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なのか「統治」なのか - 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)

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なのか「統治」なのか - 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)
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Abstract
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報告三 : 「選挙」なのか「統治」なのか :
メディア技術の革新がもたらすアメリカ民主主義の危機?
西川, 賢(Nishikawa, Masaru)
慶應義塾大学法学研究会
法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.88, No.2 (2015. 2) ,p.96114
Journal Article
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20150228
-0096
川 賢
その意味で、候補者が新しいメディア技術を選挙に
取 り 入 れ よ う と す る こ と は 戦 略 上 当 然 の 行 動 で あ る。
環境の変化には、①人口動態の変化、②経済的変化、
外的環境の変化
この選挙キャンペーンのあり方(は、
(
が生み出す文脈に大きく左右される。このような外的
ソ ー シ ャ ル・ ネ ッ ト ワ ー キ ン グ・ サ ー ビ ス ( S N S )
いたが、現在ではケーブルテレビ、インターネット、
ラジオ、ダイレクト・メールなどを用いて展開されて
( (
有権者とのコミュニケーションは新聞、テレビ広告、
③移民の流入、④社会行動の変容、⑤国際環境の変化
などが選挙キャンペーンにおいて確かな地歩を占めつ
(
などが含まれるが、メディア技術の発展も選挙キャン
つある。
(
ペーンのあり方に多大な影響を与える外的要因の一つ
本論考では、第一にアメリカにおけるメディア技術
(
(
(
96
報告三
「選挙」なのか「統治」なのか
る。
( (
成功するか否かは、選挙での当落を左右するからであ
に取り入れ、有権者との円滑なコミュニケーションに
津田塾大学准教授 西
︱︱メディア技術の革新がもたらすアメリカ民主主義の危機?︱︱
一 はじめに
)かす
Priming
選挙キャンペーンとは、候補者・政党がパーソナリ
ティや政策争点をアピールして有権者を説得する
( Persuasion
)か自らを強く印象づける (
する、あるいは新規支持者の獲得を目指す営みである。 一九八〇年代には選挙キャンペーンにおける候補者と
( (
ることにより、従来の支持層からの支持をより強固に
(
であることに疑いはない。メディア技術の発展を選挙
(
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
ているが、これがアメリカ民主主義にどのような影響
の枠を超えて統治領域にまで拡張利用するようになっ
バラク・オバマ政権はインターネットやSNSを選挙
九二年以降の歴史を振り返って考える。第二に、近年
どのように取り入れられていったのかについて、一九
の発展、特にインターネットやSNSが大統領選挙に
な一般国民の高い関心を反映して、クリントン政権は
ジに高い関心を持っていることが窺われた。このよう
には一日平均八〇〇件を超す書き
alt.politics.Clinton
込みが寄せられており、有権者が候補者のウェブペー
だ が、 限 定 的 な 利 用 に と ど ま っ て い た と は い え、
ウェブサイトを立ち上げている。
( (
デイヴィッド・ライテルの主導下でホワイトハウスの
のドメインを取得し、科学
発足後に WhiteHouse.gov
技術政策局でインターネット・ストラテジストである
・インターネッ
二 揺籃期 (一九九二~二〇〇〇年)
トの選挙活用の夜明け
を与えているのかについて考察を加える。
⑴ 一九九二年選挙
このような変化を受けて、一九九四年の選挙では候
補者個人や政党などによる電子メールやウェブサイト
の利用が活発化し始めた。
ターネットのみの活動を行っていた政治活動委員会に
アメリカにおいて、インターネットが初めて選挙に
活用されたのは一九九二年の大統領選挙である。
足をすくわれて落選したことであり、これはインター
注 目 す る べ き は、 現 職 の 下 院 議 長 で あ る ト マ ス ・
フ ォ ー リ ー ( ワ シ ン ト ン 州 選 出・ 民 主 党 )が ほ ぼ イ ン
とはいっても、当時はウェブ・ブラウザが現在ほど
普 及 し て い な か っ た た め、 ビ ル・ ク リ ン ト ン = ア ル
(共和
(
(
バート・ゴア陣営のインターネット利用も電子メール
⑵ 一九九六年選挙
一 九 九 六 年 の 選 挙 時 に は ロ バ ー ト・ ド ー ル
(
ネットの政治利用 (特に選挙利用)への注目が集まり
つつあった時代を象徴する出来事であったといえよう。
ループ(
は政策公約への有権者の反応を集約するための討論グ
(
)を 形 成 す る な ど、 限 定 的
alt.politics.Clinton
利用の域を出るものではなかった。
97
(
( AOL, CompuServe, Prodigy, TelNet
などの既存プラット
( (
フ ォ ー ム が 利 用 さ れ た )や 電 子 掲 示 板 の 利 用、 あ る い
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
党)
、クリントン(民主党)
、 ロ ス・ ペ ロ ー ( 改 革 党 )
るなど、有権者との相互作用を重視した先進的な作り
クロスワードやクイズが楽しめるコーナーが設けられ
( (
など、主要政党の候補者すべてがウェブページを開設
(
になっていた点に特徴があった。
(
しており、主要政党以外の候補者でもウェブページを
開設するものが八〇%に上った。かくして、政策文書、 他にも、スティーブ・フォーブス候補 (共和党)の
ウェブページには、訪問した有権者が自分の現在の所
((
(
”
)と 題 す る
デ ィ ア の 青 写 真 」(“ New Media Blueprint
ド ー ル 陣 営 の ロ バ ー ト・ ア リ ー ナ は、「 新 し い メ
じて随時閲覧することが可能になった。
を 盛 り 込 ん で 有 権 者 の 関 心 を ひ く 工 夫 が ほ ど こ さ れ、
装置が設置されるなど、ゲーミフィケーションの要素
に還付される所得税控除額が自動的に計算される計算
得額を打ち込むとフォーブスが提唱する新税制導入後
(
インターネット利用者を対象とする有権者アウトリー
(
クリントン=ゴア陣営が専らウェブサイトを選挙公約
はなかった特徴を持っており、有権者の目をひいた。
