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ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究

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ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
関東学院大学『経済系』第 266 集(2016 年 1 月)
論 説
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
——日本のベンチャーキャピタルの資金回収:
IPO から未公開株の譲渡へ——
The Analysis on the Exit Strategy by Venture Capital
—The Exit Strategy of the Japanese Venture Capital:
Initial Public Offer or Withdraw of Private Equity—
楊 軒・
聖 二
Xuan Yang, Seiji Tsuji
要旨
本稿は日本のベンチャーキャピタルの資金回収方法について考察する。現実には,ベンチャー
キャピタルの資金回収方法は様々であるが,日本のベンチャーキャピタルは IPO による資金回収に
偏向して,未公開株の譲渡などによる資金回収方法を二次的な選択肢にしているという問題がある。
本稿では,アメリカのベンチャーキャピタルの資金回収の事例によって,ベンチャーキャピタルの
資金回収が成功するために重要なことは,どの方法を利用するかではなく,いかに適当なタイミン
グで適当な方法を選択するかにあるということを明らかにする。そして,日本のベンチャーキャピ
タルも未公開株の譲渡による資金回収を重視して,未公開株の譲渡による資金回収の活用能力を高
める必要があることを指摘する。
キーワード ベンチャーキャピタル,資金回収,IPO,未公開株,未公開株の譲渡
1.
2.
3.
4.
5.
1.
はじめに
先行研究
ベンチャーキャピタルの資金回収方法
未公開株の譲渡による資金回収
むすび
はじめに
の組成,投資の実行,モニタリングと価値創造,資
金回収といった四つの段階で行われる。その中で,
社会と経済の発展に従って,科学技術と知識が経
資金回収はベンチャーキャピタルが良好な運営循
済活動で果たしている役割はますます注視されて
環を続けるために必要不可欠なものとなっている。
いる。科学技術の向上は経済発展の推進力となっ
ベンチャーキャピタルが正常に資金回収を行うこ
ているといえる。世界各国の経済発展の中で,ベ
とができれば,ベンチャーキャピタルの資本増加
ンチャーキャピタルは一つの新興的な投資手段と
を実現することができ,次の投資活動に参入する
して,実務界と学界において重視されてきている。
ことができる。
ベンチャーキャピタルが起業家や中小企業の成長
本稿は,ベンチャーキャピタル側の視点から,
を促進する役割は,ますます注目されるようになっ
ベンチャーキャピタルが持続可能かつ安定的な経
ており,特に,中小企業の成長を非常に重視して
営を行っていくために,どのような資金回収方法
いる日本は,ベンチャー事業の発展を日本経済復
を選択すべきかを明らかにすることを目的として
興のためのカギと見なしている。
いる。
ベンチャーキャピタルの投資活動は,ファンド
—1—
一般的に,ベンチャーキャピタルの資金回収は,
経
済
系 第
266 集
新規株式公開(以下 IPO)による資金回収と未公
セカンダリーセール3) ,清算といった五つの投資
開株の譲渡による資金回収,そして清算による資
資金の回収方法をまとめた。これら五つの投資資
金回収,の三つの方法があると見なされている。
金の回収方法について,持ち分の売却がすべてか
その中で,一般的に IPO による資金回収は収益率
一部かの選択の決定要因を,アメリカとカナダの
が最も高いと思われるため,ベンチャーキャピタ
ベンチャーキャピタルを比較しながら分析してい
ルが最も求める資金回収方式となっている現状が
る。同論文は,ベンチャーキャピタルと買い手と
ある。しかし,ベンチャーキャピタルは,IPO に
の間の情報の非対称性が大きければ,投資先企業
よる資金回収以外の方法によっても,適当なタイ
の質についてのシグナルを送るために4) ,一部売
ミングで適当な方法で資金回収を行えば,相当な
却の可能性が高くなるとの結果を示している。
利益を図ることができると思われる。したがって,
Wang and Sim(2001)は,シンガポールのベン
本稿では,主なベンチャーキャピタルの資金回収
チャーキャピタルのデータを用いて,ベンチャー
方法を検討するうえで,IPO による資金回収と未
キャピタルの資金回収手段の選択(IPO による資
公開株の譲渡による資金回収を比較分析し,日本
金回収か,M&A,株の買い戻しなど IPO によら
のベンチャーキャピタルの資金回収の現状を踏ま
ない資金回収手段か)の決定要因を分析している。
えて,未公開株の譲渡による資金回収の積極的な
資金回収手段の内訳は,IPO 49%,買い戻し 18%,
利用可能性について考察する。
トレードセール5) 17%,償却6) 10%,セカンダリー
以下,第 2 章では,先行研究についてまとめる。
セール 6%となっており,IPO が最も一般的な資
第 3 章では,ベンチャーキャピタルの資金回収方
金回収手段となっている。また,(1)家族所有の
法をまとめる。第 4 章では,IPO による資金回収
企業(ファミリービジネス)とハイテク産業の企
と未公開株の譲渡による資金回収との比較分析を
業において,IPO による資金回収を行う傾向があ
行い,日本のベンチャーキャピタルの資金回収の
ること,
(2)IPO による資金回収は,ベンチャー
現状とアメリカのベンチャーキャピタルの資金回
企業の調達資金総額と売上高との間に正の関連が
収の現状をまとめ,未公開株の譲渡による資金回
あること,を明らかにしている。
収の活用の可能性を検討する。最後に,まとめで
Lerner(1994)は,1978–92 年のアメリカのベン
は,本稿の結論内容を踏まえて,今後の課題と発
チャーキャピタルの投資先バイオベンチャー企業
350 社のデータを用いて,IPO を実施するタイミ
展の可能性について述べる。
ングと投資先ベンチャー企業の株式の売却の実施
2.
