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G lo b a l A d viso ry D e p a rtm e n t
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中国ビジネス Q&A シリーズ
中国における外商投資企業の撤退について
2016年9月
Global Advisory
Department
グローバル・アドバイザリー部
本資料は、情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、一般的に信頼
できると思われるデータに基づき作成致しておりますが、その信憑性。正確性を保証するものではありません。また、本資料はお客さ
まの参考資料の目的のみでご利用いただきたく、お客さま及びお客さま担当会計士・税理士・弁護士等の専門家以外の法人・個人に
対して本資料の全部もしくは一部を引用、複写、転送、開示されることは、ご遠慮いただきますようお願い致します。最後のページに当
資料の利用に関する留意点を掲載しています
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目 次
Q1.外商投資企業の撤退には、どのような方法が考えられますか
P4
Q2.解散・清算による撤退方法について、留意すべき点は何ですか
P4
Q3.出資持分譲渡の撤退方法は解散・清算の撤退方法と比べて、どのようなメリットと
デメリットがありますか
P7
Q4.実質的減資について、審査機関の認可を得ることが難しく、実務上、実行可能性が
高くないと聞いていますが、実際はどうなのでしょうか
P8
Q5.出資持分譲渡による撤退方法を採用する場合、通常どのような手続きを行いますか
P10
Q6.出資持分譲渡協議書には、通常どのような内容を定めますか
P12
Q7.合弁企業または合作企業の出資持分を譲渡する場合に留意すべき点は何ですか
P13
Q8.出資持分譲渡の譲渡価格はどのように決定されますか
P14
Q9.外国側投資者が、合弁企業または合作企業の出資持分を全て中国側投資者に譲渡
する場合、どのような点に留意すべきでしょうか
P14
Q10.外国側投資者が、合弁企業または合作企業の出資持分を全て中国側投資者に譲渡
する場合、外債処理はどうすればよいでしょうか
P15
Q11.撤退方法として吸収合併を選択するのはどのような場合でしょうか
P16
Q12.外商投資企業が行う解散・清算の方法には、どのようなものがありますか
P17
Q13.清算期間について何か規定がありますか
P19
Q14.外商投資企業が解散・清算を開始する場合、どのような手続が必要ですか
P19
Q15.解散・清算の申請は、どのように行いますか
P20
Q16.解散・清算を行う場合、誰が清算グループを構成しますか
P21
Q17.清算グループは、どのような職権をもっていますか
P22
Q18.解散・清算の手続上、どのように清算通知および公告を行いますか
P23
Q19.解散・清算を行う場合、債権者の債権届出はどのように行われますか
P23
1
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Q20.解散・清算の場合、債権者が有する債権額はどのように確定されますか
P24
Q21.解散・清算の場合、清算財産の評価はどのように行われます
P24
Q22.解散・清算において、一部の財産処分について、無効となる可能性があると
聞きましたが、それはどのような場合ですか
P25
Q23.解散・清算の場合、財産処分上、注意をすべきことは何ですか
P26
Q24.解散・清算の場合、従業員との労働関係をどのように処理しますか
P28
Q25.解散・清算の場合、その享受していた外商投資企業の優遇政策はどうなりますか
P31
Q26.解散・清算の場合、清算費用として清算財産から優先的に支払われる費用に
ついてはどのようなものがありますか
P33
Q27.解散・清算の場合、どのように清算財産は処分されますか
P33
Q28.子会社の清算に当たって、親会社が債権を放棄する場合、日本の法人税の
観点からどのような問題点に注意すべきですか
P34
Q29.債権放棄を受けた場合において、中国の企業所得税法上どのようなことに留意
すべきですか
P36
Q30.金融機関に対して本社が子会社のため債務保証をしている場合、どのような
ことに留意すべきですか
P36
Q31.清算時における資産の処分について、税務上どのようなことに留意すべきですか
P37
Q32.清算時に、中古固定資産を売却する場合、増値税を納付する必要がありますか
P38
Q33.清算時に帳簿上残存する従業員奨励・福利基金はどのように処理すべきですか
P39
Q34.清算手続について、他にどのような手続が必要となりますか
P40
Q35.現地法人を清算した場合、残余財産を日本本社に送金することは可能ですか
P41
Q36.撤退による持分譲渡所得等は、どのように計算されますか
P42
Q37.通常どのような場合に、破産清算を行いますか
P42
Q38.債務者である外商投資企業が自ら破産清算の申請を提出する場合、どのように
申請すればよいですか
P43
2
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Q39.破産申請を提出する際に、人民法院に対して破産申請費用を納付する必要が
ありますか
P44
Q40.債務者である外商投資企業が自ら破産清算を申請した場合の手続はどうなって
いますか。また、どれくらい時間がかかりますか
P44
Q41.破産申請が人民法院に受理された場合、破産企業の法定代表者等の経営責任者は
何に注意すべきですか
P45
Q42.破産申請が人民法院に受理された後、破産企業の履行期間中の取引契約等に
ついてどのように取り扱えばよいでしょうか
P46
Q43.破産申請が人民法院に受理された後、会社が関わっている訴訟または仲裁は
どうなりますか
P46
Q44.管理人は誰が決定しますか
P47
Q45.管理人はどのような職責を果たしますか
P47
Q46.管理人の報酬はどう決められますか
P48
Q47.債権者会議とは何でしょうか。どういう人が債権者会議に参加できますか
P48
Q48.債権者会議は、どういう職権を有しますか
P49
Q49.破産財産の弁済順位はどうなっていますか
P49
Q50.破産財産の分配案はどのように確定されますか
P50
Q51.破産企業の株主が、中国において新しい投資を行う際に、何か制限を受けることが
ありますか
P51
Q52.外商投資企業の場合、破産清算の実例は多く存在するのでしょうか
P51
Q53.破産清算を選択する場合、何か留意点がありますか
P52
Q54.「企業破産法」の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の規定(2)には
どのような内容が記載されていますか・
P52
Q55.合弁契約に定める解散事由や持分譲渡事由に該当しますが、現実的には各種
要因によって合弁企業の解散清算または中国側パートナーもしくは第三者への
持分譲渡ができない場合、何か対応方法がありますか
【付属資料】 外商投資企業の解散・清算の手続きフロー
3
P53
P56
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Q.1
外商投資企業の撤退には、どのような方法が考えられますか
A1.
外商投資企業の撤退には、次の5つの方法が考えられます。
(1)解散・清算
(2)出資持分譲渡
(3)実質的減資
(4)破産清算
(5)吸収合併
上記5つの撤退方法には、時間的負担、経済的負担、レピュテーションリスク等、それぞれメ
リット・デメリットが存在するため、具体的事情に応じて、いずれの方法を選択することが最も適切
かを慎重に検討することが必要です。
たとえば、一般的に解散・清算による撤退は、出資持分譲渡による撤退に比べて時間的・経済
的負担が大きいことが多いため、解散・清算による撤退を決定する前に、出資持分譲渡による撤
退が可能か検討することが通常です。
撤退を検討する際に、解散・清算による撤退ありきで議論することがないよう、注意が必要とい
えます。
Q2.
解散・清算による撤退方法について、留意すべき点は何ですか
A2.
上記のとおり、外商投資企業の撤退方法の1つとして、解散・清算がありますが、解散・清算に
よる撤退方法は、必ずしも他の撤退方法に比べて有利とは限りません。次に掲げる点に留意す
べきです。
(1) 中国側パートナーの判断を仰ぐことなく解散・清算を決議することができる外商独資企業は
別として1、合弁企業または合作企業の場合、外商投資企業の解散・清算については、董事
会の法定要件を満たす出席董事の全員一致の決議が必要です2。
1
第 3 次改正会社法が施行された 2006 年 1 月 1 日以降に設立された外資企業の場合、株主(外商独資)または株主
会(外商合資)の決議が必要です(「会社法」(2013 年 12 月 28 日全国人民代表大会常務委員会改正公布、同年 3 月
1 日施行)第 37 条第 1 項本文、第 9 号および第 61 条、「外商投資の会社の審査認可および登記管理の法律適用に
係る若干の問題に関する執行意見」第 3 条第 2 項ならびに「『外商投資の会社の審査認可および登記管理の法律適
用に係る若干の問題に関する執行意見』の実施に関する通知」第 2 条第 1 項第 1 号)。
2
「中外合資経営企業法実施条例」(2014 年 2 月 19 日国務院改正発布、同年 3 月 1 日施行)第 33 条第 1 項第 2 号、
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この点、「中外合資経営企業法実施条例」第32条第2項第1文は「董事会会議は、3分の2
以上の董事の出席がある場合に限り開催することができる。」、「中外合作経営企業法実施
細則」第28条第2項第1文は「董事会会議または連合管理委員会会議は、3分の2以上の董
事または委員が出席したときに限り開催することができる」と規定していますが、定款で法定
要件を加重していないか、確認が必要です。
実務上、外国側投資者から提起される解散・清算について、中国側投資者の派遣董事の
賛成を得ることは通常容易ではなく、特に中国側投資者が国有企業である場合は、累積損
失があるとしてもその出資額を満額支払うよう取り計らいをしない限り(時に出資後、解散・
清算までの期中金利相当額まで加算しない限り)、賛成を得られない場面が散見されます。
法的にいえば、解散・清算時に外国側投資者が、中国側投資者、特に国有企業に対して、
その出資額を満額支払うよう取り計らいをしなければならないとするのは、「中外合資経営
企業法」3第4条第3項の「合営各当事者は、登録資本の比率に応じて利益を享受し、ならび
にリスクおよび欠損を分担する。」に違反すると考えられます。しかし、実務上は、このような
要求がなされることもあり、法律と実務が乖離している場面の一端ということができます。
(2) また、手続開始から撤退完了まで非常に時間がかかるという問題があります。外商投資企
業を解散・清算するには、清算手続、関係会社登記抹消手続、従業員との労働契約の解除
等、解散・清算手続を開始してから完了するまでには、少なくとも半年から1年は必要です。
解散・清算時に税関または税務局による調査が実施され、密輸、脱税等の違法行為が発
見された場合や、輸出増値税の未還付分の還付について、税務局が長期間応じないケース
では、3、4年もの長きにわたり終了できない場合もあります。
(3) さらに、外商投資企業は、資産処分の困難性に直面することになります。解散・清算では、
外商投資企業の資産処分が不可避ですが、対象資産の販売チャネルが充実していないこと
もままあり、期待していた金額で資産を処分することができない場面が散見されます。
(4) その他、次のような撤退コストが挙げられます。
①労働契約の解除・終了およびこれに伴う経済補償金の支払い
「労働契約法」4第44条第5号は、解散・清算を労働契約終了の法定事由として定めています。
(実務上は、労働契約の終了を待たず、企業側が合意解除を提案して処理することが多
い。)
同法第46条第2号、第6号、第47条および「労働契約法実施条例」5第27条によると、企業
側の提案により労働契約を解除する場合や、解散・清算により労働契約が終了する場合、
「中外合作経営企業法実施細則」(2014 年 2 月 19 日国務院改正発布、同年 3 月 1 日施行)第 29 条第 1 項第 3 号
3
全国人民代表大会常務委員会 2001 年 3 月 15 日改正公布、同日施行
4
全国人民代表大会常務委員会 2007 年 6 月 29 日公布、2008 年 1 月 1 日施行、2012 年 12 月 28 日改正公布、2013
年 7 月 1 日施行)
5
国務院令第 535 号、2008 年 9 月 18 日発布・施行
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企業は労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません。
そして、経済補償金の金額は、労働者が当該企業における勤続年数によって、(α)1年を
満たすごとに1ヵ月分の月賃金(労働者が労働契約を解除し、または終了する前12ヵ月の平
均賃金をいい、これが当該地区の最低賃金標準を下回る場合には、当該地区の最低賃金
標準に従い計算する。以下も同様)として、(β)6ヵ月以上1年未満である場合には1年として、
(γ)6ヵ月に満たない場合には、月賃金の半額として、経済補償金を支払うこととされていま
す6。
また、労働者の月賃金が雇用単位の所在する直轄市または区を設ける市級人民政府の
公布する当該地区の前年度の従業員月平均賃金の3倍を上回る場合には、従業員月平均
賃金の3倍の額に従い支払い、経済補償金の計算に係る年数は、最高で12年を超えないも
のとなっています。
また、実務上は、上記法定金額に加え、さらに任意で1ヵ月分(N+1)や2ヵ月分(N+2)多
い経済補償金を支払うことが多くなっており、従業員の数によっては、労働契約の解除・終
了に伴う撤退コストは看過できない金額となります。
②輸入免税品処分に伴う関税の追納
税関総署が2008年12月29日に発布した「税関輸出入貨物税減免管理弁法」第36条に基
づき、免税で輸入した設備等については、物品の種類に応じた監督管理期間が定められて
おり(船舶及び航空機は8年、起動車両は、6年、その他の貨物は5年)、この期間内に外商
投資企業が解散し中国国内で処分する場合には、免税資格を有する企業への売却に依ら
ない限り、免税された使用期間相当の評価額を減額した関税の追納が必要な場合が生じま
す7。
③二免三減等の租税優遇の取り消しに伴う租税追納
2008年1月1日をもって廃止された「外商投資企業および外国企業所得税法」第8条第1項
では、生産型の外商投資企業で経営期間が10年以上の企業については、利益が発生する
年度から起算して企業所得税につき二免三減(2年免税3年半額)の優遇が受けられ、経営
期間10年未満で解散した場合には、優遇を受けた税を追納することが必要となっていまし
た。
なお、「企業所得税法」8の施行により、上記「外商投資企業および外国企業所得税法」が
廃止され、「企業所得税法」を見る限りは、2008年1月1日以降において、既に「二免三減」の
優遇を享受していた外商投資企業が経営期間10年未満で解散・清算する場合、その享受し
た税金優遇についてどう取り扱われるかについて明確な規定がありませんが、一般的には
6
なお、2008 年 1 月 1 日の「労働契約法」施行より前については、「労働契約の違反及び解除に係る経済補償弁法」
(1994 年 12 月 3 日労働部発布、1995 年 1 月 1 日施行)等が規律しています。
7
今日的には僅少と思われますが、監督管理期間が長いものについては、輸入環節増値税の追納が問題となること
も一応あり得ます。
8
全国人民代表大会 2007 年 3 月 16 日公布、2008 年 1 月 1 日施行
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設立当時に遡及して優遇が取り消され、返納を要求されると思われます。
上記のとおり、解散・清算による撤退は、時間的・費用的に多大な負担を被ることになりま
すが、清算に必要な費用を中国現地法人のみでまかなえない場合、日本の親会社が増資・
親子ローン等により支援を行う必要があります。
当該増資には、本社側の問題として、「そもそも撤退のために増資をすることは経営判断
として妥当なのか」という問題もありますが、実際には、中国側の問題として、清算認可取得
前に増資手続をしなければならないにもかかわらず(付属資料参照)、資金が足りなくなるま
で増資に目が向かず、清算認可を取得した後で、清算費用が不足する場面が良く見られま
す。親子ローンは清算認可取得後でも可能ですが、親子ローンには金額の上限があります
ので、必要な金額のローンを実施できない場合も良くみられます。また、清算する中国現地
法人が現地で銀行からの借入が残っている場合にも注意が必要です。現地法人に融資を
行っている銀行の立場としては、これからなくなる会社に融資を継続することは原則できない
ため、本社として現地法人の清算を機関決定した段階で、回収不能債権として認識すること
になります。そのため、中国現地法人の清算を本社で決定する前に、返済資金がなければ
本社から増資または親子ローン等により銀行借入を返済しなければなりません。この点清算
が視野に入った時点で返済スケジュールについて銀行とは打ち合わせする必要がありま
す。
したがって、解散・清算による撤退を実行する場合は、事前に資金面の手当てを十分に
行っておく必要があり、銀行からの借入れがある場合には、清算手続きに入る前に銀行へ
の返済を済ませておく必要がある点については留意が必要といえます。
Q3.
出資持分譲渡の撤退方法は解散・清算の撤退方法と比べて、ど
のようなメリットとデメリットがありますか
A3.
出資持分譲渡は、企業を継続させたまま投資者が投資撤退を図る方法であるため、企業を解
体させゼロの状態に戻す解散・清算に比べて、投資者にとって負担が少ないと思われます。Q2で
挙げた留意点と比較すると、次のことがいえます。
(1)合弁企業又は合作企業の場合、出資持分譲渡も解散・清算と同様に他方当事者の同意が必
要となりますが、企業を解体する解散・清算に比べ、実務上、比較的同意を得やすいといえま
す。
(2)出資持分譲渡の場合に必要となる手続期間は、契約交渉期間を除けば、地域にもよります
が、10日間程度で登記が完了することが多いため、数年かかることも覚悟しなければならない
清算手続に比べ、はるかに短期間で手続が完了するといえます。
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(3)換価性についても、出資持分譲渡価格は企業継続を前提とするため、その譲渡価格は解散・
清算における個別の資産処分の総額よりも、高額になる場面が多いといえます。
(4)その他の撤退コストについても、企業が継続するため労働契約の終了は基本的には不要で
あり9、譲渡先によっては輸入免税、企業所得税優遇の取消し問題も回避できる余地がありま
す。
ただし、出資持分譲渡は出資持分の譲受人が存在しなければ実現できません。しかも、投資
者が投資撤退を考えるような状況では、当該外商投資企業の経営状態は良好とはいえない場合
が多く、また、合弁企業または合作企業の場合は、合弁当事者でない出資持分譲受人は、譲受
後、他の株主と合弁または合作企業経営をすることになるため、実際に持分を譲り受ける当事者
の出現は限られ、譲渡価格も比較的低い金額を要求される場合もあります。
Q4.
