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解
説
ユニバーサル・デザインの原則
ユ ニ バ ー サ ル ・ デ ザ イ ン の ABC そ の 三
石田享平*
はじめに
得る過程において、上記センター環境・開発部長であ
前置きに2ヶ月を費やしたが、ユニバーサル・デザ
るMs.Molly Storyと交換したメールの中で、同女史は
イン(以下U.D.と記す)の理念、原則、定義、指針と
我が国におけるU.D.への取り組みの状況に関する印象
注記からなる「The Principles of Universal Design」
を短く述べられていた。同女史は表−1の同原則の編
を今回ここに紹介する。原文はノース・カロライナ州
纂者に名を連ねていることからも推測できるように、
立大学ユニバーサル・デザイン・センターのホーム・
U.D.について精通している人の一人であり、また日本
1)
ページに掲載されており 、同センターの許しを得て
人の知己も多い由である。そして、そのmail内容は筆
訳文を掲載するものである。原文に直接に当たられれ
者に対する助言であると同時に、我々日本人が容易に
ばお分かりいただけるのだが、英文では実に簡潔な表
理解しがたい問題意識に対する指摘を含んでいた。そ
現方法が採られている。しかし、表現が簡潔であるほ
こで、同文はこれからU.D.について学ぶ人々にとって
どに、個々の言葉の包含する意味の凝縮度が高くなる
有益な内容が多いと考え、同女史の承諾を得てその一
ことは当然であり、原文が持っている概念の深みを限
部をここに紹介するものである。
られた語数の日本語に置き換えることは、筆者の言語
Ms. M. Storyのmailからの引用
能力と同概念に関する理解水準では困難を極めた。そ
私は障害者支援に対する考え方に、日米で根本的か
こで、筆者が訳すに際して頂いた同原則編纂者の助言
つ重大な違いがあるように思います。私には日本人の
や筆者なりの理解を深める際に感じたことなどをここ
多くが障害を持つ市民に対して、お世話をしてあげよ
に記し、補足とするものである。
うとしているように見えます。他方、米国人は個人の
権利を自ら擁護しようとする人々が、それら権限を獲
1 ユニバーサル・デザインの原則
得できるように支援する方法を採るのです。このこと
標記原則を邦文訳したものを表−1に示した。ここ
に関する適切な対応は、両者をバランスさせたあたり
に紹介する内容は同表の末尾に明記してある、本原則
にあるでしょう。そして、その望ましい均衡点におい
の提唱者であるロン・メイス氏を含む10名のU.D.支持
ては、社会のすべての構成員が全体の福利に心を配る
者達によりまとめられたものである。引用したホーム・
一方、当事者である個々人だけが必要なサービスの内
ページには各原則の適用例の写真も掲載されているが、
容を知っているということを皆が受け入れることにな
同表では概念の全体を2ページに収めることに重きを
ると思います。
置き省略した。そこで、同表を読む際には、参考資料
1)
私は多くの日本人がU.D.に対して関心を持つ一方で、
に示したサイト を訪れることを、是非ともお勧めし
その理解水準は概して低いように思います。人々は
たい。原典で示されている各写真の事例が、各原則の
U.D.の価値を信じ、それを実践しようとするのですが、
どの要素を体現するものであるかを考えることも、U.
どのように実践したらよいのかが分からないことがし
D.理解の訓練となると思われる。
ばしばあるように思うのです。整備する環境のすべて
なお、原則等の邦文訳についてはホームページ版の
の構成要素に誰もが等しく簡単にアクセスできるよう
文章部分の大部分を網羅している。ただし、同原則の
にすること、そしてそれらアクセシブルな主要部分に
テキスト版に表現されていない、事務的な情報部分に
ついて、最初からすべての利用者を対象として設計す
関しては省略した。
べきことへの理解がそれらの人々には難しいように思
われます。
2 二つの統合(lntegration)
標記原則を本月報にて紹介することについて了解を
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
私はバリア・フリー・デザインとU.D.との最も重要
な差異は統合への取り組み方にあると考えます。U.D.
