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AZM 0.5g - 高松赤十字病院
平成27年10月26日 救急ランチョンセミナー 肝不全と重症感染症 研修医 三野 智 救急部での3ヶ月 ICU入院を要した受け持ち患者 疾患 基礎疾患 転機 60代男性 敗血症性ショック アルコール性肝硬変 死亡 50代男性 呼吸不全・肺炎 筋ジストロフィー 一般病棟へ 50代男性 敗血症性ショック 脾摘後、透析中 死亡 40代男性 敗血症性ショック 器質性精神病 入院中(退室予定) 患者 60代 男性 主訴:全身の疼痛(意識障害、胸痛、腹痛、便失禁で救急搬送) 現病歴: 来院3日前は会社で普通に仕事をしていた。 来院2 日前は会社が休みであった。 来院1日前 帰省する予定であったが、娘からの連絡はつかなかった。 来院日当日 8:30頃、会社の寮の自室のベッドの下で、便失禁し倒れているところを会 社の同僚が発見し救急要請され当院ERに搬送された。 飲酒:同僚によるとよく飲む(数量までは不 明)。 を経営していたことがあり店の酒をよく飲んでいた。 喫煙歴/アレルギー/家族歴: っk 過去に酒屋 意思疎通困難であり、不明。 既往歴:(家族より聴取) 10年以上前からアルコール性肝障害を指摘されるも、放置していた。 2 年前 静脈瘤破裂でH県の病院に緊急入院したことがある。 入院時現症 体型 身長:168cm 体重:59.4kg BMI:21 BT:38.4℃ BP:136/68 mmHg HR:不整 140bpm SpO2:90%(RoomAir) 意識 JCSⅡ-10 (呼びかけには「痛い」のみ応える) 頭頚部 眼瞼結膜:充血(+) 眼球結膜:黄染(+) 胸部 心音:不整、頻脈 呼吸音:清、ラ音なし 咳(-) 痰(-) 疼痛(++) 腹部 やや膨満、軟 手術痕なし 腸蠕動音不良 血管雑音(-) 腹水(+) 腹部全体に圧痛(+) 反跳痛(+) 筋性防御(+) tapping pain(+) 四肢 末梢冷感(±)、末梢動脈触知良好、浮腫(-)下肢に紫斑や褥瘡(+) 下肢全体に糞尿が付着、両肩に疼痛(++) 診察中に排便あり:緑色水様便 入院時検査所見(L/D) 血液検査 WBC RBC Hb Ht Plt 6510/μl 287×104/ml 11.4 g/dl 32.3 % 7.0 ×104/ml 凝固能検査 PT活性 27% PT-INR 1.91 APTT 49.8 sec ヘパプラスチン 29% 動脈血液ガス検査 pH 7.524 pCO2 27.1mmHg pO2 87.4mmHg HCO3 24.7mmol/L 生化学検査 TP ALB T.Bil AST ALT ALP γ-GTP ChE LDH CK S-AMY BUN Cre eGFR 6.2 g/dl 2.6 g/dl 6.4 mg/dl 911 U/l 149U/l 311 IU/l 364IU/l 121IU/l 1079IU/l 2742IU/l 31 IU/l 29.6mg/dl 1.15mg/dl 49.6 BS NH3 Na K Cl Ca CRP PCT 乳酸 40 mg/dl 119 µg/dl 140 mEq/l 2.4 mEq/l 102 mEq/l 7.4 mg/dl 17.96 mg/dl 20.39 ng/ml 50.9 mg/dl ウイルス検査 HBs-Ag (-) HBc-Ab (+) HBs-Ab (+) HBV-DNA 未検出 HCV-Ab (-) 入院時CT 腹水 肝硬変 入院時CT 側副血行路 入院時CT 小腸壁肥厚 側副血行路 SIRS 感染症 4項目のうち2項目以上が該当する場合SIRSと診断 1. 体温>38℃または<36℃ 2. 心拍数>90回/分 3. 呼吸数>20回/分またはPaCO2<32Torr 4. 