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上級日本語クラスにおける読解教材について −夏季日本語教育実習での

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上級日本語クラスにおける読解教材について −夏季日本語教育実習での
2007 年度
日本語教授法及び実習 研究レポート
上級日本語クラスにおける読解教材について
−夏季日本語教育実習での実践を通して−
名古屋大学大学院 国際言語文化研究科
日本言語文化専攻 博士前期課程
野田 大志
1.はじめに
筆 者 は 、平 成 19 年 の 7 月 30 日 か ら 8 月 3 日 に か け て 行 わ れ た 夏 季 日 本 語 教
育実習(於名古屋大学大学院国際言語文化研究科)に実習生として参加し、花
ク ラ ス(「 花 ク ラ ス 」は 上 級 レ ベ ル の 日 本 語 学 習 者 3 名 の ク ラ ス の 呼 称 で あ る 。)
の 授 業 を 担 当 し た * 1。
本稿では、花クラスでの授業実践を踏まえ、上級日本語クラスにおける読解
教材について考察する。その際主に、実際に実習において使用した読解教材の
うち、新聞と雑誌という二つの教材について、その教材の選定理由、実際の授
業実践によって明らかになった長所と短所、その教材に対する学習者の反応、
及び今後上級日本語クラスで使用する読解教材の選定における検討課題、とい
った点について検討することとする。
2.学習者のニーズ及び学習目標について
本節では、実習の前段階に行ったインタビューやアンケートから、読解につ
いて学習者のどのようなニーズが得られたのか、また、それを踏まえて読解に
ついて花クラスでの学習目標をどのように設定したのかについて確認しておく。
今 回 、 花 ク ラ ス に 属 す る こ と に な っ た 学 習 者 3 名 *2 に 共 通 す る の は 、 名 古 屋
市 内 の 小 ・ 中 ・ 高 等 学 校 で ALT( 英 語 )と し て 勤 務 し て い る 英 語 母 語 話 者 、と
いう点である。
( そ れ ぞ れ 、母 国 は カ ナ ダ 、イ ギ リ ス 、オ ー ス ト ラ リ ア 、と 異 な
り 、 日 本 滞 在 期 間 も 、 日 本 語 学 習 歴 も 異 な っ て い る 。)
* 1 夏 季 日 本 語 教 育 実 習 の 全 体 像 、花 ク ラ ス の 授 業 の 流 れ や 学 習 者 の 情 報 等 に つ い て 、詳 し く は『 夏
季日本語教育実習報告書』
(名古屋大学大学院国際言語文化研究科日本言語文化専攻のホームページ
上で公開)を参照されたい。なお、花クラスは、二人の実習生(筆者とレベッカ・テイラー氏)で
担当し、基本的に一人が授業をしている際にはもう一人がティーチングアシスタントとしての役割
(学習者の読解の補助や、ディスカッションへの参加)を果たした。
*2 学 習 者 の 詳 し い プ ロ フ ィ ー ル に つ い て は 、
『夏季日本語教育実習報告書』
(名古屋大学大学院国際
言語文化研究科日本言語文化専攻のホームページ上で公開)を参照されたい。
1
実習参加者を対象として行った、メール利用によるニーズ調査のためのアン
ケー トや 、対 面 イン タビ ュ ーの 結 果、前述の 3 名 が総 合的 に ほぼ 同 程度 の日 本
語 能 力 を 有 す る と 判 断 で き 、 同 一 の ク ラ ス と し た 。( こ の 3 名 は 、 日 本 語 能 力
に お い て 得 意 な 技 能 、不 得 意 な 技 能 は 異 な る も の で あ っ た 。こ の 点 は 後 述 す る 。)
3 名は共通して、日本語を話す力と聞く力が相対的に高く、日常的な日本語
における(特に砕けた会話における)コミュニケーションについては大きな支
障はないということが、筆者を始めとする教師(実習生)側からも判断でき、
また、学習者本人もそのような意識を有していた。そして、3 名それぞれ、若
干のニーズの相違はありつつも、最も必要とし、高めたいと考える技能は日本
語の文章の読解であるということが共通していたため、5 日間の花クラスでの
授業を通して、読解の指導に重点を置いて行うこととした。
