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人々を保護し、仕事を促進する:
人々を保護し、仕事を促進する:
危機対応から回復と持続可能な成長へ
G20 首脳への ILO 事務局長メッセージ
(ピッツバーグ・サミット、2009 年 9 月 24‐25 日)
G20
ロンドンからピッツバーグへ
1.
2009 年 4 月 2 日のロンドン・サミットにおいて、首脳たちは次のと
おり誓約した:「…包摂的で、環境にやさしく、持続可能な回復を
実現する」ため、「…回復に向けた我々の世界的な計画は、勤勉に
働く人々のニーズと仕事をその中心に置かなければならない…した
がって、我々は、自信、成長および仕事を回復するために必要なあ
らゆる行動をとることを誓約している…」
2.
人々への危機の影響に首脳たちが置いた強調、および世界のために
よりバランスのとれた、安定した、豊かな将来を築きながら、成長
と仕事を回復しようとする彼らの決意は、強く共感を呼び起こした。
彼らは、世界の最も脆弱な人々への負の影響を阻止する重要な手段
として雇用および社会的保護に焦点を絞ることが緊急に必要である
ことを認めた。
3.
ピッツバーグにおいて、首脳たちはこのような中期的展望のもとに、
高まる所得の不平等、雇用と社会的保護の不足、および存続する貧
困などの言葉で表現される、危機前からすでに存在していて危機に
寄与した社会経済的な不均衡にも取り組む機会を持つ。特に、首脳
たちは、「ILO に対し、他の関連機関と共に、とられた行動および
将来のために必要な行動を評価するよう」求めた。
4.
ILO はこの要請に以下の方法で対応してきた。
A)
すべての地域と所得層にわたって 54 ヵ国で実施された雇
用・社会的保護措置に関する調査および初期評価を準備する
こと。失業その他の労働市場指標と労働者の苦難はこの 12
ヵ月で著しく増加してきたが、これらの措置がとられていな
かったら、もっと多く増えていたであろう。IMF 統計に基づ
く ILO の推定によれば、裁量的な財政拡大は、自動安定装
置とともに、2009 年に G20 諸国において 700 万~1,100 万の
仕事を創出または保護したものとみられる。この調査と評価
は、結論として、諸国がよりバランスのとれた持続可能な成
長パターンをめざして検討したいと考えそうな即時行動のた
めの指針を示している。
1
B)
ILO の三者構成員(183 ヵ国の政府、使用者および労働者)
間における「グローバル・ジョブズ・パクト」1 についての
合意の達成。グローバル・ジョブズ・パクトの基本目的は、
経済回復と雇用回復の間の時間差を短縮することを目的とし
て、国際的に合意された一連の政策決定の選択肢を提供する
ことである。それは国内、地域および世界レベルにおける緊
急かつ協調的な世界的行動の呼びかけである。同パクトは、
ILO によって主催された 2009 年 6 月の世界雇用危機サミッ
トに関連して承認されたものであり、同サミットにおいて、
首脳たちは危機への対応を、よりバランスのとれた成長戦略、
より公正で持続可能なグローバル化、そして、新しいグロー
バル・ガバナンス構造を促進する必要性と結び付けた。2
C)
持続可能な成長の新しいパターンの必要性に取り組むこと。
これには、投資・成長・生産性と、雇用・労働市場・社会政
策との間の強い結び付きが必要である。
危機対応:雇用および社会的保護措置
A.
ILO 調査
5.
添付のテクニカル・レポート3に詳述されているように、雇用およ
び社会的保護に取り組むための G20 をはじめとする多くの国々の
政策努力は相当なものである。とられた個別措置の有効性と影響の
完全な評価を行うのは時期尚早であるが、とられた措置が効果をあ
げていると結論づけるだけの十分な証拠がある。社会的保護の拡大
により、最も脆弱な人々を保護し、教育訓練への投資を増加し、よ
り強力な労働市場政策を適用するための措置は特別の関心を集めて
いる。
6.
