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米「実質金利低下」のドル安、物価指標の影響焦点
週次レポート 平成 28年 4月 11日 根深い円高圧力と過熱調整をにらむ 米中指標、米決算発表、日本や G20の政策対応焦点 今週の為替相場は、根深い円高圧力の持続と過熱調整をにらんだ展開となる。週間予想はドル/ 円が 106.5 0 -109.5 0円、ユーロ/ 円が 122.00 -125. 40円。3月からは米 F RBの利上げペース抑制姿勢のほか、世界減速 不安や日本企業の業績悪化懸念を受けて、日本ではリスク回避の円高・株安の負の共振連鎖が深刻化してい る。引き続き加速度的な円高モメンタム(勢い)をにらみつつ、米中指標、米企業の決算発表、日本や週末 G20財務相・中銀総裁会合の政策対応などを受けた反動揺り戻しが焦点となる。 米「実質金利低下」のドル安、物価指標の影響焦点 「日本は慢性的なデフレ体質が円高を促しやすい構造となっており、円高に歯止めを掛けたければ、日本 独自でデフレ完全克服の努力を進めるしかない( デフレは通貨高、インフレは通貨安の要因)」――。 かつて 2011年にかけて 1ドル=75円方向まで超円高が進んだ当時、日本の当局は G7各国に円高阻止の協 力を求めたが、欧州サイドからは再三再四、 「為替市場介入の前に脱デフレの自助努力を、という突き放した 回答が繰り返された」( 日本の財務省元高官)という。その後、日銀による異次元緩和の「自助努力」もあり、 2015年 6月には 125円方向まで円安・脱デフレの好連鎖が具現化されたが、日銀緩和の限界論のほか、人口 減少対策など抜本的な成長戦略の慢心・無策などもあり、いつか来た道である円高・デフレの負のスパイラ ル圧力に逆戻りしている。 かたや米国では FRBの利上げ姿勢抑制などにより、昨年までのドル高・原油安というデフレ圧力が後退し てきた。同時進行で米国では労働需給のタイト化や最低賃金の引き上げ、基本的な人口増加維持とベビーブ ーマーの子ども「ミレニアル世代」の 2 0歳代-3 0歳代超えなどにより、緩やかにインフレ率や期待インフ レ率が修復されつつある。結果、日本とは立場が再逆転する形で、昨年までの「ドル高とインフレ低下の負 の連鎖」から「ドル安とインフレ修復の好連鎖」への軌道に乗り始めた。 しかも米国ではインフレ率が緩やかに持ち直す一方、FRBは利上げを急がない姿勢を示していることで名 目金利が押し下げられている。そのため「名目金利-インフレ率」で算出される実質金利が切り下がってき た。反対に日本は日銀マイナス金利でも物価の再下落により、実質金利が下げ渋っており、実質金利差の縮 小もドル安・円高の圧力を高めている。 ドル/ 円のテクニカル面では、20 0日移動平均線の-10%下方乖離水準である 1 07.4 0円前後、フィボナッ チ分析での 2 009年ドル安値から直近ドル高値の 38. 2 %押しにあたる 106 .58円前後、105.00円の節目、50 % 押しの 100.63円前後割れ――などがドルの下値メドとして意識され始めた。 一方、米国での緩やかなインフレ率や期待インフレ率の上昇は、いずれ名目金利の押し上げ(債券価格の下 落)へと波及していく。F RBによる利上げ慎重姿勢に変わりはないものの、現状の「利上げ年 2回」見通しを 踏まえれば、先行き 6月 14-1 5日 F OMCでの利上げ観測がジワリと高まる可能性がある。その場合は名目金 利の上昇を通じて米国の実質金利低下にも歯止めが掛かり、ドル/円でも一旦のドル下げ止まりと自律反発が 想定されよう。 ちょうど今週は 12日から 14日にかけて、米国で 3月の物価指標が相次ぐ。米国では 3月にドル高・原油 安の一服や平均賃金の持ち直しが見られており、過度なインフレ低下の下げ止まりと 6月利上げの高まりが 焦点になりそうだ。日本に関してもデフレ再燃にあって、REIT(不動産投信)などの不動産関連市場は底堅 さを維持させている。日銀マイナス金利が、数少ないプラス効果を発揮している構図だ。2 007-2 012年など 過去の円高・デフレ局面とは大きく異なる現象であり、不動産市場の抵抗力は過度な円高・デフレの抑制要 因として注目される。その他の注目ポイントは以下の通り。 <グローバルなデフレ圧力の元凶、中国で物価下げ渋り> 現在は日本のみならず、世界でデフレ圧力が高まっている。それが日本ではデフレと円高再燃、米国では 低インフレと FRBの利上げ遅延、ドル安へとつながっている。その中でグローバルなデフレ圧力の元凶とな っている中国の過剰供給・過剰在庫の問題に関しては、11日に公表された中国の 3月生産者物価指数(PPI) が前年比-4.3 %となり、予想の-4 .6%や 2月の-4. 9%に比べてマイナス幅を縮小させた。201 5年 8月か ら 12月にかけての-5 .9%を最悪期とした底入れ機運が見られつつある。