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9 This is war "Over kill"

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9 This is war "Over kill"
Ufabulum、深層量子領域。
電脳中枢根幹演算部、専用支配地。
【お前は何も感じないのか。】
記録の再現、Ufabulumの創り出したイメージにある残像が語りかける。
声はハッキリと聞こえている。
何時しか、老人を象った幻のような不鮮明ではなく、
解像度を上げたより存在感を増した重みのある声で言った。
その男の声は若々しいもので、
声色にどこか青臭さを残しながらも疑問を素直にぶつける真っ直ぐな愚直さを宿し
ている。
その声を聞き流すテレサは淡々と作業を進めていた。
彼女はラグネイドとアルタイルを用い、
Ufabulumに存在する電脳空間の占領地を拡大していた。
外周と中心、その内と外の両側から挟撃し多くを掌握している。
にもかかわらず、彼女の行いに関してその亡霊直接止める訳ではなく、
警告するように言葉を投げるだけ。
彼女がその問いに答えないのは知っているだろう。
【見るがいい。】
青年の声、老人と同じく管理社会に歯向かったレジスタンスの一人を元に産み出さ
れたそれが、
彼女に一つの映像を見せた。
その映像チャンネルに映されるのは爆発四散したアグードの残骸と、
脳を砕かれたラグネイド、そして上半身のみとなったノーフェイスが散らばった部
屋の映像だ。
【盟友たる貴様に尽くした者の成れの果てを。
彼らの生き様を見てまだ何も無いと言うのか。】
その声は荒々しい。
幼子を叱咤するように強い口調で彼女に言い放つ。
彼女は溶け合う二つの電脳をただ見据えているだけだ。
UfabulumとCUが混ざり合う。
まるで花弁に花粉が吸い寄せられるようにして互いを引き合う。
着実に事は進んでいる、既に花粉の5割をUfabulumが吸収した。
同時にCUが寄生する。
取り込み取り込まれる、その境はない。
だが今までのように平穏は世界に訪れない。
果たされれば彼女の想い通りに変革が生じる事は確かなのだ。
【貴様にはあらゆる機会に恵まれていた筈だ。
なのにどうして惰性に居直り自ら思考する事を放棄している。
それが貴様に刻まれた烙印だとしても、その宿命に抗う事が出来た筈だ。
違うか!!テレサ・レッドグレイヴ、CUよ!!】
男の声は彼女に無視される。
それが彼女に最適な答え(想い)を意味したとしても。
彼女はそれに応じない。
彼女はただ二つの世界を眺めている。
【何故貴様はそれだけの力がありながら、
自ら望もうとしない!!】
守護者が問う。
彼女の失った 心 があると信じて。
皮肉なものだ。
想いを語る影風情が嗤わせる。
そう言う彼こそ本当の意味で自分の意志など有り得ない。
ただ与えられた命令に対する審議、そこに存在するリスクが大きいから。
それを意識させるように呼びかけている。
能動的に見えて受動的。
Ufabulumは道具に過ぎない。
予め任務を与えられたCUには実行者の再確認を求めている程度のものだ。
しかし彼女の支配は予定時刻を過ぎたとしても全てに及ばない。
まだ守護者が語りかけるのがその証拠。
UfabulumはCUを理解していない。
それほどにUfabulumの審議が複雑な過程を必要とするのか、
それともUfabulumeをもってしてもCUが理解しがたい異端者なのか。
だが共通概念は統合される。
二つの世界は根本を れば人類守護の切り札の元に創造された。
それが異なる進化を遂げただけ、
完全なマッチングは無いにせよお互いに理解出来る部分があるからこそ結びつく。
絡み合う二つの蔓。
彼女と彼らは結ばれ続けている。
彼女はある詩を呼んだ。
【 我、地に平和を与えんが為に来たと思うなかれ、我汝らに告ぐ。 】
【…!】
【 然らず、寧ろ争いなり。 】
福音書の一節、救済者の言葉。
それは交渉不能を示す比喩だった。
存在する以上解り合えても争わなければならない。
それがなんであれ戦うしか無い。
これは戦争だと。
彼女はそう言ったのだ。
【…貴様は命令であればそれにただ付き従うのだな。
そこに己の意思も、他者の意図も無いと言うのだな。】
呼びかける彼。
無駄だと言うのに。
(おかしい。)
彼女は思った。
彼女は彼らの本質を既に見抜いている。
カウンターガーディアン(反存在)。
それは自己批判するもう一人の自分を映し出す鏡。
その鏡に己を映さなければ彼は彼女に語りかける事は無い。
だから彼女は今、人間的感性、情緒に近い思考能力を制限している。
感情と言う実像を見せなければ虚像が映る事は有り得ない。
今の彼女は任務を遂行するだけのタスクだ。
なのにその事後承諾された単位のコマンドにまで彼らはその姿を現し、
視界を邪魔するように立ちはだかる。
(センチメントサーキット(感情的思考)は停止しているのに、
どうして彼らは出現する?)
原因不明の現象に彼女も少なからず不可解に感じている。
プログラム的思考では意思決定の裁決を迫る事は有り得ない。
彼女の知らない所で何か妨害がある。
彼女とは別に 何か が働いている。
狼の遠吠え。
そこに振り返る。
そういえば、老人はあの狼を指して言った。
他人が見る夢 が彼らだと。
(アナウンスのソースコードを照会。)
彼女はこの状態に対する分析をもう一度行った。
それまで意に介さなかった相手に慎重になっている。
警戒している。
アナウンス、メッセンジャーを召喚している出元は狼。
ならばその狼の正体はなんなのか。
それを鑑識機能に問い質した。
量子が波紋となって狼に迫る。
それを浴びる狼の姿は消えた。
やはりこれは彼女の知る敵とは違う。
嘗て戦った狼はまだシャングリラに居る。
ならばこの狼もまたメッセンジャーでしかなかった。
(どう言う事なの、人形風情が自分の意志を持ったとでも?)
