変化(7件)
記録の改善(2件)
援助方法・改善点の発見
(2件)
2年目
*
*=1年目:3件、3年目:2件
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岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
続の具体例を授業に活用できた」「住民意識調査を授業
た』という回答は4件であった。
に活用できた」など『共同研究実績の授業への活用』が
2.現地看護職者への面接調査
7件と多かった。その他、「共同研究の結果をカンファ
15 件の研究に参加した延べ 22 施設・26 名の看護職
レンスに活用できた」など『共同研究実績の学生指導へ
者に面接を行った。課題として分類されたことでは、
『現
の直接的応用』
『実習施設としての協力の確保』が各3件、
地側との意思疎通を図ること』が6件と最も多かった
『授業協力の確保』が2件、「学生の自主的な活動につな
(表4)。現場の状況を大学側が充分に理解すること、現
がった」などその他の内容が5件であった。また『影響
地看護職者と相談の上、計画をしっかり立てるなどが課
はない』という記述も4件あった。
題であった。次いで『研究結果の活用を考えること』が
共同研究を進める上で困難だったことは、『時間確保』
3件であり、研究結果の実践への適用についても現地看
が 11 件、『日程調整』が4件、『参加者・対象者の発見』
護職者と相談すること、共同研究の結果を共有するため
が3件、『継続的研究活動』が2件、『研究メンバーの連
に、施設内で発表会を行うなどの工夫をすることが挙げ
携』『本来の共同研究の形にすること』『研究内容・方法
られた。また、共同研究に参加すること自体に問題が起っ
の調整』
『分析』がそれぞれ1件であった。『困難はなかっ
ていないかを確認することなど『共同研究実施のための
表3 教育活動への影響
分類
要約
学生が意図したことを実施できるように配慮してもらえている。
学生指導が円滑に実施できた。
学生の教育に対する忌憚のない意見交換ができた。
看護学実習の円滑化(8件)
現場との関係が良くなり、多くの実習生を受け入れてくれた。
実習協力が得られやすく、受け入れが良い。
実習に向けて前向きな提案がされた。
実習の打ち合わせがスムーズにできた。
卒業研究に協力的であった。
共同研究の取組方法や成果などを授業に活用できた。
ケア継続の具体例を授業に活用できた。
共同研究実績の授業への活用
(7件)
実例を授業に活用できた。
住民意識調査を授業に活用できた。
事業評価事例を授業に活用できた。
労働生活支援について授業に活用できた。
看護方法を考える上で示唆を得た。
共同研究実績の学生指導への直接
的応用(3件)
実習施設としての協力の確保
(3件)
授業協力の確保(2件)
共同研究の結果をカンファレンスに活用できた。
共同研究の結果を実習で説明されている。
見学の説明時、共同研究の結果が使われた。
実習施設として協力を得ることができた。
実習施設になった。
実習施設になる予定である。
授業協力者として実践を話してもらった。
卒業研究の聞き取り対象者になってもらった。
体験学習の実施(1 件)
4年生が共同研究の体験学習をした。
学生の自主的活動の喚起(1件)
学生の自主的な活動につながった。
教員の考えの伝達(1件)
現地看護職に教員の考えが伝わってきた。
教員の意識の変化(1件)
教員が卒業研究フィールドとしての改善を意識した。
意見交換の機会の増加(1件)
関係が深まり、看護実践などについての意見交換の機会が増えた。
影響はない(4件)
大きな影響はない。
共同研究者のいる病棟での実習ではなく好影響はない(3件)
。
̶ 96 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
環境整備を行うこと』が2件、『組織の了解を得ること』
点である。また、これらは共同研究の個々の目的達成以
が1件であった。さらに名前を出すことを了解したに留
外の点でも、肯定的な影響があったことを示していると
まっていた2例の取り組みがあったことを確認し、『実
考えられる。
質的な参加を得ること』が1件抽出された。
看護実践の改善・充実の内容としては、援助方法や内
容が充実したこと、看護職者側の認識が変化したことな
Ⅲ.考察
どが多数の共同研究で指摘された。つまり共同研究が目
1.現地看護職者の認識としての【実践改善・充実への
指している看護実践の改善・充実が実現していることが
貢献】
明らかになったといえる。『援助方法・内容の充実』を
共同研究の目的は、看護実践の改善・充実をすること
挙げた者の研究継続期間をみると、3年目が9件と多
にあり、それを現地側と大学側が共同責任で追求すると
く、継続の重要性がわかる。一方、1年目の研究も3件
ころに重要な意味がある。その意味で、現地看護職者が
あり、取り組む課題およびそれまでの現場との関わりに
記述した共同研究をして良かった内容である『情報交換・
よっては、1年目の研究であっても看護実践の充実につ
共有ができ、学びになった』『看護を振り返ったり、考
ながっていることがわかる。実践が改善されたことに記
えたりすることができた』『実践に対する姿勢が変化し
述されたその他の内容では、
『認識の変化』『記録の改善』
た』などが多数の共同研究で挙げられたことは、大事な
『援助方法・改善点の発見』など、現時点で実践の改善
表4 共同研究の課題
課題 現場の状況を充分に理解する。
現地側との意思疎通
を図ること(6件)
現地看護職者と相談の上、計画をしっかり
立てる。
継続の場合も、現地看護職者が他に取り組
みたいと思っている課題がないかを確認す
る。
正式な計画書で、最終的な計画を現地看護
職者と共有する。
共同研究施設が複数の場合、合同の話し合
いを企画する。
現地看護職者と協力して理解を得る。
研究結果の実践への適用についても現地看
護職者と相談する。
研究結果の活用を考
えること(3件)
共同研究実施のため
の環境整備を行うこ
と(2件)
組織の了解を得るこ
と(1件)
実質的な参加を得る
こと(1件)
研究結果を共有するために、施設内で発表
会を行うなどの工夫をする。
意識的に教育に活用してもらうように働き
かける。
共同研究の内容だけでなく、共同研究に関
連した問題がないかを確認する
施設内でどのような調査が行われているの
かを確認し、共同で実施する方向を考える。
組織の了解を得ることの意味を再確認し、
実施する。
名前だけではなく、実質的に共同研究に参
加してもらう。
̶ 97 ̶
発言内容要約
大 学 は 求 め る レ ベ ル が 高 く、 現 場 と の
ギャップがあり、ついていけない現実があ
る。
短期間で資料の提出を求められて負担にな
ることがある。
継続研究であるが、取り組みたいと思って
いる別の課題もある。
研究計画書で(案のみではなく正式な計画
書で)共有してほしい。
他の施設の共同研究メンバーと意見交換を
したかった。
市町村合併により上司が変わり、理解が得
にくくなることもある。
共同研究の結果を実際に実践に適用しよう
とするとき、それをどのようにすべきなの
か悩んでいる。
共同研究を研究メンバー以外の人と共有で
きていない。
実習では共同研究に触れていない。実習は
実習として捉えている。
看護職の少ない職場で、自分だけが共同研
究に参加しており、他の看護職と気まずい
思いをしている。
施設の中で同様の調査が行われており、協
力する看護師に「またか」という思いがあ
る。
共同研究が大学と個人のつながりになって
いる。
継続の場合でも、正式に看護部長に依頼し
てほしい。
何もしていないのに名前が入っていて申し
訳ないと思っている。
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
までには至っていないが、今後、実現の可能性があるこ
た教員の参加を得ることが困難なものもあると考えられ
とを示す記述が研究継続期間の長短に関わらず多く見ら
るが、それぞれの教員の専門知識の活用や視野の拡大の
れた。一方、3年目の研究においても実践が改善された
成果があり、今後も講座を越えた複数教員体制を作る努
ことはないという回答が2件あり、実践の改善を一層意
力が望まれる。
識した研究活動が必要である。
現地看護職者を対象とした面接調査からは、早急に解
2.教員の認識における【大学の教育活動への貢献】
決すべき問題が明らかになった。まず、『現地側との意
本学が共同研究事業に取り組むことは、現地看護職者
思疎通を図ること』が挙げられる。現場の課題に取り組
と共同責任において実践を改善する取り組みを重ね、そ
むという本来の共同研究のあり方を考えた場合、教員は
の過程で看護学教育を実施する基盤を拡充することを
現地側の状況を充分に理解し、負担にならないよう計画
狙っている。今回の調査における教員の意見、とくに自
することが必要である。また、共同研究では、研究目的
己点検評価データを見ると、表3に示した教育活動への
の達成も重要であるが、次の段階として、その研究結果
影響のように、①看護学実習を円滑に進めることに役
を実践に活用するためにどうすれば良いかの話し合いが
立ったり、実習受け入れ施設に発展させたりしているこ
必要であることがわかった。さらに、共同研究メンバー
と、②共同研究実績を授業内容に教員が活用したり、実
以外の人が研究の内容や成果について知らないため、充
習時に現地看護職者と教員が共同で学生に説明したりし
分な活用ができていない現状があると考えられる。現地
ていること、③現地看護職者が授業協力者として協力し
看護職者からのリクエストもあったが、施設内で発表会
ていることなど、いずれも大学の学士課程の教育に直結
を行うなど、研究メンバー以外の人と共有を図り、活用
した成果が報告されており、所期の目的を達成している
手段を検討することが重要である。共同研究は実習とは
といえる。今後も共同研究と教育の連動を意識すること
別のものという捉え方が、現地看護職者の中にはあるこ
が望まれる。
とがわかったので、共同研究の内容や成果を意図的に実
3.共同研究事業の改善点
習に活用するように、教員から働きかける必要がある。
今回の調査で、共同研究事業の改善点も明確になった。
現場側の組織の了解を得ることについては、共同研究
現地看護職者が共同研究をして良くなかったことに挙げ
が看護実践の改善・充実を目指したものであるため、形
た内容からは、教員が自分の研究興味を優先していると
式的に管理者の許可を得るのではなく、どのような形で
思われるケースがあること、現地側との意思疎通が充分
組織の了解を得ることができれば、研究成果を実践に活
ではないことが考えられた。これらはごく少数の意見で
用できるかを考えなければならない。また継続研究の場
はあったが、今一度、各教員が共同研究の意味、やり方
合でも、正式に看護部長に依頼してほしいという現地看
を考える必要性が示唆された。
護職者の声があったが、依頼の際にどのような成果が
教員が認識した実践の改善では、現地看護職者と同様
あったのかを共有する機会にできることが望ましい。今
に『援助方法・内容の充実』が、『実践の振り返り・見
回、現地看護職者が名前だけを貸していると感じている
直し』とともに多く、共同研究の成果が上がっていると
状況があることもわかった。本学の共同研究の意義を充
考えられる。しかし一方では、『未確認』が4件あった。
分に理解した上で、現地看護職者に実質的に共同研究に
共同研究はそれぞれの研究目的は異なるが、共通するこ
参加してもらい、その参加がより主体的になるよう努力
とは現場の看護実践の改善・充実であり、その達成度は
する必要がある。毎年実施している「共同研究報告と討
必ず確認することが必要である。また『改善に直結しな
論の会」で研究発表をした看護職者から、「発表のため
い』が2件あったが、看護実践の改善・充実を意図した
に準備した資料は、私の宝です」という発言もあった。
研究計画を現地看護職者と話し合う必要がある。
共同研究事業は、現地看護職者の生涯学習の機会でもあ
共同研究の学内体制としては、講座を超えた複数教員
ることを、充分意識して関わって行きたい。
の参加を奨励しているが、約4割の研究は、1講座の教
今回、面接調査を実施したことで、これまでの自己点
員で実施されていた。研究課題によっては、講座を超え
検評価では充分に把握できていなかった現地看護職者の
̶ 98 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
生の声を聞くことができた。今後、どのようにして現地
看護職者の意見や思いを把握し、共同研究事業に反映さ
せて行くかも課題である。
おわりに
平成 15 年度の共同研究自己点検評価の分析、および
現地看護職者への面接調査により、共同研究の目的であ
る看護実践の改善・充実および大学の教育活動の基盤の
拡充が進んでいる現状を把握することができた。また、
現地側とさらに意思疎通を図ることや、組織的了解を得
ることと研究成果による実践の改善とを結び付けて考え
ることなど、本事業の課題も明らかになった。これらの
内容を、各教員が今後の共同研究活動に活用することに
より、共同研究事業をさらに発展させ、県内の看護サー
ビスの質的向上と教育活動の基盤整備をより一層進めた
い。
(受稿日 平成 17 年 2 月 8 日)
̶ 99 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
一般病院でのターミナルケアへの質の向上を目指す取り組み
田 中
克 子 1)
梅 津
小 田
和 美 1)
奥村
美 香 1)
美 奈 子 1)
グ レ ッ グ 美 鈴 2)
小 野
幸 子 1)
北 村
直 子 1)
Progress of Terminal Care Research in General Hospitals
1)
Katsuko Tanaka ,
1)
Mika Umezu ,
1)
Kazumi Oda ,
2)
Misuzu F.Gregg ,
1)
Minako Okumura , and Sachiko Ono
はじめに
1)
Naoko Kitamura ,
1)
用語の定義
岐阜県下においてはホスピス・緩和ケア病棟として承
ターミナルケア:①疾病・障害によって引き起こされ
認されている施設は1ヵ所しかなく、日本では約8割の
る生命の終末に臨む人々へのケア②加齢に伴って訪れる
人が病院で死を迎える現状 1) から、岐阜県下の多くの
人生の終末に望む人々へのケア、の 2 点とした。
人は、いわゆる一般病院で死を迎えているといえよう。
しかし、岐阜県下において、われわれが共同研究を
Ⅰ.平成 12 年度∼ 15 年度の研究の概要(図 1)
平成 12 年度∼ 15 年度までの共同研究の発展のプロ
開始した平成 12 年度に至るまで一般病院を対象とした
ターミナルケアの実態は報告されていなかった。そこで、
セスを図式化した。平成 12・13 年度は、質問紙調査、
まず、岐阜県下の一般病院におけるターミナルケアの実
面接調査を行い一般病院のターミナルケアの課題を明
態を把握するために、平成 12 年度から病院と大学によ
確化した。平成 14 年度は、明確化した課題を再確認し、
る共同研究を開始した。共同研究は、平成 16 年度も継
平成 15 年度は、課題に対して、具体的に講演会や他施
続しており、一般病院におけるターミナルケアのあり方
設への見学、ニューズレターの発行、合同事例検討会の
を模索している。 開始として取り組んだ。以下各年度の共同研究について
今回は、平成 12 年度∼ 15 年度までの 4 年間の共同
研究の取り組みを振り返り、岐阜県における一般病院の
概要を説明する。
1.平成 12 年度、「岐阜県下の一般病院におけるター
ミナルケアの実態」2)
ターミナルケアの質の向上を目指すための基礎資料とす
岐阜県下の一般病院におけるターミナルケアの実態を
ることを目的と考えた。
なお、倫理的配慮として各年度の調査協力に関して、
明らかにするために、岐阜県下 20 床以上の 115 病院に
調査対象者に、文書で研究の趣旨・目的・方法について
勤務するターミナルケア経験のある看護職者各 1 名を
明記し、承諾が得られた場合に回答していただく様依
対象に調査を行った。回答を得た 41 施設の前年度のター
頼し、調査結果は、匿名性が確保される様にした。また、
ミナル期の平均死亡者数が同時期の平均死亡者の約 1/3
事例については、事例提供者を通じて対象者またはその
という結果から、現場の看護職者にとってはターミナル
家族の承諾を得てもらった。
ケアは決してまれなことではないと推測された。
ターミナルケアの取り組み方として、ターミナルケア
1)岐阜県立看護大学 成熟期看護学講座 Nursing of Adult, Gifu College of Nursing
2)岐阜県立看護大学 看護研究センター Nursing Collaboration Center, Gifu College of Nursing
̶ 101 ̶
岐阜県立看護大学紀要
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平成 14 年度
★ターミナルケア検討会の企画
平成 12・13 年度
★一般病院のターミナルケアの
課題の明確化
・質問紙調査
・面接調査
課題
・ターミナルケアの知識・技術の向上
→ 具体的援助方法の検討
・情報交換の場の設定
・ネットワークの整備
課題
・情報交換、ネットワーク整備の充実化
・具体的援助方法の検討
平成 15 年度
★情報交換、ネットワーク整備
・講演会の企画
・他施設の見学
・ニューズレターの発行
★合同事例検討会の開始
課題
・情報交換、ネットワーク整備、具体的
援助方法の検討の充実化
図1 平成 12 ∼ 15 年度までの共同研究の発展のプロセス
を組織的に取り組んでいると回答したのは6施設で、う
ミナルケアに関する知識・技術の向上や施設内の体制作
ち看護単位として取り組んでいるのが5施設であった。
りが必要であろうと思われた。特に看護実践の向上につ
組織的に取り組んでいない理由は、「個人レベルに任さ
いては、事例検討を通じて具体的な看護方法を追求する
れている」が最も多かった。次に、ターミナルケアを取
ことが適切ではないかと考えた。また、病状の告知・予
り組む上での問題や課題については、問題や課題がある
後説明については、ターミナルケアにおいて、患者自身
と回答した施設が 80%以上を占め、その内容として「看
が望んでいる生き方や死に方を実現できるように援助す
護スタッフの意識・意思統一ができていないこと」「施
ることが何より重要と考えるならば、医療者は患者・家
設内の連携の問題」「人手不足や学習環境の不備」「スー
族とのかかわりの中でそれらについて意志表明をする機
パーバイザーが得られ難い」等看護職者自身の問題や施
会をもち、医療者間の意思統一ができる体制作りが急務
設内の体制の問題をあげていた。実践されている看護活
であると思われた。また、看護職者は一般病院という限
動についても、患者に対して「霊的苦痛」や「社会的援
られた環境の中で努力はしているが、ターミナルケアに
助」、家族に対して「看取りの援助」や「死別後の援助」、
即した環境の不備や未告知によっておこる問題等、現実
環境について「部屋の確保」や「休憩施設の提供」等の