実質的減資について、審査機関の認可を得ることが難しく、実務
上、実行可能性が高くないと聞いていますが、実際はどうなので
しょうか
A4.
減資には、会社財産の株主への返還を伴う実質的減資と、資本の欠損が生じている場合に会
社財産と資本額を一致させるために行われ会社財産の返還を伴わない名目的減資とがありま
す。
「外資企業法実施細則」10第 21 条、「中外合資経営企業法実施条例」第 19 条および「中外合
作経営企業法実施細則」第 16 条第 2 項によると、外商投資企業が経営期間内にその登録資本
を減少することは原則的に禁止されていますが、投資総額および生産経営規模等に変化が生じ
ることによって確実に登録資本を減少させる必要がある場合、審査認可機関の認可を経て登録
資本を減少することは可能です(なお、中国(上海)自由貿易試験区内においては、「ネガティブリ
スト以外の分野においては、当該項目の行政審査認可の実施を一時的に停止し、備案管理に
改める。」とされています11。)。
この「投資総額および生産経営規模等に変化が生じることによって確実に登録資本を減少す
る必要がある場合」は、国家工商行政管理局、旧対外貿易経済合作部の「外商投資企業の審査
認可および登記管理をより一層強化することに係る問題に関する通知」12第 11 条に「確実に正当
9
実務上は、譲受人により、一度従業員との間の労働契約を解除し、経済補償金の処理をするよう要求されることも
あります。
10
国務院令第 301 号(2014 年国務院令第 648 号)、2014 年 2 月 19 日発布、同年 3 月 1 日施行。
11
中国(上海)自由貿易試験区内において関係行政法規及び国務院文書所定の行政審査認可又は参入許可に係る
特別管理措置を一時的に調整することに関する国務院の決定(国務院 国発[2013]51 号)
12
国家工商行政管理局、旧対外貿易経済合作部、1994 年 11 月 3 日発布・施行。なお、同通知は、2004 年 6 月 30 日
に「関連工商行政管理規則および規範性文書の廃止に関する国家工商行政管理総局の決定(工商法字[2004]第 98
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な理由があり、企業の正常な経営に影響せず、かつ債権者の利益を侵害しないという前提のも
とで、原審査認可機関に対して生産規模の縮小、投資総額および登録資本の調整の申請を提
出し、原審査認可機関の認可を経て、元の登記機関の認可後、変更登記を行い、かつ国家工商
行政管理局に届け出なければならない」との規定があるため、①確実に正当な理由があり、②
企業の正常な経営に影響せず、③債権者の利益を侵害しないという 3 要件を具備すれば法律上
は減資が認められる可能性があります。
実質的減資の実務上の認可可能性について、上記 3 要件を具備するかが問題となりますが、
以前は実質的減資については一律 3 要件を具備しなければならないものとして、認可を得ること
は困難でした。
審査認可機関が認可を与えない理由として、キャッシュアウトを伴う実質的減資は企業の正常
な操業に影響し、債権者の利益を侵害することを挙げていましたが、これは形式的なもので、実
質的には外貨管理上、一旦獲得した外資(外貨)を流出させたくないという政策的意図が働いた
ものと思われます13。
しかし、直近定められた法令などによれば、減資の実行可能性を前提とした規定が設けられ
ています。
例えば、商務部が発布した「クロスボーダー人民元直接投資に関係する問題に関する公告」14
第 6 条は、減資により取得した人民元による直接投資について言及するとともに、国家外貨管理
局が発布した「外商投資企業の外貨資本金の人民元転管理方式を改革することに関する国家
外貨管理局の通知」15第 2 条は、外国投資家の減資による仕向送金等を想定しています。
また、最高人民法院が発布した、「『会社法』の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院
の規定(2)」16第 5 条は、減資による会社存続について定めるとともに、「『会社法』の適用に係る
若干の問題に関する最高人民法院の規定(3)」17第 17 条も出資者が出資を履行しない場合など
の減資の必要性を定めています。
これら法律上の定めに加えて、中国では外貨管理規制が徐々に緩和されていることから、従
前の「一旦獲得した外資(外貨)を流出させたくない」という政策的意図も働きにくくなっているた
め、従前に比べて、実質的減資は認められやすくなったということができます。
たしかに、減資判断は個別性判断が強く、また地域や金額によっても判断が異なるため(結局
は、判断を行う地域・担当者が、外資(外貨)の流出をどの程度嫌うかが重要なポイントになると
思われます。)、事前に減資の可否を確定することは困難ですが、「減資にチャレンジする価値が
上がった」ということはできます。
号)」により廃止されていますが、同通知を受け、減資手続につき規定する「外商投資企業の投資総額および登録資本
の調整に関連する規定および手続きに関する対外経済貿易経済合作部および国家工商行政管理局の通知」(1995
年 5 月 25 日発布〔1995〕外経貿法発第 366 号)は現在も有効であることから、同通知の減資に関する要件は、現在に
おいても有効であると考えられます。
13
これに対し、外貨送金を伴わない名目的減資は比較的容易に認められるといわれています。
14
2013 年 12 月 3 日発布(商務部公告 2013 年第 87 号)
15
2015 年 3 月 30 日発布(匯発[2015]19 号)
16
2014 年 2 月 20 日発布(法釈[2008]6 号(2014 年法釈[2014]2 号) )
17
2014 年 2 月 20 日発布(法釈[2006]3 号(2014 年法釈[2014]2 号))
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なお、2013 年 12 月 28 日に改正公布された「会社法」は、最低資本金制度を撤廃し、改正前会
社法第 178 条第 3 項「会社の減資後の登録資本は、法定の最低限度額を下回ってはならない。」
との規定を削除しています。
したがって、減資の可能性に加えて、その減資の程度についても、法及び政策上は緩和の方
向性にあると考えてよいと思われます。
Q5.
出資持分譲渡による撤退方法を採用する場合、通常どのような手
続きを行いますか
A5.
出資持分譲渡による撤退方法を採用する場合、外商投資企業の具体的情況により多少違い
がありますが、基本的には次の順序で進められると考えます。なお、ここでは、中外合弁企業の
出資持分譲渡手続の流れを記載します。中外合作企業の場合もほぼ同様ですが、外資企業の
出資持分譲渡の内部的手続は定款規定に従うことになります。認可申請以降の手続は中外合
弁企業、中外合作企業、外資企業のいずれも同じです。
(1)譲渡先の選定
(2)他の合弁当事者に対する出資持分譲渡の申し出
他の合弁当事者が有する出資持分の優先購入権(「中外合資経営企業法実施条例」第20
条第2項および第3項ならびに合弁契約参照)に対する対応が必要になります。
(3)譲渡先との譲渡協議
譲渡実行の有無や譲渡価格を決定するために、必要に応じてDD(デューデリジェンス)が実
行され、また従業員の雇用継続や経済補償金の負担等について協議がなされます。
(4)董事会の譲渡承認決議
合弁企業および合作企業の出資持分譲渡について、董事会の法定要件を満たす出席董事
の全員一致による承認決議が必要となります18。
合弁企業および合作企業の場合、出資持分譲渡については、他の合弁当事者の同意が必
要とされ、その同意書が譲渡認可申請の際の必要添付書類とされているので、重ねて董事会
の決議を必要とする理由は中国の「中外合資経営企業法」の構成からみれば本来希薄である
ように思えますが、出資持分譲渡を投資者レベルのほかに、合弁企業の組織上のレベルでも
手続的に確認するための方法と考えられます。
また、外資企業について、出資持分譲渡の外資企業内部における手続は規定されていませ
18
「中外合資経営企業法実施条例」第 33 条第 1 項本文および同項第 1 号ならびに「中外合作経営企業法実施細則」
第 29 条本文および同条第 1 号(出資持分譲渡は定款変更を必然的に伴います)。
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んが19、少なくとも2005年12月31日以前は定款で董事会が設置され、合弁企業の場合を参考
に、出席董事全員一致による董事会決議が必要とされるのが通例でした。関係法令20も、これ
を前提としているように読めるものもあります。
もっとも、2006年1月1日以降に設立された外資企業には、株主会(または株主)が会社の機
関として設定を義務付けられますので21、会社法の規定22により処理されます。
(5)審査認可機関への譲渡認可申請
出資持分譲渡については、合弁、合作、外資のいずれの形態であっても、企業審査認可機
関の認可が必要であると定められています。審査認可機関の認可を得ない出資持分譲渡は
無効となっています23。
出資持分譲渡の認可申請は、合弁、合作または外資の各企業および譲渡人が行うものとさ
れています24。認可申請に際しては、出資持分権変更申請書、企業の元の契約(独資企業の
場合は不要と解されます。)、定款およびその修正協議書その他の文書の提出が必要です。
「持分変更規定」第9条は、出資持分譲渡認可申請時に提出すべき文書として、次の文書を
挙げています。
①出資持分権変更申請書
②企業の元の契約、定款およびその修正協議書
③企業の設立認可証書および営業許可証書
④企業董事会の出資持分変更協議書
⑤出資持分権変更後の董事会構成員名簿
⑥譲渡人と譲受人が署名した出資持分譲渡協議書および他の当事者が署名した承認書
(他の当事者の承認は出資持分譲渡協議書上に承認署名したものでよい)
⑦審査認可機関が提出を求めるその他の書面
(6)審査認可機関の認可
申請する審査認可機関は、原審査認可機関とします。つまり、当該合弁、合作、外資企業の
設立を認可した機関が該当します25。ただし、当初の認可機関の認可権限を超える増資がなさ
れた場合には、その増資についての認可権限を有する審査認可機関に報告した上で、審査認
可されます26。
19
外資企業の出資持分譲渡について定める「外資企業法実施細則」第 22 条は、出資持分譲渡につき、審査認可機
関の認可および工商行政管理部門の変更登記が必要である旨を定めるのみで、出資持分譲渡の内部手続について
は規定していません。
20
「外商投資企業の投資家の出資持分の変更に関する若干の規定」(旧対外貿易経済合作部、国家工商行政管理
局、1997 年 5 月 28 日発布・施行)(以下「持分変更規定」といいます。)。第 9 条本文および同条第 4 号参照
21
「外商投資企業の審査・認可および登記管理の法律適用に係る若干の問題に関する執行意見」第 3 条第 2 項およ
び「『外商投資企業の審査・認可および登記管理の法律適用に係る若干の問題に関する執行意見』の実施に関する
通知」第 2 条第 1 項第 1 号
22
「会社法」第 71 条ないし第 75 条参照
23
「持分変更規定」第 3 条
24
「持分変更規定」第 9 条「外商投資企業の紛争事件を審理する際の若干の問題に関する最高人民法院の規定(1)」
(2010 年 8 月 5 日最高人民法院発布)
25
「持分変更規定」第 7 条第 1 項
26
「持分変更規定」第 7 条第 2 項
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審査認可機関は、申請に必要とされる全ての書類を受領した日から30日以内に、譲渡の認
可、不認可の決定を行います27。
(7)審査認可機関における「外商投資企業認可証書」の変更申請
出資持分譲渡の認可を得たときは、外商投資企業は認可日から30日以内に審査認可機関
において外商投資企業認可証書の変更申請を行わなければなりません28。出資持分譲渡によ
り当該企業の出資持分全てが中国側に帰属することになる場合(内資企業に転換する場合)
には、当該企業は外商投資企業認可証書の変更手続ではなく、証書の返納手続をすることに
なります29。
(8)工商行政管理機関への変更登記申請
出資持分譲渡が行われた企業は、外商投資企業認可証書の変更認可の日から30日以内
に工商行政管理局に対して登記の変更の申請を行わなければなりません30。出資持分譲渡に
より内資企業に転換する場合には、登記申請に際して、どのような形態の内資企業を設立す
るかについての関係文書を提出します31。
(9)外貨登記等関係機関における変更登記の申請
Q6.
出資持分譲渡協議書には、通常どのような内容を定めますか
A6.
出資持分譲渡を行う際に、まず譲受人との間で出資持分譲渡協議書を作成する必要がありま
す。持分譲渡規定によりますと、出資持分譲渡協議書には以下の必要的記載事項が定められて
います32。
(1) 譲渡人および譲受人の名称、住所、法定代表者の姓名、職務、国籍
(2) 譲渡される出資持分割合、譲渡価格
(3) 譲渡の決済期限および方式
(4) 譲受人が企業契約、定款に基づいて有する権利、負担する義務
(5) 違約責任
(6) 適用法および紛争解決条項
(7) 協議の効力の発生および終了
(8) 協議書調印の日時および場所
27
28
29
30
31
32
「持分変更規定」第 17 条第 1 項
「持分変更規定」第 17 条第 2 項
「持分変更規定」第 17 条第 3 項
「持分変更規定」第 18 条
「持分変更規定」第 19 条第 3 項
「持分変更規定」第 10 条
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Q7.
合弁企業または合作企業の出資持分を譲渡する場合に留意すべ
き点は何ですか
A7.
合弁企業または合作企業の出資持分を譲渡する場合、中国側パートナーからの同意の取得
と優先購入権の行使について、留意する必要があると思われます。
合弁企業または合作企業の出資持分譲渡については、他の合弁または合作当事者の同意が
必要となります33。また、合弁企業の場合、他の合弁当事者には優先購入権が認められています
34
。したがって、出資持分を譲渡しようとする場合は、他の合弁または合作当事者に、その旨およ
び譲渡条件を提示して、同意をするかどうか、優先購入権を行使するかどうかを確認する必要が
あります。出資持分譲渡の申し出を受けた他方当事者は、優先購入権を行使して当該出資持分
権を取得するか、第三者への譲渡に同意するかのいずれかを選択することになります。出資持
分権の買い取りも譲渡の同意もしないということは許されず、出資持分権の買い取りをしない限
り、実体法的には、譲渡に同意したものとみなされる、と解する余地があると思われます。
「中外合資経営企業法」および「中外合資経営企業法実施条例」は、出資持分譲渡について、
合弁企業の他の当事者の同意の必要性と他の当事者の優先購入権が並列的に規定されている
だけで、外商投資企業にも原則的に適用される「会社法」第71条第2項は会社法上の有限責任
会社の出資持分譲渡につき、譲渡承認が得られない場合の譲渡承認反対者の出資持分権買い
取り義務を認めています。「会社法」と外商投資企業法との関係について(特に「会社法」をどの
程度の範囲で外商投資企業に適用するかについて)、第3次改正「会社法」の施行日である2006
年1月1日以降、できる限り「会社法」を外商投資企業にも適用しようとする解釈が強まっているこ
とに鑑みれば、同条項を外商投資企業にも適用または参照適用し、合弁企業の場合も他の合弁
当事者が譲渡の同意も出資持分の購入もしないことは認められず、同意か買い取りかのいずれ
かを選択する必要がある、と解する余地があります35。
いずれにしても、合弁契約内に優先購入権の定めがあるか、持分譲渡実行時には必ず確認
する必要があります。
しかし、手続的な面では、出資持分譲渡についての審査認可機関の申請に際しては、他方当
33
「中外合資経営企業法」第 4 条第 4 項、「中外合作経営企業法」第 10 条など
「中外合資経営企業法実施条例」第 20 条第 2 項および第 3 項など
35
なお、「外商投資企業の紛争事件を審理する際の若干の問題に関する最高人民法院の規定(1)」(2010 年 8 月 5 日
最高人民法院発布)第 11 条は、次のように規定しています。「外商投資企業の一方の株主は、出資持分の全部また
は一部を株主以外の第三者に譲渡する場合には、その他の株主の合意を経なければならず、その他の株主がその
同意を取得していないことを理由として出資持分譲渡契約の取消しを請求するときは、人民法院は、これを支持しなけ
ればならない。次の事由の 1 つを有する場合を除く。(1) その他の株主が既に同意した旨を証明する証拠を有するとき。
(2) 譲渡人が既に出資持分譲渡事項について書面により通知しており、その他の株主が書面による通知を受領した日
から 30 日を経過して回答していないとき。(3) その他の株主が譲渡に同意せず、また、当該譲渡に係る出資持分を購
入しないとき。」
34
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事者の同意書の提出が必要とされ36、この同意書が添付されない場合には認可されない扱いが
されているため、他方当事者が譲渡の同意も出資持分の買い受けもしない場合には、合弁契約
の紛争解決条項に従ってこの当事者に対し譲渡の同意を求める仲裁等を申し立てるほかないこ
とになると思われます。
また、日本側投資者は、合弁企業または合作企業との間で技術供与契約や商標使用許諾契
約等を締結している場合には、出資持分譲渡によって投資撤退する際に、これら契約の終了等
の処理をしておかなければなりません。
Q8.
出資持分譲渡の譲渡価格はどのように決定されますか
A8.