者の「知られざる素顔」を提供するというそれまでに
し始め、一九九六年には未発達であったヤフーやグー
一九九六年には未だダイヤルアップ接続が主流で
あったが、二〇〇〇年にはブロードバンド接続が普及
わずか四年で六七〇〇万人に達した。
一九九六年の選挙時には七五〇万人に過ぎなかった
ア メ リ カ の イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 者 は 爆 発 的 に 増 加 し、
((
( (
の提示など、主としてアジェンダ設定の目的で用いた
グルのような検索ツールの性能が向上し、有権者が候
(
のに対し、ドールのウェブページには選挙ボランティ
補者のウェブページを発見することが格段と容易に
(
”
)
ア を 募 集 す る「 選 挙 に 参 加 し よ う 」(“ Get Involved
⑶ 二〇〇〇年選挙
なっていた点なども注目に値する。
((
のコーナー、「ドール・インターアクティブ」という
このウェブページには、ドール自身があまり語りた
がらなかったキャリア、特に軍歴や彼が戦場で負った
をデザインした。
ド ー ル 同 様、 有 権 者 と の 相 互 作 用 を 重 視 し た 作 り に
((
チの体系的戦略に基づいてドール候補のウェブページ
(
演説、候補者の経歴などを有権者がウェブページを通
(
「名誉の負傷」についてなどが記載されており、候補
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
((
98
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
(
なった。また、リサーチ・イン・モーション社が開発
ン・ミーティングを開催する機会を提供するなど、単
機能を介して近隣に住む有権者同士を結び付け、タウ
(
し た ス マ ー ト フ ォ ン ( ブ ラ ッ ク ベ リ ー)が 普 及 し 始 め
なるウェブを利用した候補者の宣伝にとどまるのでは
(
( (
加 え て、 特 筆 す べ き は ウ ェ ブ ペ ー ジ の 利 用 が ネ ガ
ティブ広告にも広がりを見せつつあったことではない
(
たことも大きな変化の一つであった。
つつあった。
なく、ウェブを介した動員や献金が本格的に着手され
このような変化を受けて、二〇〇〇年に行われた大
統 領 選 挙 で は、 ジ ョ ー ジ・ W・ ブ ッ シ ュ、 ゴ ア、
などほぼすべての候補者がウェブサイトを開設し、も
だろうか。
フォーブス、ジョン・マケイン、ビル・ブラッドレー
はやウェブサイト開設は選挙キャンペーンの常道と化
予 備 選 挙 の 段 階 で ブ ラ ッ ド レ ー 候 補 は
moreabout した感があった。ほぼすべての候補者がテレビで流し
と い う ウ ェ ブ ペ ー ジ を 立 ち 上 げ、 銃 規 制 等
gore.com
の争点をめぐってゴアの政治姿勢をネガティブ攻撃し
ペイン語)のページを併設する候補も増えた。
の
た。 ゴ ア 側 もこれ に 応酬し、 www.algore2000.com
一 角 に「 ブ ラ ッ ド レ ー 候 補 に 関 す る 情 報 コ ー ナ ー」
(
(
(“ Bradley Information Bureau
”
) を 設 置 し、 ブ ラ ッ ド
レーの批判が事実無根であると反撃を加えた。
さらに、ブラッドレー候補のように、限定的地域で
の選挙キャンペーンにウェブを介して五〇〇〇人もの
ボランティア動員に成功したもの、マケイン候補のよ
(
うにインターネットを通じて、一〇〇〇万ドルの献金
(
を募ることに成功したものも現れた。このほか、ブッ
( (
二〇〇〇年以降、ウェブページを利用したネガティ
を加えた。
((
シュ候補はフォーブスに倣って、「ブッシュ税金計算
”
)をウェブに盛り込み、ゴ
機」(“ Bush Tax Calculator
を立
る 民 主 党 側 も IKnowWhatYouDidinTexas.com
ち上げ、テキサス州知事時代のブッシュの治績に攻撃
を
本選挙でも、共和党が GoreWillSayAnything.com
立ち上げてゴアに対するネガティブ広告を掲げ、対す
((
リーミング配信するようになり、英語以外の言語 (ス
ているスポット広告をウェブページでもビデオ・スト
((
((
((
というコーナーを設置してヤフー・
ア候補も GoreNet
メッセンジャーなどのインスタント・メッセンジャー
99
((
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
去の失言、政治的変節、公約違反などを訴えるページ
ブ広告も常態化していき、選挙のたびに各候補者の過
が加味されたのである。
(
マイクロキャスティング、ナノキャスティングを利
用して、メッセージのカスタム化を効果的にはかるこ
(
とができれば、特定の属性や志向性を有する (接戦州
の)少数の有権者集団を効率的に動員し、選挙の結果
すなわち、テレビのようなブロードキャスティング
が選挙キャンペーンの主流であった時代、有権者に対
も影響を与えるようになった。
を展開し、アフリカ系有権者からの得票率を九% (二
に反同性婚のメッセージを核とする選挙キャンペーン
このようなマイクロターゲティングの一例をあげる
と、二〇〇〇年の大統領選挙において、G・W・ブッ
を左右することも、いまや不可能ではなくなった。
するメッセージは選挙スポットCMを用いた不特定多
〇 〇 〇 年 )か ら 一 六 % ( 二 〇 〇 四 年 )に 伸 ば す こ と に
(
(
性を考慮したものへと変化していった。すなわち、選
し、選挙キャンペーンはより地域や有権者の社会的属
あたって、有権者に対するアウトリーチの手法も変化
やミートアップ ( MeetUp.org
)のようなSNSが急速
ま た、 二 〇 〇 四 年 に は ウ ェ ブ ロ グ ( い わ ゆ る ブ ロ グ )
以 上 が イ ン タ ー ネ ッ ト を 利 用 す る よ う に な っ て い た。
インターネット利用率の向上は二〇〇〇年以降も継
続し、二〇〇四年時点でアメリカの成年人口の六〇%
・ ハ ワ ー ド・ デ ィ ー ン の
三 躍 進 期 ( 二 〇 〇 四 年 )
「遺産」
((
挙キャンペーンにマイクロターゲティングという要素
しかし、マイクロキャスティングとナノキャスティ
ングが選挙キャンペーンの中で確かな地歩を占めるに
シュ陣営はオハイオ州の保守的なアフリカ系有権者層
数の有権者を対象にするものであり、包括的な性質を
成功している。
(
((
ティング戦略は存在しなかったといってよい。
(
いる有権者を対象にするものであった。そこにターゲ
帯びざるを得ず、たまたまテレビやラジオを視聴して
以上のようなインターネット選挙利用の急速な普及
と拡大は、選挙キャンペーンのターゲティング戦略に
⑷ タ ー ゲ テ ィ ン グ 戦 略 の 変 化・ マ イ ク ロ タ ー ゲ
ティングの発達
が開設されるようになっている。
((
100
に普及し始めており、二〇〇四年の選挙においては、