12
において、設計上アクセシブルにしようとにする部分
ない。そして、その環境整備に必要となる、「アクセ
は、当初から全体設計の中に統合すべきなのです。
シブルな主要部分について、最初からすべての利用者
U.D.の適用が真に成功しているのであれば、誰もがそ
を対象として設計しなければならない」のである。従っ
の環境を自然に受け入れる結果、そこにU.D.が施され
て、設計理念の構築を飛び越えて、三点セットを導入
たことは誰の目にもとまらないでしょう。このことが
したとしてもU.D.とは認め難いのである。具体の事例
U.D理解を深めることを困難にしている理由の一つな
をひくと、必要となる環境の整備を設計の当初から組
のです。この統合設計を押し進める究極的な目標の一
み込まないのであれば、アクセシビリティを確保する
つは、社会活動においてすべての個々人の統合を達成
ためには、必ずや当初予定しない後付の改造が必要に
することにあるのです。
なるであろう。その場合には、既に作られた環境を与
* * * * *
件として改造を行うことになるため、当該施設におけ
最初の指摘は日米における社会背景の違いに起因す
る新たな環境作りには大きな制約を伴うことは必定で
るものであり、前々回の解説にて説明したところであ
あるし、また改造にはよけいなコストを要することに
る。即ち、我が国の障害者施策が弱者救済的な福祉理
なる。なによりもU.D.の理念から認めがたいことは、
念に基づいている一方、米国のそれは基本的人権の保
このような後付の対処では、障害者専用の『特別』の
障に基づくものであることを想い出していただきたい。
仕掛けとなりがちであることである。車椅子使用者と
このため、U.D.の実践にあたっても、それぞれの国の
健常者との進入ルートを分離する後付の玄関スロープ
設計技術者は、発想の段階からかかる価値感の違いに
の採用は、我が国で最も多く目にするこのような事例
よる影響を免れ得ず、その結果障害者への関わり方に
である。また、同女史をして「どのように実践したら
Ms.M.Stolyから指摘されたような違いが生じたように
よいのかが分かっていない」と言わしめた指摘から、
考える。そして、福祉的風土においては「公平」や
筆者は数度遭遇した「何をしたらU.D.なのですか」と
「公正」の範囲も自ずと限定的とならざるを得ず、か
いう質問を想起させられた。U.D.では周辺の環境を与
かる認識の違いが後段における指摘へと繋がる遠因と
件として、その制約条件の中で如何なるサービスを如
なっているように考える。更に、サービスの提供の仕
何に提供するのかを設定し、その目標達成のための方
方に関して、それを受ける側の人々の意志や選択を尊
策を検討する。しかし、右質問は肝心の提供しようと
重することの重要性と、お仕着せの「お世話」への戒
する目標なしに、何を備えるべきかというパーツばか
めとへの注意喚起が述べられている。この点に関して
りに関心を寄せる点が致命的なのである。
も、日米の障害者に対する認識の違いを乗り越えるた
めに、重要な示唆となるであろう。
第三段落の中程の指摘は見過ごされがちであるが、
U.D.を実現する上で欠くことのできない視点であるば
第二段落における指摘に関しては若干の補足が要る
かりでなく、同概念に対する基本理解にも関わる指摘
ように感じる。冒頭に率直な印象が示されており、そ
である。即ち、誰にも気付かれることなくまた賞賛も
の厳しさ故か、後段の説明が散漫になっているように
されない一方で、誰もが自然にアクセスし、利用でき
感じた。筆者は土木技術者なので、土木的な環境整備
る環境作りこそがU.D.の目標であるという指摘がそれ
の切り口からこれを説明する。筆者がこれまで知りえ
である。ただし、誰もが特別な仕様や配慮なしに使え
たU.D.の取り組み状況に関しては、(玄関)スロープ
る環境とはいいながらも、設計条件を与える限界条件
と、障害者用トイレと自動扉との三点セット、もしく
が移動制約者等となる場合が少なくないことも事実で
はその一部の採用にU.D.の冠をもって「ユニバーサル
ある。しかし、道路橋設計において設計荷重にTL25
施設」を自認している程度の例が見られた。しかし、
を採用した橋梁を「大型トラック用橋梁」とは誰も呼