出資持分譲渡の譲渡価格は譲渡当事者間の協議により決定されるのが一般の原則とされて
います。ただし、出資持分譲渡により、国有資産を投資した中国側投資者の出資持分に変更が
生じる場合には、譲渡価格の決定は当事者間で自由に行うことはできず、譲渡対象出資持分に
ついて資質を有する資産評価機構による価格評価を受け37、かつ国有資産監督・管理機構の審
査承認または報告を経た価格を譲渡価格の参考根拠としなければなりません。実際の取引価格
が評価結果の90%を下回る場合には、取引を暫定的に停止し、国有資産監督・管理機構の同意
を得る必要があります38。
Q9.
外国側投資者が、合弁企業または合作企業の出資持分を全て
中国側投資者に譲渡する場合、どのような点に留意すべきでしょ
うか
A9.
外国側投資者がその合弁企業または合作企業の出資持分を全て中国側投資者に譲渡する
場合、出資持分譲渡後に当該合弁企業または合作企業は中国内資企業に転換され、外商投資
企業の性質を失うことになるため、外貨管理局、税務局や税関等関係部門における外商投資企
業の登記を抹消し、内資企業として登記し直さなければなりません。この場合、解散・清算と同じ
ように、①外商投資企業に対する設備等の輸入免税優遇の取消と関税の監督管理期間未経過
36
「持分変更規定」第 9 条第 6 号
「企業国有資産評価管理暫定施行弁法」(2005 年 8 月 25 日国務院国有資産監督・管理委員会発布、2005 年 9 月
1 日施行)第 6 条第 4 号、第 8 条
38
「企業国有資産評価管理暫定施行弁法」第 22 条
37
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年数に対応する部分の追納39、②外商投資企業に対する企業所得税の二免三減優遇の取消と
減免税額の追納等が発生するため、財務監査報告書の提出要求等税関および税務局から詳細
な調査(場合によって現場調査)が入りますので、事前のコンプライアンスチェックが重要であると
思われます。
また合弁企業または合作企業が国外企業または国外銀行(中国国内で業務を認められた外
国銀行を含む)から貸付(いわゆる「外債」)を受けている場合、外国側投資者がその合弁企業ま
たは合作企業における出資持分を全て中国側パートナーに譲渡するに伴って、当該外債の処理
について問題になる可能性があると思われます。
そのため、外商投資企業性を維持して撤退するために、外国企業と擬制される香港企業、マカ
オ企業を含めて、中国側投資者と関係のある外国企業に外国側投資者の出資持分の全部また
は一部を譲渡する工夫をする例が実務ではよく見られます。
なお、「外国投資家による国内企業の買収に関する規定」(商務部ほか2009年6月22日発布、
同日施行)第11条第1項は「国内の会社、企業または自然人は、自己が国外において適法に設
立し、または支配する会社の名で自己と関連関係を有する国内会社を買収する場合には、商務
部に報告して審査・認可を受けなければならない。」と規定するところ、「国内会社」には外商投資
企業が含まれないとされますので(第2条)、当該規定の適用はないと解されます。
Q10.
外国側投資者が、合弁企業または合作企業の出資持分を全て中
国側投資者に譲渡する場合、外債処理はどうすればよいでしょう
か
A10.
外商投資企業は、従前、総投資額と登録資本額の差額(以下「投注差」といいます。)の範囲
内であれば、中国国外の銀行または企業からの貸付を受けることができるという投注差管理が
なされていましたが、2016年5月3日、「全国範囲内において全標準のクロスボーダー融資につき
マクロプルーデンス管理を実施することに関する中国人民銀行の通知」が施行され、従前なされ
ていた投注差管理に加えて、前年度の会計監査報告書にある純資産額の一倍以内の調整済対
外債務残高とするマクロプローデンス管理を選択することが可能となりました。
そして、従前、中国の内資企業は、外債借入について厳しい条件が設けられ、この条件を充た
さなければ外債貸付を受けることはできないとされていましたが、上記通知により、マクロプルー
デンス管理において、内資企業と外商投資企業の外債限度額を統一することとなりました。
出資持分権を中国側に譲渡することにより外商投資企業が中国内資企業へ転換した場合、内
39
今日的には僅少と思われますが、監督管理期間が長いものについては、輸入環節増値税の追納が問題となるこ
とも一応あり得ます。
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資化した企業が外商投資企業時代の外債借入を引き継ぐことができるかという問題が従前は存
在しましたが、上記通知によって、企業の性質が変更した際に、当該企業はマクロプルーデンス
管理に変更可能となり、従前借り入れた外債も引き続き利用可能となりました。また、投注差管
理合弁企業においてマクロプルーデンス管理を実施している場合には、中国内資企業に転換し
た企業がそのまま外債借入れを引継ぐことで足りることとなります(上記通知発布3ヵ月後に行っ
た国家外貨管理局上海市分局資本項目処外債課に対するヒアリング結果も同様の回答でした
が、同北京市外貨管理部に対するヒアリング結果では「通知の内容を詳細に把握していない。内
資企業による外貨借入れは困難である。」として、従前の運用を継続するような回答をしているた
め、実際に問題が生じた際は改めてヒアリングを行うことをお勧めします。)。
上記のとおり、外債の引継ぎ問題については、上記通知によって解決されたと考えられるもの
の、これとは別に、外商投資企業が中国国内銀行から借入れを行い、その債務に日本側投資者
の親会社保証が付されている場合等、当該債務の返済を日本側投資者が希望する場合であっ
ても、内資化した企業にこれを弁済する能力がない場合や、中国側投資者にその弁済に協力す
る姿勢がない場合も多く、最終的に内資化した企業が債務不履行に陥った場合、その保証人で
ある日本側投資者が保証債務の履行をしなければならない場面もありえます。
この場合、日本側投資者は、法律上は、内資化した企業に対して求償権を取得し得ることにな
りますが、必ずしもその実効性は高くないと思われるため、内資化する前の外商投資企業である
段階で、日本側投資者の保証債務が付されている上記債務の弁済を進めることが重要となりま
す。
Q.11
撤退方法として吸収合併を選択するのはどのような場合でしょう
か。
A.11
吸収合併40は企業の組織再編方法の1つであり、撤退方法の選択肢としては考えにくいかもし
れません。
しかし、2009 年 4 月 30 日「企業再編業務の企業所得税の処理に係る若干の問題に関する通
知」41が公布され、中国においても一定の要件(「特殊性税務処理」(日本におけるいわゆる適格
税制に相当)税制適格要件)を充たす合併について企業所得税の課税繰り延べが認められるよ
40
吸収合併の組織法上の根拠規定としては「会社法」、「中外合資経営企業法」等外商投資企業に係る法令、「外商
投資企業の合併及び分割に関する規定」(2015 年 10 月 28 日対外貿易経済合作部/国家工商行政管理総局発布、
同日施行)等があります。
41
財政部/国家税務総局公布 財税[2009]59 号
なお、同通知の細則を定めた規定として 2010 年 7 月 26 日国家税務総局より「企業再編業務に係る企業所得税管理
弁法」(2010 年 1 月 1 日施行)が公布されています。
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うになりました42。
従って、撤退を検討している会社を同一グループ内の他社に吸収合併させる方法を採ること
により上述の適格税制の適用を受ける可能性があるため、撤退方法の1つとして検討価値があ
るといえます。
もっとも、適格税制の取扱いについて中国の税務当局が習熟していないため、実際のケース
で適用があるかどうかについては、事前に確認をする必要があります。
なお、2013年12月12日には、「非居住者企業の出資持分譲渡に特殊性税務処理を適用するこ
とに関係する問題に関する公告」(国家税務総局公告 2013 年第 72号)43が公布され、非居住
者企業による企業再編のうち、出資持分譲渡の際に適用される特殊性税務処理の手続主体、備
案資料、手続内容等が具体化されました。
Q12.
外商投資企業が行う解散・清算の方法には、どのようなものがあ
りますか
A12.
外商投資企業の解散・清算は、「会社法」第 10 章に従い手続が行われることになります。
また、「会社法」は、解散・清算手続に関して原則的な規定のみ定められているため、審査認
可機関である商務部および登記機関である国家工商行政管理総局が、外商投資企業の解散・
清算に関する審査認可および抹消登記手続等に関する具体的な規定として、「外商投資企業の
解散および清算業務を法により適切にすることに関する商務部弁公庁の指導意見」(商法字
[2008]31 号、2008 年 5 月 5 日発布。以下単に「指導意見」といいます。)および「外商投資企業の
解散・抹消登記管理に関係する問題に関する国家工商行政管理総局および商務部の通知」(工
商外企字[2008]226 号、2008 年 10 月 20 日発布。以下「226 号通知」といいます。)を定めていま
す。
さらに、「会社法」の解散・清算手続関連規定の司法解釈として、「『会社法』の適用に係る若干
の問題に関する最高人民法院の規定(2)」(法釈[2014]2 号、2014 年 2 月 20 日改正発布、
42
「企業再編業務の企業所得税の処理に係る若干の問題に関する通知」によれば、合併における適格要件は以下の
とおりです(第 6 条第 4 項)。
①企業の株主が当該合併に際して取得する出資持分(株式)の額が取引総額の 85%以上である場合、または、②同
一者の支配下にありかつ対価の支払が不要である場合
また、組織再編における税制適格とされる一般的要件は以下のとおりです(第 5 条)。
(1)合理的な商業目的を有し、かつ、税額の納付を減少させ、免れ、又は遅延させることを主要な目的としないこと。
(2)買収され、合併され、又は分割される部分の資産又は持分の比率がこの通知所定の比率に適合すること。
(3)企業再編後の連続する 12 ヵ月以内に再編資産の元来の実質的経営活動を変更しないこと。
(4)再編取引対価における持分の支払いにかかわる金額がこの通知所定の比率に適合すること。
(5)企業再編において持分による支払いを取得した原主要出資者は、再編後の連続する 12 ヵ月以内に、取得した持
分を譲渡してはならないこと。
43
2015 年第 22 号により同通知 7 条が改正されています。
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同年 3 月 1 日施行。以下単に「司法解釈」といいます。)も出されています。
このように「会社法」のほか、「司法解釈」、「指導意見」および「226 号通知」ならびに「中外合
資経営企業法」および同実施条例等の外商投資に係る法律および行政法規の関連規定(以下
「外商投資の関連規定」といいます。)44を参照して、外商投資企業の解散・清算手続が行われる
ことになります。
もっとも、「司法解釈」、「指導意見」および「226 号通知」も、あらゆる内容をカバーしている訳で
はなく、不明確な部分が残されているため、具体的な取り扱いについては当地の関係政府部門
に対して実務状況を確認せざるを得ない点もいまだ存在します。
なお、「会社法」では、会社の解散原因について、次のとおり定められています。45
① 会社定款所定の営業期間が満了し、または会社定款所定のその他の解散事由が出現し
たとき
② 株主会または株主総会が解散を決議したとき
③ 会社の合併または分割により解散を必要とするとき
④ 法により営業許可証を取り消され、閉鎖を命ぜられ、または取り消されたとき
⑤ 会社の経営管理に重大な困難が生じ、継続して存続すれば株主の利益をして重大な損
失を受けさせるかもしれず、その他のルートを通じて解決することができない場合において、
会社の全部の株主の表決権の 10%以上を保有する株主が人民法院に対し会社の会社を
請求し、人民法院が会社を解散するとき
また、外商投資の関連規定においても、ほぼ上記と同様ですが、解散原因としてはおおむね以
下の規定が見られます46。
(a) 経営期間が満了したとき
(b) 重大な欠損の発生・不可抗力に起因する重大な損害の発生により、経営を継続する能力が
なくなったとき
(c) 合弁/合作当事者の一方が合弁/合作契約または定款所定の義務を履行しないことにより、
企業が経営を継続するすべをなくしたとき
(d) 合弁/合作契約または定款所定のその他の解散事由の出現
44
「指導意見」第 1 条は、今後、外商投資企業の解散および清算業務については、会社法ならびに外商投資に係る法
律および行政法規の関連規定に従い取扱わなければならず、外商投資にかかる法律および行政法規に特段の定め
があり、会社法に詳細な規定をしていない場合には、特段の定めを適用する旨が規定されています。
また、「226 号通知」第 1 項は、外商投資の会社の解散、清算および抹消手続については会社法および会社登記管
理条例(国務院令第 648 号、2014 年 2 月 19 日公布、同年 3 月 1 日施行)の関係規定を適用しなければならず、中外
合資経営企業には更に「中外合資経営企業法実施条例」第 90 条および第 95 条を適用しなければならず、中外合作経
営企業については「中外合作経営企業法実施細則」第 48 条、外商合資企業または外商独資企業には「外資企業法実
施細則」第 70 条および第 71 条の解散清算に関する関係規定をそれぞれ適用しなければならない旨が規定されていま
す。
45
「会社法」第 180 条および第 182 条
46
「中外合資経営企業法実施条例」第 90 条第 1 項、「中外合作経営企業法実施細則」第 48 条、「外資企業法実施細
則」第 70 条参照
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Q13.
清算期間について何か規定がありますか
A13.
「会社法」は、会社の清算開始から終了までの期間について、明確にしていません。
もっとも、会社法第 183 条および「指導意見」第 2 条第 3 項によれば、外商投資企業は、解散
事由が出現した日(審査認可機関の認可が必要な場合には認可された日)47から 15 日以内に清
算グループを成立させ、自ら清算を開始しなければならないとされています。
また、「司法解釈」第 16 条第 1 項によれば、会社債権者が清算を申し立て、人民法院が清算を
組織する場合には、清算グループは成立の日から 6 ヵ月以内に清算を完了しなければならない
とされています。
しかし、企業が自ら清算を開始した場合の清算期間については明確な規定がなく、具体的に
は当地の関連政府部門に確認する必要があります。
なお、企業が法定の期間内に清算グループを成立させて清算を開始させず、会社財産の価値
低下等の損失をもたらした場合には、株主は、会社債権者の主張により当該損失をもたらした範
囲内において会社債務につき賠償責任を負わなければなりません。
また、義務の履行を懈怠したことにより会社の主たる財産、帳簿および重要文書等が滅失し、
清算をするすべがなくなったときは、株主は、会社債権者の主張により会社債務につき連帯責任
を負わなければなりません48。
なお、最高人民法院指導案例は、有限責任会社および股份有限公司の株主および支配株主
は、出資持分の多少や経営管理に参与しているか否かにかかわらず、清算手続をなす義務およ
びその違反による連帯責任を負うとしています49。
したがって、夜逃げをしたり、企業を清算させるべきなのにそれをせずに放置したような場合に
は、経営管理への参与の有無を問わず、最終的に株主が責任を負うこととなる可能性がありま
すので注意が必要です。
Q14.
外商投資企業が解散・清算手続を開始する場合、どのような手続
が必要ですか
47
「会社法」第 183 条には、「解散事由が出現した日から 15 日以内」と定められていますが、外商投資企業の場合には、
経営期間満了または営業許可証取消等に起因する解散の場合のほか、審査認可が必要ですので、「審査認可を受け
た日」を「解散事由が出現した日」とすることになると思われます。
48
「司法解釈」第 18 条
49
「最高人民法院指導案例 9 号」(2012 年 9 月 18 日頒布)
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A14.
外商投資企業が解散・清算を行う場合、主として、①解散の認可申請、②清算グループの組
織成立、③通知公告および債権の届出、④債権債務処理および清算財産の評価処理、⑤清算
終了(清算報告書の認可および工商登記、税務登記、税関登記等の抹消手続)の 5 つの清算手
続があります。
なお、「会社法」は、外商投資企業の清算に係る審査認可の必要性を特に明示していません
が、「中外合資経営企業法実施条例」第 90 条、「中外合作企業法実施細則」第 48 条、「外資企業
法実施細則」第 70 条および 226 号通知第 2 項は、外商投資企業が解散する場合、経営期間満
了や営業許可証取り消しのとき等を除き50、審査認可機関による認可が必要である旨が規定し
ていますので、外商投資企業に限っては審査認可機関による認可がなお必要となります(なお、
中国(上海)自由貿易試験区においては、「ネガティブリスト以外の分野においては、当該項目の
行政審査認可の実施を一時的に停止し、備案管理に改める。」51としています。)。
Q15.
解散・清算の申請は、どのように行いますか
A15.
