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火5 精神分析学

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火5 精神分析学
火曜5限 精神分析学(原和史教官)
精神分析学シケ対の稲田です。この授業はスクリーンにパソコン画
面の板書が映される形で進行して画面が切り替わるスピードも速い
(だいぶ回によるけど…)ので申し訳ありませんがこのシケプリは
基本的に板書内容(一部は補足あります)です。あとちなみに第1
0回はプロジェクターの不調で黒板での授業だったので僕がまとめ
た内容になってます(あくまで僕の解釈に基づいてます)。テストは
7 月 26 日 5 限(16:50~)で試験内容は以下に挙げる項目からの論述問
題(配点 40 点の大問 1 問と配点 20 点の大問 2 問)と精神分析の歴
史に関する○×問題あるいは選択問題(10 問で配点 20 点)です。な
のでとりあえず一通り目を通した方がいいと思われます。よろしく
お願いします。
○ シャルコーにおける「ヒステリー」概念の形成と展開---その2つの局面
○ 『ヒステリー研究』の病因論---フロイトは何をもとにどのように推論したか
○ フロイトにおける「トラウマ」---その二種・その複合
○ 精神分析の誕生---誘惑理論からエディプスコンプレックスへ
○『夢判断』における夢と言語
○ 1900~1920年にかけての精神分析の発展
○「転移」の問題化とフロイト理論の展開
○「快感原則」とその「彼岸」---「量」的な解釈/間主体的な解釈
○ 分析的三角形
○ ラカンにおけるイマーゴ・イマージュの再規定
※これに加えて後ほどまた項目が記入されるようです。原教官のホームページ
はhttp://sinkdeep.main.jp/ でその中に講義のコーナーがあります。こちらから授業
で用いた文献や図の一部を見ることができます。
精神分析学第 1 回 4/19
精神分析学の誕生
問題としての「精神分析学」(1)
Sigmunt Freud
・ ジーグムント・フロイト
・ 「ヒステリー研究」(1895 J・ブロイアーとの共著)
-心因、トラウマ(心的外傷)←抑圧がヒステリーの原因
―抑圧
―自由連想法
・ 自己分析―「夢判断」(1900)
―エディプス・コンプレックス(フロイト自身が父を亡くして悩む過程で発
見)
問題としての「精神分析学」(2)
・ ヒステリーの心理療法
・ フロイト自身の思想的展開
―「第一局所論」(意識、前意識、無意識)から「第二局所論」
(自我、超自我、
エス)へ
―「転移」と「ナルシシズム(自己愛)」
・ 国際運動の展開・さまざまな分派(ユング、アドラー、ランクなど)
問題としての「精神分析学」(3)
・ (ナチスによるユダヤ人迫害とユダヤ人分析家の亡命)
[アメリカ]自我心理学(ハルトマン、クリス、レーヴェンシュタイン…)
[アメリカ]新フロイト派(フロム、ホーナイ、サリヴァン…)
[イギリス]対象関係論(クライン、ビオン)
[フランス]ラカン派
[スイス]分析心理学(ユング)
[ドイツ]現存在分析(ビンスワンガ―、ボス、ブランケンブルク)
問題としての精神分析学(4)
精神分析学の浸透
・ 一心理療法の領域を越えた拡大
―人間理解の方法(「解釈」)
―フロイト自身の広い関心(文学、美術など)
・ 地理的な拡大と多様化
―文化を映す「スクリーン」(S・タークル)としての精神分析
・ 問題としての「精神分析学」
―文化の分析装置であると同時にそれ自体文化現象
―「言説(ディスコース)」としての精神分析
―こうした浸透の原動力?
―「こころ」を語る枠組み、言語の問題化(20C 思想の「言語論的展開」)
精神分析学第 2 回 4/26
語り尽くすこと
Aussprechen
・ 「ヒステリー」の構築
・ 『ヒステリー研究』
―基本的発想(「ヒステリー現象の心的メカニズムについて」)→「言語」の役割
―技法の問題(「ヒステリーの精神療法」)
・ 『草稿』=ヒステリーの病因論を支える心的装置
「ヒステリー」の問題
・ 「ヒステリー」←「ヒュステロン(子宮)」(ギリシャ語)
・ 神経学的な症状(運動麻痺盲目、感覚消失、痙攣(いわゆる「スティグマ」)(癲
癇ヒステリー)
・ 解離症状(健忘、多重人格、朦朧状態)
・ 解剖学的な損傷の不在
・ 症状部位と神経組織の分布の食い違い、症状部位の移動など
→精神医学における謎「本当の病気だったのか」
詐病(病気の振りではないか)という疑問と隣り合わせ
ジャン=マルタン=シャルコー(1825-93)
Jean-martin Charcot
・ サルペトリエール施療院
・ 神経学者→「単純性癲癇区画」を割り当てられヒステリーの研究に。
・ ヒステリーについての研究
-第 1 期(1870 年~)
観察(臨床解剖学的な方法の応用=臨床的な表(タブロ
ー)の作成)
→ヒステリーのさまざまな症状を一つにまとめ上げ
る
―第 2 期(1877 年~)
実験(ヒステリーの誘発)←ある意味人体実験的
ヒステリーが病気なのだということを厳密に示したことが実績
「ヒステリー」の構築
・ 『臨床医学の誕生』(M・フーコー)
複数の症状が組み合わさることで一つ
の病気が示
されるという考え方
・ 症状の記号化
―技術化手段:写真、デッサン
視覚的側面
1 人の医者が多数の患者を診る機会が増えた
―大病院
・ 病像の確定:「大ヒステリー
la grande hysterie」(類癲癇期、道化期、熱情
的態度、譫妄)
ヒステリーとその図像学(1)
道化期に独特のポーズ→複数存在する
ヒステリーとその図像学(2)
いろいろなポーズを表にまとめたもの(一つのパターン化)
『図像集』Ⅱ(J・ディディ=コベルマン『アウラ・ヒステリカ』より)
「ヒステリー」の上演(第 2 期)
・ 「ビュルキズム」(1877-78)
―医師ビュルクが報告した、金属との接触がヒステリーの治癒をもたらすと
いう報告についての調査←シャルコーが委員長
・ 電気現象の仮説
・ 電気=磁気←動物磁気=メスメリスム(←メスメル(動物磁気学者)):催眠術の
復権
・ 催眠によって症状を(消失させるだけでなく)人工的に作り出すことができる
ということ
・ 人口のヒステリー/自然のヒステリー
・ ナンシー学派との論争
「ヒステリー」の上演
A Brouillet Une lecon Clinique a la Salpetriere
(シャルコーが腕にヒステリー患者の女性を抱え多くの紳士の前でヒステリー
の誘発を上演する図)
オーギュスティーヌ(有名になったヒステリー患者女性、シャルコーの上演によ
く出演し、見事なヒステリー症状を見せた)
シャルコーの死後、ヒステリーを病気とする認知が弱まった
「ヒステリー」への道
・ 神経学の研究→精神科の臨床
