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第 2 回 増殖と培養

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第 2 回 増殖と培養
藻 類 学
第 2 回
増殖と培養
本日の課題
微生物の増殖(増殖曲線)と各時期を説明できるように
する。
現存量の測定(推定)方法とそのメリットと問題点を説
明せよ。
メタゲノム(メタゲノミックス)とは
微生物(微細藻類)の増殖
微生物学において、増殖という語は、細胞数の増加として
定義されている。
growth という語、日本語だと成長,生長にあたる。
多細胞生物において、生体系の量の増加、原形質の増加など。
微細藻類は微生物になる
ほとんどの原核生物に
おいて、個々の細胞は
二分裂 (binary fission)
と呼ばれるプロセスで
DNA
DNAの複製
細胞の伸長
隔膜の形成
1つの細胞から2つの
細胞が生じる。
個別の壁の
形成による
隔膜の完成
細胞分裂
細胞が最小の細胞に比べ
DNA
ておよそ2倍の長さに伸
長し、隔膜形成が始まる。
増殖サイクル中には、独
立した細胞として存在す
DNAの複製
細胞の伸長
隔膜の形成
るために必要な完全な染
色体と他の全ての物質の
十分なコピーを各娘細胞
個別の壁の
形成による
隔膜の完成
が受け取れるように、全
細胞分裂
ての細胞成分が増える。
複製されたDNA分子は,2
DNA
つの娘細胞間で分配されな
ければならない。DNAは分
裂中でも膜に付着したまま
で存在するため、隔膜形成
DNAの複製
細胞の伸長
隔膜の形成
時におのおのの娘細胞に分
配される。
個別の壁の
形成による
隔膜の完成
(比較,真核細胞の分裂)
細胞分裂
細菌の増殖サイクルが完了するまでの必要時間は多様で、
栄養的要因と遺伝的要因の両方の要因に依存している。
大腸菌はもっとも栄養が良い条件下では、約20分間で増
殖サイクルを完了させることができる。
1つの細胞から2つの細胞を形成するまでの間隔を世代と
呼び、これにかかる時間を世代時間という。従って、世代
時間は細胞の個体数が2倍になるために必要な時間である。
真核生物の世代時間を考える
次の世代を残すまでの時間ということになる
ヒトの場合は 22年間などという時間になる
真核微生物の場合も1日で2倍になる場合もある
大型真核生物は一般に世代時間が長い
ある培地で増殖させた微生物が試験管で増えている。
これを同じ培地を入れたフラスコに移植(植え継ぎという)
して培養を開始した。フラスコ内の細胞数と時間の関係
を、X軸に時間、Y軸に細胞数をとってグラフにしてみよう。
どんなグラフになるか?
細胞の個体数の典型的な増殖曲線
微生物の増殖(増殖曲線)
a
細
胞
数
b
c
d
時間
a Lag phase 遅延期(誘導期)
b Log phase (exponential phase) 対数期(対数増殖期)
c Stationary phase 定常期
d Mortality phase 死滅期
遅延期(誘導期)(lag phase) 微生物の個体数は、新鮮な培地に藩種されると通常すぐ
には増殖を開始せず、遅延期(Lag phase)あるいは誘導
期と呼ばれる期間の後で増殖を開始する。
対数的に増殖している状態で、同じ培養条件の同じ培地
に藩種された場合は、遅延が見られず、対数増殖がすぐ
に開始する。
ここ
細胞の修復、酵素等の整備、分裂に必要な物質の蓄積など
で増殖に備えるか、新しい培地に慣れるまでの時間
対数期(対数増殖期 log phase, exponential phase) 細胞が分裂して単位時間ごとに細胞数が2倍になる。時
間に対して、細胞数を対数目盛りでとると、このような
状態の細胞数は、右上がりの直線となる。
1個が2個、2個が4個、4個が8個、8個が16個、
16個が32個、32個が64個,64個が128個,
128個が256個,256個が512個,
512個が1024個、1024個が2048個、
2048個が4096個,4096個が8192個、
8192個が16384個、....
N = N0 2n
N :最終的な細胞数
N0 :最初の細胞数
n: 世代数
対数増殖中の細胞は、一般にもっとも健康な状態にある.その
ため、酵素などの細胞成分の研究に望ましい場合が多い.
20分の世代時間の細菌がいたとする。その細菌の1つの重さ
は、10-12グラムとすると、48時間後には、地球の4000倍
もの重さの個体群が形成されてしまう計算となる.