まず、外商投資企業の解散について、合弁企業および合作企業の場合、出席董事の全員一
致による董事会決議を行う必要があります52(外資企業の場合、権力機構たる株主会による解散
決議又は単独株主による解散決定が必要になります。53)54。その後、原審査認可機関に対して、
解散認可を申請し、解散認可を得ます。
廃止された「外商投資企業清算弁法」第 5 条では、経営期間満了の日、解散認可を得た日お
よび合弁契約または合作契約(合弁企業または合作企業の場合)を清算開始日とする旨規定し
ていましたが、「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連規定には清算開始日を明確に定
めた規定がありません。
したがって、実際の運用については関連政府部門に確認する必要がありますが、A14 で述べ
たとおり、外商投資企業の清算には経営期間満了、営業許可証取消等に起因する解散の場合
を除き、審査認可機関による認可が必要であるため、今後も当該認可日をもって清算開始日とさ
れる可能性があります。
50
「226 号通知」第 2 項第 1 号によれば、外商投資企業の経営期間が満了し、司法により解散を裁定され、または営業
許可証を取り消され、閉鎖を命じられる場合には、審査認可を経ることは必要ないとされています。
51
中国(上海)自由貿易試験区内において関係行政法規及び国務院文書所定の行政審査認可又は参入許可に係る
特別管理措置を一時的に調整することに関する国務院の決定
52
なお、合弁企業においては、董事会において解散のような「企業の生産経営活動等の重大事項を討論する際」には、
労働組合の代表が会議に列席し、従業員の意見および要求を反映する権利を有します(中外合資経営企業法実施条
例第 87 条第 1 項)。
53
「会社法」第 37 条、第 61 条
54
「中外合資経営企業法実施条例」第 33 条第 1 項第 2 号および「中外合作経営企業法実施細則」第 29 条第 3 号
20
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なお、外商投資企業は下記の書類をもって原審査認可機関に対して解散申請を提出します55。
(1) 外商投資企業の解散申請書
(2) 解散・清算に関する董事会決議書
(3) 直近の監査報告書の写し
(4) 外商投資企業の定款、合弁契約または合作契約(合弁企業または
合作企業の場合)の写し
(5) 営業許可書および批准証書の写し
(6) 審査認可部門が必要と認めるその他の資料
Q16.
解散・清算を行う場合、誰が清算グループを構成しますか
A16.
「会社法」第 183 条および「指導意見」第 2 条第 3 項によれば、外商投資企業の董事会は、清
算について審査認可機関から認可を受けた日(以下「清算認可日」といいます。)から 15 日以内
に清算グループを組織しなければなりません。
解散前に外商投資企業の日常経営管理について責任を負っていた総経理を含む経営管理機
構は、清算グループが組織されたことによって解散すると解されます。なぜなら、清算開始日以
降、新たな経営活動は禁止され(「会社法」第 186 条第 3 項)、残務に関する経営活動は清算グ
ループが行うためです(「会社法」第 184 条 3 号)。
なお、清算認可日において、経営管理機構は解散すると解する余地もありますが、清算認可
日から清算グループの成立日までの日常経営管理事項の処理に支障を生じるので、経営管理
機構の解散は、清算認可日ではなく、清算グループが組織された段階でなされると考えるのが
妥当であると思われます。
また、有限責任会社の清算グループは株主により構成され、株式有限会社の清算グループは
董事または株主総会が確定する人員により構成されますが、「会社法」には清算グループの構
成人数について規定がありません。ただし、清算グループが成立した場合、その成立日から 10
日内にそのメンバーおよび責任者の名簿を会社登記機関に備案しなければなりません56。
一方、(a)期限を徒過して清算グループを成立させない場合、(b)清算グループを成立させたけ
れども清算を故意に引き延ばす場合、(c)違法な清算により債権者または株主の利益を重大に
損なうおそれのある場合には、債権者は人民法院に関係人員を指定して清算グループを構成さ
せ、清算をさせるよう申し立てることができます(これを強制清算といいます。)57。
55
56
57
「226 号通知」第 2 項第 4 号参照
「会社登記管理条例」第 41 条、「226 号通知」第 3 項
「司法解釈」第 7 条第 2 項
21
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この場合には、清算グループの成員は、次の人員または機構から選出することができます58。
なお、この強制清算の手続は、「会社強制清算事件を審理する際の業務に関する最高人民法院
の座談会メモ」に詳細に定められています59。
(1) 会社の株主、董事、監事および高級管理人員
(2) 法により設立された弁護士事務所、会計士事務所および破産清算事務所等の社会
仲介機構
(3) 法により設立された弁護士事務所、会計士事務所および破産清算事務所等の社会仲介
機構における、関連する専門業務知識を具備し、かつ、業務執行資格を取得している人員
Q17.
清算グループは、どのような職権をもっていますか
A17.
清算グループは、清算期間において次の職権を行使します60。
(1) 会社財産を整理し、貸借対照表および財産目録をそれぞれ作成すること
(2) 債権者に通知し、または公告すること
(3) 清算と関係する会社の未履行業務を処理すること
(4) 未納税金および清算の過程において生ずる税金を完全に納付すること
(5) 債権、債務を整理すること
(6) 会社が債務を弁済した後の残余財産を処理処分すること
(7) 会社を代表し民事訴訟活動に参与すること
清算グループはその作成する貸借対照表および財産リスト、ならびに制定する清算方案につ
いて、会社権力機構または人民法院の確認を経なければなりません61。
なお、清算グループのメンバーが職権を利用して不正行為をし、不法収入の取得を謀り、また
は会社の財産を侵奪した場合には、会社登記機関により会社財産を返還するよう命じられ、違
法所得が没収され、さらに違法所得相当額以上 5 倍以下の罰金62を併科される可能性がありま
す63。
58
「司法解釈」第 8 条第 2 項
「会社強制清算事件を審理する際の業務に関する最高人民法院の座談会メモ」(最高人民法院 法発[2009]52 号
2009 年 11 月 4 日公布)
60
「会社法」第 184 条
61
「会社法」第 186 条第 1 項
62
行政罰としての罰金をいいます。以下同じ。
63
「会社登記管理条例」第 71 条第 2 項
59
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Q18.
解散・清算の手続上、どのように清算通知および公告を行います
か
A18.
清算期間の当初に予定されている通知および公告は次のとおりです。
(1) 清算グループは、その成立日から 10 日以内に書面で知れたる債権者に債権を届け出るよ
う通知しなければならず、かつ、その成立日から 60 日以内に新聞64に公告しなければなりま
せん6566。
(2) 会社が清算する場合において、規定どおりに債権者に通知せず、または公告しないときは、
会社登記機関により是正命令を受け、1 万元以上 10 万元以下の罰金が科せられる可能性が
あるため、注意が必要です67。
Q19.
解散・清算を行う場合、債権者の債権届出はどのように行われま
すか
A19.
会社から債権届出の通知書を受領した債権者は受領日から 30 日以内に、通知書を受領して
いない債権者は 1 回目の公告日から 45 日以内に、清算グループに対し債権を届け出る必要が
あります68。届出の際には、債権の関係事項を説明し、かつ、債権に関する証明資料を提出しな
ければなりません69。
なお、「司法解釈」でも、上記期間内に届出をしなかった債権が弁済を受けられなくなるわけで
はない旨が規定されており、会社清算手続終了前(清算報告が会社権力機構または人民法院
の確認完了を経る前)に届出がなされた場合には、清算グループはこれを登記(管理簿を設けて
64
公告の媒体となるべき新聞とは、会社の規模および営業地域の範囲に基づき、全国の、または会社登録登記地の
省級の影響のある新聞である必要があります(「司法解釈」第 11 条第 1 項)。
65
「会社法」第 185 条
66
廃止された「外商投資企業清算弁法」では、外商投資企業が清算開始日から 7 日以内に行うべき通知についての
詳細な要求、清算公告に、外商投資企業の名称、住所、清算原因、清算開始日、清算委員会の連絡住所、メンバーリ
ストおよび連絡者等を明記しなければならない旨等が定められていましたが、「会社法」上は同様の規定は見受けられ
ません。
なお、地域によっては廃止された「外商投資企業清算弁法」と類似の要求、その他固有の要求を設けている可能性
がありますので、関連行政部門に確認すべきといえます。
67
「会社登記管理条例」第 70 条第 1 項
68
「会社法」第 185 条第 1 項
69
「会社法」第 185 条第 2 項
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届けられた債権を記載70)しなければならず、この債権について、会社の未分配財産から弁済す
ることができます。また、債権者は、重大な故意・過失により所定期間内に債権を届け出なかった
場合を除き、株主に対して、株主が分配を受けた財産を持って弁済するよう主張することができ
ます。
さらに、清算グループが規定どおりに通知および公告義務を履行せず、債権者が遅滞なく債
権を届け出なかったことにより弁済を受けられなくなった場合には、債権者は清算グループのメ
ンバーに対して、それにより生じた損失を賠償するよう主張することができます。
Q20.
解散・清算の場合、債権者が有する債権額はどのように確定され
ますか
A20.
「会社法」上、債権者の債権額に関しては、清算グループが登記(管理簿を設けて届けられた
債権を記載)しなければならない旨の規定しかありません71。また、「司法解釈」および外商投資
の関連規定においても、債権額の確定に関する明確な規定はありません。
この点、債権届出後の確定結果の通知手続、債権者による異議申立手続、異議申立結果に
対する訴訟提起手続または仲裁申立手続といった手続の運用については、全国において規定
が統一されていないため、当地の関係政府部門に確認する必要があります。
Q21.
解散・清算の場合、清算財産の評価はどのように行われますか
A21.
「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連規定においては、清算財産の価額評価に関す
る規定はなく、実務の運用について関係政府部門に確認する必要があります。
さらに、合弁・合作企業において、国有資産を有する中国側投資者の出資比率が 50%以上と
なる場合には、国有資産の評価に関する規定に従い、国有資産評価管理機構による資産評価
を行う必要があります72。清算財産の価額評価が決まっても、実際にその価額で処分できない場
合には、処分の際の価格を下げざるをえません。処分可能な価格は、結局のところ、相場を基準
に個別具体的な交渉で決定されます。
70
A20 の脚注参照
「会社法」第 185 条第 2 項には、「清算グループは、債権について登記をしなければならない。」とありますが、 政府
行政機関において債権登記制度は存在しないため、本文の記載の内容を意味すると解されます。
72
「国有資産評価管理弁法」第 3 条第 4 号および「国有資産評価管理弁法施行細則」第 45 条
71
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したがって、相場が不明で、処分の標準となる価額が必要な場合や法令により価額評価を強
制される場合等を除いて、価額評価は清算グループが董事会の意見を聞いて行うのが実務上
の通例とされています73。なお、売却対象となる中古設備市場が充実していないことも多く、当初
見積もりよりも低額で譲渡しなければならないこともよくあります。
Q22.
解散・清算において、一部の財産処分について、無効となる可能
性があると聞きましたが、それはどのような場合ですか
A22.
現在の外商投資企業の清算手続を規律する「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連
規定には、清算手続において詐害的な財産処分行為が無効となるか否かについて、固有の定
めがありませんが、「契約法」第 74 条所定の行為(期限到来債権の放棄、財産の無償譲渡等)に
ついては、債権者が人民法院に対して、当該行為を取消すよう請求することができると解されま
す7475。
なお、当該「契約法」第 74 条第 1 項は、「債務者がその期限到来債権を放棄して、または財産
を無償で譲渡することにより債権者に損害をもたらした場合には、債権者は、人民法院に対し債
務者の行為を取り消す旨を請求することができる。債務者が明らかに不合理な低価額により財
産を譲渡し、債権者に損害をもたらし、かつ、譲受人が当該事情を知っている場合にも、債権者
は、人民法院に対し債務者の行為を取り消す旨を請求することができる。」旨規定しています。
したがって、当該行為が存在した場合には、その取り消しを請求することにより、企業破産へ
の移行を回避し得ると思われます。
73
実務上、日中両当事者を企業財産の優先譲渡先とし、実際に売買代金の授受を行わず、残余財産分配請求権の
一部または全部に対する代物弁済ないし売買代金債権との相殺として処理されることもあります。
74
廃止された「外商投資企業清算弁法」第 28 条第 1 項では、清算開始日の 180 日前までに行われた次の行為は、
無効とされていました。
(1)企業財産を無償で譲渡する行為
(2)異常な低廉価格で企業財産を売却する行為
(3)元来、財産担保がない債務について財産担保を提供する行為
(4)期限未到来の債務を期限前に弁済する行為
(5)企業の債権を放棄する行為
そして、債権回収や資産処分を進める過程で、企業財産が債務の弁済に不足することを発見した場合、清算委員
会は人民法院に企業破産の申立をしなければなりませんでしたが、上記のような行為が存在した場合には、当該行為
の無効性を主張して、企業破産に移行することを回避できる余地がありました。
75
「契約法」第 74 条第 1 項は、「債務者がその期限到来債権を放棄して、または財産を無償で譲渡することにより債権
者に損害をもたらした場合には、債権者は、人民法院に対し債務者の行為を取り消す旨を請求することができる。債
務者が明らかに不合理な低価額により財産を譲渡し、債権者に損害をもたらし、かつ、譲受人が当該事情を知ってい
る場合にも、債権者は、人民法院に対し債務者の行為を取り消す旨を請求することができる。」旨規定しています。
25
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Q23.
解散・清算の場合、財産処分上、注意をすべきことは何ですか
A23.
解散・清算の場合、財産処分上、次の点に注意すべきものと思われます。
(1)土地使用権および建物所有権
中国では、日本と異なり、土地は国又は農民集団が所有するものとされており、企業は土地そ
のものを所有することはできません。
したがって、企業は土地の所有権自体ではなく、土地使用権を取得することができるのみです。
土地使用権は、まずその所有権の所在にしたがって国有土地使用権と農民集団所有土地使
用権に分かれます。後者の農民集団所有土地使用権は、譲渡を行うことが原則として認められ
ず、しかも中国では土地使用権と建物所有権は同時移転の原則があるために、結局、建物所有
権も原則的に譲渡が認められないことになります7677。
前者の国有土地使用権は、更に、有償払下げの国有土地使用権と、無償割当て(行政割当て)
の国有土地使用権に分類されます。有償払下げの国有土地使用権は、少なくとも関係法令上は
所定の要件を充足すれば譲渡が可能とされていますが、他方、無償割当ての国有土地使用権
は、そのままの法的性質では譲渡が認められないのが原則です。国有企業と設立する合弁企業
では、無償割当ての国有土地使用権を工場の建物所有権とともに、現物出資(評価額資本組入
れ)している事例が多数あります。かかるケースでは、結局、解散・清算時に建物所有権とともに、
譲渡を行うことができないリスクがあります。
以上の問題をクリアするためには、土地使用権を、その譲渡に問題のない有償払下げの国有
土地使用権に法的性質を変更することが必要です。
もっとも、有償払下げへの法的性質の変更には、工業用途で最長 50 年間の使用期間を裏付
けるプロジェクトが必要となります。したがって、プロジェクト実施の終了を前提とする解散・清算
に突入すれば、結局、当該土地使用権と建物所有権を安価で中国側投資者に譲渡する、国土
資源局に引き取ってもらう(通常国土資源局が有償で土地使用権を買い戻すことはありませ
ん。)、又は現実的には合弁会社では難しいと思われますが、土地使用権の競売を実施すること
になると思われます。78
また、譲受人は、国有土地使用権の払下契約に基づく権利義務を承継しますし、さらに、中国
では、国有土地の用途が全体計画により定められており、各土地の国有土地使用権証書におい
76
「土地管理法」第 63 条
例外的に、郷鎮企業と設立する合弁企業では、時に土地使用権の法的性質が農民集団所有土地使用権のまま、
工場の建物所有権とともに現物出資(評価額資本組入れ)を行う事例があります。
78
実務上は、国土資源局により有償払下げの国有土地使用権の譲渡についても認められない例も多く、実際上の
譲渡に困難が生じるケースもあります。この場合は、国土資源局に引き取ってもらう処理を選択することが多いといえ
ます。
77
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て定められている土地の用途を許可なく変更することができないことから79、土地の譲受人は、原
則として国有土地使用権証書に記載のある土地の用途に従った使用をしなければならないこと
になります。
したがって、これらの点でも土地使用権の譲渡は困難となります。
(2)生産設備
外商投資企業が、自家用生産設備免税輸入制度を利用して輸入した生産設備等の税関の監
督管理期間内80では原則として税関の許可なく売却、移動等させることはできません81。
これら生産設備等の売却を試みる場合は、税関に申請をして税関の監督管理期間内に人民
元での売買の許可を得て、補充税(法的性質は、使用期間相当の減額をした評価額を基準とす
る関税(および輸入環節増値税))を納付する必要があります。これを回避するためには、日本を
含む外国にシップ・バックするか、税関へ事前に通知し、補充税を発生させずに廃棄処理するこ
との許諾を得たうえで廃棄するか、または他の免税枠を有する生産型外商投資企業に免税状態
のまま外貨で売買するかの選択をする必要があります。
いずれにせよ、税関の事前指導なしに監督管理期間内の輸入免税設備等を処分することは、
税関法令違反及び予定外の高額な税負担の発生を帰結するリスクがありますので、十分な注意
が必要です。
(3)保税貨物
保税工場の認定を受けた生産型外商投資企業が保税在庫や保税輸入原材料の国内処分を
する場合、本通関を行って関税および輸入環節増値税を支払う必要があり、これを怠ると、税関
法令違反の問題を生じます。保税貨物の処分は、解散・清算の過程で税関により加工貿易手冊
の最終的な消し込みの検査を受ける際に、完成品とのバランス維持とも関わってきますので、税
関の事前指導なしに、不用意な処分をしないように注意しましょう。
79
「土地管理法」第 12 条
第 12 条 法により土地の権利帰属及び用途を変更する場合には、土地変更登記手続をしなければならない。
80
「税関輸出入貨物税減免管理弁法」第 36 条
税関総署に別段の定めのある場合を除き、税関の監督管理年限内において、税減免申請人は、税関の規定に
従い輸入税減免貨物を保管し、及び使用し、かつ、法により税関の監督管理を受けなければならない。
輸入税減免貨物の監督管理年限は、次のとおりとする。
(1)船舶及び航空機は、8 年とする。
(2)機動車両は、6 年とする。
(3)その他の貨物は、5 年とする。
監督管理年限は、貨物が輸入・通関された日から計算する。
81
「税関輸出入貨物税減免管理弁法」第 26 条
輸入税減免貨物に係る税関の監督管理年限内において、税関の許可を経ずして、税減免申請人は、無断で税
減免貨物につき譲渡し、抵当権を設定し、質権を設定し、他用途へ転換し、又はその他の処分をしてはならない。
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(4)製造物責任等の偶発債務の承継
生産型外商投資企業が解散・清算する場合、その生産した製品を購入した消費者や在庫をな
お抱える販売代理店との関係で生じ得る製造物責任等の偶発債務の承継をどうするかについて、
明確な対策を示さない限り、審査認可機関が解散・清算の認可をしない場合があります。そこで、
解散・清算の完了後に製造物責任等が問題となる場合に、一定の合理的期間にわたり、責任を
もってその処理にあたる第三者を手配し、そこに偶発債務の承継がなされるように配慮すること
が必要になることがあります。この問題について、十分注意が必要です。
Q24.