・ ヨーゼフ・ブロイアー
Joseph
Breuer
(臨床医・ヘルムホルツ学派の重
要人物)
―1880 年 12 月から 1882 年 6 月まで、アンナ・O の治療。「談話治療
cure」
「煙突掃除 chimney sweeping」(『ヒステリー研究(上)』p.49)
talking
→「通利(カタルシス)」療法
女性が症状について話すことで症状が治まることが起こった
・ フロイトは 1882 年の 11 月 18 日にこの話を聞く
「ヒステリー」への道
・ パリ留学(1885.10-1886.2):シャルコーの許へ
・ 帰国後ヒステリーに関する講演や論文。マイネルト(臨床での先生)との対立
(男性ヒステリー、催眠術)
・ 1887 年 12 月:催眠暗示の採用。
・ 1889 年夏
ナンシー滞在。催眠術の上達のため。
精神分析学第 3 回 5/10
フロイト・ブロイアー
『ヒステリー研究』(1893/95)
・ ブロイアーと共著で「ヒステリー現象の心的メカニズムについて」(1893 年 1
月)を発表
催眠から自由連想法へ
・ 1889.5~ エミー・フォン・N の治療で、催眠状態におけるカタルシス療法を
行う。
・ 自由連想法
思い浮かんだことに批判・選択を加えずに報告させる。
92~95 年の間。催眠・暗示・加圧、質問から純化して成立
・ 92 年の2症例
ミス・ルーシー・R:「批判能力」を眠らせることの困難さを知る
エリーザベト・フォン・R 嬢:「私が最初から最後まで扱ったヒステリー患
者の分析」
「埋没した都市の発掘」
催眠療法の困難さから自由連想法へ
・ 1895 年:ブロイアーと共著で『ヒステリー研究』
ヒステリー現象の心的メカニズムについて(F・B)
病歴:アンナ・O 嬢(B)、エミー・フォン・N 夫人(F)
ミス・ルーシー・R(F)、カタリーナ(F)
エリーザベト・フォン・R 嬢(F)
+ツェツィーリエ・M 夫人→フロイトが非常に参考となった事例
・ 1896 年:催眠の放棄
「ヒステリーの心的メカニズム」『ヒステリー研究』
・ 「ヒステリーの作用とみなされる多種多様な症状」と「誘引となったトラウ
マ」の間に見られる「首尾一貫した因果関係」
・ トラウマの反復ないし持続としての症状
ショックな出来事がどういう条件を満たすとヒステリー症状となるのか?
それを知るために、どういうときに治ったのかを考えた
・ 理論家の支点としての治癒体験(cf. シャルコー)
・ 語り尽くすこと aussprechen(言語化)→症状の消失
・ 「原因がなくなれば作用も無くなる Cessante causa cessat effectus」
患者が原因となった出来事をできるだけ詳細に思い出し、そのときの感情も
呼び起こし、語り尽くすことで症状は消える
・ 語り尽くすこと(言語化)の不在→症状の形成
・ Abreagieren(反応による除去・除反応・消散)という概念
ヒステリーの誘因となるトラウマは、除反応がなされなかったトラウマであ
る
(それが反応を許さない性質のものであったため。または、主体側に反応でき
ない事情があったため。)
・ 除反応→連想による加工→忘却
「転換」(心→体への)
・ どうやって心が体に影響を及ぼすか
神経解剖学が知識・ブリュッケ経由のエネルギー論
ブロイアーの『理論的考察』中のエネルギー論
・ 心的現象と身体現象のブリッジとしてのエネルギー:エネルギー論モデルの
構築
→『心理学草稿』(1905)
―動的な平行状態を保とうとする神経系
―エネルギー放出の典型的形態としての運動
―放出阻害によるエネルギーの滞留
―非定型的な放出としての身体症状→「転換ヒステリー(体に症状が出る)」
症例:エリーザベト・フォン・R
・ 治療の三つの局面
-第 1 期:病歴告白
―第 2 期:圧迫法(上手くいかない時がある)→最初の「転換」の動機
―自由連想法的手法の導入
―第 3 期:ヒステリーのもう一つの要素の解明→反応による除去
・ 発症のメカニズム
―「相容れない表象」
―「性愛にかわる表象」と「道徳的な想念」の間の葛藤
―防衛のメカニズム
・「性愛にかわる表象」の抑圧
・身体症状への「転換」
・ 反復されるトラウマ
―父親の介護を抜け出し参加したパーティー。
恋人に送られ返ってきたときに見出した父の悲惨な姿。
―義兄への恋慕、姉の死にあたって浮かんだ想念。
―象徴の果たす役割
・症状の規定
・トラウマ的複合の形成
「相容れない表象を最初に導入したのとよく似
た体験」
→「ヒステリーの精神病理学」
精神分析学第 4 回 5/17
精神分析の端緒
・精神の病:「ヒステリー」の誕生---シャルコー
・フロイトによる「ヒステリー」と語り尽くすこと
Aussprechen
―ヒステリーの心因→トラウマ
―トラウマの成立要件→ショックを与えるような出来事「反応による用法
Abreagieren」
(言語化はその一つ)の不在
―治療としての「語り尽くすこと Aussprechen」
・エリザベート・フォン・Rの症例
トラウマの複合(1)
・「トラウマ的瞬間」の複数性(上 278)
.・「互いに類似した一群のトラウマ的なきっかけ」(上 287)
-エミー・フォン・N 夫人(上 89-)
・四つの事件(モルヒネ中毒の兄の発作、知人の狂乱、第三のよく似た事件、
そして娘の重い病気。いずれにも共通する、「つかむ」という要素)
―カタリーナ(上 214-)
・性的な光景の目撃→性的な働きかけを受けた記憶
トラウマの複合(2)
トラウマの複合(3)
・「トラウマ的瞬間」の二系列
-早期における性的な働きかけ(「誘惑」)
―葛藤的な愛
・いずれも広い意味での「性愛」の主題系
トラウマの複合(4)
・フロイトにおける性的要因の特権化
-「いかなる症例から、またいかなる症状から出発したとしても最後は必ず
性的経験の領域に到達する 」(「ヒステリーの病因について」(1896)著
10,p13)
-当時念頭におかれていたのは,あくまで「誘惑」
・「反応による除去」を阻害する内在的諸要因
・(状況的要因)性事象に対する抑圧的な環境
・(原理的要因)性的発育が遅れて実現すること(「ある事件が体験されたとき
には起こらなかった情動を,その回想が喚起するということ」(著 7・p285))
体験の事後的=遡及的な意味付け
父の死/自己分析
・「精神分析」の誕生
―語の初出 psychanalyse :1896 年フランス語で発表された論文「神経症の
遺 伝 と 病 因 L’heredite et letologie de la
nevrose」
―(実践)催眠→自由連想法
―(理論)誘惑理論(93.5-97.9)→エディプス・コンプレックス
・理論的転換点としての自己分析
―フリースとの往復書簡
―直接の契機:父ヤコブの死(1896.10)→神経症的な症状
―97.7-8 体系的な自己分析の試み←ジョーンズ、p219 cf.