上に示唆されたように、創出または保護された雇用は、2009 年上
半期に G20 諸国において失業者増加総数の 29~43%にのぼってい
る。これらの措置がとられていなかったら、失業はこれらの国々に
おいてその分だけ多くなっていただろう。しかし、依然として世界
中で労働市場の状況は劇的に悪化しており、最も脆弱で恵まれない
人々については、さらに非常に多くのことをしなければならない。
1
「危機からの回復:グローバル・ジョブズ・パクト」。2009 年 6 月にジュネーブで開催さ
れた第 98 回 ILO 総会で採択された決議。
2
G20 諸国グループからの首脳、アルゼンチン、ブラジルおよびフランスの大統領、ならびに
南アフリカの副大統領を含め、9 人の国家元首・政府首脳および 6 人の副大統領が参加した。
3
人々を保護し、仕事を促進する:世界的経済危機に対する国別雇用および社会的保護政策対
応についての調査。2009 年 9 月 24~25 日にピッツバーグで開催される G20 首脳会合への
ILO レポート。
2
7.
ILO は、4つの分野-すなわち、労働需要の刺激、仕事・求職者・
失業者の支援、社会的保護と食料安全保障の拡大、および社会対話
と労働に関する権利の保護-に分類される 32 項目の具体的措置に
ついて、54 ヵ国のあらゆる所得レベルと地域にまたがって、2008
年半ばから 2009 年 7 月 30 日までに、とられた措置を調査した。4
調査された 32 項目の措置は、G20 ロンドン雇用会議(2009 年 3 月
24 日)、拡大 G8 ローマ社会サミット(2009 年 3 月 29~31 日)、
および「グローバル・ジョブズ・パクト」の政策ポートフォリオに
よってハイライトされた政策分野を反映している。
8.
表1は、サンプル諸国でとられた措置の頻度を示している。
1. 労働需要の刺激
インフラストラクチャーへの追加財政支出
雇用基準による
(in %)
2. 求職者、仕事および失業者の支援
(in %)
87.0
追加的訓練措置
63.0
33.3
公共職業紹介事業の能力増強
46.3
グリーン基準による
29.6
移民労働者のための新措置
27.8
公的雇用
24.1
労働時間短縮
27.8
対象を絞った新規または拡大雇用プログラム
51.9
訓練およびパートタイム労働を伴う部分失業
27.8
中小企業向け融資へのアクセス
74.1
賃金引き下げ
14.8
中小企業向け公開入札へのアクセス
9.3
失業手当の拡大
31.5
中小企業向け助成と減税
77.8
追加的な社会扶助および保護措置
33.3
3. 社会保障と食料安全保障の拡大
4. 社会対話と労働に関する権利
社会保障税の引き下げ
29.6
危機対応に関する協議
59.3
追加的な現金給付
53.7
国レベルでの合意
35.2
健康保険へのアクセス増加
37.0
部門レベルでの合意
11.1
老齢年金の変更
44.4
人身取引防止のための追加措置
3.7
最低賃金の変更
33.3
児童労働撤廃のための追加措置
3.7
移民労働者のための新たな保護措置
14.8
労働法の変更
22.2
食料補助金の導入
16.7
労働行政/労働監督の能力増強
13.0
新たな農業支援
22.2
出典:ILO 調査
4
9.
最も頻度の高い6つの措置は以下のとおりである:インフラストラ
クチャーへの支出、中小企業向け助成と減税、中小企業向け融資、
訓練のためのプログラム・施設、使用者団体・労働者団体との協議、
および現金給付による社会的保護。これらの措置はグローバル・ジ
ョブズ・パクトで概説された政策選択肢と密接に対応している。
10.
最も頻度の低い6つの措置は以下のとおりである:人身取引・児童
労働防止のための追加措置、公開入札への中小企業のアクセス、部
門レベルでの協議、労働監督能力の増強、および移民労働者の保護。
このレポートは 2009 年 5 月~8 月に作成された。
3
11.