解散・清算の場合、従業員との労働関係をどのように処理します
か
A24.
外商投資企業の解散・清算に伴い、従業員との労働契約は終了することになります8283。従業
員との労働契約の解除・終了に伴い、外商投資企業は従業員に対する経済補償金を支払うこと
が必要となります。なお、実際には、①従業員全員との労働契約を合意解除後、清算業務に従
事する従業員と業務完了までの労働契約を再度締結するパターンと、②清算業務に従事しない
従業員との労働契約のみ合意解除し、清算業務に従事する従業員との労働契約は、清算業務
終了後に解除するパターンがあります。
なお、労働契約解除に伴う経済補償金の計算方法としては、雇用単位は、従業員に対して、
「労働契約法」上は、勤務年数が満 X 年(但し、X は正の自然数)である場合、X ヵ月分の月賃金
相当額(労働契約が終了する前 12 ヵ月の平均賃金をいう。以下同様)を支払うことが原則ですが、
6 ヵ月以上 1 年未満である場合には、1 年として計算し、6 ヵ月に満たない場合には、従業員に半
月分の月賃金の経済補償を支払うこととなっています。84
また、労働者の月賃金が雇用単位の所在する直轄市または区を設ける市級人民政府の公布
する当該地区の前年度の従業員月平均賃金の 3 倍を上回る場合には、当該者に経済補償を支
払う標準は、従業員月平均賃金の 3 倍の額に従い支払い、当該者に経済補償を支払う年数は、
最高で 12 年を超えないものとなっています85。
82
「労働契約法」(全国人民代表大会常務委員会 2012 年 12 月 28 日改正公布、2013 年 7 月 1 日施行)第 44 条第 5
号
83
雇用単位の経営期間満了に伴う解散は、当然に従業員の労働契約の終了をもたらさず、労働契約の終了事由に
該当しないと考えることができるため(「労働契約法」第 44 条、「労働契約法実施条例」第 13 条参照)、会社が経営期
間満了により解散・清算する場合には、従業員との労働関係は、労働契約の合意解除等の方法により終了させること
になると考えられます。
84
なお、前記のとおり、2008 年 1 月 1 日の「労働契約法」施行より前については、「労働契約の違反及び解除に係る経
済補償弁法」(1994 年 12 月 3 日労働部発布、1995 年 1 月 1 日施行)等が規律しています。
85
「労働契約法」第 46 条第 6 号および第 47 条
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ここで、外商投資企業(合弁)に中国側投資者からの転籍従業員がおり、転籍の際に経済補
償金が支払われていない場合が散見されますが、このような場合、勤務年数満 X 年とは、①外
商投資企業における勤務年数満 X 年と②中国側投資者における勤務年数満 X 年との合計をい
うことに注意が必要です
今日では、「労働契約法実施条例」第 10 条により、「労働者が本人の原因によらずに原雇用単
位から新たな雇用単位の業務に配置された」場合には、原雇用単位が当該配置の際に経済補
償金を支払っている場合を除き、勤務年数が合算計算されるとされています。なお、当該「労働
者が本人の原因によらずに原雇用単位から新たな雇用単位の業務に配置された」とは、「労働
紛争事件を審理する際の法律適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の解釈(4)」86によ
れば、「雇用単位の合併又は分割等の原因により労働者の業務異動がもたらされたとき」(第 5
条第 2 項第 3 号)などが該当するとされています。
また、合算計算の結果、外商投資企業に多額の経済補償金が生じることを防止するために、
地方法令が上限規制を設ける87等の配慮を示す例がありますが、中央法令にはこうした配慮が
ないため、外資に配慮を示す地方法令を持たない地域では、多数の従業員、特に転籍出向者を
かかえる場合、多額の経済補償金のために債務超過に陥る可能性があります(従業員の所属し
ていた会社を何社も遡った事例、さらには、従業員の人民解放軍時代の勤務年数も含め経済補
償金を支払うよう政府機関から指示を受けた事例があります。)。
外国投資者は転籍出向者である労働者に対して、合算計算による経済補償金の支払義務を
負いますが、中国側投資者における勤務相当年数に係る経済補償金について、中国側投資者
に求償することが理論的にはできます。
しかし、実務的には当該中国側投資者が既に存在しないなどの理由で、求償が功を奏するこ
とは難しいといえます。
なお、法令上、企業側が支払義務を負担する経済補償は上記のとおりですが、日系企業を含
む外資企業を中心に、実務上、法令の定めに上乗せする形で労働者に対して経済補償金を支
払うことが多くなっています(いわゆる「額外経済補償」であり、仮にこの額外経済補償をなす場
合には、法定経済補償金に加え、1 ヵ月又は 2 ヵ月の上乗せをすることが多くなっています。過度
に額外経済補償金を上乗せする場合には、他社への影響を恐れ、人力資源及び社会保障局か
ら反対意見が出されることもあります。)。
このような経済補償金の上乗せのほかに、労働者の再就職先のあっせん、また労働組合主席
を通じた労働者に対する説明・説得をなすための労働組合主席に対する事前根回し等を通じて、
労働者の協力をうまく得ることが重要になります。
さらに、労働者数が多く、緊急事態が生じうる場合には、現地の人力資源及び社会保障局その
86
2013 年 1 月 18 日公布、同年 2 月 1 日施行
「上海市労働契約条例」42 条第 2 項但書。なお、「労働法」第 26 条第 3 号を理由に労働契約を解除する場合につい
て、中央法令である「労働契約の違反および解除に係る経済補償弁法」(労働部 1994 年 12 月 4 日発布、1995 年 1 月
1 日施行)、「外商投資企業労働管理規定」(労働および社会保障部&対外貿易経済合作部 1994 年 8 月 11 日発布、
施行。もっとも、2007 年 11 月 9 日労働および社会保障部令第 29 号によって廃止。)はこうした上限規制を設けていま
せん。
87
29
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他関連当局(招商局、公安局等)への事前相談も考えられますが、その場合には、情報が漏れ
て不要な混乱を招かないよう、守秘の貫徹が必要になります。
また、2008 年 1 月 1 日の労働契約法施行により、雇用単位における「労働者の密接な利益に
直接にかかわる」重大事項の決定等に関しては、従業員代表大会又は従業員全体との討論を
経て、労働組合又は従業員代表との平等協議を行い確定することが要求され、不適当な重大事
項の決定に対しては労働組合または従業員による変更・完全化する権利が認められる等、手続
的規制が厳格化し、従業員側の権利が強化されました。88
そこで、これにともない、地域によっては、一般的な法解釈においても労働関係に関する手続
重視の趨勢が強まる可能性があり、企業の解散・清算手続を行う際にも、労働組合代表や従業
員代表大会の関与が強く要求される可能性があります。
すなわち、「会社法」第 18 条第 3 項は「会社は、制度改革および経営分野の重大問題を検討・
決定する場合には、会社の労働組合の意見を聴取し、かつ、従業員代表大会その他の形式を
通じて従業員の意見および建議を聴取しなければならない。」と規定し、「労働組合法」第 38 条第
1 項は、「企業・事業単位は、経営管理および発展の重大問題を検討する場合には、労働組合の
意見を聴取しなければならない。」と規定しています。また、中外合資経営企業法実施条例第 87
条第 1 項は、中外合資経営企業の董事会会議がその生産経営活動等の重大事項を討論する際
に、労働組合代表が会議に列席し、従業員の意見および要求を反映する権利を認めています。
そして、会社の解散・清算は、当然ながら会社の経営に関する「重大問題」に属すると考えられる
ため、会社が解散・清算を討論し、決定する際にはこれらの各規定が適用される可能性が高いと
考えられます。
これらの規定は、「労働契約法」施行前から存在していたものでありますが、従来は必ずしも規
定どおりの手続の履行が行われていたとはいえない状況にありましたが、「労働契約法」におけ
る手続重視・労働組合の権利強化の流れを受けて、これらの規定の存在が改めて注目され、会
社が解散・清算を討論し、決定するにあたっても、規定どおりの運用を強く要求される可能性が
あります。
そこで、経営者側にとっては、解散・清算を検討・決定し、実際に手続を行うにあたり、清算まで
の従業員の士気の低下や無用のトラブルの発生を防ぐため、機関決定の際に労働組合代表に
対する根回しを行い、組合員ないし従業員に対して適切な時期・内容のアナウンスを行う等、適
切な配慮が求められると考えられます。
また、地域によっては、当地の人民代表大会常務委員会や当地の総労働組合から、従業員
代表大会の職権、組織、開催手続等に関する詳細な規定が出されている場合がありますので89、
経営者側としてはこれらの規定を事前に十分に調査・検討しておく必要があると考えられます。
88
「労働契約法」第 4 条
「上海市従業員代表大会業務規範」(上海市総労働組合、2012 年 3 月 27 日改正)、「江蘇省企業民主管理条例」
(江蘇省人民代表大会常務委員会、2008 年 1 月 1 日施行)等
89
30
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Q25.
解散・清算の場合、その享受していた外商投資企業の優遇政策
はどうなりますか
A25.
外商投資企業には、企業所得税の減免制度および自家用設備の輸入免税制度という外資優
遇政策が認められる場合があります。
もっとも、短期間で外商投資企業が解散・清算する場合、外商投資企業に優遇政策を付与し
て誘致を行う合理的理由が失われるばかりか、中国内資企業による濫用の危険(輸入関税90を
免れる目的で外商投資企業を設立し、輸入免税制度を利用して、設備等を輸入した後、直ちにこ
れを解散・清算する)がありますので、撤退に際して、次のとおり外資優遇政策の剥奪措置が講
じられています91。ただし、一部の剥奪措置については、現時点においても明確な関連規定が発
布されておらず、その取扱いが不明確な部分があります。
(1)企業所得税の減免制度の剥奪措置
従来、外商投資企業の実際の経営期間92が 10 年未満である場合、既に徴収を免除され、
または軽減して徴収された企業所得税の税額を追納しなければならないという優遇の剥奪措
置が存在しました93。
これは、実際の経営期間が 10 年未満の場合は、いわゆる二免三減の外資優遇の利益を
吐き出させる趣旨であると思われます。ただし、2008 年 1 月 1 日の「企業所得税法」の施行に
より、この優遇およびその剥奪措置の根拠となる「外商投資企業および外国企業所得税法」
が廃止されました。この「企業所得税法」上も、「二免三減」の優遇を享受した外商投資企業
が経営期間 10 年未満で解散・清算する場合、その享受した税金優遇についてどう取り扱わ
れるかについて明確な規定がありませんが、優遇政策を設けた趣旨からすれば、経営期間
が 10 年に満たない場合の解散・清算の場合、設立当時に遡及して優遇が取り消され、返納を
要求されると思われます。
90
従来、自家用設備の輸入にあたっては輸入環節増値税についても免税とされていましたが、2009 年 1 月 1 日より、
同税については原則として、徴税されることとなりました(「財政部、税関総署および国家税務総局公告 2008 年第 43
号」(2008 年 12 月 25 日発布)第 1 条)。
91
外資優遇政策の剥奪措置は、外国側投資者の出資持分譲渡による撤退により、外商投資企業が中国側投資者の
100%出資企業に組織変更される場合にも、等しく適用されます。
92
外商投資企業が実際に生産または経営(試験生産または試験経営を含む)を開始した日から生産または経営を終
了する日までの期間をいいます(「外商投資企業および外国企業所得税法実施細則」第 74 条第 1 項)。
93
「外商投資企業および外国企業所得税法」第 8 条第 1 項
31
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(2)輸入免税制度の剥奪措置94
輸入免税制度を利用して免税輸入された設備等の免税通過日から起算して、監督管理期
間内に外商投資企業が解散・清算し、これを処分する場合、補充輸入税すなわち関税および
輸入環節増値税95が次のルールに従って追徴課税されます。
① 補充輸入税額の計算式は、次のとおりです。
税対象額96= 免税通過日
の通関価格×
1−
実際使用月数
監督管理期間(年) ×12
追徴関税額=課税対象額×追納申告日における関税率97
課税対象額+追徴関税額
追徴輸入環節増値税額=
1−消費税率98
×17%
補充輸入税額=追徴関税額+追徴輸入環節増値税額
② 監督管理期間は、次のとおりです。
・船舶、飛行機および建築材料 8 年
・機動車両および家庭用電気機器 6 年
・機器設備およびその他の設備、材料等 5 年
③ 外商投資企業が監督管理期間内に解散・清算して、輸入免税制度を利用して輸入した設
備等を処分しても、次の場合には補充輸入税は追徴されません。
・輸入免税制度を享受できる外商投資企業に対して、事前に譲渡先および譲受先の審査認
可機関および税関の認可を得て譲渡する場合
・事前に税関の認可を得て、設備等を海外にシップ・バックする場合99
・事前に税関の認可を得て、設備等を国内で廃棄する場合100
94
「輸出入関税条例」(国務院、2013 年 12 月 7 日発布、同日施行)参照
前掲のとおり、2009 年 1 月 1 日以降に輸入された設備については、輸入環節増値税は原則として免税とはなりませ
ん。したがって、今日的には、実際に監督管理期間内であるものは多くはないでしょう。
96
会計上の減価償却と監督管理期間内の減価償却とは概念が異なるため、前者について減価償却の停止がなされ
ても、後者についてこれを考慮する必要はありません。
97
「輸出入関税条例」第 16 条、第 17 条および第 49 条
98
中国における消費税とは、特殊課税物品に対する物品税の蔵出し課税に相当します。課税内容の品目に該当する
か否かは、消費税課税範囲注釈に詳しく規定されています(センチュリー監査法人編、三戸俊英他著「中国進出企業
の税務・会計実務マニュアル」清文社・91 ページ)。
99
「税関輸出入貨物税減免管理弁法」(税関総署令第 179 号、2009 年 2 月 1 日施行)第 41 条第 3 項参照
100
「外商投資企業に対する輸出入貨物の監督管理および免税弁法」に根拠はありませんが、実務的に認められる場
合があります。
95
32
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Q26.
解散・清算の場合、清算費用として清算財産から優先的に支払わ
れる費用についてはどのようなものがありますか
A26.
「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連規定には清算費用として清算財産から優先的
に支払うものに関する具体的な規定が見当たらず101、「会社法」第 186 条第 2 項において抽象的
に清算費用の支払いについての規定があるのみです。
しかし、企業清算財産を管理、換価および分配するのに必要な費用、公告、訴訟、仲裁費用、
清算過程中で支払うことを要するその他の費用については、支払われなければ清算手続自体が
成り立たないことから、現在においても上記の各費用は優先的に支払われるべきと解する余地
があります。
なお、清算過程において、企業の資産が債務を弁済するのに足りないことが発見された場合等
には破産清算に移行し、企業破産法に従った順序で破産財産が弁済されることになります(Q38、
Q50 参照)。
Q27.
解散・清算の場合、どのように清算財産は処分されますか
A27
清算財産の処分については、次の順序で行われます102。
(1) 清算グループが会社財産を整理し、貸借対照表および財産目録を作成する。
(2) 清算グループが清算計画を制定し、かつ、株主会、株主総会または人民法院に報告して
確認を受ける。
(3) 清算財産から、清算費用、従業員の賃金103、社会保険料104および法定の補償金をそれぞ
れ支払、未納付税金105を納付し、会社債務を弁済する。
101
なお、廃止された「外商投資企業清算弁法」第 23 条は、外商投資企業が解散・清算を行う場合、次の費用は清算
費用として清算財産から優先的に支払うものと規定していました。
(1)企業清算財産を管理、換価および分配するのに必要な費用
(2)公告、訴訟、仲裁費用
(3)清算過程中で支払うことを要するその他の費用
102
「会社法」第 186 条第 1 項、第 2 項
103
賃金のみならず、労働契約の解除に伴う経済補償金もこれに含まれると解されます。
104
ここでいう「社会保険料」とは、5 つの社会保険料(養老保険、医療保険、失業保険、労災保険、生育保険)のうち、
外商投資企業の負担部分で、かつ、未払のものをいうと解されます。なお、住宅積立金の外商投資企業の負担部分
のように、従業員の福利のために積立を強制される費用について未払分があれば、これも解釈上「労働保険費」に含
まれると解する余地があります。
105
追徴関税・輸入環節増値税が発生する場合、ここにいう税金にはこれらも含まれると解されます。
33
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(4) 上記のとおり清算費用を支払い、企業債務を弁済した後に、残余財産について分配が可
能となります。分配は原則として出資比率(有限責任会社は株主の出資比率、株式有限
会社は株主が保有する株式比率)によります。
前記のとおり「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連規定上は、清算費用の支払を含
む清算財産の処分手続につき具体的に規定されていないことから、実務上の解釈・運用につい
ては当地の関係政府部門に確認する必要があります。
なお、会社の清算にあたり、財産を隠匿し、貸借対照表もしくは財産目録について虚偽記載を
し、または債務を弁済する前に会社財産を分配したときは、会社登記機関により是正命令を受け、
会社に対して隠匿財産または債務弁済前に分配した会社の財産金額の 5 パーセント以上 10
パーセント以下の罰金が科され、直接責任者に対しては、1 万元以上 10 万元以下の罰金が科さ
れます106。
Q28.