問題との中でジレンマとなることも多いことが予想で
ターミナルケアに必要な援助や環境についても十分でな
きた。このことは、個人のレベルでターミナルケアを任
いことが明らかになった。病名告知・予後説明について
されている施設が多いことと無関係ではないと思われた。
は、家族だけに説明がされている施設があり、説明内容
しかしながら、少数ではあるが、一般病院という環境の
についても病名やおよその予後については家族に説明が
中でターミナルケアを組織的に取り組んでいる施設が存
されていても患者に説明がされていない場合が多かった。
在していることから、それらの施設がターミナルケアを
さらに、ほとんど患者に病名告知・予後説明がされない
どのように実践するかのモデルとなり、その成果を他の
施設もあることから、治療の意思決定が患者主体ではな
施設に広めることは重要であると考えた。
く家族に重点がおかれており、治療の決定が医療者に任
2.平成 13 年度、「岐阜県下でターミナルケアに取り
組む一般病院の現状」3)
されている場合もあると推察された。
以上の調査結果から、ターミナルケアを組織的に取り
平成 12 年度の調査結果で、組織的にターミナルケア
組んでいる、いないにかかわらず、多くの施設において、
に取り組んでいると回答した施設と回答はなかったが、
ターミナルケアが十分に行われていないことが示唆され
組織的に取り組んでいるという情報を得た施設の計6施
た。しかし、現実には一般病院におけるターミナルケア
設において、ターミナルケア経験のある看護職者各 1 名、
の該当者は多いことから、今後は施設の規模や目的およ
計6名を対象とした。対象者に、主にターミナルケアを
び特性に応じたターミナルケアに関する組織的な取り組
組織的に取り組んだ経緯とターミナルケアを推進させる
み、看護実践の向上を目指した取り組み、医療者のター
事柄や一般病院でターミナルを行う上での問題・課題に
̶ 102 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
ついて調査を行った。
いことや環境面が十分でないことから、様々な病期の患
対象施設の概要は、設置主体は厚生労働省、市町村、
者が混在する一般病院での限界を感じた。
都道府県、医療法人、厚生農業組合連合会であり、病床
以上の調査結果から、ターミナルケアを組織的に取り
数は 64 ∼ 675 数であった。組織的に取り組んでいる部
組んでいる部署では、ターミナルケアを推進させている
署は、外科系病棟、内科系病棟、内科系外来、全科を含
事柄がある一方、問題・課題も内包していた。特に問題・
む病棟で、患者の主な疾患はがんであった。このことか
課題については、平成 12 年度の結果と共通しているこ
ら主にがん患者を対象にしたターミナルケアを組織的に
とも多いことから、組織的な取り組みの有無にかかわら
行っていると考えられた。ターミナルケアを組織的に行
ず、ターミナルケアに関する問題・課題は、一般病院に
う経緯では、「看護者が緩和ケアについて研修を受けた
おける共通の問題・課題であると予測された。岐阜県下
ことをきっかけに勉強会を主体的に開催している」
「ター
には緩和ケア病棟が1ヶ所しかない現状では、これらの
ミナルケアに関心のある医師の赴任をきっかけに積極的
問題・課題に対して早急に取り組む必要があろうと思わ
に取り組むようになった」「看護部と薬剤部の合同勉強
れた。つまり、患者・家族が一般病院において、いかに
会をきっかけに現在も継続している」等であった。それ
死を迎えてもらうかについて考えることは現実的であり、
らの経緯から組織的に取り組むには看護者自らのターミ
急務であると考えた。したがって、わずか6病院であっ
ナルケア提供への強い意志と主体的に取り組む姿勢、医
たが組織的に取り組んでいるその経緯と推進させる事柄
師や薬剤部等他職種との連携が重要であると思われた。
について調査をしたことは、一般病院におけるターミナ
一般病院においてターミナルケアを推進させると思わ
ルケアの可能性と具体策を知る上で非常に意義があった
れる事柄については、「看護職のリーダーの存在とその
と思われた。今後、このような取り組みの成果を他の施
人材育成」「ケアに対する看護職の意欲的な姿勢」「患
設に広げていくことが重要と考えた。
者・家族の告知」「病院全体での取り組み」「他職種との
3.平成 14 年度、「岐阜県下のターミナルケアの組織
連携」「近隣居住者が多い」等があげられた。このこと
的取り組みと援助方法の検討― 一般病院 ―」4)
から、看護職者の能力の向上への取り組みとして、リー
平成 13 年度の調査から、実際にターミナルケアに組
ダーの存在とその育成の必要性、さらに、病院全体とし
織的に取り組んでいる看護職者の内、参加の希望が得ら
てリーダーの役割を発揮できる環境作りとその支援の必
れた3名と一般病院においてターミナルケアに今後取り
要性は必須であると考えられた。また、患者・家族の意
組もうとする看護職者2名の計5名で、
「岐阜県下のター
思を尊重したケア・医療を提供するためにはチーム医療
ミナルケアの組織的取り組みと援助方法の検討― 一般
の成立、そして他職種との連携がチーム医療の成立には、
病院 ―」の一環として、大学において「一般病院にお
欠くべからざる条件であると思われた。告知に関しても、
けるターミナルケア検討会」を企画した。「一般病院に
チーム医療を機能させてこそ、その方針を患者・家族に
おけるターミナル検討会」の主な内容は、参加者間での
どのように示すかを提示することができると考えた。さ
一般病院でのターミナルケア情報・意見交換、今後の課
らに近隣居住者にとって急変したら地元の病院に入院す
題等であった。検討会後の参加者の意見は、「他の施設
るという地域に根ざした病院作りも重要であると思われ
との意見・情報交換を通じてターミナルケアに向けて、
た。一方、一般病院でターミナルケアを行う上での問題・
看護職者自身の意欲の動機付け、取り組みへの具体的方
課題では、「医療者の知識・技術不足」「他職種との連
策についてアイデアを得るきっかけになる」「チーム医
携の悪さ」「看護職者への支援体制のなさ」「医療者の患
療体制の整備、ターミナルケアについて医療者での意見
者・家族へのかかわる時間のなさ」「施設設備の不十分
の統一の必要性、看護技術や知識を向上させる必要性が
さ」等があげられた。これらの問題・課題からターミナ
ある」「他施設との意見交換・情報交換ができる場がほ
ルケアに関わる医療者として知識・技術のさらなるレベ
しい」「意見交換の場を通じて自分自身の意識を変化さ
ルアップと病院全体での支援体制が必要と思われた。そ
せたい」等が述べられた。今後の課題として、情報交換
して緩和ケア病棟に比べ患者・家族に関わる時間が少な
の場の必要性からネットワークの基盤整備の必要性と施
̶ 103 ̶
岐阜県立看護大学紀要
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設個々の看護の質的向上を図るために事例検討を重ねる
4.平成 15 年度「一般病院におけるターミナルケア」5)
ことによって、知見や課題を共有できる情報交換の場が
平成 15 年度は、情報交換会や検討会を通じて、ター
ミナルケアの具体的方策、他職種との連携、課題や問題
必要であることが述べられた。 以上の結果から、「一般病院におけるターミナルケア
を明らかにすることを目的とした。そのための方略とし
検討会」の参加者はわずか5名であったが、ターミナル
て、(1)「一般病院におけるターミナルケア・緩和ケア
ケアを組織的に行っている中心的存在の看護職者と今
を考える」の講演会(2003 年 10 月5日)、(2)講演会
後取り組もうとする意欲の高い看護職者であったこと
の講師が所属する彦根市立病院緩和ケア病棟への見学、
から、非常に有意義な意見・情報交換ができたと思われ
(3)岐阜県下 20 床以上の 115 病院へのニューズレター
た。参加者の意見からも、ターミナルケアに関する情報
の配布、(4)羽島市民病院、岐阜市民病院を交えた事
交換の場やチーム医療の必要性が述べられていることか
例検討会の4つを企画した。各々の企画について以下説
ら、ターミナルケアに関心がある医療者の情報交換や意
明する。(1)については、看護職者がターミナルケア
見交換の場の設定が必要であると思われた。また、一般
について関心が高いことから、一般病院におけるターミ
病院におけるターミナルケアの実現に向けてネットワー
ナルケアの向上に寄与できる内容の講演を企画した。講
クの基盤整備の必要性があらためて痛感された。さらに、
演会後に行った講演会参加者を対象に行った質問紙調
個々の施設の看護の質的向上を図るために、事例検討の
査(87 回答者)の結果から、「参加者の多くがターミナ
通じて自分達の看護ケアを丁寧に見て行く事の重要性を
ルケア・緩和ケアに関心があること」「日々の看護実践
感じた。
の中でターミナルケアについて多くの問題・課題をもっ
ていること」「大学には講演会の開催等の企画が期待さ
れていること」等が述べられた。(2)については、(1)
表 1 事例の概要
事例 1
テーマ
患者
家族
診断名
経過
入院期間
事例検討会
事例 2
参加者
テーマ
患者
家族
診断名
経過
入院期間
事例検討会
事例 3
参加者
テーマ
患者
家族
診断名
経過
入院期間
事例検討会
参加者
終末期にある患者さんの生きがい
50 歳代 男性
妻、子ども(長男、長女、次男)
、義母 6 人家族
膵臓がん(再発)
、肝臓がん、がん頚椎転移(右上腕不全麻痺)、がん性腹膜炎
がん性疼痛コントロール目的で入院する。
疼痛コントロールを行うが、右手に麻痺がみられるようになった頃から死に対する言葉が見られるようになった。
緩和ケア病棟への転院については、本人から最期までここの病院にいたいと言われた。
状態が安定した段階での退院は、本人家族も不安があるため週末外泊を数回おこなった。
がん性腹膜炎悪化に伴うイレウス症状の悪化、がんの腸管浸潤による腸管穿孔から糞便性腹膜炎、敗血症併発し永眠された。
入院期間:約 5 ヶ月
22 名(看護師 15、医師 2、薬剤師 2、教員 3)
不安が強い患者とのかかわりの中で悩んだことー抑うつ状態に陥ったときにどう関わったらよいかー
50 歳代 男性
妻、長男夫婦と孫、長女の 6 人家族
肺がん(小細胞がん、腺がん)
、肺門・縦隔リンパ節腫脹
化学療法目的で入院する。1 クール 3 回の化学療法を受けるが、3 回目の化学療法時より抑うつ状態見られ、
心療内科を受診する。 化学療法の効果が見られないため、薬剤変更し 2 クール目の化学療法を開始する。
2 回目の化学療法開始後、抗うつ薬処方される。状況に応じて外出泊を行ってきたが、外来で化学療法を受けるため退院した。
約 4 ヶ月
参加者:22 名(看護師 12、医師 3、心理師 1、薬剤師 2、教員 4)
わが心に残ったターミナル期の患者とのかかわりで学んだこと
50 歳代 女性
夫と長男夫婦(孫 2 人)6 人家族、次男家族と長女家族とは別居
盲腸がん、腹膜播種による腸閉塞
外来で化学療法行うが、腫瘍マーカー上昇したこと、腹満感、食欲不振のため入院となった。
小腸穿孔のため、腹膜炎ショックから空腸・回腸バイパス術、回腸瘻・胃瘻造設する。
再度腹膜炎が悪化し、人工肛門造設術を行う。
5 分粥程度の摂取は可能になったが、胃瘻から排泄される状態であった。
がんの進行とともに、疼痛コントロールを行った。胃瘻管理が困難なことから、退院はできなかったが、外出を繰り返し、永眠された。
約6ヶ月
23 名(看護師 12、医師 5、心理師 1、理学療法師 1、薬剤師 3、教員 1)
̶ 104 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
の講演者の所属する施設の見学であったので、緩和ケ
調査結果については、表3、4に示す。評価できる点
ア病棟への成り立ちや具体的なターミナルケアについ
は、「他施設、他部門・他職種との情報交換の場を得る
て、共同研究者の看護職も交えた情報交換ができた。
(3)
ことができた」「看護実践の刺激や自己の意欲を高める」
については、講演会の案内やわれわれの共同研究の活動
「仲間ができ看護の振り返りができる機会を得た」「事例
を紹介し、興味のある看護職者に対しては共同研究の参
提示の負担感の軽減」等であった。今後の方向性として、
加を呼びかけた。最後に、(4)については、われわれ
検討会の内容をまとめ資料とすること、勉強会や講演会
の共同研究の目的である「ターミナルケアの質の向上を
のより一層の発展、参加者を広範囲に広げること、現在
目指す」を遂行するための中心的活動と捉えていること
ターミナルケアを行っている事例について検討を重ねて
なので、具体的にその内容について述べる。
いく等があげら れた。
合同事例検討会は、羽島市民病院、岐阜市民病院、県
以上の結果から、平成 15 年度は、過去3ヵ年の研究
立看護大学の主催で、平成 15 年 10 月から月に1度の
成果を基に、4つの具体的な企画をもって活動できた。
割合で、一般病院におけるターミナルケアについての事
講演会の企画は、県下の看護職者が求めている内容で
例を各々が持ち回りで行っていた。事例検討会の時間は
あり、このような講演会の企画やニューズレターの配布
約 1 時間 30 分∼2時間で、毎回の参加者は、看護職者、
を通じて、一般病院におけるターミナルケアの実現に向
薬剤師、医師等約 20 人であった。合同事例検討会の事
けてネットワークの基盤整備となる可能性があると考え
例の概要は表1に示す。3つの事例は、患者の生きがい、
られた。他施設への見学は、情報交換や看護職者自身の
患者の不安、患者との関わり方という、ターミナルケア
意欲を向上する上でも意義があったと思われた。合同事
において重要なテーマであったと思われた。また事例検
例検討会は、施設間の情報交換、看護ケアの具体的方策
討会には、他施設、他職種も含め 20 名以上の参加者が
が明らかになり、大学教員にとっても現場の現実的な問
あったことも他施設との情報交換の場、他職種との連携
題・課題を知ることができた。さらに、合同で行うこと
の場として、意義があったと思われた。
によって事例検討会の準備の負担軽減ができ、長期継続
さらに、合同事例検討会の意義を知るために、共同研
の可能性等から非常に意義があると考えられた。今後は、
究者が、臨床側の参加者のメンバーから中心的役割をも
検討内容を記録することで、一般病院におけるターミナ
つ人を対象に、質問紙調査をおこなった。調査対象者は
ルケアの具体的看護方法を模索する上での資料となると
17 名(表2)で、看護師が多かった。質問項目は、合
考えた。 同事例検討に参加して以前と比較して評価できる点は何
か、今後の方向性について等であった。
Ⅱ.一般病院におけるターミナルケアの充実化
ターミナルケアの大きなテーマとして射場は6)、患者
表 2 質問紙調査協力者の属性
の QOL の問題、家族・遺族の問題、看護実践に関する
職位
問題、末期医療に関する意識、在宅ターミナルに関する
職種
所属部署
所属施設規模
人数
(n = 17)
看護師長級(副主幹含む)
4
主査(主任含む)
4
スタッフ
9
看護師
15
助産師
1
理学療法師
1
内科系
5
外科系
2
混合
4
看護部長室付
5
リハビリ
1
A 施設 609 床
6
11
B 施設 303 床
問題を挙げているが、共同研究の結果からも、岐阜県下
においても同様の問題があるといえる。特に、緩和ケア
病棟が 1 ヶ所しかない岐阜県の現状では、住み慣れた
地域の病院または家で死を迎えたいと患者の希望をかな
えるために、一般病院におけるターミナルケアをいかに
向上させるかは急務である。そのためには、ターミナル
ケアに関わるスタッフの教育や育成、環境整備は急がれ
る。 また、ターミナルケアに対する人々の意識も高い現在、
̶ 105 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
どのように生き、どのように死ぬかについて、患者自身
のことではないといえよう。また、病状告知については、
の思いをサポートするためには、ケアや看護・医療体制、
医師の考えと患者本人の考えにかなりずれがあるといえ
地域との連携等、病院全体の取り組みの必要性があろう。
る。しかし、患者に対する病状告知の有無は、治療方針
6)
病状告知の問題についての報告では 、治る見込みが
に関わる問題でもあるので、患者自身が、蚊帳の外に置
なくても病名や予後について聞きたいと回答した人は
かれないようにすべきであるのはいうまでもない。患者
約 76%いるが、一方、治る見込みがない病気に罹患し
本人の意志を尊重することを前提にした病状告知のあり
た場合、その事実を最初に説明する相手は家族であると
方とそれに関連して他職種・チーム医療の連携について
いった医師は、57.6%と過半数を超え、患者本人にはわ
は、今後、事例検討会等を通して、まだまだ議論が必要
ずか 2.2%であり、また治療方針の決定についても、患
な事柄であろう。
者本人の意見を聞いて治療方針を決めると回答した医
看護者自身が述べていた看護実践の能力の育成につい
師が 5.5%で家族の意見を聞くが 39.7%もいた。このこ
ては、岐阜県では組織的に取り組んでいる施設は決して
とから、病状告知や治療方針の決定は、患者本人よりも
多くはない。看護者自身が知識・技術の向上を望んでい
家族の意見が優先される傾向が強いことは、岐阜県だけ
るにもかかわらず、それを支援する体制が整っていると
表 3 合同事例検討会の評価できる点
ターミナルケアに関する他の施設の看護・医療の情報が得られる
学生の参加によって、看護の原点を振り返ることができる
自己の看護観を深められる
看護実践への良い刺激になる
ターミナルケアに関して改めて考えることができた
他部門、他職種との情報・意見の交換ができた
ターミナルケア以外の看護に関する意見が聞けた
施設環境の異なりが看護援助に影響することが理解できた
ターミナルケアに対する意欲が増した
施設は違うが良い看護をしたいという仲間が増えた
事例提示の負担が軽減した
看護教育の立場からの意見を聞けることは臨床の実践者として自信につながった
参加者のいろいろな経験や意見を聞くことができ参考になった
検討会後に所属部署の取り組みを振り返ったり相談し話し合う機会が増えた
表 4 合同事例検討会の今後の方向性
勤務調整や事例提示の順番を考慮し会の開催回数を検討する
検討会のテーマを決めて意見交換をする
事例検討だけでなく、講演会・施設見学・実践知識を強化する勉強会・共同研究等も実施して欲しい
検討会内容をまとめ意義を確認する
会議録を作成し欠席者に内容を伝える
デスカンファレンスだけでなく、現在検討が必要な事例も取り上げる
検討会結果を現場の変革に結びつけたい
検討会資料を事前に提示する
年間スケジュールと目標を明らかにする
地域スタッフ・家族の参加の検討する
検討会未参加者に会をアピールし参加を図る
他職種との意見交換を継続する
参加できなかったときの資料が欲しい
他の近接病院との交流も深める
̶ 106 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
はいいがたい。例えば、勉強会や研修会への参加に対す
る施設としての支援とその経験の生かし方、看護職者の
成 15 年度;95-99,2004.