添付の調査報告書を最終的にまとめるにあたって、ILO は OECD か
らの寄稿(これはテクニカル・レポートに含められている)のほか、
IMF、UNCTAD および世界銀行からのコメントを受け取った。ILO
は、各国によりとられた措置の影響に関してさらに多くの比較デー
タおよび評価研究が入手可能になるにつれて、分析を進める際にこ
のような協働を続けていきたいと考えている。
これらの分野でとられた行動の証拠が示唆するもの
12.
当初の対応は雇用の急激な減少を阻止し最も脆弱な人々への影響を
緩和することを狙いとしていたが、各国はしだいに、新規インフラ
ストラクチャーへの投資のほか、炭素排出量削減対策などによる構
造変化に対する労働力の準備に投資することによって回復に備えよ
うとしてきている。緊急対応からより長期的な視点への移行は、全
般的な成長回復の兆候が見られるにもかかわらず労働市場への危機
の影響が長期化しそうだという認識を反映しているのかもしれない。
13.
予想されるとおり、各国の対応のパターンには相違がある。低中所
得国は、平均して、労働市場政策をサポートするより、労働需要を
刺激し社会的保護を拡大するためにより多くの措置をとってきた。
逆に、予想どおり、高所得国は労働需要の刺激と労働市場政策によ
り多くの投資を行ってきた。低所得国は、中・高所得国より数少な
い政策イニシアチブをとっており、このことは、とりわけ、資源お
よび能力に制約があるであろうことを示している。
表2:カテゴリー別、各国の所得グループ別に見た措置の平均数
社会的保
護、食料安
全保障の拡
大
社会対話、
労働に関する
権利
労働需要
の刺激
仕事・求職者・
失業者の支援
低所得国 (10)
2.9
1.2
2.3
0.8
7.2
低位中所得国 (10)
3.8
2.3
3.2
1.4
10.7
上位中所得国 (17)
3.9
2.9
2.5
1.6
10.9
高所得国 (17)
4.4
3.7
2.3
1.8
12.2
平均
3.8
2.5
2.6
1.4
10.3
所得グループ別サンプル国
合計
出典:ILO 調査
14.
多くの国々、特にアジアおよびラテンアメリカの国々は、以前の金
融危機から学んだ経験を活かしており、ショックへの対応を比較的
うまく行ってきた。特に、より健全な財政スタンス、低いインフレ、
低い対外債務、高い外貨準備、およびある程度まで、広い社会的保
護範囲を達成していた国々には、より回復力があり、迅速な行動を
とる用意ができていることが判明している。
4
15.
ほとんどの国は、すでに確立されていた制度面および技術面での能
力を頼りに、既存プログラムを適応、改良および拡大することによ
って実践的アプローチを示してきた。さらに、新規プログラムおよ
び措置の実施に革新が行われており、たとえば、対象を絞った新し
い雇用プログラムが相当数、実施されている。
16.
危機への最も一般的な対応、インフラストラクチャーへの公共投資
は、間接的な雇用創出を含める場合は特に、比較的高い雇用乗数効
果を示している。労働ベースであれ機材ベースであれ、生産技術の
選択は、支出における雇用要素に大きな影響を及ぼす。これは、地
方インフラ投資にとって特に重要である。多くの政府が、環境持続
可能性を改善し、「グリーン・ジョブ」創出の潜在力を持つプロジ
ェクトを促進する機会を見つけている。その欠点は、プロジェクト
をゼロから始めなければならない場合、雇用への十分な効果が遅れ
ることである。
17.
労働市場が弱い時に訓練に投資する政府、使用者および労働者の対
応には十分な根拠がある。景気後退時には、労働者が即時生産のた
めの学習に費やす時間が少なくてすむので、企業にとっては訓練の
機会費用が削減される。訓練制度とビジネスの間の緊密な制度的連
携は有用であることがしばしば証明されている。
18.