花 ク ラ ス の シ ラ バ ス を 作 成 す る に あ た り 、 ニ ー ズ 調 査 に 基 づ き 、 (1)に 示 す 5
点を 花ク ラ スの 学習 目 標と し て設 定し 、ま た 花ク ラス の 学習 者 3 名に も、授業
初日にこの目標を提示した。
(1)1.読 解 に つ い て : よ り ス ム ー ズ に 読 め る よ う に な る こ と
2.話 題 に つ い て : 読 め る ・ 話 せ る 話 題 を 広 げ る こ と
3.丁 寧 語 に つ い て : 丁 寧 語 を よ り 自 然 に 使 え る よ う に な る こ と
4.発 音 に つ い て:日 本 語 ら し い イ ン ト ネ ー シ ョ ン で 話 せ る よ う に な る こ
と
5.文 法 に つ い て : 難 し い 文 法 を 使 え る よ う に な る こ と
(1)に 提 示 し た 5 つ の 目 標 の う ち 、読 解 指 導 に 関 す る 目 標 は 1 と 2 で あ る 。こ の
二つの目標を達成するためには、5日間(1日4コマ)という限られた期間の
中でより多くの、そしてより様々なジャンルの文章を学習者に読ませる必要が
あると考えた。そこで、筆者は読解の指導を、もう一人の花クラス担当の教師
2
(実習生)であるテイラー氏はアクセント・イントネーション、丁寧語、文法
の指導を主に行ったが、指導内容に関わらず、5 日間全ての授業で必ず何らか
の読解教材を配布し、授業に用いることとした。
な お 、学 習 者 3 名 は 、読 解 力 を 高 め た い と い う ニ ー ズ は 共 通 し て い た も の の 、
具体的にどのようなジャンルの文章を読みたいかということについては特に希
望が出されず、また日常生活において3人ともマンガを読む以外に日本語の文
章を読む機会がほとんどないという点で共通していた。そのため、コース終了
後に少しでも日本語の文章を読もうという意欲が高まるような文章で、かつ、
日常生活において触れる機会の多い文章を教材として選定する必要があると考
えた。
次節では、具体的に筆者が担当した授業において使用した二つの読解教材に
ついて検討する。
3.上級日本語クラスにおける読解教材について
3.1
はじめに
本節では、夏季日本語教育実習において、花クラス(上級日本語クラス)で
筆者がどのような読解教材を選定したか、その選定の意図はどのようなもので
あったか、その教材を使用してどのような授業を行ったか、その教材を使用し
たことで学習者からどのような反応が得られたか、について、新聞と雑誌とい
う二つの教材に絞って考察する。
なお、各時間の終了時に、学習者にアンケート用紙の記入を依頼した。この
アンケートの質問項目は以下の通りである。
①読解教材(読み物)そのものに関する難易度・面白さ・役に立ったか、
3
の3点(4段階評価)
②読解教材を使用した活動(授業)について難易度・面白さ・役に立った
か、の3点(4段階評価)
③読解教材を読んでみた感想や活動の感想、その他授業に関するコメント
についての自由記述
なお、このアンケート結果も、以下における考察の検討材料とする。
3.2
個々の読解教材について
花 ク ラ ス に お い て 筆 者 が 担 当 し た 授 業 で は 、以 下 の 5 つ の 読 解 教 材 を 使 用 し
た。
①国際交流基金のホームページ「みんなの教材サイト」に掲載されている
「 日 本 人 の 食 生 活 」 と い う 読 み 物 *3
② 読 解 教 育 の た め の ホ ー ム ペ ー ジ 「 リ ー デ ィ ン グ チ ュ ウ 太 」 *4 に 掲 載 さ れ
ている「日本人の喜怒哀楽」という読み物
③日本の新聞、1つは日本の雑誌(日経ホーム出版社『日経トレンディ』
2007 年 8 月 号 )
④ 読 売 新 聞 の ホ ー ム ペ ー ジ 「 YOMIURI ONLINE」 に 2007 年 8 月 1 日 に
掲 載 さ れ た 、 外 国 人 児 童 の 不 就 学 に 関 す る 記 事 *5
この内、本節では、日本の新聞と雑誌について、具体的に取り上げることと
* 3 ht tp : / / mo m ij i .jp f .go .j p/ k yo z a i / Re so u r c e s/ Re a d in g/ Re a di n g_ in de x . ph p
