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滑りやすいスマホフィルムの秘密

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滑りやすいスマホフィルムの秘密
滑りやすいスマホフィルムの秘密
1.研究背景と目的
スマートフォンは現在の生活に欠かせないものに
なった.使用者の大多数は画面の保護などの理由で
画面上に液晶保護フィルムを貼り付けているため,
スマートフォンを操作する度に液晶保護フィルムを
タッチしている.したがって,この液晶保護フィル
ムが滑りやすければ,スマートフォンをより快適に
使用できるようになるはずである.それでは,多く
の人が滑りやすいと感じるフィルムはどのような性
質を持っているのであろうか.ここでは,フィルム
の滑りやすさを生み出している要素について追求を
行う.
2.研究準備
今回研究対象とする液晶保護フィルムについて,
現在一般的に使用されており,かつそれぞれ性質の
異なる以下の三種類のフィルムを選別し,用意した.
・高光沢フィルム(PET 樹脂製)
・非光沢フィルム (PET 樹脂製)
・強化ガラスフィルム (ガラス製)
3.各フィルムに対する意見調査
具体的な実験を行う前に,各フィルムにどのよう
な意見を持つかのアンケート調査を行った.アンケ
ートを行った際は,そのフィルムの特徴や性質,値
段等一切の情報を伏せることで各フィルムに対して
公平な意見を得られるようにした.主な調査結果を
以下の図 1,図 2 に示す.
(1) 最も使用したいと感じるフィルム
7%
高光沢
57%
36%
非光沢
強化ガラス
牧良洋
(2) (1)を回答する際の選考基準(複数回答可)
滑り心地
選択理由
8班
耐久性
透明度
防指紋性
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90100
全体に対する割合(%)
図 2 使用したいフィルムの選択理由
4.実験
4.1
TRILAB を用いた摩擦係数の測定(実験Ⅰ)
滑りやすさに関係があると考えられる物理量とし
て,最初に摩擦係数を予想し,図 3 の TRILAB とい
う摩擦測定器を用いてこれの測定を行った.
図 3 TRILAB
フィルムにかかる荷重を 50N として,これに対応す
るおもりを乗せた測定器をフィルム上で滑らせた.
このときのフィルムと測定器の摩擦力を F として摩
擦係数 μ は次の式(1)により算出される.
μ=
𝐹
(1)
50
測定器の移動速度は 5.0 mm/s とし,10 秒間移動さ
せた.1.0×10-3 秒毎に摩擦力を記録し,この平均値
をフィルムの摩擦力 F とした.この実験では,スマ
ートフォンの画面を操作する際に湿気の有無によっ
て滑りやすさに違いを感じることから,各フィルム
を乾燥させた場合と湿気を含ませた場合の 2 種類に
分けて測定した.結果は表 1,表 2 のようになった.
表 1 乾燥時の各フィルムの摩擦力と摩擦係数
図1 使用したいフィルムの割合
摩擦力 F
(×10-3N)
摩擦係数
µ(×10-3)
高光沢
非光沢
強化ガラス
356.7
160.4
167.2
7.133
3.209
3.343
表 2 表面を湿らせた際の各フィルムの摩擦力と
摩擦係数
摩擦力 F
(×10-3N)
摩擦係数
µ(×10-3)
高光沢
非光沢
強化ガラス
224.3
201.9
221.4
4.486
4.038
4.428
4.2 水,油とフィルムの関係(実験Ⅱ)
実験Ⅰの結果について,
表 1 と表 2 を比較すると,
光沢フィルムのみ乾燥時の方が摩擦係数は高い.こ
のことから水に対して各フィルムが異なる性質を持
つことが予想されたため,各フィルムが親水性,疎
水性のどちらの性質を持つのかを検証した.実験方
法は,各フィルムの表面に水を一滴ずつ垂らし,そ
の液滴の形状を観察することで性質を決定した.判
断基準は,液滴がフィルムの表面に広がった場合は
親水性,表面上でほぼ球体を維持していた場合は疎
水性とした.また,人間の手の表面から油が出てい
ることを参考にし,油に対しても同様の検証を行っ
た.実験に使用した油はサラダ油である.結果は次
の表 3 のようになった.
表 3 各フィルムと水,油の関係性
高光沢
非光沢
強化ガラス
水
親水性
疎水性
疎水性
油
親油性
親油性
疎油性
4.3 SEM を用いた表面形状の観察(実験Ⅲ)
実験Ⅰの摩擦力,実験Ⅱの液体との関係性の結果
を生み出した原因はその表面形状にあると予想され
たため,各フィルムの表面を観察した.観察には走
査型電子顕微鏡(SEM)を用い,各フィルムの表面を
1000 倍に拡大した様子を観察した.以下の図 4 が
その観察結果である.
5.考察
5.1 実験Ⅱの結果の原因
実験Ⅱの結果は,実験Ⅲの表面形状や各フィルム
のコーティングに関連性がある.PET 製の高光沢フ
ィルム,非光沢フィルムには,フィルムの強度を増
すハードコートや,指紋防止の特殊コーティングが
施されている.コーティングがなければ,PET は親
水基であるヒドロキシ基等を持たないため,フィル
ム表面は疎水性であるはずであるが,このコーティ
ングによってフィルム表面の性質が変化したと考え
られる.非光沢フィルムに関しては,表面に凹凸を
作ることで物体との接触面を減らし摩擦を軽減する
と同時に,水滴が潰れるのを防ぐ役割を果たし,疎
水性を獲得している.これをロータス効果という.
強化ガラスフィルムは表面にフッ素コーティングが
施されている.フッ素は疎水性,疎油性を持つため,
フッ素コーティングによって強化ガラスフィルムの
表面の性質が決まっていると考えられる.
5.2 各フィルムの比較
アンケート(1)で最も得票数が低かった光沢フィ
ルムと,他の二枚のフィルムの異なる点を考察する.
実験Ⅰの結果から,非光沢フィルム,強化ガラスフ
ィルムの摩擦係数はほぼ等しいのに比べ,光沢フィ
ル ム は 摩 擦係 数 が 高く ,他 の フ ィ ルム の お よそ
220%の値となっていることがわかる.このことから
人々が滑りやすいと感じるには摩擦係数が低いこと
が必要であることがわかる.
次に強化ガラスフィルムと非光沢フィルムを比較
する.この二種類のフィルムの違いは,実験Ⅲでの
油に対するフィルムの性質の差である.人間の手か
らは油が出ており,フィルムを触る際には,その油
を弾いた方がよく滑ると人間は感じるであろう.ア
ンケート結果を参照すると,疎油性であった強化ガ
ラスフィルムの方が得票数が多かったことからも,
滑りやすさは疎油性が生み出していると考えられる.
6.結論
滑りやすい液晶保護フィルムには,フィルム表面
の摩擦係数が低いことが必要であった.また,他の
要因として、人間の手から出る油を弾くためになさ
れたフッ素コーティングによる疎油性の表面を持つ
ことも重要であった.
(ⅰ)高光沢
(ⅱ)非光沢
(ⅲ)強化ガラス
図 4 各フィルムの表面の SEM 画像
参考文献
日本表面科学会, 身のまわりの表面科学,講談社
中部地方環境事務所,自然から学ぶハイテク
chubu.env.go.jp/pre_2009/data/1104a_3.pdf
(2015/12/4 アクセス)
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