先行研究
の選択について実証分析を行っている。分析結果
によれば,ベンチャーキャピタルは投資先企業の
Cumming and Macintosh(2003)は,代表的な
1)
2)
資金回収手段として,IPO,M&A ,買い戻し ,
バリュエーションが高いときに IPO を実施し,バ
リュエーショが低いときには私募による調達(保
有株の譲渡)を行うことに成功している。また,ベ
〔注〕
1)一般的には,M&A による資金回収はベンチャーキャ
ピタルが持っている投資先ベンチャー企業の株式を
売却することで資金回収を行うことを指す。本稿で
は,ベンチャーキャピタル側から分析・検討するの
で,M&A とは第三者(投資先ベンチャー企業や既
存の株主を除く第三者)への持ち株の譲渡を意味す
るとなる。
2)投資先ベンチャー企業に持ち分の株を売却すること
を指す。本稿では投資先企業への株の譲渡による資
金回収を意味する。
3)専門の二次買取業者への株式売却のことを意味する。
4)ベンチャーキャピタルが引き続いて株を保有してい
ることは,投資先企業の価値が高いという信頼でき
るシグナルとなる。
5)ベンチャーキャピタルが投資先ベンチャー企業の持
ち株を,当該企業の株を持っている他の株主に売却
することを指す。
6)ベンチャーキャピタルは投資が失敗と見込むときに
投資先ベンチャー企業の持ち株を償却処分を行い,
低価格で売却することを指す。
—2—
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
ンチャーキャピタルの経験との関連性についても
分析を行い,経験のあるベンチャーキャピタルは
経験の少ないベンチャーキャピタルと比較して,
市場が好況なタイミングで IPO を実施することに
成功していることも明らかにしている。
本稿では,従来の研究ではほとんど触れられて
こなかったベンチャーキャピタル側の視点からベ
ンチャーキャピタルの資金回収の問題を研究する。
また,従来の研究の多くは IPO による資金回収を
中心として研究してきたが,本稿は IPO 以外の資
金回収方法にも着目して,ベンチャーキャピタル
の資金回収策を検討する。さらに,本稿では,ベン
チャー事業の先進国であるアメリカのベンチャー
図 1 ベンチャーキャピタリストの投資活動循環
キャピタルの例を参考にしつつ,日本のベンチャー
キャピタルを分析対象としている。
安定的な運営のためには,ベンチャーキャピタル
3.