白血球>12000/μLまたは<4000/μL 敗血症 (ACCP/SCCMによる定義) 遅くとも30分以内に血液培養を採取 遅くとも1時間以内にエンピリカルな治療を開始 遅くとも3時間以内に乳酸値測定 → 低BP/高乳酸で晶質液30mL/kg投与 Dellnger RP et al : Surviving sepsis campaign : 2012.;Crit Care Med 2013 ;41:580-637 (復習)敗血症診療の基本原則 3つの項目を意識する エンピリカルな抗菌薬治療 支持療法:輸液蘇生+ノルアドレナリン持続静注 感染源コントロール 30分 血液培養 採取 1時間 抗菌薬 治療開始 3時間 低血圧または、 乳酸値上昇で 輸液負荷 6時間 輸液でも血圧上昇 不良であれば、 NAd持続静注開始 12時間 必要な感染源 コントロール 前回川北Dr.スライド(改) 今症例で救急外来で行った事 到着と同時に血液検査(動脈ガス含む)、輸液開始、CT検査 10分 30分 デキスタで55と低値 ブドウ糖50% 40mL投与 血液検査で肝不全+敗血症と診断 血液培養採取、アミノレバン開始、メロペネム投与、輸液追加 その後呼吸状態悪化、下顎呼吸になり酸素投与量増加 90分 到着90分後の動脈ガス分析にて呼吸性アシドーシス進行 家族に同意をとり、ICUで挿管/血圧管理開始決定 入院後経過 第1病日 重症アルコール性肝炎、敗血症にてMEPM(メロペネム)投与開始しICUに入 院となった。挿管し人工呼吸器管理開始した。 小〜中分子量(アンモニアなど)の昏睡起因物質除去目的にCHDF開始した。 第2病日 血圧低下し敗血症性ショック状態に。ノルアドレナリン開始。 血小板著明に減少し(7万→2.7万)DICの状態となった。 ヘパプラスチン高度低下(29%→19%)を認め、昏睡起因物質除去/凝固因子 などを補充目的に血漿交換(FFP38単位)行った。その後血圧は上昇した。 第4病日 第一病日に採取した血液培養結果にてAeromonas.spp(1+)判明。 薬剤感受性試験結果良好であったため、抗菌薬をSBT/CPZ(セフォン®)に deescalationした。2回目の血漿交換(FFP38単位)行った。 第7病日 炎症の増悪認め、抗菌薬はMEPM(メロペネム ) に戻した。 第9病日 3回目の血漿交換(FFP38単位)行った。 尿量増加してきたため、CHDFは一旦回収とした。 第10病日 白血球の増加が続いた。血液培養の結果は出ていなかったが、 カルバペネム系抗菌薬やセフェム系抗菌薬に無効な細菌の感染症と考え、 抗菌薬をAZM(ジスロマック®)+TAZ/PIPC(ゾシン®)に変更した。 第12病日 CRP・白血球再上昇、再度敗血症性ショック状態に。 第7病日の血液培養結果判明し、二カ所ともに陰性が判明した。 これまでの抗菌薬ではカバーのできていなかった、MRSAや腸球菌による 感染症と考え、TAZ/PIPC(ゾシン®)を中止し、LZD(ザイボックス®)に変更。 第13病日 4回目の血漿交換(FFP38単位)行った。 敗血症性ショック、DIC、ARDS、多臓器不全状態となり、全身 状態不良になった。CHDF再開した。 第14病日 全身状態悪化し、アシドーシス進行。 第12病日に採取した血液培養結果にてAeromonas.spp(1+) 判明。グラム陰性桿菌によるエンドトキシンショックを疑い、 エンドトキシン吸着療法施行。 第15病日 末梢循環不全、アシドーシス進行。凝固系数値も一気に悪化。 呼吸状態はさらに悪化した。敗血症性ショック、DIC、ARDSの コントロール極めて不良であり、カテコラミン管理下でも血圧保 てなくなった。ご家族に説明後、心停止後の心肺蘇生は行わない 方針とし、ご家族に見守られ永眠された。 