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気候変動問題の国際的取り組みに関するモルディブを含む小島諸国

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気候変動問題の国際的取り組みに関するモルディブを含む小島諸国
第 16 回国際開発学会全国大会実行委員会、
『第 16 回国際開発学会全国大会報告論文集』
、2005 年、
pp.272-275 掲載
気候変動問題の国際的取り組みに関するモルディブを含む小島諸国による現状評価
− AOSIS 加盟国へのアンケート調査とモルディブ政府の見解に関する資料調査より −
広島市立大学大学院国際学研究科 中島清隆1
1.目的・背景・検討方法
本稿の目的は、モルディブを含む小島嶼国が、国際社会及び日本を含む先進工業国によるこれまでの気候
変動問題への取り組みをどのように評価しているかについて検討することである。
小島嶼国は、気候変動に関する諸現象により、早期に甚大な悪影響を受けると予測されている。このよう
な脅威を抱える小島嶼国の認識と見解は、
国際社会による気候変動問題への取り組みを評価するための重要
な判断材料になると考える。
本稿の検討方法として、第一に、小島嶼国へのアンケート調査を行った。調査の対象は、AOSIS(小島
嶼国連合)2 事務局と加盟 39 カ国の気候変動問題に携わる関係者である。2004 年 3 月から 6 月にかけて、
関係者へアンケート用紙を送り、同年 8 月現在で、13 カ国(33%)の回答を得た3。
アンケート対象者には、1)気候変動の脅威に関する質問(A-1/A-2)
、2)AOSIS に関する質問(B-1/B-2)
、
3)国際交渉に関する質問(C-1∼C-8)
、4)先進工業国と日本に関する質問(D-1∼D-5)
、に対して、自国
の公式見解に基づく回答を求めた。
第二の検討方法として、モルディブ政府による国際会議等での公式演説を始めとする資料調査を行った。
アジア地域の小島嶼国であるモルディブは、国連総会等の国際会議で、気候変動問題に関する内容を交えた
演説を行っている。また、2001 年に、モルディブ政府は、気候変動枠組条約(以下、条約と略す)事務局
に、初めての国別報告書を提出した。
本稿では、上記したアンケート調査と資料調査を踏まえ、モルディブを含む小島嶼国による気候変動問題
に関する現状評価について検討する。
2.モルディブを含む AOSIS 加盟国による気候変動問題への現状評価4
2−1.気候変動の脅威に関する質問
質問 A-1 と A-2 では、気候変動に対する小島嶼国の脅威度を尋ねた。モルディブを含む小島嶼国は、気
候変動への脅威を強く感じている(質問 A-1)
。また、気候変動による海面上昇と国土水没に関しても、強
い脅威を感じている(質問 A-2)
。
モルディブは、公式演説で、国際社会に対して、海面上昇といった気候変動による悪影響への潜在的な脅
威を訴え続けている5。それは国家の存続に関わる危険である6。モルディブ国土の 80%以上は海抜 1 メー
〒 731-3166 広島市安佐南区大塚東3−4−1 広島市立大学大学院国際学研究科博士後期課程
E-mail:[email protected]
2 海面上昇に関する小島嶼諸国会議(1989 年 11 月)では、気候変動、地球温暖化、海面上昇に共同して対処す
るために、小島嶼国間で活動グループが設立された。その後、第 2 回世界気候会議(1990 年 11 月)で、この活
動グループは AOSIS となった。Maldives ES(2003)
、Maldives PM(1990)
、Maldives MHAHE(2001:93)
、
小柏(1994:28-29)参照。AOSIS は、メンバー39 カ国とオブザーバー4 カ国(地域)で構成される(2004 年
現在)
。http://www.sidsnet.org/aosis/members.html (2005 年 3 月 23 日現在)参照。
3 回答があった 13 カ国とは、クック諸島、フィジー、キリバス、ジャマイカ、モルディブ、ニウエ、パラウ、セ
ント・キッツ・ネイヴィス、セント・ルシア、サントメ・プリンシペ、セイシェル、ツバル、バヌアツである。
4 質問の回答結果は、紙面の制約があることから、国際開発学会 2005 年全国大会の報告で公表する。
5 Maldives PM(1989)
、
(1992)
、
(1994)
、
(1997a)
、
(1997b)
、
(1997d)
、
(1997e)
、Maldives MHAHE(2001:
1
1
