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森林技術 - 日本森林技術協会デジタル図書館
ISSN 1349-452X 昭和26年9月4日 第三種郵便物認可 平成25年2月10日発行(毎月1回10日発行) 通巻851号 森 林技術 森林技術 《論壇》天守閣の木造建替ラッシュに備える ―コンクリート造復興天守閣の耐用年限を迎えて /三浦正幸 《特集》日本の木造建築物の系譜と林業のかかわり 飛山龍一/軽部正彦/板垣直行 ●フォレストワーカー研修の実施報告(GPS測量実習より) ●安全な原木しいたけの供給を目指して ─原木の指標値を中心として 日本森林技術協会 2 2013 No. 851 ᘑែ⅚πטሁ↝ ദᄩ∝ᡆᡮ↙Ᏽᚮૺ⇁ܱྵ≆ ᛂ᠄㖸᮸ౝ⣣◲ᤃ⸻ᢿⵝ⟎ ో䋣ᣧ䈇䋣シ㊂䋣 ቴⷰ⊛䈮⸻ᢿ䈪䈐䉁䈜䋣䋣 䂹䉀䉖ᄥ 䈀㒐Ⴒ䊶㒐Ṣ᭴ㅧ䋺IP65Ḱ䈁 䂹ኾ↪ᛂ⸻䊊䊮䊙䊷 ଔᩰ 㪈㪃㪍㪏㪇 ଔᩰ 㪈㪏㪐㪃㪇㪇㪇 ㊀㊂ ⚂306.5䌧 䂹䊂䊷䉺ಽᨆ䊶Ꮽශ䊒䊨䉫䊤䊛 ᄖᒻኸᴺ ଔᩰ 㪋㪏㪃㪊㪇㪇 82.25㬍144.25㬍29.30(mm) ᧄⵝ⟎䈱㐿⊒䈮ᒰ䈢䈦䈩ፉᩮ⋵ਛጊ㑆ၞ⎇ⓥ䉶䊮䉺䊷䊶৻⥸␠࿅ᴺੱᣣᧄ᮸ᧁකળፉᩮ⋵ᡰㇱ䊶ፉᩮᄢቇ䊶᧲੩ᄢቇ䊶৻⥸␠࿅ᴺ ੱⴝ〝᮸⸻ᢿදળ䈱䈗දജ䍃䈗ᜰዉ䉕䈇䈢䈣䈇䈩䈍䉍䉁䈜䇯 ᧄⵝ⟎䈲ፉᩮ⋵ਛጊ㑆ၞ⎇ⓥ䉶䊮䉺䊷䈮䉋䉍⊒䈘䉏䈢䇸᮸ᐙౝ⸻ᢿᣇᴺ䈶ⵝ⟎䇹䋨․⸵╙4669928ภ䋩䉕↪䈚䈩䈇䉁䈜䇯 㐿⊒䊶ㅧ䊶⽼ᄁ ᩣᑼળ␠ 䊪䊷䊦䊄᷹㊂⸳⸘ 䈚䈒䈲䉮䉼䊤䊶䊶䊶 䊪䊷䊦䊄᷹㊂⸳⸘ 䇾㪍㪐㪊㪄㪇㪇㪈㪊 ፉᩮ⋵㔕Ꮢ⩆᧺↸㪉㪎㪋㪄㪉 TEL䋺(0853)24-8133 FAX䋺(0853)25-0299 http://www.world-ss.co.jp/ 㪜㪄㫄㪸㫀㫃䋺㫇㫆㫅㫋㪸㪗world-ss.co.jp ᬌ⚝ 森林技術 No.851 ── 2013年 2 月号 目 次 論 壇 特 集 統計に見る日本の林業 報 告 技術者コーナー 緑のキーワード 連 載 シリーズ 演習林 報 告 本の紹介 木っと復興通信 ご案内等 天守閣の木造建替ラッシュに備える ―コンクリート造復興天守閣の耐用年限を迎えて 三浦正幸 2 日本の木造建築物の系譜と林業のかかわり 木造の文化財建造物を支える森林づくり 飛山龍一 8 近代木造建築構法の技術的変遷 軽部正彦 14 木造建築の部材供給における要求事項について 板垣直行 20 林野庁 25 広葉樹材の需給動向 フォレストワーカー研修の実施報告(GPS 測量実習より) 安全な原木しいたけの供給を目指して ―原木の指標値を中心として 杉山 要 26 村 洋 28 オープンソース GIS 小澤洋一 33 半人前ボタニスト菊ちゃんの植物修行 18 3 つの植物画 ~植物図譜の黎明期を辿る~ 菊地 賢 34 ②京都大学フィールド科学教育研究センター その森林系施設の変遷と活動 柴田昌三 36 も り 『信州:森林と地域の共存を目指して ~森林づくりと地域の役割を考えよう~』より 宮本敏久 38 木の考古学 出土木製品用材データベース 小池孝良 40 防災に役立つ 地域の調べ方講座 井上公夫 40 明日を信じて 竹中雅治 41 森林技術賞・学生森林技術研究論文コンテストの募集 13 /森林・林業関係行事 24 /新刊図書 紹介 33 /協会からのお知らせ(林業技士・森林情報士の登録更新,職員募集 他)42 〈表紙写真〉 『唐招提寺金堂の軒裏組物』(奈良県奈良市) 若松保広氏 撮影 唐招提寺は鑑真和上により開かれ,天平時代から篤い信仰によって守り継がれた貴重な 文化遺産です。堂内に祀られた仏達を守り通した建物は千年以上もの風雪により痛み,平 成の修理が行われましたが,修理部材に適する良質なものが少ないと聞き,文化遺産を残 すためには森林が大切だということを考えさせられました。 (撮影者記) 本会ホームページ【URL】http://www.jafta.or.jp 論 壇 天守閣の木造建替ラッシュに備える ―コンクリート造復興天守閣の耐用年限を迎えて 広島大学大学院文学研究科 教授 〒739-8522 広島県東広島市鏡山 1-2-3 Tel & Fax 082-424-6699 E-mail:[email protected] 1954 年,名古屋市に生まれる。東京大学工学部建築学科卒業。 工学博士・一級建築士。広島大学工学部助手・助教授を経て, 1999 年に広島大学文学部教授。専門は日本建築史・文化財学。 神社・寺院・城郭・茶室・民家の歴史や構造を文科・理科の 両分野から研究。津和野城・三原城・岡山城・赤穂城・名古屋 城等の国史跡の整備委員を兼任。吉川元春館跡台所・岡崎城東 櫓・高根城井楼等を復元設計。主な著書に, 『城のつくり方図典』 (小学館,2005),『神社の本殿』(吉川弘文館,2013)。 み うら まさ ゆき 三浦正幸 ●鉄筋コンクリート造の不滅神話 そび 太平洋戦争の空襲では数多くの国宝建築が焼失した。とくに大都市の中心に聳えて いた天守閣(正式名称は「天守」なので以下は天守と表記)の被害は甚大で,名古屋 城・岡山城・福山城(広島県)・和歌山城・大垣城といった国宝天守が焼失し,広島 城天守は原爆で倒壊して滅失した。日本の主要都市の大半は城下町を起源としており, そのシンボルであった天守の喪失は市民をひどく落胆させた。そして戦後の復興が一 段落した昭和 30 年代になると,市民の熱望によって,失われた天守の再興が各地で 始まった。戦災焼失天守の再興は,明治時代に取り壊された天守やさらには江戸時代 に焼失した天守の再興も促し,全国で天守が次々と建築されていった。関ヶ原の戦い けいちょうき の直後に起こった慶長期の築城ラッシュ(1601 ~ 15 年)に続く,第 2 次築城ラッシュ となったのである。 ところが,その第 2 次築城ラッシュが始まる前に建築基準法が施行され,木造建築 の不毛時代を迎えていた。基準法により比較的近年まで木造は原則として 2 階建てま でに制限されていたし,不特定多数の人々が入る大規模建築は不燃化が義務づけられ ていた。当然のこととして,天守再興は不燃・耐火建築である鉄筋コンクリート造で 行われた。戦災で木造建築がいとも簡単に焼失した経験は,天守の不燃化を推進させ る大きな底力となった。さらには,鉄筋コンクリート造は木造とは違って腐朽や虫害 のおそれもなく半永久的にもつ,という神話が当時は広く信じられていた。 鉄筋コンクリート造には極めて短い耐用年数しかないという事実は,第 2 次築城ラ 2 森林技術 No.851 2013.2 ッシュが終わりかけた頃に知られるようになった。コンクリートの中性化という現象 である。コンクリートの中に埋め込まれている鉄筋は,コンクリートの強アルカリ性 さ に守られているので錆びることがないが,コンクリートが大気中の二酸化炭素を吸収 して中和され,中性となると,たちどころに鉄筋が錆びて膨張し,その外側のコンク リートの被覆を割り裂いてしまうのである。コンクリートの表面から中性化が始まり, 3cm 内側に位置する鉄筋のところまで中性化が進展するのには,50 年ほどしか,か かぶ からないのだ。近年はコンクリートの被り厚が 4cm に改められたが,天守の再興ラ ッシュには全く間に合わなかったのである。 昭和 30 年代から 40 年代にかけて建築された鉄筋コンクリート造天守は,全国で 20 棟をはるかに超えている。それらはそろそろ耐用年限を迎えつつあり,一部のも のはすでに寿命が尽きている。しかも中性化だけの問題ではなく,耐震基準が今日よ りもずっと甘かった時期の建築であるため,すべてが耐震不適格なのだ。近いうちに 高額の耐震補強工事が必要となるが,中性化でコンクリートの寿命が尽きようとして いる建築に,高額の費用をかけて補強する意義はあまりなかろう。費用対効果を考え れば,あっさりと建て直したほうが合理的であろう。 ●天守の木造再建時代の到来 近年,とくに平成になってから再建された天守は木造が主流となった。白河小峰城 (福島県)を筆頭に,白石城(宮城県) ・掛川城(静岡県) ・大洲城(愛媛県)の天守(天 やぐら 守代用の三階櫓を含む)が木造で再建された。熊本城の五階櫓も木造で再建された。 たつみ 付言しておくなら,金沢城五十間長屋や菱櫓・駿府城(静岡県)東御門や巽櫓・岡崎 城(愛知県)東隅櫓・丹波篠山城(兵庫県)大書院・広島城表御門や多門櫓・今治城 くろがねごもん (愛媛県)鉄御門・松山城(愛媛県)小天守と櫓と城門・熊本城本丸御殿・首里城(沖 縄県)正殿や城門なども木造で再建され,現在も名古屋城本丸御殿が木造で再建工事 中である。 木造が主流となった理由の一つは,天守の観覧者の目が肥えてきたからだ。コンク リート造天守では外観のみの復元であって,その内部はただの現代的ビルディングに すぎず,登閣した人々の落胆は大きい。天守は都市の中央にあって,再興当時では最 も高い建物だったので,周囲を見渡せる展望台としての役割もあったが,近年では高 層ビルが林立し,天守からの展望はあまり期待されなくなった。逆に全国で 12 棟残 すこぶ っている明治維新以前の天守は,人気が頗る高い。本物志向の観光客が多くなったの である。 もう一つの理由は,平成以降は文化財行政に大きな変化が生じ,城跡の史跡として の保全が強化されたからだ。鉄筋コンクリート造天守の多くは安易な推定によって設 計されたもので,そうした正しくない天守の「復元」(正しい復元ではないので,「模 擬復興」と呼ばれる)に対する批判と反省から,国指定の史跡では,天守の内側も外 森林技術 No.851 2013.2 3 側もともに歴史的に正しい復元であることが義務づけられ,その結果として木造でな ければ天守再建は許可されなくなったのである。県や市町村の指定史跡でも国史跡に 準じるのが普通となった。そして,平成以降に建築された鉄筋コンクリート造の天守 は,その城跡が史跡とはされていないものに限られ,すなわち歴史的価値は相当に低 い。 さて,日本の木造建築の耐用年数は,建築用材の良質さと木工技術の優秀さによっ とうしょうだいじ て世界随一である。社寺建築であれば,300 年は当然で,法隆寺金堂や唐招提寺金堂 はり のように直径 60cm ほどもある太い柱や梁を用いた大建築となると,優に 1,000 年を 超える。鉄筋コンクリート造の 5 倍から 20 倍以上である。しかも,伝統的木造建築 には耐用年限は有って無いようなもので,修理を加えて腐朽した部材を取り替えると, また新たな耐用年数が生まれるのである。伝統的な木造建築には半永久的な寿命があ る,としても誤りではないのだ。はかない鉄筋コンクリート造に比べて,日本の木造 建築の性能が再評価され,天守再建の基本的構造は木造となったのである。もちろん 天守だけに限らず,櫓や城門,御殿などほとんどすべての建築も木造で正しく復元さ れるようになった。平成の世は木造による第 3 次築城ラッシュとなった感があり,全 じょうかく 国各地で城郭建築が次々と木造再建されている。うれしいかぎりである。 ●天守の木造建替ラッシュは間近 さて先述したように,昭和戦後に鉄筋コンクリート造で再興された天守は耐用年限 を迎えようとしている。今後 20 ~ 30 年以内に,ほとんど全部のコンクリート造天守 を再々建する必要がある。第 3 次築城ラッシュは,間もなくコンクリート造天守の木 造建替ラッシュに突入するはずである。その第 1 号がどの天守になるかは興味津々で なだれ あるが,第 1 号が現れたら雪崩をうって天守建替が行われるだろう。 国史跡では,櫓・城門などの再建と比べて,天守再建には特に高い規制が加えられ さし ず ており,戦前の実測図,古写真,江戸時代の大工が作成した指図(一種の設計図)や ひな がた 雛形(模型) ,絵図などがないと,なかなか許可されない。そうしたなかでは,戦災 で失われた名古屋城・大垣城(国史跡未指定) ・岡山城・広島城は戦前の実測図と古 写真が残っており,福山城も古写真のほかに簡略ながら実測図がある。これらの現天 守はコンクリート造再建であるが,木造で再々建される日は遠くない。また,雛形の 残る小田原城,指図と古写真の残る和歌山城も再建基準に適合していると考えられる。 現在の天守がコンクリート造であるものは,その耐用年限の到来に従って取り壊す としても,その代わりに木造での天守再々建が地元で切望されるはずで,その場合は 厳しい再建基準の見直しも考えられる。古写真や指図だけによる再々建も行われる可 能性が高い。松前城(北海道) ・会津若松城(福島県)・高島城(長野県)・岡崎城・ 岩国城(山口県) ・熊本城などが該当しよう。また,現在は未再建の江戸城・水戸城・ 4 森林技術 No.851 2013.2 津山城(岡山県)・鳥取城・萩城(山口県)・高松城なども木造で再建される可能性を もっている。 木造再建は天守だけではなく,大型の櫓や城門なども当然含まれる。戦災焼失した 仙台城大手門と隅櫓,名古屋城本丸櫓門と隅櫓,大坂城京橋門なども候補となろう。 ●天守再建用材の材種と等級 ところで,近年の木造再建例を見ると,天守・櫓・城門・御殿に至るまで,柱には ひのき 無節の檜が当然のように使われ,床板までも無節の檜板であることが普通である。城 の建築なので最高級の建材を用いるというのだが,地元有力者の意向で,市の顔とな る建物だから高級材を選べという理屈も根強い。 「無節の檜信仰」とでも呼びたい考 ぶ げんしゃ え方は,明治・大正期に全国に広まったもので,当時の分限者の豪邸を建てる際に叫 よ いん ばれたものである。その余韻はまだ残っており,近年の城郭建築の木造再建の際にも 主張されるのだ。その結果,まるで明治・大正期の「檜の御殿」のようになってしま い,まったく城郭建築らしくない復元建築が目立つのである。 さて,天守の用材については,戦災焼失した名古屋城が無節の木曽檜(尾州檜)を 使っており,史上最高級の天守の一つであった。明暦 3 年(1657)の大火で焼失した 江戸城天守も同様であったと考えられる。姫路城や伊予松山城も檜材であるが,その つが まき 他の天守では,檜の使用例はあまり多くなく,杉や松といった樹種が多い。栂・槇・ けやき かや もみ 欅・栗・榧・樅などが混用されることも当たり前であった。櫓や城門でも全く同様で ある。しかも,檜や杉の柱の場合では,大きな節をもつ例が多く,無節の例は少数派 なのである。松江城天守に至っては,大材の入手が困難であったため,細い柱の表面 かすがい に厚い板材を鎹で張り付けて太い柱を作っており,いわば集成材なのである。 なお,当然のことではあるが,柱を檜や杉とした場合でも,梁は特別に大径材でな いと曲げ力に対抗できないので,太い松丸太(元口で 30 ~ 75cm)とするのが普通 であった。 今後の木造再建においては,強度と耐久性を考慮すべきで,柱や主要な構造材(梁 を除く)には国産の檜が推奨される。しかし,城郭建築だからといって,最高級の無 節の檜を無思慮に使用するといった愚行は慎まなければならない。節のある材の使用 は当然のことで,城によっては杉を使うことも考えなければ,本当の復元とは言えな いであろう。実は,天守をはじめとする城郭建築再建の用材確保には, 「無節の檜信仰」 かなめ の打破が要となってくる。城郭建築に使われる柱材は一般的な住宅建築とは比べよう もなく太く,無節にこだわっていては用材の確保が不可能となってしまうからである。 ●天守再建用材は大径木 地震国日本では,巨大木造建築は不利と思う向きもあろうが,天守は意外に地震に きょうじん 強い。寛永 15 年(1638)に建てられた江戸城天守はとくに強靱で,檜の巨柱が林立 森林技術 No.851 2013.2 5 ▲寛永度江戸城天守北復元立面図 ▲寛永度江戸城天守一階復元平面図 ▲寛永度江戸城天守梁間復元断面図 6 森林技術 No.851 2013.2 していたからである。日本の檜は,世界の木材のなかで建材として最高の特質をもっ ている。強度は高く,粘り気があって折れにくい。江戸城天守 1 階の柱はすべて 1 尺 2 寸(約 36cm)角で民家の大黒柱以上のものであり,現代の木造住宅に使われる 10cm 角の柱の 13 倍もの断面積がある。もちろん 13 倍の重さを楽々に支える。 地震によって柱を折り曲げる力に対抗する強さは,なんと 168 倍にも達し,絶対に 折れることはない。さらに驚くべきことに,2 階から 3 階の通し柱は 1 尺 7 寸(約 51cm)角もあった。強度は 676 倍にもなる。しかも檜であるから,現代住宅に多く 使われる米松に比べると格段に強い。強度に関しては,間違いなく史上最強の天守で そうぐう あって,関東大震災に遭遇したとしても,びくともしなかったであろう。 ついでに言っておけば,檜は耐久性能が世界一の木材で,1 尺 2 寸角の柱で建てた とすれば,500 年は軽く持つであろう。500 年後に修理をすれば,また寿命が伸びて, 修理をしつつ 1,000 年ぐらいは大丈夫と考えられる。 さて,江戸城天守では,1 尺 2 寸角の檜柱が 1 階に 191 本(うち 107 本は長さ 9 m, 84 本は長さ 7.5 m) ,2 階に 142 本(83 本は長さ 10 m,59 本は長さ 9 m),2 ~ 3 階 間の 1 尺 7 寸角の通し柱が 13 本(長さ 16.5 m)使ってあった。地上 5 階,地下 1 階 であったので,その柱総数は大変なものであった。もちろん梁に使う太さ 60cm 以上 たる き (長さ 7 m)の松丸太も膨大に必要である。垂木にしても,現代の住宅に使われる通 し柱の 4 寸角より太い。 史上最大であった江戸城天守を再建する市民運動がある。以前は単なる空想にすぎ なかったが,最近はしだいに現実性を帯びつつある。その賛否両論のなかでは,用材 が日本国内では確保できないのではないか,という懸念が多く寄せられている。直径 60cm ぐらいの原木でないと,1 尺 2 寸角の柱が取れないし,とくに通し柱材には末 口の直径 80cm,長さ 16.5 mの原木が必要となるからだ。 江戸城天守とほぼ同大であった名古屋城天守の木造建替も,いくら遅くとも 40 年 以内に実施されるはずだ。広島城・岡山城・福山城といった五重天守も,柱は 1 尺 いんずう (30cm)角ぐらいで,その員数は 1 階だけでも 100 本に近い。梁材としての松丸太も 大量に必要となる。 今後,全国で 20 ~ 30 年以内にコンクリート造天守の再々建と未再建天守の再建と で,合わせて 40 棟以上の天守が,さらには櫓や城門を合わせて 100 棟ぐらいの伝統 的木造建築の工事が予想される。大径材の檜・杉・松の需要がおおいに見込まれるの である。筆者の想像では,無節にこだわらなければ,それらに要する大径材は日本全 まかな 国の森林で十分に賄えるはずであるが,大径材をその時まで温存しておく必要はある。 しかもその時は,そう遠くはない。 [完] 森林技術 No.851 2013.2 7 特 集 日本の木造建築物の系譜と林業のかかわり 木造の文化財建造物を支える 森林づくり 飛山龍一 林野庁国有林野部 職員・厚生課長 Tel 03-6744-2330 Fax 03-3502-8052 はじめに ―どのような木材が必要か,森林づくりの課題 木造の文化財建造物は,社寺,仏閣など 3000 棟を超えます。これら木造の文化財建造 物は,定期的に修理を繰り返すことによって維持されてきました。