* 4 ht tp : / /c o nte st .t h i nk q ue st .gr.j p/ t qj 1 9 9 9 / 2 01 9 0 /j p n/ c h ujo /c h ujo 0 5 . ht m l
* 5 ht tp : / /w w w. yo m iu r i. c o . jp /k yo i k u / ne w s / 2 0 0 7 0 8 0 1u r 0 1 .h t m
4
を参照されたい。
を参照されたい。
を参照されたい。
する。
3.3
新聞を使用した授業
まず、本節では、日本の新聞を使用した授業について考察する。
花クラスにおける新聞を使用した授業では、日本の新聞の特徴を知り、実際
に新聞記事を読むことに挑戦してみる、ということを目標とした。これは、3
名の学習者がいずれも、日本の新聞を読んでみたいという意識がないわけでは
ないものの、
( 母 国 で は 日 常 的 に 新 聞 を 読 ん で い た に も 関 わ ら ず )実 際 に 日 本 の
新聞を読んだ経験がないという点で共通していたため、授業を通して従来でき
なかったことができたという達成感を得るためである。
と こ ろ で 、日 本 語 教 育 に お け る 読 解 の 指 導 に 関 す る 多 く の 先 行 研 究 に お い て 、
文章を読む前に学習者の、文章の内容に関する背景知識を活性化することの必
要 性 が 指 摘 さ れ て い る 。( 例 え ば 、 小 川 ( 19 91) で は 、 実 生 活 で の 読 み の 環 境
に近づけるために、文章を読む前に必ず関連する知識を喚起させておくべきで
あ る 、 と い う 点 が 述 べ ら れ て い る 。)
しかし、例えば新聞は、記事において扱う内容そのものは日本の新聞が他の
国の新聞と大きく異なっているわけではないが(この点は、授業の中でも学習
者 か ら 指 摘 さ れ た )、見 出 し や 記 事 の 配 置 を は じ め と す る 新 聞 全 体 の 構 造( レ イ
アウト)は特徴的であり、この構造に慣れていない学習者は多いのではないか
と考え、筆者の担当する授業においてはその構造について指導することから始
めた。
具体的に新聞を扱った授業の流れは以下の通りである。まず、授業当日に購
入した、朝刊3紙(朝日新聞・読売新聞・毎日新聞)を学習者に渡し、筆者は
中日新聞を手に取った。そして学習者に、筆者は自宅で中日新聞を読んでいる
が、他の 3 紙については詳しく知らないので、学習者に全体を読んでもらい、
5
後からその新聞の特徴を一人一人発表してもらうように伝えた。そして、学習
者それぞれが新聞を読む前に、日本の新聞の一般的な構造について学習者に指
導 し た 。 こ こ で は 、 主 に (2)に 示 す よ う な 点 に つ い て 、 実 際 の 新 聞 を 手 に 取 り 、
必 要 に 応 じ て 見 出 し や 記 事 、罫 線 を 指 差 し な が ら 指 摘 し た 。
( こ の 際 、特 に 、一
つの紙面につき、記事がどのように分かれているか、それはどのように判断で
きるのか、記事をどのような順序で読んでいくべきか、について重点的に指摘
す る よ う に し た 。)
(2)・ 見 出 し を 見 る だ け で 記 事 の 内 容 の 概 略 が つ か め る 。
・見 出 し は 、助 詞 の 省 略 が な さ れ た り 、名 詞 で 文 が 完 結 す る な ど 、
(文)
構 造 が 特 殊 で あ る 。 *6
・記事の最初に要旨がまとめてあることが多い。
・新聞記事は縦書きなので、縦に読む必要がある。
・記 事 の か た ま り と 記 事 の か た ま り と の 間 は 線 で 区 切 ら れ て い る こ と が
多い。
・記事の終わりに氏名が書かれている場合は、その記事を執筆した記者
を示している。
以 上 の よ う な 点 を は じ め と し て 、新 聞 の 構 造 を 指 導 し た 後 、(3)に 示 す よ う な 点
をホワイトボードに書き、この点に基づいてそれぞれ異なる新聞社の新聞を実
際に読み、全体像を把握するように指示した。
(3)・ど ん な ジ ャ ン ル の 記 事 が 何 ペ ー ジ 目 に 、何 ペ ー ジ 分 く ら い 掲 載 さ れ て
いるか?