世界デフレ圧力の緩和シグナルと して、日本ではリスク回避の円高制御や、海外金利の上昇支援による円安要因として注目される。 同時に中国では豚肉などの食品価格が急上昇しており、消費者物価(CP I)上昇に拍車を掛ける過度な人民元 の切り下げには制約が生まれている。日本にとっては、人民元安・円高の圧力緩和や、人民元の不安定化に よるリスク回避の円高と日本の株安を制御させる可能性を秘めている。 中国に関しては、13日に 3月の貿易収支、15日に 1 -3月の GDPといった重要指標が相次ぐ。経済対策や 不動産価格の下げ止まりなどにより、過度な悪化に歯止めが掛かると、リスク回避の円高圧力を減殺させる。 豪ドルや NZドル、カナダ・ドル、南アフリカ・ランドといった資源国通貨についても、中長期スパンでの下 限切り上がりを支援するものだ。中国の景気動向や資源需要と相関性の高いバルチックドライ海運指数は、 足元で反発傾向を持続。昨年 8月からの先行崩落と 2月上旬での底入れを経て、4月 8日には昨年 12月 9日 以来の高値を回復している。 <IMF世界見通し、下方修正リスクと減速ペース鈍化にらむ> 今週は 1 2日前後に IMFによる最新の世界経済見通しが予定されている。IMFのラガルド専務理事は 5日、 中国減速や原油安を背景に「世界経済の見通しは一段と悪化した」と表明し、世界経済見通しを近く引き下 げる考えを示した。実際に下方修正されると、改めてリスク回避の円高と日本の株安が警戒されやすい。 ただし、昨年 8月以降の日本におけるリスク回避の円高・株安については、2016年から 201 7年にかけて の世界成長の下方修正リスクを織り込む通過儀礼が一因となってきた。その分だけ今回の見通し以降に、下 方修正の前回比マイナス幅が狭まってくると、 「今後の底打ち期待」や「当座の悪化リスクの織り込み進捗の 確認」へと作用していく。狼狽的なリスク回避相場に歯止めが掛かる期待感も残されている。 <米国企業の決算発表> 米国株市場では 11日以降、決算発表が本格化する。すでに 1-3月期については前年比-7 %の減益が予想 されており、実際の決算悪化が米国の株安材料として警戒されやすい。とくに金融機関については、金利低 下や市場混乱などにより、下振れのリスクが高まっている。米国の決算発表期間は自社株買いが停止される ため、過去には米国の株安と日本への円高・株安波及を促す季節パターンも繰り返されてきた。 もっとも米国では、昨年から決算を悪化させてきたドル高・原油安が一服となっている。そのため今後の 決算では、 「1 -3月を最悪期とした緩やかな持ち直し」という期待感も浮上している。FRBの利上げ遅延もあ り、米国株は当座の悪材料の出尽くしが注目されそうだ。一方で日本企業の決算発表は 4月後半から本格化 するため、それまでは減益警戒が日本の株安・円高を促す不安定さが続く。 <日本単独や G20財務相・中銀総裁会合に向けた政策対応> 日本では円高・株安が激化するなか、前週後半からは麻生太郎財務相、菅義偉官房長官などから急激な為 替変動に対する牽制発言が目立ち始めた。今週は 14-15日に G20財務相・中銀総裁会合が控えており、 「G20 会合までは日本が円高阻止介入を行いにくい」という円買い安心感が根強いものの、G20に向けては日本が 「過度な為替変動の回避」で各国に理解取り付けの努力を行う可能性がある。為替急変動の回避は、これま での G7や G20で合意がなされてきた。今回の G20でも声明に明記されると、日本は「為替水準是正」ではな く、あくまでも「為替の変動率( ボラティリティー)抑制」を大義名分としたスムージング・オペ介入の政策 カードは確保されることになる。 ただでさえ、ドル/円で相場の過熱感を示す RSI指数( 相対力指数)は、週足ベースで 11日に 28%へと低下 するという、ドル安過熱シグナルが点滅してきた。過去下限の節目である 30%を割り込み、2010年 10月以 来の低水準になっている。リーマン・ショック直後の 2008年 10月の下限が 26%であり、一旦のドル安過熱 感と反動修正のエネルギーが蓄積されている。 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再 配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。 情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、これらの情報によ って生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートの内容は、 投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最 終判断はお客様ご自身でお願いします。 ---------------------------------Japan Economic Pulse Co.,Ltd. ----------------------------------