Title ウスイ語文法の概要 Author(s) - Kyoto University Research
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Title Author(s) Citation Issue Date URL ウスイ語文法の概要 藤原, 敬介 京都大学言語学研究 (2008), 27: 81-124 2008-12-25 https://doi.org/10.14989/73225 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 京都大学言語学研究 (Kyoto University Linguistic Research) 27 (2008), 81–124 ウスイ語文法の概要∗ 藤原 敬介 0 はじめに 本稿ではウスイ語(Usoi)注 1 における文法の概要を記述する。 本稿の構成は以下のとおりである。1 ではウスイ語について概況をのべ、先行研究 についてふれる。2 ではウスイ語の音韻論を略述する。3 ではウスイ語の形態論を略 述する。4 ではウスイ語の統語論を略述する。附録 1 としてウスイ語の民話を、附録 2 としてウスイ語がはなされる地域のおおまかな地図をつけた。本稿で使用する記号・ 略号については附録のあとにつけた記号・略号一覧を参照。 1 ウスイ語について 1.1 ウスイ人とは ウスイ人とはバングラデシュ人民共和国・チッタゴン丘陵(Chittagong Hill Tracts)・バ ンドルバン県(Bandarban District)を中心とした地域に居住するチベット・ビルマ系民族 である。 ウスイ人の自称は [brũN] である。この名称はチッタゴン丘陵やインド・トリプラ州 に居住するトリプラ人のこともさす。トリプラ人のなかには三十以上の氏族(clan)が あるといわれる注 2 。ウスイ人は、それらの氏族のうちのひとつであり、ウスイ語では [ùSòI] とよばれる。一般にトリプラ人のおおくはヒンドゥー教徒である。ウスイ人も かつてはヒンドゥー教徒あるいは仏教徒であった。しかし現在では、トリプラ人の氏 族であるリァン人とならんで、ほとんどがキリスト教徒に改宗している点で、ほかの トリプラ諸氏族とはことなっている。 バングラデシュにおけるウスイ人の人口は、厳密にはよくわからない。なぜなら ∗ 注1 主要語句: ウスイ語、トリプラ語、ボド語支、チベット・ビルマ語派、記述言語学。 藤原(2002: 113)ではラテン文字表記として Usui、カナ表記として「ウスイ」とある。し かしラテン文字表記にはさまざまな変種がある。筆者がみたことがあるだけでも Usui, Usoi, Uchai, Uchoi, Ushai, Ushoi, Utsai, Osuie などがある。本稿では、筆者による音韻表 記に準じて、ラテン文字では Usoi と表記しておく。ただしカナ表記としては「ウソイ」 注2 とはせずに、すでに日本語のなかでもちいられたことのある「ウスイ」としておく。 たとえば、K IM et al.(2007: 7)によれば、トリプラ人のなかには 36 の氏族がある。しかし 資料によって、どの氏族をふくめるかにはちがいがあるという。 – 81 – ウスイ語文法の概要 ば、ウスイ人をふくめたトリプラ民族の各氏族は、バングラデシュ国内ではトリプ ラ(Tripura)あるいはティペラ(Tipera)などとして認識され、各種統計資料にもそのよう な名前であらわれているからである。ただし、バンドルバン県で「トリプラ人」とし て認識されている民族は、実質的にはウスイ人であるから、バンドルバン県に居住す るトリプラ人の人口が、バングラデシュ国内におけるウスイ人の人口のほとんどをし めるとかんがえることはできる。 BACCU & JAHANGIR(2008: 56)によると、バンドル バン県におけるトリプラ人の人口は 1,0478 人である。G ORDON(2005: 322)には 1981 年の統計として、バングラデシュに 4010 人のウスイ人がいると記載されている注 3 。 K IM et al.(2007: 9)には Saduram Tripura 氏の見解として 2,2365 人という数字があがっ ている。 ウスイ人は隣接するビルマ・ラカイン(アラカン)州やインド・トリプラ州、ミゾラ ム州にも少数ながら居住しているようである。ウスイ人はインドにおいては指定部 族(Scheduled Tribe)にもなっている。トリプラ州のウスイ人について記述したものには S. D EBBARMA(1983)がある。S EN(1993: 47)によると 1961 年の統計で 766 人、1971 年の統計では 1061 人、1981 年の統計では 1295 人のウスイ人がトリプラ州にいる注 4 。 1.2 系統 ウスイ語は、系統的には、トリプラ語の南部方言に属する。トリプラ語の方言とし ては、北部方言や注 5 、インド・トリプラ州の州都アガルタラ(Agartala)を中心とした地 域ではなされる言語がある。トリプラ語というばあい、一般的には、アガルタラでは なされるトリプラ語のうち、トリプラ人の氏族のなかでもデブバルマ(Debbarma)とよ ばれる王族につらなる氏族がはなす言語のことをさす。この言語がトリプラ人を代表 する言語と目されている理由は、かつてのトリプラ藩王国注 6 をおさめたのが、デブバ 注3 注4 1981 年の統計ではウスイ人の人口が独立して記載してあるけれども、1991 年の統計では トリプラ人と区別がつかない。2001 年の統計では、少数民族ごとの人口統計すら、公式 には掲載されなくなった。 インド最新の人口統計は 2001 年のものである。しかしインターネット上で公開されて いる Census of India http://www.censusindia.gov.in/(最終確認 2008 年 6 月 23 日) では、人口 注5 1,0000 人以上の民族しか掲載されておらず、ウスイ人はみつからない。 PAI(1976: 1)にはトリプラ語の方言としてハラム語(Halam)があがっている。たしかにこ の言語は、地理的にはトリプラ州の北部ではなされる。しかし、系統的にはチベット・ビ ルマ語派のなかでもチン語支(Chin)に属し、トリプラ語とはかなりことなる言語である。 ただし、ハラム人のおおくはトリプラ語を第一言語としてはなす(G ORDON 2005: 359)。ハ ラム人によるトリプラ語が、トリプラ語北部方言の代表例とはいえるかもしれない。 注6 1949 年にインドに併合されるまで独立をたもった王国。伝説上の人物をふくめ、併合ま でに 185 人の王がいたとされる。2008 年現在、187 代目の王がいる。王国の歴史は王統 紀(Rajmala)として 15 世紀にバングラ語で編纂され、以来バングラ語でかきつがれている。 – 82 – 藤原 敬介 ルマであるからである。トリプラ語は、この言語で「人間のことば」という意味をも つコクボロック(Kok Borok/Kokborok)という名称でよばれることがおおい。おなじ単語 がウスイ語では [kaU broUP] と発音される。この点からもわかるように、トリプラ語と 比較すると、ウスイ語においては、語末の子音が摩滅する傾向にある点に特徴がある。 同様の特徴は、ウスイ語ともっともちかい関係にあるリァン語についてもいうことが できる。 トリプラ語そのものの系統について Tibeto-Burman は、論者によってこまかいちがいはある けれども、チベット・ビルマ語派(TibetoBurman)のなかのボド語支(Bodish)に属 す る と い う 点 で は 、お お む ね 一 致 し ている(S HAFER 1966: 7, M ATISOFF 1996: 102, 西 田 1989, B RADLEY 1997: 21–22, VAN D RIEM 2001: 516, J OSEPH & B URLING 2001: 41, B URLING 2003)注 7 。図 1 に 、 B URLING(2003)や PAI(1976)を参考にし て、チベット・ビルマ語派におけるウス イ語の位置をしめした。 Bodo-Garo (Bodish) ©H HH ©© Garo Bodo ©H HH ©© Boro Tiwa Tripura à ÃÃôHH à à ´ à H ´ à South North Agartala ©HH (Debbarma) (Halam?) ©© HH © Riang (Kokborok) Usoi 図 1: チベット・ビルマ語派におけるウスイ語 1.3 先行研究 トリプラ語についての報告は、 P HAYRE(1841: 712)に附録としてしめされた 37 語 の語彙がおそらく最初である。この資料における言語名はビルマ語アラカン方言で トリプラ人のことをさす Mrúng と表記されている。ただし資料が収集された地域 や、語末閉鎖音が表記されないといった特徴から判断すると、ウスイ語が記録され ている可能性がたかい。その後 L EWIN(1869: 210–218)にチッタゴン丘陵のトリプラ 語について語彙が報告された。 C AMPBELL(1874: 187–217)はトリプラ丘陵におけるト リプラ語の語彙や短文を報告した最初期のものである。その後 E NDLE(1884: ii–iv)や A NDERSON(1885: 筆者未見; 書誌情報は G RIERSON(1903)による)にも、トリプラ丘陵のト リプラ語についての語彙が報告された。S RI C HA D HOULOT A HAMMAD M M DAHAR 王統記は全六巻からなり、そのうち第一巻から第四巻までについては N. C. NATH によ り Sri Rajmala: Vol. I to IV として翻訳され、アガルタラの少数民族研究所(Tribal Research Institute)から 1999 年に出版されている。しかし第五巻と第六巻はうしなわれたという。 注7 トリプラ王国の歴史については、たとえば S ANDYS(1915)も参照。 トリプラ語はインド・トリプラ州の公用語でもあり、比較的よくしられた言語といえるに もかかわらず、B ENEDICT(1972)では言及されていない。 – 83 – ウスイ語文法の概要 & S RI C HA M AHAMMAD U MMOR(1898)は、初のトリプラ語文法で、バングラ語で かかれている。 R ADHA M OHAN D EV VARMAN T HAKUR(1900: 筆者未見; 書誌情報は G RIERSON(1903)による)もバングラ語でかかれたトリプラ語の文法である。トリプラ語 にかんするはじめてのまとまった報告は、 G RIERSON(1903: 109–117)である。そこで は基本的な格や代名詞、構文について紹介され、附録として基礎語彙や民話見本もつ いている。イギリス植民地時代に公刊されたこれらの資料は正確さにはかける。しか し、当時のトリプラ語のすがたをつたえる資料として貴重である。 アガルタラを中心とした地域ではなされるトリプラ語についてはいくつかの記述 がある。K ARAPURKAR(1972)と PAI(1976)はインド中央言語研究所(Central Institute of Indian Languages: CIIL)からだされたもので、それぞれトリプラ語の音声学と文法をあ つかう。西田(1989)は、PAI(1976)に依拠しつつ、ほかのチベット・ビルマ諸語を視野 にいれ、トリプラ語の概要をまとめたものである。S. K. C HAKRABORTY(1981)は題 名はイングランド語であるけれども、中は全文バングラ語でかかれた文法である。 S. C HAKRABORTY(2000)や Nitai ACHARYA(20005 )、Nirmalendu ACHARYA(2000)、 D HAR(20032 )もバングラ語でかかれた文法である。 S INGH & A. D EBBARMA(1996)と C HAUDHURI(2004)はバングラ語とイングランド語でかかれた教科書である。Nitai ACHARYA(2001)や D EBBARMAN(2006: 91–110)、C HOUDHURY(2007)は イ ン グ ラ ン ド 語 で か か れ た ト リ プ ラ 語 に つ い て の 簡 単 な 紹 介 で あ る 。 JACQUESSON(2003)は 言 語 学 者 に よ る 簡 潔 な 記 述 で あ る 。ト リ プ ラ 語 に は 語 彙 集 や 辞 書 も で て い る 。 K UMAR(1976)はヒンディー語を見出し語として、デーヴァナーガリー文字で表記さ れたトリプラ語を訳語としてあたえている語彙集である注 8 。D EB BARMAN(19992 )と D EBNATH(20012 )はバングラ文字で表記されたトリプラ語にイングランド語やバング ラ語の訳語をあたえた簡単な語彙集である。 D HAR(1987)はバングラ文字の見出し語 にラテン文字表記をそえ、バングラ語とイングランド語で訳語をつけた辞書である。 B. D EBBARMA(2001, 2002)で表記されるトリプラ語はいずれもラテン文字表記され る注 9 。 注8 F RANCIS(1992: 筆者未見; 書誌情報は J OSEPH & B URLING(2006)による)もトリプラ語の語彙 集であると推定される。ただし、筆者の手許にはないので、具体的にどのようなものであ 注9 るかは不明である。 B. D EBBARMA(2001, 2002)は、母音のうしろに -h をつけることで高声調をしめそうとし ている点で、ほかの研究とは一線を画する。ただし、表記には一貫しないところもある。 たとえば B. D EBBARMA(2001: 105)には thaihlik という語に ‘banana’ と語釈がついてい るのに対して、B. D EBBARMA(2002: 16)では ‘banana’ が thailik と表記されている。この ように、おなじ語でも声調をあらわす -h がついていたり、ついていなかったりすること がある。 – 84 – 藤原 敬介 デブバルマのはなすトリプラ語以外については、R IYANG(2007)がある。これはバン グラ文字表記されたリァン語にバングラ語訳がついている辞書である。 バングラデシュではなされるトリプラ語については、SIL Bangladesh の報告書であ る K IM et al.(2007)をまずあげることができる。これは社会言語学的調査報告である。 附録として、バングラデシュ国内のトリプラ人について、主としてチッタゴン丘陵か ら二十地点をえらび、合計十四の氏族についてそれぞれの箇所で 306 の語彙調査項目 をききとって対照させた語彙集と、みじかいテキストがついている注 10 。バングラ語 でかかれたものとしては、S. L. T RIPURA(1990)がもっともくわしい。 C HAKMA(1988: 42–52)はチッタゴン丘陵の少数民族言語についての概説書で、トリプラ語について のべている。 C HAKMA(2000)はチッタゴン丘陵の少数民族言語についてのべた博士 予備論文(M. Phil thesis)であり、トリプラ語についての記述も一部(pp. 35–37, 82–86, 172–177)にみられる。 M URSHED(2006)はバングラデシュの少数民族言語のうち十言 語について概要をのべた博士論文であり、トリプラ語についてもあつかっている。 