ベンチャーキャピタルの資金回収方法
投資に対して,どれくらいの資金回収額を実現で
きるかが非常に重要である。
資金回収(Harvesting)とは,理想的には多額
【図 1】のように,ベンチャーキャピタリストの
のキャピタルゲインが見込める IPO や未公開株の
投資活動は,簡潔に表すとファンド組成,資金投
譲渡などによって,投資資金を回収して,投資家
下,投資管理,資金回収といった循環と考えられ
に配分するあるいは次の投資活動に活用すること
る。この活動循環の中では,資金回収が重要な局
である。
面であると考えられる。前の投資活動は資金回収
どの時点でどのような手段で資金回収を行えば
で終了になり,同時に次の投資活動はここからス
収益が大きくなるかは,ベンチャーキャピタルに
タートする。したがって,成功な資金回収はベン
とって非常に重要な問題である。実際,営利目的
チャーキャピタルの高額な収益を保障する最も大
で設立されたベンチャーキャピタルの投資は,よ
事な核心要素といえる。つまり,資金回収は投資
り多くの資金回収を行うことを目的としている。
目的を実現するための最も肝心な鍵と考えられて
投資活動が成功かどうかを判断する最も重要な基
いる。また,資金回収の最終目的は,投下資本の
準は資金回収額である。したがって,本章では,ベ
収益を最大化することである。また,投資が失敗
ンチャーキャピタルの資金回収の重要性と資金回
した場合には損失を最小限に抑えることである。
収方法の特徴について分析を行う。
ベンチャーキャピタルの資金回収の重要性は以
下の三つの側面から捉えられる。
3.1 ベンチャーキャピタルの資金回収の重要性
ベンチャーキャピタル投資事業は,主として資
(1)資金回収は投資活動を評価する主な指標であ
金回収の効果により成否を判断することになる。
る。
長い目から見ると,ベンチャーキャピタリストは
投資先ベンチャー企業が理想的に成長するなら
投資活動によって,投資家に利益を与えなければ
ば,ベンチャーキャピタリストの最終的な目的は,
ならない。この目標を実現するためには,より成
直接に企業利益の配分を受けることではなく,持
功的な資金回収を実行することが必要である。し
ち分の資産の価値増加による収益を実現すること
たがって,ベンチャーキャピタルの持続可能かつ
になる。したがって,ベンチャーキャピタリスト
—3—
経
済
系 第
266 集
は,投資の収益を獲得するために,持ち分の資産価
値を最大化する方法を見出す必要がある。適切な
資金回収方法の選択による投資収益の実現は,ベ
ンチャーキャピタリストの自信を強め,資産増加
した後にうまく現金化できるかという悩みを解決
することになる。つまり,資金回収の結果は実際
に投資家の期待に応えているかを判断する指標で
ある。
(2)資金回収はベンチャーキャピタルの投資循環を
保障する鍵である。
図 2 ベンチャーキャピタルの資金回収方法
ベンチャーキャピタルの資金回収の結果は,再
投資の進行の保障である。投資先企業への長期経
営を図らないことは,一般的な投資とベンチャー
で資金回収を実施することが大事である。
以下では,主な三つの資金回収方法をまとめる。
キャピタルの最も大きな違いである。投資先ベン
チャー企業がある程度成長した段階で,ベンチャー
キャピタリストは適当な手段で資金回収を行い,当
3.2 三つの資金回収方法
ベンチャーキャピタルの資金回収方法は,大き
該ベンチャー企業への投資から撤退し,次の投資
に移ることを考える。ベンチャーキャピタルファ
く【図 2】のように分類することができる。
ンドの運営は,一つの投資活動から撤退してから
次の投資活動に再投資するという循環であるため,
3.2.1
新規株式公開(IPO)による資金回収
撤退のルートが適切に確保できなかったり,資金
新規株式公開(Initial Public Offering)とは, 略
回収方法が不適当だったりすると,ベンチャーキャ
称して「IPO」と言い,未上場会社の株式を証券取
ピタルファンドの運営循環の全体を渋滞させ,資産
引所に新規公開を行い,投資先ベンチャー企業の
の価値増加は遅くなり,投資家の投資インセンティ
株が証券市場において売買可能になることを示す。
ブがなくなると,投資の循環は続けることができな
ベンチャーキャピタルファンドはベンチャー企
くなる。したがって,資金回収はベンチャーキャ
業の IPO により,持ち分の私有株式が公開株式に
ピタルファンドの運営循環を保障する鍵である。
転換することができるようになる。こうして証券
市場で当該ベンチャー企業の株価が上がれば,ベン
(3)資金回収手段はベンチャーキャピタルファンド
チャーキャピタルは持ち分の株を自由に売買する
