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為替運用に関する考察: 市場のひずみに乗じた投資

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為替運用に関する考察: 市場のひずみに乗じた投資
為替運用に関する考察:
市場のひずみに乗じた投資
国債の大量発行とアグレッシブな金融緩和策に後押しされて、以前よりも米・欧・日の投資家は海外投
資のメリットに目を向けるようになってきている。確かに投資家の大半は、外国資産へは殆ど投資して
いない。このいわゆる「ホーム・バイアス」の現象は広範に見られるが、なぜこれほど一般的になってい
るのかについては、長い間理由がわからなかった。地理的に近い資産にアロケーションを集中させると
いう合理的とは言えない投資判断をするのは、海外市場に不案内であるからというのが最大の理由だ
という説明がよくなされる。
我々の経験もこの見方を裏付けるものである。すなわち、投資家は為替の過度のボラティリティおよび
決定要因に対する馴染みのなさから投資意欲をなくすようである。実際、GDP成長率や輸出・輸入高と
いった経済ファンダメンタルズに殆ど無関係に、ある通貨から別の通貨へと資金が忙しく動き回ってい
るという印象を抱くのも無理はない(図表1)。
それにも拘らず、海外市場に資産の分散を図ることにより、ポートフォリオ・リターン効率性の向上(より
低いリスクで同等のリターンを上げること)が可能であることに変わりはない(脚注1)。本稿では、投資
家が海外投資を考える際に直面する根本的な問題(ビッグ・クエスチョン)、すなわち為替リスクをヘッジ
すべきか否か、それからアクティブ運用をすべきかについて考察する。根本的な問題に対する答えは常に
そうだが、この場合もやはり「それは時と場合による」。次に、為替市場における投資判断について考察
する場合のより明確な枠組みを示したいと思う。
ヘッジすべきか、なさざるべきか(それが問題だ)
市場リスクの基準であるベータ値に対し投資家が期待するリターンは通常プラス・サム、すなわち取っ
たリスクに見合ったリターンが得られると考えられている。ベータとリターンは景気サイクルによって大
きさが変わるものの、すべての投資家の
図表1
投資理論である。しかし、これは為替の
経済活動とグローバルの通貨フローは無関係
Global Currency Flows Unconnected with Economic Activity
場合にはあてはまらない。
1,100
グローバルの為替トレード高
1000
グローバルの名目GDP
900
グローバルの輸出高
米ドル(兆)
800
700
600
500
400
300
200
100
0
1989
1992
1995
出所:国際決済銀行(BIS)
、国際通貨基金(IMF)
1998
2001
2004
2007
2010
為替リスクは非効率なノイズと見なさ
れるが、それは正しい。すなわち相応の
リターンの上昇なしに、リターンのボラ
ティリティのみが上昇する。言い換える
と、ベータ・リターンなきベータ・リスク
が存在する。過去25年間におけるバー
クレイズ・キャピタル・グローバル・トレ
ジャリー・インデックスの米ドル建てリ
ターンをヘッジの有無で比較すると、ヘ
ッジをかけなかった場合の年間ボラテ
ィリティは、ヘッジした場合の2倍以上で
あった(ヘッジなし:年率6.8%、ヘッジ
有り:同3.3%)。ボラティリティがそれほ
ど高いにも関わらず、ヘッジなしの超過リ
ターンはわずかに0.6%しかプラスになら
ない。ヘッジなしのインデックスのシャー
© Western Asset Management Company 2011 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタ
ン・アセット」
という)に帰属するものであり、
ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象とし
て作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピー
を作成することや転載することを禁じます。
為替運用に関する考察:市場のひずみに乗じた投資
図表2
先進国通貨の累積リターン
プ・レシオは0.45で、通常ヘッジした場合の
0.76よりかなり低くなる(図表2)。
Developed Market Sovereign Cumulative Returns