* 6 こ の 点 は 、 立 松 ( 1 9 9 0)に お い て も 指 摘 さ れ て い る 。
6
・
( 文 章 の 書 き 方 、文 字 の 大 き さ 、色 使 い を は じ め と し て )読 み や す い 点
は?読みにくい点は?
・興味深い記事、面白そうな記事は?
・母国の新聞と比べて、似ている点は?異なる点は?
そ し て 、20 分 ほ ど 使 っ て 学 習 者 に 新 聞 に 目 を 通 し て も ら い 、前 述 の 点 に つ い て
発表してもらった後、最後に筆者が朝日・読売・毎日・中日の 4 紙について、
簡単な違い(購読数の違い、それぞれの新聞において重視しているジャンル、
それぞれの新聞社の主張の違いなど)について説明し、授業を終えた。
授業後のアンケートや学習者との会話の中から、この授業では特に、前半で
行った、教師が学習者に新聞の構造を説明する、という試みに対して良い反応
が 得 ら れ た 。例 え ば 、ア ン ケ ー ト * 7 に は 、
「これまでこのような活動をしたこと
が な か っ た の で 、 と て も 面 白 か っ た 。」「 と て も 役 に 立 っ た 。 日 本 の 新 聞 は パ ズ
ルのようだが、この授業を受けるまではそのパズルの全体像が掴めなかったか
ら 。」「( 新 聞 の 構 造 と い う あ る 種 の ) 日 本 の 文 化 を 勉 強 す る こ と が で き た 。」 と
書かれていた。
また、授業後に、3 名の学習者の内、最も語彙力(漢字の理解力)が高い学
習者は、新聞の構造を理解できたことで新聞を読むことが苦ではなくなったと
い う こ と を 述 べ た 。 残 り の 2 名 は や や 語 彙 力 が 低 い た め 、( ル ビ が な い 状 態 で )
具体的な記事を精読することまではできないものの、新聞の構造が分かったた
め 今 後 は 語 彙 力 を 伸 ば し て 新 聞 を 読 む 練 習 を し て み た い 、と い う こ と を 述 べ た 。
したがって、学習者の読解力自体を高めるまでには至らなかったものの、この
授業での活動が、新聞という身近にある読み物を(コース終了後に)読んでみ
ようという学習者の動機付けに繋がったことは意義があったと考えられる。
*7 ア ン ケ ー ト は 英 語 で の 回 答 で あ っ た が 、 本 稿 で は 筆 者 が 日 本 語 訳 し た も の を 記 載 し た 。
7
従 来 、 市 販 の 上 級 日 本 語 の 読 解 教 材 *8 な ど に お い て も 新 聞 記 事 が 題 材 と な る
ことが少なくないが、今回の授業を通して、新聞を教材として選定する場合、
何らかの記事をピックアップしその記事の内容を学習者に把握させることだけ
でなく、新聞全体を教材として使用し、前述のような活動を通して、構造・内
容を共に含めた新聞の全体像を把握させるということも授業と、それをきっか
けにした自律的学習価値との関連において価値があるのではないかと感じた。
但し、前述の通り、今回行ったような活動に留まると、新聞を教材として使
用することで学習者の読解力そのものを向上させることには直接的には繋がら
ず、また、今回の活動は教師主導であり、実際の日常生活で新聞を読む環境に
近いというわけではない、という問題点がある。これらの問題点を解決する上
では、例えば、教師が新聞の構造を説明した後、それぞれの学習者に見出し読
みをしてもらい、その中で興味を持った記事を一つピックアップし、精読させ
る、という活動も(速読・粗読と精読を一つの活動の中で両立させるという上
でも)有効性が高いのではないか、と考えられる。
3.4
雑誌を使用した授業
次に、本節では、雑誌を使用した授業について考察する。
花 ク ラ ス に お い て 雑 誌 を 使 用 し た 授 業 で は 、( そ れ ま で に 学 習 者 3 名 と も 、
ほとんど日本の、日本人向けの雑誌を読んだ経験がなかったため)実際に日本
