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研究会資料:PDF
社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
フェロー&マスターズ未来技術研究会資料
FM06-1-4 (2006.5.30)
[パネルディスカッション]
再び右肩上がりの成長に向けた西からの提言
[司会] 井口 征士(宝塚造形芸術大学)
[パネリスト]
(50音順)
(いま求められる技術開発)
大西 良一(IEICEフェロー)
(技術立社)
野村 淳二(松下電工)
独法化後の大学はどこへ向かうのか?
馬場口 登(大阪大学)
関西の産学連携の土壌と課題
堀江多賀雄(ネオクラスター推進共同体)
西のイノベーション・世界のイノベーション
山本 裕之(キヤノン)
[論点]
15 年来の長期不況,デフレ時代をようやく脱して,日本経済は再び活気を取り戻しつつある.
変曲点を過ぎた今こそ,再び右肩上がりの成長曲線に向かうには,産学官が歩調を合わせ,冷え切
ってしまった研究開発パワーを再点火する必要がある.かつての高度成長時代を同時体験して来た
フェロー&マスターズ達とその後継世代が,いま何を目標とすべきか,どのような研究開発体制が
必要かを探る.本研究会では,映像,センシング,ロボットといった,関西圏に根付いている技術
分野を中心に語り合う.
-19-
はじめにーーおことわり
• 大学の使命である「研究」「教育」「社会貢献・
産学連携」の面から、国立大学法人化後の
問題、および研究連携体制を考える
• 現在推進中のプロジェクトの紹介
法人化後の大学はどこに向かうのか?
• ここでの話:馬場口の独断と偏見にみちた私見(誰
もがそう思っているとは限らない)
• 範囲・対象:大阪大学・大学院工学研究科・電気電
子情報工学専攻(電気系)(必ずしも大学一般の話
ではない)
馬場口 登
大阪大学 大学院工学研究科
「国立大学法人」制度の概要 (文部科
学省のHPから)
国立大学法人化
1)「大学ごとに法人化」し、自律的な運営を確保
・ 国の行政組織の一部→各大学に独立した法人格を付与
・ 予算、組織等の規制は大幅に縮小し、大学の責任で決定
• 2004年4月施行
• 全国の国立大学が一斉に「国立大学法人
(National University Corporation)」に
2)「民間的発想」のマネジメント手法を導入
・ 「役員会」制の導入によりトップマネジメントを実現
・ 「経営協議会」を置き、全学的観点から資源を最大限活用した経営
3)「学外者の参画」による運営システムを制度化
・ 「学外役員制度」(学外有識者・専門家を役員に招聘)を導入
・ 経営に関する事項を審議する「経営協議会」に学外者が参画
・ 学長選考を行う「学長選考会議」にも学外者が参画
– Corporation:法人、団体、企業、株式会社、公
団など
4)「非公務員型」による弾力的な人事システムへの移行
• 組織上は、1949年の学制改革以来の大
変革
・ 能力・業績に応じた給与システムを各大学の責任で導入
・ 兼職等の規制を撤廃し、能力・成果を産学連携等を通じて社会に還元
・ 事務職を含め学長の任命権の下での全学的な人事を実現
5)「第三者評価」の導入による事後チェック方式に移行
・ 大学の教育研究実績を第三者機関により評価・チェック
・ 第三者評価の結果を大学の資源配分に確実に反映
・ 評価結果、財務内容、教育研究等の情報を広く公表
「研究」の面からどう変わったか
外部競争的資金
• 表面的には:教官⇒教員、退官⇒退職
• 研究費名称:国立学校校費⇒運営費交付金
• [利点]
• 組織をあげて競争的資金獲得の大号令「やれ取
れ、やれ出せ」
• ここ10年で非常に多くのプログラム
– 未来開拓事業、21世紀COE、振興調整費、ERATO、
CREST、さきがけ、NEDO、SCOPE、、+科研(従来と
同じ)
– 若手・女性にはうれしい時代
– 使いやすくなった:「外国旅費」「謝金」にも使途
可能
• 過度の競争的環境:研究者はつらいよ!
