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3-3. 関東「野生生物と共存する生物多様性豊かな森づくり」

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3-3. 関東「野生生物と共存する生物多様性豊かな森づくり」
3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
3-3.関東「野生生物と共存する生物多様性豊かな森づくり」
1) 基調講演
「野鳥と林業との共存を図る」
岩手県立大学名誉教授 由井正敏氏
1970年から現在まで、岩手県内にある28haのエリアで、野鳥の調査を
している。ここの森林は、現在は90年生になった。最近は、夏鳥(ヤブサ
メ、コサメビタキ、コムクドリなど)が日本で減ってきていることが分かった。夏鳥の減少は、越冬
場所である熱帯林の伐採が影響していると考えられる。夏鳥の中でもキビタキは増えており、鳥の総
数としては、40年間であまり変化はない。岩手県内のイヌワシも1970年代からモニタリングしてい
る。繁殖成功率は、一時期7割だったのが徐々に低下し、現在では1割となっている。イヌワシの雛
は、1つの巣で1羽しか育たない。個体群を維持するための繁殖成功率は3割必要であるが、このまま
だとあと30年でイヌワシは絶滅する計算になる。スギやヒノキの人工林の伐採植林が減り、 となる
動物が減少したことが要因の一つと考えられる。
野鳥が森林に果たす役割の1つが、害虫駆除である。鳥が害虫を食べてくれるためだ。人工林には鳥
が少ないので、巣箱を設置して鳥を増やし、害虫駆除をしている。実際に巣箱の設置実験を行ったと
ころ、巣箱がないところは鳥が少ないため、害虫が増えた。ただし、巣箱が多過ぎると となる害虫
が減ってしまい、結果として鳥を増やすことが出来ないので、バランスが大切である。また、長期的
には巣箱の代わりに木の穴を作るのが効果的であるということが分かった。さらに鳥は、木の実を食
べることで、種子散布にも役立っている。このように鳥や猿などの野生動物は、森林の生態系の流れ
そのものを正常にする役割がある。人間が直接、野鳥から利益を得るということは少ないが、森林を
介して恩恵を受けている。
森林を適切に管理し、階層構造が出来ると、鳥の数は倍近く増える。広葉樹を含んだ人工林は天然
林と変わらない数の鳥類が生息しており、鳥に限らず様々な生物の生息場所になっている。森林を守
るためには、樹洞木を保残し、鳥に合わせた巣箱を設置し、地域ごとの小規模の緑の回廊を作ること
が大切である。
北上高地には、イヌワシが沢山生息しており、主にノウサギや蛇などを捕食する。岩手県の調査場
所は、草地が減っているため、イヌワシの数も減っている。草地でなくても、アカマツ、カラマツな
どの林でも若い林(5m以下)ではノウサギは生息している。北上高地の繁殖データと植生、巣などの
状態を組み合わせて、統計解析すると、幼齢人工林(10年以下)、低木草地などが多いと繁殖率が高
まることが分かっている。現在の日本の伐採速度は平均して425年に一度だが、76年に一度伐採する
ことによりイヌワシを守ることが出来ることが分かった。また列状間伐も効果があった。縦方向の間
伐は水土保全上良くないので、横方向間伐の試験を実施中である。積み丸太でノウサギの隠れ家を
作ったら、ノウサギが増加し、隠れ家の利用率は80%と高かった。松茸が取れるという副産物もあっ
た。列状間伐をすると、明るい森林になり、生物も戻ってくることが分かった。
野生生物と共存する森林づくりのためには、保護区、共存区、利用優先区にゾーニングをし、管理
をしていくことが必要である。また、持続的に木材の生産をし、森林認証を取得し、木材を海外へも
輸出出来るようにする必要がある。岩手では、牛の放牧で笹を退治するなど、昔ながらの管理方法も
見直されている。また改正森林法では、生物多様性の保護をどうするかを含め、各自治体が地域の
NPOや学識経験者の意見を踏まえ、森林計画を作ることとしている。今後、森林保全において、地域
のNPOが大きな役割を果たすことになるだろう。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
2) 事例発表1
「ボランティアによる新しい森づくり」
奥多摩・山しごとの会 小井沼勉氏
奥多摩・山しごとの会は、奥多摩都民の森(体験の森)の通年林業講座
の修了生有志によって1997年につくられたボランティアグループで、奥多
摩地域の森を活動の場としている。そのひとつ、根の神沢は、人工林皆伐後、ニホンジカ(以下,シ
カと略す)による被害が激しく、植林されずにいた林地であり、急傾斜地であったため、土砂崩れの
恐れがあった。この地を早期に緑化することを目標に活動を始めたが、当初はどうすればよいのか手
探りの状態だった。そんな折り、偶然にも同じ林地で東京都林業試験場(現東京都農林総合研究セン