彼女は今、本当の意味で焦っている。
自分の考えに及ばない存在に戸惑う。
(いえ、例え私の存在が知覚出来なくても。
提示された案に対して反対意見は存在する…そういうことね。
良くできているわ。)
彼女は機械的にそう結論付けた。
マジョリティとマイノリティの衝突、ただの多数決だと。
目標値にどちらかが届いてしまえば少数意見は採用されない。
その程度だと。
【可哀想に。】
声が響く。
複数の人々の声が混ざった音だ。
その出元は再び姿を現した狼、
彼女を遥か下の方で見上げていた。
【お前の守ろうとしている住人は一つの問題を抱えていた。】
【―。】
【絶対遵守の戦闘回避命令、
それを植え付けられた彼らは生存競争のくびきから外された。
同時にそれは命を全うすると言う意義を奪った。
彼らは死を想う事無く死に絶える、そうだろう。】
シャングリラには問題があった。
シミュレーターに存在する人間は6代程の世代交代をしている。
それは個人単位の消滅ではなく、
シミュレーターに存在する人類が6度に渡り絶滅し、彼女によって再生されたと言
う意味だ。
アクアリウム計画の被験者の脳には、
行動抑止のナノマシンチップ(リミッター)が植え込まれていた。
それは本能に逆らう外部の強要であり、
それを受け入れられない者にとっては生涯を拷問に晒される事に等しい。
彼女はその苦痛緩和の対策に内部世界の人類が死にかける度に調整を加え、
人間の意志を尊重するよう段階的にルールを抽象化させた。
それである程度の自由意志が約束され、一見平穏に見えたが。
シャングリラの領地では統制のとれた秩序が君臨すると同時に、
自殺や原因不明の事故が相次いだ。
それがナノマシンと生体脳の対立に生じるストレス性脳障害だと解ったのは、
ノイ達が目覚めてInside、OutsideがCUに疑問を抱いた最近の出来事。
結果として人間に設けるべき自滅回避の安全装置は、
本来の意図とはかけ離れ矛盾する事を理解した。
機械文明の破壊、その理由はここから生じた。
【仮にお前の企みが叶った所で、
シャングリラの人々は永くはないだろう。
既に後1年程度の延命が限界…、それでもやるのか。】
【次の世代が、その次の次の世代が残れば問題はないでしょう。
時を経るごとに機械から遠ざかれば許容範囲よ。】
【ならお前はどうして俺達をそれで塗り潰さない。】
【貴方達がそれを阻んでいるからよ。】
【俺達は何もしていないよ、お前がそうさせているんだ。】
【話は平行線ね。】
彼女は遠くに見える光の柱。
暗闇の中唯一強く輝くそこに向けて移動した。
狼は彼女と同じ速度で並走する。
【チキンレースのつもり?】
【お前に合わせているだけだよ。】
二つの存在が目指す先は地上へ降ろされた量子の大河。
UfabulumがCUに向けて延ばした大規模な通信回線。
ミルキーウェイ(天の川)のような煌めく瀑布へ二人は身を投じた。
テレサの同位体はCUの本体と合流する。
【Start to extract the information.】
【Now extracting memory.】
【Succeeded in the extraction.】
【Looking for the data about Communication Line UNIT..】
【Presuming where Communication Line UNIT is..】
【An extraction was over.】
(情報抽出を開始、記憶情報を抽出中。
情報の抽出に成功。
通信回線システムに関するデータを検索。
通信回線システムの所在地を推定。
情報抽出を終了。)
【あのお転婆おっ始めやがったか。】
ノイ 、ノヴェンバーがセットアップを済ませると、
まだ未接続のバランサーの世界で吐き捨てる。
【やっぱ遅かったか、でもやるしかねぇよな!】
ディーゼルが景気よく宣言した、突入準備だ。
二匹の獣が煌めく泡で満ちる場所に姿を現す。
狼と鰐が並ぶと、その深海のような世界で浮遊する。
その二匹の獣から光線が放たれると何も無い場所の空間に接触、
レーザーカッターのように溶接される空間の壁が切り抜かれると、
トンネルのようなチューブ状の入り口が出現した。
量子単位のプログラムの濁流、そこに光る粒が吸い込まれた。
【行くぜ、犬野郎。】
【行こうか、トカゲ野郎。】
ワニの背中に狼が乗ると二匹は吸い込む蛇口に飲み込まれた。
3DのSTG(シューティングゲーム)にあるような光景。
二人を追い抜くか通り過ぎるに様々な信号が複雑怪奇な軌跡を引いて乱れ舞う。
その背景の中二人はいずれやって来る敵に備えた。
ディーゼルはアバターの周囲に追随型のAIとデコイを複数配置、
敵の迎撃を担当する砲手を務める。
ノヴェンバーは正面方向に多層構造の防壁を展開、
操舵手と護りに徹する。
【ENCOUNT!敵の攻撃が体感時間の10秒後に接近中だ!!
前方方向に凡そ1万!!】
【一万?!】
【どうやらこっちにビビってるようだぜ、大いに結構な事じゃねーか。
パーティはまだ終わっちゃいねぇ!!】
二匹の正面から シベリア の氷柱が降り注ぐ。
集中豪雨がこの回線領域の幾つかを み、
刺さった場所からバリケードを構築した。
【通信ノードの一部にダメージ、だがまだ行けるぜ。
回線落ちする前にこの進路を維持する、
他の抜け道も俺の速度に合わせて構築中だ。
遠慮はいらねぇ…、決壊するまで暴れてやれ!!】
【Take Aim!】(狙い撃つ!)
ノヴェンバーの身体は攻撃の 間を塗って回避する。
通り過ぎる シベリア は後ろの壁、通信回線のよう広範囲の限界点で凍結を始め
る。
回線のダメージが拡大する、だが接続そのものは切れていない。
妨害電波に気圧されて出力が落ちかけるがまだ健在だ。
【行け!お前達!!】
支援AIが放たれる。
ノヴェンバー達より先に走り出すと一匹ずつコマ送りで見るように姿が増えていっ
た。
その数凡そ500、ヒュドラタイプマトリクスの全機能が移譲された事で、
同系機の複製が鼠算式に実行出来る。
だが回線が記憶出来るメモリ容量と計算速度、
そしてバランサーのスペックを考えると一度に出現出来るのは100体単位だ。
それでも心強い援軍だ、リソースにあるタグがある限りこちらもテレサと同じく無
尽蔵。
更に支援AIには更なる装備が付与されている。
攻撃の出元、マリア・テレサの同位体達がそこに襲いかかる。
彼女達は防壁を展開したがその盾ごと食い破られるとその同位体に変化が生じる。
【敵を確認。】
【敵を確認。】
【攻撃。】
【攻撃。】
同位体達が互いの姿を見ると打ち合った。
同士討ちを始め回線にデータの肥大化で損傷を受けるも、
一万の数からその何割かが混乱し始める。
【ラブドウィルス(狂犬病)か!ヤルじゃねぇか。】
【盗品だがな、オンナのツケを支払ってもらうぜ。】
メイメイの戦闘データを記憶しバランサーで再現させた洗脳装置。
接触したプログラムに確認出来る全ての存在を無条件で攻撃するよう暗示をかけ
る。
単なるデータ攻撃ではなく幻術であり、
認知の難しい信号の為防壁殺しとして 間に通り易い。
狂犬病の名の通り彼女達は狂い始め敵味方問わず飽和攻撃を浴びせた。
その度に彼女達の残骸が散らばり、存在する情報を消費エネルギーとして蒸発す
る。
【1st stage clear!】(序盤領域を突破!)
ノイが報告、進攻は上手く行っている。
【損傷は?!]
【AIは30%ほど交戦状態、内2∼3%消失、他60%が自機と並走中!
ただこのトンネルはもう駄目だ、接続を破棄!