ことで資金回収を実現することができる。IPO は
成長の基盤である。
ベンチャーキャピタルの資金回収手段の合理的
収益率が最も高い資金回収方式であり,ベンチャー
な利用は,ベンチャーキャピタル業界の持続的な
キャピタルの主な資金回収方式でもある。アメリ
成長を確保している。より完璧な資金回収は多く
カでは,件数ベースで約三分の一のベンチャー投
の投資家を引き入れることができ,それによって,
資が IPO による資金回収を行い,投資収益率は投
資金調達の源泉を確保できるから,ベンチャーキャ
資額の 7 倍になることもある。
ピタルファンドは持続的な成長を果たすことがで
IPO,つまり,ベンチャー企業の株式公開が可
能となることは,企業の運営状況,企業規模がよ
きる。
そして,ベンチャーキャピタルの資金回収は,ベ
り理想的な状態になっており,証券取引所でより
ンチャー投資循環の中で最も重要な役割を果たし
良い株価評価を得ることができる状態になること
ている。適切なタイミングと適当な資金回収方法
を意味している。ベンチャーキャピタルは望まし
—4—
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
い収益を獲得するとともに,ベンチャー投資業界
収益性は IPO より低いが,回転率は早くなる。こ
で高い地位と知名度を得ることができ,社会の効
のように,ベンチャーキャピタルファンドの運営
用も高めることができる。したがって,IPO はベ
循環をスムーズにするメリットがあると思われる。
ンチャーキャピタルの最も理想的な資金回収方式
となっている。
(2)投資先企業への株譲渡による資金回収
IPO による資金回収は,投資家が投資額の数倍
投資先企業に株主権利を移転して資金回収を行
さらに数十倍のハイリターンを獲得することがで
う方式,実際は投資先ベンチャー企業から自社の
き,最も収益性が高い資金回収方法である。また,
株を買い戻す行為である。持ち分の買い戻しは,
投資先ベンチャー企業にとっては,証券市場の取
投資先ベンチャー企業の経営者あるいは社員が一
引による大量の資金調達ができ,企業の成長に非
定の方法でベンチャーキャピタルの持ち分の株式
常に有利となる。加えて,投資先ベンチャー企業
を買い戻す方法である。
は IPO の成功で,自社の企業規模,経営状況など
ベンチャーキャピタルにとって,このような資
で相当な実力があることを証明でき,したがって
金回収も失敗とはいえない。まず,ベンチャーキャ
企業の名声や社会的地位が高まり,投資家にもこ
ピタルはベンチャー企業と投資契約を結ぶときに,
れに応じた経済収益がもたらされる。
契約に明確に買い戻しの価格と方式を規定してい
れば,ベンチャーキャピタルはこれらの条項によっ
3.2.2
未公開株の譲渡による資金回収
て,ベンチャー企業に持ち分の買い戻しを要求す
未公開株の譲渡による資金回収は,株式を譲渡
ることができる。次に,ベンチャーキャピタルが
する相手によって,第三者への株譲渡による資金
M&A による資金回収を行おうとする場合,ベン
回収と投資先企業への株譲渡による資金回収に分
チャー企業が買収価格を受け入れなければ,ベン
けられる。
チャー企業は買収されないように自らベンチャー
キャピタルの持ち分を買い戻すこともできる。
(1)第三者への株譲渡による資金回収
持ち分の買い戻しは,投資先ベンチャー企業に
ベンチャーキャピタルは,投資先ベンチャー企
よる買い戻し,株主による買い戻し,経営者によ
業の M&A を促進することにより,持ち分の株式
る買い戻し,それに社員による買い戻しがある。
を他に譲渡し,資産収益を実現して,資金の回収
持ち分の買い戻しによる資金回収に係わる権利主
を行う。IPO を実現するためには様々な制約があ
体が少なく,法的関係や所有権関係も明らかであ
るので,第三者への株譲渡による資金回収を行い,
り,やり方も簡単であり,ベンチャー企業もこれに
投資活動の報酬を獲得するベンチャーキャピタリ
よって外部株権益を内部株権益に転換して本当の
ストも多い。特にリーマン・ショック金融危機の
独立を獲得することができる。そして,持ち分の
影響を受け,IPO の実現が困難になったことから,
買い戻しによる資金回収の収益見込みも相当なも
第三者へ株譲渡を選択するベンチャーキャピタル
のであり,ベンチャーキャピタルが出資の際の条
が多くなった。
件に買い戻し価格などを明記しておけば,投資リ
第三者への株譲渡による資金回収の収益性は IPO
スクも小さくなるため,近年ますますベンチャー
に及ばないとはいえ,ベンチャーキャピタリスト
キャピタリストが偏愛する資金回収方式の一つと
は早めに投資したベンチャー企業から退出し,次