子会社の清算に当たって、親会社が債権を放棄する場合、日本
の法人税の観点からどのような問題点に注意すべきですか
A28.
子会社の撤退に際しては、出資持分の無償譲渡または低廉譲渡、債権放棄、保証債務の履
行等により、親会社において損失が発生する場合が少なくありません。この場合の親会社の損
失負担等については、その損失負担等に経済合理性がある場合には寄附金に該当しないもの
の、経済合理性の存在が認められない場合には、この損失負担が損金不算入とされるリスクが
あることに、注意が必要です。
すなわち、日本の法人税法はその第 37 条第1項において、損金算入限度額を超過した寄附
金の損金不算入を定め、同条第 7 項において、無償取引である贈与等の金額が寄附金に該当
する旨を規定し、同条第 8 項において、低廉譲渡等におけるその低廉部分の金額が寄附金に該
当する旨を規定していますが、その経済的利益を供与することについて、経済合理性が存在す
る場合、その供与した経済的利益の額は寄附金に該当しないものとして損金に参入することが
可能です。
そして、法人税基本通達 9-4-1 は、子会社等を整理する場合の損失負担等について、経営危
機に陥った子会社等を整理するために、債務の引受けおよびその他の損失負担または債権放
棄等を行う場合の経済的利益の額は、寄附金とはされない、と規定しています。
この法人税基本通達 9-4-1 の趣旨について、日本の国税庁は、以下の見解を示しています。
106
「会社登記管理条例」第 70 条第 2 項
34
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「親子会社間とはいえ、それぞれ別個の法人である以上、本来であれば、仮に子会社が経営
危機に瀕して解散等をした場合であっても、親会社の損失は、その出資額が回収できないことの
みにとどまり、それ以上、新たな損失負担をする必要はないと考えられる。
しかし、親会社が株式有限責任を盾にその親会社としての責任を放棄するようなことは社会的
にも許されない、といった状況に陥ることがしばしば起こりうる。また、子会社を解散させずに、他
の企業に経営権を譲渡するような場合にも、たとえば譲受側が経営権の譲受に際して、譲渡側
に対し赤字の圧縮を求める、といったことが往々にしてあり、このためやむを得ず子会社に対す
る貸付金の一部を放棄したり一定の資金を投入したりして子会社の財務状況を改善した上で株
式の譲渡をする、ということも一般に見受けられる。
こうした、親会社が子会社の整理のために行う債権の放棄、債務の引受けその他の損失負担
については、一概にこれを単純な贈与と決めつけることができない面が多々認められ、従って、
これらについて単に寄附金として処理する、といったことは、実態に即さないものであるといえ
る。」
法人税基本通達 9-4-1 は、以上のような事情を踏まえて、仮に法人が、子会社等の解散、経
営権の譲渡等にともない、債務の引受け、債権の放棄その他の損失の負担をした場合において、
①それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、か
つ、②そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情にあるときは、税務上もこ
れを寄附金として取り扱わない旨を明らかにするものです。そして、損失負担等に関する経済合
理性の有無についても、①損失負担の必要性(それが今後より大きな損失の生ずることを回避
するためにやむを得ず行われたものであること)、②支援内容の合理性(その負担が社会通念上
も妥当なものとして是認されるような事情にあること)、といった 2 つの面から判断されます。この
経済合理性の有無に関する判断基準について、税務当局は、指針を公表していますので、処理
に際しては、これを十分に検討し、損金算入とするか、または自己否認するのか、判断すること
が重要です。また、税務当局は、損失負担等にかかわる税務上の取扱いについて事前相談も受
け付けていますので、この制度を利用することも、併せて検討すべきです。
また、税務当局に対しては、自己が行った損失負担等に経済合理性があることについての説
明、主張を展開すること、そして、かかる主張をバックアップする、合理かつ客観的な資料を揃え
ることが不可欠であることはいうまでもありませんが、これらの点に関しては、撤退スキームの策
定や、事実関係の裏づけとして、信頼ある外部専門家の関与、意見があることが重要視されて
いることにも、注意が必要です。
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Q29.
債権放棄を受けた場合において、中国の企業所得税法上どのよ
うなことに留意すべきですか
A29.
債権放棄のタイミングに配慮する必要があります。債務者側の企業として、債務免除益は現
行の企業会計制度では「資本準備金」、2007 年より上場会社に強制適用となった新企業会計準
則では「営業外収入」として計上されますが、いずれにしても企業所得税法上は益金算入されま
す。
たしかに、清算となる場合、その多くが多額の繰越欠損を抱えているため、債務免除益は当該
欠損と相殺され、結果として税金がかからないケースが多いと思われます。しかし、事業方針の
変更による事業撤退となった場合、繰越欠損が債務免除益の相殺に不足する場合、損失の処
理に先行して債務免除を行なった場合等には課税が起こりますので、債権放棄の時期を慎重に
検討する必要があります。
具体的な例を用いて説明しますと、経営が継続している2013年度において、債務免除益と相
殺する十分な欠損金がない場合には、清算による事業の中止により2014年度に欠損金が膨らむ
可能性があっても、2013年度の債務免除益については、その繰越欠損超過額について課税が起
こります。すなわち、企業所得税の納税の要否は企業存続期間をトータルして計算されるのでは
なく、ある時点の納税義務の有無がその時点までの繰越欠損の状況107により判断されることにな
ります。したがって、2013年度に納付した税金については、翌年度にいくら欠損金が膨らんでも、
繰戻還付はされません。
そこで、債務免除益と相殺するのに十分な欠損金が存在しているのであれば、特に問題視す
る必要はありませんが、そうでない場合には債権放棄のタイミングにより納税額が異なってくる可
能性もありますので、注意が必要です。
Q30.
金融機関に対して本社が子会社のため債務保証をしている場
合、どのようなことに留意すべきですか
A30.
中国国外にある親会社が中国現地法人のために保証を行い、中国国内の金融機関から資金
を調達するケースが多く見受けられます。外貨建保証による人民元借入は、保証契約成立時点
では外債登記を必要としませんが、親会社が保証契約に基づいて代位弁済を履行した場合は、
107
欠損金の繰越控除が 5 年間となっているため、5 年以前の欠損金は控除することができません。
36
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債務者は外貨管理局で外債登記をしなければなりません108。金融機関が外貨管理局の介入を
好まないために、保証契約に保証債務の履行と同時に子会社に対する求償権の即時放棄の条
項が盛り込まれる場合もあります。
契約に即時放棄の条項が盛り込まれていることは、親会社による保証債務が履行された瞬間
に、子会社に債務免除益が発生することを意味します。その時控除可能である欠損金が免除益
に不足する場合は、直ちに課税が発生することになります。
したがって、Q29において言及したのと同様、親会社による保証履行のタイミングが子会社の
課税の有無に影響する可能性があるため、注意が必要です。
Q31.
清算時における資産の処分について、税務上どのようなことに留
意すべきですか
A31.
清算時における清算期間の法的制限および時間、人的コスト等に鑑みれば、迅速な手続き完
了を望むのが通常です。したがって、短期間での資産処分が行われるケースも多く、低廉譲渡が
少なからず発生します。しかし、税法上、このような低廉譲渡は認められない可能性があります。
すなわち、「増値税暫定施行条例」109第 7 条には「納税者の財貨または課税役務の販売に係る価
格が明らかに著しく低く、かつ、正当な理由がない場合には、主管税務機関がその売上額を査
定する。」と規定されており、同条に鑑みれば、資産の低廉譲渡について税務局を納得させる十
分な根拠がない場合には、通常の販売価額により増値税が課されます。この点、「増値税暫定
施行条例実施細則」110第 16 条は、「増値税暫定施行条例」第 7 条の「価格が明らかに著しく低く、
かつ正当な理由がない場合」を判断する際の売上額を、以下の順序に従い確定する旨定めてい
ます。
(1) 納税者の直近の同類財貨の平均販売価格に従い確定する。
(2) 他の納税者の直近の同類財貨の平均販売価格に従い確定する。
(3) 構成税額計算価格に従い確定する。構成税額計算価格の公式は次のとおりとする。
構 成 税 額 計 算 価 格 =原 価 ×(1+原 価 利 益 率 )
また、企業が清算する際に、在庫を以って債務の弁済または投資者に対する配当に使用する
ことが往々にして発生します。これらの行為は、会計上収入として認識されませんが、増値税関
連法令上、販売行為として扱われ、みなし販売として増値税を納付しなければなりません。また、
108
109
110
「外債登記管理弁法」の発布に関する国家外貨管理局の通知第 18 条第 3 項
「増値税暫定施行条例」(国務院令第 666 号 2016 年 2 月 6 日公布、同日施行)
「増値税暫定施行条例実施細則」(財政部令第 65 号 2011 年 10 月 28 日公布、同年 11 月 1 日施行)
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その際の課税基準額の決定については、当月の同種類の在庫の平均売価によるものとし、それ
がない場合は、最近の同種類の在庫の平均売価とすることになっています。
さらに、企業が税務清算手続を行う際において、製品を処理しきれない場合、または処分コス
トが売却益を超過する場合に、それらを放棄するケースも珍しくありませんが、これらの放棄した
製品の仕入税額に相当する部分については、増値税関連法令上、仕入税額として控除すること
が認められません。この部分に関しては、未払増値税の内訳科目で借方計上した仕入税額から
控除することになります。仕入税額が残っていない、または仕入税額から控除しきれない部分が
あれば、廃棄商品に関わる仕入税額は、すでに控除したことを意味しているため、超過した部分
について税金を追加納付しなければなりません。
そして、清算時に、販売税額から控除しきれない仕入税額は、還付を受けることができませ
ん。
Q32.
清算時に、中古固定資産を売却する場合、増値税を納付する必
要がありますか
A32.
現行法下では以下の区分に応じて、課税されることになります111。
(1) 2009年1月1日以降に取得した固定資産については、適用税率により増値税を納付する。
(2) 2008年12月31日以前に取得した固定資産については、4%の徴収率に従い半減し、即ち
2%で増値税を納付する112。
(3) 2008年12月31日以前に東北地方等すでに増値税控除範囲拡大試行に組み込まれていた
納税者については、当該地区の増値税控除範囲拡大試行前に取得した中古固定資産を売
却した場合は2%、増値税控除範囲拡大試行以降に取得した中古固定資産を売却した場合
は、適用税率に従い増値税を納付する。
111
かつては、中古固定資産の売却に関し、以下の 3 つの条件すべて満たせば、原則として増値税を納付する必要は
ありませんでした。
①企業の固定資産リストに列記されている物品
②企業が固定資産管理に基づいて、実際に使用していた物品
売却価格がその物品の取得価額を超えない物品
「増値税および営業税の若干の政策規定に関する財政部および国家税務総局の通知」((94)財税字第 26 号、2009 年
1 月 1 日廃止)第 10 条、「増値税問題解答(之一)」(国税函発〔1995〕288 号、2009 年 2 月 2 日廃止)第 11 条
112
「一部の貨物の増値税低税率の適用および簡易な方法による増値税徴収政策に関する財政部および国家税務総
局の通知」(財税[2009]9 号。財税[2014]57 号により調整)第 2 条第 1 項、「全国の増値税方式転換改革実施に係る若
干の問題に関する財政部および国家税務総局の通知」(財税[2008]170 号。財税[2014]57 号により調整)第 4 条第 1
項および第 2 項
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Q33.
清算時に帳簿上残存する従業員奨励・福利基金はどのように処
理すべきですか
A33.
従業員奨励・福利基金は、準備基金、企業発展基金と同様、いずれも利益処分項目ですが、
準備基金および企業発展基金が資本の部に表示されるのに対して、従業員奨励・福利基金は利
益処分後に従業員に対する確定債務として貸借対照表の負債の部に計上されます。
準備基金および企業発展資金については清算時に株主に配当することが可能ですが、従業
員奨励・福利基金またはこの基金を使用して購入された各種財産および施設は、企業の財産と
して分配することができません。また、従業員奨励・福利基金の利用目的は、特別貢献賞与、年
末賞与等の従業員に対する非経常的な賞与や集団福利施設の運営に限定されており、それ以
外の目的の取り崩しが基本的に認められていません。
したがって、以前のように従業員宿舎、保育園の建設等が行われない現在では、多くの企業
がその取り扱いに困惑しています。実務上、従業員の住宅手当、従業員の医療費、年末賞与に
充当したりしている企業が見られますが、いずれも法で認められた方法ではなく、従業員奨励・
福利基金の処理方法は、清算時のみならずとも常に悩みとなる問題の 1 つです。
この問題に対する根本的な解決方法は、従業員奨励・福利基金を積立てないことです。従業
員奨励・福利基金についていえば、合弁企業および外商独資企業は、法令上、税引後利益から
の積み立てを強制されていますが、積立金額や比率等の具体的な基準について規定はなく、定
款または董事会決議によることとされています。
また、2006 年 1 月 1 日施行の「会社法」により、「会社法」上の株式有限会社と有限会社につい
ては法定公益金113の積立の規定がなくなりました。そこで、実務上は、従業員奨励・福利基金の
積み立てを任意とし、積み立てを行わない企業も多くなっています114。実際に従業員奨励・福利
基金を積み立てなかったことにより処罰を受けた事例は見られません。
では、既に積み立てた従業員奨励・福利基金は、清算時にどのように扱われるのでしょうか。
この点、従業員が中国側に引き継がれるときは、従業員奨励・福利基金も従業員を引き受けた中
国側投資者に引き継がれることが一般ですが、従業員が引き継がれないときは、最悪の場合、
財政部に上納すべきことにもなりかねません(実際には、従業員奨励・福利基金を利用して購入
した宿舎などに瑕疵が存在する場合、財政部がその上納を受け取ることをせず、ここで清算手続
きがストップする事例も見られます。)。
113
「法定公益金」は改正前の「公司法」 第 180 条に「会社が積立てた法定公益金が会社の従業員の集団福利に使
用される」と定められていたものです。
114
もっとも、従業員奨励・福利基金を積み立てないこととした場合でも、定款に従業員奨励・福利基金の計上率が定
められている場合は、定款の修正が必要です。
39
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このような従業員奨励・福利基金のリスクを踏まえると、清算を開始する前に、従業員奨励・福
利基金を消化することが得策と考えられます。
Q34.
清算手続について、他にどのような手続が必要となりますか
A34.
まず、外商投資企業の清算手続が終了する場合、次の手続が必要となります115。
① 清算グループは、会社の清算が結了した後、清算報告書を作成します。
② 清算報告書について会社の権力機構または人民法院に報告して確認を受けます。
③ さらに、清算報告書を審査認可機関に報告・送付し、同時に審査認可機関に対して認可
証書を返納します。これを受けて、審査認可機関は、全国外商投資企業審査認可管理
システムにおいて企業終了に関連する情報の入力および操作を完了させ、かつ、受領
証明を発行します。
④ 清算グループは、受領証明を証憑として税務、税関および外為等の部門に対し抹消手続
をし、かつ、清算報告書を原会社登記機関に報告・送付し、会社登記抹消を申請し、会
社の終了を公告します。
この抹消登記の申請は、会社の清算が終了した日から 30 日内に行う必要があります116。
また、清算グループが規定どおりに会社登記機関に対し清算報告を報告・送付せず、
または重要な事実を隠蔽し、若しくは重大な遺漏がある清算報告を報告・送付した場合
には、会社登記機関により是正するよう命じられます117。
抹消登記につき提出すべき文書は、次のとおりです118。
① 清算グループ責任者が署名した「外商投資の会社の抹消登記申請書」
② 原審査認可機関の抹消に同意する旨の認可文書
③ 法により下された決議または決定
④ 会社権力機構または人民法院の確認を経た清算報告
⑤ 分公司の抹消登記証明
⑥ 営業許可証の正、副本
⑦ その他の関係文書
115
116
117
118
「会社法」第 188 条、「指導意見」第 4 条、「226 号通知」第 4 項
「会社登記管理条例」第 42 条
「会社登記管理条例」第 71 条第 1 項
「226 号通知」第 5 項および同付属書参照
40
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なお、「会社法」、「司法解釈」および外商投資の関連規定においてはこれらの手続をなすべき
期限について具体的事項につき規定が存在しませんが、地域の法律法規や実務上の要求が存
在する可能性がありますので、当地の関係政府部門への確認が必要です。119
Q35.