M. T RIPURA(2002)は簡単な語彙集である注 11 。B ERNOT(1977/2000)はチッタゴン丘陵 におけるトリプラ人について概要をのべたのち、著者がチッタゴン丘陵で収集したト リプラ語によるいくつかの民話についてフランス語訳をつけて解説したものである。 一部の文についてはトリプラ語による表記も注記されている。 以上のべてきたように、トリプラ語については小なりとはいえ研究がある。しか し、ウスイ語そのものをあつかった研究はほとんどない。管見のかぎりでは、 K IM et 注 10 SIL Bangladesh は精力的に活動している。トリプラ語以外にもこれまでにバングラデ シュ国内のほぼすべての少数民族言語について、社会言語学的調査と 300 項目程度の基 礎語彙調査をおこなっている。基礎語彙調査は、一言語につきすくなくとも数地点でお こない、おおいときには二十地点程度おこなっている。語彙は国際音標文字で表記され ている。ただし、調査時間はたいていのばあい一日(すなわち、実質的には数時間)であり、 音韻分析や形態分析をほどこしていないということもあり、記述の精度には疑問がのこ る。すべての資料を精査したわけではないけれども、筆者が一次資料をもつチャック語、 マルマ語、ウスイ語についてだけいっても、表記に一貫性のないところが散見される。 声調については、表記されていない。たとえばトリプラ語をあつかう K IM et al.(2007: 144–145)で #242 ‘small’ と #248 ‘thin’ という単語を比較してみる。このふたつの単語は、 方言によって語形がことなることがあっても、同一方言であれば、おおくの地点におい て、実質的にはおなじ単語であると推定される。しかし、同地点であっても ‘small’ ùtEP 注 11 vs. ‘thin’ ùtE(Choto Madhuk, Robertpara, Katchaptali, Oldlankar 方言)、‘small’ ùEtE vs. ‘thin’ sEtE(Mildhanpara 方言)、‘small’ gura vs. ‘thin’ guRa(Krishna Dayalpara 方言)、‘small’ b1ùa vs. ‘thin’ b1ùak(Satchari Tripura Basti 方言)のように表記に一貫性がみられない。 ほか、B. T RIPURA & S. L. T RIPURA(1995)や B ULBUL(2000)があるけれども、言語学的 にはほとんど参考にならない。なお、J OSEPH & B URLING(2001: 52)によると、James A. M ATISOFF 教授がバングラデシュのトリプラ語(Kokborok)について調査している。 – 85 – ウスイ語文法の概要 al.(2007)にあげられるウスイ語資料をのぞけば、WALSH(n.d: おそらく 1960 年代)があ るだけである。WALSH(n.d.)はイングランド語を見出し語とし、対応するバングラ語 とウスイ語(Tipperah/Ushai)をバングラ文字表記したものである。前書きにはウスイ語 の音声的特徴がしるされており、かなり正確に観察していることがわかる。しかし、 声調は表記されておらず、/u/と/W/の区別が曖昧である。 1.4 話者および資料について 本稿でのウスイ語は、筆者がバンドルバン県で Timothi Tripura さん(1967 年生)から ききとったものである。資料としては服部(1957)をもちいて基礎語彙をまず収集した。 それから、昔話を中心とした口語資料を十編程度分析した注 12 。これらの作業の過程で 2000 語程度の語彙を収集することができた。文法事項の記述のさいに、用例を(cf. 民 話の行番号) あるいは(ex. 本稿での例文番号)の形式で参照した。附録以外の民話からの用 例では、たとえば(黒いマンゴー)というように、民話の名前のみで参照した。 Timothi Tripura さんはバンドルバン県のなかでもルワンチョリ(Roanchari)地方の出 身である。ウスイ人のはなす言語は、チッタゴン丘陵をながれるふたつの大河によっ て、二大方言にわけることができる。すなわち、コルノフリ川(Karnaphuli)流域の方言 と、ションコ川(Sangu)流域の方言である。ルワンチョリ地方は、コルノフリ川よりの 地域である。ションコ川の流域に属するバンドルバン地方の方言とは、若干の差異が あるものとおもわれる。しかし、どの程度の差異があるかはあきらかではない注 13 。 2008 年現在、Timothi Tripura さんはバンドルバンの NGO ではたらいている。ウス イ語のほかにバングラ語チッタゴン方言、標準バングラ語に堪能であり、バンドルバ ン地方の共通語であるマルマ語も多少は理解し、はなすことができる。 ききとりの媒介言語はバングラ語を基本とし、必要におうじてマルマ語も使用した。 注 12 注 13 、 「黒い母と白い母」 、 「黒いマンゴー」 、 「熊と 筆者が収集した民話のうち「米娘とごま娘」 虎」 、 「クートライティ」 、 「鷹」の六編については、本稿における例文のなかでも参照した。 K IM et al.(2007: 18)によれば、バングラデシュ国内においては、ウスイ人以外のトリプラ 諸氏族は、ウスイ語がむずかしいと感じているということが、アンケート調査からわか る。実際、K IM et al.(2007: 26)にしめされた、306 項目の基礎語彙についての語彙類似指 数をみても、一致度は 50% 程度であり、相互理解には困難があると予想される。他方、 ウスイ語内部の方言差についていえば、語彙類似指数は 83%∼91% であり、相互理解に 困難があるとはおもわれない。ただし、バンドルバン出身の Jagat Chandra Tripura 氏に よるとルワンチョリ地方のウスイ語はすこしことなる(K IM et al. 2007: 21)。筆者の経験で いえば、目につきやすい語彙や発音のちがいについていっても、ルワンチョリ地方出身 者のウスイ語と、バンドルバン地方出身者のウスイ語とでは、ちがいがある部分もある。 しかし、相互理解が困難となるほどではないとおもわれる。 – 86 – 正誤表 p.87 7 行目「新訳聖書」→「新約聖書」 藤原 敬介 1.5 ウスイ語の表記について トリプラ語については、ふるくはコロマ(Koloma)とよばれるトリプラ語固有の文字 によって王統紀がかかれ、のちにサンスクリットに翻訳され、さらにバングラ文字で かかれるようになったといういいつたえがある(K IM et al. 2007: 5注 14 )。現在ではバング ラ文字やラテン文字でトリプラ語を表記することが一般的である。しかし、正書法と いえるほどのものはない注 15 。 ウスイ語にも正書法はない。ただし、ウスイ語による新訳聖書がバングラ文字でか かれているので、それにならってバングラ文字でウスイ語が表記されることはある。 リァン語についてはラテン文字表記の聖書がある。ウスイ語についても、ラテン文字 で表記することをこのむひとがふえているようである。ただし、バングラ文字表記に しても、ラテン文字表記にしても、音韻論的な配慮はされておらず、声調をかきわけ ることも通常はしない。 本稿でウスイ語を表記するにあたっては、三種類の表記をつかいわける。すなわち、 /音韻表記/と [音声表記] と簡易音声表記である。/音韻表記/は、ウスイ語を音韻論的 に分析したばあいの表記である。[音声表記] は IPA(1996 年改訂)に準じて代表音を表 記したものである。簡易音声表記は、代表的な異音はかきわけて表記するもので、括 弧をつけない。本稿におけるウスイ語表記は、ほとんどが簡易音声表記である。 2 音韻論 2.1 音節構造 ウスイ語の音節構造(σ )は、基本的には(1)にしめすとおりである注 16 。 (1) σ = C0 @C1 C2 V1 V2 C3 /T; ただし C0 @- は副音節(minor syllable) C0 、C1 、C2 、C3 にはいりうる子音については 2.2 で、V1 、V2 にはいりうる母音に ついては 2.3 で、声調をあらわす T については 2.4 でのべる。 注 14 注 15 注 16 この情報の本来の出典は Wikipedia による Kokborok language の項目である(最終確認 2008 年 6 月 3 日)。B. D EBBARMA(2001: 53)にも見出し語として ‘koloma’ があり、‘the name of Kokborok script’ としるされている。 トリプラ語の表記については B. D EBBARMA(2006)に、いかに表記するべきかについてお こなわれたセミナーの報告がある。 JAMATIA(2007: 65–68)にはトリプラ語がいかに表記 されてきたかについて簡単な解説がある。なお B ERNOT(1977/2000: 429)には Alendra Lal Tipera 氏の創作によるトリプラ文字の見本が掲載されている。その文字は、字形がビル マ文字を想起させる。ただし、一般にはもちいられていない。 C0 が無声子音のときには @ の音色がほとんどきこえないので、C0 のみがあると解釈しう る。そのように解釈すれば、音節構造は最大で C0 C1 C2 V1 V2 C3 /T となりうる。 – 87 – ウスイ語文法の概要 2.2 子音 ウスイ語の子音は表 1 にあげるとおりである。代表的な異音は (...) でしめした。 閉鎖音 唇音 歯音 歯茎音 軟口蓋音 声門音 p, ph, b t, th, d c, j k, kh, g P (s) S 摩擦音 鼻音 m 流音 半子音 n l w h N r (y) 表1 ウスイ語の子音 C0 には w と P、N 以外のすべての子音があらわれうる。C1 には P と N 以外のすべ ての子音があらわれうる。C2 には流音 l と r しかあらわれない注 17 。C3 には P と N し かあらわれない注 18 。 最小対語または疑似最小対語の例を(2)∼(10)にしめす。 (2) /p/ [p] vs. /ph/ [ph ] vs. /b/ [b]: pà「共に」vs. phà「売る」vs. bà「五」 (3) /t/ [t] vs. /th/ [th ] vs. /d/ [d]: tà「月」vs. tha「芋」vs. dà「満たす」 (4) /c/ [tS]注 19 vs. /j/ [dZ]注 20 : ca「食べる」vs. jakoN「足」 (5) /k/ [k] vs. /kh/ [kh ] vs. /g/ [g]: ka「サンダルを履く」vs. kha「髪をとかす」vs. garà「指尺」 注 17 注 18 C2 に/y/をみとめるべきだとする可能性もある。実際、音声的には [Cj ] となるような単 語は散見される。しかし本稿では y は母音 i のあとであらわれる/j/の異音であるとかん がえるので、C2 の要素ともみとめない。たとえば「金」は音韻表記するなら/ràNgija/で あるけれども、実際の発音は [RàNgj a] である。これを本稿では簡易音声表記として ràNgya というように表記する。 「道具」をあらわす kòl という語にだけ、語末に l をもつものが確認されている。この単 語はトリプラ語でも kol(B. D EBBARMA 2002: 257)である。トリプラ語に本来あった末子音 注 19 注 20 がウスイ語のなかにものこっているめずらしい例であるといえる。 バングラ語などからの借用語で、本来的には ch があるばあい、ウスイ語では/S/ [S] とし て借用される。例: /Sobi/「写真」< Bangla chobi /j/の異音として [j]∼[J] が頻繁にあらわれる。傾向としては、母音 i に後続するばあい や、拘束形態素が [j]∼[J] で発音される。本稿では、音韻論的には/j/とかきうるもので も、実際の発音を重視して、簡易音声表記としては y でかいているものがおおい。具体例 は附録を参照。 – 88 – 藤原 敬介 (6) /S/ [S]注 21 vs. /h/ [h]注 22 : Sà「言う」vs. hà「殴るために手をあげる」 (7) /m/ [m]∼[m] vs. /n/ [n]∼[n]注 23 : mà「敬意」vs. nà「ナイロン製の糸」 " " (8) /l/ [l] vs. /r/ [R] vs. /w/ [w]: la「取る」vs. ra「年をとる」vs. wa「竹」 (9) /V/ [V] vs. /VP/ [VP]: ka「サンダルを履く」vs. kaP「泣く」 (10) /Ṽ/ [Ṽ] vs. /VN/ [VN]: k`ã「ズボンを履く」vs. kàN「CL:布」 2.3 母音 2.3.1 単母音 ウスイ語の単母音は表 2 にあげるとおりである。 前 中 後 高 i W u 中 e @ o 低 a 表2 ウスイ語の母音 母音のうち/@/は単語の最終音節にはあらわれず、声調をになうこともない。鼻母音 化することもなく、二重母音を形成することもない。さらに、しばしば無声化して実 現するために、実際問題としては C0 @C1 V と C0 C1 V との区別は音声的にはできない ことがおおい。それにもかかわらず/@/を音素としてみとめる理由は、音節構造を簡単 にし、表記上のわかりやすさを実現するためである。(11)に、いくつかの単語を、/@/ をもちいた表記ともちいない表記で対照した。 (11) a. 「良い」[k@h`ã]∼[k.h`ã] k@h`ã vs. kh`ã注 24 ˚ 注 21 注 22 /S/の異音としてのみ [s] があらわれる。傾向としては C0 @C1 V の音節構造において、C1 が無声閉鎖音のばあい、C0 に [s] がきかれる。例: /S@teP/ [steP]「小さい」 [i] が先行するばあい、/ha/はしばしば [ja] で発音される。例: /ociPha/ [otSiPha]∼[otSiPja] 「ふたたび」 接頭辞としての/m@/と/n@/は相互に頻繁に交替する。また、音声的には成節的鼻子音と 注 23 してそれぞれ [m] と [n] で実現する。よって簡易音声表記としては @ をかかない。例: 注 24 " " /m@Sa/ [mSa] mSa∼/n@Sa/ [nSa] nSa「こども」 " " もしも @ を音素としてみとめずに単に kh`ãと表記すると、 「燃やす」[kh `ã] と発音するばあ いと区別がつかない。よって、@ を音素としてみとめないばあいには、ハイフンなどをも ちいて音節境界を明示するか、/ph, th, kh/としている表記を/hp, ht, hk/あるいは/ph , th , kh /と変更する必要もでてくる。 – 89 – ウスイ語文法の概要 b. 「母」[mma] m@ma vs. mma " c. 「苦い」[k@kh a]∼[k.kh a] k@kha vs. kkha ˚ d. 「胃」[d`ãS@plàma]∼[d`ãs@plàma] d`ãS@plàma vs. d`ãSplàma ˚ ˚ /@/は、後続する母音が/i/であるばあい、逆行同化して音声的には [i] で実現する注 25 。 (12) に例をあげる注 26 。 (12) Sikrı̀「こわがらせる」< S@-「使役」+ krı̀「こわがる」 ほかの単母音について、開音節語における最小対語・疑似最小対語の例を(13)∼(15)に しめす。 (13) /i/ [i] vs. /e/ [e] vs. /a/ [a]: Si「剃る」vs. Se「移る」vs. Sa「すこし」 (14) /u/ [u] vs. /o/ [o] vs. /a/ [a]: Sù「嘴でつつく」vs. Sò「鉄」vs. Sà「言う」 (15) /i/ [i] vs. /W/ [W] vs. /u/ [u]: Si「剃る」vs. SW「洗う」vs. Su「搗く」 -P におわる閉音節における最小対語・疑似最小対語の例を(16)にしめす。 (16) /iP/ [iP] vs. /eP/ [eP] vs. /aP/ [aP] vs. /oP/ [oP] vs. /uP/ [uP] vs. /WP/ [WP]: SiP「扇ぐ」vs. SeP「絞める」vs. SaP「水をまく」vs. SoP「動物が襲う」vs. SuP 「袋にいれる」vs. SWP「息でふくらます」 -N におわる閉音節における最小対語・疑似最小対語の例を(17)にしめす。CVN につ いては、CeN となるものがほとんど確認されず注 27 、CWN となるものも確認されてい ない注 28 。 注 25 PAI(1976: 27)や JACQUESSON(2003)に指摘されるように、トリプラ語においては語の第 一音節(たいていは接頭辞) の母音が、後続する語基の主母音の種類に応じて同化する。こ の現象を西田(1989: 1118)はボド語群の特徴である母音調和現象ととらえる。しかしウス イ語においては、語基の主母音が/i/のばあいにのみ、第一音節の母音も/i/となる傾向に 注 26 注 27 注 28 ある。三人称代名詞属格形が bo + nı̀ > binı̀となる現象も類例といえる。 自動詞から派生する他動詞についてくわしくは 3.2.2「派生」を参照。 現在までに確認されている例は「バングラ暦の五月」eNdrı̀と、借用語であることがあき らかな「鉛筆」peNSi のみである。 本稿で/uN/と表記しているものが、ときに [W̃N] のようにきこえる。しかし条件異音 であるのか自由変異であるのか不明である。最小対語も確認されていない。したがっ て音韻論的には/-WN/は存在しないとかんがえる。なお、トリプラ語の音声を記述した K ARAPURKAR(1972: 29)には [UN] と [WN] による最小対語の例として nUN ‘call’ vs. nWN ‘you’, cUN ‘heat’ vs. cWN ‘we’, sUN ‘bark’ vs. sWN ‘ask’ といった例があがっている(原文に よる U という表記は back lower-high voiced rounded vowel とあるので U にあらためた)。筆者に – 90 – 藤原 敬介 (17) /iN/ [ı̃N] vs. /aN/ [ãN] vs. /oN/ [õN] vs. /uN/ [ũN]: Sı̀N「上から押す」vs. SaN「きばる」vs. SoN「料理する」vs. SuN「尋ねる」 2.3.2 二重母音 二重母音として確認されているのは/ai, au, ei, oi/のみであり、いずれも下降二重母 音である。最小対語・疑似最小対語の例を(18)∼(20)にしめす。 (18) /ai/ [aI] vs. /au/ [aU] vs. /oi/ [oI]注 29 : Sài「選ぶ」vs. Sàu「腐る」vs. Sòi「書く」 (19) /aiP/ [aIP] vs. /auP/ [aUP] vs. /eiP/ [eIP]注 30 : aiP「授ける」vs. SauP「自分」vs. SeiP「奪う」 (20) /aiN/ [ãIN] vs. /eiN/ [ẽIN] vs. /oiN/ [õIN]注 31 : khàiN「太鼓」vs. khèiN「ほどく」 vs. koiNji「レモン」 2.3.3 鼻母音 /@/をのぞく単母音はいずれも鼻母音となりうる。鼻母音は音素である。-N に先行 する母音も音声的には鼻音性をおびるけれども、予測可能なので音素的ではない。最 小対語・疑似最小対語の例を(21)∼(25)にあげる。 (21) /i/ [i] vs. /ı̃/ [ı̃] vs. /iN/ [ı̃N]: khi「大便」vs. hı̃注 32 「歩く」vs. hı̀N「言う」 (22) /e/ [e] vs. /ẽ/ [ẽ] vs. /eiN/ [ẽIN]: Se「移る」vs. cẽ「負ける」vs. cèiN「はじめる」 注 29 よるウスイ語表記では、それぞれ nuN, cuN, suN であり、同音異義語となる。 音声的に [eI] がきかれるのは、/-e/におわる文法的小辞が文末位置にあらわれるばあいに かぎられる。そのような小辞として現在までに確認されているものには、つぎのような ものがある。=le「TOP」、=Sè「EMPH」、=dè「PQ」。これらは音韻論的には予測可能であ るから、音素的ではない。ただし簡易音声表記としては、実際の発音を尊重し、-ei で表 注 30 注 31 記している。 /oiP/は確認されていない。 /auN/は確認されない。ただし、/aN/の自由変異として音声的には [ãUN] がきこえること はある。/aiN/と/oiN/は例がすくなく、少数の例のうちほとんどはマルマ語などからの借 用語であると推定される。だから -N におわる二重母音としては、実質的には [ẽIN] しかな い。ところで、音声的には [ẽN] はほとんど存在しない。したがって、[ẽIN] は音韻論的に は/eN/と再解釈しうる。ただし簡易音声表記としては、実際の発音を重視して -eiN とし 注 32 ておく。 /ı̃/となる例はこの一例しか確認されない。さらに、[hı̃N] といっているようにきこえるこ ともおおい。 – 91 – ウスイ語文法の概要 (23) /a/ [a] vs. /ã/ [ã] vs. /aN/ [ãN]: Sa「すこし」vs. Sã「求める」vs. SaN「きばる」 (24) /o/ [o] vs. /õ/ [õ] vs. /oN/ [õN]: So「町」vs. Sõ「塩」vs. SoN「料理する」 (25) /u/ [u] vs. /W/ [W] vs. /ũ/ [ũ] vs. /W̃/ [W̃] vs. /uN/ [ũN]: thu「深い」vs. thW `「後ろ」vs. thW̃「集める」vs. thuN「石灰」 「着る」vs. ùtũ 二重母音のうち鼻母音となりうるのは/ãi/をふくむ(26)にあげる二例しか確認され ていない。なお/aiN/の例については(20)にあげたので省略する。 (26) /ãi/ [ãI]: b@h`ãi「臭い」、raiNhãi「僧」< Marma r@háiN 2.4 声調 ウスイ語における声調としては(27)にしめす二種類をみとめる。 (27) a. 中平調(M): 無標、V でしめす: V33 ∼V22 程度で発音される。 b. 下降調(F): 有標、V̀ でしめす: V31 ∼V21 程度で発音される。 /@/は独自の声調をになわず、無声化するか軽声のように発音される。声門閉鎖 音(P)におわる音節はつねにややたかめのピッチで発音され、声調の区別はない。 最小対語・疑似最小対語の例を(28)にあげる。 (28) a. ka「サンダルを履く」vs. kà「のぼる」 b. kãmi「村」 vs. k`ã「ズボンを履く」 c. kaN「喉が渇く」vs. kàN「CL:布」 なお、ウスイ語の個々の単語におけるピッチのあらわれは、実際には、初頭子音の 有声性に依存するところがおおきい。すなわち、無声子音にはじまる音節のピッチは 相対的にたかく、有声子音にはじまる音節のピッチは相対的にはひくくきこえる傾向 にある。同様の傾向はバングラ語にもある。ピッチが実際にはどのようにあらわれる かについては、厳密にはまだわかっていない。 また、文中ではイントネーションがかぶさる結果、急激な下降やゆるやかな上昇が 音声的にはきかれうる。傾向としては、文末の文法的小辞は急激な下降調で、文中に おける一音韻語の末尾、とくに従属節の末尾においては、上昇調で発音される。しか し、さらなる厳密な条件はまだあきらかではない。 – 92 – 藤原 敬介 3 形態論 3.1 品詞分類 ウスイ語における内容語の語類は、大別して名詞類(nominal)と動詞類(verbal)にわか れる。ほか、名詞にも動詞にもならない内容語として副詞がある。機能語は助詞とし て分類される。 3.1.1 名詞類 名詞類は無標の形式で文の主語や目的語となりうるものとして定義される。名詞類 をさらにこまかく分類すると、名詞、代名詞、数詞、類別詞にわけることができる。 名詞の特徴としては 1) 後置詞をとりうる、2) 類別詞をとりうる、3) 名詞付加語(指 示詞、名詞修飾助詞、 「形容詞」など) がつきうる、といったものがある。 3.1.1.1 代名詞 ウスイ語の人称代名詞について、主格、目的格、属格の形式を表 3 にしめす。原則 としては主格形に目的格、属格の後置詞を付加すればよい。ただし、音声の縮約にと もなう不規則形式が一部にみられる。(a)bo などにみられる (a) は、任意の要素である ことをしめす。 単数 複数 主格 目的格 属格 主格 目的格 属格 一人称 àN àN=no anı̀ cùN cùN=no cinı̀ 二人称 nuN nno nnı̀ nnàN nnàN=no nnàN=nı̀ 三人称 (a)bo (a)bo=no binı̀ (a)bràN (a)bràN=no (a)bràN=nı̀ 表 3 ウスイ語の人称代名詞 人間について三人称をあらわすばあいには、 「人間」brouP に男性接尾辞 ha や女性 接尾辞 ma がついた「彼」(a)brouPha、「彼女」(a)brouPma という形式も多用される。 abrouPha は abraha となることもおおい。また、 「自分」をあらわす語として SauP があ り、再帰代名詞としてももちいられる。 ウスイ語の指示代名詞を表 4 にしめす。三人称代名詞の bo と「ここ」をあらわす ro、「こちら」をあらわす jaN にたいして、距離の遠近におうじて接頭辞がついたもの である。なお属格形式については、bo は第一音節にくるので =nı̀と同化して binı̀とな るけれども、abo とùbo は同化しない。 – 93 – ウスイ語文法の概要 主格 属格 場所 方向 近称 bo binı̀ ro jaN 中称 abo abo=nı̀ aro ajaN 遠称 ùbo ùbo=nı̀ ùro ùjaN 表 4 ウスイ語の指示代名詞 3.1.1.2 数詞と類別詞 ウスイ語における数詞は、原則として類別詞とともにあらわれる。しかし四以上の 数詞については、類別詞をともなわずにいわれることもある。傾向としては、主要部 名詞と同形式の類別詞をとるものについては、類別詞を省略していわれることがおお いようである。 (29) にウスイ語のおもな数詞をしめす。序数詞にたいして特別な形式は存在しない。 おおまかには二十進法であるけれども、不規則な形式も散見される。一の位がゼロで ないときには、類別詞を併用するけれども、ゼロのときには類別詞はあらわれない。 とくに注意を要する形式については太字でしめした。 (29) a. 1∼3: CL -1 CL -ha, CL -2 CL -nòi, CL -3 CL -th` ã b. 4∼10: 4 bròi, 5 bà, 6 douP, 7 S@nı̀N, 8 caP, 9 S@kuP, 10 cı̀ c. 11∼19: 11 cı̀Sa, 12 cı̀g@nòi, 13 cı̀th`ã, 14 cı̀bròi, 15 c@rà, 16 cı̀douP, 17 cı̀S@nı̀N, 18 cı̀caP, 19 cı̀S@kuP d. 20∼29: 20 khò, 21 khò-pheP-kài注 33 -ha, 22 khò-pheP-nòi, ..., 29 khò-phePS@kuP e. 30∼39: 30 khò-pheP-cı̀, 31 khò-pheP-cı̀-CL-ha, ..., 39 khò-pheP-cı̀-CL-S@kuP f. 40∼49: 40 kWr@nòi, 41 kWr@nòi-CL-ha, ..., 49 kWr@nòi-CL-S@kuP g. 50∼59: 50 krW̃cı̀, 51 krW̃cı̀-CL-ha, ..., 59 krW̃cı̀-CL-S@kuP h. 60∼69: 60 kWr@th`ã, 61 kWr@th`ã-CL-ha, ..., 69 kWr@th`ã-CL-S@kuP i. 70∼79: 70 kWr@th`ã-cı̀, 71 kWr@th`ã-cı̀-CL-ha, ..., 79 kWr@th`ã-cı̀-CL-S@kuP j. 80∼89: 80 kWr@bròi, 81 kWr@bròi-CL-ha, ..., 89 kWr@bròi-CL-S@kuP k. 90∼99: 90 kWr@bròi-cı̀, 91 kWr@bròi-cı̀-CL-ha, ..., 99 kWr@bròi-cı̀-CL-S@kuP l. 100 r@jà-ha, 200 r@jà-nòi, 1000 Sài-ha∼SàiSı̀-ha, 1,0000 Sài-cı̀∼SàiSı̀-cı̀ m. バ ン グ ラ 語 か ら の 借 用 形 式: 0 SuNno, 10,0000 lauPkhà-ha, 100,0000 kauPkhà-cı̀, 1000,0000 kuti-ha, 1,0000,0000 kuti-cı̀ 注 33 kài 以外の類別詞があらわれない。 – 94 – 藤原 敬介 ウスイ語の類別詞はつねに数詞とともにあらわれる注 34 。類別詞のなかには、類別 詞としてのみもちいられるもの(30a)、名詞に由来するもの(30b)、動詞に由来するも の(30c)がある。かずとしては、名詞に由来する類別詞がもっともおおい。名詞に由来 するばあい、接頭辞がない形式が類別詞としてもちいられる傾向にある。動詞に由来 するものは非常にすくない。 (30) a. 類別詞のみ: kài「CL:一般」、ma「CL:動物」、kruN「CL:場所」、wai「CL:回 数」、khòN「CL:道具」など b. 名詞由来: khrouP「CL:人間」< mkhrouP「頭」、thai「CL:丸いもの」< mthai 「果物」注 35 、Sà「CL:日」< Sà「日・太陽」など c. 動詞由来: bauP「CL:部分」< bauP「分ける」、caP「CL:層」< caP「重ねる」、 do「CL:タバコ」< do「紙を巻く」など なお、人をかぞえるばあいには、一般類別詞 kài が縮約して k@ となった残滓と推定 される形式として、 「二人」k@tòi、 「三人」k@th`ãという形式が存在する。ほかの数や類 別詞について、縮約形式は確認されていない。 3.1.2 動詞類 動詞は文末助詞をともなって述語となるものとして定義される。動詞はしばしば助 動詞をともなう。また、複数の動詞が接続助詞などを介さずに継起的に生起する動詞 連続が頻繁にあらわれる。動詞についてさらにくわしくは 4.1.2.2「動詞句」と 3.2.2 「派生」でのべる。 3.1.3 副詞 副詞は動詞を修飾する自立語として定義される。副詞のなかには擬音語擬態語をふ くむ。(31)に例をしめす。なお、副詞については 3.2.3「重複」も参照。 (31) a. 