文化財修理はなるべく 既存の部材を用いることが原則であり,文化財修理用部材の使用量はさほど多いわけでは ありません。しかし,大径材・長尺材・高品質材といった希少なものが求められるという 特徴があります。このため,木造の文化財建造物を維持するためには,文化財修理用部材 を供給するための森林づくりが欠かせません。 「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」が平成 16 年 1 月に実施した法隆 とびら いた 寺の調査によると,例えば,金堂の 扉 板(幅 102 ㎝)を同じような木取りで取るために すえくち は最低でも末口径 180 ㎝の丸太が必要となり,この丸太を得るためには最低でも胸高直径 くもひじ き 185 ~ 200 ㎝の立木が必要となることが分かりました。同様に,五重塔の雲肘木(高さ 68 ㎝)を取るためには最低でも末口 80 ㎝の丸太が必要となり,この丸太を取るためには最 低でも胸高直径 88 ~ 90 ㎝の立木が必要となることが分かりました。1) 平成 8 ~ 10 年度に文化財建造物保存技術協会が行った国指定文化財建造物保存修理事 業の実績報告書によると,断面寸法が 36 ㎝以上,または長さが 4.2m 以上のような比較 的大径,長尺の文化財修理用部材の比率は,修理に用いられた材に対して約 3 分の 1 とな 2) っています。 これら文化財修理用部材を供給するためには,より太くて長い高品質な丸 太が必要だったはずです。 はんちゅう せんぐう また,文化財の範 疇 から外れますが,遷宮や城郭・御殿等の復元にも大径材・長尺材・ 高品質材が必要となります。 文化財を支える森林づくりの課題と取組 木造の文化財建造物は文化財所有者のものであるばかりでなく,国民共通の財産であり, その修理に必要な部材を提供する森林づくりも国民的な課題としてとらえることが重要で す。しかし,文化財修理用部材に用いられるような極めて大径・長尺・高品質な立木を育 成するには,次のような課題があります。 ① 育成途上に台風による風倒被害,雪害,病虫害,菌類における腐れ等の被害を受ける 恐れがあります。全国的なマツクイムシ被害は,文化財修理用部材に用いられるマツ材 の入手を困難にしています。 1)科学研究費補助金研究成果報告書「木造建造物文化財修理用資材確保に関する研究」 2)文化庁委託調査「平成 13 年度ふるさと文化財の森構想調査報告書」 8 森林技術 No.851 2013.2 ▼表① 「京都・文化の森」平成 17 年度 登録森林一覧 番号 所在地 樹 種 面 積 林 齢 1 京都市右京区京北細野町 アカマツ 3.97ha 97 年 2 京都市北区雲ヶ畑 アカマツ 0.74ha 61 年 3 京都市北区大森,雲ヶ畑 アカマツ,クリ,ケヤキ,スギ 4.00ha 34 ∼ 100 年 4 京都市右京区京北下熊田町 アカマツ,ヒノキ 1.00ha 25 ∼ 100 年 5 京都市北区鷹峯堀越町 スギ(北山台杉) 1.00ha 50 ∼ 100 年 6 京都市左京区久多下の町 トチノキ,ミズナラ,モミ 3.00ha 95 年 7 京都市左京区鞍馬本町 コバノミツバツツジ 1.50ha 5 年∼ 8 長岡京市浄土谷 ヒノキ 0.47ha 115 年 南丹市八木町神吉 ヒノキ 3.12ha 80 ∼ 90 年 10 9 舞鶴市上漆原 ヒノキ 0.65ha 104 ∼ 106 年 11 舞鶴市岡田 スギ,ヒノキ 計 11 箇所 2.00ha 80 年 21.45ha 5 ∼ 115 年 ② 相続税の納税や森林所有者の経済的理由により,立木が売払われることも想定されます。 ③ 大径材を育成したとしても,生産される立木が文化財修理用部材に適したものになる 保証はありません。仮に,文化財修理用部材に適したものであったとしても,育林費用 に見合った立木価格が保証されている訳ではありません。 * 木造の文化財建造物を支える森林づくりは,このような課題を踏まえて取り組む必要が あります。以下に,主体別の取組を紹介します。 (1) 民間 「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」は森林所有者,社寺関 係者, 堂宮大工, 学識経験者等からなる任意団体です。同会議が取り組んでいる“『文化材』 創造プロジェクト”とは,森林所有者の方々が自発的に,長伐期施業を目指している山の 一部を,将来,文化財の修理等に提供できるような森として維持・育成していくことを登 録してもらう制度です。全国の個人,法人,自治体等の森林所有者数十名がこの取組に賛 同し登録しています。登録制度に強制力はありませんが,登録やシンポジウムを通して, 森林所有者と社寺や堂宮大工等との間で文化財修理にかかる連携が生まれています。 (2)社寺 京都の清水寺の本堂(国宝)は高さ 18m,正面約 36m,側面 31m,総面積は 982m2 あります。舞台の高さは 12m です。本堂は総合計 172 本の柱で組み立てられており, そのうち 78 本が懸けづくりの柱で, すべてケヤキです。一番長いもので約 12m, 最も細いと ころでも径約 80cm です。将来, 必要となってくるこれらの修理用材を確保するため, 清水寺 はな せ は平成 10 年に京都花背の山を購入し, 寄進または購入したケヤキの苗木を植林しました。 苗 木の選定, 下刈り, 歩道整備, 病虫害, 雪害及び獣害対策など育林に熱心に取り組んでいます。 (3) 自治体 京都府では,平成 15 年度から「京都・文化の森」事業に取り組んでいます。 「京都・文化の森」とは,京都府内の文化財修復に必要な建築素材を供給するために,京 都府が森林所有者との間で育成管理協定を結ぶものです。平成 15 年度にヒノキ林 5 箇所, 16 年度にスギ林 5 箇所を指定し,平成 17 年度にアカマツ林等を 11 箇所登録しています (表①)。また,平成 22 年からは NPO と連携して, 「京都・文化の森」の立木情報のデー 森林技術 No.851 2013.2 9 タベース化等を図っています。これまで,知恩院や大徳寺玉林院の小屋材(屋根を支える 骨組み材)を指定林等から供給するなどの実績をあげています。 (4)文化庁 国宝や重要文化財などの文化財建造物を修理し,後世に伝えていくために ひ わだ かや うるし は,木材や檜皮,茅,漆などの資材の確保と,これらの資材に関する技能者を育成するこ とが必要です。このため,文化庁は,文化財建造物の保存に必要な資材の供給林及び研修 林となる「ふるさと文化財の森」の設定,資材採取等の研修,普及啓発事業を行う「ふる さと文化財の森システム推進事業」を実施しています。 「ふるさと文化財の森」は,平成 24 年 3 月時点で個人所有の森林,大学演習林,社寺林など 45 箇所が設定されています。 (5)林野庁 国有林野事業では,国民参加の森林づくり活動「木の文化を支える森」を 推進しています。「木の文化を支える森」とは,地域の協議会等と協定を締結し,国民参 加の森林づくり活動を推進するものです。各地で活動している「古事の森」もその一つで す。平成 23 年度末までの協定の締結実績は,22 箇所・565ha です(表②)。これ以外にも, 各森林管理局でも様々な取組が行われています。以下,主な事例を紹介します。 ・中部森林管理局は文化的価値の高い建造物への木材供給を行うための施業(木曽ヒノキ文 化財等択伐複層型施業群)を実施しているほか,「檜皮の森」を設定し,(公社) 全国社寺 もと かわ し 等屋根工事技術保存会と森林整備協定を締結しています。 「檜皮の森」は原皮師の研修フ ィールドの場としても活用されています。 ・近畿中国森林管理局は「世界文化遺産貢献の森林」を設定し,木材や檜皮の供給,原皮師 の養成のためのフィールドの提供などを行っています。 ・四国森林管理局は,安芸森林管理署管内に「文化財資源備蓄林」を設定しています。 制度改正 木造の文化財建造物を支える森林づくりに関係する制度面の改正が,最近いくつかあっ たので紹介します。 (1) 相続税 平成 23 年に改正森林法が成立しました。この改正により,森林計画制度の 見直しが行われ,森林所有者等が作成していた森林施業計画を森林経営計画に改め,集約 化を前提に,路網の整備等を含めた実効性のある計画とすること等が規定されました。 また,これに伴い,平成 24 年 4 月 1 日以降,森林法に基づき森林経営計画の認定を受け, その計画に従って山林経営を行ってきた被相続人の所有する山林の全てを,相続人のうち の一人(後継者)が相続または遺贈により取得し,引き続きその計画に従って山林経営を 行う場合には,その後継者が納付すべき相続税のうち,その山林の価額の 80%に対応す る相続税の納税が猶予されることになりました。この制度改正は,何世代にもわたる長伐 期施業を目指してきた森林所有者にとって朗報となりました。 (2) 分収造林契約等の存続期間延長 「国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るた めの国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する等の法律」が平成 24 年に成立 し, 「国有林野の管理経営に関する法律」の一部改正が行われました。 これにより,国以外の者と国有林野の育林等の費用を分担し,将来収益を分配する仕組 みである分収造林契約及び分収育林契約の存続期間(80 年及び 60 年)について,公益的 機能の維持増進を図るため長伐期施業を行うことが適当と農林水産大臣が認めるときは, 10 森林技術 No.851 2013.2 (平成 24 年 3 月現在) ▼表② 「協定による国民参加の森林づくり」箇所一覧 局 署 名 称 都道府県 協定年月日 面積 (ha) 協定相手方 北海道 胆振東部署 イウォンネシリ 北海道 H18.6.16 4.35 白老町長 北海道 檜山署 檜山古事の森 北海道 H15.11.3 5.00 檜山古事の森 育成協議会 東 北 岩手南部署 平泉古事の森 岩手県 H21.9.26 10.21 東 北 岩手南部署 歴史の森 岩手県 H16.7.7 東 北 米代西部署 ポスト天杉の森 東 北 米代西部署 秋田杉・桶樽 の森 秋田県 H15.4.1 2.00 東 北 米代東部署 曲げわっぱの森 秋田県 H15.4.1 20.45 関 東 関 東 茨城署 下越署 筑波山古事の森 鬼太鼓の森 秋田県 茨城県 新潟県 H15.4.1 0.57 H15.5.8 H19.1.26 2.00 5.46 4.90 平泉古事の森 育成協議会 東北電労歴史の森 育成協議会 ポスト天杉の森 育成協議会 秋田杉・桶樽の森 育成協議会 曲げわっぱの森 育成協議会 筑波山古事の森 育成協議会 活 動 概 要 アイヌ文化の伝承、保存及び普及啓発を行う場として活動。 植栽箇所の巡視、植栽箇所の草刈、シカ対策ネットの補修。 歴史的建造物の修復等に用いる木材を育てる場として活用。檜 山古事の森育成協議会、同実行委員会により、保育作業を実施。 中尊寺、毛越寺等歴史的建造物の修理・復旧に必要な資材を供 給する森林づくりのため、地元小学生等によるヒバ・ケヤキの 植樹等や森林の役割等森林環境教育を実施。 東北地方(新潟県含む)の歴史的建造物を維持していくための 必要不可欠な大径・長尺の樹種を育て、 国土の緑化に繋げる(ケ ヤキの植樹及び下刈実施) 。 地域の伝統産業振興のため、天然秋田杉の代替材として高齢級 人工林スギの育成を図り、併せて木の文化の継承に貢献。林内 歩道等の修繕を実施。 国の伝統工芸品である秋田杉桶樽の材料となる天然秋田スギに かわる高齢級人工林スギを守り育て、併せて木の文化の継承に 貢献。林内歩道等の修繕を実施。 国の伝統工芸品である大館曲げわっぱの材料となる天然秋田ス ギにかわる高齢級人工林スギを守り育てるため、つる切りや歩 道の整備及び小学生への森林環境教育を実施。 歴史的建造物の修復等に用いる木材を育てる森林づくりを行う。 平成 15 年ヒノキを植栽し、森林整備を実施。 佐渡の伝統芸能である鬼太鼓を未来永劫継承するために、太鼓 「鬼太鼓の森づくり」 やバチの材料となるケヤキを確保し、森林の持つ機能向上に寄 協議会 与する活動を行う。植栽したケヤキ等の保育作業、野兎対策の 実施。 中 部 東濃署 裏木曽古事の森 岐阜県 H16.10.8 23.20 裏木曽古事の森 育成協議会 古くから最高級の木曽ひのきを産出してきた裏木曽地域におい て、200 年から 400 年の大径材の森づくりを進めながら、木 の文化を未来に継承することを目的に、森林の育成・保全活動 を実施する。 中 部 南木曽支署 檜皮の森 長野県 H14.11.7 71.36 中 部 南信署 御柱の森 長野県 H14.11.26 383.46 中 部 北信署 道祖神祭りの森 長野県 H15.10.10 15.14 中 部 南木曽支署 近 畿 中 国 京都大阪所 近 畿 中 国 近 畿 中 国 南木曽 長野県 H18.5.26 3.16 京都古事の森 京都府 H14.4.17 1.99 奈良所 春日奥山 古事の森 奈良県 H16.1.21 0.48 奈良所 斑鳩の里法隆寺 古事の森 奈良県 H17.10.28 1.16 伝統工芸の森 近 畿 中 国 和歌山署 高野山古事の森 和歌山県 H16.8.10 近 畿 中 国 広島署 悠久の森 広島県 H15.3.26 四 国 愛媛署 伊予之二名島 古事の森 愛媛県 九 州 沖縄署 首里城古事の森 九 州 大分西部署 木うその森 公益社団法人 全国社寺等屋根工事 将来に引き継ぐ建造物等の修復に必要な檜皮屋根の資材確保の ため、檜皮の採取のほか、必要に応じて歩道整備やつる切り等 技術保存会 の森林整備、後継者育成のための研修会等を実施する。 御柱の森づくり 協議会 地縁団体法人 野沢組 南木曽伝統工芸の森 育成協議会 京都古事の森 育成協議会 春日奥山古事の森 育成協議会 斑鳩の里法隆寺 古事の森育成協議会 諏訪地域の伝統行事である御柱大祭で使用する御柱用のモミを 将来にわたり持続的に供給するため、ボランティア等によりモ ミの植込み、つる切り、シカの防護柵等の森林整備を実施する。 野沢温泉村の道祖神祭り用の資材を将来にわたり持続的に供給 するため、野沢組及び地元ボランティア等による森林整備活動 を実施する。 国や県の伝統工芸品に指定されている「南木曽ろくろ細工」 「蘭 檜笠」「サワラ桶」など南木曽町の伝統工芸産業の維持育成や 地域振興のため、森林整備や沿線の景観整備等を実施する。 ヒノキ大径材の育成(平成 13 年の立松和平氏と足尾を管轄す る営林署長(当時)の話に端を発し、林野庁長官との話が発展 して古事の森制度が発足。その第一号。 ) 。 ヒノキ・スギ・ケヤキ大径材の育成。 ヒノキ大径材の育成。 1.51 和歌山古事の森 育成協議会 高野山における社寺をはじめとした木の文化を守るために、ヒ ノキ・スギ・コウヤマキ・ツガ・アカマツ・モミを育成する。 0.80 宮島千年委員会 平成3年の台風 19 号による大被害を教訓に、厳島神社の大鳥 居用材となるクスノキを育成する。 H19.10.9 4.00 伊予之二名島 古事の森育成 協議会 愛媛県久万高原町のサル谷山国有林内 (4.00ha)において、 「木 の文化」の象徴である伝統的建造物の修復用資材の確保のため 取組として、松山城・道後温泉本館をはじめ松山市に現存する 将来修復が必要となる伝統的木造建造物を目的とし林業体験等 を実施する。 沖縄県 H20.11.20 2.49 首里城古事の森 育成協議会 首里城の復元・修復に使われているイヌマキ、オキナワウラジ ロガシ等の樹種を育て国民参加による木の文化の継承に貢献す る。 大分県 H16.3.16 1.65 太宰府木うそ保存会・ ボランティア等により、コシアブラの植栽、天然更新の補助作 太宰府市長・ 業、刈り出しや除伐を行う。 太宰府市商工会 森林技術 No.851 2013.2 11 それぞれ,一回ごとに 80 年または 60 年を超えない範囲で延長できるものとすることとな りました。延長を繰り返せば,超長伐期の分収林が成立することになります。 国は多くの社寺と分収林契約を結んでいます。これには,江戸時代までの社寺有林の多く を明治時代初期に上地令で官有地に編入したことが背景にあります。その代替措置として 保管林制度ができ, その後, 分収林制度に引き継がれました。社寺からは,最長でも 80 年更 新の森林づくりより,森林景観への配慮や社寺の修理用材の確保を目的とした超長伐期の 森林施業を希望する声が寄せられていました。制度改正にはこうした声が反映されています。 流通・加工にかかわる「人」 ここでは,文化財修理用部材に関わる人について述べさせていただきます。立木が文化 財修理用部材になるまでには,様々な人が関わっています。素材生産業,原木市場,製材 工場,木材流通業,文化財修理の施工等に携わる方々です。 丸太や立木価格と文化財修理用部材との価格差が大きいため,加工業や流通業をブラッ クボックスのように論ずる傾向があります。しかし,これには相応の理由があります。 それはリスクを彼らが負っているということです。例えば,立木購入時には,立木の段 階で丸太の品質を正確に予測することは難しいというリスクがあります。丸太購入時には, 丸太の段階で木取りされる部材の品質を正確に予測することは難しいというリスクがあり ます。製材時には,購入した丸太から注文通りの部材が取れる保証はないというリスクが ひ あります。隠れ節,腐れ,アテなどの欠点が丸太を挽いてみて分かったということは往々 ぶ ど にしてあります。また,文化財修理用部材の木取りは特殊なものが多く,歩留まりがよく ありません。納入しても検品で落とされる(返品される)こともあります。加工・流通段 階では,このようなリスクに対応する「目利き」の存在が欠かせません。 また,文化財修理用部材を使う堂宮大工の存在はより重要です。文化財建造物の保存修 理に携わる堂宮大工には,一般建築技術に加え,歴史的伝統技法に対する高度の熟練と経 験,さらには木材の特質を見極めることのできる目が求められます。しかし,加工・流通 段階における目利きや熟練の堂宮大工の数は,昨今極端に減ってきているのが現状です。 まとめ 木造の文化財建造物は社会的影響や森林資源の制約を受けているため,時代や地域によ り建造物の形や大きさが異なり,建築部材も千差万別です。この中で,特に文化財修理用 部材として確保しておかなければならない材は,大径・長尺の良質材です。 木造の文化財建造物を支えるためには何 ha の森林が必要かといった議論には,あまり意 味がありません。なぜなら,木材は天然素材であって, 立木の一本一本, 丸太の一本一本の品 質が異なるためです。文化財修理用部材を取るためにはその何倍もの候補となる丸太が必要 であり,さらにその何倍もの候補となる立木(多様な森林)が必要であるということです。 文化財は国民共通の財産であり,木造の文化財建造物がわが国の文化のあり様にとって 極めて重要であることに鑑みれば,その修理に必要な部材を提供する森林づくりも国民的 課題として取り組む必要があると思われます。 (とびやま りゅういち) 12 森林技術 No.851 2013.2 日林協の活動・イベント 《日林協の公募事業》 森林技術賞・学生森林技術研究論文コンテスト 募集のお知らせ 日本森林技術協会では,森林・林業に関わる技術の向上・普及を図ることを目的 として,下記の表彰事業を行っております。本会会員に限らず広く募集を行ってお りますので,周りの方にもお声かけいただき奮ってご応募ください! 《第 58 回 森林技術賞》 半世紀の歴史を重ね,森林・林業界を代表する賞の一つとなっている本賞は,森林技術の向 上に貢献し,森林・林業に関する科学技術の振興に多大な功績をあげられた方を推薦していた だき,審査・表彰するものです。 ◆対 象 森林技術者(林業・木材利用を含む) ◆推薦者 当会の会員 ◆締 切 平成 25 年 3 月 15 日(当日消印有効) 《第 23 回 学生森林技術研究論文コンテスト》 森林技術の研究推進と若い森林技術者育成のため,大学学部学生を対象として,森林・林業 に関する論文(政策提言も含む)を募集し審査・表彰するものです。学生の方は,論文指導を 受けている先生の推薦状を添えて,ご応募ください。 ◆対 象 大学に在学する学部学生 ◆推薦者 対象者の担当指導教授 ◆締 切 平成 25 年 3 月 15 日(当日消印有効) ◆後 援 林野庁, (一社) 日本森林学会 ※ 応募に関する要綱や様式書類については,日林協ホームページをご覧ください。 →[URL]http://www. jafta. or. jp/contents/event/ 推薦書送付と お問い合わせ (一社)日本森林技術協会 管理・普及部 (総務) 〒102-0085 東京都千代田区六番町 7 Tel 03-3261-5281 (代) / Fax 03-3261-5393 森林技術 No.851 2013.2 13 特 集 日本の木造建築物の系譜と林業のかかわり 近代木造建築構法の技術的変遷 軽部正彦 (独) 森林総合研究所 構造利用研究領域チーム長 Tel 029-829-8309 Fax 029-874-3720 はじめに 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成 22 年 10 月 1 日施行)が 整備されて 2 年が経過し,木材を使った建築物に対しての社会の意識は変わってきている。 折悪しくも発災した東日本大震災 1)は,農林水産省と国土交通省が共同で成立した同法施 み ぞ う 行後, 半年を過ぎてのことであった。 しかし, この未曾有の事態を経ても,なお消滅しない変 かじ 革は,日本社会全体が持続可能な社会に向かって舵を切りたいと願っている現れであろう。 1992 年(平成 4 年)にブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地 球サミット)」から始まる地球環境の保護と持続可能な開発を両立させる国際社会の方針 は,昨年 6 月に「リオ+ 20」として同地で開催された「国連持続可能な開発会議」にお いて,気候変動枠組条約など,数々の成果と共に再確認されている。一方,日本社会が経 験したこの 20 年は,戦後の復興から高度経済成長期,そしてバブル経済へと拡大した後 さいな の破綻後の 20 年であり,閉塞感に苛まれ続け,進むべき方向と目標を見失ったかのよう なものであった。近年,欧州各国でも経済危機が顕在化したが,それら激動の中でも「持 続可能な発展」の考え方は確実に根付き,今日の底流を成している。 目指すべき持続可能な社会において木材は,自然の炭素循環の一形態であり再生可能な 循環型の資源として捉えられており,それを原料として製造された木質材料についても同 ふる 義の期待が寄せられている。ただ旧いだけの木造建築が復活したのではなく,古くても新 しい価値を内包する,歴史に裏打ちされた建築構造物として,次世代の社会基盤材料とし たど て再評価を受けているのである。本論では,今日までの木造建築構法の技術的変遷を辿り ながら,今後の木造建築が進むべき方向について考えてみたい。ただし,私的見解が多々 含まれており,必ずしも史実とは合致しない場合もあるかもしれないが,ご容赦願いたい。 い 構造材料と云えば木材であった時代 自然に生育する樹木を伐ることで得られる木材は,有史以前からの歴史を持つ構造材料 として疑う余地は無いであろう。他の構造材料として土や石しか無かった時代において, 長くて軽い木材は,厳しい自然環境から身を守る隠れ家,特に雨の多い日本で重要な屋根 を構成する材料として,高い評価を受けていたことは間違いない。そして今日まで現存す ふ る,草や葉などの同じ自然由来の葺き材と合せて構築された古民家には,庶民の生活を支 える持続可能な構造体の究極の姿があると言えよう。 1)平成 23 年 3 月 11 日,東北地方太平洋沖地震発生。 14 森林技術 No.851 2013.2 日常を過ごす住居は,その建設と維持において庶民の財力に見合う必要がある。材料選 定や架構技術の開発などの構法(構造方法)に関する工夫は,建物を実際に造り出す建築 生産としての工法(施工方法)の工夫と合わせて,施主の負担を軽減するために繰り返さ れてきた。これらの工夫は,生活の質を向上させる目的でも取り組まれてきたが,専用室 の確保や居住空間の拡大などの建築計画的な工夫と合わせて,投資効率の最大化が試みら れてきたと言える。一方,国府の中心施設や崇拝の対象となる宗教施設は,住居とは趣を 異にする。多くの庶民や信奉者に支えられながら建設される建造物(建築物と工作物の総 称の意)は,個人的な財力とは一線を画して,集団としての示威の目的を帯びており,団 体の総意,あるいは指導者の意向によって,その形容が決定付けられてきた。 このように対極的とも言える個人の住居と集団の建造物だが,同じ構造物として抱える 重要な問題は,その維持の方法である。特に木材など,自然分解性を持つ構造材料にとっ て,その性質を停止あるいは遅延させることは,建造物の資産価値を減らさないために必 要不可欠なことであるが,その解決方法は建造物それぞれの建設目的とも深く関わること から,現在もなお探索が続いている重要問題である。 日本のあゆみと建築資材としての木材 木材の大きさは,前述したように伐り出す樹木の大きさを超えることが出来ない。製材 は樹幹から取り出した丸太を切削することで行うが,出来上がった部材の外形はきれいな く けい えんすい 矩形に整えられたとしても,内部で円錐状に積み重ねられた立体的な年輪構造を荒らして, 目切れなどの欠点となってしまうことは避けられない。集成材の登場は,部材の大きさに ついて建築的な自由度を拡げたと言えるもので,適切な製造が行われれば目切れや節とい った欠点の影響を無くし,部材の強度を設計できる技術として成熟している。合板の登場 は,棒状の軸材として使われてきた木材から平らな板である面材となっただけではなく, 木材繊維の方向で大きく異なる強度の差を減らした使いやすい材料として,市場で安価に 入手出来るようになっている。 現存する古代建築の多くは社寺建築等の宗教施設であり,国の統治に宗教が活用された そうごんそうれい こととも関係してか,荘厳壮麗な大建造物が多い。当然ながら,創建当時最高の技術結晶 であるこのような施設では,その時代で手に入る希少な良材を厳選して建てられている。 日本全体の人口が少なく経済規模が大きくない時代は,技術的な未熟さから建設に長期 間を要したこともあって,建設される建造物は少数である。稲作等の食糧生産技術の進化 せん に伴って経済規模が大きくなると,建造物建設数は増え,資源の取合いになっていく。遷 と 都の際,資源調達を案じて解体移築も行われたようであるが,大径材が得難くなったこと で部材は細径化し,それまでの積み木を重ねるような架構から,部材を組み合わせて固め る形式へ変化する。これは,大陸伝来の重量感あふれる太い柱に囲まれた建築様式から, 細い部材を組み合わせた繊細な建築意匠に変化することと表裏一体をなしている。 庶民の暮らしの中では,建築資材でもありエネルギー源の薪炭材でもある木材は,重要 な資源であった。しかし,被統治者として日々の暮らしに追われ,粗末な住居を強制され ていたこともあって,現在まで残る建物は少なく,辿れる歴史は社寺建築に比べると短い。 君主城下等,都市部での大火は,防耐火技術がほぼ皆無の時代に都市を壊滅させたこと 森林技術 No.851 2013.2 15 は間違いない。森林火災における防火帯と同様に,焼失区域を限定する方法として破壊消 しょう い だん 防が技術の中心であったと思われる。戦時中,日本に数多く投下された焼夷弾は,紙と木 で出来た多くの家屋を焼失させた。戦後もしばらくの間,都市部での大火は繰返し発生し て大きな被害が生じている。今日の木造建築に対する厳しい防火規制は,これらの歴史的 経験に大きな影響を受けている。一方,農村部にある古民家では,住まいの手入れ方法が 確立され,その維持努力が継続されてきたからこそ,現存していると言って良いであろう。 消滅した建築物は,もちろん失火等で焼失したこともあるだろうが,維持管理が不足,あ るいは未熟なものか,不要となり打ち捨てられて自然分解したものがほとんどであろう。 新興木構造から戦後復興まで 1945 年の終戦まで続く戦争の時代,戦略物資の統制は建築資材に及び,鉄材を節約し て使用量を減らした木造が隆盛した。当時の戦時同盟国ドイツを始めとした欧米からの技 しょうへい 術移入が,技術者の招聘や若年研究者等の海外視察によって行われ, 「新興木構造」と呼 ばれた時代である。特に戦時中ということもあって戦闘機格納庫等の大空間構造が,製材 ひっ を組み合わせた重ね梁や組立柱,トラス等の構造体によって構築された。同じく鉄材が逼 ぱく 迫した海外では,100m を超える木造電波塔も建造されており,一部は現存している。 これらに用いられた接合法は,少量の鉄で出来た金物を木部材間に介在させ,ボルトで 離れないように留め付けるジベル接合であった。部材から部材へ伝える力には圧縮・引張・ せん断があるが,繊維や年輪の方向と関係して大きな強度異方性を持つ木材の接合部は, 樹木の強度をそのまま引き継ぐ部材軸部に比べて,強度が低くなりがちである。ジベル接 かつれつ 合は,接合部としての引張力の伝達と二次的に発生する割裂破壊に対して有利な面があり, トラス等の合理的な架構方法と合わせて,大規模な構造に多用された。 らんよう 終戦間近から戦後復興期にかけては,国内調達できる数少ない物資として木材が濫用さ れたため,直面する資源枯渇とその将来を心配して「木材資源利用合理化方策」 (昭和 30 年 1 月 21 日閣議決定)が,木造建築の不燃化,木材以外の建設資材の活用,木材保存技術の 活用などを要点に定められた。木材が資源保護された一方で,戦後の復興を支えたのは鉄 鋼であった。復興の端緒ともなる朝鮮戦争に伴う特需は,焼け野原となった日本を世界の 工業加工拠点に導いたが,この核となったのが製鉄であった。この間,庶民の住宅事情は まかな 劣悪なままに捨て置かれたが,必要な住宅供給の大半は木造によって賄われたと思われる。 高度経済成長の時代 戦後復興で得た足掛かりは高度経済成長への橋渡しとなり,世界の工場として輸出大国 になっていく。稼ぎ頭は家電等の電器製品や自動車だったが,その主要材料の薄板鋼板は, 高度な製鉄技術により国内供給されたものであった。薄板鋼板は,曲げ成形して軽量形鋼 になり建築用途向けに供給された。木造住宅内の長い梁を代替したり,住宅を超える規模 の建物の構造体として木材の市場を奪っていくことになる。 高度成長期は,建築生産の合理化にも積極的に取り組まれた時代で,前述した軽量鉄骨 を利用して部品化し工場生産されたプレハブ建築は,鉄骨プレハブとして今日でも仮設建 築物の部品として繰返し再利用されている。木質系プレハブも同時期から生産されてきた 16 森林技術 No.851 2013.2 が,こちらは工場生産による品質の安定と現場の省力化に注力している。時を前後して日 本に導入された枠組壁工法(ツーバイフォー工法)は,2 インチ厚の板を使って二階まで を一気に組み上げるバルーン構法を基にして,現場の作業性を向上させるために各階の床・ 壁の単位で枠組を組み上げていくプラットフォーム構法へ変化したものである。 そもそも建設資材は,大きな構造体を安価に造り上げたい要望から,同種の資材の中か ら比較的低質でも安価なものを選び,大量に使用する場合が多い。高度成長期には,他の 工業製品の副産物を原料とした建設資材が多数登場する。セメントは 100%国内生産され る国産材であり,輸入に頼る諸外国と比べて安価で供給されている。今でこそ砕石や砕砂 が増えているが,急峻な地形を持つ日本では川砂や川砂利なども豊富に採取出来たので, コンクリートは安い建設資材の代表的存在でもある。安いセメントを活用して,木毛セメ ント板や発泡コンクリートなどが造られ,発泡ウレタンやガラスウール等の断熱材と,薄 鋼板や合板,表面化粧材等との複合材料が生まれ,これらは新しい建材「新建材」として, うた それ以前の建材に無い作業性と機能性を提供した。それまでにない性能の高さを謳った新 建材の中には,長期耐用性を考慮していないものや製品性能の安定性が低いなど,信頼性 あだばな の低い製品もあった。その点で新建材は,高度成長期に登場した仇花とも言える。 この時代の日本の建設分野の衆目は,それまでの材料に比べて格段に高性能高機能を持 って新しく登場した鉄鋼やコンクリートなどの無機系材料に注がれた。そして事務所等の 中高層建築物を中心に無駄をそぎ落とした合理的なデザインが志向され,住宅分野が注目 を受けることはほとんど無かった。特に建築構造研究の分野では,木造住宅に関連する研 究がほとんど見当たらない状態が続き,木造暗黒の時代とも言われている。 一方,高度経済成長によって個人所得が増え,戦後の劣悪な居住環境からの脱却を欲す る住宅市場の活況は続いた。短工期で竣工することが望まれ,より豊かな暮らしを実感し たいという希望が大きくなり,これに応えるように建築生産の合理化は進み,前述した新 建材は本格的な機能性住宅資材へと進化していった。木造軸組部材は,下小屋での大工の 手刻みから,専門工場での機械プレカットに置換され,土壁における乾燥工程など現場の 施工スピードが上がらない湿式の工法は,留め付ければ終わる乾式の工法に置換され,生 しんかべ 活様式の変化から真壁の和室が大壁の洋室へと置換されていった。 建築用木材の供給 バブル経済の時代には,大断面集成材を使って燃えしろ設計が出来るようになり,体育 館アリーナなどの低層大空間や,木橋やモニュメントなどの屋外構造物にも審美性の高い 木構造が選ばれた時期があった。この時の構造体価格は同規模の鉄骨構造の 3 倍とも言わ れていたが,技術的解決や試行に必要な費用は,高コストを容認する社会的風潮によって 支えられていたと言えよう。 木造住宅のコストは,構造体が仕上げ材を兼ねていた真壁構造においてはその多くを構 造材が占めることもあったが,構造体が壁の中に埋め込まれてしまう大壁構造になるとそ の割合は低下し,現在はシステムキッチンやエアコンなどの設備機器の比率が高くなった。 部材が隠れてしまう大壁構造では,木材としての審美性ではなく,外形寸法の安定性や強 いんぺい 度的信頼性が重視されるのである。隠蔽されコストに占める比率も低い構造体についての 森林技術 No.851 2013.2 17 設計者の興味は薄れており,架構計画や接合方法については機械プレカット工場の CAD 担当者任せになっている場合も多いと聞いている。木造建築物の架構は,部材が簡単に加 工できる特性の一方で,鉄骨の溶接のように高強度の接合が出来ない。このような材料は, 加工度を低く抑えて強度に大きな余裕が取れるよう,建物の平面計画や部材の立体的な取 り合いを勘案して,より単純明快な構造体の形を見出すことが肝要になる。 まとめ たが 「合理的」という言葉には,経済的な意味に留まる場合と,より広い観点で主旨を違え ない意味がある。ある意味での無駄は,見方を変えれば余裕であり,選択を変えなくとも 集中のバランスを変えることで,十分に現状を変えることが出来ることもあろう。 温故知新の姿勢で思うがままに書き連ねてきたが,過去における社会の決断が,現在の つな 制度に繋がっていることは間違いない。我々が造り上げた制度なのであるから,その背景 について十分に理解した上で,修正することは可能なはずである。木材を構造体に使った 耐火構造物を造れるようになった現在,長期使用性が問題視されがちな木材には,定期点 検と部材交換によって構造体としての健全性を維持管理する方法も考えられる。未来志向 の考え方で,持続的社会における再生可能な資源として木材を大いに活用していきたい。 つづ 以上,近代木造建築構法の技術的変遷について書き綴ってきたが,紙面が尽きてしまっ たので関連事項を末尾の年表にまとめて置く。本文に書き切れなかった内容も,年表に記 載出来ていない内容も多々あるが,少しでも読者諸氏の参考になれば幸いである。 (かるべ まさひこ) ▼年表:日本の近代木造建築構法の技術的変遷及び関連事項について 社会の出来事 自然災害・事故 1939 第 2 次世界大戦開戦 1943 1944 1945 ポツダム宣言受諾 1946 天皇人間宣言 南海地震 1947 1948 帝銀事件 第 1 次中東戦争(イスラエル独立宣言) ドッジライン 1949 シャウプ勧告 中華人民共和国成立 1950 朝鮮戦争勃発 関係業界の動き 日本合板工業組合連合会設立 飯田市大火 福井地震 建設院発足・建設省に昇格 日本合板工業組合連合会が日本合板工業 会へ改組 林野庁設置 日本林業協会設立 木構造計算規準・同解説(建築学会) 伊勢神宮式年遷宮延期、宇治橋架け替え のみ実施。 