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g MEPM 2g TAZ/PIPC TAZ/PIPC 9g 9g LZD LZD 1.2g 1.2g 20 30000 25000 15 20000 10 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g MEPM 2g TAZ/PIPC 9g LZD 1.2g 20 30000 25000 来院時血液培養結果 20000 (第4病日判明) 全てS CRP 15000 15 10 WBC 10000 5 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g MEPM 2g TAZ/PIPC 9g LZD 1.2g 20 30000 25000 15 20000 10 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g 20 MEPM 2g TAZ/PIPC TAZ/PIPC 9g 9g LZD 1.2g 30000 第6病日血液培養検査結果 (第13病日判明) 15 25000 20000 10 2カ所ともに検出されず 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g MEPM 2g TAZ/PIPC TAZ/PIPC 9g 9g LZD LZD 1.2g 1.2g 20 30000 25000 15 20000 10 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ MEPM MEPM 2g 2g 2g 第12病日 血液培養結果 (第14病日判明) 20 15 TAZ/PIPC TAZ/PIPC 9g 9g LZD LZD 1.2g 1.2g 30000 25000 20000 ゾシン メロペネム イミペネム/CS に耐性 10 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② AZM S 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 抗菌薬の経緯 AZM 0.5g SBT/CPZ 2g MEPM 2g MEPM 2g TAZ/PIPC TAZ/PIPC 9g 9g LZD LZD 1.2g 1.2g 20 30000 25000 15 20000 10 5 15000 CRP 10000 WBC 5000 0 0 1 2 血液培養提出① 3 4 5 感受性判明① 6 7 8 血液培養提出② 当院採用薬剤商品名 MEPM=メロペネム SBT/CPZ=セフォン 9 10 11 12 13 14 15 提出③判明②判明③ 血液培養提出 感受性判明 TAZ/PIPC=ゾシン AZM=ジスロマック LZD=ザイボックス 疑問点 ①肝不全?そもそもの原因は? ②感染経路は?腹水について ③Aeromonasとは?当院でのデータは? ④来院時のL/Dで低血糖、低Kの原因は? ⑤救急初期対応で気をつける事は? 疑問点① 肝不全?そもそもの原因は? 大まかな病態 アルコール性肝障害 高アンモニア血症 意識障害 免疫力の低下 腹水(特発性細菌性腹膜炎) 凝固因子低下 Plt低下 老廃物の取り込み・分解障害 肝硬変 敗血症(高サイトカイン血症) 敗血症性ショック DIC 末梢循環不全の進行 ARDS 肝硬変 あらゆる慢性進行性肝疾患の終末像 肝細胞癌/消化管出血/肝不全(感染含)が予後を左右する Child-Pugh分類 肝硬変の原因 脳症 腹水 Bil Alb PT 1 なし なし 軽度 3.5~ ~4秒 / 80%~ 2 Ⅰ度Ⅱ度 軽度 2~3 3~3,5 4.1~6秒/ 50~80% 6.1秒~ / ~50% ~50% ~3 3 Ⅲ度Ⅳ度 中〜高度 Child A:5-6点 3~ Child B:7-9点 Child C:10-15点 アルコー ル その他 10% 10% HBV 15% HCV 65% 非代償性肝硬変患者の予後 腹水発現後の2年生存率は50%未満 重症アルコール性肝炎 (SAH:severe alcoholic hepatitis) アルコール性肝炎の中で、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、 消化管出血などの合併や、エンドトキシン血症などを伴い、 禁酒しても肝腫大は持続し、多くは1ヶ月以内に死亡するもの をさす。 