U.D.において重要な要件はかかる三点セットを整備す
ばず、単にその仕様であれば大多数の自動車にとって
ることではなく、例えば第三段落に指摘がある統合社
アクセシブルな環境が作られるのみである。同様に、
会の達成を目標として掲げ、設計対象とする施設にお
歩行者用スロープ設計において限界勾配5%を採用し
いて如何なる環境を作り出そうとするのかを明確にす
たとしても、単にその勾配であれば大多数の人々にとっ
ることである。そのような発想に基づく設計において
てアクセシブルな環境が作られるだけである。従って、
は、身体的な寸法や運動能力、認識や理解能力等につ
そのような環境をU.D.、車いすや移動制約者対応とあ
いて幅広い能力に人々に対して如何なるサービスを提
えて呼ぶことに必然性は乏しいものと考える。他方、
供しようとするのかをあらかじめ検証しなければなら
ことさらU.D.施設であることを強調することは、原則
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
13
1の指針二番目に抵触する恐れ大であることを分かっ
購買層に焦点を絞った環境整備や製品開発を行うにし
ていただきたい。そして、U.D.により設計した環境に
ても、別の特定の人々を排除することを目指したこと
ついて、そうであることを一般の人々にP.R.しないこ
はないはずである。ただ、これまでの設計においては、
とが積極的なU.D.の体現方法となることを理解すべき
設計対象を多数者または平均的能力の人々としたこと
である。
が多く、その際に少数者への配慮が行われなかっただ
最後の指摘は二つの統合についてである。第二の統
けと考える。しかし、その結果として、設計当初から
合にて、すべての構成員が社会活動全般において、誰
考慮に入れられたならば、より多くの人々にとってよ
もが統合的に存在できるように社会システムを作りか
り望ましい環境や製品とできたにもかかわらず、少数
えることを目標として定めている。そのため、第一の
者のアクセシビリティや利用性を阻害する結果が起き
統合である施設環境における統合が手段として必要に
てしまったのである。この多数者と少数者との両者を
なる。U.D.は施設設計においてどのような道具立ての
設計対象として統合することの社会的意義、市場の拡
組み合わせにすべきかというマニュアル型指針ではな
大による経済合理性等々に関しては、先月、先々月の
く、新たな社会システムをいかに構築するために如何
解説でも触れた通りである。
なる環境を整えようとするのかという目標設定への原
蛇足ながら、少数者という表現を用いるときその対
則と指針とを示すのみなのである。従って、設計者は
象として障害者や老人を連想しがちであるが、そのよ
U.D.の適用において社会観や価値観を問われ、二つの
うな短絡を意識的に破壊することがU.D.への第一歩と
統合を強く意識することが求められることになろう。
なることを加えておきたい。例えば、運動能力に制約
のある人々という観点からは、移動制約者、幼児、乳
3 環境の統合と価値の綜合
幼児連れの大人、妊婦、内臓疾患を持つ人、大きな荷
U.D.の原則やその定義と指針を読み進める中で強く
物を抱えている人、酒気を帯びる者、冬のつるつる歩
感じたことは、個々に掲げられている事項はごく当た
道を歩く健常者等が含まれるであろう。また、知覚や
り前、または従来から設計に取り込んできたと考えら
感覚に基づく認識に制約のある人々という観点からは、
れる内容であったことへの驚きである。しかし、あり
視覚や聴覚に機能障害を持つ人、乳幼児や老人、外国
きたりの言葉で表現された理念は、ありきたりではな
人、早とちりな人、疲労した人、飲酒者等が含まれる
く、ある鮮烈さをもって訴える力強さをもっていた。
であろう。繰り返しになるが、U.D.は健常者と障害者
ところが、そこに盛り込まれている理念を環境設計に
や老人との統合ではなく、文字通りの「誰もが」自然
具現化しようとすると、個々の原理は再びベールに包
に使うことのできる環境や製品を目指すことにあるの
まれてしまうように感じる。筆者は今なお再読するた
である。
び毎に新たな発見があり、この原則の表現がU.D.第四
U.D.を考える際の価値の綜合に関しては、同原則の