住宅金融公庫設立 金閣寺焼失 繊維板の JIS 森林記念館(初の集成材構造) 能代市大火 キジア台風(錦帯橋流失) 鳥取市大火 建築基準法、建築士法 木材統制全面撤廃 都市建築物の不燃化の促進に関する決議 (参議院) 耐火建築促進法 1953 朝鮮休戦協定 奄美群島返還 木構造計算規準(建築学会) 本多静六没 用材の JAS 普通合板の JAS 建築工事標準仕様書 JASS(建築学会) 三井木材ハードボード生産開始 岩倉組パーティクルボード生産開始 伊勢神宮式年遷宮 洞爺丸台風岩内町大火能代市大火大館市 大火魚津市大火 1954 1955 1956 第 2 次中東戦争(スエズ動乱) 木材資源利用合理化方策 日本ハードボード ( 株 ) 設立 FORTRAN 1957 IBM スプートニク 1 号 1958 東京タワー 関門国道トンネル 狩野川台風 1959 キューバ革命 伊勢湾台風 林木育種場設置 建築基準法改正 新安保条約批准発効 1960 ベトナム戦争(南ベトナム解放民族戦線 結成) チリ津波 国民所得倍増計画 用材の JAS 告示 1961 黒部ダム発電開始 第 2 室戸台風 災害対策基本法 全国木材協同組合連合会設立 木構造計算規準・同解説(建築学会) PB 規格 1962 「防火・耐風水害のための木造禁止」決議 (建築学会) 木質系プレハブ参入 新発田市厚生年金体育館(36m スパン 3 ヒンジアーチ) 全国総合開発計画 1963 ケネディ暗殺 東京オリンピック 新潟地震 1965 松代群発地震 名神高速道路 構造用集成材製造規準 日本集成材工業会発足 38 豪雪 1964 東海道新幹線 1966 1967 ケネディラウンド 第 3 次中東戦争(ゴラン高原) 18 木造建築物 臨時日本標準規格 農商務省廃止し農林省復活 日本国憲法 林政統一 内務省解体 1951 電力再編 ニューヨーク株価大暴落 1952 国・法制 新興木構造 鳥取地震 東海地震 森林技術 No.851 2013.2 建築基準法改正 普通合板の JAS 改正 製材の JAS 改正 最初の林業白書 日本合板工業会が日本合板工業組合連合 工業化住宅推進部局設置(建設省、 通産省) 会へ改組 日本建築センター設立 住宅建設工業化基本構想 ( 建設省) 日本木材防腐工業組合設立 用材の JAS 廃止 公害対策基本法 素材の JAS、製材の JAS 改正 コンクリート型枠用合板の JAS 社会の出来事 イタイイタイ病公害認定 1968 小笠原諸島復帰 学園紛争 11 号月面着陸 1969 アポロ 東名高速道路 大阪万国博覧会 1970 よど号ハイジャック 三島由紀夫割腹自殺 自然災害・事故 えびの地震 十勝沖地震 国・法制 新全国総合開発計画 環境庁設置 住宅産業振興 5 ヵ年計画(通産省) 札幌オリンピック ローマクラブ「成長の限界」 1972 沖縄返還 日中国交正常化 列島改造論 4 次中東戦争 1973 第 第 1 次オイルショック 1977 1978 新東京国際空港(成田) 松くい虫被害究明 日本集成材協同組合発足 製材 JAS 改定 合板に 38 条適用 伊豆半島沖地震 ベトナム戦争サイゴン陥落 1975 山陽新幹線(博多まで) 沖縄海洋博覧会 1976 ロッキード事件 第一次天安門事件 枠組壁工法技術基準告示 多摩川決壊 有珠山大噴火 伊豆大島近海地震 宮城県沖地震 耐震診断基準 林業試験場が筑波へ移転 農林水産省に改組 NEC PC-8001 1979 第 2 次オイルショック アフガニスタン侵攻(ソ連) ラムサール条約 1980 金属バット事件 イラン・イラク戦争開戦 木構造計算規準・同解説(建築学会) 工業化住宅性能認定制度開始 木材保存協会発足 伊勢神宮式年遷宮 枠組壁構法協議会発足 (新校倉造り) 日本住宅 ・ 木材技術センター発足 (ハウス 55) 永大産業倒産 日米林産物委員会開催 東大寺大仏殿 昭和大修理落慶 56 豪雪 台風 15 号(北海道森林被害) 新耐震設計法 保有耐力と変形性能(建築学会) 構造計算指針(建築センター) 木質構造研究会発足 1983 大韓航空機撃墜 日本海中部地震 三宅島雄山噴火 建築基準法改正 建築士法改正(木造建築士登場) いえづくり 85 プロジェクト(建設省) 繊維板の JIS 1984 割り箸論争 長野県西部地震 建築技術審査委員会木造建築技術専門委 員会(建設省) 2 × 4 告示改正(4' × 8' 面材使用可) 学校における木材使用の推進(文部省) 市場開放のための行動計画策定 ITTO 設立 1981 木造建築物 構造用合板の JAS 1971 1974 関係業界の動き 製材の JAS 改正 1982 フォークランド戦争 (7 × 7) 薬師寺西塔 落慶 (トラス実大実験) つくば科学博覧会 1985 日航ジャンボ機墜落 日米首脳会議 長野市地附山地滑り 1986 チャレンジャー号爆発 チェルノブイリ放射能汚染 大島三原山噴火 大鳴門橋 (1629m) ブラックマンデー 1987 MOSS 協議 一太郎 Ver.3 発売 イラン・イラク戦争停戦 リクルート事件 1988 米国包括通商法スーパー 301 条 南備讃瀬戸大橋 (1723+1610.7m) 青函トンネル開通 PB 規格改定 丸太組構法規準(建築センター) 建設省告示 859 号(丸太組構法の技術基 日本ログハウス協会設立 準) 震災建築物被災度判定基準(建築防災協 構造用パネル JAS 化 会) 木造建築研究フォラム発足 建築基準法改正(高さ制限緩和、準防火 地域木造 3 階建可) 木造 3 階建規準 建設省総プロ「新木造建築技術の開発」 大断面木造の燃えしろ設計 (1991 まで) 2 × 4 告示改正(準 3 階建可) 木構造設計基準・同解説(建築学会) 木質構造設計ノート 名古屋デザイン博覧会 1989 第二次天安門事件 太陽の郷 屋内プール サミットハウス RH 構法 (2 階建てラーメン実験 ) 小国町民体育館(間伐材立体トラス、ス プリンクラー設置) ならシルクロード博メインホール(木造 格子、7400m2) 瀬戸大橋記念公園マリンドーム(直径 50m) 海の博物館(収蔵庫) ベルリンの壁崩壊 1990 国際花と緑の博覧会 1991 湾岸戦争 ソビエト連邦崩壊 普賢岳噴火 台風 19 号(厳島神社被災) 1992 皇太子ご成婚 国連環境開発会議(地球サミット) 針葉樹構造用製材の JAS 2 × 4 告示改正(構造計算による設計自 由度拡大) 1993 信州博覧会 釧路沖地震 北海道南西沖地震 1994 北海道東方沖地震 三陸はるか沖地震 95 1995 Windows 地下鉄サリン事件 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災) ボンゴシ橋落橋事故 1996 建築基準法改正(準耐火の導入、木造 3 階建共同住宅可) 製造物責任法(PL 法)施行 建設省総プロ「新建築構造体系の開発」 (1999 まで) 2 × 4 告示改正(性能規定) 1997 鹿児島県北西部地震 1998 長野オリンピック 明石海峡大橋(3911m) 建築基準法改正(性能規定化) 1999 来島海峡大橋(690+1515+1570m) 多々羅大橋 (1480m) 台風 18 号(厳島神社被災) 2000 鳥取県西部地震 有珠山噴火 三宅島噴火 2001 芸予地震 ワールドトレードセンター崩壊 建築基準法改正 住宅の品質確保促進法 循環型社会基本法、建設リサイクル法、 グリーン購入法など 国立研究機関独法化 限界耐力計算法施行 国土交通省設置 環境省設置 オ +10) BSE 問題 2003 アメリカ イラク戦争開戦 2005 愛地球博 中部空港開港 2006 2007 台風 18 号(厳島神社被災) 新潟県中越地震 構造用集成材の JAS 改正 木の花ドーム(長辺 122m) 愛知万博日本館(竹コネクター) 耐震偽装問題発覚 ビス認定書偽造 耐火構造認定(日集協) ハートビル法廃止、バリアフリー法施行 木質構造設計規準・同解説(建築学会) 防衛省設置 建築基準法改正(構造建築士など) 集成材の JAS 統合 製材の JAS 統合 長期優良住宅の普及推進に関する法律 木質構造接合部設計マニュアル ( 建築学 会) 公共建築物等における木材の利用の促進 に関する法律 2009 2010 2012 国連持続可能な開発会議(リオ+ 20) 木質構造基礎理論(建築学会) エムビル(金沢、燃え止まり) 枠組壁工法耐火建築物認定 日向市駅 丸美産業本社ビル(名古屋市、燃え止まり) 2008 2011 東京大学弥生講堂 宮崎県木材利用技術センター開設 岐阜県立森林文化アカデミー開校 NPO 木の建築フォラム発足 国立大学独法化 事務連絡「木橋の適切な設計・施工・維 持管理について」 台風 14 号(錦帯橋橋脚流失) 平成 18 年豪雪 台風 13 号(竜巻で列車脱線転覆) 北海道佐呂間町竜巻災害 新潟県中越沖地震 ハイウェイブリッジ(鉄橋)崩落 出雲ドーム(直径 143 m張弦アーチ、プ ッシュアップ) 海の博物館 展示棟(ハイブリッド構造) 白竜ドーム(ビッグ フィンガー ジョイン ト) 帯広営林支局庁舎(モーメント抵抗接合) ジュピター(大分・城島後楽園) やまびこドーム(直径 110m、カラマツ アーチ) 伊勢神宮式年遷宮 ホワイトサイクロン(三重・ナガシマス パーランド) 木製ガードレール製品化 ホワイトキャニオン(東京・よみうりラ 建築物の構造規定(建築センター) ンド) 府中市体育館 林業機械化センタ−事務所棟(木ダボ合 木質構造設計規準・同解説(建築学会) 板ガセット) 木質構造設計ノート(建築学会) 森林総合活性化センター さたでいホール 秋田県立木材高度加工研究所発足 (混構造) 構造用集成材の JAS 大改正 M ウェーブ(吊屋根、補剛木材) 大館樹海ドーム(縞鋼板接着ガセット、 秋田住宅供給公社欠陥住宅発覚 長辺 178m) 平城宮跡朱雀門(傾斜復元力) 木ダボ接着接合 建築物の限界状態設計指針(建築学会) 木質構造設計規準・同解説‐許容応力度・ 愛媛県武道館(木ダボ、補剛木材) 許容耐力設計法‐(建築学会) 木製ガードレール認定 合板の JAS 改正 構造用集成材の JAS 改正 木質構造限界状態設計指針(案)・同解説 (建築学会) 「木歩道橋設計・施工に関する技術資料」 (国土技術センター) FIFA ワールドカップ 2002 持続可能な開発に関する世界首脳会議(リ 台風 21 号(送電鉄塔倒壊) 2004 震災建築物等の被災度判定基準(建築防 災協会) 木材会館 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災) 木質構造接合部設計事例集(建築学会) 3 階建木造校舎の実大火災実験 ポラテック本社ビル(越谷市、燃え止まり) 森林技術 No.851 2013.2 19 特 集 日本の木造建築物の系譜と林業のかかわり 木造建築の部材供給における 要求事項について 板垣直行 秋田県立大学システム科学技術学部 建築環境システム学科 准教授 Tel 0184-27-2056 Fax 0184-27-2186 はじめに 編集の方より,「建築側から森林・林業側に対して,建築部材供給としての要求事項を 述べていただきたい。」との依頼を受けて,安易に承諾をしてしまいましたが,原稿を執 筆しながら改めて難しい問題であると感じております。 しかしながらこの関係,いわゆる川上と川下が,我が国全体として(個別の取り組みと して成功しているところはあるかと思いますが) ,上手く流れていないことは皆さん感じ ていることと思います。今回頂いたテーマはその要因を整理し,森林・林業の方々に伝え ることにあるわけですが,当然のことながらそれは森林・林業の方々がそれに対応して頂 ければ済む話ではなく,逆に言えば建築サイドのすべきことがそれ以上にあるとも思って います。それをお断りの上で話を進めさせて頂きたいと思います。 建築における材料の使い方の変化 ●木を魅せる高級木材使用の減少 部材供給における川上と川下の連携は日本全国で抱える問題と言えますが,私ども秋田 においては尚のこと重要な課題と感じています。秋田はスギの産地として全国的に知られ ていますが,実際のところ地場のスギを活用した住宅は必ずしも多いとは言えません。 めい ぼく まさ め “秋田杉”の名声は,樹齢 200 年を超える天然秋田杉の銘木にあり,その柾目柱,ある もく め いは杢目を活かした天井板など,かつては建築部材として大量に生産がされていました。 いかだ 米代川流域より伐り出された天然秋田杉は米代川を筏で下り,河口に位置する能代で建材 として加工されました。明治 40 年,井坂直幹氏により能代に設立された秋田木材株式会 社(後の秋木工業,現在の新秋木工業の前身)は戦前“東洋一の木材工場”と言われ,木 都能代の中核をなしていました。その木都能代を象徴する建築である旧料亭金勇(国登録 文化財,写真①)には,秋田杉銘木の粋を見ることができます。 このような天然秋田杉を活用した建築は同じく登録文化財の十和田ホテル(写真②)な どに見られますが,銘木としての木の美しさを“魅せる”仕上げとなっています。かつて は個人の住宅においてもこのように木を“魅せる”使い方がされ,特に客をもてなす座敷 には品質の高い木材が要求されてきました。しかし,現代の木造住宅においては,構造材 あらわ を現しとすることが少なく,和室が存在しない家も少なくありません。また,仕上げや造 20 森林技術 No.851 2013.2 ▲写真① 旧料亭金勇・満月の間 ▲写真② 十和田ホテル・玄関吹抜け(写真提供:秋田県) む く 作に用いられる部材も,表面に美しい木目が化粧張りされた集成材等が多く,高価な無垢 の無節材を使用することも少なくなっています。したがって,木の品質を誇るような優良 材はあまり要求されなくなってしまったと言えます。 ●施工の変化と木材乾燥 住宅をはじめとする木造建築の造り方も,かつてのような時間に余裕のある造り方では かさ なくなっています。現代では,工期が長引けば人件費も嵩み,様々な問題が出てきます。 そのため施工の合理化が様々に図られていますが,部材加工においては機械プレカットが 広く普及しています。最近では CAM(Computer Aided Manufacturing:コンピュータ支 援製造)により,図面からそのまま部材の接合部などが加工されるようになっており, NC(Numerical Control:数値制御)加工機械により高い精度を得ることが出来ます。 しかし,このような機械プレカットでは,大工さんのように木目などから木の性質を読み 取り,乾燥後の変形などを考慮した加工は出来ませんので,十分に乾燥した材を用いる必 要があります。さらに,最近の住宅は下地のボードや仕上げ材がタイトに作られているた め,軸材の乾燥収縮に伴う変形を吸収するような余裕が無く,乾燥が不十分な場合,竣工 後に様々な問題を引き起こしかねません。このため,やはり乾燥材の使用が求められます。 かつては材木屋や大工さんが木材を何年も寝かせておいたため,十分に乾燥された木材 が使用されましたが,現代では経済的負担などから仕入れた木材をすぐ出してしまうのが 普通です。したがって,短期間で乾燥を行える人工乾燥を行うことも当たり前となってき ています。また,このような人工乾燥を行えば乾燥費用が部材価格に上乗せされます。そ うなってくると集成材との部材単価もそれほど差がなくなってきますので,大手の住宅メ ーカーなどでは,より変形の少ない集成材を用いるところが多くなってきています。これ に伴い,製材による構造部材の生産量も減少傾向にあります。 ●構造計算による木造 木造建築は,建築基準法第 6 条第 1 項において第 2 号に規定される建物(3 以上の階数 も を有し,又は延べ床面積が 500m2,高さが 13m 若しくは軒の高さが 9m を超えるもの。 ) と,第 4 号に規定される建物(それ以外の木造。 )に分けられます。多くの住宅は 4 号に 規定される建物となり,この場合,建築基準法施行令第 3 章第 3 節第 46 条において規定 森林技術 No.851 2013.2 21 される壁量を満たせば構造計算を行わなくても良いことになっています(いわゆる壁量計 算を行います) 。一方,第 2 号に規定されるような 3 階建て住宅や大規模木造に関しては, 同第 3 章第 8 節における構造計算を行う必要があります。 構造計算を行う場合には,先ほどの建築基準法施行令第 46 条第 2 項により,構造耐力 上主要な部分である柱及び横架材に使用する集成材その他の木材の品質が,強度及び耐久 性に関し国土交通大臣の定める基準に適合する必要があります。ここで「集成材その他の 木材」とありますが,かつては製材の使用が認められていませんでした。 それが,平成 16 年 3 月 22 日国土交通省告示第 331 号による改正「構造耐力上主要な部 分である柱及び横架材に使用する集成材その他の木材の品質の強度及び耐久性に関する基 準を定める件(昭和 62 年 11 月 10 日建設省告示第 1898 号)」により,日本農林規格(JAS) に適合する構造用製材なども使用することが可能になりました。これによって製材を使っ た大規模木造の可能性が広がりましたが,流通する製材の多くは非 JAS 材であるのが現 状です。今後,住宅以外の木造建築の普及を促進していくためには,JAS あるいはそれに 相当するような品質規格に適合する製材を供給していく体制の整備が必要と思われます。 環境における役割 天然秋田杉のような銘木に限らず,森林資源はかつて生産財として高い価値を有してい ました。秋田などの森林県は,林業・林産業が県の主要産業に位置付けられ,地域の産業・ 経済を担っていました。それが高度経済成長期終盤になると輸入材の影響などから急激に 落ち込み,国有林野事業も赤字経営に転落してしまいました。現在も「伐れば赤字」とい うような原木価格ですので,森林の手入れもままならない状況であると思います。 しかし,森林の役割は,水源かん養,治山といった,環境保全の役割を担っており,木 が売れないからと言って放置しておいて良いものではありません。近年ではそれらの森林 機能の維持・回復のために,森林環境税などが定められている自治体が増えていることは 皆さんご存知と思いますが,逆に言えばそのような環境としての財産であることがようや く認知されたということだと思います。 さらに,本誌 2012 年 6 月号特集でも取り上げられていますが,森林は大気中の二酸化 炭素の吸収体として大きな役割を担っています。その二酸化炭素の排出権が取引され,我 が国でも環境省により 2008 年 11 月に,国内の排出削減活動や森林整備によって生じた排 出削減・吸収量を認証する「オフセット・クレジット制度(J-VER 制度) 」が創設されま した。これにより,森林自体が経済的な価値あるもの(クレジット)として扱われるもの となったと言えます。これらの制度の詳しい説明は割愛させて頂きますが,このような排 出権取引が森林だけでなく,木材,さらには木造建築にも適用される可能性があり,その 場合,その木材が,適正に管理され持続的な再生がなされる森林から伐採された木材であ るということを保証する必要があります。すなわち,木材が供給される森林について,第 三者機関による認証が行われ,さらに供給過程のトレーサビリティを保証する仕組みが必 要になるということです。もちろん,全ての木材供給がそのようになるとは思えませんが, 環境に対する効果により木材の価値を高めて,新たな経済市場の可能性を切り開いていく ために,そのような仕組みが必要だと思います(図①)。 22 森林技術 No.851 2013.2 地域産業 森林資源 生産財 環境財 低迷 z 木材 z バイオマス z 炭素吸収源 z z 木造建築 水源かん養 治山 文化財 林業 林産業 建設 ・ 住宅産業 産業の活性化 151.75 新たな経済市場の可能性 CO2削減 排出権取引(炭素クレジット) 再生可能資源 地球環境問題 z z z 資源の枯渇 地球温暖化 大気汚染 e t c. 森林の炭素吸収効果は、持続可能 な森林であることが前提。 ▲図① 森林を取り巻く社会の状況と今後の可能性 公共施設木造化促進法による木材利用の促進と課題 前章で述べた木材利用における環境的効果を前提とし,2010 年 5 月に「公共建築物等 における木材の利用の促進に関する法律」が成立しました。この法律制定の趣旨について は,同じく本誌 2012 年 6 月号「論壇」にて有馬孝禮先生が述べられていますが,第一条 の条文に述べられている「木材の利用を促進することが地球温暖化の防止,循環型社会の 形成,森林の有する国土の保全,水源かん養その他の多面的機能の発揮及び山村その他の 地域の経済の活性化に貢献する」という部分に,法律制定の意義が集約されていると思い ます。