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海外経済フラッシュ No.2011-11

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海外経済フラッシュ No.2011-11
No.2011-11
海外経済フラッシュ
2011 年 10 月 17 日
~タイ:大規模洪水発生、第 4 四半期の景気は急減速へ~
経済調査室
<ポイント>
— タイでは 7 月以降の豪雨で 50 年ぶりともいわれる洪水被害が広がっている。な
かでも甚大な被害を出しているのは、バンコクからほど近いアユタヤ県で、大規
模な冠水が観測されている。
— 同県には、タイに進出している日系企業の約 25%が集中。主要な工業団地は次々
に浸水、日系企業の多くが事実上の操業停止に追い込まれており、各企業は国内
外での代替生産の検討、代替部品の調達などの対応に追われている。
— 政府や中央銀行などの試算によると、被害規模は名目 GDP 比 0.6~1.5%。景気
への下押し圧力は第 4 四半期を中心にかかるとみられ、年末にかけ成長ペースは
減速するとみられよう。被害はさらに拡大する可能性があり、景気の先行きにつ
いては慎重にみておく必要がある。
<洪水被害の概要>
○
7 月以来続く豪雨によりタイ北部・中部などを中心に 70 県中、60 県で河川
の氾濫、土砂災害、冠水などなんらかの被害が観測された(第 1 図)。さら
に 31 県で洪水が発生しており、被災者は約 820 万人(第 2 図)、死者・行
方不明者は 14 日時点で 291 名に達した。タイではほぼ毎年洪水被害が発生
しているが、今回の被害は約 50 年ぶりの大規模なもの。
○
特に被害が大きいのはバンコクから車で 1 時間程度のアユタヤ県。同県で
は河川氾濫などで甚大な被害が出ており、水位は現在も上昇している。気
象情報によると当面は高潮の影響で水位の上昇が続くと予想されている。
○
なお、首都バンコクは周囲に防水提がはりめぐらされていることもあり、
これまでのところ大規模な洪水被害はみられないが、川沿いなど一部で浸
水が報告されており、政府は厳重な警戒を呼びかけている。
○
一連の被害を受け、政府は 11 日、①緊急基金の設立、②各省庁予算の 10%
を洪水対策費とすること、③特別委員会の設置を決定した。
1
2011 年 10 月 17 日
第 1 図:洪水被害の状況
(資料)ジェトロバンコク HP より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室抜粋
第 2 図:タイ国内の被害分布状況
9,000,000
(人)
(県)
8,000,000
70
60
7,000,000
被害県数
6,000,000
被災者数(右目盛)
50
5,000,000
40
4,000,000
30
3,000,000
20
2,000,000
10
1,000,000
0
0
8/4
8/6
8/15
8/15
8/22
8/26
( 資 料 ) タ イ 災 害 対 策 局 よ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 経 済 調 査 室 作 成
2
9/28
10/10
2011 年 10 月 17 日
<日系企業の対応>
○
タイへ進出している日系企業数は約 1300 社。今回、浸水被害を受けた日系
企業は約 300 社に上っており、進出企業の約 25%が被災した格好。主要産
業として、自動車、電子部品、食品などがある。
○
アユタヤ県で日系企業が多く入居する主要工業団地はサハラタナナコン工
業団地、ロジャナ工業団地、ハイテック工業団地、バンパイン工業団地、
ファクトリーランド工業団地などがあるが、このうち、サハラタナナコン
工業団地が 4 日に浸水した後、15 日のファクトリーランド工業団地まで、
同県内にある主要工業団地が次々に冠水した(第 1 表)。
○
上記以外の浸水を免れている工業団地で操業する日系企業も、警戒を強め
ている。これらのなかには、一部で既に閉鎖を決定した企業があるほか、
工業団地からの要請による減産を行うなど、多くの企業が被害を受けてい
る。
○
今後について、仮に水が引いても、即座に操業開始となるケースは少ない
見込み。工場が冠水した場合最短 2~3 週間で操業再開が可能なケースもあ
るが、大規模な設備交換が必要な場合、2~4 カ月に亘り操業出来ない可能
性もあるとみられる。
○
企業は当面、在庫品で凌ぎつつ、代替品の調達が急務となる。さらに国内