―二つの契機:主に夢を素材とした自由連想、エディプス・コンプレックス
(→「主観的な」意味を持つ『夢判断』、「父の死への反応」『フロイト 1』p.106)
夢の解釈
・夢に対する興味(『ヒステリー研究』著作集 7 p.44
84-85 年頃)
・「イルカの注射の夢」(1895 年 7 月 24 日)
・「片/両目をつぶられたし」(父の埋葬の直後
cf.『夢判断』Ⅳ 夢の作業,c.下
16)
またフリースへの手紙(109,1896.11.2)
―[「自分の父は倒錯者であり、兄弟のヒステリーの原因となった」(120,
1897.2.8)]
・長女マティルデに対して「過度に情愛のこもった夢」(1897.5.30)
―これをフロイトは(奇妙なことに)誘惑理論の裏付けと考える。
誘惑理論の放棄
・1897.7-8
集中的な自己分析
・1897.9.21(139) 「もはや自分の神経症学(ノイロティカ)を信じない」
―分析の不成功
―全ての症例で父は必ず倒錯者なのか?
―無意識に現実性の指標は存在しない。
→少なくとも患者たちの報告の一部は彼らの「想像」
・10.3 幼児期の記憶の操作:子守女、母の裸身
・ただし誘惑(虐待)が病因たりうることは引き続き指摘。
・「誘惑理論から解放されたフロイトは(…)患者の話を、暗号化されたメッセー
ジとしてすなわち歪形され、検閲を受け、意味深く偽装されたものとして
読むようになった」
(ゲイ『フロイト 1』p.113-114)
空想(ファンタジー)
―誘惑理論の放棄→患者の報告:現実の表現→「空想/幻想(die phantasie/le
phantasme)」
―「空想/幻想」:「家族小説」(草稿 M,980620「ノイローゼ患者の出生妄想
(Familienroman)」)、あるいは「原空想/原幻想」としての「両親の性交の観察、
誘惑、去勢など」(1915)
―願望の場所として「空想/幻想」(「欲望幻想(die Wunschphantasie)」「夢理論へ
のメタ心理学的補遺」(1917))
―「空想」は「後の時期の産物」「投影」(1899.1.3)→「幼児性欲論」(1905)
エディプス・コンプレックス
・欲望の主体:父から子へ
・子の欲望の範型としての『オイディプス王』(ソフォクレス)
・1897.10.15(142)
―「母親への惚れ込みと父親への嫉妬」→愛の葛藤の状況
―「早期幼児期の一般的出来事」「聴衆の誰もがかつて萌芽的には、そして空想
の中では、そのようなエディプスだったのです。」
―ハムレットへの連想も同時に。
・フリースの沈黙
予想される抵抗
11.5(145)
「精神分析の誕生」の意味
・トラウマの複合
―究極的なトラウマ:報告される性的な事象=事実としての「誘惑」
―自己分析の時期ののち:報告される性的な事象=「空想」としての「誘惑」:
主体の願望を前提とした
・それ自体葛藤的な(愛の)願望
―そうした願望の範型としてのエディプス・コンプレックス→病理の内在
―葛藤的な願望の充足として現れる夢(複数の必ずしも両立しない願望を同時
に満たそうとする夢→夢の「多重決定」)
―夢の背後に想定される願望の複合:それ自体個別的・個人的な→独特の夢
解釈手法と、それが含意する分析のあり方。
精神分析学第 5 回 5/24
誘惑理論からエディプス・コンプレックスへ
・トラウマの複合
・究極的トラウマの二態
―誘惑(性的な働きかけ)
―葛藤的な愛
・当初における「誘惑」の特権化
・父の死・自己分析(1896-97)
・エディプス・コンプレックス
-空想(ファンタジー)
-葛藤的な愛の原型
象徴形成 Symbolbildung
・ヒステリーにおける「トラウマ的瞬間」の複数性(←『ヒステリー研究』)
・それらを複合としてまとめ上げる「象徴形成」(←『心理学草稿』←「連合心理学」)
-その病理性:「完全に物の代理になった象徴」
-「強迫」と「抑圧」の相即
願望 Wunsh の複数性
・言語化の不在→症状の形成
・言語化の「代理」としての症状
-症状は全くのノイズではなく誘引となった現象と「首尾一貫した因果関係」
を持つ
-その関係は、単純な関係の場合もあれば「象徴的な関係」の場合もある。
・[ラカン:欲望という了解的な鍵(1932)]
・[(言語化=)表現を目指す願望
―(言語化)表現の実現=願望充足
―表現を妨げるもう一つの願望
―症状(=代理の表現)=各願望の部分的ないし間接的な充足]
症状形成のメカニズム
夢
・夢=「無意識への王道(Via regia)」(『夢判断(下)380』)
―自由連想の中でたびたび報告された夢(患者の夢、自己分析)→夢を症状とし
て扱う発想(『夢判断(上)』132)
―自由連想≒「眠り込む前の状態(そして催眠状態)」
―睡眠状態による内的検閲の力の減退(下 280)
→意識されない願望の相対的に自由な活動
―二つの力(187)「願望」「抵抗」
夢形成のメカニズム
夢の解釈
・旧来の「夢」観:「意味の無い現象」「身体現象」
・
『夢判断』の目標:夢の「意味」を解き明かす技法の提示、および夢がしばしば
不可解な外見を取る理由の究明(『夢判断』冒頭)。
・夢を「解き明かす deuten」方法
―「象徴的夢判断」---「うまい思いつき、とっさの直感」126
―「解読法」---コードブックによる暗号の解読 127
・「改訂解読法」---夢を見る人やその生活に対する顧慮も加える
―フロイトの立場:夢を症状とみなして、自由連想法を適用する。131-2
・各部分についての連想:「部分的判断」131
・夢:「合成物・心的諸形成物の混合体」
言語としての夢
・夢には「意味」がある=夢は「言語」である。
ただし特殊な「言語」
―「夢象徴(『夢の言語』)(「夢について」著作集 10,p98)
―「同じ夢内容でもその夢を見た人や,その夢の見られたつながりいかんによっ
ては,その意味するところが違ってくる」137
―時間的近接から類推される具体的関連。
―「文書検閲の現象と夢歪曲の諸現象との間のごく微細な部分にまで及んでい
るところの一致」187