の雑誌を読んでみるということを目標とした。教材として選定した雑誌は、日
経 ホ ー ム 出 版 社 の『 日 経 ト レ ン デ ィ 』2007 年 8 月 号 で あ る 。こ の 雑 誌 は 、日 本
の 様 々 な 流 行 に つ い て 取 り 上 げ る 月 刊 誌 で あ る が 、 2007 年 8 月 号 で は 冒 頭 で 、
雑誌全体の 4 分の1以上の分量を割いて、
「 07 年 上 半 期 ヒ ッ ト 商 品 ラ ン キ ン グ 」
* 8 柿 倉 侑 子 他 ( 2 0 0 0 )『 日 本 語 上 級 読 解 』( ア ル ク ) が そ の 一 例 で あ る 。
8
と い う 特 集 が 組 ま れ て い た 。こ の 特 集 で は 、ま ず 最 初 の ペ ー ジ に 、
(「 売 れ 行 き 」
「 新 規 性 」「 市 場 創 出 性 」「 影 響 力 」 と い う 四 つ の 観 点 に 基 づ い て 編 集 部 が 選 考
し た )、 2007 年 上 半 期 の ヒ ッ ト 商 品 の 1 位 か ら 15 位 * 9 ま で の リ ス ト が 掲 載 さ
れており、次のページからは、1 位から 5 位までは 2 ページ分を使って、6 位
か ら 15 位 ま で は 1 ペ ー ジ 分 を 使 っ て 、 そ の 商 品 が ど ん な も の か 、 ヒ ッ ト に 至
った経緯やヒットの理由、その商品を使用する層、その商品の社会への影響力
などについて、カラーの写真や図表などをふんだんに用いて説明されていた。
この雑誌を使用した授業の流れは以下の通りである。
(以下に示す活動をでき
ると考えたことが、この雑誌の記事を読解教材として選定した大きな理由の一
つ で あ る 。) ま ず 学 習 者 に 、 2007 年 上 半 期 ヒ ッ ト 商 品 ラ ン キ ン グ の 、 順 位 と 商
品名のみを記載したリストを見せ、このリストが何を表しているのか推測して
答 え て も ら っ た 。( こ の 時 点 で 、 学 習 者 か ら 正 解 は 出 て こ な か っ た 。) そ し て 、
実際の雑誌を見せながら、どのような雑誌なのか簡単に説明し、最初に提示し
たリストが、雑誌の中で特集されているヒット商品ランキングであることを説
明した。そして、学習者それぞれに対し、ランキングに掲載された商品の中で
知っているものはあるか、実際に使用したことがあるものは何か、全く知らな
い も の は 何 か 、に つ い て 答 え て も ら っ た 。
( 結 果 と し て 、学 習 者 が 名 前 は 聞 い た
こ と が あ る も の の 、具 体 的 に 知 ら な い と い う も の が 多 く 存 在 し た 。こ の 状 況 は 、
こ の 時 点 で は 教 師 も 同 様 で あ っ た 。) そ し て 、 リ ス ト の 中 か ら 、 3 つ の 商 品 ( 1
位 ∼ 5 位 か ら 1 つ 、6 位 ∼ 15 位 か ら 2 つ )を 選 ん で も ら い 、記 事 を 読 ん だ 上 で 、
他の学習者に後からその商品について紹介してもらう、ということを伝えた。
そ し て 、そ れ ぞ れ の 学 習 者 に 、選 ん だ 商 品 に 関 す る 記 事 の カ ラ ー コ ピ ー * 1 0 を 渡
* 9 1 位 : w i i& w i i ス ポ ー ツ 、 2 位 : ク ロ ッ ク ス 、 3 位 : ビ リ ー ズ ブ ー ト キ ャ ン プ 、 4 位 : 東 国 原 知
事 、 5 位 : ク リ ス ピ ー ・ ク リ ー ム ・ ド ー ナ ツ 、 6 位 : PA SM O / n a n ac o 、 7 位 : 人 生 銀 行 、 8 位 : フ
リ ク シ ョ ン ボ ー ル 、9 位:東 京 ミ ッ ド タ ウ ン 、1 0 位: A X E、1 1 位:メ ガ マ ッ ク 、1 2 位:A CU O 、