外での代替生産の検討を急ぐ企業も多い。一時的な代替生産地として検討
されているのは、フィリピンは中国、あるいは日本国内など様々である。
第 1 表:日系企業の操業状況
団地名
サハラタナナコン工業団地
ロジャナ工業団地
浸水状況
10月4日から浸水
8日から浸水
ハイテック工業団地
12日から浸水
バンパイン工業団地
ファクトリーランド工業団地
14日から浸水
15日から浸水
入居している日系企業の例
食品メーカー
自動車メーカー
カメラメーカー
家電メーカー
素材メーカー
鉄鋼メーカー
眼鏡レンズメーカー
HDDメーカー
中小メーカー
現状
冠水、操業不能
工場内浸水、稼動停止中
操業停止中
冠水、機械水没
工場停止、再稼動目処なし
実害なきも行政指導により操業停止
主力工場閉鎖
冠水、代替生産準備中
確認中
(資料)各種報道等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
<マクロ経済への影響>
○
近年、自然災害がタイ経済に影響を与えた事例には東日本大震災がある。
同震災がタイ経済へ与えたインパクトを試算すると、主力の自動車、エレ
クトロニクス産業での操業停止、減産などを通じ、通年の実質 GDP 成長率
を 0.3%ポイント程度押し下げたと考えられる(注)(第 3 図)。
(注)東日本大震災によるサプライチェーンの混乱で、タイでは自動車、エレクトロニク
スなど主力産業(名目 GDP に占める規模、約 9%)が 5 割程度の減産を約 1 カ月程度
続けることを余儀なくされた。
3
2011 年 10 月 17 日
○
今回の洪水は国内の広範囲で被害が発生したため、サプライチェーンの混
乱に伴う生産の停滞だけでなく、インフラへのダメージ、家屋の倒壊、消
費者マインドの悪化による消費の低迷(注)、さらには海外旅行客の減少など、
多岐にわたる経済への悪影響が予想される。
○
タイ国内の政府、中央銀行、研究機関は、今回の被害額が名目 GDP 比 0.6%
~1.5%規模とみている。そのインパクトは東日本大震災より格段に大きい。
景気の下押し圧力は第 4 四半期に集中するとみられることから、年末にか
け、経済は一時的に大幅減速すると予想されよう。現在、政府は 2011 年の
成長率を 4.0%程度とみているが、第 4 四半期に急減速した場合、通年の成
長率は 2%程度まで鈍化する可能性がある。さらに水位は現在も上昇してい
ることから、被害規模はさらに拡大する可能性がある。景気の先行きにつ
いては慎重にみておく必要があろう。
(注)タイ商工会議所大学経済研究所によると、洪水被害が広がり始めた 9 月時点で、消
費者景気信頼感指数は 81.8 ポイントと、前月(83.4 ポイント)から悪化していた。
10 月以降の大規模な冠水を受け、消費者マインドはさらに低迷している可能性があ
る。
第 3 図:実質 GDP 成長率
20
(前年比、%)
15
10
5
0
▲5
個人消費
固定資本形成
純輸出
実質GDP
▲ 10
▲ 15
▲ 20
08
09
10
政府支出
在庫投資
誤差
11(年)
(資料)NESDBより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
<所見>
○
タイは近年、ASEAN の製造拠点として目覚しい成長を遂げてきたが、今回
の件は、自然災害への思わぬ脆弱性を露呈した形となった。被災地の本格
的な排水は 11 月以降になるとみられ、日系企業は当面、生産停止、減産を
余儀なくされる。日系企業としては、東日本大震災の影響で、日本国内の
生産から海外生産へシフトする動きを強め、ようやく軌道に乗り始めてい
た矢先の災害だけに、打撃は大きい。
○
日系企業は東日本大震災後、サプライチェーンを強化していたこともあり、
比較的短期間で収束するとの見方もあるが、自動車、電子機器類などの成
4
2011 年 10 月 17 日
案拠点であり、部品産業も集結する工業団地の水没という状況下、ASEAN
周辺国の生産を下押しする可能性もあろう。
○
また、一連の災害は、発足間もないインラック新政権にとって、厳しい試
金石となっている。政府は災害の防衛に全力を尽くす姿勢をみせているが、
政府内では情報が錯綜するなど足並みに乱れも見られる。マクロ経済への
悪影響が短期間で収束できなかった場合、国民の政権支持率も低下しかね
ない。事態の収束に向かうまで、インラック首相の采配にリーダーとして
の資質が問われることとなろう。
(H23.10.17 福永
雪子
[email protected])
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