―象形文字としての夢
ロシアの新聞の検閲
357-358
夢解釈の範例
イルマの注射の夢
・「イルマの注射の夢」(1895.7.23-4)
―「前置き」(背景説明)
―「夢内容」(夢の本文)
―「分析」(各部分からの自由連想)
・
「夢の内容はある願望充足であり、夢の動機はある願望である」(「夢判断(上)」
155)
・夢=言語
・「現実」から二重に離陸した言語
言語としての夢(1)
・輪郭のはっきりしない言語言語における多重的遂行
・言語とその意味
―意味の「恣意性」の問題
―自由連想の終わりの問題
―自由連想の中で出会われる不自由(規定)
―もう一つの不自由(=転移)
『夢判断』(1900)の余波
・『日常生活の精神病理学』(1901)
―『夢判断』の拡張:睡眠時から覚醒時へ。
・『機知---その無意識との関係』(1905)
― ←『ヒステリー研究』(言語による症状の解消)
― ←『夢判断』(夢形成のメカニズムとの類比)
―言語の使用によってもたらされる快感の解明
―「技法」(構造)からのアプローチ
―間主観性(他者)の果たす役割
―言語そのものが内包する抑制ないし抑圧
精神分析学第 6 回 5/31
夢=言語
・ 象徴形成:症状→夢
・ 願望の複数性
・ 第一場所論(局所論):意識、前意識、無意識
・ 夢の解釈:自由連想法の適用
・ イルマの注射の夢
夢解釈の範例
イルマの注射の夢
夢の作業:圧縮と移動
イルマの注射の夢
解釈の諸水準
・ フロイトの解釈
—医師としての職業生活の水準:非難と自己弁護
・ その他の解釈(D・アンジュー『フロイトの自己分析』)
—周囲の人々との関係(Anna L.(Irma),フロイトの妻,フリース)
—フリ−スおよびエマとの関係(医療事故)
—幼児性欲との関係(子供、受胎をめぐる主題系
←死の影響圏からの離脱と自立)
—フロイトの仕事の関係
夢の「意味」
・ 夢内容→(自由連想)→夢思想
・ 夢思想の表現としての夢内容/夢内容の「意味」としての夢思想
・ 夢内容の輪郭の曖昧さ
—夢の報告
夢の記憶錯誤(パラムネジー)の問題
—ヒエログリフの例
・ 夢の「意味」の恣意性?
—「症状」との関わり
—連想の終わりのなさ?→自由連想の中に現れる不自由
・夢の「意味」の主張→「意味」の様々な前提
願望の二水準
・多元決定 Uberdeterminierung(365)、
「観念の交差点」、
「多面性」(下 45−46)
→複数の(しばしば葛藤的な)願望の同時点充足
・ 願望の二水準
—夢内容によって満たされる願望
—眠り続けたいという願望(300) cf.第 7 章 c
—願望の多重性。願望充足は、快を誰にもたらすのか。
(下 348−349。三つの願いの寓話)
言語学の先取り
・ 一般言語学(F・ド・ソシュール『一般言語学講義』(1916))
→「シニフィアン」の概念
・ コードとメッセージ
—ローマン・ヤコブソン
—「言語学と通信理論」(1950)「人類学者・言語学者会議の成果」(1952/53)
—実際にやり取りされるメッセージと、それを組み立て、解読するために
必要なコード
—コード、記号とその結合規則
・意味の前提としてのコードの想定
—これはすなわち、コードの想定の想定(→もう一つの不自由=規定)
記号の「存在」(手紙モデル)
記号の「存在」(解釈モデル)
失錯行為(錯誤行為) Lapsus
・言い間違い(Versprechen)、ど忘れ(Vergessen)
、読み違い(Verlesen)、
し損ない(Vergreifen):Ver-の特徴づける「内面的同一性」
・ これに意味を認めない伝統的な立場に対して、
「錯誤行為そのものも、それ自体において意味のある一つの行為であって、
それはただ予期され、意図されていた別の行為に取って代わったものにすぎ
ない」(「精神分析入門(上)」(1917)、第二講、p.37)
解釈:記号化の過程
聴き手と相関する記号領域
記号の成立
記号と他者の相互内属
フロイトの「言語」
・ 患者の言語→解釈モデルによる理解
・ 自分の言語→ある時点まで、手紙モデルによる理解
—「わたしの任務は、患者に現れた症状の意味を患者に言ってやるというこ
とで果たされるわけであって、患者が成功の懸かり存するこの解決を受け入
れるか受け入れないかに対してまでは、責任を持てない」
(『夢判断』で報告された 1895 年時点での基本的な考え方)
転移 Ubertragung
・ ドラ症例(1899 年の症例、「あるヒステリー患者の分析の断片(1905)」)
・ 「転移とは何か。それは分析の圧力によって喚起され意識にもたらされるべ
き興奮と空想の新版と模写であって、意思という人間と過去に関係した人間
とがその転移特有のやり方で取り替えられている。換言すれば、過去の精神
的な体験の全ては決して過去に属するものになるのではなく、意思という人
間との現実的な関係として再び活動し始めるのである。」
(著作集5,p.361)
「分析」の変容
・ 「症状の意味の解明」→「『抵抗』の発見と克服(「精神分析療法の今後の
可能性(1910)、著作集9 p47」
—「無知ということ自体が病気の契機なのではなく、この無知を最初に呼び
出し、さらに現在もなおそれを保持している内的抵抗 innerer wiederstand の
中に、この無知の基礎がおかれているという事実こそ病気の契機なのである。
この抵抗と戦って、それを克服することが治療上の課題である。」
(『乱暴な』分析について(1910)、著作集9、p.59)
・ 転回の軸としての「転移 Ubertregung」現象
「印刷原盤 Klische」の比喩
・ 「転移の力動性について」(1912)
著9、p.68-
・ 「持って生まれた素質と、幼児期に与えられた様々の影響との共同作用」
→「愛情生活」のありかた。そうした過程を明らかにする研究の結果、
「我々は
いわば一枚の(いや、一枚とは限らないかもしれない)印刷原版を手に入れる
であろう。そしてこのような印刷原版が生涯の間、幾度も反復して用いられ、
