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27 (2) 製造段階の波及効果 太陽光発電システムは、太陽電池メーカーを
(2) 製造段階の波及効果 太陽光発電システムは、太陽電池メーカーを核に多くの産業と係わりながら一つの産業 を確立しているため、太陽光発電の普及は多くの産業への波及効果が大きい。住宅用シス テムの普及が進み、太陽光発電システムを標準装備した住宅を販売するハウスメーカーも 増えてくるなど、産業の幅が広がっている。(図 2-17 参照) 図 2-17 太陽光発電システムに関わる産業 (出所) (株)資源総合システム (第 15 回新エネルギー部会配布資料「太陽光発電産業について」 2006 年 3 月) 本調査では、これらの波及効果を定量的かつ視覚的に表現するため、産業連関表を活用 している。表 2-10 のように、太陽光発電システムの本体および主要構成部品・材料を「中 間需要」欄の産業(列部門)の中に位置付け、投入係数の大きさで該当する産業部門(ま たは製品)へのインパクト強度を示す。太陽光発電システムの生産増加に伴って増減の影 響をプラス(+)とマイナス(−)で右側に表示し、寄与の大きい部門はセルの背景色を 濃淡(濃い方が大きなインパクト)で表現している。既存の産業部門については 2000(平 成 12)年度の実績値を使用しているが、新規に設定した太陽光発電システムに関連する部 門は、先述のコスト構造分析の結果を参考にして推計している。ただし、不明部分は空白 となっている。 太陽光発電システムは「電気機械」が主体となり、太陽電池は「その他の電気機器」の 「その他の電気機械器具」に含まれている。周辺機器は太陽光発電システムの一部として 「その他の電気機械器具」に含めているが、その主要部品は「重電機器」の「開閉制御装 置及び配電盤」、「その他の電気機器」の「配線器具」、「半導体素子・集積回路」の「半導 体素子」(インバータ)であるため、それらの実績値を示している。主要な素材は「非鉄金 属」に含まれ、太陽電池のシリコンや化合物半導体用の希少金属、およびモジュール化の 電極材料は「非鉄金属精錬・精製」 、モジュールのアルミ枠や電線ケーブルは「その他非鉄 金属製品」に該当する。 27 表 2-10 「太陽光発電システム」製造段階の産業インパクト(産業連関表の投入係数) (出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成 28 太陽光発電システムの製造段階では、太陽電池の材料となる「非鉄金属」、製造プロセス で必要な「化学製品」、薄膜系太陽電池の基板およびモジュールの保護板として使用される 「窯業・土石製品」の「ガラス・ガラス製品」、周辺機器や架台に使用される「鉄鋼」の「鋼 材」などの素材産業に大きなプラスの波及効果がある。また、周辺機器には「電気機械」 の様々な装置や部品が利用されているうえに、それぞれが「電気機械」の部品を多く利用 しているため、全体としても「電気機械」部門にプラスの波及効果が生じる。 素材・部品の加工にはエネルギーが必要であり、「電力・ガス・熱供給」および「鉱業」 の「原油・天然ガス」、 「石油・石炭製品」の「石油製品」から投入される。 製造時の中間投入には直接関係しないが、初期投資の製造設備として「一般機械」の「半 導体製造装置」は必需品であり、間接的ではあるが「一般機械」部門にもプラスの波及効 果が大きい。 (3) 流通段階の波及効果 住宅用システムの場合、各家庭に設置されるまでに様々なルートを経由する構造になっ ている(図 2-18)。太陽電池メーカーおよび販売子会社と地域の工務店、電気設備会社、 電器店、屋根施工会社などがネットワーク体制を構築し、全国各地で最終的な太陽光発電 システムの設置・施工が行われるようになっている。 図 2-18 住宅用太陽光発電システムの流通構造 (出所) (株)資源総合システム (第 15 回新エネルギー部会配布資料「太陽光発電産業について」 2006 年 3 月) 29 (4) 使用段階の波及効果 太陽光発電システムを使用する段階は、太陽光の下で自然に発電し続けるだけであるが、 点検や周辺機器の部品交換でのメンテナンスは必要となる。ただし、太陽光発電により生 じた電力を利用することにより、事業用または従来の自家用発電の電力が不要となる。 このような使用段階での産業へのインパクトも製造段階と同様に産業連関表を活用して 表現している(表 2-12)。 1) 発電に伴う影響 太陽光発電システムを使用することにより、所有者(個人または事業者)は系統電力か ら購入する電気料金を削減することができる。