歳入減少にもかかわらず、多くの国が社会的支出を増加してきた。
社会的保護措置は、裁量的および非裁量的措置のどちらも、総需要
の主要な安定装置としての役割を果たしている。優先された選択肢
は、失業手当の期間延長と適用範囲拡大、老齢年金の拡大、および
健康保険と児童手当の拡大である。いくつかの国々では、対象を絞
った現金支給が特に有用な役割を果たしている。それにもかかわら
ず、依存として適用範囲に大きなギャップが存在する。
19.
これらの例外的な措置の資金手当てのために、各国は、すでに予算
計上された資金を再編成し、累積準備金を活用し、借り入れを拡大
してきた。危機対応のための新たな譲許的開発融資が大幅増加した
という証拠はまだほとんどない。
20.
危機は社会対話と団体交渉を促し、ワークシェアリング取り決め、
休暇延長およびその他の形での仕事の適応を含め、創造的な解決策
を見つけるに至っている。対話は、場合によっては、マクロ経済的
戦略のほか、具体的政策分野に関するより詳細な協議を含んできた。
危機が深刻であることから、一部の政府と社会的パートナーは、社
会的結束および経済的安定に対するリスクを考慮して可能なかぎり
幅広い国民的合意の基礎を見つけようとしてきた。このプロセス自
体、時には困難であり、必ずしも合意に至っていない。
5
脆弱な世界経済回復と雇用の低迷
21.
2009 年半ば、経済生産の安定化および回復の初期的兆候が程度の
差こそあれ各国で記録されており、アジアではより堅調であった。
予想は、世界経済の回復が、特に先進国および東欧・中欧諸国では、
少なくとも 2010 年末まで、非常にゆるやかで弱いという点に集中
しているように見える。アジアでは、非常に強力な財政拡大に関連
して、堅調な回復が観測されている。
22.
国連、OECD および IMF の予測5 は、2009 年および 2010 年の全般
を通じて労働市場の悪化が継続すると予想している。2009 年前半
の 6 ヵ月間について入手可能な直近のデータは、経済成長がマイナ
スの国や低迷している国だけでなく、比較的堅調な国々においても、
雇用の伸びが低迷を続けていたかまたは非常に弱かったことを示し
ている。ILO は、2009 年末までに、世界の失業者数が、2007 年に
比べて、3,900 万~6,100 万人増加すると推定している6。
23.
世界の経済活動人口は、毎年、約 4,500 万人増加しており、そのほ
とんどが労働市場の入口にいる若い男女である。以前の金融危機に
ついての研究に基づけば、危機前の水準に戻るまでの生産回復と雇
用回復の間のタイムラグは、平均 4~5 年に達する可能性がある。7
24.
ILO を構成する政労使の多くは、信用不足、倒産の危機に瀕した企
業、工場閉鎖、仕事と所得の損失についての継続的な懸念と恐れ、
および将来についての不安を反映している。勤労世帯にとって特に
つらいのは、比較的楽観的な予想でさえ、経済回復が始まってから
も長い間、高失業が続くのは不可避とされていることである。さま
ざまな地域における最近の世論調査で、世界人口の非常に多くの
人々の間に労働市場に対する高水準の不安感が示されている。8
さらなる行動のための指針
25.
力強い経済成長と力強い雇用成長はいずれも不可欠である。政策は、
経済回復の期間中、世界的な雇用回復の遅れを少なくし、仕事の成
長の潜在力を最大化するために、この2つに的を絞り続けていくべ
きである。仕事の成長の強さを刺激するための措置および各種の投
5
国連「2009 年の世界経済情勢と見通し」、2009 年半ば現在最新版;OECD 経済展望、2009
年 6 月;IMF 世界経済展望、2009 年 4 月。
6
ILO 主要労働指標(KILM)第 4 版、2009 年。
7
Reinhart, Carmen M. および Kenneth S. Rogoff、2009 年。「金融危機の余波」、NBER 調査報
告書第 14656 号。
8
とりわけ、米国ギャラップ調査、2009 年 8 月 13 日;EU 27 Eurobarometer 316、2009 年 7
月;メキシコにおける Reforma 紙世論調査、2009 年 7 月 1 日ロイター配信;日本生産性本部
世論調査、ロイター、2009 年 6 月 30 日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、2009 年
7 月 17 日;チリに関する 2009 年 8 月の IPSOS 調査を参照されたい。
6
資選択肢の雇用内容を評価するための改良された方法論が必要であ
る。
26.