ちなみに、1km
キロメートル=1000
メートル
cm
センチメートル=10-2
メートル
mm
ミリメートル=10-3
メートル
∝m
マイクロメートル=10-6
メートル
nm
ナノメートル=10-9
メートル
pm
ピコメートル=10-12
メートル
fm
フェムトメートル=10-15
メートル
am
アトメートル=10-18
メートル
zm
ゼプトメートル=10-21
メートル
ym
ヨクトメートル=10-24
メートル
ここ
定常期 stationary phase
ここ
1)培養液内の重要な栄養素が枯渇する。
2)細胞の何らかの廃棄物が阻害レベルまで蓄積する。
どちらかか、両者で対数増殖は終了する。
細胞の正味の数に変動はない.個体群中のいくつかの細胞が
増殖する一方で、他の細胞は死ぬため、これらの2つのプロ
セスによって釣り合いが保たれる。
死滅期 mortality phase (death phase)
ここ
個体群が定常期に達した後も培養を続けると、細胞の死が、
増殖を上回り、場合によっては死に伴って、細胞が溶解する
こともある.
遅延期,対数増殖期,定常期,死滅期という語は、個々の細
胞ではなく、細胞の個体群に適用するものである.
増殖の測定
微生物の増殖は個体群の増殖と言え現存量の測定である。
現存量を測定するにはどんな方法があるだろうか?
微生物と限定しないで
生物の現存量を測定する方法について考えてみよう.
現存量を測定する。
現存量を特定するには全て数えるしかない。
そんなことは不可能な場合が多く、現実的でない。
ではどうするか?
何らかの方法で推定するしかない。
そして確からしい推定方法であることを言う必要がある。
増殖の測定
細胞総数の測定(推定)
個体群中の細胞数は,顕微鏡下でサンプル中の細胞を数え
ることにより測定することができる.これは直接的顕微鏡
計数法と呼ばれる.
液体の試料では、特殊な計算板を用いる.ガラス製のスラ
イドグラスの表面に、正確な面積の正方形の格子模様が作
られていて、カバーグラスとの間隔も正確に作られている.
つまり、この格子は正確な一定の体積を持つ.この格子中
の細胞数を数えて、体積あたりの細胞数を算出するという
もの。
バクテリアの場合、Petroff-Hausser 計算盤がよく使われる。
深さは 0.02mm
0.2 mm
0.05 mm
微細藻類の場合、小型の場合はバクテリアと同じ,やや大き
ければ血球計算版、もっと大きい場合は1mlのチャンバーな
どを使用して細胞を数える。
http://www.ilustrados.com/publicaciones/multimedia/hu-cre60.gif
深さは 0.02mm
0.05 mm
サンプル1mlあたりの細胞
数を計算してみよう。
43細胞見えている。
0.2mm x 0.2mm x 0.02mmの
体積中に43細胞ある.だ
から、1mlあたりにすると?
0.2 mm
5375万細胞
http://student.ccbcmd.edu/courses/bio141/labmanua/lab4/images/phcount.jpg
深さは 0.02mm
0.05 mm
サンプル1mlあたりの細胞
数を計算してみよう。
小さな格子で計算してみよう
0.05mm x 0.05mm x 0.02mmの体
積中に2 4細胞ある.だか
ら、1mlあたりにすると?
0.2 mm
6000万細胞
先ほどの値と比較すると差が大きいことが分かる
http://student.ccbcmd.edu/courses/bio141/labmanua/lab4/images/phcount.jpg
直接計数法のメリットとデメリット
メリット
1)細胞の状態を観察できる
デメリット
1)死細胞と生細胞の見分け
2)小さい細胞を見過ごす恐れ
3)正確さが困難
細胞にレーザーをあて,特定の細胞を識別する。藻類はクロロ
フィルの自家蛍光があるので識別しやすい。
短時間に細胞のサイズ、細胞数を計測し,蛍光のある細胞など
特定の細胞だけを集めることが可能。
セルソーター(フローサイトメーター)などという高級な機
器もある。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/sct/facs/basic.html
コロニー計数法、プレート計数法,平板培養法(colony
forming unit, CFU)
直接計数法では、生細胞と死細胞を両方数えてしまう
おそれがある.