使用量を上回る余剰電力は電力会社に売却 することができるため、太陽光発電による電力はすべて利用されることになる。参考とし て、太陽光発電の発電量に相当する電気料金の試算例を表 2-11 に示す。 太陽光発電による電力が増加することにより、事業用・自家用の発電電力量は減少する。 表 2-12 に示すように、列部門の「電力」全体の生産額が減少することになるが、特に日中 のピーク対応で使用する化石燃料の使用量が減少すると考えられるので、 「鉱業」および「石 油・石炭製品」へのマイナスの波及効果が大きくなる。また、発電設備への投資も縮小す るため、間接的に「一般機械」や「建設」などにもマイナスの波及効果がある。 表 2-11 太陽光発電による発電電力量および電気料金相当額 注)発電容量の 2005 年は実績値、その他は経済産業省の予測値 レファレンス: 過去のトレンドから見て自然体で推移するケース(現状趨勢シナリオ) 技術進展: 省エネルギー・新エネルギー等が大きく進展し、ポテンシャルが最大限に発揮されるケース 発電電力量は設備利用率を 12%として試算し、住宅用を 8 割、産業・業務用を 2 割と想定 電気料金は、住宅用を 22 円/kWh、産業・業務用を 10 円/kWh として試算 (出所) 経済産業省「2030 年のエネルギー需給展望(2005 年 3 月)」をもとに日本エネルギー経済研究所作成 2) 修理・部品交換 周辺機器の部品が対象になると考えると、サービス産業の修理に関連する既存産業とし て、産業・業務用は「対事業所サービス」の「自動車・機械修理」のうちの「機械修理」、 住宅用は「対個人サービス」の「その他の対個人サービス」の「各修理産業」にプラスの 波及効果がある。 部品交換を行う場合には、「電気機械」の「重電機器」の「開閉制御装置及び配電盤」や 「その他の電気機器」の「配線器具」などにもプラスの波及効果がある。 30 表 2-12 「太陽光発電システム」使用段階の産業インパクト(産業連関表の投入係数) (出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成 31 (5) 技術の相乗効果 高度な薄膜製造技術、プロセス制御技術は共同研究、技術指導、委員会活動などを経て 直接、間接に企業に移転され、太陽光発電の高効率化、信頼性向上、低コスト化などに大 きく寄与した。特に、個別の企業では取り組むことが困難な基盤的研究(診断・評価技術、 機構解明、など)が、薄膜太陽電池開発に理論的裏付けを与え、研究分野の絞り込みを可 能にし、技術開発が加速できたことを指摘されている。 一方、シリコン薄膜製造技術や評価技術は、LCD や FED などの表示素子のような異分 野にまで波及し、想定外のアウトカムを生み出している。現在の日本の LCD、FED メー カーと太陽電池メーカーとが同一である場合が多いため、技術開発面での相乗効果がある。 32 3 「高効率自動車(ハイブリッド自動車)」の評価 高効率自動車とは、エンジン効率の向上、車体の軽量化などにより燃費を改善したもの を意味するが、ここでは最も普及が見込まれている「ハイブリッド自動車」に絞って評価 する。「ハイブリッド自動車」とは、2 種類以上の駆動装置を組み合わせて、両者の優れた 点を利用する車両である。一般には、電動機と組み合わせたハイブリッド電気自動車 (HEV:Hybrid Electric Vehicle)のことを意味する。 3.1 「ハイブリッド自動車」の要素技術 自動車用ハイブリッドシステムは、エンジンと電気モータのように 2 種類の動力源を組 み合わせ、それぞれが持つ長所を活かしつつ、不得意なところを補うことで高効率な走行 を可能にしている。モータを使用しているが、電気自動車のような外部からの充電は必要 ない。 ハイブリッドシステムの要素技術は、「モータ」、「パワーコントロールユニット(インバ ータ、コンバータ)」 、「蓄電池(バッテリ)」である。 モータ/コントローラや電池などは従来から電気自動車(EV)で使用されてきたが、HEV では間歇的に短時間だけ比較的大きな出力を制御するため、要求仕様は EV のものと異なる。 モータ/コントローラは小型化したうえで短時間の過負荷対応力が要求されるため、水冷 や油冷による温度制御が一般的である。また、ロス低減のためにエンジンルームに一体化 する傾向があるため、パワー素子の熱特性なども厳しい。 