。
〇万人もの「メンバー」が参加していたといわれる)
加を呼び掛ける運動を展開していた (同組織には一四
(
これらのツールの本格的な選挙利用が注目を集めた。
同 じ 頃、 イ ラ ク 戦 争 に 不 満 を 抱 く 人 々 は「 デ イ
)
、
「 デ イ リ ー・ コ
リ ー・ デ ィ ッ シ ュ」( the Daily Dish
ブログで戦争に対する不満をぶつけ合うようになって
(
再選されたG・W・ブッシュも選挙戦ブログを開設
していたものの、陣営の日誌・選挙戦の経過報告とし
)
、「マイDD」( MyDD
)などの著名な
ス」( Daily Kos
( (
ての色彩が強く、読者にコメントを許可しないなど有
(
権者からの反応は芳しいものではなかった。
がりしか有していなかったこれらの人々は、ブッシュ
(
こ れ に 対 し て、 民 主 党 の 泡 沫 候 補 で あ っ た ハ ワ ー
ド・ディーンは予備選挙の途中で撤退を余儀なくされ
の対抗馬として、反戦を主張していたディーンに注目
( (
バーなどで小規模なディーン支持集会を開催するよう
いた。当初ブログやムーヴオンなど、オンラインの繫
たものの、今なお、組織化や資金調達などの面で「ア
す る よ う に な り、 ミ ー ト ア ッ プ を 利 用 し て カ フ ェ や
浴び、これが大統領候補としての躍進の呼び水になっ
て い く。 こ の 躍 進 の 背 景 に は、 ブ ロ グ や ム ー ヴ オ ン
反対の声を結集するために一九九八年に作り上げた
ムーヴオンは、元々クリントン大統領の弾劾に反発
するシリコン・バレーの実業家ウェス・ボイドが弾劾
された運動の存在があった。
もムーヴオンやブログを介して大量に動員することに
挙費用を調達するとともに、選挙活動のボランティア
ら二〇〇四年にかけて三〇〇〇万ドル以上を集めて選
の政治資金を集め始めるなど、SNSを介した政治動
( (
ネットワークであり、二〇〇三年当時はイラク戦争反
成功している。
内に初歩的なSNSを導入し、SNSを利用して小口
他方、ディーンもブログやムーヴオンでの有権者の
)
動 向 に 鋭 く 着 目 し、 公 式 サ イ ト ( Blog for America
((
( (
メリカ政治に革命をもたらした」と評価されている。
になった。
((
ヴァーモント州知事であったディーンは、G・W・
ブッシュ政権によるイラク戦争を強く批判して注目を
((
((
対派に電子メールを通じた抗議運動や反戦集会への参
(
((
((
員を軌道に乗せていった。ムーヴオンは二〇〇三年か
(
101
((
( MoveOn.org
)と い う イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し て 組 織 化
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
そのような評価もあながち過大ではないことが理解で
( (
( (
NSの効果的利用によるところが大きい。
と昇りつめたのは、以上のようにインターネット、S
ル以上の資金と五〇万人以上の支持者を有する存在へ
かったが、それが一年も経たないうちに四〇〇〇万ド
で二〇〇三年九月に出馬を宣言し、ディーン同様ブロ
というウェブページを立ち上げると、
draftwesleyclark
反戦派などを中心に、瞬く間に五万人もの賛同者が現
コが二〇〇三年四月に
)という出来事があった。リン
る ( Draft Wesley Clark
( (
れた。クラーク自身はこの勝手連に背中を押される形
www.extreme-campaigns.com/
サイモン・ローゼンバーグなどの民主党系の戦略家
は、一九九六年以降、共和党と保守勢力の連合は情報
グやミートアップを積極的に利用して資金やボラン
(
化時代に適応した政治マシーンを構築することに成功
ティアを集めたものの結局は振るわず、二〇〇四年二
(
をおさめており、政治的コミュニケーション能力の面
月に選挙戦からの撤退を表明した。
( (
で民主党を遥かに凌駕しつつあると考えていた。しか
なお、ディーン候補のブログやミートアップなどを
効果的に利用した選挙戦術を支えていた選挙スタッフ
((
し、二〇〇四年の選挙においてディーン候補は敗北し
たものの、民主党がインターネットやSNSを利用し
た資金収集や人員の組織化などのインフラストラク
チ ャ ー を 強 化 す る き っ か け を 提 供 し、 共 和 党 と の
ギャップを大きく縮め、むしろこれを逆転さえしたと
)
、
グ・インスティテュート」( New Organizing Institute
は、 選 挙 後「 ブ ル ー・ ス テ イ ト・ デ ジ タ ル 」( Blue
以下BSD)
、「 ニ ュ ー・ オ ー ガ ナ イ ジ ン
State Digital;
((
102
いう評価が存在する。上述のディーンの躍進を見れば、
ディーンは最終的に五一〇〇万ドルもの政治献金を
集めることに成功したが、その六一%が二〇〇ドル以
きよう。
(
下の小口献金であったことは注目に値しよう。また、
(
ミートアップを介してディーン支持を表明した有権者
(
二〇〇四年の選挙においてはディーン候補の他にも、
)
民 主 党 系 活 動 家 で あ る ジ ョ ン・ リ ン コ ( John Hlinko
(
((
が ウ ェ ブ ペ ー ジ を 用 い て ネ ッ ト 勝 手 連 を 立 ち 上 げ、
二〇〇三年初期、ディーンは選挙資金を殆ど持たず、
ウェズレイ・クラーク陸将を民主党予備選挙に擁立す
僅か四〇〇人ほどの支持者がいるだけの存在に過ぎな
は最終的に一八万五〇〇〇人に上った。
((
((
((
((
(
(
)な ど の I T コ ン サ
EchoDitto
的な」選挙であり、オバマ候補が参加型双方向メディ
二〇〇八年の大統領選挙がウェブサイト、ブログ、
SNSを大々的に活用した参加型・双方向型の「画期
・バラク・オバ
四 定着期 (二〇〇八~二〇一二年)
マによるSNS利用のデフォルト化
このうち、BSDは二〇〇六年の選挙で二二人の議
員のウェブ選挙に関するコンサルティング業務を請け
負い、二〇人の候補者を当選させることに成功してい
アを駆使して有権者からの支持を社会運動へと昇華さ
(
る。オバマはこのBSDに早くから注目しており、B
(
せることで当選を果たしたという点はすでに数多くの
オンライン・データベースを作り上げ、二〇〇六年以
)と い う 有 権 者 の
VoterBuilder
トやSNSを利用した選挙戦術を集大成したもので
戦術を遺産として受け継ぎ、それまでのインターネッ
(
((
新的であるといってよく、彼が構築したインフラスト
このように、ディーンが二〇〇四年の選挙戦でイン
ターネットやSNSを活用して躍進を遂げたことは革
歴を記載・閲覧するためだけのものではなく、フェイ
のウェブページに見られたような単なる政策公約や経
させた。この公式サイトは一九九〇年代前半の候補者
( (
ラクチャーは、いわば「遺産」として二〇〇八年のオ
ス ブ ッ ク の よ う な S N S 機 能 ( www.mybarackobama.