• [問題点]
– 提案書・報告書書きに明け暮れる
– 評価に資金獲得高
– 国レベルで毎年1%程度削減
– 組織レベルで傾斜配分(博士充足率など)
• 格差社会:COEのあるところ/ないところの差
• 大学の「ホリエモン」化
-20-
「教育」の面からどう変わったか
大学院事情
• 院(修士)へ全入時代:大学院生の質の低下、
意識の低下
• 産業界も修士卒を求人の主力
• 昔:「最先端の研究をさせていればそれが
教育」という考え方
• 今:文部科学省の「教育の質」重視のスタ
ンス
– 産業界ですぐに役立つ人材:技術と知識の保障
– 企業に育成の余力なし?
– 教育プログラム・コースワークの充実
– 「特色ある大学教育等支援プログラム」「魅力
ある大学院教育イニシアティブ」
• アカデミアへの道:将来の教授の卵(全体の
数%)をどう育成
– 博士課程への進学は少ない
– 世界的な日本(人研究者)のプレゼンスの低下
– アジアの盟主の座はとっくに滑り落ちる
• 大学教員の「教育」に対する負荷、すなわ
ち良い授業をするための負荷は増
電気系・情報系の人気凋落
「社会貢献・産学連携」の面から
• 昔:電気電子系は入試の面では最難関
• 今:応用自然科学科(物理・化学・生物系)
応用理工学科(機械・材料系)
地球総合工学科(建築・土木系)
環境エネルギー工学科(環境・原子力系)
電子情報工学科(電子・情報系)
のなかで最低
• 電気・情報系のコアが基盤技術となり、その特徴
とは何か、表現しにくい時代に
• 優秀な学生を確保するためにもカンフル剤が?
• 大学の持つ知的資産を活用した貢献
• 法人化後にもっとも変化したもの:産学連携体制
– 企業の見方の変化
– 共同研究の実態の変化、目標達成型
• 知的財産に関する企業と大学の考え方の変化
• 知的財産本部:知的財産権を大学が承継し大学
に帰属、大学が一元管理
• 教員は論文発表前に知財を大学に届出
良い研究環境への要件
大学人が再び飛躍するには
• 融合領域、学際領域で新分野・新産業創出
• 「連携」が必須
ヒト
カネ
リーダー
企業研究者
研究者(ポスドク)
外国人留学生
学生
– 産学
– 産官
– 学学
競争的資金
ファンド
• 大学人としては兼務、兼任
• 実際にエフォートを割り当て、その場に定期的に
行って研究(時間・場所を割いて)
– 「○○大学/××研究所」
– 「○○大学/××科学技術大学」
– 「○○大学/××社・研究開発本部」
情報
研究の場
物理的に集まれる場
人的
技術的
• プロジェクト指向
• 研究の(場+コメ)の確保、研究組織の再構築
– Industry On Campus、University In Industry
-21-
関西地区は有利なはず
大学単独ではできないことをする
関西地区は地理的には好適
「大阪」「京都」「奈良」「神戸」がほぼ1hr
けいはんな
NICT
ATR
企業研究所
•
•
•
•
•
•
•
多様な人材構成
技術・実験のノウハウ・知見
スペース
スケーラブルな実証実験
ユビキタスホーム
ロボット特区
広域カメラネットワーク
映像サーベイランス技術の特徴
推進中のプロジェクト
• 総務省・戦略的情報通信研究開発推進制度・特
定領域重点型研究開発(SCOPE-R)
• 次世代ヒューマンインターフェース・コンテンツ技
術
• プライバシー保護処理を用いた安心感のある映
像サーベイランスの研究(H18-H20)
– (A) プライバシー保護画像処理
– (B) プライバシーポリシー設定とメンバー同定処理
– (C) プロトタイプ作成
• 法学者、社会学者、心理学者を包含した研究体
制
映像サーベイランスとプライバシー
観点
現在
将来
形態
単独カメラ
スポット
ネットワークカメラ
多地点連携
対象
個人
群・集団
使用主体
管理者
警察
市民・地域
使用目的
軍用
警備・防犯
見守り
コミュニケーション
特性
待時的
抑止力
即時的
実時間
プライバシー
Free
Sensitive
システム
Sensing
Sensing&Action