13 位 : バ ル サ ン 氷 殺 ジ ェ ッ ト 、 14 位 : ア ラ ウ ー ノ 、 15 位 : 和 漢 箋
* 10 カ ラ ー コ ピ ー を 渡 し た こ と に 対 し て 、 学 習 者 か ら 良 い 反 応 が 得 ら れ た 。 読 解 教 材 の 選 定 に あ た
っては、その教材の色を含めたデザインを考慮することも、学習者の読解の意欲を高める一つの要
素となりうるのではないかと考えられる。
9
し 、15 分 程 度 で 読 ま せ た 。こ の 際 、イ ン フ ォ メ ー シ ョ ン ギ ャ ッ プ を 活 用 す る た
め、記事を読んでいる間は他の学習者にその記事を見せないように指示した。
(なお、学習者それぞれが雑誌の記事を読んでいる間は教師とティーチングア
シスタントはそれぞれの学習者の近くに行き、読めない漢字や意味の分からな
い 語 彙 に つ い て 説 明 す る な ど 、 読 解 の 補 助 を 行 っ た 。) 15 分 後 、 学 習 者 一 人 一
人、順番に、記事に基づいてその記事で扱われている商品について他の学習者
に紹介させ、その商品についてもっと知りたいこと、疑問に思うことについて
発表している学習者に質問させる、という活動を行った。
この雑誌を教材として使用したことで、学習者からの反応として最も大きか
ったのは、記事の内容が面白く、新鮮な話題であるため、読もうという意識、
また、他の学習者の発表(商品の紹介)を聞いて質問しようという意識が高ま
った 、とい う 点で あっ た 。今回 の 学習 者は 3 人と も名 古 屋市 内の 小 ・中 ・高 等
学校で勤務しているが、学校の生徒や同僚と日本の流行について話す機会が少
なくないということで、この活動を通して知った知識はすぐに日常生活での日
本 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て 活 用 で き る 、と の こ と だ っ た 。
( ま た 、こ
のことから、今後この雑誌を続けて読んでみたい、という意志を述べた学習者
も い た 。)
また、この活動では、それぞれの学習者が他の学習者が読んでいる記事に書
かれた商品について詳しい知識や情報はほとんどない、という状況であったた
め、他の学習者に日本語で正確に、分かりやすく記事に書かれた商品について
紹 介 す る た め に は 、そ れ だ け そ の 記 事 を 正 確 に 、深 く 読 む 必 要 が あ る 。そ し て 、
その商品について紹介した際に、その紹介が分かりにくいという質問が他の学
習者から出た際には、紹介した学習者は再度記事を確認して紹介し直す、とい
う 場 面 も 少 な か ら ず 見 ら れ た 。 し た が っ て 、「 話 す 」 た め に 「 読 む 」、「 読 め る 」
ことで「話せる」というように、一つの活動の中で「読む」ことと「話す」こ
とという、少なくとも二つの技能を意識的に高めることが可能となる、という
10
点 も こ の 教 材 を 利 用 す る こ と の 利 点 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ る 。岡 崎 (1990)は 、
日本語上級学習者が、その日本語能力を中間言語的なものから第二言語に飛躍
的に接近させるためには、日本語のみをたよりにして「伝達の座礁」を切り抜
けるための相互交渉をいかに多く経験するかにかかっている、としている。こ
の点を達成するということを考える上でも、今回の授業における、読解をベー
スにした学習者間のインタラクションという活動には意義があるのではないか
と考えられる。
また、この授業で扱った雑誌は日本人の成人を対象としており、豊富な写真
や図表が読解の助けになるものの、記事の中には難解な語や表現もあり、大意
を掴むことは容易ではなかったため、この活動を通して現時点での自身の日本