周囲の外的事情や彼の交渉範囲内にある愛の対象の性格が許す限り、新たに印
刷される。」
・ 「愛情要求が現実によって残りなく満足されていない人間は、新しく自分の
前に立ち現れる全ての人物に、リビドー的期待表象を抱いてこれを向けなく
てはならない。」
・ 「このようなリビドー備給は原型 Vorbilder に執着し、あるいはその当の相
手に見いだされる「印刷原版 Klische」との何らかの類似点に結びつけられ
る。」
・ 「イマーゴ」(→ユング)
分析治療における転移(1)
・ 転移→分析に対する「抵抗」の手段
・ 「操作の如何に関わらず、至る所で分析操作は抵抗に出会う。患者のどんな
連想も行動も、抵抗の現れと見なさなければならない。これらは全て、治癒
を目指す力を欺きこれに反抗する力との妥協として現れる。」
(「転移の力動性について」(1912) 著9、p.72)
・ 連想→「抵抗の要求と分析的な探求の要求の間の妥協形成物」:
「ここに転移が生ずる。コンプレックスの材料の中にある何ものかが、分析
医の人物に転移するのに適したものであれば、転移が起こって、今ここでの
連想が思い浮かべられるに至り、さらにまた抵抗の兆候すなわち連想の停頓
などによっても転移はその存在を示すのである。[…]これらの転移観念は、
抵抗をも満足せしめるものであるから、他にも思い浮かべられる可能性のあ
った全ての観念よりも先に意識面に浮かび上がらされたのである。」(p.73)
分析治療における転移(2)
・ あらゆる関係に内在する転移
―「精神分析は、決して転移を作るのではなく、それをただ意識に開かせ、心
的過程を望ましい目標に導くために、それを操作するだけです。」
(1910,著 10,p.172「精神分析について」)
・ 転移の種別(「転移の力動性について」)
―陽性転移
・「意識化しうる友好的な,あるいはやさしい,親愛的感情」
・その無意識への延長(常に性愛的な源泉に帰着する)→抵抗
―陰性転移
・ 意識化による転移の「解決」(ただし解消ではない)
―自由連想が途絶えたときに、「今あなたは私個人の、あるいは私に関係の
あることを思い浮かべてそれで頭が一杯になっているに違いありません」と
断言する等等の方法。
精神分析学第 7 回 6/7
「解釈」と「転移」
・ 「解釈」
—固定したテクストとその一意的な意味→「何が」意味するのか、
「何を」意
味するのかにおける主体性の関与
—「意味」の前提:メッセ−ジを可能にするコード
—コミュニケーションの相手に関する想定の契機
・ 「転移」
—分析の中で、主体にとって重要であった人物の姿(イマーゴ)が分析家に
重ね合わされる。
—そこから、分析的な介入の持つ意味のズレ。
—あらゆる関係における内在
・共通の図式の二つの焦点
—「主体」と「シニフィアン」
転移の成立
分析(家)の再規定
・ 「差別なく平等に漂う注意」(著9,p.78)
注意に伴う材料の取捨選択は、視野を狭め、
「もっぱら自分の主観的な期待を
追い求めすでにそれまでに知り得た以上の事柄は決して見つけることができ
なくなってしまう危険」
・ この注意が及ぶ二つの水準
—「患者の方が批判選択をやめたのに、逆に分析医の方が検閲を行ってこの
代わりをしないようにしなければならない。」(p.82)
自由連想と対になる要請(+分析経験の必要)
—分析家は分析者を支配しようとしてはならないし、あまりに大きな期待を
かけてはならない。「分析医は被分析者に対して不透明 undurchsichtig な存在
でなければならない。鏡面 Spiegelplatte のように、その前に示されたものだけ
を移すものでなければならない。」(p.85)
・ 同様の規定:「分析療法は、それが可能である限り節制(欠乏)Entbehrung--禁欲 Abstinenz---のうちに行われなければならない」(「精神分析療法への道」
著9,p.130 また「転移性恋愛について」)
転移
危機と再編
・ 精神分析の展開
—組織化、教育、国際化
—臨床の蓄積(5大症例)、リビドー発達論とメタ心理学
—領域の拡大(文学、美術、人類学、文明批評)
・ 精神分析の「危機」
—ナルシシズム、同一化
—反復強迫、否定
・ 精神分析の再編
—快感原則の彼岸・第二局所論(自我・超自我・エス)
精神分析の展開(1)...
・ 水曜心理学協会(1902 年秋〜1907 年秋頃解散・再編の動き→ウィーン精神分
析学協会へ)
・ 教育分析の開始(1905 年頃〜後にベルリン精神分析協会を中心に制度化)
・ ウィーン精神分析学協会(1908/4/15〜)
・ 外国での評価
—チューリッヒ[ブルクヘルツリ病院]
:ブロイラー、ユング、ベルリン:ア
イティンゴン、K・アブラハム、ロンドン:ジョーンズ、ブダペスト:フェレ
ンツィなど
—国際大会(ザルツブルク(1908.4))、ベルリンやブダペストで分析団結
—フロイトの渡米(1909)
・ 国際精神分析協会(IPA)(ニュールンベルク大会 1910〜)
・ 初代会長ユング(cf. 精神分析の「ユダヤ性」)
・ 秘密委員会
精神分析の展開(2)...
・ 臨床
—五大症例(ドラ症例(1905)、ハンス症例(1909)、鼠男(1909)、シュレ
ーバー症例(1911)、狼男(1918))
・ 理論
—リビドー発達論
・「性欲編纂篇」(1905)___「欲動」の概念。
・自我欲動と性欲動の対立
・転回点:ナルシシズム(1909 年頃から)
—メタ心理学
・ 1915 年の前半、12 論文からなる『メタ心理学序論』の計画、5 編が 3 月か
ら 5 月にかけての七週間で書かれる (「欲動とその運命」
「抑圧」
「無意識(こ
こまで 1915)、「悲哀とメランコリー」「夢理論へ飲めた心理学的補遺」(ここ
まで 1917)」。
・ 残りも 8 月までには完成していたと考えられるが、実際に公表されたのは先
の 5 編のみ。残りは破棄されたと思われる。
・ うち転移神経症をめぐる論文の草稿が近年発見された。
精神分析の展開(3)...
