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~口腔疾患の疫学と評価(Ⅰ)~

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~口腔疾患の疫学と評価(Ⅰ)~
~口腔疾患の疫学と評価(Ⅰ)~
地域口腔保健学
0
九州歯科大学
地域健康開発歯学分野
邵 仁浩
2016年4月13日
Today’s Attraction
◇齲蝕の数量化評価法を理解する
◆DMF
◆DMF者率(%),DMF歯率(%)・・
◇齲蝕の疫学的特性とは?
◆各疫学指標の長所・短所を理解し、目的に
応じた指標を選択する
◇不正咬合の数量化評価法を理解する
◆Dental Aesthetic Index (DAI)
◆Angleの分類
◇QOLの数量化評価法を理解する
◆SF36
1
はじめに
疫学研究では、健康事象と要因との関連
性を明らかにすることを特徴としており、
その関連性は、量・反応関係や相関関係
をもとに判断されることが多い。こうした統
計処理をするためには健康事象や要因を
数量化しておく必要がある。歯科分野の
疫学研究においても例外ではない
2
数量化・指標・指数
◆観察対象となる事象を数字に置き換えることを
数量化という
例:齲蝕(根拠の明示;診断基準の明確化)であ
れば、通常歯を単位としてその歯数または歯面数
という数字の形で表現する
◆疾病の状態などある物事の見当をつけるため
の目印を指標とよび、この事象の性質や程度を示
す指標として、特定の方式で表した数値を指数と
いう
3
齲蝕の診断基準の設定
◆WHOの診断基準
『健全歯』
・白斑またはチョーク様斑点
・金属のCPIプローブによる触診で、soft感がない変色や粗造部位
◆学校保健 CO(要観察歯)
探針を用いての触診ではう歯とは判定しにくいが初期病変の疑い
があるもの。小窩裂溝の着色や粘性が触知され、又は、平滑面に
おける脱灰を疑わせる白濁や褐色班が認められるが、エナメル質
の軟化、実質欠損が確認できないものである
4
齲蝕の数量評価①
◆DMF
1938年にKleinらは、齲蝕は蓄積生疾患(歯質の
実質欠損を伴う病巣を形成してしまうため、歯質
そのものの力による回復は望めない)であるから
、永久歯列における齲蝕の正確な罹患状態を知
るためには総齲蝕経験として把握すべきであると
して、DMFという用語の使用を提案した
5
齲蝕の数量評価②
◆DMF
●D;Decayedの略、未処置齲蝕
●M;Missing(or extracted) because of cariesの略
齲蝕による喪失歯、高度齲蝕による要抜去歯を含
める場合もある
●F;Filledの略、齲蝕による処置歯
6
齲蝕の数量評価③
このD,M,Fに相当する歯または歯面を各人の口腔か
ら検出し、次の計算式で統計量を算出する
DMF 者率(%)
DMF 歯率(%)
DMF 歯面率(%)
=
=
=
DMFT 指数
=
DMFS 指数
=
D,M,F のいずれかを 1 歯以上有する被検者の数
被検者数
被検者における DMF 歯の合計
被検歯数(喪失歯を含む)
被検歯面における DMF 歯面の合計
被検歯面数(喪失数のそれを含む)
被検者全員における DMF 歯の合計
被検者数
被検者全員における DMF 歯面の合計
被検者数
7
×
100
×
100
×
100
×
100
×
100
齲蝕の数量評価(DMF)の留意点①
*MとFについては過去の齲蝕のためであることを常
に確かめる必要がある
→WHO(1987)では、30歳以上においては齲蝕による
喪失歯と齲蝕以外の理由による喪失歯の両方が含まれ
るとしている
*DMFは齲蝕に罹った痕跡(経験)を数量的に表現
するものであり、外傷や矯正が原因であるものは除
く
(例)矯正歯科治療による便宜抜去歯はMとして扱わ
ない
8
齲蝕の数量評価(defとdmf)①
Gruebbel(1944)は、DMFを乳歯列に適用
しようとすると、Mが齲蝕のために抜去さ
れたのか、生理現象として脱落したのか
不明なために、総齲蝕経験量として評価
することができないが、口腔内で認められ
る齲蝕のみの計算でも十分利用価値は
あると主張した。小文字を使用したのは