早期発見/早期治療が重要であり、血漿交換・血液(濾過) 透析、ステロイドなどの治療介入が必要。 Japan Alcoholic Hepatitis Score(JAS) WBC Cre PT-INR T-Bil DIC Age 1 ~1万 ~1.5 ~1.8 ~5 - ~50 2 1万~2万 1.5~3 1.8~2 5~10 + 50~ 3 2万~ 3~ 2~ 10~ ~7=MILD 、8~9=MODERATE、10~SEVER JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版) 重症アルコール性肝炎 (SAH:severe alcoholic hepatitis) アルコール性肝炎の中で、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、 消化管出血などの合併や、エンドトキシン血症などを伴い、 禁酒しても肝腫大は持続し、多くは1ヶ月以内に死亡するもの をさす。 早期発見/早期治療が重要であり、血漿交換・血液(濾過) 透析、ステロイドなどの治療介入が必要。 Japan Alcoholic Hepatitis Score(JAS) 第1病日 WBC Cre PT-INR T-Bil DIC Age 1 ~1万 ~1.5 ~1.8 ~5 - ~50 2 1万~2万 1.5~3 1.8~2 5~10 + 50~ 3 2万~ 3~ 2~ 10~ ~7=MILD 、8~9=MODERATE、10~SEVER JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版) 重症アルコール性肝炎 (SAH:severe alcoholic hepatitis) アルコール性肝炎の中で、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、 消化管出血などの合併や、エンドトキシン血症などを伴い、 禁酒しても肝腫大は持続し、多くは1ヶ月以内に死亡するもの をさす。 早期発見/早期治療が重要であり、血漿交換・血液(濾過) 透析、ステロイドなどの治療介入が必要。 Japan Alcoholic Hepatitis Score(JAS) 第2病日 WBC Cre PT-INR T-Bil DIC Age 1 ~1万 ~1.5 ~1.8 ~5 - ~50 2 1万~2万 1.5~3 1.8~2 5~10 + 50~ 3 2万~ 3~ 2~ 10~ ~7=MILD 、8~9=MODERATE、10~SEVER JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版) 腹水 臨床的には肝硬変が多いが、静水圧を上げる収縮性心外膜炎 や下大静脈閉塞、他の低Alb血症などを鑑別する必要あり。 感染(化膿性・結核性)・癌性腹膜炎・膠原病の三大炎症疾 患は見逃してはならない。 消化管穿孔による細菌性腹膜炎や、急性膵炎、絞扼性イレウ スなど急性腹症を呈する疾患では危険なサインである。 腹水の原因疾患(n=901) 3% 5% 2% 肝硬変(SBP含) 7% 門脈圧亢進疾患 心不全 癌性腹膜炎 83% その他 Ann Intern Med.1992 Aug 1;117(3):215-20 肝硬変腹水の診断 血清Alb濃度と腹水Alb濃度の差(アルブミン格差比:SAAG)を 計算し、1.1g/dLであれば 肝硬変腹水などの漏出性と判断す る。 診断精度92% J Gastroenterol Hepatol 1995;10: 295-299 特発性細菌性腹膜炎 (SBP) 腹水患者でしばしば見られる重症の合併症で、腹腔内に感染 源を認めないのにもかかわらず、感染腹水を呈する病態。 