ター)がシカと共存する森づくりを考えており、山主さんとともに、お金をかけず、できるだけ手間
をかけず、シカとの共存を考慮した森づくりを共同で行う運びとなった。山主さんが場所を提供し、
植栽や管理方法などの設計や資材、苗木の提供を東京都農林総合研究センターが、設置作業を我々が
行うという連携である。2003年3月に苗木を植え、シカの食害から守るためにシカさんガード1号で
囲った。その後、我々が周回路を作成し、観察とメンテナンス作業を行っている。
この他、シカ被害対策としてシカさんガード2号、3号と試行錯誤を繰り返しながら、急斜面版シカ
侵入防止柵を東京都農林総合研究センターとともに開発した。この急斜面版シカ侵入防止柵は、凹凸
のある山地でもしっかりガードできる柵であり、栃寄のヒノキ人工林に我々が設置し、実証試験を
行っている。
10年かかわってきて、根の神沢に植えた樹やその周囲の植物が順調に生育したことに加え、人工林
と全く違い林相が季節ごと年を重ねるごとに、大きく変化していくことは、驚きだった。今後も活動
を続け、どのような森に育っていくのか、経過を見極めたいと思っている。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
3) 事例発表2
「東京のシカと森林」
(公財)東京都農林総合研究センター 新井一司氏
ニホンジカ(以下、シカと略す)と共存する森づくりの研究をしている。
まず、奥多摩・山しごとの会とともに取り組んだ頃の東京都のシカ事情を
紹介する。当時、東京都の奥多摩町では、造林木へのシカによる食害が多数報告され、2004年には、
林地から土砂が流出し、水道施設の取水口が塞がるといった甚大な被害が発生した。これを機に東京
都では、本格的にシカ対策に力を入れるようになった。シカの頭数が増えたのは、26年間にわたる捕
獲の禁止がひとつの要因と考えられている。現在は、東京都シカ保護管理計画により、地域をゾーニ
ングして、シカとの共生ゾーンと抑制ゾーンに区分けしている。東京都農林総合研究センターでは、
シカの糞の数から生息密度を推定する東京版シカ個体密度計算プログラムを開発し、分布図を作成し
ている。2011年時点では、激害地であった奥多摩町のシカの頭数は、捕獲により減少傾向にあるが、
その生息域は、青梅市や檜原村といった激害地の周辺へと広がりつつある。奥多摩・山しごとの会と
取り組んだ山は、現在、シカによる大きな被害もみられず、オニグルミを主とした多様性の高い森林
になっている。
4) 質疑応答・パネルディスカッション
モデレーター:鈴木
パネラー:林氏、由井氏、小井沼氏、新井氏
Q:天然林、人工林、二次林の定義は。
A:(林氏)天然林は、自然にできた森林。人工林は、人が植えてできた森林。二次林は、伐採後に実
生や萌芽によって更新されてできた森林。
Q:松枯れの状況について教えて下さい。
A:(林氏)昭和54年がピークで243万㎥。以降は減少し、4万㎥(平成21年度)ぐらい。被害発生
地域は拡大している。(北海道を除いて全ての県)
Q:富士山は緑の回廊に含まれているか。
A:(林氏)富士山にも緑の回廊が設定されている。
Q:緑の回廊の目標について教えて下さい。
A:(林氏)分断された林地をネットワーク化し移動経路を確保することで、動植物の生育・生息環境
を確保し、生物多様性の保全に資することが目標。特定の種に対する目標は設定していない。地球温
暖化の生物多様性への影響への適応策として、生育・生息に適さなくなった地域から他の地域に生息
出来るようにする役割も期待している。
Q:イヌワシとスキー場、ゴルフ場との共存は可能か。
A:(由井氏)ゴルフ場は通常低いところに出来るので、イヌワシの繁殖場所(標高600m以上)とし
ては難しいが、採 場所にはなる。スキー場は、イヌワシの幼鳥の飛行訓練の場所にもなっている
が、冬は雪に覆われ、ノウサギが日中活動しないので、イヌワシの生息場所には適さない。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
Q:イヌワシは、北上高地から奥羽山脈へは移動しないのか。
A:(由井氏)日本のイヌワシはブナ林に依存して生きている。世界的には草原や崖に生息しているの
で、ブナ林に依存しているのは珍しい。奥羽山脈は火山活動で出来ており、崖の岩場が崩れているた
め、良い営巣場所がなく、雪が多すぎる。本来は適さないところに必死で生きているので、数が少ない。
Q:由井氏の資料のP24の姫神試験地の幼虫フン量の変動で、1992年に巣箱区Aと対照区Bの棒グラ
フが逆転している理由は何か。
A:(由井氏)鳥が増え、虫の数が減り、鳥が虫の天敵まで食すようになったため、次の年に虫の数が
増え、幼虫フン量の変動が通年とは違う動きをしたと考えられる。巣箱を設置した地区は鳥の数が多
く、幼虫フン量が安定していると言える。このグラフの結果から、鳥の数が多い方が、生態系が安定
し、生物も多様になると考えられる。
Q:シカと人の関わりについて改善の見込みはあるのか。