6) 射場紀子,川越裕美:わが国のターミナルケアに関する
意向や専門性を生かした部署の看護職者のメンバー組
研究の動向と今後の課題,看護研究,33( 4),261-271,
織やローテーションの組み方、そしてリーダー育成につ
2000.
いてもターミナルケアを充実させるという目的の基に長
7) 小谷みどり:緩和ケアの現状,ライフデザインレポート,
期的な視野で、組織としての積極的なかかわりが必要で
第一生命研究所,27-29,2004.
あろう。個人のレベルではなく、施設としてどうターミ
ナルケアに取り組むかの展望が望まれる。そのためには、
(受稿日 平成 17 年 2 月 8 日)
われわれが行っている共同研究の成果を幅広く周知する
ことと、共同研究のメンバーに組織の管理者を迎えるこ
とも一考であろう。
おわりに
今回の共同研究を振り返って、岐阜県下の看護職は
ターミナルケアについて非常に関心があるにもかかわら
ず、ターミナルケアについて他施設、他職種、他部門と
の情報交換の場がほとんどないことが明らかとなった。
その意味でも、参加者の意見を反映させた講演会の企画、
ニューズレターの配布や合同事例検討会は、具体的なケ
アを模索するとともに情報交換の場ともなりつつある。
今後はそれらの企画がどのような成果を出しているかの
継続的な評価が必要と思われる。 今後も目的達成に向け、継続的に取り組んでいきたい。
引用文献
1) 死亡の場所別にみた死亡,平成 14 年人口動態統計 上巻
( 厚生労働省大臣官房統計情報部編 );136-137,厚生統計
協会,2004.
2) 田中克子,小野幸子,服部律子,他:成人・老人を対象と
した G 県下の病院におけるターミナルケアの実態,岐阜県
立看護大学紀要,1(1);143-153,2001.
3) 田 中 克 子, 奥 村 美 奈 子, 北 村 直 子:G 県 下 で タ ー ミ ナ ル
ケアに取り組む一般病院の現状,岐阜県立看護大学紀要,
2(1);62-68,2002.
4) 田中克子,奥村美奈子,北村直子,他:岐阜県下のターミ
ナルケアの組織的取り組みと援助方法の検討― 一般病院
−,岐阜県立看護大学 共同研究事業報告書 平成 14
年度;136-138,2003.
5) 田中克子,奥村美奈子,小田和美,他:一般病院におけるター
ミナルケア,岐阜県立看護大学 共同研究事業報告書 平
̶ 107 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
県内医療施設における退院調整の実態
黒江
平 山
ゆ り 子 1)
藤澤
朝 子 2)
ま こ と 1)
普 照
早 苗 1)
佐 賀
満 子 3)
若 原
明 美 3)
田 辺
純 子 1)
Current Status of Discharge Planning in Gifu Prefecture
1)
Yuriko Kuroe ,
1)
Makoto Fujisawa ,
2)
Asako Hirayama ,
1)
Sanae Fusho ,
3)
Michiko Tanabe , and Akemi Wakahara
はじめに
1)
Junko Saga ,
3)
(10 月)は、実態調査結果についての報告と検討を行い、
今日の医療においては、在院日数の短縮化、医療の専
第4回には(2月)、各施設における事例報告を行った。
門化と高度化、および病院機能分化が推進されるように
本調査は、当該事業の中で県下の退院調整の現状を把握
なり、入院時から退院後の生活を捉えた上で専門的なケ
する目的で行ったものである註①。
アを継続する必要性が高まっている。診療報酬制度にお
いても、2004 年度の改定によって亜急性期入院医療管
Ⅰ.目的および調査方法
理料が新設され、一定の入院期間(90 日)に在宅復帰
1.調査目的:県内医療施設(病院)における退院調整
等を目的として行う入院医療管理が評価されるように
の実態を把握する。なお、本調査における退院調整は「患
なった。 者とその家族の退院後における生活のための調整活動」
宇都宮ら
1)
は、このような退院後の生活を捉えたケ
を意味する。
アを医療施設における一つの体制として確立するために
2.調査方法:県内の医療施設(病院)を対象に退院調
は看護職が専門的にかかわる必要があると指摘してい
整に関する質問紙調査を施設長に依頼し、郵送法にて回
る。
収を行った(平成 16 年9月2日∼ 15 日)。質問紙配布
本県においては、看護の質の向上と在宅医療推進の観
数は 112 施設(県内全病院)、質問紙回収数は 81 施設
点から、療養生活支援の専門家である看護職は患者中心
であった(回収率 72.3%)。
の医療提供体制を保障するための退院調整と地域連携に
3.調査内容:調査項目は、①病院の概要(病床数、1
関わる必要があり、看護職が主体的に地域と連携し、質
日平均入院患者数、平均在院日数、病床利用率、1日
の高い看護を提供できる体制づくりを推進する必要があ
平均外来患者数、患者紹介率、併設施設など)、②退院
るとして、充実を図る取り組みを医療整備課が開始し、
調整の現状(部門・部署と職種、具体的な活動内容、部
退院調整に関心のある 16 病院及び県立看護大学が参加
門・部署の院内での位置づけ、退院調整開始時期、必要
している。今年度は4回の検討研修会を実施し、第1回
な対象の把握方法、他施設との連携・情報交換、役割分
(6月)は、退院調整の取り組みを続けてきた4病院か
担、看護師が退院調整にかかわる利点、退院調整の事例)、
らの現状報告、第2回(7月)は、退院調整に関する自
③退院調整における課題(退院後の患者情報の把握と評
施設における課題、および実態調査内容の検討、第3回
価、困難点・課題とそれに対する取り組みについて)、
1)岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
2)岐阜県立看護大学 学長 President, Gifu College of Nursing
3)岐阜県健康福祉環境部医療整備課 Department of Health-Welfare-Environment, Gifu Medical Institutions Management Division,
Gifu Prefectural Government
̶ 109 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表2.平均在院日数
*
表1.病床数*および 1 日平均入院患者数*
一般(件数)
4
5
6
2
6
7
4
9
15 ***
58
療養(件数)
2
5
5
10
12
4
2
0
0
40
精神(件数)
0
1
1
0
4
2
2
4
5
19
概要
病床利用率
日平均外来患者数
1
患者紹介率
区分
60%未満
60%台
70%台
80%台
90%以上
未記入
計
件数
4
6
8
25
36
2
81
100 人未満
100 ∼ 499 人
500 ∼ 999 人
1000 ∼ 1499 人
1500 ∼ 1999 人
2000 ∼ 2499 人
2500 ∼ 2999 人
未記入
計
31
23
16
5
0
0
1
5
81
30%未満
30 ∼ 49%
50%以上
未記入
計
54
15
6
6
81
精神
表3.病床利用率・1日平均外来患者数・
患者紹介率
療養
日平均入院患者数
20 人未満
11
4
3
3
5
1
20 ∼ 29 人
30 ∼ 39 人
3
6
1
3
8
1
1 40 ∼ 49 人
6
12
2
50 ∼ 99 人
100 ∼ 149 人
8
1
2
150 ∼ 199 人
4
1
2
10
1
4
200 ∼ 299 人
3
0
1
300 ∼ 399 人
3
0
0
400 ∼ 499 人
3
0
1
500 人以上
未記入
1
2
1
計
58
40
19
*
本調査で回答された施設はすべて病院である。20 床未満の件数で示された施設は、
一般・療養・精神のいずれかの病床を複数併せ持ち、合計すると 20 床以上とな
る。
**
81 施設のうち、療養病床のみは 11 施設、精神病床のみは 10 施設、療養病床
および精神病床のみ 2 施設。
***
うち1施設は、感染を含む。
病棟
区分
一般
病床数
区分
20 床未満
20 ∼ 29 床
30 ∼ 39 床
40 ∼ 49 床
50 ∼ 99 床
100 ∼ 149 床
150 ∼ 199 床
200 ∼ 299 床
300 床以上
計
日数
件数
20 日未満
20 ∼ 29 日
30 ∼ 39 日
40 ∼ 49 日
50 ∼ 59 日
60 日以上
未記入
計
50 日未満
50 ∼ 99 日
100 ∼ 199 日
200 ∼ 299 日
300 日以上
未記入
計
200 日未満
200 ∼ 499 日
500 ∼ 1000 日
未記入
計
36
11
2
1
3
3
2
58
7
12
7
4
6
4
40
7
7
4
1
19
表4.併設施設
施設名
訪問看護ステーション
特別養護老人ホーム
老人保健施設
ケアハウス
介護療養型施設
その他 グループホーム
通所介護(デイサービス)施設
在宅介護支援センター
居宅介護支援事業所
精神障害者生活訓練施設 ( 援護寮)
精神科デイ・ケア施設
通所リハビリテーション(デイ・ケア)施設
地域生活支援センター
訪問介護ステーション
福祉ホーム
肢体不自由児施設
重度心身障害者施設
養護学校
病後児保育
高齢者身障者集合住宅
健康クラブ
診療所
ケアプランセンター
その他
未記入
̶ 110 ̶
件数
24
4
16
3
17
6
6
5
5
4
4
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
2
27
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
④退院調整における看護師としてのやりがい・充実感な
と療養病床と精神病床を持つ施設が1施設 1.2%であっ
どである。今回は、病院の概要、退院調整の概要、およ
た。1日平均入院患者数(表1)、平均在院日数(表2)、
び退院調整における課題を中心に報告する。
病床利用率・患者紹介率(表3)は各表に示す通りであ
る。また、併設施設は、訪問看護ステーションが 24 施設、
Ⅱ.結果
介護療養型施設が 17 施設、老人保健施設が 16 施設に
1.施設概要:各施設は、一般病床だけをもつ施設が
併設されていた。その他の併設施設の詳細を表4に示す。
26 施設 32.1%、一般病床と療養病床をもつ施設が 25
2.退院調整の現状
施設 30.9%、療養病床のみが 11 施設 13.6%、精神病
1)退院調整の体制:退院調整の体制に関する内容を分
床のみが 10 施設 12.3%、一般病床と精神病床が6施設
析したところ、①看護職者と他職種者の協働による退院
7.4%、療養病床と精神病床が2施設 2.5%、一般病床
調整の体制がある(39 施設)、② MSW が主に調整して
表5.退院調整の体制について
体制
1.看護職者と多職種者の協働による退院調整の体制がある
a:医療相談室、医療介護相談室、医療福祉相談室など
b:地域連携室、地域医療部
c:看護相談室、看護相談員
2.MSW が主に調整している
3.病棟で主に調整している
4.特別な調整はない
合計
施設数
39
18
6
15
8
15
19
81
構成比%
48.1
(46.2)
(15.3)
(38.5)
9.9
18.5
23.5
100
表6.退院調整の体制の例
体制
スタッフ
具体的活動
位置づけ
退院調整
開始時期
対象を把握する方法
1. 看護職者と他職種者 看 護 師 4 人、 医 療 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 業 務、 医療社会事業部医療 入院 1 週間 ハイリスクスクリーニング基準
の協働による退院調整 MSW2 人
退院調整業務、居宅介護支援 社会事業課(医療社 以内
の体制がある。
業務、退院指導・各種指導→ 会 事 業 部 長 は 医 師 )
a:医療相談室、医療
健康相談係
(診療部門、看護部門、
介護相談室、医療福祉
事務管理部門から独
相談室など
立)
b:地域連携室、地域 看 護 師 1 人、 病診連携、入院相談等入院に 院長−副院長−地域 入院直後
医療部
を作成し使用
「退院調整が必要な患者の選定
MSW1 人、
関する業務、退院調整に関す 連携室として位置づ
基準」を作成し各病棟に配布、
PT1 人、
る業務、在宅療養者支援に関 けられている
それを基に病棟看護師から依頼
事務職 1 人
する業務、地域リハビリテー
が来る、朝に病棟日誌を見て病
(兼務:医師、 ション支援業務、地域連携業
棟をラウンドする、保健師や訪
師 長、 理 学 務の啓発
問看護師、ケアマネからの情報
療法士)
c:看護相談室、看護 看 護 師 1 人、 早期退院のための支援活動(退 看護部門の退院調整 入 院 1 ∼ 2 病棟とのカンファレンス、病棟
相談員
MSW1 人
院へ向けての意思確認、意思 室
週 間 以 内、 からの依頼、病棟日誌
決定への支援、在宅療養相談、
医師の許可
院内院外の保健指導、福祉機
後
関との連携)
、退院後の療養相
談
2.MSW が中心
3. 病棟が中心
MSW1 人
入院相談、退院援助、他施設・ 事務管理部門の医療 入院直後
医師・看護師からの病状情報と
病院・家族との連絡調整
患者本人及び家族からの相談
相談室
担当看護師が中心となり、入 看護部
入院 1 週間 入院時カンファレンスによっ
院時のカンファレンスを開催
以内をめや て、1. 退 院 困 難 事 例、2. 初 回
する。入院目的の確認と退院
す と し て、 入院、3. 更に入院時カンファレ
困難事例の把握。退院時カン
担当看護師 ンスで明らかにはならなかった
ファレンスも入院時同様、担
が中心に
当看護師により開催。退院に
向けての支援
̶ 111 ̶
が日々の関わりで問題が明らか
になったケース
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
いる(8施設)、③病棟で主に調整している(15 施設)、
入所施設が少ない(19 件)、在宅で利用できる社会資源
④特別な調整はない(19 施設)がみられた(表5)。また、
が少ない(7件)がみられた。また、病院に関連する事
①看護職者と他種職による協働体制では、部門の特徴に
柄では、体制・システム(16 件)、時間・人員の不足(9
より a. 医療相談室、医療介護相談室、医療福祉相談室(18
件)、医師の治療方針が決まっていない(5件)、職員の
施設)、b. 地域連携室、地域医療部(6施設)、c. 看護相
意識(4件)、その他(3件)がみられた(表 10)。 談室(15 施設)があり、各例を表6に示す。
2)看護職が退院調整に関わる利点:看護師が退院調整
Ⅲ.考察
に関わる利点としては、対象の生活を把握している(21
1.県内医療施設における退院調整体制について
件)、他部門との調整がしやすい(16 件)、病状を十分
県内医療施設(病院)における退院調整は、看護職と
に把握している(12 件)、患者・家族と十分なコミュニ
他職種との協働体制による調整、MSW による調整、お
ケーション・信頼関係がとれる(8件)などが挙げられ
よび病棟による調整などさまざまな対応がみられた。看
た。具体的な内容を表7に示す(表7)。
護職と他職種との協働体制においては、看護師あるいは
3)退院調整の事例:これまでに退院調整が行われた事
保健師が、MSW、医師、栄養士、事務職等と協働して
例の自由記載は、退院後の生活における支援状況に関す
いる状況であった。また、その一方で退院調整に取り組
るもの(34 件)、健康状態に関するもの(49 件)、社会・
むに至っていない施設もみられた。
経済状態に関するもの(9件)等に分類された。退院後
2.退院調整の事例について
の生活における支援状況に関するものの内訳は、独居者、
表8には県内の退院調整における事例の多様さが示さ