腸内細菌叢が小腸壁を透過し、腸管 SBPの起因菌(n=394) リンパ節を経て、血液や腹水に到達 ブドウ球菌, すると考えられている 4% (bacterial translocation) 肺炎球菌, 9% 30% クレブシエ ラ, 13% Sherlock.S(1993) Diseases of the Liver and Biliary System.8th.Ed,Blackwell,Oxford 持田智、林茂樹 (1987)Conn症候群.消化器.7:64 桿菌, 11% 7% 大腸菌, 腹水を伴う非代償肝硬変患者の8-10% にSBPが合併する。 ウ イルスが原因の肝硬変では約6% 連鎖球菌, アルコールが原因の肝硬変では約18% 20% その他陰性 それ以外, 腸内細菌, 2% Aeromonas , 4% Koen J Hepatol.2007 sep;13(3):370-7 特発性細菌性腹膜炎 (SBP)の兆候 腹水を伴う肝硬変患者において発熱や腹部症状を訴えた場合 はSBPを疑うが、高熱や激しい腹部症状を伴う事は少ない。 新しい腹水や、原因不明の腹水増加、肝機能障害や腎機能障 害の進行、消化管出血の合併や既往があれば、特にSBPを強く 疑う。 感度 BT>38℃1 BT<38℃ 消化管出血 sBP<90mmHg 意識障害 35(15-61) 18(5-44) 18(5-44) 6(0-31) 12(2-38) 重度腹痛 HR>100bpm 嘔気嘔吐 41(5-44) 56(31-79) 29(11-56) 腹痛 感度 軽度腹痛 94(69-100) 53(29-76) Ann Emerg Med.2008 Sep;52(3):268-73 特発性細菌性腹膜炎 (SBP):診断 凝固障害が軽度であれば、臨床的にSBPが疑われた場合は腹腔 穿刺を行う。培養は血液培養瓶を用いる。 培養が陰性でも腹水中の好中球数(250/m㎥)でSBPの診断とな る。 ※石井隆、井廻道夫(1996)肝硬変の病態診断と予後.Medical Practice.13:1407 SBPでは75%(※)が菌血症が見られるため血液培養も必須。 消化管穿孔に伴う続発性腹膜炎は治療方針・予後が全く異なる Ann Surg.1984 Jun;199(6):648-55 ため、SBPとの鑑別が重要。 腹水中の好中球数(250/m㎥)+外科的感染のないものは、SBPと 診断し、ただちに抗菌薬治療を開始する。 Gastroenterology.1990 Jan;98(1):127-33 Moore KP,Aithal GP.Guidelines on the management of ascites in cirrhosis.Gut 2006 ;55(Suppl 6):vil-vil2 1 医師国家試験 102D41 54歳の男性。腹痛と発熱とを主訴に来院した。1週前から体重の増加 と腹部膨満とを認める。5年前から肝硬変で経過観察中である。眼球 結膜に黄染を認める。腹部に波動を認め,腹部全体に軽度の圧痛を 認める。腹水所見:淡黄色,比重1.012,蛋白 2.1g/dl,アミラーゼ 300IU/l,白血球 950/μl(好中球多数)。腹部エックス線単純写真立 位像で異常を認めない。 最も考えられるのはどれか。 a 十二指腸潰瘍穿孔 b 急性膵炎 c 特発性細菌性腹膜炎 d 結核性腹膜炎 e 癌性腹膜炎 医師国家試験 102D41 54歳の男性。腹痛と発熱とを主訴に来院した。1週前から体重の増加 と腹部膨満とを認める。5年前から肝硬変で経過観察中である。眼球 結膜に黄染を認める。腹部に波動を認め,腹部全体に軽度の圧痛を 認める。腹水所見:淡黄色,比重1.012,蛋白 2.1g/dl,アミラーゼ 300IU/l,白血球 950/μl(好中球多数)。腹部エックス線単純写真立 位像で異常を認めない。 最も考えられるのはどれか。 a 十二指腸潰瘍穿孔 b 急性膵炎 c 特発性細菌性腹膜炎 d 結核性腹膜炎 e 癌性腹膜炎 疑問点② 感染経路は? ①腸管から ②SBPから 疑問点③ Aeromonasとは?