)を充実
としての公式サイト ( www.barackobama.com
助けした。この有権者構築機は二〇〇八年の大統領選
オバマ陣営はBSDから選対本部に選挙顧問を雇い
挙にも受け継がれ、オバマ陣営もこれを利用している。 入れ、有権者・支持者とのインターフェイスとなる核
(
あったことも留意する必要がある。
自に創出したものではなく、直近ではディーンの選挙
しかし、二〇〇八年選挙でオバマ候補が取ったイン
ターネットやSNSを利用した戦術はオバマ陣営が独
((
降の選挙戦でそれを活用し、民主党政治家の当選を手
れ、
「 有 権 者 構 築 機 」(
( (
SDのCEOであったジョー・ロスパースは二〇〇七
(
論者が指摘している。
(
年にオバマ陣営のニュー・メディア担当部長に抜擢さ
ルティング会社を相次いで設立している。
((
ディーン自身も二〇〇五年二月に民主党全国委員長
に就任し、全国委員会にBSDからスタッフを雇い入
れている。
((
((
バマヘと受け継がれていったのである。
103
「 エ コ ー・ デ ィ ッ ト 」(
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
((
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
由に個人ページを持つことが可能であった。マイ・バ
)を内蔵しており、サイト内部に支持者自身が自
com
キャンペーンのマイクロターゲティング化が加速化し
トを所有する有権者を対象に、SNSを駆使した選挙
ラ ク・ オ バ マ・ ド ッ ト・ コ ム は
Sをフル活用するとともに、GPS機能の付いた携帯
例 え ば、 二 〇 一 〇 年 の 選 挙 に お い て、 マ サ チ ュ ー
セッツ上院議員選挙でスコット・ブラウン候補はSN
ている。
、 Flicker
、
Facebook
、 MySpace
などの外部SNSと同期させる
YouTube
ことも可能で、これらSNS網を駆使して、ネット上
(
によってある有権者が近在する他の有権者の位置情報
(
に勝手連を立ち上げるという手法は一九九二年以降の
電話を選挙運動員に持たせ浮動層に対する集票を効率
(
ネット選挙戦略の集大成であるともいえた。
「ポリ
的 に 行 い、 下 馬 評 を 覆 し て 当 選 を 果 た し た。
を取得することが可能となる。この位置情報に有権者
(
(
プリをスマートフォンに入れている場合、GPS機能
さらに、二〇〇八年選挙ではインターネットやSN
Sを利用した小口献金の収集が大々的に試みられて大
(
きな成功をおさめ、SNSはもはや選挙戦術の常識と
登録の有無や支持政党などのデータを加えれば選挙運
(
化した。この点で、二〇〇八年の選挙はSNSの選挙
動員がどの有権者に優先的に話しかければよいのか、
( (
利用をさらに大きく前進させたといってよいであろう。
一目瞭然である。
)と い う ア
テ ィ カ ル・ グ ラ ビ テ ィ」( Political Gravity
(
後、多
この「オバマ型」の選挙手法は二〇〇八(年以
(
くの候補者に取り入れられていくことになる。
((
((
このように、SNSが本格的に選挙で活用されるよ
((
データもあり、これらの位置情報機能付きのガジェッ
ている有権者の八三%が有権者登録しているという
なった。いまやスマートフォン、タブレットを利用し
数十人単位の有権者に対するアウトリーチが可能に
なった。
カスタマイズする手法も既に広く採用されるように
や過去の有権者の投票記録などを加味して選挙戦術を
のオフライン・データと突き合わせ、有権者登録情報
うになると、ブロードキャスティングのような不特定
また、特定のウェブページを訪問した有権者のクッ
多数の有権者を対象にする包括的メッセージではなく、 キー情報などをもとに有権者の属性や志向性を手持ち
((
((
((
104
イトやスポーツの点数などを見る傾向が強い。このよ
り、共和党員は株価や不動産情報、オークション・サ
”
)の 設 置 な ど
ハ ウ ス 質 問 箱 」(“ Ask the White House
シュ政権でも電子メールの積極的な利用や「ホワイト
第二節で述べたように、クリントン政権でホワイト
ハウスのウェブサイトが設立され、続くG・W・ブッ
五 拡大期(二〇一〇~現在)
・
「選挙」から「統治」へ
うな情報に基づいて、例えば二〇一二年の選挙ではサ
が実現し、インターネットやSNSの利用は選挙にと
ン ト ラ ム 候 補 は 検 索 エ ン ジ ン で「 ラ ッ シ ュ・ リ ン
どまらず、統治過程にも浸透し始めていた。
党派別にみると、民主党員はオンライン・ゲーム、
求職サイト、出会い系サイトなどを閲覧する傾向があ
ボー」というタームを検索した有権者向けの広告を買
い 取 り、 ロ ム ニ ー は 同 じ く「 ジ ョ ー ジ・ ロ ム ニ ー」、 この統治領域へのSNSの浸透をいっそう推し進め
オバマは「ウォーレン・バフェット、オバマの誕生日、 たのがオバマ政権である。オバマ大統領はSNSを利
(
用 し た 二 〇 〇 八 年 の 選 挙 戦 術 が 成 功 裏 に 終 わ っ た 後、
(
オバマの歌、オバマ・ブラケット」を検索した有権者
同技術を政権運営にそのまま応用しようと試みてきた
(
向けの広告枠を買い取っている。
ことも既に指摘されている。
ブック」なるクラウド・ソーシングの試みに着手した。
と称する
政 権 移 行 チ ー ム は 手 始 め に、 Change.gov
ウ ェ ブ ペ ー ジ を 設 置 し、「 市 民 の ブ リ ー フ ィ ン グ・
(
このように、蓄積された大量のデータをデータ・マ
イ ニ ン グ に よ っ て 分 析 し、 そ れ を 選 挙 に 利 用 す る
(
顕著化した。
のページの訪問者に政策アイディ
これは Change.gov
( (
アを投稿させ集約するというものであり、一般国民に
(
かくして、二〇一〇年中間選挙・二〇一二年大統領
選挙ではSNSの利用が徹底化するとともに、有権者