家族が病気・キーパーソンがいない、介護者が高齢、退
れているとともに、退院調整看護職が関係機関(行政や
院不安・拒否のある事例であった。健康状態に関するも
在宅サービス事業者等)に対し必要に応じて事例への介
のの内訳はターミナル状況、脳血管障害後遺症をもつ、
入の依頼やケア会議の開催をしていることが示されてい
医療処置の多い、ALS・人工呼吸器装着者、痴呆をもつ、
る。桂ら 2) 右田ら 3) は退院調整専門職を医療機関内に
未熟児・被虐待児の事例であった。社会・経済状態に関
設置する必要性を指摘し、その人材は社会資源に関する
するものの内訳は、経済的支援が必要な事例であった。
豊富な知識を持ち、院内職員や関係機関との連携が柔軟
詳細を表8に示す(表8)。
に取れ、患者や家族の入院中から退院後の在宅療養を見
4)退院後の患者情報の把握・評価:退院後の患者情報
通した援助をすることができる者であると指摘してい
の把握・評価の方法に関しては、72 施設から回答があ
る。 った。退院後の患者情報の把握・評価を行っていたのが
これらから、看護職はその中心的役割を果たすことが
47 施設、行っていなかったのが 25 施設であった。行
できると考えられ、また患者と家族の意向を重視した退
っていると答えた内訳は、他職種からの連絡(17 施設)、
院を推進するには地域との連携が不可欠であると思われ
ケア会議・事例検討会(14 施設)、外来診察時に把握(11
る。
施設)、家庭訪問にて把握(3施設)、アンケート等(2
3.退院後の患者情報の把握と評価の方法について
退院後の患者情報の把握と評価を行っていると回答し
施設)であった(表9)。
5)退院調整における困難点・課題:退院調整の困難点・
た 47 施設では退院調整看護職が積極的に患者の退院後
課題に関しては、家族に関連する事柄(45 件)、病院に
の状況と家庭生活での困難点を把握しようとしていた。
関連する事柄(37 件)、利用できる社会資源が少ない(26
たとえば、サービス業者との連絡の充実を図ったり、外
件)、その他(12 件)がみられた。
来通院している対象者については外来受診時に継続的な
家族に関連する事柄では、家族の受け入れが困難(21
情報収集をするなど、援助が途切れないようにする工夫
件)、介護力の不足(8件)、患者・家族の意向の違い(7
が見られた。その一方で、25 施設では特別な情報交換
件)、経済的問題(3件)、自宅への訪問を拒否する(2件)、
は行っておらず、把握の困難さが課題としてあげられて
その他(4件)であり、利用できる社会資源が少ないでは、
いた。さらに、退院後の評価については明確な回答が少
̶ 112 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
表7.看護師が退院調整に関わる利点
利点
記載内容例
1. 対象の生活を把握している 入院時の一点だけ看るのではなく、その人の生活状況等を他職種からの情報で知ることで入院治療で本
(21 件)
人への生活指導も的確に出来、看護師自身のやりがいも出来て、それが患者さんにフィードバックされる。
2. 他部門との調整がしやすい(院内)院内において 1.当院の場合、相談員は主任看護師としてもおいてもらっている。看護師の会
(16 件)
議の場に参加できるので、退院調節のシステムをつくり上げていく上で有利であった。退院調節をして
いく上で看護師、医師、他の職員とのコミュニケーションがとりやすい。
(院外)院外において 1.他院への転院を希望される患者様の相談、面談を行っている。相談員、看護
師へ情報を送る場合、相談員が医療面について説明できるので対応しやすい。2.施設に入所される場合
も看護面の引継ぎが可能である(在宅に帰られる場合も訪問看護師に引き継ぎやすい)3.看護師として
医療面でも研修会に参加し情報が得られる。看護サイドから医療相談室のあり方が見直せる。 3. 病状を十分に把握している 病状(身体状況等)に合わせた適切な生活指導ができる、又介護者への介護指導も同様。その上で自立
(12 件)
可能な点(=福祉ニーズ)は抽出される為、MSW が続いて調節援助に入る。
4. 患者・家族と十分なコミュ 患者様やその家族とより良いコミュニケーション、信頼関係がとれるように思う。身近で介護・看護して
ニケーション・信頼関係がと いるからこそ患者様主体に必要な資源の選択が出来ると思います。
れる(8 件)
5. 患者・家族の思い(不安・ 退院にあたり、患者の持つ不安などを把握することができ、又その場で指導することも出来る。そのた
要望など)に対応することが め退院後における不安の除去に努めることができ、退院後にかかわる外来 Ns とも直接情報交換ができる
できる(9 件)
など
入院患者の退院に向けて早期より働きかけが出来ること。
6. その他(22 件)
(無回答 6 施設)
※1施設の回答の中で、意味内容の違うものがあった場合には分けて分類した。
表8.退院調整の事例
事例の状況
1. 退院後の生活にお 独居者の事例(17 件)
ける支援状況に関す
るもの(34 件)
家族が病気・キーパーソ
ンがいない事例(8件)
介護者が高齢の事例(7
件)
退院不安・拒否のある事
例(2件)
2. 健康状態に関する タ ー ミ ナ ル 状 況 の 事 例
もの(49 件)
(12 件)
脳血管障害後遺症をもつ
事例(12 件)
医療処置の多い事例(9
件)
ALS・ 人 工 呼 吸 器 装 着 の
事例(7件)
記載内容例
独居の患者様で、本人は在宅に帰りたいが、親族が遠縁であり、身の回りの世話はで
きない、という事例。(1 人での生活は無理と主治医の判断あり)そのため、できるか
ぎりのサービスの調整、市の介入もお願いする。
退院可能となった患者様の家族が病気となり、週末の外泊をくり返しながら、受入可
能になるまで、病状の安定を図った。
老々世帯のケース。年齢 80 代と 100 代の高齢者世帯の在宅介護のケース。
本人、家人とともに退院に不安のある家族に対し、きめ細かく生活、療養および医療
とのかかわりを説明し、在宅治療となりました。
悪性腫瘍末期の在宅ケア・ケアマネ、看護師、訪問看護師との会議・退院後の医療の
確認(往診等含めた)
脳梗塞後遺症患者の自宅退院に向けて、家族への介護指導や住居改修のアドバイス、
在宅サービスの情報提供・調節の為、カンファレンスや退院前訪問指導を実施した。
腹膜透析患者の自宅退院に向けて、家族への透析指導の他に、利用予定のデイサービ
ススタッフにも指導した。
一人暮らしの ALS の女性 - 患者、家族と面談し、在宅の意向を確認。医師から家族へ
の MT に同席し、退院許可だが一人暮らしは困難と説明。ケアマネ、ヘルパー、訪問
看護師をもとに、在宅療養の可能性について検討。ケアマネとともに家族へ同居を働
きかける(了解得る)。サービス調整会議開催(医師、病棟看護師、ヘルパー、訪問入
浴業者、訪問看護師、MSW 参加)、退院に至る。退院後、サービス担当者会議に参加。
痴呆をもつ事例(7件)
独居で痴呆患者について、親族、民生委員、在宅介護支援センターともカンファレン
スをして、グループホームへの入所調節をした。
未熟児・被虐待児の事例 被虐待児が、次の施設入所ができるよう、児相(児童相談所)の介入を依頼した。
(2件)
3. 社会・経済状態に 経済的支援が必要な事例 生活保護を受給しながら、高齢の家族と在宅にて生活していた所、地域住民の方とト
関するもの(9件)(9件)
ラブルを起こし(病状悪化のため)当院に入院となった。病状軽快し、福祉事務所の
方とも相談をし、地域民生委員、市町村担当者、専門職(看護師、ヘルパー、保健師等)
に介入して頂き、福祉サービス(訪問制度利用)を併用しながら数回の検討会を重ね、
患者本人の在宅生活に向けて支援を継続し、退院となった。(現在も在宅で生活中の一
例です)
精神障害をもつ事例、感染症で受け入れ施設がない事例
4. その他(10 件)
(無回答 9 施設)
※ 1 施設の回答の中で、状況の違うものがあった場合には分けて分類した。
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岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表9.退院後の患者情報の把握・評価の方法
患者情報の把握・評価の方法
記載内容例
他 職 種 か ら の 連 退院患者のリストを作成し、個々の患者の現状を聴取し情報の把握をしています。それぞれの退院
1. 行っている
先の施設等の関係者と連絡をとり情報の提供を求め把握しています。往診、訪問看護等より情報が
(47 施 設 ) 絡(17 施設)
あり再発防止に伴い検討会に提出するケースもあります。再発防止については、その原因を追求し
家族関係も考慮にいれ、カウンセリングを行い社会生活が円滑に継続できるよう支援が必要なケー
スもあります。
ケ ア 会 議・ 事 例 現在、再入院調査を行っている。再入院を予防したり、患者さんがどこで療養しても質の高いケア
検討会(14 施設) が受けられるよう、施設・地域・病院で連携会議を定期的に開催。
外 来 診 察 時 に 把 訪問看護はカルテへの記録、看護支援室は記録をカルテに貼付し情報提供を行っている。外来看護
握(11 施設)
師から訪問・支援室への情報提供もある。評価については今後検討事項である。
家 庭 訪 問 に て 把 主に病棟看護師、師長が問題の査定を行い、MSWやPTが自宅に伺い、具体化した上で解決策を
提案している。
握(3 施設)
アンケート等(2 退院後の患者アンケート調査(患者満足度の指標とする。)
施設)
退院後の情報については、特別な情報交換の場は持っていないため、把握は困難。そのため、情報
2. 行っていない
が充分でないため、退院調整の評価は出来ていない。一般的な看護評価のみとなっている。
(25 施設)
(無回答 9 施設)
表 10.退院調整における困難点・課題
困難点・課題
家族の受け入
れ が 困 難 (21
件)
介護力の不足
(8件)
1. 家 族 に 関
連する事柄(45
件)
記載内容例
長期の入院になっていると特に老人の場合、家族の中に居場所がなくなっている。本人帰宅願望が
強いが、介護人は勤めなどで留守がち。歩行できないとなかなか受け入れられない。
<一般>高齢の患者様、家族が多い為、理解力の低さや難聴の問題もありスムーズに指導ができない。
<療養>最近は働き手ばかりの家族が多く、医療依存度が高いケースは在宅へ受け入れてもらえな
くなってきています。
患 者・ 家 族 の
意向の違い(7
件)
経済的問題(3
件)
自宅への訪問
を拒否する(2
件)
その他(4件)
患者本人は独居である時、周囲の子どもらは施設を希望するが、本人は在宅を希望し、方向性が決
まらない。
体 制・ シ ス テ
ム(16 件)
時 間・ 人 員 の
不足(9件)
医師の治療方
針が決まって
いない(5件)
職員の意識(4
施設)
退院指導(吸引、PEG、HPN など)が統一されていない。退院の準備が整っていない時期に退院が
決定される。院内の医師間の連携ができていない。
退院調整会議の開催、カンファレンス等の開催において患者、家族、関係職員の時間調整が困難。
在宅支援をするが、金銭的な問題で増改築ができない。または、しない現状があり、問題を抱えた
まま退園することになる。サービスの限界を思う。
ホームヘルプ等自宅訪問するサービスを拒否されるケースが多い。介護者が老人の場合が多く、介
護保険等の説明をしても、なかなか理解してもらえない。デイサービス等の施設を利用するのに、
世間体が悪いと家族や本人が思って、サービスに結びつかないケースがある。
協力を得られる家族(キーパーソン)自身が、患者に対し非協力的であったり、高齢のため十分な
協力が困難であったり、家族も精神障害者を含む病気に罹患しているような場合に援助の困難さを
感じることがある。
2. 利 用 で き 入 所 施 設 が 少 ハイケアを必要とする患者の場合、受け入れ先が限られ、退院調整が困難である。又、キーパーソ
る 社 会 資 源 が ない (19 件) ンとなる方のレディネスの問題があり、住宅では無理。施設も入所困難者となると退院が決まらず
社会的入院となってしまうことがある。
少ない(26 件)
在 宅 で 利 用 で 地域によっては、診療所の医師、看護師、保健師が受け入れをしぶる。在宅ターミナルとなれば開
き る 社 会 資 源 業医師を紹介しても往診してくれる医師が少ない。
が 少 な い( 7
件)
3. 病 院 に 関
連する事柄(37
件)
4.その他(12
件)
医師の治療方針が決まっていないため、在院日数が長くても介入することが困難
医師をはじめ、看護師、事務、その他、コメディカルの人々が医療福祉相談室の存在、業務内容に
ついて、介護保険、その他の制度についてほとんど理解されていない。職員が在宅のサービス、現
在の制度について理解が不十分である。その為、十分に医療福祉相談室が活用されていない。
その他(3件) 看護師は自分たちの視点で捉えた患者についてアセスメントし、医師に言うことが出来る看護師が
少ない。
病状が悪化しやすい方が多いため、退院期間が変動して、時期が決まらない。また、入院期間が短
いため、十分に調整できないときがある。
(無回答8施設)
※1施設の回答の中で、意味内容の違うものがあった場合には分けて分類した。
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岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
なかったことから、今後の課題になると思われる。
2) 桂敏樹,高橋みや子,右田周平:医療機関における退院調
4.退院調整に関する困難点・課題について
整専門職配置の可能性に関する全国調査,日本農村医学会
退院調整の困難点・課題は、家族に関する事柄や利用
雑誌,52(2);198-204,2003.
できる社会資源の少なさ、および病院に関連する事柄が
3) 右田周平,高橋みや子,平塚朝子,他:北日本の医療機関
みられた。家族に関連する事柄では、本人と家族の価値
における退院計画のシステム化の課題に関する調査,北日
観が関与するため、退院調整をより困難にしていると考
本看護学会誌 ,6(1);19-24,2003.
えられる。在院日数の短縮化が進む中で、医療依存度の
高い対象者を受け入れる施設の不足、退院の準備が整っ
(受稿日 平成 17 年3月4日)
ていない時期に退院が決定されること、および医療職者
の人員と時間の不足により、必要時に退院に向けての援
助が行えない現状がある。 さらに、院内体制についての職員の理解不足によって
退院調整部門があっても十分に活用されていない現状を
鑑みると、退院調整の重要性について理解を得る必要が
あると考える。
おわりに
県内の退院調整は多様な体制で多くの困難点に直面し
ながら行なわれていることが示唆された。調査にもとづ
く検討はさらに続けたい。本調査にご協力頂きました皆
様に深く感謝申し上げます。
註①:本調査は平成 16 年度岐阜県「退院調整と地域連
携」推進事業の一環として実施したものである。本推進
事業検討会メンバーは、次に示す通りである。増井法子
(岐阜県立岐阜病院)、広瀬純子(岐阜大学医学部付属病
院)、二反田恵子(東海中央病院)、松永ゆかり(羽島市
民病院)、高木悦子(大垣市民病院)、吉野久美子(養南
病院)、高木博美(博愛会病院)、野村益美(揖斐総合病
院)、河合則子(中濃病院)、渡邉よし子(木沢記念病院)、
高木久美子(岐阜県立多治見病院)、加藤幸恵(聖十字
病院)、稲垣美代子(東濃厚生病院)、田口民子(市立恵
那病院)、川井恵理子(岐阜県立下呂温泉病院)、鴻巣真
美子(高山赤十字病院)、田辺満子(岐阜県健康福祉環
境部医療整備課・看護企画監)、若原明美(岐阜県健康
福祉環境部医療整備課・看護支援担当)
引用文献
1) 宇都宮宏子:特定機能病院における地域連携と専任の退院
計画調整看護師の役割,看護展望,29(9);22-30,2004.