副詞: jàiga「とても」、ociPha「ふたたび」、Sa「すこし」、pà「共に」など b. 擬音語擬態語: rùrù「音をたてて移動する様子」、jijiP「臭う様子」など 3.1.4 助詞 助詞のなかには名詞につくものとして後置詞、名詞修飾助詞、動詞につくものとし て助動詞、述部助詞、接続助詞(4.2.6 参照)、名詞や動詞以外にもつきうるものとして一 注 34 注 35 だから、厳密には「数類別詞(numeral classifier)」といえるけれども、本稿では簡便に「類 別詞」とよぶ。 thai が動詞としてつかわれると「実る」という意味になる。 – 95 – ウスイ語文法の概要 般助詞と否定助詞がある。 3.1.4.1 後置詞と関係名詞 ウスイ語における代表的な後置詞には、(32)にしめすようなものがある。 (32) a. =no: 目的語をあらわす。直接目的語をあらわすこともあれば(cf. 20, 28, 32; ex. 59, 62, 63, 78, 79a, b, c)、間接目的語をあらわすこともある(cf. 21, 23; ex. 79a, b, c, 85)。=no がつかなくとも名詞は目的語となりうる(cf. 2, 5, 6, 7, 8, 10, 14, 16, 18, 21, 25; ex. 60, 76a, d)。有生名詞に =no がつき、無生名詞にはつ かない傾向にある(cf. 21, 23)。 b. =nı̀: 所有をあらわす(cf. 2, 23, 28)。動詞-nı̀-名詞修飾助詞の順番であらわれ て、動詞のあらわす動作にかかわる人間をあらわす(cf. 18, 25, 26)。N=nı̀ khài-ye の形式で「N のために」という意味をあらわす(cf. 35)。なお、=nı̀ がなくとも所有関係をあらわすことはできる(cf. 35)。そのようなものは、 複合名詞ということができる。=nı̀または =wo=nı̀で起点をあらわすことも できる。 c. =wo: 場所をあらわす(cf. 5, 7, 8, 9, 22, 24, 28; ex. 44, 77a, b, 78)。また、移動 動詞の着点をあらわす(cf. 18, 21; ex. 84)。 d. =bài: 随伴者をあらわす(cf. 15)。手段をあらわすこともある(cf. 7)。また、 受身文の動作主をあらわす(ex. 80b)。 e. =doi: 様態をあらわす(cf. 8, 24, 30, 34)。abo=doi「このように」の縮約形式 として adoi がある(cf. 13, 17; ex. 58)。動詞につく接続助詞としての用法も ある(cf. 19, 33, 34)。接続助詞としての -doi(73b)と本来的にはおなじもので あるとおもわれる。 f. =S@lai: 比較の基準をあらわす。例: àN=S@lai k@h`ã「わたしよりもよい」 本稿でいう関係名詞(relator noun)とは、語として独立してもちいられることはないけ れども、自立性がたかく、単独で、あるいは後置詞と複合して、空間や時間をあらわ すような語のことをいう注 36 。ウスイ語には(33)にしめすようなものがある。 (33) a. =SiN(=wo): 有生物につく。場所をあらわす(cf. 28; ex. 80b)。移動動詞の着 点をあらわしうる(cf. 29)。mSiN「中」に由来する。 注 36 関係名詞についてくわしくは、たとえば S TAROSTA(1985)を参照。 – 96 – 藤原 敬介 b. =phuP=wo注 37 : 時をあらわす。動詞に直接つくことがおおい(cf. 21, 26)。動 詞以外では akè「前」に後続する例が確認される(cf. 27, 33, 34)。 c. =awòi(=nı̀): ∼のために。有生物につく。 3.1.4.2 名詞修飾助詞 名詞修飾助詞は、名詞に特定の属性をあたえる助詞である。また、=nı̀に直接後続し て行為者名詞をつくることができる(cf. 14, 18, 26)。(34)に例をしめす。 (34) a. =ha∼=ya: 男性名詞かつ定名詞句(cf. 10, 11, 14, 18, 20, 22, 26, 27, 29; ex. 62, 63, 79a, b, c) b. =ma: 女性名詞または無生名詞であり、定名詞句(cf. 12, 18, 25, 27, 35; ex. 59, 77b) c. =ràu: 複数(cf. 2, 19, 20, 25) 3.1.4.3 助動詞 本稿で助動詞とよぶものには二種類ある。すなわち、動詞のまえにつくものと、動 詞のうしろにつくものである。動詞のまえにつくものをとくに動詞前接辞とよぶ。動 詞のうしろにつくものは、たんに助動詞とよぶ。 動詞前接辞には、(35)にあげる二種類しか確認されていない。 (35) a. ta-: 否定命令(ex. 48, 49, 64) b. ma-: 可能、義務 < 「得る」ma 助動詞は動詞のあらわす動作にたいして、動作の方向性、移動、複数性、アスペク ト、ムードといった要素を付加する。代表的な助動詞を(36)にしめす。おおむね、助 動詞があらわれうる順番にしめす。しかし、厳密な辞順はまだよくわかっていない。 具体例については動詞連続(4.2.10)も参照。 ` 内方、-khouP: 外方、-hõ: 遠方 (36) a. -Sà: 上方、-khlai: 下方、-Sõ: b. -ròi∼-rı̀: 使役(cf. 2; ex. 59, 78, 79a, b, c)< 「与える」ròi∼rı̀ c. -jauP∼-yauP: 利益(ex. 81b)、被害(cf. 9; ex. 81a)、受身(cf. 14; ex. 80b) d. -lài: 複数動作主をあらわす(cf. 4, 5, 6, 7, 8, 15, 16, 33, 34; ex. 58)。結果とし て、意味的に相互をあらわすことがおおい。 e. -rauP: 敢然(あえて∼する、過剰に∼する) 注 37 ほとんどのばあい =wo(=LOC)が後続するけれども、=le(=TOP)が後続するときには、=wo がなくてもよいようである。 – 97 – ウスイ語文法の概要 f. -thè: 最上(もっとも∼する、非常に∼する) g. -bòi: 来辞(来て∼する) h. -ji∼yi: 去辞(行って∼する) i. -Sàu: 既然(すでに∼した) j. -tòN: 継続(cf. 10)< 「居る」tòN k. -khoi: 徹底(cf. 25; ex. 59)< 「捨てる」khoi l. -naN: ∼して行く < 「去る」naN注 38 m. -phài: ∼して来る < 「来る」phài n. -thaN: 不可逆(cf. 15)< 「行く」thaN o. -mai: 可能(cf. 16) p. -ja∼-ya: 丁寧(cf. 31; ex. 42, 43) q. -ga: まだ∼する、さらに∼する(ex. 84) r. -Si: もう∼しない(cf. 16) s. -phi: 再度(ex. 64) 動詞のなかには V-nà のあとであらわれて、モーダルをあらわすものがある。 (37) a. mcù∼ncù: 願望(∼したい)< 「欲する」mcù∼ncù注 39 b. klai: 義務(∼すべき) (cf. 24)< 「落ちる」klai c. tàiN: 能力可能 < 「能力がある」tàiN 3.1.4.4 述部助詞 述部助詞は文を終止させることができる助詞のことである。代表的な述部助詞 を(38)にしめす。 (38) a. -nà: 未来(cf. 2, 6, 7, 21, 33)。さらに動詞や後置詞が後続するときには名詞化 の機能があるとかんがえられる(cf. 18, 23, 24; ex. 81a, b)。一人称では -nànı̀ という形式もある(cf. 21, 29)。 b. -nà-h`ã: 未来完了 c. -nài: 未来(cf. 24)< 「見る」nài d. -noi: 近未来(ex. 84) e. -woi: 一般時称、陳述(ex. 59, 62, 63, 65b, 66b, 67a, b, 78, 79a, b, c, 83) 注 38 注 39 ほとんどの用例において、助動詞的にしかもちいられない。 naN「去る」に後続するときには、-nà があらわれないようである。具体例は(83)を参照。 – 98 – 藤原 敬介 f. -mı̀: 非未来、進行(cf. 3, 4, 5, 7, 8, 9, 10, 13, 17, 18, 19, 20, 22, 25, 34; ex. 44, 58, 60, 77a, 80a, b, 81a, b) g. -h`ã: 完了(cf. 15, 28, 31; ex. 42) h. -dı̀: 命令(cf. 32; ex. 43) i. -thòi: 祈願(ex. 72) 3.1.4.5 一般助詞と否定助詞 一般助詞とは、通常は先行する名詞をなんらかの意味で強調する。 (39) a. =le: 主題をあらわす(cf. 1, 9, 12, 18, 35)。=Sè との縮約形式と推定される =S@le という形式もよくもちいられる。 b. =pho: 強調、追加(ex. 42)、譲歩。動詞にもつく。 c. =Sè: 強調(cf. 28)。文末にあらわれて =sèi となることがおおい(cf. 12, 27, 35, 36)。-mı̀(NF)との縮約形式である -mSè であらわれることもある。 d. =bà: 強調(ex. 60)。-mı̀(NF)との縮約形式である -mbà であらわれることが おおい(cf. 11, 21, 23, 26, 30)。 否定助詞は、先行する名詞の存在を否定したり、動作を否定したりする。(40)にあ げる二種類がある。具体例については 4.2.3「否定」であげる。 (40) a. =jà∼=yà: 否定(cf. 16, 28; ex. 68a, b, 69a, b, 75) b. =kroi: 存在否定(cf. 24; ex. 70a, b) 3.1.4.6 終助詞 文末にあらわれて、文になんらかの意味を付加する終助詞には(41)のようなものが ある。いずれの終助詞についても、くわしい意味や用法はわかっていない。 (41) a. =phoi: 伝聞(ex. 42)。-mı̀(NF)との縮約形式である -mphoi であらわれるこ ともある。 ` 疑問文や命令文のあとにあらわれて強調をあらわす(ex. 43) b. =kõ: c. =cà: 疑問文の文末にあらわれて強調をあらわす(ex. 44) (42) ∼(44)に用例をあげる。 (42) bo =pho aro thaN -ye ca -ja -h`ã 3.SG =も そこ 行 =phoi. -SEQ 食 -POL -PERF =HS 彼もそこに行って食べたそうです(黒いマンゴー) – 99 – ウスイ語文法の概要 ` (43) thaN -ya -dı̀ =kõ, 行 apa. -POL -IMP =EMPH 父 行きなさいよ、父さん(熊と虎) (44) bo SauPgà =wo t@mà tòN -mı̀ =cà? これ 上 =LOC 何 ある -NF =EMPH その上に何があるんだ(鷹) 3.1.5 形容詞について ウスイ語には語類としての形容詞は存在しない。他言語で形容詞と分類されうるよ うな意味をもつ語は、名詞または動詞に分類される。すなわち、名詞付加語的にもち いられるならば、複合名詞を構成する名詞である。述部助詞をともなわずに文を終止 させるばあいも、名詞である。述部助詞をともなってもちいられるならば、状態動詞 の一種と分類される(4.2.1)。 一般には状態動詞のうち接頭辞 k@ または g@ をもつ形式があるものが形容詞的な語 としてふるまう注 40 。しかし動詞としても名詞としても接頭辞をもつものや、対応する 動詞がないものも散見される。具体例を(45)にしめす。 (45) a. 接頭辞の有無で動詞と名詞が対応するもの:「熱い」tuN(自動詞)vs. k@tuN(名 詞) b. 動詞も名詞も同形で接頭辞がつくもの:「冷たい」k@caN(自動詞または名詞) c. 接頭辞がついた名詞の形式しかないもの:「たくさん」g@nàN(名詞) d. 接頭辞 k@/g@- をもたないもの注 41 :「小さい」/S@teP/ steP(自動詞または名詞)、 「厚い」r@jà(自動詞または名詞)など 3.2 語構成 3.2.1 複合 ウスイ語における複合は、複合名詞と複合動詞がおもなものである。 複合名詞の例を(46)にあげる。 注 40 k@- ではじまる語のなかには他動詞も散見される。たとえば k@tı̀N「囲む」、k@ma「失う」、 k@rauP「切り刻む」など。なお、状態動詞における接頭辞としての k@ と g@ は相補分布し ている。くわしくは 3.2.2「派生」で後述する。 注 41 この種の語においては、同一形式が自動詞としても名詞としてももちいられる傾向にあ る。第一音節が副音節(C@-)であるものがおおい。この副音節は接頭辞とかんがえられる けれども、接頭辞(副音節)をのぞいた形式が独立して確認されるわけではない。 – 100 – 藤原 敬介 (46) a. 名詞(主要部)+ 名詞: Sòkhi「錆」< Sò「鉄」+ khi「糞」 b. 名詞(主要部)+ 動詞: horiP「マッチ」< ho「火」+ riP「擦る」 複合動詞の例を(47)にあげる。 (47) a. 動詞 + 動詞: SàS@plàN「話をうちあける」< Sà「言う」+ S@plàN「話をうち あける」 b. 名詞 + 動詞: gı̀Ncà「怒る」< gı̀N「怒り」+ cà「やりきる」 ある動詞を否定命令文としたときに、否定辞の ta- が前部要素に前接するか後部要 素に前接するかによって、その語が複合動詞として語彙化しているか、分析可能な語 と語のくみあわせであるかを判断しうる。たとえば(48)のように、SàS@plàN では Sà の 直前にのみ ta- がはいりうるので、SàS@plàN は完全な複合動詞であるといえる。しか し(49)のように、gı̀Ncà のばあいは、ta- が gı̀N のまえにも cà のまえにもくることがで きる。このような語では、完全には語彙化していないと判断できる。 (48) a. ta- SàS@plàN (49) a. ta- -dı̀. gı̀Ncà -dı̀. NEG- 打ち明ける -IMP NEG- 怒る 話をうちあけるな 怒るな b.*Sà ta- S@plàN b. gı̀N ta- -dı̀. -IMP cà -dı̀. 怒り NEG- やりきる -IMP 言う NEG- 打ち明ける -IMP (直訳: 怒りをやりきるな) 3.2.2 派生 ウスイ語における派生は、基本的に動詞にかかわる。動詞に接頭辞を付加すること で、結合価が増減する。接尾辞を付加することで、動詞が名詞になる。 結合価をふやす使動詞接頭辞として S@∼ph@∼m がある注 42 。(50)に例をしめす。 (50) a. 自動詞 → 他動詞: koi「曲がる」→ S@koi「曲げる」、thòi「死ぬ」→ mthòi 「殺す」など b. 他動詞 → 複他動詞: nuP「見る」→ ph@nuP「見せる」、rùN「知る」→ phrùN注 43 「教える(知らせる)」など 注 42 すべての種類の頭子音について、使動詞接頭辞がついた形式が確認されているわけでは ない。しかし、確認されている範囲では、これらの接頭辞は後続する頭子音の種類にした がって相補分布している。