試料の一定量を、シャーレ内で寒天培地とよく混合す
るか、表面に均一に塗布し、出現するコロニー数を数
える.
一つのコロニーは単一の細胞に由来すると考えられる
ので、試料の適当な稀釈率と出現コロニー数から、試
料中の生細胞の数を検出する方法である.
バクテリアやカビが寒天培地に出現している様子
一つ一つがコロニーである.
問題
全ての微生物を一度に増殖
させる培養液、培養条件は
ない。
だからある培養液ある条件
でのコロニー生成単位
(CFU)と表現される。
稀釈培養法(前述の方法と近いが、液体培地を用いる)
serial dilution method
あるいは、稀釈して、寒天平板で培養する稀釈平板法がよ
く用いられる。
濁度(optical density, OD) 微生物の増殖により培養液が濁っ
てくる。この濁りを分光高度計
(spectrophotometer)で測定する
方法。
http://filebox.vt.edu/users/chagedor/biol_4684/Methods/dilution.gif
濁度 absorbance 例えば600 nmで測定する場合 A600 と記述する。
培養液の濁り(細胞の増殖による)を分光光度計で測定する。
細胞数計測と濁度の関係のグラフ(検量線)を作っておけば
毎回細胞数を計測しなくても濁度の計測で細胞数が推定でき
る。
細胞数
濁度
乾燥重量
一定量の培養液(サンプル)をフィルターでこして、乾燥さ
せ、試料をこす前後で増加した重さから乾燥重量を算出する.
体積あたりの重量も出せるし、並行して細胞数を計数してお
けば、細胞あたりの重量とすることもできる.
クロロフィル量
藻類の場合、クロロフィルを必ず持っているので、ク
ロロフィル量を測定する方法もある.
一定量の培養液(サンプル)をフィルターでこして,
アセトンなどで抽出し,分光光度計でクロロフィル量
を定量する。
自然界の微生物は、実験室内のように最適な条件で増殖して
いるとは限らない.また、個別の微生物は個々に独立して生
育しているということはほとんどない.
大型の生物(植物、動物)や微生物同士,基質となる物質,
栄養塩類,酸素濃度などと様々に変化する生育環境(微環
境)から環境中の微生物を研究する分野が急速に発展してい
る.「微生物生態学」という。
微生物生態学の発達した理由のいくつかを紹介する。
微生物コンソーシアム microbial consortium (微生物共同体、微生物ギルドとでも呼べばよいか)
単一の微生物ではなく,複数が混在して共同・協調,影響
しあって存在している.
その存在様式を明らかにすること,相互作用を明らかにす
ること,多様性を明らかにすることが研究の基本的な目標
となっている.
例えば,ぬか漬けやコンポストの微生物,中身が分からな
くても利用されている.
集積培養(enrichment culture)
培地と一連の培養条件が目的の微生物に対して選択性があり,
目的外の微生物に対して,逆に選択性のないものが使われる.
例えば,窒素固定能力のあるシアノバクテリアを分離したい
と考える.
培養液から窒素分を除くか,わずかに存在する培養液を調整
し,自然サンプル(水,砂など)に加えて光照射条件におく,
増殖してきた藻類をさらに同じ培養液で培養していくと,こ
の条件にあった藻類(シアノバクテリア)のみが優先してく
る.(相当時間がかかるんだな)
分離 isolation
多くの場合、微生物を培養できないと様々な実験が行な
えない。(伝統的な方法)
分離方法にはいろいろある。先ほどの寒天平板に希釈し
てサンプルをまき,出現するコロニーを拾い上げる方法
希釈培養(希釈段階をいくつか作る)も用いられる。
微細藻類(原生生物でも)ではこれらの方法の他に,直
接顕微鏡下(倒立顕微鏡が便利)で1細胞ずつマイクロ
ピペット(先端を火炎で細く延ばしたガラスのピペッ
ト)で吸い上げるピペット洗浄法が用いられる。
染色技術を用いた生存能と定量化
DAPI
(4 ,
6-diamino-2-phenylindole)
染色
蛍光顕微鏡観察において、DAPIは紫外光(UV)によって励
起することができる。二本鎖DNAに結合したDAPIは、励起
光の波長
358nm
に吸収極大を持ち、放出される蛍光は
461nm
が極大である。DAPIの蛍光の波長域は広く色として
は青∼水色に見える。
DNAと強力に結合するため、非常に毒性が高く変異原
として作用する。DAPIを扱う作業は慎重に行うととも
に、使い捨て手袋の使用が推奨される。
DNAと結合して蛍光を発するので,DNAの存在が分かる.