技術的問題
•
•
•
•
• 法的問題
– プライバシーの侵害、肖像権の侵害
• 社会的問題
– 安心安全か監視か
• 心理学的問題
プライバシー侵害を防ぐ
個人情報の保護
個人性・主観性の工学的扱い
ユーザの安心感を向上させる技術
¾セキュリティ技術、暗号、電子透かし
¾データベース技術
¾映像・画像処理技術
– 個人性、主観性
• 技術的問題
-22-
プライバシー保護処理を用いた安心感のある映像サーベイランスの研究
手始めに
研究目的
映像サーベイランスにおけるプライバシー侵害を克服する映像・画像処理技術の確立
研究内容・期待される研究成果
• 阪大+ATR:「映像サーベイランスにおけ
るプライバシー保護のための視覚的抽象
化の提案」、電子情報通信学会・パターン
認識メディア理解(PRMU)研究会3月
プライバシー保護画像処理技術:隠ぺい・
抽象化・透明化・アノテーション化の開発
<見えなくする映像・画像処理技術>
プライバシーポリシー記述法、メンバー同
定法の開発
<誰にどこまで見せるかを記述する枠組>
サーベイランスに関与するメンバー(観察
者や被写体)間のプライバシーポリシーを
反映させた状況依存的な映像表示の実現
<家族には全部見せるが、他のメンバーや
非メンバーには顔を見せない、といった表
示>
• 監視者(見る者)と被写体(見られる者)と
の関係を記述して(プライバシーポリシー)、
視覚情報の開示量を制御(視覚的抽象
化)するシステムの設計
メンバーのプライバシーを完全に保護可能
な映像サーベイランス
研究成果の社会的意義・社会への波及効果
市民に安心感を提供する映像サーベイランスの実現
サーベイランスシステムの民生用への展開
むすび
• 法人化後、大学はどたばたしているが、実は「ピ
ンチはチャンス」かもしれない
• いろんな人が集まれる研究の場を作り、そこで融
合的研究を実施すること
• そのためには資金が必要
• 興味深いアプリケーションを社会に提示すること
により、役に立つ研究であることを実証
• 市民を巻き込み理解を得る(特にロボットやサー
ベイランスカメラ)
-23-
関西の産学連携の土壌と課題
産学連携実践の場を通して見て、今もとめられるものは
ネオクラスター推進共同体クラスターマネージャ
堀江多賀雄
これまでの産学連携の主な動き①
①科学技術推進機関の果たす役割重視の時代
自由かったつな大阪大学などの存在と活力ある団体活動の推進
●関西の産学連携具体化環境の芽生えと推進
〇重工業政策による活性化促進として産学推進機関および民間運
営方式による研究所の設立
①大阪科学技術センターの発足
関西地方本部(1960年)から大阪科学技術センター(1963年)へ
②関西情報センター(1970年)
③社)システム科学研究所(1972年)
④ASTEM(京都高等技術研究所)の設立(1988年設立)
⑤イメージラボの設立(1992年設立)
⑥NIRO(1997年)新産業創造研究開発機構
などなど研究および推進機関の発足
-24-
主なの動き(2)
②産学連携が法的に環境整備された時代
①1978年 国立大学の発明の帰属が教官など個人に集約(学校によりバラバラ)
②1980年米国バイドール法成立し、連邦政府資金による研究成果が゛大学、企業に帰属しうるように
なる。
③1982年学術振興会議、文部省民間などとの共同開発研究制度創設゛
④1986年研究交流促進法成立
⑤1987年文部省共同研究センター設置開始
●産学連携の基本整備本格化
⑥1995年科学技術基本法制定、共同研究促進税制に大学を追加
⑦1996年科学技術基本計画制定、企業コンサルティング兼業を勤務時
間外に限り許可
⑧1997年教育公務員特例法改正、共同研究休職の場合の退職手当計
算上の不利益を解消、大学教員の任期に関する法律成立。民間と
の共同研究に分担型を追加。
主な動きその3
⑧1998年TLO法の成立
⑨1999年11月、国立大学教官等の民間企業役員兼業問題に関する研
究方針決定(技術移転型と企業当時がた(社外監査役)の兼業に蜜を