語 能 力 を 改 め て 認 識 す る こ と が で き た 、と い う 点 を 2 人 の 学 習 者 が ア ン ケ ー ト
に書いていた。
( な お こ の 点 は 、当 初 教 師 が 雑 誌 を 教 材 と し て 選 定 す る 際 に 意 識
していなかったことであったため、今後、読解教材の内容やレベルと学習者の
自己評価との相関関係、という観点についてより検討を重ねてみたいと考えて
い る 。)
次に、この活動を通して気付いた、今回のような雑誌の記事を教材として使
用する際の課題は、学習者の読解達成度のより正確な評価である。
今回扱った記事は、学習者の読解への興味を高めるために、内容としても新
鮮で話題性が高く、豊富な写真や図表によって記事の内容理解が促進されるよ
うなものを選定した。この活動では、学習者が記事を読んだ後で他の学習者に
その記事で扱われている商品をどの程度正確に、具体的に紹介できるか、とい
うことによって教師が学習者の読解力を評価することとなった。しかし、学習
者は、仮に記事をしっかり読み込めていなくとも、写真や図表からその商品に
ついて想像したり、既存の知識を活用することで、ある程度その商品について
他の学習者に紹介することも可能である。
( 実 際 に 、そ の よ う な 紹 介 の 仕 方 を し
た 場 合 も あ っ た 。)し た が っ て 、こ の よ う な 問 題 点 を 解 決 す る た め に は 、事 前 に
11
教師が選定した読解教材を細部に渡って読み、学習者がその文章を正確に読め
ているかどうか判断しにくいような場合は、必要に応じて、その文章を正確に
読むことでしか答えられないような質問を学習者に与える必要があると感じた。
4.今後の課題
最後に本節では、花クラスにおける読解指導全体を踏まえ、読解教材の選定
に関する今後の検討課題を 5 つ述べる。
ま ず 、授 業 を 通 し て 、ま た 授 業 後 の ア ン ケ ー ト の 結 果 を 通 し て 、
(少なくとも、
今回の花クラスの学習者のように、学ぶ意欲の高い学習者にとっては)読解教
材の難易度と読解への意欲との間に相関関係は見られず、むしろ内容の興味深
さと読解への意欲との間に高い相関関係が見られるということが分かった。そ
して、学習者にとっての内容の興味深さに関わる要素としては、題材の新鮮さ
や話題性、学習者の日常生活への関与の度合い、という点が大きいということ
も分かった。このことを踏まえると、既に市販されているような読解教材に関
しては、殊更日本の特徴や日本と他の文化との相違を強調しているものが少な
くないという点や、
(その教材が出版された時点では新奇な話題であったとして
も少しでも年月が経ってしまうと)題材の新鮮さに欠ける、という点から、問
題も大きいと考えられる。したがって、教師は常に身近にある様々なジャンル
の文章を読み、
( 学 習 者 の ニ ー ズ も 考 慮 し て )教 材 と し て 使 用 で き る も の は ピ ッ
クアップして精読する、という作業が常に必要であると考えられる。また同時
に読解教材の選定の前提として、幅広い話題に対応できるように、常に時代の
流れに敏感であることも求められると考えられる。
次に、アンケートの結果から、どの学習者も読解を通じて理解する語彙や漢
字が増えたことに高い価値を見出していることが分かった。今回の実習では、
学習目標を設定し、教案を練る段階で、文章の読解という点に主眼を置いてい
12
た が 、そ の 中 で の 語 彙 や 漢 字 の 理 解 力 の 向 上 と い う 点 を ピ ッ ク ア ッ プ し て 考 え 、
そのための活動を具体的に考える、ということに欠けていた。今後、読解活動
の中でこの能力の向上を効率的に行う方策についてより具体的に検討すること
に加え、読解教材の中に一般的に理解する必要性や意義が高いような語彙や漢
字が多数使用されているかどうか、という点を読解教材の選定にあたっての一
つの要素とする必要もあるのではないかと考えられる。