なっている。
の投資活動に移ることができる。
第三者への株譲渡に伴うコストは IPO よりかな
3.2.3
清算による資金回収
り低い。投資先ベンチャー企業に対する要求も低
清算とは,投資先ベンチャー企業が経営不振な
く,適応する範囲が幅広い。第三者への株譲渡の
どで解散あるいは破産する場合で,ベンチャーキャ
主たる目的は速やかに資金回収を行うことであり,
ピタルによる債権や債務の整理活動である。ベン
—5—
経
済
系 第
266 集
チャーキャピタルのハイリスク・ハイリターンの
とや,インサイダー取引規制により売買時期を慎
信条はすべての投資が IPO や M&A などの方式に
重に検討しなければならないため,株式の売却に
よる資金回収を行うことは不可能であることを含
対して様々な制限があり,IPO による資金回収が
んでいる。むしろ,多くのベンチャーキャピタル
ハイリターンにならないケースもある。
もちろん,IPO による資金回収はメリットもあ
投資活動は失敗で終わることが多い。
ベンチャーキャピタルは,投資先ベンチャー企
り,第三者への持ち株の譲渡による資金回収もデ
業が予期利益に到達することができない,経営不
メリットがある。以下にて,この二つの資金回収
振で財務状況が悪化した局面に落ち込んだと判断
方法の優劣を分析する。
するとき,損失を最小化するために,速やかに資
金を回収するのが最も聡明な選択となる。この時,
4.1.1
リット
可能な資金回収方式は投資先企業を破産させるこ
とや,投資先企業を解散して,清算させることであ
IPO による資金回収のメリットとデメ
(1)IPO による資金回収のメリット
る。ベンチャーキャピタルにとって,清算による
まず,ベンチャーキャピタルが今後の資金調達
資金回収はいたしかたない選択肢である。清算に
をやりやすくなるメリットがある。IPO を実現し
よる資金回収を行うと,ベンチャーキャピタルが
た実績により,今後の投資活動において投資家か
回収した資金は投下資金の半分にもならないケー
らの資金を調達しやすくなる。
また,ベンチャーキャピタルが引き続き投資先
スが多い。
清算による資金回収は,一般的にベンチャーキャ
ベンチャー企業の経営に参画したい場合,ベンチ
ピタル投資の失敗による損失を最大限に減らすた
ャーキャピタルは経営者の一員として,投資先ベ
めの対策であると考えられる。この時回収できる
ンチャー企業の経営権の主導権を持ちつつ継続し
資金は,投下資金の一部でしかない。しかも,会
て事業拡大を進められる。従業員のモチベーショ
社法等清算に対する法規制も多い。
ンを向上させ,事業拡大を進められる。
さらに,ベンチャーキャピタルがベンチャー企
4.
未公開株の譲渡による資金回収
業への支援力があることを証明したため,投資し
たベンチャー企業の取引先・金融機関などに対す
本章では,IPO と未公開株の譲渡による資金回
る信用力が強くなる効果もある。
収の比較分析を行い,また,日本とベンチャー事業
の発達国であるアメリカにおけるベンチャーキャ
もちろん,IPO による資金回収は M&A に比べ
て資金回収額が大きくなるケースが多い。
ピタルの資金回収の現状をまとめて,未公開株の
譲渡による資金回収の活用の可能性を検討する。
(2)IPO による資金回収のデメリット
まず,IPO を実現するために,ベンチャー企業は
4.1 未公開株の譲渡と IPO
一定の利益額と成長ステージが必要である。ベン
前で述べたように,ベンチャーキャピタルにとっ
チャーキャピタルにとっては,投資先ベンチャー
ては,IPO の他に第三者への持ち株の譲渡などに
企業を上場できる程度までに成長させる経営支援,
より資金回収を行う方法がある。
監査や準備等で上場までには最低 5 年といった時
第三者への持ち株の譲渡には,
「準備が短期間で
間コストがかかる。そして,株式市場の景気によっ
も実施可能」
「上場準備,維持と比較して,コスト
て上場のしやすさや上場時の株価が違う。5 年間
が割安」
「株式を現金化しやすい」などのメリット
以上努力してベンチャー企業を上場できる程度ま
があり,IPO 以上に魅力的な場合も多い。一方,
でにサポートしてきたとしても,株式市場の景気
IPO が実現されても,TOB 規制に代表される各
が悪化し,IPO をしても理想的な公開価格にはな
種規制等により株式売却時の処理が煩雑になるこ
らず,IPO による資金回収が難しくなることもあ
—6—
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
り得る。また,株式売却時の手続きが複雑である。
がある。
平成 26 年 4 月 1 日施行の金融商品取引法等改正