クロロフィルには自家蛍光があり、紫外,近紫外、青色,
緑色などの蛍光で励起すると,赤色の蛍光を呈する.
だから,藻類かな?分かんないなーというときに,蛍光顕
微鏡で観察すると,藻類だったらクロロフィル蛍光で赤く
見えるわけ。
藻類の場合,クロロフィル以外にも,光合成のための補助
色素などがあり,特有の励起光により特有の蛍光を発する
場合も多い.
例えば,シアノバクテリアの一種であるSynechococcusのう
ち,フィコエリトリンを持つ赤色の種類は,海洋に非常に
多いのだが,このフィコエリトリンは青色蛍光により,黄
色に見える.だから、クロロフィルも持っているので,全
体としてはややオレンジ色になる.これに対して,フィコ
エリトリンを持っていない藻類は,クロロフィルの赤色に
見える.
フィルターに一定量の試料を載せて,DAPI染色する.
蛍光顕微鏡で観察すると,青白くDNAが光るので,カウン
トすると視野中の微生物の数が分かる.
クロロフィルの蛍光が強くでるG励起光(緑色)で同じ所を
観察すると藻類がいれば赤く見える.この数も数えれば,
試料中の藻類とバクテリアの数がでる.
計算してみよう.
藻類(プランクトン)の現存量の測定
・採水してきたサンプルをよく撹拌し,適当量(20ml)をメ
ンブレンフィルター(0.1 µmサイズ)でろ過する(ろ過量を a,
ろ過面積を S とする)
・DAPI溶液をフィルターにのせ,数分放置後ろ過する.
・蛍光顕微鏡で観察し,一視野全部のクロロフィルの赤い自家
蛍光の数をカウントする(カウント数
b )
・一視野の面積を
c とすると。
サンプルに入っていた藻類の数 (x) が分かる。どんな式?
ろ過量 a = 20 ml
カウント数 b 10回の平均値が 53.4 個
観察視野の直径 602 µm c の計算は?
ろ過したフィルターの直径 17 mmからろ過面積 Sを出す.
X=bS/ac だから1mlあたり 8516.8 細胞
藻類がいたことになる.
特定の生物の標的遺伝子配列に相補的なDNAかRNAオリゴ
ヌクレオチドを蛍光標識してやると,その標的遺伝子配列を
持つ生物を特定することも可能である.
FISH
fluorescense in situ hybridization
蛍光顕微鏡観察は藻類の現存量の測定のみならず,様々な
蛍光色素を組み合わせ,特定の物質をラベルしたり,遺伝
子をラベルすることで,細胞の中のどこで,どれくらい働
いているかを知ることも可能になってきている.
細胞が生きている状態で,どんなことが起こっているかを
調べる方法の開発が急速に進展している.
メタゲノム解析
地球上に棲息する細菌の99%以上は単独では培養できない
菌種であると推察されている。そのため、これらの菌種は従
来の方法ではゲノム解析ができない。このような難培養菌の
ゲノムを解析するために、単一菌種の分離や培養過程を経ず
に、微生物の集団から直接そのゲノムDNA(microbiome)を
調製し、そのヘテロな集団をそのままゲノムシークエンシン
グする手法が用いられており、このような手法をメタゲノム
(metagenome)解析といい、その研究分野をメタゲノミクス
(metagenomics)という。
http://hgp.gsc.riken.go.jp/index.php/Ja/Metagenomics
メタゲノム研究では、特異的な環境に生存する生物の多様性
を調べ、それらの生物間の共生関係における複合的な相互作
用の解析を行う。メタゲノムプロジェクトとして、これまで
に、ヒトの腸内細菌叢、海中の微生物群、海底の鯨骨細菌群、
農場土壌の細菌群、鉱山廃水中のバイオフィルム、シロアリ
の腸内細菌叢などを対象としたメタゲノム解析が報告されて
いる。
http://hgp.gsc.riken.go.jp/index.php/Ja/Metagenomics
生物を特定しないでDNAからいろいろやってしまおうという
もの。プランクトン叢についての研究もあり,新規微生物も
見つかっているが,応用の点ではまだまだ。
http://www-bird.jst.go.jp/kenkyu/souzou/h18shinki/h18shinki-02.html

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