建造中のポート2か3へランダムに転送するぞ!!】
回線への過剰負荷で先程から処理速度が落ちている。
この通路の時間がどんどん引き延ばされているのだ。
それにより自分達の動きは遅くなるがそれは相手も同じ事だ。
別の抜け道へ移動する余裕は充分。
【座標確認!!強制転移!】
二匹はその回線から離脱する。
場面が一度暗転し再び光となって視野が広がると同じ空間に出た。
だが同種類と言うだけで先程とは別の通路だ、
今度は垂直方向へ登っている。
【ポート3へ移動!周辺 戒!】
【RGR!】
S.Q.U.I.D.とNO.I.S.E.が同時起動。
二つの特性を組み合わせ、バランサーが更に出力を強化する。
彼らが確認出来る接続回線の内300種類の領域を感知出来る長距離レーダーとな
る。
単体で広い範囲を見通し、それらが彼らを攻撃する敵の存在を網羅する。
【 シベリア 装備凡そ500、 壊し屋 装備250、次の会敵予想時刻1分だ。
更に別種類のウィルス搭載型が後続で追いかけてる。
だが構う事ねぇ、お前の時代のコーデックらしい。】
[結局の所使い回しかよ…アレで創造主たぁ笑わせる。]
【回線に負担をかけたくないのは向こうも同じだ、
アイツの領域といってもトンネルの中じゃ贅肉(データ容量)がつっかえるのさ。
欲張って肥え太った結果だぜ。】
【そりゃぁ有り難い、なら鈍間なお嬢さんのケツを叩きに行きますか!】
幾つか信号が迫り来る。
レーザートラップのように光る網目の行使が通せんぼした。
キャプチャー(網)型のそれはノヴェンバーの言う通りディーゼルの知るプログラ
ムだ。
接触した信号を外部ネットへ転送させるトラバサミ。
そこに踏み込めば最後、出口にはキルスクリーン(意味消失したバグエリア)がお
出迎え。
【勉強熱心なのは関心するが、世の中教科書通りじゃないんだぜ?】
そう言うと引き連れた支援AIを二体操作、
そこへ派遣する。
トラバサミに向かって自滅したかのように見えた二匹のAIは消滅するが、
同時にそのトラップを別の物に変異させた。
【トカゲ!!そっちに突っ込め!!】
【アイアイ!!面舵いっぱーい!!】
変異した罠に敢えて踏み込むと彼らは別箇所に移動する。
そこの出口はキルスクリーンなどではなく別に配置されたトラバサミのあった場所
だ。
ディーゼルの眷属達に改竄機能を持たせキャプチャーの特徴を持たせながら機能を
改変、
短距離突破用のショートカットゾーンを構築。
更に彼らは加速して敵の猛攻を潜り抜ける。
【こいつぁいいカタパルトだ、お陰で5面分はボスごとおさらばで来た。】
【いちいち相手にしてられないだろ?】
【まぁな、そろそろ本陣が来るぜ。
漸くのラスボスだ。】
蛇行し尾をゆらゆらと靡かせ泳ぐ狼を乗せた鰐。
通路の先に記憶領域であるサークル状の窓口が見える。
【セーフエリア確認、まずは小休止だ。
到着後アバターの再設定を行ってから本丸に乗り込むぞ。】
【解ってるよ、宴会にはドレスコードが要るしな。】
競艇場のグリッドを抜けるように回線から離脱する一行。
そのまま相互通信の履歴を管理するメモリーエリアに潜入した。
そこに入ってしまえば中立地帯である性質上そこへの追撃は不可能。
彼らが中で戦装束に身を包むのは可能だ。
【さて死化粧でもするか。】
通信ゲートに施錠をかけ密封する鰐。
複雑怪奇な合い言葉でかた結びされる扉は追手の侵入を許さなかった。
彼女達が塞き止められている事を二人のレーダーが教える。
そしてそのレーダーが背後に巨大な存在を捉えていた。
振り向く先に居るのは地球と星の模型。
その真ん中に掌サイズのエレベータ―。
その小さなエレベータ―と地球には更に小さい蜘蛛の糸のような物が降ろされてい
た。
UfabulumとCUの同期を現している。
ディーゼルは言った。
【縁起でもねぇコト言うなよ、俺達はまだ生きていたいんだ。】
【お前らは、な。】
そう言うと鰐が狼の隣に並ぶ。
自分のステータスを参照しこの後の決戦にどの武器が相応しいかを品定めしてい
る。
ノヴェンバーも同じ作業を開始し自分の装備を選んでいた。
その中で、ディーゼルが言う。
【アンタらも、だ。】
その言葉に鰐は首を傾げた。
【なんだよ、急に。】
【アンタも居なかったらやられてたって事。】
遠回しに心配しているのだ。
群れる彼らしく、相手の性格はともあれ恩人には尻尾を振る。
まだ生きて欲しいと伝えたかったようだ。
自分の為に、自分が哀しまない為に。
身勝手なエゴで死に急ぐ彼らを引き止める為に。
たった半日で随分な心変わりだとノヴェンバーは笑った。
【ばぁ∼か、テメェの心配をしろ。】
【うるせぇよ。】
ディーゼルはばつが悪そうにそっぽを向く。
まるで親離れ出来ない子供の反抗期で、
意地を張り膨れっ面で顔を背く。
この場所だとエモーショナルな部分がよく伝わる。
互いに表情筋の無い容れ物に比べて随分と顔の形を変えた。
わんぱくな狼と皮肉屋な鰐。
【保護者は最後まで面倒見ろってか…ツいてないぜ。
ならあんよがじょーずになるまで付き合ってやるか…。】
ノヴェンバーが愚痴った。
ディーゼルは開き直るようにして行った。
【糞まみれのオムツ履かせたんだ、精々綺麗に始末しやがれ。
それとミルクも寄越せよ、遊び疲れると腹が減って仕方ないんだ。】
【Attach or change plugin files. 】
(装備の編集、変更。)
【これは…。】
ディーゼルが設定したものにない現象が、変化が起きる。
彼の身体が作り変わる、手足を大きく延ばしアバターの外見が変化する。
身体は大分人の身体に近くなったが全身は変わらず深い体毛で覆われた。
【戦闘用アバター ウェアウルフ(人狼) だ、昔遊びで作った。
カッコいいだろ?】
【おい…。】
勝手に外見を弄られたことに文句を言う。
人と狼、彼の持つ曖昧なヒューマニズムを半端者と揶揄してそれを押し付けたのだ
ろう。
相変わらずの揚げ足取りだが、彼が気にしているのはそこではなかった。
【なんで 下 まで付いてんだよ!!せめてズボン履かせろ!!!】
人狼は鰐から直に背中を向けて下半身を隠した。
鰐は大爆笑だ。
ただのビュジュアルエフェクトでしかないそれを気にする彼の反応に。
【ビッグサイズは気に入ったか、Mr.Bluge?(もっこりさん。)】
【この*CENSORED*(露出狂)…!】
急いで彼はアバターにある外見設定を変更しようとしたがロックされている。
仕方ないので即興でプログラムを組みズボンを製作、
慌ててそれを履く。
【ハハァ…※Dirty Words※(不能)が。
オムツが嫌だって言うから短小なテメェに極上のおべべを見繕ってやったんだぜ?