経済成長と雇用を持続するのに十分なだけ民間需要が強力になる時
まで、仕事を創出し総需要を増大させるための拡張的財政措置が継
続されるべきであり、必要な場合には、強化されるべきである。こ
れらの措置の最適な規模と期間は各国の状況に依存しており、国際
協調を必要とすることになろう。
27.
相乗効果と相互補強を刺激するために考案された政策措置の組み合
わせが最も効果がある。各国経験のより深い分析と各種政策パッケ
ージの影響の評価は意思決定にさらなる指針を与えることができる。
ILO はこの点に関してそのサービスと専門知識を強化し、それらを
各国に提供することを約束している。
28.
経済および雇用の回復は、ほとんどの国において雇用を支える基幹
的な力となっている中小企業への流れを含め、信用および生産的外
国投資・国内投資の正常な流れを回復するための金融市場の修復を
さらに大幅に加速することによって著しく促進されることになろう。
このことは先進国において比較的よく当てはまるが、厳しい金融規
制が実施され、開発銀行と公立銀行が強力に反景気循環的役割を果
たしている一部途上国においては、あまり当てはまらない。結局、
政策は金融制度が実体経済の役に立つことを確実にしなければなら
ない。
29.
危機はいくつかの新興国および途上国において根本的な構造問題を
悪化させてきた。重い対外債務負担、拡大する財政赤字、通貨下落
およびその他の構造的弱点の徴候は、低所得国だけでなく、一部の
中所得国にとっても世界的な回復努力に参加する能力を著しく制約
している。これらの国々は、成長、仕事および社会的保護を刺激す
ることも可能にする条件のもとでの追加国際支援を必要としている。
30.
さらに、低所得国向けの多国間および二国間開発資源が、雇用およ
び社会的保護への高まるニーズに対応するために拡大され、再調整
されるべきである。雇用および社会的保護の役割に関する最近の
OECD 開発援助委員会政策声明は、この目的にハイライトを当てて
いる。9 開発協力を通じて必要な支援を提供する貧困層にやさしい
経済成長戦略の強力な適用が緊急に必要とされている。
31.
この危機の以前、高、中および低所得国において社会的保護の適用
範囲に大きな格差が存在していた。危機は多くの国々が適用範囲を
拡大し、給付水準を引き上げるように促した。これらの努力は、す
9
開発援助委員会。2009 年。「経済成長をより貧困層にやさしく:雇用および社会的保護政
策の役割」。5 月 27~28 日のハイレベル会合で採択された政策声明。
DCD/DAC(200914/REV2)。
7
べての国々にとって財政的に健全な方法で基本的・普遍的な社会的
保護を開発する必要性についての世界的な合意を通じて追求され、
拡大されなければならない。人々を保護することは総需要を維持す
るのに役立つ。
10
32.
制度構築と能力強化を容易にする国際援助、ならびに世界的な知識、
最良実例および経験からの教訓に基づいた政策助言は、特に貧困国
および後発開発途上国を大きく支援することができる。南南協力が
重要な役割を果たすべきである。
33.
危機は若い男女に大きな影響を及ぼしており、2009 年上半期には 1
年前に比べて失業の大幅増加傾向を示している。男女別の観点から
回復政策の性格と影響について、より詳細な評価を行うことが必要
である。一部の国々では、初期の影響は男性労働者が大多数を占め
る部門に見られたが、女性も、不安定な職についている割合が不均
衡に高いため、しだいに影響を受けるようになってきている。
34.