̶ 115 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔資料〕
過疎地域看護職と看護大学教員との現地における事例検討とその意義
藤澤
まこと
坪 内
美 奈
池 邉
敏 子
Case Study in Depopulated Area and Its Significance
Collaborated with Practicing Nurses
Makoto Fujisawa,
Mina Tsubouchi, and Toshiko Ikebe
はじめに
2)経過・方法 : ①事例検討の趣旨説明と事例の選定(平
平成 16 年現在、G 県下には 26 の過疎地域に指定さ
成 15 年7月、開催場所 : A村)、②1回目事例検討(平
れた町村がある。平成 13 年度から過疎地域の看護活動
成 15 年9月、開催場所 : A村)、③保健師から提示され
の充実に向けて始められた本学の看護実践研究指導事
た事例への家庭訪問(平成 15 年 11 月中旬、A村)、④
業において、過疎地域看護職者には医療の枠組みを越え
2回目事例検討(平成 15 年 11 月末、開催場所 : A村)、
て住民生活に幅広く対応する役割があることが把握でき
⑤対象町村(33 の過疎地域町村)全体での事例検討研
た。そこで平成 15 年度は、保健・医療・福祉・介護サー
修会(平成 16 年2月、開催場所 : 大学)という経過で
ビスの活用を促進するための看護活動を診療所看護師と
行った。
保健師が協働して実施できることを目的として、看護大
2.調査方法
学教員と共に現地での事例検討を行った。その後検討内
聞き取り調査は、事例検討終了後に、A村において行っ
容を過疎地域の対象町村看護職全体で共有できるように
た。看護師2名、保健師1名同席のもとで、事例検討を
事例検討研修会を行った。今回過疎地域看護職者と看護
終えての思いや考えについて、教員2名が聞き取り調査
大学教員がともに現地において事例検討することには意
義があったと考える。そこで一連の過程を終えての過疎
地域看護職者の思いや考えの中から、その意義を明らか
にしたい。
(2時間)を行った。
3.分析方法
聞き取り調査の内容は、保健師・看護師の了承を得て
テープに録音し逐語録を作成した。それをもとに事例検
討を終えての過疎地域看護職者の思いや考え、課題を抽
Ⅰ.研究目的
出し、それを質的に分析し検討した。その際、意味内容
2 回の事例検討、及び事例検討研修会(以下これら 3
回を含めて事例検討とする)終了後の過疎地域看護職者
の同じものは1つのデータとして分類した。
4.倫理的配慮
の思いや考えを捉え、事例検討についての思いや考え、
過疎地域看護職者に研究の目的を口頭で説明し、了承
事例検討後に認識された課題を把握することによって、
を得たうえで、テープ録音し逐語録を作成した。また町
看護大学教員と現地において事例検討することの意義に
村名や、看護職者および事例の個人が特定されないよう
ついて検討する。
に配慮した。
Ⅱ.研究方法
Ⅲ.結果
1.事例検討の方法
1)対象 : A村診療所看護師2名、A村保健師1名。
事例検討終了後に過疎地域看護職によって語られた思
いや考えは以下のようであった。
岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
̶ 117 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
1.事例検討についての思いや考え
2)事例を振り返ったことに関する思いや考え
事例検討についての思いや考えは、1)検討会を開い
さらに内容を分類すると、「看護の振り返りができた」
たことに関する思いや考えと、2)事例を振り返ったこ
「医療・福祉・保健の協力の必要性」「担当者会議の効果」
とに関する思いや考えに分類された。
「 生きていくことについて 」「対象者に対する思い」の
1)検討会を開いたことに関する思いや考え
5つに分類された(表1)。
さらに内容を分類すると「教員に対する思い」「事例
検討への期待」
「またかという感じ」
「取り組みについて」
の4つに分類された。
2.事例検討後に認識された課題
事例検討後に認識された課題は、
「個人情報の管理」
「保
健師と看護師の連携」「訪問看護について」「事例検討の
機会」の4つに分類された(表2)。
表1.事例検討についての思いや考え
カテゴリ
小見出し
看護師・保健師の思いや考え
1)検討会を開いたことに関する思いや考え
どういうことを教え
いう事をやることによって、どういう事を先生達は私達に教えてくれるんかなあって。
てくれるのか
興味があった
大学の方がどんな考えで自分達を見るかっていう事については興味があったんです。
先生たちが来なけれ
ば関わってても一生
懸命考えようとはし
なかった
教員に対する思い
事例検討への期待
ひょっとしたら先生たちが来なければ、この人に関わっててもそんなに深く関わらないっ
ていうか、一生懸命考えようとした事はしなかったかな。考えるようになったのは、そ
のきっかけかもしれない。だから最初よりも二回目の方が考えるようになったっていう
か。考えるようになったのは、そのきっかけかもしれない。
何かそのへんでそうじゃない、「この人達は本当に夫婦仲良く生きてていいね」なんて先
生たちが言われた事で、あっ考え方を変えようかなっと思ったのはその機会かもしれま
視点が変わった
せん。問題っていうよりもこの人達がすばらしいていうふうに思って下さったその先生
の声。あの先生が言ってくれたことで視点を変えた部分が二回目の発展かなと思う。
刺激を与えていただいてっていう感じです。先生が全然違った感性で見てくださった事
には感謝するかな。先生たちもそうなんですけど、自宅へ行ってそういうことについて
感心を持ってもらったみたいなのはあった。やっぱりよそから見てもらう村っていうイ
刺激を与えてもらっ
メージっていうのは、あまり無いですね。だからそういう意味では、私達にとっては、
た
いい勉強になるんだろうな。村の方たちに自分たちの村を見てもらう。住民のみんな。
それはまた全然違う看護職じゃない人に見てもらうのも一つかもしれないんですけれど、
同じ職種の中でどういうふうに思われるのかなっていうのは興味がありました。
診療所っていうか、そういう小さな所を、こう、こないだも言ってたんだけど、光を当
小さなところに光を
ててくれるっていうか、全然そういうふうは望んで、そんなつもりじゃないけど、絶対
当ててくれることは
そういう事は無いだろうっていう思ってたので、その改めて、目をつけてくれたってい
うれしかった
う事だけで嬉しかったです。浴びたいとかそういうわけじゃないですけど。
(意識して取り組んだとか、そういう事っていうのはありましたか)やっぱ発表って、な
目標があった
んか、目標っていうか、その先行きが何かやらなかんっていうのは、あったから。
地域の事例をどうす 自分としては一事例をするんじゃなくって、地域の事例をどう見ていくかみたいな事に
るかと期待していた は期待はしてた。
この同じ建物で協力してくれる人と、一緒にやっていけれるっていうか、他の所はこの
人がダメだとか、ちょっと難しいとか、っていう施設とか病院があったりとか診療所が
よい環境で仕事でき
あったりとかしている中で、恵まれてるなあってすごく嬉しくって感じました。この前
ている
の研修会出させていただいて、気づかされたっていうか、いい環境で仕事をしているなっ
ていう気づきをいただきました。
難しい問題を何とか 何か学生が来るとか、先生達が来るとか事例をしなくちゃいけないということによって、
できないかと思った 難しい問題を何とかできないかなっていう事には利用できたのかなと思う。
私もわりとそういう色んな関わりがある・・・・・をしたりとかっていう事には今までやっ
利用しようという気
てるので、そういう刺激になるなとか、何か言いたいようにならないかなっていうふう
持ちでいる
では、利用しようかなという気持ではいます。
難しい事例だって、さっき言われたんですけど、そういう事例が2,3あるんです、やっ
ぱり。あるんですけど、ちょっと手をつけずに、ちょっと待ってようかなっていうケー
スが何件かあって、それが難しいケースなのかなと思って。 たまたまその頃に、その
方に関わってる時間が長かったっていう。毎日だったから。特にこのケースやりたいっ
ターミナルの事例は ていうものは無かったっていうのと、実際その二人については私は直接、褥瘡の手当て
出してみたかった
をするわけでもなく、デイサービスで関わるわけでもないから、本当はやりたくないケー
スだったんです。検討をする一事例として考えてるつもりは全然無かった。ま、日にち
は無いし、対象が浮かばないって、そういう意味で。ターミナルでもう先が見えてるっ
ていうか、そういう症例は出してみたいっていう気もあったし、関わっていた時期だっ
たので。
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またかという感じ
今年もという感じ
正直言って、えっ今年も?って感じ。ああ、え、またって感じでしたけど。正直です。
取り組みについて
記録は大変と思わな (看護記録、あれ実は研修会当日、回覧させていただいたんですけど)あれはそんなに大
かった
変だとは思わなかったです。あれはちょっと写しかえただけです
意識はしていなかっ (意識して取り組んだとか、そういう事っていうのはありました)私はそんなに意識して
た
いなかったと思う
2)事例を振り返ったことに関する思いや考え
振り返りが出来た
いい機会を与えても
らえた
目先しか見ていない
のでもっと遠くを見
たい
振り返りが出来た。いい振り返りが出来たなあっていうのがありましたけど。
あと事例検討に関しては、振り返りがやっぱ出来たって事がいい機会を与えていただい
たなて思います。
目先しか見ていないので、もっと遠くを見たいなと思います。出来るだけ見たいなと思
います。そうですね。それが下手なんです。きっと。全体の地域をどうしようかってい
う村づくりが、主に今まで活動してたので。それがちょっとぼやけてたかなと思いますね。
私の関わる本当に深く関われるケースっていうのは、地元の看護師さんたちがかかるケー
看護の振り返りができた
スに、同行する部分があった場合だとかっていうふうになっちゃうんで。どちらかって
これまで1ケースに
いうと、公衆的ないろんな面に関しての関わり方とか。1ケースをずっと自分が関わるっ
ずっと関わることが
てことは、出来ない状況だったんですね、今まで。どちらかというと、集団的健診をやっ
できなかった
たりだとか、村をどうしていくかみたいなことになってしまって、個人をみて何かして
いこうっていう視点では、あまり動けなかった。
一つ一つが大事だと どうしても村づくりとか地域をどうするかっていう部分が基本的にあって、そういうよ
考えた
うな事で関わっていくっていうことの一つ一つっていうのが大事かなとは考えた。
(自分自身の中で学びとして残った事っていうんでしょうか)みんな医療福祉、保健の協
医療・福祉・保健の協力 医療・福祉・保健の 力が一番必要だなあって保健師さんから発信してきてくれるので、すごく繋がりが、住
の必要性
協力が一番必要
民からこういうふうにうまく流れてきている。こないだも事例があって、元気になられ
たばかりなので、そのきっかけを作って下さっている。
家族のバラバラな思(担当者会議はどんな意味があったなと今振り返って思われるでしょうか)あのその人バ
いがあったのが一つ ラバラな思いが家族が思いがあったのが一つにしていこうという気持ちになったのかな
担当者会議の効果
にしていこうという あと思います。例えば一人は、施設にすぐ入れたい、病院に入れたいっていう人があっ
気持ちになった
たのが、なんとか家族、本人の意思を尊重して在宅で生活するようになった。
生きていくことにつ あのあとに色んな事があったり、看護師さんの家族が悪かったりっていうこともそうい
いて、自分たちが大 う事も見えたりとか、自分の周りに亡くなる人がいたりとか、色んなことがあの後にあっ
切な事を忘れていた て、やっぱり生きてくっていうことについて、自分たちが大切な事を忘れてたみたいな。
生きていくことについて
生きていく事の尊さ 原因治療するとかそんな事じゃなくて、もっと本当に生きていくっていう事についての
を大事にしないとい 尊さみたいなのが。大事にしないといけないなと。それプラスその原因治療がどうして
けない
いるのかななんていうことが言えたらいいだろうなと。
大事なのはこの二人の原点みたいなところで感じたのかなあ。分かってたけどやっぱり
重みを感じた
何かもう一つ、重みを感じた・・・・。自分自身かなあなんて思うようになったので。
私も一人なんだけど。一人では生きていけないんだっていうのを本当に思いました。
今でもその人の姿が強く浮かびますね、他の人よりも。印象に強いっていうか。
(どうい
うところで、印象に残っているんですか)昔はそういう生活してたんだなあっていう。
今でもその人の姿が
私達よりずっとちょっと先輩ですので、昔の事はあまり分からないし、奉公に行ってとか、
他の人より強く浮か
色んな仕事をしてきたっていう話も。色んな人から時々は聞くけど、あ、この人もそうやっ
ぶ
たんだなあとか。苦労された話。今の若い人たちはあまり苦労って無いんかなあとか考
えたり。
一人の場合は、やってる間、何も黙ってるわけいかないので、色んな話。辛そうな時は、
黙っ
色んな思い出が繰り てるんですけど。問いかけると、もう次々話し好きな方だったので、色んな事話されます。
返されよかった
やはり今言われたように、話し出すと生き生きした姿、結構見られたですね。その人にとっ
対象者に対する思い
ては、色んな思い出が繰り返されて良かったかなあと思います。
自分が悪い病気で治らないって分かってても、それでも一生懸命生きようっていう姿っ
ていうかね、強さを何か感じる。(どういう声かけをしたらいいかっていうのを私言われ
てたように思うんですけど、そういう葛藤ていうものもありましたか)できるだけ自然
でいこうっていうのは思ってましたけど、結構他の人は、「わしはあと何日生きれるか」
自分が治らないって
とか言われる。強い人でしたねえ。痛くても「どうもない」って一点張り。あんな人見
分かっていても一生
たこと無いです。表面っていうかその、あなたはこれくらいなのよなんていう告知はし
懸命生きようという
てなかったので、でもその方はうすうす気づいているんだけど、よく聞かれる時が他の
姿に強さを感じる
人は、他の人はっていうか、結構聞く時もあるんですけど、その人は絶対そういう事は
言わないっていうか、自分で悟ってるっていうか私達には聞かなかったのでその点ちょっ
と楽っていうか、ごまかす事をさせなかったっていうか、それも気遣いなのかなあって
思った。
̶ 119 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
表2.事例検討後に認識された課題
カテゴリ
個人情報の管理
保健師と看護師の連携
小見出し
看護師・保健師の思いや考え
本人家族の了解を得(本人家族の了解を得て、病名とかも担当者会議にかけるべきだったっていうようなこと
て と 医 師 が 最 初 に を言われてましたけども、あれは今後にも活かせそうですか)最初先生 ( 医師 ) がそう
言った
言われたんです。
私もああそうかなあと思ったんですけど、考えてみたらここの B 村とかの会議の時も、
会議の時も病名を
病名とか言ってるでしょう。皆一応、守秘義務はあるので、いいとは思うんですけど、
言っている
後からそう思ったんですけど。
ケア会議っていうのをやる場合、事例検討やる場合はその本人に承諾を得る、家族に得
「そ
テレビ会議で情報を るっていうのが前提ですよね。テレビ会議の事も監査が入った時に県の人がみえてて、