したがって,前章で述べた森林資源の環境における効果を実現していく,強力な後 ろ盾になると考えられます。 この法律の制定に伴い,国土交通省の官庁営繕部では 2010 年 5 月に『木造計画・設計 基準及び同資料』を制定しましたが,使用材料においては原則 JAS 適合材であることと なっています。前記二つ目の章で述べたように,構造計算が必要な木造の場合,強度性能 が保証された JAS 適合材である必要があり,いずれにせよ,従来のような強度性能も不 明な非 JAS 材が多く流通するような状況を改善していく必要があると言えます。 また,住宅用の部材は柱材 3m(通し柱材 6m),梁材として 3.64m(2 間)という基本 部材長がありますが,公共施設などの規模の大きい木造建築については,それらより長い 部材が必要となるケースも多く,また長さも様々となります。集成材や単板積層材(LVL) では,製造時に比較的柔軟に長さに対応できますが,製材の場合,森林で伐採する際にそ れに連動した長さで玉切りする必要があり,そのような要求に速やかに対応する体制を整 える必要もあります。 森林技術 No.851 2013.2 23 さらに,公共施設は単年度予算で建設されるケースが多く,発注から竣工までの工期が 非常にタイトになります。現状の国産材の供給体制では単発的な大量の発注に即座に対応 出来る地域は少なく,さらに先に述べた JAS 認定材や同等の品質を確保できる体制が整 っているところは非常に少ないと思います。実際,このような障壁により,国産材から輸 入材に切り替えたり,さらには鉄骨造など,木造以外の構造となってしまうケースも多々 見られます。これに対応するためには,一貫した供給のルートと共に,それらのルート間 で情報を共有し,適宜供給を融通し合うような仕組みも必要と思います。 今後に向けて 以上,木造建築の部材供給について要求事項というよりは,その課題と思われる点を述 べさせて頂きましたが,最初にお断りしましたように,そのためには部材供給における川 上と川下の連携を整えることが重要と思います。伝統木造建築では,林業・製材業・建設 業の関係者が,地域の中で連携して建築を造り上げる仕組みが出来ていたと思います。現 代の社会経済の中で,それを同じように行うことは難しいと思いますが,その原点に立ち 返って連携の再構築を図る必要があると思います。 現在,東日本大震災の復興においても,地域材の利用が注目されています。それはやは り地域材の活用が建築だけの問題ではなく,地域人材の活用,地域産業の活性化につなが り,地域自らの復興につながると考えられるからだと思います。震災からの復興は,林業・ 林産業・木造建築業の復興につながる重要な機会であると感じています。 (いたがき なおゆき) 森林・林業関係行事 ●国立科学博物館企画展「植物学者 牧野富太郎の足跡と今」 2012 年に生誕 150 年を迎えた牧野富太郎の業績を解説するとともに,その仕事が後の研究者や 植物愛好家にどのような影響を与えたかについても紹介します。 *日 時 2012 年 12 月 22 日(土)~ 2013 年 3 月 17 日(日) 9:00 ~ 17:00(月曜休館) *場 所 国立科学博物館 日本館 1 階 企画展示室(東京都台東区上野公園 7-20) *入館料 600 円 *問合先 国立科学博物館ハローダイヤル(Tel 03-5777-8600) ●地域材活用に向けたシンポジウム ~木材の環境貢献度等表示のあり方を考える~ 木材の環境貢献度等表示のあり方や仕組みについての検討結果,及び地域材の需要拡大に向けて の方策を議論するシンポジウムが開催されます。 *日 時 2 月 21 日(木) 13:30 ~ 17:00 *定 員 200 名 *場 所 木材会館 7 階ホール(東京都江東区新木場 1-18-8) *問合先 (一社)日 本 有 機 資 源 協 会(Tel 03-3297-5618 / [URL] http://www.jora.jp/chiikizai/ seminar.html) ●山林会 130 周年記念シンポジウム 食文化で山村を元気に 女性たちの底力 杉浦孝蔵氏と 5 名の女性パネリストを招き,森林地域に自生している山菜・きのこなどを対象に, 自然食材を基礎とした食文化と地域振興等についてパネルディスカッションを通じ掘り下げます。 *日 時 2 月 25 日(月) 13:00 ~ 16:45 *参加費 無料(要申込) *場 所 三会堂ビル 石垣記念ホール(東京都港区赤坂 1-9-13) *定 員 150 名 *問合先 (公社) 大日本山林会(Tel 03-3587-2551 / Fax 03-3587-2553) 24 森林技術 No.851 2013.2 コラム ● ● ● ●● 統計に見る 日本の林業 ●● ● 広葉樹材の需給動向 (要旨)我が国の広葉樹資源は 面積で約 5 割,蓄積で約 3 割を 占める。国産広葉樹材の需要量 は,この 30 年間で 5 分の 1 程 度まで減少した。 面積で約 5 割,蓄積で約 3 割とな パルプ・チップ用が 226 万 m3 で っており,依然として大きな位置 ほとんどを占め,製材用は 13 万 を占めている。 m3 にすぎない。製材用の用途は 広葉樹材の需要は,製材や合板, 幅広く, 建築(主にフローリング) , 木材チップなどの加工原料として 家具,家庭用品(食器等) ,娯楽 の用途(用材)と,しいたけ原木 ,運動用 用品(一部の将 棋 盤等) 我が国の森林には,300 種以上 等としての用途に分けることがで 具(バット等) ,楽器材(太 鼓, の広葉樹が分布している。これら きる。 ピアノ,木琴等)等を挙げること の樹種は,それぞれの特徴を活か 平成 22(2010)年における国 ができる。 して,古くから家具や木工工芸品, 産広葉樹材の需要量は,用材で約 3 床・壁材や薪炭等に利用されてきた。 240 万 m ,しいたけ原木で約 53 し か し な が ら, 昭 和 30 年 代 (1950 年代半ば)以降の拡大造林 しょう ぎ たい こ 広葉樹材のうち用材の主な生産 地は,生産量が多い順に,北海道 万 m3, 合 計 300 万 m3 程 度 と な (63 万 m3) , 岩 手 県(31 万 m3) , っている。昭和 55(1980)年には, 鹿児島県(18 万 m3) ,福島県(16 により,薪炭林等の広葉樹林の多 用材で 1,168 万 m3,しいたけ原 ,広島県(10 万 m3)とな 万 m 3) くは針葉樹林に置き換えられてき 木で 205 万 m3,合計 1,372 万 m3 っている。北海道には有用樹種が た。また,広葉樹材に対する需要 程度であったことから,広葉樹材 多く,生産量のうち 9.5 万 m3 が も,他の木質・非木質資材等へ代 の需要量はこの 30 年間で 5 分の 製材用に仕向けられ,これらは全 替されてきた。一方で,広葉樹資 1 程度まで減少した(図①) 。 国で利用される製材用広葉樹原木 源は,我が国の森林資源のうち, 広葉樹材のうち用材の用途は, の 73%に相当する。 (万m3) 1,500 1,372 1,378 205 197 しいたけ原木 合板用 製材用 パルプ・チップ用 1,106 1,000 319 242 156 173 572 106 500 797 895 744 90 359 413 80 279 304 46 57 328 319 303 294 55 18 54 17 53 13 33 54 20 252 247 228 226 225 313 22 222 54 0 S55 60 (1980) (85) H2 (90) 7 12 17 (95) (2000) (05) 18 (06) 19 (07) 20 (08) 21 (09) 22 (年) (10) ▲図① 広葉樹材の部門別需要量 (資料:農林水産省「木材需給報告書」,「木材需給表」/ 注:計の不一致は四捨五入による。) 森林技術 No.851 2013.2 25 研修報告 「緑の雇用」現場技能者育成対策事業 フォレストワーカー (2 年目) 研修 (財) 長野県林業労働財団 主催 2012 年 9 月 27 日・10 月 26 日/長野県林業総合センター(塩尻) フォレストワーカー研修の実施報告 (GPS 測量実習より) 平成 23 年から, (財) 長野県林業労働財団の依頼により実施しているフォレストワーカー研修「GPS 測量」 について,ハンディー GPS を利用した実施方法や研修から感じたことなどを報告します。 ひと口に GPS 測量と言っても,要求される精度によって複数の手法とそれぞれに必要なシステムが考え られますが,今回は「ハンディー GPS(以下,本稿では GPS と略称)とパソコンを使った,施業林分の簡 便な周囲測量の手法を体験し,作業の流れを理解する」ことを研修の目的としました。 (株) 要林産 〒384-1407 長野県南佐久郡川上村御所平 333 Tel 090-9678-6873 E -mail:[email protected] 機材について 杉山 要 この研修では,長野県塩尻市にある長野県林業総合セ ンター周辺の駐車場などで,測点数 10,約 0.2ha の 定価 2 万円程度で購入可能な GPS と,フリーソフ 実習場所を設定しました。 トのカシミール3D(スリーディー)*をインストール 事前のコンパス測量では,研修当日に受講者がわか したパソコンがあれば研修は実施可能ですが,パソコ るよう測点を残します。マーキングに高い精度は必要 ンにプロジェクターを接続して操作説明ができればよ ありません。基本的には,自動車などに隠れてしまわ り効果的です。カシミール上で実習地の地形図を表示 ない場所,建物から離れた場所を選点しますが,あえ できるように,地図データを保存またはネット接続を て構造物の影響を検証できるような点を加えることも します。また,事前に実習地のコンパス測量を済ませ ておくことも必要です。研修で使った機材と手順は, 準備作業 図①のとおりです。 ・実習場所の選定 ・実習地のコンパス測量 GPS には地図表示可能な機種と,そうではないも のがありますが,この研修に限れば地図表示は必要が 機材準備 ないので,SiRFstar Ⅲ(サーフスタースリー)チップ セットを搭載し,パソコン上でカシミールと GPS デ ータのやり取りができれば問題ありません。 研修(座学) なお,近年の GPS の性能向上は目覚ましく,この れん か ような廉価なシステムでも使い方を熟知することで, 求める精度によっては山林内でも十分実用に耐えます。 研修(実演) GPS が世に出た当時,あまりの「実用性の無さ」に 落胆した方も,装備を一新して使用方法を再確認する ことで,省力化を進める余地があるかもしれません。 研修(実習) これについては文献**をぜひ参照してください。 人数分繰り返し 研修場所と準備作業 質疑応答とまとめ ・ハンディGPS (班数分) ・パソコン ( 〃 ) ・USBケーブル ( 〃 ) ・プロジェクター (上記の1台と接続) 現場 ・ウェイポイント消去 ・トラック消去 ・衛星捕捉確認 ・トラック記録ON ・測点記録開始(=計測) ・測点記録終了 ・トラック記録OFF 教室 ・GPSデータ転送 ・GPSデータ表示 ・求積,面積確認 ・GPSファイル消去 実習場所は,パソコンを配置した教室との間を容易 に行き来できる屋外であれば,どこでも設定可能です。 ▲図① GPS 測量実習の手順 *カシミール 3D ダウンロードサイト:http://www.kashmir3d.com/download/kashmir_download.cgi?package=sp 26 森林技術 No.851 2013.2 効果的です。 受講者が多い場合,全員が実習するためには班分け が必要で,パソコン・GPS・接続ケーブルとも班の 数に合わせて準備することになります。一班あたりの 人数は受講者の経験や適性によりますが,まったく経 験のない方だけですと,今回のような測点数と面積の ▲写真① 計測の実習風景(測点をマーク したら各班随時出発します。) 場合,7 ~ 8 名までが適当だと感じました。 研修の流れ ● 実習 実演した流れを各班のトップバッターを対 象に説明しながら操作してもらい,図化まで完了した ●座学 実習の前に,GPS 測量の基本的な事柄(原 ら,以後,前の者が次の者に説明することを繰り返し 理と種類,精度維持のために必要な機器の扱い方など) ます。受講者自身が説明者になることで集中力と理解 を座学形式で学んでもらいます。なお,座学の時間は, 力が高まり,この種の研修で起こりがちな「研修内未 日頃現場で体を動かしている皆さんにとって最も辛い 受講者」の発生を防止できます。適性の違いなどによ ものになりがちです。内容は極力シンプルにして,時 り,班ごとの実施スピードに大きな開きが生じるので, 間は 45 分程度にまとめて説明しました。 周回遅れにならないよう,講師は各班に足並みを揃え そろ ● 実演 屋外の研修現場で,歩き方や記録の仕方を てもらう配慮をしなければなりません(写真①) 。 実演しながら,受講者全員とまずは一周歩きます。特 もちろん,適当なところで休憩を設ける気遣いが必 に,各班のトップバッターを務める皆さんには「あな 要です。 ある世代から上の人にとっては, カシミールやマ たに二番手への操作方法の説明をお願いしますから ウスの操作が障壁になることが少なくないので,講習 ね」と断ったうえで,詳しく説明しておくようにしま のスピードをそこに合わせる雰囲気づくりも大切です。 す。操作手順は,BP に立ち,ウェイポイントデータ ここまでの体験が当初の目的ですが,時間に余裕が の消去,トラックデータの消去,衛星受信状況と測位 ある場合には,最終班のデータを利用し,トラックデ 誤差値の確認,OFF になっている場合はトラックの記 ータを使わずにカシミール上でウェイポイントを結ぶ 録を ON にして,測点ごとにウェイポイントを記録し, 方法について説明すると,より理解が深まります。 BP に戻ったらトラックの記録を OFF にします。 研修を終えて この段階で多くの受講者は「GPS は簡単らしい」 ということに気づき,以後,リラックスして研修に参 ハンディ GPS の表示は,常に数 m の位置誤差を 加できるようです。また,日頃使っている GPS を持 含んでいます。受講者には,たとえ実測に近い面積が 参した受講者がいる場合は,それを操作しながらいっ 表示されたとしても,この誤差を含んだものであるこ しょに歩いてもらうと,機種によって操作性や精度の とを理解してもらうべきでしょう。また,この種の研 違いがあることを全員と共有でき,好都合です。 修では,長期間使用されていない GPS を使うことが 測位が終わったら教室に戻り,図化と求積の実演で あると思います。その際,衛星捕捉に手間取る可能性 す。プロジェクターを介して行うと,受講者の理解が があるので,あらかじめ GPS を起動して衛星捕捉を 深まります。GPS をパソコンと接続し,実習地を表 済ませておいてください。 示しているカシミール上でウェイポイントとトラック 質疑応答では,歩き方やトラック記録のタイミング を表示させ,トラックの編集機能を使って面積を表示 などについて,かなり積極的な質問が筆者(講師)に させます。ソフトのバージョンによってはヘクタール 投げかけられました。受講者が就労 2 年目の方を中心 単位表示の面積が整数のみの場合があるので,その際 に構成されていることを考えると,日本林業の将来の には坪単位で表示させた面積を,表計算ソフトなどを 多様性が予感されます。現場で作業する人たちが,チ 使い平方メートル単位に変換して示します。 ェーンソーや鉈と同じように GPS を持ち歩くように 最後に,実測図を示して GPS による値や形状と比 なれば,様々な現場情報の収集が容易になり,思いも べ, ど の 程 度 ず れ る の か を 実 感 し て も ら い ま す。 よらない用途が開発される予感さえします。 なた GPS ファイルを閉じて実演は終了です。 (すぎやま かなめ) **全林協編(2009)『林業 GPS 徹底活用術』,全国林業改良普及協会 森林技術 No.851 2013.2 27 《技術者コーナー》 知っておきたい ! 研究・技術 政策・研究・ 技術 第 7 回 原発事故で深刻な影響を被った原木しいたけの生産活動。 国が定めた原木の安全基準値や生産活動支援を解説! 安全な原木しいたけの供給を目指して ―原木の指標値を中心として 林野庁林政部経営課 特用林産対策室長 Tel 03-3502-8059 Fax 03-3502-8085 1 はじめに 2 村 洋 原発事故による原木しいたけへの影響 きのこ,山菜,薪及び木炭などの特用林産物は,そ 原発事故後の平成 23 年 3 月 17 日,厚生労働省は食 の生産活動を通じて,山村の活性化と森林の維持,そ 品衛生法上の暫定規制値として,放射性ヨウ素 2,000 して豊かな文化の形成にも貢献するかけがえのない森 ベクレル/ kg,放射性セシウム 500 ベクレル/ kg を 林の恵みである。 適用することとした。そして,4 月 4 日,国の原子力 しかし,東京電力福島第一原子力発電所の事故(以 災害対策本部は,「検査計画,出荷制限等の品目・区 下「原発事故」という)において放出された放射性物 域の設定・解除の考え方」を決定し,以降,これに基 質により,東日本を中心として特用林産物に多大な影 づき食品中の放射性物質の検査(以下「検査」という。 ) 響が生じている。 が本格的に進められた。 出荷制限,風評被害,きのこ栽培用の原木の不足, 特用林産物では,3 月 23 日以降,関係都県の検査 そして損害賠償の停滞などだ。 結果が順次公表され,4 月 3 日には福島県の露地栽培 原発事故により今なお深刻な影響を受けておられる の原木しいたけから暫定規制値超過が判明した。 生産者及び関係者の皆様に対し,改めて心から御見舞 以降,都県の検査は,施設栽培の原木しいたけ,菌 いを申し上げる。また,原発事故以降,食品に含まれ 床栽培のきのこのほか,たけのこ,山菜,野生きのこ る放射性物質の検査,生産者への支援や出荷管理など へと拡大し,精力的に行われてきた。 多大な御尽力をいただいている自治体及び関係団体の 平成 24 年 4 月 1 日には,暫定規制値が「基準値」 皆様に厚く御礼申し上げる。 に改正された。この中で,原木しいたけをはじめ特用 何より求められるのは,安全な特用林産物を供給す 林産物は,野菜や魚と同じ「一般食品」として,放射 ることにより,消費者の信頼と需要を確保し,生産活 性セシウム濃度 100 ベクレル/ kg が適用されること 動の継続と産地の再生をなすことだ。 1) になった。 林野庁は,厚生労働省など関係省庁と連携し,自治 それ以降,平成 24 年 12 月末までの原木しいたけの 体が行う放射性物質の検査や出荷管理が効果的かつ円 検査件数は 17 都県 1,277 件で,うち基準値を超過し 滑に進むよう全面的に協力している。 たものは 207 件と,超過率は 16%にのぼっている。 