原則にかなっているのだろうかといぶかしく感じる程
最後に付けられた注記にそのヒントを見い出した。注
である。この時間をかけて理解を深める過程において、
記においては、環境や製品の設計におけるU.D.の原則
筆者は二つの言葉を触媒として必要とした。一つは前
の適用限界を示し、これを経済性その他必要な諸要素
述のMs.M.Storyも指摘した「統合」であり、他の一つ
に組み入れる(incorporate)ことの必要性を述べてい
は「綜合」という言葉である。前者は前述したように
る。同文で用いられた動詞の「組み入れる」の解釈に
社会活動においてすべての構成員の統合を目指すため、
おいて、U.D.と他の諸要件との関係をただ単に並立的
設計対象とする人々の身体的な寸法や運動能力、文化
な条件として加えるというよりはむしろ、関係要素間
的背景等の多様性を受容するように環境設計するため
の価値の綜合として読むとき、U.D.の真価が発現させ
に考える統合である。後者はU.D.を含め環境設計に係
られると考えたのである。筆者の知る限りでは「ユニ
る独立するいくつかの価値を綜合して、新たな価値に
バーサル・デザインの原則」は1995年に初めて公表さ
高めようとする視点の導入である。
れたのを含め、3バージョンが発表されている。改訂
設計対象者の統合に関しては、第一原則の「公平か
のたび毎に少しずつその表現方法に変更が加えられて
つ公正な利用」により規定されている。これまでの施
いるが、その中で最も扱いの変わったのが注記である
設設計者や製品開発者で、対象とする環境や製品の設
ように感じている。当初は参考写真の後に付け足しの
計において、ことさら不公平や不公正を目指した人々
ような扱いであったものが、ver.2.0 4/1/97では独立的
はいないかったと考える。たとえ、特定の利用者層や
な項立てとなっている。このことに注記が持つ重要性
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
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を浸透させようとする編纂者らの意図を読みとったの
て話題を進めたのであるが、スロープが障害者用スロー
であるが、事実は定かではない。ただし、先月紹介し
プとして存在する間は、その施設は決してU.D.とは呼
2)
たDr. E. Steinfeldの講演に引用されている2例 は、上
べないと考える。スロープが斜度を持つ通路であると
の綜合化をキーワードとして読むとき、より納得のい
共に、他の要素と価値の綜合が成されることにより、
く理解ができるように考える。
その環境にとって必要不可欠な存在にまで高められた
Oxo Good Gripシリーズの台所用品は、工業製品に
とき、初めて当該施設はU.D.呼ぶにふさわしい価値が
おけるU.D.の適用事例として紹介された。当該製品が
認められるものと考える。Dr. E. Steinfeldが紹介した
単に握力の弱い人用に設計されていたならば、それは
Duquesne大学の学生会館は、避難用スロープを建築物
それでリハ工学に基づく製品として成立していたであ
の一部として景観設計に組み込んだことがその施設独
ろう。また、U.D.を適用する際に、第一原則の「幅広
特の外見的特徴付けに効果を収めたことで、U.D.とし
い能力の人々が利用できるようにすること」のみに焦
ての成功例となり得たものと考える。換言すれば、ス
点を当てるならば、その握り部分はいかつい取っ手、
ロープを単に外付けしたのでは、バリア・フリー設計
などが採用されたものと思われる。しかし、本例では
でしかないと考えるものである。
同原則の指針にある「誰もが同じ方法で利用できるよ
いささか偏った見方であるのかも知れないが、筆者
うにする」こと、「それを利用する人もしない人も、
はこの二つのキーワードがU.D.の理解と実践への扉と
それを使うことに躊躇したり、引け目を感じたり、差
なるものと考える。
別意識を持たせることのないようにする」ことと、注
記の「他の事項への考慮も組み入れなければならない」
おわりに
ことが同時に満たされる製品設計を目指したものと解
本文は標記原則の考案者らがインターネット上に公