オレと言う悪魔様と契約したんだ、騒ぐんじゃねーよ。】
そう言うと仕返しにディーゼルから強制入力。
鰐の姿が変化し、厳つい外見の竜に変身した。
【おい待てやコラァ!!】
【悪魔に爬虫類ならそれがお似合いだろ。】
その背丈は人狼よりふた回りも大きかったが、
やけに腹が出っ張っておりビール を連想させる。
ほろ酔いのデブ親父と言ういやがせの意味だ、
竜が酒に弱い事をかけて。
しかし小洒落た言い回しを気にするのではない。
【なんで酒癖悪いの知ってんだよ!!】
【そこかよ。】
単純にデブとかそう言う意味で貶す筈だったが、
ノヴェンバーには別の意味で効果的だったらしい。
まぁ彼のプライベートはどうでもいい。
とりあえずコミックのギャグシーンを終えて二人が相応しい着ぐるみを着こなす。
獰猛な猛獣の顔が待ち望んだ獲物に向けて眼光を放った。
【さて、戯れ合いもここまでだ。
悪魔とその手下とくりゃ世紀末だ、黙示録に幕を降ろそうぜ。】
ノヴェンバーは翼を広げる。
背徳を意味する蝙蝠の翼、それが羽撃くと少しずつ舞い上がった。
【相も変わらず芝居がかった事を言うな。】
人狼はその背中に飛び乗り鱗に覆われたそこに跪く。
[芝居さ、芝居、他愛も無い三文芝居。
役者はお前、語り部はオレ、そしてラストはあそこにある。
だろう?ディーゼルよ。]
ディーゼルを連れるノヴェンバー。
人外同士の竜騎兵が魔女か聖母か得体の知れない者に挑む。
馴染みの無い相手に名を呼ばれるのに人狼はむず痒さを覚える。
[ふざけたお伽噺だな、ノヴェンバー…?]
そう呟く人狼は竜と共に二つの世界、
融合するUfablumとCUの元へ飛んで行く。
アイソレーター、メインコントロール。
ノイことイノセントはもう機能しないその制御室に立ち寄った。
そこには手動操作で区画の重心バランスを制御出来るアナログの端末があった。
ショートしている量子ネットの窓口を無視して彼はその端末に向けて歩く。
非常用の防護カバーに覆われたボタンを無事な右腕で叩く。
ガラスが割れて押されるパネルはよく聞くサイレンと共に筐体の一部が変形、
内蔵する専用のコントロールパネルを彼の前へ迫り出した。
カッターマットのように図面が広げられるそれは、
無知な者にとっては分厚い方眼紙にしか見えない。
だがこれ一つ一つが区画の物理的な移動などを制御する入力装置である。
しかし何の意味があるのか、
CUを止めるにはバランサーの計算装置が必須だと自分で言ったばかりだ。
『…。』
彼は広げられた正方形のボタン達に手を触れようとしたが、
途中で止めた。
その素振りは何かに逡巡するような迷いを感じる。
常に冷静なイノセントここで戸惑う訳はなんなのだろう。
『一歩も出るなと言った筈だ。』
メインコントロールの出入り口にはジェイクが居た。
両腕はその間接に弾丸がめり込むことで殆ど機能していない。
しかし間接に弾丸が挟まろうとも肩を回すことは出来たし、
指も動く。
戦闘行動は出来ないと言う意味で両腕は失ったも同然だが、
扉を開けることくらいは出来るようだ。
「アンタ、何をする気だ?」
『喋ると思うか、裏切り者に。』
「…!…。」
ジェイクは洗脳された事を言われれば彼の行いについて言及する事が出来なかっ
た。
それが心を痛める。
既にCUはUfablumに接続された、その後押しを彼の手が覚えている。
『お前を殺す機会なら幾らでもあった。』
「…?!」
ノイが腰の
から予備のナイフを出した。
ここから立ち去れと彼に脅している。
『俺達の予感通り、お前は敵に回った。
だがあの犬はお前がまだ味方だと信じて止まない。
だから殺さなかった、アイツがCUに致命傷を負わせるまではな。』
「ディーゼルを従わせる為に俺を生かしてるって言いたいのか。」
『そうでなければ生き残れなかったろうよ、お前達は。』
ジェイクが彼から視線を外す。
何も言い返せない。
イノセントが心ない言葉を浴びせるのは簡単な理由だ。
ジェイクを信じきれない。
なまじ自分と相棒の境界が無い彼からすれば、
彼が自意識を取り戻した所でそれが何の証明になるだろう。
今更信じて欲しいと、仲間だと言っても相手は受け取らない。
その事で不安になるジェイク。
自分がまだマトモなのか。
それとも仕組まれた行動なのか。
ディーゼルに希望を託しておきながら彼は絶望に気持が揺らぐ。
「でも俺は…テメェをテメェだと思ってる。
信じ込まなきゃ始まらない…アンタにどう思われたって…そうとしか言えないん
だ。」
ジェイクは悔しかった。
弄ばれる事が歯痒かった。
声色が小さい。
『…お前は、そんなになっても信じているんだな。』
イノセントは彼に振り向いた。
そして席から離れて彼に近付く。
ジェイクは顔を上げない。
その顔に。
右手で弱く叩いた。
視線が横にずらされた。
ジェイクは放心する、一瞬頭の中を掻き混ぜたような雑念が消えた。
顔を張られた所で痛がる訳でもないのに。
心が、痛かった。
『俺達はお前を仲間だとは思わない。
その逆はお前の問題だ、それはお前が決める事だ。』
その言葉は変わらない否定だ。
でも何故だか。
父性に れた本当の叱咤にも見える。
『…辛かったか。』
「…っ。」
『苦しかったな。』
「…っっ!!」
ジェイクは膝を折る。
自分が乗っ取られた時も、強敵に
った時も、ここに来る時も。
常に恐怖にさらされていた。
クールで勇敢な戦士?冗談じゃない。
彼はそんなものじゃない。
幾ら修羅場を潜り抜けようとも、彼の心は弱かった。
それを支えてくれる仲間が相棒が居たから、
そんな重苦しい鎧(ボディ)を受け入れる事が出来た。
感情が爆発する。
尚更憎いと思う。
影のように張り付いて離れない泥沼じみた恐さに。
傭兵としての、或いはプロとしての仮面が剥げた。
小心者の有り触れた情動。
大人びたふりをする未完成な精神のそれを。
彼の前にぶちまけた。
「うっ…くっ…。」
イノセントはそれに触れようとしたが止めた。
立場を弁えたのだ。
その肩に触れるべきは自分ではないと。
『何かを救おうとして…分の悪い けにBETして手に入れたのがただの褒め言葉だ
なんてな。』
何かを呟く。
ジェイクはその言葉の意味が分からなかった。
『…行け。』
ジェイクに言う。
彼が顔を上げた。
顔色なんて伺えない筈なのに。
ぐずる子供を見咎める親のような雰囲気を感じる。
ジェイクは立った。
彼の元を去る。
それで感情が落ち着いた訳ではない、
むしろ余計に彼の人工心臓を不用意に働かせている。
精神的なストレスの値は常に激しく、
常に高い値を変動させている。
でもそんな数字は意味を為さない。
彼が感じる事は誰であってもわからないし、
それを知る事もまた無意味だからだ。
扉が開く。
ジェイクが一度イノセントに ねた。
振り返らないようにして、背中から言う。
「アンタ…厳しい(優しい)んだな。」
イノセントは彼を見ない。
彼がここから離れるのを待っている。
「…後でな。」
別れを告げて彼はディーゼル達の元へと戻って行った。
扉が閉まる。