開く。日本版バイドール法(産業活力再生特別措置法)
⑨2000年産業技術力強化法案成立、9月TLO協議会発足
●産学連携の明確な位置づけのポイントは
●特に、バブル経済崩壊とともに長期経済低迷と産業競争力低下、
規制緩和による競争の激化、米国経済への立ち遅れ、基礎研究の
停滞など課題取りざたされる。
●産学連携が法的位置づけは1995年の科学技術基本法の制定、そ
して98年のTLO法、99年日本版バイドール法、産業技術力強化法な
どの制定とともに産学連携本格化。尾身大臣の全国産学連携促進
行脚など
●いわゆる科学技術の知見を経済に活用すること。大学の知見の活用推進
-25-
産学連携の効果
①バイドール法成立(1999年)以後企業との共同研究拡大
1998年2569件 1999年3129件、2000年4029件 2003年5264件
文部科学省調査
2004年6767件(バイドール法以降4年で倍以上)
特に2000年以降顕著
②中小企業の産学連携の拡大
H14年独立法人経済産業研究所調査(802社対象)では5年前と比べ中小規
模の産学連携が増大。100人以下でも5.8%から17.3%と拡大
300人から1000人規模企業で10%が44%に拡大、中小の産学連携比重が高
まる
③中小は短期集中して製品化に取り組む、しかし、企業の収益面では難しい
ケースが多い。大企業は基盤技術、人脈、企業にない分野の専門性など
④大学発ベンチャーH16年1099社、近畿220社 全国の20%、効果あり。
(近畿の内訳;バイオ43.6%、IT系27.3% 機械装置15.7%など)
などなど・・・・・・・・・・経済産業省調査
産学連携環境で今あらためて求められるもの
環境はそれなりに整備、課題もあるが次にもとめられるものは
環境
大学
日本版バイドル法で成果の産業利用促進
産業界
①知財の一元管理
大学発ベンチャーの促進(大学設備の活用)
②企業との研究連
携も容易
大学関係特許のアカデミックデイスカウト
①包括契約などよ
り身近な連携
③成果ももとめられ
る様に
④一人二役三役も
など
知財流通促進コーディネータ精度の推進
教官の企業兼業業務の実施
BSIRによる.中小企業への支援
大学の独立法人化に伴いスピーディー連携などなど
②ベンチャーキャピ
タルの支援
③知財の活用
④早い対応などな
ど
次への要望
未来に対する技術社会評価、将来のポリシーに対する学際、業際を越えた討議の場が不足かな
成長の無限、研究の社会的意義、技術革新の方向とポリシーなど次の社会生活形成としての
技術と経済の役割論議を学際、業際で日本の技術や社会の展望を産学連携で実現。
*世界最大の家電製品展示会インタナショナル・コンシューマ・エレクトロニクスショー〔CSE〕は業
界のトップが次世代のトレンドを語る場としても人気がある。
*ダボス会議、とまでいかなくても。
-26-
個の時代
●個人の好み個性に合わせたものを提供する
個人の要求にあったものをプロの目で提供
●個人の特性にあわせる
例:食材ーーカム力の弱い老人ようの流動食には食べる楽しみがない。
口に入れて噛み切りやすい切れ込 みをいれ硬いものもおいしく味わえる工夫
深澤直人氏工業デザイナーの加湿器、壁掛けCDなど人とモノのしっくりしたものの開発。
川崎和男氏工業デザイナーの人工心臓の研究、パソコン用ディスプレーなど
●わが国独自のわが国文化の反映した技術やモノの開発がもとめられる
異分野の視点からモノや原理や生活を語りあう「知のクロスクラブ」
が必要
新しい発想の視点、ものの見方、多様な創造のテーマが
近畿経済産業局推進のネオクラスターの中に有識者クラブを検討、
---ネオとは次世代フロントランナー創出を目指したクラスター名称---
-27-
西のイノベーション・世界のイノベーション
山本
キヤノン株式会社
裕之
知覚システム開発センター
あらまし 「冷え切ってしまった研究開発パワーを再点火する」新たな研究体制とはどのようなも
のであろうか?関西出身者の一人として,「関西ならこんなことできへんやろか?」という提案を
行ってみたい.