釈した。従来の補装具を後付けする方法ではでは機能
表していたものを入手し翻訳したものである。原文は
面では要求性能を満たしたとしても、見かけの問題か
訳者の英語力では理解を超える部分が多々あり、想像
らそれを使うことに躊躇を覚えさせることも想起され
力を動員して日本語へと置き換えたつもりである。従っ
たであろう。そこで、本例においては「他の機能」と
て、理解不足に基づく誤訳が含まれている可能性は否
して製品の美しさを追求することとなり、この相異な
定できず、U.D.を理解したい向きには参考資料に示す
る価値の綜合化の結果として、当該製品の開発に至っ
原文に当たられることを重ねてお勧めする。また、誤
たように考えられるのである。
訳や不適切な表現等についてお気付きになられた皆様
他方、誰もが利用できる製品という観点では成功し
には、恐縮ながら筆者にご指摘いただきたく、お願い
ながら、価値の綜合の面で配慮が不十分であったため
申し上げる。最後に、本解説をまとめるに際し、英文
に、市場性を得られなかった事例について聞いたこと
読解について友人であるMr. Nick Pillから多くの助言
がある。ある家電製品について過剰な機能を整理し、
を頂いたことをここに記し、心よりの謝意とする。
その製品に期待されている基本サービスに特化させた
上に、操作部分とその表示を大きくした製品を市場に
出した由である。製品設計に関する基本コンセプトに
参考資料
対して、老人はもとより、最新の電子機器に強くない
1)The Principles of Universal Design : http://www.
中年層や、ご婦人等からの反応は良かった由なのであ
design.ncsu.edu/cud/univ_design/princ_overview.htm
る。しかし、使いそうもない多機能に辟易している人々
2)ユニバーサル・デザインの概念 : Dr.E.Steinfeld、
はもちろんのこと、老眼の始まった人々の多くがその
石田享平訳、開発土木研究所月報2001年3月号pp-
製品には関心を示した一方で、その外見が老人向けで
29-32
あることが必要以上に強調された結果、「それを利用
する人もしない人も、それを使うことに躊躇」するこ
ととなり、多くの消費者がこれを敬遠することとなっ
たのであった。
このような視点でこれまで我々が採用してきた道具
石田享平*
開発土木研究所
環境水工部長
を見直すとき、新たな視点が生じるように思われる。
例えば、前段で玄関スロープをU.D.の三種の神器とし
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
15
The Principles of Universal Design
表−1
建築家、工業デザイナー、工学技術者と環境設計研究者からなる筆者等は、環境と製品及びコミュニケーシ
ョンを含む設計分野において広く指針を示すことを目的として、作業班を作り互いに協力しあって、以下に述
べるユニバーサル・デザインの7原則を確立した。これらの7原則は既設の設計事例を評価し、今後の設計方
法を誘導すると共に、製品や環境をより使い易くするために必要となる特質について設計者と利用者の双方を
教育するのにに役立つであろう。
以下に示すユニバーサル・デザインの原則を次の形式で表わした。
1.原則名:各原則に盛り込まれる基本概念を正確に記憶していられるように表現
2.定 義:原則に基いて行われるべき設計のための主要な事項を簡潔に表現
3.指 針:原則の実践にあたり設計に含むべき主要な要素をリストで示す
4.写 真:各原則を設計に適用した事例の写真
ユニバーサル・デザイン
製品や環境の設計においては、可能な限り最大限度まで、
改造や特別の仕様によることなく、誰もが利用できるよう設計する
原則1
公平かつ公正な利用
定義 幅広い能力の人々が利用できかつ市場性のあ
る設計
原則3
単純で直感に訴える利用法
定義 経験、知識、言語能力や集中力の状況に関わ
らず、誰にとってもわかり易い設計
指針 ○誰もが同じ方法で利用できるようにする。
即ち、誰もが可能な限り全く同じ方法で、
困難な場合には実質的に同じ方法で利用で
きるようにする
○いかなる利用者も差別したり、否定的に扱
ったりしない