( (
統治に参加している感覚を付与することが狙いであっ
(
((
のネットワーク形成から政治献金の集金まで、SNS
(
を中核とする選挙運動が定着した感があった。
((
確保し、政策決定の質の向上や政治参加の促進を図る
た。SNSを積極的に活用することで統治の透明性を
((
――このようなSNSを利用した統治のあり方をオバ
105
((
((
((
「 ビ ッ グ・ デ ー タ 選 挙 」 は 二 〇 一 二 年 の 選 挙 に お い て
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
S 機 能 を 利 用 し て、 オ バ マ 政 権 が 進 め て い る 政 策 ア
選挙活動ではないかという批判が絶えなかった。選挙
段に偽装した、有権者の組織化や献金を狙う民主党の
た。このため、OFAmに対しては、当初から統治手
ジェンダを一般国民に売り込むとともに、有権者の組
終了後の二〇〇九年三月には、二〇〇万ドルもの政治
( (
資金がOFAmを経由して民主党全国委員会の負債返
((
よれば、このような試みは政治の開放性・透明性を高
こうして、オバマ政権下で統治領域へのSNSの浸
透が確実に進んだことは確かである。政権側の説明に
は二〇一三年には「オーガナイジング・フォー・アク
ないだろうか。こうした批判を意識してか、OFAm
ことで、統治を侵食している例と考えるのが妥当では
( (
在するはずはなく、これはSNSが統治に転用される
め、国民の政治参加意識を増進することで、民主主義
以下OFAc)という
ション」( Organizing for Action;
(
を強化し、統治の効率性を高める効果を期待できると
(
無党派を謳う組織へと改組され、民主党全国委員会か
((
106
マ政権は「ホワイトハウス二・〇プロジェクト」と命
(
しかし、このような統治手法には問題がある。例え
ば、OFAmは一見すると大統領による政策運営用の
(
名した。
いたのは民主党の全国委員会であり、OFAmの草の
サイトのように映るが、このサイトを実際に運営して
かくして、政権発足後には、かつてのオバマ候補の
選挙公式サイトが民主党全国委員会主導の「オーガナ
根活動を実際に請け負う組織も民主党の州組織であっ
( (
織化や献金の窓口にもなっていた。
還のために流用されるなど、OFAmは選挙組織なの
( (
、
、
、
な
ま た、 Facebook Flicker YouTube MySpace
どのSNSとホワイトハウスのウェブページとの同期
か、大統領主導の統治手段の一環なのか、議論は絶え
(
化も進められた。他にも、ウェブを介してライブ形式
なかった。
((
イ ン・ タ ウ ン・ ホ ー ル 」(
White
House
Online
Town
前 嶋 和 弘 氏 が 指 摘 す る よ う に、 純 粋 に 考 え れ ば、
)の試みも初めて着手された。
「統治のための政治献金」や「有権者の組織化」が存
Hall
((
(
で大統領と国民が対話する「ホワイトハウス・オンラ
イ ジ ン グ・ フ ォ ー・ ア メ リ カ 」( Organizing for
以下OFAm)へと改良され、メールやSN
America;
((
((
いう。
((
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
ら分離された。同時に、非営利団体資格である五〇一
四の資格を米国内国歳入庁に申請・付与されており、
どを実現すべく、草の根で活動を続けている。また、
べく、OFAcをより強力に活用して「ワシントンの
オバマ大統領自身も二期目で確実な立法業績を上げる
政治資金収集、選挙キャンペーン、ロビイスト活動等
外からワシントン内部を変革する」方針を明言してい
( (
を合法的に行えるようになっている。OFAcはいま
やOFA四・〇の段階に入ったと指摘する論者も存在
る。
ターネットやSNSの利用を統治の領域にまで拡大し
する。
すなわち、SNSを活用した選挙戦が行われた二〇
〇 八 年 の 段 階 が 一・ 〇、「 オ ー ガ ナ イ ジ ン グ・
て い る こ と に つ い て、 オ バ マ 大 統 領 が 選 挙 延 長 病
( (
フォー・アメリカ」が結成された段階が二・〇、二〇
この点、G・W・ブッシュ大統領の選挙参謀であっ
たカール・ローヴは、オバマ陣営が選挙におけるイン
((
側面が残る。このようにOFAmやOFAcは、未だ
戦略目標から完全に自立した組織であるとはいい難い
バマ選対出身者で占められており、政権や与党の再選
ン・カーソン以下のスタッフもすべてオバマ政権・オ
と ミ シ ェ ル・ オ バ マ 大 統 領 夫 人 で あ り、 組 織 長 ジ ョ
とはいえ、OFAcの発起人はオバマの二〇一二年
の再選選挙のマネージャーであったジム・メッシーナ
)に 憑 り つ か れ て い る
一二年の選挙が三・〇、そして二期目が四・〇である。 ( Extended Campaign Syndrome
( (
と揶揄した。
((
(
選挙組織と統治機構の「キメラ」的特性を拭い去れて
(
いないのが現状である。
((
OFAcは第二次オバマ政権の中心的政策アジェン
ダである気候変動問題、銃規制、包括的移民改革案な
イトハウスでの処世と大統領選挙での処世は全く異
の 教 訓 を 身 に し み て 感 じ て い る こ と だ ろ う …… ホ ワ
ス 入 り す れ ば、 ト ラ ブ ル が 起 き る。 オ バ マ 政 権 は こ
…… こ の よ う な マ イ ン ド セ ッ ト の ま ま ホ ワ イ ト ハ ウ
に勝利するという〕重圧を感じているだろうから
か 考 え な い。
〔 選 挙 に 〕 疲 れ て い る だ ろ う し、
〔選挙
生 き 延 び る こ と し か 考 え な い。 彼 ら は 安 易 な 方 法 し
選 挙 で は、 選 挙 ス タ ッ フ は 来 週 か 次 の 予 備 選 挙 ま で
((
な る も の な の だ …… オ バ マ が 選 挙 で 用 い た 手 法 は 大