有声閉鎖音にはじまる動詞は、対応する無声有気閉鎖音には 注 43 じまる動詞と対立するようである: bai「おれる」vs. phai「おる」(この一例のみ確認)。 音韻表記すれば/ph@rùN/。 – 101 – ウスイ語文法の概要 結合価をへらす接頭辞として k@∼g@ がある。このふたつは語幹動詞の初頭子音の種 類によってほぼ相補分布している。すなわち有声閉鎖音のまえでは g@ があらわれ、そ のほかの環境では原則としては k@ があらわれる注 44 。状態動詞から派生する形容詞的 な語も、ウスイ語文法全体からみれば、動詞の結合価をへらす派生の一種とかんがえ ることができる。(51)に例をしめす。 (51) a. 他動詞 → 自動詞: SaP「水を撒く」→ k@SaP「水がこぼれる」、bẀ「混ぜる」 → g@bẀ「混ざる」 b. 自動詞 → 名詞: Sà「痛む」→ k@Sà「病気」 c. 状態動詞 →(形容詞的)名詞: 「白い」phWP → k@phWP d. 他動詞 → 名詞: SiP「扇ぐ」→ k@SiP「扇」 動詞から名詞をつくる接尾辞には(52)のようなものがある。 (52) a. mùN: 抽象名詞。camùN「食べ物」← ca「食べる」など b. nai: 行為者名詞。ranai「老人」← ra「老いる」など c. thài: 場所名詞。thẀthài「寝床」← thẀ「寝る」など 3.2.3 重複 重複形式には、完全重複と部分重複がある。完全重複には、確認されている範囲で は、名詞が完全重複して状態をあらわすもの(53a)、動詞が完全重複して副詞となるも の(53b)、副詞が完全重複して語意を強調するもの(53c)がある。 (53) a. mdW「破片」→ mdWmdW「こまぎれの様子」 b. louP「たくさんある」→ louPlouP「たくさんある様子をあらわす」、mò「熟 する」→ mòmò「ほとんど∼した」 c. teP「ゆっくり」→ tePteP「ゆっくり」、phroi「はやく」→ phroiphroi「はや 注 45 く」 注 44 流音については g@ がつくものと k@ がつくものとにわかれる。たとえば rauP「過剰であ る」→g@rauP「程度がはなはだしい」 、rauP「固い・難しい(動詞)」→k@rauP「固い・難し い(形容詞的名詞)」。流音に有声と無声の区別がかつては存在した残滓であるかもしれな い。同様に、鼻音に先行する接頭辞にも g@ と k@ の両方がみられる。たとえば g@nàN「た くさん」に対して k@ne「少ない」がある。*nàN で「多い」という意味の動詞は確認され ないけれども、ne「少ない」という動詞はある。鼻音についても有声と無声の対立があっ 注 45 たかもしれない。 「ゆっくり」と「はやく」については、完全重複した形式をもちいるのが普通である。 – 102 – 藤原 敬介 完全重複形式のなかには、重複をともなわない語基だけの形式が確認されないもの がある。そのようなものは、確認されている例をみるかぎりでは、擬音語擬態語とか んがえてよいとおもわれる。(54)に例をあげる。 (54) rùrù「音をたてて移動する様子」、tlùtlù「ゆっくり」、m@k@còm@k@cò「ビスケッ トなどがこまぎれの様子」など 重複形式のなかには、語の一部が同音であったり韻をふんでいたりするけれども、 完全重複とはいえない形式をもつものがある。これを本稿では部分重複とよぶ。語基 が単独でもちいられる例は確認されず、語基からどのような規則で部分重複されてい るかもわからない。部分重複は、形式的には後述する精巧表現(3.2.4)と類似している けれども、語基が単独ではもちいられないという点でことなっている。(55)のような 例が確認されている。 (55) S@nuPS@na「汚い」、maSiPmaSàu「ぐちゃぐちゃな」 3.2.4 精巧表現 語基に対して、同音節数の要素を付加して、語基とほぼおなじ意味をもつ語を形成 する表現方法を精巧表現(elaborate expression)という注 46 。付加される要素は単独で意味 をもつ語であることもあれば、単独では意味をもたないこともある。 単独で意味をもつ要素が付加されるばあい、語基と関連がある語(56a)が付加される 傾向にある。関連する語のなかには、(56b)にしめすように、対照的な意味をもつもの がおおいようである。ただし、結果としてできた語には、付加された要素の字義どお りの意味はない。 (56) a. Soitau「犬」(「犬と鶏」という意味にはならない)< Soi「犬」+ tau「鶏」 b. hotòi「火」(「火と水」という意味にはならない)< ho「火」+ tòi「水」 単独では意味をもたない要素が付加されることもある。そのような要素を本稿では 対語(PAR)とよぶ。対語は、頭韻(57a)や脚韻(57b)をふむ傾向にある。しかし、韻をふ まない対語がつく例もまれにみられる(57c)。韻をふむばあいでも、韻をふまないばあ いでも、どのような規則で精巧表現形式が形成されているかは不明である。 (57) a. k@ciNk@mà「友人」 < k@ciN「友人」 + -k@mà(-PAR) 注 46 本稿でいう精巧表現とは、反響語(echo word)とよばれるものとほぼ同義である。ただし、 韻をふまないものもふくめるので、精巧表現としている。 – 103 – ウスイ語文法の概要 b. SaNtrı̀mùNtrı̀「大臣」 < SaNtrı̀-(PAR-)+ mùNtrı̀注 47 「大臣」 c. S@làipathò「銃」 < S@lài「銃」 + -pathò(-PAR) 4 統語論 4.1 語順 4.1.1 基本語順 基本語順は SOV である。ただし、文脈にしたがって語順は変動しうる。(58)は主語 が後置される例、(59)は目的語が前置される例、(60)は目的語が後置される例である。 (58) adoi hı̀N -ye Sà -lài -mı̀, bràN. そのように 言う -SEQ 言う -VPL -NF 3.PL そのように言って、言いあいました、彼らは(黒いマンゴー) (59) anı̀ màicW =ma =no, bo =no ca -rı̀ -khoi -woi. 1.SG.GEN おにぎり =DEF =OBJ 3.SG =OBJ 食 -CAUS -徹底 -IND 私のおにぎりを、それを食べさせてあげます(米娘とごま娘: 改変) (60) nài -mı̀ =bà, ràN +kolà. 見る -NF =EMPH お金 + 壷 見ましたよ、お金の壷を(黒い母と白い母) さらに、主語であれ目的語であれ、既知の項は明示されないことがおおい。(61)に 附録からの参照箇所をしめす。 (61) a. 主語の非明示: cf. 4, 5, 8, 13, 16, 17, 19, 21, 24, 28, 30 b. 目的語の非明示: cf. 10, 11, 21, 25, 26 4.1.2 句構造 4.1.2.1 名詞句 ウスイ語の名詞句は、一般に表 5 にしめすような構造をとる。 指示詞= 名詞-名詞接尾辞 =類別詞-数詞 =名詞修飾助詞 =後置詞 =一般助詞 表 5 ウスイ語の名詞句構造 注 47 「大臣」mùNtrı̀ はバングラ語 moNtri からの借用語。ただし、バングラ語においてこの語 が精巧表現形式をとるならば、moNtrit.oNtri となることが予想される。ウスイ語では、バ ングラ語とはことなる精巧表現のつくりかたをしている。 – 104 – 藤原 敬介 形容詞的な要素は、名詞(-名詞接尾辞)の直後にあらわれる傾向にあるけれども、直前 にあってもよい。(62)に例をしめす。 +#2 =ma (62) bo= #1+ Soi -là これ= 犬 -MSC -nòi =ha =no =Sè nuP -woi. =CL:動物 -二 =DEF.MSC =OBJ =EMPH 見る -IND この白いオス犬二匹をこそ見る . #1 と#2 いずれに「白い」k@phWP をおいてもよい。 類別詞を名詞句の外におくと、補語と解釈されて意味がかわってくる。(63)に例を しめす。 (63) bo= Soi =ha =no ma -nòi nuP -woi. これ= 犬 =DEF.MSC =OBJ CL:動物 -二 見る -IND このオス犬を二匹と見る .「犬」は実際には一匹しかいないけれども、二匹いるようにおもっているとい う意味になる。 4.1.2.2 動詞句 ウスイ語の動詞句は、基本的には表 6 にしめすような構造をしている。 副詞 動詞前接辞- 動詞 -助動詞 -述部助詞 表 6 ウスイ語の動詞句構造 (64)の 表 6 にしめしたすべての要素が一文にあらわれることはまれであるけれども、 ように作例することはできる。 (64) pà ta- ca -phi -dı̀. 共に NEG- 食 -再度 -IMP 一緒にまた食べるな 4.2 文型 4.2.1 名詞文と動詞文 名詞が述語としてもちいられている文を名詞文、述部に動詞がある文を動詞文とよ ぶ。(65)はほぼおなじことを名詞文(65a)と動詞文(65b)で表現している。 b. bo bruN (65) a. bo bruN. oN -woi. 3.SG トリプラ人 3.SG トリプラ人 COP -IND 彼はトリプラ人です 彼はトリプラ人である – 105 – ウスイ語文法の概要 属性をあらわす表現についても、対応する語形があるならば、名詞文でも動詞文で も表現できる。たとえば「良い」という意味をあらわすために、名詞である k@h`ãをつ かうこともできるし(66a)、動詞である h`ãをつかうこともできる(66b)。 b. bo h`ã -woi. (66) a. bo k@h`ã. 3.SG 良い 3.SG 良い -IND 彼は良い 彼は良いです 4.2.2 存在文 「X がある・存在する」という存在表現は、 「X は Y をもっている」という所有表現 にもなる。所有構文においては、所有者は主格(67a)でも属格(67b)でもあらわれうる。 (67) はいずれも意味的には「わたしはお金をもっている」という意味である。存在否 定については(70)を参照。 (67) a. àN b. anı̀ ràN tòN -woi. ràN tòN -woi. 1.SG お金 ある -IND 1.SG.GEN お金 ある -IND わたしはお金がある わたしにはお金がある 4.2.3 否定 否定助詞 =jà∼=yà は名詞文(68a)にも動詞文(68b)にもおなじようにつく。 (68) a. bo bruN b. bo bruN =yà. oN =yà. 3.SG トリプラ人 =NEG 3.SG トリプラ人 COP =NEG 彼はトリプラ人ではない 彼はトリプラ人ではありま せん 属性をあらわす表現についても、名詞文の否定(69a)、動詞文の否定(69b)がありうる。 b. bo h`ã =yà. (69) a. bo k@h`ã =yà. 3.SG 良い =NEG 3.SG 良い =NEG 彼は良くない 彼は良くないです 存 在 否 定 を あ ら わ す に は =kroi と い う 特 別 な 形 式 を も ち い る注 48 。所 有 者 は 主 格(70a)でも属格(70b)でもあらわれうる。 注 48 =kroi は、もしかすると、接頭辞 k@- に roi という語が付加したもので、全体としては形容 詞的な名詞であるかもしれない。しかし、roi 単独でもちいられる例が確認されていない。 – 106 – 藤原 敬介 (70) a. àN b. anı̀ ràN =kroi. ràN =kroi. 1.SG お金 =ない 1.SG.GEN お金 =ない わたしはお金がない わたしにはお金がない 否定命令では ta- という動詞前接辞をつける(ex. 48, 49, 64)。 4.2.4 疑問文 決定疑問助詞 =dè をもちいることで、決定疑問文がつくられる。たとえば「こ れは本ですか」という意味をもつ文はさまざまに表現しうる。=dè をもちいて、名 詞文(71a)でも動詞文(71b)でもいうことができる。=dè は文末(71a, b)にきてもよい し注 49 、文中(71c)にきてもよい。さらに、上昇調イントネーションをともなっていれ ば、=dè なしであっても決定疑問文になりうる(71d)。 b. bo boi oN =dèi? (71) a. bo boi =dèi? これ 本 COP =PQ これ 本 =PQ c. bo =dè boi? d. bo boi? これ =PQ 本 これ 本 補足疑問文は疑問語をもちいてあらわされる。文末に疑問助詞があらわれることは ない。疑問語は相関関係節(4.2.7.2)における関係節標識としてももちいられうる。ウ スイ語における代表的な疑問代名詞、疑問副詞は表 7 にしめすとおりである。 疑問代名詞 疑問副詞 Sò, S@bò「誰」、t@mà「何」、batoi「どれ」 baiphuP, baiphuP=wo「いつ」、batoi, batoi=wo, t@mà=wo「どこ」 mkhè「どのように」 mSuP「どれくらい」 t@mauPmı̀, t@mà=nı̀ khài-ye「どうして」 表 7 ウスイ語の疑問詞 4.2.5 命令文と祈願文 命令文は文末に命令文標識 -dı̀ をつけて表現する(cf. 32; ex. 43)。否定命令文は動詞 前接辞 ta- と命令文標識 -dı̀ で動詞をはさみこんで表現する(ex. 48, 49, 64)。 祈願文は動詞に -thòi をつけることで表現する。(72)は「ありがとうございます」を 意味する慣用的ないいまわしである。 注 49 脚注 29 でものべたように、=dè は文末では =dèi であらわれる。 – 107 – ウスイ語文法の概要 (72) h`ã naN -thòi. 良い 去る -OPT ありがとうございます(直訳: うまくいきますように) 4.2.6 複文 複文は、従属節と主節によってあらわされる。従属節は動詞に接続助詞が直接つく ことによってあらわされる。ウスイ語における代表的な接続助詞には(73)のようなも のがある。 (73) a. -ye∼-je: 継起をあらわす。もっとも頻繁にもちいられる接続助詞である(cf. 2, 4, 5, 7, 8, 10, 14, 18, 20, 21, 25, 26, 29, 30, 33, 34, 35; ex. 42, 58)。とくに hı̀N-ye の形式でもちいられて、前文の引用をあらわす(cf. 6, 7, 13, 21, 34)。 b. -doi: 同時をあらわす。-ye∼-je とのちがいはよくわからないけれども、実 例をみるかぎりでは、二回つづけてもちいられる点が特徴的である(cf. 5, 9, 11, 19, 33)。様態をあらわす =doi(32e)と本来的にはおなじものであるとお もわれる。 c. -khe: 条件をあらわす(cf. 14, 18, 21, 25, 28)。 従属節を否定するばあいは、-ye∼-je と -doi については、直前に否定辞 =yà をいれ ればよい。-khe については、文を否定の形式でまずのべて、それから hı̀N-khe という ように引用形式にするようである(cf. 28)。 4.2.7 関係節 4.2.7.1 名詞化による関係節 ウスイ語の関係節は、一般的には名詞化標識をもちいて表現される。形式的には、 表 8 にしめすような構造をとる。主要部が前置される例は確認されていない。関係節 が肯定文のときは関係節標識が必須である。 