流す時は最初に了解 れは私も同感です」って言って下さったんです。やっぱテレビ会議で情報を流す事自体は、
最初に了解を得てもらって、こういうことで情報が入るよってことの確認としては家族
を得ておくべき
通しておくべきじゃないかっていうのは、そのことは医師に伝えてあるんですけれど。
ケア会議でヘルパー 必要なケース検討する時、その個人の病名、前このケースの時も私が言ったりもするん
に言う時にも了解を ですけど、ケア会議をする時に病名をヘルパーさん達に言うとか言わないとかってこと
は、家族に了解を取ってないといけないという事は、言ったような気がするんですけど。
得るべき
関わるから絶対いる場合と関わらなくってただ話し合いをするだけの場合というのは、
ケアプランを立てる 家族にある程度了解を取って行うのが今までケアプラン立てる時でも、同じだと思うの
時の病名の管理もこ で、病名についてとかいうのはこれからもっと厳しくなるんじゃないかなと思うんです
れから厳しくなると けど。ケアマネージャーが何かプランを立てる時は、ケアマネージャーが「こういうチー
ムでこういう関係者にこういう事を話しますけどいいですか」って事を最初に了解して
思う
いただいて、サービスを計画するってのが筋だと思うんです。
もしそれが診療の側で主体が診療所だったら、診療所の方がこういう方たちにサービス
の事をお願いしようと思うと、病名もある程度この人達には了解してもらうんですがい
病名の扱いで脳梗塞
いですかっていうのは、了解してもらう。それがこの後にやってあるかどうかっていう
なら別に言ってもい
のは、疑問ですけれど、ただメンバーを揃えて、話し合いをしよかっていうのは。今こ
いやというところが
の人どうしようかという事だけを先走ってしまって、その人の病状はこういうふうだか
ある
らって話までは至ってない場合は、案外そういう脳梗塞とかそういうふうだったら別に
言ってもいいやみたいなとこあって。
会議をやった事は知らなかった。大体は事務所が一緒なので社協の方たちが参加した話
会議をやったことは を言ってみえるので、ああやられたんだろうなあっていうのは知らなかったわけじゃな
いですけど、その終わった後の事は。いつやるよとか、いつやってたとかっていう召集
知らなかった
は一緒に参加するという話までは、聞いてないので。
だけどやっぱりまだ情報の交換だけっていうのが調整会議になってるから、やっぱり役
情報交換だけの調整 割っていうのは、ここはじゃ誰かに行ってもらおうかとかっていう指示をするまでの役
割を持った人はいない。だからそのままの今日の会議ではこういう情報を交換しました、
会議になっている
で終わっててしまう。
自分が動いたらいいんだろうなとは思っていながら、どうしようかなっていうのが今ま
でにあったと思うんです。最近は今自分が関わってる人がやっぱ自分が関わるべきだなっ
自分から動いたらい ていうふうに判断した人は声を上げて、っていうのが家族と連絡を取るわっていうふう
いと思いながらどう になるらしいんですよね。それにあえて保健師が入る必要は無いっていえば無いケース
だったらいいのかなとは思うんですけど、そういう共通の場で誰が何をやっていくかっ
しようかと思う
てことを言った時に自分が必要だったら私は行きますとか私が声かけますとかって言え
るような関係作りができると調整会議で、はい。
(少しきっかけにして、また情報提供しあったりとか、情報交換したりとか少し話すよう、
その人について話すっていうような事っていうのは、あったでしょうか)もしやるとす
るんだったら、本当に A さんが問題だなって言ってた時に、この人の問題は何?って話
を改めてしてないです。ただこういう事言ってるし、こういう事気をつけてねって伝え
問題については改め ると診察に行った時とか、何かで関わった時に、こうだったみたいな形でやっぱ情報交
換しかとどまってないんですよね。その朝のちょっとした時間に情報交換で終わってし
て話をしない
まったりとか、・・事業があるっていうだけで終わったりとかってなっているので、そう
いう問題になる人がいないっていえばいい事なのかもしれないですけど、ひょっとした
らもうちょっと問題がなさそうな一人の患者さんをテーマにしてもいいんだろうなと思
うんですけど。
一人一人の視点を話
やっぱり一人一人の視点というところが話を時間を作らないと出来ないのかなあってい
す時間を作らないと
うのはあるんですけど。
出来ない
̶ 120 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
訪問看護について
事例検討の機会
(在宅ケアを支える立場でそういう訪問看護っていうのを制度、システムっていうのはど
訪問看護で何をする
んなふうに思われますか)介護保険とかヘルパーさんとかそういうのが入ってくること
のか分からない
で、訪問看護っていうのは何をやってくるのかなって分からないんです。今の状況で。
看護師さんたちが往診に行って、たまたま足が汚れたり何かしてたらタオルで拭いた、
それが訪問看護の一部だろうなと思うんですけど、それがもしかしてその人に「一時間
訪問看護ですよ」ってつきっきりでやる事が必要な人がたくさんいるかどうかっていっ
往診の同行が訪問看
た時に、そこらへんちょっと調べてないので分からないんですけれど。時間をかければ
護の一部
いいってもんじゃないような気もするから、病室で看護をしてくるもんと在宅で看護を
してくるものというのは、さっきやっぱり点滴の時にやっぱり看護師としての視点で観
察をしながら、話を聞いて心の中の。
実際透析をしながら在宅で今生活してる方がいるんですけど、そういう方にじゃあ、看
護師さんが行って何かをするっていうと、やっぱ往診と一緒にして行くとか先生の指示
看護師が往診に同行 だけで何かをしてくる、その時の看護が訪問看護になる部分が多かったりするんですけ
しているが訪問看護 ど、出来てないわけじゃないような。だけどそれが孤立して一人の看護師さんが専門に
訪問看護してきなさいよっていった場合に、ただもしかしたら、観察して血圧測ってく
はしていない現状
るだけの人が訪問看護になってしまいがちなところが結構どっかの町村にあるんですけ
れど、それも一つなのかな、どうかな。
(今の段階としてはお二人の訪問看護の可能性っていうんですかね、さっきの話だと
医師は訪問看護が必
ちょっと今の体制ではっていうような話で、体制的にはやはり難しいし、どうなんですか)
要ないという
先生はもう必要無いようなことは、それとなく言われるので。
この二人体制では往診の介助ぐらいしか。前、胃瘻とか気管切開して酸素もやってて家
庭狭くて透析もしてる人いて、そういう人も結構往診とかでリハビリみたいな真似事やっ
二人体制では往診の てたんですけど、往診の度に。そういうのも時間あればもっとやってあげれるかなあと
か感じた事もありますけど。限界があります。(訪問看護というのは必要性っていうのは
介助ぐらい
どんなふうに思われているのか)時間がないというか。やろうと思えばできるんだろう
とは思うんですけど、どっかで無理がでてくるんじゃないかと思います。
(もしそういうのがあったらいいのになっていうのはもう)気持ちもありますけど。でも
やりたいが自信がな
自信が持てない部分があったりとか色々ありますけど。あればどんどんやっていきたい
い
んですけどね。必要はある人もありますとは思うんですけど。
ここの職員スタッフがこの村に適したサービスっていうのを考えていけるのかなあと思
その場の情報で検討 うんですけど。そういう意味では、信頼・・・の協力っていうのは、現場に行ってその
できる機会がもてた 場の情報で検討できる機会が持てたら。同じ町村の保健師とかっていう活動は色々な事
業をこなしたりとか、っていう事をやってるんですけど、看護っていう視点では、そう
ら
いう勉強会とかそこまでは出来ないですね。
例をあげると、「興味があった」「先生たちが来なければ
Ⅳ.考察
過疎地域の看護職者は、住民のニーズに対応するため
関わってても一生懸命考えようとはしなかった」などが
に、少人数で保健医療の枠組みを越えた多種多様な業務
ある。教員の考え方に対してかなり期待をもって検討会
をこなさなければならない。そのため日々の看護実践を
に臨んでいる。そして事例に対して「問題というよりも
振り返る機会や、自己を高めていく機会が得られにくい
その人たちがすばらしいと言った教員の言葉で視点を変
と考えられる。そこで今回看護大学教員が現地に出向い
えた部分が二回目の発展」という表現もあり、教員の考
て、同じ立場に立って、看護職者とともに看護実践内容
えが看護職者の考え方に影響を与えたといえる。また「診
の検討会を2回行った。またその間に教員2名が実際に
療所という小さなところに光をあててくれたっていうこ
事例の家庭訪問に同行し看護職者と意見交換をした。そ
とだけでうれしかった」という思いが述べられた。実際
して対象町村全体で、事例検討研修会を開催した。その
に診療所で行われている住民のニードに即した看護に対
経過の中で、看護職者自身が自らの思いや考えを再認識
して、看護職者がもっと自信を持てるように支援してい
したこと、事例検討の中で現状を語ることにより課題を
くことが必要ではないかと考える。
認識したことに意義があるといえる。語られた内容から
「事例検討への期待」では、「地域の事例をどうするか
その意義について考えてみる。
と期待していた」
「利用しようかという気持でいる」
「ター
1.事例検討についての思いや考え
ミナルで先が見えている事例は出してみたかった」と述
1)検討会を開いたことに関する思いや考え
べられていた。このように事例検討に対しては前向きに
「教員に対する思い」では、様々な内容が語られた。
受け止められていた。しかし、
「またかという感じ」では、
̶ 121 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
今年もやるのかという負担感も感じ取れた。
現状があった。情報交換は毎朝行われ、必要時の情報提
「取り組みについて」では、
「記録は大変とは思わなかっ
供も行われてきた。しかし協働するためには看護専門職
た」「意識していなかった」と述べられ、取り組み始め
者同士の検討が必要である。にもかかわらずその後も検
ると負担感はなくなったことが伺えた。
討会は行われず、連携のための体制作りの必要性を感じ
2)事例を振り返ったことに関する思いや考え
た。
「看護の振り返りができた」では、「いい機会を与えて
「訪問看護について」では、訪問看護に対して「訪問
もらえた」「目先しか見ていないでもっと遠くを見たい」
看護で何をするのか分からない」「二人体制では往診の
「関わっていくことの一つ一つが大事と考えた」と述べ
介助ぐらい」
「やりたいが自信がない」と述べられていた。
られた。これは日々の対応に追われている中で、事例検
看護師は訪問看護の必要性を感じながらも、体制的にも
討がきっかけとなって、振り返りの必要性や展望を持つ
時間的にも制約があるため限界を感じていた。保健師は
ことの必要性に気づいたと考えられる。また、事例検討
訪問看護の役割・機能の不明確さを述べ、過疎地域にお
を通して振り返ることで 「 同じ建物で協力してくれる人
いての訪問看護の必要性に疑問をいだいていた。訪問看
といっしょにやっていける」ということは「よい環境で
護の体制が整えば、看護も充実され最期まで在宅で療養
仕事している」と気づけたようである。そこから「医療・
できる住民も増えるのではないかと考えられる。たしか
福祉・保健の協力の必要性」に気づいている。また家族
に看護師の人数、勤務時間、診療・往診との調整など、
の意思統一に向けて開催された「担当者会議の効果」に
数々の課題がある。しかし他町村では診療所で訪問看護
ついても再認識できていた。
を行っているところもある。それら他町村の訪問看護の
また「生きていくことについて」
「対象者に対する思い」
では、振り返る中での対象者への思いや、関わりの中で
考えさせられたことが述べられていた。
実際の活動内容を参考にしながら、A村での訪問看護の
可能性について検討ができるのではないかと考える。
「事例検討の機会」では、「その場の情報で検討できる
2.事例検討後に認識された課題
機会がもてたら」「看護という視点で勉強会とかそこま
事例検討する中で課題として認識されたことは、「個
でできない」と述べられていた。このことからも過疎地
人情報の管理」「保健師と看護師の連携」「訪問看護につ
域の看護職者は事例検討の必要性を感じながらもその機
いて」「事例検討の機会」の4つの内容である。
会を得ることが難しい状況にあるといえる。
「個人情報の管理」では、「会議の時も病名を言ってい
熊倉ら 1) は「一般的に看護分野における事例検討の
る。守秘義務があるから良いとは思うけど後からそう
意義は、複数の専門職が多面的に対応を検討することに
思った」「テレビ会議で情報を流す時は最初に了解を得
より、提供するケアを改善し、同時に、参加者の専門職
ておくべき」と述べられていた。このように事例検討の
としての質の向上にもつながる効果を持つものと考えら
過程で、担当者会議の際に家族の了解を得ずに病名を告
れている」と述べている。今回過疎地域看護職者と事例
げたことに疑問をいだいていた。過疎地域においてはカ
検討を行ったことは、看護職者自身の看護実践を振り返
ルテなしでも名前と病状がわかるほど、看護職者と住民
るための機会となったといえる。また町村以外の看護職
とのつながりが強い。今まで、本人・家族の了承なしに
者である大学教員が検討に加わったことにより、新たな
病名などを他職種に伝えていた現状を振り返り、今後の
視点で自らの看護を意味付けできたのではないかと考え
個人情報管理の必要性に気づいたといえる。
る。その積み重ねが、熊倉のいう参加者の専門職として
「保健師と看護師の連携」では、「会議をやったこと
のケアの改善・質の向上に結びつくといえる。すなわち
は知らなかった」と述べられていた。担当者会議のメン
過疎地域看護職者も看護大学教員もともに向上していけ
バーを招集したのは医師であるが、看護師も保健師が出
る機会となると考えられる。高木ら 2) は、事例検討会
席する必要性を感じていなかった。また情報交換におい
の成果の1つに「事例検討会の継続は関係機関や関係者
ても「情報交換だけの調整会議になっている」「問題に
の相互理解や共通理解を深め、連携が強化された」こと
ついては改めて話をしない」と検討会にまで発展しない
をあげている。保健師と看護師の連携が課題として認識
̶ 122 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
されていたが、事例検討を共通理解の機会として、連携
が強化されていくよう支援していく必要があると考え
る。
以上のことから、過疎地域の看護の充実に向けて、看
護大学教員が事例検討の機会を提供していくことには意
義があることが再認識できた。
おわりに
過疎地域看護職者と看護大学教員とが、現地で同じ立
場に立って事例検討を行うことが、お互いの専門職とし
ての質の向上につながる効果を持つと確認できた。今後
とも事例検討を継続し、過疎地域における看護のあり方
をともに追究していきたい。
謝辞
本研究にご協力いただいた保健師、診療所看護師の皆
様に深く感謝申し上げます。
引用文献
1)熊倉みつ子,飯吉令枝,佐々木美佐子,他:訪問看護ステー
ションにおける事例検討会開催状況とその意義,新潟県立
看護短期大学紀要,7;55-64,2001.
2)高木美智子,西川朱美,盛長宏子,他:保健・医療・福祉
の連携強化において保健所の事例検討会が果たす役割,北
陸公衆衛生学会誌,28;26,2001.
参考文献
1) 看護研究センター編:平成 15 年度看護実践研究指導事業
報告書 岐阜県における看護の充実に向けて;7-49,岐
阜県立看護大学,2004.