トル以下であるために、海面が 1∼2 メートル上昇すれば、国土水没といった深刻な影響を受ける7。
また、モルディブは既に気候変動の悪影響を被っている。国連総会決議は、1987 年 4 月、6 月、9 月に、
モルディブを襲った津波の被害に深く関心を示すとともに、長期的な護岸の強化を打ち出した8。モルディブは、
この 1987 年及び 1991 年の津波9 以来、マレ島周辺の護岸を行っている10。更に、モルディブは、珊瑚礁の白
化現象という悪影響を既に経験している11。
2−2.AOSIS に関する質問
質問 B-1 と B-2 では、AOSIS による気候変動問題への取り組みについて尋ねた。小島嶼国は、これまで
の気候変動問題の取り組みで、AOSIS が果たした役割を高く評価した(質問 B-1)12。また、質問 B-2 へ
の回答で、気候変動問題の国際交渉に関して、AOSIS の意見が反映されていると評価した。一方、モルデ
ィブ等のように、国際交渉における AOSIS の役割が不十分との少数意見も見られた13。
2−3.気候変動問題の国際交渉に関する質問
質問 C-1 と C-2 では、これまでの気候変動問題の国際交渉に関する全般的な評価を尋ねた。モルディブ
を含む小島嶼国は、国際交渉に関して、成果(質問 C-1)とスピード(質問 C-2)共に満足していなかった。
特に、国際交渉のスピードに対する不満足度が高く、気候変動の進行による脅威を強く感じていた。
モルディブは、公式演説で、すぐに気候変動問題に対処することを求めた14。また、京都議定書(以下、
議定書と略す)への批准が遅れていることを懸念した15。
質問 C-3 と C-4 では、気候変動問題の国際合意である条約の中で、長期的観点に関する内容への評価に
ついて尋ねた。モルディブを含む小島嶼国は、原則(条約 3 条:質問 C-3)と究極の目的(条約 2 条:質問
C-4)の内容にとても満足している。また、モルディブは、国別報告書で、条約にある「予防原則」と「共
通だが差異ある責任原則」を支持した16。
質問 C-5 と C-6 では、条約及び議定書で、先進締約国に課せられた約束の内容についての評価を尋ねた。
モルディブを含む小島嶼国は、条約で附属書Ⅰ国に課せられた約束17 に満足していなかった(質問 C-5)
。
18
更に、議定書で附属書 B 国に課せられた数値目標 について、条約にある約束より厳しく評価した(質問
35)
、外務省経済協力局(1991:224)
、
(1992:227)
、
(1993:235)
、
(1994:243)
、
(1995:254)
、
(1996:
222)
、
(1997:242)
、
(1998:215)
、
(1999:217)
、
(2001:221)
、
(2002:170)
、
(2004:171)
。
6 Maldives PM(1990)
、
(1998a)
。また、モルディブは、気候変動と海面上昇に対して、最も脆弱な国家の一
つであるとしている。Maldives MHAHE(2001:1、5、49)
。
7 Maldives PM(1987)
、
(1994)
、Maldives ES(2003)
、Maldives MHAHE(2001:5)
。Maldives MHAHE
(2001:49)では、海面上昇が、モルディブの主要な関心事であると示す。
8 A/RES/42/202(1987)
。Maldives MHAHE(2001:54)では、1987 年 4 月に起こった嵐の後に、総額 5800
万米ドルを費やし、マレ全域に防波堤を建設した、あるいは、建設中としている。
9 モルディブを襲った 1987 年と 1991 年の津波については、リース(2002:136-140、142-147)参照。
10 Maldives PM(1997b)
。
11 Maldives PM(2000c)
。
12 小柏(1994:30、33-34)
、
(1999:20)は、AOSIS が、第 2 回世界気候会議や 1994 年のバルバドス会議(小
島嶼途上国の持続可能な発展に関する世界会議)とその準備会合で、一定の役割を果たしたと評価する。
13 小柏(1999:29)は、議定書の採択を巡る国際交渉で、CO2(二酸化炭素)排出量を 2005 年までに 20%削
減するという AOSIS 案とかけ離れた合意がなされたことが影響していると述べる。
14 Maldives PM(1997b)
、
(1998a)
。
15 Maldives PM(2000b)
。
16 Maldives MHAHE(2001:1)
。
17 条約では、附属書Ⅰ国に、2000 年までに 1990 年比で CO2 排出量を安定化させるという法的拘束力のない約
束が課せられた。