において,投資法人の発行する投資証券等の取引
(2)未公開株の譲渡による資金回収のデメリット
がインサイダー取引規制の対象となったため,売
第一に,ベンチャーキャピタルは,経営者が投
買時期の判断が難しくなる。
資先ベンチャー企業を継続して急拡大させたいと
ベンチャーキャピタルは IPO 実現後にもすぐに
当該投資先ベンチャー企業から退出するのではな
考えている場合,主導権を握ることができなくな
る可能性がある。
く,もうしばらく一定の株を保有するときにも様々
なリスクを持っている。まず,決算発表,有価証
第二に,ベンチャーキャピタルとして,IPO を
実施したという実績は作れなくなる。
券報告書など,企業情報の開示が義務付けられる
第三に,持ち株を投資先企業の合意なしに売却
ため,競合他社との競争で不利な立場に落ちるリ
するケースでは,その後のベンチャーキャピタル
スクがある。また,ベンチャーキャピタルは経営
投資に悪影響が生じる可能性がある。
者として自由に経営ができなくなり,投資先ベン
チャー企業を自分の希望に従って成長させていく
4.1.3
未公開株の譲渡と IPO による資金回収
の比較分析
ことが難しくなる可能性がある。
第一に,未公開株の譲渡による資金回収の準備
4.1.2
未公開株の譲渡による資金回収のメリット
期間は,IPO による資金回収より短く,手続きも簡
とデメリット
単である。したがって,未公開株の譲渡による資
(1)未公開株の譲渡による資金回収のメリット
金回収は,ベンチャーキャピタルの投資活動を迅
第一に,準備期間が短期間でも実施することが
速にかつ成功的に終了させ,他のベンチャーキャ
できる。投資活動の循環をスムーズに流れさせる
ピタル投資に資金を利用することが可能である。
こともできる。未公開株の譲渡の手続きが簡単な
第二に,ベンチャーキャピタルが一部の資金だ
ため,大量の保有株式を一括して売却しやすく,一
け回収を行い,投資先ベンチャー企業の株を持ち続
気に資産のキャッシュ化ができる。また,投資先
ける場合,未公開株の譲渡による資金回収は,事業
ベンチャー企業の利益額が赤字としても,買い手
内容の詳細を開示することなく投資先ベンチャー
企業との事業シナジーがあれば株式譲渡は実現可
企業の事業を継続できるため,ベンチャー企業の
能であるため,決して失敗した資金回収とはいえ
競合相手へ戦略を隠し続けることができる。逆に,
ない。
IPO を実施するときには事業内容を情報公開する
第二に,ベンチャーキャピタルが一部の株を持
必要があり,不適切なタイミングで IPO を実施す
ち続ける場合では,未公開株の譲渡先の企業次第
れば,投資先ベンチャー企業がライバル社との競
で,取引先・金融機関などからの信用度がプラス
争で不利になることがある。
になる。シナジーにより企業価値が急上昇した場
第三に,収益性に関して言えば,未公開株の譲
合で一部の株式をベンチャーキャピタル自身が保
渡による資金回収は,IPO 後に評価される時価総
有し続けた場合,将来的に 2 度目の資金回収もで
額に比べ低い価額で資金回収することになるケー
きる。また,事業内容の詳細を開示することなく
スが多い。ただ,未公開株の譲渡による資金回収
事業継続ができるため,競合相手へ戦略を隠すこ
は,上場コストがかからず,IPO と比べるとコス
とができる。
ト削減になるため,利益額を相対的に大きくする
第三に,未公開株の譲渡による資金回収は,時間
効果があると考えられる。さらに,譲渡先の投資
的な自由度が高く,効率的にベンチャーキャピタ
家が大きなシナジーを見込んで企業価値評価をし
ルの投資活動の投資期間を縮小して,ベンチャー
た場合,IPO 以上の企業価値で売却が達成できる
キャピタルの投資循環の回転を速くするメリット
ケースもある。
—7—
経
済
系 第
266 集
図 3 日本のベンチャーキャピタルの資金回収の件数推移
したがって,ベンチャーキャピタルにとって重
ピタルの資金回収件数は増加傾向を辿ったが,経
要なことは,一生懸命投資先ベンチャー企業を上
済環境と市場環境がリーマン・ショックの影響を
場させ,IPO による資金回収を行うのが唯一の成
受けて,低迷していたので,IPO による資金回収
功的な結果ではなく,適当なタイミングで適当な
を実行するケースは少なく,未公開株の第三者や
資金回収方法を選択し,より多くの利益を稼ぎ出
投資先企業の経営者などへの売却による資金回収
す能力である。無理やりに IPO による資金回収を
の割合が大きかったと思われる。
実施することよりも,他の方法を選択するのも成功
【図 4】日本のベンチャーキャピタルの資金回収
的投資を実現するための一つの道であると考える。
