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秋本泰造氏を悼んで 富士写真フィルム株式会社 産業材料部サイエンス

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秋本泰造氏を悼んで 富士写真フィルム株式会社 産業材料部サイエンス
構造生物 Vol.7 No.1
2001 年5月発行
秋本泰造氏を悼んで
富士写真フィルム株式会社
産業材料部サイエンス・システム
岩井定彦
坂部プロジェクトで、本年3月に完成した「自動データ収集シ
ステム」の開発メンバーであった秋本泰造氏が、本年 3 月 17 日
に永眠致しました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
秋本氏は、1965年に東京工業大学応用物理学科をご卒業さ
れ、富士写真フイルム株式会社に入社されました。写真研究の心
臓部である足柄研究所に配属となり、最先端のコンピュータを導
入し、写真物理、画像処理などの科学技術計算への応用に尽力さ
れました。画像は人間の目で見る感覚的なものでしたが、イメー
ジサイエンスの現象をコンピュータ上で計算することにより表現し、定量的なアプローチ
で画像に向かっておられました。当時では世界でも最先端の技術でした。1970年頃は
ホログラム用の感材開発に関わり、レーザーを中心とした光学技術を開発され、1976
年頃からは主に医療関連装置のビデオ画像処理関係の仕事に従事され、アナログ回路とデ
ィジタル回路を駆使した画像処理技術を構築されておりました。1990年頃からは放射
線画像を高感度に検出する輝尽性蛍光体を薄層に塗布したイメージングプレートを使った
装置の研究を始め、ライフサイエンス分野の市場に最先端の遺伝子解析装置を開発されま
した。装置研究のみならず材料の原理的な考察を忘れずに、原点からのアプローチが印象
的でした。
入社以来、研究開発された装置も様々でしたが、技術分野も多岐に渡り、写真物理、化
学、画像処理技術、ソフトウェア技術、電気・電子技術、レーザー光学技術、放射線物理、
個体物理、生化学、など枚挙に遑はありません。学会誌購読も多分野に渡っており、技術
的興味が非常に幅広く、技術に対しては謙虚で、凡人には思いつかないような特許も数多
く出願されております。
秋本氏は、とにかく活字を読むことが好きで、サイエンスの原点を考察するようなベー
シックな内容の論文、海外のベンチャー企業のユニークな最先端の特許、学会の予稿集や
雑誌などから知識を毎日のように蓄積し、机の上に論文の山を築くほどでした。職場にお
ける議論は、常に技術の本質をつくものでそのご意見には科学的な説得力がありました。
最近ではインターネットによる情報収集を欠かさず、世の中の動きに敏感に反応していま
した。特にライフサイエンス分野の技術は日進月歩であり、秋本氏の知識と知恵がどれほ
ど役に立ったか計り知れません。職場の中でも、まず初めに最先端の発想を出してくるの
構造生物 Vol.7 No.1
2001 年5月発行
は秋本氏でした。また、装置の開発においても、まず理論的考察から入り、出てきた実験
データを基に緻密な理論計算で確認するというアプローチをされており、新規技術の開拓
に大きく貢献されました。
趣味も多岐に渡っていました。昼休みは食堂の脇で囲碁を楽しまれ、常識にとらわれな
い一手が印象的でした。休日は会社の仲間をつれてテニスをするのが大好きで、今年1月
に入院される前日にも元気にラケットを振っておられました。また、部下を大切にされ、
好きなお酒を一緒に飲まれることも多く、ひょうきんな一面もあり会話も楽しく、周囲を
明るい雰囲気にしてくれることもしばしばでした。技術屋としてのしっかりとした姿勢を
持つ一方、人間的でどこかほっとするような暖かい人物でした。
平成 8 年からは、坂部先生のプロジェクトに参加し「放射光による生体高分子結晶解析
用高速高精度高分解能自動データ収集システム」の開発にたずさわり、システムの中心部
であるイメージングプレートについて、装置仕様にかかわる基礎データ作りを行ないまし
た。特に 5 本のレーザーを用いてイメージングプレートを高速に読み取る、新しい試みに
関しては、さまざまな問題が発生しその原因を根気良く調べ解決策を導き出しました。こ
のシステムの開発に関係してからは、構造生物学という新しい分野に対しても熱心に勉強
され、社内でも一番の専門化として後輩の指導にもあたりました。昨年 12 月の打合せには
元気に出席され、4 月のシステム完成をだれよりも待ち望んでいたことが今でも鮮明に瞼に
焼き付いております。月 1 回の打合せの際には、筑波センターから高エネルギー加速器機
構まで、さらに帰りは土浦から上野までの電車の中では、いつも完成までにはだかる数々
の問題をどのように解決するかを、熱心に議論されておりました。土浦では電車を待って
いる時間を利用して、駅ビル内の食堂で晩酌セットをつつきながら将来の技術について語
り合うことも私にとっては楽しみの一つでした。
4 月に完成した自動データ収集システムは、じきに一般公開され多くの研究者に利用され
ることと思います。是非とも皆様の研究にお役立ていただければ、秋本氏も幸せだと思い
ます。ここに感謝の気持ちを込めて、あらためてご冥福をお祈りしたいと思います。
添書き:
Galaxy の開発に関し、秋本泰造さんには多大なお世話になりました。特に IP
関連の細部に到る迄精通されていたので、会議で多くの知識を授けてくださり、その場で
分からないことは次回までに調べてくれたり或いは実験データを探し出して下さったりし
て道を照らしてくださいました。
このように、秋本氏はこれから皆様に使って頂く Galaxy に多大な貢献をして下さいまし
た。異例では御座いますが、秋本氏と共に Galaxy の開発にご尽力下さいました岩井定彦氏
に秋本氏の追悼文をお書き書き頂き、秋本氏の業績をたたえ、ご冥福をお祈り致します。
添書き・文責
坂部知平
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