107
C
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
統 領 と し て の オ バ マ に は 向 か い 風 に な り 得 る。 し か
害が大きい)ことを示すエピソードではないだろうか。
用しても必ずしも上手くいくとは限らない (むしろ弊
( (
し、 身 に し み つ い た 悪 癖 は な か な か 消 え て な く な ら
六 結論
メディア技術の発展を選挙に取り入れ、有権者との
円滑なコミュニケーションに成功するか否かが選挙で
ないものだ。
同様に、OFAm、OFAcを研究しているバーバ
ラ・トリッシュ教授は以下のように評している (引用
の当落を左右する以上、候補者が新しいメディア技術
(
二 〇 〇 八 年 選 挙 の 遺 産 で あ る オ ー ガ ナ イ ジ ン グ・
二 〇 〇 九 年 に オ バ マ 大 統 領 が 政 権 入 り し た 時、 彼 は
一九九二年から二〇〇八年にかけてのアメリカの選
挙史は、やや大袈裟にいえば、メディア技術の発展と
略的行動であろう。
(
フ ォ ー・ ア メ リ カ を 民 主 党 全 国 委 員 会 に 取 り 込 も う
いう外的環境の変化への候補者・政党の対応の歴史で
0
と し た。 こ れ は オ バ マ 大 統 領 が 民 主 党 を 強 化 し よ う
0
あるといってもよい。候補者・政党がこのような環境
0
と い う シ グ ナ ル の よ う に 思 え た。 選 挙 を 永 続 化 し よ
の変化に巧みに適応することで、選挙キャンペーンは
ネットやSNSの選挙利用を統治領域にまで単純拡大
0
うというのがオバマ大統領の究極の目標だったのか
文字通り革新されてきた。
「オーガナイジング・フォー・アメリカ」は政権一
期目の目玉であった国民皆保険制度を普及させること
したものであるが、円滑な統治を推進するよりも、む
0
も し れ な い が、 オ ー ガ ナ イ ジ ン グ・ フ ォ ー・ ア メ リ
にすら非常に手間取ったが、これは選挙と統治が本質
しろ妨げとなっているように思われる。このことにつ
のである。前節で見たOFAmやOFAcはインター
的に異なるものであり、前者の手法を後者に単純に応
0
カは民主党の正規の組織の一部になってしまった。
を積極的に選挙に取り入れようとすることは当然の戦
中の傍点は筆者)
。
((
しかし、いまやそれは「選挙の統治領域への侵食」
という思わぬ副産物を生み出しているように思われる
((
108
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
おいて候補者は他者との間に差異を生み出すことで自
とし、選挙では差異を生み出す。その理由は、選挙に
エイミー・ガットマンやデニス・トンプソンらが指
摘するように、民主主義は統治において統一性を必要
いて、より考察を深めたい。
想像できる。
も、統治の自立性が損なわれるであろうことは容易に
選挙的手法で統治を進めれば、政策目標は達成できて
交 渉 や 説 得 を 通 じ て 妥 協 形 成 を 促 す の で は な く、 メ
を交渉・説得しようとしなくなり、選挙志向の非妥協
ディアを通じて議会を迂回して国民に直接訴えかける
らが優位に立つ必要があるが、統治においては対立す
このように、選挙が統治を侵食することにより、政
)に 執 着 し て 対 立 者
治家は頑迷に原理原則 ( Principle
る勢力との間にも妥協点を見出すことで合意形成を円
(
滑に行う必要があるからである。
)が植えつけられる
的精神 ( Uncompromising Mindset
ことで合意形成が著しく困難となって、円滑な統治を
(
統治に必要とされる妥協とは、現状を打開し必要な
対策を講じるために関係するアクターすべてが合意の
侵害する弊害が生じているとガットマンらは指摘して
( (
上、何かを犠牲にすることであるとガットマンは定義
いる。
(
する。そのうえで、ガットマンらは近年のアメリカに
(
かくして、現在のアメリカ民主主義から円滑な統治
に向けて必要かつ適切な妥協を可能とする政治的礼節
)や中道という徳性が著しく損なわれており、
Civility
議会の外堀を埋め、いわば「搦め手」で政策実現をは
(
(
要な意見であるといえよう。
(
のとなり、それが弊害を招いていることを指摘した重
アメリカ民主主義の中で両者の境界が極めて曖昧なも
((
かる「ゴーイング・パブリック戦略」が完全に定着し
前嶋和弘氏が指摘するように、国政レベルでは、い
まや大統領がメディアを通じて世論に直接働きかけて
ことに注目する。
)と い う 現 象 が 生 じ て い る
挙 」( Permanent Campaign
す る こ と な く、 選 挙 活 動 を 継 続 す る「 永 遠 に 続 く 選
(
おいて、政治家が当選後も立法活動や行政活動に傾注
これは、アメリカ民主主義の中で統治と選挙の間に
存在する不断の相克を浮き彫りにし、なおかつ現在の
((
アメリカ民主主義が危機に瀕しているという指摘すら
(
109
((
((
ている。このように、大統領が議会など反対勢力への
((
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
(
(
しばしば耳にする。
OFAmやOFAcのような例は、まさに「選挙化
する統治」の弊害がもたらす、アメリカ民主主義の危
機を露呈しているように感じられる。果たして、我々
が目撃しているものはインターネットやSNSの有効
な政治利用なのであろうか。それとも、選挙に侵食さ
れ、自立性を失いつつある統治が孕む病理なのであろ
(
” in Jeffry M. Stonecash (ed.)
the Context for Parties,
New Directions in American Political Parties (New
York: Routledge, 2010), p.13.