動詞句 =関係節標識 (=nı̀: GEN ) (=名詞修飾助詞) 主要部名詞 表 8 ウスイ語の関係節 関係節標識のあとの(=nı̀: GEN) や(=名詞修飾助詞)は任意の要素である。関係節標識と してあらわれる形式は、関係節内の動詞句があらわす時制によってことなる。非未来 をあらわすときには名詞化標識としても機能する =mo があらわれ(74a)、未来をあら わすときには未来述部標識としても機能する =nà があらわれる(74b)。 (74) a. 非未来: =mo(cf. 8, 27, 30); 名詞化標識としてももちいられる(cf. 10, 12, 35)。 – 108 – 藤原 敬介 b. 未来: =nà(cf. 23); 名詞化標識としてももちいられる。 関係節が否定文となるとき、関係節特有の標識はあらわれない。否定辞の =yà だ けがあらわれる。=yà の前後に =mo や =nà があらわれることはない。(75)に例をあ げる。 (75) k@tho oN =yà (=nı̀)tòi 氷 COP =NEG =GEN 水 凍っていない水 関係節の主語(76a)、目的語(76b)、斜格補語(76c)が主要部名詞となりうる。属格名 詞句が主要部となる例は確認されない。(76d)にしめすような、主要部名詞の痕跡が名 詞修飾節にないような連体修飾表現も可能である。 (76) a. kau Sà =mo b. brouP Sà brouP =mo ことば 言う =NMLZ.NF 人間 人間 ことばを言う人 人が言うことば c. àN tòN =mo d. a jau nouP kau 言う =NMLZ.NF ことば =mo b@h`ãi 1.SG 住む =NMLZ.NF 家 魚 炒める =NMLZ.NF 臭い わたしが住む家 魚を焼く臭い 4.2.7.2 相関関係節 相関関係文(correlative construction)とは、インド・アーリア語などにひろくみられる 構文のひとつで、従属節(相関関係節)と主節とで同一指示となる要素が、相関関係節の 標識と指示詞あるいは代名詞とでむすびつけられているような構文である。ウスイ語 においては、疑問語を相関関係節の標識としてもちいる形式(77a)と、バングラ語から の借用語である j`ẽ注 50 をもちいる形式(77b)とがある。 (77) a. ro =wo t@mà tòN -mı̀, abo k@h`ã. ここ =LOC COL:何 ある -NF それ 良い ここにあるもの、それは良い b. j`ẽ ro COL . REL ここ =ma, abo k@h`ã. =wo tòN =mo =LOC ある =NMLZ.NF =DEF それ 良い ここにあるもの、それは良い . =mo(NMLZ.NF)は必須要素であるけれども、=ma(DEF)は任意の要素。 注 50 j`ẽ は、バングラ語における相関関係文の従属節をあらわす標識である je からの借用と推 定される。ただし、なぜウスイ語で鼻母音であるかは不明である。 – 109 – ウスイ語文法の概要 j`ẽ による相関関係節は、主節も主要部名詞もともなわず、全体がひとつの名詞句と してもちいられることのほうが、むしろおおい(cf. 12, 35)。 4.2.8 使役 すでに助動詞(36b)としてしめしたように、使役をあらわすには「与える」を意味す る動詞 ròi∼rı̀を助動詞としてもちいる。被使役者は、明示するばあいには、目的格で 標示される。用例をみるかぎりでは強制使役と解釈しうるものばかりである(cf. 2)。 ただし、作例をするかぎりにおいては、強制使役と容認使役に差があるとはいえない ようである。(78)に例をしめす。 (78) àN abraha =no nouP =wo thùN -rı̀ 1.SG 3.SG.MSC =OBJ 家 -woi. =LOC 遊ぶ -CAUS -IND わたしは彼を家で遊ばせる .「家で無理矢理遊ばせる」という強制使役の意味にもなりうるし、「家で遊ぶ がままにさせる」という容認使役の意味にもなりうる。 被使役者も対象も有生物であるときには、いずれも目的格で標示される。どちらの 名詞句が被使役者となり、どちらの名詞句が対象となるかは、作例によるかぎりでは、 語順と定性に依存する。すなわち、いずれも定名詞句であれば、さきにあらわれるほ うが被使役者であり、あとにあらわれるほうが対象である(79a, b)。一方の定性が相対 的にひくいばあいには、定性がたかい名詞句が被使役者であると解釈される(79c)注 51 。 ただし、実際問題としては、文脈からあきらかである名詞句は明示されないので、誤 解が生じることはないし、このような厳密なつかいわけも必要ないものとおもわれる。 (79) a. bagrà =ha 主人 [bo= brouP =ha =DEF.MSC これ= 人間 =no]i [abraha =DEF.MSC =OBJ =no]j bW -rı̀ 3.SG.MSC =OBJ 殴る -CAUS -woi. -IND 主人は [この人に]i [彼を]j 殴らせる 注 51 三人称男性代名詞である abraha は、もともとは *a-brouP=ha「接頭辞-人間=DEF」という 形式に由来するのではないかと推定される。すなわち、定性をあらわす =ha が語形にふ くまれている。他方、bo=brouP のほうには定性をしめす =ha がない。だから、abraha と bo=brouP とを比較すると、abraha のほうが相対的に定性がたかいとかんがえられる。 – 110 – 藤原 敬介 b. bagrà =ha 主人 [abraha =no]i [bo= =DEF.MSC 3.SG.MSC =OBJ brouP =ha これ= 人間 =no]j bW -rı̀ =DEF.MSC =OBJ 殴る -CAUS -woi. -IND 主人は [彼に]i [この人を]j 殴らせる c. bagrà =ha [bo= brouP =no]i [abraha 主人 =DEF.MSC これ= 人間 =OBJ =no]j bW -rı̀ -woi. 3.SG.MSC =OBJ 殴る -CAUS -IND 主人は [この人を]i [彼に]j 殴らせる 4.2.9 受身 受身をあらわすには利害をあらわす助動詞 -jauP∼-yauP(36c)をもちいる。受身の 動作主は後置詞 =bài や関係名詞 =SiN によってあらわされうる。対応する他動詞 文(80a)とともに受身文(80b)をあげる。 (80) a. Soi àN =no waP -mı̀. 犬 1.SG =OBJ 噛む -NF 犬がわたしを噛んだ b. àN Soi =bài/=SiN waP -jauP -mı̀. 1.SG 犬 =COM/=ところ 噛む -BEN -NF わたしは犬 [に/のところで] 噛まれた ところで、助動詞 -jauP∼-yauP は、主語にとっての利害をあらわすことが普通であ る。(81)にあげるような例は、受身をあらわしているとはかんがえられない注 52 。 (81) a. krài thaN -nà krı̀ -yauP -mı̀. 落ちる 行く -FUT 恐れる -BEN -NF 落ちるのをおそれた(黒いマンゴー) b. ha berài -nà ncù -yauP -mı̀. 国 旅する -FUT したい -BEN -NF 国を旅したい(熊と虎) 注 52 助動詞 -jauP∼-yauP は、利害にも受身にももちいられるので、本来的には中動相(middle)を あらわしているのではないかとおもわれる。 – 111 – ウスイ語文法の概要 4.2.10 動詞連続 動詞(V1)と動詞(V2)が接続助詞や一般助詞を介さずに直接連続する構造を、動詞連 続とよぶ注 53 。V1 と V2 のくみあわせとしては、他動詞=他動詞、他動詞=自動詞、自 動詞=自動詞、自動詞=他動詞のくみあわせがかんがえられる。動詞連続の特徴として は、V1 と V2 が類像性(iconicity)をもち、継起的に生じるという点をあげることができ る。継起的に生じる事態を表現するには、V1-je/ye(SEQ)V2 で表現することも可能で ある。V1=V2 と V1-je/ye(SEQ)V2 にどのようなちがいがあるかはよくわからない。 用例をみるかぎりでは、V1 と V2 が同主語であるものばかりである。また、移動動 詞を中心として、助動詞的にももちいられる動詞(「行く」thaN、 「去る」naN、 「来る」phài、 「居る」tòN、「捨てる」khoi など)が V2 にあらわれることがおおい。だから、動詞が二つ 以上連続しているとき、それが動詞と動詞のくみあわせであるのか、助動詞化した動 詞と動詞のくみあわせであるのかを判断することは、実際にはむずかしい。そこで本 稿では、 「与える」による使役化のように助動詞化していることがあきらかであるもの をのぞいては注 54 、両者を区別せずに動詞連続としてあつかう。 附録における具体例の該当箇所は(82)にしめすとおりである。 (82) a. 他動詞=他動詞: cf. 21, 25(他動詞=他動詞=自動詞), 28, 29, 30 b. 他動詞=自動詞: cf. 20(他動詞=自動詞=自動詞), 31 c. 自動詞=自動詞: cf. 18(自動詞=自動詞=自動詞) d. 自動詞=他動詞: 該当例なし。 自動詞=他動詞の例としては、(83)∼(84)のようなものが確認されている。 (83) àN nnı̀ =SiN thaN naN ncù -woi. 1.SG 2.SG.GEN =LOC:人 行く 去る 欲する -IND わたしはあなたのところに行きたいです(クートライティ) 注 53 動詞と動詞のくみあわせによる複合動詞と動詞連続とは、形式的には区別がつかないよ うにみえる。しかし、動詞と動詞のあいだに接続助詞がはいらないならば複合動詞、はい りうるならば動詞連続、というように区別できるかもしれない。また、否定命令標識が前 接するならば複合動詞、あいだにはいりうるならば動詞連続とかんがえることができる かもしれない。ただし、本稿執筆の段階ではそこまで調査できていない。複合動詞は動 注 54 詞連続の一種とみなしておく。 たとえば ca(食べる)と rı̀(与える)による連続をかんがえる。 「食べてから与える」という意 味になるなら動詞連続と解釈できる。しかし「食べさせる」という意味になるなら -rı̀は 使役化の助動詞と解釈する。 – 112 – 藤原 敬介 (84) tòiSa SauPgà =wo berài 小川 上 nài -ga -noi. =LOC 出かける 見る -さらに -FUT 小川の上にさらに出かけてみよう(鷹) 用例が確認されている範囲では、最大四つの動詞がひとつの動詞連続にあらわれる。 (85) に例をあげる。 (85) àN =no t@mà bo khài khoi naN thaN -ph@noP. 1.SG =OBJ 何 3.SG する 捨てる 去る 行く -かもしれない ぼくに何を彼がしてくるかわからない(熊と虎) 5 おわりに 以上、本稿ではウスイ語文法の概要を記述した。今後は先行研究が比較的豊富にあ るトリプラ語との比較や、インド言語領域論との関連も視野にいれて、個々の現象に ついてさらに詳細に記述していく必要がある。 附録 1・「友人二人の話」 1. anı̀ mmùN =le raNgapoti tripura. 1.SG.GEN 名前 = TOP PN わたしの名前はランガポティ・トリプラ 2. àN k@ciN -k@mà c@là -nòi =ràu =nı̀ 1.SG 友 - PAR CL :男 -二 kaukrauma Sà =PL =GEN 話 -ye kh@nà -ròi 言う -SEQ 聞く -nà. -CAUS -FUT わたしは友人二人の話をいってきかせます 3. k@ciN -k@mà c@là -nòi tòN -mı̀. 友 -PAR CL :男 -二 居る -NF 友人が二人いました 4. c@rài =phaNS@nı̀N tòN -lài -ye, ca こども =から -lài -ye, k@tha -lài -ye tòN -mı̀. 居る -VPL -SEQ 食べる -VPL -SEQ 交流する -VPL -SEQ 居る -NF こどものころからともに暮らし、食べ、つきあっていました 5. tòN -doi tòN -doi praN -ye jalài oN -ye biSiP la 居る -SIM 居る -SIM 育つ -SEQ 若者 成る -SEQ 妻 -lài -ye, pà kruN -ha 取る -VPL -SEQ 共に CL:場所 -一 =wo tòN -lài -mı̀. =LOC 居る -VPL -NF 暮らして暮らして、おおきくなって、妻をめとり、ともにある場所に暮らして いました – 113 – ウスイ語文法の概要 6. Sà -ha =le, bràN k@ciN +k@rauP khà -lài -nà hı̀N CL :日 -一 =TOP 3.PL 友 -ye, + かたい 結ぶ -VPL -FUT QUOT. 言う -SEQ ある日、彼らはかたく友のちぎりを結ぼうと言って SauP jauPSòi +thoi la 7. SauP =nı̀ 自分 =GEN 自分 指 -ye golouP =wo tòi =bài pà poN -ye + 血 取る -SEQ グラス =LOC 水 =COM 共に 加える -SEQ nùN -lài -nà hı̀N -ye, Sà -lài -mı̀. 飲む -VPL -FUT QUOT. 言う -SEQ 言う -VPL -NF お互いに指の血をとって、グラスに水とまぜて飲もうとお互いに言いました 8. Sà -lài -mo =doi, jauPSòi +thoi la kau 言う -VPL -NMLZ.NF ことば =ESS 指 =wo wauP +k@to =LOC 豚 tã -ye ca -ye, l@gò c@là -bà =m@S@kàN + 血 取る -SEQ 社会 CL:男 -五 =前 -lài -ye, S@mài tàN -lài -mı̀. + 大きい 切る -SEQ 食べる -VPL -SEQ 誓い 作る -VPL -NF 言ったことばどおりに、指の血をとって、村社会の男五人の前で、大きな豚を 切って、食べて、誓いあいました 9. tòN -doi tòN -doi Sà -ha phikùN =wo d`ãplà thai -yauP -ha =le k@ciN kài 居る -SIM 居る -SIM CL:日 -一 =TOP 友 CL :一般 -一 背中 =LOC 腫れ物 実る -BEN -mı̀. -NF 暮らして暮らして、ある日、友一人は背中に腫れ物ができました 10. d`ãplà thai -mo nuP -ye, tainı̀ kài -ha k@ciN, k@ciN =ha 腫れ物 実る -NMLZ.NF 見る -SEQ さらに CL:一般 -一 友 -mo nuP -ye, m@kha d@gẀ ma -mo -NMLZ.NF 見る -SEQ 心 -tòN 不幸 友 d@gẀ ma =DEF.MSC 不幸 得る nuP -ye, SauPthaP -ye, SauPthaP 得る -NMLZ.NF 見る -SEQ 世話する -SEQ 世話する -mı̀. -CONT -NF 腫れ物ができたのを見て、さらにもう一人の友は、友の不幸を見て、心が痛む のをみて、看病して、看病していました 11. SauPthaP -doi SauPthaP -doi k@ciN =ha 世話する -SIM 世話する -SIM 友 Sà -mbà. =DEF.MSC 言 -NF.EMPH 看病して看病して、その友は言ったのです 12. j`ẽ =ma =le, k@h`ã =Sei, n@tài khài -mo REL 神 k@ciN. する -NMLZ.NF =DEF =TOP 良い =EMPH 友 神さまがなさることなら、良いことですよ、友よ 13. adoi hı̀N -ye Sà -mı̀. これ.ESS QUOT. 