指数(1986年12月を1とする)
6
5
リターン(年率) ボラティリティ
(年率)
3.3%
ヘッジ有り 6.7%
ヘッジ無し 7.4%
6.8%
為替投資でベータ・リスクを取るのは見合
わないのである。但し、重要な留意点が
2つある。第一に、先進国通貨に対して長
期的に上昇を続ける新興国通貨にはこの
法則があてはまらない。通貨は生産性の
上昇と財・サービスの生産能力向上により、
実質ベース(インフレ調整後)で上昇する。
これは国家経済の発展段階で国民一人当
たりGDPの向上に伴って通貨の上昇が起
こるからである。直近の10年間、新興国通
貨のベータ・リスクは先進国通貨よりもは
るかに高いリターンを上げてきた(図表3)。
新興国の一人当たりGDPはかなりの勢いで
先進国の水準に近づいてきており、この傾
向は当分続くものと見られる。
ヘッジ無し
4
ヘッジ有り
3
2
1
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
第二に、中期的(時として年単位)には、先
進国通貨はファンダメンタルな価値から大
きく乖離することがある。したがって、投
資家が先進国通貨の先行き見通しに自信
がある場合は、為替リスクをヘッジしない
ことで利益を取れる可能性がある。英ポ
ンドを例に取ると、2002年初めから2007
年末までの約6年間徐々に上昇し、対米ド
ルでは40%超の上昇となった。但し、その
後わずか6カ月間でこの上昇分が吹き飛
び、2008年末には2002年初めの水準に戻
ってしまった。この例は、極端なボラティリ
ティ(ベータ・リスク)があることと、為替
ポジションにヘッジをかけない場合は余
程確信がなければならないことを示して
いる。過度の為替ベータを取り、1992年に
「イングランド銀行を破綻させ」巨額の利
益を得た億万長者のジョージ・ソロス氏に
尋ねてみると良い。
出所:バークレイズ・キャピタル
図表2
新興国通貨の累積リターン
Emerging Market Sovereign Cumulative Returns
指数(2001年12月を1とする)
3.5
3.0
リターン(年率) ボラティリティ
(年率)
4.2%
ヘッジ有り 5.2%
ヘッジ無し 13.3%
11.5%
2.5
ヘッジ無し
2.0
1.5
ヘッジ有り
1.0
0.5
2001
出所:JPモルガン
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
ヘッジをかけない為替ポジションには、常
に注意を払う必要がある。為替の先行きに
確信がない限りは、先進国通貨リスクに対
してはヘッジをかけ、為替変動による市場リスクの軽減を図るべきである。そのような確信は、通貨の購買
力平価からの乖離・収斂の明確な経験則に基づいていなければならない。今のところ、このタイプの経験
則が十分に得られているのは新興国通貨の場合のみである。
ウエスタン・アセット
2
2011年2月
為替運用に関する考察:市場のひずみに乗じた投資
投資機会
ベータ・プラットフォームから、伝統的なアクティブ運用の領域であるアルファ・プラットフォームへ為替
リスクを移すことを勧めたい(脚注2)。結局のところアクティブ運用は市場の中短期的な非効率性で利
益を得るように設計された運用方法である。では、為替市場において中短期的な非効率性は存在する
のだろうか。
アクティブ運用担当者がアクティブ運用のメリットを説いても、はじめからバイアスがかかっていると取
られても仕方がないことは承知している。そのことも念頭に置き、以下では現在の外国為替市場に存在
する非効率性の概要と度合いを検証し、アクティブ運用の余地があるかを検討する。
外国為替市場ではベータのみならずアルファの特徴も逆に出てくる。ベータで表される市場リスクに対
する超過リターンであるアルファは、通常はある投資家の利益が別の投資家の損失となるゼロサム・ゲー
ムである。殆どの伝統的なアセット・クラスにはこの法則があてはまるが、通貨の場合は別で、外国為替
市場でアルファを得るのはプラス・ゲームに近くなる。外国為替市場にはアルファ追求型の投資家がい
る一方、中央銀行、政府系ファンド、割合は少々低いが貿易商社や海外旅行者といった、アルファの獲得
を目的としない市場参加者がいるためである。
このことを理解するためにはまず外国為替の70%を政府が管理していることを指摘しておきたい。さら