) Stonecash,
“ Social Change in America: the Context
” in Stonecash (ed.) New Directions in
for Parties,
American Political Parties, pp.14-20.
( ) Danny Hayes,
“ Parties and Media: Getting Messages ” in Stonecash (ed.) New Directions in
to Voters,
(
5
American Political Parties, p.44.
(
)
“ Parties and Media: Getting Messages to
Hayes,
” in Stonecash (ed.) New Directions in
Voters,
(
6
Rowman and Littlefield, 2011), p.136.
American Politics: the Internet Revolution (Lanham:
p.22.
) Jason Gainous and Kevin M. Wagner, Rebooting
Barack Obama and the Politics of Digital Engagement,
Macmillan, 2013), p.22.
) Katz, Barris, and Jain, The Social Media President:
Politics of Digital Engagement (New York: Palgrave
The Social Media President: Barack Obama and the
American Political Parties, pp.44-45.
) James E. Katz, Michael Barris, and Anshul Jain,
(
7
うか。
これがさらなる熟議を要する問題であることに疑い
はない。
( ) Henry E. Brady, Richard Johnston, and John Sides,
“ The Study of Political Campaigns,
” in Brady,
Press, 2006), pp.1-25; James N. Druckman, Lawrence
Effects (Ann Arbor: the University of Michigan
of Politics, Volume 66, Number 4 (November 2004),
R. Jacobs, and Eric Ostermeier,“ Candidate
” The Journal
Strategies to Prime Issues and Image,
pp.1180-1202.
( ) Jeffrey M. Stonecash,
“ Social Change in America:
3
4
8
((
Johnston, and Sides (eds.) Capturing Campaign
1
2
110
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
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in the Internet Age (New York: Oxford University
(
( )
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ン ペ ー ン を 支 え る 文 脈 要 因 の 分 析 」 清 原 聖 子・ 前 嶋
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Press, 2014), p.22.
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(
和弘編『インターネットが変える政治』(慶應義塾大
学出版会、二〇一一年)、三頁。
Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
West, Air Wars, p.61.
West, Air Wars, p.36.
) ) ) ) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
West, Air Wars, p.6.
West, Air Wars, pp.62-63.
Internet Age, p.53.
) West, Air Wars, p.62.
) ) Internet Age, p.73.
) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
Internet Age, p.92.
)
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九頁。
回への課題』
( 日 本 国 際 問 題 研 究 所、 二 〇 〇 五 年 )
、
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リ ベ ラ ル 派 」 久 保 編『 米 国 民 主 党: 二 〇 〇 八 年 政 権
West, Air Wars, p.60.
(
(
(
(
(
(
(
(California: Sage, 2014), p.60.
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Internet Age, p.31.
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p.22; Rita Kirk Whillock,
” in Robert E. Denton, Jr.
ʼ96 Presidential Campaign,
(ed.) The 1996 Presidential Campaign: A Communi­
cation Perspective (West Port: Praeger, 1998), pp.179198.
( ) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
19 18
Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
Internet Age, p.35.
( ) ( ) Internet Age, p.43.
Internet Age, p.22.
( ) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
奪回への課題』、四〇頁。
111
17
24 23 22 21 20
25
26
27
9
10
11
12
13
15 14
16
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
( ) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
Internet Age, p.74.
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「政治のイ
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、一四三頁。
( ) 砂 田 一 郎「 二 〇 〇 四 年 選 挙 で 活 力 を 取 り 戻 し た
リ ベ ラ ル 派 」 久 保 編『 米 国 民 主 党: 二 〇 〇 八 年 政 権
Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
奪回への課題』
、四一頁。
( ) Internet Age, p.76.
( ) Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
Internet Age, p.90.
( ) 清 原 聖 子「 ア メ リ カ の イ ン タ ー ネ ッ ト 選 挙 キ ャ
ン ペ ー ン を 支 え る 文 脈 要 因 の 分 析 」 清 原・ 前 嶋 編
『インターネットが変える政治』
、七頁。
( ) 久 保 文 明「 二 〇 〇 四 年 の 敗 北 と 民 主 党 穏 健 派 の
苦 悩 」 久 保 編『 米 国 民 主 党: 二 〇 〇 八 年 政 権 奪 回 へ
の課題』
、二四頁。
( ) 砂 田 一 郎「 二 〇 〇 四 年 選 挙 で 活 力 を 取 り 戻 し た
リ ベ ラ ル 派 」 久 保 編『 米 国 民 主 党: 二 〇 〇 八 年 政 権
Stromer-Galley, Presidential Campaigning in the
奪回への課題』
、二六頁。
( )
(
(
(
(
(
(
(
(
(
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Internet Age, pp.93-94.
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) 前 嶋 和 弘「 大 統 領 選 挙:
『オバマ現象』の分析」
吉野・前嶋編『二〇〇八年アメリカ大統領選挙』
、三
挙』
(東信堂、二〇〇九年)、三七頁。
) 前 嶋 和 弘「 大 統 領 選 挙:
『オバマ現象』の分析」
吉 野 孝・ 前 嶋 和 弘 編『 二 〇 〇 八 年 ア メ リ カ 大 統 領 選
) ) Kriess, Taking Our Country Back, p.121.
p.87.
) Kriess, Taking Our Country Back, p.119.