当院でのデータは? Aeromonas(エロモナス) Aeromonas spp は河川や土壌など自然界に広く存在する グラム陰性通性嫌気性桿菌。 1980 年代に急性胃腸炎や下痢症などの腸管疾患の起炎菌とし て認識された。12時間潜伏後に下痢や腹痛を引き起こす。 高齢者や免疫不全患者での感染が重症化し、腸管外感染を引 き起こす。ヒト免疫抑制機構をもっており免疫不全患者が腸 管外感染を起こすと重篤化しやすい。 ※1橘良哉など(2003)B型肝硬変に合併したAeromonas hydrophila敗血症の1剖検例 日消誌;100:1111-1116 ※1 肝硬変とAeromonas 臨床的に重要なものは3菌種であり, もっとも重要なものが Aeromonas hydrophila で、免疫不全者においては菌血症や壊死 性軟部組織感染症や起こす。肝硬変患者では非常に予後が悪い。 ※1橘良哉など(2003)B型肝硬変に合併したAeromonas hydrophila敗血症の1剖検例 日消誌;100:1111-1116 過去に報告されているAeromonas(hydrophila)感染症におけ る肝硬変患者の割合は、14-58%といずれも高値である。 DeFronzoら(48%)坂本ら(14%)Duthieら(48%)田端ら(58%) 壊死性軟部組織感染症は、早期に敗血症性ショッ クに陥り、局所のデブリドマン、患肢の切断、 集学的治療を行っても救命率は低い。 壊死性軟部組織感染症の起炎菌には Aeromonas spp のほか にVibrio vulnificus も知られるが,肝硬変患者 での予後は Aeromonas spp の方が極めて悪いとの報告がある。J.J.A. Inf. D. 83:673〜678, 2009 Aeromonasの感染経路 肝硬変患者では、魚や貝の生食や、傷口から感染し重症化す るため、生食を控える・海や河に行かない、等の予防も必要 となる。 ミドリガメなどのペット、温泉、汚染された都市部の水回り や、熱帯/亜熱帯への渡航での感染が報告されている。 当院でのAeromonas検出(07’-15’) 患者 主訴 基礎疾患 耐性 60代男 発熱 アルコール性肝硬変 MEPM,IPM,TAZ/PIPC 70代男 発熱 胆嚢癌肝転移化学療法中 - 60代男 発熱 脳梗塞後 - 50代男 発熱 横紋筋肉腫 - 60代男 胆嚢炎/DIC 胃癌化学療法中 - 80代男 発熱 非代償期肝硬変 ABPC/SBT , CEZ 80代男 発熱 肺小細胞癌化学療法中 - 60代女 発熱/腹痛 膵癌化学療法中 ABPC/SBT 70代男 発熱/下痢 胆管癌肝転移化学療法中 - 80代女 敗血症 糖尿病 CEZ 60代男 発熱 非代償期肝硬変 TAZ/PIPC 70代女 腹水多量 穿孔性腹膜炎 ABPC/SBT 当院でのAeromonas検出(07’-15’) 患者 主訴 基礎疾患 耐性 60代男 発熱 アルコール性肝硬変 MEPM,IPM,TAZ/PIPC 70代男 発熱 胆嚢癌肝転移化学療法中 - 60代男 発熱 脳梗塞後 - 50代男 発熱 横紋筋肉腫 - 60代男 胆嚢炎/DIC 胃癌化学療法中 - 80代男 発熱 非代償期肝硬変 ABPC/SBT , CEZ 80代男 発熱 肺小細胞癌化学療法中 - 60代女 発熱/腹痛 膵癌化学療法中 ABPC/SBT 70代男 発熱/下痢 胆管癌肝転移化学療法中 - 80代女 敗血症 糖尿病 CEZ 60代男 発熱 非代償期肝硬変 TAZ/PIPC 70代女 腹水多量 穿孔性腹膜炎 ABPC/SBT 当院でのAeromonas 2007年〜2015年現在までで、12件検出(血液11件、腹水1件) 半数の症例では抗菌薬に耐性をもっておらず、使用した薬剤の 感受性は良好であった。 