に残り30%の市場に流通している通貨も必ずしも市場メカニズムでレートが決まっているわけではない
(脚注3)。例えば、米ドルの場合、1973年のブレトンウッズ体制崩壊後も世界の準備通貨としての役割を
負わされている。殆どのアジア新興国と原油産出国は自国通貨を米ドルに連動させており、
「ブレトンウ
ッズ2体制」
(BWII)と呼ばれている。米ドル切り下げの必要が生じた場合でも、ユーロや英ポンドや円と
いったいわゆるフリー・フロート通貨に対して切り下げるのみである。たとえ対中貿易が米国の貿易高
の18%とユーロ圏全体よりも大きいシェアを占めていても、中国元に対しての切り下げは不可能なので
ある(脚注4)。
このように、フリー・フロートの為替レートであっても必ずしも経済のファンダメンタルズの違いを反映して
いるとは限らない。例を挙げると、いずれの産油国でも原油収入はすべて米ドル建てだが、対外支払の一
部はユーロ建てである。その分については、米ドル建て収入の一部をユーロに換えていることになる。こ
のようにして、米ドルはユーロに対して自動的に安くなる。言い換えると、米国とユーロ圏の経済ファンダ
メンタルズの違い以上に、産油国の消費パターンと富のレベルが米ドル/ユーロレート(共にフリー・フロー
ト通貨)を左右するのである。また、たとえば中国が3兆米ドル相当の外貨準備の構成比変更を決定し、米
ドルからユーロへ一部資金を移した場合にも同様のダイナミクスが起きることになる。
ユーロの対米ドルレートの動きを説明できる経済ファンダメンタルズに基づくモデルが皆無であるとい
うことはこの良い例である。ユーロは米ドルに対して、2001年の最安値から2008年の金融危機直前につ
けた最高値まで85%近く上昇した。しかしながら、インフレ率はほぼ同水準で、生産性についてもどち
らかの経済パフォーマンスに大きく影響を与えるような開きはなかった。したがって、米ドルに対するユ
ーロ高は、ユーロがスタート時点で割安もしくは最高値時点で割高だったか、それともその両方だったの
か、ともかくファンダメンタルズからの何らかの乖離を反映したものである。いずれにしても、フリー・フ
ロートの両通貨間のクロス・レートは、ユーロの誕生以来ほぼ一貫してファンダメンタルズとは別の要因
で動いてきた(図表4)。
アジアの新興国と産油国の合計で現在9兆米ドルの外貨準備がある。一部の国についてしかデータは揃
わないが、大まかには、これらの国々の外貨準備の65%が米ドル、ユーロが28%、英ポンドが4%、日本円
3%、残り僅かがスイス・フランとなっている(脚注5)。これらブレトンウッズ2の国々の経済が拡大すると
(実際拡大しているのだが)、ブレトンウッズ2体制の現状維持のため、さらに外貨準備を積み増す。その
結果、これらの国がどの通貨を保有するかで、フリー・フロート通貨の為替レートに対してファンダメンタ
ルズをはるかに超える影響を及ぼすことになる(図表5)。
ウエスタン・アセット
3
2011年2月
為替運用に関する考察:市場のひずみに乗じた投資
確かにメリットもあるが、ブレトンウッズ2は
コスト上昇というデメリットをもたらした。9
兆米ドルの外貨準備のリターン率は極めて
低く(マイナスのこともある)、国内金融市
場の発展の妨げとなっている。それにも拘
らず、ブレトンウッズ2システム参加国の中央
銀行は、われわれ投資家のように外貨準備
のリスク調整後リターンの最大化を図ろうと
は考えない。外国為替市場への介入はアル
ファ獲得のためではなく、国家経済の安定
を目的に行われるからである。
図表4
Market Exchange Rate versus Fundamental Valuation
ファンダメンタルズに基づくバリュエーションと市場為替レートの比較
1.6
ユーロ/米ドル為替レート
1.5
1.4
外国為替相場
1.3
1.2
1.1
購買力平価
1.0
0.9
0.8
99年 00年 00年 01年01年 02年02年 03年03年 04年 04年 05年05年 06年06年 07年07年 08年 08年 09年 09年 10年 10年
12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月 6月 12月
出所:ブルームバーグ
図表5
Global Currency Reserves* - a gradual diversification away from the US dollar
外貨準備高*―米ドルから徐々に多様化
5,000,000
米ドル
ユーロ
英ポンド