A:(新井氏)東京都の場合だと、シカの個体数を管理すれば、被害を減らすことが出来る。モニタリ
ングをして、バランスを保っていくことが大切。
Q:シカを狩る猟師を増やす対策はあるのか。
A:(新井氏)東京都の場合は今のところ猟師を確保できている。他の地域は高齢化等により猟師の確
保ができないという問題がある。対策は国でも考えられているのではないか。
(林氏)国有林では職員自らが、罠を仕掛けて有害動物を捕まえるなどの取組みを行っている。
Q:シカ肉の食品利用は出来るのか。
A:(新井氏)奥多摩町では食肉処理加工施設がある。北海道ではエゾジカ用の加工施設がある。
Q:間伐材を放置するとメタンガスが発生するとあったが、木材全てに言えることなのか。
A:(由井氏)木材のCO2の吸収と排出のどちらが多いのか論議があった。最近の調査では、CO2の
吸収の方が多いという結果になっている。分解する時にメタンを出すので、腐食する前に人間が利用
した方が良いのではないかという議論になっている。
Q:植生が劇的に変化しているという話だが、具体的に動物と植物の変化を教えてもらえないか。
A:(小井沼氏)詳細な調査はしていないが、林床に光が入ることによりいろいろな植物が生えて、多
くの動物が来るようになった。最近は林道脇にカモシカを目撃したり、イノシシの活動跡も見られた
りする。昆虫も多様になった。季節ごと年を重ねるごとにどんどん植生が変わる、針葉樹人工林では
見られない変化である。
Q:針葉樹や広葉樹の天然林化をするにあたり、どのようにすればよいか。ブナ林を育てるのには時
間が掛る。
A:(由井氏)人工林に広葉樹を導入し、むやみに切らない。ケヤキとか材になる木を残す。いろいろ
な木を増やすと生物も多様になる。伐採した際に出てくる、ブナやナラなどの山引き苗を活用する。
階層構造を森林の中に作って生物多様性を保全する。
Q:下草刈りをどの程度行っているのか。生物多様性保護の計画などもあれば教えて欲しい。
A:(小井沼氏)針葉樹林(人工林)を植えた後、草丈に負けない樹高になるまで、5年間くらいは夏
に刈るというのがベース。広葉樹ではどの程度下草刈りをした方が良いのかについては、研究がない
と聞いている。現在は年2回程度下草刈りをしている。とくに、生物多様性保護を目的とした計画はし
ていない。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
5) みんなで学ぼう!森林の生物多様性 ツアー報告 関東
【場所】東京都奥多摩
【月日】2011年9月10日実施
【天候】晴れ
【参加者数】 36名 【現地案内】
奥多摩・山しごとの会 5名
山主 木村康雄氏
岐阜県立森林文化アカデミー 原島幹典氏
東京都農林総合研究センター 新井一司氏
奥多摩 根の神沢
現地に到着し、準備をする参加者。当日は晴れ
の天候で、30度を超す暑さであった。現地まで
の道路は舗装であるが、道幅が狭いため、マイ
クロバス(2台)を使用した。
奥多摩 根の神沢
森林入口。スギ、ヒノキの植林地。急勾配なの
で、慎重に降りていく参加者。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
奥多摩 根の神沢
人が十分歩ける間隔に間伐されているが、林床
まで光が届いている場所は少ない。このため、
林床植物もあまり多くみられない。最近では、
木材としての利用はほとんどないとのこと。
奥多摩 根の神沢
山主の木村氏より説明を受ける。この後、地元
の奥多摩出身で、現在、岐阜県立森林文化アカ
デミー 教授の原島氏からも林業や、奥多摩の
人工林の現状について説明をしていただいた。
奥多摩 根の神沢
森林入口。スギ、ヒノキの植林地。急勾配なの
で、慎重に降りていく参加者。
奥多摩 根の神沢
当地より奥多摩の市街地を望む。根の神沢は市
街地の北側の急勾配の山に位置する。「奥多
摩・山しごとの会」は、当地において、植林や
「シカさんガード」の設置などの森林ボラン
ティア活動を行っている。
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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
栃寄森の家
昼食会場として使わせていただいた。入場は無
料で、周辺の地図など置いてある。飲みもの、
アイスクリームなど購買できる。東京都の施
設。
栃寄
ヒノキ人工林の視察。ここでもシカの食害があ
るため、植林地をフェンスで囲っている。「奥
多摩・山しごとの会」のフィールドの一つ。
栃寄
ヒノキ人工林を囲っているスチールフェンス。
シカが下から侵入するのを防ぐため地表にも1
mほど裾を伸ばして張り巡らせてある。看板は
シカの食害防止実験中の看板。
栃寄
人工林視察後に、生物多様性に親しむ野外アク
ティビティとして「はっぱじゃんけん」を行っ
ているところ。観察した植物の葉をスケッチし
ている。
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