18 議定書では、附属書 B 国全体として、第 1 約束期間(2008 年から 2012 年までの 5 年間)に、CO2 等 6 種類
2
C-6)
。
だが、一方、モルディブは、公式演説で、この不十分な議定書を受け入れ、議定書が広く尊重されなけれ
ばならないと主張した19。そして、国際社会が議定書を早期に発効させるように求めた20。具体的には、持
続可能な発展に関する世界サミットが開かれる 2002 年までに議定書が発効されることを望んだ21。
質問 C-7 と C-8 では、先進締約国から発展途上締約国への資金的支援について尋ねた。小島嶼国に関連
する資金メカニズムとして、条約に基づく特別気候変動基金と議定書に基づく適応基金が定められた22。小
島嶼国は、特別気候変動基金と適応基金の設置(質問 C-7)
、及び、その内容(質問 C-8)に関して、一定
の満足度を示した。だが、両基金の内容については、不満足度も高い(質問 C-8)
。モルディブは、多くの
小島嶼国と違い、両基金の設置と内容共に不満足であった。
2−4.先進工業国と日本に関する質問
質問 D-1 から D-3 では、先進工業国による気候変動問題への取り組みについて尋ねた。まず、これまで
の質問への回答との違いとして、
「どちらでもない」という回答が過半数を超え、回答への保留が増えたの
が特徴的だった。
モルディブは、先進工業国が気候変動問題の重大性を認識していると受け止めていた(質問 D-1)
。一方、
公式演説では、国際社会が気候変動の悪影響を十分に理解、認識しておらず23、先進工業国が地球環境を危
険にさらしていると主張した24。
質問 D-2 と D-3 では、先進工業国による気候変動問題への取り組みについての満足度を尋ねた。小島嶼
国は、先進工業国による気候変動の緩和に関する取り組みの現状に対して不満足であった。モルディブは、
気候変動の緩和25 と適応支援共に、先進工業国による取り組みが全く不十分と回答した。そして、気候変
動の悪影響を強く懸念していること(質問 A-1・A-2)から、先進工業国が気候変動の緩和に積極的に取り
組むように求めた(質問 D-2)
。
また、モルディブは、公式演説と国別報告書で、経済力、工業力、技術力が不足していて、海面上昇等の
気候変動問題に対処できることは限られている26 ために、国際援助の必要性を訴えた27。
だが、モルディブは、国連環境開発会議(1992 年)での合意28 が、実際には達成されていないと主張す
る29 ように、国際援助の現状に満足していない。それは、モルディブを含む小島嶼国が、先進国による気
候変動への適応支援に不満足であることからも伺えた(質問 D-3)
。
質問 D-4 と D-5 では、日本によるこれまでの気候変動問題への取り組みについて尋ねた。まず、上記の
先進工業国を対象とした質問と同じく、日本の取り組みに関する質問でも、
「どちらでもない」
、あるいは、
「分からない」という回答が増えていた。
の温室効果ガスを少なくとも 5%減らすことが定められた。また、附属書 B 国には、法的拘束力がある個別の数
値目標が課された。
19 Maldives PM(1998a)
、
(2002)
。
20 Maldives PM(2000b)
、
(2001)
。
21 Maldives PM(2000b)
、
(2000c)
。
22 両基金は、発展途上締約国による気候変動への適応(気候変動に関連する悪影響への対処)を支援する目的で
設けられた。
23 Maldives PM(1998a)
、
(2000c)
。
24 Maldives PM(1994)
。
25 気候変動の緩和とは、気候変動の原因物質とされる温室効果ガス排出量を抑制、削減することである。
26 Maldives PM(1987)
。
27 Maldives PM(1990)
、
(1998a)
、
(1998b)
、
(2000a)
、Maldives MHAHE(2001:87)
。
28 『アジェンダ 21』第 33 章では、援助国(先進国)による ODA(政府開発援助)を GDP(国内総生産)の
0.7%とすることが再確認された。外務省国際連合局/環境庁地球環境部(1993:60)参照。
29 Maldives PM(1997a)
、Maldives MHAHE(2001:87)
。
3
小島嶼国は、日本による気候変動の緩和に関する取り組みに若干満足していた。それに対して、モルディ
ブは、全く不満足と回答した(質問 D-4)
。また、小島嶼国は、日本による気候変動への適応支援に不満足
であった(質問 D-5)
。モルディブは、国連総会での演説において、海面上昇に対処するための援助につい