耐性をもっていたものとして ABPC/SBT (2) TAZ/PIPC(2) CEZ(2)MEPM(1) IPM/CS(1) 主訴で一番多かったものは、発熱(75%) 非代償期肝硬変は今症例を含め3例 (25%) 背景として一番多かったものは抗癌化学療法中で5例(42%) 当院採用薬剤商品名 ABPC/SBT=ピシリバクタ TAZ/PIPC=ゾシン CEZ=セファゾリン MEPM=メロペネム IPM/CS=イミペネムシラスタチン 薬剤感受性・耐性について 松山赤十字病院での12年間の腸管外Aeromonas 薬剤感受性(57株) ※松山赤十字医誌 第35巻 ;1号 :43-48 疑問点④ 低血糖、低K血症の原因 低血糖、低K血症の原因 敗血症 (G陰性桿菌) 膵臓 高インスリン血症 インスリン アルコール/低栄養 浮腫・腎血流低下 肝硬変 高アルドステロン血症 腎臓 R-A-A系亢進 低血糖のABCDEF A B C D E F 低血糖のABCDEF A Alcohol アルコール中毒・VitB1欠乏 B Bacteria 感染症(敗血症) C Child 小児 D Drug 薬剤(血糖降下薬、インスリン) E Endocrine 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全、 インスリノーマなど) F FastingFailure 低栄養、絶食、肝不全、腎不全 低血糖のABCDEF A Alcohol アルコール中毒・VitB1欠乏 B Bacteria 感染症(敗血症) C Child 小児 D Drug 薬剤(血糖降下薬、インスリン) E Endocrine 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全、 インスリノーマなど) F FastingFailure 低栄養、絶食、肝不全、腎不全 低血糖の原因 (217例の検討) 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 不 明 糖 尿 病 ア 治療 ル コ 薬 ー ル 性 反 肝 応 不 性 全 イ 低血 ン AC スリ 糖 TH ノ ー 単 独 マ 欠 損 副 症 腎 多 不 吸 臓 全 収 器 不 不 先 良 全 天 症 性 候 代 群 謝 異 常 0 糖尿病治療薬 アルコール性 肝不全 反応性低血糖 インスリノーマ ACTH単独欠損症 副腎不全 多臓器不全 吸収不良症候群 先天性代謝異常 不明 川谷恭典,他:糖尿病、42(Supp11),1999. Take-home message for 研修医 低血糖のABCDEFと対応 SBPという病気・検査方法 肝硬変患者がやってはならないこと Aeromonasのおそろしさ 低血糖のABCDEF A Alcohol アルコール中毒・VitB1欠乏 B Bacteria 感染症(敗血症) C Child 小児 D Drug 薬剤(血糖降下薬、インスリン) E Endocrine 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全、 インスリノーマなど) F FastingFailure 低栄養、絶食、肝不全、腎不全 低血糖 : 研修医はどうする? とりあえず、 2本静注 30分後に血糖再検 くりかえす 原因の追及→原疾患の治療へ 場所は? 腹水+発熱:研修医はどうする? 血液培養/便培養提出 全身状態が安定していて余裕があれば、腹水穿刺→培養 ボトルは血液培養 穿刺時は側副血行路に注意 肝硬変患者がやってはならないこと 刺身だめ。調理器具はよく洗う。火を通して食べる。 海水浴、潮干狩り、川遊びはだめ。 Aeromonasのおそろしさ ターミナルの癌患者さん、ケモ中、肝不全など免疫不全患者 さんでは、致死的になりうる。 ヒト免疫抑制機構をもっており、免疫不全患者では局所的な 感染で、好中球が遊走されにくく、劇症化しやすいという文 献もある。 ゾシンやメロペネムなどにも耐性をもつことがある。 耐性をもちにくいニューキノロン系の使用が推奨される。 ご清聴ありがとうございました。 伊藤先生、井先生、小川先生、出田先生、佐藤先生 本館5階、救急外来、細菌検査部のスタッフのみなさま ありがとうございました。