同時に,生産活動の継続に向けた支援はもとより, そして,同年 12 月末時点の原木しいたけの出荷制限 損害の早期確実な賠償のための東京電力に対する要請 区域は 6 県 95 市町村に及ぶ。 に努めている。 原木しいたけへの汚染経路は,当初は上空から降下 本稿では,原発事故の影響がとりわけ大きい原木し した放射性物質の付着であったが,その後は,原木 2) いたけを例に,安全な特用林産物を供給するための国 に付着・浸透した放射性物質のしいたけへの移行へと の取組を報告したい。 変化した。 1)乾しいたけのように乾燥状態で流通するものの食用に供される段階では水に戻して調理されるものについては,従 来は乾燥状態で暫定規制値が適用されたが,原材料を水に戻した段階で一般食品の基準 100 ベクレル/ kg が適用 されることになった。 28 森林技術 No.851 2013.2 消費者の健康と信頼を確保するには,基準値を超え に,150 ベクレル/ kg 以下の原木であれば,しいた るしいたけを流通させてはならない。このためには, けの検査の徹底を条件に,県内に限り使用可能とする しいたけの検査の徹底に加え,原木の管理を行うこと 経過措置を設けた。 ) 。 が重要だ。しかし,安全管理を徹底するほど生産者の その後も,原木からしいたけへの放射性物質の移行 負担が増すことになる。 について検証を続け,平成 24 年 9 月 1 日にさらなる見 安全管理と生産継続に向けた支援を車の両輪として 直しを行ったが,指標値の 50 ベクレル/ kg は引き続 展開していくことが必要だ。 き適用することとし,現在に至っている(経過措置に 3 しいたけ原木の指標値の設定 (1)指標値の意義 ~指標値は誰のものか ついては,100 ベクレル/ kg 以下の原木に厳格化し た。 ) 。 (2)指標値の算出方法 しいたけと原木との関係は,農作物とその生育基盤 ●基本的考え方 である農地との関係に相当する。 指標値の算出には「移行係数」という概念を用いて しかし,原木は,それ自体が流通する点で農地とは いる。 大きく異なる。このため,食品であるしいたけの検査 移行係数は,原木に含まれる放射性物質がどの程度 に加え,基準値を超えるしいたけが生産されないよう, しいたけに移行するかを濃度比で表わすものだ( 式 そして,生産者に安心して栽培いただけるよう,原木 ①)。そして,食品の基準値を移行係数で除した値が 指標値である(式②) 。 にも安全基準を設けて重層的に管理していくことが重 要だ。 そこで,林野庁は,栽培に用いても構わない原木の 安全基準として,原木の放射性セシウム濃度の上限値 [ 式① ] を「当面の指標値(以下「指標値」という。)50 ベク 移行係数 レル/ kg」と設定し,これを超える原木の使用や流 =しいたけの放射性セシウム濃度(Bq/kg)÷ 通の自粛をお願いしている。 しいたけ原木等の放射性セシウム濃度(Bq/kg) 食品の基準値ですら 100 ベクレル/ kg なのに,資 材である原木の指標値がその半分の値というのは,生 [ 式② ] 産者の方々にとっては「非常に厳しい」ものと受け止 指標値(Bq / kg) められている。他方,指標値以下の原木であれば,そ =食品の基準値 100 (Bq / kg)÷ 移行係数 こから発生するしいたけが,食品の基準値を超えるこ とはほとんどないとも言える。 指標値は,消費者が基準値を超えるしいたけを食べ ●移行係数と指標値の算出方法 なくても済むようにするための目安であり,生産者が 移行係数の設定には,まず原木としいたけの濃度比 基準値を超えるしいたけを生産してしまわなくても済 がどのような値を示し,どのように分布しているのか む目安だ。 を把握することが必要だ。 初めて指標値を設定したのは,平成 23 年 10 月 6 日 同じ原木から発生したしいたけでも,個体ごとの放 である。 射性セシウム濃度が大きく異なる場合がある。このた その時点の数値は,当時の暫定規制値に適合する め,原木としいたけの放射性セシウムの濃度比のデー 150 ベクレル/ kg 3) とした。原発事故後に急ぎ予算 タを極力多く収集し,母集団がどのように分布してい を確保し,秋から冬の原木の取引に間に合うよう科学 るかを導くことが重要になる。 的知見の収集・分析を進めて設定したものだ。 では,平成 24 年 9 月の見直し時の実例により,移 次いで,平成 24 年 4 月 1 日には,暫定規制値の基 行係数と指標値の算出方法をご紹介する。 準値への改正に伴い,追加して収集・分析した知見も まず,生産者と関係県の絶大な御協力の下,66 ペ 用いて,指標値を 50 ベクレル/ kg に改めた 3)(同時 アの原木としいたけを検体として採用し 4)~6),それぞ 2)本来はしいたけの菌を植える前のものが「原木」で,植えた後のものは「ほだ木」であり区別が必要だが,本稿で は便宜上「原木」に統一している。 森林技術 No.851 2013.2 29 れの放射性セシウム濃度を測定し,濃度比を算出した に関する情報をいただき,マッチングに努めてきた。 平成 24 年 9 月末時点の全国の原木の需給状況は,供 (右頁・表)。 次に,この 66 の濃度比から母集団を推計し,その 90 給希望量が約 286 万本,供給可能量が約 97 万本とな パーセンタイル値(下限値から上方に向けて 90%の っており,差し引きすれば約 189 万本が不足している。 7) 範囲の上限値)1.785 を算出した 。更に,この 1.785 今後も供給可能量の掘り起こしとマッチングを進め, を安全側に立って切り上げた 2 を移行係数とした。 不足量の解消に努めたい。読者の皆様におかれても, 最後に,式②により,食品の基準値 100 ベクレル/ 原木の供給増につながる有益な情報があれば,ご提供 kg を移行係数 2 で除して得られたのが指標値の 50 ベ クレル/ kg である。 いただきたい。 (2)原木の購入や除染への支援 この移行係数や指標値が意味するのは, 原木不足に伴い,価格も上昇している。 ・世の中に存在する原木としいたけの放射性セシウム 林野庁は,原木購入の際,従来よりも経費が掛り増 の濃度比は,その 90%以上が 2 以下であり,2 を超 しになった部分の 2 分の 1(生産者の所在市町村が特 えるのは 10%に満たない 定被災地方公共団体の場合は購入費の 2 分の 1)を支 ・50 ベクレル/ kg 以下の原木であれば,発生するし いたけの 90%以上は基準値を下回る 援している。併せて,原木購入に当たり生産者の負担 が増加する場合には東京電力が損害賠償を行うことと ということだ。 なっている。 ここで,パーセンタイル値・平均値・最大値などの 次に原木の除染についてである。生産者が原木の放 統計量自体は,自然現象を説明する価値中立の数値だ。 射性物質濃度を指標値以下にしようと除染する場合は しかし,移行係数としてどの統計量を採用するかに 経費の 2 分の 1 を支援している。現状では高圧洗浄機 は判断が伴う。例えば,平均値は,半分は安全だが半 による除染が主流で,原木表層付近の放射性セシウム 分は危ない。これでは安全とは言えないし,生産者も の除去には一定の効果があるという事例もある。 安心して使えない。一方,最大値,99 あるいは 95 パ 今後,さまざまな効果ある手法をご提案いただけれ ーセンタイル値は,出現確率が極めて低く,過剰に安 ば,予算の範囲で支援することが可能だ。 全側に立ちすぎて現実的でない。 特に,原木をフェロシアン化鉄(Ⅲ)溶液に浸漬す そこで,原木段階で極力安全を担保しつつ,残るリ ると,放射性セシウムが吸着され,しいたけへの移行 スクをしいたけの検査や栽培管理によって吸収するこ が大幅に低減するとの知見がある。現在,当該溶液が とが可能で,かつ,分かりやすい数値として採用した 食品衛生の観点でしいたけにどのような影響を与える のが 90 パーセンタイル値であり,移行係数 2 である。 のか森林総合研究所に検証していただいているところ なお,原木からしいたけへの放射性セシウムの移行 だ。 メカニズムについては,まだまだ未解明の点もある。 仮に食品衛生上の問題がクリアできれば,原木不足 今後とも継続して調査を行いたい。 への有望な対策と言えよう。 4 生産活動への支援 (1)安全な原木の確保のための掘り起こしとマッチング (3)原木の増産そして,しいたけの需要拡大 原木に適した資源はあっても,道がない,人手がな いと言った理由で供給が出来ない地域もある。このた 我が国で 1 年間に使用されているしいたけ原木の量 め,平成 24 年度補正予算案において,作業道の整備や, は,原発事故前の平成 22 年で 53 万 m3 となっている。 原木の選別への支援を計上した。予算が確保できたら このうち,自県内で調達されているものは約 9 割の 49 是非活用いただきたい。 3 3 万 m で,残り 4 万 m が県域を越えて流通している。 また,放射性物質の影響を受けにくい栽培技術の普 原発事故後,福島県をはじめ東日本のしいたけ原木 及も重要な課題だ。 への放射性物質の影響が懸念された。 いずれ原木しいたけの栽培工程において,どのよう そこで,林野庁では,平成 23 年 7 月から全都道府県 な点に留意すべきなのかを取りまとめてお示ししたい。 にお願いし,供給を希望する原木と供給が可能な原木 そして,最終的には消費者に原木しいたけに対する 3)∼ 6)は,本稿末尾にまとめて掲載した。 30 森林技術 No.851 2013.2 ▼原木からしいたけへの移行係数に関する調査データ № しいたけ 原木 Cs 濃度 Cs 濃度 (Bq/kg) (Bq/kg) A B 濃度比 A/B № しいたけ 原木 Cs 濃度 Cs 濃度 濃度比 (Bq/kg) (Bq/kg) A B A/B 1 33 49.2 0.671 34 61 88.5 0.689 2 47 48.2 0.974 35 54 45.8 1.178 3 22 30.8 0.715 36 215 167.4 1.284 4 29 27.7 1.047 37 177 364.7 0.485 5 57 51.8 1.100 38 108 317.0 0.341 6 74 62.4 1.186 39 219 891.8 0.246 7 127 79.6 1.596 40 81 335.9 0.241 8 18 18.4 0.981 41 182 310.9 0.585 9 33 23.4 1.412 42 144 192.8 0.747 10 32 23.2 1.380 43 101 208.6 0.484 11 40 89.8 0.445 44 160 527.9 0.303 12 98 132.7 0.738 45 157 379.3 0.414 13 54 45.2 1.195 46 133 534.8 0.249 14 47 56.1 0.838 47 154 502.4 0.307 15 96 86.9 1.105 48 241 442.6 0.544 16 65 55.1 1.179 49 360 822.2 0.438 17 78 50.0 1.560 50 49 43.7 1.121 18 254 182.6 1.391 51 72 27.0 2.672 19 270 131.0 2.062 52 88 29.2 3.010 20 104 85.0 1.223 53 39 108.2 0.361 21 123 77.0 1.598 54 62 53.1 1.167 22 99 128.8 0.769 55 35 84.3 0.415 23 213 135.7 1.570 56 99 58.5 1.691 24 119 94.6 1.258 57 36 47.5 0.758 25 119 73.2 1.625 58 39 44.1 0.884 26 119 90.4 1.317 59 69 89.5 0.771 27 115 99.7 1.153 60 23 24.7 0.930 28 185 198.1 0.934 61 51 42.6 1.196 29 108 85.1 1.270 62 38 31.9 1.192 30 177 154.7 1.144 63 40 61.2 0.654 31 191 164.8 1.159 64 33 77.7 0.425 32 179 271.3 0.660 65 35 37.4 0.935 33 93 91.5 1.016 66 38 98.5 0.386 平均値 103 152.8 0.991 最大値 360 891.8 3.010 最小値 18 18.4 0.241 安心感と購買意欲を持っていただくことが重要だ。し 中央値 91 86.0 0.978 いたけの「機能性」の積極的な発信をはじめ,風評被 標準偏差 72 179.3 0.536 n=66 あ 害に遭っている産地の販売活動や,被災地のしいたけ を購入しようという企業・団体の活動を促進したい。 これを進める事業を平成 25 年度予算要求に計上し 90 パーセンタイル値 1.785 (対数値 0.252) ているところだ。 7)66 ペアの濃度比の分布は対数型をなしていた。そして,各ペアの濃度比の対数値をとると,その分布は正規分布と 見なせることが確認された。この対数値のデータから母集団の分布を推計し,90 パーセンタイル値の 0.252 を真数 値に戻したものが 1.785 である。 森林技術 No.851 2013.2 31 5 指標値の設定を振り返って ~結びに代えて の中に置かれている方々の心に届く説明を続けていく ことが重要であると痛感している。 指標値の設定や見直しに当たり,極力産地にお邪魔 読者の皆様におかれては,原木しいたけをめぐる現 し,生産者の皆様の声を直接伺った。 状,消費者に安全なしいたけを届けたいと懸命に取り 昨年春に「指標値を 50 ベクレル/ kg にさせてい 組まれている生産者の努力を御理解いただき,様々な ただきたい」と,あるいは夏に「見直しの結果指標値 御支援・御提言を賜りたい。そして,基準値を超えて の 50 ベクレル/ kg は変わらない」と説明した際には, いないしいたけであれば,安心して召し上がっていた 使える原木が大幅に制約される厳しい数値であるため, だきたい。 「産地を見捨てるのか」,「味方であるべき林野庁に裏 指標値は,多くの方々の御協力・御指導のもと,行 切られた」といった憤りの声を頂戴した。そして同時 政の責任で設定したものだ。生産者や自治体の皆様に に,とはいえ,基準値を超えるしいたけを生産してし は検体の提供をはじめ,生産現場の深刻な実態をお聞 まい, 「被害者が加害者に転じてしまうことだけは避 かせいただいた。 けたい」,「消費者の信頼を失いたくない」との痛いほ 東日本原木しいたけ協議会の飯泉孝司会長,高橋恭 そうこく どの相克も伝わってきた。 嗣事務局長,相場幸敏顧問,工藤友明顧問,森林総合 また,消費者の方々からは「東日本の原木はすべて 研究所の馬場崎勝彦きのこ・微生物研究領域長,根 使用禁止にすべき」,「国の基準が本当に安全なのか信 田 仁きのこ研究室長をはじめとする研究者,江口文 用できない」などの意見もいただいた。 陽東京農業大学教授,山田明義信州大学准教授,福政 み ぞ どれもが,自らに責がない中で原発事故という未曽 う きん じん 幸隆日本きのこセンター菌蕈研究所長,中沢 武日本 そうぐう 有の事態に遭遇した方々の生の声だ。 きのこ研究所常務理事,福井陸夫全国食用きのこ種菌 生産者と消費者は対立概念ではない。安全な原木し 協会技術顧問には,検体の採取・解析方法の指導や数 いたけの供給を徹底することによって消費者の保護と 多くの有益な提言をいただいた。 かな 生産活動の継続を目指すことが,両者の利益に叶うの そして,山田友紀子博士には,科学分析の基礎から だと思っている。そして,原木しいたけ生産を通じた 消費者保護の理念に至るまでの幅広い助言により成案 豊かな森林づくりによって広く国民の皆様に利益を還 まで導いていただいた。ここに深甚なる謝意をお伝え 元することが最終的な命題だ。 したい。 そのためにも,科学に基づき自然現象を正しく理解 最後に,本稿の文責は全て筆者にあることを申し添 し,それに立脚して対策を実行すること,苦境と不安 える。 (よしむら ひろし) ≪注 釈≫ 3)初めて指標値を設定した際の移行係数は,23 ペアの濃度比から得られた 3 を採用し,当時の暫定規制値 500 ベクレ ル/ kg を 3 で除して指標値 150 ベクレル/ kg を設定した。その後,平成 24 年 4 月に行った見直しでは,従来の 23 ペアに,新たに 25 ペアのデータを加えて検証したところ,移行係数は 2 となったため,食品の基準値 100 ベク レル/ kg を 2 で除して 50 ベクレル/ kg の指標値とした。 4)検体には,事故時に立木であったものか,伐採されていてもまだ伏せ込まれてなかった原木と,そこから発生した しいたけを採用した。当初の指標値とその後に改正した指標値の算出には,原発事故時に屋外に伏せ込んであった 原木と,そこから発生したしいたけを用いていた。これは,当時しいたけを検体とするには使用中の原木に由来す るものしかなかったからだ。しかし,使用中の原木の場合,表面のひび割れによって奥深くまで放射性物質が浸透し, 移行係数が過大に出るのではないかとの指摘があった。このため,今回は原発事故時には伏せ込まれていなかった 原木からしいたけが発生したこともあり,それらを検体とした(しかし,移行係数 2 は変わらなかった。)。 5)発生するしいたけに対する環境からの放射性物質の影響を排除するため,しいたけの発生前に原木を屋内に移動さ せてしいたけを採取し測定に供した。 6)測定には,しいたけ 1 個と,当該しいたけの根元部分の原木を 5cm 厚で円盤状に輪切りにしたものを 1 ペアの検体 とした。 32 森林技術 No.851 2013.2 ●コラム● オープンソース お GIS 「GIS」(地理情報システム)という単語自体は, ざわ よう いち 小澤洋一 岩手県林業技術センター 研究部 主査専門研究員 には困難な場合が多い。 林業界でも広く認知されるようになったが,実際 このような悩みを解消してくれるのが, 「オー に森林管理や林業経営の現場で広く活用されてい プンソース GIS」である。 「オープンソース」で るかというと,なかなか進んでいないというのが 公開されているソフトウェアは,厳密には様々な 筆者の実感である。 ライセンス規定があるが,一言で言えば,無償か かつて,高性能(高額)のパソコンが必要だっ つ,設計図(ソースコード)が公開され,プログ た GIS ソフトも,今では,量販型のパソコンで十 ラム自体の改良,再頒布等が可能な製品である。 分動作し,基盤となる地理情報も国土交通省を中 オープンソース GIS はその名の通り,誰もが使 心に無償データの整備が進み,誰もが GIS を使っ 用できる「GIS」であり,開発にあたっては,世 て仕事ができる世の中になったと言える。広大な 界中の協力者によって,改良や様々な機能強化が 森林を対象とする林業で,資源状況や境界に関す 進められている。QuantumGIS や GRASS,PostGIS る情報を一元的に管理し,視覚的に捉えることが など様々な「オープンソース GIS」が公開されて できる GIS は,相当便利なツールのはずである。 