て、友好国の中でも、特に、日本に感謝を示した30。
3.結語:検討結果と今後の研究課題
本稿における検討の結果、モルディブを含む小島嶼国は、多国間交渉の成果とスピード、附属書Ⅰ国に課
せられた温室効果ガス削減(抑制)目標の内容、先進工業国による気候変動への緩和と適応支援に関する取
り組みの現状に対して、不満足度が高かった。一方、小島嶼国は、条約における原則と究極的な目的の内容、
資金的支援措置の設置と内容、日本による気候変動への緩和に関する取り組みに一定の評価を示した。
モルディブは、他の小島嶼国と違い、AOSIS の役割、資金的支援措置の設置と内容、日本による気候変
動への緩和に関する取り組みに対して、
厳しい評価を下した。
また、
不満足とした議定書の早期発効を促し、
小島嶼国が不満足とした日本による適応支援に一定の評価を示した。
本稿の結論として、モルディブを含む小島嶼国は、国際社会及び先進工業国による気候変動問題への取り
組みに関して、一部成果があったとしながら、気候変動への脅威を和らげるほどには進んでいないと評価し
ていることが分かった。
今後の研究課題は、モルディブ(及び他の小島嶼国)における政策関係者へのインタビュー調査と、気候
変動への適応(支援)事業に関する現地調査を行うことである。これらの調査と今回の資料調査及びアンケ
ート調査をあわせることで、
モルディブを含む小島嶼国による気候変動問題に関する現状認識と現状評価を
更に検討できると考える。同時に、日本を含む先進工業国や国際社会による気候変動問題への取り組みを評
価する判断材料の有効性を更に高めることができると考える。
参考文献
小柏葉子(1994)
「AOSIS−小島嶼諸国によるインターリジョナリズムの展開と可能性」
『広島平和科学』17 号
−(1999)
「南太平洋フォーラムと気候変動に関する国際レジーム」
小柏 編(1999)
『太平洋島嶼と環境・資源』国際書院
外務省経済協力局 編/財団法人 国際協力推進協会 発行
『我が国の政府開発援助下巻(国別実績)
』
『我が国の政府開発援助 ODA 白書下巻(国別援助)
』
『政府開発援助(ODA)国別データブック』
(1989∼2005)
ボブ・リース 著/東江一紀 訳(2002)
『モルジブが沈む日 異常気象は警告する』NHK 出版
Maldives ES(Environment Section, Ministry of Home Affairs & Environment Maldives)
(2003)
Climate Change Main Page http://www.environment.gov.mv/climate.htm(2005年3 月15日現在)
Maldives MHAHE(Maldives Ministry of Home Affairs Housing and Environment)
(2001)First
national communication of the Republic of Maldives to the United Nations Framework Convention
on Climate Change http://unfccc.int/resource/docs/natc/maldncl.pdf (2005 年 3 月 23 日現在)
Maldives PM(Permanent Mission of the Republic of Maldives to the United Nations)
国連総会等での大統領・外務大臣による公式演説(1987∼2002)
United Nations General Assembly(1987)A/RES/42/202, Special assistance to Maldives for disaster
relief and the strengthening of its coastal defences ,96th plenary meeting, 11.December 1987
Maldives PM(1988)
。また、外務省経済協力局(1989:209)
、
(1990:226)
、
(1991:225)
、
(1992:228)
、
(1993:236)
、
(1994:244)
、
(1995:254)
、
(1996:222)
、
(1997:242)
、
(1998:215)
、
(1999:217)
、
(2001:
221)
、
(2002:170)
、
(2004:171)では、モルディブが、国連で常に日本を支持していて、日本との良好な関
係が続いていることが示されている。
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