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第 5 回 円高・円安のメリット、デメリット
「海外ビジネスコラム(第 5 回)」 (財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター 鹿野健・海外販路開拓支援マネージャー 鹿野マネージャーの海外ビジネスコラム 「第 5 回 円高・円安のメリット、デメリット」 円高、円安という為替の動きが、個人或いは企業に与える影響について簡単なモデ ルで説明します。 以下の通り1ドル=70円(円高)、1ドル=90円(円安)と仮定した例で説明 します。なお、このレートは先のコラム(第2回「間違いやすい為替の話」参照)で 述べた仲値、基準値 (TTM)とご理解下さい。 円高(1 ドル=70円) 円安(1ドル=90円) メリット デメリット (1) ・海外投資の円所要額が小さくて済む。 (2) ・外貨での輸入物資が円で安くなる。 ・海外投資の円所要額が大きくなる。 (3) ・海外旅行費用が減少する。 ・海外旅行費用が増加する。 デメリット ・外貨での輸入物資が円で高くなる。 メリット ・海外投資の配当が円で大きい。 (4) ・海外投資の配当が円で少ない。 (5) ・外貨での輸出の際の円手取額が減少する。 ・外貨での輸出の際の円手取額が増加する。 (6) ・海外子会社の円建てローン返済コスト大。 ・海外子会社の円建てローン返済コスト小。 企業の海外進出で特に注意を要するのが、この(6)であり、本社が金利の安い円 を調達して海外子会社に融資しても、その返済時に円高であると、子会社にとっては 安い円金利の優位性を上回る円調達コストがかかるという点です。逆に円安であれば、 現地会社の円調達コストが小さくて済むということです。 外国進出日系企業が受ける融資(円融資か、現地通貨融資か)に関して、今少し詳 細にお話しします。 教科書的なケーススタデイとしてタイ進出を例に取ってお話しします。 A)前提条件 ①日本の親会社から円で融資を受ける場合 年利2% ②タイ現地銀行からバーツ(THB)で融資を受ける場合 年利7.5% ③本年5月18日現在のタイの某銀行の円、バーツ為替レートは以下である。 銀行がバーツで円を買うレート(TTB) 1円=0.36593THB 銀行がバーツで円を売るレート(TTS) 1円=0.37805THB B)ケーススタデイ ①一年後に全額返済という条件で日本の親会社から1億円借りた場合 「海外ビジネスコラム(第 5 回)」 (財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター 鹿野健・海外販路開拓支援マネージャー ・上記 A)③のTTBレートでタイバーツとして入金する。 100,000,000 円×0.36593 THB /\ = 36,593,000 THB ・一年後、基準為替レートに変動なしとして親会社に元利返済をする。入金時のT TBではなく、銀行の円売りレートTTSが適用されること要注意(これにより既 に3.3%のコストが発生している)。 100,000,000 円×1.02×0.37805 THB /\ = 38,561,100 THB のバーツ金額が必要。 ・入金、返済時の基準為替レート(仲値、TTM)が同一と仮定し、 38,561,100 THB - 36,593,000THB =1,968,100THB (約 5.34 百万円) つまり、約5.4%のコストがかかることになる。 ②一年後に全額返済という条件でタイ現地銀行からバーツで、日本からの一億円と同 等額の 36,593,000 THB の融資を受けた場合、一年後の金利は7.5%であり、 2,744,475 THB が付加される。 ③ 上記①と②のコストの差を如何に考えるかであるが、 a) 一年後に円がバーツに対して、2.1%(7.5%-5.4%)を超えて円高に なれば、円に対するバーツ返済額は増えて、バーツでの融資を受けた方が良かっ たということになる。逆に円高でも2.1%未満あるいは、円安に振れた場合は 円での融資の方が良かったということになる。この辺はあくまでも経営者の判断 であるが、円は2.1%以上高くなることは大いにあり得ることである。ドルと 円の関係で言うならば、1ドル85円が一年後、2.1%円高の83.25円に なってしまうことは大いにあり得る。但し、その逆もあり得る訳で、何が正解か は言えない。 b) ではその一年の間に円安に振れた時に返済時の円買い(銀行からすれば円売り) の為替予約をしてはどうかとの判断もあるが、為替の先物予約は期間が長いほど レートが顧客に不利な形で設定されており、期近での予約でない限り予約の効果 が出にくい。 c) 為替リスクを避けて、金利が高くとも現地銀行からバーツで借りたいとの方針で あれば、現地銀行との金利その他の条件交渉になるが、日系銀行ほどの融通は利 きにくいことは間違いあるまい。 詰まるところ誰も正解を見出すことが出来ない世界であり、経営者の腹一つという ことになるが、判断の手立てとして上記のケーススタデイを行うことでいかなるリス ク或いは煩雑さが融資に伴うかという点はしっかり把握しておくべきであろう。 ←4 5 □ 6→ 目次→