現地法人を清算した場合、残余財産を日本本社に送金することは
可能ですか
A35.
現地法人を清算する場合、会社財産の清算費用、従業員の賃金、社会保険料及び法定の補
償金を支払い、未納付税金を納付し、会社債務を弁済した後の残余財産は分配することが可能
になります120。
もっとも、現地法人は、実際に経営が終了した日から 60 日以内に企業所得税の集計・計算及
び清算・納付手続をしなければならず、現地法人に清算所得がある場合には、現地法人は税務
機関に対し、抹消登記手続の前に企業所得税の申告及び納付をしなければなりません121。また、
税制優遇を受けている場合は、優遇を受けた税額を返還する必要が生じる可能性があります。
以上の手続を踏まえた後になってはじめて、残余財産を日本本社に送金することが可能にな
ります。この点、従前は、清算後、外国側株主に対する送金について、外貨管理部門の審査承
認を得る必要がありましたが、「直接投資に係るさらなる改善及び調整に関する国家外貨管理局
の通知」122により外貨管理部門の審査承認が取り消され、送金手続が緩和されました。
なお、残余財産を日本に送金する際、中国側では、資本金を超える部分については、10%の
企業所得税が配当として課税されることになり、日本側では、資本金を下回る金額のみ回収可
能な場合は投資損失として計上され、配当として受け取る場合には配当の 5%の法人税課税を
受けることになります。
119
なお、廃止された「外商投資企業清算弁法」では、上記清算報告書の具体的記載事項、抹消登記手続をなすべき
期限等につき具体的に規定されていました。
120
「会社法」第 186 条第 2 項
会社財産であって、清算費用、従業員の賃金、社会保険料及び法定の補償金をそれぞれ支払い、未納付税金
を納付し、会社債務を弁済した後の残余財産について、有限責任会社は株主の出資比率に従い分配し、株式有
限会社は株主が保有する株式比率に従い分配する。
121
「企業所得税法」第 55 条
企業は、年度中間において経営活動を終了する場合には、実際に経営が終了した日から 60 日以内に、税務機
関に対し当期の企業所得税の集計・計算及び清算・納付手続をしなければならない。
企業は、抹消登記手続をする前に、自らの清算所得について税務機関に対し企業所得税を申告し、かつ、法に
より納付しなければならない。
122
「直接投資に係るさらなる改善及び調整に関する国家外貨管理局の通知」(匯発[2012]59号)第6条第1項(なお、当
該通知の附属書1.は匯発[2015]20号により一部改正)
41
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Q36.
撤退による持分譲渡所得等は、どのように計算されますか
A36.
中国にある投資子会社の持分譲渡にともなって受け取る譲渡対価は、外国企業が取得する
中国国内源泉所得となるため、中国で課税されます。
この点、非居住者企業に適用される企業所得税率は原則として 20%ですが、非居住者のうち
「中国国内において機構および場所を設立していないものまたは機構若しくは場所を設立してい
るけれども取得する所得がその設立に係る機構若しくは場所と実際的関連がないもの」について
は、その適用税率は 10%となります123。
そして、譲渡所得となるのは、譲渡収入から取得原価を控除した後の残高ですが、受け取る
譲渡対価の内、未処分利益および利益留保に相当する部分については、配当所得として 10%124
が課税されます。
そして、譲渡所得については、清算分配所得から、配当所得とされる部分と当初取得原価を
減じることにより計算されます125。
Q37.
通常どのような場合に、破産清算を行いますか
A37.
多くの外商投資企業(特に日本企業)は、中国からの撤退を検討する場合、撤退に要する時
間、得られる経済的利益と必要コストの観点から、第一案として出資持分譲渡による撤退を検討
し(Q3 参照)、出資持分譲渡先が見つからないなどの理由によりこれが実現できない場合は、破
産清算手続きの不確実性、及びレピュテーションリスクを避ける観点から(Q52、Q53 など)、第二
案として解散清算を検討するパターンが多くなっています。
すなわち、今日では、外商投資企業が破産清算を検討するのは、出資持分譲渡を行うことが
できず、かつ解散清算をしようにもその費用がなく破産清算しか選択することができない場合に、
破産清算を第三案として位置づけることが多くなっています。
そして破産清算は、企業が、(α)期限到来債務を弁済することができず、かつ、資産が債務
の全部を弁済するのに足らず、または(β)期限到来債務を弁済することができず、かつ、明らか
に弁済能力を欠く状態に陥った場合に、企業自らまたは債権者の申請により、破産清算手続を
123
「企業所得税法」第 3 条第 3 項、同法第 27 条第 5 項、同実施条例第 91 条
「企業所得税法」第 3 条第 3 項、同法第 19 条第 1 項、同法第 27 条第 5 項、同実施条例第 91 条
125
「企業所得税法」第 19 条第 2 項、「企業清算業務の企業所得税の処理に係る若干の問題に関する財政部および国
家税務総局の通知」(財税[2009]60 号)第 5 条
124
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行うことになります。なお、企業が解散・清算を行う過程において、企業の資産が債務を弁済する
のに足らないことを発見した場合、清算グループは人民法院に対して破産清算を申し立てなけ
ればなりません126。
Q38.
債務者である外商投資企業が自ら破産清算の申請を提出する場
合、どのように申請すればよいですか
A38.
外商投資企業が、期限到来債務を弁済することができず、かつ、資産が債務の全部を弁済す
るのに足らず、または明らかに弁済能力を欠く状態となった場合、管轄権を有する人民法院に対
して下記申請書類および関連証拠を提出して破産清算を申請することができます。
破産清算の申請先は、通常、債務者所在地の人民法院となります127。「最高人民法院が企業
破産案件を審理する若干問題に関する規定」によれば、(1)区または県の工商行政管理部門に
おいて登記された企業の破産案件について基層人民法院が管轄し、(2)市以上の工商行政管理
部門において登記された企業の破産案件について中級人民法院が管轄することとなっていま
す。
① 破産申請書(申請者の基本状況、申請目的、申請事実および理由等を記載)
② 財産状況に関する説明(申請日までの資産貸借対照表、資産明細、対外投資状況、銀行口
座および残高、資産抵当状況等)
③ 債権債務明細
④ 財務会計に関する報告(人民法院の担当者によって、申請前に会計監査の実施を要求され
る可能性があります。)
⑤ 従業員安定配置方案128
⑥ 従業員の給与支払および社会保険費用の納付状況に関する説明
⑦ 人民法院が要求するその他の資料
126
「企業破産法」第 7 条第 3 項、「会社法」第 187 条第 1 項
「企業破産法」第 3 条
128
実務上、人民法院が企業からの破産申請を審査するに当たり、従業員の安置が確実にできるか否かは破産申請
を受理するか否かの最も重要な判断要素の一つです。過去には、従業員の反対で人民法院から破産申請を拒絶され
た例もありますので、破産申請を提出する前に、従業員に対して状況説明を行い、経済補償金を支払って労働契約を
合意解除することを含めて、従業員の理解を求めるために工夫する必要があると思われます。
127
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Q39.
破産申請を提出する際に、人民法院に対して破産申請費用を納
付する必要がありますか
A39.
「訴訟費用納付弁法」129第 14 条第 6 号によれば、破産申請費用について、破産財産総額によ
り計算し、財産事件受理費標準に従い半減して徴収し、最高で 30 万元を超えないと定められて
います。
ただし、同弁法第 20 条 2 項によれば、破産申請費用は、破産清算後に納付することとなって
います。
Q40.
債務者である外商投資企業が自ら破産清算を申請した場合の手
続はどうなっていますか。また、どれくらい時間がかかりますか
A40.
債務者である外商投資企業が自ら申請した場合の破産清算手続は、主として以下のとおりで
す。
① 債務者による破産清算手続の申立
② 人民法院は、債務者から破産申請を受取ってから 15 日以内に受理するか否かを裁定(人民
法院が受理しないと裁定する場合、債務者は裁定書を受取った日より 10 日以内に上級人民
法院に上訴することができる)
③ 人民法院は破産を受理した場合、同時に管理人を指定し、かつ受理すると裁定した日より 25
日以内に知れたる債権者に通知、公告
④ 債権者は、人民法院が指定した債権届出期間内(最短 30 日、最長 3 ヵ月)において、債権を
管理人に届出
⑤ 人民法院は、債権届出期間満了日から 15 日以内に、第一回債権者会議を招集・開催し、債
権者会議主席を指定して、債権確認、債務者の経営を継続するか否か、債務者の財産管理
案等について表決。人民法院が必要であると認める場合、または管理人、債権者委員会若
しくは債権総額の 4 分の 1 以上を占める債権者が債権者会議主席に対し提議する場合には、
債権者会議を開催
⑥ 人民法院は破産宣告を行い、裁定日より 5 日以内に債務者および管理人へ通知、10 日間以
内に知れている債権者へ通知、かつ公告
129
国務院、2007 年 4 月 1 日施行
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⑦ 管理人は、破産財産の売却処分案および破産財産分配案を作成し、債権者会議の表決に
提出し、破産財産分配案について人民法院の承認裁定を経たのち執行
⑧ 破産財産の分配を完了し、または分配に供する財産がない場合、人民法院は管理人の申請
により破産手続終結を裁定
⑨ 管理人は、人民法院の破産手続終結裁定をもって破産手続終結日より 10 日以内に登記主
管部門において登記抹消手続を実施
破産清算手続の期間について、「企業破産法」上においては特に規定はなく、上記の手続およ
び現在までの実務対応から見れば、破産申請が受理されてから破産手続終結まで早くとも 5∼
6 ヵ月以上がかかると思われます。
しかし、実際には、人民法院が外商投資企業の破産清算の手続に慣れておらず、上記の法定
期限を人民法院が遵守しなかった事例や、破産財産の処分案で競売を採用した結果、何度競売
を実行しても買い手がつかないなどとして手続が円滑に進まない事例もあるため、破産清算手
続の期間を明らかにすることは困難といえます。
他方で、このような状況下にあっても、債権届出の期間は、定められたその期間内に提出する
ように人民法院から厳格な指示を受ける場合もあるため、親会社を含む債権者は、現地法人が
破産を選択する際には、手続を遵守しなければならない点に注意が必要です(例えば、債権届
出のために証憑原本を集めるために時間がかかるとともに、中国国外で作成された証憑につい
ては公証認証が必要とされ、また中国語でない証憑については翻訳が必要とされるなど、的確
な債権届出を実現することは容易ではありません。したがって、現地法人の破産の検討を始めた
際は、破産申請をする前から、債権届けをできるように準備を進める必要があります。)。
Q41.
破産申請が人民法院に受理された場合、破産企業の法定代表者
等の経営責任者は何に注意すべきですか
A41.
破産申請が人民法院に受理されてから破産手続終結日まで、破産企業の法定代表者等(通
常は、董事長としますが、人民法院の決定により、企業の財務責任者[例:財務マネージャー]お
よびその他の経営責任者[例:総経理]を対象とする場合もあります)は、以下の義務を負わなけ
ればなりません130。
① 自己が占有・管理する財産、印章ならびに帳簿および文書等の資料を適切に保管するこ
と
② 人民法院および管理人の要求に基づき業務をし、かつ、事実どおりに質問に回答すること
130
「企業破産法」第 15 条
45
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③ 債権者会議に列席し、かつ、
事実どおりに債権者の質問に回答すること
④ 人民法院の許可を経ないで、住所地を離れてはならないこと
⑤ 他の企業の董事、監事および高級管理人員に新任しないこと
Q42.
破産申請が人民法院に受理された後、破産企業の履行期間中の
取引契約等についてどのように取り扱えばよいでしょうか
A42.
破産申請が人民法院に受理された後、破産企業の履行中の取引契約等について、管理人は、
その具体的な履行状況により解除し、または履行継続を決定することができます。すなわち以下
のとおりとなります。
① 破産企業による契約義務の履行は完了したが、相手側当事者がまだ履行していない場合
には、通常履行の継続を要求されます。
② 相手側当事者が契約義務を一部または全部履行したが、破産企業がまだ履行していない
場合には、管理人は具体的な状況により履行を継続するか否かを判断します。履行を継
続しないと判断された場合、相手側当事者が履行を完了した部分について、破産債権とし
て最終的に破産財産から弁済を受けるものとします。
③ 破産企業および相手側当事者双方ともまだ履行していない場合には、管理人は具体的な
状況により履行を継続するか否かを判断し、相手方当事者に通知する権利を有します。
管理人が破産申立ての受理日から 2 ヵ月以内に相手方当事者に通知せず、または相手方当
事者の催告を受領した日から 30 日以内に回答しない場合には、契約を解除したものとみなしま
す。
管理人が契約の履行を継続する旨を決定した場合には、相手側当事者は、履行しなければな
らなりませんが、管理人に対し担保を提供するよう要求する権利を有します。
管理人が担保を提供しない場合には、契約を解除したものとみなされます131。
Q43.
破産申請が人民法院に受理された後、会社が関わっている訴訟
または仲裁はどうなりますか
A43.
131
「企業破産法」第 18 条
46
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破産申請が人民法院に受理された後、すでに開始しているが終結していない破産企業に関す
る民事訴訟または仲裁は、中止しなければなりません。管理人が債務者の財産を接収・管理し
た後には、当該訴訟または仲裁は、進行を継続するものとされます。また、破産企業の財産に関
する保全措置は解除しなければならず、執行手続は中止しなければなりません132。
Q44.
管理人は誰が決定しますか
A44.
管理人は、通常人民法院が当該地域の管理人名簿133から指定するものとされています。管理
人名簿に掲載された仲介機構が管理人として指定されるのが一般的ですが、事実が明確であり、
債権債務関係が簡単であり、かつ、債務者の財産が比較的集中している破産案件については、
人民法院の判断により管理人名簿に掲載された個人が管理人として指定される可能性もありま
す134。
ただし、地域によっては管理人名簿がまだ作成されておらず、実務上、人民法院が以前(2007
年 6 月 1 日の「企業破産法」施行前)と同様に清算チームを指定する可能性もあります。
Q45.
管理人はどのような職責を果たしますか
A45.
管理人は、法により職務を執行し、人民法院に対し業務を報告し、かつ、債権者会議および債
権者委員会の監督を受けます。管理人は、次に掲げる職責を履行します135。
① 破産企業の財産、印章ならびに帳簿および文書等の資料の接収・管理
② 破産企業の財産状況を調査し、財産状況報告の作成
③ 破産企業の内部管理事務の決定
④ 破産企業の日常的支出その他の必要な支出の決定
⑤ 第 1 回債権者会議開催前に、破産企業の営業を継続、または停止を決定
⑥ 破産企業の財産の管理、および処分
132
「企業破産法」第 19 条および第 20 条
通常、高級人民法院または中級人民法院がその管轄地域の弁護士事務所、会計士事務所、破産清算事務所等
の仲介機構および専門者数量、ならびに破産案件の数量により、管理人名簿(仲介機構管理人名簿および個人管理
人名簿)を作成し、公告します。
134
「企業破産法」第 22 条第 1 項および「最高人民法院が企業破産案件を審理する際の管理人指定に関する規定」
(2007 年 6 月 1 日施行)第 17 条
135
「企業破産法」第 25 条
133
47
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⑦ 破産企業を代表しての訴訟、仲裁その他の法律手続への参加
⑧ 債権者会議の開催の提議
⑨ 管理人が履行すべきであると人民法院が認めるその他の職責
Q46.
管理人の報酬はどう決められますか
A46.
管理人の報酬については、人民法院が破産案件の複雑性、管理人が負うリスクおよび責任、
破産企業所在地の物価水準等の要素を考慮して、破産企業の財産価値および管理人の作業量
を予測し、破産企業の最終弁済財産価値総額(担保権者が優先的に弁済を受ける担保物の価
値については、最終弁済財産価値総額に計上しません)に従い、以下の比率の範囲内で段階的
に報酬案(報酬比率および支払条件)を作成し、第 1 回目債権者会議に報告します136。
管理人の報酬は、破産財産から優先的に支払われます。
① 財産価値が 100 万元以下の部分について、12%以下
② 財産価値が 100 万元超 500 万元以下の部分について、10%以下
③ 財産価値が 500 万元超 1000 万元以下の部分について、8%以下
④ 財産価値が 1000 万元超 5000 万元以下の部分について、6%以下
⑤ 財産価値が 5000 万元超 1 億元以下の部分について、3%以下
⑥ 財産価値が 1 億元超 5 億元以下の部分について、1%以下
⑦ 財産価値が 5 億元を超える部分について、0.5%以下
Q47.
債権者会議とは何でしょうか。どういう人が債権者会議に参加で
きますか
A47.
債権者会議とは、債権者全員で構成された決議機構として、債権者全員の利益を代表し、破
産手続に参加するものです。法により債権を届け出た債権者は、債権者会議のメンバーとして、
債権者会議に参加する権利を有し、表決権を享有します。
債権が確定していない債権者は、当該債権者に表決権を行使させるために人民法院が臨時
に債権額を確定することができる場合を除き、表決権を行使することができません。
また、債務者の特定財産について担保権を享有する債権者が、優先弁済受領権を放棄してい
136
「最高人民法院が企業破産案件を審理する際の管理人報酬の確定に関する規定」(2007 年 6 月 1 日施行)第 2 条
48
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ない場合には、和解協議および破産財産の分配案について表決権を有しません。137
Q48.