永久歯列におけるDMFとの混乱を避ける
ためである
9
齲蝕の数量評価(defとdmf)②
def 者率(%)
=
def 歯率(%)
=
d 歯率(%)
=
e 歯率(%)
=
f 歯率(%)
=
d,e,f のいずれかを 1 歯以上有する被検者の数
被検者数
被検者における def 歯の合計
観察された被検歯の合計
d 歯数
def 歯数
e 歯数
def 歯数
f 歯数
def 歯数
10
×
100
×
100
×
100
×
100
×
100
齲蝕の数量評価(defとdmf)の留意点
*def指数では、検査時に口腔に存
在しない歯はすべて除外される点に
注意を要する
*dmfは永久歯列に用いたDMFと同
じ解釈で同じ指数を計算し、一般に
5歳未満の小児に対して用いられる
11
齲蝕の疫学的特性①
◆多発性
有病率が高く、多数歯が罹患する:齲蝕
は最も有病率の高い疾患の一つであり、
多数歯にわたって罹患しやすい
◆小児疾患
小児期に多発する:乳歯齲蝕は1~5歳、
永久歯齲蝕は萌出後から2~4年の間に
罹患しやすい
12
齲蝕の疫学的特性②
◆歯種および部位特異性
歯種や歯面により齲蝕感受性は異なる:
乳歯では、上顎乳前歯および上下乳臼歯
が齲蝕になりやすく、下顎乳前歯が最も
なりにくい。永久歯では、上下顎大臼歯が
齲蝕になりやすく、次いで小臼歯や上顎
前歯であり、下顎前歯が最もなりにくい
歯面別では平滑面より咬合面が、平滑
面では頬舌面より隣接面が齲蝕になりや
すい
13
齲蝕の疫学的特性③
◆性差
永久歯では性差が認められる:永久歯のDMFT
指数(一人平均DMF歯数)では女性は男性より
も高い傾向がみられる
◆不可逆性および蓄積性
自然治癒がなく、齲蝕経験として痕跡が残る:
齲蝕は、一度齲窩が形成されてしまうと、修処
置をしても元の健全な歯質には戻らない(不可
逆性疾患)。その結果、齲蝕はその痕跡(齲蝕
経験)が加齢とともに蓄積されるのでDMFT指数
は増加する(蓄積生疾患)
14
齲蝕の疫学的特性④
◆慢性疾患
齲蝕は、一部を除き慢性的に進行していく。初
期の齲蝕には自覚症状のない場合が多い
◆生活習慣病としての側面
生活習慣や環境などに影響される:砂糖の消
費量並びに摂取形態や回数が、齲蝕の発生ま
たは増悪化の重要な関連要因である
15
齲蝕の有病者率の推移
わが国では、小児の齲蝕有病状況が国際的にみても高いレベル
のまま推移してきたが、1990 年代から、ようやく減少傾向が認め
られるようになった。現在もその傾向は続いており、かつての齲蝕
有病状況に比べると大きく改善した
-3 歳児・12 歳児(中学1 年生)のう蝕有病者率(注)の推移と健康日本21(第二次)の目標値-
(出典:日本口腔衛生学会 政策声明 う蝕のない社会の実現に向けて)
16
齲蝕有病者率の推移(乳歯)①
(%)
100
80
60
1987年
1993年
40
1999年
2005年
20
2011年
(歳)
0
1
2
3
4
5
6
17
7
8
9
10
齲蝕有病者率の推移(乳歯)②
乳歯の齲蝕有病者率の推移
は(1~10歳)
減少傾向
18
齲蝕有病者率の推移(永久歯)①
(%) 100
80
1987年
1993年
60
1999年
40
2005年
2011年
20
0
55~64
45~54
35~44
25~34
20~24
15~19
10~14
5~ 9
19
(歳)
齲蝕有病者率の推移(永久歯)②
永久歯の齲蝕有病者率の推移は
25歳頃まで減少傾向
45歳以上は増加傾向
根面齲蝕
20
齲蝕有病者率の推移(永久歯)③
根面齲蝕は、歯周疾患などにより歯肉退縮した露出セメ
ント質に発生する齲蝕をいう。口腔内細菌の酸産生に
よって硬組織が脱灰し、齲窩を形成するという点では歯
冠部齲蝕と類似した疾患であるが、その成立は異なる
面も多くある
21
齲蝕有病者率の推移(永久歯)④
根面齲蝕と歯冠部齲蝕の特徴
齲蝕の性状
根面齲蝕
歯冠部齲蝕
好発年齢
高齢者
歯の萌出後数年
初発組織
セメント質、象牙質
エナメル質
臨界 pH
pH 6.7
pH 5.4
原因菌
ミュータンスレンサ球菌
ミュータンスレンサ球菌
乳酸桿菌
乳酸桿菌
Actinomyces
精製ショ糖の関与
不明
重要
(山下ほか、1999)
男性>女性