図 3-1 ハイブリッド自動車のシステム構成 ガソリンエンジン バッテリ 発電機 パワーコントロールユニット モータ ハイブリッド用トランスミッション (出所) トヨタ自動車(株) 資料 33 表 3-1 市販されている主要ハイブリッド車の仕様(2006 年) 燃費 消費率 10・15 (km/L) エンジン 種類 メーカー 車名 空車 重量 (kg) 軽 ダイハツ ハイゼット カーゴ 1,010 20.0 659 6 交流同期 小型 ホンダ インサイト 820 36.0 995 交流同期 ホンダ シビック 1,260 (1,280) 31.0 (17.0) 1,339 (1,789) 15 交流同期 プリウス 1,260 35.5 1,496 50 交流同期 ハリアー 1,930 (1,760) 17.8 (9.4) 3,310 (3,456) 123+50 交流同期 エスティマ 1,950 (1,830) 20.0 (12.4) 2,362 105+50 交流同期 アルファ ード 2,000 (1,960) 17.2 (8.6) 2,362 13+18 交流同期 普通 排気量 (cc) モータ (kW) トヨタ 電池 容量/ 種類 6.0Ah Ni-MH (30 個) 6.0Ah Ni-MH (20 個) 5.9Ah Ni-MH (11 個) 6.5Ah Ni-MH (28 個) 6.5Ah Ni-MH (30 個) 6.5Ah Ni-MH (21 個) 6.5Ah Ni-MH (30 個) 車両 本体 価格 (万円) 211 (+100) 210 212∼ (+33) 216∼ 390∼ (+62) 346∼ (+72) 366∼ (+72) 注 1) 空車重量、燃料消費率、エンジン排気量の下段( )内は、ハイブリッドの比較対照となるガソリン車の値 注 2) 車両本体価格は消費税抜の値で、( )内はハイブリッドの比較対照となるガソリン車との差額 注 3) Ni-MH:ニッケル水素電池 (出所) 各社ホームページ資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成 (1) モータ モータは、回転子、軸、軸受、固定子などを鉄鋼、非鉄金属、高分子などの各種材料で 高精度に加工し、組み立てたものである。 自動車用のモータは高速回転までトルクの落ち込みが少ない独自の特性が必要であるた め、産業用のモータとは異なり、流用することができない。したがって、モータ専門メー カーではなく、自動車会社が自社で開発して製造する場合が多い。 現在の主流は、永久磁石を用いた交流同期モータ(PM モータ:Permanent Magnet Motor)である。電気白動車で培われたモータ技術を礎に、量産性と低コスト化を進めた結 果、プリウスやエステイマ HV などの量産ハイブリッド白動車に用いられている。現在、 最も高い性能を有する永久磁石は希土類磁石、特にネオジウム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系焼 結磁石であり、この磁石は我国で開発され、現在高性能機器または小型機器向けのモータ 用等々として広く用いられている。 モータは薄い電磁鋼板を多く積み重ねて作られている。この一枚が薄いほど効率が良く なるため、薄く打ち砕く金型技術も重要な要素となる。 34 (2) パワーコントロールユニット 電気モータの制御にはインバータが搭載され、スイッチング素子として IGBT (Insu1ated Gate Bipo1ar Transistor)モジュールが使用されている。ハイブリッド自動車の場合、雰 囲気温度が高いエンジンルームに置かれ、過酷な条件下で使用されるため、一般産業用と は異なる高信頼性および高品質が要求されている。 ハイブリッド車のインバータ回路には、トランジスタにシリコン(Si)材料を使う IGBT を載せている。この IGBT は現在、最大 175℃で動作させることを想定しているが、この温 度ではリーク電流が大きいため、シリコンカーバイト(SiC)や窒化珪素(Si3N4)などの 新材料の開発が進められている。 SiC には、Si と比べ絶縁性能を表す絶縁破壊電界強度が約 10 倍の大きな値であるなどの 特長がある。SiC を用いることで、より高耐圧で低損失な半導体素子を実現できることから、 インバーターなどパワーエレクトロニクス機器のさらなる省エネ化・高性能化・ 小型化に 貢献するものと期待されている。Si3N4 は放熱性に優れ、かつ高強度・高靭性の特性を持つ セラミックスであり、今後高温・高パワー密度化が進むハイブリッド自動車用パワーモジ ュールの回路基板として期待されている。新材料は性能は良いが、シリコンに比べて製造 コストが高くなるという欠点がある。 図 3-2 IGBT を用いたインバータモジュールの外観 (出所) (株)豊田中央研究所 資料 (3) 蓄電池(二次電池) 現時点でハイブリッド自動車用の主流はニッケル水素電池であるが、2010 年頃にはリチ ウムイオン電池に代替されると予想されている。