・ 「精神分析への関心」(1913)
—精神分析と様々な領域との接合
・ 文学
—「グラディーヴァ」(1907)(W・イェンゼンの小説)
・ 美術
—「レオナルド・ダヴィンチの幼年期の思い出」(1910)「ミケランジェロのモ
ーセ像」(1914)
・ 人類学
—「トーテムとタブー」(1912-13)
・ 文明批判
—「戦争と死に関する時評」(1915)のちに「ある幻想の未来」(1927)「文化へ
の不満」(1930)など
「過去」の二つの側面
・ 転移の根ざす過去→発達論
—トラウマ的瞬間を無意識にしておくような力(抵抗)の根元を明らかにする
・ 過去の分節化の二つの形式
—リビドー発達論:諸欲動の統合
—同一化:心の間主体的な構造化
リビドー発達論
・ 発達→リビドー発達論
—「欲動」の概念:幼児の「多形倒錯」とその統合の過程
—発達のステップ:口唇期、肛門期、男根期、性器期
(→対象関係論:他者との関係の諸様態)
—発達のある段階への「固着」
・ 二大欲動(自我欲動と性欲動)の対立
—自我欲動と性欲動の対立(「精神分析的観点から見た心因性視覚障害」(1910)
著 10,197)シラーの「愛と飢えが世界を動かす」。多数の「部分欲動」からな
る「性欲動」。性欲動が脅かす「自我」(198)
・ 転回点:ナルシシズム(1909 年頃から)
—精神病の機制の問題(シュレーバー症例、またユング)
—「ナルシシズム入門」(1914)対象として自己を選ぶ段階がある→自我リビド
ー/対象リビドーという区別の解消?
同一化 Identifizierung
・ イマーゴとコンプレックス(←転移)
・ 同一化による成立
—リビドー発達論の用語での記述(「口唇期的な取り込み」など)
・ エディプス・コンプレックス
—エディプス的状況は、
・トラウマ的瞬間の側面を持つと同時に
・分析の中で抵抗として現れてくるような
間主体的関係の構造化の側面を持つ
精神分析学第 8 回 6/14
精神分析:1900-1920
・ 精神分析の展開、「危機」、再編
・ 「危機」の二つの契機
—(臨床)転移
・過去:トラウマ的瞬間の座+抵抗の座
・リビドー発達論
—部分欲動
—二大欲動
—(理論)ナルシシズム
・欲動は一種類か、二種類か(ユング vs フロイト)
議論の焦点
・ 部分欲動と二大欲動
・ 欲動と言語の問題
部分欲動と二大欲動(1)
・ 部分欲動
—幼児のセクシュアリティ
—身体的な源泉
—多形倒錯(各器官に源泉を持つ欲動のばらばらな追求)
—リビドーの発達:部分欲動の統合→異性愛的対象選択(他者)
部分欲動と二大欲動(2)
・ 二大欲動
—リビドー発達論で想定される二つの力
・部分欲動の単独的・即時的充足
・統合・他者へと向かう傾向
—1.自我欲動と性欲動(「飢えと愛(1910)」
・自己保存(危険(刺激)の回避)/種の保存
・現実原則/快感原則
—ナルシシズム:自我への関係に存する性愛
—2.死の欲動(タナトス)と生(性)の欲動(エロス)
・個体の水準/種の水準
・快感原則(+現実原則)/快感原則の彼岸
欲動と言語の問題(1)
・身体と関係づけられる欲動
—諸欲動の自立的な発達・統合?
・ 他者との関係の場所としての欲動
—関係の媒体としての部分欲動の対象(←対象関係論)
—生(性)の欲動(エロス)→他者との関係
欲動と言語の問題(2)
・ 他者のもとで、ある願望・欲求の充足が求められる。
・ (快感原則→)願望・欲求は快=刺激の消滅を目標とする
・ しかし他者はむしろ刺激の源泉である
—そもそも刺激の源泉たる心的装置の「外」
—新しい刺激をもたらす「接合」
・ その他者に向かって人間が開かれ続けていることは、快感原則によっては説
明できない。(→快感原則の彼岸)
・ 原理的に不快であるような他者:言語との関わりでどのように位置づける
か?
欲動と言語の問題(3)
---快感原則の彼岸--・ 問題:「反復強迫」
・ ヒント:刺激保護を目的とした先行的備給
—→転移におけるイマーゴの役割
—→コミュニケーションにおけるコードの想定の役割
刺激保護のための先行的備給
他者との関係から見た快感原則
快感原則の彼岸
転移と愛の次元
・「転移の力動性について」(1912)著9,p.68—「愛情要求が現実によって残りなく満足されていない人間は、新しく自分の
前に立ち現れる全ての人物に、リビドー的期待表象を抱いてこれを向けなくて
はならない。」
・「転移性恋愛について」(1915)
—分析の中で被分析者が分析家に抱くことのある恋愛感情。
—これは幼児期の反応の繰り返しであり、それがその「強迫的な、病的なも
のを思わせる性格」を決定している。
—分析家はこれを真の恋愛から区別しなければならないが、しかし両者の区
別は実ははっきりしない。
同一化
Identifizierung
・ イマーゴとコンプレックス(←転移)
・ 獲得されるイマーゴ
・ 相関する同一化の二つの契機
—父(母)に相対するかのように振る舞う=子供として振る舞う
—父のイマーゴの想定=父が想定している私のイマーゴの想定
第二場所論
・ 自我(Ich)、超自我(Uberich)、エス(Es)
・ エディプス的同一化
・ 心の間主体的な構成
転回のテクスト
・ 「不気味なもの」(1919)
—反復強迫のもたらす「無気味さ」
・ 「快感原則の彼岸」(1920)
—反復強迫・生の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)
・ 「集団心理学と自我の分析」(1921)
—同一化
・ 「自我とエス」(1923)
—第二場所論(自我、超自我、エス)
・ 「マゾヒズムの経済的問題」(1924)
—快感原則の見直し
・ 「文化への不満」(1930)
・ 「終わりある分析と終わりなき分析」(1937)
まとめ
・ 転移の構造の一般化(→脱・存 Ekistence)
—[主体、イマ−ゴ]、他者
・ その中での快感原則の再定義
—不快(先行備給の失敗)
—快(先行備給の成功)
—転移と愛が望ましいものの場合
—そのものはどんなに不快なものであれ、快感原則の成立そのものを可能な
らしめるという利益がある。
—(コミュニケーションないし表現そのものに伴う快)
・ 快感原則の彼岸
—を媒介とする関係のあり方そのものの由来
(自律的な量の流れ、生命の由来。圧倒的な量の侵入。)
精神分析学第 9 回 6/21
1920 年代の転回
---快感原則の彼岸---(1)
・ 「快感原則」の再定式化
—従来:エネルギー論的枠組み
—「転移」の枠組みの中での再規定
・言語化がもたらす症状の解消=非定型的放出→「機知」のもたらす快
・
無意識の願望の浮上を動機づけるもう一つの願望
1920 年代の転回
---快感原則の彼岸---(2)
1920 年代の転回
---快感原則の彼岸---(3)
・ 快感原則の彼岸
—を媒介とする関係のあり方そのものの由来、をあらしめる力への問い。
—「文化への不満」
—の両義的な位置
・ 快感原則→刺激の源であるからの離脱