3 点目に、既に前節で述べた通り、今回の授業を通して、学習者が読解活動
を通して自身の日本語能力の自己評価を行っている場合が多々あることに気付
いた。この点について今後より意識化し、読解教材と学習者の日本語能力の自
己評価との相関関係についても探ってみたいと考えている。
4 点目に、今回の授業では各授業後に読解教材の話題に関して学習者と教師
とでディスカッションを行ったり、その中で日本人の意見を聞いてみたいとい
う点をピックアップしておいて最終日の授業でそのいくつかのトピックについ
て日本人ゲストを教室に招待してディスカッションをする、という機会を設け
た。これは、筆者にとっては、学習者に毎回の授業で扱う教材を読む動機、目
的意識を高めること、そして静的ではなく動的に読解を行うことを念頭におい
た上でのことであった。しかし、実習終了後に欧米圏の留学生と話す機会の中
で 、( 今 回 の 花 ク ラ ス の 3 名 の 学 習 者 を は じ め ) 少 な く と も 欧 米 圏 の 学 習 者 は
(日本人の相対的な特徴とは対照的に)そもそも文章を批判的に読むことがで
き、教師が意図せずともある程度何らかの意識を持って動的に読解を行うこと
ができる、ということが分かった。この点を踏まえると、今後欧米圏の学習者
を対象に読解の指導をする場合、その教材によって、求められた情報を適切に
文章からピックアップする能力を高める活動ができるか、という観点から選定
する必要があり、かつ、そのような効率的な活動はどのように行うべきか、と
いう点について具体的に検討していく必要があると感じた。
( 実 際 に 、今 回 の 授
業では、教師が、与えた読解教材から読み取ってほしいと意図する範囲を超え
13
て 議 論 が 活 発 化 し て し ま う よ う な 場 面 も あ っ た 。)
5 点目に、今回の授業では基本的に、ある教材を使用した活動においては粗
読 を 指 示 し( 例 え ば 新 聞 を 使 用 し た 授 業 )、あ る 教 材 を 使 用 し た 活 動 に お い て は
精 読 を 指 示 す る( 例 え ば 雑 誌 を 使 用 し た 授 業 )、と い う よ う に 、予 め 教 師 か ら 精
読、粗読を指示した。限られた期間の中で様々な構造、内容の読解教材に触れ
て も ら う と い う 上 で は や む を え な い こ と で は あ っ た が 、 今 後 は 、 駒 井 (1990)や
小 川 (1991)も 指 摘 す る よ う に 、読 解 教 材 の 種 類 や 読 解 の 目 的 に 合 わ せ て 、精 読 、
多読、粗読の何れか適当な読み方を選び、その読み方で文章全体の意味の把握
を可能にさせる、という、より現実的な読解能力の向上を実現すべく読解教材
を選定し、読解活動を工夫する必要があると考えている。
以上の 5 点を踏まえ、今後、本稿において主張した点の妥当性を、実際の日
本語教育の現場における実践の中でより客観的に検証していきたい。
[参 考 文 献 ]
岡 崎 眸 (1990) 「 第 二 言 語 習 得 の 飛 躍 を 目 指 す 上 級 指 導 − 討 論 活 動 の あ り 方 − 」『 日 本 語 教
育 』 71 号 .
小 川 貴 士 (1991 )「 読 み の ス ト ラ テ ジ ー , プ ロ セ ス と 上 級 の 読 解 指 導 」『 日 本 語 教 育 』 7 5 号 .
川 口 義 一 ・ 横 溝 紳 一 郎 (2005 )『 成 長 す る 教 師 の た め の 日 本 語 教 育 ガ イ ド ブ ッ ク 上 』
じ書房.
駒 井 明 (1 990) 「 上 級 の 日 本 語 教 育 」『 日 本 語 教 育 』 7 1 号 .
立 松 喜 久 子 (19 90)「 上 級 学 習 者 に 対 す る 読 解 指 導 」『 日 本 語 教 育 』 72 号 .
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