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中島敦 -月下獣 太宰治 -人間失格
文豪と同じ名前を持つキャラクターが活躍するマンガ「文豪ストレイドッグス」 。作中には異能名とし て多くの文学作品が出てきますが、それらの作品群、読んだことがありますか? 「教科書で見たかもしれない」 「昔の本だし難しそう」と敬遠するなかれ、近代文学は今でも魅力的な作 品の宝庫です。ここで出逢ったのも何かの縁、美しく豊かな文学世界へ彼らと一緒にぜひ。 *原作 10 巻および小説3巻までに出てきた作品名(異能名)を元にしています。 まだアニメには出てきていない人もいますが、ご参考までに。 *紹介している本は鶴見図書館で所蔵しているものを中心に、読みやすいもの、おすすめ作品が収 録されているものを挙げています。 「」は作品名、 『』は書籍名です。 ~武装探偵社編~ 中島敦 -月下獣 言わずとしれた中島敦の代表作「山月記」は教科書で読んだ方も多いのでは。自尊心に溺れて人食い 虎になってしまった李徴の物語。中島敦の作品には中国の古典を題材にしたものも多く、 『李陵・山月記』 (角川文庫)の解説には元となった中国古典の「人虎伝」の書き下し文も出ています。 「文章が難しい…」とお嘆きの人には、 「山月記」のスピンオフ小説とも言うべき『虎と月』(柳広司 /著 理論社)もおすすめ。李徴の息子が父が虎になった真相を探るため旅に出ます。意外な結末には 目からウロコが。 アニメのPVなどでもおなじみの「昔、私は、自分のしたこと就いて後悔したことはなかった。しな かったこと就いてのみ、何時も後悔を感じていた」のフレーズの出てくる「光と風と夢」(『中島敦全集 1』ちくま文庫)は「宝島」などで知られるイギリスの作家スティーブンソンのサモアでの日記の体裁 をとった作品。このフレーズは後半で登場するので、がんばって読みましょう。 太宰治 -人間失格 「恥の多い生涯を送って来ました」の一節が印象的な『人間失格』 (集英社文庫ほか)は太宰治の代表 作。清清しいほどに暗い作品ですが、どこか共感を覚えてしまうのは、誰もが持っている深層心理の表 れなのか。何度も自殺未遂を繰り返したとか、芥川龍之介を崇拝していて、芥川賞がほしくてほしくて 仕方なかったのに取れなくて、審査員に「刺す」とのたもうた、などエピソードには事欠かない人です。 国木田独歩 -独歩吟客 「独歩吟客」はペンネームのひとつですが、「独歩吟」という作品もあります(『独歩吟 武蔵野』教 育出版)。短い詩を集めたものなので、お気に入りを探すのもおすすめ。 「武蔵野」 「源叔父」などの代表作は文語体に近く、読み通すにはなかなか根気が要りますが、日記「欺 かざるの記」 (上記の本に抄録あり)はぜひご一読を。最初の妻・佐々城信子嬢との結婚前後を書いた場 面など、あまりのラブラブぶりに圧倒されます(でも「最初の」ってことは…?その顛末を知りたい方 は『現代日本文学大系 11』 (筑摩書房)収録の後半にチャレンジ!こちらの本には、田口六蔵くんの出て くる短編「春の鳥」も収録されています) 。 江戸川乱歩 -超推理 当然ですが、 「超推理」なんて作品はありません。…困った。 多彩な作品群で「日本の探偵小説の祖」とも言われる江戸川乱歩、はじめて読むならまずは「少年探 偵団」シリーズ(ポプラ社ほか)から。怪人二十面相と名探偵・明智小五郎、小林少年率いる少年探偵 団との息づまる対決に子どもも大人もハラハラすること請け合い。その次には、『D 坂の殺人事件』 (春 陽文庫ほか)などで短編小説の名手ぶりを堪能するか、講談社や光文社の文庫全集を一気読みするか、 それはお好みしだい。めくるめく乱歩ワールドへいざ。 与謝野晶子 -君死給勿 歌人として知られる与謝野晶子ですが、こちらは詩です。『ポケット詩集』(童話屋)などの詩のアン ソロジーのほか、 『みだれ髪』 (ハルキ文庫)には、短歌と並んでこちらの詩も収録されています。日露 戦争時に戦地へ送られる弟を思って詠んだ詩で、発表時には大論争を巻き起こしました。情熱あふれる 代表歌集「みだれ髪」もぜひ。 宮沢賢治 -雨ニモマケズ 実際に読んだことがある方が多いのは、この人の作品では?多くの童話や詩をのこしていて、 「雨ニモ マケズ」はその中でも有名な詩です。 『雨ニモマケズ』(あすなろ書房、偕成社)など、この詩だけで絵 本化されているものもあります。もちろん『宮沢賢治詩集』 (新潮文庫ほか)で、他の作品もどうぞ。 「銀河鉄道の夜」 「注文の多い料理店」など有名な作品が多いですが、作品が注目されるようになった のは死後のことだそうです。 谷崎潤一郎 -細雪 代表作である『細雪』 (新潮文庫ほか)は大阪の旧家の美しい四姉妹を描いた情緒あふれる作品。自ら の義理の妹をモデルにした、奔放な娘ナオミに翻弄される『痴人の愛』 (中公文庫ほか)など異常性愛を 描いた作品群でも有名。ちなみに「痴人の愛」には帝劇の女優として春野綺羅子嬢が、ナオミが夢中に なるダンス・ホールの一つとして鶴見の花月園が登場します。