指針 ○不要な複雑さを排除する
○利用者の予期や直感と矛盾しないような工
夫をする
○読み書きの能力や言語技能の異なる人に幅
広く適応する
○その重要性と矛盾しないように情報を整理
○誰に対してもプライバシー、安心と安全を
平等に確保する
○すべての利用者の心に訴えるように、共用
する
○利用者の誘導と結果のフィードバックを利
用中及び利用後を通じて効果的に実施する
性を追求する
原則2
利用における柔軟性
定義
個人の選択や能力に幅広く適応できる設計
指針
○利用方法を選択出来るようにする
○左右いずれの利き腕の利用者も利用可能に
する
○利用者が的確かつ正確に利用し易くする
○利用者のペースを尊重するようにする
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
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原則4
定義
わかり易い情報伝達
周辺の状況や利用者の知覚能力に関わらず、
原則6
定義 効率的で快適かつ疲労感を少なく利用できる
必要な情報を効果的に伝えられる設計
指針
○異なる情報伝達手段(絵、音、触覚)を用い
肉体的負担の軽減
設計
指針 ○利用者が無理のない姿勢を保ちやすくする
て、必須情報を重複して提供する
○操作に要する力は適正な範囲にとどめる
○必須情報をわかり易くするため、周囲との
○反復行為は最小限度となるようにする
間に適切なコントラストをつける
○持続的に作用するする肉体的負担は最小限
○必須情報は出来る限り読みやすくする
にとどめるようにする
○説明に表現される方法と構成要素とに対応
関係をもたせるように構成要素を区別する。
即ち、使用者に対して指示や要求を与える
のが容易になるようにする
○知覚制約者が利用する種々の技術や装置と
互換性を持たせるようにする
原則5
定義
指針
過誤への細心の配慮
偶然または不測の行為によって起こる困難や
原則7 接近と利用のための必要空間
定義 利用者の体格や姿勢または移動能力に関わら
危険が最小限で済むような設計
ず、接近したり、手を伸ばしたり、操作や使
○危険や過失を最小限にできるように構成要
用する際に適切な必要空間が得られる設計
素の配置に工夫する。即ち、利用頻度の多
指針 ○座位または立位の利用者が視線を遮られる
い要素は使い易い場所に設置し、危険な要
ことなく重要な構成要素を明瞭に見られる
素は取り除いたり隔離したり覆いを付ける
○危険や過誤に対して警告を与える
○万一の失敗や故障に備え安全対策を講じる
に無理なく手が届くようにする
○用心を要する行為の際、そのことに気付か
○手や握りの大きさに合わせられる
ずに行動することのないようにする
付記
ようにする
○座位または立位の利用者が全ての構成要素
○支援機器や介助者に適切な空間を設ける
これらユニバーサル・デザインの各原則は 、
誰もが利用できる設計について言及しているのみにて、実際の設計では利用性への配慮
以外の事項に対する検討も必要である。また、設計者はその設計過程において経済性、工
学、文化、ジェンダーや環境関係など他の事項への考慮も組み入れなければならない。
可能な限り多くの利用者の要求に応えられる、より良い統合的な特質を有する環境と製
品とを作るのに必要となる指針を設計者に対して示すものである。すべての指針はすべて
の設計に関係するとは限らない。
Version 2.0 4/1/97
©Copyright 1997 NC State University, The Center for Universal Design
本文は次に示すユニバーサル・デザインの支持者が編集した(アルファベット順)。
Bettye Rose Connell, Mike Jones, Ron Mace, Jim Mueller, Abir Mullick, Elaine Ostroff, Jon Sanford, Ed
Steinfeld, Molly Story, & Gregg Vanderheiden
(訳・文責 石田享平)
北海道開発土木研究所月報 №575 2001 年 4 月
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