1. 現実と仮想の融合
2. 世界のイノベーション
私は 1986 年に大学院を修了して,企業に勤めるように
なった.その後の約 20 年間,3次元の画像計測,3次元
の物体認識や人の目を模したビジョンシステムに関する
研究を好き勝手にさせてもらった.その究極が,1997 年
から 2001 年まで参画した「複合現実感システムに関する
試験研究」であろう[1].画像から物体を認識するビジョ
ン技術と,モデルから画像を生成するグラフィックスの
技術の融合に興味があった私(並びに当時の上司)には,
格好のテーマであった.
複合現実感(MR: Mixed Reality)技術は,我々の目の
前の現実世界と,コンピュータの内部に存在する仮想の
世界をシームレスに融合して,利用者に体験させる技術
である.例えば,目の前の空間に,実寸大で計算機でデ
ザインした仮想の自動車を表示し,利用者は自由な視点
でその複合現実空間を体験できるというものである(図
1).
この「現実と仮想を融合する」というコンセプトは非
常に魅力的であり,学会・大学のアカデミックな分野に
留まらず,産業界からも注目を浴びるようになった.M
Rで日本の物作りにイノベーションを起こす,という日
が来るかもしれない.
図1
MRの研究プロジェクトは幸運であった.技術者とし
て,参加したメンバーは各自の夢追いかけることができ
たし,その夢に対して国のお墨付きを得ることができた
(試験研究の期間は).しかしながら,このように技術
者の夢を追うだけでは,なかなか企業価値向上に結びつ
かない.実際,キヤノンでもこれまで研究者が好きなテ
ーマを選択し,日々の研究開発に没頭してきた.その結
果は,何年かに1度大きな成果を生んだが,その一方で
無駄と失敗の山も築いた[2].
一方,Fortune 100 にランキングされるような世界の一
流企業のイノベーションは如何に行われているのであろ
うか?各企業各々の企業文化があり一様に論ずるのは危
険であるが,
技術ロードマップ(自社内に留まらず世間の技術動向を
調査分析したもの)や社会構造・経済情勢の変化を予測
したロードマップを活用して,企業価値を高める経営方
針に基づいてテーマを設定する,
ことが広く行われているようである.例えば,IBM では,
世の中の変化に大きく影響を与えるテクノロジのトレン
ドを示した GTO(Global Technology Outlook)や,世界の
市場動向を把握する報告書 GMT(Global Market Trend)を
作成し,それを基に経営者が技術開発の方向性を決定し
ている[3].キヤノンでも,2004 年から技術顧問の生駒俊
明先生を中心に,技術系役員が将来の市場性を探り,新
たな事業ドメインを設定して,事業化までのロードマッ
プ・研究テーマの絞込みを議論している[2].
このようにしてテーマを絞り込んでも,事業化のため
に必要となるすべての技術を自社内で開発できる場合は
少ない.技術が複雑になり,かつ,技術進歩のスピード
がますます加速しつつある今日では,この傾向は強くな
っている.そこで,企業間連携・産学連携の重要性が益々
大きくなってくる[4].