・ そのものもかつてのに源泉を持つ限り、それ自体刺激の源泉になりうる。
・ 従って快感原則の貫徹はの解消そのものをも命ずる。
・ それは主体にとっての死であるが、同時に他者への無媒介のコミュニケーシ
ョンが期待できる場所でもある。
「転回」とその余波
・ 1920 年代の「転回」
—精神分析の彼岸:生の欲動、死の欲動
—第二場所(局所)論:エス、自我、超自我
・ 余波の様態
—「生物学」への帰還(→精神医学)
—自我の適応:自我心理学(アメリカ)ハルトマン、クリス、レーヴェンシ
ュタインなど
—前エディプス期への関心:対象関係論(東欧→イギリス)K・アブラハム、
S・フェレンツィ→メラニー・クラインなど
—→フランス:ラカン派
フランスへの受容(1)
・ 1910 年代頃から始まる本格的な紹介
—E・レジス、A・エスナール:「神経症と精神病の精神分析」(1914):最初
の教科書
—文学者:A・ブルトンらのシュルレアリスト
—精神分析のフランス化:アンリ・クロード(『ジャック・ラカン伝』37)、
エデゥアール・ピション(ジャネの娘婿)、ルネ・ラフォルグ
フランスへの受容(2)
・ 1922 年頃に変化の潮目
—1921 ウージェニー・ソコルニカがパリに(フランスにおける最初の直系の
分析家)。
—アンリ・クロードら、分析に理解を示す精神科医:『精神医学的進歩
L’Evolution psychiatrique』 (1925 –アンリ・エーなど)
—1924 パリ精神分析協会(SPP)(-1938 までフランス系カトリックとスイ
スフランス語圏のプロテスタントからなる)
—さまざまな反動
ジャック・ラカン(1901-1981)
・ パリのブルジョワ家庭。
・ 敬虔なカトリック→コレージュ・スタニスラス
・ 哲学への関心:デカルト、スピノザ、のちにニーチェ
・ 文学への関心:初期のシュルレアリスム、ジョイスなど
・ 1923 年ごろフロイトの教説に触れる
・ 精神科医に(サン・タンヌ病院、パリ警視庁特殊医務院、アンリ=ルーセル
病院(→司法医)、ブルクヘルツリ病院、そしてサン・タンヌ病院)
「人格の科学」を求めて
・ 「人格との関係から見たパラノイア精神病」(1932)
・ 「精神」の医学の基礎づけ
・ ヤスパース:「了解 comprehension」によるアプローチ
・ 「人格」の客観的定義(39)
—伝記的発展(←「了解関連」)
—自分自身に関する考え方(「理想」)
—ある種の社会的緊張(他者との関係)
・ フロイトのリビドー発達論と「固着」による病理的現象の解明
「パラノイア」の問題
・ ラカンにとってのパラノイア
—ガエタン・ドゥ・クレランボー
—シュルレアリスムの文脈(ダリ)
—医学鑑定(パパン姉妹(←ガウプが報告した「教頭ワーグナー」など))
・ もともと非常に広い意味で使われていた。
→境界の曖昧さ
・ クレペリン(1899)による定義:妄想
—「内的原因に依存し一貫した経過を示しつつ緩慢に発展する持続的で揺る
ぎない妄想体系で、その際、思考、意志および行動における明晰さと秩序が
完全に保持されている」
・ 正常な諸現象との境界設定の難しさ→「人格」概念による明確化の試み
「欲望」という因果性
・ 患者の生活史に統一を与える「了解関連」
・ 「欲望」という「了解的な鍵」 327
(「心因発生」la psychogenie 331)
・ 認識論的な帰結
—他者(患者)の欲望に向き合う主体(精神科医)//他者(恋愛妄想、被害妄
想などの対象)の欲望に向き合う(患者)の平行(さらに妄想とエネルギー
論の「思いがけない類似性」312)
→分析的三角形(三項関係)を、さらに展開する可能性
精神分析学第 10 回 6/28
ラカンのパラノイア研究の過程における特徴的な現象
→ラカンは患者 Aimee(エメ)の理解しがたい振る舞い(直接的に関わりのな
い英国皇太子に対する恋愛妄想や女優への被害妄想)に対し、過去の経験から
エメの背後に自罰の欲望やリビドー発達論があると想定することで事態を了解
可能とした。
※ その過程でフロイトが『草稿 H』の中で述べていた逆転移(転移とは逆に分
析医が患者に対しイマーゴを投影して愛情や憎悪などの感情を抱くこと)の
存在を確認した。
1930 年代における非常に重要な三つの要素
・ 分析
当時のラカンはまだ分析の訓練を受けていなくてフロイトやヤスパースの文献
から論文を作成していたが、フロイトの直系の分析家である L.レーヴェンシュ
タインから分析を受けて正式に分析家となった。
・ ヘーゲル
1933~39 年に A.コジェーウがヘーゲル『精神現象学』の講義を行い、その中に
理論化のための 2 つのヒントがあった。
1.動物はものを欲望するにすぎないのに対し、人間の欲望は他者の欲望を欲
望して自分の欲望を他人の欲望として承認させることを目指すという特殊
なものであること
2.互いの欲望を分析するものが出会うと死へと向かう闘争が生じること
→主人と奴隷の弁証法:闘争において降伏した者が奴隷となる(ただしフ
ロイトとヤスパースは主人・奴隷の関係が絶対的ではないとした)
※ 欲望の特質は「自らの欲望を位置づけるためには常に他者が必要である」と
いうことであり、たとえどちらか片方でも死んでしまったとしたら闘争は不
可能となる。
・ 鏡
ラカンが行った発表:鏡像段階に関する議論
※ 鏡像段階…発達心理学で発見される現象。生後 6~18 か月の子どもに鏡を見
せると、非常に喜ぶという動物とは大きく異なった反応を示すこと。
ラカンの解釈:人間は未成熟な状態で生まれてきて自らの四肢をコントロール
できない。子どもは自分を「寸断された身体 Le corps morcele」という形で感
じる。そのため鏡に映る自分の身体の像が本来持つべき統合された身体を視覚
的に与えてくれることを喜ぶのだ。
鏡像段階の意味
1.
「人間の統一の中心は人間の内部にではなく外部に見出される」という考え。
cf.当時のフランスには実存主義の潮流があったが、実存という意味の existence
という単語は ex(外に)-stence(ある)からなっている。
2.「鏡像によって身体の統一が先取りされたとしても、実際の主体は統一を得る
に至っていないため、外にある中心は常に幻影という性格を持つ。」
基本的な考え方
転移
S→I/A
※S:主体
I:イマーゴ
A:対象
不安定な支点であるイマーゴ
→点そのものの不安定・点が提供する支えが常に部分的
人間の統一は自らのイマーゴの認知によってもたらされるが、その統一は幻影
である。(イマーゴが裏切られる可能性がある)
※「イマーゴはどこから来るのか」が 1920 年代に繰り返し話題となった。
1930~40 年代にかけての議論
・
「イマーゴの持つ不安定さと動かしがたさが表裏一体であることをどう説明す
るか」が当時のラカンの考えの筋であった。
・ “イマーゴ≠視覚的なイメージ”であり、言語という場面でイマーゴをどう
定義するか?