における IPO と未公開株の譲渡の件数割合の推移
から見ると,リーマン・ショックが起こる前の日
4.2 日本のベンチャーキャピタルの資金回収
本のベンチャーキャピタルは,IPO による資金回
の実態
収を実行するのが過半数となっていた。未公開株
【図 3】日本のベンチャーキャピタルの資金回収
の譲渡による資金回収の割合は,IPO による資金
の件数推移と【表 1】日本のベンチャーキャピタル
回収の割合と比べると,若干低い程度であり,ア
の資金回収の件数(割合)からわかるように,2004
メリカのベンチャーキャピタルと比較すると,日
年度までは,IPO による資金回収が好調に推移し,
本のベンチャーキャピタルは IPO による資金回収
連続して前年を上回った。2004 年前後には,日本
への依存度が相対的に高いといえる。2008 年以降
のベンチャーキャピタルファンドの設立がピーク
は,リーマン・ショック等の影響による IPO マー
を迎えていた。日本のベンチャーキャピタルファ
ケットの低迷により,IPO によらない資金回収の
ンドは,一般に,ファンドの組成から撤退まで 7,
割合が多くなるが,2010 年から IPO による資金
8 年の時間視野を考えており,撤退の 2,3 年前か
回収の割合が徐々に回復してくる傾向が見える。
ら清算準備に入って資金回収を行うため,2010 年
これらのデータから見ると,日本のベンチャー
前後に,資金回収件数が新たなピークを迎えると
キャピタルの資金回収の実行は景気に影響され,
考えられた。事実,2010 年までのベンチャーキャ
景気あるいは市場環境が良い時期には,IPO によ
—8—
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
表 1
日本のベンチャーキャピタルの資金回収の件数(割合)推移
図 4 日本のベンチャーキャピタルの資金回収における IPO と未公開株譲渡の件数割合の推移
る資金回収にとって良いタイミングとなり,景気
から撤退する傾向が見られる。
あるいは市場環境が良くない時期には未公開株の
譲渡による資金回収を行い,ベンチャー投資活動
—9—
経
済
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図 5 アメリカにおけるベンチャーキャピタルの資金回収件数の推移
図 6
アメリカのベンチャーキャピタルの資金回収における IPO と未公開株譲渡の件数割合の推移
4.3 アメリカのベンチャーキャピタルの資金回収
の現状
の推移から見ると,アメリカにおけるベンチャー
キャピタルの資金回収は,IPO による資金回収を
【図 6】アメリカのベンチャーキャピタルの資金
選択するのが 10%前後で維持している。未公開株
回収における IPO と未公開株の譲渡の件数割合
の譲渡による資金回収の割合が圧倒的に高いこと
— 10 —
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
図 7 日本のベンチャーキャピタルの未公開株譲渡による資金回収実態
がわかる。
ていることがわかる。確かに未公開株の譲渡によ
アメリカでは,1980 年代後半から一部のベン
チャー企業は,オープンイノベーションを推進し
る資金回収は,IPO による資金回収が実現できな
い時期の二次的な選択肢となっている。そして,
ていくために,外部リソースを活用し,様々な業
【表 1】日本のベンチャーキャピタルの資金回収の
務範囲でアウトソーシングしてきた。総務,人事,
件数(割合)推移によると,リーマン・ショック
研修,厚生,生産,研究開発などに至るまで,ア
後の不景気の局面では,日本のベンチャーキャピ
ウトソーシングの対象となっている。したがって,
タルの資金回収のうち,投資先企業への株譲渡に
専門性を含む情報システム分野の急速な拡大とと
よる資金回収の割合が高く,第三者へ売却する能
もに,他の企業や投資家がより正確かつ確実にベ
力が弱いといえよう。一方,
【図 8】アメリカのベ
ンチャー企業の実態を把握することができるよう
ンチャーキャピタルの未公開株の譲渡による資金
になり,未公開株の譲渡による資金回収を実施す
回収実態によると,アメリカにおける未公開株の
ることが効率的になってきた。そして,アメリカ
譲渡による資金回収の動向はアメリカの経済動向
のベンチャーキャピタルは,こういった状況の中
とほぼ比例的に推移している。つまり,
【図 5】と
で,積極的にベンチャー企業のアウトソーシング
【図 8】を合わせて考えると,アメリカでは,景気
を促進して,未公開株の譲渡の実施によって,高
好調時期に IPO による資金回収も未公開株の譲渡