債権者会議は、どういう職権を有しますか
A48.
債権者会議は、債権者全員の利益を代表し、破産手続に参加する決議機構として、次の職権
を行使することができます138。
① 債権を調査すること
② 民法院に対し管理人の交代を申請し、管理人の費用および報酬を審査すること
③ 管理人を監督すること
④ 債権者委員会のメンバーを選任し、および交代させること
⑤ 破産企業の営業の継続または停止を決定すること
⑥ 更生計画を採択すること
⑦ 和解協議を採択すること
⑧ 破産企業の財産管理案を採択すること
⑨ 破産財産の換価方案を採択すること
⑩ 破産財産の分配案を採択すること
⑪ 債権者会議が行使すべきであると人民法院が認めるその他の職権
Q49.
破産財産の弁済順位はどうなっていますか
A49.
破産財産については、次の順序で弁済されます。破産財産が同一順位の弁済要求を充足し
得ない場合には、比率に応じて分配します139。
(1)破産費用
① 破産案件の訴訟費用(通常、破産案件受理費、公告費、送達費、債権者会議召集費
用、鑑定費用およびその他人民法院が破産案件を審理するための費用を含む)
② 破産企業の財産の管理、換価および分配に発生した費用
③ 管理人の職務執行費用、管理人報酬および業務人員の採用費用
137
138
139
「企業破産法」第 59 条
「企業破産法」第 61 条
「企業破産法」第 41 条ないし第 43 条、第 113 条および第 132 条
49
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(2)共益債務
① 管理人または破産企業が相手側当事者に対し、双方がいずれも履行を完了していな
い契約の履行を請求することにより生ずる債務
② 破産企業の財産が事務管理を受けて生ずる債務
③ 破産企業の不当利得により生ずる債務
④ 破産企業が営業を継続するために支払うべき労働報酬および社会保険料ならびにこ
れらにより生ずるその他の債務
⑤ 管理人または関連人員が職務を執行し、人に損害をもたらして生ずる債務
⑥ 破産企業の財産が人に損害を与えたことにより生ずる債務
(3)破産企業が従業員に未払いの賃金ならびに医療、後遺障害補助および
慰問費用、未納付の従業員の個人口座に振り替えるべき基本養老保険
料および基本医療保険料ならびに法律および行政法規の規定により従
業員に支払うべき補償金140
(4)破産企業が未納付の前号所定以外の社会保険料および破産企業が未納付の税金
(5)普通破産債権
Q50.
破産財産の分配案はどのように確定されますか
A50.
破産財産の分配案は、以下のプロセスにより確定されます。
(1)管理人により破産財産の分配案が作成されます141。
破産財産分配方案には、通常、①破産財産の分配に参加する債権者の名称または氏名
および住所、②破産財産の分配に参加する債権額、③分配に供することが可能な破産財産
額、④破産財産の分配の順位、比率および金額、⑤破産財産の分配を実施する方法等を
記載します。
(2)管理人が作成した破産財産の分配案について、債権者会議において議論し、債権者会議
の採択表決(債権者会議の決議事項について、債権者会議に出席した表決権を有する債
権者の過半数が採択し、かつ、それらの者が代表する債権額が財産担保のない債権総額
の 2 分の 1 以上を占める142)を経る必要があります。債権者会議の 2 回の表決を経てもなお
140
「企業破産法」の公布日前に発生した従業員に未払いの賃金ならびに医療、後遺障害補助および慰問費用、未納
の従業員の個人口座に振り替えるべき基本養老保険料および基本医療保険料ならびに法律および行政法規の規定
により従業員に支払うべき補償金に関しては、破産企業の無担保財産により弁済し、弁済に足りない部分については、
破産企業の担保財産から担保権者に優先して弁済を受けることができます。
141
「企業破産法」第 115 条第 1 項
142
「企業破産法」第 64 条第 1 項
50
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採択されない場合には、人民法院が裁定することになります143
(3)債権者会議が採択した破産財産の分配案について、人民法院の認可裁定を経て確定され
るものとなっています。
Q51.
破産企業の株主が、中国において新しい投資を行う際に、何か制
限を受けることがありますか
A51.
破産企業の董事、監事または高級管理人員が忠実義務または勤勉義務に違反し、所在する
企業をして破産させた場合144には、破産手続終結の日から 3 年以内において、いかなる企業の
董事、監事および高級管理人員にも就任してはならないという規制145がありますが、破産企業の
株主が中国において新しい投資を行うことについては、法令上、特に制限がありません。
Q52.
外商投資企業の場合、破産清算の実例は多く存在するのでしょう
か
A52.
「企業破産法」が施行される前には、(α)外商投資企業の破産手続を明確かつ具体的に定め
る法律は存在せず、基本的に「中華人民共和国民事訴訟法」第 19 章に定める企業法人の破産
弁済手続を適用し、「中華人民共和国企業破産法(試行)」146の関連規定を参考して適用すること
となっていたため147、関連破産手続について若干明確でないところが存在していること、(β)破産
清算を行う場合には、企業イメージにマイナスインパクトを与える可能性があることが懸念される
こと等から、破産清算を実施する実例はそれほど多くありません。
既に述べたように(Q37 参照)、外商投資企業(特に日本企業)は、破産を選択するよりも、日
本の親会社から債権放棄または増資等の方法により外商投資企業に資金の援助を行い、破産
清算手続の発生原因となる債務超過の状態を解消し、解散清算手続を実施する実例が多いと
いえます。
143
「企業破産法」第 65 条第 2 項
董事、監事または高級管理人員の個人責任(忠実義務、勤勉義務の違反等)により、企業が破産清算になった場
合に限ります。
145
「企業破産法」第 125 条第 2 項
146
全国人民代表大会常務委員会、1986 年 12 月 2 日公布。全民所有制企業の破産案件に適用されます。
147
「最高人民法院が『中華人民共和国民事訴訟法』を適用する若干問題に関する意見」第 253 条
144
51
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ただし、親会社が債権放棄を行った場合には、①放棄された当該債権額について海外子会社
に対する寄付金と見なされて負担損失を損金不算入とされる、②すでに債務超過状態になり撤
退を決定した子会社に対して新たに増資資金を投入することについて取締役の善管注意義務違
反を問われる、といったリスクが存在します。また、現在では「企業破産法」という外商投資企業
の破産手続に関する明確かつ具体的な適用法律が存在します。
そこで、外商投資企業が債務超過状態に陥った場合には、日本の親会社から資金援助を行
い、解散・清算の方式で撤退するケースのほか、破産清算を検討する外商投資企業も増える傾
向にあります。
Q53.
破産清算を選択する場合、何か留意点がありますか
A53.
破産清算を選択する場合、株主にとってはその外商投資企業に対して払い込んだ資本金の
範囲を超える責任を負う必要がなく(いわゆる「有限責任」)、債務超過状態に陥った外商投資企
業を法により清算することができるというメリットがありますが、(α)破産企業の董事または総経
理が破産企業の破産について個人責任を負う場合、当該破産企業の破産清算手続を完了して
3 年以内に他の企業の董事、総経理、監事または高級管理職を担任してはならず、(β)従業員
安置をうまく処理できなければ、実務上破産申請が受理されない等、破産清算手続がスムーズ
に進まない可能性がある点に留意する必要があります。
Q54.
「企業破産法」の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院
の規定(2)にはどのような内容が記載されていますか
A54.
「企業破産法」の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の規定(2)148は、2013 年 9 月 5
日に公布されました。本規定は、全 48 条にわたり、破産(破産清算、更生及び和議を含む)の際
の債務者財産の問題を中心に各規定を定めています。
本規定第 1 条から第 8 条は債務者財産について定めており、例えば担保権が設定された財産
は債務者の財産として認定するものとし(第 3 条第 1 項)、他方で所有権留保が付されている財
産については債務者の財産として認定しないものとするなど(第 2 条第 2 号)債務者財産の範囲
を明確にするとともに、債務者財産に対する保全措置や執行手続について定めています。
148
最高人民法院 法釈[2013]22 号、同年 9 月 16 日施行
52
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本規定第 9 条から第 18 条は、企業破産法第 31 条から第 33 条において定める管理人の取消
権(日本法にいう否認権)を具体化する定めを置いており、例えば、管理人が故意・過失により取
消権を行使しない場合は、債権者が管理人の賠償責任を追及することができるなどとしています
(第 9 条第 2 項)。
本規定第 19 条は、債務者が第三者に対して有する債権について、その訴訟時効を破産申立
て受理の日から中断することとし、かつ、債務者が正当な理由なく適時に権利行使せずに申立て
受理前 1 年以内に時効期間を経過してしまった債権についても、破産申立て受理の日から改め
てその訴訟時効期間を起算するとしています。
次に、本規定第 20 条から第 25 条は、紛争を破産手続内で解決する旨の定めを置いており、
例えば、企業破産法第 20 条は、債務者に関する未終結の民事訴訟又は仲裁が破産申立て受
理後は中止することを規定していますが、破産手続が開始した後は、債務者が直接の当事者と
なっていなくても、全債権者の公平確保のために、債務者財産に基づく個別の訴訟・仲裁又は強
制執行ではなく破産手続を通じて統一的に解決すべき場面があるとして、中止の対象となる個
別訴訟のいくつかを例示する規定を置いています(第 21 条)。
そして、本規定第 26 条から第 40 条までは財産の取戻権について定めており、例えば、債務者
が占有する第三者の財産を当該第三者が管理人を通じて取り戻す(企業破産法第 38 条、日本
法にいう取戻権)ことについて、取戻権の行使時期を原則として破産財産換価方案等の債権者
会議での表決前に管理人に提出すべきものとしています(第 26 条)。この他、善意取得(物権法
第 106 条)がなされた場合の取り扱い(第 30 条)や所有権留保がなされている場合の取り扱い
(第 34 条から第 38 条)が定められています。
さらに、本規定第 41 条から第 46 条までは相殺について定めており、例えば、 債権者が企業
破産法第 40 条の規定により相殺権を行使する場合、管理人に対し相殺の主張を提出しなけれ
ばならない、などが定められています(第 41 条第 1 項)。
この他、本規定第 47 条及び第 48 条は、訴訟管轄及び本規定が施行前の企業破産に関する
司法解釈に優先して適用される旨定めています。
Q55.
合弁契約に定める解散事由や持分譲渡事由に該当しますが、現
実的には各種要因によって合弁企業の解散清算または中国側
パートナーもしくは第三者への持分譲渡ができない場合、何か対
応方法がありますか
A55.
合弁契約に定める解散事由や持分譲渡事由が生じ、法的には合弁契約の約定に従って外商
投資企業の解散清算、または中国側パートナーもしくは第三者への持分譲渡が可能ですが、現
実的には各種要因によってうまくいかないケースがあると思われます。この場合、合弁契約の関
53
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連紛争解決条項に従って仲裁または裁判を求めるしかないと考えます。
「中外合資経営企業法実施条例」第 97 条によれば、合弁当事者が合弁契約の履行について
争議が生じた場合、まず友好的な協議を通じて解決し、協議による解決ができない場合、仲裁ま
たは裁判によりこれを解決することとなっています。日中両国間において経済案件に関わる裁判
判決の相互承認および執行ができないため、合弁契約において仲裁を紛争解決手段と選択す
るのが通常です。
「中外合資経営企業法実施条例」第 98 条によれば、合弁当事者は、合弁契約において仲裁
機構(中国の仲裁機構またはその他の仲裁機構)を約定することができます。通常、中国側が申
立人である場合、日本の仲裁機構(たとえば、日本商事仲裁協会)に提起し、日本側が申立人で
ある場合、中国の仲裁機構(たとえば、中国国際経済貿易仲裁委員会)に提起すると約定する
ケースが多くなっています。もちろん、完全な公平性および中立性を図り、第三国の仲裁機構を
選択する場合もあります。
ただし、(α)「契約法」第 126 条第 2 項によれば、中外合弁契約について中国法を準拠法とす
ることとなっているため、外国の仲裁機構より中国の仲裁機構が中国法に精通する点があり、か
つ(β)中国国際経済貿易仲裁委員会の仲裁員名簿には日本籍や外国籍の仲裁員がおり、日
本籍または外国籍の仲裁員を指定することにより公平性・中立性を図ることができ、(γ)外国の
仲裁裁決を中国において執行するためには、管轄裁判所において外国仲裁裁決に対する承認
および執行申請手続を経る必要があるため、直接中国国際経済貿易仲裁委員会を仲裁機構と
選択するケースが増えています。
なお、従前は、中国国際経済貿易仲裁委員会を仲裁機構とする選択が多くなっていましたが、
2012 年に上海分会・華南分会と北京本部で対立が生じ、同年 8 月 1 日、北京本部は上海分会お
よび華南分会に授権を停止し、上海分会は上海国際経済貿易仲裁委員会へ華南分会は華南国
際経済貿易仲裁委員会へ名称を変更しました(それぞれ上海市および広東省当局から支持を受
けています。)
この対立と分裂の結果、仲裁機関の名称変更前に、仲裁機関を中国国際経済貿易仲裁委員
会の上海分会または華南分会とする仲裁合意の有効性について問題が生じていますが、紛争
時の取り扱いについて、人民法院の判断は明確になっていません。
したがって、既に締結した契約書内に仲裁合意がある場合は、仲裁機構を中国国際経済貿易仲
裁委員会とするのか、上海国際経済貿易仲裁委員会とするのか、または華南国際経済貿易仲
裁委員会とするのか明確にしておくことが望ましいといえます。
54
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(付属資料)
外商投資企業の解散・清算の手続きフロー
1
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労働組合又は従業員代表と協議(労働契約
法第 4 条第 2 項).
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解散に関する会社権力機構の全員一致決議
審査認可機関への解散認可申請
認可まで 10 営業日以内
散(認可不要)
解散認可の取得
清算期間開始
経営期間満了、営業許可証取消等による解
①会社は清算グループを組織(認可日から 15 日以内。商法字[2008]31 号第 2 条 3 項、会社法第 183 条)
②会社は審査認可機関、会社主管部門、税関、外貨管理機関、会社登記機関、税務機関、および取引銀行等
に対し、企業名称、住所、清算原因および清算開始日等を書面で通知(現在では関連規定なく、関係政府機関
に要確認)
③清算グループ成員および責任者の名簿を会社登記機関に備案(清算グループ成立日から 10 日以内。会社
登記管理条例第 41 条、226 号通知第 3 項)
*なお、清算グループの組織までの②の業務は、解散前の日常経営管理者が行うと解される。
清算グループ成立から 10 日以内
既知の債権者への通知(会社法第 185 条)
公告(清算グループ成立日から 60 日以内)
※公告は、会社の規模および営業地域の範囲に基づき、全国紙
または会社登記登録地の省レベルの新聞に行う(司法解釈第
11 条第 1 項)
貸借対照表、財産リストおよ
び清算方案の作成(会社法
第 186 条第 1 項)
清算グループに債権届出(会社法第 185 条第 1 項)
通知を受領した債権者は通知受領日から 30 日以内、
通知を受領していない債権者は公告日から 45 日以内
届出債権の登録、審査および債権者への結果通知(会社法第 185 条第 2 項)
貸借対照表、財産リストおよび
清算方案について会社権力機
構または人民 法院の確認取
得(会社法第 186 条第 1 項)
未完了業務の処理、債権債務の整理、残余財産の処理、民事訴訟活動
等(会社法第 184条)
清算費用、従業員の賃金、社会保険料および法定の補償金の支払い、
未納付税金の納付、債務の弁済(会社法第 186 条第 2 項)
残余財産分配(会社法第 186 条第 2 項)
清算報告書作成(会社法第 188 条)
※会社財産が債務弁済に不
足する場合は、債務弁済法案
の作成または破産申立
(会社法第 187 条、司法解釈
第 17 条)
清算報告書につき会社権力機構の確認を経て審査認可機関に届出、お
よび認可証書の返納(指導意見第 4 条)
清算手続終了(司法解釈
第 13 条第 2 項)
審査認可機関による、全国外商投資企業審査認可管理システムにおけ
る企業終了関連情報の入力・操作、受領証明の発行(指導意見第 4 条)
①受領証明に基づく税務機関、税関および外為機関における抹消登記(指導意見第 4 条)
②財政部門における抹消登記(清算業務終了から 15 日以内。清算財務管理規定第 9 項)
残余財産の送金
※納税必要(外貨管理局の
認可は不要)
原会社登記機関に対する抹消登記申請(清算終了日から 30 日以内。会社登
記管理条例第 42 条)、社会保険登記抹消(社会保険登記管理暫定施行弁法
第 13 条。原則は工商登記抹消後。ただし、工商抹消登記前に行われる地域も
ありうる。)、組織コード番号抹消登記(組織機構コード管理弁法第 21 条)、統
計登記抹消(外商投資統計制度(2011 年))および会社登記抹消公告(会社法
第 188 条)
56
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弁護士 小堀 光一
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