(授稿日 平成 17 年3月2日)
̶ 123 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
〔その他〕
クロニックイルネスにおける「二人して語ること」
−病みの軌跡が成されるために−
黒江
ゆり子
藤澤
まこと
普 照
早 苗
佐 賀
純 子
Dusagen in Chronic Illness: For the Forming of His or Her Trajectory of Illness
Yuriko Kuroe,
Makoto Fujisawa,
はじめに
Sanae Fusho, and Junko Saga
の用語は区別して用いることが可能である。Lubkin ら
1992 年に「病みの軌跡」を提唱したストラウスとコー
によれば「疾患」は、人体の構造と機能の変化のよう
ビンは、病気の慢性状況(クロニックイルネス)におい
な生物学的モデルを基盤とした視点に立つ事柄と関わ
ては、病気とともにあるその人の人生あるいは生活を一
り、その一方で「病気」は、症状や苦しみを伴う人間の
つの繋がった軌跡としてとらえることの重要性を指摘し
体験であり、個人と家族が疾病をどのように感じている
た。これは、未来に視点をもちながら、病気による自分
か、それとともにどのように生きているか、そしてどの
への影響と折り合いをつけ、編みなおすことを包摂した
ように受けとめられているかなどと関わるとされてい
ものであった。そして、病気とともにあるその人がどこ
る 1).。 慢 性 状 況 に お い て は 生 物 医 学 的 な 側 面 を 認 識
から来てどこに行こうとしていえるのかを常に心にとめ
することはもちろん重要であるが、長期にわたるケア
ておくことを忘れてはならず、そこで求められる専門職
を提供しようとするときは、「その人の病気に伴う体
者の姿勢は、支持的支援(supportive assistance)であ
験」を理解することがそれ以上に重要となる。慢性疾患
るとされている。このような支援を続けようとするとき、
(chronic disease)ではなくクロニックイルネス(慢性
私たち看護職者はその人の内面に一人の人間として近づ
の病い:chronic illness)と表現するとき、それは特定
くことが求められ、そこでは人の語りをどのように聴く
の疾患の経過に焦点があるのではなく、病気とともにあ
かという問いに直面させられる。
る個人および家族の「体験」に焦点をおくものとなる。
本論では、このような「人の語りを聴く」ためにはど
急性疾患の多くは、急性発症あるいは劇的発症であ
のような姿勢が可能であるのかについて、病気の慢性状
り、病気の経過に伴って生じるさまざまな徴候や症状を
況について検討したうえで、パーソン中心療法に関連す
伴う。急性疾患は比較的短期間で終結し、快復や以前の
る多くの著作をもつ C. ロジャーズの考え、および対話
活動状態への復帰、あるいは死という転帰をとる。その
の中で「二人して語ること」の意味について述べている
一方でクロニックイルネスは不明瞭な状態が続くととも
M. ブーバーの考え方を紐解きながら実際に語られた内
に単一のパターンというものがない。突然発症するもの、
容の紹介を含め考えてみたいと思う。
知らない間に進行するもの、一時的に症状が増強するも
の、あるいは長期にわたって症状が見られず寛緩期が持
Ⅰ . クロニックイルネスについて
続するものなど多様である。また、急性期を脱したとい
1. 慢性疾患とクロニックイルネス
う幸運を感謝するものとして考えられるとか、個人のア
「disease(疾患)」と「illness(病気、病い)」は同じ
イデンティティの一部となることも多い。
ような意味をもつ用語してとらえられているが、これら
岐阜県立看護大学 地域基礎看護学講座 Community-based Fundamental Nursing, Gifu College of Nursing
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岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
2. クロニックイルネスの特性―病気とともにある個人
Ⅱ .「人の語りを聴く」ことについて
1. ロジャーズにおける人の語りを支えることについて
と家族の「体験」として−
慢性とはどのような状態であるかを明確にすることは
ロジャーズは 1902 年に巨大都市シカゴの近郊で生ま
なかなか難しいが、クロニックイルネスは、たとえば
れ、農場経営をしていた父親の影響を受け農学を志すが、
「持続的な医療を必要とする状態であり、社会的、経済
その後牧師の道へと進むべく人文科学部に転した。人間
的、および行動的に複雑な事態を伴い、それらは意味の
に関わることが一つの専門領域として成立しうると認識
ある持続的な個人の参加あるいは専門職者のかかわりを
し、臨床心理学と教育心理学を学びながら、ニューヨー
2)
必要とする」 「医学的介入によって治癒しない状況で
ク市の児童相談研究施設の研究員となり、パーソン中心
あり、病気の程度を減少させ、セルフケアに対する個人
療法を 1951 年に著した。パーソン中心療法とは、「個
の機能と責任を最大限に発揮するためには、定期的なモ
人が成長するのを援助し、それによって現在および将来
3)
ニタリングと支持的なケアが必要である」 、および「毎
の問題に、より統合されたやり方で対処できるようにす
日の管理を成功させるために高い水準の自己責任を必要
ること」を意味し、クライエントの全人格的な「経験し
4)
などと説明されている。これらの説明
つつある世界」を尊重する姿勢にもとづくものである。
は 1950 年代における慢性疾患についての説明、たとえ
人の情緒や感情を重視し、現在を重視し、成長体験と
ば「正常からのあらゆる損傷あるいは逸脱であり、次の
しての治療関係そのものに重きをおき、彼は非指示的療
状態が一つ以上含まれる。それらは、永続性、機能障害
法(積極的傾聴)における治療者(聴き手)としての3
の残存、不可逆的変化、リハビリテーションの必要性、
条件を提示している。それらは、純粋性(genuineness)
とする状況」
および長期にわたる管理と観察とケアである」
5)
など
からさらにすすんだものとなっている。
と 自 己 一 致 性(congruence)、 無 条 件 の 肯 定 的 配 慮
(unconditional positive regard)、および感情移入的な理
クロニックイルネスは、その性質上、決して完全に
解(共感的理解:empathic understanding)であり、そ
治るものではなく、また完全に予防できるものでもな
れらはパーソン中心療法を促進する態度として重要であ
い。その程度を明らかにすることは、さらに複雑で難
るとされている8)。純粋性とは聴き手が自分について気
しい。たとえば、機能障害の程度は解剖生理学的な重
づいていることであり、無条件の肯定的配慮とはどのよ
症度によるばかりでなく、その個人にとっての意味に
うな状況にあっても語り手に積極的に配慮をすることで
よって異なる。10 代の若者の場合と高齢者の場合とで
ある。また感情移入的な理解とは、 あたかも 自分の
は、病気に伴う制約のとらえ方は異なるであろう。す
ことであるかのように感じとることを意味する。これら
な わ ち、 病 気 に よ る 機 能 障 害 の 程 度 や ラ イ フ ス タ イ
の基盤に流れているのは、個人の価値や意義を認め、尊
ル へ の 影 響 は、 そ の 病 気 に つ い て の 本 人 の 知 覚 を 含
重すること、クライエントの能力への信頼、すなわち個
め、個人の状況によって大きく影響される。Emanuel
人の人生を決めるのはその人自身であるという考え、お
に よ れ ば「 人 生 は、 私 た ち が 最 終 的 に は 屈 服 す る と
よびカウンセラー(聴き手)の自己理解の必要性である。
6)
ころの慢性の病気という重荷の集積」となり 、また
さらに、カウンセリング過程(語られる過程)での必
Curtin ら は 次 の よ う に 説 明 す る。「ク ロ ニ ッ ク イ ル ネ
要十分条件として、次のような条件を示している。二人
スは、戻ることのない現存(presence)であり、疾患
の人間(第一の人と第二の人)が、心理的接触をもって
や障害の潜在あるいは集積である。それは、支持的ケ
いること。第一の人は、不一致の状態にあり、傷つきや
アやセルフケア、身体機能の維持、さらなる障害の予
すい、不安定の状態にあること。第二の人は、この関係
防などのために個人に必要な環境を包摂するものであ
の中で一致しており、全体的統合をもっていること。第
る」
7)
二の人は、第一の人に対して、無条件の積極的関心を経
クロニックイルネスについてのこのような考え方にも
験していること。第二の人は、第一の人についての共感
とづき、クロニックイルネスとともにある人の語りを聴
的理解を経験しており、この経験を第一の人に伝達する
くことについて考えてみようと思う。
ようにつとめること。第二の人の共感的理解と無条件の
̶ 126 ̶
岐阜県立看護大学紀要 第 5 巻 1 号 , 2005
積極的関心を、第一の人に伝達するということが最小限
達成されること
註1)
。 ブーバーは、独自の信仰を有する人間によるすべての
伝道を嫌い、独善的・排他的な傾向に対し、生涯にわたっ
その後、パーソン中心療法にはソーンによって第 4
て警鐘を鳴らし続けた。若い頃のブーバーにとって「宗
の態度「いま−ここに−いること(presence)」が加味
教的なるもの」とは非日常の特別なものであった(忘我
されたが、ロジャーズ自身の論述の中にもその要素がみ
と光明と陶酔)が、その後、非日常かつ忘我であるよう
られる。たとえば以下のようにである。9)
な「宗教的なるもの」を放棄する註2)。すなわち、「宗教
「端的に私が<いま−ここに−いること>がひとを自
的なるもの」は、俗から聖を区別し、日常から非日常を
由にし援助する。・・・リラックスすることができてい
区別した特別な時空で生じることではないとする。目の
て、自分の超越的な核に近いところにいることができて
前にいる人と向き合うことよりも、自己の内面に向かう
いるとき、そのとき、私は関係の中で普段とは違った動
ことで生じるある特殊な体験なのではなく、そうではな
き、そのときわき起こってくるものに身をまかせた動き
く、日々の現実の、その都度の今とここで、向かい合い
をすることがある。・・・それらの瞬間、わが内なる精
つつある他者に呼びかけ、他者からの語りかけに応答す
神がその触手を伸ばし、他者の内なる精神にふれたかの
ることであり、この応答的な対話にこそ、宗教的なるも
ようである。二人の関係は二人だけの関係を超越し、よ
のであり「生の全体性」があるとする 12)。
なんじに語りかけることは、存在の全体への専心集中
りおおきななにかの一部となる」
2. ブーバーによる呼びかけ、語りかけることについて
であり、自我喪失に陥ることがない。そして、他者(な
その名を呼ばれてこの人生が始まったとされ、他の誰
んじ)との関わりも失われることがない。ここでは、
「な
でもなく自分だけに向けられた言葉がある。それが最初
んじに語りかけるわれ」(他者に対して語りかけること
の始原の言葉であり、
「わたしが、ここにいて、いいこと」
のできる自己)が、「われとなんじ」の全体的関わりに
をあらわす存在を絶対的に肯定する根源語(根元語)で
おいて不可欠な前提となっている。
あり、この呼びかけの二人称がブーバーの「なんじ Du」
顔を合わせ、私自身の声を出して、その時その場所で
語られるべく形をあらわした一回きりの言葉を贈るの
である。
なんじに呼びかけること、呼びかけを聴き取り、応答
が、ブーバーの対話である。それは、その人に向けて呼
し、また語りかけることは、ブーバーにあっては一つの
びかけることが、その人の存在、すなわち、現にそこに
祈りであり、真の「対話」の基礎でもあるが、対話は祈
生成しつつある人の生命、を確かめることになるような
りとともにはじまり、祈りの力が対話をその根底で支え
対話である。そして、人のみならずどのような生命体を
つづける。われとなんじ(我と汝)の出会いにおいては、
も含める中でブーバーは次のように述べている。
われとなんじが一体化して融合する瞬間を捉えていて、
「猫はわたしのまなざしの気配に答えるかのように、
そこで他者と自己は互換可能な相互性を持つ。この点に
そのまなざしは輝きを増し、つぎのようにたずねるの
ついてブーバーは次のように表現する。
である」13)「・・・わたしとあなたとは、なにかのかか
「あなたと現存の間にはあたえ合う相互性がある。あ
わりがあるのですか。あなたにはわたしが見えるのです
なたはこの現存の世界に<なんじ>と語って、自己をあ
か。そういうわたしは、本当に存在しているのでしょう
たえ、現存の世界はあなたに<なんじ>と語りかけて、
か。あなたから流れてくるものはなんですか。わたしを
10)
とりまいているものはなんですか。わたしのところにむ
「<なんじ>との関係に立つものは、<なんじ>と現
かってくるものはなんですか。それは一体なんなのです
あなたの自己をあたえる」
実をわかち合う。たんに自己のうちだけでも、またたん
か」14)
に自己の外だけでもない存在を分かち合うのである。す
べての現実とは、私が他の存在ととともにわかち合う働
Ⅲ . クロニックイルネスにおける人の語りを聴くこと
について
きであり、わたしだけで自分のものとすることはできな
い。関与の無いところには、現実はない」
11)
ここに 4 人の女性の語りの一部を紹介しようと思う。
̶ 127 ̶
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 , 2005
4 人の方々には研究協力者として病みの軌跡についての
結局、親にも学校の先生にも話すことはできずにいた。
インタビューに応じていただき、聞き手はロジャーズの
中学生の頃から食事が食べれなくなり、ヨーグルトを 1
考えにもとづきインタビューを行った。インタビュー時
日 1 ∼ 2 回食べるという食生活になった。でも、羊羹
間は 2 時間から 6 時間(6 時間は 3 回のインタビュー
を 1 本くらい食べてしまうときがあった。自分のこと
によるもの)である。インタビューは、東京、大阪、お
が嫌になり、気持ちが不安定になった。将来のことが「ど
よび京都でおこなった。テープレコーダの使用は 3 人
うなるのだろう」と不安になった。
の方に承諾をいただき、また、インタビューにおいては、
○ 16 歳の時に身体が疲れやすく、だるかったので、
すべてその場での筆記記録をさせていただいた。長い語
クリニックを受診したら、糖尿病でしょうと言われた。
りの中から「トンネルの中にいた」ときのことを語った
大学病院に入院し、インスリン療法を開始した。担当の
箇所を紹介しようと思う。
医師から病気のこと、注射の必要性が説明され、栄養士
1. いつしか長い「トンネル」の中に
から食事の説明を受けた。親と一緒に説明を受けたが、
それぞれの女性が、病気とともにある生活が自分のも
「覚えないとだめです」と言われた。退院後は、とにか
のになるまでにはさまざまな体験をしている。うまくで
く食べたかった。買って食べると、血糖コントロールが
きるようになっているとしても、それは決して簡単にで
うまくいかず、再び教育入院となった。「食べてはいけ
きるようになったのではない。特に、思春期から青年期
ない。でも私だけ、周りは元気」。朝と夕の注射だった
にかけての自分の中での葛藤は大きく、なんらかの対応
けど、食べては注射をしていた。母親は血糖コントロー
ができるようになるまでに数年を要している。たとえば、
ルの状態を気にしていた。知った人で 1 型糖尿病の人
次のようにである。
はいなかったので、なんだか外に出るのがおっくうに
○幼児期に発症し、治療のためのインスリン注射が開
なってきた。
始され、食事については「お菓子を食べてはいけない」
「食
生活は普通にしているのに、「暗いトンネルの中にい
べ過ぎてはいけない」と言われたような気がする。おや
る」ような気がしていた。前後左右が真っ暗で、自分が
つを食べれないことが耐え難くて、小学校高学年の頃に
どこにいるのかわからない、もがいている。何かをやっ
なると自分で買いに行ったり、友人との付き合いで、外
てみようとは思わなかった。生活はしているんだけど、
で菓子類を購入して食べるようになった。親との葛藤が
部活はしているんだけど、自分はそこにはいない。本当
始まり、実際には他の人以上に食べていたかもしれない。
の私は暗いトンネルの中にいて、別の私は部活をしてい
小学生のときに、一番信頼していた友人に自分の病気の
る。3 年間はそんなトンネルの中だった。今思うとつら
ことを話したが、中学生になるとその友人に自分の病気
かった。でもその時はつらいとは思わなかった。自分で
のことを学校の人に話され、そのときの心理的なショッ
は全然わからなかった。昨年までのことが、自由になん
クはかなり大きなものであった。そんなことがあって、
でもできた自分が思い出された。
中学校時代はつらかった、登校拒否にもなった。学校は
○ 14 歳のときに学校の検尿をきっかけに 1 型糖尿病
何ヶ月かに 1 回くらいのペースで行っていたが、クラ
であることがわかった。自分の母親は自分が小さいとき
スの中に入ると「なんで来たの」と言っているような顔
から料理をさせる母親だったので、小学校のときから包
の表情ばかりだったので、なかなか行けなかった。学校
丁を握って料理をしていた。中学校の時には自分のお弁
の先生も心配してくれたけれど、学校の先生に話すこと
当は自分で作っていた。毎日持っていったけれど、お弁
はできなかった。親にも話すことはできずに、顔を合わ
当のおかずを特別なものにした覚えはない。ご飯を少な
せるとけんかになるので、昼夜逆転していたときがある。
くしたように思う。20 歳のときに、卒業試験前にケト
親には学校に行けと言われたが、「いやや」と、ふとん
アシドーシスで昏睡となり、はじめてこんなにひどい状
の中で寝ていた。でも塾だけは行っていたし、塾にはい
態になるのだと思った。ショックで自殺を真剣に考えた。
じめなどはなかった。それで学力を維持することができ
ショックだったのは自分の状態がひどいということだっ
て、高校に入ることができた。
た。母親にずいぶんつらくあたったと思う。あのままに
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しておいてくれたら楽になったのにとか。なんでこんな
○ 19 歳か 20 歳頃に急に重いものがとれた。ある時、
病気になったのかとか。でも、医療職者の人には言って
なんのきっかけもなく、ふっと瞬間的に軽くなった。「私
いなかったので、今思えば、母親が医師に相談していた
はこれで生きていくしかない」と思った瞬間に、暗いと
のかもしれない。
ころが急に明るくなった。そのときに別の自分と本当の
○食生活というより、生活自体が結構むちゃくちゃに
自分がくっついた。自分の中でくっついた感じだった。
なってしまってて、入りなおした大学が夜間だったので、
そのとき、初めて、自分は暗いところにいたんだと思っ
授業終わるのが 9 時くらいだった。7 時くらいにご飯を
た。自分の思いで自分の身体が動き出した。大学に入っ
食べれたらいいんだけど、授業始まるのが 5 時くらいで、
て、何で私は生きているんだと考え、自分の中に筋のと
休み時間が 10 分から 15 分くらいしかなく、一回生の
おったものがないとつらいだろうなと思っていた。
ときは働いていたので、仕事を 7 時くらいまでやって、
○思いとどまったのは、主治医をはじめ、医療職者の
それから学校に行っていたから、食べる時間がなくて。