い収益を図れる資金回収を行ってきた。アメリカ
による資金回収も高まっている。そして,いずれ
におけるベンチャーキャピタルの資金回収方法は,
の時期でも,未公開株の譲渡による資金回収がう
未公開株の譲渡による資金回収に偏向してきたと
まく活用されていることがわかる。
いえる。
【図 7】日本のベンチャーキャピタルの未公開株
5. むすび
の譲渡による資金回収実態から見ると,日本のベ
本稿では,まず,ベンチャーキャピタルの資金
ンチャーキャピタルの未公開株の譲渡による資金
回収の動向は,日本の経済動向とほとんど逆となっ
回収方法の概要をまとめた。
— 11 —
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266 集
図 8 アメリカのベンチャーキャピタルの未公開株譲渡による資金回収実態
次いで,未公開株の譲渡による資金回収のメリッ
そこで,以下では,日本のベンチャーキャピタ
トとデメリットを IPO との比較を通して詳細に検
ルが未公開株の譲渡による資金回収の活用を拡大
討した。これにより,(1)未公開株の譲渡による
していくために取り組むべき主な課題を三つ述べ,
資金回収は,準備期間が短く迅速に対応できるこ
本稿のむすびとする。
と,
(2)未公開株の譲渡による資金回収は,情報
一つは,ベンチャーキャピタルがアウトソーシ
開示の範囲が狭く,投資先ベンチャー企業の競争
ングを活用することである。本稿の 4.3 で述べた
優位性が維持しやすいこと,(3)未公開株の譲渡
ように,アメリカのアウトソーシング文化は,ベン
による資金回収は,取引コストが少なく,うまく
チャーキャピタルの未公開株の譲渡による資金回
他の投資家に譲渡できれば相応の利益を得ること
収を促進している。日本では,上場企業と一定規
ができること,がわかった。
模以上の非上場企業だけが営業報告や財務などに
さらに,アメリカのベンチャーキャピタルの資
関する情報を公開しているが,多くのベンチャー
金回収の経験を参考にし,日本のベンチャーキャ
企業は情報公開していない。アウトソーシングを
ピタルの資金回収の特徴と問題点を明らかにした。
活用することによりベンチャー企業の情報が広ま
日本では IPO による資金回収への依存度が高く,
れば,未公開株の譲渡価額がより公平に評価され,
未公開株の譲渡やほかの方式で資金回収する割合
ベンチャーキャピタルと投資家の双方に安心感を
が低い。景気あるいは市場環境が良好な場合に限
もたらすと考えられる。
り,主として IPO による資金回収を考える現状が
存在する。
もう一つは,一定期間におけるベンチャーキャ
ピタルファンドの運用効率を高めることである。
しかし,今後世界的競争の激化による時間と技
日本のベンチャーキャピタルの資金回収が IPO に
術を買うために,多くの企業や投資家が技術力の
よる資金回収に依存する一つの原因は,欧米と比
あるベンチャー企業の未公開株を譲り受ける意欲
較して長期的な視点で物事を考える習慣にある。
が高まる可能性があるため,日本のベンチャーキャ
つまり,長い目で見て IPO による資金回収で高収
ピタルも,将来の資金回収の中心を未公開株の譲
益を得る意識が強いのである。これに対して,ベ
渡に据える可能性があると考えられる。
ンチャーキャピタルファンドの運営では,ある程
— 12 —
ベンチャーキャピタルの資金回収方法に関する研究
度短期志向の投資を行う意識も必要であると考え
られる。未公開株の譲渡による資金回収は,時間
的な自由度が高く,効率的にベンチャーキャピタ
ルの投資活動期間を短縮し,回転率を上げること
ができる。その結果,ファンド全体の投資活動の
効果を高めることができ,結果としてベンチャー
キャピタルファンドの長期的なパフォーマンスを
向上できると思われる。
最後に,本稿ではあくまでもベンチャーキャピタ
ル側の視点から資金回収の問題を考察してきたが,
投資先ベンチャー企業サイドの事情も考慮する必
要があることは言うまでもない。ベンチャーキャ
ピタルと投資先ベンチャー企業がお互いにある程
度納得できる価格で未公開株の譲渡を行うことが
できるかどうかが,重要なポイントである。ベン
チャー企業は,旺盛な起業家精神と優れた技術や
アイデアを持って事業活動を展開し,ベンチャー
キャピタルは,そうしたベンチャー企業を資金面
をはじめ多面的に支援し,健全な成長を支える役
割を果たしている。未公開株の譲渡において,お
互いに納得できる価格での取引が数多く成立すれ
ば,IPO に頼るだけではなく多様な資金回収が広
がっていくと思われる。
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