企業のこのようなイノベーションに,産学連携の相手
たる大学はどのように対応すればよいであろうか?私は,
ますます産学連携における企業と大学との役割分担の明
複合現実感の体験
-28-
確化が進むと考えている.企業が大学に求める役割とし
ては,
るはずであるし,Linux のように産業界にも少なからず貢
献ができるはずである.
・企業が事業化のために不足している技術の入手先
・新たなテクノロジトレンドの萌芽を期待する相手先
実際には,上記の2つの形態のミックスした複合形態
(現実と仮想の融合)が実践的なアプローチだと思われ
る.が,その実現方法が課題である.関西の研究者・技
術者が多数活躍している画像・映像処理分野では,この
ような融合された形態のイノベーションが比較的容易で
はないだろうか?
に大別できるであろう.各々の場合において達成目標・
時期の明確化,ターゲット達成によるベネフィットの明
確化が進むものと思われる.大学側にも,このような変
化に対応できる体制,特許等知的財産権の取り扱いや機
密保持に対するマインドセットの変化が求められる.
参考文献
3. 関西らしいイノベーション
[1] Hideyuki Tamura, Hiroyuki Yamamoto, and Akihiro
Katayama : "Mixed Reality: Future dreams seen at the border
between real and virtual worlds," IEEE Computer Graphics
and Applications, Vol.21, No.6, pp.64-70 (2001).
上記のような技術経営は,効率的であり,企業価値を
より高めるために有効な手段であると考えている.しか
しながら,ここではあえて,そのアンチテーゼとして,
全く異なった,時代錯誤の,ヒョットすると時代を先取
りするアイディアを提案してみたい.そこでは,
[2] 御手洗改革総仕上げ 先端研で始まる苦闘,日経ビジ
ネス 2005 年 10 月 10 日号, pp.38-41 (2005).
[3]
http://japan.zdnet.com/news/devsys/story/0,2000056182,2008
5998,00.htm
学生を含めた多数の研究者,企業の技術者・経営者,一
般の利用者の知(wisdom of crowds)に研究テーマの設定
を任せ,そこで生き残り,鍛え上げられた技術の事業化
を検討する.
[4] Stephen Fowles and Wayne Clark: "Innovation networks:
Good ideas from everywhere in the world," Strategy &
Leadership, Vol.33, No.4, pp.46-50 (2005).
[5] 梅田望夫:ウェブ進化論---本当の大変化はこれから始
まる---,筑摩書房 (2006).
これら2つのイノベーションの形態は,丁度,梅田望夫
氏が著書「ウェブ進化論」で展開されている「エスタブ
リッシュメントによる管理」と「不特定多数無限大への
信頼」の対立に似ている[5].現実社会でのイノベーショ
ンと,ネット(仮想)社会でのイノベーションとも言え
るかもしれない.
[6] http://metaverseroadmap.org/
不特定多数の利用者のリンク情報による知恵・知識が,
権威を与えられた者が編集して作り上げた体系化された
知恵・知識を,質・量ともに凌駕するかもしれない次世
代のインターネット世界.この世界で,多くの研究者の
ネットワークによる発想(ある権威のある先生個人の発
想ではなくて)に,研究テーマの設定を任せてみてはど
うであろうか?大学・企業の研究者・技術者等大勢の人
間を巻き込んで,wisdom of crowds や技術ロードマップを
作り上げる.既に,このような手法はアメリカにおいて
3D Web の 10 年間の技術ロードマップの策定で試みられ
ている[6].
このような思想は,ソフトウェアにおけるオープン・
ソース化の波ともリンクしている.ソフトウェアのソー
スコードという極めて貴重で,重要な知的財産は,これ
までの「エスタブリッシュメントによる管理」による研
究開発体制では,オープン化など考えられもしない.し
かし,「不特定多数無限大への信頼」をベースにした研
究開発では,成果物に不特定多数の人間が貢献をしてい
るわけで,オープン・ソース化の流れが自然である.こ
れまで大学が享受してきた自由闊達な雰囲気とも調和す
-29-
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