22
齲蝕の有病状況(歯科疾患実態調査から)①
23
齲蝕の有病状況(歯科疾患実態調査から)②
◆被調査者数
被調査者数は4,253人(男1,812人、女2,441人)であり、1
歳以上15歳未満の者は535人
(男272人、女263人)、5歳以上の者は4,098人(男1,728人、
女2,370人)、うち5歳以上15歳未満の者は380人(男188人、
女192人)であった(図1)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-23.html
24
齲蝕とその処置状況 (乳歯)①
5歳以上10歳未満においては、各年齢とも現在歯に対し
てう歯を持つ者の割合は40%を超えていた(図2)
25
齲蝕とその処置状況 (乳歯)②
7歳未満の各年齢において過去の調査と比較すると、現在歯に対
してう歯を持つ者の割合(図3)は減少傾向を示している
26
齲蝕とその処置状況 (乳歯)③
1人平均df歯数(dft指数)(図4)は減少傾向を示している
27
齲蝕とその処置状況 (乳歯)④
1人平均未処置歯数 (図5)は減少傾向を示している
28
齲蝕の有病状況 (乳歯)練習問題
29
齲蝕とその処置状況 (乳歯+永久歯)①
5歳以上15歳未満の各年齢において、4割~7割程度の者
が乳歯または永久歯の現在歯にう歯を有する者であった
(図6)
30
齲蝕とその処置状況 (乳歯+永久歯)②
過去の調査と比較し、減少傾向を示している(図7)
31
齲蝕とその処置状況 (永久歯)①
5歳以上10歳未満の年齢階級では現在歯に対してう歯を持つ者の
割合は10%であった。
20歳以上80歳未満の各年齢階級では8割以上にのぼった(図8)
32
齲蝕とその処置状況 (永久歯)②
過去の調査と比較すると、5歳以上25歳未満の各年齢階級では減
少する傾向を示したが、45歳以上では、増加傾向を示す年齢階級
33
があった(図9)
齲蝕とその処置状況 (永久歯)③
5歳以上15歳未満の1人平均DMF歯数(DMFT指数)は、近年、減少
傾向を示しており、今回調査における12歳児のDMFT指数は1.4で
34
あった(図10)
齲蝕とその処置状況 (永久歯)④
15歳以上においてDMFT指数を過去の調査と比較すると、若年者
において減少する傾向がみられるとともに50歳以上の各年齢階級
35
においても減少する傾向がみられた(図11)
口腔疾患の疫学と指標
(Ⅲ)
-不正咬合・QOLの指標ー
36
不正咬合の指標
37
不正咬合の原因
• 遺伝的原因
• 環境的原因
– 先天的原因
• 唇顎口蓋裂、歯数異常、歯の形態異常、栄養障害
– 後天的原因
• 全身的原因
– 結核、ポリオなどの感染症、内分泌異常、栄養
障害
• 局所的原因
– 齲蝕、歯周疾患、ディスクレパンシー、
– 不良習癖
» 弄指癖、咬唇癖、吸唇癖、弄舌癖、睡眠態癖
38
不正咬合の予防
不良習癖の排除
咀嚼訓練
乳歯う蝕の予防
過剰歯や小帯の異常に対する処置
保健指導
– 生活指導
– 不良習癖の排除
• 保健教育
– 不正咬合による成人の歯科保健の影響および不正咬
合の予防について
• 早期発見・専門医相談
– 咬合誘導
•
•
•
•
•
39
平成23年歯科疾患実態調査の結果
• 12歳以上20歳未満で叢生のある者は43.1%
• 歯列に空隙のある者は12%
(人)
叢生の状況〔人数(%)〕
叢生あり
年齢階級
(歳)
叢生なし
上下顎とも
上顎のみ
下顎のみ
12~15
59(54.6%)
13
18
15
16~20
58(53.7%)
14
13
20
40
不正咬合の評価
• DAI (Dental Aesthetic Index)
– 歯列の審美性の評価のために考えられたWHOが推
奨している口腔診査法
(International Collaborative Study of Oral Health
Outcomes(ICS II)の診査項目)
歯列に対して特別な知識を持たない一般的な人々
の客観的な審美感を基準として不正咬合を数量化
している。
個人の歯列の審美の程度と同時に、その歯列に対
する矯正治療や審美歯科治療の目安になる。
永久歯列を対象とする。
矯正治療中や矯正治療を受けた歯列は対象外
41
DAIの評価項目