いるが( ,中でも, 「FOSS4G HANDBOOK」を参考) それにも係わらず,活用が進まない原因として, 「QuantumGIS」 は, 日 本 語 化 さ れ て い る こ と, ひとつには,林業向けの活用手順を解説した資料 商用 GIS に近い機能構成から,これから GIS を使 が少ないことが挙げられる。この問題については, い始める人には最適な製品である。 近年,林業関係者による活用提案,操作解説等が 標準的な機能の他に, 無数にあるプラグイン (追 インターネット上で公開されるようになり,今後, 加機能)の中から必要なものをダウンロードする 林業向けの解説も充実していくと思われる。 ことにより,地形や水文解析,空間解析等の高度 もう一つの原因として,GIS ソフトの問題,特 な作業も可能である。 に導入コストがある。 また,GPS との連携に優れ,データ編集や他形 商用 GIS は,機能・動作の安定性の点で優れた製 式(shp フ ァ イ ル 等 ) へ の 変 換 が 容 易 で あ り, 品が多いが安価な製品は少ない。小規模事業体や GPS を多用する業務では,作業効率で商用製品を 森林管理担当者等,個人レベルでの購入は,正直腰 上回る場合もある。タブレット PC やノートパソ が引ける。また,既に商用 GIS を導入している事業 コンを使えば,野外でのデータ編集やナビゲーシ 所等でも,担当毎のパソコンやタブレット PC 等の ョンにも使える。予期せぬエラーの発生や,日本 野外端末で日常的に使用したいという要望がある。 語(2 バイト文字)データが苦手などの弱点もあ これを,商用 GIS の導入によって実現するには るが,今後の改善に期待したい。 相応のコストパフォーマンスが必要であり,現実 オープンソース GIS,林業界で使わない手は無い。 ◆新刊図書紹介◆ ○第 16 回木の建築フォラム 公開フォラム資料集「越後杉 現代の匠と文化」-水と大地に寄 り添う暮らしと復興- 編者・発行所:木の建築フォラム 他(Tel 03-5840-6405) 発行: 2012.9 A4 判 103 頁 本体価格:1,905 円 ○森づくりの心得 著者:藤森隆郎 発行所:全国林業改良普及協会(Tel 03-3583-8461) 発行:2012.12 A5 判 356 頁 本体価格:3,500 円 ○野生動物管理のための狩猟学 編者:梶 光一・伊吾田宏正・鈴木正嗣 発行所:朝倉書店 (Tel 03-3260-7631) 発行:2013.1 A5 判 164 頁 本体価格:3,200 円 森林技術 No.851 2013.2 33 ■半人前ボタニスト菊ちゃんの植物修行 18 3 つの植物画 ~植物図譜の黎明期を辿る~ た 手元に,高知県立牧野植物園刊『牧野富太郎植物画集』がある。牧野が植物画にも長け ち みつ ていたことは有名だが,その描線は大胆かつ緻密で,植物への情熱があふれている(図①)。 いい ぬま よく さい いっぽう知人の W さんは, 「飯 沼慾斎のほうが良い」と言う。灯台もと暗し,うちの そうもく ず せつ 本棚の長田武士『野草の自然誌』が慾斎の『草木図説』を転載していて,見ることができ た。白黒だが,写実的な描写に黒塗りされた葉表がコントラストを添えて,確かに美しい (図②) 。小石川植物園の日光分園で大学院生時代を過ごした O さんは,植物園で販売し ている植物画のグリーティングカードがお気に入りだ(図③)。なかでも「加藤竹斎さん き れい が好き」と言う。それはしっかりと植物画でありながら,日本画のように綺麗である。 このまま終わってしまうと単に絵の好みの話に過ぎないのだが,それぞれの絵が描かれ れいめい き たど た背景を調べてみたら,いつの間にか,日本の植物図譜の黎明期を辿っていた。 * らんぽう い 飯沼慾斎は幕末の蘭方医で,隠居後に植物研究に没頭し,自らの写生により『草木図説』 いわさきかんえん ほんぞう ず ふ を著した。当時の日本では本草学が隆盛を極め,岩崎灌園『本草図譜』などの優れた植物 図譜が存在したが,慾斎の『草木図説』は,初めてリンネ式分類体系を取り入れた画期的 なもので, またそれゆえに, 花の構造などの写生は詳細で精確であった。草本編である『草 部』は 1856 ~ 1862 年に木版刷で公刊され,明治以降も大いに利用された。1907 ~ 1913 年には,牧野富太郎が補筆・修正を施して『増訂草木図説』を出版している。前掲書で用 いているのはこの『増訂…』の図である。なお,木部は生涯未刊であったが,北村四郎京 大名誉教授が原本・写本を集め,1977 年に出版される。 たい せい ほん ぞう めい ところで慾斎は学名を決定する際,多くを親交のあった伊藤圭介の著書『泰西本草名 そ 疏』によっている。伊藤圭介といえば, “シーボルトに師事しリンネの植物分類法を日本に 紹介した”幕末の偉人だが, 明治になると,東大員外教授として小石川植物園で勤務するこ とになる。そこで植物画工 として採用されたのが,加 藤竹斎である。伊藤がまず 取り組んだのは,園内植物 の目録・図説の刊行だった。 そこには,「慾斎の『草 木図説』には木部が無いの でその欠を補う」ことが主 眼にあった。こうして伊藤 らの下で加藤竹斎が原画を 描いた『小石川植物園草木 ▲図① 左:「大日本植物志」掲載のホテイラン(多色石版刷り)と,右:「日本 植物志図篇」掲載のジョウロウホトトギス(石版印刷・手彩色)(いずれも牧 野富太郎植物画集より。高知県立牧野植物園所蔵:24 牧野第 250 号承認。) 34 森林技術 No.851 2013.2 図説』は,「画の質や印刷 の面で当時の欧米の水準に 図② 飯沼慾斎著・牧野富太郎訂「増訂草木図説」 (三浦源助発行)よりクガイソウ(図版左上の詳細 図二、三は牧野による補筆。) ▲ ▲図③ 小石川植物園後援会のグリーティングカード (左: 「小石川植物園草木図説」の下絵となったサザンカ。 右:栽培写生図として残されたシュウカイドウ。ともに 加藤竹斎の筆による。) 達しており,世界の植物研究者から注目された」という。小石川植物園にはやがて東大植 物学教室が移り,日本の植物分類学の発展に大きく貢献する。 牧野富太郎は,東大植物学教室に出入りしながら植物研究に没頭したが,早くから日本 へんさん における植物誌の編纂を志し,1888 年, 『日本植物志図篇』の自費出版にとりかかる。そ の緒言には, 「慾斎の草木図説以後,続々と新種が記載されているが,未だ国産植物を網 そし 羅する植物誌が現れない。そこで無学の私が謗りを承知でとりかかるのだ」という趣旨の ことが述べられている。しかし, 『日本植物志図篇』や後の『大日本植物志』の試みは, あつれき とん ざ 周囲との軋轢もあって頓挫することになる。 『画集』には,こうした図譜やその原画が収 録されている。 * あらためてこれらの植物画を見てみよう。 植物図譜というからには,刊行して世に広く供するものでなくてはならないが,当時の 印刷技術では,原画をそのまま再現することは出来ない。慾斎の「草木図説」は,木版の 妙を得ているかのようだ。彩色原画は,いま見ると“フツー”の植物画に見えるが,図説 は葉の質感や植物全体の姿態を原画以上に伝えてくれていて,明治以降も長く実用された のも理解できる。 明治初期には微細な線の表現に優れた石版印刷が導入される。牧野は自ら石版印刷を習 こ 得する凝りようで,線画による植物の記録と啓発に心血を注いだ。毛の性質まで伝わって くるその画力は圧巻だ。そのなかで多色刷が実現したホテイランの図は芸術性も高い。画 うま 工である加藤竹斎の巧さは抜きんでている。図説の下絵として描いたサザンカは,印刷や あ 彩色に配慮してか,敢えて表現を簡素にしているようだ。伊藤・竹斎らの労作は,国会図 書館のデジタルライブラリで一部を見られる(但し白黒)が,その出来映えは素晴らしい。 時代が流れ,いまや書店に並ぶ植物図鑑は写真も図も詳細で鮮明となり,ボタニカルア いろ あ ートも趣味として定着した。しかしこれら先人達の植物画は,今もなお色褪せていない。 ●菊地 賢(きくち さとし) 1975 年 5 月 5 日生まれ,37 歳。独立行政法人森林総合研究所,生態遺伝研究室主任研究員。 オオヤマレンゲ,ユビソヤナギ,ハナノキなどを対象に保全遺伝学,系統地理学的研究に携わる。 森林技術 No.851 2013.2 35 2 シリーズ 演習林 京都大学フィールド科学教育研究センター その森林系施設の変遷と活動 柴田昌三 全演協 会長/京都大学フィールド科学教育研究センター 教授 〒 606-8502 京都市左京区北白川追分町 Tel 075-753-6413 Fax 075-753-6451 E-mail:[email protected] ●京都大学演習林の変遷 系の部局の充実が目指された。その結果,演習林組織 京都大学演習林の始まりは 1911 年の台湾演習林の は農学研究科附属熱帯植物研究所,同舞鶴水産実験所, 設置である。翌年には朝鮮演習林が,1914 年には樺 理学研究科附属瀬戸臨海実験所とともに,2003 年に ち り さん 太演習林が設置された。朝鮮では智異山が対象地とし フィールド科学教育研究センター(以下,フィールド て選ばれ,東京大学,九州大学とともに現在の韓国第 研)として再編され,これに伴い演習林は研究林と呼 二の高峰を三分する形で演習林が設定された。樺太演 ばれることとなった。京都大学の演習林の特徴として こ たんぎし あ とん 習林には古丹岸団地と亜屯団地の 2 箇所が設置された。 は,戦前には特に植民地における面積が大きかったこ 亜屯団地は北緯 50 度直南に位置し,当時の日本最北 と,国内の演習林に関しては地上権設定による設置が の演習林であった。 多いことを挙げることができる。 あ しゅう 京都大学が国内に最初に設けた演習林は芦 生 演習林 ●各地の演習林・試験地の活動 で,1921 年のことである。地元の九つの字から地上 100 年を超える歴史の中で,京都大学演習林は,台 権を得たものであり,99 年間の契約が結ばれた。こ 湾演習林におけるキナ樹の育成の成功(これはキニー の契約期間の終了は 2020 年に迫っている。 ネの国内初生産を意味した)などの実績を上げながら, 以上の演習林はすべて京都大学に農学部が設置され 歴史を刻んできた。芦生研究林(4,186ha)は設置当 る以前の設置であったが,農学部設置翌年の 1924 年 初から近畿地方において数少ない原生的な植生が残る には,農学部附属演習林として位置づけられた。その 森林であったが,当初はこのことに注目されることは 後,第二次世界大戦終戦までに,和歌山演習林と上賀 少なく,人工林施業を行い,地元との分収を視野に入 茂試験地が 1926 年に,本部試験地(現北白川試験地) れた森林の育成が目指されていた。 が 1927 年に,徳山試験地が 1942 年に,それぞれ設置 一方,1941 年には東京大学教授の中井猛之進が, 「植 された。和歌山演習林も 99 年間の地上権設定による 物ヲ学ブモノハ一度ハ京大ノ芦生ヲ見ルベシ」と述べ 設置であった。 るなど,芦生研究林の植生の貴重さは早くから注目さ 終戦時に,海外の 3 演習林はすべて廃止となったが, れていた。周知のように芦生の森林は原生林ではなく, 樺太演習林に代わる北方林研究の場として,北海道演 天然林であるが,その森林としての価値が高いことに しべ ちゃ しら ぬか ちょうじだに 習林が 1949 年に標茶の,1950 年に白糠の旧陸軍省軍 変わりはない。近年では最深部の長治谷一帯がラムサ 馬補充部用地跡に設置された。また,同年には白浜試 ール湿原候補地に指定された他,国定公園候補地に選 験地も地上権の設定(1999 年に契約終了,返還)に 定されるなど,その自然の価値が再認識されるように よって設置された。 なっている。現在芦生研究林では,かつて造林された 京都大学演習林は以上の変遷を経てほぼ同じくして 地域について林業対象地として見直しが進む一方,フ 訪れた新制大学への移行を終え,農学部附属演習林, ィールド研が設立以降目指している森里海連環学実践 農学研究科附属演習林(1998 年)として,大きな変 の代表的な森林として調査が進んでいる。 化のないままに推移した。1990 年代に入って京都大 和歌山研究林(854ha)は,設定当初から人工林率 学では組織の改編が進められていたが,その中で環境 の高い森林である。今世紀になってからは木材資源を 36 森林技術 No.851 2013.2 森林科学系の実験場,そして広範囲な分野との連携フィールドとして今… 学内の木造建築物に提供する供給 源 と し ても機能してい る。2011 年の豪雨により林道網が壊滅的な 打撃を受け,現在はその復旧作業 に専念せざるを得ない状況となっ ているが,本州から九州にかけて 存在する大面積の人工林における 施業を見直す場として機能すべく, μܖٻ፼ңᜭ˟ πౕܱ፼ ଐஜƷౕǛСᙵƠǑƏ その復旧が待ち望まれている。 北海道研究林(標茶区:1,447ha, ࠰ࡇ ƋƳƨƕܱ፼ưƍƭNjᚧǕǔౕƸƲƷǑƏƳƱƜǖưƠǐƏƔŵଐஜϋƴƸ҅ƔǒҤLJưಮŷƳǿǤȗƷ ౕƕƋǓLJƢŵƍƭNjƷᙸॹǕƨౕƩƚưƸƳƘƯᲦƍǖǜƳౕƴλƬƯLjƨƍƱ࣬ƍLJƤǜƔᲹ ƜƷ πౕܱ፼ƸᲦƋƳƨƷܖٻƷಅƱƠƯ˂ƷܖٻƷܱ፼ǛӖƚǒǕǔˁኵLjᲢҥˮʝ੭СࡇᲣưƢŵ ఌܖٻ ྺྶܖٻ ޛᨏƷNjǓλᧉ ʣ༏࠘˳᬴ܱ፼ 白糠区:880ha)は前述のように, ࠰Ჲஉଐ᳸Ჲஉଐ ȆȸȞᲴޛᨏ؏עƷౕƷѣౡཋƷᚇݑ ئᲴఌܖٻɤ፼Ʊᇌɤ᩷࠰ݲʩ්Ʒܼ ࠰Ჲஉଐ᳸Ჲஉଐ ȆȸȞᲴʣ༏࠘ƷཎࣉƱМဇ૾ඥ ئᲴྺྶܖٻɨȕǣȸȫȉƓǑƼԗᡀ؏ע 樺太演習林の後継森林として設置 ҅ෙᢊ ܖٻٳǷȳȝǸǦȠ ૼܖٻ されたものであり,標茶区及び白 ࠰Ჲஉଐ᳸Ჲஉଐ ȆȸȞᲴྶעؾƱဃ७ኒƷೞᏡȷᝅƔƳౕǛƭƘǔ ئᲴ҅ෙᢊ૾҅ܖٻဃཋחᴤᴀᴈᴱᴜᴶᅹܖᴖᴵᴘᴈᒌݱཊᄂᆮ ࠰Ჲஉଐ᳸Ჲஉଐ ȆȸȞᲴٳᛦ௹ǛᘍƢǔƨNJƴ࣏ᙲƳ২ᘐƷӕࢽ ئᲴૼܖٻᴤᴀᴈᴱᴜᴶᅹܖᏋᄂᆮᴖᴵᴘᴈ˱บᴕᴛᴈᴔᴆᴵ ̮߸ܖٻ ᰦδܖٻ 糠区の二つの団地は京都大学にお ける北方林研究・教育の拠点とし 上賀茂試験地(46.8ha)は設置 に努め,樹木園としての機能を高 ࠰ᲳஉᲭଐ᳸ᲳஉᲱଐ ȆȸȞᲴҤʋ߸ƷˊᘙႎƳౕǍᐯӏƼౕƱʴƷ᧙ǘǓ ئᲴᰦδܖٻ᭗ᨚ፼ƓǑƼދʁ ʮᣃܖٻ ̮߸ܖٻ ᡈဴ૾עƷޛښȷޛƷౕƱƦƷཎࣉ ࠰ᲳஉᲮଐ᳸ᲳஉᲰଐ ȆȸȞᲴౕ࠘עޛƷѣཋӏƼౡཋƴ᧙Ƣǔဃ७ཎࣱƷ৭੮ ئᲴʮᣃܖٻᴤᴀᴈᴱᴜᴶᅹܖᏋᄂᆮᴖᴵᴘᴈᑱဃᄂᆮ˂ ࠰ᲳஉᲮଐ᳸ᲳஉᲱଐ ȆȸȞᲴ᭗᭗؏עƴᢘဇưƖǔဃƓǑƼᘍѣ২ᘐƷ፼ࢽ ئᲴ̮߸ܖٻᠾܖᢿᙱᬡǹȆȸǷȧȳ ሇඬܖٻ ᰦδ ܖٻҤʋ߸ƴƓƚǔእဃငȷ්ᡫᴔᴕᴛᴩܱ፼ ټᚡࣞཋᴬᴧᴠሁࣱౕݱՌʐƷᚇݑ めてきた。現在,750 種の外国産 ࠰Ჳஉଐ᳸Ჳஉଐ ȆȸȞᲴࣱౕݱՌʐƷဃ७ᛦ௹ƓǑƼౕƱƷ᧙ǘǓ ئᲴሇඬܖٻᠾ২ᘐǻȳǿÜοȶީȷ߷ɥ፼ ࠰Ჳஉଐ᳸Ჳஉଐ ȆȸȞᲴእဃငŴங්ᡫӏƼஙь২ᘐƷྵཞ ئᲴᰦδܖٻ᭗ᨚ፼ 樹種を得,貴重な遺伝子バンクと ̮߸ܖٻ ܖٻ࢟ޛ して機能している。特に,マツ類 ϤƷȕǣȸȫȉሥྸ፼ ࠰ᲬஉᲯଐ᳸ᲬஉᲲଐ ȆȸȞᲴᩌᴦᴶᴯᴵᴛᴀᴉƱ؏עʩ්ȷϤƷᴉᴞᴧᴱᴜᴯᴇᴏᴵᴐᴶƱౕဃ७ ئᲴ̮߸ܖٻᠾܖᢿᙱᬡǹȆȸǷȧȳ˂ とタケ類のコレクションが充実し ている。近年は,京都市近郊にお ける貴重な里山植生としての研究 ▲ Ǣȫȗǹႇܖޛ፼ 公開森林実習のポスター︵全演協、平成 当初から国内外の樹木種子の収集 ƔƝƠLJƷౕ ࠰Ჲஉଐ᳸Ჲஉଐ ȆȸȞᲴဃဃཋǛݣᝋƴƠƨᴤᴀᴈᴱᴜᴶᴴᴈᴐƱᐯؾƷ̬μ ئᲴ̮߸ܖٻᠾܖᢿᙱᬡǹȆȸǷȧȳ ᩌܱޛ፼ ࠰Ჭஉɥକ ȆȸȞᲴٶᆢᩌؾƱౕȷஙƷဃྸȷဃ७ႎࣖሉ᧙̞ ئᲴǍLJƕƨȕǣȸȫȉᅹܖǻȳǿȸɥӸ߷፼ ᛇƠƘƸž࠰ࡇπౕܱ፼ſư౨ኧᲛ ҥˮʝ੭ƴƳǔƷƸܖٻ࢟ޛᲦ̮߸ܖٻᲦૼܖٻᲦሇඬܖٻᲦ᩺ܖٻޢᲦʮᣃܖٻᲦఌܖٻᲦ᭗ჷܖٻᲦᰦδܖٻᲦྺྶܖٻưƢŵ ˂ƷܖٻưƸžཎКᎮᜒܖဃſƱƠƯ̲ޗưƖǔئӳƕƋǓLJƢŵᛇƠƘƸޓƷܖٻƷѦȷܖѦਃ࢘ʙѦƴႻᛩƠƯƘƩƞƍŵ も進んでいる。 徳山試験地(41.9ha)は文化庁 ひわだ の檜皮供給林としての指定を受け, 年度︶ 24 そのための研究等が進んでいる。 ●今後に向けて 2010 年度から全国大学演習林 協議会では,協力し合って,他大 学の学生を対象にした公開森林実習を各地で実施して いる。各施設の業務として生態調査,環境調査が行わ いる。平成 24 年度は,9 大学演習林で 12 の実習が実 れているほか,対外的には環境省が主導するモニタリ 施されている(図①)。 ング 1000 のコアサイトが芦生研究林,和歌山研究林 京都大学が実施している実習は,近畿地方北部の奥 と上賀茂試験地に設定され,森林に関する基本的な情 山と里山の理解を深めてもらうことが目的であり,2 報が公開されている。 泊 3 日の間に,芦生研究林,上賀茂試験地,北白川試 京都大学フィールド研の森林系施設は,さまざまな 験地を巡って,それぞれの森林や収集物を見学するコ 変遷を経て現在も,国内有数の森林・環境系の教育研 ースを組んでいる。参加学生は近畿地方北部の森林の 究拠点として重要な位置を占めていると自認している。 すべてを学ぶと同時に,地域に息づく森林文化や林業 今後,さらにフィールド研の有する数々の資源を用い を効率的に学ぶことができる仕組みになっている。 た教育・研究面の展開を図っていく責任は大きい。 研究に関しても各施設でさまざまな活動が行われて 図 ① て機能している。 ީޛ̬ؾμܖ፼ ᴤᴀᴈᴱᴜᴶᴴᴈᴎᴈƷƨNJƷᴰᴕᴐᴧᴠᴔᴶᴪᴵᴜλᧉ (しばた しょうぞう) 森林技術 No.851 2013.2 37 シンポジウム報告 (独) 森林総合研究所森林農地整備センター 主催 2012 年 11 月 6 日(火)/ホクト文化ホール(長野) も り 『信州:森林と地域の共存を目指して ~森林づくりと地域の役割を考えよう~』 より 昨年 11 月 6 日(火)長野市内において, 「信州:森林(もり)と地域の共存を目指して ~森林づくりと地域 の役割を考えよう~」と題したシンポジウムを,森林総合研究所森林農地整備センター主催のもと,信州大学農 学部,中部森林管理局,長野林政協議会,長野県森林組合連合会の共催,また長野県の後援をいただくとともに, 地域の関係各位の多大な協力の下,開催した。当日は,中部地方各地から約 270 名の大勢の方が会場を埋め尽く す中,盛大に開催することができた。以下,基調講演及び各報告の概要を紹介する。 前森林農地整備センター 所長 Tel 044-543-2500 Fax 044-533-7489 基 調 講 演 宮本敏久 ネーの投機対象や国際的戦略物質ともなる。これらを 産みだす農山村は国内の戦略地域として位置づけでき るものであり,農山村の保全や再生が今まで以上に重 「地域と人と林業と」 植木達人(信州大学農学部 教授) 視されなければならない。国際貢献にもつながる農山 森林・林業を議論するには,過疎化・高齢化を抱え 村と都市との関係,農山村の重要性や位置づけをさら る地域問題の理解と整理が必要であり,地域の活性化 に高め,明確にしていく必要がある。 