危機の時には、労働者の権利の低下、児童労働の増加、保護されな
い移民労働者、人身取引をはじめとする人間の尊厳の劣化が真のリ
スクとなる。ILO の調査は、これらの問題に取り組んでいる新規措
置が比較的少ないことを示していた。そのような慣行の悪化を防止
するために、緊急の注意を払う必要がある。労働行政および労働監
督の強化がカギである。
35.
内向きの強力な貿易保護措置はおおむね回避されている。金融経済
危機および貿易関連情勢に関する WTO レポートは次のように述べ
ている:「…より貿易制限的でゆがんだ政策へのさらなる傾斜は見
られるが、強硬な保護主義措置への依存は、困難を伴いながらも、
全般的に封じ込められてきている。」10 保護主義的措置の脅威は
依然として残っており、途上国の特殊事情を保護しながら積極的に
抑止されるべきである。危機の際に当然見られる不安感から保護主
義的心理が台頭している場合には、社会政策および労働政策による
効果的な対応が必要である。
36.
労働者、企業および世帯に対する政策の影響の評価は、統計データ
および危機をモニターする手段を幅広く利用できるようにすること
によって大いに促進されるだろう。雇用・労働統計が貧弱な場合に
は統計局の能力を強化すること、および、もはや求職活動をしなく
なったやる気を失った労働者の数など、表れにくい社会的苦難の徴
候を含めるように指標を拡大することが不可欠である。雇用・労働
問題を追跡する統計制度は、危機対応を評価し、より長期的な政策
WTO 2009 年報告書 WT/TPR/OV/W/2、7 月 15 日。
8
に関する情報提供のために緊急に必要である。国連 GIVAS プロジ
ェクトはそのような問題に対応している。11
37.
緊急事態から漸進的回復へ、さらに持続的経済成長への政策移行を
管理する際には、雇用創出および社会的保護の範囲の拡大が、成功
を測る重要な基準として維持されるべきである。これは、特別の財
政刺激策を展開する措置が考慮される場合には特に重要である。
38.
人間的な側面に留意することが不可欠である。危機は、強い不公平
感を引き起こしている。何百万もの人々が、自分たちの力ではどう
しようもない決定と行動の代償を自分たちが支払い、他の人々が利
益を得ていると考えている。回復のコストと危機克服に要する努力
の公正な配分が、社会的に持続可能な対応にとって不可欠の要素で
ある。
「グローバル・ジョブズ・パクト」
B.
39.
このパクトは実体経済におけるアクター間の強力な合意である。同
パクトは、各国が、地域および国際機関の支援を得て、経済的・社
会的および環境的な持続可能性を追求すると同時に、危機に取り組
む継続中の努力を強化するために採用することのできるバランスの
とれた現実的な政策措置を提案している。同パクトは人々の重要課
題と実体経済のニーズの両方に対応している。
40.
同パクトは、投資および持続可能な企業を促進することに基づいて
生産的ビジョンの枠内で危機対応と回復の中心に雇用と社会的保護
を据える試用済み・試験済み政策のポートフォリオを提示している。
これらの政策は、国内および地方の状況に合わせることができる。
政策についての調査で示されているように、多くの国がすでにこれ
らの政策の多くを実施している。これらの政策は、統合・調整され
た方法で採用された場合には、社会的緊張を削減し、人々に対する
危機の負の影響を緩和し、総需要を刺激し、競争市場経済とより包
摂的な成長プロセスの両方を強化することができる。
41.
グローバル・ジョブズ・パクトは、ILO の継続する「ディーセン
ト・ワークの実現に向けた取組み」に基づいており、労働における
基本原則および権利の尊重、男女平等の促進、ならびに発言・参加
および社会対話の奨励も、回復と開発にとって非常に重要であるこ
とを想起させる。
11
国連世界的影響・脆弱性警報システム(UN Global Impact and Vulnerability Alert System;
GIVAS)。
9
42.