Obama (New York: Oxford University Press, 2012),
of Networked Politics from Howard Dean to Barack
38
42 41 40 39
) 前 嶋 和 弘「 大 統 領 選 挙:『 オ バ マ 現 象 』 の 分 析 」
吉野・前嶋編『二〇〇八年アメリカ大統領選挙』
、三
七頁。
43
) 前 嶋 和 弘「 ソ ー シ ャ ル・ メ デ ィ ア が 変 え る 選 挙
戦 」 清 原・ 前 嶋 編『 イ ン タ ー ネ ッ ト が 変 え る 政 治 』
、
九頁。
44
三五頁。
45
28
29
30
31
32
33
34
35
36
112
特別記事:平成二六年度慶應法学会シンポジウム インターネット社会における法と政治
( ) 前 嶋 和 弘「 大 統 領 選 挙:
『オバマ現象』の分析」
吉野・前嶋編『二〇〇八年アメリカ大統領選挙』
、四
〇頁。
( ) 前 嶋 和 弘「 大 統 領 選 挙:
『オバマ現象』の分析」
吉野・前嶋編『二〇〇八年アメリカ大統領選挙』
、三
八頁。
)
清原聖子「進化するネット選挙戦略」清原聖子・
前 嶋 和 弘 編『 ネ ッ ト 選 挙 が 変 え る 政 治 と 社 会: 日 米
( ) West, Air Wars, pp.7-8.
(
韓に見る新たな「公共圏」の姿』
(慶應義塾大学出版
会、二〇一三年)
、三九頁。
( ) West, Air Wars, p.9.
(
)
前 嶋 和 弘「 二 〇 一 二 年 大 統 領 選 挙 と メ デ ィ ア:
争 点 と 新 し い 変 化 」 吉 野 孝・ 前 嶋 和 弘 編『 オ バ マ 後
の ア メ リ カ 政 治: 二 〇 一 二 年 大 統 領 選 挙 と 分 断 さ れ
た政治の行方』
(東信堂、二〇一四年)
、五一頁。
( ) 前 嶋 和 弘「 オ バ マ 政 権 の メ デ ィ ア 戦 略 と 世 論:
『 ゴ ー イ ン グ・ パ ブ リ ッ ク 戦 略 』 の 終 焉?」 吉 野 孝・
前 嶋 和 弘 編『 オ バ マ 政 権 は ア メ リ カ を ど の よ う に 変
えたのか』
(東信堂、二〇一〇年)
、八〇頁。
( ) 前 嶋 和 弘「 オ バ マ 政 権 の メ デ ィ ア 戦 略 と 世 論:
『ゴーイング・パブリック戦略』の終焉?」吉野・前
(
(
嶋 編『 オ バ マ 政 権 は ア メ リ カ を ど の よ う に 変 え た の
か』
、五九頁。
) Katz, Barris, and Jain, The Social Media President,
pp.44-45.
) Katz, Barris, and Jain, The Social Media President,
p.49.
( )
前 嶋 和 弘「 オ バ マ 政 権 の メ デ ィ ア 戦 略 と 世 論:
『ゴーイング・パブリック戦略』の終焉?」吉野・前
嶋 編『 オ バ マ 政 権 は ア メ リ カ を ど の よ う に 変 え た の
か』
、六六頁。
( ) 前 嶋 和 弘「 オ バ マ 政 権 の メ デ ィ ア 戦 略 と 世 論:
『ゴーイング・パブリック戦略』の終焉?」吉野・前
(
(
(
嶋 編『 オ バ マ 政 権 は ア メ リ カ を ど の よ う に 変 え た の
か』
、六六頁。
)
Katz, Barris, and Jain, The Social Media President,
p.51.
) Barbara Trish,
“ Organizing for Action,
” Paper
prepared for State Party Conference, the Bliss
Institute, November 7 & 8, 2013, p.2.
) <http://www.theatlantic.com/politics/archive/2013/
01/obamas-permanent-campaign-can-he-use-his-
reelection-playbook-to-change-washington/272587/>
113
54
55
56
57
58
59
60
46
47
49 48
51 50
52
53
法学研究 88 巻 2 号(2015:2)
( ) “ Organizing for Action,
” Paper prepared
Trish,
for State Party Conference, the Bliss Institute,
<http://www.theatlantic.com/politics/archive/2013/
年)
、一〇〇頁。
党、制度、メディア、対外援助』
(東信堂、二〇一二
編『 オ バ マ 政 権 と 過 渡 期 の ア メ リ カ 社 会: 選 挙、 政
デ ィ ア の 台 頭 で 変 わ る 選 挙 戦 術 」 吉 野 孝・ 前 嶋 和 弘
November 7 & 8, 2013, p.2.
( ) 前 嶋 和 弘「 複 合 メ デ ィ ア 時 代 の 政 治 的 コ ミ ュ ニ
ケ ー シ ョ ン: メ デ ィ ア の 分 極 化 と ソ ー シ ャ ル・ メ
(
) 01/obamas-permanent-campaign-can-he-use-his-
ref=mostpopular>
) <http://www.theatlantic.com/politics/archive/2013/
for-action-obama_n_2503668.html?utm_hp_
reelection-playbook-to-change-washington/272587/>
( )
<http://www.huffingtonpost.com/2013/01/18/organizing-
(
(
01/obamas-permanent-campaign-can-he-use-hisreelection-playbook-to-change-washington/272587/>
)
<http://online.wsj.com/news/articles/SB10001
424052970203863204574346512956227346>
( ) Trish,
“ Organizing for Action,
” Paper prepared
for State Party Conference, the Bliss Institute,
(
(
November 7 & 8, 2013, p.17.
) 前嶋和弘『アメリカ政治とメディア』、一七二頁。
“ The Mindset
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Amy Gutman and Dennis Thompson,
” Perspectives on Politics,
of Political Compromise,
Volume 8, Number 4 (December 2010), pp.1130-1137.
( )
Amy Gutman and Dennis Thompson, The Spirit
69 68
(
(
(
) p.2.
)
“ Americaʼs Polarized Politics:
Morris P. Fiorina,
” Perspectives on Politics,
Causes and Solutions,
Gutman and Thompson, The Spirit of Compromise,
University Press, 2012), p.10.
( )
前嶋和弘『アメリカ政治とメディア』、一五六︲
一六一頁。
Campaigning Undermines It (Princeton: Princeton
of Compromise: Why Governing Demands It and
70
71
72
Volume 11, Number 3 (September 2013), p.854.
) Gil Troy, Why Moderates Make the Best Presidents:
73
University of Kansas Press, 2008), p.5.
George Washington to Barack Obama (Kansas:
74
61
62
63
64
65
66
67
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