と共に,森林・林業を含めた第一次産業の対処を考え 報 告 る必要がある。 農山村の疲弊化は時間と共にステップがある。農林 業経済学ではこうした議論が様々な視点から検討され 「地域と連携して森林の整備・保全を進める国有林 宿利一弥(中部森林管理局 計画部長) の取組」 ているが,ここでは特に小田切徳美氏の考えをベース 現在,農林水産省では,人工林等の森林資源の充実 に議論を進める。人口の社会的,自然減少が「人の空 を背景に,森林の多面的機能を発揮しつつ,林業・木 洞化」を,住民不在による農林地の荒廃が「土地の空 材産業を地域資源創造型産業として再生させ,山村の ぜいじゃく 洞化」を,山村・集落全体の脆 弱 化が「村の空洞化」 を起こし,住民の「誇りの空洞化」になり集落の消失 雇用や低炭素社会の構築といった環境面にも寄与する 「森林・林業の再生」を推進している。 につながっていく。 国有林には,公益重視の管理経営とともに,民有林 農山村の再生には,①「誇りの再建」を持つこと, との連携の下,木材の安定的な供給体制づくり,研修 ②物質や人的な自然環境や社会環境,経済環境を重層 フィールドや技術を活用した人材育成等への貢献が期 的・立体的に結合させ再建につなげること,③「地域 待されている。 の力」を活用すること,等の大きな視点からの対応が 中部森林管理局では,民有林と連携しながら,①低 重要である。そして,山村経済の自立に向け,①地域 コスト・高効率作業システムの普及・定着,②民有林 資源型保全経済(地域固有の資源の発掘・利用),② 関係者との協定を通じ,所有区分を越えた施業の集約 第 6 次産業型経済(生産・加工・販売の統一化),③ 化・共同化,③大規模な自然災害時の民有林の復旧対 交流産業型経済(都市と農村の交流) , ④小さな経済 (小 策等の協力,④地域と連携したニホンジカ対策,⑤上 所得を得る機会) ,の「4 つの経済」の構築・確立が 下流の連携・交流を通じた理解の増進等を進めている。 必要である(小田切徳美『農山村再生』 ,2009) 。 国有林野事業は来年度から一般会計で運営されるが, 人口の爆発的な増加から,食糧や水,エネルギーの 引き続き公益的機能発揮と林業の再生を目指し,地域 不足は国際的な問題となっており,今後グローバルマ との連携を重視した取組を強化していきたい。 38 森林技術 No.851 2013.2 「地域と歩む水源の森林づくり」 佐藤智之(森林総研森林農地整備センター 長野水源林整備事務所長) 水源林造成事業は,水源かん養上重要な民有保安林 壇上の報告者の皆さま ▲ のうち,機能が劣っている森林を早急に整備し公益的 機能を高めることを目的に,昭和 36 年より事業を開 始した。現在までに,全国で長野県の全人工林面積に 相当する 46 万 ha の森林を造成している。 のもと,行政任せではなく地域ぐるみで山を管理し, 今後は,事業の効果的・重点的な実施,針広混交林 施業の団地化,森林教育に専門的に対応する「西山里 など多様な森林づくり,災害に強く環境に配慮した道 山の会」を平成 24 年 1 月に設立した。 づくり,搬出間伐の推進等に取り組むとともに,施業 西山里山の会は, 「災害の芽をつむ」, 「隣組の活動 集約化など地域林業との連携・協力を通して地域に貢 強化」等をキーワードとし,地域ぐるみで永続的に山 献できる事業を行っていきたい。 を維持する大切さを共有し,住民がその担い手であり * 続けられるよう地域活動に取り組んでいきたい。 * 「思いをかたちに ~森でつながる…~」 加々美貴代(NPO 法人やまぼうし自然学校 代表理事) やまぼうし自然学校は,1996 年に森林インストラ 「土砂災害の履歴から考える森林づくり ~平成 18 年 7 月豪雨災害(岡谷市)を例にして~」 クター資格を持つ有志により活動を始め,2002 年よ 岡本 透(森林総研立地環境領域 主任研究員) り菅平高原に本部を置き,人と森をつなげる様々な活 平成 18 年 7 月豪雨は, 岡谷市湖南山地 (西山) に崩壊 動を行っている。 と土石流を起こし,甚大な被害をもたらした。このた 現在は 「森でつながる いのちのわ」を活動の理念と め, 当地周辺を対象に, 史資料から得られた過去の土砂 して,①林間学校や野外教室を通して子供達が森とふ 災害の発生履歴と特徴,過去の植生・土地利用と土砂 れあう「自然体験環境教育」 , ②「上高地白樺自然学校」 移動の関係を推察し,災害に強い森林づくりを考えた。 で一般の方向けにガイドウォーク等を行う「成果普 史資料からは,湖南山地の中でも地域ごとに土砂災 及」 ,③森林インストラクター,やまぼうしの活動を 害の発生頻度に大きな違いがあることが分かった。平 支えるインタープリターの養成を行う「指導者養成講 成 18 年 7 月豪雨の被災地域では,300 年以上に亘り 座」 ,④人と森をつなぐメッセージを込めた活動を行 大規模な土砂災害の発生はなかったが,その間も稜線 う「森林の総合利活用推進」の 4 事業を行っている。 部では土壌侵食や小規模な表層崩壊が断続的に生じて 森には人を支える多面的な機能があり,子供達の成 おり,土砂が稜線部に留まり崩壊予備物質となってい 長や五感+αの成長を促す働きがある。やまぼうしの たことが分かった。こうした地域では,過去の土砂災 活動を通して,人々が森とつながり, 森とともに生きる 害の記録が少ないため住民の防災意識も低くなりがち ことの喜びを感じることができる人を育てていきたい。 で,手入れ不足の森林を作り出したことも土砂災害の * 「“災害に強い森林づくり”をめざして」 小口瀇明(西山里山の会 会長) 岡谷市西山地区は,平成 18 年 7 月の集中豪雨によ 発生要因の一つであると考えられた。土砂災害の発生 を予測することは難しいが, 「減災」を意識し場所に 応じた樹種を選定する「適地適木」を進めながら,適 正な森林管理を継続していく必要がある。 り,後背林で発生した土石流により多くの家屋が壊さ お わ り に れ,7 名の尊い命が奪われる大惨事に見舞われた。 被害の多くは,カラマツ林が豪雨に耐えきれず流木 森林農地整備センターでは,引き続き地域の声を捉 となって集落を襲ったもので,山の手入れを永年怠っ えつつ,水源林造成事業の着実な推進・実施を通し, ていたことや山との関わりを絶ってきた“つけ”がま 多様で健全な森林づくり,研究・開発と連携した新技 わったものだった。大災害を経験した者として,間伐 術の開発や普及,施業集約化など地域林業との連携・ は立木の成長を促す以上に,根系を発達させ災害の発 協力を通して,地域の森林・林業再生に向け貢献して 生を抑えることを広く伝えなければならないとの信念 いきたい。 (みやもと としひさ) 森林技術 No.851 2013.2 39 本の紹介 ●コラム● 伊東隆夫・山田昌久 編 列島の森林植生と木材利用」が述 木の考古学 べられている。生態学者の湯本貴 出土木製品用材データベース 例として,木材利用の民俗植物学 発行所:海青社 〒 520-0112 滋賀県大津市日吉台 2-16-4 TEL 077-577-2677 FAX 077-577-2688 2012 年 10 月発行 B5 判 449 頁 定価:本体 11,000 円+税 ISBN978-4-86099-911-7 和氏による屋久島・宮之浦集落を が紹介されている。鈴木三男氏が 提唱された「針葉樹三国時代」で は,マツ属の進化研究に取り組ん でこられた氏の思いが伝わってく る。 著者の伊東隆夫氏は,木材解剖 通じて「環境と人類 ―自然の中 次に「遺跡出土木材の製品研究 学者として,遺跡からの出土木製 に歴史を読む」などを著し,考古 の展開」として,木質遺物の研究 品の鑑定を基礎に本研究分野を進 学研究の魅力を伝えておられる。 の歴史が続く。そして,本書出版 展させてこられた。 本書の「人類の資源としての森 の目的である「各地域別データベ 実は筆者が勤務する北海道大学 林」の項では,木材の生産過程, ース」の掲載がある。遺跡調査報 さつ 成長と木材の性質,またデータベ 告書約 4500 点からの木製品樹種 文文化の埋蔵文化財の宝庫であり, ースとしての役割が紹介されてい 同定データ約 22 万件を集積した, 森林科学科を中心に埋蔵文化財の る。続いて,「遺跡出土木製品の 世界最大級の出土木製品用材の情 鑑定などに貢献している。共編者 樹種同定と保存処理」が詳述され, 報が収められている。 の山田昌久氏は縄文時代の研究を 次に考古学の著作としての「日本 なお,本書備え付け CD の検索 札幌キャンパス自体が続縄文・擦 もん 本の紹介 牛山素行 著 をもとに作成) , 【解説】を示して 防災に役立つ いる。防災のための地域調査や発 地域の調べ方講座 災後の災害調査の導入部で,対象 発行所:(株) 古今書院 〒 101-0062 東京都千代田区神田駿河台 2-10 TEL 03-3291-2757 FAX 03-3233-0303 2012 年 11 月発行 A5 判 102 頁 定価:本体 2,200 円+税 ISBN978-4-7722-7115-8 地域の概要を簡潔に把握するため の調査内容(手法)を必要最小限 に紹介することを目指している。 著者は岩手県立大学総合政策学 部時代に調査した岩手県陸前高田 市気仙町地区を対象として,調査 人を対象としている。 手法の解説を行っている。陸前高 べてのスタートラインとなる取り 本書は,2009 年に雑誌「地理」 田市は,3.11 の津波で甚大な被害 組みは,防災訓練や防災グッズを (古今書院)に『地域調査演習』 そろえることではなく,「地域の と し て 11 回 連 載 されたものを, 自然・社会特性を知ること」だと 2011 年 3 月 11 日の東北地方太平 「1 基 礎 知 識 」, 「2 地 理・ 歴 史・ 著者は考えている。本書は, 災害・ 洋沖地震後に再編集したものであ 人口を調べる」 , 「3 自然条件を調 防災という立場から地域を知るた る。演習書を目指し,解説してい べる」 , 「4 自然災害を調べる」 , 「5 めの方法を解説したもので,読者 る事項に関し,報告書等にとりま 現地で調べる」である。 の専門分野を限定せず,防災のた とめることを想定した【演習】と, まず,パソコンを用いて,情報 めの地域調査や災害調査に携わる その【作例】 (2007 年時点の資料 を得る手法が分かりやすく説明さ 地域での防災を考える上で,す 40 森林技術 No.851 2013.2 を受けた地区である。 本書は次の 5 章に分かれている。 き ●シリーズ 木っと復興通信● ソフトは海青社 のホームページ 明日を信じて から試写できる。 森林利用の歴 史から私たちは 先人の知恵を学 ぶ。市場経済の 前号でお伝えした,宮城県での地域 材利用・地域雇用型木造仮設住宅建設 その 11 の取組は,その後,災害公営住宅建設 嵐の中で目先のことにとらわれが にも活かされることになりました。 ちな日々から,本書の記述にひと 災害公営住宅とは震災により住宅を とき現実を忘れることもできる。 滅失した方を対象とした公的な賃貸住宅であり,被災された なにより森林を利用して暮らし 方々が仮設住宅から移り住み生活を再建する上で,一日も早い てきた私たちの生き方を,次世代 建設が待ち望まれています。 を担う若人とともに学ぶことがで 津波で甚大な被害を受けた南三陸町では,森林組合や製材業 あらし かおり きる名著として古典の芳がすでに 者,建築関係業者で組織する「南三陸町木造災害公営住宅建設 漂う。 推進協議会」と南三陸町の間で基本協定が締結され,同協議会 埋蔵文化財の木材鑑定業務の指 が地域材を活用し地域雇用による木造災害公営住宅が供給され 針に,また研究室にも一冊は備え ることになりました。同様の取組は,私の職場がある登米市で たい。 も実施されることになりました。建設にあたっては用地の確保 (北海道大学農学部 教授/小池孝良) と め や仕様の確定など,多くの課題がありますが,地域の雇用確保 や経済の活性化,林業・木材産業の再興につながる取組であり, 仮設住宅や復興公設住宅以外にも,私達は森林・林業分野の 強みを活かした災害復旧の取組を行ってきました。その一つが, れており,様々 避難所でのプライバシーと収納スペースの確保を目的とした木 な地図情報の入 製組立家具キット「組手什」の避難所への配布です。組手什と 手方法を説明し, は長さ 2m,幅 39mm,厚さ 15mm の杉材に 40 個の切り欠き 調査地域の略図 加工がされた部材を用いて自由にかつ簡易に組み立てることが の作成方法が解 できる組立家具キットです。緑の募金を活用して愛知や鳥取の 説されているの 方々の御指導を受けながら,共同で寄贈する活動を行いました。 は大変役に立つ。 震災で起きた大きな苦難を乗り越えることは至難のことです く で じゅう また,調査対象地域の地理・歴 が, 取組を続ける中で, 今までの流れとは異なる新しい森林・林 史・人口や自然条件の調査手法と 業の幕開けを実感しています。その一方で原発事故に伴う放射 具体的な【作例】を示している。 ハザードマップを収集・整理する とともに,関連機関が公表してい る被害想定を把握しておく必要が あると説く。このような地域情報 万 1 千本以上を廃棄処分 することとなり,椎茸出 荷再開の目処は立ってい ません。長い期間を要す を収集・整理した上で,現地調査 る課題ですが,逃げるこ に行くべきであると解説している。 となく前向きに対応して (一般財団法人 砂防フロンティア 整備推進機構 技師長/井上公夫) 石巻市避難所に寄贈した組出什 そして,対象地域の災害記録と しいたけ 能汚染は深刻です。私の職場でも原木露地栽培椎茸のほだ木 1 いきます。明日を信じて。 とよま (登米町森林組合/竹中雅治) 森林技術 No.851 2013.2 41 (☆森林や木材を使って、東北の復興に取り組む人や活動を紹介しています。投稿募集中 ! ) 自身としても尽力していく所存です。 林業技士・森林情報士の登録更新 受付中! お問い合せ先 ●林業技士 ①平成 20 年度に林業技士の新規登録を行った方と, ② B グループ(昭和 61 年度~平成 7 年度)で登録し,かつ平成 20 年度に更新を行った方を対象として,先月より登録更新手続き の申請を受け付けています。お済みでない方は,お急ぎ下さい。 ●森林情報士 登録更新手続きの申請を受け付けています。該当す る方々に,昨年 12 月にご案内の通知を差し上げておりますので, お忘れのないようお手続き下さい。 《申請期間》いずれも,平成 25 年 1 月~ 2 月末まで ●会員事務/森林情報士事務局 担当:三宅 Tel 03-3261-6968 Fax 03-3261-5393 ●林業技士事務局 たか 担当:高 Tel 03-3261-6692 Fax 03-3261-5393 ●本誌編集 いち 担当:吉田,志賀,一 「森林技術賞」等コンテスト・支援事業 Tel 03-3261-5518 Fax 03-3261-6858 ●森林・林業に関わる技術の向上・普及を図ることを目的に, 《第 58 回 森林技術賞》及び《第 23 回 学生森林技術研究論文コンテスト》の ●総務事務(協会行事等) 担当:細谷,伊藤 募集を行っています。詳しくは,本号 13 ページをご覧下さい。 ●平成 25 年度 森林技術の研鑚・普及等の活動に対する支援事業 会員の皆さまが実施する森林・林業技術の研鑽や普及等の活動に対 し,経費の支援を行います。支援対象は,①森林技術等の調査・研 Tel 03-3261-5281 Fax 03-3261-5393 会員募集中 究活動,②現地検討会や見学会等の開催,③講演会等の開催,④森 林技術の普及活動などです。 詳細は当会 WEB サイトをご覧下さい! ●年会費 個人の方は 3,500 円, 団体は一口 6,000 円です。なお, 学生の方は 2,500 円です。 職 員 募 集《新卒採用》 平成 26 年 4 月に採用する,新規の技術職員を募集します。 募集内容 やエントリーシート等については, 当会 WEB サイトをご覧下さい。日 本の森林・林業の再生や海外の森林保全に関心の高い,意欲ある方の 応募をお待ちしています。 (Tel 03-3261-5281) 「森林技術」への投稿募集 ●研究最前線のお話,新たな技術の現場への応用,地域独自の取組み, さまざまな現場での人材養成・教育,国際的な技術協力,施策への 提言など森林管理や林業の発展に役立つ話題を募集しています。 ●表紙を飾るカラー写真の投稿を募集しています。森林管理や林業の 現場の様子が伝わってくるもの,森や林・山村の風景,森に生きる 動植物など,とっておきの一枚をお寄せ下さい。 編集後記 巷では,社寺仏閣巡りがちょっと したブームになっているとか。今年 は伊勢神宮や出雲大社が遷宮を迎え ることもあって,注目度を増してい る模様。これを機に日本文化を支え ている建築部材 → 木・森へと想い を馳せ,国内林業に関心を持つ方が 増えることを期待したいです。 次号,3.11 震災から 2 年を経過し た東北の森林・林業の状況や復興に 向けた取組をお伝えします。 (異) 42 森林技術 No.851 2013.2 ●会員サービス 森林・林業の 技術情報や政策動向,皆さまの 活動をお伝えする,月刊誌「森 林技術」を毎月お届けします。 また,カレンダー機能や森林・ 林業関係の情報が付いた「森林 ノート」を毎年 1 冊無料配布し ています。その他,協会が販売 する物品・図書等が,本体価格 10% off で入手できます。 会員事務:03-3261-6968 ー 販売 サ ビ ス:03-3261-5414 森 林 技 術 第 851 号 平成 25 年 2 月 10 日 発行 編集発行人 加 藤 鐵 夫 印刷所 株式会社 太平社 発行所 一般社団法人 日本森林技術協会 ○ http://www.jafta.or.jp 〒 102-0085 TEL 03 (3261) 5 2 8 1(代) 東京都千代田区六番町 7 FAX 03 (3261) 5 3 9 3 三菱東京 UFJ 銀行 麹町中央支店 普通預金 0067442 振替 00130-8-60448 番 SHINRIN GIJUTSU JAPAN FOREST published by TECHNOLOGY TOKYO ASSOCIATION JAPAN 〔普通会費 3,500 円・学生会費 2,500 円・団体会費 6,000 円/口〕 東京営業所/〒104-0031 東京都中央区京橋1-17-1 昭美京橋第2ビル2階 TEL:03-3566-6105 FAX:03-3566-6108 大阪営業所/〒532-0003大阪府大阪市淀川区宮原5丁目1番28号新大阪八千代ビル別館4FA号室 TEL:06-6396-8610 FAX:06-6396-8612 ͒ఃᆟӀ̶Һ 3124͓Ѣшڎ! ! ৻␠㧕 ! !ᣣᧄᨋᛛⴚදળ ! ! ᐕ ᨋࡁ࠻ࠍ⽼ᄁߒߡ߅ࠅ߹ߔޔ߅ߥޕᒰળ᥉ㅢળຬߩᣇߦߪ ౠ㧘 ࿅ળຬߦߪ৻ญߚࠅ ౠࠍήᢱߢ߅ዯߌߒߡ߹ߔޕ 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