イタリアのラクイラにおいて、G8 は、「世界的レベルで危機に対
応し、グローバル化の社会的側面を促進するために… ILO のディ
ーセント・ワークの実現に向けた取組みを前進させ、グローバル・
ジョブズ・パクトを構築する」必要性を認識した。12 国連経済社
会理事会(ECOSOC)は加盟国に対して、グローバル・ジョブズ・
パクトを十分に利用するように奨励するとともに、関連国際機関に
対して、それぞれの権限に従って、各機関の活動に同パクトを組み
入れるように勧めた。13 政府は、統治機構における代表を通じて
後者を促進することができる。
新しいパターンの持続可能な成長を通じて世界的な不均衡に
取り組む
C.
43.
ピッツバーグにおいて、首脳たちは持続可能な成長のための中期的
な展望を構築する機会を持つ。金融市場を安定化させ、生産成長率
を引き上げることは、必要不可欠ではあるが、十分ではない。世界
的な不均衡の拡大を際立たせてきた危機から脱出する、様々なパタ
ーンの持続可能な成長が必要である。これらの不均衡は、それ自体、
金融市場と実体経済の間、金融投資と生産的投資の間、生産性と賃
金の間、および民間イニシアチブと公的規制の間の国内的な不均衡
に関連している。
44.
数十年にわたって、市場の自己規制能力を過大評価し、公共政策お
よび政府規制を過小評価し、社会政策、仕事の尊厳および環境保護
を軽視してきた政策が、これらの不均衡の原因となってきた。その
結果、所得の不均衡が受容できないほど拡大し、多数の人々が基本
的な社会的保護を受けられなくなり、生産的なディーセント・ワー
クの機会を十分に得られなくなった。
45.
一方で投資・成長および生産性の間、他方で雇用・労働市場および
社会政策との間に、従来に比べてはるかに強力な関連性が必要であ
り、合わせて、経済の漸進的なグリーン化が必要である。手短に言
えば、持続可能な開発アプローチが必要である。成長、経済実績お
よび社会進歩の測定方法を見直すことが急務である。漸進的に拡大
する所得ベースの世界的な有効需要が、持続不能な負債・資産バブ
ルの慣行に取って代わる必要がある。仕事は適正に報いられるべき
であり、過度の報酬は抑制されるべきである。これは輸出主導型成
長と健全な国内消費拡大との間のより良い均衡への道を開くことに
なる。
12
持続可能な将来に向けた責任あるリーダーシップに関する G8 首脳宣言。2009 年 7 月。
国連経済社会理事会(ECOSOC)決議:危機からの回復:グローバル・ジョブズ・パクト
(E/2009/L.24、2009 年 7 月 21 日)。
13
10
46.
クリーン・エネルギーを促進するための行動を含めて、経済部門が
適応するには、労働者が新しい仕事に必要な技能を身につけ、衰退
する活動からの移行を容易にする強力な雇用・社会・および訓練政
策が必要であろう。気候変動政策は、その雇用・労働面への影響に
取り組まなければならない。
47.
経済成長および社会進歩の一つのモデルをすべての国の状況に適用
できるわけではないが、いくつかの基本的な要素は共有されている。
持続可能な世界成長は、生産的投資と生産性向上を助長する国内政
策および制度、環境への配慮、ディーセント・ワーク、男女の機会
均等、革新および企業開発、強力な労働制度および労働者・使用者
団体、および過度の所得不均衡を回避し極度の貧困を根絶するため
人々への十分な社会的保護 に基礎を置かなければならない。持続
可能な経済活動のために提案された憲章(Charter)はこれらの問題
に取り組むことができるであろう。
48.
すべての国が、関連国際機関の支援を得て、力強い経済成長 によ
る幅広い繁栄を確実にし、公正で持続可能なグローバル化の基礎を
築くために、合意されたこれらの目的を中心とする集中的な政策努
力に参加することができる。
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