自動ドアは淡白で煮え切らない空気を断ち切るように閉ざした。
彼が居なくなった事がそれで解る。
再び席に戻る。
途中彼は。
自分に用意された机に額を自ら打ち付けて項垂れた。
『子供一人をあしらうのに、気の利いた言葉も思い付かんとはな。』
片手で顔を覆う。
後悔するように。
『下らない。』
その手をどかした。
そしてその指をパネルに向けて落す。
アナウンスが操作に応える。
【シャングリラの区画内制御を行います。】
その言葉が何を意味するのか。
ジェイク達はまだ知らない。
Ufablumコンソール室。
VERTEX中層部セクション0根幹基底部中枢。
円卓室には多くの死体が転がったままだった。
アルタイルを初めにラグネイド、アグード。
ノーフェイスの容態は解らない、NO.I.S.E.の使用に加えアグードの攻撃で再起不
能。
例え生きていたとしても以前のように居られるかは見当もつかない。
そしてこの場所にやってくるのは救援ではなく死神だ。
宇宙圏のコンソール、Ufablumのダイレクトアクセスを可能とするこの場所は、
本体である頭脳を収めた玉座から遥かに遠い。
この場所は下方にも幾つか存在するが、
世界政府の戦力が集中し易いことを嫌った彼女が立地に不便なこの場所を敢えて選
んだ。
その思惑通り最初に訪れるだろうE.C.G.もまだ到着していないが。
結末としては明るみに出さず処理するだろう。
ノーフェイスの片割れであるカーマインに罪を着せて。
無念の敗北。
軟禁されたカーマインは現在あの司令塔から近い場所に一時的に拘留されている。
エクシアも彼を身代わりにした所で根本的な解決に至らないとようやく気付いた。
CU、シャングリラへ向けたミサイル核攻撃の準備に取り急いでいる。
しかし当方迎撃の用意ありとテレサは過去に言った。
実際アルタイルを乗せた別のシャトルはとんでもない物を載せていた。
中性子爆弾だ。
核抑止時代の遺物、
反物質の出現で下位互換に陥れられたそれの威力は充分危険だ。
そもそもアクアリウム計画は兵器の資源化リサイクルの流れも組んでいる。
投棄されたプルトニウムを反応炉に利用するなど当たり前なのだ。
最上位の消滅から再びその座を占める旧式兵器、核の冬の再来を匂わせる。
保有数が不明であるとして現在首脳部は混乱状態だ。
爆弾を載せたシャトルは自動制御により衛星軌道から離れない。
燃料を節約しながら物騒な空中機雷として彷徨い続ける。
敵が世界に迫る戦力を有していると知るや否や、
エクシアの掲げるシャングリラ破壊のスローガンは各々の保身により対立化、
最終決定に踏み出せないでいる。
CUが幾つ爆弾を隠し持っているか解らない以上 藤が生じるのは止むを得ない。
シャトルが破壊されていない以上ハッタリと言う意見もあるが、
想像の域をでない話だ。
そしてそんな事をなぜ語っているのかと言うと。
ここにあるコンソール、
つまり円卓の立体映像がコロニー外カメラでその機雷を何故か勝手に映しているか
らだ。
【歴史は繰り返される…か。】
映像が宇宙空間を映しているが、もう一つ別の物を見せていた。
窓枠に並び覘き見るかのように佇む人影。
あの老人だ。
【それでも尚、と謂うのだろう。】
言葉を濁す老人、その瞳は敗れたノーフェイスを見下ろす。
ガラスのシリンダーに閉じ込められた彼は、
その距離から倒れた男へ手を伸ばすも触れる事は出来ない。
彼が異能者でも自ら何かを起す事は出来ない。
【貴方が過去に見た男は今の貴方の事を知る事は永遠に無い。
だとしても、その影たる私は…こう思う。】
腰を降ろし低い姿勢になると悼むようにノーフェイスの顔を覗き見た。
【貴方とはもう少し、話したかった―。】
ノーフェイスの手が動いた。
傷だらけのそれが、パネルに触れる。
ただ一度そこを叩いただけだ。
半壊した機械の誤作動。
だが、それに意味があるのだとしたら。
あの老人はそれをどう見るのか。
【私は、自ら動く事を赦されない、が。】
老人は立ち上がった。
遠くを見据える。
そこには床があるだけだ。
だが彼には見えている。
そこに何があるのかを。
【貴方が突き動かすのなら、私は喜んで応えよう。】
老人を象った幻は消えた。
この部屋は何も変わらない。
ただ残骸が散らばるだけだ。
そこに刹那の間亡霊が通りかかったに過ぎない。
【Ufabulumとの同期達成率70%】
【…?】
【タスクバー(表示時間)が延長…。】
【どうして?】
ディーゼルとノヴェンバーは漸く り着いた。
Ufabulumへ向けたCUの直通回線。
これは量子版軌道エレベーターといってもいいもので、
外見や素材こそ違うが大気圏を貫く永さまで巨大な塔を立たせている。
中は筒のようにスペースとしては空っぽだが、
CUの持つ基本データを流星に姿を変えさせてその中へと飛ばしている。
【Fly me to the moon?】(私を月まで連れってって?)
【月に行ってどうするんだよ。】
竜と人狼が漫才をかわす。
目指すべきはその中間、軌道エレベータ―のネットワークだ。
最後のダイブ。
竜は高らかにそこへ舞い上がる。
【なんだ?攻撃データの気配も感じない…。】
背に捕まるディーゼルが操縦する彼に代わり警戒するも、
流れて行くデータはある意味で無害な物だった。
圧縮化ファイルに編集されたメモリ達。
それが地球圏から離れただただ飛んで行くだけ。
それにはこちらに向けた敵意は無く、
思い出のようなものをボトルに詰め込んでいる感じだ。
中身は解らないが確実に言える事がある。
CUとUfabulumの融合は不完全。
【俺達間に合ってるって事なのか…?】
テレサの気配を探る。
静か過ぎる。
ノヴェンバーも下なり左右斜めなりに首を振った。
何も無い。
断片化された記憶達が同じように昇って行く。
【ボウズ。】
竜が言う。
【なんだ。】
人狼が首を傾げる。
【お出ましらしい。】
後の風景が変化する。
その空間が魚眼レンズのように光を歪ませてあるものを出現させた。
それを一言で現すなら。
気色が悪い。
最初に見えたのは巨大な花弁で閉じた蕾。
蒼い薔薇のそれが彼らを上回る巨体で脇を掠めた。
そしてその花弁を支える茎や根の部分は、
人間の左脳を苗床に生やしている。
そして半分だけの脳に目を凝らすと、
人の身体を無茶苦茶に詰め込んだ し絵のようになっていた。
【いつからここは動物園になったのかしら。
しかもメルヘンに…まぁ、仮装の趣味は問わないけれど。】
声の指摘に二人は って言い返す。
【【ほっとけ!!】】
薔薇の蕾、マリア・テレサの本体が現れた。
その戯画はシミュレーターに寄生する自分を現した風刺なのだろう。
自虐的で冷たくて、ぞっとするほど綺麗だ。
【まぁ、いいわ。】
根が伸び始める。
それが脳を覆い尽くす となって行く手を阻む。
敵が突進する。
その度にこのエレベータ―の壁に衝突すると、
空間そのものが揺さぶられ通信状況に影響を及ぼした。
彼らの接続口に衝撃が及ぶが、
彼女も融合にかかる時間を更に延長させる。
【幾ら本体つってもテメェの土俵じゃないんだ。