方々が立ち直らせようと懸命だったのがよくわかったか
それで、不規則な生活だから、4 回法の方がいいと思っ
ら。担当の先生が「これからは、きちんと治療していこ
て、先生に診てもらって、私は変えたいんですと言った
うな、1 型糖尿病があってもきちんと治療していけば、
んです。でも、ぜんぜん取り合ってもらえなくて。今の
就職、結婚、出産大丈夫。一緒にがんばろうな」と言っ
ままでいけているからこれでいいんじゃないかって。で
てくれた。「ほんまかな?」と思いつつ、担当医師のペー
もそれは、私にとってかなり無理をしていたんです。自
スにはまっていった。
分の生活は全部話しました。創作活動のことも。でも、
○「このままじゃだめだ」と思って、血糖も高くなっ
取り合ってもらえなくて。インスリンはそのままで、そ
て い っ て る し、 そ れ で ま た 病 院 で 先 生 に 言 っ た ん で
のような状態が半年続いたんです。これからもっと忙し
す。言ったんですけど、あまり先生が取り合ってくれな
くなることは解っていたので、変えてもらいたいと思っ
かったんで。その後半年ぐらいは自分でなんとかしなく
ていて。そんなストレスとか不安とか募って、過食する
ちゃって思ってたけど、1 年くらいたつと、本当にひど
ようになって。そしたらそれで、止まらなくなって。止
くなって、食べ物があればめちゃくちゃ食べ続けて、喉
まらないというより、低血糖でもないのに、夜中に食べ
が渇いて、くらくらして、R を追加して、追加しても全
ないと落ち着かなくなってきたんです。落ち着かないし、
然足りなくて、もういつ測っても血糖はハイなんです。
眠れないし。たとえば、夜中に羊羹があれば、それを食
1000 くらい測れる血糖測定器がでてないんだろうかと
べて。そしてだんだん量が増えていって。
思ったりして。それで、もう外に出るのが嫌で、家にこ
2. トンネルの出口が見えた、そして自分の内面からの
もったりして。友達とかが心配して家とかにきても居留
声
守使ったり、電話がかかってきても留守電にしたりして。
血糖コントロールが自分の思うようにいかないという
3. トンネルを出ると
そのような状態のなかにあって、それぞれの人が自分の
トンネルを出て、新たな自分なりの生活を送るように
内面からの声を聞いている。そしてトンネルの出口が見
なると、病気に対する考え方や思いにそれまでとは少し
えてきた人や突然にトンネルから出た人がいる。
違ったものとなる。そして、さらに生活は続いていく。
○高校 2 年のときに、友人が「気遣ってくれている」
○同じものを食べても血糖の上がり方が違うことが多
ことがわかった。この友人とはその後も長い付き合いに
い。ほとんど食べていないのに血糖値が上がることもあ
なっている。食べれずにふらふらしている自分だった。
る。でも、最近思えるようになった「そんなこともある
自分も「これではいけない」と思っていた。友人から「痩
わ」と。そして自分に自信がついてきた。自分にも成果
せ過ぎているあなたは魅力ないよ」と言われた。この言
が出せると思うようになった。以前は「がんばっている
葉にドキッとした。痩せることを思ってきた自分に「ピ
のに、なんでこんなんな」と思っていた。
リオドを打つときが来た」と思った。もう限界だと思っ
た。
○大学卒業後に看護職者になりたくて、専門学校に行
くことにした。専門学校に入るときに、病気のことは言
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わなかったし、在学中も病気のことは言わなかった。言
した「Presence:いま−ここに−いること」、およびブー
うと入学できないと思ったし、在学中も言うと続けられ
バーによる「日々の現実の、その都度の今とここで、向
ないと思っていた。就職するときに、決心して初めて話
かい合いつつある他者に呼びかけ、他者からの語りかけ
をした。やめさせられると思った。でも「よくがんばっ
に応答すること」に生の全体性があり、それが対話すな
てきたね」と言われた。看護職者として働き始めて、寮
わち「二人して語る」ことであるとすれば、この「二人
に住んでいた。その頃から「食べたいものは食べたいと
して語る」ことの意味に私たちはもっと気づく必要があ
きに食べる」と思うようになった。家から離れたときに、
るのではないかと考えさせられた。おそらく、クロニッ
「スナック菓子を食べたくなったら、そうしよう」と思っ
た。
クイルネスにおいて人の語りを聴くということは、その
場にいる相手から「流れてくるもの」を丁寧に受けとめ、
○ 20 歳代で結婚し、長男が生まれた。出産後の子連
また相手に手わたすことで一つの語りが生まれるのであ
れ通院は大変で、1 型糖尿病を辞めたいと思った。その
ろうし、それが生じることで語る人は自分の存在につい
子供が思春期を迎えると子供の精神的問題で悩むように
ての絶対的な肯定を感じ、さらに言語に託すことができ、
なった。昼夜逆転があり、私が傍にいないと不安を示す
語り手一人では語れないことが聞き手との二人で生成さ
ようになって、通院がかなり難しくなった。自分の治療
れるのではないかと考える。すなわち、一方が傷つきや
どころではなくなった。近所のナースの方に薬を持って
すく一方が全体的統合性をもっているというより、両者
きてもらったこともある。でも病院に行ってもそのこと
が傷つきやすく、また両者が全体的統合性をもっている
を話すことができない。事態が深刻であればあるほど、
ことに気づく必要があるのではないだろうか。この点に
人は人には話せない。相談できないということを知って
ついては今後も考察を続けたい。
ほしい。母親の死、父親の死を経験した。
おわりに
Ⅳ . 人の語りの聴き手に求められること
「透析室で働いていたときに、透析導入になったばか
これらの語りの聴き手であった筆者らは、ロジャー
りの患者さんが、現実に対応できない状態でした。バリ
ズの考え方と「病みの軌跡」の考え方を礎としてイン
バリ仕事をしてきた会社員だったのですが、病気を発症
タビューをすすめた。話を聴くことで人を援助するロ
したことで、昇進をあきらめなくてはならなかったよう
ジャーズの姿勢と「病みの軌跡」という病気とともにあ
です。医療職者は、その人が暗いとか、何も話さないと
るその人の人生あるいは生活をとらえようとする姿勢
か言っていたのですが、私にはそうは思えなかったので
は相互に葛藤することなく、助け合うかたちでインタ
す。きっと私と同じように、暗いトンネルの中にいるの
ビューを続けた私たちの中に存在していた。そしてそこ
ではないかと・・・。そこで、その人に話してみました。
には確かに病みの軌跡の姿が立ち現われているように思
私にもどうにもならない思いのときがありました。暗い
えた。4 人の女性の語りに表現される内容の深さに心を
トンネルの中にいるようでした。でも、いつの日か、い
動かされ、私たち看護職者はこれらの現実のどこまでを
つの瞬間か、自分はこれでしか生きられないのだと思っ
知っているだろうか、あるいは知ろうとしているだろう
たのです。そのときから、気持ちが軽くなりました。今
かと考えさせられた。
は大変かもしれませんが、そう思えるときが来ると思い
しかしながら、本論でロジャーズの思考とブーバーの
ます、と。そうしたら、その人は、『それはどのくらい
思考を紐解きながら再度考察してみると、聴き手であっ
の時間がかかりましたか』と聞くのです。私は 2 年か 3
た私たちの中に、どこか話を聴くことでの緊張が残って
年くらいかかったように思いますと答えました。その人
いたり、看護職者としてどのようなアドバイスをすれば
が退院されるとき、どうもありがとうございましたと言
いいのかという思いが頭をもたげそうになったことも確
われたのです」と語ってくださった女性の姿を忘れない
かであったことに気づかされた。
ようにしたいと思う。
そのときに、ロジャーズが第 4 の姿勢としてあらわ
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註1):ロジャーズによる説明の中では、第一の人、セ
45,2003.
ラピスト、第二の人、クライエントのいずれもが用いら
11) 前掲 10) 81.
れているが、本論では語る人と聴く人に焦点をおきたい
12) 皇 紀 夫 編: 臨 床 教 育 学 の 生 成, 玉 川 大 学 出 版 部;243,
ことから、クライエントは第一の人として、セラピスト
2003.
は第二の人として表現した。
13) 前掲 10) 122.
註2):忘我的な宗教的なるものを求めていたブーバー
14) M. ブーバー著,野口啓祐訳:孤独と愛−我と汝の問題−,
は 36 歳の時にある体験をする。一人の青年が彼を訪ね
創文社;146,1969.
てきたが、宗教的な恍惚をひきずっていた彼は、どこか
上の空で対応し、青年の問いかけの深刻さを聴き取るこ
参考文献
とができないまま終えてしまった。青年は戦争で亡くな
・ 黒 江 ゆ り 子, 藤 澤 ま こ と, 普 照 早 苗: 病 い の 慢 性 性
り、訃報を耳にしたブーバーは、青年が絶望しつつもあ
(Chronicity) に お け る「軌 跡」 に つ い て − 人 は 軌 跡 を ど の
る決断をするために彼のところに来たことを知る。
ように予想し,編みなおすのか−,岐阜県立看護大学紀要,
4(1);154-161,2004.
謝辞
インタビューにご協力いただきました皆様に心より深
(受稿日 平成 17 年 2 月 8 日)
く感謝申し上げます。
引用文献
1) Lubkin IM, Larson PD, : Chronic Illness,Jones and Bartlett
Publishiers ; 3-4, 2002.
2) Feldman D : Chronic Disabling Illness: A holistic view ,
Journal of Chronic Disease, 27 ; 287-291, 1974.
3) Cluff, L. : Chronic disease, function and the quality of care ,
Journal of Chronic Disease, 34 ; 299-304, 1981.
4) Mazzuca S. : Does patient education in chronic disease have
therapic values?, Jounal of Chronic Disease, 35 ; 521-529,
1982.
5) Mayo, L. : Guides to action on chronic illness. Commission
on Chronic Illness. New York: National Health Council,
1956.
6) Emanuel, E. : We are all chronic patients, Journal of Chronic
Disease, 35 ; 501-502, 1982.
7) Curtin, M. Lubkin, I. : What is chronicity? In I. Lubkin:
Chronic illness: Impact and interventions;3-25, Jones and
Bartlett, 1995.
8) 佐治守夫,飯長喜一郎編:ロジャーズ クライエント中心
療法,有斐閣;73-80,1983.
9) 村瀬孝雄,村瀬嘉代子:ロジャーズ−クライエント中心療
法の現在−,日本評論社;72,2004.
10) M. ブーバー著,植田重男訳:我と汝・対話,岩波書店;
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投
稿
規
定
1.投稿資格
1)本学教員であること
2)共同研究の場合は、本学教員が first author であること。ただし、本学の非常勤講師との共同研究では、この限
りではない。
3)その他、紀要委員会が認めた者。
2.論文の内容
看護学及び、看護学教育の発展・向上に貢献できるものであり、未発表のものに限る。
3.論文の採否
査読者の意見をもとに、紀要委員会が決定する。
4.著作権
本紀要に掲載された論文の著作権のうち、複製・頒布・公衆送信にかかる権利は岐阜県立看護大学に所属するものとす
る。但し、著者(共著の場合は著者全員の総意のもと)によるこれらの権利行使を妨げるものではなく、大学の許諾も不
要とする。
5.投稿にあたっては、原稿原本に投稿書式 1 を表紙として添付、コピー 4 部にそれぞれ投稿書式 2 を表紙として添付し、
投稿書式 3 とともに提出する。
6.論文の種類
総説・原著・研究報告・教育実践研究報告・資料・その他
7.投稿要領
1)原稿は邦文および英文とし、A 4 縦置き横書き、ワードプロセッサーを使用する。邦文(総説・原著)の場合は、
図・表を含め、2 段組 16000 字(1 頁は、横 25 字×縦 40 行×2段= 2000 字)以内、邦文(研究報告・教育
実践研究報告・資料・その他)の場合は図・表を含め、2 段組 12000 字以内とする。英文の場合は、A 4 縦置
き 2 段組 55 行、1 頁 900 語程度とし、ダブルスペース(Double-spacing)で作成する。
2)原著の場合は、800 字以内の論文の要旨と、500 語前後の英文抄録を付ける。それぞれ下にキーワード 3 ∼ 5
個を付ける。
3)図・表は、いずれも 1 枚の用紙に 1 枚の図または表を書き、本文原稿の右側欄外に図・表の挿入箇所を明記する。
図・表 1 枚につき下記を参考にして字数換算する。
<換算例> 図・表の大きさ
1 頁全部
換算字数 2000 字
1 頁の半分
1000 字
1 頁の 3 分の 1
666 字
1 頁の 4 分の 1
500 字
1 頁の 6 分の 1 333 字
1 頁の 8 分の 1 250 字
1 頁の 10 分の 1 200 字
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4)図・表は原本のまま印刷できるものを提出する。表形式は例示に従う。
<例> 縦罫線の使用は最小限にとどめる。左右両端の縦罫線は引かない。
表 A市とB市の距離別居住人口と対前年増加率
A市
中心からの距離(キロ)
B市
人口(千人)
対前年増加率(%)
人口(万人)
対前年増加率(%)
0 ∼ 9.9
320
-0.5
410
-0.2
10 ∼ 19.9
850
0.9
330
-0.7
20 ∼ 29.9
620
0.4
255
-0.3
30 ∼ 39.9
710
-0.6
890
0.8
40 ∼ 49.9
460
0.6
720
0.5
5)原稿は、新かなづかいとし、原則として常用漢字を用いる。句読点を明確にする。
6)文献は、本文の引用箇所に1)、1,2)、1)∼ 5)などで示し、原稿の終わりに著者名を引用順に並べる。
雑誌は、著者名:論文題名,雑誌名,巻(号);頁,発行年.
単行本は、著者名:表題名,書名(監・編者名),版;頁,発行所,発刊年.
訳本は、原著者名:原書名(版),発行年,監・訳者名,書名;頁,発行所,発行年.
電子文献は、著者名(サイト設置者名):タイトル,入手日(アクセス日),アドレス
英文誌は、Index Medicus に従って記載する。
[例]
①雑誌
平山朝子:日本の看護系大学院 千葉大学大学院看護学研究科の教育・研究内容 地域看護学教育分野,
Quality of Nursing,6(2);133-135,2000.
②単行本
平山朝子:保健指導の技術的特質,公衆衛生看護学大系 1 公衆衛生看護学総論 1(平山朝子,宮地文子編),
3版;169-174,日本看護協会,2000.
③訳本
Pierre Woog, Ph.D.: The Chronic Illness Trajectory Framework − The Corbin and Strauss Nursing Model,
1992, 黒江ゆり子,市橋恵子,寳田穂訳,慢性疾患の病みの軌跡 コービンとストラウスによる看護モデル、
初版;4-5,医学書院,1995.
④電子文献
岐 阜 県 立 看 護 大 学 紀 要 委 員 会: 紀 要 投 稿 マ ニ ュ ア ル,2004-01-15,http://www.gifu-cn.ac.jp/journl/
manual.html
7)単位は SI 単位とし、特殊な単位を用いるときは、簡単な説明を加える。
8)略語を用いるときは、論文の初出のところで正式用語ととともに提示し、その後略語を用いることを明記する。
8.提出先
〒 501-6295 岐阜県羽島市江吉良町神宮 3047-1 岐阜県立看護大学図書館
岐阜県立看護大学紀要委員会 宛
9.査読
投稿原稿は全て査読する。査読者は、紀要委員会が任命する。
10.著者校正
著者校正は、原則として初校 1 回とする。校正時に新たな加筆は認めない。
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11.掲載料
掲載料は無料とする。別刷り(30 部)は、無料とする。
12.掲載決定後の原稿提出は、フロッピーディスクに保存したものとプリントアウトしたもの(2 部)を提出する。フロッ
ピーディスクには、Windows で作成したファイルを保存し、論文名、著者名、ファイル名を明記したラベルを貼り
付ける。保存するファイルは本原稿、図、表の他に投稿書式 1 とする。プリントアウトした原稿には、投稿書式 1
を表紙として添付する。
(平成 16 年 8 月改正)
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編集後記
本号は開学以来毎年度 1 号ずつ刊行してきた本学紀要の 5 冊目になります。今年度から編
集を担当する紀要委員が一新されたこともあり、それに合わせて表紙のデザインや体裁を新し
いものに変更してみましたが、いかがでしょうか。
本号に掲載された論文は研究報告が 4 本、教育実践研究報告が 7 本、資料が 6 本、その他
が 1 本となっています。本数でわかるように教員が教育実践に取り組んだ成果を取りまとめ
た教育実践研究報告を積極的に掲載している点が本学紀要の大きな特徴のひとつと言えます。
個人的な話で恐縮ですが、以前、農村調査を行ったときに農家の人が「農業はやり直しがき
かない」と語っていたことを思い出します。農業生産の多くが 1 年単位で収穫を繰り返して
いくので一生のうちに 100 回も 200 回もできるわけではなく、せいぜい 50 回強しかできず、
失敗したらやり直せばいいという半端な気持ちではできないことを言っているわけですが、1
年 1 年が勝負であることは教育も同じです。
授業科目は毎年毎年開講されていきますが、同じ教員が何十回もその授業科目を担当するわ
けではありません。やり直しのきかない中で十分な教育成果を上げるためには毎年毎年の授業
科目について個々の教員が真摯な態度で自己点検を行い、それを次年度の授業に結びつけて改
善していくことが不可欠です。
近年、大学教員の資質として研究能力だけでなく教育能力も問われるようになってきており、
教育実践研究報告を取りまとめることは教員の教育能力を高める上でも大きな役割を果たすわ
けで、本学紀要に教育実践研究報告を積極的に載せる意義はそこにあると思っています。
(会田敬志)
岐阜県立看護大学紀要委員会
委員長 会田 敬志
委 員 坂田 直美
〃 泊 祐子
〃 森 仁実
岐阜県立看護大学紀要
第 5 巻 1 号 2005 年 3 月発行
ISSN 1346-2520
発行所 岐阜県立看護大学
〒 501-6295 岐阜県羽島市江吉良町 3047-1
TEL(058)397-2300(代) FAX(058)397-2302
印刷所 印刷の一誠社
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