花月園にかつて東洋一とうたわれる遊園 地やダンス・ホールがあったこと、ご存知でした? 福沢諭吉 -人上不人造 文学者ではありませんが、明治期の文明開化に欠かせない人物。人に上下はない、学問次第でいくら でも立身出世できると説いた『学問のすすめ』 (岩波文庫ほか)は徹底した身分社会だった江戸時代を生 きてきた人々には衝撃の書だったようです。ちくま新書や岩波現代文庫などで現代語訳も出ていますの で、まずはこちらからどうぞ。 泉鏡花 -夜叉白雪 泉鏡花は男性です、念のため。 「夜叉ケ池」 ( 『夜叉ケ池・天守物語』岩波文庫)という戯曲に、沼の主として「白雪姫」が出てきます。 隣山の主に恋いこがれながらも、人との契約のため沼を離れられない白雪姫と、沼のほとりに住む恋人 たちとの思いが交錯する物語。同じ本に収録された「天守物語」にも白雪姫は登場します。 田山花袋 -蒲団 明治期、国木田独歩らと共に自然主義文学の代表的な作家として知られている田山花袋ですが、代表 作の「蒲団」 (『蒲団・重右衛門の最後』新潮文庫)は、作家が自分の元を去った女弟子・芳子の夜具の 残り香を嗅ぐ、という内容で、その赤裸々さは当時、なかなかの衝撃だったようです。 ~ポートマフィア編~ 芥川龍之介 -羅生門 こちらも教科書で読んだ方が多いのでは?『羅生門』 (新潮文庫ほか)など多くの版で読むことができ る代表作。平安時代の説話集・今昔物語の一つを元にした作品で『今昔物語集 ビギナーズ・クラシッ クス』 (角川文庫)などで、元になった「羅城門」との読み比べもぜひ。芥川は、他にも今昔物語を元に した作品を書いています。 中原中也 -汚れっちまった悲しみに 帽子にマントの肖像写真が有名な中原中也は夭折の詩人で、遺された詩集は「山羊の歌」 「在りし日の 歌」の 2 冊だけです。 「汚れっちまった悲しみに」は「山羊の歌」所収で『中原中也詩集』(角川文庫ほ か)などの本で読むことができます。また、異能「汚濁」を発動する際の「汝陰鬱なる汚濁の許容よ、 更めてわれを目覚ますことなかれ」の一節は、 「山羊の歌」所収の「羊の歌」という詩の中にでてきます。 (ちなみに作戦暗号名「櫺子の外に雨」は「六月の雨」という詩の一節です。「恥と蝦蟇」「造花の嘘」 も探してみてください) 梶井基次郎 -檸檬爆弾 丸善書店の書架にそっと、爆弾に見立てた檸檬をおいてくる短編「檸檬」で有名な梶井氏、夭折の作 家のため作品数も多くはなく、 『梶井基次郎全集』 (ちくま文庫)など1冊で大体の作品が読めます。 「桜の樹の下には死体が埋まっている」の一節で知られる「桜の樹の下には」も、この人の作品。 尾崎紅葉 -金色夜叉 尾崎紅葉は男性です、念のため。 『金色夜叉』 (新潮文庫ほか)は、婚約者のお宮を金持ちに奪われた貫一が金銭の鬼と化す物語。未完に 終わりましたが、波乱万丈な愛憎劇は、明治時代に大変愛読されました。 舞台となった熱海の海岸には、お宮を足蹴にする貫一の像があります。熱海に行ったら、海岸でぜひ 「金色夜叉」ごっこをお楽しみください!? 夢野久作 -ドグラ・マグラ 「日本の三大奇書」の一つと言われる『ドグラ・マグラ 上・下』 (角川文庫)は、まさに混迷の極み、 摩訶不思議な物語。読後は悪夢を見る覚悟で、どうぞ。 広津柳浪 -落椿 あまりなじみのないお名前ですが、明治期に活躍した作家で『新日本古典文学大系明治編 21』 (岩波書 店)に「黒蜥蜴」が、 『定本広津柳浪作品集 上巻』 (冬夏書房)には「おち椿」が収録されています。 ちなみに、江戸川乱歩作品でも「黒蜥蜴」はありますが、もちろん別物です。 森鴎外 -ヰタ・セクスアリス 夏目漱石と並んで、明治期の代表的な文豪である森鴎外(本名は森林太郎)の作品の一つ『ヰタ・セ クスアリス』 (新潮文庫ほか)はラテン語で「性欲的生活」という意味。哲学者が自らの性欲の成り立ち を考察する作品で、よからぬ思いを抱いて手に取った方のご期待にそえるかは微妙。 舞姫エリスとの悲恋を描いた代表作『舞姫』 (集英社文庫ほか)もどうぞ。古文にも近い文章はなかな か難解ですが美しい。ちなみに「横浜市歌」はこの方の作詞です。 坂口安吾 -堕落論 *ポートマフィアではありませんが、便宜上こちらでご紹介します 太宰治、織田作之助と並んで無頼派として知られた坂口安吾の代表作『堕落論』 (実業之日本社文庫ほ か) 。 「人間を救うには堕落するしかない」と説く、その真意はぜひ本文で。短いので「続堕落論」 「青春 論」 「恋愛論」などもあわせてどうぞ。 太宰、坂口、織田の三人が、女についてだらだら語り合う「歓楽極まりて哀情多し」も上記の本には 収録されています。くだらなさが秀逸。 織田作之助 -天衣無縫 「天衣無縫」は『織田作之助作品集第1巻』 (沖積舎) 『新・ちくま文学の森7』 (筑摩書房)で読むこ とができます。代表作は「夫婦善哉」 、これまた異能名にならなさそうな。 インターネット上の「青空文庫」などで読める作品も多いですが、紙の本もぜひどうぞ。 興味がわいたら、世界文学の海にも漕ぎ出していってください。図書館でお待ちしています! 作成:横浜市鶴見図書館 2016 年 6 月