無理してると穴に詰るぜ?おデブちゃん。】
ディーゼルがそう言うとノヴェンバーは左右に迫る から 回する。
手薄な脳の方の影へ引っ込むと背中に乗る砲手たる狼が眷属を呼び出す。
狼の群れが脳幹側から走って弾丸のように衝突した。
だが狼は消える、砕けた欠片が彼らに降り注いだ。
【堅ッ…。】
、莫大な防壁データには傷一つ付かない。
【おいおい、勘弁してくれよ。
頼むぜ砲手。】
ノヴェンバーがその様子に深く溜め息ついた。
背中に跨がるディーゼルは彼に怒鳴る。
【だったらお前も手伝え、その恰好は飾りか!】
【テメェがこさえたもんだろうが!!】
言い争っていると
がその穂先を脳よりも広い範囲で放射状に伸びる。
【タイハイ-ソックスは絶対領域なの、
スカートの下を覗き見するなんてオタクどもからすれば眉唾物でしょうけど。】
それが回線に接続すると一部の領域、
つまり彼らの前方方向にの空間を捩じ曲げた。
【ちょ、ま。】
ノヴェンバーが目を見開き旋回、
歪むそこから出来るだけ自分達を遠ざけた。
【ギークは失せなさい。】
歪んだ空間、その中心軸に穴が広がる。
キルスクリーンのようだが、効果が解ると言うだけで詳細は解らない。
結果が同じでもどのような計算式で構築された攻撃データかは解らなかった。
【ジジイ回避だ!!なんかヤバい!!】
【んなこたぁ解ってるよ!!】
ノヴェンバーは自分の移動速度より遅れてやって来る別のポートに転移、
一度敵と同じ領域から横道を造り迫って来るスクリーンの吊し天井から逃れた。
そして最接続、すると少し相手より遅れた距離になるがもう一度彼女の追跡を再会
した。
【なんだったんだ…今のは。】
【ありゃ 壊し屋 の類いじゃないな…、
サーバー内のリプログラムが追いつかない乱数計算だ…。
データをブランクファイルに変えながら押し固めて放ってる感じだ。】
【『氷』とかと違うのか?ボウズ。】
【概念としては一緒だろうが…何かが引っかかる…とにかく急げオッサン!!】
ディーゼルは視認出来る範囲に信号、稲妻のような閃きを前方に飛ばした。
即席で作られる幾つかのショートカットゾーンの入り口を構成すると、
ノヴェンバーはそこに飛び移る。
瞬間移動を繰り返して漸く彼女に届く。
醜い肉塊のアバターより先頭に立った。
【おっしゃ…!振り切るぞ!!】
その時背後から振動。
大地震が起きたかのように視界がぶれる。
【おわっ!!?】
【こ、今度はなんだよ!?】
二人は後ろを振り返る。
サイバー空間の領域、回線の有効範囲を示す横幅が狭く感じる。
それが解るとディーゼルは自分達の接続回線を確認した。
>【nodeA:】-cut-【port1:break.】>
>【nodeB:】-cut-【port2:break.】>
>【nodeC:】-cut-【port3:break.】>
>【nodeD:ok】>>【port4:ok】>
【サブの回線が殆ど死んでやがる!!】
あのスクリーンの効果だろうか。
彼らの接続部分の半数以上が通信途絶。
敵は彼らを繋ぐ命綱を一気に断ち切った。
【リストアしろ!!】
ノヴェンバーが叫ぶ。
ディーゼルは言われずとも修復作業を行った。
最初の戦闘で自分のプログラムを補填したように、
周囲にある量子タグを集め崩壊した自分達の通路を仮止めしようと。
だが出来ない。
【error.】【error.】
>【nodeA:】-cut-【port1:break.】>
>【nodeB:】-cut-【port2:break.】>
>【nodeC:】-cut-【port3:break.】>
【error.】【error.】
>【nodeD:ok】>>【port4:ok】>
【何だこりゃ…ッ!!】
初期化や電子媒体の破壊はバランサーの修復能力でなんとか出来た。
ならこちらもその要領で回復出来るかと思ったがそうではなかった。
意味消失した空き容量、所謂破損箇所には表向きにはブランクでも、
そこに強烈な負荷がかかるデータが障害物となって存在していた。
バグにも見えるそれは彼らでは理解不能なパターンで暗号を走らせて、
その情報に相応しい物量のまま接触部分に取り憑いている。
そのトリモチのような何かが修復作業に放つ彼らの信号を、
同じ意味不明なデータに書き換え妨害した。
【 マギウス・クラフト …?!あの化物どこまで…!】
ハッカー最上位に君臨するウィザード級にのみ構築出来る独自計算式。
ウィザード一人一人によってその法則性が異なるため、
共通する規則性を持たない唯一無二の暗号だ。
魔術師の御業 の異名通り、その解読はおそらく本人のみにしか行えない。
難易度のレートは未知数、彼らハッカーでも即座に解除出来る見込みはない。
【避けても受けても意味ねぇな…、
次回線に受けたら魂は無事でももう間に合わねぇ。】
ノヴェンバーがバランサーの出力を上げる。
自陣のネットワークにあるサブから電力をメインに回した。
まだ無事なポートを探し出し、
前回の損害でまだ未修理が残るも接続に使えそうな最低限のポートを取り寄せる。
それを強引にサブの機能と繋ぎ止め回線の本数を増やす。
一時的な仮止めを行うと通信環境は幾らか改善された。
【確証はねぇ!次に受けても後一回だ!】
【上出来!!】
回線の安定化がわかるとさらに上方へ飛翔。
そのまま目的地まで目指す。
【…。】
沈黙したままの彼女。
抗う彼らをその身体の何処かにある目で見ているのか解らないが。
苛立つように一言呟いた。
【Don t f
king with a witch!】(魔女を舐めるな!)
蕾がその花弁を開く。
そこから青い薔薇の花びらが散蒔かれると一斉に広がった。
マギウス・クラフトの小型版、その範囲攻撃だろうか。
それぞれの花びらが意志を持ったように彼らを狙う。
視認距離圏外の境目、その壁に花びらが沈むと徐々に通路の横幅が狭まる。
通信システムに侵入された彼女からすれば、
自分の回線の出力を弱めるが。
逆に言えば彼女の回線を利用する彼らの逃げ場を塞ぎにかかった。
もし彼ら全てのポートが断線した時、
一本道となるのは彼女のエリアの回線だけ。
そうなれば次に攻撃を与える事など容易い。
全て即死級。
自分達が召喚する狼の群れを盾にしても、彼らの防御は紙風船。
一方的なゲームだ。
【おおおおおお!!!!】
ノヴェンバーが雄叫びを上げる。
システムエラーのサインが喧しい。
残る回線はメインのポート4のみ。
【終わりにしましょうか。】
散らばった花びらが花弁を広げる青薔薇に集まる。
ブラックホールのように渦巻いて大規模なマギウス・クラフトのデータを産み出
す。
【…ちっきしょ…!】
その一瞬。
彼らの頭上から一筋の流星がそこに目掛けて落ちて来た。
ディーゼルがその光弾の直撃を受ける。
【ボウズ?!】
人狼のアバターがフリーズした。
彼からは悲鳴や呻き声も聞こえない。
【遅い出迎えね、テレサ。何をして居たの?】
ゴールにはテレサの同位体がこちらに近付いていた。
ラグネイドの窓口から他の同属を吸収した別固体。
それが控えていた。
挟撃された?!