計測値
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
欠損歯数(切歯、犬歯および小臼歯)
切歯部の叢生
0=叢生なし
1=片顎のみ
2=上下顎とも
歯間空隙
0=空隙なし
1=片顎のみ
2=上下顎とも
正中離開距離(mm)
上顎前歯排列不正部位の最大距離(mm)
下顎前歯排列不正部位の最大距離(mm)
上顎オーバージェット量(mm)
下顎オーバージェット量(mm)
切歯部の垂直開咬量(mm)
臼歯部の近遠心関係
0=標準
1=半咬頭
2=1咬頭
ウェイト
欠損歯
6
叢生
1
歯間空隙
1
正中離開
3
歯牙の排列不正:上顎
1
歯牙の排列不正:下顎
1
上顎オーバージェット量
2
下顎オーバージェット量
4
切歯部の垂直開咬量
4
臼歯部の近遠心関係
3
小計
+13
(定数)
42
43
44
45
46
CPIプローブ
11.5mm
8.5mm
5.5mm
3.5mm
0.5mm
47
DAIを基準にした治療必要度
• 13~25:正常咬合または不正咬合は軽度、
必要度はなしまたは軽微
• 26~30:不正咬合は明瞭、処置は選択的
• 31~35:不正咬合は重度、処置は強く望ま
れる
• 36~
:不正咬合はきわめて重度または
48
ハンディキャップが大、処置は必須
日本人、中国人、アメリカ原住民およびDAIの平均
値および標準偏差
対象者数 平均値±標準偏差
日本人
1029
30.1±7.98
中国人
176
25.9±5.39
アメリカ原住民
485
31.8±7.77
1337
26.5±7.54
アメリカ人(白人)
(加藤論文,1992)
49
学校歯科検診における不正咬合の診査
• 不正咬合の判定基準
– 反対咬合(下顎前突):3指以上の反対咬合
– 上顎前突:オーバージェットが8mm以上
デンタルミラーの直径Ⅰ/2程度
– 開咬:上下前歯切縁間に垂直的に6mm 以上の空隙が
あるもので、萌出途上歯は除く。デンタルミラーホ
ルダーの太さ以上
– 叢生:隣接歯が互いに1/4以上重なり合っている
もの
– 正中離開:上顎中切歯間に6mm以上の空隙があるもの
デンタルミラーのホルダーの太さ程度
– その他:上記以外の不正咬合で特に注意すべき咬合
があれば記載する。
50
不正咬合判定の事後処置について
• 要観察:定期観察
前歯部の反対咬合
側切歯の舌側転位
正中離開と側切歯
萌出位置不足
犬歯の萌出余地不足
• 要精査:矯正治療を要する
前歯部臼歯部とも反対咬合
過蓋咬合
著しい上顎前突
開咬
著しい正中離開
著しい叢生
51
QOLの指標
52
Oral Health Impact Profile(OHIP)
1994年にSladeらによって報告さ
れたスケール。口腔分野のQOL
スケールとしてはもっとも幅広くし
ようされている
53
Oral Health Impact Profile(OHIP)
歯科保健関連QOL尺度の1つで
あるOral Health Impact Profile
(OHIP)は,「機能的な問題」「痛み
」「不快感」「身体的困りごと」「心
理的困りごと」「社会的困りごと」「
ハンディキャップ」の7領域,49項
目からなる
54
General Oral Health
Assessment Index (GOHAI)
1990年に高齢者用として
Atchisonにより開発されたスケー
ル。その後、使用対象者を高齢
者に限定する必要がないことが
報告された。
55
56
SF36の因子構造
SF36は大きく身体健康と精神的健康から構成され、
それぞれ下位尺度をもつ。身体的下位尺度として身
体機能、日常役割機能(身体)、全体的健康観、体の
痛み、精神的健康として心の健康、日常役割機能(精
神)、社会生活機能、活力の計8尺度からなるもので
ある。また、これらの下位尺度はそれぞれ2―10の質
問項目から構成され、これらの質問に対する回答をコ
ード化し、下位尺度の得点を求めるもので、さらにこれ
らの下位尺度の得点から身体的健康の尺度である
PCS、精神的健康の尺度であるMCSを算出する。 57
SF36の因子構造
58
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