日本円
スイス・フラン
その他通貨
4,500,000
米ドル(100万)
4,000,000
3,500,000
3,000,000
このように大規模なアルファ獲得を目的と
しない市場参加者の存在により、外国為替
市場にはアルファ追求型の投資家にとって
の機会が生まれ、それによって通貨のアク
ティブ運用がプラス・サム・ゲームに変わる
のである。アルファ獲得を目的としない市
場参加者は、その通貨が割高か割安かとい
ったことには注意を払わずに通貨を売買す
る。それでも常に経済ファンダメンタルズは、
しっかりとつなぎとめる錨(いかり)として
働いており、ファンダメンタルズからの乖離
が長く続いた後には、突然調整が入り、過度
のボラティリティが生まれる。この過度のボ
ラティリティは、熟練のアクティブ運用担当
者にとっては中短期的に上手く利用する好
機をもたらす。アルファ追求型の投資家は、
そうでない市場参加者の逆を張って利益を
手中に収めることが可能である。
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年
1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月 1-3月
*4兆米ドル分の未分類の外貨準備高はこの図表には含まれない。
出所:国際通貨基金(IMF)、
外貨準備金通貨構成
(COFER)
データベース
ウエスタン・アセット
4
2011年2月
為替運用に関する考察:市場のひずみに乗じた投資
結論
現在、世界の金融システムは、統制も規律もなく不安定である。もはや米ドルは準備通貨の地位にふさ
わしいとは言えない状況であるが、それに代わる枠組みも存在しない。19世紀の金本位制のような安
定した世界金融システムが欠如していることにより、外国為替市場では過度のボラティリティと非効率
が生じている。
さらに、ブレトンウッズ2システムは、最終的には失敗が不可避である。単一通貨を準備通貨にするシス
テムは、本質的に矛盾を抱えている。ペッグ制をとるシステムには付きものの投機筋からの攻撃に対す
る防御策として、ブレトンウッズ2の参加国は米ドルで外貨準備を貯めるインセンティブが働く。しかし
ながら、米ドルの国外保有が増えれば増える程、準備通貨としての米ドルの地位は低下してしまう(脚
注6)。過度の債務を抱えた国の通貨に対しては、ある段階で投機筋による攻撃が仕掛けられる(米国
の国内総貯蓄のマイナスを賄っている対外借入がストップする)。何が崩壊のきっかけになるかは誰に
もわからない。すぐにこのような事態が起きるとは思わないが、米ドルの国外保有残高は既に米国の広
義マネーサプライの66%、米GDPの40%相当に上っている(脚注7)。
以上述べてきた理由により、アクティブ運用のメリットは非常に大きい。新興国通貨リスクにはヘッジ
をかけず、先進国通貨のベータ・リスクに対してはヘッジをかけ、代わりにそのリスクをアルファ・プラッ
トフォームに移すのが良いだろう。このように、アクティブの分散投資によって、統制がとれていない世
界金融システムのプラス・サムの利点を上手く活かすことが可能である。
脚注
もちろん、負債とマッチングすることを目的とする年金基金にはあてはまらない。このような年金基金
は国内の債券商品に重点を置く。
1
ベータにアクティブ運用を適用することも可能であるが、本稿ではアクティブ運用ができるのはアル
ファのみと仮定している。
2
バリー・アイシェングリーン 〔2008〕”Globalizing Capital: A History of the International Monetary
System” プリンストン大学出版会
3
FRB、H.10報告書
4
IMF COFER(政府外貨準備通貨構成)データベース
5
このダイナミクスは「トリフィン・ジレンマ」と呼ばれる。1940年代に、当時起きていた19世紀の金本位
制崩壊の動きを説明する際に名付けられた。
6
マネーサプライはM2
7
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ウエスタン・アセット
5
2011年2月
為替運用に関する考察:市場のひずみに乗じた投資
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ウエスタン・アセット
6
2011年2月
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