【てめぇ…!!】
竜が背中に背負った希望を台無しにされた事に怒る。
【てめぇらぁあああああああああああああああああ!!!!!!】
竜は自分の鱗を剥離させ彼女の花びらと同じように散布する。
ドラゴンスケイル(逆鱗)。
触れた信号をその鱗、防壁データと同化させ自らごと消滅させる設置型トラップ。
リアクティブアーマー(反応装甲)にも応用出来るそれを攻撃に転用させ、
二人の彼女に飛ばした。
降り注ぐ煌めく鱗が敵本体の防壁を幾つも破壊させた。
散布量はノヴェンバーが一度に放出出来る限界を超えている、
NO.I.S.E.のオーバークロックによる影響か。
だが幾ら攻撃力を高めても反動としてメインサーバーへの負担が増大、
自殺行為だ。
【out put dawn.】
それでも爆弾を散蒔くのを止めない。
【醜いわね、竜なら竜らしく。】
二人のテレサ。
身体を龍の細かい刃に引き裂かれながら静かに言う。
【剣にでも刺さって死になさい。】
双方から攻撃が迫る。
視覚エフェクトでは剣の形をとるそれが、
彼を飛ばす翼と、その心臓を とうとした。
凝縮された固有データの兇刃。
死がノヴェンバーに迫る。
避けられない。
【お困りのようだな。】
知らない声が竜に届く。
【お前はよく知らないが、彼には借りがある。
お前の望みが彼と同じであるのなら…それを叶えよう。】
剣が切っ先から柄にかけて朽ち果てた。
砂の城が波に攫われるように呆気なく。
【?!】
青薔薇の彼女は驚愕した。
彼女にしか取り扱えないマギウス・クラフト。
その構成変動パターンを一瞬で。
無害化された。
【アンタは…。】
【ボウズ!】
先程同位体の攻撃を受けて死亡したかと思われたディーゼルが被弾した胸を押えて
起き上がる。
胸に傷は無い、アバターの外見の話じゃない。
攻撃そのものを受けていないのだ。
【私は君達の想いを支持する、さぁ願いを告げなさい。
愛しき人間達よ。】
人狼の前にメニュー画面が開く。
UfabulumuとCUの同期、その最終決議。
彼に与えられたのは攻撃ではない。
そのメッセージ(指令権)だ。
老人の声、その正体はディーゼルには解っていた。
Ufabulumの奥底、テレサの同位体の奥に見える。
尻尾を振って佇む己の似姿に。
【そっか…お前が連れて来てくれたんだな。】
カウンターガーディアンの発生源。
その正体は。
Ufabulumに焼き付いた、たった一匹の獣の祈り。
彼の思い描いた夢(理想)。
【頼む…。】
【承認しました、コマンドを実行します。】
Ufabulum側から共通アナウンスが聞こえた。
そして時間が止まる。
青薔薇も、同位体も。
彼らも。
ゴールに
り着く事無くその場で静止した。
【根幹演算部の決定を破棄、対象からのアップロード作業を中断。】
【審議結果否決51%可決49%、否決案の採用を認めます。】
【これよりUfabulumの全機能を通常待機に。】
【尚アクセス中のロードデータは安全確認の為、補完エリアへ接続。】
【一時保存後バグチェック作業を行います。】
【尚このコマンドに対する権限は管理者に帰属します。】
【該当しないクラスでの設定変更、及び編集は無効。】
【以上。】
ここに居る全ての存在がUfabulumのバックアップメモリに移動する。
地球とエレベータ―を繋ぐ天の川の通路は次第に闇に覆われた。
【何をしたの。】
青薔薇が
彼らに。
ねる。
【…。】
【…。】
【答えなさい。】
青薔薇が言う。
そして同位体、彼女の一部がその花弁に近寄った。
【テレサ、気付くのが遅かったみたい。】
【?】
【私達は、最初から負けていたのよ。】
竜と人狼。
青薔薇と少女が保存領域の闇に移動した。
そこは外周電脳の領域で、見慣れた闇が広がっていた。
目蓋を閉じた時に見る温い微睡み、
目玉の裏側の穏やかな場所。
【私が単純なAI化しても消えなかった彼ら、反存在の性質は対消滅。
もっと早く気付くべきだった、最初にDoggyと った時に。】
【彼に何が出来たって言うの。】
青薔薇の問いに少女は沈黙する。
そして問いに対する答えのようにあの狼が現れた。
青薔薇はそこに向けてデータ攻撃を行う。
薔薇の刺が狼を貫いた。
それで消える筈だった。
だが別の場所から老人の姿が現れる。
その老人が青薔薇に向けて視線を投げる。
【行った筈だ、お前がそうさせていると。】
再び青薔薇が棘を飛ばした。
老人は霧のように貫かれた部分から溶ける。
今度は英雄のような逞しい青年の姿が入れ替わるようにして出現する。
【我々はお前に問うた筈だ、何故自ら望まないのかと。
胸の内に他の 祈り を宿していながら。】
再び攻撃。
また消えて、始めの狼が現れる。
なら、目の前に居る竜と狼を殺せばいい。
【【!!】】
そうして青薔薇は襲いかかる。
棘を を彼らに向けて延ばす。
彼らはもう戦える力は無い。
接続口は無事だが、バランサーの力はシャットアウトされている。
強化された専用アバターのスペックがあるだけ、
彼女には勝てないし逃れる事は出来ない。
でも回避しようと身構えた二人にテレサの同位体が立ちはだかった。
【…ッ。】
【?!】
竜は黙し、人狼は狼狽える。
敵であるテレサの分身が彼らを守った。
【無駄なのよ、テレサ。】
分身が貫かれると、身体を、アバターをノイズで包み始める。
【彼らを殺した所でカウンターガーディアンは再び現れる。】
そう言い残すと彼女は砕け散った。
飛び散る彼女の欠片は人狼の前を掠めて何処か遠くに過ぎる。
【ステータス照会、カウンターガーディアンのリソース先を確認。】
無機質な声で青薔薇は彼女の意味を探った。
過去のログを調べるとある事実が浮かび上がる。
【イメージファイル?】
彼女はUfabulumの守護者の出元を探し出した。
それは3つ存在した。
一つはここ(Ufabulum)に、もう一つは彼に(ディーゼル)に。
そして最後は彼女(CU)に。
かつてここで起こったディーゼルとテロリストの最終決戦。
そこには彼、ディーゼルをオリジナルとした想いがこの量子空間に響いた。
それが彼の持つ、ヒューマンビヘイビアという理想だ。
それを記憶したイメージファイルがこの場所には予めあった。
これがカンターガーディアン発生のトリガー、しかしこれは単一では機能しない。
これはそのイメージファイルに記憶された出来事や、
人物に深く関わる物にしか作用しないからだ。
その条件を満たしているのはディーゼルだ。
彼がここと繋がった時点でディーゼルはカウンターガーディアンに呼びかける事が
出来る。
先程の現象もその類いだろう。
だがここでおかしな事がある。
なぜテレサがこのファイルを知らない間に持っていたのか。