言う -SEQ 言う -NF このように言いました – 114 – 藤原 敬介 14. abo =doi hı̀N -yauP -khe, abo d`ãplà thai =nı̀ =ya k@ciN =ha それ =ESS 言う -BEN -COND それ 腫れ物 実る =GEN =DEF.MSC 友 gı̀N =DEF.MSC 怒り waP -ye, 噛む -SEQ このように言われると、腫れ物ができた友は怒り、 15. tinı̀ Sà =cı̀NcaP nuN =bài àN -h`ã. kauP -lài -thaN 2.SG =COM 1.SG 別れる -VPL -不可逆 -PERF 今日 日 =から 今日という日をかぎりに、君とわたしは絶交だ 16. tainı̀ k@ciN -k@mà khà -lài -mai さらに 友 -Si =yà. 結ぶ -VPL -できる -もう =NEG -PAR もう友のちぎりをむすぶことはできない 17. adoi hı̀N -mı̀. これ.ESS 言う -NF このようにいいました 18. abo k@Sà =ma h`ã thaN pai -ha =le, abo d`ãplà thai =nı̀ -khe, Sà それ 病気 =DEF 良い 行く 終わる -COND CL:日 -一 =TOP それ 腫れ物 実る =GEN =ya blòN =wo thaN -ye, tau kàu -nà =DEF.MSC 森 thaN -mı̀. =LOC 行く -SEQ 鳥 狩る -NMLZ.FUT 行く -NF その病気がよくなると、ある日、その腫れ物ができた人は、森に行って、鳥を 狩りにいきました 19. thaN -doi thaN -doi brouP +rõ 行く -SIM 行く -SIM 人 -nai =ràu phài -mı̀. + 掴む -NMLZ:人 =PL 来る -NF 行って行って、人さらいたちがきました 20. brouP +rõ 人 -nai =ràu abo brouP =ha + 掴む -NMLZ:人 =PL それ 人 =no rõ -ye, toi naN thaN =DEF.MSC =OBJ 掴む -SEQ 運ぶ 去る 行く -mı̀. -NF 人さらいたちはこの人をさらって、つれていってしまいました 21. rõ t@naN -ye nouP =wo SouP -khe, n@tài =no dali 掴む 運び去る -SEQ 家 -ye, tòi m@khù =LOC 着く -COND 神 -nànı̀ hı̀N ròi -nà hı̀N =OBJ 生け贄 与える -FUT QUOT. 言う -ye, khWtài S@kouP =phuP =wo nuP -mbà. -SEQ 水 浴びさせる -FUT QUOT. 言う -SEQ 服 脱がす =時 =LOC 見る -NF.EMPH とらえてつれていって、家につくと、神さまに生け贄にささげるといって、水 浴びさせようといって、服を脱がすとき、見たのです 22. abo brouP =ha それ 人 phikùN =wo k@Sàmma +k@to =DEF.MSC 背中 =LOC 傷跡 – 115 – tòN -mı̀. + 大きい ある -NF ウスイ語文法の概要 その人は背中に大きな傷跡がありました 23. n@tài =no dali 神 ròi -nà =nı̀ ròito tòN -mbà. =OBJ 生け贄 与える -NMLZ.FUT =GEN しきたり ある -NF.EMPH 神さまに生け贄をささげるにはしきたりがあったのです 24. n@SauP =wo k@Sàmma =kroi =doi oN -nà 体 =LOC 傷跡 klai -nài. =ない =ESS 成る -NMLZ.FUT すべき -FUT 体に傷跡がないようにしないといけません 25. abo k@Sàmma +k@to それ 傷跡 =ma nuP -khe, abo rõ toi naN =nı̀ =ràu phiyouP + 大きい =DEF 見る -COND それ 掴む 運ぶ 去る =GEN =PL 解放する -ye hoP -khoi -mı̀. -SEQ 送る -徹底 -NF その大きな傷跡をみて、そのさらってつれてきた人たちは、解放してときはな しました 26. phiyouP -ye hoP =phuP =wo, abo d`ãplà thai =nı̀ 解放する -SEQ 送る =時 =ya k@ciN =ha =LOC それ 腫れ物 実る =GEN =DEF.MSC 友 =DEF.MSC hı̀N -mbà. 言う -NF.EMPH 解放してときはなすとき、この腫れ物ができた友人はいったのです 27. akè =phuP =wo k@ciN =ha 以前 =時 =LOC 友 Sà -mo kau =ma acàN =Sei. =DEF.MSC 言う -NMLZ.NF ことば =DEF 正しい =EMPH 以前友がいったことばは正しい 28. anı̀ phikùN =wo d`ãplà thai =yà =Sè =Sè 1.SG.GEN =EMPH 背中 -khe, àN =no =LOC 腫れ物 実る =NEG =EMPH QUOT. 言う -COND 1.SG =OBJ =le acàN n@tài =SiN =TOP 本当 神 hı̀N dali ròi khoi -yauP -h`ã, àN. =LOC:人 生け贄 与える 捨てる -BEN -PERF 1.SG わたしの背中に腫れ物がなかったら、わたしを本当に神さまへの生け贄にささ げていた、わたしは 29. àN, anı̀ k@ciN =ha 1.SG 1.SG.GEN 友 =SiN thaN -ye, Sà S@plàN -nànı̀. =DEF.MSC =LOC:人 行く -SEQ 言う 告げる -FUT わたしは、わたしの友のところにいって、打ち明けよう 30. Sà -mo kau =doi thaN -ye, Sà S@plàN -mbà. 言う -NMLZ.NF ことば =ESS 行く -SEQ 言う 告げる -NF.EMPH 言ったことばどおりに行って、打ち明けたのです 31. k@ciN, àN 友 derà thaN -ya -h`ã. 1.SG 間違う 行く -POL -PERF 友よ、わたしがまちがっていました – 116 – 藤原 敬介 32. àN =no khalau -ya -dı̀. 1.SG =OBJ 許す -POL -IMP わたしをゆるしてください 33. cùN akè =phuP =wo tòN -lài -doi ca 1.PL 以前 =時 -lài -doi khài -ye tòN -lài -nà. =LOC 居る -VPL -SIM 食べる -VPL -SIM する -SEQ 居る -VPL -FUT わたしたちは、以前のように、ともにくらし、ともに食べ、ともにくらしてい きましょう 34. abo =doi hı̀N -ye, bràN c@là -nòi ociPha akè =phuP =wo tòN -doi, akè =phuP それ =ESS 言う -SEQ 3.PL CL:男 -二 再度 =wo ca 以前 =時 =LOC 居る -SIM 以前 =時 -lài -ye, tòN -ye, ociPha h`ã -ye cà -doi khài -ye, k@tha =LOC 食べる -SIM する -SEQ 交流する -VPL -SEQ 居る -SEQ 再度 良い -SEQ やりきる -ye tòN -mı̀. -SEQ 居る -NF このように言って、彼ら二人はふたたび以前のようにくらし、以前のように食 べて、つきあって、くらして、ふたたびうまくくらしていきました 35. bo= kau =ma, bo= kaukrauma +poiNya =le, j`ẽ これ= ことば =DEF これ= 話 ` =nı̀ mWnWSW̃ 人間 + 教訓 n@tài khài -mo =TOP REL 神 =le する -NMLZ.NF =TOP khài -ye k@h`ã =Sei. =GEN する -SEQ 良い =EMPH このことばは、この話の教訓は、神さまがすることは、人にとってよいことだ ということです 36. bo =SuP =Sei, anı̀ kaukrauma. これ =まで =EMPH 1.SG.GEN 話 ここまでです、わたしの話は – 117 – ウスイ語文法の概要 附録 2・ウスイ語がはなされる地域 図: トリプラ語(Kokborok)とウスイ語・リァン語の位置関係 1: Agartala, 2: Khagrachari, 3: Rangamati, 4: Bandarban, 5: Roanchari 記号・略号一覧 + . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 複合語境界 3 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 三人称 - . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 接辞境界 BEN = . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 接語境界 CAUS 1 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 一人称 CL 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 二人称 COL – 118 – . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 利害 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 使役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 類別詞 . . . . . . . . . . . . . . . . . 相関関係節標識 藤原 敬介 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 共格 OBJ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 目的格 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 条件 OPT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 祈願 COP . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . コピュラ PAR . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 対語 DEF . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 定辞 PERF . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 完了 POL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 丁寧 COM COND EMPH . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 強調 ESS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 様態格 PQ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 決定疑問標識 FUT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 未来 PL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 複数 GEN . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 属格 PN . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 人名 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 引用 HS . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 伝聞 IND . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 陳述 REL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 関係節標識 NEG . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 否定 SEQ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 継起 IMP . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 命令 SIM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 同時 LOC . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 場所格 SG . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 単数 MSC . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 男性 TOP . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 話題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 非未来 VPL . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 複数動作 NF NMLZ QUOT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 名詞化標識 参考文献 【日本語文献】 服部四郎(はっとり・しろう). 1957. 『基礎語彙調査表』東京大学言語学研究室. 西田龍雄(にしだ・たつお). 1989. 「ティプラ語」 、亀井孝・河野六郎・千野栄一編『言 語学大辞典 第 2 巻【世界言語編(中)】』三省堂、1117–1122. 藤原敬介(ふじわら・けいすけ). 