コストダウンと信頼性確保が実現できれ ば、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池が普及する可能性が高い。 ハイブリッド自動車用のエネルギー蓄積要素は、高レートでの繰り返し充放電での高効 率が必須条件で、電気自動車用とは大幅に異なり、(イ)出力密度が高いこと、(ロ)急速充電 受け入れ性が高いこと、に加えて、(ハ)高サイクル寿命、(ニ)高充放電効率、(ホ)セル間ア ンバランス発生が少ないことが要求される。 35 表 3-2 ニッケル水素電池およびリチウムイオン電池の要素技術 (出所)日本機械工業連合会「ニッケル水素化物二次電池リサイクルシステム構築に関する調査報告書」(1996 年) 図 3-3 ニッケル水素電池(左)およびリチウムイオン電池(右)の基本構造 (出所) (社)日本電池工業会 1) ニッケル水素電池 ニッケル水素電池は、正極にニッケル酸化物、負極に水素吸蔵合金、電解液に水酸化カ リウム水溶液を使用している。電極集電体として、負極にはパンチングメタルのような二 次元の金属基材が用いられているのに対して、正極には、正極活物質が電気伝導性の点で 劣るために、三次元構造のニッケル発泡状基材が使われている。また、一部には焼結式正 極も採用されている。この三次元ニッケル発泡状基材は、電極作成工程が簡単で、高容量 の点で優れていて、ニッケル水素電池用基材の主流になっている。しかし、使用するニッ ケル量、工程の数などの観点から、発泡状ニッケル基材の低コスト化には限界があり、飛 躍的なコストダウンは期待できない。すでに、発泡状ニッケル基材に代わる集電体として、 パンチングメタルのような二次元基材に凹凸を持たせた擬似三次元基材が研究されている が、高容量の確保が困難で実用化の段階に達していない。 1990 年の実用化以降、それまでの代表的な小型二次電池であったニッケル・カドミウム 蓄電池(ニッカド電池)の 1.5∼3.5 倍の電気容量を持ち、電圧は同じ 1.2V で互換性がある うえに、材料にカドミウムを含まず環境への影響が少ないため、代替が進んでいる。 36 2) リチウムイオン電池 リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、電圧が 3.6∼3.7V であり乾電池等と電 圧が異なるため互換性はないが、携帯機器等の分野で広く使用されている充電式電池であ る。負極に炭素材料、正極にリチウム金属酸化物(コバルト酸リチウムなど)、電解質にリ チウムイオンを含む材料(炭酸エチレンや炭酸ジエチルなどの有機溶媒と六フッ化リン酸 リチウムなど)を用い、充放電によりリチウムイオンが正極と負極の間を移動する。 リチウムイオン電池の特徴は小型、軽量、高電圧、メモリー効果なしという点であり、 ノートパソコンや携帯電話等の民生用携帯機器が主流であった。しかし、1995 年以降の約 10 年間で性能が 2 倍、価格(容量単価)が半分以下になるなど技術進歩が著しく、ハイブ リッド自動車への応用も進んでいる。 正極電極は、アルミニウム箔の両面にコバルト酸リチウムなどの活物質を溶剤で溶いて 塗布後、乾燥・プレスして密度を上げ製作する。負極電極も銅箔に正極同様炭素材料など を溶媒で溶いて塗布後、乾燥・プレスして密度を上げ製作する。電極箔の製造流れ方向に 対して電極材料は連続塗布ではなく未塗布部と塗布部を交互に繰り返す間欠塗布となって いる。この後電極は製作する電池サイズに合わせて裁断(スリット)され、さらに未塗布 部で短冊状にカットされる。未塗布部には電気を出し入れする接続端子(タブ)を溶接す る。正極にはアルミタブ、負極にはニッケルタブが用いられる。負極と正極の間にはイオ ンが移動できる多孔質の絶縁フィルムを入れて円筒形の場合はバームクーヘンの様な円筒 状に、角型の場合は扁平形状に巻取りを行う。巻き取り後、円筒形の場合、ニッケルメッ キされた鉄製の円筒缶に入れ負極タブを缶底に溶接、電解液を注入後、蓋(トップキャッ プ)を正極タブに溶接し封口する。アルミ外装缶の角型電池の場合は円筒型の場合と逆に 缶と正極タブが溶接される。円筒形の場合、プレス機で食品缶詰缶の様に封口するが、角 型の場合レーザー溶接で封口する。電池組み立て完成後、活性化工程で充電することによ り電池を活性化させ、充電・放電・室温放置エージング・高温放置エージング等を何度か 繰り返し、電池選別のスクリーニングを行って完成品となる。 (4) その他 減速・制動時にモータを発電機として作動させ、走行する車両の運動エネルギーを電気 エネルギーに変換し、バッテリに回収する回生ブレーキシステムを採用している。また、 ECB(電子制御ブレーキシステム)との組み合わせにより、一段と効率のよい回生を実現 している。 37