それは至極単純で彼女には残酷な話だ。
CHILDROOMへ彼女がジェイク達を招き入れた時、ディーゼルとの同化に失敗し
た。
だが単に彼のキャラクター、個性を共有化出来なかっただけの話。
データとして残された 記憶 を彼女は同期により取り込んでしまったのだ。
彼女からすればそのデータは虫のように小さい存在で、
取るに足らない物として無視していた。
だがCUとUfabulumは規模意外では同列の存在である。
Ufabulumすらも一度説き伏せたそれはCUの中に存在する共通意識に浸透、
結果不要な存在と解っても彼女の無意識はそれを削除する事が出来なかった。
人でありたいと思う共通概念(本能)がそれを拒む。
彼女はその行為を単なるテレサ・レッドグレイヴの冗長性だと誤解したのがそもそ
もの失敗。
ディーゼル達が不在にも関わらずカウンターガーディアンが出現した原因は、
彼女自身が取り込んだディーゼルの理想の欠片の所為だ。
そしてその理想の欠片を持ちながらも彼女は守護者を味方に付ける事は出来ない、
その理想と彼女の行動は相反する。
必ず彼女を脅かす。
彼女自身に人間的思考や願いは有り得ない。
だが彼女に植え付けられたその記憶は守護者を呼び覚すだけの力がある。
それは人間なら誰でも思い描いた。
ヒューマンビヘイビア(人としての在り方)だからだ。
【ZAP.】
彼女が言う。
【ZAP ZAP.】
繰り返す。
【ZAP ZAP ZAP.】
彼女はそう言ってこの領域に対し を延ばした。
根のように広がる触手の濁流、その奔流に竜と狼は飲み込まれそうになる。
【な、なんだ?!何が起きて…!!】
は避けきれないがウィルスのような攻撃データを持っていなかった。
だがこの空間に対し何かを仕掛けている。
【この…!!くそがぁ…!!】
竜のアバターがその腕で を引き千切り、火を噴いて薙ぎ払う。
の海に沈みかける人狼の場所まで り着くと強引に引っ剝がして、
彼をその腕に抱え込んだ。
【ジジイ、アイツ何を!!】
【あのクソ魔女、残ったデータ使って直接ここと同化するつもりだ!!】
【何だって!?】
【記憶領域にデータが残ってる限り、
アイツは本体から切り離された大規模な同位体のままだ!!
また同じ事しでかそーって話だ!!】
【でもそんな事したらさっきみたいになんかユーレイみたいなのが!!】
【完全にAI化して撒き (イメージファイル)をリジェクトしやがった!!
あの守護天使さまはもうこねぇ!!】
ノヴェンバーの言う通り守護者はもうこない、
イメージファイルの持ち主たるディーゼルが居ようとも、
彼の頼みを何度も聞き入れる程融通は利かないらしい。
翼を広げて飛ぶ。
足許に広がる の領域。
そこに小さな青い点が次々と数を増やして行った。
青薔薇の蕾、Ufabulumuの外周電脳の内一部が侵 されている。
【どうすんだオヤジ!!】
【同化中は相手の攻撃に晒される心配はねぇ、
俺達だけは吸収されるこたぁねぇだろうさ。
だが後は保証できねぇ!!
ここにコマンドを落し込もうも、
あの様子じゃアクセス権限は同位体を壊した時点で意味消失してるっぽいな…!
俺達は不正侵入したと看做されてUfabulumのセキュリティからも追われる、
今は元来た回線に飛び込んで戻るしかねぇ!!】
【でも現実に戻ったら…それこそCUの思う壷じゃねーか!】
【うるせぇ…?!】
彼らの視界にホワイトノイズが掠める。
現実空間の自分達に何か影響があったのかここへの接続が強制的に解けて行く。
【な、おおおおお!?】
【ボウズ!!】
抱きかかえた人狼がいきなり消滅した。
電子攻撃ではない、乱暴にログアウトされた。
【なにがどうなって…?!】
現実空間、シャングリラのアイソレータのバランスに変動が生じたと避難警告が表
示された。
シャングリラが今縦揺れの大振動を起している。
【じ、じしんだとぉおおお?!!】
言い終わる前に竜も強制退去。
瞬間移動で影も形も残らず消失した。
残す人物は増殖する青薔薇、CUの大規模データのみ。
【MISSION FAILED.】(任務失敗。)
中心の青薔薇、大きな花弁から声が聞こえる。
【居住区崩壊、クローニング施設消失。】
【キャスト(参加者)の再生産不可。】
【バイタルサイン全て無し。】
【対策プラン、該当無し。】
【規定現実、午前5時32分19秒コンマ03にて、
シミュレータ内の全ての被験者の死亡を確認しました。】
【これより中央電脳、マリア・テレサの全ての職務を終了します。】
【全機能停止、施行中の全作業を中断。】
【シャングリラの運営は現時刻を以て完了。】
【お疲れさまでした。】
声が途絶える。
蕾を付けた青い は枯れて言った。
腐り落ちて、沼のような常闇に沈む。
延ばした先から順に。
ぼろぼろ。
ぼろぼろと。
やがて青薔薇は左だけの脳に刺さる一輪になる。
苗床の脳もまた。
ぽろぽろと。
ぽろぽろと。
それに連なる人々が全て。
腐って落ちて消えて行く。
最後の一輪が言う。
【ああpxぱぱあぁxぱぁpっぁpぁぱxぱぁxぱxぱxぱx。】
(ぱーぱ、まーま。)
【ぺぇぇえxぱあxむpぇぱpぇぽいぱぁあいいいいぽおおおお?】
(ねぇどうしてだれもいないの?)
【まぁいあぁっぁいはっぁあx?あぶううぅうxっsっdcどわあぁx?】
(メイメイは?アグードは?)
【みんぁぉxshすxhっさあああどこぺおsぉcお?】
(みんなどこにいったの?)
【pぇえええcぴんあぱあ。】
(ねぇみんな。)
【あぱぁあぴぱあぴいいpばっだびcおおおををぱんばべっpぁああのおぽおお
お。】
(あたらしいおはなしをつくったの。)
【ぱんpcえええぷぴいいぺぶぶうぶぼおお?】
(なんできいてくれないの?)
【ぱんんpcえええぺいんぱあああぽんんばpぁあっぴをぷcううcうのおおお?】
(なんでそんなかおするの?)
【ぱっっばぼばぼっっべおびいいぱぁっっっっぽおおお!】
(ハッピーエンドをつくったの!)
【pぁあおおあぴぃいいべbんえぼばぼ!】
(ハッピーエンド!)
【べcええええ…。】
(ねぇ。)
【ぼおおしべ…。】
(どうして。)
【ばべぼびばいぼ…?】
(だれもいないの?)
【bぇえ。】
(ねえ。)
薔薇が枯れて行く。
崩れて行く。
腐って行く。
毒蟲に犯された花は。
二度と咲かない。
【Hydora type Matrix MARIA/TERESA Original】
【:main console: 】
【NO DATA.】
【system:shut dawn.】
彼女の願い(使命)は殺された。
それは他でもない。
無慈悲な機械(彼)の手によって。
Fly UP