2002. 「言語民主主義から言語帝国主義へ—少数言語か らみたバングラデシュの言語問題」 、 『社会言語学』 、第 II 号、99–117. 【バングラ語文献】 aAcAz+,L Yn+tA+i(ACHARYA, Nitai). 20005 . s+h+j k+kb+r+k YF+ĞA / aAg+rt+lA : yAK+rA+i pAbYl+Ek+F+n. aAcAz+,L Yn+m+LEl+Å(˚ ACHARYA, Nirmalendu). 2000. BASA YF+ĞA k+kb+r+k / aAg+rt+lA : c+ă+lA p›+kAF+nI. cAkmA, s˚g+t(+ C HAKMA, Sugata). 1988. pAb+LtU+ c+ď+g›AEm+r up+jAtIy+ BASA / rAVAmAYw+: up+jAtIy+ sAMø˘Yt+k inYò+Yw+uw. cAkmA, s˚g+t(+ C HAKMA, Sugata). 2000. pAb+LtU+ c+ď+g›AEm+r BASA o up+BASAr p›AT+Ym+k EF›+NIk+r+N / XAkA : aAD˚Yn+k BASA inYü+Yw+uw, XAkA Yb+ï+Yb+dUAl+y. c+Ě+b+tLI, FAYÀ+m+y(Chakraborty, Santimoy). 2000. Yn+Ej+ Yn+Ej+ k+k-b+r+k YF+K˚n / – 119 – ウスイ語文法の概要 aAg+rt+lA : nA+iYs+MYd+ pAbYl+Ek+F+n. Yš+p˚rA, s˚Er+Å›+ lAl(T RIPURA, Surendra Lal). 1990. Yš+p˚rA BASA bA k+k˛EbA+r+k BASAr aYB+DAn o bUAk+r+N / rAŤAmAYw+ : up+jAtIy+ sAMø˘Yt+k inYò+Yw+uw. Yš+p˚rA, b+Er+n & s˚Er+Å›+ lAl Yš+p˚r( A T RIPURA, Baren & Surendra Lal T RIPURA). 1995. Yš+p˚rA BASA YF+ĞAr p›+T+m pAW / rAŤAmAYw+ : up+jAtIy+ sAMø˘Yt+k inYò+Yw+uw. Ed+bnAT, F›I h+Yr+h+r(D EBNATH, Shri Harihar). 20012 . k+kb+r+k wIcAr / aAg+rt+lA. Ed+bb+m+LN, F+F+D+r Yb+Ě+m Yk+EFA+r(D EB BARMAN, S. B. K). 19992 . k+k˛-T˚m˛ / aAg+rt+lA: w›A+iEb+l Yr+sAcL inYü+Yw++uw. Ed+bb+mAL, FUAmlAl(D EBBARMA, Sham Lal). 1983. sADAr+N s+mIĞAr aAElA+Ek+ uc++i / aAg+rt+lA : g+Eb+S+NAYD+kAr, up+jAYt+ o t+p+YF+lI jAYt+ k+lUAN d+Ì+r. D+r, p›+BAs+c+Å(›+ D HAR, Prabhas Candra). 20032 . k+kb+r+k sIrIV+mA / aAg+rt+lA : up+jAYt+ s+Mø˘Yt+ g+Eb+S+NA Ek+Å›+. bAŮ˚, aAYm+n˚l islAm & e Ek+ em jAhAŤIr(BACCU, Aminul Islam & A. K. M. JAHANGIR). 2008. bAÅ+r+b+n wU˙Yr+ó+ gA+ix-2008 / bAÅ+rbAn. b˚lb˚l, aAjAd(BULBUL, Azad). 2000. pAb+LtU+ c+ď+g›AEm+r Yš+p˚rA BASA p+Yr+Yc+Yt+ / XAkA: aAgAmI p›+kAF+nI. m˚EF+Ld, Ys+kdAr m+EnA+yAr(M URSHED, Sikder Monoare). 2006. bAMlAEd+EF+r d+FYw+ aAYd+bAsI-BASA: uź+b o BASA¯b+YF+òU+/ Yp+eic. Yx+ aYB+s+Å+B+L, XAkA Yb+ï+Yb+dUAl+y. Yr+yAM, gItU+k˚mAr(R IYANG, Gitta Kumar). 2007. kA+u b›^ aYB+DAn / aAg+rt+lA : up+jAYt+ g+Eb+S+NA o s+Mø˘Yt+ Ek+Å›+. F›IcA EdO+l+t aAhA +d em˛ em˛ dAhAr & F›IcA aAhA +d uß+r(S RI C HA D HOULOT A HAMMAD M M Dahar & S RI C HA M AHAMMAD U MMOR). 1898. k+k˛b+r+mA / k˚Ym+éA. p˚N+: m˚d›+n: aAg+rt+lA 2000 : pˇN+L c+Å›+ Ed+bb+mAL hAc˚k+Yn+ K+rAV pAbYl+FAsL.注 55 【ヒンディー語文献】 k̀mAr!, b|j! Eb!hArI(K UMAR, Braj Bihārı̄). 1976. Eh!˚dI E–!p̀rI kof! / koEh!mA : nAgAl"X! BASA p!Er!S!d!. 【その他の言語の文献】 ACHARYA, Nitai. 2001. An easy Kokborok primer. Agartala: Kokborok Sahitya Samsad. A NDERSON, J. D. 1885. A short list of words of the Hill Tippera language, with their 注 55 著者名のラテン文字表記にはまちがいがあるとおもわれる。しかし、本稿では、2000 年 に再版されたものに印刷されている表記をそのまま利用している。原版の出版年はトリ プラ暦で 1307 年ポウシュ月となっている。西暦ではおそらく 1898 年にあたる。 – 120 – 藤原 敬介 English equivalents. Also of words of the language spoken by Lushais of the Sylhet Frontier. Shillong. B ENEDICT, Paul K. 1972. Sino-Tibetan: A Conspectus. Cambridge: Cambridge University Press. B ERNOT, Lucien. 1977. Éléments de contes tipera du Bangladesh. L’ethnographie, Numéro spécial: Voyages chamaniques, 223–238. (B ERNOT, Lucien. 2000. Voyage dans les sciences humaines: qui sont les autres?, 425–440. Paris: Presses de l’Université de Paris-Sorbonne. 所収) B RADLEY, David. 1997. Tibeto-Burman languages and classification. In B RADLEY, David (ed.), Tibeto-Burman languages of the Himalayas, Papers in Southeast Asian Linguistics No. 14, 1–72. Canberra : Department of Linguistics, Research School of Pacific Studies, the Australian National University. B URLING, Robbins. 2003. The Tibeto-Burman languages of Northeastern India. In T HURGOOD, Graham & Randy J. L A P OLLA(eds.), The Sino-Tibetan Languages, 169–191. London: Routledge. C AMPBELL, G. 1874. Specimens of languages of India, including those of the aboriginal tribes of Bengal, the central provinces, and the Eastern Frontier. Repr. New Delhi 1986: Asian Educational Services. C HAKRABORTY, Santosh Kumar. 1981. A Study of Tipra Language. Agartala: Tribal Research Institute. 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STEDT 注 56 http://halshs.archives-ouvertes.fr/halshs-00008042/fr/か ら PDF ファイルとしてダウンロードして閲覧可能(最終確認 2008 年 5 月 12 日)。 – 122 – 藤原 敬介 Monograph Series No. 2. Berkeley: Sino-Tibetan Etymological Dictionary and Thesaurus Project, Center for South and Southeast Asia Studies, University of California. PAI(Karapurkar), Pushpa. 1976. Kokborok grammar. Mysore: Central Institute of Indian Languages. P HAYRE, Arthur Purves. 1841. Account of Arakan. Journal of the Asiatic Society of Bengal, vol. X, part II, 679–712. R ADHA M OHAN D EV VARMAN T HAKUR. 1900. Kak-barak-mā, a Grammar of the Traipur Language(in Bengali). Calcutta. S ANDYS, E. F. 1915. History of Tripura. Repr. Agartala 1997: Tripura State Tribal Cultural Research Institute & Museum. S EN, Sipra. 1993. Tribes of Tripura: Description, Ethnology and Bibliography. New Delhi: Gyan Publishing House. S HAFER, Robert. 1966. Introduction to Sino-Tibetan. Part 1. Wiesbaden: Otto Harrassowitz. S INGH, R. G. & Arun D EBBARMA. 1996. Kok-Borok Primer (For non-Kok-borok learners). Agartala: Tripura State Tribal Cultural Research Institute & Museum. S TAROSTA, Stanley. 1985. Relator nouns as a source of case inflection. In ACSON, Veneeta Z. and Richard L. L EED(eds.), For Gordon H. Fairbanks, 111–133. Honolulu: University of Hawaii Press. T RIPURA, Mathura. 2002. Kokborokni kokthaih khutruk(Kokborok Word Bank, KokborokEnglish-Bangla).(私家版) WALSH, D. J. n.d. English-Bengali-Tipperah/Ushai dictionary. Malumghat.注 57 (附記) 本稿は科学研究費補助金「インド圏とシナ圏からみたチャック語の記述と比較言語学的 研究」による研究成果の一部である。 注 57 この文献は正式な題名が不明である。内容に則して本稿の筆者がかりに題名をつけた。 – 123 – ウスイ語文法の概要 us˚+i BASAr s+MYĞ+Ì+ bUAk+r+N ffYj+oyArA Ek++is˚Ek+ sAr+s+MEĞ+p bAMlAEd+EF+r pAb+LtU+ c+ď+g›AEm+ b+s+bAs r+t+ 11-Yw+ aAYd+bAsIEd+r m+EDU+ Yš+p˚rA nAEm+ ekYw+ jAYt+ aAEC+/ Yš+p˚r+Ed+r m+EDU+ us˚+i ekYw+ EgA+Yó+/ EgA+Yó+Yw+ mˇl+t+ Ys+EnA+-Yw+Eb+wAn BASA p+Yr+bAEr+r EBA+w-b+mLI FAKAr EbA+ExA+ d+lB˚Ć+/ us˚+iEd+r j+n+s+MKUA h+EŸ+ p›Ay 10000 j+n/ e+i p›+b+EÆ+ us˚+i BASAr ¯b+YF+óU+ up+r s+MYĞ+Ì+ aAkAEr+ bUAKUA Ed+oyA h+Ey+EC+/ • aĞ+Er+r kAWAEmA+: C0 @C1 C2 V1 V2 C3 /T • ¡+Yn+mˇl – bU+ć+n¡+Yn+: /p, ph, b, t, th, d, c, j, k, kh, g, P**, s, h, m, n, N**, l*, r*, w/ * Yd+Ey+ Yc+Yffl+t+ ¡+Yn+ C2 Yh+sAEb+ TAkEt+ pAEr+/ ** Yd+Ey+ Yc+Yffl+t+ ¡+Yn+ TAkA • • • • zAy ffiD˚ C3 Yh+sAEb+/ – –+r¡+Yn+ : /a, e, i, o, u, W, @/ – nAYs+k –+r¡+Yn+: /@/ CARA s+b –+r¡+Yn+ aAn˚nAYs+k k+rA h+y/ – –+r(tone): m+DU+m –+r(mid tone)eb+M Yn+Ù+ –+r(low tone)l+Ğ+ k+rA zAy/ ` ’ Yc+ffl+ bU+b+hAr k+rA h+Ey+ TAEk+/ Yn+Ù+Yw+r j+nU+ Yb+EF+S k+Er+ ‘ p›+DAn p+d: Yb+EF+SU+, YĚ+yA, YĚ+yA-Yb+EF+S+N/ Yb+EF+S+N EtA+ tAr aT+L an˚zAyI Yb+EF+SU+ bA YĚ+yAr m+EDU+ aÀ+B˚LĆ+/ EmO+Yl+k p+dĚ+m: SOV EF›+NIk p+ť˚EŸ+r bU+b+hAr/ nAnA D+r+En+r F+Ó+Yÿ+ř+/ (受領日 2008年6月26日) (受理日 2008年10月10日) – 124 –