『セミネール
第2巻』(ラカン・1950)の中の丁半遊び
ルール:一方のプレイヤーが手の中におはじきを取って(数は自由に選べる)
もう一方のプレイヤーがおはじきの数の偶奇を当てる
→どちらのプレイヤーも相手の裏をかいて考えることができる
いつでも私が相手の立場に、相手も私の立場に立つことができる
※ しかし“置換可能性=完全な透明性”ではない
→考想察知感
精神分析学第 11 回 7/5
イマージュの再規定(1)
転移→イマーゴ
—[主体 S、イマーゴγ]、他者α
同一化による主体の形成・鏡像段階
—X→γ1...α
—S(X→γ1...α)→γ2...α
—S→γ...α
・ パラノイア
—(S→γ)...αの再帰的な構造化
→分析的三角形
—(S→γ(S→γ(...)...α)...α
—「→γ」のあり方(動かし難さ)
イマージュの再規定(2)
・ 「丁半遊び」
—視覚的ではないγ:共有されたルールに支えられた.
—S←γ(イマーゴから受け取る規定)
—その不安定→無限化
・ 共有されたルール
・それとの関わりで様々な位置を占めうる主体
・別のルールを選ぶこともできる主体
イマージュの再規定(3)
・ 一定の条件の下での想像的な関係の収束
→「論理的時間」
—分析的三角形
—時間(急ぎ)
論理的時間
・ ラカン「論理的時間と先取りされた確信の表明」(1945)
—看守と3人の囚人
—○○○●●
—自分につけられた円盤は見えない。教え合ってもいけない。
—3人に○をつける。
—最初に自分の円盤を言い当てられた者だけを釈放する。
—囚人はどのようにして自分につけられた円盤を知るか。
全員が同様に推論する
→全員が動く
→「動かない」という推論の根拠が崩れる。
・ 迷う→私(S1)は実際に●であったかもしれない。
・ 目の前の2人(S2、S3)に見えているのは●○で、彼らが推論において私
より慎重であるだけかもしれない。
・ 新しい所与:彼らもまた立ち止まる
・ 目の前の2人が見ているのが●○であれば、「もし私(S2)が●で、S3が
それを見て立ち上がったとすれば、そもそも迷うはずがない。だから私は○
だ。」と考えて動くだろう。しかし2人は動かない。
・ 迷う→私(S1)は●であったかもしれない。
・ 新しい所与:動き出した2人は、また立ち止まる。
・ 目の前の2人が見ているのが●○であれば、彼らはここで立ち止まる必要は
ない。彼らの推論は、我々が動き出したことによって根拠を失うものではな
い。従って私は○である。
論理的時間
・ 他者として考える
—X→γ1...α
・ 他者として他者を考える
—S(X→γ1...α)→γ2...α
・ 他者が主体に及ぼすある種の決定
戦後のフランス精神分析
・ 全般的状況
—ナチス・ドイツによる占領→分析家の第一世代の早期の国外亡命
—アメリカを中心とした国際的な潮流への一定の距離
—分析の伝統の周縁で、分析家の養成・分析の再定義という課題
・ 三人の主要人物
—L・レーヴェンシュタインの三人の弟子:サシャ・ナシュト(医師・精神医
学)、ダニエル・ラガーシュ(非医師・心理学)、そしてラカン(医師・精神
分析)
—非医師による分析(ライ分析 Laienanalyse)という(伝統的な)争点
(「素人による精神分析の問題」(1926)(著作集 11))
—分析家の養成機関としての精神分析研究所の設立をめぐる主導権争い
—SPPの分裂→ラガーシュによるフランス精神分析協会(Societe francaise
de psychanalyse)の設立、ラカンの参加(1953)
1953「フロイトへの回帰」
・ 分析の再定義
—分析の礎:「言語」
— 分 析 の 三 つ の 次 元 : 象 徴 的 な も の ( le symbolique )、 想 像 的 な も の
(l’imaginaire)、現実的なもの(le reel)
—手がかり:フロイトのテクスト
・ 1953 年:三つの出来事
—「象徴的なもの、想像的なもの、現実的なもの」(1953.7)
—「精神分析におけるパロールとランガージュの機能と領野(ローマ報告)と
「ローマ講演」(1953.9)
—『セミネール』の開始(サンタンヌ病院)(1953.11〜)
・ 言語の中でのイマージュの再定義
—鏡の装置の再登場。ただし、合わせ鏡の装置
象徴的なもの、想像的なもの、現実的なもの
・ 想像的なものの統御は、超越的な仕方で据えられるもの(象徴的なもの)に
依存している。(Cf.上 225-226)
・ 象徴的関係こそが、見るものとしての主体の位置を定めるのです。パロール
すなわち象徴的機能こそが、想像的なものの完成性、完全性、近似性の程度
を規定しているのです。(Cf.上 226)
・ 幾つかの像と現実的なものとの共存(上 226)
・ 鏡を介して、鏡を通して通過してくる現実的な対象は、想像的対象と同じ場
所にあるのです。(上 226)
言語
・ 「不実な鏡」と「不安定なイマージュ」
・ 象徴的なものを介して想像的なものが成立する。そして想像的なものと現実
的なものは、「同一の水準」に位置し「混じり合う」。
・ 「象徴的関係」「象徴の交換」(S.I上記引用箇所)
→「言語」の着弾点
・ 鏡=象徴的なもの=言語
・ 二つの立場
—鏡=言語はあらかじめ、揺るぎなく与えられている。
—鏡=言語は獲得されなくてはならず、動揺することがあり得る。
・ 精神分析は後者のオプションをとる。(「解釈」)
ソシュール以後の言語学
・ シニフィアン:ソシュール
—「シニフィアン」の概念(『一般言語学講義』)
・「言語記号の恣意性」←欲望の自由
—「記号学」の構想(同上)
・境界なきシニフィアン
・ 連鎖:ローマン・ヤコブソン
—コードとメッセージ(←「言語学と通信理論」)
—サンタグム(連辞)とパラディグム(範列)(←失語症に関する論文)
・ 意味:エミール・バンヴェニスト
—「意味」に関する形式主義的なアプローチ
(シニフィアンの「意味」=その「可能な用法の集合」)
(S.I)(1950 年代初め→「言語分析の諸水準」(1962))
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